(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175229
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】電磁継電器
(51)【国際特許分類】
H01H 50/36 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
H01H50/36 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087570
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】390001812
【氏名又は名称】株式会社デンソーエレクトロニクス
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國吉 良太
(72)【発明者】
【氏名】安田 知広
(72)【発明者】
【氏名】栗田 真吾
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 貴
(72)【発明者】
【氏名】名倉 宏
(57)【要約】
【課題】オフ時における接点間距離を調整することができる電磁継電器を提供すること。
【解決手段】電磁継電器1は、封止筐体2と、固定接点31と、可動接点41を有する可動子4と、シャフト5と、可動コア61と、固定コア62と、復帰ばね63と、電磁コイル64と、スリーブ7と、を有する。シャフト5は、固定コア62に形成された貫通孔621に摺動可能に挿通されている。スリーブ7は、磁気吸引力が作用していない状態において、固定コア62に対する可動コア61の位置を規定するよう可動コア61を支承する支承部71を有する。スリーブ7の前端部には、スリーブ7を固定コア62に直接又は間接的に固定する際に固定コア62と支承部71との位置関係を調整するための位置調整部11が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
封止筐体(2)と、
該封止筐体内に配された固定接点(31)と、
上記封止筐体内において上記固定接点に対して接離する可動接点(41)を有する可動子(4)と、
上記可動子を保持すると共に上記封止筐体に対して軸方向に進退可能に設けられたシャフト(5)と、
該シャフトに固定された可動コア(61)と、
上記封止筐体に固定された固定コア(62)と、
上記固定接点から上記可動接点を離す方向に付勢する復帰ばね(63)と、
通電により上記固定コアと上記可動コアとの間の磁気吸引力を発生させる電磁コイル(64)と、
上記復帰ばね及び上記可動コアを気密封止するとともに、上記固定コアに直接又は間接的に固定されたスリーブ(7)と、
を有し、
上記シャフトは、上記固定コアに形成された貫通孔(621)に摺動可能に挿通されており、
上記スリーブは、上記磁気吸引力が作用していない状態において、上記固定コアに対する上記可動コアの位置を規定するよう上記可動コアを支承する支承部(71)を有し、
上記スリーブの前端部には、上記スリーブを上記固定コアに直接又は間接的に固定する際に上記固定コアと上記支承部との位置関係を調整するための位置調整部(11)が形成されている、電磁継電器(1)。
【請求項2】
上記スリーブの前端部の前端側には、空間(110)が隣接している、請求項1に記載の電磁継電器。
【請求項3】
上記固定コアの外周面は、上記可動コアの進退方向に平行な面であり、上記スリーブは上記固定コアの外周面に接合されている、請求項2に記載の電磁継電器。
【請求項4】
上記固定コアの外周面には、軸方向に連続する縦溝部が形成されており、上記スリーブは、内周側に突出する内側突起部を有し、該内側突起部は、上記縦溝部内に配されている、請求項3に記載の電磁継電器。
【請求項5】
上記固定コアは、上記外周面の後端部に、内側に切り欠かれた段差部を全周にわたって有し、上記スリーブは、内周側に突出する環状の内側環状部を有し、該内側環状部は、上記段差部に配されており、上記段差部の前端面と上記内側環状部との間には、環状空間が形成されている、請求項3又は4に記載の電磁継電器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁継電器に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁コイルへの通電により生じる磁気吸引力によって可動子を移動させ、固定接点と可動接点とを接離させる電磁継電器が知られている。そして、電磁継電器のオフ時における、固定接点と可動接点との間の遮断性能を向上させるべく、水素等のガスを気密封止した空間に接点部を配置した封止接点装置が、例えば特許文献1に開示されている。これにより、接点間に生じるアークを消弧しやすくすることができ、遮断性能を向上させることができる。
【0003】
特許文献1に開示の技術は、かかる接点封止装置において、オン時における固定接点と可動接点との間の接触圧力である接点圧を調整することができるよう構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の封止接点装置は、オフ時における接点間距離を調整することが困難である。すなわち、電磁コイルへの通電を行わない状態において、固定接点と可動接点との距離を、精度よく形成することが困難である。オフ時における固定接点と可動接点との距離が小さすぎると、電磁継電器をオフしたいときにアークを消弧し難く、遮断性能において不利となりやすい。一方、製造ばらつきを考慮して、オフ時における固定接点と可動接点との距離を充分に大きく確保しようとすると、電磁継電器の大型化の要因となる。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、オフ時における接点間距離を調整することができる電磁継電器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、封止筐体(2)と、
該封止筐体内に配された固定接点(31)と、
上記封止筐体内において上記固定接点に対して接離する可動接点(41)を有する可動子(4)と、
上記可動子を保持すると共に上記封止筐体に対して軸方向に進退可能に設けられたシャフト(5)と、
該シャフトに固定された可動コア(61)と、
上記封止筐体に固定された固定コア(62)と、
上記固定接点から上記可動接点を離す方向に付勢する復帰ばね(63)と、
通電により上記固定コアと上記可動コアとの間の磁気吸引力を発生させる電磁コイル(64)と、
上記復帰ばね及び上記可動コアを気密封止するとともに、上記固定コアに直接又は間接的に固定されたスリーブ(7)と、
を有し、
上記シャフトは、上記固定コアに形成された貫通孔(621)に摺動可能に挿通されており、
上記スリーブは、上記磁気吸引力が作用していない状態において、上記固定コアに対する上記可動コアの位置を規定するよう上記可動コアを支承する支承部(71)を有し、
上記スリーブの前端部には、上記スリーブを上記固定コアに直接又は間接的に固定する際に上記固定コアと上記支承部との位置関係を調整するための位置調整部(11)が形成されている、電磁継電器(1)にある。
【発明の効果】
【0008】
上記電磁継電器は、上記スリーブの前端部に上記位置調整部が形成されている。それゆえ、固定コアに対する支承部の位置を調整することができる。その結果、オフ時における固定接点と可動接点との間の距離である接点間距離を調整することができる。
【0009】
以上のごとく、上記態様によれば、オフ時における接点間距離を調整することができる電磁継電器を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態1における、電磁継電器の断面説明図。
【
図3】実施形態1における、接点圧が実質的にゼロである接点当接状態を示す、電磁継電器の断面説明図。
【
図4】実施形態1における、接点圧が作用している状態を示す、電磁継電器の断面説明図。
【
図5】実施形態1における、シャフトを固定コアに挿通させる前の状態の説明図。
【
図6】実施形態1における、可動子等を封止筐体にて覆う工程の説明図。
【
図7】実施形態1における、接点圧ゼロの状態にて、可動接点を固定接点に当接させた状態の説明図。
【
図8】実施形態1における、接点圧ゼロの状態を保ちつつ、可動コアをシャフトに組み付ける工程の説明図。
【
図9】実施形態1における、接点圧ゼロの状態を保ちつつ、スリーブを可動コアに被せる工程の説明図。
【
図10】実施形態1における、接点圧をかけつつ、スリーブを可動コアと共に前進させる工程の説明図。
【
図11】実施形態1における、スリーブを可動コアと共に所定量後退させる工程の説明図。
【
図12】実施形態2における、電磁継電器の断面説明図。
【
図13】実施形態2における、固定コアとスリーブとの接合部付近の拡大断面説明図。
【
図14】実施形態2における、Z方向に直交する平面による、固定コアの断面説明図。
【
図15】実施形態2における、Z方向に直交する平面による、スリーブの断面説明図。
【
図16】実施形態3における、固定コアとスリーブとの接合部付近の拡大断面説明図。
【
図17】実施形態3における、Z方向の後方から見た、固定コアの説明図。
【
図18】実施形態3における、
図16のXVIII-XVIII線矢視断面相当の、スリーブの断面説明図。
【
図19】実施形態4における、電磁継電器の断面説明図。
【
図20】実施形態4における、接点圧ゼロの状態を保ちつつ、スリーブを可動コアに被せる工程の説明図。
【
図21】実施形態4における、接点圧をかけつつ、スリーブを可動コアと共に前進させる工程の説明図。
【
図22】実施形態4における、スリーブを可動コアと共に所定量後退させる工程の説明図。
【
図23】実施形態5における、電磁継電器の断面説明図。
【
図24】実施形態5における、接点圧ゼロの状態を保ちつつ、スリーブを可動コアに被せる直前の説明図。
【
図25】実施形態5における、接点圧ゼロの状態を保ちつつ、スリーブを可動コアに被せる工程の説明図。
【
図26】実施形態5における、接点圧をかけつつ、スリーブを可動コアと共に前進させる工程の説明図。
【
図27】実施形態5における、スリーブを可動コアと共に所定量後退させる工程の説明図。
【
図28】実施形態6における、電磁継電器の断面説明図。
【
図29】実施形態6における、接点圧ゼロの状態を保ちつつ、コア間距離を調整した状態にて、可動コアをシャフトに組み付ける工程の説明図。
【
図30】実施形態6における、固定コアにスリーブを被せる直前の状態の説明図。
【
図31】実施形態6における、支承部に可動コアを支承させてスリーブを前進させる工程の説明図。
【
図32】実施形態6における、コア間距離が所定の距離となるまでスリーブを可動コアと共に前進させた状態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
電磁継電器に係る実施形態について、
図1~
図11を参照して説明する。
本形態の電磁継電器1は、
図1に示すごとく、封止筐体2と、固定接点31と、可動接点41を有する可動子4と、シャフト5と、可動コア61と、固定コア62と、復帰ばね63と、電磁コイル64と、スリーブ7と、を有する。
【0012】
固定接点31は、封止筐体2内に配されている。可動子4は、可動接点41を有する。可動接点41は、封止筐体2内において固定接点31に対して接離する。シャフト5は、可動子4を保持すると共に封止筐体2に対して軸方向Zに進退可能に設けられている。可動コア61は、シャフト5に固定されている。
【0013】
固定コア62は、封止筐体2に固定されている。復帰ばね63は、固定接点31から可動接点41を離す方向に付勢する。電磁コイル64は、通電により固定コア62と可動コア61との間の磁気吸引力を発生させる。スリーブ7は、復帰ばね63及び可動コア61を気密封止するとともに、固定コア62に直接又は間接的に固定されている。
【0014】
シャフト5は、固定コア62に形成された貫通孔621に摺動可能に挿通されている。スリーブ7は、支承部71を有する。支承部71は、磁気吸引力が作用していない状態において、固定コア62に対する可動コア61の位置を規定するよう可動コア61を支承する。
【0015】
スリーブ7の前端部には、位置調整部11が形成されている。位置調整部11は、スリーブ7を固定コア62に直接又は間接的に固定する際に固定コア62と支承部71との位置関係を調整するための部位である。本形態において、位置調整部11は、後述する調整空間110によって構成されている。
【0016】
電磁継電器1において、シャフト5の軸方向であって、可動接点41の進退方向を、適宜、Z方向という。Z方向における、可動接点41が固定接点31へ近づく側を前側、その反対側を後側という。
【0017】
本形態において、電磁継電器1は、固定コア62の前端部に固定された磁性プレート12を有する。磁性プレート12と固定コア62との間は、溶接にて気密封止されている。磁性プレート12は、主面をZ方向に向け、固定コア62よりも外周側へ広がるように設けられている。封止筐体2の後端が磁性プレート12に固定されている。封止筐体2と磁性プレート12とに囲まれた空間に、固定接点31と可動接点41とが配置されている。この空間を、適宜、接点配置空間101という。
【0018】
封止筐体2の後端は、全周にわたって、磁性プレート12との間がシールされた状態にて、磁性プレート12に固定されている。封止筐体2は例えばセラミックからなる。磁性プレート12は、例えば鋼板からなる。封止筐体2と磁性プレート12との間には、図示を省略する鉄板等の介在部材が配されている。介在部材は、磁性プレート12と封止筐体2との間の線膨張係数を有する。この介在部材と磁性プレート12とを溶接し、介在部材と封止筐体2とをろう付けすることで、封止筐体2と磁性プレート12とを、両者間のシールを確保しつつ、固定している。
【0019】
固定接点31は、封止筐体2の一部に固定されたバスバー3に設けられている。封止筐体2には、互いに電気的に絶縁された2本のバスバー3が固定されている。これらのバスバー3のそれぞれに、固定接点31が設けてある。2つの固定接点31は、Z方向の後側を向いている。なお、バスバー3と封止筐体2との間は、ろう付けにて気密封止されている。
【0020】
これら2個の固定接点31のそれぞれに対して、Z方向の後側から対向するように、可動接点41が2個配置されている。2個の固定接点31は、一つの可動子4の前側に設けてある。可動子4は、例えば金属板からなる。可動子4は、2つの可動接点41の間の部位に、シャフト5を挿通させている。シャフト5と可動子4とは、互いにZ方向に摺動可能に設けられている。シャフト5と可動子4との間には、両者をZ方向に弾性支持する接圧ばね13が設けてある。接圧ばね13の後端は、シャフト5に固定された支持部材131に当接している。また、接圧ばね13の前端は、可動子4の後面に当接している。
【0021】
磁性プレート12の後側に、絶縁性のボビン65に巻回された電磁コイル64が配置されている。電磁コイル64の内周側に、固定コア62と可動コア61とが配置されている。また、Z方向における固定コア62と可動コア61との間に、復帰ばね63が配置されている。復帰ばね63は、コイルバネからなり、弾性圧縮状態にて、固定コア62と可動コア61との間に配設されている。
【0022】
また、スリーブ7が、可動コア61の後端面及び外周面を覆うとともに、固定コア62の外周面に固定されている。固定コア62の外周面は、可動コア61の進退方向Zに平行な面である。スリーブ7は固定コア62の外周面に接合されている。スリーブ7は、後壁部710と、後壁部710の外周から前方へ立設した筒状の側壁部720とを有する。すなわち、スリーブ7は、有底筒状形状を有する。また、スリーブ7の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、ステンレス鋼とすることができる。
【0023】
図2に示すごとく、スリーブ7の内周面と、固定コア62の外周面との間は、全周にわたりシールされている。スリーブ7と固定コア62の外周面とは、例えば、全周にわたり溶接されている。
図1、
図2において、符号14にて示す箇所が、溶接部を表す。
【0024】
これにより、スリーブ7と固定コア62とに囲まれた空間(以下、適宜、コア配置空間102という。)に、可動コア61と復帰ばね63とが気密封止される。ただし、固定コア62の貫通孔621とシャフト5の外周面との間には、わずかな隙間が存在する。そのため、コア配置空間102と接点配置空間101とが、この隙間を通じて連通する。しかし、コア配置空間102も、接点配置空間101も、他の外部に対しては、気密封止される。それゆえ、接点配置空間101は外部に対して気密封止される。そして、この接点配置空間101に、水素等のガスが封止される。
【0025】
また、スリーブ7の後壁部710が、可動コア61の後面を支承する。つまり、本形態において、後壁部710が、支承部71に相当する。支承部71である後壁部710は、
図1に示すごとく、固定コア62と可動コア61との間に磁気吸引力が作用していない状態において、固定コア62に対する可動コア61の位置を規定するよう可動コア61を支承する。可動コア61には、ネジ孔611が形成されている。シャフト5の後端部には、可動コア61のネジ孔611に螺合する雄ネジ部51が形成されている。
【0026】
スリーブ7の前端部の前端側には、空間110が隣接している。この空間を適宜、調整空間110という。すなわち、スリーブ7の前端部は、磁性プレート12に当接しておらず、スリーブ7の前端部のZ方向に隣接する位置は、調整空間110となっている。本形態においては、この構造部分、すなわち、スリーブ7の前端部の前端側に調整空間110が隣接する構造部分が、上述の位置調整部11に相当する。位置調整部11については、後述する本形態の電磁継電器1の製造方法の説明において、より詳しく説明する。
【0027】
次に、本形態の電磁継電器1の動作につき、
図1、
図3、
図4を参照して、説明する。
電磁コイル64に通電していない状態においては、固定コア62と可動コア61との間に、電磁吸引力は生じていない。それゆえ、
図1に示すごとく、可動コア61は、復帰ばね63の付勢力によって、固定コア62から離れる方向、すなわち後方へ押されている。これにより、シャフト5を介して可動コア61に取り付けられた可動子4は、後方へ後退した状態となり、可動接点41は固定接点31から離れている。この状態において、可動コア61は、スリーブ7の支承部71に支承された状態となる。それゆえ、固定接点31と可動接点41との間の距離、すなわち接点間距離は、所定の大きさGpとなる。このオフ時の接点間距離の大きさGpは、アーク消弧を充分に実現できる距離として設定される。
【0028】
この状態から、電磁コイル64に通電することで、固定コア62と可動コア61との間に電磁吸引力を発生させる。これにより、
図3に示すごとく、復帰ばね63の復元力に抗して、固定コア62が前進し、これに伴い、シャフト5及び可動子4が前進する。そして、可動接点41が固定接点31に当接する。
図3に示す状態は、可動接点41が固定接点31に当接した瞬間の状態であって、固定接点31と可動接点41との間の接点圧は実質的にゼロの状態である。
【0029】
そして、この状態から、
図4に示すごとく、さらに可動コア61が前進する。本形態においては、可動コア61の一部が、固定コア62の一部に当接するまで、可動コア61が前進する。このとき、可動コア61に固定されたシャフト5が前進するが、可動接点41が固定接点31に当接しているため、可動子4は前進しない。そのため、可動子4に対しても相対的にシャフト5が前進し、接圧ばね13が圧縮変形する。これにより、接圧ばね13の弾性力が固定接点31と可動接点41との間の当接圧力に寄与することとなる。
【0030】
なお、この
図4の状態から、電磁コイル64への通電を遮断すると、固定コア62と可動コア61との間の電磁吸引力がなくなる。これにより、復帰ばね63の復元力により、可動コア61が後退し、接点圧力が減少してゼロになったのち、固定接点31から可動接点41が離れる。その後、
図1の状態、すなわち、可動コア61がスリーブ7の支承部71に支承された状態となるまで後退する。これにより、固定接点31と可動接点41との間のギャップ、すなわち接点間距離が所定の大きさGpになって静止する。
【0031】
次に、本形態の電磁継電器1の製造方法につき、
図5~
図11を参照して、説明する。
図5に示すごとく、固定コア62と磁性プレート12とを一体化したサブアッシーと、シャフト5と可動子4と接圧ばね13とを備えたサブアッシーと、を用意する。次いで、固定コア62の貫通孔621にシャフト5を挿通する。次いで、
図6、
図7に示すごとく、可動子4及びシャフト5の前端部を覆うように、バスバー3を固定した封止筐体2を配置する。そして、封止筐体2の後端部を、磁性プレート12に接合する。
【0032】
また、
図7に示すように、シャフト5を前進させて、可動接点41を固定接点31に当接させる。このときの可動接点41と固定接点31との当接荷重は、実質的にゼロとなるようにする。この状態において、
図8に示すごとく、シャフト5の後端部に可動コア61を組み付ける。つまり、このときの接点圧が実質的にゼロとなるようにする。すなわち、シャフト5の雄ネジ部51と、可動コア61のネジ孔611とを螺合する。そして、Z方向における、固定コア62に対する可動コア61の位置を調整する。例えば、
図8に示すごとく、ギャップ調整ゲージ81を固定コア62と可動コア61との間に挟むことで、固定コア62と可動コア61との間のZ方向のギャップ(以下において、適宜、コア間距離ともいう。)を所望の大きさGsとなるように調整する。
【0033】
この状態において、可動コア61のネジ孔611の後端側からロウ付け等によって、ネジ孔611の後端部を密封するとともに、可動コア61と固定コア62とを固定する。
なお、この状態において、調整するコア間距離の大きさGsは、所望の接点圧に応じて適宜設定される。本形態において、Gsは、電磁継電器1をオン状態(すなわち
図4の状態)とする際に、接点圧ゼロの状態(すなわち
図3の状態)からシャフト5を前進させる寸法分と一致する。また、Gsは、電磁継電器1のオン状態における接圧ばね12の圧縮変位量と一致する。
【0034】
次いで、
図9に示すごとく、可動コア61にスリーブ7を被せる。このとき、スリーブ7の前端部の前方には調整空間110が隣接している。つまり、スリーブ7の前端部は、磁性プレート12に当接していない。この調整空間110のZ方向の寸法は、Gs以上である。
【0035】
次いで、
図10に示すごとく、スリーブ7を前方へ押し込む。これにより、可動コア61及びシャフト5が前方へ移動する。ここでは、可動コア61が固定コア62と当接するまで、スリーブ7を前方へ押し込む。つまり、
図9の状態から、スリーブ7を寸法Gs分、前方へ押し込む。これに伴い、固定接点31に対する可動接点41の接圧がかかり、接圧ばね13が弾性圧縮される。
【0036】
次いで、
図11に示すごとく、スリーブ7を後退させる。そうすると、復帰ばね63の復元力によって可動コア61及びシャフト5が後退する。これに伴い、固定接点31と可動接点41との間の接点圧が減少し、さらに、固定接点31から可動接点41が離れる。そして、固定接点31と可動接点41との間のギャップが所定の大きさGpとなるまで、スリーブ7を後退させる。つまり、固定コア62と可動コア61との間のギャップの大きさが、Gp+Gsとなるまで、可動コア61を後退させる。これは、固定コア62に対するスリーブ7の位置を、
図10の状態から、Gp+Gsの長さ分、後退させることにより、実現することができる。そして、この状態において、スリーブ7を固定コア62に固定する。例えば、スリーブ7の前端部を固定コア62の外周面に溶接する。
【0037】
そして、スリーブ7の外周側に、ボビン65に巻回された電磁コイル64を配置することで、
図1に示す、電磁継電器1が得られる。そして、この電磁継電器1における、通電オフ時の接点間距離が、所定の大きさGpに精度よく設定される。
【0038】
次に、本形態の作用効果につき、説明する。
上記電磁継電器1は、スリーブ7の前端部に位置調整部11が形成されている。それゆえ、固定コア62に対する支承部71の位置を調整することができる。その結果、オフ時における固定接点31と可動接点41との間の距離である接点間距離を調整することができる。
【0039】
接点間距離の調整が可能となることにより、例えば、電磁継電器1のオフ時におけるアーク消弧が充分に実現できる必要最小限の接点間距離に設定することが可能となる。これにより、電磁継電器1の小型化が容易となる。
【0040】
また、スリーブ7の前端部の前端側には、調整空間110が隣接している。すなわち、この調整空間110によって、位置調整部11が構成されている。これにより、上述のように、スリーブ7を固定コア62に固定する前に、スリーブ7をZ方向にスライドさせることで、容易に接点間距離を調整することができる。
【0041】
また、固定コア62の外周面は、Z方向に平行な面である。そして、スリーブ7は固定コア62の外周面に接合されている。これにより、スリーブ7を固定コア62に固定する前に、スリーブ7をZ方向にスライドさせやすい。それゆえ、より容易に接点間距離を調整することができる。
【0042】
以上のごとく、本形態によれば、オフ時における接点間距離を調整することができる電磁継電器を提供することができる。
【0043】
(実施形態2)
本形態は、
図12~
図15に示すごとく、固定コア62の外周面に形成した縦溝部622と、スリーブ7の内側突起部722とを嵌合させた実施形態である。
すなわち、本形態において、
図13、
図14に示すごとく、固定コア62の外周面には、軸方向Zに連続する縦溝部622が形成されている。スリーブ7は、
図13、
図15に示すごとく、側壁部720の前端部付近から内周側に突出する内側突起部722を有する。そして、内側突起部722が、縦溝部622内に配されている。
【0044】
図14に示すごとく、本形態において、縦溝部622は、固定コア62の外周面の4箇所に形成されている。4本の縦溝部622は、周方向に略等間隔に形成されている。
図13に示すごとく、縦溝部622は、後端側に開放されている。また、縦溝部622は、前端側には開放されていない。ただし、縦溝部622は、前端側にも開放された構成とすることもできる。
【0045】
図15に示すごとく、本形態において、内側突起部722は、スリーブ7の内周面の4箇所に形成されている。4つの内側突起部722は、周方向に略等間隔に形成されている。
【0046】
4つの内側突起部722が、4つの縦溝部622のそれぞれに嵌入している。そして、内側突起部722が、固定コア62に溶接等されて、接合されている。縦溝部622及び内側突起部722の個数は、特に限定されるものではなく、例えば、それぞれ3個以下、或いは、それぞれ5個以上とすることもできる。
【0047】
その他は、実施形態1と同様である。なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0048】
本形態においては、スリーブ7を固定コア62に固定する際、内側突起部722を縦溝部622内に配置した状態にて、スリーブ7を固定コア62の外周面に対してスライドさせることができる。これにより、固定コア62に対するスリーブ7の傾きを抑制しつつ、スリーブ7の固定位置を調整することができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を得ることができる。
【0049】
(実施形態3)
本形態は、
図16~
図18に示すごとく、固定コア62の段差部623の前端面と、スリーブ7の内側環状部723との間に、環状空間123が形成されている形態である。
【0050】
固定コア62は、
図16、
図17に示すごとく、外周面の後端部に、内側に切り欠かれた段差部623を全周にわたって有する。スリーブ7は、
図16、
図18に示すごとく、内周側に突出する環状の内側環状部723を有する。
図16に示すごとく、内側環状部723は、段差部623に配されている。これにより、段差部623の前端面と内側環状部723との間には、環状空間123が形成されている。
スリーブ7は、段差部623よりも前端側における固定コア62の外周面に、溶接等にて固定されている。
その他は、実施形態1と同様である。
【0051】
本形態においては、固定コア62の外周面の後端部に、環状空間123が形成されている。それゆえ、スリーブ7を固定コア62の外周面に沿ってスライドさせたときに生じ得る異物を、環状空間123に留めることができる。それゆえ、上記異物がスリーブ7内のコア配置空間102内に侵入することを防ぐことができる。また、スリーブ7を固定コア62に溶接する場合においても、溶接時に生じ得る異物がコア配置空間102内に侵入することを防ぐことができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0052】
なお、実施形態2と実施形態3とを組み合わせた形態とすることもできる。すなわち、実施形態2に示した電磁継電器1(
図12~
図15参照)に、更に、段差部623及び内側環状部723(
図16~
図18参照)を設けた形態とすることもできる。
【0053】
(実施形態4)
本形態は、
図19~
図22に示すごとく、磁性プレート12におけるスリーブ7の前端部に対向する位置に、対向溝121が形成された形態である。
対向溝121は、スリーブ7の前端部の前端側の位置に環状に形成されている。
【0054】
電磁継電器1を製造する際、実施形態1(
図7、
図8参照)と同様に、固定接点31と可動接点41との間の接点圧を実質的にゼロとした状態であって、固定コア62に対する可動コア61のZ方向の位置を調整した状態とする。この状態において、可動コア61とシャフト5とを互いに固定し、
図20に示すごとく、可動コア61にスリーブ7を被せる。そして、支承部71が可動コア61の後端部を支承した状態とする。
【0055】
この状態において、スリーブ7の前端部が磁性プレート12に干渉しないようにしておく必要がある。つまり、位置調整部11としての調整空間110が必要となる。本形態においては、
図20に示すごとく、磁性プレート12に設けた対向溝121によって、調整空間110の少なくとも一部が形成されている。すなわち、対向溝121が形成されていることで、
図20の状態において、スリーブ7の前端部の前端側に、充分な余代が調整空間110として形成されている。
【0056】
なお、
図20は、接点圧ゼロの状態において、スリーブ7の前端部は対向溝121の外に配置された様子を示すが、接点圧ゼロの状態において、スリーブ7の前端部が対向溝121内に配置されるよう構成することもできる。
【0057】
図20の状態から、スリーブ7を可動コア61及びシャフト5と共に前方へ押し込むと、
図21に示すごとく、スリーブ7の前端部が、対向溝121内に配置される。対向溝121が充分な深さにて形成されていることにより、スリーブ7の前端部が、磁性プレート12に干渉しない。
【0058】
そして、
図22に示すごとく、接点間距離が所定の大きさGpとなるまで、スリーブ7を後退させる。つまり、コア間距離が所定の大きさ「Gp+Gs」となるまで、可動コア61を後退させる。この状態にて、スリーブ7と固定コア62とを溶接等にて固定する。
その他は、実施形態1と同様である。
【0059】
本形態の場合、例えば磁性プレート12の厚みが大きい場合等において、調整空間110を充分に形成しやすい。また、特に対向溝121の深さがGp+Gsを超える場合には、対向溝121内において、磁性プレート12とスリーブ7の前端部とを溶接等することが可能となる。磁性プレート12とスリーブ7とを接合して両者間を気密封止することができれば、磁性プレート12と固定コア62との間の気密封止を確保する必要は特になくなる。その場合、電磁継電器1の製造を簡素化することができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0060】
(実施形態5)
本形態は、
図23~
図27に示すごとく、固定コア62とスリーブ7とを螺合させた形態である。
すなわち、固定コア62の外周面に雄ネジ部624を設け、スリーブ7の内周面に雌ネジ部724を設けている。
【0061】
電磁継電器1を製造する際、実施形態1(
図7、
図8参照)と同様に、固定接点31と可動接点41との間の接点圧を実質的にゼロとした状態であって、固定コア62に対する可動コア61のZ方向の位置を調整した状態とする。この状態、すなわち
図24に示す状態において、可動コア61とシャフト5とを互いに固定し、可動コア61にスリーブ7を被せる。
【0062】
そして、
図25、
図26に示すごとく、支承部71が可動コア61の後端部を支承しつつ、固定コア62に螺合したスリーブ7を回転させて前進させる。
図26に示すごとく、固定コア62と可動コア61とが当接するまで、スリーブ7を回転させて前進させる。そして、
図26の状態から、スリーブ7を逆回転させて、
図27に示すごとく、接点間ギャップが所定の値Gpとなるまで後退させる。すなわち、固定コア62と可動コア61との間のギャップがGp+Gsとなるまで、スリーブ7を後退させる。その後、この状態にて、スリーブ7と固定コア62とを溶接等にて固定する。
その他は、実施形態1と同様である。
【0063】
本形態の場合には、固定コア62とスリーブ7とを螺合させるので、両者の間のZ方向の位置調整を容易に行うことができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0064】
(実施形態6)
本形態は、
図28~
図32に示すごとく、スリーブ7の前端部に、易変形部111を設けた形態である。易変形部111は、側壁部720における他の個所よりも、Z方向に圧縮変形しやすい部位であり、その変形は塑性変形である。
【0065】
本形態において、易変形部111が、位置調整部11を構成する。易変形部111は、スリーブ7の側壁部720の前端部において、側壁部720における他の個所よりも厚みを小さくすることによって形成されている。
【0066】
電磁継電器1を製造する際、まず、実施形態1と同様に、
図29に示すごとく、固定接点31と可動接点41とを、接点圧ゼロの状態にて当接させた状態としたうえで、可動コア61をシャフト5に組み付ける。このとき、可動コア61と固定コア62との間のコア間距離がGsとなるように調整しつつ、可動コア61をシャフト5に組み付ける。
【0067】
次に、
図30に示すごとく、スリーブ7を後方から可動コア61に被せる。この段階のスリーブ7は、易変形部111がZ方向に平行な形状としてある。また、この段階においては、可動接点41は固定接点31から離れており、可動コア61と固定コア62との間のコア間距離は、Gp+Gsよりも大きい。そして、
図31に示すごとく、可動コア61を支承部71にて支承させつつ、スリーブ7をさらに前進させる。このとき、スリーブ7の易変形部111が、磁性プレート12に当接した後も、スリーブ7を強制的に前進させる。そうすると、同図に示すように、易変形部111が塑性変形する。
【0068】
その後、
図32に示すごとく、接点間距離がGpとなるまで、スリーブ7を可動コア61と共に前進させる。ここで、接点間距離は、X線等を用いて、固定接点31と可動接点41との間を直接観測することにより、測定することができる。或いは、固定コア62と可動コア61との間のギャップをX線等を用いて観測して、当該ギャップがGp+Gsとなるまでスリーブ7を前進させるという手法を採ることもできる。
【0069】
そして、この状態において、スリーブ7における、磁性プレート12との当接箇所を、磁性プレート12に溶接等によって固定する(
図28参照)。なお、易変形部111は、厚みを薄くすることによって設ける以外にも、種々の手段を用いることができる。例えば、易変形部111は、塑性変形させる前から、コルゲート形状等、Z方向に圧縮変形しやすい形状としておくことにより設けることもできる。
その他は、実施形態1と同様である。
【0070】
本形態の場合には、スリーブ7の前端部の全周を磁性プレート12に溶接等することにより、両者間の気密封止が可能となる。それゆえ、固定コア62と磁性プレート12との間の気密封止を確保する必要は特になくなる。その場合、電磁継電器1の製造を簡素化することができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0071】
実施形態1、実施形態4、実施形態5においても、実施形態6と同様、製造時における接点間距離の調整を、X線等を用いて接点間距離又はコア間距離をモニタリングしながら行うこともできる。この場合、スリーブ7を可動コア61に被せた後に、接点圧をかけるようにスリーブ7を可動コア61及びシャフト5と共に前進させる工程(すなわち、
図10等に示す工程)は不要となる。すなわち、接点圧がゼロの状態(すなわち、
図9等に示すの状態)から、接点間距離またはコア間距離をX線等を用いてモニタリングしつつ、これらの値が所定の値となるまで、スリーブ7を後退させることで、接点間距離を所望の値に調整することが可能である。
【0072】
また、上記各実施形態においては、固定コア62と磁性プレート12とが別部材からなる構成としているが、両者が一体となった部品を用いることもできる。
【0073】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0074】
1…電磁継電器、11…位置調整部、2…封止筐体、31…固定接点、4…可動子、41…可動接点、5…シャフト、61…可動コア、62…固定コア、621…貫通孔、63…復帰ばね、64…電磁コイル、7…スリーブ、71…支承部