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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175245
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】運転者状態判定装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20231205BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20231205BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20231205BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20231205BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087596
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】貝野 彰
(72)【発明者】
【氏名】藤原 由貴
(72)【発明者】
【氏名】星野 陽子
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232DA03
3D232DA15
3D232DA88
3D232DA98
3D232DC11
3D232DC33
3D232DC34
3D232DC38
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB13
3D333CC02
3D333CC28
3D333CC31
3D333CE55
(57)【要約】
【課題】運転者が運転不能となるより十分に早い段階で、運転者の身体機能の低下を検知し異常状態の判定を早期に確定することが可能な、運転者状態判定装置を提供する。
【解決手段】運転者状態判定装置10は、ステアリングホイール2に振動を付与する振動装置14と、ステアリングホイールの振動を検出する振動検出器16と、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサ12と、振動装置を制御するコントローラ18とを備え、コントローラは、振動装置によりステアリングホイールに所定の加振周波数f0の振動を付与し、振動検出器により検出された振動に基づき、加振周波数における操舵トルクレベルを算出し、振動の付与中における操舵トルクレベルの時間変化と、振動の付与中における操舵角の時間変化との相関係数が、所定値以上である場合に、運転者が異常状態であると判定する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を運転する運転者の異常状態を判定する運転者状態判定装置であって、
前記車両の操舵装置のステアリングホイールに振動を付与する振動装置と、
前記ステアリングホイールの振動を検出する振動検出器と、
前記ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、
前記振動装置を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記振動装置により前記ステアリングホイールに所定の加振周波数の振動を付与し、
前記振動検出器により検出された振動に基づき、前記加振周波数における前記検出された振動の強さを表す値を算出し、
前記振動の付与中における前記振動の強さを表す値の時間変化と、前記振動の付与中における前記操舵角の時間変化との相関係数が、所定値以上である場合に、前記運転者が異常状態であると判定するように構成されている、
運転者状態判定装置。
【請求項2】
前記振動検出器は、前記ステアリングホイールに印加された操舵トルクを検出する操舵トルクセンサであり、
前記振動の強さを表す値は、前記操舵トルクセンサにより検出された前記操舵トルクの前記加振周波数における実効値、又は、前記操舵トルクの実効値をレベル化したデシベル値である、請求項1に記載の運転者状態判定装置。
【請求項3】
運転者の状態を検出するセンサをさらに備え、
前記コントローラは、前記センサの検出信号に基づいて、前記運転者が異常状態であると推定した場合に前記振動装置により前記ステアリングホイールに前記加振周波数の振動を付与する、請求項1又は2に記載の運転者状態判定装置。
【請求項4】
前記振動装置は、前記運転者による前記ステアリングホイールの操舵操作を補助するための電動パワーステアリング装置用の電気モータである、請求項1又は2に記載の運転者状態判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両運転中に運転者が異常状態にあるか否かを判定するための運転者状態判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者が異常状態にあると判定すると、音やランプにより運転者に警告を発する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の装置では、自動運転支援モード(例えば、車線維持支援)による車両走行中に、運転者による操作入力がない状態が所定時間(例えば、5秒)だけ継続すると、運転者に向けて警告が発生される。その後、さらに運転者の操作入力がない時間が継続すると、順次、警告や車両操作への自動介入(減速等)が行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6455456号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ある種の疾患(例えば、心疾患、脳疾患、低血糖等)を発症すると、身体の機能低下は高次機能から低次機能へ徐々に進行していくと考えられる。例えば、随意運動(即ち高次機能)の機能低下は運動不能となるまでに数十分かけて徐々に進行し、その後、不随意運動(即ち低次機能)の機能低下が発生してから数秒以内に運転者は運転操作不能となる。ここで、随意運動の機能低下中は、例えば運転者の車線維持能力や速度維持能力は健常時よりも低下するが、運転者は不完全ながらも車両操作を行うことができる。したがって、運転者が操作不能となった場合に異常状態であると判定する従来の装置では、随意運動の機能低下中に異常状態の判定を行うことができない。一方、不随意運動の機能低下が発生すると、数秒以内に運転者は操作不能となってしまうので、異常状態を判定してから運転者の意思を確認したり、車両の自動停止などの適切な対応を行ったりするまでの時間的余裕が少ない可能性がある。したがって、不随意運動の機能低下が発生する前の段階で、つまり随意運動の機能低下が発生している段階で、運転者が異常状態にあることを高精度で判定できることが望ましい。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、運転者が運転不能となるより十分に早い段階で、運転者の身体機能の低下を検知し異常状態の判定を早期に確定することが可能な、運転者状態判定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明は、車両を運転する運転者の異常状態を判定する運転者状態判定装置であって、車両の操舵装置のステアリングホイールに振動を付与する振動装置と、ステアリングホイールの振動を検出する振動検出器と、ステアリングホイールの操舵角を検出する操舵角センサと、振動装置を制御するコントローラと、を備え、コントローラは、振動装置によりステアリングホイールに所定の加振周波数の振動を付与し、振動検出器により検出された振動に基づき、加振周波数における検出された振動の強さを表す値を算出し、振動の付与中における振動の強さを表す値の時間変化と、振動の付与中における操舵角の時間変化との相関係数が、所定値以上である場合に、運転者が異常状態であると判定するように構成されている。
【0007】
このように構成された本発明によれば、コントローラは、ステアリングホイールへの振動付与中における加振周波数における振動の強さを表す値の時間変化と、振動の付与中における操舵角の時間変化との相関係数が、所定値以上である場合に、運転者が異常状態であると判定するので、ステアリングホイールに振動を付与したときの、疾患の有無に応じた筋の応答性の差異を利用して、具体的には操舵角の時間変化と加振周波数における検出された振動の強さを表す値の時間変化との間の相関関係が疾患の有無に応じて変化することを利用して、運転者の異常状態を判定することができる。これにより、運転者が運転不能となる前に、随意運動の機能が低下した段階で、運転者の身体機能の低下を検知し異常状態の判定を早期に確定することができる。
【0008】
本発明において、好ましくは、振動検出器は、ステアリングホイールに印加された操舵トルクを検出する操舵トルクセンサであり、振動の強さを表す値は、操舵トルクセンサにより検出された操舵トルクの加振周波数における実効値、又は、操舵トルクの実効値をレベル化したデシベル値である。
【0009】
このように構成された本発明によれば、振動検出器を新たに設けることなく、操舵トルクセンサを振動検出器として利用することができ、操舵トルクの加振周波数における実効値の時間変化、又は、操舵トルクの実効値をレベル化したデシベル値の時間変化と、操舵角の時間変化との間の相関関係に基づき、運転者の異常状態の判定を早期に確定することができる。
【0010】
本発明において、好ましくは、運転者の状態を検出するセンサをさらに備え、コントローラは、センサの検出信号に基づいて、運転者が異常状態であると推定した場合に振動装置によりステアリングホイールに加振周波数の振動を付与する。このように構成された本発明によれば、センサの検出信号に基づいて、運転者が異常状態である可能性が比較的高い場合において、振動付与による異常状態の判定を行うことができ、運転者が異常状態にあることを高精度で判定できる。
【0011】
本発明において、好ましくは、振動装置は、運転者によるステアリングホイールの操舵操作を補助するための電動パワーステアリング装置用の電気モータである。このように構成された本発明によれば、振動装置を新たに設けることなく、電動パワーステアリング装置の電気モータを振動装置として利用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の運転者状態判定装置によれば、運転者が運転不能となるより十分に早い段階で、運転者の身体機能の低下を検知し異常状態の判定を早期に確定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態による運転者状態判定装置が搭載された車両の説明図である。
図2】本発明の実施形態による運転者状態判定装置のブロック図である。
図3】本発明の実施形態による操舵角と加振周波数における操舵トルクレベルとの時間変化のグラフである。
図4】本発明の実施形態による操舵角と加振周波数における操舵トルクレベルとの時間変化のグラフである。
図5】本発明の実施形態による操舵角の時間変化と加振周波数における操舵トルクレベルとの時間変化との相関係数のグラフである。
図6】本発明の実施形態による異常状態の判定処理のフローチャートである
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による運転者状態判定装置を説明する。図1は運転者状態判定装置が搭載された車両の説明図、図2は運転者状態判定装置のブロック図である。
【0015】
図1に示すように、本発明の実施形態による運転者状態判定装置10は、操舵装置1aを有する車両1に搭載されている。操舵装置1aは、ステアリングホイール2、これに固定的に連結されたステアリングシャフト3、及びステアリングシャフト3と操舵輪4とを連結する連結機構(図示せず)を備えている。
【0016】
図2に示すように、運転者状態判定装置10は、運転者の状態を検出する1又は複数のセンサ12と、ステアリングホイール2に所定の振動を付与する振動装置14と、ステアリングホイール2又はステアリングシャフト3の振動を検出する振動検出器16と、コントローラ18と、車両運転制御装置20とを備えている。
【0017】
センサ12は、運転者の状態を検出するセンサである。運転者の状態は、運転者の身体状態、及び運転者による車両操作状態を含む。身体状態を検出するセンサ12は、例えば、運転者を撮像する車内カメラ、心拍センサ、心電図センサ、ステアリングホイール2の把持力センサ等である。また、車両操作状態を検出するセンサ12は、車外を撮像する車外カメラ、車速センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、操舵角センサ、操舵トルクセンサ、アクセル開度センサ、ブレーキ圧センサ、GPSセンサ、ADASセンサ等である。
【0018】
例えば、コントローラ18は、車内カメラにより撮像された運転者の撮像信号(画像データ)を用いて、運転者の視線方向、姿勢(上半身又は頭部の位置)、運転者のまぶたの開き具合、運転者によるステアリングホイール2の把持力等を検出し、このような検出結果に基づいて、運転者が異常状態であることを推定することができる。例えば、視線方向の安定性が所定値以下の場合、姿勢の安定性が所定値以下の場合、まぶたが所定時間以上にわたって閉じている場合、ステアリングホイール2の把持力が所定値未満の場合に、運転者が異常状態であると推定することができる。また、例えば、コントローラ18は、操舵角センサにより検出された操舵角信号、車外カメラにより撮像された画像信号等に基づいて、運転者が異常状態であることを推定することができる。例えば、走行路上での中央線からの車両1の位置の安定性、操舵角の安定性等が所定値以下の場合に、運転者が異常状態であると推定することができる。
【0019】
振動装置14は、往復回転を出力可能な電気モータを備え、ステアリングシャフト3に取り付けられている。振動装置14は、制御信号を受けるとステアリングシャフト3を周方向に所定の周波数で且つ小さな角度で往復回動させるように構成されている。これにより、ステアリングシャフト3を介してステアリングホイール2に所定の周波数の振動が付与される。また、振動検出器16は、ステアリングシャフト3に取り付けられており、ステアリングシャフト3を介してステアリングホイール2の振動状態を検出する。
【0020】
車両1は、電動パワーステアリング装置を備えている。電動パワーステアリング装置は、操舵アシストトルクを付与するためにステアリングシャフト3に連結された電気モータ、ステアリングホイール2に印可された操舵トルクを検出するためにステアリングシャフト3に連結された操舵トルクセンサ等を含む。本実施形態では、電動パワーステアリング装置の構成要素のうち、電気モータが振動装置14を構成し、操舵トルクセンサが振動検出器16を構成する。
【0021】
したがって、電気モータは、電動パワーステアリング装置として、ステアリングシャフト3に対してアシストトルクを付与するように作動する。また、電気モータは、振動装置14として、ステアリングシャフト3を小さな角度で周方向に往復動させるようにして、ステアリングシャフト3及びステアリングホイール2を振動させるように作動する。
【0022】
また、操舵トルクセンサは、電動パワーステアリング装置及び振動検出器16として、ステアリングホイール2を介してステアリングシャフト3に印可された操舵トルクを検出するように作動する。操舵トルクセンサは、ステアリングシャフト3の周方向のねじれに応じた操舵トルクの変動を検出することにより、ステアリングホイール2の振動を検出する。コントローラ18は、振動検出器16(操舵トルクセンサ)により検出された操舵トルクの時間変化に基づき、所定周波数におけるステアリングホイール2の振動の強さを算出する。
【0023】
コントローラ18は、CPUとしてのプロセッサ18a、各種プログラムやデータベースを記憶するメモリ18b(RAM、ROM等)、電気信号の入出力装置等を備えたコンピュータデバイスである。コントローラ18は、センサ12、振動装置14、振動検出器16、車両運転制御装置20を制御する。コントローラ18は、センサ12、振動装置14、振動検出器16を利用して、運転者が異常状態であると判定すると、車両運転制御装置20に制御信号を送り、自動運転により車両1を安全な場所に停車させるように構成されている。車両運転制御装置20は、操舵制御装置、エンジン制御装置、駆動用電気モータ制御装置、ブレーキ制御装置等である。
【0024】
コントローラ18は、各種のセンサ12から検出信号を受け取り、検出信号に基づいて運転者の身体機能が低下したか否か(運転者が異常状態にあるか否か)を推定する。運転者が異常状態にあることが推定されると、コントローラ18は、振動装置14へ所定期間(例えば、1秒)だけ作動信号を出力すると共に、振動検出器16から検出信号を受け取る。コントローラ18は、検出信号に基づいて、運転者が異常状態であるか否かを判定する(運転者が異常状態であることを確定する)。そして、運転者が異常状態であると判定されると、コントローラ18は、車両運転制御装置20により、車両1を自動運転により停車させる。
【0025】
次に、図3図5を参照して、本実施形態の運転者状態判定装置10による異常状態の判定処理について説明する。図3及び図4は操舵角と加振周波数における操舵トルクレベルとの時間変化のグラフであり、図5は操舵角の時間変化と加振周波数における操舵トルクレベルとの時間変化との相関係数のグラフである。
【0026】
図3は、運転者が異常状態であるときの、操舵角の時間変化と、加振周波数における操舵トルクレベルの時間変化とを示している。また、図4は、運転者が正常状態であるときの、操舵角の時間変化と、加振周波数における操舵トルクレベルの時間変化とを示している。
【0027】
振動装置14は、ステアリングホイール2に所定期間だけ所定周波数の振動(例えば、加振周波数f0=20Hz)を付与する。振動検出器16は、少なくとも上記所定期間(例えば、1秒)において検出した検出信号をコントローラ18へ出力する。コントローラ18は、振動検出器16から受け取った時系列信号である検出信号を、フーリエ変換等を利用してフィルタ処理し、加振周波数f0における操舵トルクの時系列信号を取得する。さらに、取得した加振周波数f0における操舵トルクの時系列信号から、加振周波数f0におけるステアリングホイール2の振動の強さを表す値として、操舵トルクの実効値をレベル化したデシベル値(操舵トルクレベル[dB])を算出する。
【0028】
図3から分かるように、異常状態では、振動装置14による振動の付与中において、操舵角の変化が大きいときに操舵トルクレベルの変化も大きくなっている。
【0029】
一方、図4から分かるように、正常状態では、振動装置14による振動の付与中において、操舵角の変化の大小に関わらず、操舵トルクレベルの大きさはほぼ一定となっている。
【0030】
図5は、異常状態にある運転者を想定した、運転能力レベルに影響を及ぼす疾患を有する複数の被験者と、正常状態にある運転者を想定した、疾患を有しない複数の被験者とのそれぞれについて、振動の付与中における加振周波数における操舵トルクレベルの時間変化と操舵角の時間変化との相関係数を、車両シミュレータを用いた実験により求めた結果を示している。図5に示すように、異常状態にある運転者においては、相関係数は平均で約0.7、誤差を考慮してもおよそ0.5以上であり、操舵角の変化と操舵トルクレベルの変化との間に強い相関関係が認められる。一方、正常状態にある運転者においては、相関係数は平均で約0.3、誤差を考慮しても0.5未満であり、操舵角の変化と操舵トルクレベルの変化との間に強い相関関係は認められない。
【0031】
従来、身体運動に関わる疾患(例えば大脳基底核の疾患)が発生すると、筋の緊張や協調運動に異常が発生することが知られている。また、筋への力の加わり方に応じて筋の粘弾性が変化することが知られている。そこで、本発明者らは、正常状態にある運転者と身体機能が低下した異常状態にある運転者とでは、ステアリングホイールを保持するための各筋の運動や緊張に差異が生じ、その結果、筋の粘弾性に差異が生じるので、ステアリングホイールを介して運転者の筋に振動を入力したときの筋の応答特性に差異が生じる、との仮説を立てた。この仮説に基づき本発明者らが研究を進めた結果、上記のように、ステアリングホイールに振動を付与したときの、操舵角の時間変化と操舵トルクレベルの時間変化との間の相関関係が、疾患の有無に応じて変化することを実験的に見出した。すなわち、本実施形態の運転者状態判定装置は、このような筋の応答特性を利用して、ステアリングホイール2に振動を付与し、その反応を分析することにより運転者が異常状態であるか否かを判定することが可能である。
【0032】
次に、図6を参照して、本実施形態の運転者状態判定装置10による異常状態の判定処理の流れについて説明する。図6は異常状態の判定処理のフローチャートである。
【0033】
図6の異常状態判定処理は、車両1の電源がONにされた場合に開始され、コントローラ18によって繰り返し実行される。異常状態判定処理が開始されると、まず、コントローラ18は、センサ12から検出信号を取得し(ステップS11)、この検出信号に基づいて運転者が正常状態であるか異常状態であるかを推定する(ステップS12)。その結果、運転者が異常状態ではない(即ち正常状態である)と推定された場合(S12:No)、この異常状態判定処理を終了する。
【0034】
一方、運転者が異常状態であると推定された場合(ステップS12:Yes)、コントローラ18は、制御信号を出力して振動装置14により所定期間(例えば、1秒)だけステアリングホイール2を所定の加振周波数f0で振動させる(ステップS13)。また、振動装置14によりステアリングホイールに振動を付与している間、コントローラ18は、センサ12(操舵角センサ)から操舵角を取得すると共に、振動検出器16(操舵トルクセンサ)から操舵トルクを取得する(ステップS14)。
【0035】
所定期間が経過すると(ステップS15:Yes)、コントローラ18は、振動検出器16から取得した操舵トルクの時系列信号をフィルタ処理し、加振周波数f0における操舵トルクの時系列信号を取得する。さらに、取得した加振周波数f0における操舵トルクの時系列信号から、加振周波数f0における操舵トルクの実効値をレベル化した操舵トルクレベルを算出する。そして、振動付与中における加振周波数f0における操舵トルクレベルの時間変化と、操舵角の時間変化との相関係数を取得する(ステップS16)。
【0036】
そして、取得した相関係数が所定の閾値(例えば0.5)未満である場合(ステップS17:No)、コントローラ18は、運転者が異常状態にないものとし、異常状態判定処理を終了する。
【0037】
一方、ステップS16で取得した相関係数が所定の閾値以上である場合(ステップS17:Yes)、コントローラ18は、運転者が異常状態にあると判定し(ステップS18)、自動運転介入処理を実行する(ステップS19)。自動運転介入処理では、コントローラ18は、車両運転制御装置20へ制御信号を送出して、例えば自動運転により車両1を安全な場所に停車させる。ステップS19の後、コントローラ18は、異常状態判定処理を終了する。
【0038】
なお、本実施形態では、ステップS12の処理において、運転者の異常状態が推定された場合(ステップS12:Yes)、ステアリングホイール2に振動を付与する(ステップS13)。しかしながら、このステップS12の処理とは別に、定期的にステアリングホイール2に振動を付与して、異常状態の判定(ステップS16、S17)を行うように構成してもよい。
【0039】
また、本実施形態では、加振周波数f0におけるステアリングホイール2の振動の強さを表す値として、操舵トルクの実効値をレベル化したデシベル値(操舵トルクレベル)を用いたが、操舵トルクの実効値を用いることとし、加振周波数f0における操舵トルクの実効値の時間変化と操舵角の時間変化との相関係数に基づき、運転者の異常状態を判定してもよい。
【0040】
次に、上述した本実施形態の運転者状態判定装置10の作用効果を説明する。
【0041】
コントローラ18は、振動装置14によりステアリングホイール2に所定の加振周波数f0の振動を付与し、振動検出器16により検出された振動に基づき、加振周波数f0における操舵トルクレベルを表す値を算出し、振動の付与中における操舵トルクレベルの時間変化と、振動の付与中における操舵角の時間変化との相関係数が、所定値以上である場合に、運転者が異常状態であると判定する。これにより、ステアリングホイール2に振動を付与したときの、疾患の有無に応じた筋の応答性の差異を利用して、具体的には操舵角の時間変化と加振周波数f0における検出された振動の強さを表す値の時間変化との間の相関関係が疾患の有無に応じて変化することを利用して、運転者の異常状態を判定することができる。したがって、運転者が運転不能となる前に、随意運動の機能が低下した段階で、運転者の身体機能の低下を検知し異常状態の判定を早期に確定することができる。
【0042】
また、振動検出器16は、ステアリングホイール2に印加された操舵トルクを検出する操舵トルクセンサであり、振動の強さを表す値は、操舵トルクセンサにより検出された操舵トルクの加振周波数f0における実効値、又は、操舵トルクの実効値をレベル化したデシベル値である。これにより、振動検出器16を新たに設けることなく、操舵トルクセンサを振動検出器16として利用することができ、操舵トルクの加振周波数f0における実効値の時間変化、又は、操舵トルクの実効値をレベル化したデシベル値の時間変化と、操舵角の時間変化との間の相関関係に基づき、運転者の異常状態の判定を早期に確定することができる。
【0043】
また、コントローラ18は、センサ12の検出信号に基づいて、運転者が異常状態であると推定した場合に振動装置14によりステアリングホイール2に所定の加振周波数f0の振動を付与する。これにより、センサ12の検出信号に基づいて、運転者が異常状態である可能性が比較的高い場合において、振動付与による異常状態の判定を行うことができ、運転者が異常状態にあることを高精度で判定できる。
【0044】
また、振動装置14は、運転者によるステアリングホイール2の操舵操作を補助するための電動パワーステアリング装置用の電気モータである。これにより、振動装置14を新たに設けることなく、電動パワーステアリング装置の電気モータを振動装置14として利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 車両
1a 操舵装置
2 ステアリングホイール
3 ステアリングシャフト
10 運転者状態判定装置
12 センサ
14 振動装置(電気モータ)
16 振動検出器(操舵トルクセンサ)
18 コントローラ
20 車両運転制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6