IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ケミプロ化成株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175249
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】発泡性耐火塗料
(51)【国際特許分類】
   C09D 131/04 20060101AFI20231205BHJP
   C09D 5/18 20060101ALI20231205BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20231205BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20231205BHJP
【FI】
C09D131/04
C09D5/18
C09D7/40
C09D7/65
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087602
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】394013644
【氏名又は名称】ケミプロ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】埜口 勇
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038BA122
4J038BA222
4J038BA232
4J038CF021
4J038CF031
4J038JA17
4J038JB01
4J038JB14
4J038JB16
4J038JB20
4J038JB24
4J038JC24
4J038JC37
4J038KA08
4J038NA03
4J038NA15
4J038PA06
4J038PB05
4J038PC02
4J038PC04
4J038PC06
4J038PC08
4J038PC10
(57)【要約】
【課題】耐水性、水に暴露した後の耐火性に優れる塗膜を形成できる発泡性耐火塗料を提供する。
【解決手段】(A)酢酸ビニル共重合体、(B)発泡剤、(C)炭化剤、(D)難燃剤、および、(E)粘着付与樹脂を含む発泡性耐火塗料に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酢酸ビニル共重合体、(B)発泡剤、(C)炭化剤、(D)難燃剤、および、(E)粘着付与樹脂を含む発泡性耐火塗料。
【請求項2】
(A)酢酸ビニル共重合体が、エチレン/酢酸ビニル共重合体、または、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル共重合体である請求項1に記載の発泡性耐火塗料。
【請求項3】
(E)粘着付与樹脂が、テルペン系樹脂、または、ロジン系樹脂である請求項1または2に記載の発泡性耐火塗料。
【請求項4】
樹脂固形分100重量部に対する、(B)発泡剤、(C)炭化剤、(D)難燃剤の合計含有量が150~1300重量部である、請求項1または2に記載の発泡性耐火塗料。
【請求項5】
壁紙用または木材用である請求項1または2に記載の発泡性耐火塗料。
【請求項6】
pHが10以下である請求項5に記載の発泡性耐火塗料。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡性耐火塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材や、コンクリート、木材、合成樹脂等の基材を火災から保護する目的として、火災時の温度上昇によって発泡層を形成する発泡性耐火塗料が種々提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-314693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発泡性耐火塗料は、火災時の温度上昇によって発泡層を形成することにより、発泡性耐火塗料が塗付された基材を保護、延焼防止する。本発明者らの検討の結果、従来の発泡性耐火塗料では、火災が発生するまでの間に、降雨、結露等によって水に暴露されることにより本来の性能が発揮されなくなるおそれがあり、発泡性耐火塗料により形成された塗膜の耐水性や水に暴露した後の耐火性に改善の余地があることが明らかとなった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決し、耐水性、水に暴露した後の耐火性に優れる塗膜を形成できる発泡性耐火塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を行った結果、(A)酢酸ビニル共重合体、(B)発泡剤、(C)炭化剤、(D)難燃剤、および、(E)粘着付与樹脂を含むことにより、耐水性、水に暴露した後の耐火性に優れる塗膜を形成できる発泡性耐火塗料が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明(1)は(A)酢酸ビニル共重合体、(B)発泡剤、(C)炭化剤、(D)難燃剤、および、(E)粘着付与樹脂を含む発泡性耐火塗料である。
【0008】
本発明(2)は(A)酢酸ビニル共重合体が、エチレン/酢酸ビニル共重合体、または、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル共重合体である本発明(1)に記載の発泡性耐火塗料である。
【0009】
本発明(3)は(E)粘着付与樹脂が、テルペン系樹脂、または、ロジン系樹脂である本発明(1)または(2)に記載の発泡性耐火塗料である。
【0010】
本発明(4)は樹脂固形分100重量部に対する、(B)発泡剤、(C)炭化剤、(D)難燃剤の合計含有量が150~1300重量部である、本発明(1)~(3)のいずれかに記載の発泡性耐火塗料である。
【0011】
本発明(5)は壁紙用または木材用である本発明(1)~(4)のいずれかに記載の発泡性耐火塗料である。
【0012】
本発明(6)はpHが10以下である本発明(1)~(5)のいずれかに記載の発泡性耐火塗料である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の発泡性耐火塗料は、(A)酢酸ビニル共重合体、(B)発泡剤、(C)炭化剤、(D)難燃剤、および、(E)粘着付与樹脂を含むため、耐水性、水に暴露した後の耐火性に優れる塗膜を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の発泡性耐火塗料は、(A)酢酸ビニル共重合体、(B)発泡剤、(C)炭化剤、(D)難燃剤、および、(E)粘着付与樹脂を含む。これにより、耐水性、水に暴露した後の耐火性に優れる塗膜を形成できる。
【0015】
前記効果が得られるメカニズムは明らかではないが、以下のように推察される。
(E)粘着付与樹脂が被塗物の表面や他の配合剤((B)発泡剤、(C)炭化剤、(D)難燃剤、その他充填剤)の表面に付着することにより、被塗物との密着性と他の配合剤((B)発泡剤、(C)炭化剤、(D)難燃剤、その他充填剤)同士の密着性を付与するため、発泡性耐火塗料により形成される塗膜の緻密さ、被塗物への密着性が向上する。その結果、耐水性が向上し塗膜のブリスターの発生を抑制するだけでなく同時に他の配合剤((B)発泡剤、(C)炭化剤、(D)難燃剤、その他充填剤)の塗膜からの離脱を抑制することより、耐水性、水に暴露した後の耐火性に優れる塗膜が形成できると推測する。
【0016】
<(A)酢酸ビニル共重合体>
(A)酢酸ビニル共重合体としては、酢酸ビニル単位を有する共重合体であれば特に限定されず、例えば、エチレン/酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル共重合体、酢酸ビニル/ベオバ/アクリル共重合体、酢酸ビニル/アクリル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これら共重合体は、ウレタン変性などの変性が施されていてもよい。なかでも、エチレン/酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル共重合体が好ましく、エチレン/酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル共重合体がより好ましく、酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル共重合体がさらに好ましい。
なお、本明細書において、A/B共重合体とは、Aに基づく構成単位、Bに基づく構成単位を有する共重合体を意味し、例えば、エチレン/酢酸ビニル共重合体とは、エチレンに基づく構成単位、酢酸ビニルに基づく構成単位を有する共重合体を意味する。また、共重合体の各構成単位はブロックであってもランダムであってもよい。
【0017】
(A)酢酸ビニル共重合体は、有機溶媒に溶解させたもの又はエマルジョンとして水系分散媒に分散させたものが利用できる。水系分散媒としては水が好ましく、本発明では水を分散媒としたエマルジョンが好適に利用できる。
【0018】
発泡性耐火塗料は、(A)酢酸ビニル共重合体以外のバインダー樹脂(有機結合材)を含有してもよい。(A)酢酸ビニル共重合体以外のバインダー樹脂としては、酢酸ビニル単独重合体、アクリル樹脂、アクリル/スチレン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂などの合成樹脂が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
バインダー樹脂(固形分(不揮発分))100重量%中の(A)酢酸ビニル共重合体(固形分)の含有量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上、特に好ましくは98重量%以上、最も好ましくは100重量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0020】
樹脂固形分(不揮発分)100重量%中の(A)酢酸ビニル共重合体(固形分)の含有量は、好ましくは60~98重量%、より好ましくは70~95重量%、更に好ましくは80~91重量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
本明細書において、樹脂固形分とは、(A)酢酸ビニル共重合体等のバインダー樹脂(有機結合材)、(E)粘着付与樹脂など各種樹脂の固形分の総量を意味する。
【0021】
<(B)発泡剤>
(B)発泡剤としては、例えば、メラミン及びその誘導体、ジシアンジアミド及びその誘導体、アゾビステトラゾーム及びその誘導体、アゾジカーボンアミド、尿素及びその誘導体、チオ尿素及びその誘導体、グアニジン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、メラミン誘導体が好ましい。
【0022】
樹脂固形分100重量部に対し、(B)発泡剤(固形分)を20~295重量部含むことが好ましく、30~245重量部含むことがより好ましく、68~132重量部含むことが更に好ましい。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0023】
<(C)炭化剤>
(C)炭化剤は、一般に、火災による結合剤の炭化とともにそれ自体も脱水炭化していくことにより、断熱性により優れた厚みのある発泡層を形成する作用を有する。炭化剤としては、このような作用を有する限り特に制限されず、公知の発泡性耐火材料における炭化剤と同様のものが使用できる。例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリペンタエリスリトール、ネオペンタエリスリトール等の多価アルコール、デンプン等の糖類、カゼイン等のタンパク質等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、多価アルコールが好ましく、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールがより好ましい。
【0024】
樹脂固形分100重量部に対し、(C)炭化剤(固形分)を31~340重量部含むことが好ましく、89~158重量部含むことがより好ましい。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0025】
<(D)難燃剤>
(D)難燃剤としては、例えば、トリクレジルホスフェート、ジフェニルクレジルフォスフェート等の有機リン系化合物;塩素化ポリフェニル、塩素化ポリエチレン、塩化ジフェニル、塩化トリフェニル、五塩化脂肪酸エステル、パークロロペンタシクロデカン、塩素化ナフタレン、テトラクロル無水フタル酸等の塩素化合物;三酸化アンチモン、五塩化アンチモン等のアンチモン化合物;三塩化リン、五塩化リン、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、亜リン酸アルミニウム等のリン化合物;その他ホウ酸亜鉛、ホウ酸ソーダ、六水酸化スズ亜鉛、6ほう素2亜鉛ウンデカンオキサイド、ホスフィン酸金属塩等の無機質化合物等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、リン化合物、六水酸化スズ亜鉛、6ほう素2亜鉛ウンデカンオキサイド、ホスフィン酸金属塩が好ましく、リン化合物がより好ましく、ポリリン酸アンモニウムが更に好ましく、メラミンで被覆されたポリリン酸アンモニウムが特に好ましい。
【0026】
樹脂固形分100重量部に対し、(D)難燃剤(固形分)を90~640重量部含むことが好ましく、100~500重量部含むことがより好ましく、200~357重量部含むことが更に好ましい。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0027】
樹脂固形分100重量部に対する、(B)発泡剤、(C)炭化剤、(D)難燃剤の合計含有量は、好ましくは150~1300重量部、より好ましくは260~1000重量部、更に好ましくは413~737重量部である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0028】
<(E)粘着付与樹脂>
(E)粘着付与樹脂としては、粘着性を付与できる樹脂であれば特に限定されず、例えば、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、石油系樹脂、石炭系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン系樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂が好ましく、テルペン系樹脂がより好ましい。
【0029】
テルペン系樹脂は、モノテルペン、セスキテルペン、ジテルペンなどのテルペンを基本骨格とするテルペン化合物を主要なモノマーとする樹脂であり、α-ピネン樹脂、β-ピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、β-ピネン/リモネン樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水素添加テルペン樹脂などが挙げられる。なかでも、芳香族変性テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂が好ましく、テルペンフェノール樹脂がより好ましい。
【0030】
ロジン系樹脂としては、松脂を加工することにより得られるアビエチン酸、ピマール酸などの樹脂酸を主成分とするガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどの天然産のロジン樹脂(重合ロジン)、水素添加ロジン樹脂、マレイン酸変性ロジン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジンエステル、不均化ロジン樹脂などが挙げられる。なかでも、ロジンエステルが好ましい。
【0031】
(E)粘着付与樹脂は、有機溶媒に溶解させたもの又はエマルジョンとして水系分散媒に分散させたものが利用できる。水系分散媒としては水が好ましく、本発明では水を分散媒としたエマルジョンが好適に利用できる。
【0032】
(E)粘着付与樹脂の軟化点は、好ましくは30~200℃、より好ましくは50~180℃、更に好ましくは100~160℃である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
本明細書において、(E)粘着付与樹脂の軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0033】
樹脂固形分100重量%中の(E)粘着付与樹脂(固形分)の含有量は、好ましくは2~40重量%、より好ましくは5~30重量%、更に好ましくは9~20重量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0034】
樹脂固形分100重量%中の(A)酢酸ビニル共重合体(固形分)、(E)粘着付与樹脂(固形分)の合計含有量は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上、特に好ましくは98重量%以上、最も好ましくは100重量%である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0035】
本発明の発泡性耐火塗料は、酸化チタンを含有することが好ましい。特に、(D)難燃剤として、リン化合物、好ましくはポリリン酸アンモニウムが使用されている場合、酸化チタンは、リン化合物と反応し、例えば、ピロリン酸チタニウムとなり、機械的安定剤として機能し、より良好な耐火性が得られる傾向にある。
【0036】
樹脂固形分100重量部に対し、酸化チタン(固形分)を10~250重量部含むことが好ましく、50~105重量部含むことがより好ましい。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0037】
<その他の成分>
本発明の発泡性耐火塗料は、(A)酢酸ビニル共重合体、(B)発泡剤、(C)炭化剤、(D)難燃剤、(E)粘着付与樹脂、必要に応じて配合される酸化チタンに加えて、更に必要に応じて、他の充填剤、補強用繊維、着色用顔料、可塑剤等を適宜配合できる。さらに、耐火性能をより高めるために膨張性黒鉛、未膨張バーミキュライト等を配合してもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、他の充填剤が好ましい。
【0038】
他の充填剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、粘土、クレー、シラス、マイカ、珪砂、珪石粉、石英粉、アルミナ、硫酸バリウム等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、シリカが好ましい。
【0039】
本発明の発泡性耐火塗料は、前記各成分を分散、調合することにより製造でき、後述するような被塗物に対し、塗付積層すればよい。各成分の混合順序等は特に制限されないが、予め混合しておいても良いし、塗装直前に混合しても良い。上記混合に際しては、ミキサー、ニーダー、サンドミル、バスケットミル等の公知の装置を使用すれば良い。
【0040】
また、本発明の発泡性耐火塗料は、水や溶剤等の揮発成分の添加量によって任意の塗料粘度に調整できる。具体的に発泡性耐火塗料の固形分としては、好ましくは30~90重量%、より好ましくは40~80重量%、更に好ましくは55~75重量%となるように調整することが好ましい。
【0041】
揮発成分としては、特に限定されず、水や、公知の溶剤等を用いることができる。本発明では、環境等を考慮し、水を用いることが好ましい。
【0042】
発泡性耐火塗料のpHは、10以下であればよいが、木材に用いる場合、木材に塗装し水に浸漬した際に水可溶性成分の溶出が抑制され着色を生じない傾向があるという理由から、好ましくは8以下、より好ましくは7以下、更に好ましくは6以下であり、下限は特に限定されないが、好ましくは3以上、より好ましくは4以上である。
本明細書において、発泡性耐火塗料のpHは、堀場製作所(株)製卓上PHメータ-F-72 ガラス電極法により20℃において測定される。
【0043】
発泡性耐火塗料を被塗物に塗付する際には、スプレー、ローラー、刷毛、こて、へら等の塗装器具を使用して、一回ないし数回塗り重ねて塗装すれば良い。最終的に形成される発泡性耐火塗料の塗膜厚は、所望の耐火性能、適用部位等により適宜設定すれば良いが、通常は塗付量が300~900g/m程度である。
【0044】
本発明では、発泡性耐火塗料と被塗物への密着性等を付与するため下塗層を形成してもよい。また、発泡性耐火塗料を木材に使用する場合は、シロアリ・木材腐朽菌・防カビ等の生物劣化を防ぐために、木材表面に塗付する防腐剤・防蟻剤が配合された木部用表面処理剤やカチオンシーラー、加圧注入法で薬剤処理することができる。
使用される防腐剤としては、例えば、ヨードプロピニルブチルカルバメート(IPBC)等のヨウ素系防腐剤、3ブロモ-2,3ジヨード2-プロピニルエチルカーボネート(EBIP)、p-クロロフェニル-3-ヨード-プロパギルフォーマル(CPIPF)、シプロコナゾール、テブコナゾール、プロピコナゾール、ヘキサコナゾール等のトリアゾール化合物、ペンフルフェン等が挙げられる。
防蟻剤としては、例えば、ネオニコチノイド系のイミダクロプリド、アセタミプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、ニテンピラム、チアクロプリド、チアメトキサムなどが挙げられビフェントリン、シラフルオフェン等のピレスロイド系防蟻剤、フィプロニル、ピリプロール等のフェニルピラゾール系防蟻剤、ブロフラニリド等のメタジアミド系防蟻剤等が挙げられる。
もちろん、発泡性耐火塗料に少量の防蟻剤・防腐剤・防カビ剤を入れることも可能であり、なかでも忌避性のあるビフェントリンやシラフルオフェン、エトフェンプロックスなどのピレスロイド系防蟻剤が最適である。なお、木部用表面処理剤と加圧注入型の薬剤は、同様の薬剤を使用でき、該薬剤としては、例えば、防蟻剤、防腐剤、防カビ剤、抗菌剤等が挙げられる。これにより発泡性耐火塗料がシロアリに齧られる等の生物劣化による耐火性能の低下を防止することができる。
【0045】
本発明では、発泡性耐火塗料により形成される塗膜を保護するために、必要に応じて上塗層を積層することもできる。このような上塗層は、公知の水性型あるいは溶剤型の塗料を塗付することによって形成することができる。上塗層としては、例えば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、アクリルシリコン樹脂系、フッ素樹脂系、有機-無機ハイブリット系等の塗料を用いることができる。これらの塗装は、公知の塗装方法によれば良く、スプレー、ローラー、刷毛等の塗装器具を使用することができる。発泡性耐火塗料を木材に(特に屋外にて)使用する場合は、上塗層が形成されていることが好ましく、上塗層が有機成分で構成されている場合には、発泡層を形成する耐水性試験時間が長くなる傾向があるが燃焼試験初期の普通合板裏面の温度が上昇する傾向があるため、有機成分の含有量が少ない有機-無機ハイブリット系塗料が好ましい。
【0046】
本発明の発泡性耐火塗料は、耐火性を付与すべき被塗物に塗付積層することによってその効果を発揮することができるため、合成樹脂、木材、コンクリート、鋼材、紙、布、壁紙等の基材に適用することが可能である。なかでも、壁紙、木材が好ましい。すなわち、本発明の発泡性耐火塗料は、壁紙用または木材用であることが好ましい。
【0047】
壁紙としては、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂系、ポリオレフィン等樹脂系、紙系、繊維系、無機質系等の壁紙が挙げられる。
木材としては、例えば、無垢材、木質材料等が挙げられる。無垢材としては、例えば、檜材、カバ材、桐材、杉材、桧材、松材、ヒバ材、サワラ材、パイン材等が挙げられる。無垢材の形態は、製材、ひき板等であってよい。木質材料としては、例えば、単板、合板、集成材、直交集成材、単板積層材、ブロックボード、べニア、木質ボード等が挙げられる。木質ボードとしては、例えば、IB(インシュレーションボード)、MDF(中密度繊維板)、HDF(高密度繊維板)、HB(ハードボード)、パーティクルボード、OSB(オリエンテッドストランドボード)等が挙げられる。また、木材の表面にシートを貼り合わせた化粧板であってもよい。
【0048】
本発明の発泡性耐火塗料を、壁紙または木材に塗付することにより、発泡性耐火塗料により形成される塗膜を有する壁紙、木材は、不燃性能または準不燃性能を有することとなる。また、木材に不燃性能または準不燃性能を付与するために、防火薬剤を加圧注入する方法が従来から知られているが、湿潤環境下で薬剤が溶出する潮解現象や白華現象が生じるという問題がある。一方、本発明の発泡性耐火塗料は、木材の表面に塗付するため、このような現象は生じ得ない。また、従来の加圧注入法では、既存の木造建築に用いる場合は解体を行う必要があったが、本発明の発泡性耐火塗料は、木材の表面に塗付するため、既存の木造建築を解体せずに耐火性を改善できるため、文化財の保全、中古物件(中古木造建築物)のメンテナンスへの活用も期待される。
【0049】
本発明の発泡性耐火塗料は、本発明の発泡性耐火塗料を塗付した被塗部だけではなく、被塗部の裏面の耐火性も改善でき、延焼を防止できる。よって、木材の表面ではなく裏面に本発明の発泡性耐火塗料を塗付することにより、文化財の表面の見た目を変えることなく文化財の保全が可能となる。
【実施例0050】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲においては、任意に変更乃至改変して実施することができる。なお、特に断りのない限り、実施例中の「%」及び「部」は、それぞれ重量基準に基づく「重量%」及び「重量部」を示す。
【0051】
使用した原料の詳細は以下のとおりである。
BYK024:BYK社製 消泡剤
additolVXW6208:ダイセルオルセニクス社製ノニオン系分散剤
RF-739:石原産業(株)社製ルチル型酸化チタン
FLAMTARD H (六水酸化スズ亜鉛):william Blythe Limited社製六水酸化スズ亜鉛
Firebrake ZB(6ほう素2亜鉛ウンデカンオキサイド):U.S.Borax Inc.社製
アビノン-901(硫酸メラミン):三和ケミカル社製硫酸メラミン
B-341(ポリリン酸メラミン):Budenheim社製ポリリン酸メラミン
EXOLIT OP930(ホスフィン酸塩):クラリアント(株)社製ホスフィン酸金属塩
Charmor DP15(ジペンタエリスリトール):Perstorp社製ジペンタエリスリトール
Charmor DM40(ジペンタエリスリトール):Perstorp社製ジペンタエリスリトール
Charmor PM40(ペンタエリスリトール):Perstorp社製ペンタエリスリトール
AP462:クラリアント(株)社製ポリリン酸アンモニウム
FRCROS490:Budenheim社製メラミンで被覆されたポリリン酸アンモニウム
TERRAJU C-80:Budenheim社製メラミンで被覆されたポリリン酸アンモニウム
SUMIKAFLEX755:住化ケムテックス(株)社製エチレン/酢酸ビニル共重合体エマルジョン(自己架橋)(不揮発分(%)49~52、平均粒子径(μm)0.5)
SUMIKAFLEX955HQ:住化ケムテックス(株)社製エチレン/酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル共重合体エマルジョン(不揮発分(%)53±1、平均粒子径(μm)0.6)
モビニール801:ジャパンコーティングレジン(株)社製酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル共重合体エマルジョン(不揮発分(%)50、平均粒子径(μm)0.2)
SILRES BS45:旭化成WACKER(株)社製シリコーンレジン樹脂エマルジョン(不揮発分(%)50)
WS.45.D:VANORA社製の酢酸ビニル/バーサチック酸ビニル共重合体エマルジョン(不揮発分(%)50、平均粒子径(μm)2.5)
ナノレットT-1050(芳香族変性テルペン樹脂乳化物):ヤスハラケミカル社製芳香族変性テルペン樹脂乳化物(不揮発分(%)51、軟化点105℃)
AQUATEC 6025(ロジン系エマルジョン):KRATON社製ロジンエステル乳化物(不揮発分(%)62、軟化点30℃)
スーパーエステルE-650-WR(ロジンエステル):荒川化学工業(株)製ロジンエステル乳化物(不揮発分(%)50~51、軟化点160℃)
タマノルE-200-NT(テルペンフェノール樹脂):荒川化学工業(株)製テルペンフェノール樹脂乳化物(不揮発分(%)49~51、軟化点150℃)
スーパーエステルE-730-55(ロジンエステル):荒川化学工業(株)製ロジンエステル乳化物(不揮発分(%)55~56、軟化点125℃)
BYK-028:BYK社製 消泡剤
セロゾール686:中京油脂(株)製のパラフィンワックス
【0052】
実施例および比較例
(B)、(C)、(D)、充填剤をグラインドゲージを用いて最大粒子径が20μm以下になるようにサンドミルにて分散した後、(A)(E)、その他の配合剤を加えて混合し表1に示す配合比率にて発泡性耐火塗料を得た。
【0053】
得られた発泡性耐火塗料を用いて下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
<耐水性試験>
得られた発泡性耐火塗料を塗付(塗付量:600g/m)した基材(厚さ4mm、100×100mm、材質;普通合板)の端面部をシリコーン系コーキング剤にて塗付した。
得られた基材をバットに固定(水没)した後、プラスチック製バットに入れ水道水を500ml入れた。そして、室温(20~25℃)で24時間浸漬させた後、1日間乾燥させ端面部のシリコーン系コーキング剤を剥離して、試料とした。得られた試料の前記塗膜(発泡性耐火塗料により形成された塗膜)の状態について、JIS K5600-8-2:2008塗料一般試験方法 塗膜劣化の評価 膨れの等級に準拠し、以下の基準で評価した。

膨れの量 膨れの大きさ
なし 1 1
少ない 2 2
中 3 3
中~密 4 4
密 5 5
【0055】
<燃焼試験>
耐水性試験を行う前の前記基材(初期)、耐水試験後の前記基材(水に暴露した後)について、それぞれ、基材を台座に設置しレーザで測温場所を固定した。そして、ガスバーナーに着火し燃焼時間をストップウォッチで測りながら、基材の裏面温度を放射温度計にて1分間ごとに記録した。15分間経過後の基材の平均裏面温度(5分経過から15分経過間の平均裏面温度)を表1に示した。
また、15分間経過後の基材上の発泡層を取り除き、基材の炭化部分をスプーンにて削り取り、その深さ、面積を以下の基準で評価した。

評価 状態
1 普通合板を貫通
2 普通合板の半分以上が削り取られる
3 普通合板の1/3が削り取られる
4 普通合板の1/4が削り取られる
5 普通合板の表層のみが削り取られる
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示したように、実施例の発泡性耐火塗料では、耐水性、水に暴露した後の耐火性に優れる塗膜を形成できることが分かった。
【0058】
<燃焼試験(2時間)>
実施例8の発泡性耐火塗料については、耐水性試験を行う前の前記基材(初期)を用いて、前記燃焼試験と同様の条件で、2時間経過後の基材の平均裏面温度(15分経過後10分間隔で測温し5分経過から120分経過間の平均裏面温度)を測定したところ、195.3℃であった。更に、2時間経過後の基材上の発泡層を取り除き、基材の炭化部分をスプーンにて削り取り、その深さ、面積を前記の基準で評価したところ、4~5であった。
更に、実施例8の発泡性耐火塗料を用いて、普通合板にエチレン-酢酸ビニル系接着剤(SUMIKAFLEX510HQ)を200g/m塗付し壁紙((株)サンゲツ社サンゲツEB(防火種別2-3))を貼り基材とした点以外は、前記と同様に、2時間経過後の基材の平均裏面温度(15分経過後10分間隔で測温し5分経過から120分経過間の平均裏面温度)を測定したところ、184.8℃であった。更に、2時間経過後の基材上の発泡層を取り除き、基材の炭化部分をスプーンにて削り取り、その深さ、面積を前記の基準で評価したところ、5であった。