(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175315
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】ステンレス鋼の不動態化処理液及び不動態化処理方法
(51)【国際特許分類】
C23C 26/00 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
C23C26/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087703
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】591120837
【氏名又は名称】株式会社ケミカル山本
(74)【代理人】
【識別番号】100128277
【弁理士】
【氏名又は名称】專徳院 博
(72)【発明者】
【氏名】山本 正登
(72)【発明者】
【氏名】山本 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】植木 達己
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA03
4K044AB02
4K044BA12
4K044BB01
4K044BC02
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】耐食性に優れた不動態皮膜を形成できるステンレス鋼の不動態化処理液及びステンレス鋼の不動態化処理方法を提供する。
【解決手段】不動態化処理液を用いたステンレス鋼の不動態化処理方法であって、0.3~5.6重量%の過酸化水素と、4.0~81.0重量%のリン酸及び0.001~0.1重量%の分解抑制剤を含有し、残部が水からなる不動態化処理液を用いて、温度10℃以上、2~24時間浸漬または塗布する工程を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼の不動態化処理に用いる不動態化処理液であって、
0.3~5.6重量%の過酸化水素と、4.0~81.0重量%のリン酸及び0.001~0.1重量%の分解抑制剤を含有し、残部が水からなることを特徴とするステンレス鋼の不動態化処理液。
【請求項2】
前記残部の水の一部に代えて、乾式シリカ及び非イオン界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼の不動態化処理液。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の不動態化処理液を用いたステンレス鋼の不動態化処理方法であって、
ステンレス鋼を前記不動態化処理液に浸漬し、またはステンレス鋼に前記不動態化処理液を塗布する工程を備えることを特徴とするステンレス鋼の不動態化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼の不動態化処理液及び不動態化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス製品については製造段階での加工により部分的に損なわれた不動態皮膜を再生補強するため不動態化処理が施される。特に厳しい腐食環境に適用されるステンレス製品については、組み立て終了後において不動態化処理が施される。ステンレス鋼の不動態化処理方法としては、過酸化水素、硝酸、フッ酸、クロム酸などの酸性水溶液に浸漬させる方法、これらの酸性水溶液を塗布する方法、もしくは酸性、中性およびアルカリ性水溶液でアノード電解させる方法などがある。
【0003】
例えば特許文献1には、1質量%の過酸化水素水と、ステンレス鋼の脱不動態化pHとなる質量比未満のクエン酸とを含有し、残部が水からなる不動態化処理液を用いてステンレス鋼部品を不動態化処理する方法が、特許文献2には酸化剤と水に可溶な水溶性モリブデン化合物とを含む酸性水溶液を用いてステンレス鋼部品を不動態化処理する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-108640号公報
【特許文献2】特開2014-214349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステンレス鋼の不動態化処理方法において、過酸化水素、硝酸等の酸性水溶液に浸漬させる、あるいは塗布する方法では耐食性に優れた不動態皮膜が形成されない可能性がある。特に、塩化物イオン存在下等の厳しい腐食環境下では更に優れた耐食性が要求されており、従来の不動態処理方法では十分とは言い難い。
【0006】
本発明の目的は、耐食性に優れた不動態皮膜を形成できるステンレス鋼の不動態化処理液及びステンレス鋼の不動態化処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ステンレス鋼の不動態化処理に用いる不動態化処理液であって、0.3~5.6重量%の過酸化水素と、4.0~81.0重量%のリン酸及び0.001~0.1重量%の分解抑制剤を含有し、残部が水からなることを特徴とするステンレス鋼の不動態化処理液である。
【0008】
本発明に係るステンレス鋼の不動態化処理液において、前記残部の水の一部に代えて、乾式シリカ及び非イオン界面活性剤を含有することを特徴とする。
【0009】
本発明は、前記不動態化処理液を用いたステンレス鋼の不動態化処理方法であって、ステンレス鋼を前記不動態化処理液に浸漬し、またはステンレス鋼に前記不動態化処理液を塗布する工程を備えることを特徴とするステンレス鋼の不動態化処理方法である。
【発明の効果】
【0010】
不動態化処理液に含まれるリン酸により不動態皮膜中及び不動態皮膜表面の鉄(Fe)分(鉄イオン)と錯体を形成することで、鉄分が溶解、除去されて清浄度が向上するため、質の高い安定した不動態皮膜が形成される。また、処理面にはリン酸皮膜が形成され、これによりステンレス鋼に形成された不動態皮膜の耐食性をより向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の不動態化処理液を用いたステンレス鋼の不動態化処理方法における、不動態皮膜形成要領を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施例1の結果であって、過酸化水素とリン酸の配合比を変えて浸漬処理したSUS304 2B材の腐食減量を示す図である。
【
図3】本発明の実施例2の結果であって、不動態化処理液への浸漬処理有無のSUS304鋼の腐食減量を示す図である。
【
図4】本発明の実施例3の結果であって、不動態化処理液への浸漬処理有無のSUS304鋼 2B材のNaCL溶液中で測定したアノード分極曲線図である。
【
図5】本発明の実施例4の結果であって、不動態化処理液への浸漬処理有無のSUS304鋼 HOT材のNaCL溶液中で測定したアノード分極曲線図である。
【
図6】本発明の実施例5の結果であって、不動態化処理液への浸漬処理有無のSUS304鋼 HOT材の腐食減量経時変化を示す図である。
【
図7】本発明の実施例6の結果であって、不動態化処理液への浸漬処理有無のSUS304鋼 HOT材のNaCL溶液中で測定したアノード分極曲線図である。
【
図8】本発明の実施例7の結果であって、不動態化処理液の塗布処理有無のSUS304鋼 HOT材の腐食減量経時変化を示す図である。
【
図9】本発明の実施例8の結果であって、不動態化処理液の塗布処理有無のSUS304鋼 HOT材のNaCL溶液中で測定したアノード分極曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の不動態化処理液は、ステンレス鋼に耐食性に優れた不動態皮膜を形成するための不動態化処理液であって、0.3~5.6重量%の過酸化水素と、4.0~81.0重量%のリン酸及び0.001~0.1重量%の分解抑制剤を含有し、残部が水からなる。
【0013】
不動態皮膜を形成する対象物であるステンレス鋼は、特定のステンレス鋼に限定されるものでなく、オーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼など種々のステンレス鋼に適用することができる。また不動態皮膜を形成する対象物であるステンレス鋼の形態も特に限定されるものではなく、ステンレス鋼製品、部品、部材など幅広く適用することができる。
【0014】
過酸化水素は、酸化剤として機能し、その含有量は、0.3~5.6重量%である。過酸化水素の含有量が0.3重量%未満の場合、十分な酸化力が得られず耐食性に優れた不動態皮膜を形成できない。過酸化水素の含有量は、5.6重量%あれば十分な酸化力が得られ、特にそれ以上の含有量を必要としない。
【0015】
リン酸は、不動態皮膜中及び不動態皮膜表面の鉄(Fe)分(鉄イオン)と錯体を形成する。これにより鉄分が溶解、除去されて清浄度が向上し、質の高い安定した不動態皮膜が形成される。また、処理面にはリン酸皮膜が形成されることでステンレス鋼に形成された不動態皮膜の耐食性をより向上させることが可能となる。
【0016】
本発明の不動態化処理液において、リン酸の含有量は、4.0~81.0重量%である。リン酸の含有量が4.0重量%未満では、不動態皮膜中及び不動態皮膜表面の鉄(Fe)分(鉄イオン)との錯体形成、鉄分の溶解、除去が不十分であり、質の高い安定した不動態皮膜が形成され難い。リン酸の含有量が4.0~81.0重量%の範囲内であれば十分な作用効果を奏し、81.0重量%を超えた含有量は必要ない。
【0017】
分解抑制剤は、過酸化水素の分解を抑制する。分解抑制剤には、有機リン化合物を使用することができる。本発明の不動態化処理液において、分解抑制剤の含有量は、0.001~0.1重量%である。分解抑制剤の含有量が0.001重量%未満では、過酸化水素の分解を十分に抑制することができない。分解抑制剤の含有量が0.001~0.1重量%の範囲内であれば十分な作用効果を奏し、0.1重量%を超えた含有量は必要ない。
【0018】
本発明の不動態化処理液において、さらに乾式シリカ及び非イオン界面活性剤を含んでいることが好ましい。乾式シリカ及び非イオン界面活性剤は、両方を添加することにより、不動態化処理液の粘度を高め、平面部以外の不定形の被処理面に有効であり、液だれが抑制される。
【0019】
乾式シリカの含有量は、3.3~6.6重量%である。乾式シリカの含有量が3.3重量%未満では、増粘効果が認められない。乾式シリカの含有量が3.3~6.6重量%の範囲内であれば十分な作用効果を奏し、6.6重量%を超えた含有量は必要ない。
【0020】
非イオン界面活性剤の含有量は、0.1~0.2重量%である。非イオン界面活性剤の含有量が0.1重量%未満では、増粘効果が認められない。非イオン界面活性剤の含有量が0.1~0.2重量%の範囲内であれば十分な作用効果を奏し、0.2重量%を超えた含有量は必要ない。
【0021】
次に本発明の不動態化処理液を用いたステンレス鋼の不動態化処理方法を説明する。第1の方法は、ステンレス鋼を本発明の不動態化処理液に浸漬し不動態化皮膜を形成させる。このときの温度、浸漬時間は特に限定されるものではなく、後述の実施例に示すように15~25℃の不動態化処理液にステンレス鋼を2時間浸漬させることで不動態化処理が行える。
【0022】
第2の方法は、ステンレス鋼に本発明の不動態化処理液を塗布し不動態化皮膜を形成させる。ステンレス鋼に対する不動態化処理液の塗布回数は1回でよいが、ステンレス鋼に対し不動態化処理液を塗布した後、大気中で一定時間放置する。不動態化処理液の温度は、特に限定されるものではなく、後述の実施例に示すように15~25℃の温度でよい。不動態化処理液塗布後の大気中での放置時間は、特に限定されるものではなく、実施例に示すように4時間以上放置すればよい。
【0023】
本発明の不動態化処理液を用いたステンレス鋼の不動態化処理の想定される機構を、
図1を用いて説明する。
図1は、本発明による不動態化処理の概念図であり、
図1(A)は処理前の状態を示す。ステンレス鋼表面には介在物、不純物及び不動態被膜の欠損部が存在している。
図1(B)は、不動態化処理液による不動態化処理途中の様子を表す概念図であり、金属表面の介在物、不純物及び不動態被膜は一旦除去される。
図1(C)は、処理後の概念図であり、緻密で均一な不動態被膜が再生される。
【0024】
無機酸含有過酸化水素溶液への浸漬又は塗布により不動態化処理を施したステンレス鋼の耐食性の向上は、無機酸による表面の不純物や介在物の除去、既存の不動態皮膜が溶解除去された後に緻密で均一な皮膜が再生されることによるものと考えられる。
【実施例0025】
<実施例1>
本発明の不動態化処理液にSUS304 2B材の試験片を浸漬して不動態化処理を実施した。不動態化処理液には、リン酸4.3~80.8重量%、過酸化水素0.3~5.6重量%、分解抑制剤0.001~0.1重量%、残部が水からなる不動態化処理液であって、配合比が異なる11種類の不動態化処理液を用いた。不動態化処理液の液温は20℃、浸漬時間は2時間とした。試験片の2B材は、冷間圧延後、焼鈍と酸洗を行った後、適度な光沢を得られるようにスキンパス(調質圧延)を施した仕上げでステンレス板ではもっとも一般的なものである。
【0026】
不動態化処理を実施した試験片と未処理の試験片を対象に、JISG 0578に準じ、10%塩化第二鉄溶液に2時間浸漬した孔食試験を実施した。孔食試験後における各種試験片の腐食減量を
図2に示した。未処理の試験片の腐食減量は7.0mg/cm
2、比較例である過酸化水素水(H
2O
2)又はリン酸で処理したときの試験片の腐食減量は、それぞれ4.9mg/cm
2、6.2mg/cm
2であり、顕著な耐食性の向上は認められなかった。
【0027】
一方、本発明の不動態化処理液を使用したときの腐食減量は、1.1~2.9mg/cm2であり、処理無材に比べると最大で約1/7まで減少した。この結果によりSUS304 2B材は、本発明の不動態化処理液に浸漬し不動態化処理することで耐食性向上効果が認められた。
【0028】
<実施例2>
本発明の不動態化処理液に、試験片としてSUS304 2B材及びSUS304 HOT材を浸漬して不動態化処理を実施した。不動態化処理液には、リン酸17.0重量%、過酸化水素4.7重量%、分解抑制剤0.001重量%、残部が水からなる不動態化処理液を用いた。不動態化処理液の液温は15~25℃、浸漬時間は2時間とした。試験片のHOT材は、熱間圧延後に熱処理、酸洗したステンレス鋼であり、表面に光沢がなく銀から白に近い色を呈している。
【0029】
不動態化処理を実施した試験片と未処理の試験片を対象にJISG 0578に準じ、10%塩化第二鉄溶液に2時間浸漬した孔食試験を実施した。孔食試験後における各種試験片の腐食減量を
図3に示した。本発明の不動態化処理液により不動態化処理した2Bの試験片の腐食減量は、0.7mg/cm
2であり、処理無材に比べると約1/13まで減少した。一方、本発明の不動態化処理液により不動態化処理したHOT材の試験片の腐食減量は、2.9mg/cm
2であり、処理無材に比べると約1/10まで減少した。この結果によりSUS304 2B材及びSUS304 HOT材は、本発明の不動態化処理液に浸漬し不動態化処理することで耐食性向上効果が認められた。
【0030】
<実施例3>
本発明の不動態化処理液に、SUS304 2B材の試験片を浸漬して不動態化処理を実施した。不動態化処理液には、リン酸17.0重量%、過酸化水素4.7重量%、分解抑制剤0.001重量%、残部が水からなる不動態化処理液を用いた。不動態化処理液の液温は15~25℃、浸漬時間は2時間とした。不動態化処理を行った試験片を対象に、脱気NaCL溶液中でJISG 0577に準じたアノード分極測定を行った。測定にはポテンショスタットを用い、電位掃引速度は20mV/min、NaCL水溶液(500ppm as CL-)はN2ガス脱気、温度は30℃とした。照合電極にはAg/AgCL(3.33mol/L KCL)電極を使用した。孔食電位は、アノード分極曲線において不動態維持電流域から孔食の成長によって電流が急激に増加する電位を孔食電位とした。
【0031】
アノード分極曲線の測定結果を
図4に示した。本発明の不動態化処理液に浸漬し不動態化処理した試験片は、処理無材に比べて孔食電位が0.337V(平均)上昇し0.878V(平均)となった。この結果によりSUS304 2B材は、本発明の不動態化処理液での不動態化処理によって耐食性向上効果が認められた。
【0032】
<実施例4>
本発明の不動態化処理液に、SUS304 HOT材の試験片を浸漬して不動態化処理を実施した。不動態化処理液には、リン酸17.0重量%、過酸化水素4.7重量%、分解抑制剤0.001重量%、残部が水からなる不動態化処理液を用いた。不動態化処理液の液温は15~25℃、浸漬時間は2時間とした。不動態化処理を行った試験片を対象に、脱気NaCL溶液中でJISG 0577に準じたアノード分極測定を行った。
【0033】
アノード分極曲線の測定結果を
図5に示した。本発明の不動態化処理液に浸漬し不動態化処理した試験片の孔食電位は、処理無材の電位より0.109V(平均)高い値を示した。この結果によりSUS304 HOT材は、本発明の不動態化処理液での不動態化処理によって耐食性向上効果が認められた。
【0034】
<実施例5>
本発明の不動態化処理液に、SUS304 HOT材の試験片を浸漬して不動態化処理を実施した。不動態化処理液には、リン酸17.0重量%、過酸化水素4.7重量%、分解抑制剤0.001重量%、残部が水からなる不動態化処理液を用いた。不動態化処理液の液温は15~25℃、浸漬時間は2時間とした。不動態化処理を行った試験片を大気中で一定期間放置(1日、7日、14日、28日)した試験片と、不動態化処理を実施していない試験片を対象にJISG 0578に準じ、10%塩化第二鉄溶液に2時間浸漬した孔食試験を実施した。
【0035】
孔食試験後における各種試験片の腐食減量を
図6に示した。不動態化処理を行い大気中で一定期間放置した試験片の腐食減量は、3.7~4.0mg/cm
2であり、処理無材に比べると腐食減量が約1/8まで減少した。また、放置時間による腐食減量の違いは殆ど認められなかった。これらの結果によりSUS304 HOT材は、本発明の不動態化処理液での不動態化処理によって耐食性向上効果が認められ、その効果は28日経過後においても持続されることを確認した。
【0036】
<実施例6>
本発明の不動態化処理液に、SUS304 HOT材の試験片を浸漬して不動態化処理を実施した。不動態化処理液には、リン酸17.0重量%、過酸化水素4.7重量%、分解抑制剤0.001重量%、残部が水からなる不動態化処理液を用いた。不動態化処理液の液温は15~25℃、浸漬時間は2時間とした。不動態化処理を行った試験片を大気中で一定期間放置(1日、7日、28日)した試験片と、不動態化処理を実施していない試験片を対象に、脱気NaCL溶液中でJISG 0577に準じたアノード分極測定を行った。
【0037】
アノード分極曲線の測定結果を
図7に示した。不動態化処理を行い大気中で一定期間放置した試験片の孔食電位は、処理無材の電位より0.127~0.282V高い値を示した。これらの結果よりSUS304 HOT材は、本発明の不動態化処理液での不動態化処理によって耐食性向上効果が認められ、その効果は28日経過後においても持続されることを確認した。
【0038】
<実施例7>
本発明の不動態化処理液をSUS304 HOT材の試験片に塗布し、大気中で一定時間放置(4時間、9時間、15時間、24時間)して不動態化処理を実施した。不動態化処理液には、リン酸17.0重量%、過酸化水素4.7重量%、分解抑制剤0.001重量%、乾式シリカ3.3重量%、非イオン界面活性剤0.1重量%、残部が水からなる不動態化処理液を用いた。不動態化処理液の液温は15~25℃、塗布回数は1回とした。塗布による不動態化処理を実施した試験片と無処理の試験片を対象にJISG 0578に準じ、10%塩化第二鉄溶液に2時間浸漬した孔食試験を実施した。
【0039】
孔食試験後における各種試験片の腐食減量を
図8に示した。本発明の不動態化処理液を用い不動態化処理を行い大気中で一定期間放置した試験片の腐食減量は、2.8~8.1mg/cm
2であり、処理無材に比べて最大約1/10の値を示した。これらの結果よりSUS304 HOT材は、本発明の不動態化処理液の塗布による不動態化処理によって耐食性向上効果が認められた。
【0040】
<実施例8>
本発明の不動態化処理液をSUS304 HOT材の試験片に塗布し、大気中で24時間放置して不動態化処理を実施した。不動態化処理液には、リン酸17.0重量%、過酸化水素4.7重量%、分解抑制剤0.001重量%、乾式シリカ3.3重量%、非イオン界面活性剤0.1重量%、残部が水からなる不動態化処理液を用いた。不動態化処理液の液温は15~25℃、塗布回数は1回とした。塗布による不動態化処理した試験片と無処理の試験片を対象に、脱気NaCL溶液中でJISG 0577に準じたアノード分極測定を行った。
【0041】
アノード分極曲線の測定結果を
図9に示した。本発明の不動態化処理液を用い不動態化処理を行い大気中で一定期間放置した試験片の孔食電位は、処理無材の電位より0.235V高い値を示した。これらの結果よりSUS304 HOT材は、本発明の不動態化処理液の塗布による不動態化処理効果が認められた。