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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175324
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】偏波分離回路及び偏波分離方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/61 20130101AFI20231205BHJP
   H04J 14/06 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H04B10/61
H04J14/06
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087712
(22)【出願日】2022-05-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-11-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(令和3年度総務省「新たな社会インフラを担う革新的光ネットワーク技術の研究開発(技術課題III「高効率光アクセスメトロ技術」)」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願)
(71)【出願人】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】神田 祥宏
【テーマコード(参考)】
5K102
【Fターム(参考)】
5K102AA15
5K102AD15
5K102AH24
5K102AH26
5K102AH27
(57)【要約】      (修正有)
【課題】現実的なDSP回路で動作し、繰り返し演算が不要な偏波分離回路及び偏波分離方法を提供する。
【解決手段】偏波分離回路は、ディジタル信号処理回路として構成され、当該ディジタル信号処理回路のクロック周期毎に、同時に入力される信号のJonesベクトルのブロックから、3次元空間内に偏波状態を表すストークスベクトルで確定される平面の法線ベクトルを抽出する法線ベクトル抽出部100と、当該ディジタル信号処理回路のクロック周期毎に、法線ベクトルの、3次元空間における回転量を求める3次元回転量算出部200と、当該ディジタル信号処理回路のクロック周期毎に、回転量に基いて補償行列を生成する補償行列生成部300と、当該ディジタル信号処理回路のクロック周期毎に、Jonesベクトルに、補償行列を乗算する複屈折補償部400とを備えて構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディジタル信号処理回路として構成され、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、同時に入力される信号のJonesベクトルのブロックから、3次元空間内に偏波状態を表すストークスベクトルで確定される平面の法線ベクトルを抽出する法線ベクトル抽出部と、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、前記法線ベクトルの、前記3次元空間における回転量を求める3次元回転量算出部と、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、前記回転量に基いて補償行列を生成する補償行列生成部と、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、前記Jonesベクトルに、前記補償行列を乗算する複屈折補償部と
を備える偏波分離回路。
【請求項2】
前記法線ベクトル抽出部は、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、同時に入力される、M個のJonesベクトルを、M個のストークスベクトルに同時に変換するJonesベクトル・ストークスベクトル変換器と、
ブロック内の隣接するストークスベクトルの外積を演算し、M-1個の外積ベクトルを求める外積演算器と、
k番目のブロックのM-1個の外積ベクトルから、長さが最大のものを、仮の法線ベクトルtとして出力する外積ベクトルセレクタと、
k-1番目のブロックの仮の法線ベクトルtk-1と、k番目のブロックの仮の法線ベクトルtがなす角度θを求める角度比較器と、
前記角度θがπ/2より大きい場合は、k番目のブロックの仮の法線ベクトルtに平行な単位ベクトルを単位法線ベクトルnとし、前記角度θがπ/2以下の場合は、k番目のブロックの仮の法線ベクトルtの逆ベクトルに平行な単位ベクトルを単位法線ベクトルnとする法線ベクトルセレクタと、
前記仮の法線ベクトルtの長さが所定の閾値Th以上の場合はk番目のブロックの単位法線ベクトルnを出力し、閾値Thより小さい場合はk-1番目のブロックの単位法線ベクトルnk-1を、k番目のブロックの単位法線ベクトルnとして出力する閾値判定器
を備える請求項1に記載の偏波分離回路。
【請求項3】
前記3次元回転量算出部は、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、第1軸を中心とする回転角αと、第2軸を中心とする回転角βを算出する角度演算器と、
隣接するブロック間の第1軸を中心とする回転角αk-1とαkの差の大きさが、π/2より大きい場合、回転量α及びβを出力し、π/2以下の場合、α+π及び-βを新たに、回転量α及びβとして出力する角度セレクタと
を備える請求項2に記載の偏波分離回路。
【請求項4】
前記補償行列生成部は、
前記3次元回転量算出部から出力された隣接するブロック間の第1軸を中心とする回転角αk-1とαの差の大きさが、πより大きい場合、「1」のロジックレベルのトリガCαを出力し、π以下の場合、「0」のロジックレベルのトリガCαを出力する第1角度比較器と、
前記3次元回転量算出部から出力された隣接するブロック間の第2軸を中心とする回転角βk-1とβの差の大きさが、πより大きい場合、「1」のロジックレベルのトリガCβを出力し、π以下の場合、「0」のロジックレベルのトリガCβを出力する第2角度
比較器と、
トリガCαとトリガCβのいずれか一方のロジックレベルが「1」であり他方のロジックレベルが「0」のとき、係数Kを1とし、それ以外のとき、係数Kを-1とする補正論理セレクタと、
以下の式で与えられる補償行列Mc(α、β)を生成する補償行列生成回路
【数1】

を備える請求項3に記載の偏波分離回路。
【請求項5】
当該偏波分離回路に入力される信号が、偏波多重多値位相変調信号である
請求項1~4のいずれか一項に記載の偏波分離回路。
【請求項6】
ディジタル信号処理回路で実行され、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、同時に入力される信号のJonesベクトルのブロックから、3次元空間内に偏波状態を表すストークスベクトルで確定される平面の法線ベクトルを抽出する過程と、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、前記法線ベクトルの、前記3次元空間における回転量を求める過程と、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、前記回転量に基いて補償行列を生成する過程と、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、前記Jonesベクトルに、前記補償行列を乗算する過程と
を備える偏波分離方法。
【請求項7】
前記法線ベクトルを抽出する過程は、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、同時に入力される、M個のJonesベクトルを、M個のストークスベクトルに同時に変換する過程と、
ブロック内の隣接するストークスベクトルの外積を演算し、M-1個の外積ベクトルを求める過程と、
M-1個の外積ベクトルから、長さが最大のものを、仮の法線ベクトルtとして出力する過程と、
k-1番目のブロックの仮の法線ベクトルtk-1と、現在のブロックであるk番目のブロックの仮の法線ベクトルtがなす角度θを求める過程と、
前記角度θがπ/2より大きい場合は、k番目のブロックの仮の法線ベクトルtに平行な単位ベクトルを単位法線ベクトルnとし、前記角度θがπ/2以下の場合は、k番目のブロックの仮の法線ベクトルtの逆ベクトルに平行な単位ベクトルを単位法線ベクトルnとする過程と、
前記仮の法線ベクトルtの長さが所定の閾値Th以上の場合はk番目のブロックの単位法線ベクトルnを出力し、閾値Thより小さい場合はk-1番目のブロックの単位法線ベクトルnk-1を、k番目のブロックの単位法線ベクトルnとして出力する過程とを備える請求項6に記載の偏波分離方法。
【請求項8】
前記3次元空間における回転量を求める過程は、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、第1軸を中心とする回転角αと、第2軸を中心とする回転角βを算出する過程と、
隣接するブロック間の第1軸を中心とする回転角αk-1とαkの差の大きさが、π/2より大きい場合、回転量α及びβを出力し、π/2以下の場合、α+π及び-βを新たに、回転量α及びβとして出力する過程と
を備える請求項7に記載の偏波分離方法。
【請求項9】
前記補償行列を生成する過程は、
前記3次元空間における回転量を求める過程で生成された、隣接するブロック間の第1軸を中心とする回転角αk-1とαの差の大きさが、πより大きい場合、「1」のロジックレベルのトリガCαを出力し、π以下の場合、「0」のロジックレベルのトリガCαを出力する過程と、
前記3次元空間における回転量を求める過程で生成された、隣接するブロック間の第2軸を中心とする回転角βk-1とβの差の大きさが、πより大きい場合、「1」のロジックレベルのトリガCβを出力し、π以下の場合、「0」のロジックレベルのトリガCβを出力する過程と、
トリガCαとトリガCβのいずれか一方のロジックレベルが「1」であり他方のロジックレベルが「0」のとき、係数Kを1とし、それ以外のとき、係数Kを-1とする過程と、
以下の式で与えられる補償行列Mc(α、β)を生成する過程と
【数1】
を備える請求項8に記載の偏波分離方法。
【請求項10】
当該偏波分離方法が施される信号が、偏波多重多値位相変調信号である
請求項6~9のいずれか一項に記載の偏波分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光ファイバの動的な複屈折を補償するために用いることができる、偏波分離回路及び偏波分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光アクセス系ネットワークにおいて、光ファイバの周波数利用効率を向上するために、偏波多重(DP:Dual Polarization)-16値直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation)方式の適用が検討されている。
【0003】
偏波多重方式において、受信器における偏波分離は重要な技術の一つである。光アクセス系ネットワークでの通信(光アクセス通信)では、バースト状の光信号が伝送され、フレームごとに復調される。フレームごとに偏波多重された偏光軸は、光ファイバの複屈折の変動によって不規則に回転している。従って、直ちにトレーニング信号を用いた処理を完了し、高速に偏波チャネルの分離を実現する必要がある。
【0004】
光アクセス通信で偏波多重方式を利用する場合は、さらに、変動する複屈折への追従性能も重要である。光ファイバに機械的な振動を与えたときに、偏波状態は、数マイクロ秒の僅かな時間で変化する場合がある。また、変動する複屈折が多数連結された場合、この光ファイバが与える偏波状態の回転率は統計的な分布をもつ。
【0005】
このため、架空線や都市部における振動など、光ファイバの設置環境が様々想定される光アクセス系ネットワークでは、数Mrad/sに及ぶ回転率での偏波状態の回転が発生する可能性がある。従って、トレーニング信号系列からの遅延の無い偏波分離と併せて、複屈折の動的な変動に対する高速な追従も必要である。
【0006】
偏波チャネルの分離に関しては、これまで、様々な偏波分離方法が提案されている。定包絡線アルゴリズム(CMA:Constant Modulus Algorithm)は、ディジタルコヒーレント受信器とともに、偏波多重信号の分離に広く適用されている。CMAは、多重した2つの偏波チャネルの強度が等しくなるように、ディジタルフィルタの係数を、受信側で適応的に制御するアルゴリズムである。
【0007】
CMAよりも高速な追従の方法として、ストークス空間における偏波分離が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。ストークス空間において、偏波多重信号の偏波状態(SOP:State of Polarization)から、平面を定義できる。この平面の空間の原点を含む法線ベクトルは,光ファイバの伝搬に伴って不規則に回転する。この非特許文献1に開示されている方法では、法線ベクトルが送信時のものと等しくなるように、ディジタルフィルタを制御する。これにより、この法線ベクトルの回転が補償される。このように、ストークス空間における偏波チャネル分離によれば、CMAと比較して高速な偏波分離が可能である。
【0008】
また、法線ベクトルの算出を簡略化した方法が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。非特許文献2に開示されている方法では、入力信号の偏光状態を表すストークスベクトルと法線ベクトルとの外積演算に基いて信号のサンプルごとにフィードバックを実行する。非特許文献2では、DP-16QAM信号への適用が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】B. Szafraniec, B. Nebendahl, and T. Marshall, “Polarization demultiplexing in Stokes space,” Opt. Exp., vol. 18, no. 17, pp. 17928-17939, Aug. 2010.
【非特許文献2】Nelson J. Muga, and Armando N. Pinto, “Adaptive 3-D Stokes Space-Based Polarization Demultiplexing Algorithm,” IEEE Journal of Lightwave Tech., Vol. 32, No. 19, October 1, 2014, pp. 3290-3298
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
非特許文献1に開示されているストークス空間における偏波分離は、CMAよりも追従が高速である。このため、光アクセス系ネットワークにおける偏波多重信号を偏波分離するために、有望な技術の一つである。しかしながら、現実的に利用可能なディジタル信号処理(DSP:Digital Signal Processor)回路のクロック周波数は、数百MHz程度であり、16値の偏波多重信号で、100GBit/s級の伝送レートを得るために必要な信号のシンボルレートの12.5GSymbol/sと比較して小さい。このため、リアルタイムで復調するためには、一般に、並列処理が用いられる。この並列処理では、DSP回路の低いクロック周波数で動作するように、DSP回路のクロック周期ごとに同時に複数のサンプルを入力する。このため、サンプルごとにフィードバックする機能を、現実的なDSP回路に実装することはできない。
【0011】
また、CMAと比較して収束が高速とされる、非特許文献2に開示されている方法を用いる場合、繰り返し演算が必要であり、収束に時間を要する。
【0012】
この発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、この発明の目的は、現実的なDSP回路で動作し、繰り返し演算が不要な偏波分離回路及び偏波分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成するために、この発明の偏波分離回路は、ディジタル信号処理回路として構成され、当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、同時に入力される信号のJonesベクトルのブロックから、3次元空間内に偏波状態を表すストークスベクトルで確定される平面の法線ベクトルを抽出する法線ベクトル抽出部と、当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、法線ベクトルの、3次元空間における回転量を求める3次元回転量算出部と、当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、回転量に基いて補償行列を生成する補償行列生成部と、当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、Jonesベクトルに、補償行列を乗算する複屈折補償部とを備えて構成される。
【0014】
また、上述した目的を達成するために、この発明の偏波分離方法は、ディジタル信号処理回路で実行され、当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、同時に入力される信号のJonesベクトルのブロックから、3次元空間内に偏波状態を表すストークスベクトルで確定される平面の法線ベクトルを抽出する過程と、当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、法線ベクトルの、3次元空間における回転量を求める過程と、当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、回転量に基いて補償行列を生成する過程と、当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、Jonesベクトルに、補償行列を乗算する過程とを備える。
【発明の効果】
【0015】
この発明の偏波分離回路及び偏波分離方法によれば、現実的なDSP回路で動作し、繰り返し演算が不要である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】偏波分離回路の模式図である。
図2】偏波分離回路が備える法線ベクトル抽出部の模式図である。
図3】偏波分離回路が備える3次元回転量算出部の模式図である。
図4】偏波分離回路が備える補償行列生成部の模式図である。
図5】DP-16QAM信号の偏波状態を説明するための模式図である。
図6】ストークスベクトルの回転率の分布を示す図である。
図7】偏波分離回路の入力と出力を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。また、以下の説明では、ベクトルを示す矢印を省略している。
【0018】
図1~4を参照して、この発明の偏波分離回路を説明する。図1は、この発明の一実施形態に係る偏波分離回路の模式図である。図2~4は、それぞれ、偏波分離回路が備える、法線ベクトル抽出部、3次元回転量算出部及び補償行列生成部の模式図である。
【0019】
この発明の偏波分離回路は、法線ベクトル抽出部100と、3次元回転量算出部200と、補償行列生成部300と、複屈折補償部400とを備えて構成される。
【0020】
偏波分離回路は、例えば、ディジタル信号処理(DSP:Digital Signal Processing)回路として構成される。偏波分離回路には、前段に配置されたアナログ-ディジタル変換器(ADC:Analog to Digital Converter)において、Fs(Hz)の標本化周波数で離散化されたJonesベクトルが入力される。
【0021】
偏波分離回路には、M個に並列化された信号の、Jonesベクトルが、1つのクロック周期ごとに入力される。ここで、M(Mは2以上の整数)は並列化の数であり、n(nは1以上M以下の整数)はサンプル番号である。信号のシンボルレートがディジタル信号処理回路の動作クロックと比較して大きい場合、実際の回路実装には並列化が必要である。並列化は、より低いクロック速度で処理できるように、離散化された受信信号はいくつかの並列化モジュールに逆多重されて行われる。並列化の数がM個の場合、1つのクロック周期ごとにM個の離散化された複素光電界ベクトルが偏波分離回路へ同時に入力される。以下の説明では、クロック周期ごとに入力されるM個のサンプルのまとまりをブロックと呼ぶ。ここで、k(kは1以上の整数)番目のブロックの、サンプル番号nのJonesベクトルを |E(n)>と表す。
【0022】
ここでは、偏波多重多値位相変調信号である、ビットレートが100Gb/sのDP-16QAM方式の信号を例に取って説明する。この信号のシンボルレートは、例えば、12.5GSymbol/sである。また、DSP回路のクロック周波数を、100MHzとする。この様に、一般に光信号のシンボルレートは、現実的に利用可能なDSP回路のクロック周波数と比較して大きい。このため、リアルタイムで復調するためには、複数の
サンプルをクロック周期ごとに同時に入力する、並列処理が必要である。シンボルレートが12.5GSymbol/sの信号を100MHzのクロック周波数のDSP回路で復調する場合、並列化数Mが125以上の並列化が必要である。法線ベクトル抽出部100には、M個のJonesベクトルが、DSP回路のクロック周期ごとに同時に1つのブロックとして入力される。
【0023】
法線ベクトル抽出部100は、DSP回路のクロック周期ごとに同時に入力される信号のJonesベクトルから、ブロックごとに追従した法線ベクトルを抽出する。3次元回転量算出部200は、法線ベクトル抽出部100で抽出された法線ベクトルを補償する、3次元ストークス空間における回転量を求める。補償行列生成部300は、受信したJonesベクトルに乗じる2×2補償行列を生成する。複屈折補償部400は、補償行列生成部300で生成された2×2補償行列を、受信したJonesベクトルに乗じる。
【0024】
法線ベクトル抽出部100は、Jonesベクトル・ストークスベクトル変換器110、外積演算器120、外積ベクトルセレクタ130、第1遅延器140、角度比較器150、同期式2進カウンタ160、法線ベクトルセレクタ170、第2遅延器180、閾値判定機190を備えて構成される。
【0025】
法線ベクトル抽出部100に入力されるM個のJonesベクトル|E(n)>は、Jonesベクトル・ストークスベクトル変換器110によって、M個のストークスベクトルs(n)に同時に変換される。これらのM個のストークスベクトルs(n)は、外積演算器120に送られる。
【0026】
外積演算器120は、ブロック内の隣接するストークスベクトルs(n)の外積ベクトルs(n-1)×s(n)を求める。ブロック内の外積ベクトルs(n-1)×s(n)の総数はM-1個である。M-1個の外積ベクトルs(n-1)×s(n)は、外積ベクトルセレクタ130に送られる。
【0027】
外積ベクトルセレクタ130は、k番目のブロックで得られる、M-1個の外積ベクトルs(n-1)×s(n)から、長さが最大のものを、仮の法線ベクトルtとして出力する。k番目のブロックの仮の法線ベクトルtは、角度比較器150へ入力される。この仮の法線ベクトルtの単位ベクトルは、n0+が回転したもの、又は、n0-が回転したもののどちらか一方である。
【0028】
仮の法線ベクトルtとして、n0+が回転したものを選択するために、1つ前のブロックであるk-1番目のブロックの仮の法線ベクトルtk-1と、現在のブロックであるk番目のブロックの仮の法線ベクトルtがなす角度θを求める。なお、制御開始時のtは、例えば、トレーニング信号から抽出することができる。この動作を実行する回路が第1遅延器140と角度比較器150である。
【0029】
外積ベクトルセレクタ130で選択された仮の法線ベクトルtは、第1遅延器140と角度比較器150に送られる。第1遅延器140に送られた仮の法線ベクトルtkは、第1遅延器140において、DSPの1クロック周期の遅延を受けて、角度比較器150に送られる。この結果、角度比較器150には、k番目のブロックの仮の法線ベクトルtと、k-1番目のブロックの仮の法線ベクトルtk-1が入力される。
【0030】
角度比較器150は、2つの仮の法線ベクトルt、tk-1がなす角度θを求めて、角度θに応じてトリガC1を出力する。ここでは、2つの仮の法線ベクトルt、tk-1のなす角度θが、π/2より大きい場合に、トリガC1は「1」のロジックレベルとなり、角度θがπ/2以下の場合に、トリガC1は「0」のロジックレベルとなる。トリガ
C1は、同期式2進カウンタ160へ入力される。
【0031】
同期式2進カウンタ160は、角度比較器150から出力されるトリガC1のロジックレベルが「1」の場合にのみ、状態Q1の論理を反転する。同期式2進カウンタ160は、以前の状態を保持する状態機械として動作し、これまでの状態に応じて、状態Q1として「0」又は「1」のロジックレベルを出力する。この操作により、k番目のブロックの仮の法線ベクトルtが、所望の単位法線ベクトルn0+とは逆のn0-の回転であった場合にのみ、同期式2進カウンタ160は、状態Q1として「1」のロジックレベルを出力する。同期式2進カウンタ160の出力は、法線ベクトルセレクタ170に入力される。
【0032】
法線ベクトルセレクタ170は、同期式2進カウンタ160が出力するロジックレベルに応じて、状態Q1のロジックレベルが、「0」の場合は規格化したtを、「1」の場合は規格化したtの逆ベクトルを、単位法線ベクトルnとして出力する。
【0033】
図5を参照して、DP-16QAM信号の偏波状態を説明する。図5(A)及び(B)は、DP-16QAM信号の偏波状態を説明するための模式図である。図5(A)は、DP-16QAM信号の送信時の偏波状態を表すストークスベクトルの先端を示し、図5(B)は、x経偏波チャネル及びy偏波チャネルの信号のコンスタレーションを示す。図5(A)の丸で囲ったSOPは、x偏波及びy偏波の多重軸の信号の振幅が、共に最大のレベルのときのものである。丸で囲ったSOPを含む平面と、原点を含む法線ベクトルn={±1、0、0}を定義できる。このとき、n0+={1,0、0}であり、n0-={-1、0、0}である。ストークス空間における偏波分離は、伝送に伴って回転する法線ベクトルn0+の回転を補償する。この操作によって、ファイバ複屈折による任意回転のS2軸とS3軸中心の回転が補償される。残留するS1軸中心の回転は、スカラの回転として、一般に用いられる後段の位相雑音補償回路を、両偏波チャネルにそれぞれ適用することで補償される。
【0034】
ここで、図5(A)に示すように、2つの偏波チャネルのデータの振幅の大きさが最大のレベルの組み合わせの際に、それらのSOPは平面内に存在する。しかしながら、不規則な振幅のデータ変調に伴って、ブロック内にこのような組み合わせが存在しない場合も考えられる。このため、ブロック内の長さが最大の外積のベクトルである仮の法線ベクトルtの長さが閾値Th以下の場合は、一つ前のブロックの単位法線ベクトルnk-1を使用する。この閾値Thは,DP-16QAM信号において、2つの偏波チャネルの最大振幅同士の組み合わせの場合のSOPの外積ベクトルの長さと、最大振幅と次に大きい振幅とのSOPの外積ベクトルとの中間の値に設定する。この動作を実行する回路が、第2遅延器180及び閾値判定器190である。
【0035】
法線ベクトルセレクタ170で選択された単位法線ベクトルnは、第2遅延器180と閾値判定器190に送られる。第2遅延器180に送られた単位法線ベクトルnは、第2遅延器180において、DSPの1クロック周期の遅延を受けて、閾値判定器190に送られる。この結果、閾値判定器190には、k番目のブロックの単位法線ベクトルnと、k-1番目のブロックの単位法線ベクトルnk-1が入力される。なお、閾値判定器190には、外積ベクトルセレクタ130から、仮の法線ベクトルtも入力される。
【0036】
閾値判定器190は、仮の法線ベクトルtの長さが閾値Th以上の場合は単位法線ベクトルnを出力し、閾値Thより小さい場合はk-1番目のブロックの単位法線ベクトルnk-1を、k番目のブロックの単位法線ベクトルnとして出力する。閾値判定器190から出力される単位法線ベクトルnは、法線ベクトル抽出部100から、3次元回転量算出部200に送られる。
【0037】
3次元回転量算出部200は、角度演算器210、遅延器220、角度比較器230、同期式2進カウンタ240及び角度セレクタ250を備えて構成される。
【0038】
ここで、任意の3次元ベクトルは、回転の軸が互いに直交する回転の軸が互いに直交する2つの回転行列によって、n0+に制御できる。ここでは、第1軸及び第2軸として、S1軸、S3軸の順に、回転を与えて補償する例を説明する。法線ベクトル抽出部100から出力される単位法線ベクトルnのベクトル要素をn=(a、b、c)と表すと、nをn0+に制御するS1軸及びS3軸を中心とする回転量は、それぞれ、α=-tan-1(c、b)及びβ=-tan-1((b+c1/2,a)により与えられる。
【0039】
角度演算器210は、これらα及びβをブロックごとにα及びβとして算出する。これらの回転量α及びβに対応する回転を、単位法線ベクトルnに与えることで、nはn0+に制御される。しかしながら、法線ベクトルが補償されても、複素データも正しく補償されるとは限らない。これは、S1軸を中心とする回転の方向が、逆正接(tan-1)の引数の正負の符号に依存するためである。この回転方向の依存性は、現在のブロックの回転量αと1つ前のブロックの回転角αk-1の差に基づいて補正できる。
【0040】
そこで、角度演算器210で算出された回転量αは、遅延器220と角度比較器230に送られる。遅延器220に送られた回転量αは、遅延器220において、DSP回路の1クロック周期の遅延を受けて、角度比較器230に送られる。この結果、角度比較器230には、k番目のブロックの回転量αと、k-1番目のブロックの回転量αk-1が入力される。
【0041】
角度比較器230は、隣接するブロック間のαk-1とαの2つに対して位相アンラップ処理を実行し、その後それらの差を求める。角度比較器230は、隣接するブロック間の回転量αk-1とαの差の大きさΔαが、π/2より大きい場合、「1」のロジックレベルのトリガC2を出力し、π/2以下の場合、「0」のロジックレベルのトリガC2を出力する。トリガC2は、同期式2進カウンタ240に入力される。
【0042】
同期式2進カウンタ240は、角度比較器230から出力されるトリガC2のロジックレベルが「1」の場合にのみ、状態Q2の論理を反転する。同期式2進カウンタ240は、以前の状態を保持する状態機械として動作し、これまでの状態に応じて、状態Q2として「0」又は「1」のロジックレベルを出力する。
【0043】
同期式2進カウンタ240の出力は、角度セレクタ250へ入力される。角度セレクタ250には、角度演算器210から、回転量α及びβも入力される。
【0044】
角度セレクタ250は、同期式2進カウンタ240が出力するロジックレベルに応じて、状態Q2のロジックレベルが、「0」の場合は、回転量α及びβを出力する。一方、状態Q2のロジックレベルが、「1」の場合は、α+πを、S1軸の回転量αとして出力する。このα+πを新たにαとする操作によって、S3軸の回転の補償に必要な回転量が反転するので、-βをS3軸の回転量βとして出力する。
【0045】
角度セレクタ250から出力される回転量α及びβは、3次元回転量算出部200から、補償行列生成部300に送られる。
【0046】
補償行列生成部300は、第1遅延器310、第1角度比較器320、第1同期式2進カウンタ330、第2遅延器340、第2角度比較器350、第2同期式2進カウンタ3
60、排他的論理和回路370、補正論理セレクタ380及び補償行列生成回路390を備えて構成される。
【0047】
補償行列生成部300には、3次元回転量算出部200からS1軸及びS3軸の回転の補償量α及びβが入力される。一般に、SO(3)行列は、SU(2)行列の2値関数である。3次元回転量算出部200から出力されるα及びβは、3次元空間で得られる。このため、これらの回転行列からは、2つの2×2回転行列が定義されるので、この不定性は補正されなければならない。一般に、任意の2×2回転行列Uについて、U(φ+2π)=-U(φ)の関係がある。ここで、φはストークス空間内の回転量である。このように、φが2π切り替わるごとに、Uの正負が切り替わる。この不定性は、α及びβの両方に関し、一つ前のブロックとの角度の差から補正できる。
【0048】
3次元回転量算出部200から補償行列生成部300に入力された回転の補償量αは、第1遅延器310、第1角度比較器320に入力される。第1遅延器310に送られた回転量αは、第1遅延器310において、DSP回路の1クロック周期の遅延を受けて、第1角度比較器320に送られる。この結果、第1角度比較器320には、k番目のブロックの回転量αと、k-1番目のブロックの回転量αk-1が入力される。
【0049】
第1角度比較器320は,隣接するブロック間のαk-1とαの差を求める。第1比較器320は、隣接するブロック間の回転量αk-1とαの差の大きさΔαが、πより大きい場合,「1」のロジックレベルのトリガCαを出力し、π以下の場合、「0」のロジックレベルのトリガCαを出力する。トリガCαは、第1同期式2進カウンタ330に入力される。
【0050】
同様に、3次元回転量算出部200から補償行列生成部300に入力された回転の補償量βは、第2遅延器340、第2角度比較器350に入力される。第2遅延器340に送られた回転量βは、第2遅延器340において、DSP回路の1クロック周期の遅延を受けて、第2角度比較器350に送られる。この結果、第2角度比較器350には、k番目のブロックの回転量βと、k-1番目のブロックの回転量βk-1が入力される。
【0051】
第2角度比較器350は,隣接するブロック間のβk-1とβの差を求める。第2比較器350は、隣接するブロック間の回転量βk-1とβの差の大きさΔβが、πより大きい場合,「1」のロジックレベルのトリガCβを出力し、π以下の場合、「0」のロジックレベルのトリガCβを出力する。トリガCβは、第2同期式2進カウンタ360に入力される。
【0052】
第1同期式2進カウンタ330の出力である状態Qαと第2同期式2進カウンタ360の出力である状態Qβは、排他的論理和回路370へ入力される。排他的論理和回路370は、それらの排他的論理和(XOR)演算を実行する。XOR演算の結果Q3は、補正論理セレクタ380に送られる。
【0053】
補正論理セレクタ380は、XOR演算の結果Q3が示すロジックレベルが「1」の場合は、係数Kとして、-1を出力し、「0」の場合は、係数Kとして、+1を出力する。係数Kは、補償行列生成回路390に送られる。
【0054】
補償行列生成回路390は、係数Kと、回転量α及びβとを用いて、以下の式で与えられる2×2補償行列Mc(α、β)を生成する。
【0055】
【数1】
【0056】
複屈折補償部400において、偏波分離回路に入力される、各ブロックのM個のJonesベクトルに、補償行列生成部300で生成される2×2補償行列Mc(α、β)を同時に乗じることで、繰り返し演算を用いずに,ブロックごとの偏波多重分離が実行される。
【0057】
(効果)
この発明の偏波分離回路の効果を数値シミュレーションに基づいて説明する。ここでは、100Gbit/sのDP-16QAM信号のシンボルレート及び標本化周波数を、それぞれ、12.5GSample/s及び25GHzとする。DSPクロックの周波数を100MHzとし、並列化数Mを128とする。
【0058】
送受信機のレーザ線幅の和を5MHzとし、ガウス雑音モデルにしたがって位相雑音を与える。さらに、信号には、信号対雑音比(SNR:Signal to Noise Ratio)に対する評価のためにASE雑音を模擬した雑音を与える。なお、ここでのSNRは、複屈折と位相雑音の影響を排除した、電気段におけるものである。
【0059】
受信器では、偏波分離機能の評価に焦点を当てるために、理想的なクロック回復が実行された後、連続したM個のJonesベクトルが、1つのブロックとして、この発明の偏波分離回路にDSPのクロック周期ごとに入力される。上述した、この発明の一実施形態である偏波分離回路は、複屈折による回転のS2軸とS3軸を中心とする回転を補償する。残留するS1軸の回転は、偏波分離回路の後段に、広く知られている位相雑音補償回路を、両偏波チャネルにそれぞれ適用することで位相雑音とともに補償する。
【0060】
一般に、16QAM信号の位相雑音補償では、16QAM信号の3つの振幅レベルの中で、同振幅(位相平面において等しい半径上に配置される信号)の位相の数が4相になるシンボルを抽出し、4乗法に基づいて位相雑音が推定される。しかしながら、この発明では、外積ベクトルセレクタ130と法線ベクトルセレクタ170によって、既に、最も振幅が大きいレベルのシンボルが選択されている。この最も振幅が大きいレベルのシンボルに対して4乗法を適用すれば、既に振幅によるクラス分けが実行されているので、容易に位相雑音が推定される。
【0061】
偏波分離回路の性能を、動的で不規則な複屈折の変化に対しても評価する。伝送路のストークスベクトルの回転率は、Rayleigh分布に従うことが知られている。このような複屈折の変化を与えるために、回転軸が互いに直交する6つの2×2回転行列を、送信機出力のJonesベクトルに乗じる。動的な複屈折の効果は、6つの2×2回転行列の直交軸間の位相差に、それぞれ異なる回転を与える。図6は,発生した複屈折が与えるストークスベクトルの回転率の分布である。分布の平均は、1.04Mrad/sであり、最大の回転率は3.19Mrad/sであった。
【0062】
この偏波分離回路の性能を、Error Vector Magnitude(EVM)によって評価した。ここでは、EVMを、位相雑音の補償後に、xとyの両偏波チャネルに対して求めた。偏波多重信号のEVMは、両偏波チャネルのEVMの平均である。
【0063】
図7を参照して、偏波分離回路の適用の有無によるコンスタレーションの違いを説明す
る。図7は、x偏波チャネルとy偏波チャネルのコンスタレーションである。図7(A)は、偏波分離回路を適用前のコンスタレーションを示し、図7(B)は、偏波分離回路と位相雑音補償を適用後のコンスタレーションを示している。図7(B)のEVMは、SNRが22.98dBであるとき、18.98dBであった。図7(B)に示されるように、分布の平均が1.04Mrad/sの偏波回転を与えても、偏波回転に伴うサイクルスリップによるEVMの大幅な劣化が無い。このため、クロック周波数が100MHzの現実的なDSP回路を用いても、高速な適応偏波分離が実行されることが分かる。
【0064】
ここでは,偏波分離後の位相雑音補償を4乗法に基づいて説明したが、位相雑音補償のアルゴリズムはこれに限定されない。例えば、判定指向アルゴリズムなど任意好適なアルゴリズムを利用することができる。
【0065】
また、ここでは、偏波分離回路が、光アクセス系ネットワークで用いられる例を説明したが、これに限定されない。光ファイバの設置環境によって、数Mrad/sに及ぶ偏波状態の回転率が発生する可能性がある光ファイバセンサなどにも利用することができる。
【符号の説明】
【0066】
100 法線ベクトル抽出部
110 Jonesベクトル・ストークスベクトル変換器
120 外積演算器
130 外積ベクトルセレクタ
140 第1遅延器
150 角度比較器
160 同期式2進カウンタ
170 法線ベクトルセレクタ
180 第2遅延器
190 閾値判定器
200 3次元回転量算出部
210 角度演算器
220 遅延器
230 角度比較器
240 同期式2進カウンタ
250 角度セレクタ
300 補償行列生成部
310 第1遅延器
320 第1角度比較器
330 第1同期式2進カウンタ
340 第2遅延器
350 第2角度比較器
360 第2同期式2進カウンタ
370 排他的論理和回路
380 補正論理セレクタ
390 補償行列生成回路
400 複屈折補償部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2023-08-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディジタル信号処理回路として構成され、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、同時に入力される信号のJonesベクトルのブロックから、3次元空間内に偏波状態を表すストークスベクトルで確定される平面の法線ベクトルを抽出する法線ベクトル抽出部と、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、前記法線ベクトルの、前記3次元空間における回転量を求める3次元回転量算出部と、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、前記回転量に基いて補償行列を生成する補償行列生成部と、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、前記Jonesベクトルに、前記補償行列を乗算する複屈折補償部と
を備え、
前記法線ベクトル抽出部は、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、同時に入力される、M個のJonesベクトルを、M個のストークスベクトルに同時に変換するJonesベクトル・ストークスベクトル変換器と、
ブロック内の隣接するストークスベクトルの外積を演算し、M-1個の外積ベクトルを求める外積演算器と、
k番目のブロックのM-1個の外積ベクトルから、長さが最大のものを、仮の法線ベクトルt として出力する外積ベクトルセレクタと、
k-1番目のブロックの仮の法線ベクトルt k-1 と、k番目のブロックの仮の法線ベクトルt がなす角度θを求めて、前記角度θがπ/2より大きい場合は、「1」のロジックレベルのトリガC1を出力し、前記角度θがπ/2以下の場合は、「0」のロジックレベルのトリガC1を出力する角度比較器と、
状態Q1として、「0」又は「1」のロジックレベルを出力し、前記トリガC1のロジックレベルが「1」の場合にのみ、前記状態Q1の論理を反転する、同期式2進カウンタと、
前記状態Q1のロジックレベルが「0」の場合は、k番目のブロックの仮の法線ベクトルt に平行な単位ベクトルを単位法線ベクトルn とし、前記状態Q1のロジックレベルが「1」の場合は、k番目のブロックの仮の法線ベクトルt の逆ベクトルに平行な単位ベクトルを単位法線ベクトルn とする法線ベクトルセレクタと、
前記仮の法線ベクトルt の長さが所定の閾値Th以上の場合はk番目のブロックの単位法線ベクトルn を出力し、閾値Thより小さい場合はk-1番目のブロックの単位法線ベクトルn k-1 を、k番目のブロックの単位法線ベクトルn として出力する閾値判定器
を備え、
前記3次元回転量算出部は、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、前記単位法線ベクトルn の所望の単位法線ベクトルn 0+ に対する、第1軸を中心とする回転量α と、第2軸を中心とする回転量β を算出する角度演算器と、
隣接するブロック間の第1軸を中心とする回転量α k-1 とα の差の大きさが、π/2より大きい場合、「1」のロジックレベルのトリガC2を出力し、π/2以下の場合、「0」のロジックレベルのトリガC2を出力する角度比較器と、
状態Q2として、「0」又は「1」のロジックレベルを出力し、前記トリガC2のロジックレベルが「1」の場合にのみ、前記状態Q2の論理を反転する、同期式2進カウンタと、
前記状態Q2のロジックレベルが「0」の場合は、回転量α 及びβ を出力し、前記状態Q2のロジックレベルが「1」の場合は、α +π及び-β を新たに、回転量α 及びβ として出力する角度セレクタと
を備え、
前記補償行列生成部は、
前記3次元回転量算出部から出力された隣接するブロック間の第1軸を中心とする回転αk-1とαの差の大きさが、πより大きい場合、「1」のロジックレベルのトリガCαを出力し、π以下の場合、「0」のロジックレベルのトリガCαを出力する第1角度比較器と、
前記3次元回転量算出部から出力された隣接するブロック間の第2軸を中心とする回転βk-1とβの差の大きさが、πより大きい場合、「1」のロジックレベルのトリガCβを出力し、π以下の場合、「0」のロジックレベルのトリガCβを出力する第2角度比較器と、
状態Qαとして、「0」又は「1」のロジックレベルを出力し、前記トリガCαのロジックレベルが「1」の場合にのみ、前記状態Qαの論理を反転する、第1同期式2進カウンタと、
状態Qβとして、「0」又は「1」のロジックレベルを出力し、前記トリガCβのロジックレベルが「1」の場合にのみ、前記状態Qβの論理を反転する、第2同期式2進カウンタと、
前記状態Qαと前記状態Qβの排他的論理和演算を実行する排他的論理和演算回路と、
前記排他的論理和演算回路の演算結果Q3が示すロジックレベルが「1」の場合は、係数Kとして-1を出力し、演算結果Q3が示すロジックレベルが「0」の場合は、係数Kとして+1を出力する補正論理セレクタと、
以下の式で与えられる補償行列Mc(α、β)を生成する補償行列生成回路
【数1】

を備える偏波分離回路。
【請求項2】
当該偏波分離回路に入力される信号が、偏波多重多値位相変調信号である
請求項1に記載の偏波分離回路。
【請求項3】
ディジタル信号処理回路で実行され、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、同時に入力される信号のJonesベクトルのブロックから、3次元空間内に偏波状態を表すストークスベクトルで確定される平面の法線ベクトルを抽出する過程と、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、前記法線ベクトルの、前記3次元空間における回転量を求める過程と、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、前記回転量に基いて補償行列を生成する過程と、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、前記Jonesベクトルに、前記補償行列を乗算する過程と
を備え、
前記法線ベクトルを抽出する過程は、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、同時に入力される、M個のJonesベクトルを、M個のストークスベクトルに同時に変換する過程と、
ブロック内の隣接するストークスベクトルの外積を演算し、M-1個の外積ベクトルを求める過程と、
k番目のブロックのM-1個の外積ベクトルから、長さが最大のものを、仮の法線ベクトルt として出力する過程と、
k-1番目のブロックの仮の法線ベクトルt k-1 と、k番目のブロックの仮の法線ベクトルt がなす角度θを求めて、前記角度θがπ/2より大きい場合は、「1」のロジックレベルのトリガC1を出力し、前記角度θがπ/2以下の場合は、「0」のロジックレベルのトリガC1を出力する過程と、
状態Q1として、「0」又は「1」のロジックレベルを出力する同期式2進カウンタにおいて、前記トリガC1のロジックレベルが「1」の場合にのみ、前記状態Q1の論理を反転する、過程と、
前記状態Q1のロジックレベルが「0」の場合は、k番目のブロックの仮の法線ベクトルt に平行な単位ベクトルを単位法線ベクトルn とし、前記状態Q1のロジックレベルが「1」の場合は、k番目のブロックの仮の法線ベクトルt の逆ベクトルに平行な単位ベクトルを単位法線ベクトルn とする過程と、
前記仮の法線ベクトルt の長さが所定の閾値Th以上の場合はk番目のブロックの単位法線ベクトルn を出力し、閾値Thより小さい場合はk-1番目のブロックの単位法線ベクトルn k-1 を、k番目のブロックの単位法線ベクトルn として出力する過程とを備え、
前記3次元空間における回転量を求める過程は、
当該ディジタル信号処理回路のクロック周期ごとに、前記単位法線ベクトルn の所望の単位法線ベクトルn 0+ に対する、第1軸を中心とする回転量α と、第2軸を中心とする回転量β を算出する過程と、
隣接するブロック間の第1軸を中心とする回転量α k-1 とα の差の大きさが、π/2より大きい場合、「1」のロジックレベルのトリガC2を出力し、π/2以下の場合、「0」のロジックレベルのトリガC2を出力する過程と、
状態Q2として、「0」又は「1」のロジックレベルを出力する同期式2進カウンタにおいて、前記トリガC2のロジックレベルが「1」の場合にのみ、前記状態Q2の論理を反転する、過程と、
前記状態Q2のロジックレベルが「0」の場合は、回転量α 及びβ を出力し、前記状態Q2のロジックレベルが「1」の場合は、α +π及び-β を新たに、回転量α 及びβ として出力する過程と
を備え、
前記補償行列を生成する過程は、
前記3次元空間における回転量を求める過程で生成された、隣接するブロック間の第1軸を中心とする回転αk-1とαの差の大きさが、πより大きい場合、「1」のロジックレベルのトリガCαを出力し、π以下の場合、「0」のロジックレベルのトリガCαを出力する過程と、
前記3次元空間における回転量を求める過程で生成された、隣接するブロック間の第2軸を中心とする回転βk-1とβの差の大きさが、πより大きい場合、「1」のロジックレベルのトリガCβを出力し、π以下の場合、「0」のロジックレベルのトリガCβを出力する過程と、
状態Qαとして、「0」又は「1」のロジックレベルを出力する同期式2進カウンタにおいて、前記トリガCαのロジックレベルが「1」の場合にのみ、前記状態Qαの論理を反転する、過程と、
状態Qβとして、「0」又は「1」のロジックレベルを出力する同期式2進カウンタにおいて、前記トリガCβのロジックレベルが「1」の場合にのみ、前記状態Qβの論理を反転する、過程と、
前記状態Qαと前記状態Qβの排他的論理和演算を実行する過程と、
前記排他的論理和演算回路の演算結果Q3が示すロジックレベルが「1」の場合は、係数Kとして-1を出力し、演算結果Q3が示すロジックレベルが「0」の場合は、係数Kとして+1を出力する過程と、
以下の式で与えられる補償行列Mc(α、β)を生成する過程と
【数2】
を備える偏波分離方法。
【請求項4】
当該偏波分離方法が施される信号が、偏波多重多値位相変調信号である
請求項に記載の偏波分離方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0038
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0038】
ここで、任意の3次元ベクトルは、回転の軸が互いに直交する2つの回転行列によって、n0+に制御できる。ここでは、第1軸及び第2軸として、S1軸、S3軸の順に、回転を与えて補償する例を説明する。法線ベクトル抽出部100から出力される単位法線ベクトルnのベクトル要素をn=(a、b、c)と表すと、nをn0+に制御するS1軸及びS3軸を中心とする回転量は、それぞれ、α=-tan-1(c、b)及びβ=-tan-1((b+c1/2,a)により与えられる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0039
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0039】
角度演算器210は、これらα及びβをブロックごとにα及びβとして算出する。これらの回転量α及びβに対応する回転を、単位法線ベクトルnに与えることで、nはn0+に制御される。しかしながら、法線ベクトルが補償されても、複素データも正しく補償されるとは限らない。これは、S1軸を中心とする回転の方向が、逆正接(tan-1)の引数の正負の符号に依存するためである。この回転方向の依存性は、現在のブロックの回転量αと1つ前のブロックの回転αk-1の差に基づいて補正できる。