(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175340
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】歯車およびこれを備えるモータユニット
(51)【国際特許分類】
F16H 55/06 20060101AFI20231205BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20231205BHJP
F16H 55/17 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
F16H55/06
H02K7/116
F16H55/17 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087739
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 健太郎
【テーマコード(参考)】
3J030
5H607
【Fターム(参考)】
3J030AA12
3J030BA01
3J030BB03
3J030BC01
3J030BC02
3J030BC08
3J030BC10
3J030BD09
5H607BB01
5H607BB10
5H607BB14
5H607CC03
5H607DD03
5H607EE31
(57)【要約】
【課題】金属部と樹脂部とを有するインサート成形歯車についてその構造効率を改善する。また、この歯車を好適に用いたモータユニットを提供する。
【解決手段】金属製の歯車部材である金属部と、金属部とともにインサート成形される樹脂部と、を有し、金属部は、該金属部の歯車部分のその歯幅方向の一端である根元部が樹脂部に埋没している歯車、及び、本発明の歯車と、駆動源であるモータと、樹脂製の複数の歯車部材を含む減速歯車列と、金属製の歯車部材である出力軸と、を備え、金属部の歯車部分は、出力軸の歯車部分と噛合するモータユニットによりこれを解決する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の歯車部材である金属部と、
前記金属部とともにインサート成形される樹脂部と、を有し、
前記金属部は、該金属部の歯車部分のその歯幅方向の一端である根元部が、前記樹脂部に埋没している、
歯車。
【請求項2】
前記歯車部分の軸線方向に沿う方向を上下とし、前記根元部は該歯車部分の下端部であるときに、
前記金属部は、前記根元部の下に、該根元部から連続して、該根元部の歯底よりもその径方向外側に張り出した抜け止め部を有し、
前記抜け止め部は、前記根元部とともに前記樹脂部に埋没している、
請求項1に記載の歯車。
【請求項3】
前記金属部は焼結部品であり、
前記金属部は、
前記歯車部分よりも上に該歯車部分よりも径方向外側に突き出した部分がなく、
前記抜け止め部よりも下に該抜け止め部よりも径方向外側に突き出した部分がない、
請求項2に記載の歯車。
【請求項4】
前記抜け止め部は円柱形状または円筒形状であり、
前記抜け止め部の直径は前記歯車部分の歯先円直径と同一である、
請求項2に記載の歯車。
【請求項5】
前記歯車部分の軸線方向に沿う方向を上下としたときに、
前記金属部は、該金属部の回転中心を上下に貫通する軸穴を有し、
前記金属部は、前記樹脂部から上下に突き出している、
請求項1に記載の歯車。
【請求項6】
前記抜け止め部の上面を覆う前記樹脂部の上下方向の厚みは、該抜け止め部の下面を覆う前記樹脂部の上下方向の厚みよりも大きい、
請求項2に記載の歯車。
【請求項7】
前記樹脂部は、その外周面に歯部が形成された歯車部材である、
請求項1に記載の歯車。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の歯車と、
駆動源であるモータと、
樹脂製の複数の歯車部材を含む減速歯車列と、
金属製の歯車部材である出力軸と、を備え、
前記金属部の前記歯車部分は、前記出力軸の歯車部分と噛合する、
モータユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯車部品のインサート成形技術に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献には、金属製の歯車部材をインサート部品とする複合歯車が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献の複合歯車では、金属製の歯車部材がその中心に据えられ、そしてその周囲に樹脂製の歯車が射出成形されている。係る複合歯車では、樹脂部に埋没する金属部の根元(連結部分111)に別途複数の凸部が設けられており、これにより樹脂部を金属部に対して軸線方向および円周方向に係合させ、樹脂部の空転・脱落を防止している。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、このような金属部と樹脂部とを有するインサート成形歯車について、その構造効率を改善すること、及びこの歯車を好適に用いたモータユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の歯車は、金属製の歯車部材である金属部と、前記金属部とともにインサート成形される樹脂部と、を有し、前記金属部は、該金属部の歯車部分のその歯幅方向の一端である根元部が、前記樹脂部に埋没していることを要旨とする。
【0007】
金属部の歯車部分の一部を樹脂部の空転止めに用いることにより、別途そのための構造を備える必要がなくなり、金属部と樹脂部との係合構造を簡略化することができる。
【0008】
また、本発明の歯車は、前記歯車部分の軸線方向に沿う方向を上下とし、前記根元部が該歯車部分の下端部であるときに、前記金属部が、前記根元部の下に、該根元部の歯底よりもその径方向外側に張り出した抜け止め部を有し、前記抜け止め部は、前記根元部とともに前記樹脂部に埋没していることが好ましい。歯車はその構造上当然に歯溝を有している。その歯溝を利用して樹脂部の抜け止め部を設けることにより、金属部の構造をより効率化することができる。
【0009】
このとき、前記金属部は焼結部品であり、前記金属部は、前記歯車部分よりも上に該歯車部分よりも径方向外側に突き出した部分がなく、前記抜け止め部よりも下に該抜け止め部よりも径方向外側に突き出した部分がないことが好ましい。金属部にオーバーハングする要素をもたせず、これを焼結部品とすることにより、金属部を切削加工によって成形する場合に比べ、その製造コストを低く抑えることができる。
【0010】
また、本発明の歯車は、前記抜け止め部を円柱形状または円筒形状とし、前記抜け止め部の直径を前記歯車部分の歯先円直径と同一にすることが好ましい。それにより金属部の形状が単純化され、成形がより容易となる。
【0011】
また、本発明の歯車は、前記歯車部分の軸線方向に沿う方向を上下としたときに、前記金属部は、該金属部の回転中心を上下に貫通する軸穴を有し、前記金属部は、前記樹脂部から上下に突き出していることが好ましい。そうすることで、樹脂部の成形時に充填された樹脂が金属部の外周面で遮断され、軸穴内に入り込みにくくなる。
【0012】
また、本発明の歯車は、前記抜け止め部の上面を覆う前記樹脂部の上下方向の厚みが、該抜け止め部の下面を覆う前記樹脂部の厚みよりも大きいことが好ましい。これにより樹脂部の空転をより強固に防ぐことができる。
【0013】
また、前記樹脂部は、その外周面に歯部が形成された歯車部材であってもよい。
【0014】
また、上記課題を解決するため、本発明のモータユニットは、本発明の歯車と、駆動源であるモータと、樹脂製の複数の歯車部材を含む減速歯車列と、金属製の歯車部材である出力軸と、を備え、前記金属部の前記歯車部分は、前記出力軸の歯車部分と噛合することを要旨とする。最も大きなトルクが加わる部分にのみ金属部品を用いることで、モータユニットの製造コストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明によれば、金属部と樹脂部とを有するインサート成形歯車についてその構造効率を改善することができ、また、これを用いたモータユニットの製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】モータユニットの内部構造を示す側面視断面図である。
【
図3】モータユニットの減速機構を示す透視平面図である。
【
図4】第4歯車の平面図(a)、及び側面図(b)である。
【
図5】金属部の斜視図(a)、平面図(b)、及び側面図(c)である。
【
図6】第4歯車の側面視断面図(a)、及び部分拡大図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の歯車およびこれを備えるモータユニットの実施形態について図面を参照して説明する。以下に説明するモータユニットは、駆動源であるステッピングモータの回転を減速して出力するギヤードモータである。
【0018】
(全体構成)
図1はモータユニット1の外観を示す斜視図である。以下の説明において、「上」および「下」とは、
図1等に描かれた座標軸のZ軸に平行な方向をいい、Z1側を「上」、Z2側を「下」とする。「前」および「後ろ」とは、同座標軸のX軸に平行な方向をいい、X1側を「前」、X2側を「後ろ」とする。同様に、「左右」とは同座標軸表示のY軸に平行な方向をいう。
【0019】
図1に示すように、本形態のモータユニット1は、モータケース19と、モータケース19の前方に装着された端子カバー15と、モータケース19から上方に突き出した出力軸60と、を有している。モータケース19は、カップ形状のステータカップ11と、ステータカップ11の開口を塞ぐカバープレート12とにより構成される金属製のケース体である。出力軸60の軸部61は、モータユニット1の用途により適宜変更可能である。
【0020】
図2は、モータユニット1の内部構造を示す側面視断面図である。上でも述べたように、モータユニット1はステッピングモータを駆動源とするギヤードモータである。本形態のステッピングモータは2相ステッピングモータであり、そのステータは、A相コイルボビン21に巻回されたA相ステータコイル22と、B相コイルボビン26に巻回されたB相ステータコイル27と、を有している。A相ステータコイル22はクローポール形の突極である上側ヨーク23aと下側ヨーク23bとを有している。B相ステータコイル27も同様に、上側ヨーク28aと下側ヨーク28bとを有している。B相ステータコイル27の下側ヨーク28bはステータカップ11の底部11aがステータカップ11内に切り起こされることで形成されている。
【0021】
ステータコイル22,27の環内には所定のエアギャップを置いてロータ30が配置されている。ロータ30は、永久磁石であるロータマグネット32と、ロータマグネット32とインサート成形された樹脂製の軸体であるロータサポート31とにより構成されている。ロータサポート31の回転中心には上下に貫通した貫通穴が形成されており、その貫通穴には金属製の固定軸であるロータ軸39が挿通されている。ロータ軸39はその基端部がステータカップ11の底部11aに圧入固定されている。ロータ30の下面は板ばねであるリーフスプリング35に支持されており、ロータ30はリーフスプリング35により上方に付勢されている。
【0022】
ロータサポート31の上端には歯車部であるロータピニオン31aが形成されている。上側ヨーク23aとカバープレート12との間には複数の支軸49が固定されており、支軸49には、後述する減速歯車列40を構成する第2歯車41、第3歯車42、及び第4歯車50が回転可能に支持されている。
【0023】
出力軸60は、軸部61と、これに圧入固定される円環形状の歯車部62と、により構成される金属製の軸部材である。軸部61は快削鋼であり、歯車部62は焼結部品である。歯車部62は後述する第4歯車50と噛合しており、出力軸60の下端部(ボス部68)は、A相コイルボビン21の上面に形成された円筒形状の軸受211に回転可能に支持されている。
【0024】
出力軸60の軸部61は、カバープレート12に設けられたバーリング部121から上方に突き出している。バーリング部121の開口内には円環形状の含油軸受122が固定されており、軸部61はその外周面が含油軸受122に支持されている。
【0025】
図3はモータユニット1の減速機構を示す透視平面図である。モータユニット1は、ロータ30の回転を減速して出力軸60に伝達する減速歯車列40である、第2歯車41、第3歯車42、及び第4歯車50を有している。これら歯車はいずれも、ピッチ円径の異なる平歯車が軸線方向に一体化された複合歯車である。ロータピニオン31aの回転は、第2歯車41、第3歯車42、及び第4歯車50を経て減速され、出力軸60に伝達される。
【0026】
(第4歯車の構造)
図4は第4歯車50の平面図(a)、及び側面図(b)である。
図5は金属部51の斜視図(a)、平面図(b)、及び側面図(c)である。
図6は第4歯車50の側面視断面図(a)、及び部分拡大図(b)である。以下、
図4から
図6を参照して第4歯車50の構造とその特徴について説明する。
【0027】
本形態の第4歯車50は、金属製の歯車部材である金属部51と、金属部51とともにインサート成形される樹脂製の歯車部材である樹脂部55とを有している。金属部51の歯車部52は第4歯車50の小径歯車を構成しており、樹脂部55の歯車部56は第4歯車50の大径歯車を構成している。金属部51の歯車部52は出力軸60の歯車部62と噛合しており、樹脂部55の歯車部56は第3歯車42の図示しない小径歯車と噛合している。金属部51の回転中心には支軸49が挿通される貫通穴である軸穴54が設けられている。
【0028】
図5及び
図6に示すように、金属部51は、その歯車部52の下端部(歯幅方向の一端)である根元部52aの下に、円筒形状の抜け止め部53を有している。抜け止め部53は樹脂部55に埋没し、樹脂部55と上下方向に係合することで、樹脂部55が金属部51から脱落することを防止する。
【0029】
本形態では、抜け止め部53の直径を歯車部52の歯先円直径と同一にすることで金属部51の形状を単純化しているが(
図5(b)参照)、抜け止め部53は、歯車部52の歯底円直径よりも大径であれば、つまり歯車部52の歯溝から外側に少なくともその一部が突き出して入れば、樹脂部55の脱落防止効果を得ることができる。歯車は、歯車としてのその構造上、当然に歯溝を有している。本形態では歯車部52の歯溝を利用して樹脂部55との係合部を設けることにより、金属部51の構造を簡略化している。また、本形態では金属部51が軸穴54を備える都合上、抜け止め部53が円筒・円環形状になっているが、軸穴54がなければこれを円柱・円板・円盤形状としてもよい。また、抜け止め部53の平面形状は円形には限られない。抜け止め部53は、回転中心を対称の中心として点対称な形状であり、少なくともその一部が歯車部52の歯溝から外側に突き出した形状であれば、どのような形状であってもよい。
【0030】
図5に示すように、抜け止め部53の上面53aは、その外縁にアールが設けられ、さらに、歯車部52の歯底に向かって指数関数状に盛り上がる曲面を有している。歯車部52は係る上面53aの形状に沿って抜け止め部53の側面まで延びている。これにより、歯車部52の根元部52aと抜け止め部53は、その上下方向の範囲の一部が重なっている。
【0031】
そして、
図6に示すように、本形態の金属部51は、その根元部52aが樹脂部55の中に埋没している。これにより樹脂部55の空転が防止される。本形態の第4歯車50は、歯車部52の一部を樹脂部55の空転止めに用いることにより、金属部51と樹脂部55との係合構造をさらに簡略化している。また、本形態の第4歯車50は、抜け止め部53の上面53aを覆う樹脂部55の上下方向の厚みt1が、下面53bを覆う樹脂部55の厚みt2よりも大きい。これにより樹脂部55の空転がより強固に阻止される。
【0032】
また、本形態の金属部51は焼結部品である。金属部51は、歯車部52の上には、歯車部52よりも径方向外側に突き出した部分がなく、抜け止め部53の下には、抜け止め部53よりも径方向外側に突き出した部分がない。金属部51にオーバーハングする要素をもたせず、これを焼結部品とすることにより、金属部51を切削加工によって成形する場合に比べ、その製造コストが低く抑えられている。
【0033】
また、上でも述べたように、ロータピニオン31aは樹脂製の歯車である。減速歯車列40を構成する第2歯車41、及び第3歯車42も樹脂製の歯車である。そして第3歯車42に噛合する第4歯車50の大径歯車(樹脂部55)も樹脂製の歯車である。そして、第4歯車50の小径歯車(金属部51)と出力軸60は金属製である。本形態のモータユニット1は、最も大きなトルクが加わる部分にのみ金属部品を用いることにより、モータユニット1の製造コストを抑えている。
【0034】
また、本形態の金属部51は、その歯車部52が樹脂部55から上方に突き出しており、その底部59が樹脂部55から下方に突き出している。つまり金属部51は樹脂部55を上下に貫通している。これにより、樹脂部55のインサート成形時に充填された樹脂は、金属部51の外周面によってその進行が遮断されるため、軸穴54内に樹脂が入り込みにくくなる。
【0035】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、上記実施形態の樹脂部55は歯車部56を有する歯車部材であるが、樹脂部55は、歯車部56を備えず、例えば滑車や、特定形状の従動カムであってもよい。
【符号の説明】
【0036】
1:モータユニット,19:モータケース,20:ステータ,30:ロータ,31a:ロータピニオン,40:減速歯車列,41:第2歯車,42:第3歯車,50:第4歯車(歯車),51:金属部,52:歯車部(歯車部分),52a:根元部,53:抜け止め部,53a:抜け止め部の上面,53b:抜け止め部の下面,54:軸穴,55:樹脂部,t1:樹脂部の厚み,t2:樹脂部の厚み,56:歯車部(歯車部分),59:底部,60:出力軸,61:軸部,62:歯車部