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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175345
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】細胞収容容器とその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20231205BHJP
   C12N 5/02 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12N5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087747
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芹川 優芽
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB11
4B029BB12
4B029CC01
4B029GA02
4B029GA03
4B029GB05
4B029GB09
4B065AA87X
4B065BD50
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】細胞の吸引時に夾雑物が混入しにくい細胞収容容器を提供する。
【解決手段】細胞を収容するための凹部を有する細胞収容容器であって、比重が1よりも大きく、非水溶性、及び生体適合性を示す、樹脂又は金属から成る複数の構造体が、凹部の底面に配置されている、細胞収容容器。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を収容するための凹部を有する細胞収容容器であって、
比重が1よりも大きく、非水溶性、及び生体適合性を示す、樹脂又は金属から成る複数の構造体が、前記凹部の底面に配置されている、細胞収容容器。
【請求項2】
前記構造体がポリラクチド(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリグリコリド(PGA)、およびそれらの共重合体をベースとするポリエステル、から成る群より選ばれる1つ以上の材料、もしくは複数の材料の組み合わせから構成される、請求項1に記載の細胞収容容器。
【請求項3】
前記構造体の算術平均粗さ(Ra)が0.03μm以下である、請求項1に記載の細胞収容容器。
【請求項4】
前記構造体が細胞と非接着となる表面処理をされている、請求項1に記載の細胞収容容器。
【請求項5】
前記構造体の形状が円柱状である、請求項1に記載の細胞収容容器。
【請求項6】
前記構造体の端部と端部を結んだ直線の最大の長さが、細胞を吸引する用のデバイスの吸引口の直径以上である、請求項1に記載の細胞収容容器。
【請求項7】
前記構造体の形状が屈曲した箇所を有する、請求項1に記載の細胞収容容器。
【請求項8】
前記構造体の形状が分岐箇所を有する、請求項1に記載の細胞収容容器。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の細胞収容容器の使用方法であって、
前記凹部に細胞を液状体と共に吐出して、前記凹部の底面に配置された前記構造体上に前記細胞を配置し、
前記液状体の水面が平坦になり夾雑物が沈殿する程度の時間を空けた後に、
前記細胞を吸引する、細胞収容容器の使用方法。
【請求項10】
前記構造体がポリラクチド(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリグリコリド(PGA)、およびそれらの共重合体をベースとするポリエステル、からなる群より選ばれる1つ以上の材料、もしくは複数の材料の組み合わせから構成されており、算術平均粗さ(Ra)が0.03μm以下かつ、細胞と非接着となる表面処理をされている請求項1に記載の細胞収容容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞収容容器とその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を培養する容器には、容器表面に細胞が接着しやすくなる表面処理が施された接着細胞を培養するための容器や、容器表面に細胞が接着しづらくなる表面処理が施された浮遊培養を培養するための容器など多様な目的に合わせた加工が施されている場合がある(特許文献1を参照)。
【0003】
細胞を培養する際には、培養容器内に添加する細胞懸濁液や培養液中に、死細胞に由来する夾雑物や、細胞が代謝することによって生じるエクソソームなどの不要な物質が含まれることがある。また、実験環境由来のホコリや糸くずなどが混入することもあるが、これらの夾雑物は細胞の状態を良好に保つためには不要であり、除去できることが望ましい。ただし、これらの物質は微細であり、マイクロピペットなどを用いての除去は困難である。
【0004】
そこで、細胞培養液や細胞懸濁液中の夾雑物を除去するためのフィルターや微小孔を有する容器が開発されている(特許文献2~4を参照)。しかし、フィルターや微小孔による夾雑物の除去過程では、夾雑物が回収されるのと同時に培養液も吸収されてしまうため、培養液が減少してしまい、培養中の細胞の周囲の環境が大きく変化してしまう。
【0005】
一方、複数の細胞同士が接着することによって形成される細胞塊は、1つの培養区画内に多数の細胞を播種する必要がある。そのため、死細胞などの夾雑物の混入頻度が高くなる。一方で、死細胞などの夾雑物のみを培養中に除去することは困難である。しかし、不要な夾雑物は細胞同士の接着や代謝を阻害する可能性があるため、除去することが望まれる。また、細胞塊を生体に移植する際には、可能な限り夾雑物の持ち込みを抑えたいものの、細胞塊をマイクロピペットなどで吸引する際に、培養液中に含まれる夾雑物も同時に吸引されることが多く、吸引工程のみで除去することは難しい。
【0006】
細胞塊などを生体に移植する際には、培地や、培地中に含まれる夾雑物を除去するために、培地と緩衝液を置換する操作が必要となる。液体を置換する操作により夾雑物を除くことは可能であるが、培養容器に付着した夾雑物を除くことは難しい。そのため、細胞塊を吸引し、培養容器とは異なる細胞収容容器に移すことが効果的である。この場合において、細胞塊を培養容器から吸引した時に持ち込まれる夾雑物を除去する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2021/167042号
【特許文献2】特開2006-94718号公報
【特許文献3】国際公開第2020/054755号
【特許文献4】特開2021-112142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、細胞の吸引時に夾雑物が混入しにくい細胞収容容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための細胞収容容器は細胞を収容するための凹部を有する細胞収容容器であって、比重が1よりも大きく、非水溶性、及び生体適合性を示す、樹脂又は金属から成る複数の構造体が、凹部の底面に配置されている。
【0010】
上記細胞収容容器によれば、培養容器の底面に構造体が配置されるため、細胞が収容容器内に配置された際に細胞と細胞収容容器の底面間に空隙が形成され、培地などの周囲の液よりも比重の大きい夾雑物が沈降する。また、培地などに対して溶出しないため、細胞周囲の環境に大きな影響を与えない。さらに、生体適合性材料から成る構造体は、生体に対して毒性を有さないため、構造体が意図せずに生体内に挿入された際に、異物反応や拒絶反応を起こすことがなく、安全性を確保することが可能になる。また、樹脂や金属は成形加工が容易であり、任意の形状の構造体を作成することが可能になる。これにより、細胞と夾雑物が分離されるため、細胞を吸引する際に混入する夾雑物を減少させることが可能になる。
【0011】
また、構造体が、ポリラクチド(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリグリコリド(PGA)、およびそれらの共重合体をベースとするポリエステル、からなる群より選ばれる1つ以上の材料、もしくは複数の材料の組み合わせから構成されてもよい。
【0012】
上記構成によれば、構造体が意図せずに生体内に挿入された際に、異物反応や拒絶反応を起こすことがなく、安全性を確保することが可能になる。
【0013】
構造体の算術平均粗さ(Ra)が0.03μm以下であってもよい。
【0014】
上記構成によれば、構造体の表面が細胞膜に対して与える物理的な刺激が低減され、細胞への意図しないダメージを抑えることが可能になる。
【0015】
構造体が細胞と非接着となる表面処理をされていてもよい。
【0016】
上記構成によれば、構造体が細胞に接着する頻度を抑えることが可能になり、細胞を吸引して別の用途に用いる際に、構造体が意図せず混入することを防ぐことが可能になる。
【0017】
構造体の形状が円柱状であってもよい。
【0018】
上記構成によれば、構造体の角が少なく、細胞に与える物理的なダメージが低減され、細胞の活性低下を抑えることが可能になる。
【0019】
構造体の端部と端部を結んだ直線の最大の長さが、細胞を吸引する用のデバイスの吸引口の直径以上であってもよい。
【0020】
上記構成によれば、細胞を吸引する際に構造体がデバイスに吸引される頻度を抑えることが可能になり、細胞を吸引して別の用途に用いる際に、構造体が意図せず混入することを防ぐことが可能になる。
【0021】
構造体の形状が屈曲した箇所を有していてもよい。
【0022】
上記構成によれば、構造体同士が形成する空隙が大きくなるため、死細胞などの大きな夾雑物をトラップすることが可能になる。
【0023】
構造体の形状が分岐した箇所を有していてもよい。
【0024】
上記構成によれば、構造体同士が形成する空隙が大きくなるため、死細胞などの大きな夾雑物をトラップすることが可能になる。
【0025】
上記課題を解決するための細胞収容容器の使用方法は、凹部に細胞を液状体と共に吐出して、凹部の底面に配置された構造体上に細胞を配置し、液状体の水面が平坦になり夾雑物が沈殿する程度の時間を空けた後に、細胞を吸引する。
【0026】
また、細胞収容容器は、構造体がポリラクチド(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリグリコリド(PGA)、およびそれらの共重合体をベースとするポリエステル、からなる群より選ばれる1つ以上の材料、もしくは複数の材料の組み合わせから構成されており、算術平均粗さ(Ra)が0.03μm以下かつ、細胞と非接着となる表面処理をされていてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、細胞の吸引時に夾雑物が混入しにくい細胞収容容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施形態に係る細胞収容容器を示す断面図。
図2】実施形態における細胞収容容器の構造体の一例を示す断面図。
図3】実施形態における細胞収容容器の構造体の一例を示す断面図。
図4】実施形態における細胞収容容器の構造体の一例を示す断面図。
図5】実施形態における細胞収容容器の構造体の一例を示す断面図。
図6】実施形態における細胞収容容器の構造体の一例を示す断面図。
図7】実施形態における細胞収容容器の使用方法を示す断面図。
図8】実施形態における細胞収容容器の使用方法を示す断面図。
図9】実施形態における細胞収容容器の使用方法を示す断面図。
図10】実施形態における細胞収容容器の使用方法を示す断面図。
図11】実施形態における細胞収容容器の使用方法を示す断面図。
図12】細胞収容容器の製造方法の一例を示す断面図。
図13】細胞収容容器の変更例を示す断面図。
図14】細胞収容容器の変更例を示す断面図。
図15】細胞収容容器の変更例を示す断面図。
図16】細胞収容容器の変更例を示す断面図。
図17】細胞収容容器の変更例を示す断面図。
図18】細胞収容容器の変更例を示す断面図。
図19】細胞収容容器の変更例を示す断面図。
図20】細胞収容容器の変更例を示す断面図。
図21】細胞収容容器の変更例を示す断面図。
図22】細胞収容容器の変更例を示す断面図。
図23】細胞収容容器の変更例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(実施形態)
図1から図6を参照して、細胞収容容器の実施形態について説明する。図1は、実施形態に係る細胞収容容器を示す断面図であり、図2~6は、実施形態における細胞収容容器の構造体の一例を示す断面図である。
【0030】
細胞収容容器100は、凹部2、および構造体1を備える。詳細は後述するが、凹部2には細胞群104および液状体101が収容され、凹部2内の細胞群104はマイクロピペットなどの器具6などで吸引される。凹部2はU字状、またはV字状、またはコの字状の底面を有する。構造体1は凹部2の支持面20から延出している。細胞収容容器100及び構造体1は樹脂、または金属からなり、接着剤で接合されていてもよいし、熱溶着、超音波振動を加えることによる溶着等の接合方法により接合されていてもよい。また細胞収容容器100及び構造体1は同じ材料であっても、異なる材料であってもよい。例えば、細胞収容容器100がPDMS(ポリジメチルシロキサン)製であり、構造体1がPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)製であると、細胞に対して好ましくない影響を与える可能性を低減することが可能となる。つまり、細胞が液体と共に収容された際、PDMS製の細胞収容容器内では酸素透過性が高いために細胞周囲の環境を良好に保つことが可能となり、構造体1がPEEKであると、生体適合性、及び高い耐薬品性、及び低溶出性を示すため細胞周囲の環境に大きな影響を与えることが無い。構造体1の中心軸が、細胞収容容器100の下面(上面)に対して垂直方向であってもよいし、垂直方向でなくてもよい。つまり、構造体1は、支持面20から斜めに延出していてもよい(図2)。構造体1の両端を結んだ直線の最大の長さlは、凹部2の深さhの4/5以下であることが好ましく、凹部2の内径dの1/2以下であることが好ましい(図1)。なお、長さlとは、構造体1が柱状であれば長軸方向の長さのことを示す。
【0031】
図2に示すように、複数の構造体1が凹部2の支持面20から延出している場合、すべての構造体1が同一の方向に配向していてもよく、複数の構造体1のうちいずれかが異なる方向に延出していてもよい。
【0032】
図3に示すように、複数の構造体1が凹部2の支持面20から延出している場合、支持面20と接していない構造体1の端部が、すべて同一平面上に無くてもよい。つまり、凹部2における構造体の長さが同一であっても、異なっていてもよい。図1に示すように、支持面20と接していない構造体1の端部がすべて同一平面上にある場合には、細胞を吸引する際に、吸引用デバイスの先端部分と構造体間の距離を予測することが容易になるため、構造体1とデバイス間で細胞を押しつぶしてしまう確率を下げることが可能になる。一方、図3に示すように、支持面20と接していない構造体1の端部が同一平面上に無い場合には、例えばダンベル状の細胞塊を収容する際、構造体1の端部の配置を細胞塊の立体構造に合うようなダンベル状にすること等により、任意の方向性を有した状態で細胞塊を配置することが可能になる。
【0033】
図4に示すように、構造体1は細胞収容容器100の凹部2の底面に接着されていなくてもよく、凹部2に構造体1が沈殿している状態で配置されていてもよい。構造体1と凹部2の体積比は1:1よりも小さい状態であればよく、望ましくは構造体1と凹部2の体積比が1:2であるとよい。なお、複数の構造体1が凹部2の底面に沈殿して配置される場合には、構造体1の大きさや形状は全て同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0034】
構造体1は比重が1よりも大きく、樹脂又は金属から成る。具体的には、ポリカプロラクトン、L乳酸カプロラクトン共重合体、ポリジオキサノン、グリコリド乳酸共重合体、ポリDL乳酸、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、エンジニアリングプラスチック、超高分子量ポリエチレン、フッ素樹脂、ポリ乳酸、チタン、ステンレス鋼、白金、Co-Cr合金、アルミナ、ジルコニアセラミックス、からなる群より選ばれる1つ以上の材料、もしくは複数の材料の組み合わせから構成される。また、構造体1は非水溶性であることから、培地などに対して溶出しないため、細胞周囲の環境に大きな影響を与えない。これにより、細胞に意図しないダメージを与えにくくなる。さらに、生体適合性材料から成る構造体1は、生体に対して毒性を有さないため、構造体1が意図せずに生体内に挿入された際に、異物反応や拒絶反応を起こすことがなく、安全性を確保することが可能になる。加えて、樹脂や金属は成形加工が容易であり、任意の形状の構造体1を作成することが可能になる。なお、より好ましくはポリラクチド(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリグリコリド(PGA)、およびそれらの共重合体をベースとするポリエステルから成る群より選ばれる1つ以上の材料、もしくは複数の材料の組み合わせから構成される方がよい。これらの材料は樹脂であり成形加工が容易で、任意の形状を有する構造体の成型が簡便になる。さらに、生体適合性、および生分解性を示すため、生体内で毒性を示すことがなく、安全性が向上する。
【0035】
構造体1の算術平均粗さ(Ra)が0.03μm以下であることが望ましい。これにより、構造体1の表面が細胞膜に対して与える物理的な刺激が低減され、細胞への意図しないダメージを抑えることが可能になる。
【0036】
構造体1には細胞と非接着になる表面処理が施されていてもよく、例えばプルロニック(登録商標)などの界面活性剤によるコートが挙げられる。これにより、構造体1が細胞に接着する頻度を抑えることが可能になり、細胞を吸引して別の用途に用いる際に、構造体1が意図せず混入することを防ぐことが可能になる。
【0037】
図5に示すように、凹部2には、細胞群104が収容される。また、細胞の培養液や生理食塩水などの液状体101が同時に含有されてもよい。構造体1が支持面20に接着されていない場合は、細胞群104が配置される前に構造体1を凹部2の底面に配置してから細胞群104を凹部2に配置する。なお、凹部2に収容されるものは、細胞群104に限らず、薬剤などの有効物質、移植物、および細胞であってもよい。
【0038】
図6に示すように、凹部2に収容される細胞群104は、マイクロピペットなどの器具6などで吸引されてもよい。例えば凹部2に液状体101が充填されており、複数の金属製の構造体1が凹部2内に沈殿しているのと同時に、沈殿した構造体1上に細胞群104が配置されている場合、細胞群104を吸引する際には、器具6の吸引口は細胞群104のごく近傍に配置され、陰圧が生じた際に細胞群104は吸引口に吸着されるものの、構造体1は器具6内に吸い込まれないことが望ましい。
【0039】
細胞群104は、生体に移植される細胞群を少なくとも含む。細胞群104が移植される穿刺対象物は、例えば、皮内、及び皮下の少なくとも一方であってもよい。また、穿刺対象物は、臓器等の組織内であってもよい。
【0040】
細胞群104は、凝集した複数の細胞の集合体でもよいし、細胞間結合により結合した複数の細胞の集合体でもよいし、分散した複数の細胞から構成されてもよい。細胞群104を構成する細胞は、未分化の細胞でもよいし、分化が完了した細胞でもよいし、未分化の細胞と分化した細胞との両方を含んでもよい。細胞群104は、例えば、スフェロイドである細胞塊、原基、組織、器官、オルガノイド、ミニ臓器等である。
【0041】
細胞群104は、穿刺対象物に配置されることによって生体における組織形成に作用する能力を有する。細胞群104の一例は、幹細胞性を有する細胞を含んだ細胞凝集体である。細胞群104の一例は、皮内又は皮下に配置されることによって、発毛または育毛に寄与する。
【0042】
こうした細胞群104は、毛包原基として機能する能力、毛包器官へと分化する能力、毛包器官の形成を誘導あるいは促進する能力、毛包における毛の形成を誘導あるいは促進する能力等を有する。また、こうした細胞群104は、色素細胞に分化する幹細胞等のように、毛色の制御に寄与する細胞を含んでもよいし、あるいは、血管系細胞を含んでもよい。
【0043】
本実施形態における細胞群104は、原始的な器官原基である。器官原基は、間葉系細胞と上皮系細胞とを含む。器官原基は、毛包器官に分化する毛包原基や、肝臓の原基、腎臓原基や膵臓原基、神経系の原基細胞や、血管系の原基細胞等である。
【0044】
毛包原基は、毛乳頭等の間葉組織に由来する間葉系細胞と、バルジ領域や毛球基部等に位置する上皮組織に由来する上皮系細胞とを、所定の条件で混合培養することによって形成することができる。ただし、毛包原基の製造方法は、上述の例に限定されない。毛包原基の製造に用いられる間葉系細胞と上皮系細胞との由来もまた限定されず、これらの細胞は、毛包器官由来の細胞であってもよいし、毛包器官とは異なる器官由来の細胞であってもよいし、多能性幹細胞から誘導された細胞であってもよい。
【0045】
なお、細胞群104は、発毛又は育毛に寄与する細胞以外の細胞を含んでもよい。細胞群104の体積は、凹部2の容積よりも小さければよい。
【0046】
細胞群104とともに液状体101も収容される場合、細胞群104への栄養分の供給が可能になるため、細胞等の移植物の活性が低下するのを抑制する効果がある。細胞群104が液状体101中に保持されることにより、細胞群104と構造体1との接触や摩擦による細胞群104へのダメージを軽減することができる。液状体101は、生体に注入された場合に生体に与える影響が小さい液体であることが望ましい。例えば、液状体101は、生理食塩水、ワセリンや化粧水等の皮膚を保護する液体、あるいは、これらの液体の混合物である。液状体101は、細胞培養用の培地であってもよいし、培地から交換された液体であってもよい。液状体101は、栄養成分等の添加成分を含んでいてもよく、酸素等の細胞の生存に必要な成分を含んでもよい。さらに、液状体101は、低粘度の流体、あるいは、高粘度の流体であってもよいし、ゾル状体でもゲル状体でもよい。
【0047】
次に、図7~11を参照して、細胞収容容器100の使用方法について説明する。図7~11は、実施形態における細胞収容容器の使用方法を示す断面図である。
【0048】
図7に示すように、構造体1は細胞収容容器100の凹部2の支持面20に接着された状態でもよく、沈殿により配置された状態でもよい。
【0049】
図8に示すように、移植物である細胞群104は、培養容器等のトレイ5に液状体101とともに保持されている。例えばトレイ5は培養用凹部50を有し、この培養用凹部50に液状体101及び細胞群104を収容している。トレイ5は、図7に例示するものに限定されず、トレイ5が有する平面上に細胞群104と液状体101とが配置されるものであってもよい。トレイ5が培養容器であって、細胞群104がトレイ5にて培養される場合、液状体101は、細胞の培養のための培地であってもよいし、培地から交換された液体であってもよい。細胞群104がトレイ5にて培養される際、他の細胞とは凝集しない死細胞や、操作の段階で意図せず混入してしまう微細な糸くずなどの夾雑物105が液状体101内に混入することがある。この夾雑物105は液状体101内に浮遊している場合もあれば、細胞群104の表面上の凹凸に引っかかっているような場合もある。
【0050】
図9に示すように、トレイ5の培養用凹部50で培養した細胞群104を、マイクロピペット等の器具6を用いて吸引する。
【0051】
図10に示すように、器具6が吸引した細胞群104を、細胞収容容器100の凹部2に吐出する。このとき、凹部2には細胞群104だけでなく、液状体101が入ってもよい。液状体101の体積は、凹部2の体積と同等以下であればよく、好ましくは、液状体101と空気との界面が細胞群104の上端よりも高い位置にあり、細胞群104が液状体101中にある状態が良い。
【0052】
凹部2に細胞群104が配置され、液状体101の水面が平坦になり夾雑物105が沈殿する程度の時間が経過すると、液状体101中に含まれる夾雑物105が凹部2の底面に沈殿する。この時、隣接する構造体1の間隔は細胞群104より小さく、かつ夾雑物105よりも大きくなるように構成されている。そのため、細胞群104は複数の構造体1の上端部により支えられるが、夾雑物105は構造体1の上端部に支えられることなく隣接する構造体1の間に形成される空隙に沈殿する。例えば、夾雑物105が100μmより小さいと想定した場合、隣接する構造体1の間隔(空隙)は100μm以上とすればよい。また、直径500μm以上のものを正常な細胞群104と想定した場合、隣接する構造体1の間隔は500μm未満とすればよい。具体的には、直径500μm以上のものを正常な細胞群104、直径300μm以下のものを夾雑物105と判断すると仮定した時、構造体1同士の間隔を400μmにして配置することにより、正常な細胞群104と夾雑物105との物理的な分離が可能になる。
【0053】
図11は、凹部2に配置された細胞群104が器具6で吸引される様子を示す。この時、夾雑物105は凹部2の底面に沈殿しているため、器具6の吸引口に対して、細胞群104よりある程度距離がある状態で配置されている。よって、細胞群104を吸引する際に夾雑物105を同時に吸引する頻度を下げられる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
【0055】
(1)細胞収容容器100に配置された構造体1によって夾雑物105と細胞群104とが分離される。これにより、細胞収容容器1から細胞群104を吸引する時に夾雑物105を同時に吸引する頻度を下げることが可能になる。
【0056】
(2)構造体1の大きさ、及び構造体1同士の間隔を調整することによって、分離する夾雑物105の大きさを変えることが可能になる。例えば、直径300μm程度の細胞群104を培地などの液状体101と共に細胞収容容器100に収容した際に、円柱状の構造体1を構造体1同士の間隔が50μmとなるように凹部2の支持面20上に配置しておくと、50μmより小さい死細胞などの夾雑物105は構造体1間に落ち、細胞群104は構造体1上に配置される。これにより、凹部2の中で細胞群104と夾雑物105との物理的位置が離れるため、細胞群104を器具6で吸引する際に、夾雑物105の混入程度を下げることが可能になる。
【0057】
[製造方法]
支持面20に構造体1が接着して配置された細胞収容容器100の製造方法、および支持面20に構造体1が接着されていない細胞収容容器100の製造方法について説明する。図12は、細胞収容容器の製造方法を示す断面図である。
【0058】
図12(a)を用いて、支持面20に構造体1が接着して配置された細胞収容容器100の製造方法について説明する。まず、凹部2の支持面20上に構造体1が配置された形状に対応する成型用凹版106を作成する。次に、成型用凹版106に対して、樹脂、または金属を流し込む。製造に用いる樹脂材料は、所定の時間以上放置することで硬化する材料、又は紫外線照射等により硬化する光硬化性樹脂、又は加熱により硬化する熱硬化性樹脂である。樹脂が硬化した後に、成型用凹版106を剥離することで、支持面20に構造体1が接着して配置された細胞収容容器100を得ることができる。
【0059】
図12(b)を用いて、支持面20に構造体1が接着されていない細胞収容容器100の製造方法について説明する。まず、細胞収容容器100の凹部2に対応する成型用凹版106を作成する。次に、成型用凹版106に対して、樹脂、または金属を流し込む。製造に用いる樹脂材料は、所定の時間以上放置することで硬化する材料、又は紫外線照射等により硬化する光硬化性樹脂、又は加熱により硬化する熱硬化性樹脂である。樹脂が硬化した後に、成型用凹版106を剥離する。また、任意の直径を有する糸状(線状)の構造体を、任意の長さに切断するなどして構造体1を作成する。成型用凹版106を剥離して得られた樹脂部材の凹部2に、前述の構造体1を配置する。これにより、構造体1が凹部2の支持面20に接着されていない細胞収容容器100を得ることができる。
【0060】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。図14~23は、細胞収容容器の変更例を示す断面図である。以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0061】
図13が示すように、構造体1の形状が円柱状であってもよい。これにより、構造体の角が少なく、細胞に与える物理的なダメージが低減され、細胞の活性低下を抑えることが可能になる。
【0062】
図14に示すように、構造体1の形状は角柱状であってもよい。これにより、構造体1同士の隙間の大きさを任意の状態にして凹部2の底面に配置することが可能になり、夾雑物105の大きさごとに夾雑物105のトラップのしやすさを調整することが可能になる。
【0063】
図15に示すように、構造体1の形状は球体状(粒状)あってもよい。これにより、柱状の構造体1が配置されるのと比較して、構造体1間の空隙が小さくなるため、より小さい夾雑物105を空隙にトラップすることが可能になる。このとき、長さlは、構造体1の直径のことを示す。
【0064】
図16に示すように、構造体1の形状は円盤状であってもよい。これにより、構造体1同士が重なることで構造体1間の空隙が非常に小さくなり、空隙にトラップされた夾雑物105が液中に放出されづらくなる。これにより、細胞を吸引する際に夾雑物105が混入する程度を抑えることが可能になる。
【0065】
図17に示すように、構造体1の形状はおわん型(カップ状)であってもよい。これにより、構造体1の表面が曲面となるため、夾雑物105が構造体1の表面を滑りやすくなり、夾雑物105が凹部2の底面に向かいやすくなる。夾雑物105が凹部2の底面に向かうことで、細胞を吸引する際に夾雑物105が混入する程度を抑えることが可能になる。
【0066】
図18に示すように、構造体1の形状はドーナツ状(環状)であってもよい。これにより、構造体1の表面が曲面となるため、夾雑物105が構造体1の表面を滑りやすくなり、夾雑物105が凹部2の底面に向かいやすくなる。夾雑物105が凹部2の底面に向かうことで、細胞を吸引する際に夾雑物105が混入する程度を抑えることが可能になる。
【0067】
図19に示すように、構造体1の形状は帯状であってもよい。これにより、凹部2内の水流が変化しやすくなり、細胞を吸引する際に夾雑物105を吸い込む頻度を抑えることが可能になる。
【0068】
図20に示すように、構造体1の表面に溝を有していてもよい。これにより、構造体1の表面積が大きくなり、かつ、微細な空隙が生じるため、より細かい夾雑物105を捉えることが可能になる。
【0069】
図21に示すように、構造体1の形状が屈曲した箇所を有していてもよい。これにより、構造体1同士が形成する空隙が大きくなるため、死細胞などの大きな夾雑物105をトラップすることが可能になる。
【0070】
図22に示すように、構造体1の形状が分岐した箇所を有していてもよい。これにより、構造体1同士が形成する空隙が大きくなるため、死細胞などの大きな夾雑物105をトラップすることが可能になる。
【0071】
図23に示すように、構造体1の長さが、細胞を吸引する用のデバイスの吸引口の直径よりも大きくてもよい。これにより、細胞群104を吸引する際に構造体1がデバイスに吸引される頻度を抑えることが可能になり、細胞群104を吸引して別の用途に用いる際に、構造体1が意図せず混入することを防ぐことが可能になる。なお、図15~18に示すような円形の構造体1において、長さlとは構造体1の直径となり、図22に示すような分岐を有する構造体1においては、構造体1の支持面20側の端部と、支持面20から最も離れている分岐部から延伸する構造体1の端部とを結んだ直線の中で最も長い長さを示す。また、複数個の構造体1が凹部2に配置される場合には、構造体1の大きさや形状は全ての構造体1が同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0072】
上記実施形態で説明した本発明に係る細胞収容容器およびその使用方法は、以下の通りである。
【0073】
[1]細胞を収容するための凹部を有する細胞収容容器であって、
比重が1よりも大きく、非水溶性、及び生体適合性を示す、樹脂又は金属から成る複数の構造体が、前記凹部の底面に配置されている、細胞収容容器。
【0074】
[2]前記構造体がポリラクチド(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリグリコリド(PGA)、およびそれらの共重合体をベースとするポリエステル、からなる群より選ばれる1つ以上の材料、もしくは複数の材料の組み合わせから構成される、項目1に記載の細胞収容容器。
【0075】
[3]前記構造体の算術平均粗さ(Ra)が0.03μm以下である、項目1または2に記載の細胞収容容器。
【0076】
[4]
前記構造体が細胞と非接着となる表面処理をされている、項目1~3のいずれか1項に記載の細胞収容容器。
【0077】
[5]前記構造体の形状が円柱状である、項目1~4のいずれか1項に記載の細胞収容容器。
【0078】
[6]前記構造体の端部と端部を結んだ直線の最大の長さが、細胞を吸引する用のデバイスの吸引口の直径以上である、項目1~5のいずれか1項に記載の細胞収容容器。
【0079】
[7]前記構造体の形状が屈曲した箇所を有する、項目1~6のいずれか一項に記載の細胞収容容器。
【0080】
[8]前記構造体の形状が分岐箇所を有する、項目1~7のいずれか一項に記載の細胞収容容器。
【0081】
[9]項目1~8に記載の細胞収容容器の使用方法であって、
前記凹部に細胞を液状体と共に吐出して、前記凹部の底面に配置された前記構造体上に前記細胞を配置し、
前記液状体の水面が平坦になり夾雑物が沈殿する程度の時間を空けた後に、
前記細胞を吸引する、細胞収容容器の使用方法。
【符号の説明】
【0082】
100…細胞収容容器
1…構造体
2…凹部
5…トレイ
6…器具
20…支持面
50…培養用凹部
101…液状体
104…細胞群
105…夾雑物
106…成型用凹版
図1
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