(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175369
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】二方向磁気測定センサ、二方向磁気測定方法及び二方向磁気測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 33/02 20060101AFI20231205BHJP
G01R 33/12 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
G01R33/02 A
G01R33/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087785
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】591006298
【氏名又は名称】JFEテクノリサーチ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中田 崇寛
(72)【発明者】
【氏名】石田 昌義
【テーマコード(参考)】
2G017
【Fターム(参考)】
2G017AA01
2G017AA07
2G017AD02
2G017BA05
2G017BA15
2G017BA18
2G017CB02
2G017CB08
2G017CB11
2G017CB20
(57)【要約】
【課題】モータのギャップ内部のような狭小空隙においても、鉄心表面における磁束の表面に垂直な成分及び表面に平行な成分を同時にかつ独立に測定可能な二方向磁気の測定手段を提供すること。
【解決手段】基板の片面に形成された薄層導体からなる第1導体ループパターンと、前記基板の両面に形成された薄層導体からなる第2導体ループパターンと、前記第1導体ループパターンが同一周回方向となるように接続された第1導体接続部と、前記第1導体接続部が接続された前記第1導体ループパターンの両端に配置された一対の第1端子に第1信号出力線が接続された第1端子部と、前記第2導体ループパターンが同一周回方向となるように接続された第2導体接続部と、前記第2導体接続部が接続された前記第2導体ループパターンの両端に配置された一対の第2端子に第2信号出力線が接続された第2端子部と、を備えることを特徴とする二方向磁気測定センサ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の片面に形成された薄層導体からなる第1導体ループパターンと、
前記基材の両面に形成された薄層導体からなる第2導体ループパターンと、
前記第1導体ループパターンが同一周回方向となるように接続された第1導体接続部と、
前記第1導体接続部が接続された前記第1導体ループパターンの両端に配置された一対の第1端子に第1信号出力線が接続された第1端子部と、
前記第2導体ループパターンが同一周回方向となるように接続された第2導体接続部と、
前記第2導体接続部が接続された前記第2導体ループパターンの両端に配置された一対の第2端子に第2信号出力線が接続された第2端子部と、を備えることを特徴とする二方向磁気測定センサ。
【請求項2】
前記基材は、第1薄板基材と、第2薄板基材と、を含んで構成され、
前記第1導体ループパターンは、前記第1薄板基材の片面に形成され前記第1導体接続部に接続されており、
前記第2導体ループパターンは、前記第2薄板基材の両面に形成されており前記第2薄板基材の端面、又は当該第第2薄板基材に設けられた貫通孔を通過することによって前記第2導体接続部に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の二方向磁気測定センサ。
【請求項3】
前記第2導体ループパターンが前記基材に垂直な平面上に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の二方向磁気測定センサ。
【請求項4】
前記基材と、
前記基材の片面に形成された薄層導体からなる第1導体ループパターンと、
前記基材の両面に形成された薄層導体からなる第2導体ループパターンと、
前記第1導体ループパターンが同一周回方向となるように接続された第1導体接続部と、
前記第2導体ループパターンが同一周回方向となるように接続された第2導体接続部と、が貼り合わされることにより密着一体化された二方向磁気測定センサ本体部分の総厚さが250μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の二方向磁気測定センサ。
【請求項5】
モータのギャップ部に面するステータの内面側に設置した場合において、
前記第1導体ループパターンの中心と、前記第2導体ループパターンの中心とが前記ステータのティース端面の中心部に一致するように形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の二方向磁気測定センサ。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の二方向磁気測定センサを用いた磁性体表面に発生した磁束を二方向に測定することができる二方向磁気測定方法であって、
前記第1端子部に第1信号出力線を接続し、前記第2端子部に第2信号出力線を接続する工程と、
前記第1信号出力線から出力された第1出力信号を第1磁束信号に変換し、前記第2信号出力線から出力された第2出力信号を第2磁束信号に変換する工程と、
前記第1磁束信号と前記第2磁束信号とをそれぞれ独立に記録する工程と、を含むことを特徴とする二方向磁気測定方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の二方向磁気測定センサを含むセンサ部と、
前記第1端子部に接続された第1信号出力線及び前記第2端子部に接続された第2信号出力線と、
前記第1信号出力線から出力された第1出力信号を第1磁束信号に変換する第1磁束信号変換部と、
前記第2信号出力線から出力された第2出力信号を第2磁束信号に変換する第2磁束信号変換部と前記第1磁束信号と前記第2磁束信号とを独立に記録する磁束信号記録部と含む計測部と、を備えたことを特徴とする二方向磁気測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二方向磁気測定センサ、二方向磁気測定方法及び二方向磁気測定装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、モータや変圧器、リアクトル等の電磁機器に使用される鉄心、磁石等の磁気部品における磁気を二方向に測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ、変圧器、リアクトル等の電磁機器は、広く産業、家電等の各分野で利用されている。近年では電気自動車、ハイブリッド車等への電磁機器の利用が急速に拡大している。電気自動車、ハイブリッド車等に搭載されている電磁機器においては、高効率、高エネルギー密度、小型化、高信頼性等が重視される。このため、電磁機器に使用される鉄心の性能に強い影響を与える鉄心に発生する磁気の磁束密度及び磁束強度の適切な測定、制御が重要となる。
【0003】
特に、モータにおいては、ロータ/ステータ間のギャップ部における磁束の強度やその分布がモータの駆動トルクに直接影響することが知られている。例えば、非特許文献1には、ギャップ磁束高調波がトルクリップル、コギング及びモータの機械的振動に強く影響することが開示されている。すなわち、非特許文献1によれば、駆動トルク、トルクリップル、コギング及びモータの機械的振動に対しては、ギャップ磁束成分のうち主としてモータの径方向成分及び接線方向成分が影響することが記載されている。
【0004】
電磁機器に使用される鉄心各部の磁束の測定方法として、特許文献1には、4本の探針を四角形の頂点の位置で鉄心表面に接触するように構成することにより、鉄心最表面の電磁鋼板のX方向とY方向における磁束密度を測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】高畑良一:博士学位論文「圧縮機用埋め込み磁石型同期モータの損失低減技術に関する研究」(国立大学法人東北大学、2015年9月16日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来技術には、以下のような問題がある。すなわち、特許文献1には、磁束密度を測定する方法によって測定できる磁束密度は、鋼板内部における鋼板面に平行な成分のみである。このため、モータにおいては、モータ駆動トルク、トルクリップル、コギング、機械的振動に対して強い影響を及ぼすギャップ磁束密度の径方向成分が測定できないという問題がある。さらに、特許文献1に記載された磁束密度を測定する方法は、磁束測定用の探針が鋼板表面に垂直に伸びる方向に配置されるため、特に、モータのギャップ部内部のような狭小な空隙に磁束測定用の探針を設置することは困難である。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みて、上記問題点を解決するためになされたものであって、モータのギャップ内部のような狭小な空隙においても、鉄心表面における磁束の表面に垂直な成分及び表面に平行な成分を同時にかつ独立に測定可能な二方向磁気の測定手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を有利に解決する本発明に係る二方向磁気測定センサは、基材の片面に形成された薄層導体からなる第1導体ループパターンと、前記基材の両面に形成された薄層導体からなる第2導体ループパターンと、前記第1導体ループパターンが同一周回方向となるように接続された第1導体接続部と、前記第1導体接続部が接続された前記第1導体ループパターンの両端に配置された一対の第1端子に第1信号出力線が接続された第1端子部と、前記第2導体ループパターンが同一周回方向となるように接続された第2導体接続部と、前記第2導体接続部が接続された前記第2導体ループパターンの両端に配置された一対の第2端子に第2信号出力線が接続された第2端子部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
なお、本発明に係る二方向磁気測定センサは、
(a)前記基材は、第1薄板基材と、第2薄板基材と、を含んで構成され、前記第1導体ループパターンは、前記第1薄板基材の片面に形成され前記第1導体接続部に接続されており、前記第2導体ループパターンは、前記第2薄板基材の両面に形成されており前記第2薄板基材の端面又は当該第第2薄板基材に設けられた貫通孔を通過することによって前記第2導体接続部に接続されていること、
(b)前記第2導体ループパターンが前記基材に垂直な平面上に設けられていること、
(c)前記基材と、前記基材の片面に形成された薄層導体からなる第1導体ループパターンと、前記基材の両面に形成された薄層導体からなる第2導体ループパターンと、前記第1導体ループパターンが同一周回方向となるように接続された第1導体接続部と、前記第2導体ループパターンが同一周回方向となるように接続された第2導体接続部と、が貼り合わされることにより密着一体化された二方向磁気測定センサ本体部分の総厚さが250μm以下であること、
(d)モータのギャップ部に面するステータの内面側に設置した場合において、前記第1導体ループパターンの中心と、前記第2導体ループパターンの中心とが前記ステータのティース端面の中心部に一致するように形成されていること等がより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【0011】
さらに、本発明に係る二方向磁気測定方法は、
(e)上記いずれか1に記載の二方向磁気測定センサを用いた磁性体表面に発生した磁束を二方向に測定することができる二方向磁気測定方法であって、前記第1端子部に第1信号出力線を接続し、前記第2端子部に第2信号出力線を接続する工程と、前記第1信号出力線から出力された第1出力信号を第1磁束信号に変換し、前記第2信号出力線から出力された第2出力信号を第2磁束信号に変換する工程と、前記第1磁束信号と前記第2磁束信号とをそれぞれ独立に記録する工程と、を含む。
【0012】
また、本発明に係る二方向磁束測定装置は、
(f)上記に記載の二方向磁気測定センサを含むセンサ部と、
前記第1端子部に接続された第1信号出力線及び前記第2端子部に接続された第2信号出力線と、
前記第1信号出力線から出力された第1出力信号を第1磁束信号に変換する第1磁束信号変換部と、
前記第2信号出力線から出力された第2出力信号を第2磁束信号に変換する第2磁束信号変換部と前記第1磁束信号と前記第2磁束信号とを独立に記録する磁束信号記録部と含む計測部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鉄心表面における磁束の表面に垂直な成分及び表面に平行な成分を二方向同時にかつ独立に測定することにより、電磁機器に使用される鉄心の磁気を測定し、制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る二方向磁気測定センサの構成を示す概要図である。
図1(a)は二方向磁気測定センサの正面図であり、
図1(b)は二方向磁気測定センサの側面図である。
【
図2】本実施形態に係る二方向磁気測定センサ本体部分の断面における積層構造を示す。
【
図3】モータのステータ歯部によって形成された空隙おけるR-θ方向及びR-Z方向の二方向磁気測定センサの設置状況を示す。
【
図4】本実施形態に係る二方向磁気測定装置の概要を示す図であって、二方向磁気測定センサ部、磁束信号変換、磁束信号を計測記録する計測部を備えた装置の概要を示す図である。
【
図5】本実施形態に係る二方向磁気測定装置を用いてモータの磁束密度を測定した場合における経時変化に対するモータの二方向磁束密度を示す磁束波形データである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて、本実施形態に係る二方向磁気測定センサについて説明する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、それらの構成を下記のものに限定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る二方向磁気測定センサについて説明する。ここで、本発明に係る二方向磁気測定センサは、モータ、変圧器、リアクトル等のあらゆる電磁機器に適用することができる。本実施形態では、特に電磁機器がモータである場合に適用される二方向磁気測定センサ100について説明する。
【0017】
本実施形態に係る二方向磁気測定センサは、基材の片面に形成された薄層導体からなる第1導体ループパターンと、前記基材の両面に形成された薄層導体からなる第2導体ループパターンと、前記第1導体ループパターンが同一周回方向となるように接続された第1導体接続部と、前記第1導体接続部が接続された前記第1導体ループパターンの両端に配置された一対の第1端子に第1信号出力線が接続された第1端子部と、前記第2導体ループパターンが同一周回方向となるように接続された第2導体接続部と、前記第2導体接続部が接続された前記第2導体ループパターンの両端に配置された一対の第2端子に第2信号出力線が接続された第2端子部と、を備える。
以下、本実施形態に係る二方向磁気測定センサを構成する各部材について説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る二方向磁気測定センサ100の構成を示す概要図である。
図1に示されるように、本実施形態に係る二方向磁気測定センサ100が備えている第1導体ループパターン102及び第2導体ループパターン106は、基材101にそれぞれ形成されている。
第1導体ループパターン102は、基材101の片側の表面である基材正面101aに形成され、第2導体ループパターン106は、基材101に開けられた2カ所の貫通孔を通して基材正面101a及び基材背面101bに跨って形成される。以下、二方向磁気測定センサ100の構成について、詳細に説明する。
【0019】
図1(a)は、二方向磁気測定センサ100の正面図である。
図1(a)に示されるように、本実施形態に係る二方向磁気測定センサ100は、基材101の片面である基材正面101aに形成された薄層導体からなる第1導体ループパターン102を備えている。基材正面101a及び基材背面101bは、磁気を測定する対象となる磁性体の測定面と対向する面である。
基材101は、第1導体ループパターン102及び第2導体ループパターン106を形成するためのベースとなる基板である。基材101としては、バルク基材、薄板基材、薄膜シート等を例示することができる。
基材101を構成する材料としては、強靭性と可撓性を備えるポリイミド樹脂などを用いることができるが、その表面に導体パターニングが可能であればこれに限られない。基材101は、磁界の影響を受けない材料から構成されている。さらに、基材101は、電気を通し易い性質を有しない材料から構成されている。すなわち、基材101は、非磁性体及び非導電性を有する材料から構成されていることを要する。その理由は、モータ等の電磁機器から発生する磁力線の漏れ、不要な発熱等による損失を生じないようにするためである。
【0020】
さらに、基材101は、強靭性と可撓性とを備えていることが好ましい。その理由は、基材101が強靭性と可撓性とを備えていることによって、耐久性に優れ、モータ等のギャップ内部のような狭小な間隙において設置することができる二方向磁気測定センサを構築することができるからである。このような観点から、基材101を構成する材料としては、ポリイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、低誘電率ポリイミド樹脂、低膨張性ポリイミド樹脂等であることが好ましい。
【0021】
基材101の厚さは、5.0~100μmであることが好ましい。基材101の厚さが5.0μm以上であれば、基材101に形成される第1導体ループパターン102を安定して形成することができるので好ましい。基材101の厚さが100μm以下であれば、二方向磁気測定センサ100の薄板化を図ることができるため好ましい。
【0022】
基材101は、その片面である基材正面101aに形成された薄層導体からなる第1導体ループパターン102を備えている。第1導体ループパターン102は、二方向磁気測定センサ100が測定することができる二方向の磁束のうち、磁束の表面に垂直な方向(R方向)の磁束成分を測定するための導体ループパターンである。第1導体ループパターン102は、当該第1導体ループパターン102が同一周回方向となるように形成されている。
第1導体ループパターン102のパターン形状は、磁気を測定する対象となる磁極面の形態に応じて適宜設定することができ、具体的に第1導体ループパターン102のパターン形状としては、正方形、長方形、台形、五角形、六角形、円形、楕円形等を挙げることができる。第1導体ループパターン102のパターン幅は、1.0mm以下、例えば、0.1~0.6mmであることが好ましい。
そして、第1導体ループパターン102は、第1導体接続部103に接続される。さらに、第1導体接続部103は第1端子部104に接続され、第1端子部104は第1信号出力線105と接続されている。
【0023】
第1導体ループパターン102の厚さは、10~100μmであることが好ましい。第1導体ループパターン102の厚さが10μm以上であれば、薄層導体としての機械的強度を維持することができるため好ましい。一方、第1導体ループパターン102の厚さが100μm以下であれば、モータ等のギャップ内部のような狭小な間隙に二方向磁気測定センサを設置することができるため好ましい。
【0024】
第1導体ループパターン102を形成するための導電性材料としては、銅、アルミニウム等の導電性金属箔等が使用可能であるが、導電性があり、非磁性であれば他の材料であってもよい。すなわち、第1導体ループパターン102は、導電性と非磁性とを有する材料から構成されていれば特に制限されない。第1導体ループパターン102を構成する材料としては、銅、アルミニウム、金、銀、鉄から選ばれる少なくとも1種類以上の金属であることが好ましい。また、第1導体ループパターン102を構成する材料としては、カーボン、導電性高分子等の非金属であってもよい。
【0025】
第1導体ループパターン102を構成する導体パターニングの形成方法としては、導体パターンを形成することができる方法であれば、特に制限されるものではないが、例えばフォトレジストを用いるフォトエッチング法、導体メッキ法、銅箔クラッド法等の任意の液相法、気相法、固相法を利用できる。基材101の基材正面101aと、第1導体ループパターン102と、の接着は、接着剤を含む接着層を設けることによって行ってもよいし、粘着テープ等を用いて接着層を設けることによって行ってもよい。
【0026】
すなわち、基材101、第1導体ループパターン102及び後述する第2導体ループパターン106からなる多層体を二方向磁気測定センサ本体として一体化するために、接着剤等からなる接着層を基材101、第1導体ループパターン102及び第2導体ループパターン106の間に形成される各隙間に挟み込んで一体化することができる。ここで、接着層が接着剤を用いて形成される場合に使用することができる接着剤としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂等、既知の非磁性非導電性接着剤を用いることができるが、これに限られるものではない。接着層は、基材101、第1導体ループパターン102及び第2導体ループパターン106にあらかじめ接着剤を塗布することによって形成される。
また、接着層が接着テープを用いて形成される場合に使用することができる接着テープとしては、ポリエステルフィルムテープ、フッ素樹脂フィルムテープ等を挙げることができる。
【0027】
さらに、基材101は、基材正面101a及び基材背面101bに形成された薄層導体からなる第2導体ループパターン106を備えている。第2導体ループパターン106は、基材101の基材正面101aに形成された第2導体ループパターン106aと、基材101の基材背面101bに形成された第2導体ループパターン106bと、を備える。第2導体ループパターン106は、二方向磁気測定センサ100が測定することができる二方向の磁束のうち、磁束の表面に平行な方向(たとえば、θ方向やZ方向)の磁束成分を測定するための導体ループパターンである。第2導体ループパターン106は、当該第2導体ループパターン106が同一周回方向となるように形成されている。
第2導体ループパターン106のパターン形状は、磁気を測定する対象となる磁極面の形態に応じて適宜設定され、具体的に第2導体ループパターン106のパターン形状としては、正方形、長方形、台形等を挙げることができる。第2導体ループパターン106のパターン幅は、1.0mm以下、例えば、0.1~0.6mmであることが好ましい。そして、第2導体ループパターン106は、第2導体接続部107と接続される。さらに、第2導体接続部107は、第2端子部108に接続され、第2端子部108は第2信号出力線109と接続されている。
【0028】
第2導体ループパターン106aは、第1導体ループパターン102が形成されている基材正面101aと同一の面に形成されている。第2導体ループパターン106aは、基材正面101aにおいて、第1導体ループパターン102と重なり合うことがないように形成される。
【0029】
例えば、第2導体ループパターン106aは、第1導体ループパターン102が形成されていない基材正面101aの位置にずらして形成されていてもよい。また、第2導体ループパターン106aは、第1導体ループパターン102が形成されている領域以外の基材正面101aの領域を選択して形成されていてもよい。
【0030】
第2導体ループパターン106bは、基材101の側面端面、又は当該基材101に設けられた貫通孔を第2導体ループパターン106aが通過することによって形成される。具体的には、基材101の上端部に設けられた貫通孔から第2導体ループパターン106aを通過させ、基材正面101aに第2導体ループパターン106aを形成させる。その後、基材101の下端部に設けられた貫通孔から第2導体ループパターン106aを通過させることによって、基材101の基材背面101bに第2導体ループパターン106bを形成させる。このように、基材101の基材正面101aに第2導体ループパターン106aが形成され、基材101の基材背面101bに第2導体ループパターン106bが形成される。
【0031】
第2導体ループパターン106aが基材101の端面を通過することによって形成される場合には、貫通孔を設けなくてもよい。基材101が貫通孔を有していない場合には、基材101の上方端面及び下方端面を通過して第2導体ループパターン106a及び第2導体ループパターン106bが基材101の基材正面101a及び基材背面101bに形成される。
【0032】
さらに、基材101の上端部に貫通孔を設けることなく、第2導体ループパターン106aが基材101の上方端面を通過するように形成してもよい。また、基材101の下端部に貫通孔を設けることなく、第2導体ループパターン106aが基材101の下方端面を通過し、第2導体ループパターン106bを基材背面101bに形成してもよい。また、第2導体ループパターン106aが基材101の上方端面を通過し、基材101の下端部に設けられた貫通孔を通過し、第2導体ループパターン106bを基材背面101bに形成してもよい。第2導体ループパターン106aが基材101の上端部に設けられた貫通孔を通過し、基材101の下方端面を通過し、第2導体ループパターン106bを基材背面101bに形成してもよい。
なお、貫通孔の大きさは、第2導体ループパターン106a及び第2導体ループパターン106bの幅方向の長さよりも同一であるか、又は短く設定される。
【0033】
図1(b)は、二方向磁気測定センサの側面図である。
図1(b)に示されるように、基板101は、第1薄板基材111と、第2薄板基材112と、を含んで構成されていてもよい。基材101が第1薄板基材111と第2薄板基材112とを含んで構成される場合には、第1導体ループパターンが形成されていない第1薄板基材111の片面である第1薄板基材背面111bと、第2導体ループパターン106aが形成されている第2薄板基材112の第2薄板基材正面112aとが対向するようにして構成される。例えば、第1薄板基材111と第2薄板基材112との間に接着層を設けることにより、第1薄板基材111と第2薄板基材112とが貼り合わされた後、接着されて密着一体化されていてもよい。
【0034】
図2は、本実施形態に係る二方向磁気測定センサの断面における二方向磁気測定センサ本体部分の積層構造を示す。
図2に示されるように、二方向磁気測定センサ100は、モータ等の電磁機器に発生している磁束との密着面となる磁極面Sから当該磁束に離れる方向に向かって、カバーレイ110a、第1導体ループパターン102、第1薄板基材111、第2導体ループパターン106a、第2薄板基材112、第2導体ループパターン106b、カバーレイ110bの順に配置され、これらの部材を含んで構成される。例えば、二方向磁気測定センサ100は、これらの部材を貼り合わせて一体密着化するために各部材の間に接着層115を備えていてもよい。第2薄板基材112には、上端に貫通孔113aが設けられ、下端には貫通孔113bが設けられている。第2導体ループパターン106aは、貫通孔113aを通過して、第2薄板基材正面112aに貼り付けられ、貫通孔113bを通過する。貫通孔113bを通過した第2導体ループパターン106bは、第2薄板基材背面112bに貼り付けられる。
【0035】
ここで、第1導体ループパターン102と第1薄板基材111とから形成される部分は、二方向磁気測定センサ100が測定することができる二方向の磁束のうち、磁束の表面に垂直な方向(R方向)の磁束成分を測定するために形成されている。第2導体ループパターン106aと第2薄板基材112と第2導体ループパターン106bとからから形成される部分は、二方向磁気測定センサ100が測定することができる二方向の磁束のうち、磁束の表面に平行な方向(θ方向)の磁束成分を測定するために形成されている。
【0036】
第1薄板基材111、第2薄板基材112、第1導体ループパターン102、第2導体ループパターン106を含んで構成される二方向磁気測定センサ本体部分を形成する多層体の両側に存在する外側表面にカバーレイ層を設けて、当該外側表面を覆うことにより、当該二方向磁気測定センサの機械的強度を増強してもよい。特に、モータ鉄心の歯部先端面などのように湾曲した部分に二方向磁気測定センサを設置する場合等には、必要な可撓性を増強する上でより好適となる。カバーレイ層は、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレートその他の材料の薄膜を接着する方法のほか、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂等の塗布により形成することもできる。
【0037】
すなわち、カバーレイ110a及びカバーレイ110bは、二方向磁気測定センサ100の本体部分を形成する多層体の両側に存在する外側表面を保護するために用いられ、二方向磁気測定センサ100の薄板化が可能な材料から構成され、高屈曲性、柔軟性、耐熱性、寸法安定性に優れている。カバーレイ110a及びカバーレイ110bとしては、例えば、ポリイミドフィルムの片面に接着剤を塗布して接着層を形成した後、当該接着層の表面を保護するためにセパレーターを貼り合わせて製造することができる。カバーレイ110a及びカバーレイ110bとして、ノンハロ対応カバーフィルム、超薄膜カバーフィルム等を採用することもできる。
【0038】
二方向磁気測定センサ100において、第1薄板基材111と、第1薄板基材111の第1薄板基材正面111aに形成された薄層導体からなる第1導体ループパターン102と、第2薄板基材正面112aに形成された薄層導体からなる第2導体ループパターン106aと、第2薄板基材背面112bに形成された薄層導体からなる第2導体ループパターン106bと、第2薄板基材112と、を含んで構成される二方向磁気測定センサ本体部分の総厚さが250μm以下であることが好ましい。
具体的には、二方向磁気測定センサ本体部分の総厚さは、50~250μm、さらに、75~150μmであることが好ましい。二方向磁気測定センサ本体部分の総厚さが50~250μmであれば、通常の使用に必要な十分な可撓性を当該測定センサに与えることができるとともに、磁束の表面に垂直な方向(R方向)の磁束成分及び磁束の表面に平行な方向(θ方向)の磁束成分を感度よく測定することができる。さらに、二方向磁気測定センサ本体部分の総厚さが75~150μmであれば、モータ等のギャップ内部のような狭小な空隙に二方向磁気測定センサを設置することができるため好ましい。
なお、密着一体化された後の二方向磁気測定センサ本体部分がカバーレイ110a及びカバーレイ110bを備える場合には、これらのカバーレイを含んで構成される磁気測定センサ本体部分の総厚さが300μm以下、であることが好ましい。
【0039】
本発明の他の一態様としては、具体的に第1薄板基材111がその厚さ12.5μm以下のポリイミドからなり、上記の1個以上の第1導体ループパターン102、上記の1個以上の第2導体ループパターン106、上記の1個以上の第1導体接続部103及び上記の1個以上の第2導体接続部107のいずれもが、厚さ18μm以下の銅箔からなり、第1薄板基材111、1個以上の第1導体ループパターン102、1個以上の第2導体ループパターン106、1個以上の第1導体接続部103及び1個以上の第2導体接続部107を密着一体化させる接着層がいずれも20μm以下の接着層115からなり、上記部材を密着一体化させた後の二方向磁気測定センサ本体部分の総厚さを250μm以下としたる二方向磁気測定センサである。二方向磁気測定センサ本体部分の総厚さを250μm以下とすることにより、通常の使用に必要な十分な可撓性を二方向磁気測定センサ100に与えることができる。
【0040】
図3は、モータのステータ歯部におけるR-θ方向及びR-Z方向における二方向磁気
測定センサ100の設置状況を示す。
図3に示されるように、本実施形態に係る二方向磁気測定センサ100は、ロータ201とステータ202とを備えたモータ200に設置することができる。本実施形態に係る二方向磁気測定センサ100は、薄膜化が可能な材料から構成されており、高屈曲性、柔軟性、耐熱性等に優れているため、矢印で示された湾曲方向に湾曲することができ、ロータ201の外縁端部と当該ロータ201の外縁端部と対向するステータ202の内部側壁から形成されるギャップ内部狭小間隙204に設置することができる。なお、左側側壁となるステータ歯部203、右側側壁となるステータ歯部203、ステータ202の内部側壁、及び外周部ステータ202の外部側壁から形成されるステータ内部空隙205には、二方向磁気測定センサ100が備えている第1信号出力線105及び第2信号出力線等を挿入することもできる。
【0041】
図3に示すように、電磁機器(モータ)200のステータ歯部203の先端部において、基材101の第1薄板基材111の面に平行な磁束の成分がロータの円周方向(θ方向)に平行となるようにも、ロータ201の軸方向(Z方向)に平行となるようにも変更することができる。このような位置の変更は、二方向磁気測定センサ100をモータ200のステータ歯部203の先端部に設置する方向を回転させることによって可能である。
【0042】
本発明の他の一態様は、上記の二方向磁気測定センサ100をモータ200のギャップ部に面するステータ202の内面側に設置した場合に、上記の1個以上の第1導体ループパターン102の中心と、上記の1個以上の第2導体ループパターン106の中心とが、ステータ202のティース端面中心部に一致するパターンとする二方向磁気測定センサ100である。このように、二方向磁気測定センサ100が備えている第1導体ループパターン102の中心と上記の1個以上の第2導体ループパターン106の中心とが、ステータ202のティース端面中心部に一致するパターンとすることによって、計測位置の高精度化を図ることができる。
【0043】
さらに、本実施形態に係る二方向磁気測定センサ100において、当該二方向磁気測定センサ100を磁性体密着面Sに設置し、磁性体密着面Sにおける磁束の磁性体密着面Sに垂直な成分に対応する信号と、上記の磁性体密着面Sにおける磁束の表面に平行な成分に対応する信号とを同時に出力することにより、二方向磁束に対応する信号を得ることができる。
その際、第1導体ループパターン102には、磁性体密着面Sに垂直な方向の磁束成分に対応した電圧が誘導され、第2導体ループパターン106には、磁性体密着面Sに平行な方向の磁束成分に対応した電圧が誘導されるため、双方の電圧を同時に検出することにより、二方向の磁束を測定することができる。第1導体ループパターン102、あるいは第2導体ループパターン106を2個以上設けた場合には、それぞれを直列に接続することにより、さらに信号強度を増強してS/N比を改善することができるため、より好適である。
【0044】
二方向磁気測定センサ100によって測定することができる二方向磁束の方向としては当該センサ面に平行な方向と、当該センサの厚み方向とを前提とする。なお、二方向磁気測定センサ100の形態を適宜変更することにより、三方向以上の磁束の方向における磁束密度を測定することができる。
二方向磁気測定センサ100の面に平行な磁束方向は、当該センサ100の設置方向を当該センサ面内で回転することにより、変化させることができる。また、モータ200のロータ201/ステータ202間のギャップにおける二方向磁束の測定時には、二方向磁気測定センサ100は、ロータ201側に位置するステータ202の円筒側面の一部に沿って変形することになる。このような場合であっても、二方向磁気測定センサ100に強靭性及び可撓性を付与して、かつ二方向磁気測定センサ100の本体部分の厚さを十分な薄さとすることにより、二方向磁気測定センサ100のセンサ面を回転させた構成とする場合にも耐えることができる。
【0045】
さらに、本発明の他の一態様は、上記の1個以上の第2導体ループパターン106のいずれもが、上記の基材101に垂直な平面上にあり、該平面がすべて互いに平行である上記の二方向磁気測定センサ100である。第2導体ループパターン106がそれぞれ同一平面上にあり、その平面が基材101に垂直である場合には、第1導体ループパターン102と第2導体ループパターン106に発生する誘導起電力は、基材101面に垂直な磁束の成分と基材101面に平行な磁束の成分に対応する成分に分離することができる。
【0046】
以上説明したように、本実施形態に係る二方向磁気測定センサは、薄板基材の片面に形成された薄層導体からなる第1導体ループパターンと、前記薄板基板の両面に形成された薄層導体からなる第2導体ループパターンとを備えているので、モータ等のギャップ内部のような狭小な空隙においても、鉄心表面における磁束の表面に垂直な成分及び表面に平行な成分を同時にかつ独立に測定することにより、電磁機器に使用される鉄心の局所領域における磁束を測定し、制御することができる。
【0047】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る二方向磁気測定方法について説明する。すなわち、本発明の他の一態様は、上記二方向磁気測定センサを用い、上記第1及び第2の端子部にそれぞれ第1及び第2の信号出力線を接続し、上記の第1及び第2の信号出力線からの出力信号をそれぞれ第1及び第2の磁束信号に変換し、上記の第1及び第2の磁束信号を独立に記録する二方向磁気測定方法である。
【0048】
すなわち、第2実施形態に係る二方向磁気測定方法は、二方向磁気測定センサを用いた磁性体表面に発生した磁束を局所的かつ二方向に測定することができる二方向磁気測定方法であって、(i)前記第1端子部に第1信号出力線を接続し、前記第2端子部に第2信号出力線を接続する工程と、(ii)前記第1信号出力線から出力された第1出力信号を第1磁束信号に変換し、前記第2信号出力線から出力された第2出力信号を第2磁束信号に変換する工程と、(iii)前記第1磁束信号と前記第2磁束信号とをそれぞれ独立に記録する工程と、を含むことを特徴とする。
以下、本実施形態に係る二方向磁気測定方法に含まれる各工程について説明する。
【0049】
<工程(i);端子部に信号出力線を接続する工程>
本実施形態に係る二方向磁気測定方法は、(i)前記第1端子部に第1信号出力線を接続し、前記第2端子部に第2信号出力線を接続する工程を含む。上記実施形態に係る二方向磁気測定センサは、2つの第1端子からなる第1端子部104を備え、2つの第2端子からなる第2端子部108を備えている。工程(i)は、第1端子部104に第1信号出力線105を接続し、第2端子部108に第2信号出力線109を接続する。工程(i)は、二方向磁気測定センサ100によって測定された磁気を計測するための計測系を構築するための準備工程である。
【0050】
<工程(ii);信号出力線から出力された出力信号を磁束信号に変換する工程>
本実施形態に係る二方向磁気測定方法は、前記第1信号出力線から出力された第1出力信号を第1磁束信号に変換し、前記第2信号出力線から出力された第2出力信号を第2磁束信号に変換する工程を含む。工程(ii)は、各信号出力線から出力された出力信号をそれぞれ磁束信号に変換する工程である。二方向磁気測定センサ100の第1信号出力線105及び第2信号出力線109から出力された第1及び第2の信号出力を磁束信号に変換する方法は、第1及び第2の信号出力が、例えばモータのロータ/ステータ間のギャップにおける誘導起電力波形として取得できる方法であれば特に限定されない。
例えば、第1及び第2の信号出力をディジタルストレージオシロスコープにより時間積分する方法、またはアナログ-ディジタル変換器を用いて出力電圧波形をコンピュータに取り込み、数値的に時間積分する方法、ディジタルストレージオシロスコープ(DSO)に取り込んでDSO内部演算により時間積分する等の方法により、第1信号出力線105及び第2信号出力線109から出力された第1及び第2の信号出力をそれぞれの磁束信号に変換することができる。なお、上記時間積分処理をした後に、勾配補正処理と中心化補正処理とをしてもよい。
【0051】
<工程(iii);磁束信号を記録する工程>
本実施形態に係る二方向磁気測定方法は、前記第1磁束信号と前記第2磁束信号とをそれぞれ独立に記録する工程を含む。すなわち、工程(iii)は、工程(ii)において取得された磁束の表面に垂直な成分と磁束表面に平行な成分とをそれぞれ独立に評価して記録する工程である。工程(iii)において、磁束信号の記録方法は、磁束の表面に垂直な成分及び表面に平行な成分を独立に記録することができるものであれば特に制限されない。
【0052】
一般にモータのロータ/ステータ間のギャップにおける誘導起電力は、微小である。このため、工程(iii)において、第1及び第2の信号出力を電圧増幅器により適宜増幅することにより、より高精度の出力電圧波形信号、延いては磁束波形信号を得ることができる。
【0053】
以上説明したように、本実施形態に係る二方向磁気測定方法は、上記二方向磁気測定センサを用いるので、モータ等のギャップ内部のような狭小な空隙においても、鉄心表面における磁束の表面に垂直な成分及び表面に平行な成分を同時にかつ独立に測定することにより、電磁機器に使用される鉄心の局所領域における磁気を測定し、制御することができる。
【0054】
[第3実施形態]
第3実施形態に係る二方向磁気測定装置について説明する。すなわち、本発明の他の一態様は、二方向磁気測定センサと、上記の第1及び第2の信号出力線からの出力信号をそれぞれ第1及び第2の磁束信号に変換する第1及び第2の磁束信号変換装置と、上記の第1及び第2の磁束信号を独立に記録する第1及び第2の磁束信号記録装置とを備え、上述の方法により、二方向磁束を測定する二方向磁気測定装置である。
【0055】
すなわち、本実施形態に係る二方向磁気測定装置は、二方向磁気測定センサを含むセンサ部と、前記第1端子部に接続された第1信号出力線及び前記第2端子部に接続された第2信号出力線と、前記第1信号出力線から出力された第1出力信号を第1磁束信号に変換する第1磁束信号変換部と、
前記第2信号出力線から出力された第2出力信号を第2磁束信号に変換する第2磁束信号変換部と、前記第1磁束信号と前記第2磁束信号とを独立に記録する磁束信号記録部と、を備えたことを特徴とする。
以下、本実施形態に係る二方向磁気測定装置300が備えている各部材について説明する。
【0056】
図4は、本実施形態に係る二方向磁気測定装置300の概要を示す図である。
図4に示
されるように、本実施形態に係る二方向磁気測定装置300は、二方向磁気測定センサ100を含むセンサ部301と、磁束信号変換部321と磁束信号を計測記録する計測部322とを含む計測部302と、を備える。
【0057】
本実施形態に係る二方向磁気測定装置300は、二方向磁気測定センサ100を含むセンサ部301を備える。センサ部301に含まれている二方向磁気測定センサ100は上記実施形態に係る二方向磁気測定センサ100である。二方向磁気測定センサ100は、基材101と、第1導体ループパターン102と、第2導体ループパターン106と、第1導体接続部103と、第1信号出力線105が接続された第1端子部104と、第2導体接続部107と、第2端子に第2信号出力線109が接続された第2端子部108とを備える。
【0058】
本実施形態に係る二方向磁気測定装置300のセンサ部301に含まれる二方向磁気測定装置100は、第1端子部104に接続された第1信号出力線105及び第2端子部108に接続された第2信号出力線109を備える。第1信号出力線105及び第2信号出力線109は、センサ部301と計測部302とを接続する。第1信号出力線105及び第2信号出力線109から出力された出力信号は、計測部302において、増幅される。さらに、計測部302において増幅された第1出力信号及び第2出力信号は、積分される。
【0059】
本実施形態に係る二方向磁気測定装置が備えている計測部302は、第1信号出力線105から出力された第1出力信号を第1磁束信号に変換する第1磁束信号変換部と、第2信号出力線109から出力された第2出力信号を第2磁束信号に変換する第2磁束信号変換部とを有する磁束信号変換部321を含む。第1及び第2の信号出力をそれぞれ第1磁束信号に変換する第1磁束信号変換部、第2信号出力線109から出力された第2出力信号を第2磁束信号に変換する第2磁束変換部としては、ディジタルストレージオシロスコープにより時間積分する装置、またはアナログ-ディジタル変換器を用いて出力電圧波形をコンピュータに取り込み、数値的に時間積分する装置、ディジタルストレージオシロスコープ(DSO)に取り込んで当該DSO内部演算により時間積分する等の装置を採用することができる。
【0060】
本実施形態に係る二方向磁気測定装置300は、磁束信号変換部321により変換された磁束信号を独立に記録する磁束信号記録部を含む計測部322を備える。磁束信号変換部321により変換された磁束信号を独立に記録する磁束信号記録部を含む計測部322は、例えば、中央演算装置であってもよい。
【0061】
以上説明したように、第3実施形態に係る二方向磁気測定装置は、上記実施形態に係る二方向磁気測定センサを備えているので、モータ等のギャップ内部のような狭小な空隙においても、鉄心表面における磁束の表面に垂直な成分及び表面に平行な成分を同時にかつ独立に測定することにより、電磁機器に使用される鉄心の局所領域における磁束を測定し、制御することができる。
【0062】
さらに、上記実施形態に係る二方向磁気測定方法を実施するために用いるコンピュータプログラムを例示することができる。このコンピュータプログラムは、上記実施形態に係る二方向磁気測定装置の各機能を実現する処理内容を記述したプログラムまたはプログラムを記録した記憶媒体としても実現し得る。このため、本発明の技術的範囲には、これらも包含されると理解されたい。
【0063】
上記コンピュータプログラムは、システムあるいは装置に直接又は遠隔から供給されていてもよい。従って、本発明の上記実施形態をコンピュータで実現するために、コンピュータにインストールされるプログラム、又は当該プログラムを格納した媒体、当該プログラムをダウンロードさせるWWW(World Wide Web)サーバーも、本発明の技術的範囲の範疇に含まれる。さらに、上記実施形態に係る二方向磁気測定方法を実施するための処理ステップをコンピュータに実行させるプログラムを格納した非一時的コンピュータ可読媒体も、本発明の技術的範囲の範疇に含まれる。
【0064】
以上説明したように、上記コンピュータプログラムは、上記実施形態に係る二方向磁気測定方法の各工程を実現することができるように構成されているので、モータ等のギャップ内部のような狭小な空隙においても、鉄心表面における磁束の表面に垂直な成分及び表面に平行な成分を同時にかつ独立に測定することにより、電磁機器に使用される鉄心の局所領域における磁束を測定し、制御することができる。
【0065】
[他の実施形態]
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明の技術的範囲で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【実施例0066】
二方向磁気測定センサをモータのステータ歯部先端部の磁束測定に適用した。適合例として、表1に示す13層の構成とした場合を示す。なお、表1には、層No.各層を構成する材料及び各層の厚さ(μm)を示した。
【0067】
【0068】
非磁性非導電性の基材としては厚さ12.5μmのポリイミドシートを2層基材に用い、第1及び第2導体ループパターンの材料としては厚さ18μmの圧延銅箔を3層用い、カバーレイとして厚さ12.5μmのポリイミドシートを2層用い、各層間を厚さ20μmの接着層により接着する方法を採用している。
【0069】
なお、二方向磁気測定センサの構造は、
図1及び
図2に準じている。第2導体ループパターン形成には、ポリイミド基材に開けた貫通孔を通して基材面方向の磁束に鎖交する方法をとる。このようにして密着一体化後の二方向磁気測定センサの合計厚さは224μmであり、250μm以下となる。
【0070】
供試モータとして定格出力2kWの埋込磁石型同期モータを用いた。供試モータのステータ歯部先端部に貼付したR-θの二方向磁気測定センサにより、ステータ/ロータギャップ部における磁束を測定した。モータ駆動条件は、トルク出力2Nm、回転数2000rpmの条件で連続的に回転動作させた状態とした。
【0071】
二方向磁気測定センサは、歯部先端部の2カ所でR方向及びθ方向の2方向の出力が可能であり、R方向及びθ方向の導体ループパターンの中心が一致する配置とした。2カ所のR方向及びθ方向の導体ループパターンはそれぞれ1ターンのループを形成している。R1、θ1、R2、θ2は、この2カ所のR方向及びθ方向を示す。2カ所のR方向及びθ方向の導体ループパターンの誘導起電力出力4チャンネル分をディジタルストレージオシロスコープに入力して時間積分した。なお、ロータリーエンコーダ信号によりロータ回転位置に対して同期して誘導起電力信号を連続採取し、平均化処理を施すことによってS/N比を改善している。
図5に上記二方向磁気測定装置を用いてモータの磁束を測定した結果を示す。
【0072】
図5は、本発明に係る二方向磁気測定装置を用いてモータの磁束を測定した場合におけるモータのステータ/ロータギャップ部において測定した二方向磁束波形データである。
図5からも明らかなように上記磁束の測定方法により測定したステータ/ロータギャップ部における磁束信号(磁束密度に変換後)は、測定位置によりロータの回転速度に応じた位相差がR1/R2、θ1/θ2間に適切に測定されていることが示されている。
【0073】
このように、本発明に係る二方向磁気測定センサを備えた測定装置を用いることにより埋込磁石型同期モータの磁束を局所的かつ二方向に測定することができる。
本発明は、種々の電磁機器の磁気部品における磁束を局所的かつ二方向測定する技術に適用可能であり、電磁機器の設計、検査等に好適に利用できるので、製鉄業、電機機器産業等の産業上きわめて有用である。