(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175397
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】無線基地局、制御方法、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 72/566 20230101AFI20231205BHJP
【FI】
H04W72/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087820
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】500112146
【氏名又は名称】サイレックス・テクノロジー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西原 健太
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA11
5K067DD11
5K067EE02
5K067EE10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】スループットの低下を抑制する無線基地局、制御方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】無線基地局は、配下の無線端末との間で通信フレームを送受信する第1通信部201と、他の無線基地局との間で通信フレームを送受信する第2通信部202と、無線端末との無線接続処理時に取得した無線通信に関する情報である無線端末情報を記憶する記憶部203と、第1通信部201または第2通信部202から通知された通信フレームの送信先アドレスが自装置の配下の無線端末それぞれのアドレスであるか否かを判定する転送部204と、転送部204の通知を基に通信フレームのToSフィールドに格納する優先順位情報を変更する変更部205と、転送部204の通知をもとに変更部205で処理された通信フレームを第1通信部201または第2通信部202から送信先アドレスの無線端末に向けて送信するように制御する制御部206と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無線基地局間で互いに無線通信を行い、それぞれの無線基地局に接続する配下の無線端末それぞれが無線通信を行う通信システムにおける無線基地局であって、
前記配下の無線端末との間で通信フレームを送受信する第1通信部と、
他の無線基地局との間で通信フレームを送受信する第2通信部と、
前記無線端末との無線接続処理時に取得した無線通信に関する情報である無線端末情報を記憶する記憶部と、
前記第1通信部または第2通信部から通知された通信フレームの送信先アドレスが自装置の前記配下の無線端末それぞれのアドレスであるか否かを判定する転送部と、
前記転送部の通知を基に前記通信フレームのToSフィールドに格納する優先順位情報を変更する変更部と、
前記転送部の通知をもとに前記変更部で処理された通信フレームを前記第1通信部または前記第2通信部から送信先アドレスの無線端末に向けて送信するように制御する制御部と、
を備える無線基地局。
【請求項2】
前記変更部は、前記転送部が前記第1通信部から通知された前記通信フレームの送信先アドレスが自装置の前記配下の無線端末のアドレスでない場合には、当該通信フレームを少なくとも中位以上の優先度で送信させる
請求項1に記載の無線基地局。
【請求項3】
変更部は、さらに、
前記転送部が前記第2通信部から通知された通信フレームの送信先アドレスが自装置の前記配下の無線端末宛であると判断した場合には、当該通信フレームのToSフィールドに格納する前記優先順位情報を中位(best effort)に書き換える
請求項2に記載の無線基地局。
【請求項4】
変更部は、さらに、
前記転送部が前記第2通信部から通知された通信フレームの送信先アドレスが自装置の前記配下の無線端末宛でないと判断した場合には、当該通信フレームのToSフィールドに格納する前記優先順位情報を書き換えずに、隣接する他の無線基地局に送信する
請求項2に記載の無線基地局。
【請求項5】
複数の無線基地局間で互いに無線通信を行い、それぞれの無線基地局に接続する配下の無線端末それぞれが無線通信を行う通信システムにおける無線基地局の制御方法であって、
前記配下の無線端末との間で通信フレームを送受信する第1通信ステップと、
他の無線基地局との間で通信フレームを送受信する第2通信ステップと、
前記無線端末との無線接続処理時に取得した無線通信に関する情報である無線端末情報を記憶する記憶ステップと、
前記第1通信ステップまたは第2通信ステップから通知された通信フレームの送信先アドレスが自装置の前記配下の無線端末それぞれのアドレスであるか否かを判定する転送ステップと、
前記転送ステップの通知を基に前記通信フレームのToSフィールドに格納する優先順位情報を変更する変更ステップと、
前記転送ステップの通知をもとに前記変更ステップで処理された通信フレームを前記第1通信ステップまたは前記第2通信ステップから送信先アドレスの無線端末に向けて送信するように制御する制御ステップと、
を含む制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線基地局、制御方法、および、そのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から無線通信の範囲を広く確保するために、複数の無線基地局(例えば、無線アクセスポイント)それぞれを各装置から電波の届く範囲内に配置し、互いの無線通信を中継しながら無線通信を行うWDS(Wireless Distribution System)通信が知られている。当該WDS通信における無線基地局は、単一の無線インタフェースを使用するだけで、無線端末との通信(インフラストラクチャ通信)と、無線基地局間の無線通信の双方を比較的簡単な構成で実現することができる。その一方、WDS通信では、無線端末と無線基地局のすべてが同一の無線チャネルを使用する必要があり、例えば無線端末や無線基地局の台数の増加や高負荷な通信に伴って、無線基地局間の通信帯域を圧迫することでスループットが著しく低下するなど、無線通信の品質が劣化するという問題を有している。
【0003】
このような問題を解決すべく、特許文献1に開示の技術では、複数の無線通信基地局間の無線通信において、1つの無線通信基地局における中継用の無線送信と中継用の無線受信とを、異なる周波数チャネルを用いることで、複数の無線通信基地局間の無線通信におけるスループットの低下を抑制し、高い通信性能を維持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される無線通信システムの無線通信基地局では、中継用の無線送信と中継用の無線受信それぞれで異なるチャネルを用いて、複数の無線通信基地局間の無線通信を行うため、無線通信基地局の設置場所や台数の増加に伴い、必要となる無線通信に用いるチャネルも増加する。このため、例えば、無線通信に用いることができるチャネルが既に少ない使用環境(例えば、既設の無線通信装置が多い、予めチャネルが決められているなど)においては、当該無線通信基地局による複数の無線通信基地局間の無線通信(WDS通信)に適していると言えない。また、当該無線通信基地局はベンダー特有の機能を有する必要があり、汎用性が乏しく、ユーザの利便性も損なわれる。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてなされたものであり、複数の無線基地局で構成される通信システムにおいて、スループットの低下を抑制し高い通信性能を維持するとともに、ユーザの利便性にも考慮した無線基地局を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る無線基地局は、複数の無線基地局間で互いに無線通信を行い、それぞれの無線基地局に接続する配下の無線端末それぞれが無線通信を行う通信システムにおける無線基地局であって、配下の無線端末との間で通信フレームを送受信する第1通信部と、他の無線基地局との間で通信フレームを送受信する第2通信部と、無線端末との無線接続処理時に取得した無線通信に関する情報である無線端末情報を記憶する記憶部と、第1通信部または第2通信部から通知された通信フレームの送信先アドレスが自装置の配下の無線端末それぞれのアドレスであるか否かを判定する転送部と、転送部の通知を基に通信フレームのToSフィールドに格納する優先順位情報を変更する変更部と、転送部の通知をもとに変更部で処理された通信フレームを第1通信部または第2通信部から送信先アドレスの無線端末に向けて送信するように制御する制御部とを備える。
【0008】
これによれば、無線基地局は、複数の無線基地局間の無線通信において、隣接する無線基地局との間で行う無線通信の優先度が高くなることにより、十分な通信帯域を確保でき、複数の無線通信基地局間の無線通信におけるスループットの低下を抑制できる。
【0009】
また、変更部は、転送部が第1通信部から通知された通信フレームの送信先アドレスが自装置の配下の無線端末のアドレスでない場合には、当該通信フレームを少なくとも中位以上の優先度で送信させる。
【0010】
これによれば、無線基地局は、配下の無線端末との間で行う無線通信に比べて、隣接する無線基地局との間で行う無線通信の方が優先度の高い無線通信を行うことができる。
【0011】
また、変更部は、さらに、転送部が第2通信部から通知された通信フレームの送信先アドレスが自装置の配下の無線端末宛であると判断した場合には、当該通信フレームのToSフィールドに格納する優先順位情報を中位(best effort)に書き換えてもよい。
【0012】
これによれば、無線基地局は、配下の無線端末との間で行う無線通信において、適切な優先度で無線通信を行うことができる。
【0013】
また、変更部は、さらに、転送部が第2通信部から通知された通信フレームの送信先アドレスが自装置の配下の無線端末宛でないと判断した場合には、当該通信フレームのToSフィールドに格納する優先順位情報を書き換えずに、隣接する他の無線基地局に送信することにしてもよい。
【0014】
これによれば、無線基地局は、配下の無線端末との間で行う無線通信に比べて、隣接する無線基地局との間で行う無線通信の方を優先度が高くなるように自律的に制御できる。
【0015】
また、本発明の一態様に係る制御方法は、複数の無線基地局間で互いに無線通信を行い、それぞれの無線基地局に接続する配下の無線端末それぞれが無線通信を行う通信システムにおける無線基地局の制御方法であって、配下の無線端末との間で通信フレームを送受信する第1通信ステップと、他の無線基地局との間で通信フレームを送受信する第2通信ステップと、無線端末との無線接続処理時に取得した無線通信に関する情報である無線端末情報を記憶する記憶ステップと、第1通信ステップまたは第2通信ステップから通知された通信フレームの送信先アドレスが自装置の前記配下の無線端末それぞれのアドレスであるか否かを判定する転送ステップと、転送ステップの通知を基に通信フレームのToSフィールドに格納する優先順位情報を変更する変更ステップと、転送ステップの通知をもとに変更ステップで処理された通信フレームを第1通信ステップまたは第2通信ステップから送信先アドレスの無線端末に向けて送信するように制御する制御ステップとを含んでもよい。
【0016】
これによれば、制御方法は、上記無線基地局と同様の効果を奏する。
【0017】
また、本発明の一態様に係るプログラムは、上記の制御方法をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0018】
これによれば、プログラムは、上記無線基地局と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、無線基地局等は、複数の無線基地局間で互いに無線通信を行う通信システムにおいて、スループットの低下を抑制し高い通信性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る通信システムの概要を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施の形態に係る無線基地局の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、実施の形態に係る無線基地局の動作を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施の形態に係る無線基地局が他の無線基地局との間で送受信する無線フレームの一例を示す説明図である。
【
図5】
図5は、実施の形態に係る無線基地局が自装置から送信する無線フレームに格納する優先度情報の一例を示す説明図である。
【
図6】
図6は、実施の形態に係る無線基地局の動作のうち、通信フレームの送信元アドレスおよび送信先アドレスに基づいて行う処理を場合分けした一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
以下で説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ステップの順序等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。なお、同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0022】
(実施の形態)
本実施の形態において、複数の無線基地局間で互いに無線通信を行う通信システムにおいて、スループットの低下を抑制し高い通信性能を維持する無線基地局などについて説明する。
【0023】
図1は、本実施の形態に係る通信システム100の概要を示す模式図である。
【0024】
図1に示すように、通信システム100は、無線基地局1a、1b、および1cと、無線端末11aおよび11bと、無線端末12と、無線通信リンク15と、無線通信リンク16と、を備える。通信システム100は、例えば工場やオフィス等に構築された無線通信システムである。以下、無線基地局1a、1b、および1cを総称して、無線基地局1とも呼ぶ。また、無線基地局11aおよび11bを総称して、無線端末11とも呼ぶ。
【0025】
なお、本実施の形態では、通信システム100は3つの無線基地局1a、1b、および1cを備えているが、これに限定されず、通信システム100が備える無線基地局の数は4つ以上でもよい。また、本実施の形態では、通信システム100は無線端末11aおよび11bと、無線端末12を備えているが、これに限定されず、各無線基地局1の各々にそれぞれ複数の無線端末が接続される構成であってもよい。
【0026】
無線基地局1は、無線通信リンク16を介して、無線端末11および12との間で無線通信を行う。
図1に示されるように、無線基地局1aは、無線通信リンク16を介して、無線端末11それぞれとの間で無線フレームを送受信することで、無線通信を行う。また、無線基地局1aは、無線通信リンク16を介して、無線端末11aから送信された無線フレームを中継し、無線端末11bに当該無線フレームを送信したり、その逆に無線端末11bから送信された無線フレームを中継し、無線端末11aに当該無線フレームを送信したりする。無線基地局1は、例えば、無線アクセスポイントなどである。
【0027】
無線端末11および12は、無線基地局1との間で接続しIEEE802.11ac等の無線通信規格に準拠した無線通信を行う。無線端末11および12は、例えばパーソナルコンピュータや、スマートフォンなどである。
【0028】
無線通信リンク15は、無線基地局1それぞれの間で無線通信を行う際の通信経路である。また、無線通信リンク15は、WDS通信で構成されてもよい。無線通信リンク15は、IEEE802.11ac等の無線通信規格に準拠し、例えば2.4GHz帯の周波数帯域を利用して無線基地局1それぞれの間で無線通信を行う。なお、無線通信リンク15で用いられる通信規格および周波数帯域は、IEEE802.11acおよび2.4GHz帯に限定されず、無線基地局1それぞれが備える無線回路が処理できる無線通信規格および周波数帯域であればよい。
【0029】
無線通信リンク16は、無線基地局1が配下の無線端末11および12それぞれとの間で無線通信を行う際の通信経路であり、例えばインフラストラクチャモードで動作している。また、無線通信リンク16は、IEEE802.11ac等の無線通信規格に準拠し、例えば無線通信リンク15で利用される周波数帯域とは異なる帯域を利用して無線通信を行うことが好ましい。なお、無線通信リンク16で用いられる通信規格は、無線基地局1および無線端末11それぞれが備える無線回路が処理できる無線通信規格および周波数帯域であればよい。
【0030】
図2は、本実施の形態に係る無線基地局1の機能構成を示すブロック図である。無線基地局1は、第1通信部201と、第2通信部202と、記憶部203と、転送部204と、変更部205と、制御部206と、を備える。無線基地局1は、1種のコンピュータであり、各ハードウェアと協調して、CPU(Central Processing Unit)が、記憶部203に記憶されたプログラムを主記憶部に読み込んで実行する。
【0031】
第1通信部201は、無線基地局1(自装置)の配下の無線端末11および12それぞれとの間で通信フレームを送受信する。また、第1通信部は、配下の無線端末11および12それぞれから通信フレームを受信したか否かを判断する。第1通信部201は、無線モジュール、アンテナ(図示しない)および無線モジュールのドライバプログラム等で実現され、例えばIEEE802.11ac等の無線通信規格に則り、配下の無線端末11および12それぞれとの間で相互に無線通信を行う。
【0032】
第2通信部202は、他の無線基地局1との間で通信フレームを送受信する。また、第2通信部は、他の無線基地局から通信フレームを受信したか否かを判断する。第2通信部202は、第1通信部を構成するものとは別の無線モジュール、アンテナ(図示しない)および無線モジュールのドライバプログラム等で実現され、例えばIEEE802.11ac等の無線通信規格に則り、他の無線基地局1との間で無線通信を行う。
【0033】
記憶部203は、無線通信に関する各種設定情報、通信処理において一時的に格納すべき情報などを記憶している。具体的には、記憶部203は、自装置(無線基地局1)の装置情報(例えば、無線通信に使用しているチャネル、BSSID、SSID、認証方式、暗号方式など)などを記憶している。また、自装置が接続可能な配下の無線端末情報などが記憶されている。無線端末情報は、例えば、無線端末との無線接続処理時に取得した無線通信に関する情報(例えば、無線端末のMACアドレス、IPアドレス、セキュリティ情報など)である。記憶部203は、RAM等の揮発性記憶装置で実現されてもよいし、eMMC(Embedded Multimedia Card)、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)等の不揮発性記憶装置で実現されてもよい。また、記憶部203には、後述するように、IPプレスデンス値がアクセスカテゴリと対応付けて記憶されている。
【0034】
転送部204は、第1通信部から通知された通信フレームの送信先アドレスが自装置の配下の無線端末11および12それぞれ(例えば、無線端末11b)のアドレスであるか否かを判定する。具体的には、通信フレームのヘッダ情報を、記憶部203に記憶された自装置の配下の無線端末情報を参照しつつ判定する。転送部204は、変更部205から通知を受けた通信フレームを、第1通信部または第2通信部を経由して送信先アドレスに記載された無線端末(例えば、無線端末12)に向けて送信するよう、制御部206に通知する。転送部204は、CPUや、RAM(Random Access Memory)等で実現される計算機の形態であってもよいし、同様の判定の効果を奏するプログラムの形態で実現されてもよい。
【0035】
変更部205は、転送部204の通知を基に通信フレームのToSフィールドに格納するアクセスカテゴリ(詳細は後述する)を変更する処理を行い、転送部204に返す。具体的には、転送部204の通知を基に通信フレームのIPヘッドのToSフィールドに格納するIPプレシデンス値をアクセスカテゴリに対応するIPプレシデンス値に書き換える。変更部205は、また、ToSフィールドに格納するIPプレシデンス値を変更した場合には、IPヘッダのチェックサム値を再計算する。変更部205は、CPU、RAM等で実現される計算機の形態であってもよいし、同様の判定の効果を奏するプログラムの形態で実現されてもよい。
【0036】
制御部206は、転送部204の通知を基に変更部205で処理された通信フレームを第1通信部から送信先アドレスの無線端末に向けて送信するように制御する。また、制御部206は、転送部204の通知を基に変更部205で処理された通信フレームを、送信先アドレスの無線端末に向けて第2通信部から隣接する無線基地局に送信するように制御する。制御部206は、CPUや、RAM(Random Access Memory)等で実現される計算機の形態であってもよいし、同様の判定の効果を奏するプログラムの形態で実現されてもよい。
【0037】
次に
図4および
図5を用いて、本実施の形態に係る無線基地局1におけるWMM(Wi-Fi Multimedia)を用いた通信について、詳細に説明する。なお、WMMは、Wi-Fi(登録商標)において、無線LANで扱う複数の種類のデータを同時に送受信する際、優先度を設定して特定の通信を優先に処理する機能で、既知の技術である。
【0038】
図4は、本実施の形態に係る通信システム1における通信フレーム(Ethernetフレーム)の一例である。
【0039】
図4に示されるEthernetフレーム40は、TCP/IP通信において送受信されるパケットを示しており、主にEthernetヘッダ、IPヘッダ、TCPヘッダ、可変長データ、FCS(Frame Check Sequence)などで構成されている。Ethernetフレーム40のIPヘッダは、さらに、バージョン41、ヘッダ長42、ToS(Type of Service)43、オプション44、パディング45などのフィールドにより構成される。それぞれ、バージョン41には、IPバージョンが格納される。ヘッダ長42には、IPヘッダのサイズが格納される。ToS43は、IPパケットに優先度を付加するために用いられ、8ビットのうち先頭(上位)3ビットのデータにIPプレシデンスが含まれている。IPプレシデンスは、0~7の8段階に分かれており、値が大きいほどそのフレームの優先度が高いことを意味する。オプション44は、タイムスタンプやソールルーティングなどオプションがあればここに格納される。パディング45は、IPヘッダが4の倍数(例えば32ビット)に収まるように0で埋める場合に用いる。
【0040】
本実施の形態の無線基地局1では、
図4で示されるIPヘッダに含まれるToS43に設定するIPプレシデンス値が、次に説明する
図5に示されるWMMで用いられるアクセスカテゴリごとに対応付けられて、予め記憶部203に記憶されている。
【0041】
図5に示される優先順位情報50は、本実施の形態に係る無線基地局1が通信フレームの優先度を識別するために用いる優先順位を示したリストである。優先順位情報50は、無線基地局1の記憶部203に記憶されており、転送部204および変更部305の通知をもとに参照される優先度情報である。優先順位情報50は、WMMにおいて、優先度の高い順に帯域を割り当てるアクセスカテゴリと、当該アクセスカテゴリに定義される優先度(最高から低の4段階)との関係を示している。
【0042】
アクセスカテゴリとは、WMMを用いた通信におけるIPパケットの通信の種類(トラフィックタイプ52)を示す情報であり、具体的には
図5に示す4つのアクセスカテゴリが存在し、IPパケットに4段階の優先順位51が定義されている。Voice(AC_VO)は、音声通信に関するIPパケットに付与される。AC_VOの優先順位51は1(最高位)であり、4つの中で最も優先順位が高い。Video(AC_VI)は、動画に関するIPパケットに付与される。AC_VIの優先順位51は2(高位)である。Best effort(AC_BE)は、ベストエフォートで通信することが望まれるIPパケットに付与される。AC_BEは音声及び動画よりも即時性の要求レベルが低い、通常のデータのIPパケットに付与される。AC_BEの優先順位51は3(中位)である。Background(AC_BK)は、バックグラウンドで通信することが望まれるIPパケットに付与される。AC_BKは、例えば送信時期に制約がないデータ(特に通信に長い時間が掛かる大容量のデータ)のIPパケットに付与される。AC_BKの優先順位51は4であり、優先順位が最も低い(低位)。なお、4つのアクセスカテゴリは、
図4で示されたIPヘッダ内のToSフィールドに設定されるIPプレシデンス値がそれぞれのアクセスカテゴリに対応して優先度が割り当てられることになる。例えば、アクセスカテゴリのAC_VO(最高位)ではIPプレシデンス値を「111」が設定され、AC_BE(中位)ではIPプレシデンス値を「011」が設定され、AC_BK(低位)ではIPプレシデンス値を「001」が設定される。
【0043】
本実施の形態の通信システム100では、複数の無線基地局1で構成され、互いに隣接する無線基地局1との間で無線通信を行えるネットワークが構築されており、所定の無線基地局1の配下の無線端末から自装置を経由して他の無線基地局1の配下の無線端末との間で無線通信を行う場合、および、所定の無線基地局1の配下の無線端末から自装置を経由して自装置の配下の他の無線端末との間で無線通信を行う場合について、それぞれの無線通信環境に応じた動作について、
図3および
図6を用いて以下、各処理を詳細に説明する。
【0044】
図3は、本実施の形態に係る無線基地局1の動作の一例を示すフローチャートである。
【0045】
ステップS301にて、無線基地局1の第1通信部201または第2通信部202は、通信フレームを受信したか否かを判断する。第1通信部201または第2通信部202は、通信フレームを受信した場合には、ステップS302に遷移する(ステップS301のYes)。一方、通信フレームを受信しない場合には、ステップS301を繰り返し、受信待ち状態になる(ステップS301のNo)。
【0046】
ステップS302にて、第1通信部201または第2通信部202は、それぞれ配下の無線端末11から通信フレームを受信したか、または、他の無線基地局から通信フレームを受信したかを判断する。第1通信部201が配下の無線端末11から通信フレームを受信した場合には、当該通信フレームの送信先アドレスを転送部204に通知しステップS303に遷移する(ステップS302の(a))。一方、第2通信部202が他の無線基地局1から通信フレームを受信した場合には、当該通信フレームの送信先アドレスを転送部204に通知しステップS304に遷移する(ステップS302の(b))。
【0047】
ステップS303にて、転送部204は、第1通信部201から通知された通信フレームの送信先アドレスが自装置の配下の無線端末11(例えば、無線端末11b)のアドレスであるか否かを判定する。転送部204は、当該送信先アドレスが自装置の配下の無線端末11のアドレスと一致する場合には、ステップ306に遷移する(ステップS303のYes)。一方、自装置の配下の無線端末11のアドレスと一致しない場合には、その旨を変更部205に通知し、ステップS305に遷移する(ステップS303のNo)。
【0048】
ステップS305(すなわち、配下の通信端末から他の無線基地局へ送信すべきフレームの場合)にて、変更部205は、通信フレームを少なくとも中位以上の優先度で送信させる。具体的には、変更部205は、転送部204の通知(ステップS303のNo)を基に通信フレームのTos43に格納するIPプレシデンス値をアクセスカテゴリを中位以上に書き換える。例えば、最高位であるAC_VO(Voice)に対応するIPプレシデンス値(例えば、「111」)に書き換える処理を行い、IPヘッダのチェックサム値を再計算する。変更部205は、転送部204に当該処理後の通信フレームを通知し、ステップS307に遷移する。
【0049】
ステップS304にて、転送部204は、第2通信部202から通知を受けた通信フレームの送信先アドレスが自装置の配下の無線端末宛であるか否か判定する。より具体的には、記憶部203に記憶された自装置の配下の無線端末情報を参照し判定する。転送部204は、当該通信フレームの送信先アドレスが自装置の配下の無線端末宛である場合には、その旨を変更部205に通知しステップS306に遷移する(ステップS304のYes)。一方、自装置の配下の無線端末宛でない場合には、変更部205は、転送部204に当該通信フレームを通知し、ステップS307に遷移する(ステップS304のNo)。この場合IPプレシデンス値は、本システムの他の無線基地局によってすでに最高位に変更されているはずであり、書き換えない。
【0050】
ステップS306(すなわち、宛先が配下の通信端末であるフレームの場合)にて、変更部205は、転送部204の通知(ステップS304のYes)を基に通信フレームのToS43に格納するIPプレシデンス値をアクセスカテゴリの中位であるAC_BE(Best Effort)対応するIPプレシデンス値(例えば、「011」)に書き換える処理を行い、IPヘッダのチェックサム値を再計算する。変更部205は、転送部204に当該処理後の通信フレームを通知し、ステップS308に遷移する。
【0051】
ステップS307にて、転送部204は、ステップ305で変更部205から通知を受けた通信フレーム(優先順位が中位以上に書き換えられた通信フレーム)を制御部206に当該フレームを第2通信部202から送信先アドレスの無線端末(例えば、無線端末12)に向けて送信するように通知する(つまり、他の無線基地局11を経由して送信先アドレスの無線端末に送信するように通知する)。また、転送部204は、ステップ304で変更部205から通知を受けた通信フレーム(つまり、他の無線基地局1から受信した通信フレーム)を制御部206に当該通信フレームを第2通信部202から送信先アドレスの無線端末(例えば、無線端末12)に向けて送信するように通知する(つまり、他の無線基地局1を経由して送信先アドレスの無線端末に送信するように通知する)。制御部206は転送部204の通知を基に当該フレームを送信先アドレスの無線端末に向けて送信するよう第2通信部202を制御する。その後、第2通信部202は、隣接する無線基地局(例えば無線基地局11b)に当該通信フレームを送信する。
【0052】
ステップS308にて、転送部204は、ステップS306で変更部205から通知を受けた通信フレーム(優先順位が中位に書き換えられた通信フレーム)を制御部206に当該フレームを第1通信部201から送信先アドレスの無線端末(例えば、無線端末11b)に向けて送信するように通知する。制御部206は、転送部204の通知を基に当該フレームを送信先アドレスの無線端末に向けて送信するよう第1通信部を制御する。その後、第1通信部201は、自装置の配下の無線端末(例えば無線基地局11b)に当該通信フレームを送信する。
【0053】
ここで、
図3に示されるステップS302からステップS306で行われる無線基地局1の一連の動作において、変更部205が通信フレームの送信元アドレスおよび送信先アドレスに基づいて行う処理について、
図6を用いてまとめてみた。
【0054】
図6は、実施の形態に係る無線基地局1の一連の動作において、通信フレームの送信元アドレスおよび送信先アドレスに基づいて行う処理を場合分けした一例を示す説明図である。
【0055】
通信フレームの送信元アドレスが(a)配下の無線端末であり、且つ、送信先アドレスが他の無線基地局を経由し(具体的には隣接する無線基地局)無線端末に向けて送信される場合(
図3のステップS303のNo)には、変更部205は、通信フレームのToS43に格納するIPプレシデンス値を(1)アクセスカテゴリAC_VO(Voice)に対応するIPプレシデンス値に書き換える処理を行う。
【0056】
通信フレームの送信元アドレスが(a)配下の無線端末であり、且つ、送信先アドレスが配下の無線端末(具体的には配下の他の無線端末11)に向けて送信される場合(
図3のステップS303のYes)には、変更部205は、通信フレームのToS43に格納するIPプレシデンス値を(2)アクセスカテゴリAC_BE(Best Effort)に対応するIPプレシデンス値に書き換える処理を行う。
【0057】
通信フレームの送信元アドレスが(b)他の無線基地局(具体的には他の無線基地局の配下の無線端末11から)であり、且つ、送信先が他の無線基地局を経由し(具体的には隣接する無線基地局)無線端末に向けて送信される場合(
図3のステップS304のNo)には、変更部205は、転送部204に当該通信フレームを通知する処理を行う。つまり、変更部205は、第2通信部202により受信した通信フレームのToS43を(3)変更せずにそのままに転送部204に通知する。このフレームにおけるIPプレシデンス値は、すでに本システムの他の無線基地局によって、アクセスカテゴリAC_VO(Voice)に対応するIPプレシデンス値に書き換えられている。
【0058】
通信フレームの送信元アドレスが(b)他の無線基地局(具体的には他の無線基地局の配下の無線端末12から)であり、且つ、送信先アドレスが配下の無線端末(具体的には配下の他の無線端末11)に向けて送信される場合(
図3のステップS304のYes)には、変更部205は、通信フレームのToS43に格納するIPプレシデンス値を(2)アクセスカテゴリAC_BE(Best Effort)に対応するIPプレシデンス値に書き換える処理を行う。
【0059】
(まとめ)
従来のWMMに従った無線通信では、無線端末から送信されるIPパケットの種類(音声、映像などのトラフィックタイプ)に応じて自動的にアクセスカテゴリが決定され、無線基地局は無線通信を制御していた。この点、本実施の形態に係る無線基地局1では、無線基地局1が無線端末11および12から送信された通信フレームを中継する場合に、(1)自装置(例えば無線基地局1a)の配下の無線端末11(例えば無線端末11a)から他の無線基地局1(例えば無線基地局1c)の配下の無線端末12と通信を行う場合には、通信フレームのIPヘッダ内のToS43において、実際のトラフィックタイプに関わらず、IPプレシデンス値をアクセスカテゴリの最高位(優先順位1)であるAC_VOに対応する値に書き換えて、隣接する無線基地局1(例えば無線基地局b)に送信する。これにより、実施の形態の通信システムにおいて、各無線基地局は、配下の無線端末との間で行う無線通信に比べて、隣接する無線基地局との間で行う無線通信の方を優先度が高くなるように自律的に制御できる。よって、実施の形態の通信システムにおいて、複数の無線基地局間の無線通信(例えば、WDS通信)は、十分な通信帯域を確保でき、複数の無線通信基地局間の無線通信におけるスループットの低下を抑制できる。一方、(2)自装置(例えば無線基地局1a)の配下の無線端末11(例えば無線端末11a)から配下の他の無線端末11(例えば無線端末11b)と通信を行う場合には、通信フレームのIPヘッダ内のToS43において、IPプレシデンス値をアクセスカテゴリの中位(優先順位3)であるAC_BEに対応する値に書き換えて、配下の他の無線端末11に送信する。これにより、実施の形態の通信システムにおいて、複数の無線基地局間の無線通信を優先することができるので、複数の無線通信基地局間の無線通信におけるスループットの低下を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、複数の無線基地局で構成される通信システムにおいて、無線基地局間の無線通信に利用可能である。具体的にはスループットの低下を抑制することができる無線基地局に適用できる。
【符号の説明】
【0061】
100 通信システム
1a、1b、1c 無線基地局
11a、11b、12 無線端末
15,16 通信リンク
201 第1通信部
202 第2通信部
203 記憶部
204 転送部
205 変更部
206 制御部
41 バージョン
42 ヘッダ長
43 ToS(サービスタイプ)
44 オプション
45 パディング
50 優先順位情報
51 優先順位
52 トラフィックタイプ