(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175425
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】成形体、その製造方法、その粉砕物、およびそれを用いたリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
B29B 17/04 20060101AFI20231205BHJP
C08J 11/18 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
B29B17/04 ZAB
C08J11/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087858
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】古橋 越也
(72)【発明者】
【氏名】吉川 成志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優斗
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅之
(72)【発明者】
【氏名】王 蕾蕾
(72)【発明者】
【氏名】仲田 智明
(72)【発明者】
【氏名】原田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】木下 悟
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA22
4F401CA02
4F401CA14
4F401CA67
4F401CA76
4F401CB28
4F401FA08Z
4F401FA10Z
4F401FA20Z
(57)【要約】
【課題】分解効率に優れ、ケミカルリサイクルし易いポリエステル樹脂成形体を提供する。
【解決手段】ポリエステルの化学分解によりモノマーを製造するために使用されるポリエステル樹脂の成形体であって、前記ポリエステル樹脂の、温度変調示差走査熱量計を用いて測定される結晶化度相関パラメーター(ΔHTc1/ΔHTm)が0.5以上であり、かつ、重量平均分子量が26,000未満であり、任意の位置での切断面がラウンド形状を有する成形体とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルの化学分解によりモノマーを製造するために使用されるポリエステル樹脂の成形体であって、
前記ポリエステル樹脂の、温度変調示差走査熱量計を用いて測定される結晶化度相関パラメーター(ΔHTc1/ΔHTm)が0.5以上であり、かつ、重量平均分子量が26,000未満であり、
任意の位置での切断面がラウンド形状を有する、成形体。
【請求項2】
前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
請求項1に記載の成形体の製造する方法であって、
ポリエステル樹脂を、水の存在下で溶融し、
溶融物を水中で冷却固化させながらペレタイズ加工を行う、
ことを含む、方法。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂を押出機に供給し、前記押出機の樹脂供給口から樹脂吐出口までの間で水を圧入する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂から構成される製品を再利用したリサイクル材である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
温度変調示差走査熱量計を用いて測定される結晶化度相関パラメーター(ΔHTc1/ΔHTm)が0.5以上であり、
平均粒子径(D50)が300μm以下である、ポリエステル樹脂粉砕物。
【請求項7】
前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである、請求項6に記載の粉砕物。
【請求項8】
ポリエステル樹脂製品をリサイクルする方法であって、
使用済みのポリエステル樹脂製品から、請求項1に記載の成形体を製造し、
前記成形体を粉砕して粉砕物を製造し、
前記粉砕物を、酵素を含む媒体に浸漬し、
前記ポリエステルの化学分解によりモノマーまたはオリゴマーを製造する、
ことを含む、方法。
【請求項9】
ポリエステル樹脂製品をリサイクルする方法であって、
使用済みのポリエステル樹脂製品から、請求項6に記載の粉砕物を製造し、
前記粉砕物を、酵素を含む媒体に浸漬し、
前記ポリエステルの化学分解によりモノマーまたはオリゴマーを製造する、
ことを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂の成形体に関し、より詳細には、ポリエステルの化学分解によりモノマーを製造するために使用されるポリエステル樹脂の成形体、その製造方法、その粉砕物、およびそれを用いたリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製ボトルは、軽量であることや、透明で中身が良く見えることなどから飲料水、調味料、食用油、アルコール性飲料、燃料、洗剤などさまざまな液状物の容器として広くかつ大量に利用されており、なかでもポリエチレンテレフタレート製ボトル(以下、PETボトルと表記する場合がある)がその大半を占めている。使用済みプラスチック製ボトルは、従来は焼却処理や埋め立て処理により処分されていたが、近年では容器包装に係る分別収集および再商品化の促進等に関する法律が施行され、PETボトルの収集・リサイクルとともに、容器包装使用済みプラスチックの分別収集並びにリサイクルが開始されている。
【0003】
これら使用済みプラスチックのリサイクルの方式としては、使用済みプラスチックを素材として再製品化して利用するマテリアルリサイクル、使用済みプラスチックをモノマーレベルまで分解して再利用するケミカルリサイクル、使用済みプラスチックをエネルギーとして再利用するサーマルリサイクル等がある。
【0004】
使用済みPETボトルを一例にとると、ケミカルリサイクルとして、ポリエステルを化学的に分解しオリゴマーもしくはモノマーを回収し再びポリエステルを重合する方法が開発され実用化されはじめている。例えば、使用済みPETボトルを洗浄、粉砕してフレーク状とし、メタノールを加えてジメチルテレフタレートに分解した後、再び加水分解して高純度テレフタル酸を得る方法(特許文献1等)や、ポリエチレンテレフタレートにエチレングリコールを加えてビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートに分解し、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートを溶融重縮合させてポリエチレンテレフタレートポリマーを得る方法(特許文献2)、またポリエチレンテレフタレートを超臨界または亜臨界と呼ばれる高温高圧状態の水と反応させて加水分解しテレフタル酸を得る方法などが知られている(特許文献3)。さらに、近年では、ポリエチレンテレフタレートを酵素により加水分解してテレフタル酸を得る方法も提案されている(特許文献4)。
【0005】
また、半結晶性ポリエステルを酵素により加水分解によりモノマーを得る方法として、融点以上の温度でポリマーを溶融させて結晶化温度以下に急冷することで非晶化させることで、分解効率が向上することが提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-60369号公報
【特許文献2】特開2000-169623号公報
【特許文献3】特開2000-53801号公報
【特許文献4】特表2016-505650号公報
【特許文献5】米国特許公開2019/218360号
【発明の概要】
【0007】
上記したように、ボトル等の使用済みポリエステル樹脂製品をモノマーレベルまで分解して再利用するケミカルリサイクル法は、基本的にはポリエステルを化学分解する方法といえる。しかしながら、実用化するに際してはいずれの方法も、分解効率が十分であるとは言えず、実用化に際して改善する余地があった。例えば、特許文献4には、酵素により加水分解処理する前に粉砕や顆粒化等の前処理をしてもよいことが記載されており、実際、ポリエステル樹脂製品を細かく粉砕するほど表面積が増加するため、加水分解の効率は向上するものと考えられる。しかしながら、従来の方法では、粒子径が500μm程度までの粉砕物は比較的容易に製造することができるものの、粒子径が300μm以下の微粉体を製造するためには特殊な粉砕装置が必要であり、微粉体の生産効率も高くない。
【0008】
したがって、本発明は、分解効率に優れ、ケミカルリサイクルし易いポリエステル樹脂成形体およびポリエステル樹脂粉砕物を提供することを主な目的としている。また、本発明は、当該成形体の製造方法、当該成形体または粉砕物を用いて使用済みのポリエステル樹脂製品をリサイクルする方法を提供することも目的としている。
【0009】
本発明者らは、使用済みのポリエステル樹脂製品をケミカルリサイクルするにあたり、ポリエステル樹脂製品を再溶融する際に一定条件化で溶融したポリマーに水を添加することで、得られる成形物を容易に微粉体に加工できることを見い出した。そして、本発明者らが更なる検討を行ったところ、結晶化度相関パラメーターが一定以上大きく(即ち、結晶化度が一定以上小さく)、かつ分子量が一定値以下であるような成形体とすることにより微粉化が容易で、その結果、ポリエステルの分解効率に優れる成形体が得られるとの知見を得た。本発明は係る知見によるものである。即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
[1] ポリエステルの化学分解によりモノマーを製造するために使用されるポリエステル樹脂の成形体であって、
前記ポリエステル樹脂の、温度変調示差走査熱量計を用いて測定される結晶化度相関パラメーター(ΔHTc1/ΔHTm)が0.5以上であり、かつ、重量平均分子量が26,000未満であり、
任意の位置での切断面がラウンド形状を有する、成形体。
[2] 前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである、[1]に記載の成形体。
[3] [1]に記載の成形体の製造する方法であって、
ポリエステル樹脂を、水の存在下で溶融し、
溶融物を水中で冷却固化させながらペレタイズ加工を行う、
ことを含む、方法。
[4] 前記ポリエステル樹脂を押出機に供給し、前記押出機の樹脂供給口から樹脂吐出口までの間で水を圧入する、[3]に記載の方法。
[5] 前記ポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂から構成される製品を再利用したリサイクル材である、[3]に記載の方法。
[6] 温度変調示差走査熱量計を用いて測定される結晶化度相関パラメーター(ΔHTc1/ΔHTm)が0.5以上であり、
平均粒子径(D50)が300μm以下である、ポリエステル樹脂粉砕物。
[7]前記ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである、[6]に記載の粉砕物。
[8] ポリエステル樹脂製品をリサイクルする方法であって、
使用済みのポリエステル樹脂製品から、[1]に記載の成形体を製造し、
前記成形体を粉砕して粉砕物を製造し、
前記粉砕物を、酵素を含む媒体に浸漬し、
前記ポリエステルの化学分解によりモノマーまたはオリゴマーを製造する、
ことを含む、方法。
[9] ポリエステル樹脂製品をリサイクルする方法であって、
使用済みのポリエステル樹脂製品から、[6]に記載の粉砕物を製造し、
前記粉砕物を、酵素を含む媒体に浸漬し、
前記ポリエステルの化学分解によりモノマーまたはオリゴマーを製造する、
ことを含む、方法。
【0011】
本発明によれば、分解効率に優れ、ケミカルリサイクルし易いポリエステル樹脂成形体およびポリエステル樹脂粉砕物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<成形体>
本発明による成形体は、ポリエステル樹脂からなる成形体であって、成形体の、温度変調示差走査熱量計を用いて測定される結晶化度相関パラメーター(ΔHTc1/ΔHTm)が0.5以上であり、重量平均分子量が26,000未満であり、成形体の任意の位置での切断面がラウンド形状を有するものである。本発明においては、結晶化度相関パラメーターが0.5以上となるような成形体(ポリエステルにおいて非晶部分が一定以上存在し)、かつ重量平均分子量が一定以下のポリエステル樹脂成形体とすることにより、優れた分解効率を実現したものである。この理由は定かではないが、以下のように考えられる。
【0013】
使用済みのポリエステル製品を化学分解してモノマーを製造すると、分解効率が非常に低いことが知られている。これは、多くのポリエステル製品(例えばボトル容器等)は、製品を成形する際にポリエステル樹脂を延伸する工程があり、配向結晶化しているためと考えられている。そのため、ポリエステル製品を直接化学分解するよりも、再溶融した樹脂を急冷した後にペレタイズ処理し、樹脂ペレットを粉砕して粉砕物としたものを化学分解した方が、ポリエステルの分解効率が向上する。粉砕物は細かい方が表面積が大きいため分解効率も向上するものと予想される。しかしながら、上記のようにして得られた粉砕物は、粒子径が500μm程度までの粉砕物は比較的容易に製造することができるものの、粒子径が300μm以下の微粉体を製造するためには特殊な粉砕装置が必要であり、微粉体の生産効率も低い。
【0014】
本発明においては、結晶化度相関パラメーターが一定値以上であるような、結晶部分が比較的少ない樹脂成形体とするとともに、重量平均分子量を26,000未満となるように樹脂成形体を得ることで、その後の粉砕工程において特殊な装置を使用しなくとも簡易に微粉体を得ることができる樹脂成形物を実現したものである。すなわち、上記した成形体は、任意の位置での切断面がラウンド形状を有しており、従来の樹脂ペレットのように矩形状ではなく、その後の粉砕処理によって、所定の平均粒子径を有する粉砕物が得られるため、分解効率を高めることができる。
【0015】
本発明においては、結晶部分が少なく加水分解効率に優れた成形物を得る観点からは、結晶化度相関パラメーターは、0.50~0.70の範囲であることが好ましい。なお、本発明において、結晶化度相関パラメーターは、温度変調示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した融解吸熱曲線から得られる昇温時結晶化エンタルピー(ΔHTc1)および結晶融解エンタルピー(ΔHTm)の値を用いて下記式から算出した値をいうものとする。この値は密度勾配法などにより測定される結晶化度とは負の相関関係にある。
結晶化度相関パラメーター(X)=ΔHTc1/ΔHTm
【0016】
<測定条件>
・雰囲気:窒素雰囲気
・測定温度域:0~150℃
・昇温速度:3℃/分
・温度変調モード:±0.48℃/60秒(ヒートオンリーモード)
・試料重量:3mg
【0017】
また、本発明の成形体を構成するポリエステル樹脂の重量平均分子量は、平均粒子径の小さい粒状形態の成形物を得る観点から、8,000~25,000の範囲であることが好ましい。重量平均分子量が小さい方が平均粒子径の小さい微粉物を得られ易いが、重量平均分子量が小さすぎると、後記するような押出機を用いて成形物を得る際に成形性が悪化する場合がある。このような重量平均分子量を有するポリエステル樹脂の成形物とする方法については後述する。
【0018】
なお、本発明において、重量平均分子量は、定法によりGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定からポリスチレン換算した値を意味するものとする。
【0019】
本発明の成形体は、上記のような特性を有するとともに、任意の位置での切断面がラウンド形状を有している。ポリエステル樹脂の重量平均分子量が26,000未満であり、このような分子量が低くなったポリエステル樹脂を溶融状態から冷却固化してペレタイズ加工すると、任意の位置での切断面がラウンド形状を有する成形体となる。なお、本発明において、「ラウンド形状」とは単純閉曲線の中でも、外周輪郭が内側へ凹んだ部分のない単純閉凸曲線で構成された形状を意味し、円形状、長丸形状、楕円形状、オーバル形状、および複数の異なる円弧成分からなる形状等が含まれる。
【0020】
また、成形体を構成するポリエステル樹脂の固有粘度(IV)は1.4以下であることが好ましい。固有粘度が小さい方がより短時間でモノマーないしオリゴマーレベルまで解重合反応を進めることが可能である。その一方、固有粘度が小さすぎると、ポリエステルを溶融状態から冷却して成形体にする際に、成形が困難となる場合がある。また、ポリエステルの固有粘度が小さすぎると、溶融成形した際に結晶化が進みやすく、得られる成形体の結晶化度相関パラメーターが0.5未満になってしまう場合がある。
【0021】
成形体を構成するポリエステル樹脂としては、脂肪族系ポリエステルであっても芳香族系ポリエステルであってもよいが、ポリエステル樹脂製品をリサイクルする観点からは、芳香族系ポリエステルであることが好ましい。芳香族ポリエステルとしては、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、ジオール成分とを共重合して得られる重合体が好ましい。芳香族ポリエステル成分の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレンフラノエート、ポリトリメチレンフラノエート、ポリブチレンフラノエート等が挙げられる。
【0022】
上記した芳香族ポリエステルのなかでも、ポリエステル樹脂製品の大部分を占めるポリエチレンテレフタレートが好ましい。ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと表記する場合がある)は、主構成モノマーとしてエチレングリコールとテレフタル酸の2成分を重縮合することにより得られるものであるが、これら2成分の他にジオール成分またはジカルボン酸成分として、他のモノマーが共重合されているものであってもよい。
【0023】
PETの共重合成分として、ジカルボン酸成分では、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸およびエチルマロン酸、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9’-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレン酸、2,5-フランジカルボン酸およびこれらのエステル誘導体等が挙げられる。
【0024】
PETの共重合成分として、ジオール成分では、例えば、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、デカヒドロナフタレンジメタノール、デカヒドロナフタレンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、テトラシクロドデカンジメタノール、テトラシクロドデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノール、5-メチロール-5-エチル-2-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-1,3-ジオキサン、シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル-4,4’-ジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3-メチル-1,2-シクロペンタジオール、4-シクロペンテン-1,3-ジオール、アダマンジオール、パラキシレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、スチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、およびビス-β-ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)等が挙げられる。
【0025】
本発明の成形体はPET樹脂により構成されるものであるが、PET以外の樹脂成分が含まれていてもよいし、添加剤等のその他の成分が含まれていてもよい。例えば、成形体を製造するための材料としての成形体を得る際の成形性を損なわず、またPETの化学分解を阻害しない範囲で、可塑剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、顔料、充填材、離型剤、帯電防止剤、香料、発泡剤、抗菌・抗カビ剤等の各種添加剤を1種または2種以上配合してもよい。
【0026】
<成形体の製造方法>
本発明の成形体は、ポリエステル樹脂を押出機に供給して265℃~295℃の温度で溶融させる際に、水の存在下で溶融させることにより、加水分解を促進して重量平均分子量が26,000未満であるようなポリエステル樹脂成形体とすることができる。具体的には、樹脂供給口から吐出口までの間に少なくとも一カ所以上の第2の供給口を備えた押出機や溶融混練機を使用し、第2の供給口から水を圧入することにより、水の存在化でポリエステル樹脂の溶融を行うことができる。
【0027】
また、使用する押出機は、ポリエステル樹脂が持込水分により溶融時に過度に分子量が低下してしまうことや、樹脂溶融物を吐出した際に発泡してしまうことを避けるために、樹脂供給口と第2の供給口(水の圧入口)との間、または第2の供給口(水の圧入口)から吐出口までの間に、脱気ベントを備えていることが好ましい。例えば、脱気ベントから水蒸気や空気を強制的に脱気することにより、ポリエステル樹脂の持込水分による過度な加水分解や溶融物を吐出した際に気泡が発生することを低減することができる。なお、押出機は、複数の脱気ベントを備えていてもよい。
【0028】
ポリエステルの溶融物は、フィルターやギヤポンプを通じて、異物の除去、押出量の均整化が行われ、ダイスより吐出される。吐出された溶融物を冷却固化させながらペレタイズ加工が行われて成形物を得る。ペレタイズ加工としては、溶融物を吐出口から押し出した直後に空気中で行うホットカット法や溶融物を吐出口から押し出した直後に水中で行うアンダーウォータカット(UWC)法等が挙げられるが、本発明においては、吐出される溶融樹脂(即ち、ポリエステル樹脂)の重量平均分子量が26,000未満と低いため、UWC法によりペレタイズ加工を行うことが好ましい。重量平均分子量が26,000未満の溶融したポリエステル樹脂を冷却固化させながらUWC法によりペレタイズ加工することにより、上記したような任意切断面がラウンド形状の成形物を得ることができる。
【0029】
また、ケミカルリサイクルを考慮すると、成形物を得る際に使用するポリエステル樹脂は、リサイクル材であることが好ましい。リサイクル材は石油由来のポリエステル樹脂であっても、植物由来のポリエステル樹脂であってもよく、その混合物であってもよい。例えば、回収した使用済みPETボトル製品を選別・粉砕・洗浄し、汚染物質や異物を除去してフレークとしたものを好適に使用することができる。なお、PETボトルは、IV値が0.8程度のPET樹脂を使用して製造されることが一般的であるが、使用済みPETボトルから得られたフレークをPET樹脂原料とした場合、再溶融して得られる成形体は、溶融成形時にPETの加水分解が生じてもとのPETのIV値よりも低くなることが知られているものの、通常の再溶融では、重量平均分子量が26,000未満であるようなポリエステル樹脂を得るのは困難である。本発明においては、上記のような押出機を用いることにより、樹脂の重量平均分子量が低くすることができ、その結果、成形物を分解効率がより一層優れる微粉形態とすることができる。
【0030】
<粉砕物>
本発明の粉砕物は、ポリエステル樹脂の粉砕物であり、温度変調示差走査熱量計を用いて測定される結晶化度相関パラメーター(ΔHTc1/ΔHTm)が0.5以上であり、300μm以下の平均粒子径(D50)を有するものである。上述のように、結晶化度相関パラメーターが0.5以上であるような結晶化度が小さく、かつ平均粒子径が300μm以下であるような粒状形態を有するポリエステル樹脂粉砕物とすることにより、加水分解効率が向上する。表面積を大きくして加水分解効率を高める観点において、好ましい平均粒子径は10~300μmである。なお、本発明において、平均粒子径とは、レーザー回折法散乱法により測定した粒子径分布を累積分布で表したときの50%粒子径(D50 メジアン径)を意味するものとする。
【0031】
本発明において、ポリエステル樹脂はPETであることが好ましい。PETは、エチレングリコールとテレフタル酸の2成分を重縮合することにより得られるものであり、半結晶性ポリエステルであることが知られている。半結晶性のPET樹脂において、結晶化度相関パラメーターが0.5以上であるような粉砕物とすることで、加水分解効率が向上する。
【0032】
本発明の粉砕物は、上記したポリエステル樹脂の成形体を粉砕することにより、微粉化することよっても得ることができる。成形物を粉砕して微粉化することにより、表面積が増加し、ポリエステルの分解効率を向上させることができる。上記したように、通常の重量平均分子量を有するペレットでは、粉砕しても500μm程度の大きさの粉砕物しか得られないが、本発明においては、特殊な粉砕機を用いることなく、より細かな粉砕物を得ることができる。
【0033】
成形物の粉砕は、従来公知の湿式粉砕機や乾式粉砕機を使用することができ、例えば、ハンマーミル、ディスクミル、ピンミル、カッターミル、ローラーミル、ジェットミル、ビーズミル、ボールミル等の粉砕機を用いて粉砕することが好ましい。また、粉砕効率を高めるため上記した粉砕機を2種以上組み合わせてもよい。このような粉砕機を使用することにより、上記したような平均粒子径が300μm以下の粒状粉砕物を簡易かつ簡便に得ることができる。
【0034】
<リサイクル方法>
本発明においては、上記したような成形体の粉砕物を用いることにより、効率的にPET樹脂製品のリサイクルが可能となる。例えば、使用済みのPET樹脂製品から上記のようにして製造された成形体の粉砕物を、従来公知の方法によって化学分解することにより、使用済みのPET樹脂製品から、PETを構成していたモノマーないしオリゴマーを得ることができる。得られたモノマーないしオリゴマーを重合することで、使用済みのPET樹脂製品から、再びPET樹脂製品を製造することができる。
【0035】
PET樹脂製品のケミカルリサイクルの一例として、使用済みPETボトルを粉砕したフレークを再溶融して本発明の成形体を製造し、メタノールやエチレングリコール等の溶媒、あるいは酵素を含む媒体に浸漬することにより、ポリエチレンテレフタレートが解重合して、テレフタル酸を得ることができる。
【0036】
PETの加水分解は、例えば、成形体と、分解酵素を発現し排出できる微生物と、水等とを含む原料組成物を用いて行うことができる。また、微生物に代えて当該微生物が生産する酵素を精製したものを分解酵素として用いてもよい。原料組成物にはpHを安定化させるために、緩衝剤を添加してもよい。原料組成物のpHは、酵素の活性の観点から5~11であることが好ましい。
【0037】
解重合処理の時間は、1~24時間であることが好ましく、4~16時間であることがより好ましい。
【0038】
回収された有効成分からモノマーを単離するためには、モノマーが溶解する有機溶媒でモノマー(テレフタル酸)を抽出し、抽出したモノマー溶液から蒸留、晶析等によりポリエステルを構成するモノマーを単離してもよいし、そのまま晶析または蒸留を行ってもよい。またモノマー溶液をイオン交換処理などして、抽出、蒸留、晶析等を行ってもよい。
【0039】
上記ケミカルリサイクルにおいて、メタノールやエチレングリコール等の溶媒を使用して解重合を行うよりも、酵素を含む媒体を使用した方が溶媒の回収設備等が不要になるため、より効率的にかつ安価にケミカルリサイクルを行うことができる。
【実施例0040】
次に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0041】
<使用原料>
使用済みPETボトルを粉砕・洗浄し、汚染物質や異物を除去したPETフレーク(IV:0.8、融点:250℃)を準備した。
【0042】
[実施例1]
アンダーウォーターカット(UWC)方式造粒設備付き二軸押出機に、未乾燥のPETフレークを供給し、バレル温度280℃にてPETフレークを溶融させるとともに、溶融樹脂が流れている押出機中にプランジャーポンプを介して水を圧入した。ダイスから吐出した溶融樹脂をUWCによりペレタイズを実施した。UWCの水温は80℃とした。得られたPET成形体を任意の位置での切断したところ、切断面はラウンド形状であった。
上記のようにして得られたPET成形体(ペレット)を、凍結粉砕装置(SPEX Sample Prep社製、6770)を用いて微粉化し、粉砕物を得た。
【0043】
[比較例1]
ストランドカット方式造粒設備付き二軸押出機に、未乾燥のPETフレークを供給し、バレル温度280℃にてPETフレークを溶融させ、ダイスから吐出した溶融樹脂を空気中で冷却固化させてストランドとし、ストランドカッターによりペレタイズを実施し、PET成形体を得た。得られたPET成形体を任意の位置で切断したところ、流れ方向(ストランドの長さ方向)での切断面は矩形状であった。
上記のようにして得られたPET成形体(ペレット)を、凍結粉砕装置(SPEX Sample Prep社製、6770)を用いて微粉化し、粉砕物を得た。
【0044】
[比較例2]
ストランドカット方式造粒設備付き二軸押出機に、120℃設定で10時間以上の熱風乾燥を行った乾燥済みのPETフレークを供給し、バレル温度280℃にてPETフレークを溶融させ、ダイスから吐出した溶融樹脂を空気中で冷却固化させてストランドとし、ストランドカッターによりペレタイズを実施し、PET成形体を得た。得られたPET成形体を任意の位置での切断したところ、流れ方向(ストランドの長さ方向)での切断面は矩形状であった。
上記のようにして得られたPET成形体(ペレット)を、凍結粉砕装置(SPEX Sample Prep社製、6770)を用いて微粉化し、粉砕物を得た。
【0045】
[比較例3]
実施例1と同様の方法でPET成形体を得た後、この成形体を120℃設定で10時間加熱して結晶化処理を行った後、凍結粉砕装置(SPEX Sample Prep社製、6770)を用いて微粉化し、粉砕物を得た。
【0046】
<結晶化度相関パラメーターの測定>
各粉砕物を、温度変調示差走査熱量計(TAインスツルメント株式会社製、DSC2500)を用いて、アルミパン(TAインスツルメント株式会社製、TZeroアルミパン)内に約3mgを封入し測定に供した。測定条件は、昇温速度3℃/分、温度変調条件は、ヒートオンリーモードで±0.48℃/60秒の条件とした。データ解析には、TAインスツルメント製解析ソフト「TRIOS」を使用した。
温度変調昇温測定から得られたトータルヒートフロープロファイルより、結晶化エンタルピー(ΔHTc1)および結晶融解エンタルピー(ΔHTm)を算出した。なお、計算範囲については、ΔHTc1はピーク形状に応じて145℃以下の範囲で適宜設定し、ΔHTmは210~270℃に固定とした。
得られたΔHTc1およびΔHTmから下記式により結晶化度相関パラメーター(X)を算出した。
結晶化度相関パラメーター(X)=ΔHTc1/ΔHTm
得られた各成形体の結晶化度相関パラメーター(X)は、下記の表1に示すとおりであった。
【0047】
<重量平均分子量およびIVの測定>
粉砕物の重量平均分子量を、高速GPC装置(東ソー株式会社製、HLC―8320GPC)を用いて測定した。サンプルは1,1,1,3,3,3,-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)で溶解させた溶液を用いた。移動相にはクロロホルムを使用し、カラムは東ソー株式会社製のTSKgel SuperHM-Hカラムを用い、40℃にて測定した。分子量の標準としては東ソー株式会社製のTSKgel標準ポリスチレンを用いた。
また、IVの測定は、相対粘度計(マルバーン・パナリティカル社製、Viscotec Y501C)を用いて、25℃に温度調整して実施した。サンプルはフェノール:テトラクロロエタン=1:1溶媒で溶解させた溶液とした。
各粉砕物の重量平均分子量およびIVは表1に示されるとおりであった。
【0048】
<平均粒子径の測定>
上記のようにして得られた粉砕物の粒子径をレーザー回折式粒径分布測定機(株式会社島津製作所製、SALD-3100)を用いて乾式自由落下モードで測定し、平均粒子径(D50)を算出した。
各粉砕物の平均粒子径は表1に示されるとおりであった。
【0049】
<分解効率の評価>
得られた粉砕物10.5mgを、酵素を含む緩衝液に24時間浸漬し、PETの加水分解を行った。酵素を含む緩衝液に浸漬前の成形物の総重量(Wb)と、浸漬後の成形物を乾燥させた後の総重量(Wa)とから、下記式により分解効率(D)を算出しした。
分解効率(D)=(Wb-Wa)/Wb×100
各成形物の分解効率は、下記の表1に示すとおりであった。
【0050】
【0051】
表1の評価結果からも明らかなように、重量平均分子量およびIVが低くなるほどに、粉砕後の平均粒径が小さくなる。平均粒径が小さくなることで表面積が大きくなるため分解率が向上していると考えられる。また、比較例3では得られたペレットを結晶化させており、結晶化度相関パラメーターが0.50未満となった。このとき分解率は低い。