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特開2023-175430二次電池の集電体用導電性樹脂フィルム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175430
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】二次電池の集電体用導電性樹脂フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087866
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】権田 貴司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 和宏
(72)【発明者】
【氏名】石田 純也
【テーマコード(参考)】
5H017
【Fターム(参考)】
5H017AA02
5H017AA03
5H017AA04
5H017AS03
5H017BB06
5H017BB12
5H017CC01
5H017EE06
5H017EE07
5H017HH00
5H017HH01
5H017HH03
5H017HH06
5H017HH07
5H017HH08
5H017HH10
(57)【要約】
【課題】耐薬品性を向上させて充放電サイクル特性の低下を防ぎ、二次電池の集電体の剥離を防止し、導電性や軽量化の向上に資することのできる安価な二次電池の集電体用導電性樹脂フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】互いに見掛けの溶融粘度が異なる複数のポリエーテルエーテルケトン樹脂含有のポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物100質量部と、炭素系導電材料5質量部以上30質量部以下とを含み、相対結晶化度が80%以上の二次電池の集電体用導電性樹脂フィルム6である。軽量性、機械的特性、耐薬品性、耐熱性に優れ、低吸水率のポリエーテルエーテルケトン樹脂により集電体用導電性樹脂フィルム6を製造するので、例え集電体用導電性樹脂フィルム6を集電体として使用しても、集電体用導電性樹脂フィルム6の内部に電解質成分が浸透することがなく、充放電サイクル特性が低下するおそれを排除できる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも互いに見掛けの溶融粘度が異なる複数のポリエーテルエーテルケトン樹脂含有のポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物100質量部と、炭素系導電材料5質量部以上30質量部以下とを含み、相対結晶化度が80%以上であることを特徴とする二次電池の集電体用導電性樹脂フィルム。
【請求項2】
厚さが5μm以上500μm以下、N-メチル-2-ピロリドンと電解液に浸漬させた場合の質量変化率が0.0%以上2.0%以下、厚さ方向に1MPaの加圧力を作用させて測定した場合の抵抗値が1mΩ・cm以上1000mΩ・cm以下である請求項1記載の二次電池の集電体用導電性樹脂フィルム。
【請求項3】
複数のポリエーテルエーテルケトン樹脂として第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂を含み、これら第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂の組成質量比率が第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂5質量%以上60質量%以下、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂40質量%以上95質量%以下であり、
第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂は、温度375℃、荷重50kgfの条件下で見掛けの溶融粘度が50Pa・s以上500Pa・s以下であり、
第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂は、温度375℃、荷重50kgfの条件下で見掛けの溶融粘度が500Pa・sを越え2500Pa・s以下である請求項1又は2記載の二次電池の集電体用導電性樹脂フィルム。
【請求項4】
温度375℃、荷重50kgfの条件下における第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂の見掛けの溶融粘度比は、
第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂の見掛けの溶融粘度/第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂の見掛けの溶融粘度=3/1以上15/1以下である請求項3記載の二次電池の集電体用導電性樹脂フィルム。
【請求項5】
請求項1又は2に記載された二次電池の集電体用導電性樹脂フィルムの製造方法であって、
少なくとも互いに見掛けの溶融粘度が異なる複数のポリエーテルエーテルケトン樹脂含有のポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物100質量部と、炭素系導電材料5質量部以上30質量部以下とからなる成形材料を溶融混練し、
成形材料をダイスにより集電体用導電性樹脂フィルムに押出成形して圧着ロールと冷却ロールの間に挟んで冷却することにより、集電体用導電性樹脂フィルムの相対結晶化度を80%以上とすることを特徴とする二次電池の集電体用導電性樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池や全固体電池等に使用される二次電池の集電体用導電性樹脂フィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケル‐カドミウム蓄電池、ニッケル‐水素蓄電池、ニッケル‐亜鉛蓄電池、リチウムイオン二次電池、及び全固体電池等の充放電可能な高性能の二次電池が脚光を浴びているが、これらの高性能な二次電池の中でも、特にリチウムイオン二次電池や全固体電池が注目されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、図示しないが、正極と負極、セパレータ、電解質、及び容器等から構成されている。正極(正極板)は、集電板及びその上部に形成された正極活物質含有の正極合剤よりなり、この正極合剤の正極活物質として、コバルト酸リチウムやマンガン酸リチウム等が使用されている。これに対し、負極(負極板)は、集電板及びその両面に形成されて負極合剤よりなり、この負極合剤の負極活物質として、天然黒鉛や人造黒鉛等の易黒鉛炭素が使用されている。これら正極と負極の集電体は、一般的には正極にアルミ箔が使用され、負極に銅箔等の金属箔が使用されている。
【0004】
このようなリチウムイオン二次電池や全固体電池は、エネルギー密度や作動電圧が高く、ライフサイクルも長く、しかも、自己放電性が低いという優れた特徴を有しているので、様々な分野で利用されている。例えば携帯電話、多機能携帯電話、タブレット端末等からなるモバイル情報機器、カメラ、ビデオカメラ、携帯型デジタル音楽プレーヤー等の電子機器、電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)等からなる自動車、航空機等の電源として多方面で幅広く使用されている。
【0005】
ところで、モバイル情報機器や自動車等に使用されるリチウムイオン二次電池、全固体電池には、高エネルギー密度化が要求されるが、この高エネルギー密度化を実現する手法として、電池の軽量化があげられる。この電池の軽量化には、様々な方法が検討されているが、その一つとして、集電体用の導電性樹脂フィルムの使用があげられる。すなわち、リチウムイオン二次電池の正極と負極の集電体には、上記したように金属箔が使用されるが、この金属箔の代わりに、金属よりも比重の小さい導電性樹脂フィルムを使用すれば、電池の軽量化に資することができる。
【0006】
そこで、従来においては、二次電池の軽量化を図るため、様々な導電性樹脂フィルムが検討されている(特許文献1、2、3参照)。例えば、特許文献1では、環状オレフィン樹脂、導電性フィラーと共役ジエンゴム、あるいは環状オレフィン樹脂、芳香族ビニル‐共役ジエンブロック共重合体の水素添加物、導電性フィラーと共役ジエンゴムからなる導電性樹脂フィルムが提案されている。
【0007】
特許文献2では、ポリエーテルエーテルケトン、及びテトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体よりなる群から選択される少なくとも一種の樹脂と、ケッチェンブラック、及び多層カーボンナノチューブよりなる群から選択される少なくとも一種の導電性フィラーを含有する導電性樹脂層を有する二次電池用集電体が提案されている。また、特許文献3には、イミド基含有樹脂を含む基材に導電性フィラーが添加されてなる導電性樹脂層(第一の導電性層)と、イミド基非含有樹脂を含む基材に導電性フィラーが添加されてなる導電性樹脂層及び金属層(第二の導電性層)とからなる双極型リチウムイオン二次電池用の集電体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010‐77236号公報
【特許文献2】特開2012‐248430号公報
【特許文献3】特開2013‐26192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1記載の導電性樹脂フィルムの場合には、耐薬品性に問題があるので、係る導電性樹脂フィルムをリチウムイオン二次電池の集電体として使用すると、導電性樹脂フィルムの内部に電解質成分が浸透し、充放電サイクル特性が低下するおそれがある。
【0010】
また、特許文献2の二次電池用の集電体の場合には、導電性フィラー成分にケッチェンブラック及び多層カーボンナノチューブが使用されているが、ケッチェンブラックを導電性フィラー成分として使用するとき、ケッチェンブラックを樹脂中へ多量に添加することができないので、二次電池用集電体の高導電化を図ることができない。また、ケッチェンブラックを添加した集電板は、脆性のため、正極活物質や負極活物質の塗工時、あるいは二次電池への組立時に破損するおそれがある。
【0011】
また、ケッチェンブラックではなく、多層カーボンナノチューブを導電性フィラーとして使用した混合原料により製造される導電性樹脂層は、多層カーボンナノチューブが面方向に配向するため、面方向の導電性には優れるものの、厚さ方向の導電性に劣るという問題が生じる。また、樹脂成分にテトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体を採用すると、樹脂の比重が2.1以上2.2以下と高いので、集電体の軽量化を図ることができないおそれがある。さらに、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体は、フッ素樹脂であるため、溶融成形に特殊な鋼材や設備が必要となり、結果として、集電体のコストが増大するという問題が生じる。
【0012】
また、特許文献3の双極型リチウムイオン二次電池用の集電体の場合には、二種類の異なる樹脂から構成された多層構造で、二種類の樹脂の線膨張係数が異なるため、繰り返し充放電中の発熱で生じる導電性樹脂の伸縮率の差により、第一、第二の導電性層間で集電体の剥離を招くおそれがある。また、係る集電体は、第一、第二の導電性層で使用されている樹脂の吸水率が相違するので、製造後の吸水による膨張率の差でカールしたり、第一、第二の導電性層間で集電体が剥離するおそれがある。
【0013】
本発明は上記に鑑みなされたもので、耐薬品性を向上させて充放電サイクル特性の低下を防ぎ、二次電池の集電体の剥離を防止し、導電性や軽量化の向上に資することのできる安価な二次電池の集電体用導電性樹脂フィルム及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、鋭意研究した結果、熱可塑性樹脂の材料中で最も耐熱性に優れ、耐薬品性や機械的特性にも優れるポリエーテルエーテルケトン樹脂と、軽量で導電性に優れる炭素系導電材料に着目し、これらポリエーテルエーテルケトン樹脂と炭素系導電材料を用いて本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明においては上記課題を解決するため、少なくとも互いに見掛けの溶融粘度が異なる複数のポリエーテルエーテルケトン樹脂含有のポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物100質量部と、炭素系導電材料5質量部以上30質量部以下とを含み、相対結晶化度が80%以上であることを特徴としている。
【0016】
なお、厚さが5μm以上500μm以下、N-メチル-2-ピロリドンと電解液に浸漬させた場合の質量変化率が0.0%以上2.0%以下、厚さ方向に1MPaの加圧力を作用させて測定した場合の抵抗値が1mΩ・cm以上1000mΩ・cm以下であることが好ましい。
【0017】
また、複数のポリエーテルエーテルケトン樹脂として第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂を含み、これら第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂の組成質量比率が第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂5質量%以上60質量%以下、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂40質量%以上95質量%以下であり、
第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂は、温度375℃、荷重50kgfの条件下で見掛けの溶融粘度が50Pa・s以上500Pa・s以下であり、
第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂は、温度375℃、荷重50kgfの条件下で見掛けの溶融粘度が500Pa・sを越え2500Pa・s以下であることが好ましい。
【0018】
また、温度375℃、荷重50kgfの条件下における第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂の見掛けの溶融粘度比は、
第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂の見掛けの溶融粘度/第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂の見掛けの溶融粘度=3/1以上15/1以下であることが好ましい。
【0019】
また、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1又は2に記載された二次電池の集電体用導電性樹脂フィルムの製造方法であって、
少なくとも互いに見掛けの溶融粘度が異なる複数のポリエーテルエーテルケトン樹脂含有のポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物100質量部と、炭素系導電材料5質量部以上30質量部以下とからなる成形材料を溶融混練し、
成形材料をダイスにより集電体用導電性樹脂フィルムに押出成形して圧着ロールと冷却ロールの間に挟んで冷却することにより、集電体用導電性樹脂フィルムの相対結晶化度を80%以上とすることを特徴としている。
【0020】
なお、温度375℃、荷重50kgfの条件下で直径1.0mm×長さ10mmのダイスを用い、フローテスターで測定した温度375℃における成形材料の見掛けの溶融粘度は、50Pa・s以上10000Pa・s以下が良い。
また、冷却後の集電体用導電性樹脂フィルムを加熱圧縮成形するとともに、この集電体用導電性樹脂フィルムの加熱温度を、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点以上熱分解温度未満とし、集電体用導電性樹脂フィルムに加える圧力を、集電体用導電性樹脂フィルムの投影面積に対して0.5kgf/cm以上100kgf/cm以下とすると良い。
【0021】
ここで、特許請求の範囲におけるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂組成物と炭素系導電材料は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂の熱分解温度未満で溶融混練することができる。ポリエーテルエーテルケトン樹脂には、本発明の特性を損なわない範囲において、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)樹脂等のポリアリーレンエーテルケトン樹脂を必要に応じて添加することができる。
【0022】
炭素系導電材料には、少なくともカーボンナノチューブが含まれる。また、集電体用導電性樹脂フィルムは、一軸延伸タイプ、二軸延伸タイプ、無延伸タイプのいずれでも良い。集電体用導電性樹脂フィルムには、薄い集電体用導電性樹脂フィルムの他、厚い集電体用導電性樹脂シートが含まれる。また、成形材料は、見掛けの溶融粘度が異なる複数のポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物と、炭素系導電材料とを攪拌混合させた後に溶融混練することで調製することができる。
【0023】
本発明に係る二次電池には、少なくともニッケル‐カドミウム蓄電池、ニッケル‐水素蓄電池、ニッケル‐亜鉛蓄電池、リチウムイオン二次電池、双極型リチウムイオン二次電池、全固体電池等が含まれる。さらに、集電体用導電性樹脂フィルムは、比重が、1.23以上1.60以下、引張最大強度が60MPa以上500MPa以下、引張破断時伸びが10%以上500%以下、引張弾性率が2000MPa以上10000MPa以下が良い。
【0024】
本発明によれば、集電体用導電性樹脂フィルムの材料として、軽量性、機械的強度、耐薬品性等に優れ、低吸水率の見掛けの溶融粘度が異なる複数のポリエーテルエーテルケトン樹脂含有のポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物を用いて集電体用導電性樹脂フィルムを製造するので、例え集電体用導電性樹脂フィルムを集電体として使用しても、集電体用導電性樹脂フィルムの内部に電解質成分が浸透することが少ない。また、二種類の異なる樹脂を用いる必要がないので、集電体の剥離を招くおそれを払拭することができ、加えて、製造後の吸水による膨張率の差でカールしたり、第一、第二の導電性層間で集電体が剥離するおそれも少ない。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、耐薬品性を向上させて充放電サイクル特性の低下を防ぎ、二次電池の集電体の剥離を防止することができ、しかも、導電性や軽量化の向上に資することができるという効果がある。
【0026】
請求項2記載の発明によれば、集電体用導電性樹脂フィルムの厚さが5μm以上500μm以下なので、集電体用導電性樹脂フィルムの引張強度の低下を防止し、二次電池の集電体の軽量化を図ることができる。また、集電体用導電性樹脂フィルムをN-メチル-2-ピロリドンと電解液に浸漬させた場合の質量変化率が2.0%以下なので、優れた耐薬品性を得ることができる。また、集電体用導電性樹脂フィルムの厚さ方向に1MPaの加圧力を作用させて測定した場合の抵抗値が1mΩ・cm以上1000mΩ・cm以下と低いので、集電体用導電性樹脂フィルムを二次電池の集電体として使用しても、エネルギー密度の低下を防ぐことができる。
【0027】
請求項3記載の発明によれば、第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂の組成質量比率が第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂5質量%以上60質量%以下、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂40質量%以上95質量%以下なので、導電性や機械的強度に優れる集電体用導電性樹脂フィルムを得ることができ、優れたフィルム成形性を得ることが可能となる。また、温度375℃、荷重50kgfの条件下における第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂の見掛けの溶融粘度が50Pa・s以上500Pa・s以下なので、集電体用導電性樹脂フィルムの導電性を改良し、機械的強度の低下防止が期待できる。
【0028】
請求項4記載の発明によれば、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂の見掛けの溶融粘度/第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂の見掛けの溶融粘度=3/1以上15/1以下なので、第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂特性の過剰な近似を抑制することができ、導電性を好適に改良することが可能となる。また、第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂を均一に分散し、フィッシュアイや孔が発生するおそれを払拭することができる。
【0029】
請求項5記載の発明によれば、集電体用導電性樹脂フィルムを溶融押出成形法により製造するので、集電体用導電性樹脂フィルムの厚さ精度、生産性、ハンドリング性の向上、製造設備の簡略化が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明に係る二次電池の集電体用の導電性樹脂フィルムの製造方法の実施形態における第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂用の溶融混練機を模式的に示す説明図である。
図2】本発明に係る二次電池の集電体用の導電性樹脂フィルムの製造方法の実施形態におけるポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物と炭素系導電材料用の溶融混練機を模式的に示す説明図である。
図3】本発明に係る二次電池の集電体用の導電性樹脂フィルム及びその製造方法の実施形態における製造装置を模式的に示す全体説明図である。
図4】本発明に係る二次電池の集電体用導電性樹脂フィルムの製造方法の実施例と比較例における集電体用導電性樹脂フィルムの導電性の測定状態を模式的に示す断面説明図である。
図5】本発明に係る二次電池の集電体用導電性樹脂フィルムの製造方法の実施例と比較例における集電体用導電性樹脂フィルムの導電性の測定状態を模式的に示す部分平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態を説明すると、本実施形態における二次電池の集電体用導電性樹脂フィルム6は、図1ないし図3に示すように、少なくとも互いに見掛けの溶融粘度が異なる複数のポリエーテルエーテルケトン樹脂含有のポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と、導電性に優れる炭素系導電材料5とを含む成形材料1により成形される相対結晶化度80%以上の導電性樹脂フィルムであり、国連サミットで採択されたSDGs(国連の持続可能な開発のための国際目標であり、17のグローバル目標と169のターゲット(達成基準)からなる持続可能な開発目標)の目標9の達成に貢献する。
【0032】
成形材料1は、互いに見掛けの溶融粘度が異なる複数のポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂含有のポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物100質量部と、炭素系導電材料5質量部以上30質量部以下とを含有するよう調製される。これらの質量比率は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物100質量部に対し、炭素系導電材料5が5質量部以上30質量部以下、好ましくは8質量部以上25質量部以下、より好ましくは10質量部以上20質量部以下の範囲が良い。
【0033】
これは、炭素系導電材料5が5質量部未満の場合には、集電体用導電性樹脂フィルム6の厚さ方向に1MPaの加圧力を作用させて測定したときの抵抗値が1000mΩ・cm以下にならないので、集電体用導電性樹脂フィルム6に充分な導電性を付与することができず、二次電池の集電体として使用することが困難になるからである。これに対し、炭素系導電材料5が30質量部を越える場合には、成形材料1の溶融粘度が高くなって溶融流動性の低下を招いたり、溶融伸びの低下に伴い集電体用導電性樹脂フィルム6の加工性が低下し、集電体用導電性樹脂フィルム6に孔が開くからである。加えて、複数のポリエーテルエーテルケトン樹脂中に炭素系導電材料5を配合することが困難になるからである。
【0034】
また、炭素系導電材料5が30質量部を越える場合には、集電体用導電性樹脂フィルム6から炭素系導電材料5が分離して目ヤニの発生原因となり、集電体用導電性樹脂フィルム6の品質低下を招くこととなるからである。この点について詳しく説明すると、集電体用導電性樹脂フィルム6をフィルム成形する場合、図3に示す成形用のダイス33の出口(ダイスリップともいう)に目ヤニと呼ばれる多量の付着物が付着して堆積することがある。この目ヤニが堆積すると、集電体用導電性樹脂フィルム6にダイスラインが生じたり、目ヤニがダイス出口から離れて集電体用導電性樹脂フィルム6に混入し、その結果、集電体用導電性樹脂フィルム6の品質低下を招くこととなる。
【0035】
さらに、炭素系導電材料5が30質量部を越える場合には、上記の他、集電体用導電性樹脂フィルム6の靭性が失われ、集電体用導電性樹脂フィルム6の成形中、正極活物質あるいは負極活物質の塗工工程、二次電池の組立中に集電体用導電性樹脂フィルム6が割れることがあるという理由に基づく。
【0036】
成形材料1のポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2は、複数のポリエーテルエーテルケトン樹脂として、低粘度の第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂3と、高粘度の第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂4とを含有し、これら第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4の組成質量比率が第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂5質量%以上60質量%以下、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂40質量%以上95質量%以下に調整されており、第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4の見掛けの溶融粘度が互いに相違する。
【0037】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2は、温度375℃、荷重50kgfの条件下での見掛けの溶融粘度が50Pa・s以上2500Pa・s以下、好ましくは75Pa・s以上2000Pa・s以下、より好ましくは100Pa・s以上1500Pa・s以下、さらに好ましくは100Pa・s以上1200Pa・s以下の範囲とされる。これは、見掛けの溶融粘度が50Pa・s未満の場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂がオリゴマー領域にあり、集電体用導電性樹脂フィルム6の導電性を改良することができないばかりか、機械的強度が低下することがあるからである。これに対し、見掛けの溶融粘度が2500Pa・sを越える場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2に炭素系導電材料5を均一に分散させることができないからである。
【0038】
第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4は、アリーレン基、エーテル基、及びカルボニル基からなる結晶性の熱可塑性樹脂であり、例えば特許第5702283号公報や特許第5847522号公報、あるいは文献〔株式会社旭リサーチセンター:先端用途で成長するスーパーエンプラ・PEEK(上)〕等に記載された樹脂があげられ、機械的強度、軽量性、低誘電特性、耐加水分解性、耐熱性、耐薬品性等に優れるという特徴を有する。
【0039】
第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4の具体例としては、例えば化学式(1)で表される化学構造式を有するポリエーテルエーテルケトン樹脂があげられ、融点が通常320以上360℃以下、好ましくは335以上345℃以下であり、通常は粉状、顆粒状、ペレット状の成形加工に適した形で使用される。
【0040】
【化1】
【0041】
第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4の構造式のnは、機械的特性を向上させる観点から10以上、好ましくは20以上が良い。第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4は、化学式(1)の繰り返し単位のみからなるホモポリマーでも良いが、化学式(1)以外の繰り返し単位を有していても良い。また、第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4中、化学式(1)の化学構造の割合は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂100モル%に対し、50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上が良い。第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4は、本発明の効果を損なわない範囲において、他の共重合可能な単量体とのブロック共重合体、ランダム共重合体、あるいは変性体も使用可能である。
【0042】
第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4の製品例としては、例えばビクトレック社製の製品名:Victrex Powderシリーズ、Victrex Granulesシリーズ、ダイスセル・エボニック社製の製品名:ベスタキープシリーズ、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製の製品名:キータスパイア PEEKシリーズがあげられる。
【0043】
第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂の製造方法としては、特に限定されるものではないが、代表的な製造方法として、芳香族ジオール成分と芳香族ジハライド成分(但し、いずれか一方の成分は、少なくともカルボニル基を有する成分を含む)を、アルカリ金属塩及び溶媒の存在下、150℃以上400℃以下の温度範囲で重縮合させる方法があげられる。芳香族ジオール成分の例としてはハイドロキノン等、芳香族ジハライド成分の例としては4,4’-ジフルオロベンゾフェノン等があげられる。また、アルカリ金属塩の例としては無機炭酸カリウム等があげられ、溶媒の例としてはジフェニルスルホン等があげられる。重縮合反応完了後は、粉砕し、アセントン、メタノール、エタノール、水等により洗浄して乾燥させても良い。
【0044】
なお、第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4は、末端基(通常、ハロゲン原子)をアルカリ性スルホン酸基(スルホン酸ナトリウム基、スルホン酸カリウム基、スルホン酸リチウム基など)等で修飾すること等により、結晶化温度と適宜調整して使用しても良いが、末端基を修飾しないで使用するのが好ましい。
【0045】
第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4の組成質量比率は、第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂5質量%以上60質量%以下、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂40質量%以上95質量%以下であるが、好ましくは第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂3の組成質量比率が10質量%以上50質量%以下、より好ましくは組成質量比率が15質量%以上40質量%以下、さらに好ましくは組成質量比率が20質量%以上40質量%以下の範囲である。
【0046】
これは、第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4の組成質量比率が上記範囲であれば、導電性や機械的強度に優れる集電体用導電性樹脂フィルム6が得られるという理由に基づく。また、フィルム成形性に優れる成形材料1が得られるという理由に基づく。
【0047】
第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂3は、温度375℃、荷重50kgfの条件下での見掛けの溶融粘度が50Pa・s以上500Pa・s以下、好ましくは75Pa・s以上400Pa・s以下、より好ましくは90Pa・s以上300Pa・s以下、さらに好ましくは100Pa・s以上200Pa・s以下の範囲とされる。これは、見掛けの溶融粘度が50Pa・s未満の場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂がオリゴマー領域にあり、集電体用導電性樹脂フィルム6の導電性を改良することができないばかりか、機械的強度が低下することがあるからである。これに対し、見掛けの溶融粘度が500Pa・sを越える場合には、導電性の改良に支障を来すからである。
【0048】
第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂3の見掛けの溶融粘度は、温度375℃、荷重50kgfの条件下で直径1.0mm×長さ10mmのダイスを用い、フローテスターで測定することができる。
【0049】
第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂4は、温度375℃、荷重50kgfの条件下での見掛けの溶融粘度が500Pa・sを越え2500Pa・s以下、好ましくは700Pa・s以上2000Pa・s以下、より好ましくは900Pa・s以上1500Pa・s以下、さらに好ましくは900Pa・s以上1200Pa・s以下の範囲とされる。第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂4の見掛けの溶融粘度も、温度375℃、荷重50kgfの条件下で直径1.0mm×長さ10mmのダイスを用い、フローテスターで測定することができる。
【0050】
温度375℃、荷重50kgfにおける第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4の見掛けの溶融粘度比は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の特性を大きく改良できるという理由から、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂4の見掛けの溶融粘度/第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂3の見掛けの溶融粘度=3/1以上15/1以下、好ましくは4/1以上13/1以下、より好ましくは4.5/1以上11/1以下、さらに好ましくは5/1以上10/1以下の範囲が良い。
【0051】
これは、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂4の見掛けの溶融粘度が第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂3の見掛けの溶融粘度に対して3倍より低い場合には、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂4と第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂3の特性が近似し過ぎる傾向があるため、導電性の改良が困難になるからである。これに対し、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂4の見掛けの溶融粘度が第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂3の見掛けの溶融粘度に対して15倍より高い場合には、見掛けの溶融粘度の差が大きいので、第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4の均一分散が困難となり、フィッシュアイや孔が発生するおそれがあるからである。
【0052】
成形材料1の炭素系導電材料5は、例えばファーネスブラック(オイルファーネスブラック及びガスファーネスブラック)、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、フラーレン、アモルファスカーボン、パン系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛、鱗片状黒鉛を濃硫酸等で化学処理した後に加熱して得られる膨張黒鉛、膨張黒鉛を高温で加熱処理して得られる膨張化黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛があげられる。
【0053】
これらの炭素系導電材料5の中では、少量で高い導電性が得られ、集電体用導電性樹脂フィルム6の機械的強度を失うことなく、集電体用導電性樹脂フィルム6を成形することが可能なカーボンナノチューブが最適である。このカーボンナノチューブは、円筒形の中空繊維構造なので、軽量化の向上が期待できる。カーボンナノチューブには、グラファイトの一枚面を巻いた構造の単層カーボンナノチューブ、二層以上で巻いた多層カーボンナノチューブがあるが、特に制限されるものではない。
【0054】
これら単層カーボンナノチューブや多層カーボンナノチューブ以外のカーボンナノチューブには、カーボンナノチューブの材料化学入門〔コロナ社 齋藤弥八編 P7~P9〕に記載のナノグラファイバー、竹形ナノチューブ、カップ積み上げ型ナノチューブ等が該当する。また、カーボンナノチューブの材料化学入門〔コロナ社 齋藤弥八編 P9~P11〕に記載のナンホーン、ナノコーン、マイクロコイル、及びナノコイル等のカーボンナノチューブの類似物も該当する。これらカーボンナノチューブやその類似物の中では、コスト削減の観点から、多層カーボンナノチューブが最適である。
【0055】
カーボンナノチューブの繊維径(外径)は、特に制限されるものではないが、0.5nm以上200nm以下が望ましい。このカーボンナノチューブは、公知の製造方法により製造することができる。例えば、カーボンナノチューブの材料化学入門〔コロナ社 齋藤弥八編 P11~P12〕に記載された(1)アーク放電法、(2)レーザー蒸発法、(3)基板成長法、担持触媒法、流動触媒法、HiPco法等の化学気相成長法(又は熱分解法)等により製造することができる。また、eDPIS法やスパーグロス法等により製造することも可能である。
【0056】
カーボンナノチューブの製品例としては、例えばスパーグロス法CNT〔独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構製〕、eDIPS‐CNT〔独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構製〕、SWNTシリーズ〔名城ナノカーボン社製:商品名〕、VGCFシリーズ〔昭和電工社製:商品名〕、FloTubeシリーズ〔CNano Technology社製:商品名〕、AMC〔宇部興産社製:商品名〕、Nanocyl NC7000シリーズ〔Nanocyl社製:商品名〕、Baytubes〔BAYER社製:商品名〕、GRAPHISTRENGTH〔アルケマ社製:商品名〕、MWNT7〔保土ヶ谷化学社製:商品名〕、K-Nanosシリーズ〔Kumho社製〕、ハイペリオンCNT〔Hypeprion Catalysis International社製:商品名〕等が該当する。
【0057】
カーボンナノチューブには、本発明の特性を損なわない範囲において、他の金属系あるいは炭素系の導電材料を添加しても構わない。金属系の導電材料としては、例えば金、銀、銅、ニッケル、鉄、アルミニウム、クロム、ニオブ、クロム、チタン、スズ、バナジウム、及びこれらを2種類以上含む合金、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物等があげられる。
【0058】
炭素系導電材料5は、粉体状、顆粒状、塊状、繊維状等を特に問うものではない。また、1種類を単独で使用したり、あるいは2種以上を併用しても良い。さらに、炭素系導電材料5は、集電体用導電性樹脂フィルム6の特性を損なわない範囲において、例えばシランカップリング剤〔ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3‐メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3‐アミノプロピルエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、イミダゾールシラン等〕、チタネート系カップリング剤〔イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピル(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリス(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトラオクチルビス(ジ-トリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジ‐トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、テトライソプロピル(ジオクチルホスファイト)チタネート等〕、アルミネート系カップリング剤〔アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等〕等からなる各種カップリング剤で処理を施すことができる。
【0059】
成形材料1には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2や炭素系導電材料5の他、本発明の特性を損なわない範囲において、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリメチルペンテン(PMP)樹脂やポリスチレン(PS)樹脂等のポリオレフィン樹脂、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂や無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂等の酸変性オレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂やポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂等のポリエステル樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂等のポリイミド樹脂、ポリアミド4T(PA4T)樹脂、ポリアミド6T(PA6T)樹脂、変性ポリアミド6T(変性PA6T)樹脂、ポリアミド9T(PA9T)樹脂、ポリアミド10T(PA10T)樹脂、ポリアミド11T(PA11T)樹脂、ポリアミド6(PA6)樹脂、ポリアミド66(PA66)樹脂やポリアミド46(PA46)樹脂等のポリアミド樹脂、ポリサルホン(PSU)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂やポリフェニレンサルホン(PPSU)樹脂等のポリサルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンスルフィドケトン樹脂、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂やポリフェニレンスルフィドケトンスルホン樹脂等のポリアリーレンサルファイド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピル共重合体(FEP)樹脂、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)樹脂、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)樹脂フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂や酸変性フッ素樹脂等のフッ素樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、液晶ポリマー(LCP)、脂肪族ポリケトン樹脂等の熱可塑性樹脂を選択的に添加することができる。
【0060】
また、成形材料1には、本発明の特性を損なわない範囲において、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2、炭素系導電材料5、及び上記熱可塑性樹脂の他、所定の添加物を選択的に添加することができる。具体的には、結晶核剤、耐衝撃改良剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、耐熱向上剤、無機充填剤、有機充填剤、ガラス繊維、炭素繊維等を選択的に添加することができる。
【0061】
成形材料1の見掛けの溶融粘度は、温度375℃、荷重50kgfの条件下で直径1.0mm×長さ10mmのダイスを用い、フローテスターで測定した温度375℃における見掛けの溶融粘度が50Pa・s以上10000Pa・s以下、好ましくは100Pa・s以上5000Pa・s以下、より好ましくは500Pa・s以上2500Pa・s以下の範囲が良い。
【0062】
これは、見掛けの溶融粘度が50Pa・s以上10000Pa・s以下の範囲内であれば、集電体用導電性樹脂フィルム6の成形性に優れ、充分な機械的強度が期待できるからである。これに対し、見掛けの溶融粘度が50Pa・s未満の場合には、見掛けの溶融粘度が低く、溶融張力の低下を招き、集電体用導電性樹脂フィルム6の成形が困難になるからである。また、見掛けの溶融粘度が10000Pa・sを越える場合には、溶融粘度が高く、溶融伸びが低下し、集電体用導電性樹脂フィルム6に孔が開いて破断するおそれがあり、その結果、集電体用導電性樹脂フィルム6の成形に支障を来すからである。
【0063】
上記において、集電体用導電性樹脂フィルム6を製造する場合には、先ず、見掛けの溶融粘度が異なる複数のポリエーテルエーテルケトン樹脂含有のポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2を調製し、このポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と炭素系導電性材料5とを所定の時間、溶融混練して成形材料1を調製し、その後、成形材料1を樹脂フィルム成形用の溶融押出成形機30に投入すれば、厚さ500μm以下の例えば10μm以上500μm以下の集電体用導電性樹脂フィルム6を溶融押出成形して製造することができる。
【0064】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2を調製する方法としては、(1)見掛けの溶融粘度が異なる第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4を溶融混練機10に投入してこれらを溶融混練することにより、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2を調製する方法、(2)攪拌混合機により、見掛けの溶融粘度が異なる第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4を室温(0℃以上50℃以下程度の温度)下で攪拌混合し、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2を調製する方法があげられる。
【0065】
先ず、(1)の調製方法について詳細に説明すると、この方法の場合には、図1に示す所定の溶融混練機10を用意し、この溶融混練機10に第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4を投入口15より同時に投入したり、あるいは第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂3を投入口15より投入するとともに、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂4をサイドフィーダ16より別に投入して溶融混練することで、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2を調製する。第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂4を投入口15に投入するとともに、第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂3をサイドフィーダ16より別に投入して溶融混練しても良い。
【0066】
溶融混練機10としては、バンバリーミキサー、ミキシングロール、加圧ニーダー、単軸押出成形機あるいは二軸押出成形機、三軸押出成形機、四軸押出成形機、八軸押出成形機からなる多軸押出成形機等があげられる。これらの中では、第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4同士の良好な混練分散が期待でき、これらの水分、これらから発生する揮発ガスを脱気可能なベント方式の多軸押出成形機の使用が好ましい。
【0067】
溶融混練機10の溶融混練時における温度は、溶融混練分散が可能であり、第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4が分解しない温度であれば、特に制限されるものではないが、第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4の融点以上熱分解温度未満の範囲である。具体的には、360℃以上450℃以下、好ましくは360℃以上420℃以下、より好ましくは370℃以上400℃以下の範囲である。これは、溶融混練機10の溶融混練時における温度が第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4の融点未満の温度の場合には、第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4が溶融しないので、第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4同士を混練分散することができないからである。また、溶融混練機10の温度が第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4の熱分解温度を越える場合には、第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4が激しく分解するので、好ましくないからである。
【0068】
多軸押出成形機からなる溶融混練機10は、図1に示すように、台座11上に設置されたシリンダー12と、このシリンダー12に内蔵軸支され、モータの駆動で回転して第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4同士を溶融混練して先端部のダイス14からストランド(棒状)等を押し出すスクリュー13と、シリンダー12の上流部に連設されるホッパからなる第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂3用の投入口15と、シリンダー12の下流部に連設される第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂4投入用のサイドフィーダ16と、シリンダー12のダイス14から押し出され、空気あるいは水により冷却されたストランド等を切断してポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2とする回転可能なカッター17とを備えて構成される。
【0069】
このような溶融混練機10を用いてポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2を混練分散する場合には、溶融混練機10の投入口15に第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂3を投入した後、シリンダー12のスクリュー構造のサイドフィーダ16に第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂4を横方向から投入すれば、溶融した第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂3中に第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂4が注入され、これら見掛けの溶融粘度が異なる第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4同士を適切に混練分散することができる。この際、溶融混練時間を短縮することができるので、第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4の熱分解や架橋防止が期待できる。また、溶融混練機10の投入口15に第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂4を投入した後、シリンダー12のサイドフィーダ16に第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂3を横方向から投入しても良い。
【0070】
混練分散された第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2としてダイス14からストランド形にして押し出されるが、ダイス14からポリエーテルエーテルケトン樹脂フィルムとして押し出された後、粉状、顆粒状、フレーク状、ペレット形に加工されてポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2に調製されても良い。
【0071】
次に、(2)の調製方法について詳細に説明すると、この方法の場合には、見掛けの溶融粘度が異なる第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4を室温で攪拌混合することにより調製することできる。第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4同士を室温で攪拌混合する場合には、タンブラーミキサー、ヘンシルミキサー、V型混合機、ナウターミキサー、リボンブレンダー、万能攪拌ミキサー等の攪拌混合機が使用される。この際、第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4の形状は、均一な分散に資する粉体状であるのが好ましい。粉体状に粉砕する方法としては、例えばせん断粉砕法、衝撃粉砕法、衝突粉砕法、冷凍粉砕法、溶液粉砕法等があげられる。
【0072】
次に、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2を用いて成形材料1を調製する方法について説明すると、この成形材料1の調製方法としては、(1)成形材料1用の溶融混練機20に、炭素系導電材料5を投入して溶融したポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と溶融混練することで成形材料1を調製する方法、(2)攪拌混合機により、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と炭素系導電材料5とを室温(0℃以上50℃以下程度の温度)下で攪拌混合し、溶融混練機20で溶融押出混練して成形材料1を調製する方法があげられる。
【0073】
先ず、(1)の調製方法について詳細に説明すると、この方法の場合には、図2に示す所定の溶融混練機20を用意し、この溶融混練機20にポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2を投入して溶融した後、溶融混練機20に炭素系導電材料5をサイドフィーダ法等により新たに投入して既に溶融したポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と溶融混練することで成形材料1を調製する。
【0074】
溶融混練機20としては、バンバリーミキサー、ミキシングロール、加圧ニーダー、単軸押出成形機あるいは二軸押出成形機、三軸押出成形機、四軸押出成形機、八軸押出成形機からなる多軸押出成形機等があげられる。これらの中では、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と炭素系導電材料5との良好な混練分散が期待でき、これらの水分、これらから発生する揮発ガスを脱気可能なベント方式の多軸押出成形機の使用が好ましい。
【0075】
多軸押出成形機からなる溶融混練機20は、図2に示すように、台座21上に設置されたシリンダー22と、このシリンダー22に内蔵軸支され、モータの駆動で回転してポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と炭素系導電材料5とを溶融混練して先端部のダイス24からストランド等を押し出すスクリュー23と、シリンダー22の上流部に連設されるホッパからなるポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2用の投入口25と、シリンダー22の下流部に連設される炭素系導電材料5用のサイドフィーダ26と、シリンダー22のダイス24から押し出され、空気あるいは水により冷却されたストランド等を切断して成形材料1とする回転可能なカッター27とを備えて構成される。
【0076】
このような溶融混練機20を用いてポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と炭素系導電材料5を混練分散する場合には、溶融混練機20の投入口25にポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2を投入した後、シリンダー22のスクリュー構造のサイドフィーダ26で微粉末の炭素系導電材料5を横方向から投入すれば、溶融したポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2中に炭素系導電材料5が注入され、これらポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と炭素系導電材料5を均一、かつ適切に混練分散することができる。この際、混練時間を短縮できるので、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2の分解防止が期待できる。
【0077】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と炭素系導電材料5とを溶融混練する場合の溶融温度は、溶融混練分散が可能でポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2が分解しない温度であれば、特に制限はないが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂の熱分解温度未満の範囲である。具体的には、360℃以上450℃以下、好ましくは360℃以上420℃以下、より好ましくは370℃以上400℃以下の範囲である。
【0078】
これは、溶融混練機20の溶融混練時における温度がポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点未満の温度の場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2が溶融しないので、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と炭素系導電材料5とを均一に分散することができないという理由に基づく。逆に、溶融混練機20の温度がポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2の熱分解温度を越える場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2が激しく分解するので、好ましくという理由に基づく。
【0079】
溶融混練されたポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と炭素系導電材料5とは、ダイス24からストランドにして押し出され、ストランドの成形材料1に調製されるが、ダイス24から樹脂フィルムにして押し出された後、粉状、顆粒状、フレーク状、ペレット状の成形材料1に調製されても良い。また、成形材料1を調製する際には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と炭素系導電材料5のいずれかを所定量以上に分散させ、マスターバッチ化することができる。
【0080】
次に、(2)の調製方法について詳細に説明すると、この方法によりポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と炭素系導電材料5とを室温で攪拌混合する場合には、タンブラーミキサー、ヘンシルミキサー、V型混合機、ナウターミキサー、リボンブレンダー、万能攪拌ミキサー等の攪拌混合機が使用される。この際、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2の形状は、炭素系導電材料5とより均一に分散可能な粉体状であるのが好ましい。この粉体状に粉砕する方法としては、例えばせん断粉砕法、衝撃粉砕法、衝突粉砕法、冷凍粉砕法、溶液粉砕法等があげられる。
【0081】
ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と炭素系導電材料5とは、攪拌混合された後、バンバリーミキサー、ミキシングロール、加圧ニーダー、単軸押出成形機あるいは二軸押出成形機、三軸押出成形機、四軸押出成形機、八軸押出成形機からなる多軸押出成形機等の溶融混練機20により、溶融混練して分散され、成形材料1に調製される。溶融混練機20は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と炭素系導電材料5との良好な混練分散が期待でき、これらの水分、これらから発生する揮発ガスを脱気可能なベント方式の多軸押出成形機が好ましい。成形材料1の調製の際には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と炭素系導電材料5のいずれかを所定量以上に分散させ、マスターバッチ化することができる。
【0082】
成形材料1の調製前における含水率(水分率)は、熱風乾燥機等により2000ppm以下、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下に調整される。これは、含水率が2000ppmを越える場合には、集電体用導電性樹脂フィルム6の発泡を招くおそれがあるからである。このような低い含水率を得るため、成形材料1は、調製前に加熱乾燥されることが好ましい。この加熱乾燥の方法としては、熱風循環乾燥法、除湿熱風乾燥法、加熱真空乾燥法、マイクロ波乾燥法等の公知の方法があげられる。
【0083】
成形材料1の加熱乾燥温度は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂のガラス転移点-50℃以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂のガラス転移点+50℃以下の範囲が良い。具体的は、80℃以上210℃以下、好ましくは110℃以上190℃以下、より好ましくは130℃以上180℃以下、さらに好ましくは150℃以上170℃以下の範囲が良い。ポリエーテルエーテルケトン樹脂のガラス転移点は、通常130℃以上160℃以下(試験方法:示差走査熱量計)、好ましくは135℃以上155℃以下、より好ましくは140℃以上150以下の範囲である。また、成形材料1の加熱乾燥時間は、2時間以上、好ましくは4時間以上、より好ましくは8時間以上が良い。この加熱乾燥時間の上限は、特に限定されるものではないが、24時間以下が妥当である。
【0084】
成形材料1を調製したら、この成形材料1により集電体用導電性樹脂フィルム6を製造するが、製造方法としては、溶融押出成形法、カレンダー成形法、あるいはキャスティング法等を採用することができる。これらの製造方法の中では、集電体用導電性樹脂フィルム6の厚さ精度、生産性、ハンドリング性の向上、設備の簡略化の観点から、集電体用導電性樹脂フィルム6を連続して帯形に押出成形可能な溶融押出成形法が最適である。
【0085】
溶融押出成形法は、溶融押出成形機30を使用して成形材料1を溶融混練し、溶融押出成形機30の先端部に連結されたTダイスや丸ダイス等のダイス33から集電体用導電性樹脂フィルム6を連続的に押し出し、集電体用導電性樹脂フィルム6を製造する方法である(図3参照)。溶融押出成形機30は、図3に示すように、例えば単軸押出成形機や二軸押出成形機等からなり、後部上方に、成形材料1用の原料投入口31が設置され、この原料投入口31には、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、窒素ガス等の不活性ガスを必要に応じて供給する不活性ガス供給管32が接続されており、この不活性ガス供給管32による不活性ガスの供給により、成形材料1の酸化劣化、酸素架橋、熱架橋が有効に防止される。
【0086】
溶融押出成形機30の溶融混練時における溶融温度は、溶融混練分散が可能でポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2が分解しない温度であれば、特に制限はないが、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂の熱分解温度未満の範囲が良い。具体的には、360℃以上450℃以下、好ましくは360℃以上420℃以下、より好ましくは370℃以上400℃以下の範囲である。これは、溶融押出成形機30の溶融混練時における温度がポリエーテルケトン樹脂の融点未満の場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂と炭素系導電材料5とを溶融混練して分散させることができないからである。逆に、熱分解温度以上の場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の分解を招くからである。
【0087】
ダイス33は、溶融押出成形機30の先端部に連結管34を介して連結され、帯形の集電体用導電性樹脂フィルム6を連続的に下方に押し出すよう機能する。このダイス33は、優れた厚さ精度の集電体用導電性樹脂フィルム6を得ることが可能なTダイスが好適である。ダイス33上流の連結管34には、ギアポンプ35が装着されることが好ましい。このギアポンプ35は、溶融押出成形機30により溶融混練された成形材料1を一定の流量で、かつ高精度に下流のダイス33に移送するよう機能する。
【0088】
ダイス33の押出時における温度は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂の熱分解温度未満の範囲である。具体的には、360℃以上450℃以下、好ましくは360℃以上420℃以下、より好ましくは370℃以上400℃以下の範囲である。これは、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点未満の場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物2と炭素系導電材料5とを溶融混練して炭素系導電材料5を分散させることができないという理由に基づく。逆に、熱分解温度以上の場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の分解を招き、好ましくないという理由に基づく。
【0089】
ダイス33の下方には、間隔をおいて相対向する一対の圧着ロール36が回転可能に軸支され、この一対の圧着ロール36の間には、一列に配列されて相互に摺接する複数の冷却ロール37が回転可能に軸支されており、この複数の冷却ロール37のうち、上流の冷却ロール37と下流の冷却ロール37が圧着ロール36の周面にそれぞれ摺接する。各圧着ロール36は縮径に構成され、各冷却ロール37は圧着ロール36よりも拡径に構成される。
【0090】
一対の圧着ロール36のうち、下流の圧着ロール36のさらに下流には、集電体用導電性樹脂フィルム6を回転可能な巻取管38に巻き取る巻取機39が設置され、下流の圧着ロール36と巻取機39との間には、集電体用導電性樹脂フィルム6の側部長手方向にスリットを形成するスリット刃40が昇降可能に配置されており、このスリット刃40と巻取機39との間には、集電体用導電性樹脂フィルム6にテンションを作用させて円滑に巻き取るための回転可能なテンションロール41が必要数軸支される。
【0091】
各圧着ロール36は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂のガラス転移点温度以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点未満、具体的には140℃以上340℃未満、好ましくは180℃以上300℃以下、より好ましくは200℃以上280℃以下、さらに好ましくは210℃以上240℃以下である。
【0092】
圧着ロール36の温度が係る範囲なのは、ポリエーテルエーテルケトン樹脂のガラス転移点未満の場合には、集電体用導電性樹脂フィルム6の相対結晶化度を80%以上とすることができないからである。逆に、融点を越える場合には、集電体用導電性樹脂フィルム6が圧着ロール36の周面に貼り付いて破断したり、集電体用導電性樹脂フィルム6の強度が低下して破断するおそれがあるからである。圧着ロール36の温度調整法としては、例えば空気、水、オイル等の熱媒体を用いる方法、電気ヒーターを用いる方法、誘導加熱を利用する方法等があげられる。
【0093】
各圧着ロール36の周面には、集電体用導電性樹脂フィルム6と冷却ロール37の密着性を向上させる観点から、少なくとも天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ノルボルネンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等のゴム層が必要に応じて被覆形成され、このゴム層には、シリカやアルミナ等の無機化合物が選択的に添加される。これらの中では、耐熱性に優れるシリコーンゴムやフッ素ゴムの選択が好ましい。
【0094】
圧着ロール36としては、表面が金属の金属弾性ロールが必要に応じて使用され、この金属弾性ロールが使用される場合には、表面が平滑性に優れる集電体用導電性樹脂フィルム6の成形が可能となる。この金属弾性ロールの具体例としては、例えば金属スリーブロール、エアーロール〔ディムコ社製 製品名〕、UFロール〔日立造船社製 製品名〕が該当する。また、表面がポリテトラフルオロエチレン‐パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂、あるいはテトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロピレン共重合体(FEP)樹脂等のフッ素樹脂フィルムで被覆した圧着ロール36も同様に使用することができる。
【0095】
複数の冷却ロール37は、例えば圧着ロール36よりも拡径の金属ロールからなり、ダイス33の下方に回転可能に軸支されて押し出された集電体用導電性樹脂フィルム6を圧着ロール36との間に狭持し、圧着ロール36と共に集電体用導電性樹脂フィルム6を冷却しながらその厚さを所定の範囲内に制御するように機能する。この冷却ロール37は、圧着ロール36同様、ポリエーテルエーテルケトン樹脂のガラス転移点温度以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点未満、具体的には140℃以上340℃未満、好ましくは180℃以上300℃以下、より好ましくは200℃以上280℃以下、さらに好ましくは210℃以上240℃以下の温度に調整され、集電体用導電性樹脂フィルム6に摺接する。
【0096】
冷却ロール37がポリエーテルエーテルケトン樹脂のガラス転移点温度以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点未満の温度に調整されるのは、ポリエーテルエーテルケトン樹脂のガラス転移点温度未満の場合には、集電体用導電性樹脂フィルム6の相対結晶化度を80%以上とすることができないからである。逆に、融点を越える場合には、集電体用導電性樹脂フィルム6が圧着ロール36の周面に貼り付いて破断したり、集電体用導電性樹脂フィルム6の強度が低下して破断するおそれがあるからである。冷却ロール37の温度調整や冷却方法は、空気、水、オイル等の熱媒体による方法、あるいは電気ヒーターや誘導加熱等があげられる。
【0097】
成形材料1を帯形の集電体用導電性樹脂フィルム6に押出成形したら、この集電体用導電性樹脂フィルム6を一対の圧着ロール36、複数の冷却ロール37、テンションロール41、及び巻取機39の巻取管38に巻架し、集電体用導電性樹脂フィルム6の両側部をスリット刃40でそれぞれ長手方向にカットし、巻取機39の巻取管38に順次巻き取れば、長尺の集電体用導電性樹脂フィルム6を製造することができる。
【0098】
冷却ロール37により冷却され、製造された集電体用導電性樹脂フィルム6の厚さは、5μm以上500μm以下、好ましくは10μm以上300μm以下、より好ましくは20μm以上200μm以下、さらに好ましくは20μm以上100μm以下が良い。これは、集電体用導電性樹脂フィルム6の厚さが5μm未満の場合には、集電体用導電性樹脂フィルム6の引張強度が著しく低下するので、集電体用導電性樹脂フィルム6の製造が困難になるからである。
【0099】
逆に、集電体用導電性樹脂フィルム6の厚さが500μmを越える場合には、リチウムイオン二次電池、双極型リチウムイオン二次電池、全固体電池の二次電池用集電体として使用した場合、軽量化に支障を来すからである。この集電体用導電性樹脂フィルム6の厚さは、各種の接触式厚さ計により、測定することが可能である。また、複数の測定値の平均値を求め、平均厚みにより測定することができる。
【0100】
集電体用導電性樹脂フィルム6の比重は、1.60以下、好ましくは1.23以上1.60以下、より好ましくは1.26以上1.55以下、さらに好ましく1.28以上1.50以下、さらにまた好ましく1.33以上1.41以下が良い。これは、集電体用導電性樹脂フィルム6の比重が1.60以下、特に1.23未満の場合には、集電体用導電性樹脂フィルム6中にボイドあるいはクラックが発生したおそれがあり、機械的強度低下の問題が生じているため好ましくないからである。
【0101】
これに対し、集電体用導電性樹脂フィルム6の比重が、1.60を越える場合には、リチウムイオン二次電池、双極型リチウムイオン二次電池、全固体電池の二次電池用集電体として使用したとき、軽量化に支障を来すからである。集電体用導電性樹脂フィルム6の比重は、例えばJIS K 7112 A法に準拠した比重測定方法で測定することができる。
【0102】
集電体用導電性樹脂フィルム6の相対結晶化度は、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは100%が最適である。これは、集電体用導電性樹脂フィルム6の相対結晶化度が80%未満の場合には、集電体用導電性樹脂フィルム6の機械的強度、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性に問題が生じるからである。これに対し、相対結晶化度が80%を越える場合には、集電体用導電性樹脂フィルム6として使用可能な機械的強度、耐熱性、耐薬品性が期待できるからである。
【0103】
集電体用導電性樹脂フィルム6の結晶化度は、相対結晶化度により表すことができる。この集電体用導電性樹脂フィルム6の相対結晶化度は、示差走査熱量計を用いて10℃/分の昇温速度で測定した熱分析結果に基づき、以下の式により算出される。
相対結晶化度(%)={1-(ΔHc/ΔHm)}×100
ΔHc:集電体用導電性樹脂フィルムの再結晶化ピークの熱量(J/g)
ΔHm:集電体用導電性樹脂フィルムの融解ピークの熱量(J/g)
【0104】
集電体用導電性樹脂フィルム6の機械的特性は、引張弾性率、引張破断時伸び、及び引張最大強度で表すことができる。集電体用導電性樹脂フィルム6の引張弾性率は、JIS K 7127に準拠して測定した場合、2000MPa以上、好ましくは3000MPa以上、より好ましくは3500MPa以上、さらに好ましくは4000MPa以上が良い。この引張弾性率の上限値は、特に制約されるものではないが、実用上10000MPa以下が良い。
【0105】
これは、引張弾性率が2000MPa未満の場合には、集電体用導電性樹脂フィルム6を二次電池の集電板として使用するとき、集電体用導電性樹脂フィルム6の剛性に劣るため、正極活物質あるいは負極活物質の塗工工程、二次電池の組立中に集電体用導電性樹脂フィルム6が変形してしまうおそれがあるからである。これに対し、引張弾性率が10000MPaを越える場合には、剛性が大きすぎるため、集電体用導電性樹脂フィルム6を巻き取れなくなるからである。
【0106】
集電体用導電性樹脂フィルム6の引張破断時伸びは、JIS K 7127に準拠して測定した場合、10%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましく25%以上が良い。これは、集電体用導電性樹脂フィルム6の引張破断時伸びが10%未満の場合には、集電体用導電性樹脂フィルム6が靭性に劣るため、集電体用導電性樹脂フィルム6の製造中に割れてしまうという理由に基づく。また、集電体用導電性樹脂フィルム6の正極活物質あるは負極活物質の塗工工程で集電体用導電性樹脂フィルム6が割れてしまうという理由に基づく。この引張破断時伸びの上限値は、特に制約させるものではないが、500%以下が良い。これは、500%を越えると、集電体用導電性樹脂フィルム6の正極活物質あるは負極活物質の塗工工程で集電体用導電性樹脂フィルム6が延伸してしまうという理由に基づく。
【0107】
集電体用導電性樹脂フィルム6の引張最大強度は、JIS K 7127に準拠して測定した場合、60MPa以上、好ましくは70MPa以上、より好ましくは90MPa以上、さらに好ましくは100MPa以上が良い。これは、集電体用導電性樹脂フィルム6の引張最大強度が60MPa未満の場合には、集電体用導電性樹脂フィルム6が靭性に劣るため、集電体用導電性樹脂フィルム6の製造中に割れてしまうからである。また、集電体用導電性樹脂フィルム6の正極活物質あるいは負極活物質の塗工工程で集電体用導電性樹脂フィルム6が割れてしまうからである。
【0108】
引張破断時伸びの上限値は、特に制約されるものではないが、500MPa以下が良い。これは、500MPaを越えると、集電体用導電性樹脂フィルム6の製造時、スリット刃40でのカット性が低下するため、長尺の集電体用導電性樹脂フィルム6の製造スピードが低下するため好ましくないからである。
【0109】
集電体用導電性樹脂フィルム6の導電性は、厚さ方向に1MPaの加圧力を作用させて測定した場合の抵抗値により評価することができる。この厚さ方向に1MPaの加圧力を作用させた場合の抵抗値は、1000mΩ・cm以下、好ましくは800mΩ・cm以下、より好ましくは600mΩ・cm以下、さらに好ましくは500mΩ・cm以下が最適である。この厚さ方向に1MPaの加圧力を作用させて測定した場合の抵抗値の下限は、特に制約されるものではないが、実用上は1mΩ・cm以上である。
【0110】
これは、集電体用導電性樹脂フィルム6の抵抗値が1000mΩ・cmを越える場合には、二次電池用集電体として使用したとき、エネルギー密度の低下を招くからである。逆に、抵抗値が1mΩ・cm未満の場合は、炭素系導電材料5を多量に添加しなければならず、得られる集電体用導電性樹脂フィルム6が脆くなり、二次電池組立中で集電体用導電性樹脂フィルム6が割れる問題が生じるからである。
【0111】
集電体用導電性樹脂フィルム6の耐薬品性については、N-メチル-2-ピロリドンと電解液に集電体用導電性樹脂フィルム6を浸漬してその質量変化により評価すれば良い。集電体用導電性樹脂フィルム6をN-メチル-2-ピロリドンと電解液に浸漬させた場合の質量変化率は、耐薬品性や耐溶剤性を向上させる観点から、2.0%以下、好ましくは0.0%以上2.0%以下、より好ましくは0.0%以上1.0%以下、さらに好ましくは0.0%以上0.1%以下が最適である。
【0112】
電解液は、有機溶媒に溶質としてリチウム塩を溶解させた有機電解液である。この電解液の有機溶媒としては、例えばエチレンカーボネート〔EC〕、プロピレンカーボネート〔PC〕、及びブチレンカーボネート〔BC〕等の環状炭酸エステル、ジメチルカーボネート〔DMC〕、エチルメチルカーボネート〔EMC〕、及びジエチルカーボネート〔DEC〕等の鎖状炭酸エステル、テトラヒドロフラン〔THF〕、1,3‐ジオキソラン〔DOXL〕等の環状エーテル、1,2‐ジメトキシエタン〔DEM〕、及び1,2‐ジエトキシエタン〔DEE〕等の鎖状エーテル、γ‐ブチロラクトン〔GBL〕等の環状エステル、酢酸メチル〔MA〕等の鎖状エステル等があげられる。
【0113】
リチウム塩には、例えば過塩素酸リチウム〔LiClO〕、ホウフッ化リチウム〔LiBF〕、ヘキサフルオロリン酸リチウム〔LiPF〕、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム〔LiCFSO〕、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド〔LiN(CFSO〕、リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド〔LiC(CFSO〕等が該当する。
【0114】
なお、集電体用導電性樹脂フィルム6中にN‐メチル‐2‐ピロリドンあるいは電解液が残留すると、集電体用導電性樹脂フィルム6を使用した集電板は、二次電池作動中にN‐メチル‐2‐ピロリドンあるいは電解液が二次電池中に染み出して不具合が生じるので、注意が必要である。また、二次電池の電解液が集電板に染み込み、充放電サイクルが低下するので、留意すべきである。
【0115】
成形した集電体用導電性樹脂フィルム6は、そのまま使用しても良いが、さらに加熱圧縮成形しても良い。集電体用導電性樹脂フィルム6を加熱圧縮成形すれば、抵抗値をより低くして導電性を高め、炭素系導電材料5の使用量を減らしてコストの低減を図ることが可能となる。
【0116】
集電体用導電性樹脂フィルム6を加熱圧縮成形する場合には、ポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂の熱分解温度未満、具体的にはポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点+10℃以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂+100℃以下、好ましくはポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点+20℃以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点+80℃以下、より好ましくはポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点+30℃以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点+60℃以下、さらに好ましくはポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点+30℃以上ポリエーテルエーテルケトン樹脂の融点+50℃以下に加熱された複数の金属板、金属ロール、金属ベルトの間に集電体用導電性樹脂フィルム6を挟み、この集電体用導電性樹脂フィルム6の投影面積に対して0.5kgf/cm以上100kgf/cm以下の圧力を作用させて0.5秒間以上300秒間以下保持し、直ちにポリエーテルエーテルケトン樹脂のガラス転移点以下に冷却すれば良い。
【0117】
上記によれば、成形材料1の熱可塑性樹脂として、軽量性、機械的特性、耐薬品性、耐熱性に優れ、低吸水率のポリエーテルエーテルケトン樹脂を選択して集電体用導電性樹脂フィルム6を製造するので、例え集電体用導電性樹脂フィルム6を集電体として使用しても、集電体用導電性樹脂フィルム6の内部に電解質成分が浸透することがなく、充放電サイクル特性が低下するおそれを有効に排除することができる。また、フッ素樹脂ではなく、ポリエーテルエーテルケトン樹脂を用いるので、成形に特殊な鋼材や設備を特に必要とせず、集電体のコスト削減が大いに期待できる。
【0118】
また、互いに見掛けの溶融粘度が異なる第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂3・4を用い、2種類の異なる樹脂を用いる必要がないので、集電体の剥離を招くおそれを払拭することができる。加えて、製造後の吸水による膨張率の差でカールしたり、第一、第二の導電性層間で集電体が剥離するおそれもない。また、炭素系導電材料5がカーボンナノチューブの場合、化学的に安定する他、二次電池の軽量化をさらに向上させることが可能となる。また、集電体用導電性樹脂フィルム6の厚さが5μm以上500μm以下なので、集電体用導電性樹脂フィルム6の引張強度の低下を防止し、二次電池の集電体の軽量化が大いに期待できる。
【0119】
また、集電体用導電性樹脂フィルム6の比重が1.60以下なので、二次電池や集電体の大幅な軽量化に資することが可能となる。さらに、集電体用導電性樹脂フィルム6の厚さ方向に1MPaの加圧力を作用させて測定した場合の抵抗値が1mΩ・cm以上1000mΩ・cm以下と低いので、集電体用導電性樹脂フィルム6を二次電池の集電体として使用しても、エネルギー密度の低下を防ぐことが可能となる。
【0120】
なお、上記実施形態におけるポリエーテルケトン樹脂の形状は、粉体状、顆粒状、塊状、粉状、ペレット状等を特に問うものではない。また、集電体用導電性樹脂フィルム6は、JIS K7112 A法の規格に準拠して測定した比重が1.33以上1.41以下、相対結晶化度が95%以上100%以下、JIS K 7127に準拠して測定した場合の引張弾性率が3683MPa以上5274MPa以下、JIS K 7127に準拠して測定した場合の引張破断時伸びが24%以上45%以下、JIS K 7127に準拠して測定した場合の引張最大強度が94MPa以上126MPa以下、厚さ方向に1MPaの加圧力を作用させて測定した場合の抵抗値が107mΩ・cm以上227mΩ・cm以下でも良い。
【0121】
また、カーボンナノチューブには、カーボンナノチューブの特性を活かすため、外径や長さの異なる複数種のカーボンナノチューブを混合して使用しても良い。さらに、一対の圧着ロール36の間に単一の冷却ロール37を回転可能に軸支させても良い。
【実施例0122】
以下、本発明に係る二次電池の集電体用導電性樹脂フィルム及びその製造方法の実施例を比較例と共に説明する。
〔実施例1〕
先ず、見掛けの溶融粘度が異なる複数のポリエーテルエーテルケトン樹脂からなるポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物を調製するため、第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂として市販のポリエーテルケトンケトン樹脂〔ビクトレックス社製 製品名:Victrex Granules 90G 以下、「90G」と略する〕と、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂として市販のポリエーテルエーテルケトン樹脂〔ビクトレックス社製 製品名:Victrex Granules 381G 以下、「381G」と略する〕を用意した。
【0123】
これら第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂は、冷凍粉砕法によりそれぞれ粉砕した。この粉砕した第1、第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂は、表1に示す組成質量比率で計量して攪拌混合機に投入し、攪拌混合することにより見掛けの溶融粘度が異なるポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物を調製した。ポリエーテルエーテルケトン樹脂については、以下「PEEK樹脂」と略称する。
【0124】
PEEK樹脂の見掛けの溶融粘度については、フローテスター〔島津製作所製 製品名島津フローテスタCFT-500D〕により測定した。具体的には、予めPEEK樹脂を熱風乾燥機で160℃×12時間乾燥し、PEEK樹脂1.5cmを、ダイス(直径:1mm、長さ10mm)を装着した375℃のシリンダー内に充填し、このシリンダーの上部に面積が1.0cmのプランジャーを取り付け、シリンダーの温度が375℃に達したら、5分間予備加熱するとともに、この予備加熱後に直ちに50kgfの荷重を加え、PEEK樹脂を溶融流出させてその見掛けの溶融粘度を測定した。見掛けの溶融粘度については、以下、同様の方法により測定した。測定したところ、90Gの見掛けの溶融粘度は109Pa・s、381Gの見掛けの溶融粘度は879Pa・sであった。
【0125】
PEEK樹脂組成物を調製したら、このPEEK樹脂組成物と炭素系導電材料である多層カーボンナノチューブとを表1に示す質量比率となるように計量し、その後、PEEK樹脂と多層カーボンナノチューブを混合機に投入して攪拌混合物を調製した。多層カーボンナノチューブは、NC7000〔ナノシル社製:製品名、以下「NC7000」と略称する〕を使用した。
【0126】
攪拌混合物を調製したら、この攪拌混合物を真空ポンプ付きの同方向回転二軸押出成形機に供給して減圧下で溶融混練し、この溶融混練した攪拌混合物を同方向回転二軸押出成形機先端部のダイスから棒形に押し出して水冷後カットし、ペレット状の成形材料を調製した。同方向回転二軸押出機は、φ25mm、L/D=41のタイプを用いた。また、攪拌混合物は、シリンダー温度:300~370℃、ダイス温度370℃の条件下で同方向回転二軸押出機の原料投入口側のベントを開放した状態、ダイス側のベントを減圧下で脱気しながら溶融混練し、成形材料に調製した。溶融混練時の温度は、ダイスから押し出した直後の溶融状態の成形材料の温度を測定することとし、測定したところ376℃であった。成形材料を調製したら、この成形材料の見掛けの溶融粘度を上記と同様の方法で測定した。
【0127】
次いで、調製した成形材料を160℃に加熱した除湿熱風乾燥機に投入して12時間以上乾燥させ、乾燥した成形材料の含水率が300ppm以下であることを確認後、成形材料をφ40mmの単軸押出成形機に投入してその幅900mmのダイスであるTダイスから連続して押し出すことにより、相対結晶化度が100%の集電体用導電性樹脂フィルムを帯形に成形した。成形材料の含水率は、微量水分測定装置〔三菱化学社製 製品名:CA‐100型〕を用い、カールフィッシャー滴定法により確認した。以後、成形材料の含水率については、同様の方法で測定することとした。
【0128】
単軸押出成形機は、L/D=25、圧縮比:2.5、スクリュー:フルフライトスクリューのタイプとした。この単軸押出成形機の温度は360~395℃、Tダイスの温度は395℃、単軸押出成形機とTダイスとを連結する連結管の温度は395℃に調整した。Tダイス入口の樹脂温度から溶融した成形材料の温度を測定したところ、398℃であった。この単軸押出成形機に成形材料を投入する際には、窒素ガス15L/分を供給した。
【0129】
集電体用導電性樹脂フィルムを成形したら、この集電板用導電性樹脂フィルムを、図3に示すようなシリコーンゴム製の一対の210℃の圧着ロール、220℃の冷却ロール、及びこれらの下流に位置する6インチの巻取機の巻取管に順次巻架するとともに、圧着ロールと金属ロールとに挟持させ、連続した集電体用導電性樹脂フィルムを巻取管に順次巻き取ることにより、長さ100m、幅150mmの集電体用導電性樹脂フィルムを製造した。
【0130】
集電体用導電性樹脂フィルムを製造したら、この集電体用導電性樹脂フィルム製造中の目ヤニ発生の有無、集電体用導電性樹脂フィルムの厚さ、比重、相対結晶化度、機械的特性、耐薬品性、導電性をそれぞれ評価して表1にまとめた。集電体用導電性樹脂フィルムの機械的特性は引張弾性率、引張破断時伸び、及び引張最大強度、耐薬品性はN‐メチル‐2‐ピロリドンと電解液浸漬前後の質量変化、導電性は導電性フィルムの電解液浸漬前後の導電性よりそれぞれ評価した。
【0131】
・集電体用導電性樹脂フィルム製造中に発生する目ヤニ
集電体用導電性樹脂フィルムの製造中に発生する目ヤニについては、集電体用導電性樹脂フィルムを100m製造後、Tダイスのリップ付近を目視により観察した。
【0132】
・集電体用導電性樹脂フィルムのフィルム厚
集電体用導電性樹脂フィルムのフィルム厚さについては、マイクロメータ〔ミツトヨ社製 製品名:クーラントプルーフマイクロメータ 符号MDC‐25PJ〕を使用して測定した。測定に際しては、集電体用導電性樹脂フィルムの幅方向〔押出方向の直角方向(以下、「TD」と略称する)〕の任意の10箇所を測定し、その平均値をフィルム厚とした。
【0133】
・集電体用導電性樹脂フィルムの比重
集電体用導電性樹脂フィルムの比重については、23℃の環境下、JIS K 7112 A法の規格に準拠して測定した。
【0134】
・集電体用導電性樹脂フィルムの相対結晶化度
集電体用導電性樹脂フィルムの相対結晶化度については、集電体用導電性樹脂フィルムから測定試料約5mgを秤量し、示差走査熱量計〔エスアイアイ・ナノテクノロジーズ社製 製品名:EXSTAR7000シリーズ X-DSC7000〕を使用して昇温速度10℃/分、測定温度範囲20℃から380℃まで測定した。このときに得られる融解ピークの熱量(J/g)、再結晶化ピークの熱量(J/g)から以下の式を用いて算出した。
【0135】
相対結晶化度(%)={1-(ΔHc/ΔHm)}×100
ΔHc:集電体用導電性樹脂フィルムの再結晶化ピークの熱量(J/g)
ΔHm:集電体用導電性樹脂フィルムの融解ピークの熱量(J/g)
【0136】
・集電体用導電性樹脂フィルムの機械的特性
集電体用導電性樹脂フィルムの機械的特性については、23℃における引張弾性率、破断時伸び、及び引張最大強度で評価した。機械的特性は、押出方向(以下、「MD」と略称する)とTDについて測定した。測定は、JIS K 7127に準拠し、引張速度50mm/分、温度23℃±2℃、相対湿度50RH±5%RHの条件で実施した。
【0137】
・集電体用導電性樹脂フィルムの耐薬品性
集電体用導電性樹脂フィルムの耐薬品性については、N-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」と略する)と電解液に浸漬させ、質量変化により評価した。集電体用導電性樹脂フィルムの質量変化を評価する場合には、集電体用導電性樹脂フィルムをMD:5.5cm×TD:5.5cmの大きさに切り出して秤量〔W〕し、この集電体用導電性樹脂フィルムとNMP5gあるいは電解液各5gとをPET/AL/PE構成平袋〔日本生産社製:商品名ラミジップ〕に入れ、ヒートシールにより封をした。電解液は、リチウム一次・二次・ポリマー電池&リチウムイオンキャパシタ用電解液〔キシダ化学社製:商品名 電解質LiPF、モル濃度1mol/L 溶媒EC:DEC(3:7)V/V%〕を使用した。
【0138】
ヒートシールにより封をしたら、PET/AL/PE構成平袋を50℃に加熱した熱風オーブン中に15日間静置し、静置後にPET/AL/PE構成平袋から集電体用導電性樹脂フィルムを取り出してエタノールで洗浄し、この集電体用導電性樹脂フィルムを50℃に加熱した熱風オーブン中に24時間静置するとともに、静置後に乾燥剤〔オゾン化学社製:商品名OZO‐C〕を入れたガラス製のデシケータ内で23℃環境下、24時間静置し、その後、集電体用導電性樹脂フィルムを秤量〔W〕し、以下の式から質量変化率を求めてA~F評価した。
【0139】
質量変化率(%)={(W-W)/W}×100
:集電体用導電性樹脂フィルムの初期質量〔g〕
:集電体用導電性樹脂フィルムとNMPあるいは電解液浸漬後の質量〔g〕
A:質量変化率が0.0%以上0.1%以下の場合
B:質量変化率が0.1%を越えて1.0%以下の場合
C:質量変化率が1.0%を越えて2.0%以下の場合
D:質量変化率が2.0%を越えて5.0%以下の場合
E:質量変化率が5.0%を越えて10%以下の場合
【0140】
・集電体用導電性樹脂フィルムの導電性
集電体用導電性樹脂フィルムの導電性については、厚さ方向の抵抗値により評価することとした。この厚さ方向の抵抗値〔Rc〕については、図4図5に示すように、集電体用導電性樹脂フィルムをMD:5.5cm×TD:5.5cmの大きさにカットして試験片とし、この集電体用導電性樹脂フィルムを5.0cm×5.0cmの大きさを有する上下一対カーボンペーパーに挟むとともに、この一対カーボンペーパーを上下一対の金メッキ電極に挟持させ、直流電流を通電し、上方から1MPaで加圧し、抵抗計で1分間後の抵抗値〔R〕を測定した後、以下の式から算出した。
【0141】
Rc=R×S
=R-(一対のカーボンペーパー2枚分の抵抗値)
S:カーボンペーパー
【0142】
カーボンペーパーは、SIGRACET Gas Diffusion Media type.GDL24B〔SGL.GROUP社製:商品名〕を使用した。また、抵抗計は、ミリオームハイテスタ3540〔日置電機社製:商品名〕を用いた。厚さ方向の抵抗値〔Rc〕については、導電性樹脂フィルムとリチウム一次・二次ポリマー電池&リチウムイオンキャパシタ用電解液〔キシダ化学社製、商品名:電解質 LiPF6、モル濃度 1mol/L、溶媒 EC:DEC(3:7)V/V%〕を用いた耐薬品性試験の前後で測定した。測定は、温度23℃±2℃、相対湿度50RH±5%RHの環境下で測定した。
【0143】
〔実施例2〕
粉砕した実施例1の見掛けの溶融粘度が異なる第1、第2のPEEK樹脂の組成質量比率を表1に示すように変更し、実施例1と同様にPEEK樹脂組成物を調製した。PEEK樹脂組成物を調製したら、このPEEK樹脂組成物と炭素系導電材料である多層カーボンナノチューブとを表1に示す質量比率となるように計量し、その後、PEEK樹脂と多層カーボンナノチューブを混合機に投入して攪拌混合物を調製した。攪拌混合物を調製したら、実施例1と同様の方法によりペレット形の成形材料を調製した。
【0144】
溶融混練時の温度は、ダイスから押し出した直後の溶融状態の成形材料の温度を測定することとし、測定したところ375℃であった。多層カーボンナノチューブは、実施例1で使用したNC7000を使用した。成形材料を調製したら、この成形材料の見掛けの溶融粘度を実施例1と同様の方法により測定した。
【0145】
次いで、調製した成形材料を用い、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを帯形に成形した。Tダイス入口の樹脂温度から溶融した成形材料の温度を測定したところ、398℃であった。集電体用導電性樹脂フィルムを成形したら、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを製造し、この集電体用導電性樹脂フィルム製造中の目ヤニの発生、この集電体用導電性樹脂フィルムの厚さ、比重、相対結晶化度、機械的特性、耐薬品性、導電性をそれぞれ評価して表1にまとめた。
【0146】
〔実施例3〕
基本的には実施例1と同様であるが、PEEK樹脂組成物として、実施例1で使用したPEEK樹脂である90Gを予め冷凍粉砕法で粉砕したVictrex Granules 151G〔ビクトレックス社;製品名 以下、「151G」略称する〕に変更した。151Gと実施例1で使用した381Gを表1に示す組成質量比率で計量し、攪拌混合機に投入し、攪拌混合することにより見掛けの溶融粘度が異なるPEEK樹脂組成物を調製した。151Gの見掛けの溶融粘度を実施例1と同様の方法により測定したところ、192Pa・sであった。
【0147】
PEEK樹脂組成物を調製したら、このPEEK樹脂組成物と炭素系導電材料である多層カーボンナノチューブとを表1に示す質量比率となるように計量し、その後、PEEK樹脂と多層カーボンナノチューブを混合機に投入して攪拌混合物を調製した。多層カーボンナノチューブは、実施例1で使用したNC7000を使用した。成形材料を調製したら、この成形材料の見掛けの溶融粘度を実施例1と同様の方法により測定した。
【0148】
次いで、実施例1と同様の方法により成形材料を調製した。溶融混練時の温度は、ダイスから押し出した直後の溶融状態の成形材料の温度を測定することとし、測定したところ、375℃であった。
【0149】
次いで、調製した成形材料を用い、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを帯形に成形した。Tダイス入口の樹脂温度から溶融した成形材料の温度を測定したところ、398℃であった。集電体用導電性樹脂フィルムを成形したら、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを製造し、集電体用導電性樹脂フィルム製造中の目ヤニの発生、この集電体用導電性樹脂フィルムの厚さ、比重、相対結晶化度、機械的特性、耐薬品性、導電性をそれぞれ評価して表1にまとめた。
【0150】
〔実施例4〕
基本的には実施例1と同様であるが、実施例3で使用したPEEK樹脂である151Gと実施例1で使用した381Gを表1に示す組成質量比率で計量し、攪拌混合機に投入し、攪拌混合することにより見掛けの溶融粘度が異なるPEEK樹脂組成物を調製した。
【0151】
PEEK樹脂組成物を調製したら、このPEEK樹脂組成物と炭素系導電材料である多層カーボンナノチューブとを表1に示す質量比率となるように計量し、その後、PEEK樹脂と多層カーボンナノチューブを混合機に投入して攪拌混合物を調製した。実施例1で使用した多層カーボンナノチューブは、実施例1のNC7000からFloTube 9000〔CNano Technology社製;製品名、以下「9000」と略称する〕変更した。PEEK樹脂組成物と多層カーボンナノチューブは、表1に示す組成質量比率となるように計量し、攪拌混合物を調製した。
【0152】
次いで、実施例1と同様の方法で成形材料を調製した。溶融混練時の温度は、ダイスから押し出した直後の溶融状態の成形材料の温度を測定することとし、測定したところ、380℃であった。成形材料を調製したら、この成形材料の見掛けの溶融粘度を実施例1と同様の方法により測定した。
【0153】
次いで、調製した成形材料を用い、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを帯形に成形した。Tダイス入口の樹脂温度から溶融した成形材料の温度を測定したところ、400℃であった。集電体用導電性樹脂フィルムを成形したら、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを製造し、集電体用導電性樹脂フィルム製造中の目ヤニの発生、この集電体用導電性樹脂フィルムの厚さ、比重、相対結晶化度、機械的特性、耐薬品性、導電性をそれぞれ評価して表1にまとめた。
【0154】
【表1】
【0155】
〔実施例5〕
基本的には実施例1と同様であるが、実施例1で使用したPEEK樹脂である381Gを予め冷凍粉砕したVictrex Granules 450G〔ビクトレックス社;製品名 以下、「450」と略す〕に変更し、実施例1で使用した90Gと表2に示す組成質量比率となるように計量し、攪拌混合機に投入して攪拌混合することにより見掛けの溶融粘度が異なるPEEK樹脂組成物を調製した。450Gの見掛けの溶融粘度は、実施例1と同様の方法で測定した結果、1067Pa・sであった。
【0156】
PEEK樹脂組成物を調製したら、このPEEK樹脂組成物と炭素系導電材料である多層カーボンナノチューブとを表2に示す質量比率となるように計量し、その後、PEEK樹脂と多層カーボンナノチューブを混合機に投入して攪拌混合物を調製した。多層カーボンナノチューブは、実施例1で使用したNC7000を使用した。
【0157】
次いで、実施例1と同様の方法で成形材料を調製した。溶融混練時の温度は、ダイスから押し出した直後の溶融状態の成形材料の温度を測定することとし、測定したところ、375℃であった。成形材料を調製したら、この成形材料の見掛けの溶融粘度を実施例1と同様の方法により測定した。
【0158】
次いで、調製した成形材料を用い、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを帯形に成形した。Tダイス入口の樹脂温度から溶融した成形材料の温度を測定したところ、395℃であった。集電体用導電性樹脂フィルムを成形したら、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを製造し、集電体用導電性樹脂フィルム製造中の目ヤニの発生、集電体用導電性樹脂フィルムの厚さ、比重、相対結晶化度、機械的特性、耐薬品性、導電性をそれぞれ評価して表2に記載した。
【0159】
〔実施例6〕
基本的には実施例1と同様であるが、実施例1で使用した90Gと実施例5で使用した450Gとを表2に示す組成質量比率となるように計量し、攪拌混合機に投入して攪拌混合することにより見掛けの溶融粘度が異なるPEEK樹脂組成物を調製した。PEEK樹脂組成物を調製したら、このPEEK樹脂組成物と炭素系導電材料である多層カーボンナノチューブとを表2に示す質量比率となるように計量し、その後、PEEK樹脂と多層カーボンナノチューブを混合機に投入して攪拌混合物を調製した。多層カーボンナノチューブは、実施例1で使用したNC7000を使用した。
【0160】
次いで、実施例1と同様の方法で成形材料を調製した。溶融混練時の温度は、ダイスから押し出した直後の溶融状態の成形材料の温度を測定することとし、測定したところ、375℃であった。成形材料を調製したら、この成形材料の見掛けの溶融粘度を実施例1と同様の方法により測定した。
【0161】
次いで、調製した成形材料を用い、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを帯形に成形した。Tダイス入口の樹脂温度から溶融した成形材料の温度を測定したところ、395℃であった。集電体用導電性樹脂フィルムを成形したら、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを製造し、集電体用導電性樹脂フィルム製造中の目ヤニの発生、集電体用導電性樹脂フィルムの厚さ、比重、相対結晶化度、機械的特性、耐薬品性、導電性をそれぞれ評価して表2に記載した。
【0162】
〔実施例7〕
基本的には実施例1と同様であるが、実施例3で使用した151Gと実施例5で使用した450Gとを表2に示す組成質量比率となるように計量し、攪拌混合機に投入して攪拌混合することにより見掛けの溶融粘度が異なるPEEK樹脂組成物を調製した。PEEK樹脂組成物を調製したら、このPEEK樹脂組成物と炭素系導電材料である多層カーボンナノチューブとを表2に示す質量比率となるように計量し、その後、PEEK樹脂と多層カーボンナノチューブを混合機に投入して攪拌混合物を調製した。多層カーボンナノチューブは、実施例4で使用した9000を使用した。
【0163】
次いで、実施例1と同様の方法で成形材料を調製した。溶融混練時の温度は、ダイスから押し出した直後の溶融状態の成形材料の温度を測定することとし、測定したところ、376℃であった。成形材料を調製したら、この成形材料の見掛けの溶融粘度を実施例1と同様の方法により測定した。
【0164】
次いで、調製した成形材料を用い、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを帯形に成形した。Tダイス入口の樹脂温度から溶融した成形材料の温度を測定したところ、398℃であった。集電体用導電性樹脂フィルムを成形したら、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを製造し、集電体用導電性樹脂フィルム製造中の目ヤニの発生、集電体用導電性樹脂フィルムの厚さ、比重、相対結晶化度、機械的特性、耐薬品性、導電性をそれぞれ評価して表2に記載した。
【0165】
〔実施例8〕
基本的には実施例1と同様であるが、実施例3で使用した151Gと実施例5で使用した450Gとを表2に示す組成質量比率となるように計量し、攪拌混合機に投入し、攪拌混合することにより見掛けの溶融粘度が異なるPEEK樹脂組成物を調製した。PEEK樹脂組成物を調製したら、このPEEK樹脂組成物と炭素系導電材料である多層カーボンナノチューブとを表2に示す質量比率となるように計量し、その後、PEEK樹脂と多層カーボンナノチューブを混合機に投入して攪拌混合物を調製した。多層カーボンナノチューブは、実施例4で使用した9000を使用した。成形材料を調製したら、この成形材料の見掛けの溶融粘度を実施例1と同様の方法により測定した。
【0166】
次いで、実施例1と同様の方法で成形材料を調製した。溶融混練時の温度は、ダイスから押し出した直後の溶融状態の成形材料の温度を測定することとし、測定したところ、380℃であった。
【0167】
次いで、調製した成形材料を用い、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを帯形に成形した。Tダイス入口の樹脂温度から溶融した成形材料の温度を測定したところ、395℃であった。集電体用導電性樹脂フィルムを成形したら、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを製造し、集電体用導電性樹脂フィルム製造中の目ヤニの発生、集電体用導電性樹脂フィルムの厚さ、比重、相対結晶化度、機械的特性、耐薬品性、導電性をそれぞれ評価して表2に記載した。
【0168】
【表2】
【0169】
〔比較例1〕
基本的には実施例1と同様であるが、実施例1で使用した見掛けの溶融粘度が異なる第1、第2のPEEK樹脂を表3に示す本発明の範囲外の組成質量比率で計量し、攪拌混合機に投入して攪拌混合することにより見掛けの溶融粘度が異なる複数のPEEK樹脂組成物を調製した。
【0170】
次いで、PEEK樹脂組成物を実施例1と同様の方法により成形材料に調製した。すなわち、PEEK樹脂組成物と多層カーボンナノチューブとを表3に示す組成質量比率で計量し、攪拌混合機に投入して攪拌混合物を調製し、この攪拌混合物を実施例1と同様にペレット形の成形材料に調製した。溶融混練時の温度は、ダイスから押し出した直後の溶融状態の成形材料の温度を測定することとし、測定したところ、376℃であった。成形材料を調製したら、この成形材料の見掛けの溶融粘度を実施例1と同様の方法により測定した。
【0171】
次いで、調製した成形材料を用い、実施例1と同様の方法で相対結晶化度が100%の集電体用導電性樹脂フィルムを帯形に成形した。Tダイス入口の樹脂温度から溶融した成形材料の温度を測定したところ、398℃であった。集電体用導電性樹脂フィルムを成形したら、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを製造し、集電体用導電性樹脂フィルム製造中の目ヤニの発生、この集電体用導電性樹脂フィルムの厚さ、比重、相対結晶化度、機械的特性、耐薬品性、導電性をそれぞれ評価して表3にまとめた。
【0172】
〔比較例2〕
先ず、実施例3で使用したPEEK樹脂と実施例1で使用したPEEK樹脂とを表3に示す本発明の範囲外の組成質量比率で計量し、攪拌混合機に投入して攪拌混合することにより見掛けの溶融粘度が異なる複数のPEEK樹脂組成物を調製するとともに、このPEEK樹脂組成物と多層カーボンナノチューブとを表3に示す組成質量比率で計量し、攪拌混合機に投入して攪拌混合物を調製し、この攪拌混合物を実施例1と同様の方法によりペレット形の成形材料に調製した。
【0173】
溶融混練時の温度は、ダイスから押し出した直後の溶融状態の成形材料の温度を測定することとし、測定したところ、375℃であった。成形材料を調製したら、この成形材料の見掛けの溶融粘度を実施例1と同様の方法により測定した。
【0174】
次いで、調製した成形材料を用い、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを帯形に成形した。Tダイス入口の樹脂温度から溶融した成形材料の温度を測定したところ、397℃であった。集電体用導電性樹脂フィルムを成形したら、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを製造し、集電体用導電性樹脂フィルム製造中の目ヤニの発生、集電体用導電性樹脂フィルムの厚さ、比重、相対結晶化度、機械的特性、耐薬品性、導電性をそれぞれ評価して表3にまとめた。
【0175】
〔比較例3〕
実施例5で使用したPEEK樹脂組成物と実施例1で使用した多層カーボンナノチューブとを表3に示す本発明の範囲外の組成物質量比率で計量し、攪拌混合機に投入して攪拌混合物を調製し、この攪拌混合物を実施例1と同様の方法によりペレット形の成形材料に調製した。溶融混練時の温度は、ダイスから押し出した直後の溶融状態の成形材料の温度を測定することとし、測定したところ、375℃であった。成形材料を調製したら、この成形材料の見掛けの溶融粘度を実施例1と同様の方法により測定した。
【0176】
次いで、調製した成形材料を用い、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを帯形に成形した。Tダイス入口の樹脂温度から溶融した成形材料の温度を測定したところ、396℃であった。集電体用導電性樹脂フィルムを成形したら、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを製造し、集電体用導電性樹脂フィルム製造中の目ヤニの発生、集電体用導電性樹脂フィルムの厚さ、比重、相対結晶化度、機械的特性、耐薬品性、導電性をそれぞれ評価して表3にまとめた。
【0177】
〔比較例4〕
実施例7で使用したPEEK樹脂組成物と実施例4で使用した多層カーボンナノチューブとを表3に示す本発明の範囲外の組成質量比率で計量し、攪拌混合機に投入して攪拌混合物を調製し、この攪拌混合物を実施例1と同様の方法によりペレット形の成形材料に調製した。溶融混練時の温度は、ダイスから押し出した直後の溶融状態の成形材料の温度を測定することとし、測定したところ、381℃であった。成形材料を調製したら、この成形材料の見掛けの溶融粘度を実施例1と同様の方法により測定した。
【0178】
次いで、調製した成形材料を用い、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを帯形に成形した。Tダイス入口の樹脂温度から溶融した成形材料の温度を測定したところ、396℃であった。集電体用導電性樹脂フィルムを成形したら、実施例1と同様の方法で集電体用導電性樹脂フィルムを製造し、集電体用導電性樹脂フィルム製造中の目ヤニの発生、集電体用導電性樹脂フィルムの厚さ、比重、相対結晶化度、機械的特性、耐薬品性、導電性をそれぞれ評価して表3にまとめた。
【0179】
〔比較例5〕
実施例1で使用したポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物と多層カーボンナノチューブとからなる成形材料を使用して相対結晶化度が35%の集電体用導電性樹脂フィルムを成形した。集電体用導電性樹脂フィルムの成形は、実施例1と同様の方法により実施した。但し、圧着ロールと冷却ロールの温度は、実施例1では圧着ロール220℃、冷却ロール210℃としたが、この比較例5では圧着ロール100℃、冷却ロール100℃に変更して集電体用導電性樹脂フィルムを帯形に成形した。Tダイス入口の樹脂温度から溶融した成形材料の温度を測定したところ、398℃であった。
【0180】
集電体用導電性樹脂フィルムを成形したら、この集電体用導電性樹脂フィルム製造中の目ヤニの発生、集電体用導電性樹脂フィルムの厚さ、比重、相対結晶化度、機械的特性、耐薬品性、導電性をそれぞれ評価して表3に記載した。
【0181】
【表3】
【0182】
〔評 価〕
実施例1~7の場合、集電体用導電性樹脂フィルムの機械的特性、耐薬品性、導電性に関し、良好な結果を得ることができた。実施例8の場合、集電体用導電性樹脂フィルムの耐薬品性がやや低下したが、実用上充分な結果を得ることができた。
【0183】
これに対し、比較例1の場合、第1のPEEK樹脂の組成質量比率が本発明の範囲外なので、集電体用導電性樹脂フィルムの導電性がきわめて悪化した。また、比較例2の場合、第2のPEEK樹脂の組成質量比率が本発明の範囲外なので、集電体用導電性樹脂フィルムの引張破断時伸びがきわめて悪化した。比較例3の場合、炭素系導電材料の添加量が本発明の範囲外なので、集電体用導電性樹脂フィルムの導電性がきわめて悪化した。また、比較例4の場合、炭素系導電材料の添加量が本発明の範囲外なので、集電体用導電性樹脂フィルムの引張破断時伸びの他、耐薬品性が悪化した。さらに、比較例5の場合、相対結晶化度が本発明の範囲外なので、集電体用導電性樹脂フィルムの耐薬品性が大幅に悪化し、実用上の疑義が生じた。
【産業上の利用可能性】
【0184】
本発明に係る二次電池の集電体用導電性樹脂フィルム及びその製造方法は、ニッケル‐カドミウム蓄電池、ニッケル‐水素蓄電池、ニッケル‐亜鉛蓄電池、リチウムイオン二次電池、及び全固体電池等からなる二次電池の製造分野で使用される。
【符号の説明】
【0185】
1 成形材料
2 ポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物
3 第1のポリエーテルエーテルケトン樹脂
4 第2のポリエーテルエーテルケトン樹脂
5 炭素系導電材料
6 集電体用導電性樹脂フィルム
10 溶融混練機
20 溶融混練機
30 溶融押出成形機
33 ダイス
36 圧着ロール
37 冷却ロール
38 巻取管
39 巻取機
図1
図2
図3
図4
図5