(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175431
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】構造体および電子機器
(51)【国際特許分類】
H02N 2/04 20060101AFI20231205BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20231205BHJP
H10N 35/85 20230101ALI20231205BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20231205BHJP
H10N 35/00 20230101ALI20231205BHJP
【FI】
H02N2/04
H01L41/113
H01L41/20
H01L41/18 101D
H01L41/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087868
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中野 睦子
(72)【発明者】
【氏名】野口 隆男
(72)【発明者】
【氏名】岡野 靖久
【テーマコード(参考)】
5H681
【Fターム(参考)】
5H681DD23
5H681DD30
5H681DD37
5H681DD39
5H681GG02
5H681GG10
(57)【要約】
【課題】外部磁場に対する相対姿勢に伴う信号出力の変動を、シンプルな機構で抑制することができる構造体等を提供する。
【解決手段】第1の磁歪膜と、前記第1の磁歪膜に重なる第1の圧電膜と、前記第1の圧電膜に重なる第1の電極膜とを有する第1の振動体と、第2の磁歪膜と、前記第2の磁歪膜に重なる第2の圧電膜と、前記第2の圧電膜に重なる第2の電極膜とを有する第2の振動体とを有し、前記第1の振動体における前記第1の磁歪膜の法線方向である第1方向は、前記第2の振動体における前記第2の磁歪膜の法線方向である第2方向とは非平行である構造体。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の磁歪膜と、前記第1の磁歪膜に重なる第1の圧電膜と、前記第1の圧電膜に重なる第1の電極膜とを有する第1の振動体と、
第2の磁歪膜と、前記第2の磁歪膜に重なる第2の圧電膜と、前記第2の圧電膜に重なる第2の電極膜とを有する第2の振動体とを有し、
前記第1の振動体における前記第1の磁歪膜の法線方向である第1方向は、前記第2の振動体における前記第2の磁歪膜の法線方向である第2方向とは非平行である構造体。
【請求項2】
前記第1の振動体および前記第2の振動体の少なくとも一方側を連続的に覆う曲面状のカバー部を有し、
前記第1方向が前記カバー部に交差する第1交点における前記カバー部の法線方向である第1カバー部方向は、前記第2方向が前記カバー部に交差する第2交点における前記カバー部の法線方向である第2カバー部方向とは非平行である請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記カバー部は、円筒形状、ドーム形状、球面形状および楕円球面形状のいずれかである請求項2に記載の構造体。
【請求項4】
前記第1の振動体が配置される第1の開口が形成されており、前記第1の開口を囲む第1のフレーム部と、
前記第1の振動体を前記第1のフレーム部に対して振動可能に接続する第1の腕部と、
前記第2の振動体が配置される第2の開口が形成されており、前記第2の開口を囲む第2のフレーム部と、
前記第2の振動体を前記第2のフレーム部に対して振動可能に接続する第2の腕部と、
前記第1の振動体および前記第2の振動体に対して電気的に接続する配線部を有し、前記第1のフレーム部および前記第2のフレーム部が設けられる基板部と、を有する請求項1に記載の構造体。
【請求項5】
前記基板部は、可撓性を有する可撓性基板である請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
前記第1の開口の開口方向である第1開口方向が、前記第1方向に対して形成する角度の違い、および、前記第2の開口の開口方向である第2開口方向が、前記第2方向に対して形成する角度の違いは、前記第1方向が前記第2方向に対して形成する角度の違いより小さい請求項4に記載の構造体。
【請求項7】
前記第1の振動体が配置される第1の開口と、前記第2の振動体が配置される第2の開口が形成される共通フレーム部と、
前記第1の振動体を前記共通フレーム部に対して振動可能に接続する第1の腕部と、
前記第2の振動体を前記共通フレーム部に対して振動可能に接続する第2の腕部と、を有し、
前記第1の腕部および前記第2の腕部の少なくとも一方は、前記第1の振動体を、前記第1の振動体が配置される前記第1の開口の前記第1開口方向に対して、前記第1方向が非平行となるように接続するか、または、前記第2の振動体を、前記第2の振動体が配置される前記第2の開口の前記第2開口方向に対して、前記第2方向が非平行となるように接続する請求項1に記載の構造体。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれかに記載の構造体と、
前記構造体からの電気信号が入力する入力部と、を備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁歪膜と圧電体膜とが重ねられた振動体を有する構造体およびそのような構造体を有する電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
磁歪膜と圧電体膜とが重ねられた振動体を用いて、外部磁場から電気信号を取り出す構造体が提案されている。このような構造体では、外部磁場の方向に依存して、出力が大きく異なる特徴がある。このような特性に対応するために、外部磁場の方向に応じて素子の方向を変えられるようにして、信号出力を確保する技術が開示されている(特許文献1等参照)。
【0003】
しかしながら、従来の構造体は、素子の方向を変える構造が複雑化する問題が生じる。また、構造体自体が運動するような場合は、外部磁場の方向に素子の方向を合わせる動作が間に合わないことも起こり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、外部磁場に対する相対姿勢に伴う信号出力の変動を、シンプルな機構で抑制することができる構造体等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本開示に係る構造体は、第1の磁歪膜と、前記第1の磁歪膜に重なる第1の圧電膜と、前記第1の圧電膜に重なる第1の電極膜とを有する第1の振動体と、
第2の磁歪膜と、前記第2の磁歪膜に重なる第2の圧電膜と、前記第2の圧電膜に重なる第2の電極膜とを有する第2の振動体とを有し、
前記第1の振動体における前記第1の磁歪膜の法線方向である第1方向は、前記第2の振動体における前記第2の磁歪膜の法線方向である第2方向とは非平行である。
【0007】
このような構造体では、方向が異なる複数の磁歪膜を用いて外部磁場から信号を取り出すことができるため、外部磁場に対する相対姿勢に伴う信号出力の変動を、シンプルな機構で抑制することができる。
【0008】
また、たとえば、前記第1の振動体および前記第2の振動体の少なくとも一方側を連続的に覆う曲面状のカバー部を有してもよく、
前記第1方向が前記カバー部に交差する第1交点における前記カバー部の法線方向である第1カバー部方向は、前記第2方向が前記カバー部に交差する第2交点における前記カバー部の法線方向である第2カバー部方向とは非平行であってもよい。
【0009】
曲面状のカバー部を有する構造体は、生物の体内管腔等に、固定されずに収容される形状として適しており、また、第1カバー部方向と第2カバー部方向とが非平行である構造体は、小型化に適している。
【0010】
また、たとえば、前記カバー部は、円筒形状、ドーム形状、球面形状および楕円球面形状のいずれかであってもよい。
【0011】
カバー部が円筒形状等である構造体は、生物体内管腔等に、固定されずに収容される形状として適しており、また、このような構造体は、方向が異なる複数の磁歪膜を用いて、外部磁場に対する相対姿勢に伴う信号出力の変動を抑制できる。
【0012】
また、たとえば、本開示に係る構造体は、前記第1の振動体が配置される第1の開口が形成されており、前記第1の開口を囲む第1のフレーム部と、
前記第1の振動体を前記第1のフレーム部に対して振動可能に接続する第1の腕部と、
前記第2の振動体が配置される第2の開口が形成されており、前記第2の開口を囲む第2のフレーム部と、
前記第2の振動体を前記第2のフレーム部に対して振動可能に接続する第2の腕部と、
前記第1の振動体および前記第2の振動体に対して電気的に接続する配線部を有し、前記第1のフレーム部および前記第2のフレーム部が設けられる基板部と、を有してもよい。
【0013】
第1のフレーム部と、第2のフレーム部とを、基板部に設ける構造体は、たとえ第1のフレーム部および第2の腕部と第2のフレーム部および第2の腕部の形状が略同一であっても、設置面の角度などを異ならせることにより、第1の方向と第2の方向が非平行である構造体を、シンプルな構造で実現できる。
【0014】
また、たとえば、前記基板部は、可撓性を有する可撓性基板であってもよい。
【0015】
基板部が、可撓性を有する可撓性基板であることにより、第1のフレーム部と、第2のフレーム部の設置面の角度を容易に異ならせることができ、第1の方向と第2の方向が非平行である構造体を、シンプルな構造で実現できる。
【0016】
また、たとえば、前記第1の開口の開口方向である第1開口方向が、前記第1方向に対して形成する角度の違い、および、前記第2の開口の開口方向である第2開口方向が、前記第2方向に対して形成する角度の違いは、前記第1方向が前記第2方向に対して形成する角度の違いより小さくてもよい。
【0017】
第1開口方向と第1方向の角度の違いおよび第2開口方向と第2方向の開度の違いより、第1方向と第2方向の角度の違いが大きい構造体は、第1のフレーム部、第1の腕部および第1の振動体と、第2のフレーム部、第2の腕部および第2の振動体とを、同じかまたは違いの小さいものとすることができるため、構造および製造プロセスがシンプルである。また、このような構造体では、第1開口方向と第1方向の角度の違いおよび第2開口方向と第2方向の角度の違いが小さいので、各振動体が、その振動体が収容されるフレーム部によって保護されやすく、耐衝撃性などの点で有利である。
【0018】
また、たとえば、本開示に係る構造体は、前記第1の振動体が配置される第1の開口と、前記第2の振動体が配置される第2の開口が形成される共通フレーム部と、
前記第1の振動体を前記共通フレーム部に対して振動可能に接続する第1の腕部と、
前記第2の振動体を前記共通フレーム部に対して振動可能に接続する第2の腕部と、を有してもよく、
前記第1の腕部および前記第2の腕部の少なくとも一方は、前記第1の振動体を、前記第1の振動体が配置される前記第1の開口の前記第1開口方向に対して、前記第1方向が非平行となるように接続するか、または、前記第2の振動体を、前記第2の振動体が配置される前記第2の開口の前記第2開口方向に対して、前記第2方向が非平行となるように接続してもよい。
【0019】
共通フレーム部を用いる構造体は、たとえば、シリコン基板を用いて共通フレーム部を形成するなどのプロセスにより、複数の振動体部を効率的に製造することができる。また、腕部によって、第1の方向または第2の方向と第1開口方向または第2開口方向とを異ならせることにより、他の構造を共通化しつつ、第1の方向と第2の方向とを非平行とすることができる。
【0020】
また、本開示に係る電子機器は、上記いずれかの構造体と、
前記構造体からの電気信号が入力する入力部と、を備える。
【0021】
このような電子機器は、入力部が取得する信号の出力変化を抑制することができ、安定した出力の信号を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る構造体を示す平面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す構造体が備える各振動体が有す磁歪膜の法線方向を示す概念図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す構造体の第1の振動体の周辺部分を拡大した拡大斜視図である。
【
図4】
図4は、
図1および
図3に示す構造体の第1の振動体の周辺構造を示す平面図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す第1の振動体の周辺構造を示す断面図である。
【
図6】
図6は、
図4に示す第1の振動体の内部構造を示す拡大断面図である。
【
図7】
図7は、
図4に示す第1の腕部の内部構造を示す拡大断面図である。
【
図8】
図8は、
図2に示す構造体における第1の腕部と第1の振動体とを、それぞれ開口方向に垂直な方向から観察した概念図である。
【
図9】
図9は、
図2に示す構造体における第2の腕部と第2の振動体とを、それぞれ開口方向に垂直な方向から観察した概念図である。
【
図10】
図10は、
図2に示す構造体の第3の腕部と第3の振動体とを、それぞれ開口方向に垂直な方向から観察した概念図である。
【
図12】
図12は、第2実施形態に係る構造体を、フレームの開口方向に垂直な方向から観察した概念図である。
【
図13】
図13は、
図12に示す構造体に含まれる第1の振動体の周辺構造を示す概略斜視図である。
【
図14】
図14は、第3実施形態に係る構造体を含む電子機器の外観図である。
【
図16】
図16は、
図13に示す電子機器における構造体を、フレームの開口方向に垂直な方向から観察した概念図である。
【
図17】
図17は、実施例と比較例に係る構造体を説明した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示を、図面に示す実施形態に基づき説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本願の理解のために模式的かつ例示的に示したにすぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。また、以下、実施形態により具体的に説明するが、本開示に係る構造体および電子機器は、これらの実施形態のみに限定されるものではない。
【0024】
第1実施形態
図1は、本開示の第1実施形態に係る構造体10の平面図である。構造体10は、第1の振動体30、第2の振動体40等を含む複数の振動体を有する。また、構造体10は、第1の開口21や第2の開口22などが形成される共通フレーム部20を有する。
【0025】
後ほど詳述するように、共通フレーム部20に配置される第1の振動体30および第2の振動体40を始めとする振動体は、互いに積層される第1の磁歪膜31、第2の磁歪膜41と第1の圧電膜32、第2の圧電膜42とを有し(「磁電変換素子」とも言う(
図6等参照))、外部磁場から電気信号や電気エネルギー等を受け取ったり、または、電気信号等に基づいて電磁波を生じたりすることができる。構造体10は、たとえば、電子機器97において外部から電力や信号を受け取るアンテナ装置(
図11参照)として用いることができるが、構造体10の用途としては、アンテナ装置のみには限定されない。
【0026】
図1に示すように、構造体10は、第1の振動体30、第2の振動体40、第3の振動体50、第4の振動体60および第5の振動体70を含む合計25の振動体30~70を有する。第1~第5の振動体30~70は、Y軸方向に沿って配列されており、第1~第5の振動体30~70以外の他の振動体形状は、第1~第5の振動体30~70の繰り返し形状である。
【0027】
構造体10に含まれる振動体については、第1~第5の振動体30~70を中心に説明を行い、他の振動体については、第1~第5の振動体30~70の繰り返し形状であるため、説明を省略する。ただし、構造体10に含まれる振動体の配列方法については、
図1に示すような2次元アレイ状のみには限定されず、1次元アレイ状、同心円状などの他の配列であってもよい。また、構造体10に含まれる振動体は、X軸方向に複数回(実施形態では5回)、同じ形状が繰り替えされているが、繰り返しのパターンおよび回数は、
図1に示す実施形態のみには限定されない。
【0028】
図1に示す共通フレーム部20には、第1の振動体30が配置される第1の開口21と、第2の振動体40が配置される第2の開口22と、第3の振動体50が配置される第3の開口23と、第4の振動体60が配置される第4の開口24と、第5の振動体70が配置される第5の開口25が形成されている。第1~第5の開口21~25は、Y軸方向に沿って配列されている。
【0029】
また、共通フレーム部20には、第1~第5の開口21~25以外にも、他の各振動体に対応して、複数の開口が形成されている。共通フレーム部20は、たとえばシリコン基板等で構成され、構造体10は、たとえばMEMSのような小型のデバイスを構成する。
【0030】
また、共通フレーム部20の開口21~25は、たとえばエッチングなどの半導体微細加工技術により形成される。ただし、共通フレーム部20としては、シリコン基板で構成されるものみには限定されず、フレキシブルプリント基板やリジット基板などの他の配線基板であってもよい。
【0031】
図1に示すように、共通フレーム部20の表面には、第1~第5の振動体30~70に接続する配線部27が形成されている。また、配線部27は、第1~第5の振動体30~70だけでなく、構造体10に含まれるすべての振動体を、電気的に並列接続する。また、配線部27の両端部には、外部配線との電気的接点となる外部接続部28が形成されている。配線部27および外部接続部28は、たとえば銅(Cu)、金(Au)などの良導体の導電膜パターンなどで構成される。
【0032】
なお、構造体10の説明では、第1の振動体30が配置される第1の開口21の開口方向(開口面に直交する方向)をZ軸方向とし、Z軸方向に垂直であってZ軸方向から見て第1~第5の振動体30~70が並ぶ方向をY軸方向とし、Z軸およびY軸に垂直な方向をX軸方向とする。
【0033】
図2は、
図1に示す断面線II-IIに沿う構造体10の断面構造を示す概念図である。
図2に示すように、第1~第5の振動体30~70に含まれる第1~第5の磁歪膜の法線方向は、互いに非平行である。以下、各振動体30~70の構造について、より詳細に説明を行う。
【0034】
図3は、構造体10における第1の振動体30の周辺構造を示す概念図である。
図3に示すように、第1の振動体30は、略平板状の外形状を有しており。第1の開口21の開口面を部分的に塞ぐように、第1の開口21の開口面近傍に配置される。構造体10は、第1の振動体30を共通フレーム部20に対して振動可能に接続する一対の第1の腕部36を有する。第1の腕部36は、第1の振動体30のX軸方向両側に配置される。
【0035】
なお、
図3は、第1の腕部36および第1の振動体30との概略的な配置を示しているだけで、第1の腕部36の実際の形状は、
図3に示すような形状とは異なる。第1の腕部36の詳細形状については、
図4、
図5および
図7を用いて後述する。ただし、第1の腕部36の形状は、
図3に示すような矩形平板形状であってもよい。
【0036】
図4は、第1の振動体30およびその周辺を、Z軸正方向側から見た平面図であり、
図5は、
図4における断面線V-Vに沿う断面図である。
図4および
図5に示すように、第1の振動体30は、第1の開口21におけるX軸方向中央付近に配置される。
【0037】
図6は、
図5に示す第1の振動体30を拡大した部分拡大図である。
図6に示すように、第1の振動体30は、第1の磁歪膜31と、第1の磁歪膜31に重なる第1の圧電膜32と、第1の圧電膜32に重なる第1の電極膜33とを有する。また、第1の振動体30は、第1の磁歪膜31と、第1の圧電膜32、第1の電極膜33とを有する多層膜積層構造を有する。
【0038】
図6に示すように、第1の振動体30では、第1の圧電膜32は第1の磁歪膜31の下に重なっており、第1の電極膜33は第1の圧電膜32の下に重なっている。ただし、第1の振動体30としては、
図6に示す例とは逆に、第1の圧電膜32が第1の磁歪膜31の上に重なり、第1の電極膜33が第1の圧電膜32の上に重なっていてもよく、重なりの方向は特に限定されない。
【0039】
また、
図6では図示していないが、各膜31~33の間に、他の膜が挿入されていてもよく、たとえば、第1の磁歪膜31と第1の圧電膜32との間に、第1の電極膜33と対になる他の電極膜が重ねられていてもよい。また、たとえば、第1の振動体30の上面を保護する絶縁膜が、第1の磁歪膜31の上に重ねて形成されていてもよい。
【0040】
図6に示す第1の磁歪膜31のZ軸方向の平均厚みは、特に限定されないが、たとえば、0.1μm~5μmとすることができる。第1の磁歪膜31は、磁歪特性を有する強磁性体で構成してある。第1の磁歪膜31を構成する強磁性体としては、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などの純金属、または、上記金属元素のうち少なくとも1種を含む合金(たとえば、Fe-Co系、Fe-Ni系、Fe-Si系、Fe-Dy-Tb系、Fe-Ga系、Fe-Si-Al系の合金など)、もしくは、上記金属元素の酸化物を含む酸化物磁性体が挙げられる。
【0041】
また、第1の磁歪膜31は、強磁性体を含む単一膜であってもよいし、複数の層からなる多層膜や、強磁性体と反強磁性体との積層膜であってもよい。
【0042】
図6に示す第1の圧電膜32のZ軸方向の平均厚みは、特に限定されないが、たとえば、0.4μm~10μmとすることができる。第1の圧電膜32は、圧電材料で構成してあり、圧電効果または逆圧電効果を奏する。第1の圧電膜32を構成する圧電材料としては、たとえば、水晶、ニオブ酸リチウム、窒化アルミニウム(AlN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O
3)、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN:(K,Na)NbO
3)、ジルコン酸チタン酸バリウムカルシウム(BCZT:(Ba,Ca)(Zr,Ti)O
3)、などが例示される。
【0043】
図6に示す第1の電極膜33のZ軸方向の平均厚みは、特に限定されないが、たとえば、3nm~200nmとすることができる。第1の電極膜33は、金属や酸化物導電体などの導電材料で構成され得る。第1の電極膜33としては、たとえば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)などの面心立方構造の金属薄膜や、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO
3)やニッケル酸リチウム(LiNiO
3)などの酸化物導電体薄膜を用いることができる。なお、第1の磁歪膜31と第1の圧電膜32との間に他の電極膜を形成する場合、他の電極膜のZ軸方向の平均厚みおよび材料は、第1の電極膜33と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0044】
第1の振動体30を構成する第1の磁歪膜31、第1の圧電膜32、第1の電極膜33は、半導体製造プロセスで用いられるような微細加工技術として公知の各種薄膜作製法により形成し得る。薄膜作製法としては、蒸着法、スパッタリング法、ゾルゲル法、CDV法、PLD法などが適用し得る。
【0045】
たとえば、第1の電極膜33、第1の圧電膜32、第1の磁歪膜31は、この順番で、共通フレーム部20となるシリコン基板の上面に積層し、エッチングなどにより、所定の形状や寸法に成形することにより、作製することができる。また、第1の磁歪膜31のZ軸方向上面や、第1の電極膜33のZ軸方向下面に、酸化シリコンあるいは窒化シリコン等の絶縁膜を、上述したような薄膜作製法により形成してもよい。このような絶縁膜は、第1の振動体30の機械的強度の向上や、耐久性の向上に資する。
【0046】
図5および
図6に示すような第1の振動体30では、電磁波や交流磁場などの外部磁場のエネルギーが放射されると、外部磁場のエネルギーによって励振されて、弾性波振動が生じる。より具体的には、第1の振動体30が外部磁場のエネルギーを受けると、磁歪効果によって第1の磁歪膜31に面内伸縮振動が発生する。そして、この面内伸縮振動が発生すると、第1の振動体30では、第1の圧電膜32の圧電効果により第1の圧電膜32の表面に電荷の偏りが生じる。第1の圧電膜32に生じた電位差は、他の電極層として機能する第1の磁歪膜31と第1の電極膜33を通じて取り出し得る。つまり、第1の振動体30の弾性波振動により、電磁波または交流磁場などの外部磁場のエネルギーや信号を、電気エネルギーや電気信号に変換することができる。
【0047】
図5に示すように、第1の振動体30は、第1の開口21の上方に位置しており、
図5に示す断面では、第1の振動体30が、第1の開口21のZ軸上方、または第1の開口21の内部において浮遊しているように見える。
図5に示すように、第1の振動体30の上面および下面は、自由に振動可能な空間に露出しており、共通フレーム部20に直に接していない非拘束面である。
【0048】
図4に示すように、第1の振動体30のX軸方向の幅は、第1の開口21のX軸方向の幅より小さく、第1の振動体30と第1の開口21の開口縁との間には、隙間が形成される。第1の腕部36は、第1の振動体30と第1の開口21の開口縁との隙間を部分的に塞ぐように配置される。
【0049】
第1の腕部36は、第1の振動体30と第1の開口21の開口縁との隙間に沿って、Y軸方向に延びており、Y軸正方向側で第1の振動体30に接続し、Y軸負方向側で共通フレーム部20に接続する。一対の第1の腕部36は、第1の振動体30の中心を通りY軸方向に延びる基準線を対称軸として、互いに対称な形状を有する。
【0050】
図7は、
図5に示す第1の腕部36のうち、第1の振動体30と第1の開口21の開口縁との隙間に配置される部分を拡大した拡大断面図である。
図7に示すように、第1の腕部36は、ビーム材36aと、応力膜36cとを有する。
【0051】
図7に示すビーム材36aは、例えばポリイミド、PET、プラスチックフィルムなどの樹脂、シリコン、酸化物、窒化物、金属等で構成される。
図5に示すように、ビーム材36aは、共通フレーム部20の上まで連続しており、共通フレーム部20に対して、第1の振動体30を支持する。
【0052】
図4、
図5および
図7に示すように、応力膜36cは、第1の振動体30と第1の開口21の開口縁との隙間に配置されるビーム材36aに重ねて、Y軸方向に形成される。応力膜36cは、たとえば、SiO
2のような膜形成時または形成後の処理等によって応力(
図9、
図10に示す例では収縮応力)を生じる膜により構成される。
【0053】
応力膜36cで生じた収縮応力は、第1の腕部36を構成するビーム材36a等に伝わり、たとえば、第1の振動体30と第1の開口21の開口縁との隙間に配置される第1の腕部36を、下に凸に湾曲する形状にできる。
【0054】
図8(a)、
図8(b)を用いて後ほど詳述するが、ビーム材36aに重ねて形成される応力膜36cの厚みや形成範囲等を変更することにより、第1~第3の腕部36、46、56の湾曲量(曲率)を変えることができる。なお、
図8(b)に示す第1の振動体30のように、第1の腕部36の形状が湾曲しておらず直線状である場合は、
図8(a)に示す応力膜36cの厚みを0(第1の腕部36が応力膜36cを有しない状態)としてもよい。
【0055】
なお、応力膜36cは、収縮応力を生じるもののみには限定されず、引張応力を生じるものであってもよい。また、応力膜36cは、
図7に示すようにビーム材36aのZ軸正方向側に形成されてもよく、ビーム材36aのZ軸下方向側に形成されてもよい。
【0056】
図7に示す腕部電極層36bは、第1の振動体30の第1の電極膜33(
図6参照)と同様に、導電材料で構成され得る。腕部電極層36bは、第1の磁歪膜31および第1の電極膜33のいずれか一方を、
図1に示す共通フレーム部20の配線部27に対して、電気的に接続する。
【0057】
また、
図4に示す一対の第1の腕部36のうち、一方が有する腕部電極層36bが第1の磁歪膜31と配線部27とを接続し、他方が有する腕部電極層36bが第1の電極膜33と配線部27とを接続する。このような腕部電極層36bを経由して、第1の電極膜33で生じた電荷が、第1の振動体30の外部へ取り出される。なお、
図4および
図5等では、腕部電極層36bについては図示を省略している。
【0058】
図2に示すように、第1の振動体30における第1の磁歪膜31の法線方向である第1方向31aは、第1の振動体30が配置される第1の開口21の開口方向である第1開口方向21aと略等しい。すなわち、第1方向31aが第1開口方向21aに対して形成する角度の違いは、ほぼ0度である。なお、第1開口方向21aは、第1の開口21の開口面の法線方向で規定される。
【0059】
図8(a)は、第1の振動体30に接続する第1の腕部36の断面形状を、第1の開口21の内側壁と対比して示したものである。第1の腕部36は、応力膜36cが非常に薄いか、または、応力膜36cを有しないため、ビーム材36aおよびこれを有する第1の腕部36を湾曲させる応力が生じない。これにより、
図4および
図8(a)に示すように、第1の振動体30と第1の開口21との間に配置される第1の腕部36は、共通フレーム部20との接続位置から、第1の振動体30との接続位置まで、開口面と略平行であるY軸方向に延びる。
【0060】
図8(b)は、第1の腕部36が接続する第1の振動体30の断面形状を、第1の開口21の内側壁と対比して示したものである。ここで、
図8(a)に示すように、第1の振動体30に接続する第1の腕部36がY軸方向にまっすぐ伸びているため、
図4に示す第1の腕部36と第1の振動体30との接続部分もY軸方向に沿って延びており、開口面に対して略平行である。
【0061】
したがって、
図8(b)に示すように、第1の腕部36が接続する第1の振動体30も、開口面に対して傾かず、Y軸方向に沿って延びる。これにより、第1の振動体30における第1方向31aは、第1開口方向21aと略一致する。
【0062】
図1に示すように、第2の振動体40は、第1の振動体30が配置される第1の開口21のY軸正方向側に隣接する第2の開口22に配置される。
図2および
図9(b)に示すように、第2の振動体40は、第2の磁歪膜41の法線方向である第2方向41aが、第1方向31aとは異なることなどを除き、
図4、
図6、
図8(b)に示す第1の振動体30と同様である。第2の振動体40および第2の振動体40に接続する第2の腕部46については、第1の振動体30および第1の腕部36との相違点を中心に説明し、共通点については説明を省略する。
【0063】
図2に示すように、第2の振動体40の第2方向41aは、第2の振動体40が配置される第2の開口22の開口方向である第2開口方向22aとは異なる。すなわち、第2方向41aが第2開口方向22aに対して形成する角度の違いは、第1方向31aが第1開口方向21aに対して形成する角度の違いより大きい。また、共通フレーム部20では、第1開口方向21aと第2開口方向22aとは共にZ軸方向であるから、第1の振動体30の第1方向31aは、第2の振動体40の第2方向41aとは非平行である。なお、第2開口方向22aは、第1開口方向21aと同様に、第2の開口22の開口面の法線方向で規定される。
【0064】
第2の振動体40は、
図3~
図5に示す第1の振動体30が第1の腕部36に支持されるのと同様に、構造体10が有する一対の第2の腕部46により、第2の開口22の周辺部分の共通フレーム部20に対して、振動可能に接続される。
図9(a)は、第2の振動体40に接続する第2の腕部46の断面形状を、第2の開口22の内側壁と対比して示したものである。
【0065】
図9(a)に示すように、第2の腕部46は、第1の腕部36と同様に応力膜46cおよびビーム材46aを有する。たとえば、第2の腕部46には、第1の腕部36より応力膜46cが厚く形成されており、応力膜46cが、ビーム材46aおよびこれを有する第2の腕部46を湾曲させる応力を生じる。これにより、
図9(a)に示すように、第2の振動体40と第2の開口22との間に配置される第2の腕部46は、共通フレーム部20との接続位置から、第2の振動体40との接続位置に向かって、下(Z軸負方向)に凸に湾曲する。
【0066】
図9(b)は、第2の腕部46が接続する第2の振動体40の断面形状を、第2の開口22の内側壁と対比して示したものである。
図9(b)に示すように、第2の振動体40は、第1の振動体30と同様に、第2の磁歪膜41と、第2の磁歪膜41に重なる第2の圧電膜42と、第2の圧電膜42に重なる第2の電極膜43とを有し、多層膜積層構造を有する。
【0067】
図9(a)に示すように、第2の振動体40に接続する第2の腕部46が下に凸に湾曲しつつY方向に伸びているため、第2の腕部46と第2の振動体40との接続部分も、Y軸方向に対して傾く。このようにして、第2の腕部46は、第2の振動体40を、第2の振動体40が配置される第2の開口22の第2開口方向22aに対して、第2方向41aが非平行となるように接続する。
【0068】
すなわち、
図9(b)に示すように、第2の腕部46が接続する第2の振動体40は、第2の開口22の開口面に対して傾き、第2の磁歪膜41の法線方向である第2方向41aは、第2の開口22の第2開口方向22aに対して傾く。これにより、
図8(b)に示す第1の振動体30の第1方向31aは、
図9(b)に示す第2の振動体40の第2方向41aに対して、
図2に示すように非平行となる。
【0069】
図1に示すように、第3の振動体50は、第2の振動体40が配置される第2の開口22のY軸正方向側に隣接する第3の開口23に配置される。
図2および
図10(b)に示すように、第3の振動体50は、第3の磁歪膜51の法線方向である第3方向51aが、第1方向31aとは異なることなどを除き、
図4、
図6、
図8(b)に示す第1の振動体30と同様である。第3の振動体50および第3の振動体50に接続する第3の腕部56については、第1の振動体30および第1の腕部36との相違点を中心に説明し、共通点については説明を省略する。
【0070】
図2に示すように、第3の振動体50の第3方向51aは、第3の振動体50が配置される第3の開口23の開口方向である第3開口方向23aとは異なる。すなわち、第3方向51aが第3開口方向23aに対して形成する角度の違いは、第1方向31aが第1開口方向21aに対して形成する角度の違いおよび第2方向41aが第2開口方向22aに対して形成する角度の違いより大きい。また、共通フレーム部20では、第1開口方向21a、第2開口方向22aおよび第3開口方向23aは共にZ軸方向であるから、第1の振動体30の第1方向31aおよび第2の振動体40の第2方向41aは、第3の振動体50の第3方向51aとは非平行である。なお、第3開口方向23aは、第1開口方向21aと同様に、第3の開口23の開口面の法線方向で規定される。
【0071】
第3の振動体50は、
図3~
図5に示す第1の振動体30が第1の腕部36に支持されるのと同様に、構造体10が有する一対の第3の腕部56により、第3の開口23の周辺部分の共通フレーム部20に対して、振動可能に接続される。
図10(a)は、第3の振動体50に接続する第3の腕部56の断面形状を、第3の開口23の内側壁と対比して示したものである。
【0072】
図10(a)に示すように、第3の腕部56は、第1の腕部36と同様に応力膜56cおよびビーム材56aを有する。たとえば、第3の腕部56には、第1の腕部36および第2の腕部47より応力膜56cが厚く形成されており、応力膜56cが、ビーム材56aおよびこれを有する第3の腕部56を湾曲させる応力を生じる。これにより、
図10(a)に示すように、第3の振動体50と第3の開口23との間に配置される第3の腕部56は、共通フレーム部20との接続位置から、第3の振動体50との接続位置に向かって、下(Z軸負方向)に凸に湾曲する。
【0073】
図10(b)は、第3の腕部56が接続する第3の振動体50の断面形状を、第3の開口23の内側壁と対比して示したものである。
図10(b)に示すように、第3の振動体50は、第1の振動体30と同様に、第3の磁歪膜51と、第3の磁歪膜51に重なる第3の圧電膜52と、第3の圧電膜52に重なる第3の電極膜53とを有し、多層膜積層構造を有する。
【0074】
図10(a)に示すように、第3の振動体50に接続する第3の腕部56が下に凸に湾曲しつつY方向に伸びているため、第3の腕部56と第3の振動体50との接続部分も、Y軸方向に対して傾く。このようにして、第3の腕部56は、第3の振動体50を、第3の振動体50が配置される第3の開口23の第3開口方向23aに対して、第3方向51aが非平行となるように接続する。
【0075】
すなわち、
図10(b)に示すように、第3の腕部56が接続する第3の振動体50は、第3の開口23の開口面に対して傾き、第3の磁歪膜51の法線方向である第3方向51aは、第3の開口23の第3開口方向23aに対して傾く。これにより、
図8(b)に示す第1の振動体30の第1方向31aは、
図10(b)に示す第3の振動体50の第3方向51aに対して、
図2に示すように非平行となる。
【0076】
また、
図9(a)と
図10(a)の比較から理解できるように、第3の腕部56の湾曲量(曲率)は、第3の腕部56の湾曲量(曲率)より大きい。したがって、
図10(b)に示す第3の振動体50の第3方向51aは、
図9(b)に示す第2の振動体40の第2方向41aに比較して、Z軸方向により大きく傾く。これにより、
図9(b)に示す第2の振動体40の第2方向41aは、
図10(b)に示す第3の振動体50の第3方向51aに対して、
図2に示すように非平行となる。
【0077】
図1に示すように、第4の振動体60は、第1の振動体30が配置される第1の開口21のY軸負方向側に隣接する第4の開口24に配置される。また、第5の振動体70は、第4の振動体60が配置される第4の開口24のY軸負方向側に隣接する第5の開口25に配置される。
図2に示すように、第4の振動体60および第5の振動体70は、各振動体60、70が有する磁歪膜の法線方向が異なることなどを除き、
図4、
図6、
図8(b)に示す第1の振動体30と同様である。
【0078】
すなわち、第4の振動体60、第5の振動体70およびこれらの振動体60、70を共通フレーム部20に接続する腕部の構造は、第2の振動体40、第3の振動体50および第2の腕部46、第3の腕部56の構造を、ZX平面を基準として鏡面対称とした構造である。したがって、第4の振動体60、第5の振動体70の詳細構造については、説明を省略する。
【0079】
図2に示すように、構造体10では、各振動体30、40、50、60、70の第1方向31a、第2方向41a、第3方向51aが互いにことなるため、方向が異なる複数の磁歪膜31、41、51を用いて外部磁場から信号を取り出すことができる。そのため、構造体10の外部磁場に対する相対姿勢に伴う信号出力の変動を、シンプルな機構で抑制することができる。また、構造体10では、非通電状態において、各振動体30、40、50、60、70の第1方向31a、第2方向41a、第3方向51aが異なることも好ましく、このような構造体10は、消費電力を抑制することができる。
【0080】
なお、
図2に示すように、構造体10では、互いに異なる5方向の磁歪膜31、41、51を有するが、構造体10は、少なくとも互いに異なる方向の2つの振動体を有していれば足り、構造体10が有する振動体の数は、特に限定されない。たとえば、構造体10では、第1の腕部36および第2の腕部46の少なくとも一方が、第1の振動体30を、第1の振動体30が配置される第1の開口21の第1開口方向21aに対して、第1方向31aが非平行となるように接続するか、または第2の振動体40を、第2の振動体40が配置される第2の開口22の第2開口方向22aに対して、第2方向41aが非平行となるように接続すればよい。
【0081】
図1に示すように、共通フレーム部20を用いる構造体10は、たとえば、シリコン基板を用いて共通フレーム部20を形成するなどのプロセスにより、複数の振動体30、40、50、60、70を効率的に製造することができる。また、腕部36、46、56によって、第2方向41aおよび第3方向51aを、第2開口方向22aおよび第3開口方向23aに対して異ならせることにより、他の構造を共通化しつつ、磁歪膜31、41、51の向きを非平行とすることができる。
【0082】
図11は、
図1等に示す構造体10を有する電子機器97の一例を示す模式図である。
図11に示す非接触給電システム99は、送信アンテナ98と、電子機器97とを有する。送信アンテナ98は、電子機器97から離間した場所に設置してあり、電子機器97に対して、非接触で電磁波や交流磁場などの外部エネルギーEを供給している。なお、送信アンテナ98としては、たとえば、ダイポールアンテナ、モノポールアンテナ、ループアンテナ、コイルアンテナ、レクテナなどを用いることができ、特に限定されない。
【0083】
一方、エネルギーの受信側である電子機器97の電源装置94は、構造体10に、整流回路などが搭載されているパワーマネジメントIC(PMIC)92と、キャパシタ95と、を接続して一体化することで構成してある。送信アンテナ98から供給された外部エネルギーEを、電源装置94の構造体10が受信すると、構造体10の内部では、外部エネルギーEによって
図1に示す振動体30、40、50、60、70の弾性波振動が誘起され、この弾性波振動に伴い電力が生じる。
【0084】
この際、
図2に示すように、振動体30、40、50、60、70の向きが互いに異なるため、電子機器97の姿勢の変化などに関わらず、構造体10は安定した量の電力を生じることができる。
図11に示すように、構造体10で発生した電力は、構造体10から電気信号が入力する入力部としてのパワーマネジメントIC92を介してキャパシタ95に送られ、キャパシタ95に蓄えられる。そして、電子機器97で電力を消費する場合は、キャパシタ95に蓄えていた電力が、パワーマネジメントIC92を介して電子機器97の各電力消費部93に送られる。なお、
図11に示す電力消費部93とは、たとえば、電子機器97が外耳装着式のカナル型イヤホンである場合、圧電式スピーカ、圧電式マイク、圧力センサ、増幅器を含む音響用IC、記憶装置などである。
【0085】
非接触給電システム99は、様々な電子機器に適用でき、構造体10を適用可能な電子機器97の種類は特に限定されない。
図1に示す構造体10は、小型でかつ高効率であるため、小型な電子機器や体内に埋め込む電子機器などへの適用が特に有効である。このような電子機器としては、たとえば、イヤホンや補聴器などのヒアラブルデバイス、スマートウォッチ、スマートグラス、スマートコンタクトレンズ、ウェアラブル体温計、ウェアラブル脈波センサなどの各種ウェアラブル端末の他、人体の内部に装着される人口内耳や心臓ペースメーカ、筋肉や脳などへの電気刺激機器、ニューロRFID、マイクロロボットなどが例示される。
【0086】
第2実施形態
図12は、第2実施形態に係る構造体110を、第1のフレーム部138の第1開口方向139aに垂直な方向から見た概略断面図である。
図12に示すように、構造体110は、第1の振動体130、第2の振動体140および第3の振動体150が、第1のフレーム部138、第2のフレーム部148および第3のフレーム部158の第1の開口139、第2の開口149および第3の開口159に個別に配置されている。また、構造体110は、各フレーム部138、148、158が、可撓性を有する基板部180に、互いに離間して配置されている。
【0087】
図12に示すように、構造体110は、フレーム部138、148、158や基板部180については、
図2等に示す構造体10とは異なるが、各振動体130、140、150の構造等については、第1実施形態に係る構造体1の第1の振動体30と同様である。構造体110の説明では、構造体10との相違点を中心に行い、構造体10との共通点については適宜説明を省略する。
【0088】
図12に示すように、構造体110は、
図1および
図2に示す共通フレーム部20に代えて、第1のフレーム部138、第2のフレーム部148および第3のフレーム部158を有する。
図13は、
図12に示す第1のフレーム部138および第1の振動体130の周辺部分を拡大した概略斜視図である。
【0089】
図13に示すように、第1のフレーム部138には、第1の振動体130が配置される第1の開口139が形成されており、第1のフレーム部138は、第1の開口139を囲む額縁形状を有する。また、構造体110は、第1の振動体130を第1のフレーム部138に対して振動可能に接続する一対の第1の腕部136を有する。
【0090】
図3と
図13との比較から理解できるように、
図3に示す第1の振動体30および第1の腕部36と、
図13に示す第1の振動体130と第1の腕部136とは、共通フレーム部20の第1の開口21に配置されているか、第1のフレーム部138の第1の開口139に配置されているかの違いを除き、同様の形状および構造である。
【0091】
すなわち、
図13に示す第1の振動体130は、
図6に示す第1の振動体30と同様に、第1の磁歪膜131と、第1の磁歪膜131に重なる第1の圧電膜と、第1の圧電膜に重なる第1の電極膜とを有する。また、
図13に示す第1の腕部136は、
図4および
図7に示す第1の腕部36と同様に、第1の振動体130を第1のフレーム部138に接続するビーム材等を有する。
【0092】
図12に示す第2の振動体140は、基板部180における設置位置および設置の向きが異なることを除き、
図13に示す第1の振動体130と同様である。すなわち、第2の振動体140は、
図13に示す第1の振動体130と同様に、第2の磁歪膜141と、第2の磁歪膜141に重なる第2の圧電膜と、第2の圧電膜に重なる第2の電極膜とを有する。また、第2の振動体140は、
図13に示す第1の腕部136と同様の第2の腕部により、第2のフレーム部148に対して振動可能に接続される。
【0093】
また、
図12に示す第2のフレーム部148は、
図13に示す第1のフレーム部138と同様の構造および形状を有する。第2のフレーム部148は、第2の振動体140が配置される第2の開口149が形成されており、第2のフレーム部148は、第2の開口149を囲む額縁形状を有する。
【0094】
図12に示す第3の振動体150も、基板部180における設置位置および設置の向きが異なることを除き、
図13に示す第1の振動体130と同様である。すなわち、第3の振動体150は、
図13に示す第1の振動体130と同様に、第3の磁歪膜151と、第3の磁歪膜151に重なる第3の圧電膜と、第3の圧電膜に重なる第3の電極膜とを有する。また、第3の振動体150は、
図13に示す第1の腕部136と同様の第3の腕部により、第3のフレーム部158に対して振動可能に接続される。
【0095】
また、
図12に示す第3のフレーム部158は、
図13に示す第1のフレーム部138と同様の構造および形状を有する。第3のフレーム部158には、第3の振動体150が配置される第3の開口159が形成されており、第3のフレーム部158は、第3の開口159を囲む額縁形状を有する。
【0096】
図12に示すように、第1のフレーム部138、第2のフレーム部148および第3のフレーム部158は、Y軸方向に互いに間隔を空けて基板部180のZ軸正方向側の面に設けられる。基板部180には、配線部181が形成されており、配線部181は、
図1に示す配線部27と同様に、第1の振動体130、第2の振動体140および第3の振動体150に対して電気的に接続する。
【0097】
基板部180は、
図12に示すようにY軸方向に沿って湾曲しており、第1のフレーム部138の設置面の向きと、第2のフレーム部148の設置面の向きと、第3のフレーム部158の設置面の向きとは、互いに異なる。基板部180は、可撓性を有する可撓性基板であってもよく、たとえば、フレキシブルプリント基板などを、基板部180として採用することができる。ただし、基板部180は、リジット基板のような、可撓性を有しない基板であってもよい。
【0098】
図12に示すように、第1の開口139の第1開口方向139aは、第1の磁歪膜131の法線方向である第1方向131aと略同じ向きであり、第2の開口149の第2開口方向149aは、第2の磁歪膜141の法線方向である第2方向141aと略同じ向きである。これに対して、第1のフレーム部138の設置面の向きと、第2のフレーム部148の設置面の向きが異なるため、第1方向131aと第2方向141aとは非平行である。
【0099】
また、
図12に示すように、第1開口方向139aが第1方向131aに対して形成する角度の違い、および、第2開口方向149aが第2方向141aに対して形成する角度の違いは、第1方向131aが第2方向141aに対して形成する角度の違いより小さい。
【0100】
また、第3の開口159の第3開口方向159aは、第3の磁歪膜151の法線方向である第3方向151aと略同じ向きである。これに対して、第3のフレーム部158の設置面の向きは、第1のフレーム部138および第2のフレーム部148の設置面の向きとは異なるため、第3方向151aは、第1方向131aおよび第2方向141aとは非平行である。
【0101】
したがって、第3開口方向159aが第3方向151aに対して形成する角度の違いは、第3方向151aが第1方向131aおよび第2方向141aに対して形成する角度の違いより小さい。
【0102】
図12に示すような構造体110では、第1のフレーム部138、第1の腕部136および第1の振動体130と、第2のフレーム部148、第2の腕部および第2の振動体140と、第3のフレーム部158、第3の腕部および第3の振動体50とを、同じかまたは違いの小さいものとすることができるため、構造および製造プロセスがシンプルである。また、構造体110では、各振動体130、140、150が、設置される開口139、149、159の開口面と略平行に設置されるため、各振動体130、140、150が、その振動体130、140、150が収容されるフレーム部138、148、158によって保護されやすく、耐衝撃性などの点で有利である。
【0103】
その他、
図12および
図13に示す構造体110は、第1実施形態に係る構造体10との共通部分については、構造体10と同様の効果を奏する。なお、
図12に示す構造体110は、3つの振動体130、140、150を有するが、構造体110が有する振動体130、140、150の数は複数であれば特に限定されない。
【0104】
第3実施形態
図14は、第3実施形態に係る電子機器297を示す外観図である。電子機器297は、電子機器297の外表面を構成するカバー部283を有する。電子機器297は、全長10~50mm、直径5~20mm程度の大きさを有し、たとえば、消化管などを観察するためのカプセル内視鏡として用いられる。
【0105】
図14に示すように、カバー部283は、円筒形状部分283aと、円筒形状部分283aの両端部に接続するドーム形状部分283bとを有する。
図15に示すように、円筒形状部分283aの内側面には、仮想線295に沿って構造体210aが設けられる。
【0106】
図15に示すように、構造体210aは、第1の振動体230と、第2の振動体240と、第3の振動体250と、基板部280aとを有する。第1~第3の振動体230、240、250は、
図12に示す構造体110が有する第1~第3の振動体130、140、150と同様である。また、第1~第3の振動体230、240、250は、
図12に示す構造体110と同様に、腕部およびフレーム部を介して基板部280aに設けられている(
図12および
図13参照)。
【0107】
また、ドーム形状部分283bの内側面には、仮想線296に沿って構造体210bが設けられる。構造体210bは、構造体210aと同様に、第1の振動体230と、第2の振動体240と、第3の振動体250と、基板部280bとを有する。構造体210aと構造体210bは、基板部280aが円筒形状部分283aの内側面に沿う形状を有し、基板部280bがドーム形状部分283bの内側面に沿う形状を有する点で相違するが、その余の点は同様である。
【0108】
図16は、電子機器297において構造体210bが配置される仮想線296(
図15参照)に沿う断面の一部を拡大した拡大断面図である。
図16に示すように、カバー部283のドーム形状部分283bは、第1の振動体230および第2の振動体240の少なくとも一方側(
図16では外側)を連続的に覆う曲面状である。
【0109】
図16に示すように、第1の振動体230における第1の磁歪膜231の法線方向である第1方向231aは、第1方向231aがドーム形状部分283bに交差する第1交点284におけるドーム形状部分283bの法線方向である第1カバー部方向284aと略同じである。また、第2の振動体240における第2の磁歪膜241の法線方向である第2方向241aは、第2方向241aがドーム形状部分283bに交差する第2交点285におけるドーム形状部分283bの法線方向である第2カバー部方向285aと略同じである。
【0110】
図16に示すように、基板部280bは、第1および第2の振動体230、240の配置方向に沿って湾曲しているため、第1方向231aと第2方向241aとは非平行である。また、第1および第2の振動体230、240を連続的に覆うドーム形状部分283bも、第1および第2の振動体230、240の配置方向に沿って湾曲しているため、第1カバー部方向284aと第2カバー部方向285aとは非平行である。
【0111】
また、第1カバー部方向284aが第1方向231aに対して形成する角度の違い、および、第2カバー部方向285aが第2方向241aに対して形成する角度の違いは、第1カバー部方向284aが第2カバー部方向285aに対して形成する角度の違いより小さい。
【0112】
図16に示すようなドーム形状部分283bを有する電子機器297は、生物の体内管腔等に、固定されずに収容される形状として適している。また、電子機器297では、ドーム形状部分283bが基板部280bの湾曲形状に沿って湾曲しているため、ドーム形状部分283b近傍の狭い空間に構造体210bをコンパクトに収容でき、小型化に適している。
【0113】
その他、構造体210a、210bは、構造体110との共通点については、構造体110と同様の効果を奏する。なお、カバー部283に固定される前の構造体210a、210bは、直線状に延びる帯状であってもよく、らせん状または円弧状に延びる帯状であってもよい。また、構造体210a、210bは、仮想線295、296に沿って360度、略等間隔に配置される振動部230、240、250を有していてもよい。また、カバー部283の形状としては、カプセル形状、円筒形状、ドーム形状などの他に、球形状、楕円球形状などが挙げられるが、カバー部283の形状はこれらのみには限定されない。
【0114】
なお、電子機器297には、構造体210a、210bからの電気信号が入力される入力部としてパワーマネジメントIC92、蓄電部としてのキャパシタ95、電力消費部93としてのカメラなどが備えられていてもよい。
【0115】
実施例
以下、実施例を用いて、本開示をさらに詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0116】
図17(a)は、実施例で用いた構造体310を示す概念図である。構造体310は、
図13に示す第1の振動体130、第1の腕部136および第1のフレーム部138を含む素子371を、長さ15mm幅6mmのフレキシブル基板部380上に計12個直列に設置し、これを外径4.8mmの円筒状のプラスチック筐体386の周囲を1周するように巻き付けて固定して作製した。
【0117】
図17(b)は、比較例で用いた構造体410を示す概念図である。構造体410は、実施例と同様に素子371を、実施例と同じ形状のフレキシ
ブル基板部380上に同様に設置し、平板状のプラスチック板(実施例1と同じ材料)上に平らに固定して作製した。
【0118】
評価では、構造体310、410の側面方向に10cm離れた位置から、周波数3.0MHzで振幅が50nTである交流磁場を供給し、構造体310、410の発電量(交流電圧)を、ロックインアンプを用いて測定した。測定は、構造体310、410を、
図17に示すように縦軸周りに回転させながら行った。
【0119】
実施例に係る構造体310の測定では、構造体310を回転させても、発電量は、静止状態で測定される12mVとほぼ同様でほとんど変動せず、安定性の高い出力が検出された。これに対して、比較例に係る構造体410では、構造体410を回転させた場合、出力は最大値である18mVから最小値である1mVのまで周期的に変動し、出力は安定しなかった。
【符号の説明】
【0120】
10、110、210a、210b、310、410…構造体
20…共通フレーム部
21、139…第1の開口
22、149…第2の開口
23…第3の開口
24…第4の開口
25…第5の開口
27…配線部
28…外部接続部
30、130…第1の振動体
31、131…第1の磁歪膜
31a、131a…第1方向
32…第1の圧電膜
33…第1の電極膜
36、136…第1の腕部
36c、46c、56c…応力膜
36a、46a、56a…ビーム材
36b…腕部電極層
40、140…第2の振動体
41、141…第2の磁歪膜
41a、141a…第2方向
42…第2の圧電膜
43…第2の電極膜
46…第2の腕部
50、150…第3の振動体
51、151…第3の磁歪膜
56…第3の腕部
60…第4の振動体
70…第5の振動体
97、297…電子機器
92…パワーマネジメントIC
95…キャパシタ
93…電力消費部
98…送信アンテナ
138…第1のフレーム部
21a、139a…第1開口方向
148…第2のフレーム部
22a、149a…第2開口方向
51a、151a…第3方向
158…第3のフレーム部
180…基板部
181…配線部
283…カバー部
283a…円筒形状部分
283b…ドーム形状部分
284…第1交点
284a…第1カバー部方向
285…第2交点
285a…第2カバー部方向
295、296…仮想線
296…仮想線
371…素子
380…フレキシブル基板部
386…プラスチック筐体