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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175433
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】書道液
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20231205BHJP
【FI】
C09D11/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087871
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000142920
【氏名又は名称】株式会社呉竹
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】大西 悟
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勝也
【テーマコード(参考)】
4J039
【Fターム(参考)】
4J039AB01
4J039AB02
4J039AD06
4J039BC11
4J039BC35
4J039BE02
4J039CA03
4J039EA10
4J039EA48
4J039GA08
(57)【要約】
【課題】運筆性に優れるとともに、液垂れを防止することができる書道液を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る書道液は、染料と、水と、水溶性アルギン酸塩と、キサンタンガムとを含む。好ましくは、前記キサンタンガムに対する前記水溶性アルギン酸塩の質量比が、1.0~5.0である。好ましくは、前記水溶性アルギン酸塩の含有量が、前記書道液の全量に対して0.5~2.0質量%である。好ましくは、前記キサンタンガムの含有量が、前記書道液の全量に対して0.3~0.6質量%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
染料と、水と、水溶性アルギン酸塩と、キサンタンガムとを含む、書道液。
【請求項2】
前記キサンタンガムに対する前記水溶性アルギン酸塩の質量比が、1.0~5.0である、請求項1に記載の書道液。
【請求項3】
前記水溶性アルギン酸塩の含有量が、前記書道液の全量に対して0.5~2.0質量%である、請求項1に記載の書道液。
【請求項4】
前記キサンタンガムの含有量が、前記書道液の全量に対して0.3~0.6質量%である、請求項1に記載の書道液。
【請求項5】
前記水溶性アルギン酸塩が、アルギン酸ナトリウムである、請求項1に記載の書道液。
【請求項6】
洗濯による消去性を有する、請求項1に記載の書道液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、書道液に関する。
【背景技術】
【0002】
墨汁は、カーボンブラック又は煤、及び、膠又は合成樹脂を含み、従来、衣類等に付着した場合には、洗濯しても簡単に消去することができないという問題があった。そのため、水洗で簡単に消去できる書道液(以下、消去性書道液ともいう)等が種々提案されており、例えば、特許文献1には、酸性染料、及び、水媒体を含む書道液が開示されている。前記書道液は、アゾ系又はトリフェニルメタン系の赤色系染料、黄色系染料、及び、青色系染料(すなわち、黒色化のための三原色)を含む3種以上の染料を所定の割合で配合することにより、誤って衣服に付着しても、洗濯により容易に消去できる。
【0003】
ところで、近年、パフォーマンス書道と称される新たな書道の形態が、学生の中で静かなブームとなり、パフォーマンス書道甲子園といった大会が開催されるまでにいたっている。このパフォーマンス書道は、複数人(通常5~10人)が1組となって、約4m×6mの巨大な紙の上で、音楽にあわせて手拍子やダンスをしながら、体全体を使って書道をするもので、選手権大会では、書の美しさや演技の美しさ、躍動感などを競いあう。
【0004】
特許文献1のような消去性書道液をパフォーマンス書道に用いることにより、書道液が衣装に付着しても、洗濯により容易に落とすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-163147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パフォーマンス書道においては、通常、書道が終了した後、書道液が乾燥する前に、作品を立てかけて披露する。そのため、パフォーマンス書道に用いられる書道液には、紙面上の書道液が垂れにくいことが望まれており、液垂れを抑制する観点で特許文献1の書道液には改善の余地がある。
【0007】
液垂れを抑制する方法としては、書道液の粘度を上昇させることが考えられる。しかし、書道液の粘度を上昇させると、筆さばき(運筆性)が著しく損なわれ、パフォーマンス書道で求められる躍動感に支障が生じてしまう。
【0008】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、運筆性に優れるとともに、液垂れを防止することができる書道液を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る書道液は、染料と、水と、水溶性アルギン酸塩と、キサンタンガムとを含む。
【0010】
前記書道液は、染料と、水と、水溶性アルギン酸塩と、キサンタンガムとを含むことにより、運筆性に優れ且つ液垂れを防止し得る書道液とすることができる。
【0011】
本発明に係る書道液は、前記キサンタンガムに対する前記水溶性アルギン酸塩の質量比が、1.0~5.0であってもよい。
【0012】
前記書道液は、斯かる構成により、より一層、運筆性に優れるとともに、液垂れを防止することができる。
【0013】
本発明に係る書道液は、前記水溶性アルギン酸塩の含有量が、前記書道液の全量に対して0.5~2.0質量%であってもよい。
【0014】
前記書道液は、斯かる構成により、より一層、運筆性に優れるとともに、液垂れを防止することができる。
【0015】
本発明に係る書道液は、前記キサンタンガムの含有量が、前記書道液の全量に対して0.3~0.6質量%であってもよい。
【0016】
前記書道液は、斯かる構成により、より一層、運筆性に優れるとともに、液垂れを防止することができる。
【0017】
本発明に係る書道液は、前記水溶性アルギン酸塩が、アルギン酸ナトリウムであってもよい。
【0018】
前記書道液は、斯かる構成により、より一層、運筆性に優れるとともに、液垂れを防止することができる。
【0019】
本発明に係る書道液は、洗濯による消去性を有していてもよい。
【0020】
前記書道液は、斯かる構成により、衣装に付着した書道液を洗濯により簡単に落とすことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、運筆性に優れるとともに、液垂れを防止することができる書道液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る書道液について説明する。
【0023】
本実施形態に係る書道液は、染料と、水と、水溶性アルギン酸塩と、キサンタンガムとを含む。
【0024】
水溶性アルギン酸塩としては、例えば、アルギン酸カリウム、アルギン酸ナトリウムなどのアルギン酸アルカリ金属塩、及びアルギン酸トリエタノールアミン、アルギン酸アンモニウムなどのアルギン酸アミン塩等を用いることができる。これらの中でも、水溶性アルギン酸塩としては、アルギン酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0025】
前記水溶性アルギン酸塩の含有量は、書道液の全量に対して0.5~2.0質量%であることが好ましく、0.5~1.5質量%であることがより好ましい。
【0026】
キサンタンガムとは、澱粉を細菌(Xanthomonas campestris)により発酵させて得られる水溶性多糖類である。
【0027】
前記キサンタンガムの含有量は、書道液の全量に対して0.2~0.7質量%であることが好ましく、0.3~0.6質量%であることがより好ましい。
【0028】
前記キサンタンガムに対する前記水溶性アルギン酸塩の質量比(水溶性アルギン酸塩/キサンタンガム)は、1.0~5.0であることが好ましく、1.5~4.0であることがより好ましい。
【0029】
染料は、構造中にスルホン酸塩基を2個以上有し、アゾ系(ただし、芳香族環がアルキル基、ニトロ基、アミノ基、アルコキシル基で置換されているものを除く)またはトリフェニルメタン系の赤色系染料、黄色系染料、及び、青色系染料の少なくとも3種を含むものを好適に使用できる。また、前記染料は、好ましくは、前記赤色系染料、前記黄色系染料、及び、前記青色系染料からなる。
【0030】
前記構造中のスルホン酸塩基は、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及び、アルキルアンモニウム塩の群から選択することができる。これらの中でも、水消去性効果を高める観点から、前記構造中のスルホン酸塩基は、アルカリ金属塩(特に、ナトリウム塩)であることが好ましい。
【0031】
前記赤色系染料としては、例えば、アゾ系の食用赤色2号(アマランス、C.I.16185)、食用赤色102号(ニューコクシン、C.I.16255)等を用いることができる。また、前記黄色系染料としては、例えば、アゾ系の食用黄色4号(タートラジン、C.I.19140)、食用黄色5号(サンセットイエローFCF、C.I.15985)等を用いることができる。また、前記青色系染料としては、例えば、トリフェニルメタン系の食用青色1号(ブリリアントブルーFCF、C.I.42090)等を用いることができる。なお、赤色系染料、黄色系染料、及び、青色系染料は、それぞれ1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0032】
前記染料における前記赤色系染料の含有量は、29.0~60.0質量%であることが好ましく、30.0~44.0質量%であることがより好ましい。また、前記染料における前記黄色系染料の含有量は、13.0~45.0質量%であることが好ましく、22.0~40.0質量%であることがより好ましい。また、前記染料における前記青色系染料の含有量は、17.0~38.0質量%であることが好ましく、26.0~38.0質量%であることがより好ましい。なお、赤色系染料、黄色系染料、及び、青色系染料がそれぞれ2種以上含まれる場合、前記含有量は合計含有量である。
【0033】
前記染料の合計含有量は、書道液の全量に対して1.0~40.0質量%であることが好ましく、2.0~15.0質量%であることがより好ましい。
【0034】
前記水の含有量は、書道液の全量に対して60.0~90.0質量%であることが好ましく、62.0~87.0質量%であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態に係る書道液は、水溶性アルギン酸塩及びキサンタンガム以外のその他の多糖類をさらに含んでいてもよい。その他の多糖類としては、ソルビトール等が挙げられる。なお、その他の多糖類は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記その他の多糖類の含有量は、書道液の全量に対して5.0~15.0質量%であることが好ましく、5.0~13.0質量%であることがより好ましい。なお、その他の多糖類が2種以上含まれる場合、前記含有量はその他の多糖類の合計含有量である。
【0037】
本実施形態に係る書道液は、添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、防腐剤、消泡剤、分散安定助剤、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、増粘剤等が挙げられる。なお、添加剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0038】
前記添加剤の含有量は、書道液の全量に対して1.0~4.0質量%であることが好ましく、2.0~3.5質量%であることがより好ましい。なお、添加剤が2種以上含まれる場合、前記含有量は添加剤の合計含有量である。
【0039】
本実施形態に係る書道液は、染料と、水と、水溶性アルギン酸塩と、キサンタンガムとを含むことにより、運筆性に優れるとともに、液垂れを防止することができる。
【0040】
本実施形態に係る書道液は、前記キサンタンガムに対する前記水溶性アルギン酸塩の質量比が、1.0~5.0であることにより、より一層、運筆性に優れるとともに、液垂れを防止することができる。
【0041】
本実施形態に係る書道液は、前記水溶性アルギン酸塩の含有量が、前記書道液の全量に対して0.5~2.0質量%であることにより、より一層、運筆性に優れるとともに、液垂れを防止することができる。
【0042】
本実施形態に係る書道液は、前記キサンタンガムの含有量が、前記書道液の全量に対して0.3~0.6質量%であることにより、より一層、運筆性に優れるとともに、液垂れを防止することができる。
【0043】
本発明に係る書道液は、前記水溶性アルギン酸塩が、アルギン酸ナトリウムであることにより、より一層、運筆性に優れるとともに、液垂れを防止することができる。
【0044】
本発明に係る書道液は、洗濯による消去性を有することにより、衣装に付着した書道液を洗濯により簡単に落とすことができる。
【0045】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]染料と、水と、水溶性アルギン酸塩と、キサンタンガムとを含む、書道液。
[2]前記キサンタンガムに対する前記水溶性アルギン酸塩の質量比が、1.0~5.0である、[1]に記載の書道液。
[3]前記水溶性アルギン酸塩の含有量が、前記書道液の全量に対して0.5~2.0質量%である、[1]又は[2]に記載の書道液。
[4]前記キサンタンガムの含有量が、前記書道液の全量に対して0.3~0.6質量%である、[1]~[3]のいずれか一つに記載の書道液。
[5]前記水溶性アルギン酸塩が、アルギン酸ナトリウムである、[1]~[4]のいずれか一つに記載の書道液。
[6]洗濯による消去性を有する、[1]~[5]のいずれか一つに記載の書道液。
【実施例0046】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
<書道液の作製>
表1に示す配合で各実施例及び各比較例の書道液を作製した。
表1に示す各成分の詳細を以下に示す。
染料(赤色系染料):アマランス
染料(黄色系染料):タートラジン
染料(青色系染料):ブリリアントブルーFCF
水溶性アルギン酸塩(アルギン酸ナトリウム):キミカアルギンB-8(キミカ社製)
キサンタンガム:ウルトラキサンタン V7T(伊那食品工業社製)
ジエチレングリコール(コスモ油化社製)
ポリビニルアルコール:JP-10(日本酢ビ・ポバール社製)
アルカリ膨潤樹脂:プライマルTT-615(ダウ・ケミカル日本社製)
90% トリエタノールアミン水溶液(三井化学社製)
CMC(カルボキシメチルセルロース):セロゲンHE-1500F(第一工業製薬社製)
【0048】
<乾燥性の評価>
各実施例及び各比較例の書道液を用いて、コピー用紙に太筆で「永」の字を筆記後、30分後に筆記面が乾いているかを指で確認した。書道液が指に全く付かない場合には「〇」、書道液が少し指に付く場合には「△」、書道液がべたつく場合には「×」と評価した。評価結果については、表1に示す。
【0049】
<運筆性の評価>
各実施例及び各比較例の書道液を用いて、コピー用紙に太筆で「永」の字を筆記した際の筆の軽さ(抵抗感)を確認した。適度な軽さの運筆であったものは「〇」、やや軽い又はやや重い運筆であったものは「△」、軽すぎる又は重すぎる運筆であったものは「×」と評価した。評価結果については、表1に示す。
【0050】
<液垂れ性の評価>
各実施例及び各比較例の書道液を用いて、コピー用紙に「永」の字を筆記した直後に、コピー用紙を垂直に固定し、3分後の書道液の液垂れを目視にて観察した。書道液がほぼ垂れない場合には「〇」、少し垂れる場合には「△」、かなり垂れる場合には「×」と評価した。評価結果については、表1に示す。
【0051】
<消去性の評価>
各実施例及び各比較例の書道液を用いて、不織布に書道液をスポイトで1滴滴下し、洗剤と水を500mL入れたカップで洗濯試験を行った際の色の落ち具合を観察した。書道液の色がほぼ落ちる場合には「〇」、少し落ちる場合には「△」、全く落ちない場合には「×」と評価した。
【0052】
【表1】
【0053】
表1の結果から分かるように、本発明の要件をすべて満たす各実施例の書道液は、優れた液垂れ防止性及び運筆性を示す。また、本発明の要件をすべて満たす各実施例の書道液は、優れた消去性及び乾燥性を示す。