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特開2023-175445成形体、その製造方法およびそれを用いたリサイクル方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175445
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】成形体、その製造方法およびそれを用いたリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/18 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
C08J11/18 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087885
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】山田 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】古橋 越也
(72)【発明者】
【氏名】吉川 成志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優斗
(72)【発明者】
【氏名】吉川 雅之
(72)【発明者】
【氏名】王 蕾蕾
(72)【発明者】
【氏名】仲田 智明
(72)【発明者】
【氏名】原田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】木下 悟
【テーマコード(参考)】
4F401
【Fターム(参考)】
4F401AA22
4F401CA02
4F401CA14
4F401CA76
4F401CB28
4F401FA05Z
4F401FA20Z
(57)【要約】
【課題】分解効率に優れ、ケミカルリサイクルし易いポリエチレンテレフタレート樹脂成形体を提供する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレートの化学分解によりモノマーを製造するために使用されるポリエチレンテレフタレート樹脂の成形体であって、該成形体の、温度変調示差走査熱量計を用いて測定されるガラス転移温度(Tg)および結晶化度相関パラメーター(ΔHTc1/ΔHTm)が、Tg≧70℃、かつΔHTc1/ΔHTm≧0.5を満足する成形体とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートの化学分解によりモノマーを製造するために使用されるポリエチレンテレフタレート樹脂の成形体であって、
該成形体の、温度変調示差走査熱量計を用いて測定されるガラス転移温度(Tg)および結晶化度相関パラメーター(ΔHTc1/ΔHTm)が、
Tg≧70℃
ΔHTc1/ΔHTm≧0.5
を満足する、成形体。
【請求項2】
厚さ10~350μmのフィルム形態を有する、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
比表面積が7600mm/g以上である、請求項2に記載の成形体。
【請求項4】
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂が、ポリエチレンテレフタレートから構成される製品を再利用したリサイクル材である、請求項1に記載の成形体。
【請求項5】
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)が1.4以下である、請求項4に記載の成形体。
【請求項6】
前記化学分解が酵素により行われる、請求項1に記載の成形体。
【請求項7】
請求項1に記載の成形体を製造する方法であって、ポリエチレンテレフタレート樹脂を、溶融状態から、5~60のドラフト比で引き取り、成形体を得ることを含む、方法。
【請求項8】
前記ポリエチレンテレフタレート樹脂は、ポリエチレンテレフタレートから構成される製品を再利用したリサイクル材である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ポリエチレンテレフタレート樹脂製品をリサイクルする方法であって、
使用済みのポリエチレンテレフタレート樹脂製品から、請求項1に記載の成形体を製造し、
前記成形体を、酵素を含む媒体に浸漬し、
前記ポリエチレンテレフタレートの化学分解によりモノマーまたはオリゴマーを製造する、
ことを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレート樹脂の成形体に関し、より詳細には、ポリエチレンテレフタレートの化学分解によりモノマーを製造するために使用されるポリエチレンテレフタレート樹脂の成形体、その製造方法、およびそれを用いたポリエチレンテレフタレート樹脂製品のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製ボトルは、軽量であることや、透明で中身が良く見えることなどから飲料水、調味料、食用油、アルコール性飲料、燃料、洗剤などさまざまな液状物の容器として広くかつ大量に利用されており、なかでもポリエチレンテレフタレート製ボトル(以下、PETボトルと表記する場合がある)がその大半を占めている。使用済みプラスチック製ボトルは、従来は焼却処理や埋め立て処理により処分されていたが、近年では容器包装に係る分別収集および再商品化の促進等に関する法律が施行され、PETボトルの収集・リサイクルとともに、容器包装使用済みプラスチックの分別収集並びにリサイクルが開始されている。
【0003】
これら使用済みプラスチックのリサイクルの方式としては、使用済みプラスチックを素材として再製品化して利用するマテリアルリサイクル、使用済みプラスチックをモノマーレベルまで分解して再利用するケミカルリサイクル、使用済みプラスチックをエネルギーとして再利用するサーマルリサイクル等がある。
【0004】
使用済みPETボトルを一例にとると、ケミカルリサイクルとして、ポリエステルを化学的に分解しオリゴマーもしくはモノマーを回収し再びポリエステルを重合する方法が開発され実用化されはじめている。例えば、使用済みPETボトルを洗浄、粉砕してフレーク状とし、メタノールを加えてジメチルテレフタレートに分解した後、再び加水分解して高純度テレフタル酸を得る方法(特許文献1等)や、ポリエチレンテレフタレートにエチレングリコールを加えてビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートに分解し、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートを溶融重縮合させてポリエチレンテレフタレートポリマーを得る方法(特許文献2)、またポリエチレンテレフタレートを超臨界または亜臨界と呼ばれる高温高圧状態の水と反応させて加水分解しテレフタル酸を得る方法などが知られている(特許文献3)。さらに、近年では、ポリエチレンテレフタレートを酵素により加水分解してテレフタル酸を得る方法も提案されている(特許文献4)。
【0005】
また、半結晶性ポリエステルを酵素により加水分解によりモノマーを得る方法として、融点以上の温度でポリマーを溶融させて結晶化温度以下に急冷することで非晶化させることで、分解効率が向上することが提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-60369号公報
【特許文献2】特開2000-169623号公報
【特許文献3】特開2000-53801号公報
【特許文献4】特表2016-505650号公報
【特許文献5】米国特許公開2019/218360号
【発明の概要】
【0007】
上記したように、ボトル等の使用済みポリエチレンテレフタレート製品をモノマーレベルまで分解して再利用するケミカルリサイクル法は、基本的にはポリエチレンテレフタレートを化学分解する方法といえる。しかしながら、実用化するに際してはいずれの方法も、分解効率が十分であるとは言えず、実用化に際して改善する余地があった。したがって、本発明は、分解効率に優れ、ケミカルリサイクルし易いポリエチレンテレフタレート樹脂成形体を提供することを主な目的としている。また、本発明は、当該成形体の製造方法、当該成形体を用いて使用済みのポリエチレンテレフタレート樹脂製品をリサイクルする方法を提供することも目的としている。
【0008】
上記特許文献5には、ポリエステルの結晶化度が加水分解の効率に影響を与えること、更には非晶化することで分解効率が向上することが開示されている。本発明者らは、使用済みのポリエチレンテレフタレート樹脂製品をケミカルリサイクルするにあたり、結晶化度の低いポリエチレンテレフタレート成形体を作製して加水分解を試みたところ、結晶化度が低すぎても分解効率が低下するという驚くべき知見を得た。そして、本発明者らが更なる検討を行ったところ、結晶化度相関パラメーターが一定以上大きく(即ち、結晶化度が一定以上小さく)、かつガラス転移温度が一定以上となるような成形体とすることにより、ポリエチレンテレフタレートの分解効率が更に向上するとの知見を得た。本発明は係る知見によるものである。即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0009】
[1] ポリエチレンテレフタレートの化学分解によりモノマーを製造するために使用されるポリエチレンテレフタレート樹脂の成形体であって、
該成形体の、温度変調示差走査熱量計を用いて測定されるガラス転移温度(Tg)および結晶化度相関パラメーター(ΔHTc1/ΔHTm)が、
Tg≧70℃
ΔHTc1/ΔHTm≧0.5
を満足する、成形体。
[2] 厚さ10~350μmのフィルム形態を有する、[1]に記載の成形体。
[3] 比表面積が7600mm/g以上である、[2]に記載の成形体。
[4] 前記ポリエチレンテレフタレート樹脂が、ポリエチレンテレフタレートから構成される製品を再利用したリサイクル材である、[1]に記載の成形体。
[5] 前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度(IV)が1.4以下である、[4]に記載の成形体。
[6] 前記化学分解が酵素により行われる、[1]に記載の成形体。
[7] [1]に記載の成形体を製造する方法であって、ポリエチレンテレフタレート樹脂を、溶融状態から5~60のドラフト比で引き取り、成形体を得ることを含む、方法。
[8] 前記ポリエチレンテレフタレート樹脂は、ポリエチレンテレフタレートから構成される製品を再利用したリサイクル材である、[7]に記載の方法。
[9] ポリエチレンテレフタレート樹脂製品をリサイクルする方法であって、
使用済みのポリエチレンテレフタレート樹脂製品から、[1]に記載の成形体を製造し、
前記成形体を、酵素を含む媒体に浸漬し、
前記ポリエチレンテレフタレートの化学分解によりモノマーまたはオリゴマーを製造する、
ことを含む、方法。
【0010】
本発明によれば、分解効率に優れ、ケミカルリサイクルし易いポリエチレンテレフタレート樹脂成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1~6および比較例1~4の各成形体におけるガラス転移温度と分解効率との関係を表したグラフ。
図2】実施例1~6および比較例1~4の各成形体における結晶化度相関パラメーターと分解効率との関係を表したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<成形体>
本発明による成形体は、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなる成形体であって、成形体の、温度変調示差走査熱量計を用いて測定されるガラス転移温度(Tg)および結晶化度相関パラメーター(ΔHTc1/ΔHTm)が、
Tg≧70℃
ΔHTc1/ΔHTm≧0.5
を満足するものである。本発明においては、結晶化度相関パラメーターが0.5以上となるような成形体(ポリエチレンテレフタレートにおいて非晶部分が一定以上存在し)、かつガラス転移温度が70℃以上の(即ち、ある程度の結晶配向化しているような)ポリエチレンテレフタレート樹脂成形体とすることにより、優れた分解効率を実現したものである。この理由は定かではないが、以下のように考えられる。
【0013】
即ち、半結晶性ポリマーとして知られるポリエチレンテレフタレートは、固体状態において結晶化した部分と非晶部分とが存在することが知られているが、加水分解効率の観点からは、結晶化の程度は低い方が好ましい。一方、結晶化度が低い樹脂成形体を得ようとすると、成形物の表面積を大きくすることに限界がある。そこで、ガラス転移温度が一定値以上となるような成形体(即ち、ある程度の延伸加工された成形体)とすることにより表面積と結晶化度とをバランスさせて、加水分解効率を最大化できたものと考えられる。
【0014】
ポリエチレンテレフタレート(以下、単にPETともいう)は、溶融状態から急冷することでほぼ非晶性のPET樹脂が得られることが知られており、このような非晶性PET樹脂のガラス転移温度は約68℃である。また、PETは延伸処理等により配向結晶化し結晶化度が増加することも知られており、延伸されたPETフィルムではガラス転移温度が78℃程度まで増加することも知られている。本発明においては、ガラス転移温度が70℃以上となるような成形体としたものである。表面積を向上させて分解効率を改善する観点からは、ガラス転移温度は73℃以上であることが好ましい。
【0015】
なお、本発明において、ガラス転移温度は、温度変調示差走査熱量計(DSC)を用い、下記条件にて測定した融解吸熱曲線から、曲線の屈曲点として得られる補外ガラス転移開始温度を意味するものとする。なお、ガラス転移温度が70℃以上の成形体を得る方法については、後述する。
【0016】
<測定条件>
・雰囲気:窒素雰囲気
・測定温度域:0~150℃
・昇温速度:3℃/分
・温度変調モード:±0.48℃/60秒(ヒートオンリーモード)
・試料重量:3mg
【0017】
また、本発明の成形体は、その結晶化度相関パラメーターが0.5以上である。結晶化度相関パラメーターが高い方が、PETの加水分解が促進され、分解効率が向上する好ましい範囲は、0.5~0.7である。結晶化度相関パラメーターが高い方が加水分解効率の観点からは好ましいと言えるが、結晶化度相関パラメーターが高すぎると上記した70℃以上のガラス転移温度を有する成形体が得られ難くなる。
【0018】
なお、本発明において、結晶化度相関パラメーターは、上記と同様にして温度変調示差走査熱量計を用いて測定した融解吸熱曲線から得られる昇温時結晶化エンタルピー(ΔHTc1)および結晶融解エンタルピー(ΔHTm)の値を用いて下記式から算出した値をいうものとする。この値は密度勾配法などにより測定される結晶化度とは負の相関関係にある。
結晶化度相関パラメーター(X)=ΔHTc1/ΔHTm
【0019】
本発明の成形体は、PETの加水分解効率の観点から、フィルム形態であることが好ましい。フィルム状成形体である場合、その厚さは10~350μmであることが好ましく、50~200μmであることがより好ましい。比表面積の観点からは、フィルムの厚さは小さい方が好ましいと言えるが、厚さの小さいフィルムを効率的に得るためには、フィルム性膜時にドラフト比を高くするか、製膜後に延伸処理が必要になり、ΔHTc1/ΔHTmが0.5以上の成形体を得ることが難しくなる。
【0020】
また、成形体がフィルム形態である場合において、PETの加水分解効率の観点から、その比表面積は7600~160000mm/gであることが好ましく、7600~31000mm/gであることがより好ましい。成形体の比表面積が大きいほどPETの加水分解は促進されるものと考えられるが、比表面積の大きい成形体を得るためには、フィルム製膜時にドラフト比を高くするか、製膜後に延伸処理が必要になり、ΔHTc1/ΔHTmが0.5以上の成形体を得ることが難しくなる。
【0021】
また、PETの固有粘度(IV)は1.4以下であることが好ましい。固有粘度が小さい方が分子量が小さく、より短時間でモノマーないしオリゴマーレベルまで解重合反応を進めることが可能である。その一方、固有粘度が小さすぎると、PETを溶融状態から冷却して成形体にする際に、成形が困難となる場合がある。また、PETの固有粘度が小さすぎると、溶融成形した際に結晶化が進みやすく、得られる成形体の結晶化度相関パラメーターが0.5未満になってしまう場合がある。
【0022】
成形体を構成するPETは、主構成モノマーとしてエチレングリコールとテレフタル酸の2成分を重縮合することにより得られるものであるが、これら2成分の他にジオール成分またはジカルボン酸成分として、他のモノマーが共重合されているものであってもよい。
【0023】
PETの共重合成分として、ジカルボン酸成分では、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸およびエチルマロン酸、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9’-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレン酸、2,5-フランジカルボン酸およびこれらのエステル誘導体等が挙げられる。
【0024】
PETの共重合成分として、ジオール成分では、例えば、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、デカヒドロナフタレンジメタノール、デカヒドロナフタレンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、テトラシクロドデカンジメタノール、テトラシクロドデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノール、5-メチロール-5-エチル-2-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-1,3-ジオキサン、シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル-4,4’-ジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシルプロパン)、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3-メチル-1,2-シクロペンタジオール、4-シクロペンテン-1,3-ジオール、アダマンジオール、パラキシレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、スチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、およびビス-β-ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)等が挙げられる。
【0025】
本発明の成形体はPET樹脂により構成されるものであるが、PET以外の樹脂成分が含まれていてもよいし、添加剤等のその他の成分が含まれていてもよい。例えば、成形体を製造するための材料としての成形体を得る際の成形性を損なわず、またPETの化学分解を阻害しない範囲で、可塑剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、着色剤、顔料、充填材、離型剤、帯電防止剤、香料、発泡剤、抗菌・抗カビ剤等の各種添加剤を1種または2種以上配合してもよい。
【0026】
<成形体の製造方法>
本発明の成形体は、PET樹脂を押出機に供給して265℃~295℃の温度で溶融させ、フィルターやギヤポンプを通じて、異物の除去、押出量の均整化を行い、Tダイより溶融樹脂をキャスティングドラムや冷却ドラム上に吐出して、樹脂を冷却することにより得ることができる。
【0027】
ガラス転移温度が70℃以上の成形体を得るために、製膜する際に、ドラフト比が5~60の範囲となるようにキャスティングドラムで溶融樹脂を引き取ることが好ましい。ドラフト比は、引取速度(V)/吐出出口速度(V)で表され、ドラフト比が大きいほど配向結晶化が進むため、得られる成形体のガラス転移温度が高くなる。なお、吐出出口速度(V)は、下記式にて表される。
吐出出口速度(V)=吐出量(W)/密度(ρ)/吐出口の断面積(S)
【0028】
得られた成形体は、その後必要に応じて延伸処理が施されてもよい。例えば、製膜時のドラフト比が小さい場合に、製膜後の延伸処理により、得られる成形体のガラス転移温度が70℃以上、かつ結晶化度相関パラメーターが0.5以上となるように延伸条件を調整することができる。
【0029】
延伸処理は、一軸延伸でもよいし二軸延伸でもよい。例えば、生産性や平面性の観点から、長手方向-幅方向-長手方向に逐次二軸延伸処理することができる。なお、延伸処理の際の延伸倍率は、上記したドラフト比との関係で調整されるが、一般的に、延伸倍率が高いほど配向結晶化が進行するため、ガラス転移温度が増加し、結晶化度相関パラメーターは低下する。
【0030】
また、ケミカルリサイクルを考慮すると、成形物を得る際に使用するPET樹脂は、リサイクル材であることが好ましい。リサイクル材は石油由来のPET樹脂であっても、植物由来のPET樹脂であってもよく、その混合物であってもよい。なお、植物由来のPET樹脂としては、バイオエタノールから誘導されたジエンチレングリコールをジオール成分として用いたPET樹脂等が挙げられる。例えば、回収した使用済みPETボトル製品を選別・粉砕・洗浄し、汚染物質や異物を除去してフレークとしたものを好適に使用することができる。なお、PETボトルは、IV値が0.8程度のPET樹脂を使用して製造されることが一般的であるが、使用済みPETボトルから得られたフレークをPET樹脂原料とした場合、再溶融して得られる成形体は、溶融成形時にPETの加水分解が生じてもとのPETのIV値よりも低くなることが知られている。そのため、このようなリサイクル材を成形体製造のための原料として用いることにより、好ましい固有粘度(IV=1.4以下)を有する成形体を製造することができ、結果として、分解効率がより一層優れる成形体となる。
【0031】
<リサイクル方法>
本発明においては、上記したような成形体を用いることにより、効率的にPET樹脂製品のリサイクルが可能となる。例えば、使用済みのPET樹脂製品から上記のようにして成形体を製造し、得られた成形体を、従来公知の方法によって化学分解することにより、使用済みのPET樹脂製品から、PETを構成していたモノマーないしオリゴマーを得ることができる。得られたモノマーないしオリゴマーを重合することで、使用済みのPET樹脂製品から、再びPET樹脂製品を製造することができる。
【0032】
PET樹脂製品のケミカルリサイクルの一例として、使用済みPETボトルを粉砕したフレークを再溶融して本発明の成形体を製造し、メタノールやエチレングリコール等の溶媒、あるいは酵素を含む媒体に浸漬することにより、ポリエチレンテレフタレートが解重合して、テレフタル酸を得ることができる。
【0033】
PETの加水分解は、例えば、成形体と、分解酵素を発現し排出できる微生物と、水等とを含む原料組成物を用いて行うことができる。原料組成物にはpHを安定化させるために、緩衝剤を添加してもよい。原料組成物のpHは、酵素の活性の観点から5~11であることが好ましい。
【0034】
解重合処理の時間は、1~24時間であることが好ましく、4~16時間であることがより好ましい。
【0035】
回収された有効成分からモノマーを単離するためには、モノマーが溶解する有機溶媒でモノマー(テレフタル酸)を抽出し、抽出したモノマー溶液から蒸留、晶析等によりポリエステルを構成するモノマーを単離してもよいし、そのまま晶析または蒸留を行ってもよい。またモノマー溶液をイオン交換処理などして、抽出、蒸留、晶析等を行ってもよい。
【0036】
上記ケミカルリサイクルにおいて、メタノールやエチレングリコール等の溶媒を使用して解重合を行うよりも、酵素を含む媒体を使用した方が溶媒の回収設備等が不要になるため、より効率的にかつ安価にケミカルリサイクルを行うことができる。
【実施例0037】
次に実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0038】
<成形体の製造>
使用済みPETボトルを粉砕・洗浄し、汚染物質や異物を除去してフレークとした。フレークを押出機を用いて再溶融を行いペレット状に加工した。
得られたペレットを押出機に供給し、吐出量と引取速度を変えて溶融樹脂を20℃に調整されたキャスティングドラム上に押し出して製膜するキャスト法、および当該キャスト法により得られたフィルムをさらに100℃に加熱して同時二軸等倍延伸加工を行う同時延伸法の2種の製膜方法により、実施例1~6および比較例1~4の10種の成形体を得た。得られた各成形体の厚みは下記の表1に示すとおりであった。
【0039】
得られた各成形物のIV値の測定は、相対粘度計(マルバーン・パナリティカル社製、Viscotec Y501C)を用いて、25℃に温度調整して実施した。サンプルはフェノール:テトラクロロエタン=1:1溶媒で溶解させた溶液とした。測定の結果、各成形物のIV値は、0.75であった。
また、各成形物の重量平均分子量を、高速GPC装置(東ソー株式会社製、HLC―8320GPC)を用いて測定した。サンプルは1,1,1,3,3,3,-ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)で溶解させた溶液を用いた。移動相にはクロロホルムを使用し、カラムは東ソー株式会社製のTSKgel SuperHM-Hカラムを用い、40℃にて測定した。分子量の標準としては東ソー株式会社製のTSKgel標準ポリスチレンを用いた。測定の結果、各成形物の重量平均分子量は、45000であった。
【0040】
<結晶化度相関パラメーターの測定>
各成形物について、温度変調示差走査熱量計(TAインスツルメント株式会社製、DSC2500)を用いて、アルミパン(TAインスツルメント株式会社製、TZeroアルミパン)内に約3mgを封入し測定に供した。測定条件は、昇温速度3℃/分、温度変調条件は、ヒートオンリーモードで±0.48℃/60秒の条件とした。データ解析には、TAインスツルメント製解析ソフト「TRIOS」を使用した。
温度変調昇温測定から得られたトータルヒートフロープロファイルより、結晶化エンタルピー(ΔHTc1)および結晶融解エンタルピー(ΔHTm)を算出した。なお、計算範囲については、ΔHTc1はピーク形状に応じて145℃以下の範囲で適宜設定し、ΔHTmは210~270℃に固定とした。
得られたΔHTc1およびΔHTmから下記式により結晶化度相関パラメーター(X)を算出した。
結晶化度相関パラメーター(X)=ΔHTc1/ΔHTm
得られた各成形体の結晶化度相関パラメーター(X)は、下記の表1に示すとおりであった。
【0041】
<ガラス転移温度の測定>
各成形物について、上記と同様にして温度変調昇温測定から得られたリバーシングヒートフロープロファイルを得て、得られたプロファイル曲線の屈曲点として得られる補外ガラス転移開始温度をガラス転移温度(Tg)とした。より具体的には、上記解析ソフトを用い、計算範囲については、60℃を分析開始温度とし、プロファイル形状に応じた分析終了温度を設定し、TgOnset解析を実施することにより算出した。
得られた各成形体のガラス転移温度(Tg)は、下記の表1に示すとおりであった。
【0042】
<成形物の加水分解>
得られた各成形物を直径14mmの円盤状に切り出して試料とし、各試料を酵素を含む緩衝液に24時間浸漬し、PETの加水分解を行った。酵素を含む緩衝液に浸漬前の成形物の総重量(W)と、浸漬後の成形物を乾燥させた後の総重量(Wa)とから、下記式により分解効率(D)を算出しした。
分解効率(D)=(W-W)/W×100
【0043】
実施例1~5および比較例1~4の各成形物のガラス転移温度と分解効率との関係は、図1に示すとおりであった。また、各成形物の結晶化度相関パラメーターと分解効率との関係は、図2に示すとおりであった。
【0044】
【表1】
【0045】
図1および図2、並びに表1の評価結果からも明らかなように、ガラス転移温度が70℃以上で、かつ結晶化度相関パラメーターが0.5以上である成形体(実施例1~6)は、優れたPET分解効率を有していることがわかる。
一方、結晶化度相関パラメーターが0.5以上であっても、ドラフト比が小さくガラス転移温度が70℃未満の成形体(比較例1)は、実施例1~6の成形体と比較してPET分解効率が低いことがわかる。
また、ガラス転移温度が70℃以上であっても、結晶化度相関パラメーターが0.5未満であるような成形体(比較例2~4)は、実施例1~6の成形体と比較してPET分解効率が低いことがわかる。
図1
図2