(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175449
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】被服用生地、及びそれを含む被服
(51)【国際特許分類】
D04B 21/14 20060101AFI20231205BHJP
D04B 21/12 20060101ALI20231205BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20231205BHJP
A41D 31/12 20190101ALI20231205BHJP
A41D 31/14 20190101ALI20231205BHJP
A41D 13/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
D04B21/14 Z
D04B21/12
A41D31/00 502D
A41D31/00 502C
A41D31/12
A41D31/14
A41D13/00 115
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087890
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田島 和弥
(72)【発明者】
【氏名】白石 篤史
(72)【発明者】
【氏名】坂口 達雄
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 大樹
【テーマコード(参考)】
3B011
3B211
4L002
【Fターム(参考)】
3B011AB11
3B011AC01
3B011AC18
3B211AB11
3B211AC01
3B211AC18
4L002AA07
4L002AB02
4L002AC00
4L002AC07
4L002CB01
4L002CB02
4L002DA00
4L002EA00
4L002EA02
4L002EA03
4L002FA02
4L002FA03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】大量発汗状態において、生地を通過して被服内に取り込まれる空気を湿潤冷却することで、着用快適性を向上させた被服用生地及びそれを含む被服を提供する。
【解決手段】本発明の被服用生地1は、表面層2、裏面層3、及び中間層4を含み、中間層4は、表面層2と裏面層3を連結する連結糸5が存在する連結部及び連結糸が存在しない空間部で構成されており、表面層2の厚み方向に貫通した表面貫通孔6と裏面層の厚み方向に貫通した裏面貫通孔7及び中間層の空間部が、生地の厚み方向に貫通した生地貫通孔を8を形成しており、表面層2、裏面層3及び中間層の連結糸5の一部には疎水性繊維糸及び撥水性繊維糸からなる群から選ばれる一つ以上の繊維糸(I)が配置され、他の部分には親水性繊維糸(II)が配置されており、生地単位面積あたりに換算した、貫通孔を通過する空気が親水性繊維糸(II)と接する面積の割合が20%以上である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層、裏面層、及び中間層を含む被服用生地であって、
前記中間層は、前記表面層と前記裏面層を連結する連結糸が存在する連結部と、前記連結糸が存在しない空間部で構成されており、
前記表面層は、厚み方向に貫通した表面貫通孔を有し、前記裏面層は、厚み方向に貫通した裏面貫通孔を有し、
前記表面貫通孔、前記裏面貫通孔、及び前記空間部は、生地の厚み方向に貫通した三次元構造の生地貫通孔を形成しており、
前記表面層、前記裏面層及び前記中間層の連結糸の一部には疎水性繊維糸及び撥水性繊維糸からなる群から選ばれる一つ以上の繊維糸(I)が配置され、他の部分には親水性繊維糸(II)が配置されており、
生地の単位面積あたりに換算した、生地貫通孔を通過する空気が親水性繊維糸(II)と接する面積の割合が20%以上である、被服用生地。
【請求項2】
前記表面貫通孔の位置と前記裏面貫通孔の位置は、厚み方向に直交する方向においてずれている、請求項1に記載の被服用生地。
【請求項3】
10秒間吸水させ、地面に対して垂直方向に30秒間吊り下げた後の保水量が450g/m2以上である、請求項1又は2に記載の被服用生地。
【請求項4】
前記繊維糸(I)及び前記親水性繊維糸(II)の合計を100重量部とした場合、繊維糸(I):親水性繊維糸(II)の重量割合が、I:II=20:80~1:99である、請求項1~3のいずれかに記載の被服用生地。
【請求項5】
前記被服用生地において、JIS L 1907 A法(滴下法)に準じて測定した吸水時間が180秒以下である、請求項1~4のいずれかに記載の被服用生地。
【請求項6】
厚みが0.8~2.0mmである、請求項1~5のいずれかに記載の被服用生地。
【請求項7】
前記被服用生地の生地重量100%に対し、450%以上の水分を湿潤させた状態で、地面に対して垂直方向に吊り下げた際、前記生地貫通孔は空隙を維持する、請求項1~6のいずれかに記載の被服用生地。
【請求項8】
編物である、請求項1~7のいずれかに記載の被服用生地。
【請求項9】
前記編物は、ダブルラッセルである、請求項8に記載の被服用生地。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の被服用生地を含む、被服。
【請求項11】
前記被服は、スポーツ用被服である、請求項10に記載の被服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大量発汗状態における着用快適性が向上した被服用生地、及びそれを含む被服に関する。
【背景技術】
【0002】
暑い季節や運動時に大量の発汗をすると、べたつき感や濡れ感といった不快感が生じる。そこで、大量発汗時における着用快適性向上のために、衣料用生地の吸汗速乾性や湿潤状態の通気性を向上させること等が行われている。例えば、特許文献1には、常圧カチオン可染ポリエステル繊維を少なくとも肌側となる面の一部または全部に使用したポリエステル系合成繊維で構成され、且つ、吸水処理がなされた編物であり、吸水率100重量%時において、風速2m/sec下で送風側とは反対側で、編物から10mmの風下位置での温度が外気温度より4.0℃以上低下する編物が記載されている。特許文献2には、外周部に1個以上の凸部を有し、捲縮率が実質的に0%であり、扁平断面形状の合成繊維が肌側面に配されている気化熱冷却生地が記載されている。特許文献3には、貫通孔を有し、貫通孔に接する部分の少なくとも一部には撥水または疎水領域が配置され、他の部分には親水領域が配置され、生地重量100%に対して、300%水分を湿潤させた状態で、貫通孔が垂直方向になるように吊り下げたとき、貫通孔が空隙を維持する生地が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-124459号公報
【特許文献2】特開2019-81981号公報
【特許文献3】特許第6404507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の生地は、汗の気化による気化熱冷却効果を有するものの、大量発汗時の通気性が低く、大量発汗時に外気が生地を通過することが困難である。特許文献3に記載の生地は、大量発汗時の通気性は高いものの、汗を吸収する量が大きくないために気化冷却性能が劣る場合がある。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、大量発汗状態において、生地を通過して被服内に取り込まれる空気を湿潤冷却することで、着用快適性を向上させた被服用生地及びそれを含む被服を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、表面層、裏面層、及び中間層を含む被服用生地であって、前記中間層は、前記表面層と前記裏面層を連結する連結糸が存在する連結部と、前記連結糸が存在しない空間部で構成されており、前記表面層は、厚み方向に貫通した表面貫通孔を有し、前記裏面層は、厚み方向に貫通した裏面貫通孔を有し、前記表面貫通孔、前記裏面貫通孔、及び前記空間部は、生地の厚み方向に貫通した三次元構造の生地貫通孔を形成しており、前記表面層、前記裏面層及び前記中間層の連結糸の一部には疎水性繊維糸及び撥水性繊維糸からなる群から選ばれる一つ以上の繊維糸(I)が配置され、他の部分には親水性繊維糸(II)が配置されており、生地の単位面積当たりに換算した、生地貫通孔を通過する空気が親水性繊維糸(II)と接する面積の割合が20%以上である、被服用生地に関する。
【0007】
本発明は、また、前記被服用生地を含む被服に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、大量発汗状態において、生地を通過して被服内に取り込まれる空気を湿潤冷却することで、着用快適性を向上させた被服用生地及びそれを含む被服を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態の被服用生地の模式的平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態の被服用生地の模式的裏面図である。
【
図3】本発明の一実施形態の被服用生地の模式的断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態の被服用生地の模式的断面図である。
【
図5】三次元構造の生地貫通孔の模式的断面図である。
【
図6】二次元構造の生地貫通孔の模式的断面図である。
【
図7】三次元構造の生地貫通孔を通過する空気が生地貫通孔の周囲の繊維糸と接する面積を説明する模式的断面図である。
【
図8】二次元構造の生地貫通孔を通過する空気が生地貫通孔の周囲の繊維糸と接する面積を説明する模式的断面図である。
【
図9】生地貫通孔を通過する空気が生地貫通孔の周囲の親水性繊維糸と接する面積についての模式的説明図である。
【
図10】生地の冷却効果を評価する評価装置の模式的説明図である。
【
図11】実施例1の編地の平面写真(倍率20倍)である。
【
図12】実施例1の編地の裏面写真(倍率20倍)である。
【
図13】実施例2の編地の平面写真(倍率20倍)である。
【
図14】実施例2の編地の裏面写真(倍率20倍)である。
【
図15】比較例1の編地の平面写真(倍率20倍)である。
【
図16】比較例1の編地の裏面写真(倍率20倍)である。
【
図17】比較例2の編地の平面写真(倍率20倍)である。
【
図18】比較例2の編地の裏面写真(倍率20倍)である。
【
図19】比較例3の編地の平面写真(倍率20倍)である。
【
図20】比較例3の編地の裏面写真(倍率20倍)である。
【
図21】比較例4の編地の平面写真(倍率20倍)である。
【
図22】比較例4の編地の裏面写真(倍率20倍)である。
【
図23】比較例5の編地の平面写真(倍率20倍)である。
【
図24】比較例5の編地の裏面写真(倍率20倍)である。
【
図25】実施例1の編地の断面写真(倍率20倍)である。
【
図26】比較例2の編地の断面写真(倍率20倍)である。
【
図27】マイクロウォッチャーにて生地貫通孔を通過する空気が生地貫通孔の周囲の親水性繊維糸と接する面積を計測する様子を示す写真(上部写真倍率30倍;下部拡大写真150倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の発明者らは、大量発汗状態において、被服内に取り込まれた空気の冷却性能を高めることについて検討を重ねた。その結果、(1)生地を表面層、裏面層、及び前記表面層と前記裏面層を連結する連結糸が存在する連結部及び該連結糸が存在しない空間部で構成された中間層の三層構造にするとともに、表面貫通孔、裏面貫通孔及び空間部にて、生地の厚み方向に貫通した三次元構造の生地貫通孔を形成すること、及び(2)表面層、裏面層及び中間層の連結糸の一部に疎水性繊維糸及び撥水性繊維糸からなる群から選ばれる一つ以上の繊維糸(I)を配置し、表面層、裏面層及び中間層の連結糸の他の部分には親水性繊維糸(II)を配置し、生地の単位面積当たりに換算した、生地貫通孔を通過する空気が生地貫通孔の周囲の親水性繊維糸(II)と接する面積を所定の範囲にすることで、大量発汗状態において、生地の通気性が保たれるとともに、生地を通過する空気が生地に吸収された汗水分と接する面積が増加し、被服内に取り込まれる空気を湿潤冷却する性能が向上し得ることを見出した。
【0011】
具体的には、本発明の1以上の実施形態の生地を用いた衣服の場合、運動時の大量発汗により生地(衣服)が湿潤状態の時、衣服外の空気(外気)が生地を通して衣服内へ取り込まれると、空気の温度を低下させることできる。原理としては、生地に吸収された汗水分が、運動時に生地を通して衣服外(外部環境)から衣服内に取り込まれる空気と接触することで気化される。その際に衣服外から取り込まれた空気は熱を奪われて涼しくなる。その涼しくなった空気が衣服内に循環し、衣服内の空気の温度が低下することで、身体表面上の熱が衣服内環境へ放熱される作用が向上し、クーリング効果を向上させることができ、大量発汗時の着用快適性に優れる。
気化熱を最大限有効活用し、冷却効果を高めるために、生地を通過する空気が汗水分と接する量を増やすことが必要である。よって、衣服外から空気を衣服内に取り込む際の通気口として役割を果たす生地貫通孔により多くの汗水分を保持する事が必要になってくる。生地貫通孔に水の膜が発生すると空気を取り込むことができなくなるため、水の膜の発生を抑制するために生地貫通孔の周囲に疎水及び/又は撥水領域を配置しつつ、極力、生地貫通孔の周囲における親水領域の面積を増やすことで、衣服内に取り込まれる空気が親水領域に吸収された汗水分に接する面積が増加し、冷却効果を高めること、例えば、生地から5cm以上離れた位置でも2℃以上の冷却効果を実現することが可能になる。生地の表面層と裏面層の間に空間部を設けながら、表面層貫通孔と裏面層貫通孔を連結させて三次元構造の生地貫通孔を形成することで、空気が通過する範囲を確保するとともに、生地貫通孔の周囲に親水性繊維糸を配置することで、生地を通過する空気が汗水分と接する量を増やすことで、大量発汗時の冷却効果を高めることができる。
【0012】
表面層、裏面層及び中間層の連結糸の一部に疎水性繊維糸及び撥水性繊維糸からなる群から選ばれる一つ以上の繊維糸(I)が配置される。このように、被服用生地が疎水性繊維糸及び撥水性繊維糸からなる群から選ばれる一つ以上の繊維糸(I)を含み、生地貫通孔の周囲の少なくとも一部等の被服用生地の少なくとも一部に繊維糸(I)が配置されていることにより、生地における水分が移動しやすくなるともに、湿潤状態において、被服用生地を地面に対して垂直方向に吊り下げても、生地貫通孔を維持しやすくなり、通気性が保たれる。
【0013】
繊維糸(I)は、紡績糸、マルチフィラメント糸、マルチフィラメント糸を加工した捲縮糸等いかなるものも使用できる。疎水性繊維糸としては、例えば、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、及びポリエステル繊維等の疎水性繊維で構成された繊維糸等が挙げられる。撥水性繊維糸としては、有機繊維糸を撥水加工した撥水加工糸等が挙げられ、有機繊維糸としては、天然繊維及び/又は合成繊維を含む繊維糸が挙げられ、速乾性の観点から、疎水性繊維を含む繊維糸を撥水加工した撥水加工糸が好ましい。繊維糸(I)は、具体的には、ポリプロピレン繊維糸、ポリエステル(PET等)撥水加工糸、アクリル系撥水加工糸、ナイロン撥水加工糸、アセテート撥水加工糸及びエチレンビニルアルコール撥水加工糸から選ばれる少なくとも一つであることが好ましい。撥水加工糸は、繊維又は糸の状態で撥水加工されたものでもよく、生地の状態で撥水加工されたものでもよい。
【0014】
撥水加工は、特に限定されないが、以下のように行うことができる。例えば、糸条をチーズ形状に巻き返し撥水加工剤へ浸漬後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法;撥水加工剤の付与設備を設置した仮撚加工機や撚糸機を用い、繰り返し、これらの機上で糸条に撥水加工剤を付与した後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法;原糸製造段階の紡糸・延伸機上に撥水加工剤の付与設備を設け、これらの機上で糸条に撥水加工剤を付与した後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法等がある。
【0015】
前記撥水加工剤としては、シリコーン系撥水剤、フッ素系撥水剤等、通常の合成繊維の撥水剤として使用されるものを用いればよく、特に限定されない。中でも、耐久性の観点から、フッ素系撥水剤が好ましい。また、耐久性の観点から、前記撥水剤に、アミノプラスト樹脂、多官能ブロックイソシアネート基含有ウレタン樹脂、エチレンカーボネート等を添加してもよい。
【0016】
表面層、裏面層及び中間層の連結糸の他の部分には親水性繊維糸(II)が配置される。被服用生地が親水性繊維糸(II)を含むことにより、体表面から排出される汗を吸収することができる。また、生地貫通孔の周囲の少なくとも一部に親水性繊維糸(II)が配置され、親水領域を形成することで、湿潤状態において、貫通孔を通過する空気が生地の親水領域に吸収された汗水分と接することができ、空気を湿潤冷却することができる。
【0017】
親水性繊維糸(II)は、紡績糸、マルチフィラメント糸、マルチフィラメント糸を加工した捲縮糸等いかなるものも使用できる。親水性繊維糸としては、特に限定されないが、コットン、レーヨン、アセテート、トリアセテート等のセルロース繊維紡績糸、ナイロン繊維糸、これらの繊維とポリエステル繊維との混紡糸、これらの繊維とポリエステル(PET等)のマルチフィラメント糸との複合紡績糸(精紡交撚糸を含む)、ポリエステル繊維糸を親水化処理したポリエステル親水加工糸、アクリル系繊維糸を親水化処理したアクリル系親水加工糸、ポリウレタン繊維糸を親水化処理したポリウレタン親水加工糸等が挙げられる。親水加工糸は、親水化された樹脂を用いたものでもよく、繊維又は糸の状態で親水化処理されたものでもよく、生地の状態で親水化処理されたものでもよい。繊維糸(II)としては、一つの親水性繊維糸を単独で用いてもよく、二つ以上の親水性繊維糸を併用してもよい。
【0018】
繊維糸又は生地の親水化処理は、特に限定されないが、以下のように行うことができる。例えば、生地を染色加工工程における染色と同時の浴中で親水加工した後、又は、染色後、親水性物質が入った浴槽に生地を浸漬後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法;糸条をチーズ形状に巻き返し親水性物質で浸漬後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法;親水性物質の付与設備を設置した仮撚加工機や撚糸機を用い、繰り返し、これらの機上で糸条に親水性物質を付与した後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法;原糸製造段階の紡糸・延伸機上に親水性物質の付与設備を設け、これらの機上で糸条に親水性物質を付与した後、ドライ・キュアにより架橋反応させる方法等がある。繊維糸(I)と繊維糸(II)が編み込まれた生地を染色加工工程における染色と同時の浴中で親水加工した場合、繊維糸(I)は疎水性及び撥水性を維持しながら、繊維糸(II)のみ親水化させることができる。
【0019】
前記親水性物質としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル繊維の親水化処理に用いる場合は、ポリエステル系繊維と親和性のある吸水剤であるポリエチレングリコール、テレフタル酸及びポリエチレングリコールをブロック重合して得られるブロック共重合体等を用いることができる。
【0020】
前記被服用生地は、繊維糸(I)及び親水性繊維糸(II)の合計量を100重量部とした場合、繊維糸(I)と親水性繊維糸(II)の重量割合は、(I):(II)=1:99~30:70であることが好ましく、4:96~25:75であることがより好ましく、5:95~20:80であることがさらに好ましい。繊維糸(I)と繊維糸(II)の重量割合が上述した範囲内であると、汗を吸収して保持しやすいとともに、湿潤時に貫通孔の空隙を維持することができる。
【0021】
前記被服用生地は、表面貫通孔を有する表面層、裏面貫通孔を有する裏面層、及び前記表面層と前記裏面層を連結する連結糸が存在する連結部及び連結糸が存在しない空間部で構成された中間層の三層構造を有し、前記表面貫通孔、前記裏面貫通孔及び前記空間部が三次元の生地貫通孔を形成している。このように、生地貫通孔が生地の表面層と裏面層の間に形成された空間部を含むことで、生地貫通孔を通過する空気と親水性繊維糸(II)が接する面積が増加し、生地貫通孔を通過する空気と生地が吸収した汗水分の接触効率が高まり、空気の湿潤冷却効果が向上する。
また、前記中間層において、連結糸を複数本使用することが好ましい。複数本使用することで、生地の形態安定性を向上させる連結部と、湿潤冷却効果を向上させる空間部をより効率的に形成することができる。表面貫通孔及び裏面貫通孔と厚み方向において同じ位置に配置されない連結糸は、表面層と裏面層を連結する箇所をニットで連続的に形成することで、生地として形態安定性を向上することができる。表面貫通孔と裏面貫通孔と厚み方向において同じ位置に配置される連結糸は、ニットで形成される表面層と裏面層が連結する箇所の間に、意図的に糸をとばす(例えば、ミスやタック等により)ことで、空間部を形成することが可能になる。このように、連結糸を複数本使用することで、連結部および空間部の両方を効率よく形成することができ、生地としての形態安定性と空気の湿潤冷却効果を効果的に実現することが可能になる。
【0022】
前記被服用生地は、生地の表面層と裏面層の間に中間層による空間部が形成され、三次元の貫通孔を形成することができるものであればよいが、通気性の観点から編物であることが好ましく、ダブルラッセルであることが特に好ましい。空気が通過する生地貫通孔の厚み方向の断面積を増加しやすい観点から、ダブルラッセルの中でも、編み条件において釜間の距離をもたすことで生地を厚くしたものがさらに好ましい。また、表面貫通孔と裏面貫通孔を厚み方向に直交する方向においてずらして配置することが好ましい。表面貫通孔と裏面貫通孔が厚み方向に直交する方向においてずれていることで、生地厚みが同じの場合、表面貫通孔と裏面貫通孔をずらさずに配置したものに比べ、三次元の貫通孔の厚み方向の断面の長さが増加することになり、該長さ成分の増加に伴い貫通孔断面積が増加し、冷却効果を高めることにつながる。加えて、透け感を抑制することで、被服用としての用途の幅も広げることができる。
【0023】
前記被服用生地は、貫通孔断面の表面積を増やし、汗を吸収して保持しやすい観点から、厚みが0.80mm以上であることが好ましく、0.85mm以上であることがより好ましく、0.90m以上であることがさらにより好ましく、0.95mm以上であることが特に好ましい。また、前記被服用生地は、暑熱環境下の着用において必要な清涼感の観点から、厚みが2.00mm以下であることが好ましく、より好ましくは1.95mm以下であり、さらに好ましくは1.90mm以下である。
【0024】
本願明細書において、貫通孔とは、タテ長さ(生地のタテ方向に平行するように孔の外周の任意の二点の結んだ線分の最大値)が0.3mm以上であり、かつ、ヨコ長さ(生地のヨコ方向に平行するように孔の外周の任意の二点の結んだ線分の最大値)が0.3mm以上であることを意味する。表面貫通孔、裏面貫通孔及び生地貫通孔のいずれも、タテ長さ及びヨコ長さが0.3mm以上である。
【0025】
被服用生地の単位面積当たりに換算した、生地貫通孔を通過する空気が親水性繊維糸(II)と接する面積の割合(以下において、単位面積当たりの空気が接する親水領域の比率とも記す)が20%以上である。三次元構造の生地貫通孔を設けることで空気が通過する範囲を確保することができ、生地貫通孔を通過する空気が親水性繊維糸(II)と接することで、生地を通過する空気が汗水分と接する量を増やすことができ、冷却効果を高めることができる。特に、単位面積当たりの空気が接する親水領域の比率が20%以上であると、生地を通過する空気と生地に吸収された汗水分が接する表面積が増加し、空気の湿潤冷却が効果的に行われ、冷却効果が向上する。単位面積当たりの空気が接する親水領域の比率は、25%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらにより好ましく、35%以上であることがさらにより好ましく、40%以上であることがさらにより好ましく、45%以上であることが特に好ましい。湿潤時の貫通孔の空隙を維持しつつ、単位面積当たりの空気が接する親水領域の比率を極力高めることで、衣服内に取り込まれる空気が水分に接する面積を増やすことができ、冷却効果を高めることが可能になり、2℃以上の冷却効果を実現することが可能になる。また、湿潤時の貫通孔の空隙を維持する観点から、単位面積当たりの空気が接する親水領域の比率が99%以下であることが好ましい。単位面積当たりの空気が接する親水領域の比率の比率は、実施例に記載のとおりに測定することができる。
【0026】
前記被服用生地の開口率は、5%以上65%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以上60%以下であり、さらに好ましくは15%以上55%以下である。本明細書において、「生地の開口率」は、生地面積に対する貫通孔の面積の割合を意味する。生地の開口率は、実施例に記載のとおりに測定することができる。
【0027】
前記被服用生地において、生地貫通孔は、被服用生地の生地重量100%に対して、450%以上(例えば、470%)の水分を湿潤させた、すなわち吸水率が450%以上(例えば470%)の状態で、生地貫通孔が垂直方向となるように生地を吊り下げたとき、生地貫通孔は空隙を維持することが好ましい。これにより、湿潤状態、特に大量発汗時の通気性を保つことができる。前記生地貫通孔は、生地のタテ、ヨコ、斜めのいずれか一方向又は二方向以上の多方向に配列してもよい。生地貫通孔の周囲の一部には繊維糸(I)が配置され、他の部分には親水性繊維糸(II)が配置されている好ましい。この構造により、繊維糸(I)により水分が移動しやすい状態になり、湿潤状態、特に大量発汗時に生地貫通孔の空隙を維持しつつ、親水性繊維糸(II)が吸収した大量の汗水分を生地貫通孔が保持し、生地貫通孔を通過する空気と親水性繊維糸(II)が吸収した汗水分が接しやすくなり、空気の湿潤冷却が効果的に行われる。裏面貫通孔、表面貫通孔、及び生地貫通孔のいずれも、平面形状は、丸、楕円、四角、ひし形、三角、多角形、不定形のどのような形状でもよい。
【0028】
前記被服用生地は、被服用生地を10秒間吸水させ、地面に対して垂直方向に30秒間吊り下げた後の保水量が450g/m2以上であることが好ましく、より好ましくは500g/m2以上であり、さらに好ましくは550g/m2以上である。「被服用生地を10秒間吸水させ、地面に対して垂直方向に30秒間吊り下げた後の保水量」は、被服用生地の飽和保水量に相当するものである。生地貫通孔を通過する空気が親水性繊維糸(II)と接する面積の割合を高めることで、貫通孔内に汗水分が常時保持されやすく、冷却効果を維持することができる。また、貫通孔内に保持された汗水分は、衣服外から衣服内に空気が取り込まれる際に気化するため、貫通孔以外の部分に比べて汗水分が気化する量が増えるが、飽和保水量が450g/m2以上であることで、貫通孔以外の部分に保持する汗水分量が高く、貫通孔内の汗水分の量が気化することで減少したとしても、減少と同時にその分だけ貫通孔以外の汗水分が糸を通して貫通孔内に移動し、貫通孔内の水分量が維持されやすく、それゆえ冷却効果が維持されやすくなる。一方、保水による衣服重量増加による着用者への負担の観点から、被服用生地の飽和保水量は800g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは750g/m2以下である。前記被服用生地の飽和保水量は、繊維糸(I)及び親水性繊維糸(II)の割合、繊維糸間の隙間量等に基づいて調整することができる。例えば、親水繊維糸(II)の割合が多いと、被服用生地の飽和保水量は高くなる。本明細書において、「飽和保水量」は、実施例に記載のとおりに測定することができる。
【0029】
前記被服用生地は、JIS L 1907 A法(滴下法)に準じて測定した吸水時間が180秒以下であることが好ましく、60秒以下であることがより好ましく、40秒以下であることがさらに好ましく、20秒以下であることがさらにより好ましく、10秒以下であることがさらにより好ましく、5秒以下であることが特に好ましい。暑熱環境や運動で大量発汗した時に汗を速やかに吸収しやすく、汗処理性が高まることで、気化熱を利用した冷却効果も高まる。
【0030】
前記被服用生地の目付は特に限定されないが、例えば180g/m2以下であることが好ましく、より好ましくは170g/m2以下であり、さらに好ましくは160g/m2以下である。目付が上述した範囲内であると、暑熱環境下でスポーツ等を行う場合でも、清涼感を感じることができる。前記被服用生地は、耐久性の観点から、目付が60g/m2以上であることが好ましく、より好ましくは70g/m2以上であり、さらに好ましくは80g/m2以上である。
【0031】
前記被服用生地の通気度は特に限定されないが、例えば、通気性を高める観点から、JIS L 1096 A法(フラジール形法)で測定した通気度は200cm3/(cm2・s)以上であることが好ましく、より好ましくは230cm3/(cm2・s)以上である。前記被服用生地の標準時及び湿潤時の通気度は、実施例に記載のとおりに測定することができる。
【0032】
前記被服用生地の湿潤時の通気抵抗は特に限定されないが、例えば、衣服内から衣服の外側に汗水分が通過しやすい観点から、0.3kPa・s/m以下であることが好ましく、より好ましくは0.2kPa・s/m以下である。前記被服用生地の湿潤時の通気抵抗は、実施例に記載のとおりに測定することができる。
【0033】
前記被服用生地の湿潤時の冷却温度は、2.0℃以上であることが好ましく、より好ましくは2.2℃以上であり、さらに好ましくは2.4℃以上であり、特に好ましくは2.5℃以上である。前記被服用生地の湿潤時の冷却温度は、湿潤時の被服用生地を通過する前の空気の温度T0と、湿潤時の被服用生地を通過し、被服用生地から5cm以上(例えば25cm)離れた位置における空気の温度T1の差(T0-T1)で示される。すなわち、湿潤時の被服用生地を通過し、被服用生地から5cm以上(例えば25cm)離れた位置における空気の温度T1は、被服用生地を通過する前の空気の温度T0より2℃以上低下することが好ましく、より好ましくは2.2℃以上低下し、さらに好ましくは2.4℃以上低下し、特に好ましくは2.5℃以上低下する。被服用生地の湿潤時の冷却温度は、実施例に記載のとおりに測定することができる。
【0034】
本発明の被服は、前記被服用生地を含む。被服としては、特に限定されず、上半身に着用するものであってもよく、下半身に着用するものであってもよく、全身に着用するものであってもよい。例えば、シャツ、Tシャツ、インナーシャツ、トレーニング用ウォーマー、ブリーフ、タイツ等が挙げられる。特に発汗の多い暑熱時期に使用するスポーツ用被服に好適に用いることができる。本発明の被服において、前記被服用生地は、全体に用いられてもよく、部分的に用いられてもよい。例えば、汗が出やすい脇や背中等に部分的に用いることができる。
【0035】
以下、図面に基づいて、本発明の一実施形態の被服用生地を説明する。以下、図面において、同一符号は同一構成を意味する。
図1は本発明の一実施形態の被服用生地の模式的平面図であり、
図2は同模式的裏面図であり、
図3は同I~I’方向の模式的断面図であり、
図4は同II~II’方向の模式的断面図である。該実施形態の被服用生地1は、表面層2、裏面層3、及び中間層4を含み、表面層2は厚み方向に貫通した表面貫通孔6を有し、裏面層3は、厚み方向に貫通した裏面貫通孔7を有する。中間層4は、表面層2及び裏面層3を連結する連結糸5が存在する連結部と連結糸が存在しない空間部を有し、生地貫通孔8は、表面貫通孔6、裏面貫通孔7及び空間部で形成された三次元構造を有する。
【0036】
図5は三次元構造の生地貫通孔の模式的断面図である。
図5に示されているように、生地貫通孔8は三次元構造を有しており、表面及び裏面の真上から観察した場合、貫通孔として視認できる範囲は破線III~III’で挟まれた領域であるが、空気は破線IV~IV’で挟まれた三次元構造の生地貫通孔を通ることができ、空気が通る範囲は、視認できる範囲に比べて格段に大きい。
図6は、二次元の生地貫通孔の模式的断面図である。
図6に示されているように、中間層(空間部)を有しない生地において、表面層12の厚み方向に貫通した貫通孔16と、裏面層13の厚み方向に貫通した貫通孔17が二次元の貫通孔18を形成しており、貫通孔として視認できる範囲と空気が通る範囲は、いずれも、V~V’で挟まれた領域となり、貫通孔として視認できる範囲と空気が通る範囲は同じである。本明細書において、「三次元構造の貫通孔」とは、表面層、裏面層、表面層と裏面層を連結する中間層(空間部)の三層構造を有する生地の厚み方向に貫通した貫通孔を意味し、「二次元構造の貫通孔」とは、中間層(空間部)を有さず、表面層及び裏面層の二層構造を有する生地の厚み方向に貫通した貫通孔を意味する。
【0037】
図7は三次元構造の生地貫通孔の断面において、生地貫通孔を通過する空気が生地貫通孔の周囲の繊維糸と接する面積の割合を説明する模式的断面図である。
図8は二次元構造の生地貫通孔の断面において、生地貫通孔を通過する空気が生地貫通孔の周囲の繊維糸と接する面積の割合を説明する模式的断面図である。三次元構造の生地貫通孔及び二次元構造の生地貫通孔のいずれの断面においても、生地貫通孔を通過する空気10が繊維糸9と接する面積は、繊維糸9の表面積の約50%であると定義できるが、三次元構造の生地貫通孔の断面の方が二次元構造の生地貫通孔の断面より、空気が通る範囲が大きいことから、三次元構造の生地貫通孔の方が、貫通孔を通過する空気が繊維糸と接する面積の割合が大きくなる。
【実施例0038】
以下実施例を用いてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0039】
実施例及び比較例で用いた評価測定方法を説明する。
【0040】
(厚み)
試験片測厚機FS-60N型(高分子計機株式会社製)を用い、荷重60gの条件で測定した。
【0041】
(開口率)
生地を構成する組織の最小単位である完全組織において、生地貫通孔を形成する表面貫通孔又は裏面貫通孔の面積及び生地を構成する組織の最小単位である完全組織の面積をマイクロウォッチャー(型番VHX8000、キーエンス社製)により測定し、下記数式にて開口率を算出した。生地組織によって、生地貫通孔を形成する表面貫通孔の面積と生地貫通孔を形成する裏面貫通孔の面積が格段に異なる場合は、表面開口率と裏面開口率を別々で算出し、平均化した。表面貫通孔又は裏面貫通孔を有するが、生地貫通孔を形成しない場合は、生地の開口率は0%となる。
開口率(%)=完全組織における生地貫通孔を形成する表面貫通孔又は裏面貫通孔の面積の合計/完全組織の面積×100
【0042】
(単位面積当たりの空気が接する親水領域の比率)
(1)生地貫通孔を通過する空気が親水性繊維糸と接する面積の定義
繊維糸を円柱と仮定した場合、貫通孔を通過する空気が貫通孔外周の親水性繊維糸と触れる面積の割合は、生地貫通孔断面において、
図7又は
図8に示されているように、親水性繊維糸の表面積の50%と仮定できる。よって、
図9に示すように、空気が親水性繊維糸11と触れる面積は、半円柱の側面積Sと考えられる。また、生地貫通孔を生地の経方向に半分に裁断し、裁断面方向からマイクロウォッチャーで空気が親水性繊維糸と触れる面積Sを測定した場合、計測上二次元的にしか測定できないため、測定値は半円柱の上面方向から測定した場合に等しくなり、半円柱の底面積Aが測定値として算出されるが、底面積A=D(直径)×hに該当する。よって、h=A÷Dとなる。以上より、貫通孔を通過する空気が親水性繊維糸と触れる面積Sは以下の数式1で算出される。
図27に、実施例1の編地において、貫通孔を生地の経方向に半分に裁断し、裁断面方向からマイクロウォッチャーで空気が親水性繊維糸と触れる面積として、底面積Aを測定値として算出する様子を示した。マイクロウォッチャーで観察領域40を拡大し、底面積Aを測定することができる。
【数1】
(2)生地貫通孔を通過する空気が親水性繊維糸と接する面積の測定
生地を構成する最小単位の組織における各生地貫通孔において、生地貫通孔を生地の経方向に半分に裁断し、裁断面方向からマイクロウォッチャー(型番VHX8000、キーエンス社製)で底面積Aを測定し、上記数式1に基づいて各貫通孔を通過する空気が親水性繊維糸と触れる面積Siを算出し、下記数式2にて、生地を構成する最小単位の組織内における貫通孔を通過する空気が親水性繊維糸と接触する面積の総和SS[mm
2]を算出した。
【数2】
(3)生地を構成する最小単位である完全組織の面積の測定
生地を構成する組織の最小単位である完全組織の面積SA[mm
2]を以下の方法で算出した。生地をマイクロウォッチャーで撮影し、生地を構成する組織の最小単位である完全組織となるように4点の生地貫通孔の中心を結んだ線分で形成された図形の面積SAを画像解析で算出した。
(4)生地面積1mm
2当たりの貫通孔を通過する空気が親水性繊維糸と接する面積の割合HaRは、下記の式で算出した。なお、生地貫通孔を有しない場合は、HaRは0%となる。
HaR(%)=SS/SA×100
【0043】
(飽和保水量)
生地を100mm×100mmにカットした試料を用い、該試料の重量を測定してWa(g)とし、該試料を水槽内の水に10秒間浸漬した後、地面に対して垂直方向に30秒間吊り下げた後の重量を測定してWb(g)とし、飽和保水量を下記数式で算出した。
飽和保水量(g/m2)=(Wb-Wa)×100
【0044】
(吸水時間)
JIS L 1907 A法(滴下法)に準じて吸水時間を測定した。
【0045】
(通気抵抗)
通気抵抗試験機KES-F8(カトーテック社製)を用い、通気抵抗を測定した。この測定は、大気中へ空気を放出・吸引し、放出・吸引時の圧力を検知し、通気抵抗Rを算出することにより行った。
通気量:4cc/cm2/sec.(通気量一定方式)、通気穴面積:2πcm2、温度20℃、相対湿度65%R.H.の条件で測定した。
湿潤時の通気抵抗は生地を水分で湿潤させた状態で、空気の放出・吸引方向を地面と平行で測定した。温度と湿度は前記と同じである。測定方法は次のとおりである。
(1)生地が地面に対して垂直の状態となるようにした。
(2)水槽内の水に浸漬させた生地を取り出し、試験機に生地を設置した。
(3)KESの試験マニュアルに準拠した方法で測定開始した。
【0046】
(通気度)
JIS L 1096 A法(フラジール形法)に準じて、標準時の通気度(cm3/cm2/s)を測定した。測定圧力は125Paとした。
【0047】
(冷却効果)
(1)飽和保水量を測定する場合と同様にして、生地を湿潤させた。湿潤した生地の飽和保水量及び吸水率は下記表4に示すとおりであった。吸水率は、下記のように算出した。
吸水率(%)=生地が吸収した水分量(g)/生地の重量(g)×100
(2)20℃、40%RHに安定させた室内で、湿潤した生地30を
図10に示すとおりに冷却効果測定装置20の保持具21に設置した。
冷却効果測定装置20は、測定試料を保持するアクリル樹脂製板21に両面テープにて固定し、空気を取り込む送風機22、測定試料を通過する前の空気が流れる円筒型(内径60.0cm、長さ10cm)の前流路管23、測定試料を通過した後の空気が流れる円筒型(内径4.0cm、長さ25cm)の後流路管24、及び後流路管24の出口に設置された温度センサ25を備えている。
(3)送風機22を稼働させ、風速5m/秒で矢印で示す方向に送風し、湿潤した生地30を通過した後の空気の温度(T1)を温度センサ25にて測定した。湿潤した生地30を通過する前の空気の温度T0は室内温度と同様20℃である。
(4)被服用生地の湿潤時の冷却温度を下記数式にて算出した。
冷却温度(℃)=T0-T1
【0048】
(実施例1~2、比較例1~5)
繊維糸(I)及び親水性繊維糸(II)としてそれぞれ下記表1、2に示すものを用い、下記表3に示す条件で編地を作製した。
図11~24に、それぞれ、実施例1~2、比較例1~5の生地の見本の平面写真(20倍)及び裏面写真(20倍)を示した。
図25は、実施例1の編地の経方向の断面写真(20倍)であり、
図26は、比較例2の編地の経方向の断面写真(20倍)である。ポリエステル親水加工糸は、ポリエステル繊維糸を親水性ポリエステル樹脂加工剤で親水化処理したものであり、ポリエステル撥水加工糸は、ポリエステル繊維糸をフッ素系撥水剤で撥水加工したものである。
【0049】
実施例1~2及び比較例1~5で得られた編地の厚み、開口率、単位面積当たりの空気が接する親水領域の比率HaR(%)、飽和保水量、吸水時間、通気抵抗、通気度及び冷却効果を上述したとおりに測定評価し、その結果を下記表3及び4に示した。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
図11及び
図12は、それぞれ、実施例1のダブルラッセルの平面写真及び裏面写真である。
図25は、実施例1のダブルラッセルの経方向に沿って切断した断面写真である。
図11、
図12、
図25及び表3から分かるように、実施例1のダブルラッセルは、表面層、裏面層及び表面層と裏面層を連結した中間層を含み、中間層4は空間部を有する。
図13及び
図14は、それぞれ、実施例2のダブルラッセルの平面写真及び裏面写真である。
図13及び
図14から分かるように、実施例2のダブルラッセルは、表面層、裏面層及び表面層と裏面層を連結した中間層を含み、中間層4は空間部有する。
【0055】
上記表3から分かるように、実施例の編地の場合、大量発汗状態に相当する450%以上の吸水率の湿潤状態で、生地を通過する空気を2℃以上湿潤冷却することができた。
【0056】
一方、撥水加工糸を含まず、生地貫通孔及び中間層を有しない比較例1の編地は、空気を湿潤冷却することができなかった。また、生地貫通孔を有するが、空間部を有する中間層を備えておらず、HaRが低い比較例2及び3の編地の場合、生地を通過する空気を湿潤冷却できるものの、冷却効果が不十分であった。
図26は、比較例2の編地の経方向に沿って切断した断面写真であり、表面層と裏面層の間に空間部が存在しないことが分かる。また、中間層を有するが、生地貫通孔を有さず、撥水加工糸を含まない比較例4及び5の編地の場合、空気を湿潤冷却することができなかった。