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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175476
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】歯科用ストリッピング装置
(51)【国際特許分類】
   A61C 3/06 20060101AFI20231205BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20231205BHJP
   B24D 15/02 20060101ALI20231205BHJP
   A61C 1/08 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
A61C3/06
B24D3/00 320B
B24D15/02 C
A61C1/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087929
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】517118102
【氏名又は名称】SheepMedical株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100066
【弁理士】
【氏名又は名称】愛智 宏
(72)【発明者】
【氏名】石亀 勝
(72)【発明者】
【氏名】杉山 元彦
(72)【発明者】
【氏名】長澤 健太郎
【テーマコード(参考)】
3C063
4C052
【Fターム(参考)】
3C063AA10
3C063AB07
3C063BB02
3C063BB07
3C063CC12
3C063EE40
3C063FF23
3C063FF30
4C052AA06
4C052DD01
4C052DD05
(57)【要約】
【課題】一部が重なり合っている歯冠の側面を研削することができ、一方の歯冠を研削しているときに、研削すべきでない他方の歯冠が削られることを防止できる歯科用ストリッピング装置を提供すること。
【解決手段】板状のブレード部10と、ブレード部10の基端を保持して、当該ブレード部10を往復駆動機構に接続する本体部20と、ブレード部10の一面10Aおよび他面10Bにダイアモンド粒子が固着されて形成された砥粒層30とを備えてなり、ブレード部10の側周面にダイアモンド粒子が固着されていない。また、ブレード部10の一面10Aおよび他面10Bは、その外延に沿って、ダイアモンド粒子が固着されていない一定の幅の砥粒層非形成領域15Aおよび15Bを有している。
【選択図】 図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のブレード部と、
前記ブレード部の基端を保持して、当該ブレード部を往復駆動機構に接続する本体部と、
前記ブレード部の一面および/または他面にダイアモンド粒子が固着されて形成された砥粒層とを備えてなり、
前記ブレード部の側周面にダイアモンド粒子が固着されていないことを特徴とする歯科用ストリッピング装置。
【請求項2】
前記ブレード部の前記一面および前記他面に前記砥粒層を備えている請求項1に記載の歯科用ストリッピング装置。
【請求項3】
前記ブレード部の前記一面および前記他面は、その外延に沿って、ダイアモンド粒子が固着されていない一定の幅の砥粒層非形成領域を有していることを特徴とする請求項2に記載の歯科用ストリッピング装置。
【請求項4】
前記ダイアモンド粒子の平均粒径をd、前記砥粒層非形成領域の前記幅をWとするとき、下記条件を満たすことを特徴とする請求項3に記載の歯科用ストリッピング装置。
(1)d=8~150μm
(2)W/d=1.0~3.0
【請求項5】
前記ブレード部の厚さが0.2mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の歯科用ストリッピング装置。
【請求項6】
前記ブレード部は、先端が半円状で、それに続く部分が矩形状の平面形状を有していることを特徴とする請求項1に記載の歯科用ストリッピング装置。
【請求項7】
前記砥粒層が、ダイアモンド粒子の電着層であることを特徴とする請求項1に記載の歯科用ストリッピング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科矯正治療においてIPRに使用する歯科用ストリッピング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科矯正治療において、歯冠形態修正、並びに、歯冠と歯冠の間に隙間を確保する方法として歯冠隣接面削合(IPR=Inter Proximal Reduction)が行われている。
IPRに使用する器具として、歯科用ストリッピング装置(オートストリッピングバー)が知られている(非特許文献1参照)。
このストリッピング装置は、ダイアモンド粒子による砥粒層が両面に形成された矩形状のブレードを備えており、当該ブレードの両端がアームによって保持され、当該アームの基端は往復駆動機構に接続される。
【0003】
このような歯科用ストリッピング装置を使用し、通常、往復駆動機構に接続されたブレードを隣接する歯冠の間に配置し、ブレードを長さ方向に往復運動させ、ブレードの一面によって一方の歯冠(例えば、左側1番の近心面)を研削するとともに、ブレードの他面によって他方の歯冠(例えば、右側1番の近心面)を研削することにより、歯冠と歯冠の間隔を拡張して所定の隙間を確保する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「オートストリッピングバー」、[online]:株式会社シオダ[令和4年4月1日検索]、インターネット<URL:https://www.jmortho.co.jp/wp-content/uploads/2020/08/Auto-Stripping-Bar.pdf >
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載のストリッピング装置は、叢生の状態にある歯列に対して使用することができない。
例えば、一方の歯冠と、他方の歯冠とが一部重なりあっているような場合には、これらの歯冠の間にブレードを配置することができない。
【0006】
このような状態にある歯列に対するIPRとして、ブレードの一端(基端)のみが保持されてなるストリッピング装置を使用し、当該ブレードの一面によって一方の歯冠のみを先行して研削することが考えられる。
例えば、図8に示すように、上顎右側1番R1の舌側面R1bと、上顎左側1番L1の唇側面L1fとが一部重なりあっている場合(なお、説明の便宜上、歯面を直線で示している)、砥粒層3が形成されているブレード1を、図8の紙面の前後方向に往復移動させながら、矢印X方向に送ることにより、ブレード1の一面1Aにより、上顎右側1番R1の近心面側を、上顎左側1番L1の近心面が位置するあたりまで、先行して研削する。
【0007】
しかしながら、この場合、ブレード1の一面1Aによって一方の歯冠である上顎右側1番R1の近心面側を研削しているときに、当該ブレード1の側周面1Cに形成されている砥粒層3(固着されているダイアモンド粒子)によって、研削すべきでない他方の歯冠である上顎左側1番L1の唇側面L1fが削られてしまうという新たな問題が生じる。
【0008】
すなわち、ブレード、特に、その一端(基端)のみが保持されるタイプのブレードには、ある程度の厚みが必要となる(一定幅の側周面が存在する)。厚みが不十分であるブレードは、強度が不足し、研削作業中に撓みやすくなるなど、所期のIPRを実施することができない。
【0009】
そして、ストリッピング装置を製造する際に、一定の厚み(例えば、0.2mm以上)のブレード1の両面(一面1Aおよび他面1B)に砥粒層3を形成する工程(砥粒の電着工程)では、当該ブレード1の側周面1Cにも砥粒層3が不可避的に形成される。
このため、側周面1Cに形成された砥粒層3(固着されたダイアモンド粒子)によって他方の歯冠(上顎左側1番L1の唇側面L1f)が削られてしまうのである。
【0010】
更に、ブレードの一面によって一方の歯冠を研削しているときに、研削すべきでない他方の歯冠に対して当該ブレードが傾斜して接触している場合には、ブレードの他面または一面の外延の近傍(外周領域)に固着されているダイアモンド粒子によっても、他方の歯冠の唇側面が削られてしまう可能性がある。
【0011】
例えば、図9(1)に示すように、ブレード1の一面1Aにより上顎右側1番(図示せず)の近心面側を研削しているときに、上顎左側1番L1の唇側面L1fと、ブレード1の他面1Bとのなす角度(θB )が90°未満となる場合には、ブレード1の他面1Bの外延の近傍(外周領域)における砥粒層3(固着されているダイアモンド粒子)によって、上顎左側1番L1の唇側面L1fが削られてしまう可能性がある。
【0012】
また、図9(2)に示すように、ブレード1の一面1Aにより上顎右側1番(図示せず)の近心面側を研削しているときに、上顎左側1番L1の唇側面L1fと、ブレード1の一面1Aとのなす角度(θA )が90°未満となる場合には、ブレード1の一面1Aの外延の近傍(外周領域)における砥粒層3(固着されているダイアモンド粒子)によって、上顎左側1番L1の唇側面L1fが削られてしまう可能性がある。
【0013】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の第1の目的は、叢生の状態にある歯列に対して、一部が重なり合っている歯冠の側面を研削することができるとともに、そのような歯冠の間にも所定の隙間を形成することができる歯科用ストリッピング装置を提供することにある。
本発明の第2の目的は、一部が重なり合っている一方の歯冠(近心面側または遠心面側)を研削しているときに、研削すべきでない他方の歯冠(唇側面や舌側面)が削られることを防止できる歯科用ストリッピング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)本発明の歯科用ストリッピング装置は、板状のブレード部と、
前記ブレード部の基端を保持して、当該ブレード部を往復駆動機構に接続する本体部と、
前記ブレード部の一面および/または他面にダイアモンド粒子が固着されて形成された砥粒層とを備えてなり、
前記ブレード部の側周面にダイアモンド粒子が固着されていないことを特徴とする。
【0015】
(2)本発明の歯科用ストリッピング装置において、前記ブレード部の両面(前記一面および前記他面)に前記砥粒層を備えていることが好ましい。
【0016】
上記のような構成の歯科用ストリッピング装置によれば、ブレード部の基端のみが保持部により保持されているので、一部が重なり合っているような歯冠に対して、一方の歯冠(当該歯冠の側面)をブレード部の一面または他面によって先行して研削することにより、これらの歯冠の間に所定の隙間を形成する(IPRを実施する)ことができる。
【0017】
また、ブレード部の側周面にはダイアモンド粒子が固着されていないので、一部が重なり合っている一方の歯冠を研削しているときに、ブレード部の側周面が、研削すべきでない他方の歯冠に接触(歯冠に対して摺動)しても、ブレード部の側周面によって他方の歯冠が削られることはない。
【0018】
また、この歯科用ストリッピング装置によれば、隣接する歯冠の間にブレード部を配置し、当該ブレード部の一面によって一方の歯冠を研削するとともに、他面によって他方の歯冠を研削する通常のIPRを実施することもできる。
【0019】
(3)上記(2)の歯科用ストリッピング装置において、前記ブレード部の前記一面および前記他面は、その外延に沿って、ダイアモンド粒子が固着されていない(前記砥粒層が形成されていない)一定の幅の砥粒層非形成領域を有していることが好ましい。
【0020】
このような構成の歯科用ストリッピング装置によれば、研削すべきでない他方の歯冠に対してブレード部を傾斜している状態で、当該ブレード部の一面によって一方の歯冠を研削している場合に、当該ブレード部の他面または一面の外周近傍における砥粒層非形成領域が他方の歯冠と接触(摺動)しても、他方の歯冠が削られることはない。
【0021】
(4)上記(3)の歯科用ストリッピング装置において、前記ダイアモンド粒子の平均粒径をd、前記砥粒層非形成領域の前記幅をWとするとき、下記条件を満たすことが好ましい。
【0022】
(1)d=8~150μm
(2)W/d=1.0~3.0
【0023】
このような構成の歯科用ストリッピング装置によれば、W/dの値が1.0以上であることにより、研削すべきでない他方の歯冠に対してブレード部をある程度傾斜した状態で接触させても、他方の歯冠の歯面に対する傾斜角度が45°以上であれば、当該ブレード部の他面または一面に形成された砥粒層が他方の歯冠に接触することを実質的に回避することができる。
また、W/dの値が3.0以下と、砥粒層非形成領域の幅Wはきわめて狭いので、一面および他面の全域に砥粒層が形成されているブレードと同程度の研削効果(効率)を奏することができる。
【0024】
(5)本発明の歯科用ストリッピング装置において、前記ブレード部の厚さが0.2mm以上であることが好ましい。
【0025】
このような構成の歯科用ストリッピング装置によれば、ブレード部の厚さが0.2mm以上であることにより、ブレード部の強度が十分に確保され、その一端(基端)のみを保持した状態で往復運動させても、IPRを確実に実施することができる。
また、ブレード部の厚さ、すなわち、側周面の幅が0.2mm以上であるブレード部において、当該側周面にダイアモンド粒子が固着されていないことは特に効果的である。
【0026】
(6)本発明の歯科用ストリッピング装置において、前記ブレード部は、先端が半円状で、それに続く部分が矩形状の平面形状を有していることが好ましい。
【0027】
このような構成の歯科用ストリッピング装置によれば、先端が半円状であるため、研削作業中に歯冠や歯肉などにダメージを与えることを防止することができる。
また、先端に続く部分により、当該ブレード部の一面によって一方の歯冠を研削するとともに、他面によって他方の歯冠を研削する通常のIPRを好適に実施することもできる。
【0028】
(7)本発明の歯科用ストリッピング装置において、前記砥粒層が、ダイアモンド粒子の電着層であることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の歯科用ストリッピング装置によれば、叢生の状態にある歯列に対して、一部が重なり合っている歯冠の側面を研削することができるとともに、そのような歯冠の間にも所定の隙間を形成することができる。
また、一部が重なり合っている一方の歯冠(近心面側または遠心面側)を研削しているときに、研削すべきでない他方の歯冠(唇側面や舌側面)が削られることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施形態に係る歯科用ストリッピング装置の平面図である。
図2図1に示した歯科用ストリッピング装置の底面図である。
図3図1の右側面図である。
図4図1のIV-IV断面図である。
図5図1に示したストリッピング装置を構成するブレードの一面により、上顎左側1番と一部重なり合っている上顎右側1番の近心面側を研削している状態を模式的に示す説明図である。
図6図1に示したストリッピング装置を構成するブレードを、上顎左側1番の唇側面に対して傾斜しながら接触させた状態で、上顎右側1番の近心面側を研削している状態を模式的に示す説明図である。
図7】ダイアモンド粒子の平均粒径と、砥粒層非形成領域の幅と、ブレードの傾斜角度との関係を説明するための図である。
図8】側周面にも砥粒層が形成されているブレードの一面により、上顎左側1番と一部重なり合っている上顎右側1番の近心面側を研削している状態を模式的に示す説明図である。
図9】側周面にも砥粒層が形成されているブレードを、上顎左側1番の唇側面に対して傾斜しながら接触させた状態で、上顎右側1番の近心面側を研削している状態を模式的に示す説明図である。
図10図1に示した歯科用ストリッピング装置の写真である。
図11】本発明の他の実施形態に係る歯科用ストリッピング装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1図4および図10に示す本実施形態の歯科用ストリッピング装置100は、板状のブレード部10と、ブレード部10の基端を保持して、当該ブレード部10を往復駆動機構に接続するための本体部20と、ブレード部10の一面10Aおよび他面10Bに形成された砥粒層30(30A,30B)とを備えている。
図1図4において、41,41は固定ピン、43,43は、ブレード部10の基端を挟持する調整板である。
【0032】
ストリッピング装置100を構成するブレード部10は、一面10Aと、他面10Bと、これらを連結する側周面10Cとを有し、先端が半円状で、それに続く部分が矩形状の平面形状を有する板状体である。なお、ブレード部10の外延は、面取り処理が施されていてもよい。
【0033】
ブレード部10の基端には、固定ピン41,41を挿通するための貫通孔が形成されている。
ブレード部10の長さ(L10)は、通常5~22mmであり、好適な一例を示せば13mmである。
ブレード部10の幅(W10)は、通常3~18mmであり、好適な一例を示せば4mmである。
【0034】
ブレード部10の厚さ(t10)は、通常0.05~1.5mmであり、好ましくは0.2~0.3mm、好適な一例を示せば0.25mmである。
ブレード部10の厚さ(t10)が小さすぎると、一端(基端)のみが保持されるストリッピングブレードとして十分な強度を確保することができなかったり、歯冠と歯冠の間に十分な隙間を形成することが困難となったりする。
他方、この厚さ(t10)が大きすぎると、そのようなブレード部10によって視野がふさがれやすくなり、操作性が悪くなる。
【0035】
ストリッピング装置100を構成する本体部20は、ブレード部10の基端を収容する溝形(Cチャンネル状)の先端部分21と、往復駆動機構に接続される筒状の基端部分22とが一体形成されてなる。
【0036】
ブレード部10の基端は、調整板43,43に両面を挟持された状態で、本体部20の先端部分21の溝枠内に収容されている。
調整板43,43には、ブレード部10の基端における貫通孔の形成位置に対応して、固定ピン41,41を挿通するための貫通孔が形成されている。
調整板43,43の長さは、通常3~5mmであり、好適な一例を示せば4mmである。 調整板43,43の幅はブレード部10の幅と同一であり、好適な一例を示せば4mmである。
【0037】
本体部20の先端部分21には、ブレード部10の基端における貫通孔の形成位置に対応して、固定ピン41,41を挿通するための貫通孔が形成されており、ブレード部10の基端、調整板43,43および本体部20の先端部分21の各々に形成された貫通孔に固定ピン41,41を挿通して、かしめることにより、ブレード部10の基端は、本体部20の先端部分21に強固に固定(保持)される。
【0038】
本体部20の基端部分22の内部に、往復駆動機構の駆動軸を挿入して固定することにより、当該本体部20の先端部分21にその基端が固定されたブレード部10が、往復駆動機構に接続され、当該ブレード部10は、その長さ方向(図1において矢印Zで示す方向)に往復移動することができる。
基端部分22には、外周面から内周面に至るスリット221が形成されている。
【0039】
本体部20の長さ(L20)の好適な一例を示せば15.2mmである。
先端部分21の長さ(L21)は、通常3~5mmであり、好適な一例を示せば4mmである。
【0040】
本実施形態のストリッピング装置100は、ブレード部10の一面10A(後述する砥粒層非形成領域15Aを除く領域)および他面10B(後述する砥粒層非形成領域15Bを除く領域)において、ダイアモンド粒子が固着されて形成された砥粒層30(30Aおよび30B)を有している。
【0041】
ストリッピング装置100を構成する砥粒層30は砥粒であるダイアモンド粒子の電着層からなる。
電着による砥粒層30(30A,30B)を構成するダイアモンド粒子は、ブレード部10の一面10Aおよび他面10Bにおいて実質的に積重されておらず、砥粒層30の厚さはダイアモンド粒子の粒径(平均粒径)と概ね一致する。
【0042】
ダイアモンド粒子の平均粒径(d)としは、従来公知のストリッピング装置に使用される砥粒の平均粒径と同様であり、通常8~150μmとされ、好適な一例を示せば60μmである。
【0043】
本実施形態のストリッピング装置100において、ブレード部10の側周面10Cにはダイアモンド粒子が固着されていない。
IPRを実施する際には、ブレード部10の側周面10Cが、研削すべきでない歯冠に接触し、当該歯冠に対して往復摺動することがあるが、砥粒であるダイアモンド粒子が側周面10Cに固着されていないので、研削すべきでない歯冠が側周面10Cによって削られることを回避することができる。
【0044】
例えば、図5に示すように、上顎右側1番R1の舌側面R1bと、上顎左側1番L1の唇側面L1fとが一部重なりあっているような場合に、ブレード部10の一面10Aによって、上顎右側1番R1の近心面側を、上顎左側1番L1の近心面が位置するあたりまで先行して研削する。
【0045】
図5において、R1fは上顎右側1番の唇側面、L1bは上顎左側1番の舌側面である。なお、説明の便宜上、歯面(舌側面、唇側面、近心面、遠心面)を直線で示している。 また、図5および図6に示すブレード部10および砥粒層30の形状は、図1におけるV-V断面形状である。
【0046】
ブレード部10は、図5の紙面の前後方向に往復運動しながら、矢印X方向に送られる。これにより、その一面10Aによって上顎右側1番R1の近心面側が研削される。
このとき、ブレード部10の側周面10Cは、上顎左側1番L1の唇側面L1fと接触して唇側面L1fに対して摺動するが、ダイアモンド粒子が固着されていない側周面10Cによって上顎左側1番L1の唇側面L1fが削られることはない。
【0047】
ブレード部10の側周面10Cにダイアモンド粒子を固着させずに、一面10Aおよび他面10Bにダイアモンド粒子を固着させる(砥粒層30Aおよび30Bを形成させる)方法としては、側周面10Cをマスキングしてからダイアモンド砥粒を電着し、マスキングを外す方法がある。または、ブレード部10の全面にダイアモンド砥粒を電着した後、側周面10Cのダイアモンド砥粒を削り落とす方法がある。
【0048】
本実施形態のストリッピング装置100において、ブレード部10の一面10Aおよび他面10Bは、それぞれの外延に沿って、ダイアモンド粒子が固着されていない(砥粒層30が形成されていない)一定幅の砥粒層非形成領域15Aおよび15Bを有している。
【0049】
これにより、研削すべきでない他方の歯冠に対してブレード部10が傾斜しながら接触している状態で、ブレード部10の一面10Aによって、隣接する歯冠の一方を研削しているときに、当該ブレード部10の他面10Bまたは一面10Aの外周近傍における砥粒層非形成領域15Bまたは15Aが他方の歯冠と接触(摺動)しても、他方の歯冠が削られることはない。
【0050】
例えば、図6(1)に示すように、上顎左側1番L1の唇側面L1fに対するブレード部10の他面10Bの傾斜角度が90°未満となって、ブレード部10の他面10Bの外延の近傍が、上顎左側1番L1の唇側面L1fに接触して当該唇側面L1fに対して往復摺動したとしても、他面10Bの外延の近傍は、砥粒層30Bが形成されていない砥粒層非形成領域15Bであるので、上顎左側1番L1の唇側面L1fが削られることはない。
【0051】
また、図6(2)に示すように、上顎左側1番L1の唇側面L1fに対するブレード部10の一面10Aの傾斜角度が90°未満となって、ブレード部10の一面10Aの外延の近傍が、上顎左側1番L1の唇側面L1fに接触して当該唇側面L1fに対して往復摺動したとしても、一面10Aの外延の近傍は、砥粒層30Aが形成されていない砥粒層非形成領域15Aであるので、上顎左側1番L1の唇側面L1fが削られることはない。
【0052】
ブレード部10の一面10Aおよび他面10Bにおける砥粒層非形成領域15Aおよび15Bの幅Wは、ダイアモンド粒子の平均粒径dに基いて決定することができる。
ここに、W/dの値は1.0~3.0であることが好ましく、好適な一例を示せば2.0である。
【0053】
図7に示すように、研削すべきでない歯冠である上顎左側1番L1の唇側面L1fに対するブレード部10の傾斜角をθとすると、W・tanθ>dであれば、唇側面L1fと砥粒層30B(これを構成するダイアモンド粒子35)との接触を実質的に回避することができる。
【0054】
W/dの値が1.0以上であることにより、研削すべきでない他方の歯冠(例えば、上顎左側1番L1の唇側面L1f)に対してブレード部10をある程度傾斜させても、他方の歯冠の歯面に対する傾斜角度(θ)が45°以上であれば、W・tanθ>dの関係が成立するので、ブレード部10の他面10Bに形成された砥粒層30Bが、他方の歯冠に接触することを実質的に回避することができる。
【0055】
他方、W/dの値が3.0以下と、砥粒層非形成領域15Aおよび15Bの幅Wはきわめて狭いので、一面および他面の全域に砥粒層が形成されているブレードと同程度の研削効果(効率)を奏することができる。
【0056】
なお、W/dの値が2.0であるときに、研削すべきでない他方の歯冠に対する傾斜角度(θ)が26.6°以上であれば、W・tanθ>dの関係が成立するので、ブレード部10の他面10Bに形成された砥粒層30Bが、他方の歯冠に接触することを実質的に回避することができる。
【0057】
また、W/dの値が3.0であるときに、研削すべきでない他方の歯冠に対する傾斜角度(θ)が18.4°以上であれば、W・tanθ>dの関係が成立するので、ブレード部10の他面10Bに形成された砥粒層30Bが、他方の歯冠に接触することを実質的に回避することができる。
【0058】
本実施形態のストリッピング装置100によれば、一部が重なり合っている歯冠の側面を研削することができ、一部が重なり合っている歯冠の間(例えば、左側1番の近心面と右側1番の近心面との間、左側1番の遠心面と左側2番の近心面との間、右側1番の遠心面と右側2番の近心面との間など)にも、所定の隙間を形成することができる。
また、一部が重なり合っている歯冠の間に所定の隙間を形成する場合に、一方の歯冠の近心面側または遠心面側を先行して研削しているときに、研削すべきでない他方の歯冠の唇側面や舌側面が削られることを防止することができる。
【0059】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態のストリッピング装置100では、ブレード部10の両面(一面10Aおよび他面10B)に砥粒層30(30Aおよび30B)を備えているが、本発明のストリッピング装置は、ブレード部の何れか一方の面(一面または他面)のみに砥粒層を備えるものであってもよい。
また、本発明のストリッピング装置を構成するブレード部の平面形状、長さおよび幅などは、適宜変更することができる。
図11(1),(2)は、上記実施形態のストリッピング装置100のブレード部10とは長さおよび幅の異なるブレード部を有するストリッピング装置を示す平面図である。なお、同図に示した寸法(単位:mm)は一例であって、このサイズに限定されるものではないことは勿論である。
【符号の説明】
【0060】
100 歯科用ストリッピング装置
10 ブレード部
10A 一面
10B 他面
10C 側周面
15A,15B 砥粒層非形成領域
20 本体部
21 本体部の先端部分
22 本体部の基端部分
221 スリット
30(30A,30B) 砥粒層
41,41 固定ピン
43,43 調整板
R1 歯冠(上顎右側1番)
R1f 上顎右側1番の唇側面
R1b 上顎右側1番の舌側面
L1 歯冠(上顎左側1番)
L1f 上顎左側1番の唇側面
L1b 上顎左側1番の舌側面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11