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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175493
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】ノッキング検出装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
F02D45/00 368A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022087958
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】本田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】太田 智泰
【テーマコード(参考)】
3G384
【Fターム(参考)】
3G384DA28
3G384EC01
3G384EC08
3G384EC12
3G384EE31
3G384FA33Z
(57)【要約】
【課題】本開示の1つの局面は、インジェクタの駆動時に発生する振動の影響を極力除去して、内燃機関のノッキングを高精度に検出する技術を提供することにある。
【解決手段】ノッキング検出装置20は、データ取得部24と振動データ部26とノイズデータ部28と補正部30とノッキング判定部32とを備える。振動データ部は、データ取得部が取得する検出データに基づいて、周波数成分の振動レベルを時系列に表す振動データを生成する。ノイズデータ部は、インジェクタが駆動されるときに取得される検出データに基づいて、周波数成分の振動レベルを時系列に表すノイズデータを生成する。補正部は、判定区間で取得される検出データに基づいて振動データをノイズデータに基づいて補正して補正振動データを生成する。ノッキング判定部は、補正振動データに基づいてノッキングが発生したか否かを判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
各気筒に設置されたインジェクタ(12)から気筒内に燃料が直接噴射される内燃機関(10)のノッキングを検出するノッキング検出装置であって、
前記内燃機関の振動を検出するノックセンサ(16)から検出データを取得するように構成されたデータ取得部(24、S400、S420)と、
前記データ取得部が取得する前記検出データに対して周波数成分分析を行い、周波数成分の振動レベルを時系列に表す振動データを生成するように構成された振動データ部(26、S402)と、
前記インジェクタが駆動されるときに前記データ取得部が取得する前記検出データに対して前記周波数成分分析を行い、前記インジェクタが駆動されるときの前記周波数成分の前記振動レベルを前記時系列に表すノイズデータを生成するように構成されたノイズデータ部(28、S422~S428)と、
ノッキングが発生したか否かを判定する判定区間で前記データ取得部が取得する前記検出データに基づいて前記振動データ部が生成する前記振動データを、前記ノイズデータに基づいて補正して補正振動データを生成するように構成された補正部(30、S406)と、
前記補正部が生成する前記補正振動データに基づいて、前記ノッキングが発生したか否かを判定するように構成されたノッキング判定部(32、S410)と、
を備えるノッキング検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載のノッキング検出装置であって、
前記振動データ部は、周波数と前記時系列に変化するクランク角度との2次元マップとして前記振動データを生成するように構成されており、
前記ノイズデータ部は、前記周波数と前記クランク角度との前記2次元マップとして前記ノイズデータを生成するように構成されている、
ノッキング検出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のノッキング検出装置であって、
前記ノイズデータ部は、各気筒に設置された前記インジェクタ毎に前記ノイズデータを生成するように構成されている、
ノッキング検出装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のノッキング検出装置であって、
前記ノイズデータ部は、前記ノッキングが発生しない区間で前記インジェクタが駆動されるときに前記データ取得部が取得する前記検出データに基づいて、前記ノイズデータを生成するように構成されている、
ノッキング検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載のノッキング検出装置であって、
前記ノイズデータ部と前記補正部とは、前記判定区間ではない区間を前記ノッキングが発生しない区間とするように構成されている、
ノッキング検出装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載のノッキング検出装置であって、
前記ノイズデータ部は、複数のサイクルで生成された複数の前記ノイズデータを比較し、前記周波数成分と前記時系列上の位置とに対応する前記振動レベルの最大値を、前記補正部が前記振動データを補正するときの前記ノイズデータの前記周波数成分と前記時系列上の位置とに対応する前記振動レベルとするように構成されている、
ノッキング検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関のノッキングを検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の振動を検出するノックセンサの検出データに基づいて、内燃機関のノッキングを検出する技術が知られている。ノッキングが検出されると、ノッキングを抑制するために点火時期を遅角させる等の制御が行われる。
【0003】
しかし、ノッキング以外の振動がノイズとして検出データに混入すると、ノッキングが発生していないのに発生したと誤判定されることがある。ノッキングが発生したと誤判定されることにより点火時期を遅角させる等の制御が行われると、燃費と内燃機関の発生トルクとが低下する恐れがある。
【0004】
また、ノッキングが発生しているときにノッキング以外の振動がノイズとして発生すると、ノッキングが発生したことを検出できないことがある。ノッキングの発生を検出できずに放置すると、異常燃焼による騒音の増大や、内燃機関の損傷を招くことがある。
【0005】
そこで、特許文献1に記載された技術では、ノックセンサが検出する内燃機関の振動から、吸気弁の開閉時に発生する振動をノイズとして除去しようとしている。
特許文献1に記載された技術では、ノックセンサの検出データに対して周波数成分分析を行い、クランク角度と周波数との2次元マップが検出強度マップとして生成される。また、吸気弁の開閉時に発生するノイズについて、ノッキングが発生していないと判定されるときのノックセンサの検出データに対して周波数成分分析が行われ、クランク角度と周波数との2次元マップがノイズ成分強度マップとして生成される。
【0006】
そして、特許文献1に記載された技術では、検出強度マップからノイズ成分強度マップを減算したノイズ補正マップを所定の閾値を用いて二値化し、二値化したマップに基づいてノッキングを検出しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-190766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、発明者の詳細な検討の結果、特許文献1に記載の技術では、吸気弁の開閉時に発生する振動は考慮されているが、インジェクタが駆動されて開閉されるときに発生する振動は考慮されていないことが見出された。
【0009】
吸気弁の開閉時に発生する振動は内燃機関が低回転になると小さくなる。しかし、インジェクタが駆動されるときに発生する振動の大きさは、内燃機関の回転数によって殆ど変化しない。したがって、内燃機関が低回転になるほど、ノックセンサが検出する内燃機関の振動に対して、インジェクタの駆動時に発生する振動の割合は大きくなる。
【0010】
また、インジェクタが噴射する燃料圧力の高圧化により、インジェクタの駆動時に発生する振動は大きくなる。
また、燃料の多段噴射化により、自気筒の圧縮行程でインジェクタが燃料を噴射するときに発生する振動が、他気筒においてノッキングが判定される期間と重なることがある。
【0011】
したがって、インジェクタの駆動時に発生する振動の検出が要求される。
本開示の1つの局面は、インジェクタの駆動時に発生する振動の影響を極力除去して、内燃機関のノッキングを高精度に検出する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の1つの態様によるノッキング検出装置は、各気筒に設置されたインジェクタ(12)から気筒内に燃料が直接噴射される内燃機関(10)のノッキングを検出し、データ取得部(24、S400、S420)と、振動データ部(26、S402)と、ノイズデータ部(28、S422~S428)と、補正部(30、S406)と、ノッキング判定部(32、S410)と、を備える。
【0013】
データ取得部は、内燃機関の振動を検出するノックセンサ(16)から検出データを取得する。振動データ部は、データ取得部が取得する検出データに対して周波数成分分析を行い、周波数成分の振動レベルを時系列に表す振動データを生成する。
【0014】
ノイズデータ部は、インジェクタが駆動されるときにデータ取得部が取得する検出データに対して周波数成分分析を行い、インジェクタが駆動されるときの周波数成分の振動レベルを時系列に表すノイズデータを生成する。補正部は、ノッキングが発生したか否かを判定する判定区間でデータ取得部が取得する検出データに基づいて振動データ部が生成する振動データを、ノイズデータに基づいて補正して補正振動データを生成する。ノッキング判定部は、補正部が生成する補正振動データに基づいて、ノッキングが発生したか否かを判定する。
【0015】
このような構成によれば、ノッキングが発生したか否かを判定する判定区間で検出されたノックセンサの検出データに対して周波数成分分析された振動データが、インジェクタが駆動されるときの検出データに対して周波数成分分析されたノイズデータで補正される。
【0016】
これにより、ノッキングが発生したか否かを判定する判定区間で生成された振動データから、インジェクタが駆動されるときに発生するノイズを除去できるので、内燃機関のノッキングを高精度に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態のノッキング検出装置の構成を示すブロック図。
図2】内燃機関の各気筒の行程を示す模式図。
図3】インジェクタノイズの有無による振動の違いを示すタイムチャート。
図4】ノッキング検出処理を示すフローチャート。
図5】インジェクタノイズの除去を説明する説明図。
図6】判定基準データによるノッキング検出を説明する説明図。
図7】周波数の範囲に応じた判定基準データを示す説明図。
図8】ノッキング検出処理を示す他のフローチャート。
図9】判定基準データの生成を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
[1.構成]
図1に示すノッキング検出装置20は、車両に搭載されており、内燃機関10に発生するノッキングを検出する。以下、内燃機関をエンジンとも言う。エンジン10を駆動するクランクシャフト2の回転角度位置を表すクランク角度は、図示しない角度センサによって検出される。
【0019】
エンジン10は、例えば、4気筒の各気筒に設置されたインジェクタ12から気筒内に燃料が直接噴射される直噴エンジンである。気筒内に噴射された燃料は、点火プラグ14によって着火される。
【0020】
ノックセンサ16は、例えば、1列に配置された4気筒の中央付近に設置されており、エンジン10の振動を検出して検出データを出力する。
ノッキング検出装置20は、図示しないCPU、ROM、RAM、およびこれらを接続するバスラインなどを備える周知のマイクロコンピュータである。ノッキング検出装置20は、ROMに記憶されているプログラムを実行することにより、燃焼制御部22と、データ取得部24と、振動データ部26と、ノイズデータ部28と、補正部30と、ノッキング判定部32と、として機能する。
【0021】
燃焼制御部22は、クランク角度に基づいてインジェクタ12の開閉タイミングを制御することにより、インジェクタ12の噴射量と噴射タイミングとを制御する。さらに、燃焼制御部22は、クランク角度に基づいて点火プラグ14の点火タイミングを制御することにより、燃料の燃焼タイミングを制御する。データ取得部24は、ノックセンサ16から検出データを取得する。
【0022】
振動データ部26は、後述する判定区間においてデータ取得部24がノックセンサ16から取得する検出データに対して周波数成分分析を行い、周波数成分の振動レベルを時系列に表す振動データを生成する。
【0023】
まず、振動データ部26は、周波数成分の振動レベルを時系列に表す振動データとして、時間と、各周波数成分の振動レベルとの関係を、周波数と時間との2次元マップとして生成する。2次元マップでは、時間と周波数とで規定される座標に、周波数成分の振動レベルが表される。
【0024】
さらに、振動データ部26は、エンジン10の回転数に基づいて時間をクランク角度に換算することにより、周波数とクランク角度との2次元マップを振動データとして生成する。
【0025】
ノイズデータ部28は、各気筒のインジェクタ12毎に、ノッキングが発生していない区間である各気筒の吸気行程においてインジェクタ12が駆動されて開閉されるときにデータ取得部24が取得する検出データに対して、周波数成分分析を行う。ノイズデータ部28は、分析結果として、インジェクタ12が駆動されるときの周波数成分の振動レベルを時系列に表すノイズデータを、各気筒のインジェクタ12毎に生成する。
【0026】
ノイズデータ部28は、振動データと同様に、ノイズデータとして、時間と、各周波数成分の振動レベルとの関係を、周波数と時間との2次元マップとして生成する。2次元マップでは、振動データと同様に、時間と周波数とで規定される座標に、周波数成分の振動レベルが表される。
【0027】
さらに、ノイズデータ部28は、エンジン10の回転数に基づいて時間をクランク角度に換算することにより、周波数とクランク角度との2次元マップをノイズデータとして生成する。
【0028】
補正部30は、ノッキング判定の対象気筒について、燃焼行程の判定区間の振動データから、この判定区間に重なる他気筒の行程でインジェクタ12が駆動されるときのノイズデータを減算して除去する。これにより、補正部30は、ノックセンサ16が検出するエンジン10の振動から、インジェクタ12が駆動されるときに発生する振動ノイズであるインジェクタノイズを除去して補正振動データを生成する。
【0029】
ノッキング判定部32は、補正部30が生成する補正振動データに基づいて、エンジン10にノッキングが発生したか否かを判定する。
[1-2.エンジン10の作動]
図2に示すように、4気筒のエンジン10の各気筒は、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程を、互いに同じ行程が重ならないように実行する。
【0030】
直噴式のエンジン10では、燃料の高圧化と多段噴射化とにより、燃費とエミッションとを改善することが望まれている。本実施形態の多段噴射化では、各気筒の吸気行程と圧縮行程との両行程において燃料が多段噴射される。吸気行程と圧縮行程とにおいて多段噴射された燃料は、燃焼行程で点火プラグ14により着火される。
【0031】
エンジン10のノッキングは、インジェクタ12から噴射された燃料が、点火プラグ14により所定のタイミングで着火される以外のタイミングで着火して異常燃焼することにより発生する。
【0032】
そこで、図2において、各気筒の燃焼行程の斜線で示されたノッキングの判定区間において、ノックセンサ16の検出データに基づいて、エンジン10にノッキングが発生したか否かが判定される。例えば、判定区間は、燃焼行程の0°CA~90°CAである。
【0033】
ここで、燃料の多段噴射化により、各気筒の燃焼行程における判定区間と、他のいずれかの気筒の圧縮行程におけるインジェクタ12の駆動区間とが重なる。判定区間と吸気行程の駆動区間とは重ならない。図2において、第1気筒の判定区間と第3気筒の駆動区間、第3気筒の判定区間と第4気筒の駆動区間、第4気筒の判定区間と第2気筒の駆動区間、第2気筒の判定区間と第1気筒の駆動区間、がそれぞれ重なっている。
【0034】
インジェクタ12の駆動区間では、燃料を噴射するためにインジェクタ12が開閉駆動されることにより、開弁時と閉弁時とに振動が発生する。圧縮行程の駆動区間で燃料噴射により発生する振動は、他気筒の燃焼行程の判定区間において、ノックセンサ16が検出する検出データにインジェクタノイズとして混入する。
【0035】
図3に、インジェクタ12が噴射するときにノックセンサ16が出力する点線で示される検出データ200と、インジェクタ12が噴射しないときにノックセンサ16が出力する実線で示される検出データ202との違いを示す。インジェクタ12が噴射するときの検出データ200が、インジェクタ12が噴射しないときの検出データ202よりも大きく変化していることが分かる。
【0036】
インジェクタ12が駆動されるときのインジェクタノイズがノッキング判定対象である他気筒の判定区間で発生すると、ノッキングが発生したと誤判定される恐れがある。
また、ノッキングが発生しているときにノッキング以外の振動としてインジェクタノイズが発生すると、ノッキングが発生したことを検出できないことがある。
【0037】
インジェクタノイズの強度はエンジン回転数によって殆ど変化しないので、エンジン回転数が低くエンジン10の振動が小さいほど、インジェクタノイズはノックセンサ16が検出する振動の大きな要因となる。
【0038】
そこで、本実施形態では、ノッキング判定対象の気筒の判定区間においてノックセンサ16が検出するエンジン10の振動から、判定区間と重なる他気筒の駆動区間で発生するインジェクタノイズを除去して、ノッキングが発生したか否かを判定する。
【0039】
しかし、ノッキングが発生している可能性のある判定区間のエンジン10の振動をインジェクタノイズとしてエンジン10の振動から除去すると、ノッキングによる振動まで除去される可能性がある。
【0040】
そこで、ノッキング判定対象の気筒の判定区間と重なって圧縮行程でインジェクタ12が駆動される他気筒について、ノッキング判定対象の気筒の判定区間と重ならない吸気行程でインジェクタ12が駆動されるときの振動がインジェクタノイズとして採用される。つまり、この吸気行程のインジェクタノイズが、ノッキング判定対象の気筒の判定区間においてエンジン10の振動から除去される。
【0041】
ここで、インジェクタノイズは、インジェクタ12が駆動されて開弁および閉弁するとき、つまり噴射開始タイミングおよび噴射終了タイミングで発生する。そして、圧縮行程と吸気行程とでは、噴射開始タイミングと噴射終了タイミングと噴射期間とが異なることがある。
【0042】
したがって、吸気行程のインジェクタノイズが圧縮行程のインジェクタノイズとして採用されると、ノッキング判定対象の判定区間で発生しているインジェクタノイズとはずれたクランク角度位置で、エンジン10の振動からインジェクタノイズが除去される。
【0043】
そこで、本実施形態では、吸気行程でインジェクタノイズが発生するクランク角度位置を、圧縮行程の噴射開始タイミングと噴射終了タイミングとに応じて修正して、圧縮行程で発生するインジェクタノイズとして採用する。噴射開始タイミングを、噴射期間と噴射終了タイミングとにより設定してもよいし、噴射終了タイミングを、噴射期間と噴射開始タイミングとにより設定してもよい。
【0044】
噴射開始タイミングと噴射終了タイミングとは、ノッキング検出装置20がインジェクタ12に燃料噴射を指示する噴射指令パルスの立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングとに基づいて決定される。
【0045】
図3に示すように、噴射開始タイミングは噴射指令パルスの立ち上がりタイミングよりも遅れる。噴射終了タイミングは噴射指令パルスの立ち下がりタイミングよりも遅れる。このような遅れを考慮して、噴射指令パルスから噴射開始タイミングと噴射終了タイミングとが決定される。
【0046】
なお、インジェクタノイズの振動レベルは、燃料圧力が同じであれば、ほぼ等しい。そして、エンジン10の運転中、燃料圧力が急激に変化することは殆どない。したがって、ノッキング判定対象の気筒の判定区間に極力近く、判定区間と圧縮行程が重なる気筒の吸気行程で発生したインジェクタノイズを、判定区間で発生するインジェクタノイズとして採用できる。
【0047】
[1-3.処理]
(1)ノッキング検出処理
次に、ノッキング検出装置20が実行するノッキング検出処理について説明する。図4に示すノッキング検出処理のフローチャートは、各気筒において、図2に示す判定区間の終了後、判定区間において取得した検出データついて実行される。
【0048】
図4のS400においてデータ取得部24は、ノックセンサ16が判定区間において検出した検出データを取得する。
S402において振動データ部26は、取得した検出データについて、周波数成分分析を行う。周波数成分分析は、検出データについて周波数成分の振動レベルの大きさを分析するものである。振動データ部26は、判定区間において、周波数成分の振動レベルの大きさを時系列に表す振動データを、周波数とクランク角度との2次元マップとして生成する。
【0049】
S404において補正部30は、ノイズデータ部28により生成されて記憶されたノイズデータを参照する。このノイズデータは、ノッキング判定対象の気筒の判定区間に重なって他気筒の圧縮行程で発生するインジェクタ12のノイズデータである。ただし、前述したように、他気筒の吸気行程で発生するインジェクタ12のノイズデータのクランク角度位置が修正されて、圧縮行程で発生するノイズデータとして採用される。
【0050】
ノイズデータは、前述したように、S402で生成される振動データと同様に、周波数成分の振動レベルの大きさが時系列に表された周波数とクランク角度との2次元マップである。ノイズデータは、各気筒のインジェクタ12毎に生成される。
【0051】
S406において補正部30は、図5に示すように、S402において振動データ部26が生成した振動データから、S404においてノイズデータ部28が参照するインジェクタ12のノイズデータを減算して補正する。各座標において、振動データの振動レベルからノイズデータの振動レベルを減算した値が負の値になる場合、該当する座標の振動レベルは0に設定される。
【0052】
S406が実行されることにより、各気筒の判定区間においてノックセンサ16が検出するエンジン10の振動から、判定区間に重なって他気筒のインジェクタ12が駆動されるときのインジェクタノイズが除去された補正振動データが生成される。
【0053】
S408においてノッキング判定部32は、S406でインジェクタノイズが除去された補正振動データに基づいてノッキングが発生したか否かを判定するために、判定基準データを参照する。
【0054】
判定基準データは、補正振動データに対し、周波数とクランク角度とで表されるどの座標をノッキングの判定対象とするかを規定するデータである。
以下に、判定基準データの生成について説明する。
【0055】
車両が出荷される前において、インジェクタ12の噴射回数や噴射時期の制御によりノック判定区間にインジェクタノイズを発生させず、かつ点火時期を強制的に進角制御することによりノッキングを発生させる。
【0056】
この条件で、複数のサイクルでノックセンサ16から取得した検出データについて、それぞれ周波数成分分析が行われる。そして、周波数成分分析が行われたそれぞれの検出データについて、S402と同様に、エンジン回転数に基づいて、時間をクランク角度に換算した2次元マップが生成される。なお、サイクルは、各気筒において、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程が1回行われるサイクルのことを表す。
【0057】
複数のサイクルで生成された複数の2次元マップが比較され、周波数とクランク角度とで表される座標の振動レベルの最大値が設定される。そして、図6の左側に示すように、設定された振動レベルの最大値が所定値以上の座標の領域が黒色で表され、所定値未満の座標が白色で表される判定基準データが生成される。
【0058】
図6の左側で示される判定基準データにおいて、黒色で表される領域は、ノッキングの判定対象となる判定領域を示している。白色で表される領域は、ノッキングの判定対象とならない非判定領域を示している。
【0059】
S410においてノッキング判定部32は、S406においてインジェクタノイズが除去された補正振動データに対し、判定基準データの黒色で表される判定領域に対応する座標の振動レベルをすべて加算する。図6の右側において、判定領域は実線の枠210で示されている。
【0060】
そして、S410においてノッキング判定部32は、判定領域のすべての座標について加算された振動レベルの値が所定値以上の場合、ノッキングが発生したと判定する。
なお、エンジン10および車両の種類によっては、ノッキングの発生の有無によらず、特定の周波数領域において常にエンジン10の振動レベルが大きくなることがある。ノッキングが発生していなくても振動レベルが大きくなる周波数領域は、判定基準デ-タとして適さない。
【0061】
そこで、図7の下段左側に示すように、ノッキングが発生していなくても低周波数の振動レベルが大きい場合には、高周波数の領域だけが判定領域として選択される。これに対し、図7の下段右側に示すように、ノッキングが発生していなくても高周波数の振動レベルが大きい場合には、低周波数の領域だけが判定領域として選択される。
【0062】
(2)ノイズデータ生成処理
次に、ノッキング検出装置20が実行するインジェクタ12のノイズデータの生成処理について説明する。図8に示すノイズデータ生成処理のフローチャートは、各気筒の吸気行程において、インジェクタ12が駆動される駆動区間が終了すると実行される。
【0063】
図8のS420においてデータ取得部24は、判定区間ではなくノッキングが発生していない各気筒の吸気行程において、インジェクタ12が駆動されることにより発生する振動を、ノックセンサ16の検出データとして取得する。
【0064】
S422においてノイズデータ部28は、ノックセンサ16から取得した検出データについて、周波数成分分析を行う。そして、ノイズデータ部28は、周波数成分分析を行ったそれぞれの検出データについて、前述した図4のS402と同様に、エンジン回転数に基づいて、時間をクランク角度に換算したノイズデータを2次元マップとして生成する。
【0065】
S424においてノイズデータ部28は、図9に示すように、ノイズデータのクランク角度と周波数とで表される座標の振動レベルについて、これまでのサイクルで設定した最大値と、今回のサイクルで設定した振動レベルの値とを比較する。ノイズデータ部28は、比較した結果、大きい値をノイズデータの対応する座標の振動レベルの最大値として設定する。
【0066】
S426の判定がYesである、つまり、ノイズデータの各座標について振動レベルの最大値の設定が所定サイクル数の吸気行程において実行されると、S428においてノイズデータ部28は、最大値が設定されたノイズデータを記憶する。S428において記憶されたノイズデータは、前述した図4のS404で参照される。
【0067】
[2.効果]
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(2a)ノックセンサ16から取得する検出データから、インジェクタ12が駆動されるときに発生するインジェクタノイズを除去するので、ノックセンサ16から取得する検出データに基づいて、ノッキングが発生していることを高精度に検出できる。
【0068】
(2b)ノッキング判定対象の気筒の判定区間と重なる他気筒の圧縮行程で発生するインジェクタノイズとして、ノッキングが発生していない他気筒の吸気行程で発生するインジェクタノイズが使用される。これにより、ノッキングによる振動の影響を受けずにインジェクタノイズのノイズデータを生成できる。
【0069】
(2c)判定基準得データは、車両の出荷後のエンジン10の運転中に、ノックセンサ16から取得する検出データに基づいて可変に設定されるので、経時変化を反映した判定基準データを生成できる。
【0070】
(2d)ノイズデータは、車両の出荷後のエンジン10の運転中に、ノックセンサ16から取得する検出データに基づいて可変に設定されるので、経時変化を反映したノイズデータを生成できる。
【0071】
(2e)各気筒のインジェクタ12毎にノイズデータを生成するので、ノックセンサ16と各インジェクタ12との距離の違いから生じる各インジェクタ12の振動特性の違いを取り込んだノイズデータを生成する。
【0072】
(2f)所定サイクル数で生成した複数のノイズデータについて、クランク角度と周波数とで表される座標の振動レベルの最大値を、ノイズデータの対応する座標の振動レベルの値としている。これにより、振動データからノイズデータを減算するときに、振動データから確実にインジェクタノイズを除去できる。
【0073】
(2g)振動データとノイズデータとにおいて、時系列を表す単位としてクランク角度を採用している。これにより、振動データとノイズデータとを、エンジン回転数の変化に影響を受けることなく、周波数とクランク角度との2次元マップとして生成することができる。
【0074】
[3.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は前述した実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0075】
(3a)前述した実施形態では、周波数と時間との2次元マップを周波数とクランク角度との2次元マップに換算して、振動データからインジェクタノイズを除去した。これに対し、周波数と時間との2次元マップの状態で、振動データからインジェクタノイズを除去してもよい。
【0076】
(3b)振動データとインジェクタ12のノイズデータとは、ノックセンサ16の検出データに対して周波数成分分析が行われ、周波数成分の振動レベルが時系列に表されるのであれば、周波数と時間またはクランク角度との2次元マップとして表される必要はない。
【0077】
(3c)前述した実施形態では、各気筒のインジェクタ12毎にノイズデータを生成した。これに対し、各気筒のインジェクタ12に共通のノイズデータを生成してもよい。
(3d)前述した実施形態では、複数のサイクルで生成されたノイズデータを比較し、周波数とクランク角度とにより表される座標の振動レベルの最大値を、振動データを補正するノイズデータの対応する座標の振動レベルとした。
【0078】
これに対し、複数のサイクルで生成されたノイズデータにおいて、周波数とクランク角度とにより表される座標の振動レベルの平均値を、振動データを補正するノイズデータの対応する座標の振動レベルとしてもよい。
【0079】
(3e)前述した実施形態では、判定基準得データは、車両の出荷後のエンジン10の運転中に、ノッキングが発生していると判定された複数の補正振動データに基づいて可変に設定された。これに対し、判定基準得データとして、車両の出荷前に実験等により生成されたものが固定データとして使用されてもよい。
【0080】
(3f)前述した実施形態では、ノイズデータは、車両の出荷後のエンジン10の運転中に、ノックセンサ16から取得する検出データに基づいて可変に設定された。これに対し、ノイズデータとして、車両の出荷前に実験等により燃料圧力毎に生成されたものが固定データとして使用されてもよい。
【0081】
(3g)本開示に記載のノッキング検出装置20よびその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された1つまたは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0082】
あるいは、本開示に記載のノッキング検出装置20およびその手法は、1つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0083】
もしくは、本開示に記載のノッキング検出装置20およびその手法は、1つまたは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと1つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された1つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。
【0084】
また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。ノッキング検出装置20およびに含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、1つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0085】
(3h)前述した実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。
【0086】
また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、前述した実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、前述した実施形態の構成の少なくとも一部を、他の実施形態の構成に対して付加または置換してもよい。
【0087】
(3i)前述したノッキング検出装置20の他、当該ノッキング検出装置20を構成要素とするシステム、当該ノッキング検出装置20としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実体的記録媒体、電子制御方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【0088】
[本明細書が開示する技術思想]
[項目1]
各気筒に設置されたインジェクタから気筒内に燃料が直接噴射される内燃機関のノッキングを検出するノッキング検出装置であって、
前記内燃機関の振動を検出するノックセンサから検出データを取得するように構成されたデータ取得部と、
前記データ取得部が取得する前記検出データに対して周波数成分分析を行い、周波数成分の振動レベルを時系列に表す振動データを生成するように構成された振動データ部と、
前記インジェクタが駆動されるときに前記データ取得部が取得する前記検出データに対して前記周波数成分分析を行い、前記インジェクタが駆動されるときの前記周波数成分の前記振動レベルを前記時系列に表すノイズデータを生成するように構成されたノイズデータ部と、
ノッキングが発生したか否かを判定する判定区間で前記データ取得部が取得する前記検出データに基づいて前記振動データ部が生成する前記振動データを、前記ノイズデータに基づいて補正して補正振動データを生成するように構成された補正部と、
前記補正部が生成する前記補正振動データに基づいて、前記ノッキングが発生したか否かを判定するように構成されたノッキング判定部と、
を備えるノッキング検出装置。
【0089】
[項目2]
項目1に記載のノッキング検出装置であって、
前記振動データ部は、周波数と前記時系列に変化するクランク角度との2次元マップとして前記振動データを生成するように構成されており、
前記ノイズデータ部は、前記周波数と前記クランク角度との前記2次元マップとして前記ノイズデータを生成するように構成されている、
ノッキング検出装置。
【0090】
[項目3]
項目1または2に記載のノッキング検出装置であって、
前記ノイズデータ部は、各気筒に設置された前記インジェクタ毎に前記ノイズデータを生成するように構成されている、
ノッキング検出装置。
【0091】
[項目4]
項目1から3のいずれか1項に記載のノッキング検出装置であって、
前記ノイズデータ部は、前記ノッキングが発生しない区間で前記インジェクタが駆動されるときに前記データ取得部が取得する前記検出データに基づいて、前記ノイズデータを生成するように構成されている、
ノッキング検出装置。
【0092】
[項目5]
項目4に記載のノッキング検出装置であって、
前記ノイズデータ部と前記補正部とは、前記判定区間ではない区間を前記ノッキングが発生しない区間とするように構成されている、
ノッキング検出装置。
【0093】
[項目6]
項目1から5のいずれか1項に記載のノッキング検出装置であって、
前記ノイズデータ部は、複数のサイクルで生成された複数の前記ノイズデータを比較し、前記周波数成分と前記時系列上の位置とに対応する前記振動レベルの最大値を、前記補正部が前記振動データを補正するときの前記ノイズデータの前記周波数成分と前記時系列上の位置とに対応する前記振動レベルとするように構成されている、
ノッキング検出装置。
【符号の説明】
【0094】
10:エンジン(内燃機関)、12:インジェクタ、16:ノックセンサ、20:ノッキング検出装置、24:データ取得部、26:振動データ部、28:ノイズデータ部、30:補正部、32:ノッキング検出部
図1
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図9