(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175522
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】指標値取得方法
(51)【国際特許分類】
G01N 19/04 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
G01N19/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088001
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中 美紗登
(72)【発明者】
【氏名】井須 紀文
(72)【発明者】
【氏名】毛利 馨
(57)【要約】
【課題】新規な手法を利用して、基材からのバイオフィルムの剥がれやすさを示す指標値を取得する技術を提供する。
【解決手段】指標値取得方法は、バイオフィルムを基材上に形成することと、前記基材から離れた位置から前記基材上の前記バイオフィルムに向けて水を供給することと、前記基材上の前記バイオフィルムに向けて前記水が供給された後に、前記基材上に残存する前記バイオフィルムを利用して、前記基材からの前記バイオフィルムの剥がれやすさを示す指標値を取得することと、を備えてもよい。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオフィルムを基材上に形成することと、
前記基材から離れた位置から前記基材上の前記バイオフィルムに向けて水を供給することと、
前記基材上の前記バイオフィルムに向けて前記水が供給された後に、前記基材上に残存する前記バイオフィルムを利用して、前記基材からの前記バイオフィルムの剥がれやすさを示す指標値を取得することと、
を備える指標値取得方法。
【請求項2】
前記指標値取得方法は、さらに、
前記バイオフィルムが前記基材上に形成された後に、前記基材を水でゆすぎ洗いすることを備え、
前記基材がゆすぎ洗いされた後に、前記基材上の前記バイオフィルムに向けて水が供給される、請求項1に記載の指標値取得方法。
【請求項3】
前記指標値取得方法は、さらに、
前記基材がゆすぎ洗いされた後に、前記基材を乾燥させることを備え、
前記基材が乾燥された後に、前記基材上の前記バイオフィルムに向けて前記水が供給される、請求項2に記載の指標値取得方法。
【請求項4】
前記基材に向けて供給される前記水の流速は、0.3m/秒以上、及び10m/秒以下である、請求項1に記載の指標値取得方法。
【請求項5】
前記基材から離れた前記位置は、前記基材からの距離が0mより大きく、0.3m以下の位置である、請求項1に記載の指標値取得方法。
【請求項6】
前記指標値を取得することは、
前記基材上に残存する前記バイオフィルムに染色材を付着させることと、
前記染色材が付着された前記バイオフィルムを前記基材から剥離することと、
剥離された前記バイオフィルムを溶液内に浸漬させて前記染色材を前記溶液に溶解させることと、
前記染色材が前記溶液に溶解された後に、前記溶液の吸光度である前記指標値を測定することと、
を備える、請求項1に記載の指標値取得方法。
【請求項7】
前記バイオフィルムを前記基材から剥離することは、水溶性不織布を用いて前記バイオフィルムを前記基材から拭き取ることを備え、
剥離された前記バイオフィルムを前記溶液内に浸漬させることは、前記水溶性不織布を前記溶液内に浸漬させることを備える、請求項6に記載の指標値取得方法。
【請求項8】
前記バイオフィルムを前記基材上に形成することは、前記基材を菌液内に浸漬させて静置させることを備える、請求項1に記載の指標値取得方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、基材からのバイオフィルムの剥がれやすさを示す指標値を取得する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、バイオフィルムの除去方法が開示されている。当該除去方法では、所定の基材上に形成されたバイオフィルムを、ヒドロキシルラジカル生成能を有する液体に曝すことによって、バイオフィルムが除去される。そして、バイオフィルムの除去性が数値化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書では、新規な手法を利用して、基材からのバイオフィルムの剥がれやすさを示す指標値を取得する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書によって開示される指標値取得方法は、バイオフィルムを基材上に形成することと、前記基材から離れた位置から前記基材上の前記バイオフィルムに向けて水を供給することと、前記基材上の前記バイオフィルムに向けて前記水が供給された後に、前記基材上に残存する前記バイオフィルムを利用して、前記基材からの前記バイオフィルムの剥がれやすさを示す指標値を取得することと、を備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】指標値取得方法の一連の手順を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本技術の第1の態様では、指標値取得方法は、バイオフィルムを基材上に形成することと、前記基材から離れた位置から前記基材上の前記バイオフィルムに向けて水を供給することと、前記基材上の前記バイオフィルムに向けて前記水が供給された後に、前記基材上に残存する前記バイオフィルムを利用して、前記基材からの前記バイオフィルムの剥がれやすさを示す指標値を取得することと、を備えてもよい。
【0008】
第2の態様では、上記第1の態様において、前記指標値取得方法は、さらに、前記バイオフィルムが前記基材上に形成された後に、前記基材を水でゆすぎ洗いすることを備えてもよく、前記基材がゆすぎ洗いされた後に、前記基材上の前記バイオフィルムに向けて水が供給されてもよい。
【0009】
第3の態様では、上記第2の態様において、前記指標値取得方法は、さらに、前記基材がゆすぎ洗いされた後に、前記基材を乾燥させることを備えてもよく、前記基材が乾燥された後に、前記基材上の前記バイオフィルムに向けて前記水が供給されてもよい。
【0010】
第4の態様では、上記第1から第3の態様のいずれか一つの態様において、前記基材に向けて供給される前記水の流速は、0.3m/秒以上、及び10m/秒以下であってもよい。
【0011】
第5の態様では、上記第1から第4の態様のいずれか一つの態様において、前記基材から離れた前記位置は、前記基材からの距離が、0mより大きく、0.3m以下の位置であってもよい。
【0012】
第6の態様では、上記第1から第5の態様のいずれか一つの態様において、前記指標値を取得することは、前記基材上に残存する前記バイオフィルムに染色材を付着させることと、前記染色材が付着された前記バイオフィルムを前記基材から剥離することと、剥離された前記バイオフィルムを溶液内に浸漬させて前記染色材を前記溶液に溶解させることと、前記染色材が前記溶液に溶解された後に、前記溶液の吸光度である前記指標値を測定することと、を備えてもよい。
【0013】
第7の態様では、上記第1から第6の態様のいずれか一つの態様において、前記バイオフィルムを前記基材から剥離することは、水溶性不織布を用いて前記バイオフィルムを前記基材から拭き取ることを備えてもよく、剥離された前記バイオフィルムを前記溶液内に浸漬させることは、前記水溶性不織布を前記溶液内に浸漬させることを備えてもよい。
【0014】
第8の態様では、上記第1から第7の態様のいずれか一つの態様において、前記バイオフィルムを前記基材上に形成することは、前記基材を菌液内に浸漬させて静置させることを備えてもよい。
【0015】
(指標値取得方法の各工程:
図1~
図6)
図1~
図6を参照して、基材からのバイオフィルムの剥がれやすさを示す指標値を取得する方法の各工程を説明する。バイオフィルムは、例えば、家庭内の水回りエリアに生じ得る。水回りエリアは、例えば、キッチン、バスルーム、トイレ、洗面化粧室等である。
【0016】
(バイオフィルム形成工程:
図2)
図1のS12において、バイオフィルムを基材上に形成するバイオフィルム形成工程が実施される。具体的には、
図2に示されるように、基材10を容器22の約25~35℃の菌液14内に浸漬させて約24~48時間静置させる。これにより、基材10上にバイオフィルム12が形成される。変形例では、バイオフィルム12は、静置状態の菌液14内ではなく、流動状態の菌液内で形成されてもよい。菌液14は、トリプチケースソイブロス培地(TSB)にスタフィロコッカス属(Staphylococcus)といったグラム陽性菌を添加して調製したものである。菌液濃度は、例えば約1.0×10
3CFU/mLである。変形例では、菌液には他の調製方法が利用されてもよい。バイオフィルム12を形成する菌は、スタフィロコッカス属といったグラム陽性菌に限定されず、グラム陰性菌又は酵母菌(例えば、ロドトルラ属(Rhodotorula))といった他の種類の菌であってもよい。グラム陰性菌には、例えば、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、ブレバンディモナス属(Brevundimonas)、エスケリキア属(Escherichia)、メチロバクテリウム属(Methylobacterium)、シュードモナス属(Pseudomonas)等が挙げられる。培地は、TSB培地に限定されず、例えばLB、R2A、GP、SCD等の培地であってもよい。培地の種類、培養温度、培養時間は、バイオフィルム12を形成する菌の種類に応じて、適宜調整されてよい。
【0017】
(ゆすぎ洗い工程:
図3)
その後、
図1のS14において、基材10を水でゆすぎ洗いするゆすぎ洗い工程が実施される。具体的には、
図3に示されるように、水16を入れた容器24内に基材10を浸漬させ、容器24を数回揺動させる。これにより、基材10上に形成された余分なバイオフィルム12を除去することができ、この結果、基材10上のバイオフィルム12の量を一定化させることができる。このため、指標値を適切に取得することができる。
【0018】
(乾燥工程)
その後、
図1のS16において、基材10を乾燥させる乾燥工程が実施される。乾燥条件は特に限定されず、室温で乾燥させてもよいし、基材10を加温することにより乾燥させてもよい。これにより、ゆすぎ洗いによってバイオフィルム12に水が付着しても、それを乾燥させることができる。このため、バイオフィルム12に残存する水の量によって指標値が変動することを抑制することができる。なお、乾燥工程の後に、基材10を湿潤させる湿潤工程が実施されてもよい。湿潤工程は、例えば、水を入れた容器内に基材10を所定時間浸漬させることによって実施されてもよい。また、乾燥工程と湿潤工程とが複数回に亘って繰り返し実行されてもよい。これにより、実際に水回りエリアで形成されたバイオフィルムが曝される状態を再現できる。
【0019】
(水供給工程:
図4)
その後、
図1のS18において、基材10から離れた位置から基材10上のバイオフィルム12に向けて水を供給する水供給工程が実施される。具体的には、
図4に示されるように、基材10から離れた位置(以下、供給位置と称する)から、電動ピペット26を用いて水17が基材10上のバイオフィルム12に向けて供給される。電動ピペット26は、所定の範囲内で水平方向に移動する。これにより、バイオフィルム12に向けて均一に水17を供給することができる。水供給工程が実行されることにより、バイオフィルム12の少なくとも一部が基材10から剥離される。本実施形態では、実験器具の入手しやすさ及び基材サイズを考慮して電動ピペット26が利用されるが、電動ピペット26とは異なる水供給手段が利用されてもよい。例えば、水供給手段には、シャワー、ホース、ピペット、シリンジ等が利用されてもよい。
【0020】
バイオフィルム12に向けて供給される水17の流速は、約1.8m/秒である。ここで、水17の流速は、0.3m/秒以上であることが好ましい。これより小さい流速では、バイオフィルム12が剥がれ難いので、指標値を適切に取得することができないからである。水17の流速は、10m/秒以下であることが好ましい。これより大きい流速では、バイオフィルム12の大部分が剥がれる可能性があるので、指標値を適切に取得することができないからである。また、0.3m/秒以上、及び10m/秒以下の流速は、家庭用のシャワーが実現可能な流速である。従って、0.3m/秒以上、及び10m/秒以下の流速を採用すれば、家庭用のシャワーが実現可能な流速を利用して、指標値を取得することができる。換言すると、家庭内の水回りエリアに付着したバイオフィルムを家庭用のシャワーによって清掃する際の清掃のしやすさを示す指標値を取得することができる。水17の流速は、2m/秒以下であることがより好ましい。2m/秒以下の流速は、家庭用の通常のシャワーが実現可能な流速であるからである。変形例では、水17の流速は、0.3m/秒よりも遅くてもよいし、10m/秒より速くてもよい。
【0021】
水17の供給位置は、基材10から電動ピペット26の先端までの距離Dが約0.035mである位置である。距離Dは、0mより大きく、約0.3m以下であることが好ましい。基材10上のバイオフィルム12に向けて水17を適切に供給することができるからである。距離Dは、0.2m以下であることがより好ましい。水17をより適切に供給することができるからである。距離Dは、0.02m以上であることがより好ましい。水17をより適切に供給することができるからである。変形例では、距離Dが、0.3mより大きくてもよい。
【0022】
(染色工程)
その後、
図1のS20において、基材10上に残存するバイオフィルム12に染色材を付着させる染色工程が実施される。染色材は、クリスタルバイオレットである。ただし、変形例では、他の染色材(例えばアルシアンブルー、テトラゾリウム塩、コンゴーレッド等)が利用されてもよい。バイオフィルム12は、例えば0.1%クリスタルバイオレット水溶液を用いて染色される。バイオフィルム12が染色された後に、基材10を水で洗浄する。これにより、バイオフィルム12に付着されていない余分な染色材は除去される。ここでの洗浄は、特に限定されないが、S14と同様のゆすぎ洗いが実施されてもよい。
【0023】
(拭き取り工程:
図5)
その後、
図1のS22において、染色材が付着されたバイオフィルム12を基材10から剥離する拭き取り工程が実施される。具体的には、
図5に示されるように、水溶性不織布18を用いてバイオフィルム12を基材10から拭き取ることによって、バイオフィルム12を剥離する。
【0024】
(溶解工程:
図6)
その後、
図1のS24において、剥離されたバイオフィルム12を溶液内に浸漬させて染色材を溶液に溶解させる溶解工程が実施される。具体的には、
図6に示されるように、バイオフィルム12の拭き取りに用いた水溶性不織布18を容器32に入れた溶液20内に浸漬させる。溶液20は、1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液である。変形例では、他の溶液(例えばエタノール、非イオン性界面活性剤(例えばTween(登録商標)20)等)が利用されてもよい。溶解工程が実施されることにより、水溶性不織布18は染色材と共に溶液20に溶解する。これにより、剥離されたバイオフィルム12の全てを溶液20に適切に溶解させることができる。変形例では、バイオフィルム12の拭き取りに用いる不織布は水溶性ではないものであってもよい。この場合、不織布を容器32に入れた溶液20内に浸漬させ、溶液20内で不織布中の染色材をよく溶解させてもよい。この不織布から染色剤を抽出するための溶液は、例えば33%酢酸、95%エタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)等であってよい。
【0025】
(測定工程)
その後、
図1のS26において、溶液の吸光度を測定する測定工程が実施される。当該吸光度は、基材10からのバイオフィルム12の剥がれやすさを示す指標値である。具体的には、例えば570~600nmの波長の光を溶液に照射することによって、吸光度が測定される。吸光度が高いほど、基材10に残存したバイオフィルム12の量が多いことを示す。即ち、吸光度が高いほど、基材10からバイオフィルム12が剥がれ難く、吸光度が低いほど、基材10からバイオフィルム12が剥がれやすい。変形例では、吸光度測定に利用される光の波長は、570nmより小さくてもよいし、600nmより大きくてもよい。
【0026】
上記の各工程によると、新規な手法を利用して、基材10からのバイオフィルム12の剥がれやすさを示す指標値を取得することができる。
【0027】
(実施例:
図7)
図7を参照して、実施例を説明する。
図1に示される指標値取得方法に従って、基材10からのバイオフィルム12の剥がれやすさを示す指標値を取得した。比較例1~3及び実験例1~11では、基材10として、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ソーダガラス、及び、ステンレス(SUS304)のそれぞれを利用した。各基材10は、表面粗さが数nm~200nmレベルで比較的平滑である。各基材10の縦及び横の長さは、3cm×3cmである。
【0028】
バイオフィルム形成工程では、基材10を約35℃の菌液に浸漬させた後に所定時間静置させて、基材10上にバイオフィルム12を形成した。菌液は、1/5TSBに試験菌(Staphylococcus epidermidis ATCC 35984)を添加して調製したものである。比較例1~2及び実験例1~9では、培養時間(静置時間)が24時間であり、比較例3及び実験例10~11では、培養時間が48時間である。比較例1~3及び実験例1~11のいずれでも、バイオフィルム形成工程後、ゆすぎ洗い工程を実施した。
【0029】
比較例1~3では、水供給工程が実施されない。それとともに、比較例1~3では、水供給工程の前処理工程として実施される乾燥工程についても実施されない。実験例1~11では、水供給工程が実施される。実験例1~6では、乾燥工程は実施されず、実験例7~11では、乾燥工程が実施される。実験例11では、さらに、乾燥工程後に、湿潤工程も実施される。湿潤工程の基材10の水への浸漬時間は、約15分である。実験例1~3では、水供給工程における水17の流速が異なる。各実験例1~3の水17の流速は、0.31m/秒、0.91m/秒、1.76m/秒である。実験例4~6は、水供給工程における水17の供給位置が異なる。各実験例4~6の電動ピペット26による水17の供給位置は、基材10から約0.035m、0.070m、0.150mの高さである。実験例7~9は、実験例4~6と同様に、水供給工程における水17の供給位置が異なる。電動ピペット26は、S1 Pipet Filter、Thermo Scientific(登録商標)製である。電動ピペット26の口径は、約3mm(断面積は約7.1mm2)である。供給される水17の量は、20mL及び100mLのいずれかである。電動ピペット26の口径は、約3mm(断面積は約7.1mm2)である。
【0030】
水供給工程の後に、染色工程、拭き取り工程、溶解工程、及び、測定工程を実施した。これにより、各比較例1~3及び各実験例1~11における吸光度(即ち指標値)を取得した。
【0031】
比較例1と実験例1~3とを比較する。バイオフィルム12に向けて水17を供給しない比較例1では、PPの吸光度が0.96と最も低く、PTFE、ソーダガラス、及び、SUS304の吸光度が一様に高い。実験例1では、ソーダガラス及びSUS304と比較して、PP及びPTFEの吸光度が低い。次いでSUS304の吸光度が低く、ソーダガラスの吸光度が最も高い。実験例2~3でも同様に、PP及びPTFEの吸光度が低く、SUS304、ソーダガラスの順に吸光度が高くなる。即ち、基材10に向けて水17を供給する実験例1~3では、バイオフィルム12は、PP及びPTFEから比較的剥がれやすく、SUS304及びソーダガラスから比較的剥がれ難い。この結果は、ユーザが実際に水回りエリアを使用する過程で経験するバイオフィルム12の剥がれやすさと類似する。このように、シャワーで再現可能な速度で水17をバイオフィルム12に供給する実験例1~3の各吸光度は、ユーザが経験するバイオフィルム12の剥がれやすさを示す指標値であると言える。
【0032】
比較例2と実験例7~9とを比較する。比較例2では、ソーダガラスの吸光度が最も低く、PP、SUS304の順に吸光度が高くなる。実験例7では、ソーダガラス及びSUS304と比較してPPの吸光度が低い。実験例8~9でも、ソーダガラス及びSUS304と比較してPPの吸光度が低い。即ち、基材10に向けて水17を供給する実験例7~9では、バイオフィルム12は、PPから比較的剥がれやすく、SUS304及びソーダガラスから比較的剥がれ難い。このように、バイオフィルム12に水17を供給する前に、バイオフィルム12を乾燥する実験例7~9であっても、実験例1~3と同様の結果であった。従って、基材10上のバイオフィルム12に向けて水17を適切に供給できる実験例7~9の各吸光度は、水供給工程前の乾燥の有無に関わらず、ユーザが経験するバイオフィルム12の剥がれやすさを示す指標値であると言える。
【0033】
実験例4~6と実験例7~9とを比較する。実験例7は、水供給位置を除き同条件で実施した実験例4と比較して、ソーダガラスの吸光度が低い。実験例8~9も、水供給位置を除き同条件で実施した実験例5~6と比較して、ソーダガラスの吸光度が低い。即ち、乾燥工程を実施する実験例7~9では、乾燥工程を実施しない実験例4~6よりも、ソーダガラスからバイオフィルム12が剥がれ難い。これは、水供給工程前に、乾燥工程でバイオフィルム12を乾燥させることにより、バイオフィルム12が基材10上に強固に付着したことを意味するものと想定される。一方、乾燥工程を実施しない実験例4~6では、バイオフィルム12に水が残るので、バイオフィルム12が基材10上に強固に付着せず、この結果、バイオフィルム12が剥がれやすくなる。この場合、バイオフィルム12に残存する水の量が多ければ、その後の水供給工程でバイオフィルム12が剥がれ易くなり、当該水の量が少なければ、その後の水供給工程でバイオフィルム12が剥がれにくくなる。即ち、バイオフィルム12に残存する水の量によって指標値が変動してしまう。このため、乾燥工程を実施すれば、指標値が変動することを抑制できると言える。
【0034】
比較例3と実験例10~11とを比較する。比較例3では、PTFE及びソーダガラスと比較して、PP及びSUSの吸光度が低い。乾燥工程を実施する実験例10では、ソーダガラス及びSUS304と比較してPPの吸光度が低い。乾燥工程後に湿潤工程を実施する実験例11でも同様に、ソーダガラス及びSUS304と比較してPPの吸光度が低い。従って、実験例10~11では、乾燥工程後の湿潤工程の実施の有無に関わらず、バイオフィルム12が、PP及びPTFEから比較的剥がれやすく、SUS304及びソーダガラスから比較的剥がれ難い。この結果は、前述の実験例1~9の結果と一致する。
【0035】
前述したように水供給工程を実施しない比較例1~3ではいずれも、ソーダガラス及びSUS304と比較して、PP及びPTFEの吸光度が低いという結果は得られなかった。一方、実験例1~11では、ソーダガラス及びSUS304と比較して、PP及びPTFEの吸光度が低いという結果が再現よく得られた。従って、本指標値取得方法によれば、ユーザが実際に水回りエリアを使用する過程で経験するバイオフィルム12の剥がれやすさを示す指標値を再現よく取得できることが確認された。
【0036】
以上、本明細書が開示する技術の具体例を詳細に説明した。これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。以下に変形例を列挙する。
【0037】
(変形例1)指標値取得方法は、ゆすぎ洗い工程を備えていなくてもよい。
【0038】
(変形例2)指標値取得方法は、ゆすぎ洗い工程の後の乾燥工程を備えていなくてよい。
【0039】
(変形例3)基材10からのバイオフィルム12の剥がれやすさを示す指標値は、吸光度に限定されない。一般的に言うと、指標値は、基材10上のバイオフィルム12に向けて水17が供給された後に、基材10上に残存するバイオフィルム12を利用して取得されるものであればよい。例えば、電子顕微鏡による画像観察によって、基材10の水17が供給される表面の面積と、染色材が付着したバイオフィルム12の面積と、の比率を指標値として取得してもよい。別の変形例では、バイオフィルム12の面積に限定されず、3D画像等によってバイオフィルム12の体積を算出し、その値を指標値として取得してもよい。更なる別の変形例では、指標値は、蛍光染色法を用いて取得されてもよい。この場合、バイオフィルム12は、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)、4’,6-diamidino-2-phenylindole(DAPI)、LIVE/DEAD(登録商標)等により蛍光染色される。更なる別の変形例では、指標値は、バイオフィルム12を染色して取得されなくてもよく、重量測定法(例えば乾燥重量等)、付着細菌数測定法(例えばプレートカウントによるコロニー計測、顕微鏡による細胞計数等)、及び、他の測定法(例えば全有機炭素(TOC)測定法、ATP測定法、総タンパク質測定法等)のいずれかに基づいて取得されてもよい。
【0040】
本明細書、及び図面に説明した技術要素は、単独で、あるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。本明細書及び図面に例示した技術は、複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0041】
10: 基材、12:バイオフィルム、14:菌液、16,17:水、18:水溶性不織布、20:溶液