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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175546
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】耐シガレット性床材
(51)【国際特許分類】
   E04F 15/10 20060101AFI20231205BHJP
   E04F 15/16 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
E04F15/10 104A
E04F15/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088038
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000222495
【氏名又は名称】東リ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(72)【発明者】
【氏名】松下 竜也
【テーマコード(参考)】
2E220
【Fターム(参考)】
2E220AA02
2E220AA16
2E220AB01
2E220BA19
2E220EA02
2E220EA03
2E220GA22X
2E220GA24X
2E220GA26X
2E220GB05X
2E220GB11X
2E220GB13X
2E220GB28X
2E220GB32X
2E220GB33X
2E220GB34X
2E220GB35X
2E220GB36X
2E220GB37X
2E220GB42X
(57)【要約】
【課題】製造効率の向上を図ることができる耐シガレット性床材を提供する。
【解決手段】
耐シガレット性床材1は、意匠が施される意匠層2と、意匠層2の厚み方向において意匠層2の一方側に配置され、意匠層2を覆うコート層4と、厚み方向において意匠層2の他方側に配置され、意匠層2と接触する放熱層5とを備える。コート層4は、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物である。意匠層2は、熱可塑性樹脂を含有する。放熱層5は、熱可塑性樹脂と、意匠層2の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有する放熱材とを含有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
意匠が施される意匠層と、
前記意匠層の厚み方向において前記意匠層の一方側に配置され、前記意匠層を覆うコート層と、
前記厚み方向において前記意匠層の他方側に配置され、前記意匠層と接触する放熱層と
を備え、
前記コート層は、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物であり、
前記意匠層は、熱可塑性樹脂を含有し、
前記放熱層は、
熱可塑性樹脂と、
前記意匠層の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有する放熱材と
を含有する、耐シガレット性床材。
【請求項2】
前記放熱材は、タルク、水酸化アルミニウム、カーボン、酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の耐シガレット性床材。
【請求項3】
前記放熱層中の前記放熱材の割合は、5質量%以上である、請求項1または2に記載の耐シガレット性床材。
【請求項4】
前記放熱層は、さらに、充填材を含有し、
前記放熱材の熱伝導率は、前記充填材の熱伝導率よりも高い、請求項1に記載の耐シガレット性床材。
【請求項5】
前記充填材は、炭酸カルシウムである、請求項4に記載の耐シガレット性床材。
【請求項6】
前記充填材に対する前記放熱材の質量比は、10/90以上、90/10以下である、請求項4または5に記載の耐シガレット性床材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐シガレット性床材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷が施されたパターン層と、金属箔からなり、パターン層と接着されるコア層とを有し、耐シガレット性の向上を図ることができる建築用化粧板が知られている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-37443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される建築用化粧板を製造するには、熱プレス加工により、コア層(金属箔)とパターン層とを接合する。
【0005】
この場合、コア層とパターン層との接合をバッチ式で実施する必要があり、製造効率の向上を図ることが困難である。
【0006】
本発明は、製造効率の向上を図ることができる耐シガレット性床材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明[1]は、意匠が施される意匠層と、前記意匠層の厚み方向において前記意匠層の一方側に配置され、前記意匠層を覆うコート層と、前記厚み方向において前記意匠層の他方側に配置され、前記意匠層と接触する放熱層とを備え、前記コート層は、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物であり、前記意匠層は、熱可塑性樹脂を含有し、前記放熱層は、熱可塑性樹脂と、前記意匠層の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有する放熱材とを含有する、耐シガレット性床材を含む。
【0008】
本発明[2]は、前記放熱材が、タルク、水酸化アルミニウム、カーボン、酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛から選択される少なくとも1種である、上記[1]の耐シガレット性床材を含む。
【0009】
本発明[3]は、前記放熱層中の前記放熱材の割合は、5質量%以上である、上記[1]または[2]の耐シガレット性床材を含む。
【0010】
本発明[4]は、前記放熱層が、さらに、充填材を含有し、前記放熱材の熱伝導率が、前記充填材の熱伝導率よりも高い、上記[1]から[3]のいずれか1つの耐シガレット性床材を含む。
【0011】
本発明[5]は、前記充填材が、炭酸カルシウムである、上記[4]の耐シガレット性床材を含む。
【0012】
本発明[6]は、前記充填材に対する前記放熱材の質量比は、10/90以上、90/10以下である、上記[4]または[5]の耐シガレット性床材を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の耐シガレット性床材によれば、意匠層の他方側に、意匠層と接触する放熱層を有する。意匠層は、熱可塑性樹脂を含有し、放熱層は、熱可塑性樹脂と、意匠層の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有する放熱材とを含有する。
【0014】
そのため、意匠層と放熱層とを、熱ラミネート加工により、連続的にラミネートできる。
【0015】
その結果、耐シガレット性床材の製造効率の向上を図ることができる。
【0016】
さらに、本発明の耐シガレット性床材によれば、意匠層の一方側に、コート層を有する。コート層は、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物であり、耐熱性に優れる。
【0017】
そのため、耐シガレット性床材の表面が加熱された場合、コート層によって、意匠層の変色および変性を防ぎつつ、意匠層に伝わった熱を放熱層に放熱できる。
【0018】
その結果、意匠層の変色および変性を抑制して、耐シガレット性床材の耐シガレット性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の耐シガレット性床材の一実施形態の断面図を示す。
図2図2は、図1に示す耐シガレット性床材の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図3図3は、図2の準備工程において、放熱層の製造方法を説明するための説明図である。
図4図4は、図2のラミネート工程、裁断工程、塗布工程および硬化工程を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.耐シガレット性床材
本発明の耐シガレット性床材について説明する。
【0021】
耐シガレット性床材とは、耐シガレット性を有する樹脂床材を意味する。耐シガレット性とは、火が付いたタバコを床材の上に放置、または、火が付いたタバコを床材の上で揉み消した場合に、タバコの火の熱による床材の変色および変性(変形などすること)を抑制する性能をいう。耐シガレット性は、後述する実施例に記載の方法により、評価される。
【0022】
本発明の樹脂床材は、例えばJIS A5705に規定されるビニル系床材に相当するものであり、床タイル及び床シートが含まれる。床タイルとしては、複層ビニル床タイル、置き敷きビニル床タイル、薄形置き敷きビニル床タイル等が挙げられる。床シートとしては、複層ビニル床シート等が挙げられる。
【0023】
床タイルは、製造時に、正方形、長方形、六角形などの枚葉状に成形されており、施工現場に搬送されて、床面に敷設される。
【0024】
床シートは、ロール状に巻いて保管・搬送され、施工現場で床面に敷設される。
【0025】
耐シガレット性の観点からは、床タイルのほうが床シートよりも好ましい。床タイルは、床シートよりも硬く形成できるので、放熱材や充填材を多く添加でき、耐熱性に優れ、また、厚みが大きいことが多いので、より熱を吸収および分散させ易いからである。
【0026】
図1に示すように、耐シガレット性床材1は、意匠層2と、クリア層3と、コート層4と、放熱層5と、バッキング層6とを備える。具体的には、耐シガレット性床材1は、バッキング層6、放熱層5、意匠層2、クリア層3、コート層4を、厚み方向一方に向かって順に備える。
【0027】
(1)意匠層
意匠層2は、耐シガレット性床材1に意匠を付与するための層である。意匠層2の一方面には、所定の意匠が施される。具体的には、意匠層2は、所定の意匠が施された樹脂シートである。意匠層2として、例えば、印刷フィルムや着色樹脂が挙げられる。印刷フィルムは、樹脂製の原反シートにインクが塗布されることで任意の柄が描かれたものである。着色樹脂は、ポリ塩化ビニルなどの樹脂に、顔料、染料などの着色剤を添加することで任意の色や柄が形成されたものである。着色樹脂は、単色の樹脂シートでもよく、複数色の樹脂チップを配合してもよい。
【0028】
意匠層2の母体樹脂は、熱可塑性樹脂である。言い換えると、意匠層2は、熱可塑性樹脂を含有する。意匠層2は、必要により、可塑剤と、顔料と、添加剤とを含有する。
【0029】
熱可塑性樹脂として、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸エステルが挙げられる。意匠層2の母体樹脂は、好ましくは、ポリ塩化ビニルである。
【0030】
可塑剤は、意匠層2に可塑性を付与する。可塑剤として、例えば、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤などが挙げられる。好ましくは、可塑剤としては、多価カルボン酸系可塑剤が挙げられ、好ましくは、フタル酸エステルが用いられる。フタル酸エステルとして、例えば、フタル酸ジオクチル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニルが挙げられる。
【0031】
意匠層2における可塑剤の配合割合は、限定されない。意匠層2における可塑剤の配合割合は、意匠層2の母体樹脂100質量部に対して、例えば、3質量部以上、好ましくは、5質量部以上であり、例えば、25質量部以下、好ましくは、20質量部以下である。
【0032】
顔料は、意匠層2に隠蔽性および意匠性を付与する。顔料として、例えば、ルチル型酸化チタン、酸化亜鉛が挙げられる。
【0033】
添加剤として、例えば、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、滑剤、発泡剤、抗菌剤、防かび剤などが挙げられる。
【0034】
意匠層2の厚みは、例えば、0.03mm以上、好ましくは、0.05mm以上であり、例えば、0.50mm以下、好ましくは、0.20mm以下である。
【0035】
(2)クリア層
クリア層3は、意匠層2の厚み方向において、意匠層2の一方面上に配置される。クリア層3は、意匠層2の厚み方向において、意匠層2とコート層4との間に配置される。クリア層3は、意匠層2を覆う。クリア層3は、意匠層2の意匠が施された面(一方面)を保護し、床材としての耐久性を高める。耐シガレット性床材1は、クリア層3を備えなくてもよい。
【0036】
クリア層3は、透明または半透明の熱可塑性樹脂からなり、好ましくは、透明である。熱可塑性樹脂として、例えば、上記した熱可塑性樹脂が挙げられる。好ましくは、クリア層3は、ポリ塩化ビニルからなる。クリア層3は、必要により、上記した可塑剤および添加剤を含有する。
【0037】
クリア層3における可塑剤の配合割合は、限定されない。クリア層3における可塑剤の配合割合は、クリア層3の母体樹脂100質量部に対して、例えば、10質量部以上、好ましくは、25質量部以上であり、例えば、50質量部以下、好ましくは、35質量部以下である。
【0038】
耐シガレット性床材1がクリア層3を有する場合、クリア層3を意匠層2よりも厚くすることで、床材としての耐久性を高めることができる。クリア層3の厚みは、例えば、0.05mm以上、好ましくは、0.15mm以上であり、例えば、1.00mm以下、好ましくは、0.50mm以下、より好ましくは、0.25mm以下である。
【0039】
(3)コート層
コート層4は、耐シガレット性床材1の最表層である。コート層4の一方面は、露出している。コート層4は、意匠層2の厚み方向において、クリア層3の一方面上に配置される。言い換えると、コート層4は、意匠層2の厚み方向において、意匠層2の一方側に配置される。コート層4は、クリア層3および意匠層2を覆う。
【0040】
コート層4は、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物である。コート層4が活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物であると、後述するように、各層のラミネート加工および裁断に続いて、塗工、乾燥および硬化を連続的に行うことにより、コート層4を形成できる。そのため、耐シガレット性床材1の生産性を大幅に向上することができる。また、コート層4は、架橋構造を有する。これにより、コート層4は、クリア層3および意匠層2よりも高い耐熱性を有する。
【0041】
活性エネルギー線硬化性樹脂は、荷電粒子線または電磁波の中でモノマー等を架橋、重合させ得るエネルギー量子を有する樹脂、すなわち、電子線または紫外線などを照射することにより、架橋、硬化する樹脂を意味する。活性エネルギー線硬化性樹脂の中でも、透明性に優れ、コート層4を形成し易いという観点から、紫外線硬化性樹脂が好ましい。
【0042】
紫外線硬化性樹脂は、限定されない。紫外線硬化性樹脂として、例えば、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、エポキシ系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂、シリコーンアクリレート系樹脂が挙げられる。
【0043】
ポリ塩化ビニルを含有するクリア層3に対する密着性に優れつつ、耐久性、耐光性、屈曲性、柔軟性にも優れることから、紫外線硬化性樹脂として、ウレタンアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、および、シリコーンアクリレート系樹脂が好ましく、特に、ウレタンアクリレート系樹脂が好ましい。
【0044】
また、紫外線硬化性樹脂は、シリコン変性ウレタン(メタ)アクリレート樹脂およびフッ素変性ウレタン(メタ)アクリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種類を含有してもよい。
【0045】
紫外線硬化性樹脂がシリコーン変性ウレタン(メタ)アクリレート樹脂およびフッ素変性ウレタン(メタ)アクリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種類を含有していると、シリコーンおよびフッ素が有する摺動性および撥水・撥油性によって、コート層4の表面に汚れが付着することを抑制でき、コート層4の表面に付着した汚れを容易に除去できる。
【0046】
コート層4は、物性向上のために、充填材を含有してもよい。コート層4に含有される充填材として、例えば、無機粒子、および、有機粒子が挙げられる。無機粒子として、例えば、アルミナ、シリカ、ガラスビーズが挙げられる。有機粒子として、例えば、セルロースが挙げられる。
【0047】
コート層4にタバコの熱への耐熱性、および、耐久性を付与できることから、コート層4は、好ましくは、無機粒子を含有する。
【0048】
無機粒子の含有割合は、コート層4の母体樹脂(すなわち、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物)100質量部に対して、例えば、5質量部以上、好ましくは、20質量部以上、より好ましくは、30質量部以上であり、例えば、50質量部以下、好ましくは、40質量部以下、より好ましくは、35質量部以下である。
【0049】
耐シガレット性床材1がクリア層3を有する場合、コート層4は、例えば、クリア層3よりも薄い。コート層4の厚みは、例えば、0.01mm以上、好ましくは、0.02mm以上であり、例えば、0.05mm以下、好ましくは、0.04mm以下である。
【0050】
(4)放熱層
放熱層5は、意匠層2の厚み方向において、意匠層2の他方面上に配置される。言い換えると、放熱層5は、意匠層2の厚み方向において、意匠層2の他方側に配置される。放熱層5は、意匠層2の厚み方向において、意匠層2に対してコート層2の反対側に配置される。放熱層5は、意匠層2の厚み方向において、意匠層2とバッキング層6との間に配置される。放熱層5は、意匠層2と接触する。意匠層2の温度が上昇した場合、放熱層5は、意匠層2の熱を奪う。言い換えると、意匠層2の熱は、放熱層5に放熱される。これにより、放熱層5は、意匠層2の温度が上昇することを抑制する。
【0051】
放熱層5の厚みは、限定されない。放熱層5は、例えば、意匠層2よりも厚い。放熱層5は、例えば、意匠層2、クリア層3およびコート層4のそれぞれの厚みの総和よりも厚い。放熱層5が他の層に比べて厚いと、放熱効果に優れる。そのため、意匠層2の変色および変性を、より抑制できる。
【0052】
放熱層5の厚みは、例えば、0.1mm以上、好ましくは、0.5mm以上であり、例えば、2.0mm以下、好ましくは、1.5mm以下である。
【0053】
放熱層5は、熱可塑性樹脂と、放熱材と、必要により、充填材と、上記した可塑剤と、上記した添加剤とを含有する。
【0054】
なお、放熱層5における可塑剤の配合割合は、放熱層5の母体樹脂100質量部に対して、例えば、5質量部以上、好ましくは、10質量部以上であり、例えば、100質量部以下、好ましくは、60質量部以下である。
【0055】
(4-1)熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂は、放熱層5の母体樹脂である。熱可塑性樹脂として、例えば、上記した熱可塑性樹脂が挙げられる。放熱層5の母体樹脂は、好ましくは、ポリ塩化ビニルである。
【0056】
放熱層5中の熱可塑性樹脂の割合は、例えば、10質量%以上、好ましくは、15質量%以上であり、例えば、40質量%以下、好ましくは、30質量%以下である。
【0057】
(4-2)放熱材
放熱材は、放熱層5の熱伝導性を向上させる。放熱材は、放熱層5の母体樹脂中に分散している。
【0058】
放熱材の熱伝導率は、意匠層2の熱伝導率よりも高い。そのため、意匠層2の温度が上昇した場合、意匠層2の熱は、放熱層5に放熱される。その結果、加熱による意匠層2の変色および変性を抑制して、耐シガレット性床材1の耐シガレット性を向上させることができる。また、放熱材の熱伝導率は、放熱層5中の充填材の熱伝導率よりも高い。
【0059】
放熱材の熱伝導率は、例えば、1W/m・K以上、好ましくは、2W/m・K以上であり、例えば、200W/m・K以下である。
【0060】
具体的には、放熱材は、タルク、水酸化アルミニウム、カーボン、酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛から選択される少なくとも1種である。放熱材は、好ましくは、タルクおよび水酸化アルミニウムから選択される少なくとも1種、より好ましくは、タルクである。放熱材がタルクであると、加工性に優れ、コストの増大を抑制しつつ、耐シガレット性の向上を図ることができる。また、放熱材がタルクであると、カレンダー成形により、放熱層5を容易に成形できる。
【0061】
放熱材の形態は、放熱層5の母体樹脂中に分散できれば、限定されない。具体的には、放熱材は、粉粒体である。放熱材の粒子の形状も、限定されない。放熱材の粒子の形状として、例えば、球状、楕円形状、鱗片状が挙げられる。
【0062】
なお、上記した特許文献1に記載される建築用化粧板のように、耐シガレット性を発揮するために金属箔を用いると、製造時の端材や使用後の製品をリサイクルすることが困難であり、産業廃棄物として廃棄されることが多い。製造時の端材や使用後の製品をリサイクルするには、金属箔を基材などから分離したり、細かく裁断する必要があるなど、廃棄に手間がかかるからである。
【0063】
この点、本実施形態の耐シガレット性床材1は、放熱層5中の放熱材が粉粒体であるため、放熱層5を他の層から分離せずに、そのままリサイクルすることができる。
【0064】
そのため、製造時の端材や使用後の製品が産業廃棄物として廃棄されることを抑制でき、環境負荷の低減を図ることができる。
【0065】
放熱材の粒径は、例えば、5μm以上、好ましくは、10μm以上、より好ましくは、15μm以上であり、例えば、100μm以下、好ましくは、50μm以下、より好ましくは、20μm以下である。なお、本明細書において、「粒径」とは、体積平均径(MV)を意味する。
【0066】
放熱材の粒径が上記下限値以上であれば、放熱層5を製造するときの加工性および取り扱い性の向上を図ることができる。放熱材の粒径が上記上限値以下であれば、放熱材の母体樹脂中への分散性を確保でき、放熱層5を製造するときに放熱材が製造設備を傷付けることを抑制できる。
【0067】
放熱層5中の放熱材の割合は、例えば、5質量%以上、好ましくは、10質量%以上、好ましくは、15質量%以上である。放熱層5中の放熱材の割合が5質量%以上であると、耐シガレット性床材1の耐シガレット性を向上させることができる。放熱層5中の放熱材の割合が10質量%以上であると、耐シガレット性床材1に、十分な耐シガレット性を付与できる。
【0068】
放熱層5中の放熱材の割合は、例えば、20質量%以下である。放熱層5中の放熱材の割合が20質量%以下であると、耐シガレット性床材1の材料コストの増大を抑制できる。
【0069】
(4-3)充填材
充填材は、放熱材とともに、放熱層5の母体樹脂中に分散している。充填材は、放熱材の放熱性を担保しつつ、放熱層5の加工性を向上させ、寸法安定性を高める。
【0070】
充填材の熱伝導率は、放熱層5中の放熱材の熱伝導率よりも低い。充填材の熱伝導率は、好ましくは、意匠層2の熱伝導率よりも高い。
【0071】
充填材の熱伝導率は、例えば、0.1W/m・K以上、好ましくは、0.5W/m・K以上であり、例えば、100W/m・K以下である。
【0072】
充填材として、例えば、上記した放熱材以外の無機粒子が挙げられる。無機粒子として、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、カオリン、シリカ、パーライト、アルミナ、マイカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素が挙げられる。また、主成分がシリカおよびアルミナである火山灰も、無機粒子として用いることができる。充填材は、好ましくは、炭酸カルシウムである。充填材が炭酸カルシウムであると、耐シガレット性床材1の寸法変化を抑制し、材料コストの増大を抑制できる。
【0073】
充填材の粒径は、例えば、5μm以上、好ましくは、10μm以上であり、例えば、400μm以下、好ましくは、100μm以下、より好ましくは、30μm以下である。
【0074】
また、充填材の粒径と放熱材の粒径との差は、例えば、200μm以下、好ましくは、100μm以下、より好ましくは、30μm以下である。充填材の粒径と放熱材の粒径との差は、0であってもよい。
【0075】
充填材の粒径と放熱材の粒径との差が上記上限値以下であれば、放熱層5の製造時において、充填材および放熱材の母体樹脂への分散性を向上させることができ、耐シガレット性床材1の耐シガレット性の向上を図ることができる。
【0076】
放熱層5中の充填材の割合は、例えば、5質量%以上、好ましくは、10質量%以上、より好ましくは、30質量%以上、より好ましくは、50質量%以上である。放熱材がタルクである場合、放熱層5中の充填材の割合が5質量%以上であると、加工性を向上させることができる。放熱材が水酸化アルミニウムである場合、放熱層5中の充填材の割合が10質量%以上であると、加工性を向上させることができる。放熱材が酸化マグネシウムまたは酸化亜鉛である場合、放熱層5中の充填材の割合が30質量%以上であると、加工性を向上させることができる。放熱材がカーボンである場合、放熱層5中の充填材の割合が50質量%以上であると、加工性を向上させることができる。また、放熱層5中の充填材の割合が30質量%以上であると、耐シガレット性床材1の寸法変化を抑制し、材料コストの増大を抑制できる。
【0077】
放熱層5中の充填材の割合の上限値は、放熱層5中に放熱材を配合できれば、限定されない。放熱層5中の充填材の割合は、例えば、80質量%以下、好ましくは、60質量%以下、より好ましくは、55質量%以下、含有される。放熱層5中の充填材の割合が80質量%以下であると、放熱材の配合割合を確保でき、耐シガレット性床材1の耐シガレット性を向上させることができる。放熱層5中の充填材の割合が60質量%以下であると、放熱材の配合割合をより確保でき、耐シガレット性床材1の耐シガレット性をより向上させることができる。放熱層5中の充填材の割合が55質量%以下であると、放熱材の配合割合を十分に確保でき、耐シガレット性床材1に、十分な耐シガレット性を付与できる。
【0078】
また、充填材に対する放熱材の質量比(放熱層5中の放熱材の質量/放熱層5中の充填材の質量)は、例えば、10/90以上、好ましくは、20/80以上である。充填材に対する放熱材の質量比が10/90以上であると、耐シガレット性床材1の耐シガレット性を向上させることができる。充填材に対する放熱材の質量比が20/80以上であると、耐シガレット性床材1に、十分な耐シガレット性を付与できる。
【0079】
充填材に対する放熱材の質量比(放熱層5中の放熱材の質量/放熱層5中の充填材の質量)は、例えば、90/10以下、好ましくは、80/20以下、より好ましくは、50/50以下、より好ましくは、30/70未満である。充填材に対する放熱材の質量比が90/10以下であると、カレンダー成形により、放熱層5を成形できる。充填材に対する放熱材の質量比が80/20以下であると、カレンダー成形により、容易に、放熱層5を成形できる。
【0080】
充填材に対する放熱材の質量比が上記下限値以上、上記上限値以下であれば、放熱性および加工性を両立できる。
【0081】
(5)バッキング層
バッキング層6は、放熱層5、意匠層2、クリア層3およびコート層4を支持する。バッキング層6は、意匠層2の厚み方向において、放熱層5の他方面上に配置される。バッキング層6は、意匠層2の厚み方向において、放熱層5に対して、意匠層2の反対側に配置される。なお、耐シガレット性床材1は、バッキング層6を備えなくてもよい。
【0082】
バッキング層6は、母体樹脂としての上記した熱可塑性樹脂と、必要により、上記した充填材と、上記した可塑剤とを含有する。バッキング層6の母体樹脂は、好ましくは、ポリ塩化ビニルである。バッキング層6中の充填材は、好ましくは、炭酸カルシウムである。
【0083】
なお、図1では、バッキング層6が単層の例を示しているが、これに限定されず、バッキング層6は、複数の層からなってもよい。また、バッキング層6が複数の層からなる場合、バッキング層6は、繊維補強層を含んでもよい。例えば、繊維補強層は、厚み方向において、バッキング層6の中央部に位置する。繊維補強層は、不織布でもよく、織布でもよい。耐熱性に優れ、寸法変化の抑制効果が高いことから、繊維補強層は、ガラス繊維を含む不織布が好ましく、さらに、繊維がガラス繊維のみからなる不織布がより好ましい。
【0084】
バッキング層6の厚みは、例えば、1.0mm以上、好ましくは、2.0mm以上であり、例えば、7.0mm以下、好ましくは、5.0mm以下である。
【0085】
2.耐シガレット性床材の製造方法
次に、耐シガレット性床材の製造方法について説明する。
【0086】
図2に示すように、耐シガレット性床材の製造方法は、例えば、準備工程(S1)と、ラミネート工程(S2)と、裁断工程(S3)と、塗布工程(S4)と、硬化工程(S5)とを含む。
【0087】
(1)準備工程
準備工程では、意匠層2、放熱層5、および、バッキング層6を準備する。
【0088】
意匠層2を準備するには、例えば、所定の意匠が施された市販の樹脂シートを購入することができる。なお、購入した意匠層2には、クリア層3が設けられていてもよい。購入した意匠層2にクリア層3が設けられていない場合、上記したクリア層3を、意匠層2にラミネートしてもよい。また、意匠層2を準備するには、上記した意匠層2の材料から、後述するカレンダー成形によって意匠層2を成形し、所定の意匠を施してもよい。
【0089】
放熱層5を準備するには、図3に示すように、カレンダー成形により、放熱層5を成形する。詳しくは、上記した放熱層5の材料をバンバリーミキサー11で、例えば、140℃~170℃に加熱しつつ、混合する。
【0090】
次に、得られた混合物を、ミルロール12で、例えば、140℃~190℃に加熱しつつ、混錬する。
【0091】
次に、得られた混練物を、カレンダーロール13で、例えば、140℃~170℃に加熱しつつ、シート状に成形し、放熱材を含有する樹脂シートを放熱層5として得る。
【0092】
また、バッキング層6を準備するには、上記したバッキング層6の材料から、上記したカレンダー成形によって、バッキング層6を成形する。
【0093】
(2)ラミネート工程
ラミネート工程では、準備工程で得られた意匠層2、放熱層5、および、バッキング層6を、熱ラミネート加工により、ラミネートする。
【0094】
詳しくは、図4に示すように、バッキング層6の上に、放熱層5をラミネートし、次いで、放熱層5の上に、意匠層2をラミネートする。
【0095】
なお、放熱層5の上に意匠層2をラミネートした後、必要により、意匠層2の上にクリア層3をラミネートしてもよい。
【0096】
放熱層5が熱可塑性樹脂を含有していることにより、加熱および押圧によって、放熱層5を、意匠層2およびバッキング層6と接合できる。特に、バッキング層6、放熱層5、意匠層2およびクリア層3の熱可塑性樹脂がポリ塩化ビニルである場合、加熱および押圧によって、各層を容易に接合でき、剥離強度の向上を図ることができる。
【0097】
ラミネート工程では、ロール・トゥ・ロールで各層をラミネートする。これにより、バッキング層6、放熱層5、意匠層2およびクリア層3の積層体を、連続的に製造することができる。
【0098】
(3)裁断工程
裁断工程は、ラミネート工程の後、塗布工程の前に、必要により、実施される。裁断工程では、得られた積層体を、所定の形状、および、所定のサイズに裁断する。積層体を裁断するには、例えば、裁断機20で積層体を裁断する。この裁断は、サークルカット、ギロチンカットなどが挙げられる。
【0099】
なお、塗布工程の前の裁断工程は、床材が床タイルの場合に必要であるが、床シートの場合は不要である。床材が床シートの場合、ラミネート工程の後、裁断されずに塗布工程および硬化工程を経て、巻きとられた状態で保管される。床材が床シートの場合、硬化工程の後、巻き取られる前、または、巻きとられた後に、幅方向における床シートの両端部が裁断されて、幅寸法が整えられる。
【0100】
(4)塗布工程
塗布工程では、塗工装置21を用いて、得られた積層体のクリア層3に、コート層4の前駆体(活性エネルギー線硬化性樹脂を含有する塗工液)を塗布する。
【0101】
なお、塗工装置21は、限定されない。塗工装置21として、例えば、バーコーター、スリットダイコーター、ロールコーターが挙げられる。
【0102】
(5)硬化工程
硬化工程では、紫外線照射装置22を用いて、塗布工程で積層体に塗布された塗工液を、乾燥し、硬化させる。これにより、クリア層3の上にコート層4が形成される。
【0103】
以上の工程により、耐シガレット性床材の製造が完了する。
【0104】
3.作用効果
耐シガレット性床材1によれば、図1に示すように、意匠層2の他方側に、意匠層2と接触する放熱層5を有する。意匠層2は、熱可塑性樹脂を含有し、放熱層5は、熱可塑性樹脂と、意匠層2の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有する放熱材とを含有する。
【0105】
そのため、図4に示すように、意匠層2と放熱層5とを、熱ラミネート加工により、連続的にラミネートできる。
【0106】
その結果、耐シガレット性床材1の製造効率の向上を図ることができる。
【0107】
さらに、耐シガレット性床材1によれば、図1に示すように、意匠層2の一方側に、コート層4を有する。コート層4は、活性エネルギー線硬化性樹脂の硬化物であり、耐熱性に優れる。
【0108】
そのため、耐シガレット性床材1の表面が加熱された場合、コート層4によって、意匠層の変色および変性を防ぎつつ、意匠層2に伝わった熱を放熱層5に放熱できる。
【0109】
その結果、意匠層2の変色および変性を抑制して、耐シガレット性床材1耐シガレット性の向上を図ることができる。
【実施例0110】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、それらに限定されない。以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。
【0111】
1.ポリ塩化ビニルシートの製造(準備工程)
(1)比較例
比較例として、通常の(つまり、放熱層ではない)ポリ塩化ビニルシートを製造した。
【0112】
表1に示す配合部数で、ポリ塩化ビニル(熱可塑性樹脂)と、粒径が約13μmの炭酸カルシウム(充填材)と、フタル酸ジオクチル(可塑剤)と、添加剤(着色顔料、加工助剤、熱安定剤)とを、バンバリーミキサーを用いて、140℃~170℃で混合した。
【0113】
得られた混合物を、ミルロールを用いて、140℃~190℃に加熱しつつ、混練した。
【0114】
得られた混練物を、カレンダーロール(温度:140℃~170℃)を用いて、シート状に成形し、厚み0.7mmのポリ塩化ビニルシートを得た。
【0115】
(2)実施例1~50
炭酸カルシウムの一部を表1~5に示す放熱材(いずれも、粒径約16μm)に変更した以外は、比較例と同様にして、放熱層としてのポリ塩化ビニルシートを製造した。
【0116】
放熱層を製造するときの製造し易さ(加工性)を、比較例と比較して、以下の評価基準で評価した。
【0117】
<評価基準>
○:比較例と同様にシートとして製造可能である。
【0118】
△:比較例と比べて、シートには成形できるものの、得られたシートの表面平滑性の点で加工性が劣る。
【0119】
×:孔が空くなどシートとして成形できず製造不可。
【0120】
2.床材の製造
バッキング層(ポリ塩化ビニル、厚み:4mm)の上に、比較例および各実施例のポリ塩化ビニルシート、意匠層(ポリ塩化ビニル、厚み:0.07mm)、および、クリア層(ポリ塩化ビニル、厚み:0.2mm)を、順にラミネートして、バッキング層、比較例および各実施例のポリ塩化ビニルシート、意匠層、および、クリア層の積層体を得た(ラミネート工程)。
【0121】
次に、得られた積層体のクリア層に、紫外線硬化樹脂(ポリメディックSK-0910-2、DIC株式会社製)を含有する塗工液を塗布した(塗布工程)。
【0122】
次に、塗工液を乾燥し、得られた塗膜に紫外線を照射して、硬化させた(硬化工程)。これにより、クリア層の上にコート層を形成し、床材を得た。
【0123】
3.耐シガレット性の評価
比較例および各実施例の床材について、以下の方法により、耐シガレット性を評価した。
【0124】
得られた床材から切り出した試験片(9.5mm×9.5mm)の上に、火が付いたタバコを3分間放置した(試験A)。
【0125】
また、得られた床材から切り出した試験片(9.5mm×9.5mm)で、火が付いたタバコを、5秒間揉み消した(試験B)。
【0126】
試験後の試験片の状態を、以下の評価基準で評価した。以下の評価基準において、表面の変化とは、変色及び変性を意味する。結果を表1~5に示す。
【0127】
<評価基準>
○:試験Aおよび試験Bのいずれにおいても、表面にほぼ変化なし。
【0128】
△:試験Aおよび試験Bのいずれかにおいて、表面に少し変化あり。
【0129】
×:試験Aおよび試験Bのいずれかにおいて、表面に大きな変化あり。
【0130】
【表1】
【0131】
【表2】
【0132】
【表3】
【0133】
【表4】
【0134】
【表5】
【符号の説明】
【0135】
1 耐シガレット性床材
2 意匠層
4 コート層
5 放熱層
図1
図2
図3
図4