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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175556
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】水素昇圧容器及び水素昇圧システム
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
F17C11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088057
(22)【出願日】2022-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 彰利
(72)【発明者】
【氏名】緒方 健人
(72)【発明者】
【氏名】村上 和希
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA10
3E172FA04
3E172FA23
3E172FA27
3E172JA09
(57)【要約】
【課題】本発明は、水素吸蔵合金の加熱及び冷却の効率を高めることができ、ひいては水素を効率的に昇圧することが可能な水素昇圧容器を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る水素昇圧容器は、水素流路、及び上記水素流路の周囲に配置され、上記水素流路を流通する水素を吸蔵可能な水素吸蔵合金を有する水素流通プレートと、上記水素流通プレートに積層され、上記水素吸蔵合金を冷却するための冷媒及び上記水素吸蔵合金を加熱するための温媒の少なくとも一方が流通する熱媒流路を有する熱媒プレートとを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素流路、及び上記水素流路の周囲に配置され、上記水素流路を流通する水素を吸蔵可能な水素吸蔵合金を有する水素流通プレートと、
上記水素流通プレートに積層され、上記水素吸蔵合金を冷却するための冷媒及び上記水素吸蔵合金を加熱するための温媒の少なくとも一方が流通する熱媒流路を有する熱媒プレートと
を備える水素昇圧容器。
【請求項2】
上記熱媒流路は、上記冷媒及び上記温媒が切り替え可能に流通するように設けられている請求項1に記載の水素昇圧容器。
【請求項3】
上記水素流通プレートの両面に上記熱媒プレートが積層されている請求項1又は請求項2に記載の水素昇圧容器。
【請求項4】
上記水素流通プレートの両面に上記熱媒プレートが積層された2以上の単位積層構造を備える請求項3に記載の水素昇圧容器。
【請求項5】
上記水素流路の平均径が上記熱媒流路の平均径より小さく、かつ上記熱媒流路の平均径が1mm以上5mm以下である請求項1又は請求項2に記載の水素昇圧容器。
【請求項6】
上記熱媒流路が、上記熱媒プレート内で蛇行している請求項1又は請求項2に記載の水素昇圧容器。
【請求項7】
上記水路流路が直線状である請求項1又は請求項2に記載の水素昇圧容器。
【請求項8】
上記水素吸蔵合金が樹脂中に保持されている複合化層を備える請求項1又は請求項2に記載の水素昇圧容器。
【請求項9】
上記複合化層が、上記水素流路の周囲を取り囲んでいる請求項8に記載の水素昇圧容器。
【請求項10】
請求項1に記載の水素昇圧容器を備える水素昇圧システム。
【請求項11】
一対の上記水素昇圧容器を備えており、
上記一対の水素昇圧容器における水素の吸蔵及び昇圧を独立して制御可能な制御部をさらに備える請求項10に記載の水素昇圧システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素昇圧容器及び水素昇圧システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素エネルギーの利用が進む中で、例えば燃料電池自動車(FCV)をはじめとするモビリティの燃料としての水素の利用が拡大しつつある。モビリティ用途で水素を使用する場合、モビリティ内に高圧水素を貯蔵しておくことが一般的である。このため、モビリティに水素を供給するための水素供給装置には、高圧水素を放出するための圧縮機構が必要とされる。
【0003】
また、今日では、カーボンニュートラルを実現するために、二酸化炭素を回収して化成品の原料とするプロセスが検討されている。かかるプロセスでは、一般に、二酸化炭素の還元剤として水素が使用される。二酸化炭素と反応させる観点からは、水素は高圧であることが望まれる。
【0004】
今日では、一般に、高圧水素の放出には機械駆動による水素圧縮機が用いられる。機械駆動による水素圧縮機としては、レシプロ式、油圧ブースター式、ダイヤフラム式等が存在するが、いずれも駆動部を有しており、定期的に消耗品のメンテナンスを行うことを要する。
【0005】
このような観点から、水素吸蔵合金を用いた静的機構による化学式圧縮機が提案されてる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-211646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には、筒状の水素貯蔵タンクの周壁の内側に水素貯蔵合金容器が配置され、水素貯蔵タンクの周壁の外側に熱交換器が配置された水素昇圧貯蔵システムが記載されている。特許文献1には、水素貯蔵合金容器に水素吸蔵合金が収容され、水素貯蔵合金容器の内側に高圧水素を貯蔵する空間が形成されていることが記載されている。特許文献1には、水素貯蔵合金容器に低圧水素を導入すると共に、熱交換器に冷却媒体を導入し、水素吸蔵合金に水素を吸蔵させることが記載されている。また、特許文献1には、熱交換器に加熱媒体を導入し、水素吸蔵合金に吸蔵されている水素を空間に放出することで、水素吸蔵合金で昇圧可能な圧力までに、空間内に水素を昇圧して貯蔵できることが記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されている構成によっては、水素吸蔵合金の加熱及び冷却の効率を十分に高め難い。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、水素吸蔵合金の加熱及び冷却の効率を高めることができ、ひいては水素を効率的に昇圧することが可能な水素昇圧容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る水素昇圧容器は、水素流路、及び上記水素流路の周囲に配置され、上記水素流路を流通する水素を吸蔵可能な水素吸蔵合金を有する水素流通プレートと、上記水素流通プレートに積層され、上記水素吸蔵合金を冷却するための冷媒及び上記水素吸蔵合金を加熱するための温媒の少なくとも一方が流通する熱媒流路を有する熱媒プレートとを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様に係る水素昇圧容器は、水素吸蔵合金の加熱及び冷却の効率を高めることができ、ひいては水素を効率的に昇圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る水素昇圧容器における水素流通プレート及び熱媒プレートの積層構造の一例を示す模式図である。
図2図2は、図1の水素流通プレートにおける水素流路の配置を示すII-II線断面図である。
図3図3は、図2の水素流通プレートのIII-III線断面図である。
図4図4は、図3の水素流通プレートにおける水素流路及び複合化層の模式的拡大断面図である。
図5図5は、図1の熱媒プレートにおける熱媒流路の配置を示すV-V線断面図である。
図6図6は、図1の水素昇圧容器とは異なる形態に係る水素昇圧容器における水素流通プレート及び熱媒プレートの積層構造を示す模式図である。
図7図7は、本発明の一実施形態に係る水素昇圧システムを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0014】
本発明の一態様に係る水素昇圧容器は、水素流路、及び上記水素流路の周囲に配置され、上記水素流路を流通する水素を吸蔵可能な水素吸蔵合金を有する水素流通プレートと、上記水素流通プレートに積層され、上記水素吸蔵合金を冷却するための冷媒及び上記水素吸蔵合金を加熱するための温媒の少なくとも一方が流通する熱媒流路を有する熱媒プレートとを備える。
【0015】
当該水素昇圧容器は、上記水素流通プレートに上記熱媒プレートが積層されているので、上記水素吸蔵合金の熱交換効率を高めることができる。その結果、当該水素昇圧容器によると、上記水素吸蔵合金の加熱及び冷却の効率を高めることができ、ひいては水素を効率的に昇圧することができる。
【0016】
上記熱媒流路は、上記冷媒及び上記温媒が切り替え可能に流通するように設けられているとよい。このように、上記熱媒流路が、上記冷媒及び上記温媒が切り替え可能に流通するように設けられていることによって、上記水素吸蔵合金の加熱及び冷却を容易かつ確実に行うことができる。
【0017】
上記水素流通プレートの両面に上記熱媒プレートが積層されているとよい。このように、上記水素流通プレートの両面に上記熱媒プレートが積層されていることによって、上記水素吸蔵合金の加熱及び冷却の効率を容易かつ確実に高めることができる。
【0018】
当該水素昇圧容器は、上記水素流通プレートの両面に上記熱媒プレートが積層された2以上の単位積層構造を備えるとよい。このように、上記水素流通プレートの両面に上記熱媒プレートが積層された2以上の単位積層構造を備えることによって、水素の貯蔵量及び放出量を大きくしやすい。
【0019】
上記水素流路の平均径が上記熱媒流路の平均径より小さく、かつ上記熱媒流路の平均径が1mm以上5mm以下であるとよい。このように、上記水素流路の平均径が上記熱媒流路の平均径より小さく、かつ上記熱媒流路の平均径が上記範囲内であることによって、上記水素流路を上記水素流通プレートに緻密に配置し、かつ上記熱媒流路を上記熱媒プレートに緻密に配置することができる。その結果、水素の昇圧効率をより高めることができる。
【0020】
上記熱媒流路が、上記熱媒プレート内で蛇行しているとよい。このように、上記熱媒流路が、上記熱媒プレート内で蛇行していることによって、上記水素吸蔵合金の熱交換効率をより高めることができる。
【0021】
上記水路流路が直線状であるとよい。このように、上記水路流路が直線状であることによって、上記水路流路の周囲に上記水素吸蔵合金を容易に配置することができる。
【0022】
当該水素昇圧容器は、上記水素吸蔵合金が樹脂中に保持されている複合化層を備えるとよい。このように、上記水素吸蔵合金が樹脂中に保持されている複合化層を備えることによって、上記水素吸蔵合金によって上記水素流路を介して水素を容易かつ確実に吸蔵及び放出することができる。
【0023】
上記複合化層が、上記水素流路の周囲を取り囲んでいるとよい。このように、上記複合化層が、上記水素流路の周囲を取り囲んでいることによって、上記水素吸蔵合金によって上記水素流路を介して水素をより容易かつ確実に吸蔵及び放出することができる。
【0024】
本発明の別の一態様に係る水素昇圧システムは、当該水素昇圧容器を備える。
【0025】
当該水素昇圧システムは、当該水素昇圧容器を備えるので、水素吸蔵合金の加熱及び冷却の効率を高めることができ、ひいては水素を効率的に昇圧することができる。
【0026】
当該水素昇圧システムは、一対の上記水素昇圧容器を備えており、上記一対の水素昇圧容器における水素の吸蔵及び昇圧を独立して制御可能な制御部をさらに備えるとよい。このように、一対の上記水素昇圧容器を備えており、上記一対の水素昇圧容器における水素の吸蔵及び昇圧を独立して制御可能な制御部をさらに備えることによって、水素の貯蔵と高圧水素の放出とを安定的に行うことができる。
【0027】
なお、本発明において、「平均径」とは、任意の5点の径の平均値を意味する。
【0028】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳説する。なお、本明細書に記載されている数値については、記載された上限値と下限値とを任意に組み合わせることが可能である。本明細書では、組み合わせ可能な上限値から下限値までの数値範囲が好適な範囲として全て記載されているものとする。
【0029】
[水素昇圧容器]
図1から図5に示すように、当該水素昇圧容器10は、水素流路21及び水素流路21の周囲に配置され、水素流路21を流通する水素を吸蔵可能な水素吸蔵合金22を有する水素流通プレート20と、水素流通プレート20に積層され、水素吸蔵合金22を冷却するための冷媒及び水素吸蔵合金22を加熱するための温媒の少なくとも一方が流通する熱媒流路31を有する熱媒プレート30とを備える。なお、図1から図5は、当該水素昇圧容器10の一例であって、例えば水素流通プレート20及び熱媒プレート30の総数は、図1の数に限定されない。
【0030】
当該水素昇圧容器10は、複数の水素流通プレート20と複数の熱媒プレート30との積層構造を有する。上記積層構造における水素流通プレート20と熱媒プレート30との総数の下限としては、10が好ましく、50がより好ましく、100がさらに好ましく、200が特に好ましい。上記総数が上記下限に満たないと、水素の貯蔵量及び放出量を十分に大きくし難くなるおそれがある。一方、上記積層構造における水素流通プレート20と熱媒プレート30との総数の上限としては、特に限定されるものではないが、当該水素昇圧容器10の製造の容易化や取扱性等の観点から、例えば700が好ましく、600がより好ましい。
【0031】
水素流通プレート20と熱媒プレート30とは、直接(他のプレート等を介さずに)積層されている。当該水素昇圧容器10は、水素流通プレート20の両面に熱媒プレート30が積層されている。つまり、当該水素昇圧容器10は、その両面に熱媒プレート30が積層されている少なくとも1つの水素流通プレート20を備える。このように構成されていることで、当該水素昇圧容器10は、水素吸蔵合金22の加熱及び冷却の効率を容易かつ確実に高めることができる。
【0032】
図1に示すように、当該水素昇圧容器10は、水素流通プレート20の両面に熱媒プレート30が積層された2以上の単位積層構造を備えている。このように構成されることで、当該水素昇圧容器10は、水素の貯蔵量及び放出量を大きくしやすい。
【0033】
図1では、水素流通プレート20の両面に熱媒プレート30が積層された積層ユニットが厚さ方向に連続して配置されることで、2以上の単位積層構造が形成されている。このように構成されることで、それぞれの水素流通プレート20に対して2つの熱媒プレート30を対応付けることができ、水素吸蔵合金22の加熱及び冷却の効率を高めやすい。
【0034】
一方で、図1の変形例として、当該水素昇圧容器10は、図6に示すように、水素流通プレート20と熱媒プレート30とが交互に配置された積層構造を備えていてもよい。この構成によっても、水素流通プレート20の両面に熱媒プレート30が積層された2以上の単位積層構造を備える構成とすることができる。この場合、1つの熱媒プレート30が、その両面に積層される一対の水素流通プレート20の両方の単位積層構造に含まれることになる。すなわち、1つの熱媒プレート30が、2つの単位積層構造に共通の熱媒プレート30として構成されることになる。この構成によると、当該水素昇圧容器10における水素流通プレート20の数を相対的に増やすことができる。その結果、水素の貯蔵量及び放出量を大きくしやすい。
【0035】
なお、当該水素昇圧容器10は、図1の構成と図6の構成とを組み合わせた積層構造とすることも可能である。
【0036】
(水素流通プレート)
水素流通プレート20は、金属製である。水素流通プレート20は、金属製であることで、熱伝導率が大きい。ここで、金属とは、合金を含む概念である。上記金属としては、例えばSUS304、SUS316等のステンレス鋼が挙げられる。また、上記金属としては、耐圧性、耐水素脆化性等をより高める観点から、SUS316L、SCM435、SUH660等を用いることもできる。
【0037】
図2及び図3に示すように、水素流通プレート20は平板状である。水素流通プレート20は、平面視矩形状、より詳しくは平面視長方形状である。
【0038】
水素流通プレート20の平均厚さの下限としては、2mmが好ましく、4mmがより好ましい。一方、上記平均厚さの上限としては、10mmが好ましく、7mmがより好ましい。上記平均厚さが上記下限に満たないと、水素流路21を十分に大きくできないおそれや、水素吸蔵合金22を十分に配置し難くなるおそれがある。逆に、上記平均厚さが上記上限を超えると、水素吸蔵合金22と熱媒流路31との間隔を十分に小さくし難くなるおそれがある。なお、「平均厚さ」とは、意図的に設けた凹凸を除いた任意の5点の厚さの平均値を意味する。
【0039】
上述のように、水素流通プレート20は、水素流路21、及び水素流路21の周囲に配置され、水素流路21を流通する水素を吸蔵可能な水素吸蔵合金22を有する。
【0040】
水素流路21は、水素流通プレート20の面方向に延びている。水素流路21は、水素流通プレート20を面方向に貫通している。より詳しくは、水素流路21は、水素流通プレート20の長手方向と平行に延びており、水素流通プレート20の端面間を貫通している。
【0041】
水素流路21は直線状である。このように構成されていることで、水路流路21の周囲に水素吸蔵合金22を容易に配置することができる。水素流路21の断面形状としては、特に限定されるものではなく、例えば円形、矩形、半円形等が挙げられる。
【0042】
水素流路21の長さの下限としては、200mmが好ましく、300mmがより好ましい。上記長さが上記下限に満たないと、水素の貯蔵量及び放出量を十分に大きくし難くなるおそれがある。一方で、上記長さの上限としては、特に限定されるものではないが、水素流通プレート20の形成容易化等の観点から、例えば600mmとすることができる。
【0043】
水素流通プレート20には、複数の水素流路21が設けられている。複数の水素流路21は、平行に配置されている。複数の水素流路21のピッチの下限としては、1.0mmが好ましく、2.0mmがより好ましい。一方、上記ピッチの上限としては、6mmが好ましく、5mmがより好ましく、4.5mmがさらに好ましい。上記ピッチが上記下限に満たないと、水素流路21及び後述の複合化層23の形成が容易でなくなるおそれがある。逆に、上記ピッチが上記上限を超えると、複数の水素流路21を緻密に配置し難くなり、水素の昇圧効率が低下するおそれがある。
【0044】
水素吸蔵合金22は、圧力又は温度の制御によって水素を吸蔵及び放出できる合金である。水素吸蔵合金22は粉末状である。水素吸蔵合金22としては、公知のものを用いることができ、例えば2元系合金、3元系合金、4元系合金、5元系合金等が挙げられる。
【0045】
上記2元系合金としては、例えばLaNi等のLaNi系合金、TiFe系合金、MnNi系合金、CaNi系合金、TiMn系合金、TiZr系合金、ZrMn系合金などが挙げられる。
【0046】
上記3元系合金としては、例えばTi25Cr5025、Ti25Cr2550、Ti20Cr4535等のTiCrV系合金、Ti36Cr32Mn32、Ti30Cr35Mn35等のTiCrMn系合金、TiVMo系合金などが挙げられる。
【0047】
上記4元系合金としては、例えばTi30Cr4510Mo15、Ti25Cr5020Mo等のTiCrVMo系合金、Ti25Cr4425Fe等のTiCrVFe系合金、Ti25Cr5020Ni等のTiCrVNi系合金などが挙げられる。
【0048】
上記5元系合金としては、例えばTi11Cr1271MoNi等のTiCrVMoNi合金などが挙げられる。
【0049】
水素吸蔵合金22は、樹脂中に保持されている。より詳しくは、水素流通プレート20は、水素吸蔵合金22が樹脂中に保持されている複合化層23を備える。一般に、水素吸蔵合金は、水素の吸蔵及び放出に起因して膨張及び収縮する。その結果、水素吸蔵合金は、微粉化しやすくなる。微粉化された水素吸蔵合金は、水素流路中に出て水素流路を塞ぐおそれがある。この点において、当該水素昇圧容器10は、水素吸蔵合金22が樹脂中に保持されていることで、水素吸蔵合金22が水素流路21を塞ぐことを抑制できる。その結果、水素吸蔵合金22によって水素流路21を介して水素を容易かつ確実に吸蔵及び放出することができる。上記樹脂としては、例えばシリコーン樹脂が挙げられる。
【0050】
図2に示すように、複合化層23は、水素流路21の両端に亘って配置されている。また、図4に示すように、複合化層23は、水素流路21の周囲を取り囲んでいる。水素吸蔵合金22は、水素流通プレート20の壁面に近いほど、伝熱面との接触面積が大きくなり、壁面から熱の授受を効率的に行うことができる。この点、当該水素昇圧容器10では、水素吸蔵合金22は、水素流路21を取り囲むように水素流通プレート20の壁面に上記樹脂によって固定されている。また、当該水素昇圧容器10は、複合化層23の中心部を貫通するように水素流路21が設けられていることで、水素の貯蔵時又は放出時に過剰な圧力損失が生じることを抑制することができる。従って、当該水素昇圧容器10は、水素吸蔵合金22によって水素流路21を介して水素をより容易かつ確実に吸蔵及び放出することができる。
【0051】
水素流路21及び複合化層23の形成方法の一例について説明する。水素流路21及び複合化層23の形成は、例えばドライブレンド法によって行うことができる。まず、水素流通プレート20を形成するための板材に、エッチングによって貫通孔を形成する。続いて、上記貫通孔の一方側から水素流路21を形成するための筒状の金型を挿入し、上記貫通孔の他方側から複合化層23を形成するための樹脂及び水素吸蔵合金22を充填する。次に、熱処理によって上記貫通孔の壁面に複合化層23を固定した後に、上記金型を取り外す。これにより、水素流路21の周囲に複合化層23が配置された構成が得られる。
【0052】
上述の形成方法によって形成されることで、水素流路21の径は、上記貫通孔の径よりも小さくなる。上記貫通孔の径に対する水素流路21の径の比としては、特に限定されるものではないが、例えば1/4以上3/4以下とすることができる。
【0053】
(熱媒プレート)
熱媒プレート30は、金属製である。熱媒プレート30は、金属製であることで、熱伝導率が大きい。上記金属としては、水素流通プレート20と同様のものを用いることができる。
【0054】
熱媒プレート30は平板状である。熱媒プレート30の平面形状は、水素流通プレート20と同じとすることができる。
【0055】
熱媒プレート30には、複数の熱媒流路31が設けられている。熱媒流路31は、上記冷媒及び上記温媒が切り替え可能に流通するように設けられている。上記冷媒としては、冷却水又はブライン等が挙げられる。また、上記温媒としては、水蒸気又は熱水等が挙げられる。熱媒流路31は、例えば切替弁によって上記温媒及び上記冷媒が選択的に流通するように設けられている。
【0056】
水素吸蔵合金22を用いた水素圧縮においては、水素吸蔵時には金属と水素とにより金属水素化物への反応が発生しており、この反応は発熱反応であることから、水素吸蔵合金22の温度が上昇する。この反応熱を除去しないと水素吸蔵速度が低下する。一方、昇温及び昇圧によって水素を高圧水素として放出する際には、金属水素化物が金属と水素とになる反応が発生しており、この反応は吸熱反応であることから、水素吸蔵合金の温度が低下する。この反応吸熱分の熱を供給しないと、水素放出速度の低下及び水素圧力の低下を生じ、所望の圧力及び流量で高圧水素を得難い。この観点において、熱媒流路31が、上記冷媒及び上記温媒が切り替え可能に流通するように設けられていることで、水素吸蔵合金22の加熱及び冷却を容易かつ確実に行うことができ、ひいては水素の貯蔵及び放出を容易かつ確実に行うことができる。
【0057】
熱媒プレート30の平均厚さの下限としては、2mmが好ましく、4mmがより好ましい。一方、上記平均厚さの上限としては、10mmが好ましく、7mmがより好ましい。当該水素昇圧容器10は、複数の水素流路21が緻密に配置された厚さの小さい水素流通プレート20と、複数の熱媒流路31が緻密に配置された厚さの小さい熱媒プレート30とが積層されることで、いわゆるマイクロ場による熱伝達効率の向上を図り、水素を効率的に昇圧することができる。上記平均厚さが上記下限に満たないと、所望の熱媒流路31を形成し難くなるおそれがある。逆に、上記平均厚さが上記上限を超えると、熱伝達効率を十分に向上し難くなるおそれがある。
【0058】
熱媒流路31は、例えば熱媒プレート30を形成するための板材に対するエッチングによって形成される。この方法によると、熱媒流路31の平均径は、水素流通プレート20に設けられる上述の貫通孔の平均径と略等しくなる。この場合、水素流路21の平均径は、熱媒流路31の平均径よりも小さくなる。
【0059】
熱媒流路31の平均径の下限としては、1mmが好ましく、2mmがより好ましい。一方、上記平均径の上限としては、5mmが好ましく、3mmがより好ましい。上記平均径が上記下限に満たないと、熱媒流路31の形成が容易でなくなるおそれがある。逆に、上記平均径が上記上限を超えると、複数の熱媒流路31を緻密に配置することが容易でなくなるおそれがある。これに対し、水素流路21の平均径が熱媒流路31の平均径より小さく、熱媒流路31の平均径が上記範囲内であることによって、水素流路21を水素流通プレート20に緻密に配置し、かつ熱媒流路31を熱媒プレート30に緻密に配置しやすい。その結果、水素の昇圧効率をより高めることができる。
【0060】
熱媒流路31は、熱媒プレート30の面方向に延びている。図5に示すように、熱媒流路31は、熱媒プレート30内で蛇行していることが好ましい。このように構成されていることで、水素吸蔵合金22の熱交換効率をより高めることができる。
【0061】
熱媒流路31が熱媒プレート30内で蛇行している場合、熱媒流路31には、180°折り返された折り返し構造が形成されていることが好ましい。このように構成されていることで、熱媒流路31の緻密化を図り、伝熱面積をより大きくすることができ、その結果水素吸蔵合金22の熱交換効率をより高めることができる。
【0062】
熱媒流路31の断面形状としては、特に限定されるものではなく、例えば円形、矩形、半円形等が挙げられる。
【0063】
当該水素昇圧容器10の積層方向における水素吸蔵合金22と熱媒流路31との間隔(つまり、上述の貫通孔と熱媒流路31との間隔)の上限としては、7mmが好ましく、5mmがより好ましい。上記間隔を上記上限以下とすることで、水素吸蔵合金22の熱交換効率を容易かつ確実に高めることができる。
【0064】
[水素昇圧システム]
図7を参照して、当該水素昇圧容器10を備える水素昇圧システム40について説明する。図7の水素昇圧システム40は、一対の当該水素昇圧容器10を備える。また、当該水素昇圧システム40は、熱媒プレート30の熱媒流路31に供給される冷媒が貯留される冷媒容器41と、熱媒プレート30の熱媒流路31に供給される温媒が貯留される温媒容器42と、水素昇圧容器10に対して1対1で配置され、熱媒流路31に導入される冷媒及び温媒を切り替え可能な第1切替弁43と、水素昇圧容器10に対して1対1で配置され、熱媒流路31から排出された冷媒を冷媒容器41に還流させ、熱媒流路31から排出された温媒を温媒容器42に還流させるように切り替えられる第2切替弁44とを備える。さらに、当該水素昇圧システム40は、一対の水素昇圧容器10における水素の吸蔵及び昇圧を独立して制御可能な制御部45を備える。
【0065】
当該水素昇圧システム40の動作方法の一例について説明する。ここでは、一方の水素昇圧容器10には水素が貯蔵されておらず、かつ他方の水素昇圧容器10には水素が貯蔵されている場合の動作方法について説明する。
【0066】
まず、一方の水素昇圧容器10の水素流路21に低圧水素を導入する。この際、制御部45が第1切替弁43を制御してこの水素昇圧容器10の熱媒流路31に冷媒を導入する。また、制御部45は、第2切替弁44を制御して、この水素昇圧容器10の熱媒流路31から排出された冷媒を冷媒容器41に還流させる。これにより、この水素昇圧容器10では、水素吸蔵合金22に水素が吸蔵される。
【0067】
これに対し、制御部45は、他方の水素昇圧容器10について、第1切替弁43を制御してこの水素昇圧容器10の熱媒流路31に温媒を導入する。これにより、この水素昇圧容器10において水素吸蔵合金22に吸蔵されていた水素が高圧水素として放出される。また、制御部45は、第2切替弁44を制御して、この水素昇圧容器10の熱媒流路31から排出された温媒を温媒容器42に還流させる。
【0068】
当該水素昇圧システム40は、一方の水素昇圧容器10に対する水素の貯蔵と、他方の水素昇圧容器10からの高圧水素の放出とを同時に行うことができる。また、この動作を一対の水素昇圧容器10間で繰り返し行うことで、水素の貯蔵と高圧水素の放出とを連続的に行うことができる。
【0069】
<利点>
当該水素昇圧容器10は、水素流通プレート20に熱媒プレート30が積層されているので、水素吸蔵合金22の熱交換効率を高めることができる。その結果、当該水素昇圧容器10によると、水素吸蔵合金22の加熱及び冷却の効率を高めることができ、ひいては水素を効率的に昇圧することができる。
【0070】
当該水素昇圧システム40は、当該水素昇圧容器10を備えるので、水素吸蔵合金22の加熱及び冷却の効率を高めることができ、ひいては水素を効率的に昇圧することができる。
【0071】
当該水素昇圧システム40は、一対の水素昇圧容器10における水素の吸蔵及び昇圧を独立して制御可能な制御部45を備えることによって、水素の貯蔵と高圧水素の放出とを安定的に行うことができる。
【0072】
[その他の実施形態]
上記実施形態は、本発明の構成を限定するものではない。従って、上記実施形態は、本明細書の記載及び技術常識に基づいて上記実施形態各部の構成要素の省略、置換又は追加が可能であり、それらは全て本発明の範囲に属するものと解釈されるべきである。
【0073】
上記実施形態では、熱媒流路に冷媒及び温媒が切り替え可能に流通する構成について説明した。但し、当該水素昇圧容器は、このような構成に限定されない。例えば当該水素昇圧容器は、上記熱媒プレートとして、冷媒流路を有する冷媒プレートと温媒流路を有する温媒プレートとを備えていてもよい。この場合、1つの水素流通プレートの片面に上記冷媒プレートが積層され、かつ反対の面に上記温媒プレートが積層された構成を採用することができる。
【0074】
上記水素流通プレートと上記熱媒プレートとの具体的な積層構造は、上記実施形態に記載された構成に限定されない。例えば当該水素昇圧容器は、2以上の熱媒プレートが断熱プレートを挟んで積層される構成を採用することも可能である。また、当該水素昇圧容器は、片面にのみ熱媒プレートが積層された水素流通プレートを備えていてもよい。
【0075】
上記水素流路の平均径は上記熱媒流路の平均径よりも大きくすることも可能である。例えば上記水素流通プレートの形成方法として、水素流路に対応する溝部を有する2つの板材を貼り合わせる方法を用いることで、水素流路の平均径を比較的大きくすることが可能である。
【0076】
上記水素流路は、直線状以外に形成することも可能である。また、上記熱媒流路は、熱媒プレート内で蛇行している形状に限定されない。
【0077】
上記水素吸蔵合金は、水素流路の周囲に配置されている限り、樹脂中に保持されていることを要しない。また、上記水素吸蔵合金は、水素流路の周囲に部分的に配置することも可能である。
【0078】
当該水素昇圧システムは、1つの水素昇圧容器のみを備えていてもよく、3以上の水素昇圧容器を備えていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明したように、本発明の一態様に係る水素昇圧容器は、水素を効率的に昇圧するのに適している。
【符号の説明】
【0080】
10 水素昇圧容器
20 水素流通プレート
21 水素流路
22 水素吸蔵合金
23 水素吸蔵合金
30 熱媒プレート
31 熱媒流路
40 水素昇圧システム
41 冷媒容器
42 温媒容器
43 第1切替弁
44 第2切替弁
45 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7