(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175641
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】マグネットチャック
(51)【国際特許分類】
B23Q 7/04 20060101AFI20231205BHJP
B25J 15/06 20060101ALI20231205BHJP
B23Q 3/15 20060101ALI20231205BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
B23Q7/04 K
B25J15/06 S
B23Q3/15 A
H01F7/02 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080095
(22)【出願日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】P 2022087630
(32)【優先日】2022-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102511
【氏名又は名称】SMC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】安藤 瑞季
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン ビアラス
(72)【発明者】
【氏名】ステファン シュヴァイシング
【テーマコード(参考)】
3C016
3C033
3C707
【Fターム(参考)】
3C016GA03
3C033BB03
3C033HH26
3C033HH30
3C707AS04
3C707DS01
3C707FS08
3C707FU01
3C707GU01
3C707GU03
3C707LV10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】積み重ねられた複数のワークのうち1つのワークのみを所定の磁力で吸着することができ、かつ、最大の磁力で保持して搬送することができるマグネットチャックを提供する。
【解決手段】マグネットチャック10は、互いに直列に配置された第1シリンダ12および第2シリンダ64を有する。第1シリンダの第1ピストン28は永久磁石36を含み、第1ピストンに連結されたピストンロッド44が第2シリンダの第2ピストン76に挿通される。第2ピストンに当接可能なストッパ90がピストンロッドに固定され、ピストンロッドに対するストッパの位置を変更することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石の磁力でワークを吸着保持するマグネットチャックであって、
互いに直列に配置された第1シリンダおよび第2シリンダを有し、前記第1シリンダの第1ピストンは前記永久磁石を含み、前記第1ピストンに連結されたピストンロッドが前記第2シリンダの第2ピストンに挿通され、前記第2ピストンに当接可能なストッパが前記ピストンロッドに固定され、前記ピストンロッドに対する前記ストッパの位置を変更することができるマグネットチャック。
【請求項2】
請求項1記載のマグネットチャックにおいて、
前記第1シリンダは、前記第1ピストンの一方に配置される第1エア室と、前記第1ピストンの他方に配置される第2エア室と、前記第1エア室にエアを給排する第1ポートと、前記第2エア室にエアを給排する第2ポートとを備え、前記第2シリンダは、前記第2ピストンの一方に配置される第3エア室と、前記第3エア室にエアを給排する第3ポートとを備え、前記第2エア室および前記第3エア室にエアが供給されたとき、前記ストッパが前記第2ピストンに当接して、前記第1ピストンがストロークエンドから所定量離れた位置に制御され、最大の磁力より小さい所定の磁力でワークを吸着することができるマグネットチャック。
【請求項3】
請求項2記載のマグネットチャックにおいて、
前記第3エア室に供給されるエアの圧力は、前記第2エア室に供給されるエアの圧力と同一であり、前記第3エア室に供給されるエアによる前記第2ピストンの受圧面積は、前記第2エア室に供給されるエアによる前記第1ピストンの受圧面積より大きいマグネットチャック。
【請求項4】
請求項2記載のマグネットチャックにおいて、
前記第3エア室に供給されるエアの圧力は、前記第2エア室に供給されるエアの圧力より大きく、前記第3エア室に供給されるエアによる前記第2ピストンの受圧面積は、前記第2エア室に供給されるエアによる前記第1ピストンの受圧面積と同一であるマグネットチャック。
【請求項5】
請求項1記載のマグネットチャックにおいて、
前記第1シリンダは、前記第1ピストンの一方に配置される第1エア室と、前記第1ピストンの他方に配置される第2エア室と、前記第1エア室にエアを供給する第1ポートと、前記第2エア室を常時大気に開放する第2ポートとを備え、前記第2シリンダは、前記第2ピストンの一方に配置される第3エア室と、前記第3エア室にエアを給排する第3ポートとを備え、前記第1ピストンを付勢するスプリングが前記第2エア室に配置され、前記第3エア室にエアが供給されたとき、前記ストッパが前記第2ピストンに当接して、前記第1ピストンがストロークエンドから所定量離れた位置に制御され、最大の磁力より小さい所定の磁力でワークを吸着することができるマグネットチャック。
【請求項6】
請求項1記載のマグネットチャックにおいて、
前記第1シリンダは、前記第1ピストンの一方に配置される第1エア室と、前記第1ピストンの他方に配置される第2エア室と、前記第1エア室にエアを給排する第1ポートと、前記第2エア室にエアを給排する第2ポートとを備え、前記第2シリンダは、前記第2ピストンの一方に配置される第3エア室と、前記第3エア室にエアを給排する第3ポートとを備え、前記第2ピストンを付勢するスプリングが前記第3エア室に配置され、前記第2エア室および前記第3エア室にエアが供給されたとき、前記ストッパが前記第2ピストンに当接して、前記第1ピストンがストロークエンドから所定量離れた位置に制御され、最大の磁力より小さい所定の磁力でワークを吸着することができるマグネットチャック。
【請求項7】
請求項1記載のマグネットチャックにおいて、
前記第2シリンダはトップカバーを備え、前記ストッパの少なくとも一部は前記トップカバーによって覆われるマグネットチャック。
【請求項8】
請求項1記載のマグネットチャックにおいて、
前記ストッパの外面に目盛りが表示されているマグネットチャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石の磁力でワークを保持するマグネットチャックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリンダ内部のピストンに永久磁石を連結し、ピストンとともに永久磁石を変位させるマグネットチャックが知られている。このようなマグネットチャックでは、流体圧を受けたピストンの変位に追従して永久磁石がワークに接近することに伴い、ワークが吸引保持される。また、ピストンがワークから離間する方向に変位すると、ワークが解放される。
【0003】
ところで、積み重ねられた薄いワークをこのようなマグネットチャックで保持する場合、下のワークにも磁力が伝わり、一度に複数のワークが保持されてしまうという問題がある。ワークを1つだけ保持するためには、ワークの厚さに適した磁力に調整することが必要である。
【0004】
そこで、特許文献1において、永久磁石を含むピストンアセンブリの移動端位置を調整可能なマグネットチャックが提案されている。このマグネットチャックによれば、永久磁石の磁力がちょうど1つのワークを保持するように、永久磁石の位置がアジャスタによって調整される。したがって、積み重ねられた複数のワークのうち1つのワークだけが保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ワークに及ぼす永久磁石の磁力がちょうど1つのワークを保持するのに適した磁力に調整されているため、ワークを別の場所に搬送する際に、搬送の加速度によって、あるいは、振動の発生によって、ワークが落下する場合がある。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、永久磁石の磁力でワークを吸着保持するマグネットチャックであって、互いに直列に配置された第1シリンダおよび第2シリンダを有する。第1シリンダの第1ピストンは永久磁石を含み、第1ピストンに連結されたピストンロッドが第2シリンダの第2ピストンに挿通され、第2ピストンに当接可能なストッパがピストンロッドに固定され、ピストンロッドに対するストッパの位置を変更することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るマグネットチャックによれば、ワークに磁力が作用しない位置、ワークが最大の磁力で保持される位置、および、ワークが最大の磁力より小さい所定の磁力で吸着される位置の3つの位置に第1ピストンを制御することが可能である。このため、積み重ねられた複数のワークのうち1つのワークのみを所定の磁力で吸着することができ、かつ、当該ワークを最大の磁力で保持して搬送することができる。ワークは、搬送時の加速度が大きくても、落下することなく安全に搬送される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るマグネットチャックの外観図である。
【
図2】
図2は、ワークを吸着するときの
図1のマグネットチャックの断面図である。
【
図3】
図3は、ワークを搬送するときの
図1のマグネットチャックの断面図である。
【
図4】
図4は、ワークを解放するときの
図1のマグネットチャックの断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2実施形態に係るマグネットチャックの断面図(ワークを吸着するときの断面図)である。
【
図6】
図6は、本発明の第3実施形態に係るマグネットチャックの断面図(ワークを吸着するときの断面図)である。
【
図7】
図7は、ワークを搬送するときの
図6のマグネットチャックの断面図である。
【
図8】
図8は、ワークを解放するときの
図6のマグネットチャックの断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の第4実施形態に係るマグネットチャックの外観図である。
【
図11】
図11は、ワークを吸着するときの
図9のマグネットチャックの断面図である。
【
図12】
図12は、ワークを搬送するときの
図9のマグネットチャックの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係るマグネットチャック10について、
図1~
図4を参照しながら説明する。
【0012】
図1および
図2に示されるように、マグネットチャック10は、第1シリンダ12と第2シリンダ64が直列に配置された構造を有する。第1シリンダ12は、第1シリンダチューブ14、第1ピストン28、ボトムカバー46および中間カバー58を含む。第2シリンダ64は、第2シリンダチューブ66、第2ピストン76、トップカバー84を含む。マグネットチャック10は、例えば、図示しないロボットアームに取り付けられる。
【0013】
まず、第1シリンダ12の構成を中心に説明する。筒状の第1シリンダチューブ14は、アルミニウム合金等の常磁性体から構成される。第1シリンダチューブ14の横断面の外形は、矩形状である。第1シリンダチューブ14は、円形の第1シリンダ孔16を有する。第1シリンダチューブ14の側面は、下部にエア給排用の第1ポート18を備え、上部にエア給排用の第2ポート20を備える。第1ポート18および第2ポート20には、図示しないエア供給源からエアが供給される。第1ポート18は、第1シリンダチューブ14の側壁内を上下に延びるエア通路22の上端に繋がっている。第1シリンダチューブ14は、下方に突出する円形の嵌合部14aを備える。
【0014】
第1ピストン28は、シールホルダ30、コアヨーク34、永久磁石36、カバーヨーク38およびリングプレート42を含む。円板状のシールホルダ30は、アルミニウム合金等の常磁性体から構成される。シールホルダ30の外周には、第1シリンダ孔16の壁面に摺接するピストンシール32が装着されている。シールホルダ30のピストンシール32は、後述する第1エア室24と第2エア室26との間を気密に保持する。シールホルダ30は、中央に貫通孔を有し、貫通孔の上部から径方向内方に突出するフランジ30aを備える。
【0015】
円柱状のコアヨーク34は、強磁性体である鉄鋼材から構成される。コアヨーク34は、上方に突出する突出端部34aを備え、突出端部34aの先端に開口する有底のねじ孔34bを有する。コアヨーク34の下部は、下方に開口する円形の凹部34cを有する。コアヨーク34の突出端部34aは、シールホルダ30の貫通孔に下方から挿通され、シールホルダ30のフランジ30aに当接する。
【0016】
ピストンロッド44は、アルミニウム合金等の常磁性体から構成される。ピストンロッド44は、シールホルダ30の貫通孔に上方から挿通され、コアヨーク34のねじ孔34bに螺合される。これにより、シールホルダ30およびコアヨーク34がピストンロッド44の下端に連結される。コアヨーク34の突出端部34aの根元に第1シール材94aが装着されている。第1シール材94aは、シールホルダ30とコアヨーク34との間を気密に保持する。
【0017】
円筒状の永久磁石36は、コアヨーク34の外周に配置され、シールホルダ30とコアヨーク34とカバーヨーク38とリングプレート42とで囲まれるように取り付けられる。永久磁石36は、径方向に着磁されている。
【0018】
円筒状のカバーヨーク38は、強磁性体である鉄鋼材から構成され、永久磁石36の外周に配置される。カバーヨーク38の外周は段部38aを有し、カバーヨーク38の上部の外径は、カバーヨーク38の下部の外径よりも大きい。カバーヨーク38の外周には、一対のウエアリング40が装着されている。第1ピストン28は、一対のウエアリング40を介して第1シリンダ孔16に案内支持される。
【0019】
ボトムカバー46は、ボトムヨーク48、アウタヨーク50、第1ハウジング54および第2ハウジング56を含む。円柱状のボトムヨーク48は、強磁性体である鉄鋼材から構成される。ボトムヨーク48は、第1ピストン28の下降時にコアヨーク34の凹部34cに入り込む。ボトムヨーク48の下部は、径方向外方に突出するフランジ48aを備える。
【0020】
円筒状のアウタヨーク50は、強磁性体である鉄鋼材から構成され、ボトムヨーク48の外側に配置される。アウタヨーク50の上部は、径方向外方に突出するフランジ50aを備える。アウタヨーク50の下部は、外周に凹部50bを有し、内周に段部50cを有する。ボトムヨーク48のフランジ48aとアウタヨーク50の段部50cとの間に環状の連結板52が配置される。連結板52は、アルミニウム合金等の常磁性体から構成される。アウタヨーク50は、連結板52を介してボトムヨーク48に固定される。アウタヨーク50と連結板52との間、および、連結板52とボトムヨーク48との間は、気密に接合されている。
【0021】
筒状の第1ハウジング54は、アルミニウム合金等の常磁性体から構成される。第1ハウジング54の横断面の外形は、第1シリンダチューブ14と同様の矩形状である。第1ハウジング54の内側に第1シリンダチューブ14の嵌合部14aが嵌合される。第1ハウジング54の下端部は、径方向内方に突出するフランジ54aを備える。
【0022】
円筒状の第2ハウジング56は、樹脂材料またはゴム材料から構成される。第2ハウジング56は、アウタヨーク50の凹部50bに嵌合され固定される。第1シリンダチューブ14の嵌合部14aの下端とアウタヨーク50の上面とで形成される隙間に第2シール材94bが装着される。第2シール材94bは、第1シリンダチューブ14とアウタヨーク50との間を気密に保持する。
【0023】
アウタヨーク50の上面に環状の第1ダンパ96aが配置される。第1ダンパ96aは、第1ピストン28の下降時にカバーヨーク38の段部38aに当接し、衝撃を緩和する。第1ダンパ96aの上面は、径方向に延びる複数のスリット(図示せず)を有する。第1シリンダチューブ14のエア通路22の下端は、第1ダンパ96aのスリットを介して第1シリンダ孔16に連通する。
【0024】
円盤状の中間カバー58は、第1シリンダ孔16の上部に配置され、係止リング62を介して第1シリンダチューブ14に固定される。中間カバー58は、例えば、強磁性体である鉄鋼材から構成されるが、これに限定されない。ピストンロッド44は、中間カバー58に挿通され、中間カバー58から上方に延びる。ピストンロッド44は、中間カバー58に装着された第1ロッドパッキン60に摺接する。
【0025】
中間カバー58の下端には、第2ダンパ96bが取り付けられている。第2ダンパ96bは、第1ピストン28の上昇時に、第1ピストン28のシールホルダ30に当接し、衝撃を緩和する。中間カバー58の外周には、第1シリンダ孔16の壁面に当接する第3シール材94cが装着されている。第3シール材94cは、第1シリンダチューブ14と中間カバー58との間を気密に保持する。
【0026】
第1ピストン28の下方に第1エア室24が配置され、第1ピストン28の上方に第2エア室26が配置される。第1エア室24は、第1ピストン28、第1シリンダチューブ14およびボトムカバー46によって囲まれる空間である。第2エア室26は、第1ピストン28、第1シリンダチューブ14および中間カバー58によって囲まれる空間である。
【0027】
第1ポート18は、第1シリンダチューブ14のエア通路22および第1ダンパ96aのスリットを介して、第1エア室24に連通する。第2ポート20は、第2エア室26に連通する。第1エア室24にエアが供給されると、第1ピストン28が上方に付勢される。第2エア室26にエアが供給されると、第1ピストン28が下方に付勢される。第1シリンダ12の構成は、概ね以上のとおりである。
【0028】
次に、第2シリンダ64の構成を中心に説明する。筒状の第2シリンダチューブ66は、アルミニウム合金等の常磁性体から構成される。第2シリンダチューブ66の横断面の外形は、第1シリンダチューブ14と同様の矩形状である。第2シリンダチューブ66は、有底状の第2シリンダ孔68を有する。第2シリンダ孔68の内径は、第1シリンダ孔16の内径よりも大きい。
【0029】
第2シリンダチューブ66の側面は、エア給排用の第3ポート70を備える。第3ポート70には、図示しないエア供給源から、第2ポート20に供給されるエアと同じ圧力のエアが供給される。ピストンロッド44は、第2シリンダチューブ66の底部66aに挿通され、第2シリンダチューブ66の底部66aに装着された第2ロッドパッキン72に摺接する。
【0030】
第2ピストン76は、アルミニウム合金等の常磁性体から構成される。第2ピストン76は、第2シリンダ孔68に嵌合するピストン部76aと、ピストン部76aから上方に突出する軸部76bとを有する。ピストンロッド44は、第2ピストン76に挿通され、第2ピストン76に装着された第3ロッドパッキン78に摺接する。第2ピストン76は、ピストンロッド44に対して上下に相対移動可能である。
【0031】
第2ピストン76のピストン部76aの外周には、第2シリンダ孔68の壁面に摺接するピストンシール80が装着されている。第2ピストン76のピストンシール80は、後述する第3エア室74を外部から気密に保持する。第2ピストン76のピストン部76aの外周には、ウエアリング82が装着されている。第2ピストン76は、ウエアリング82を介して第2シリンダ孔68に案内支持される。
【0032】
第2ピストン76のピストン部76aの下端には、第3ダンパ96cが取り付けられている。第3ダンパ96cは、第2ピストン76の下降時に第2シリンダチューブ66の底部66aに当接し、衝撃を緩和する。第2ピストン76のピストン部76aの上端には、第4ダンパ96dが取り付けられている。第4ダンパ96dは、第2ピストン76の上昇時にトップカバー84に当接し、衝撃を緩和する。
【0033】
円板状のトップカバー84は、係止リング86を介して第2シリンダチューブ66の上部に固定される。第2ピストン76の軸部76bは、トップカバー84に挿通される。中間カバー58から上方に延びるピストンロッド44は、第2シリンダチューブ66の底部66aおよび第2ピストン76を通り、第2ピストン76から上方に延びる。
【0034】
第2ピストン76の下方には、第3エア室74が配置される。第3エア室74は、第2ピストン76および第2シリンダチューブ66によって囲まれる空間である。第3ポート70は、第3エア室74に連通する。第3エア室74にエアが供給されると、第2ピストン76が上方に付勢される。第2シリンダ64の構成は、概ね以上のとおりである。
【0035】
複数のタイロッド88が第2シリンダチューブ66に挿通され、各タイロッド88の端部が第1シリンダチューブ14に螺合される。また、第1ハウジング54は、図示しないねじ部材により第1シリンダチューブ14に固定される。これにより、第2シリンダチューブ66と第1シリンダチューブ14と第1ハウジング54の三者が一体的に連結される。このとき、アウタヨーク50のフランジ50aが第1シリンダチューブ14の嵌合部14aと第1ハウジング54のフランジ54aとの間で挟持されるので、アウタヨーク50も連結固定される。
【0036】
第2ピストン76から上方に延びるピストンロッド44の端部は、雄ねじ部44aを有する。ピストンロッド44の雄ねじ部44aに、ストッパ90およびロックナット92が螺合される。ストッパ90は、第2ピストン76の軸部76bの上端に当接可能である。ロックナット92を緩めれば、ピストンロッド44に対するストッパ90の位置を変更することができる。ストッパ90の位置を変更した後に、再びロックナット92を締めれば、ストッパ90が所望の位置で固定される。
【0037】
第2エア室26のエアによる第1ピストン28の受圧面積S1は、第1シリンダ孔16の断面積とピストンロッド44の断面積との差に等しい。第3エア室74のエアによる第2ピストン76の受圧面積S2は、第2シリンダ孔68の断面積とピストンロッド44の断面積との差に等しい。第2シリンダ孔68の断面積は、第1シリンダ孔16の断面積より大きいので、第2ピストン76の受圧面積S2は、第1ピストン28の受圧面積S1より大きい。
【0038】
次に、マグネットチャック10の基本的な機能について説明する。マグネットチャック10の第1ピストン28は、第1エア室24、第2エア室26および第3エア室74にエアを給排することにより、「上端位置」、「下端位置」および「調整位置」の3つの位置に制御される。
【0039】
「上端位置」は、
図4に示されるように、第1ピストン28が第1シリンダ孔16内を最も上方まで変位して、シールホルダ30が第2ダンパ96bに当接するときの位置をいう。「上端位置」は、第1エア室24にエアを供給し、第2エア室26および第3エア室74のエアを排出することによって実現される。第1ピストン28が「上端位置」に制御されたとき、ボトムカバー46の下端に強磁性体である鉄板等のワーク(以下、単に「ワーク」という)Wが存在しても、永久磁石36の磁力はワークWに作用しない。
【0040】
「下端位置」は、
図3に示されるように、第1ピストン28が第1シリンダ孔16内を最も下方まで変位して、カバーヨーク38が第1ダンパ96aに当接するときの位置(ストロークエンド)をいう。「下端位置」は、第2エア室26にエアを供給し、第1エア室24および第3エア室74のエアを排出することによって実現される。第1ピストン28が「下端位置」に制御されたとき、ボトムカバー46の下端にワークWが存在すれば、ワークWは最大の磁力で吸着される。
【0041】
「調整位置」は、
図2に示されるように、第2ピストン76が第2シリンダ孔68内を最も上方まで変位することと関連して、第1ピストン28が「下端位置」から所定距離上方に離れたときの位置をいう。「調整位置」は、第2エア室26および第3エア室74にエアを供給し、第1エア室24のエアを排出することによって実現される。第1ピストン28が「調整位置」に制御されたとき、ボトムカバー46の下端にワークWが存在すれば、ワークWは、最大の磁力より小さい所定の磁力(以下「調整磁力」という)で吸着される。
【0042】
なお、第1ピストン28が「下端位置」および「調整位置」に制御されたとき、永久磁石36から出る磁束線の大半は、コアヨーク34、ボトムヨーク48、ワークW、アウタヨーク50、およびカバーヨーク38を経て、永久磁石36に戻る。
【0043】
ボトムカバー46の下端に複数のワークが積み重ねられている場合、最上位のワークWのみが吸着されるように、調整磁力の大きさが調整される。ワークWの材質、重量等に応じて、調整磁力の大きさが異なる。調整磁力の大きさは、ピストンロッド44に対するストッパ90の位置を変更することで調整できる。マグネットチャック10の基本的な機能は、以上のとおりである。
【0044】
次に、ロボットアームに取り付けられたマグネットチャック10を使用して、床面に積み重ねられた複数のワークのうち最上位のワークWのみを吸着し搬送する動作について説明する。第1ピストン28が「上端位置」に制御された状態を初期状態とする。
【0045】
上記初期状態から、ロボットアームが駆動されて、マグネットチャック10が床面に積み重ねられた複数のワークに上方から接近する。これと並行して、第1エア室24のエアが排出され、第2エア室26および第3エア室74にエアが供給される。
【0046】
第2エア室26にエアが供給されることにより、第1ピストン28およびピストンロッド44が下方に付勢される。第3エア室74にエアが供給されることにより、第2ピストン76が上方に付勢される。下方に付勢されたピストンロッド44と一体のストッパ90は、上方に付勢された第2ピストン76に当接する。
【0047】
この場合、第2ピストン76の受圧面積S2は、第1ピストン28の受圧面積S1より大きく、第2ピストン76に作用するエアの圧力は、第1ピストン28に作用するエアの圧力と同じである。このため、上方に付勢された第2ピストン76がストッパ90を介してピストンロッド44を押し上げる力は、ピストンロッド44を下方に付勢する力を上回る。第2ピストン76は、第2シリンダ孔68内を最も上方まで変位し、第4ダンパ96dがトップカバー84に当接した位置に保持される。また、ピストンロッド44は、ピストンロッド44と一体のストッパ90が第2ピストン76に当接した状態に保持される。すなわち、第1ピストン28は、「調整位置」に制御される。
【0048】
第1ピストン28が「調整位置」に制御された後、マグネットチャック10が床面に積み重ねられた複数のワークにさらに接近する。ボトムカバー46が最上位のワークWに接触すると、当該ワークWのみが吸着される(
図2参照)。その後、マグネットチャック10が上方に移動し、床面に残されたワークから十分に離れると、第3エア室74のエアが排出される。
【0049】
第2エア室26にはエアが継続して供給されるので、第1ピストン28およびピストンロッド44は下方に付勢される。一方、第3エア室74のエアが排出されることにより、第2ピストン76を上方に付勢する力は消失する。このため、第1ピストン28は、第1シリンダ孔16内を最も下方まで変位し、第1ピストン28のカバーヨーク38は、第1ダンパ96aに当接する。すなわち、第1ピストン28は、「下端位置」に制御される。このとき、第2ピストン76は、ストッパ90に押されて下方に変位し、第3ダンパ96cは、第2シリンダチューブ66の底部66aに当接する。
【0050】
第1ピストン28が「下端位置」に制御されることにより、ワークWは最大の磁力で保持される(
図3参照)。その後、1つのワークWのみを保持したマグネットチャック10は、所定の場所まで移動する。ワークWは、最大の磁力で保持されているので、搬送時の加速度が大きくても落下することがなく、所定の場所まで安全に搬送される。
【0051】
その後、第2エア室26のエアが排出され、第1エア室24にエアが供給される。第1エア室24にエアが供給されることにより、第1ピストン28は上方に付勢される。一方、第2エア室26のエアが排出されることにより、第1ピストン28を下方に付勢する力は消失する。
【0052】
この場合、第1ピストン28が上方に付勢される力は、第1ピストン28がワークWと引き合う磁力を上回るように設定されている。すなわち、第1エア室24に供給されるエアの圧力と、第1エア室24のエアによる第1ピストン28の受圧面積(第1シリンダ孔16の断面積)との積が所定以上となるように設定されている。第1ピストン28は、第1シリンダ孔16内を最も上方まで変位し、第1ピストン28のシールホルダ30は、第2ダンパ96bに当接する。すなわち、第1ピストン28は、「上端位置」に制御され、ワークWは、所定の場所で解放される(
図4参照)。
【0053】
上述の説明では、第1ピストン28を「上端位置」から「調整位置」に制御し、床面に積み重ねられた複数のワークのうち最上位のワークWのみを吸着する場合を想定した。しかしながら、第1ピストン28を「下端位置」に制御して複数のワークを吸着しておき、その後、第1ピストン28を「調整位置」に制御して1つのワークWのみを吸着することも可能である。例えば、複数のワークを同時に別の場所まで搬送した後に、1つのワークWのみを保持する場合に有用である。
【0054】
この場合、第3エア室74に供給されるエアにより第2ピストン76がストッパ90を介してピストンロッド44を押し上げる力が、第2エア室26に供給されるエアによりピストンロッド44が下方に付勢される力と、第1ピストン28がワークWと引き合う磁力とを合わせた力を上回るように設定すればよい。
【0055】
本実施形態に係るマグネットチャック10によれば、ワークWに磁力が作用しない「上端位置」、ワークWが最大の磁力で保持される「下端位置」、および、ワークWが最大の磁力より小さい所定の磁力で吸着される「調整位置」の3つの位置に第1ピストン28を制御することが可能である。このため、積み重ねられた複数のワークのうち1つのワークWのみを吸着することができ、かつ、当該ワークWを最大の磁力で保持して安全に搬送することができる。
【0056】
また、ピストンロッド44に対するストッパ90の位置を変更することにより、「調整位置」においてワークWに作用する磁力を最適な大きさとすることができる。また、第3ポート70に供給されるエアの圧力は、第2ポート20に供給されるエアの圧力と同じであるから、エアの供給システムを簡素化することができる。
【0057】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るマグネットチャック100について、
図5を参照しながら説明する。
【0058】
第2実施形態に係るマグネットチャック100は、第1シリンダ孔16の内径と第2シリンダ孔68の内径との関係、および、第2ポート20に供給されるエアの圧力と第3ポート70に供給されるエアの圧力との関係において、マグネットチャック10と異なる。具体的には、第2シリンダ孔68の内径は、第1シリンダ孔16の内径と同じであり、第3ポート70に供給されるエアの圧力は、第2ポート20に供給されるエアの圧力より大きい。
【0059】
「上端位置」は、第1エア室24にエアを供給し、第2エア室26および第3エア室74のエアを排出することによって実現される。「下端位置」は、第2エア室26にエアを供給し、第1エア室24および第3エア室74のエアを排出することによって実現される。「調整位置」は、第2エア室26および第3エア室74にエアを供給し、第1エア室24のエアを排出することによって実現される(
図5参照)。
【0060】
第1ピストン28が「調整位置」に制御される場合、第2エア室26にエアが供給されることにより、第1ピストン28およびピストンロッド44が下方に付勢される。第3エア室74にエアが供給されることにより、第2ピストン76が上方に付勢される。下方に付勢されるピストンロッド44と一体のストッパ90は、上方に付勢される第2ピストン76に当接する。
【0061】
第3エア室74のエアによる第2ピストン76の受圧面積S2は、第2エア室26のエアによる第1ピストン28の受圧面積S1と同じであるが、第3エア室74のエアの圧力は、第2エア室26のエアの圧力より大きい。上方に付勢された第2ピストン76がストッパ90を介してピストンロッド44を押し上げる力は、ピストンロッド44を下方に付勢する力を上回る。このため、第2ピストン76は、第2シリンダ孔68内を最も上方まで変位し、第4ダンパ96dがトップカバー84に当接した位置に保持される。その後、マグネットチャック100が床面に積み重ねられた複数のワークに接近し接触すれば、最上位のワークWのみが吸着される。
【0062】
本実施形態に係るマグネットチャック100によれば、ワークWに磁力が作用しない「上端位置」、ワークWが最大の磁力で保持される「下端位置」、および、ワークWが最大の磁力より小さい所定の磁力で吸着される「調整位置」の3つの位置に第1ピストン28を制御することが可能である。このため、積み重ねられた複数のワークのうち1つのワークWのみを吸着することができ、かつ、当該ワークWを最大の磁力で保持して安全に搬送することができる。
【0063】
また、ピストンロッド44に対するストッパ90の位置を変更することにより、「調整位置」においてワークWに作用する磁力を最適な大きさとすることができる。また、第2シリンダ孔68の内径は、第1シリンダ孔16の内径と同じであるから、第2シリンダチューブ66の肉厚を第1シリンダチューブ14の肉厚と同じにすることができ、小型化が容易である。
【0064】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るマグネットチャック110について、
図6~
図8を参照しながら説明する。なお、第3実施形態に係るマグネットチャック110において、上述したマグネットチャック10と同一または同等の構成要素には同一の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0065】
図6に示されるように、第2エア室112には、第1ピストン28を下方に付勢するコイルスプリング116が配置される。コイルスプリング116の内側に円筒状のスプリングガイド118が配置される。スプリングガイド118の下面は、第1ピストン28のシールホルダ30の上面に当接する。スプリングガイド118は、アルミニウム合金等の常磁性体から構成される。
【0066】
スプリングガイド118の下端は、径方向外方に突出するスプリング受け部118aを備える。中間カバー120の下端は、段部からなるスプリング受け部120aを備える。コイルスプリング116の上端は、中間カバー120のスプリング受け部120aに支持され、コイルスプリング116の下端は、スプリングガイド118のスプリング受け部118aに支持される。
【0067】
ピストンロッド44は、スプリングガイド118の中央を通り、さらに中間カバー120の中央を通って、中間カバー120から上方に延びる。スプリングガイド118の上面には、ダンパ122が取り付けられている。ダンパ122は、第1ピストン28の上昇時に、中間カバー120に当接し、衝撃を緩和する。なお、中間カバー120は、ロッドパッキンおよびダンパを備えていない。
【0068】
第2シリンダ孔68の内径は、第1シリンダ孔16の内径と同じである。第2ポート114は、大気開放ポートとして構成されている。すなわち、第2エア室112は、第2ポート114を介して、常時大気に開放されている。「上端位置」は、第1エア室24にエアを供給し、第3エア室74のエアを排出することによって実現される(
図8参照)。「下端位置」は、第1エア室24および第3エア室74のエアを排出することによって実現される(
図7参照)。「調整位置」は、第3エア室74にエアを供給し、第1エア室24のエアを排出することによって実現される(
図6参照)。
【0069】
第1ピストン28が「調整位置」に制御される場合、コイルスプリング116の付勢力により、第1ピストン28およびピストンロッド44が下方に付勢される。第3エア室74にエアが供給されることにより、第2ピストン76が上方に付勢される。下方に付勢されたピストンロッド44と一体のストッパ90は、上方に付勢された第2ピストン76に当接する。
【0070】
上方に付勢された第2ピストン76がストッパ90を介してピストンロッド44を押し上げる力は、ピストンロッド44を下方に付勢する力を上回る。このため、第2ピストン76は、第2シリンダ孔68内を最も上方まで変位し、第4ダンパ96dがトップカバー84に当接した位置に保持される。その後、マグネットチャック110が床面に積み重ねられた複数のワークに接近し接触すれば、最上位のワークWのみが吸着される。
【0071】
本実施形態に係るマグネットチャック110によれば、ワークWに磁力が作用しない「上端位置」、ワークWが最大の磁力で保持される「下端位置」、および、ワークWが最大の磁力より小さい所定の磁力で吸着される「調整位置」の3つの位置に第1ピストン28を制御することが可能である。このため、積み重ねられた複数のワークのうち1つのワークWのみを吸着することができ、かつ、当該ワークWを最大の磁力で保持して安全に搬送することができる。
【0072】
また、ピストンロッド44に対するストッパ90の位置を変更することにより、「調整位置」においてワークWに作用する磁力を最適な大きさとすることができる。また、第2エア室112にエアを供給する必要がないので、エアの供給システムを一層簡素化することができる。
【0073】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係るマグネットチャック130について、
図9~
図12を参照しながら説明する。なお、第4実施形態に係るマグネットチャック130において、上述したマグネットチャック10と同一または同等の構成要素には同一の参照符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0074】
図9および
図10に示されるように、第1シリンダ12は、第1シリンダチューブ14、第1ピストン28、ボトムカバー46および第1中間カバー132を含む。第2シリンダ64は、第2シリンダチューブ66、第2ピストン76、トップカバー136および第2中間カバー140を含む。第1中間カバー132は、係止リング144を介して第1シリンダチューブ14の上部に固定される。第2中間カバー140は、第2シリンダチューブ66の下部に固定され、第1中間カバー132に当接する。
【0075】
筒状の第2シリンダチューブ66は、円形の第2シリンダ孔68を有する。第2シリンダ孔68の内径は、第1シリンダ孔16の内径と同じである。第2エア室26は、第1ピストン28、第1シリンダチューブ14および第1中間カバー132によって囲まれる空間である。第3エア室74は、第2ピストン76、第2シリンダチューブ66および第2中間カバー140によって囲まれる空間である。第3ポート70に供給されるエアの圧力は、第2ポート20に供給されるエアの圧力と同じである。
【0076】
トップカバー136は、円環状のプレート部136aと、プレート部136aの内周から上方に延びる円筒状の本体部136bとを有する。トップカバー136は、プレート部136aの外周において第2シリンダチューブ66の上部に固定される。トップカバー136の本体部136bは、第2シリンダチューブ66から上方に突出する。
【0077】
ストッパ138は、雌ねじを備えた円筒状のねじ部138aと、ねじ部138aから拡径して下方に延びる円筒状の本体部138bとを有する。ストッパ138は、トップカバー136の本体部136bの内側に挿通され、トップカバー136に対して上下に相対移動可能である。ストッパ138は、本体部138bの下端において第2ピストン76に当接可能である。ストッパ138の本体部138bの少なくとも一部は、トップカバー136の本体部136bによって覆われ、ストッパ138の本体部138bの下端は外部に露出しない。
【0078】
ピストンロッド44は、第1中間カバー132、第2中間カバー140および第2ピストン76に挿通され、第2ピストン76から上方に延びる。ピストンロッド44は、第1中間カバー132に装着されたロッドパッキン134、および、第2中間カバー140に装着されたロッドパッキン142に摺接する。第2ピストン76は、ピストンロッド44に対して上下に相対移動可能である。第2ピストン76の上部には、第4ダンパ96dが取り付けられている。第4ダンパ96dは、第2ピストン76の上昇時にトップカバー136のプレート部136aに当接し、衝撃を緩和する。
【0079】
ピストンロッド44の雄ねじ部44aにストッパ138のねじ部138aおよびロックナット92が螺合される。ストッパ138は、ピストンロッド44に対して所望の位置に調整された後、ピストンロッド44に固定される。ストッパ138の本体部138bの上部外面には目盛り138cが表示されている。作業者は、第1ピストン28およびピストンロッド44が最も上方に変位した状態で、トップカバー136の上端が指し示す目盛り138cを読み取ることにより、ストッパ138の位置を把握できる。
【0080】
第2ピストン76を上方に付勢するコイルスプリング146が第3エア室74に配置される。コイルスプリング146の上端は、第2ピストン76が備えるスプリング受け部76cに支持され、コイルスプリング146の下端は、第2中間カバー140が備えるスプリング受け部140aに支持される。第2中間カバー140の上面には、第3ダンパ148が取り付けられている。第3ダンパ148は、第2ピストン76の下降時に第2ピストン76に当接し、衝撃を緩和する。
【0081】
「上端位置」は、第1エア室24にエアを供給し、第2エア室26および第3エア室74のエアを排出することによって実現される(
図10参照)。「下端位置」は、第2エア室26にエアを供給し、第1エア室24および第3エア室74のエアを排出することによって実現される(
図12参照)。「調整位置」は、第2エア室26および第3エア室74にエアを供給し、第1エア室24のエアを排出することによって実現される(
図11参照)。
【0082】
第1ピストン28が「調整位置」に制御される場合、第2エア室26にエアが供給されることにより、第1ピストン28およびピストンロッド44が下方に付勢される。第1ピストン28が「調整位置」に制御される場合、第3エア室74にエアが供給されることにより、また、コイルスプリング146の付勢力を受けることにより、第2ピストン76が上方に付勢される。下方に付勢されたピストンロッド44と一体のストッパ138は、上方に付勢された第2ピストン76に当接する。
【0083】
第3エア室74のエアによる第2ピストン76の受圧面積は、第2エア室26のエアによる第1ピストン28の受圧面積と同じであり、第3エア室74のエアの圧力は、第2エア室26のエアの圧力と同じである。すなわち、第3エア室74のエアにより第2ピストン76が上方に付勢される力は、第2エア室26のエアによりピストンロッド44が下方に付勢される力と同じである。上方に付勢された第2ピストン76がストッパ138を介してピストンロッド44を押し上げる力は、コイルスプリング146の付勢力の分だけ、ピストンロッド44を下方に付勢する力を上回る。このため、第2ピストン76は、第2シリンダ孔68内を最も上方まで変位した位置に保持される。
【0084】
なお、第2エア室26のエアにより第1ピストン28およびピストンロッド44が下方に付勢される力は、第1ピストン28が「下端位置」に制御されたときに第2ピストン76が受けるコイルスプリング146の付勢力を上回るように設定される。すなわち、第2エア室26に供給されるエアの圧力は、「下端位置」を実現することができる大きさに設定される。
【0085】
本実施形態に係るマグネットチャック130によれば、ワークWに磁力が作用しない「上端位置」、ワークWが最大の磁力で保持される「下端位置」、および、ワークWが最大の磁力より小さい所定の磁力で吸着される「調整位置」の3つの位置に第1ピストン28を制御することが可能である。このため、積み重ねられた複数のワークのうち1つのワークWのみを吸着することができ、かつ、当該ワークWを最大の磁力で保持して安全に搬送することができる。
【0086】
また、ピストンロッド44に対するストッパ138の位置を変更することにより、「調整位置」においてワークWに作用する磁力を最適な大きさとすることができる。この場合、ストッパ138の本体部138bがトップカバー136の本体部136bによって覆われているので、作業者の手指がストッパ138の下端と第2ピストン76との間で挟まれるおそれがない。また、ストッパ138の上部外面に目盛り138cが表示されているので、作業者は、ピストンロッド44に対するストッパ138の位置を容易に調整することができる。
【0087】
本発明に係るマグネットチャックは、上述した実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を採り得る。
【符号の説明】
【0088】
10、100、110、130…マグネットチャック
12…第1シリンダ 18…第1ポート
20、114…第2ポート 24…第1エア室
26、112…第2エア室 28…第1ピストン
36…永久磁石 44…ピストンロッド
64…第2シリンダ 70…第3ポート
74…第3エア室 76…第2ピストン
90…ストッパ
116、146…コイルスプリング(スプリング)
136…トップカバー 138c…目盛り