(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175648
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】予防着
(51)【国際特許分類】
A41D 13/12 20060101AFI20231205BHJP
A41D 27/10 20060101ALI20231205BHJP
A41D 27/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
A41D13/12 145
A41D27/10 Z
A41D27/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084549
(22)【出願日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2022087745
(32)【優先日】2022-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】522214369
【氏名又は名称】医療法人済恵会
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【弁理士】
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】田村 和美
【テーマコード(参考)】
3B035
3B211
【Fターム(参考)】
3B035AA02
3B035AA22
3B035AB07
3B035AB11
3B035AC20
3B035AC21
3B035AC24
3B211AA01
3B211AB08
3B211AC22
(57)【要約】
【課題】従来の予防着では、治療中の患者のチューブを引っ張る動作により、チューブが抜けてしまう事象が発生し、看護師等の仕事を低減し難いという課題があった。
【解決手段】
本発明の予防着10は、主に、本体部11と、本体部11に配設されるチューブ引き抜き防止手段24と、を備える。そして、チューブ引き抜き防止手段24は、本体部11の内側に配設される第1の面状体26と、本体部11の開口領域25に配設されるスライド式ファスナー35と、本体部11の外側に形成される第2の面状体31と、を有する。この構造により、意識レベルの低い患者が、点滴等の治療の最中に無意識のうちに医療用チューブ12を引っ張り、引き抜こうとする動作を防止する。その結果、患者に対して安全な治療が行われると共に、点滴の再施術等の看護師等の余分な仕事の発生が防止される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血管を用いて治療する際に前記患者が着用する予防着であって、
前記患者の上半身に着用する本体部と、
前記本体部の襟口と袖口との間に形成される開口領域と、
前記襟口から前記本体部の内側へと配設される医療用チューブを前記患者が引き抜くことを防止するチューブ引き抜き防止手段と、を備え、
前記チューブ引き抜き防止手段は、
少なくとも前記襟口または前記袖口の近傍の前記本体部の内側に配置され、前記本体部と前記患者との隙間を調整可能な第1の面状体と、
前記開口領域を開閉自在に塞ぐスライド式ファスナーと、
前記本体部の外側に配置され、治療時に少なくとも前記スライド式ファスナーの開閉操作部を被覆する第2の面状体と、を有することを特徴とする予防着。
【請求項2】
前記第1の面状体及び前記第2の面状体は、それぞれ前記本体部に対して着脱可能な状態に取り付けられ、
前記第2の面状体は、治療時には前記開口領域を跨ぐように前記本体部に固定されると共に、前記第1の面状体と重畳して配設されることを特徴とする請求項1に記載の予防着。
【請求項3】
前記第2の面状体の一端側は、前記開口領域の背面側の前記本体部に固定されると共に、前記第2の面状体の他端側は、前記開口領域の前面側の前記本体部に面ファスナーを介して着脱自在に固定されることを特徴とする請求項2に記載の予防着。
【請求項4】
前記襟口の近傍の前記本体部には、前記医療用チューブを巻き付けた状態にて位置固定するチューブ固定部が形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の予防着。
【請求項5】
前記本体部は、前記患者の一方の腕を覆うと共に、前記患者の他方の腕を露出した状態とし、
前記本体部は、その表面と裏面とをひっくり返した状態にて前記患者に着用させることで、前記患者の前記他方の腕を覆うことを特徴とする請求項4に記載の予防着。
【請求項6】
患者の血管を用いて治療する際に前記患者が着用し、治療を施す前記患者の一方の腕を覆う袖部を備える予防着であって、
前記患者の上半身に着用する本体部と、
前記本体部の襟口と前記袖部の袖口との間であり、少なくとも前記袖部に形成される開口領域と、
前記襟口から前記袖部の内側へと配設される医療用チューブを前記患者が引き抜くことを防止するチューブ引き抜き防止手段と、を備え、
前記本体部は、
前記患者の正面側であり、前記本体部の中心よりも前記患者の他方の腕側に形成される前開き開口領域と、
前記前開き開口領域を開閉自在に塞ぐ第1のスライド式ファスナーと、
前記患者の着用時に前記本体部の内側に前記前開き開口領域が位置するように、前記本体部を着脱自在に固定する面ファスナーと、を有することを特徴とする予防着。
【請求項7】
前記チューブ引き抜き防止手段は、
前記本体部及び前記袖部の内側に配置され、前記本体部及び前記袖部と前記患者との隙間を調整可能な第1の面状体と、
前記開口領域を開閉自在に塞ぐ第2のスライド式ファスナーと、
前記本体部の外側に配置され、治療時に少なくとも前記第2のスライド式ファスナーの開閉操作部を被覆する第2の面状体と、を有することを特徴とする請求項6に記載の予防着。
【請求項8】
前記第2のスライド式ファスナーの端部及びその周辺領域は、前記本体部より前記襟口へと突出して配置されることを特徴とする請求項7に記載の予防着。
【請求項9】
前記襟口の近傍の前記本体部には、前記医療用チューブを巻き付けた状態にて位置固定するチューブ固定部が形成され、
前記チューブ固定部は、前記第2のスライド式ファスナーよりも背面側に配置されることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の予防着。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予防着に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、在宅医療介護服が開示されている。患者の病状によっては、長時間に渡り点滴等により、患者の血管へ直接投薬する場合がある。そして、患者の意識レベル等により、患者が無意識のうちに、点滴用のチューブを手で引っ張ることで、治療中にチューブが抜けてしまう場合がある。また、チューブの長期留置による治療の場合には、点滴チューブを手で引っ張ることで、チューブが血管から外れる場合やチューブが引きちぎられてしまう場合がある。
【0003】
治療中のチューブが抜けてしまう場合には、患者の治療が中断されるだけでなく、その都度、漏れた薬液の片付け等の余分な仕事が発生すると共に、看護師により、点滴の再設定の作業が必要となる。昨今、医療現場での人手不足もあり、患者の上記チューブの引き抜き動作への対策が求められていた。
【0004】
また、チューブの長期留置による治療では、チューブが中心静脈から外れた場合には、末梢に点滴が投与されることで、患者が静脈炎になり易い。一方、チューブが引きちぎられた場合には、チューブの先端が血管内に残存し、血栓を起こす可能性がある。つまり、患者の上記チューブの引き抜き動作は、非常に危険な行為である。
【0005】
そこで、上記在宅医療介護服では、主に、本体部と、本体部と連続する2つの袖部と、袖部の先端に設けられる2つの手袋と、を備える。手袋は、手のひらを開いた状態にて収納可能な空間を有することで、一定程度の手の動きを許容すると共に、その内部に湾曲状の硬い板を収納することで、手の可動範囲が制限される。そして、手袋は、袖部に対してファスナーにより着脱可能に装着されることで、被介護者は、自身にて手袋を外し難くなる。
【0006】
その結果、被介護者に対して長時間に渡る点滴等による治療を行う際に、被介護者の両手がベッドのフレーム等に縛られた状態にて固定されなくても、上記チューブの引き抜き動作が防止される。そして、被介護者も長時間に渡り、上記縛られた状態となることが防止され、安定した精神状態にて治療が受けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記在宅医療介護服は、それ以前の予防着と比較して、袖部の先端に手袋を装着することで、点滴等による治療中に被介護者の手をベッドのフレーム等に縛り付けることが不要となる。そして、被介護者は、両手の自由度が増すことで、長時間に渡る点滴等による治療の際にも、精神状態も安定し易くなる。一方、手袋により両手の可動範囲が制限されることで、点滴用のチューブを引っ張り難くなり、治療中に患者の上記チューブの引き抜き動作が防止される。
【0009】
しかしながら、被介護者は、両手の自由度は増すが、手袋により指先の動きや曲げ伸ばし等の制限を受ける。例えば、被介護者は、治療中にベッド上にてシーツ等を掛け直す動作や物を取る等の動作もし難く、長時間に渡る治療に対して精神的な苦痛を伴うという課題がある。
【0010】
更には、上記在宅医療介護服の袖部は、点滴の施術等の医療作業のし易さが考慮され、腕の外側を被覆する領域の略全長に渡り開口領域が形成される。そして、上記開口領域は、袖部に配設された複数箇所の面ファスナーにより開閉し、治療時には、容易に被介護者の腕が露出することで、注射や点滴等の治療が行い易くなる。
【0011】
この構造により、被介護者は、手袋を上記チューブに引っ掛けることで、上記チューブの引き抜き動作が可能となり、チューブが引き抜かれることで上記課題が発生する恐れがある。また、手袋は、袖部に対してファスナーにより着脱可能であり、被介護者が、手袋を装着しない場合には、袖部の先に露出した手にて簡単に袖部の上記開口を開き、上記チューブの引き抜き動作が可能となる課題がある。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、医療用チューブが患者に装着される領域の本体部にチューブ引き抜き防止手段を設けることで、患者のチューブ引き抜き動作を防止する予防着を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の予防着では、患者の血管を用いて治療する際に前記患者が着用する予防着であって、前記患者の上半身に着用する本体部と、前記本体部の襟口と袖口との間に形成される開口領域と、前記襟口から前記本体部の内側へと配設される医療用チューブを前記患者が引き抜くことを防止するチューブ引き抜き防止手段と、を備え、前記チューブ引き抜き防止手段は、少なくとも前記襟口または前記袖口の近傍の前記本体部の内側に配置され、前記本体部と前記患者との隙間を調整可能な第1の面状体と、前記開口領域を開閉自在に塞ぐスライド式ファスナーと、前記本体部の外側に配置され、治療時に少なくとも前記スライド式ファスナーの開閉操作部を被覆する第2の面状体と、を有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の予防着では、前記第1の面状体及び前記第2の面状体は、それぞれ前記本体部に対して着脱可能な状態に取り付けられ、前記第2の面状体は、治療時には前記開口領域を跨ぐように前記本体部に固定されると共に、前記第1の面状体と重畳して配設されることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の予防着では、前記第2の面状体の一端側は、前記開口領域の背面側の前記本体部に固定されると共に、前記第2の面状体の他端側は、前記開口領域の前面側の前記本体部に面ファスナーを介して着脱自在に固定されることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の予防着では、前記襟口の近傍の前記本体部には、前記医療用チューブを巻き付けた状態にて位置固定するチューブ固定部が形成されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の予防着では、前記本体部は、前記患者の一方の腕を覆うと共に、前記患者の他方の腕を露出した状態とし、前記本体部は、その表面と裏面とをひっくり返した状態にて前記患者に着用させることで、前記患者の前記他方の腕を覆うことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の予防着は、患者の血管を用いて治療する際に前記患者が着用し、治療を施す前記患者の一方の腕を覆う袖部を備える予防着であって、前記患者の上半身に着用する本体部と、前記本体部の襟口と前記袖部の袖口との間であり、少なくとも前記袖部に形成される開口領域と、前記襟口から前記袖部の内側へと配設される医療用チューブを前記患者が引き抜くことを防止するチューブ引き抜き防止手段と、を備え、前記本体部は、前記患者の正面側であり、前記本体部の中心よりも前記患者の他方の腕側に形成される前開き開口領域と、前記前開き開口領域を開閉自在に塞ぐ第1のスライド式ファスナーと、前記患者の着用時に前記本体部の内側に前記前開き開口領域が位置するように、前記本体部を着脱自在に固定する面ファスナーと、を有することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の予防着では、前記チューブ引き抜き防止手段は、前記本体部及び前記袖部の内側に配置され、前記本体部及び前記袖部と前記患者との隙間を調整可能な第1の面状体と、前記開口領域を開閉自在に塞ぐ第2のスライド式ファスナーと、前記本体部の外側に配置され、治療時に少なくとも前記第2のスライド式ファスナーの開閉操作部を被覆する第2の面状体と、を有することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の予防着では、前記第2のスライド式ファスナーの端部及びその周辺領域は、前記本体部より前記襟口へと突出して配置されることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の予防着では、前記襟口の近傍の前記本体部には、前記医療用チューブを巻き付けた状態にて位置固定するチューブ固定部が形成され、前記チューブ固定部は、前記第2のスライド式ファスナーよりも背面側に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の予防着は、本体部と、本体部の開口領域の周辺に形成されるチューブ引き抜き防止手段と、を備える。そして、チューブ引き抜き防止手段は、医療用チューブの一部を覆う第1の面状体と、開口領域に配設されるスライド式ファスナーと、治療時にスライド式ファスナーの開閉操作部を隠す第2の面状体と、を有する。この構造により、意識レベルの低い患者が、点滴等の治療の最中に無意識のうちに医療用チューブを引き抜く動作を防止し、治療中にチューブが引き抜かれる事象等が防止される。その結果、患者に対して安全な治療が行われると共に、点滴の再施術等の医師や看護師等の余分な仕事の発生が防止される。
【0023】
また、本発明の予防着では、第1の面状体が、第2の面状体と重畳した状態に配設されることで、治療中に開口領域が患者により開けられた場合でも、第1の面状体が、医療用チューブを覆うことで、患者は医療用チューブへと到達し難くなり、患者による医療用チューブを引き抜く動作が防止される。
【0024】
また、本発明の予防着では、第2の面状体が、治療時には開口領域を跨ぐように本体部に固定される。この構造により、患者が、襟口近傍の第2の面状体の面ファスナーを剥がし、開閉操作部を発見した場合でも、その他の第2の面状体が本体部に固定された状態を維持することで、開口領域が全開状態となることが防止される。
【0025】
また、本発明の予防着では、襟口近傍の本体部には、医療用チューブを巻き付けた状態にて位置固定するチューブ固定部が形成される。この構造により、患者が、予防着の外側に導出した医療用チューブを引っ張った場合でも、チューブ固定部よりも先端側の医療用チューブが引っ張られ難くなり、医療用チューブが引き抜かれ難くなる。
【0026】
また、本発明の予防着では、本体部の袖部が、患者の片方の腕に対して配設され、患者のもう片方の腕に対しては配設されない。そして、予防着は、本体部の表裏面を引っ繰り返すことで、患者のもう片方の腕に対しても使用可能となり、所謂、リバーシブル構造となる。この構造により、患者は、1着の予防着にて両腕への治療対応が可能となり、入院時に掛かる費用を削減することが出来る。
【0027】
また、本発明の予防着では、前開き開口領域が、襟口よりも袖部の反対側の本体部に形成され、第1のスライド式ファスナーにより開閉自在に塞がれる。この構造により、看護師等は、前開き開口領域を半分程度開き、本体部を袖部側へと折り畳むことで、容易に患者の胸前を露出させることが出来る。そして、看護師等は、患者に点滴等の治療を行いながら、患者の観察や処置を行い易くなる。また、患者は、本体部の襟口等が顔に当たり難くなり、ストレスが低減される。
【0028】
また、本発明の予防着では、チューブ引き抜き防止手段が、本体部及び袖部の内側に配置される。この構造により、意識レベルの低い患者が、点滴等の治療の最中に無意識のうちに医療用チューブを引き抜く動作を防止し、治療中にチューブが引き抜かれる事象等が防止される。
【0029】
また、本発明の予防着では、袖部のスライド式ファスナーが、両手を使用して操作しないと開口領域に対して開閉し難くなる。この構造により、意識レベルの低い患者が、点滴等の治療の最中に無意識のうちに袖部の開口領域を開くことを防止できる。
【0030】
また、本発明の予防着では、チューブ固定部が、本体部の襟口近傍の背面側に形成される。この構造により、医療用チューブが、チューブ固定部にて巻き付けられた状態にて固定される。そして、医療用チューブが、患者の背面側に位置することで患者の手が届き難くなると共に、患者が、予防着の外側に導出した医療用チューブを引っ張った場合でも、チューブ固定部よりも先端側の医療用チューブが引っ張られ難くなり、医療用チューブが引き抜かれ難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施形態である予防着を説明する平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態である予防着を説明する平面図である。
【
図3A】本発明の一実施形態である予防着を説明する平面図である。
【
図3B】本発明の一実施形態である予防着を説明する平面図である。
【
図4】本発明の一実施形態である予防着の使用状態を説明する概略図である。
【
図5】本発明の一実施形態である予防着のリバーシブル状態を説明する平面図である。
【
図6】本発明の他の実施形態である予防着を説明する平面図である。
【
図7】本発明の他の実施形態である予防着を説明する平面図である。
【
図8】本発明の他の実施形態である予防着を説明する平面図である。
【
図9】本発明の他の実施形態である予防着を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の一実施形態に係る予防着10を図面に基づき詳細に説明する。尚、本実施形態の説明の際には、同一の部材には原則として同一の符番を用い、繰り返しの説明は省略する。
【0033】
図1は、本実施形態の予防着10を説明する平面図である。
図2は、本実施形態の予防着10を説明する平面図であり、チューブ引き抜き防止手段24の第2の面状体31を本体部11から離脱させた状態を示す。
図3A及び
図3Bは、本実施形態の予防着10を説明する平面図であり、チューブ引き抜き防止手段24の第1の面状体26を本体部11から離脱させると共にスライド式ファスナー35を介して開口領域25を全開とした状態を示す。
【0034】
図1に示す如く、予防着10は、例えば、患者が肌着やパジャマ等を着用した状態にて、その肌着等の上に着用する上着として用いられる。特に、患者の中には、その病状により意識レベルの低い方や痴呆等の病気に罹患している人もいる。そして、上記患者の場合には、長時間に渡りベッド51(
図4参照)の上に横たわり、点滴等による治療の最中に、無意識のうちに点滴等に用いられる医療用チューブ12を引き抜こうとする場合もある。尚、患者の病状等に応じて、予防着10が、患者の素肌の上に直接着用される場合でも良い。また、予防着10の丈は、患者の着用するズボン内へと入る長さを有することで、患者が予防着10の下端側から手を挿入する行為が防止される。
【0035】
予防着10は、上記意識レベルの低い患者等、治療状況を把握し難い患者が治療中に着用することで、患者が無意識のうちに、医療用チューブ12を手で引っ張り、医療用チューブ12を引き抜く動作を防止する。そして、患者自身の行為により、治療中に医療用チューブ12が抜けてしまう事象や医療用チューブ12の先端の針(図示せず)の固定部が剥がれ、医療用チューブ12や上記針が血管内に残存してしまう事象等が防止される。尚、本実施形態の医療用チューブ12としては、点滴、輸血や採血等に用いられる中心静脈用のチューブのみでなく、末梢点滴用のチューブも含む。
【0036】
尚、予防着10は、病院、在宅医療、救急車内等にて、医師や看護師等が、患者の治療の際に使用する場合に限定するものではなく、例えば、高齢者施設等の利用者等に対しても利用可能である。また、予防着10は、点滴による投薬治療の場合に限定するものではなく、透析や輸血等、長時間に渡り、患者が、医療用チューブ12に繋がれた状況においても使用可能である。
【0037】
図示したように、予防着10は、主に、患者の上半身に着用される本体部11と、本体部11に付随して配置されるチューブ引き抜き防止手段24と、を有する。そして、予防着10は、例えば、ガーゼ生地により形成され、患者の肌触り感が向上される。また、予防着10は、綿100%の生地により形成される場合でも良く、この場合には、アレルギー体質の方にも使用可能となる。尚、予防着10の生地としては、その他、シルク等の天然繊維を用いた生地やポリエステルやレーヨン等の化学繊維を用いた生地が用いられる場合でも良い。
【0038】
予防着10は、例えば、右腕52(
図4参照)側には袖部23が形成され、左腕側には袖部が形成されない形状となる。上記点滴等の治療は、患者の片方の腕に対して施術される。そのため、予防着10には、その片方の腕に対応するようにチューブ引き抜き防止手段24が形成されることで、患者による医療用チューブ12の引き抜き動作の防止が図られる。そして、治療中に医療用チューブ12が患者自身により引っ張られ、医療用チューブ12が引き抜かれる事象等が防止されると共に、看護師等が引き抜かれた点滴の片付け作業や再施術作業等の余計な労力が発生することが防止される。
【0039】
また、予防着10の左腕側では、袖部23が無いベスト形状として形成されることで、医師や看護師等は、医療用チューブ12が繋がれていない左腕を利用して、患者の体温測定や血圧測定等が行い易くなる。また、看護師等は、患者に対して予防着10を着せ易くなる。尚、本実施形態の予防着10としては、袖部23は、片方の腕に形成される場合に限定されるものではなく、両方の腕に対して形成される場合でも良い。
【0040】
詳細は後述するが、上記治療時には、医療用チューブ12は、患者の襟口13から本体部11の内側へと挿入され、袖部23側へと引き回される。そして、本体部11の表面には、チューブ引き抜き防止手段24としての第2の面状体31が配置され、第2の面状体31は、袖部23を中心に形成される開口領域25を上面側から覆う。更には、上記開口領域25は、チューブ引き抜き防止手段24としてのスライド式ファスナー35により閉じられると共に、開口領域25の内側には、チューブ引き抜き防止手段24としての第1の面状体26が、襟口13や袖口14を狭めるように配置される。この構造により、患者が、治療中に自由な状態の左手により医療用チューブ12を引っ張り難くなり、患者自身による医療用チューブ12の引き抜き動作の防止が図られる。
【0041】
本体部11の前面側の略中央部には、前開き用の開口領域11Aが形成される。本体部11には、開口領域11Aを開閉自在に塞ぐように、面ファスナー15及びスライド式ファスナー16が縫製され、2段階式の開閉構造となる。そして、予防着10は、前開き構造となることで、予防着10を患者に着用させる作業や予防着10を患者から脱がす作業が行い易くなる。
【0042】
尚、本実施形態の面ファスナーとは、例えば、生地の表面に縫製されたループ形状部とフック形状部とを貼り合わせることで、生地同士を連結させ、あるいは生地同士を離間させる部材である。また、本実施形態のスライド式ファスナーとは、例えば、生地の端部に縫製された左右一対の複数の務歯を摘み部(スライダ)にて嵌合させることで、生地同士を連結させ、あるいは生地同士を離間させる部材である。尚、上記摘み部は、本願発明の開閉操作部に対応する。
【0043】
図2に示す如く、本体部11は、開口領域11Aに沿って重ね合わせ領域11Bを有し、その重ね合わせ領域11Bの内側には、一対の面ファスナー15とその間にスライド式ファスナー16とが縫製される。そして、患者は、治療時に本体部11の内側へと自身の手を入れるためには、最初に面ファスナー15を剥がした後、スライド式ファスナー16を用いて開口領域11Aを開ける必要がある。
【0044】
この構造により、患者は、開口領域11Aから本体部11の内側へと手を侵入させ難くなり、医療用チューブ12の引き抜き動作が防止される。更には、スライド式ファスナー16は、通常の衣類とは逆に、開口領域11Aの襟口13側から下半身側へと摘み部16Aを移動させることで、開口領域11Aを閉じる構造となる。その結果、患者が、例えば、襟口13から手を本体部11の内側へ挿入した場合でも、摘み部16Aが襟口13近傍に無く、スライド式ファスナー16が勝手に下がる事がないので、開口領域11Aが開口しない。尚、予防着10では、本体部11の首回りや脇回りの開口を狭めることで、手の侵入を妨げている。
【0045】
また、本体部11の首回りがVネック形状となると共に上記重ね合わせ領域11Bが、本体部11の中心から左側へと逃がして形成される。その結果、患者の治療中に本体部11が、患者の顔側にずれた場合でも、面ファスナー15やスライド式ファスナー16が顎やその周辺に当たり、皮膚が擦れる等の不快感を患者へ与えることが防止される。
【0046】
図示したように、本体部11の袖口14及び襟口13の周辺の本体部11の肩部20には、第2の面状体31を本体部11に対して着脱させるための面ファスナー32,33,34が縫製される。本実施形態では、面ファスナー32は、袖部23の袖口14周辺に配置され、面ファスナー33は、袖部23の上腕部に配置され、面ファスナー34は、襟口13周辺の肩部20に配置される。そして、第2の面状体31は、それぞれ開口領域25を跨ぐように配置され、第2の面状体31の一端(図示せず)側は、開口領域25よりも背面側の袖部23及び肩部20に縫製して固定される。上述したように、第2の面状体31の他端31A側には、面ファスナー32~34が縫製される。
【0047】
この構造により、患者の治療時には、第2の面状体31は、面ファスナー32~34を介して本体部11へと貼着した状態となる。詳細は後述するが、第2の面状体31が、開口領域25を閉じた状態とするスライド式ファスナー16の上面を覆うことで、患者が、全ての第2の面状体31を本体部11から離脱させないと、スライド式ファスナー35を介して開口領域25を全開状態へとし難くなる。その結果、患者は、開口領域25の一部開口状態では、本体部11の内側へと手を侵入させ難くなり、医療用チューブ12の引き抜き動作の防止が図られる。
【0048】
図3Aでは、本体部11の袖部23の内面側が見えるように、スライド式ファスナー35を外し、袖部23及び本体部11の一部を部分的に前開きにした状態を示す。図示したように、開口領域25は、袖部23の袖口14から肩部20の襟口13に渡り形成され、スライド式ファスナー35により開閉される構造となる。そして、開口領域25が、全開状態となると共に第1の面状体26が、面ファスナー27,28,29を外して本体部11から離脱することで、袖部23及び肩部20を含む本体部11の前面側は、患者の下半身側へと前開きの状態となる。
【0049】
この構造により、患者の治療時には、例えば、予め前開き状態の本体部11をベッド上面に敷き、その上に患者を寝かすことで、予防着10を患者に対して着用させ易くなる。このとき、看護師は、患者の右腕に対して点滴等の処置を施し、医療用チューブ12を固定した後、第1の面状体26を面ファスナー27~29を介して本体部11に装着させる。そして、看護師は、スライド式ファスナー35を操作し開口領域25を閉じ、第2の面状体31を面ファスナー32~34を介して本体部11に装着させる。つまり、看護師は、袖部23等の本体部11の前開き状態から段々と開口領域25を閉じる作業を行うことで、患者に対して容易にチューブ引き抜き防止手段24を装着させることが出来る。
【0050】
ここで、第1の面状体26は、本体部11の内側に配設され、本体部11に対して着脱自在の構造となる。図示したように、本体部11の袖部23及び肩部20には、第1の面状体26を本体部11に対して着脱させるための面ファスナー27~29が縫製される。本実施形態では、面ファスナー27は、袖部23の袖口14周辺に配置され、面ファスナー28は、袖部23の上腕部に配置され、面ファスナー29は、襟口13周辺の肩部20に配置される。尚、面ファスナー27~29は、その間に本体部11の生地を挟むように、面ファスナー32~34と重畳して縫製される。
【0051】
第1の面状体26の一端26Aは、開口領域25近傍の袖部23や肩部20に縫製され、第1の面状体26の他端26B側には、面ファスナー27~29が縫製される。そして、第1の面状体26は、患者の右腕や肩の上面側を覆うように面ファスナー27~29を介して本体部11へと貼着する。また、第1の面状体26は、第2の面状体31と略同一形状の四方形形状に形成され、着用時に略全面に渡り第2の面状体31と重畳するように本体部11に縫製される。
【0052】
この構造により、患者が、無意識のうちにスライド式ファスナー35を介して開口領域25を全開状態とした場合でも、開口領域25は、本体部11の内側から部分的に第1の面状体26により塞がれた状態となる。そして、患者は、面ファスナー27~29を本体部11から剥がし、第1の面状体26が本体部11から離脱するまでは、本体部11の内側へと手を侵入させ難くなり、医療用チューブ12の引き抜き動作の防止が図られる。
【0053】
更には、上述したように、第1の面状体26は、患者と本体部11との間に配置される。そして、面ファスナー27は、袖部23の袖口14近傍に配置され、面ファスナー29は、肩部20の襟口13近傍に配設される。この構造により、第1の面状体26の締め付け具合に応じて、袖口14や襟口13での患者と本体部11との隙間が調整される。つまり、第1の面状体26が、患者に対して接触するように、本体部11を絞り込むことで、上記隙間は狭められる。
【0054】
患者の治療時には、患者は、自由な状態の左手を袖口14や襟口13からも本体部11の内側へと侵入させようと試みるが、第1の面状体26により左手が侵入する隙間を無くす。その結果、患者は、袖口14や襟口13から本体部11の内側へと手を侵入させ難くなり、医療用チューブ12の引き抜き動作の防止が図られる。
【0055】
図3Bに示す如く、本体部11の肩部20の内側には、その背面側にチューブ固定部41が形成される。チューブ固定部41は、本体部11の襟口13近傍に配置され、医療用チューブ12が患者により引き抜かれることを防止する構造となる。具体的には、チューブ固定部41は、固定用面状体42と、2枚のチューブ係止用面状体43,44と、面ファスナー45と、を有する。固定用面状体42及びチューブ係止用面状体43,44は、面ファスナー45を介して本体部11に対して着脱自在となる。そして、固定用面状体42は、面ファスナー45を介して本体部11に対して着脱自在となると共に、チューブ係止用面状体43,44をそ上面側から覆うように本体部11に固定される。
【0056】
図示したように、医療用チューブ12は、予防着10の襟口13から本体部11の内側へと挿入され、袖部23側へと引き回される。このとき、医療用チューブ12は、例えば、チューブ係止用面状体43,44に対して、例えば、1回巻き付けると共にS字状に係止された後、チューブ係止用面状体43,44は、面ファスナー45へと貼着される。その後、医療用チューブ12は、更に、固定用面状体42により本体部11との間に固定される。
【0057】
この構造により、医療用チューブ12は、チューブ係止用面状体43に巻き付けて固定されると共にチューブ係止用面状体43,44及び固定用面状体42により二重に固定される。その結果、患者は、本体部11の襟口13から導出した医療用チューブ12を引っ張る場合もあるが、この場合でも、チューブ固定部41よりも先端側の医療用チューブ12が、引っ張られることが防止され、医療用チューブ12が、患者の右腕から引き抜かれることが防止される。
【0058】
次に、
図4を用いて、予防着10の使用状態を説明する。
図4は、本実施形態の予防着10の使用状態を説明する概略図である。尚、以下の説明では、
図1から
図3Bを用いて説明した予防着10の説明を参照し、予防着10の同一の部材には原則として同一の符番を用い、繰り返しの説明は省略する。
【0059】
図4では、予防着10を着用した患者が、ベッド51上に仰向け状態に横たわり、点滴による治療を受けている状態を示す。図示したように、点滴用の医療用チューブ12は、予防着10の襟口13から本体部11の内側へと挿入され、
図3Bを用いて上述したように、チューブ固定部41に対して固定された後に、袖部23側へと引き回される。そして、医療用チューブ12は、患者の背面側から患者の右腕52側へと案内されると共に、右腕52に沿って引き回され、例えば、上腕部の血管へと医療用チューブ12の先端の針が刺され、固定用テープを介して右腕52に固定される。尚、医療用チューブ12の長期留置による治療の場合には、医療用チューブ12自体の先端が中心静脈に対して挿入される。
【0060】
このとき、
図3Aを用いて上述したように、例えば、予防着10は、患者がベッドに横たわる前に、予め、開口領域25,11Aが全開となり、本体部11が前開き状態にてベッド51上に敷かれている。そして、患者が、予防着10上面に横たわった後、看護師により右腕52の所望の箇所に医療用チューブ12が施術される。
【0061】
次に、看護師が以下に説明する第1から第3段階の装着作業を行うことで、予防着10のチューブ引き抜き防止手段24が、医療用チューブ12が固定された患者の右腕52に対して装着される。
【0062】
最初に、第1段階の装着作業として、
図3Aに示すように、第1の面状体26を本体部11へと固定する。そして、第1の面状体26は、患者による医療用チューブ12の引き抜き動作に対する第1の防止構造となる。具体的には、看護師は、開口領域25の全開状態にて、第1の面状体26の面ファスナー27~29を貼着させることで、第1の面状体26を本体部11に対して固定された状態とする。特に、襟口13及び袖口14では、面ファスナー27,29の貼着位置を調整することで、患者と第1の面状体26との隙間を少なくし、出来る限り第1の面状体26が患者に接触した状態とする。
【0063】
次に、第2段階の装着作業として、
図2に示すように、開口領域25を全閉状態とする。そして、スライド式ファスナー35は、患者による医療用チューブ12の引き抜き動作に対する第2の防止構造となる。具体的には、看護師は、3つの第1の面状体26を本体部11に対して固定させた後、スライド式ファスナー35の摘み部35Aを袖口14側から襟口13側へと移動させることで、開口領域25を全閉状態とする。この作業により、3つの第1の面状体26は、本体部11の内側へと収納された状態となる。
【0064】
最後に、第3段階の装着作業として、
図1に示すように、第2の面状体31を本体部11へと固定する。そして、第2の面状体31は、患者による医療用チューブ12の引き抜き動作に対する第3の防止構造となる。具体的には、看護師は、開口領域25の全閉状態にて、第2の面状体31の面ファスナー32~34を貼着させることで、第2の面状体31を本体部11に対して固定された状態とする。特に、襟口13の近傍では、面ファスナー34の貼着位置を調整し、スライド式ファスナー35の摘み部35Aを本体部11との間に隠すことで、患者がスライド式ファスナー35を開ける動作を防止する。
【0065】
上述した第1段階から第3段階の装着作業を終えることで、患者の右腕52側では、医療用チューブ12が、第1の面状体26により覆われると共に、開口領域25がスライド式ファスナー35により閉じられた状態となる。更には、全閉状態の開口領域25が、第2の面状体31により覆われることで、医療用チューブ12の上方には、患者の医療用チューブ12への到達を防止するための3重の防止構造から成るチューブ引き抜き防止手段24が装着される。
【0066】
意識レベルの低い患者は、医療用チューブ12を勝手に引き抜くことでの危険性を理解し難く、右腕52の違和感等を解消するため、右腕52に固定された医療用チューブ12を引き抜こうとする。
【0067】
患者が、自由な状態の左手を袖口14や襟口13から本体部11の内側へと侵入させようとした場合には、第1の面状体26が、袖口14や襟口13と患者との隙間を出来る限り狭めることで、左手の侵入を防止する。そして、患者が、左手の侵入を諦め、襟口13から導出する医療用チューブ12を引っ張った場合には、医療用チューブ12は、チューブ固定部41にて巻き付けて固定されることで、チューブ固定部41よりも先端側の医療用チューブ12が、患者の右腕から引き抜かれることが防止される。
【0068】
尚、上述したように、第1の面状体26は、第2の面状体31に対してほぼ全面的に重畳して配置されることで、第2の面状体31を用いて、更に、袖口14や襟口13と患者との隙間を狭めることで、左手の侵入を防止することが出来る。
【0069】
また、患者が、開口領域25を開け、医療用チューブ12を引き抜くためには、最初に、第2の面状体31を右腕52の周方向に引っ張り、面ファスナー32~34を剥がす動作が必要となる。次に、患者は、スライド式ファスナー35の摘み部35Aを見つけ、右腕52に沿って摘み部35Aを引っ張り、開口領域25を開く動作が必要となる。
【0070】
上述したように、摘み部35Aは、第2の面状体31により隠されているため、患者は、第2の面状体31を本体部11から剥がす必要があり、面ファスナー34が剥がれる過程にて発生する大きな音により、ナースステーション等に居る看護師や巡回する看護師等が、患者による上記チューブの引き抜き動作に気づき易くなる。そして、看護師等が、医療用チューブ12が引き抜かれる前に、患者の面ファスナー32~34を剥がす行為を止めることで、医療用チューブ12が引き抜かれることでの上記余計な作業の発生が防止される。尚、患者が、第2の面状体31の面ファスナー32~33を剥がした場合には、摘み部35Aは、面ファスナー34にて本体部11に貼着する第2の面状体31により隠れた状態を維持し、開口領域25の全閉状態が維持される。
【0071】
一方、面ファスナー34が剥がされることで第2の面状体31が本体部11から離脱し、開口領域25の一部が開けられた場合でも、第1の面状体26が医療用チューブ12の上面側を覆っている。
【0072】
上述したように、第1の面状体26は、第2の面状体31に対してほぼ全面的に重畳して配置されることで、開口領域25が開いても、第1の面状体26が開口領域25の内側を塞いだ状態となる。そのため、患者が、医療用チューブ12に到達するためには、更に、開いた状態の開口領域25から左手を本体部11の内側に挿入し、第1の面状体26の面ファスナー27~29を剥がす動作が必要となる。
【0073】
この構造により、意識レベルの低い患者が、無意識のうちに上記第1から第3の防止構造を全て突破し、医療用チューブ12に到達することは、相当に難易度な動作を伴う。また、第2の面状体31は柔らかい素材であり、患者がスライド式ファスナー35や第1の面状体26への対応中に、偶然に面ファスナー32~34が貼着し、第2の面状体31が開口領域25を覆う場合もある。その結果、患者が、医療用チューブ12を引っ張ることでの上記事象の発生を抑制し、看護師等の手を煩わせることを防止し、安全に治療を行うことが可能となる。
【0074】
また、本実施形態の予防着10では、スライド式ファスナー35が、開口領域25に対して袖口14側から襟口13側へと閉める構造となることで、患者は、片手にてスライド式ファスナー35を操作し、開口領域25を開く作業が難しくなる。また、第1の面状体26では、面ファスナー27~29が本体部11の内面側に貼着する構造となる。そのため、患者は、開口領域25から左手を挿入させた場合に、面ファスナー27~29を剥がし難くなる。
【0075】
更には、治療中において、点滴等の治療を施術していない患者の左腕をベッドのフレーム等に紐等により固定しなくても、患者が、無意識のうちに針の固定箇所を剥がす事象や医療用チューブ12を引っ張る事象等を起こし難くなる。その結果、患者は、左腕自体を固定されることがなく、また、患者の左手が、手袋等にてその動作範囲が制限されることがなく、患者のストレスが大幅に低減される。
【0076】
また、第1及び第2の面状体26,31が、面ファスナー27~29,32~34により、腕への巻き付き具合の調整が可能となることで、締め付けに伴う血管や神経の圧迫具合の調整や皮下出血の防止対応も可能となる。
【0077】
また、第1の面状体26及び第2の面状体31は、患者の肘部より片側の上腕部に対しても配置される。患者の治療内容にもよるが、患者の上腕部に対して医療用チューブ12の先端を固定することも多い。そして、第1の面状体26及び第2の面状体31自体は柔らかい素材から形成されるが、面ファスナー28,33の縫製箇所の第1の面状体26及び第2の面状体31は硬くなる。その結果、患者が、予防着10上から上記医療用チューブ12の固定箇所を触っても、固定箇所を掴み難く、医療用チューブ12が引きちぎられ難くなる。
【0078】
また、第1の面状体26及び第2の面状体31は、患者の肘関節や肩関節の領域を避けて、複数箇所に分割して配設されることで、患者の肘の可動域や肩の可動域が広がり、患者にとって出来る限り快適な治療環境が提供される。
【0079】
また、スライド式ファスナー16,35は、プラスチック製とすることで、予防着10を着用したままレントゲン撮影を行うことが可能となり、患者に対する予防着10の着せ替えの手間が省略される。
【0080】
最後に、
図5を用いて予防着10のリバーシブル状態による使用状態を説明する。
図5は、本実施形態の予防着10のリバーシブル状態を説明する平面図である。尚、以下の説明では、
図1から
図4を用いて説明した予防着10の説明を参照し、予防着10の同一の部材には原則として同一の符番を用い、繰り返しの説明は省略する。
【0081】
図5に示す如く、予防着10は、患者が左腕にて点滴等の治療を希望する場合にも対応することが出来る。この場合には、本体部11は、その表裏面をひっくり返すことで、袖部23を左腕側へと配置させることが出来る。
【0082】
所謂、予防着10のリバーシブル状態では、
図1に示すリバーシブル前の第2の面状体31が、本体部11の内側へと位置し、本願発明の第1の面状体(図示せず)として機能すると共に、
図1に示すリバーシブル前の第1の面状体26が、本体部11の外側へと位置し、第2の面状体61として機能する。そして、医療用チューブ12は、予防着10の襟口13から本体部11の内側へと挿入され、チューブ固定部(図示せず)を介して患者の背面側から袖部23へと引き回される。尚、リバーシブル状態時の上記チューブ固定部は、
図1に示すリバーシブル前の本体部11の背面側の外面に形成されたものが使用され、
図3Bを用いて上述したチューブ固定部41と同一構造となる。
【0083】
この構造により、患者は、一着の予防着10により、両腕への点滴等の治療に対応することが可能となり、入院時における患者のコストが低減される。尚、予防着10のリバーシブル状態においても、
図1に示すリバーシブル前の予防着10と同様な効果を得ることが出来る。
【0084】
本実施形態の予防着10では、チューブ引き抜き防止手段24として、第1の面状体26及び第2の面状体31が、袖口14近傍、襟口13近傍及び上腕部周辺の3箇所に配設される場合について説明したが、この場合に限定するものではない。第1の面状体26及び第2の面状体31は、少なくとも袖口14近傍及び襟口13近傍の2箇所に配設されることで、上述した予防着10と同等の効果を得ることが出来る。また、第1の面状体26及び第2の面状体31が2箇所の場合には、若干、肩回りの可動域は狭まるが、第1の面状体26及び第2の面状体31が、肩部側から上腕部周辺まで延在して形成される場合でも良い。一方、第1の面状体26及び第2の面状体31が、
図1に示す構造に対して、肘部から袖口14までの間にもう1箇所追加され、全部で4箇所配置される場合でも良い。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲にて種々の変更が可能である。
【0085】
次に、本発明の他の実施形態に係る予防着70を図面に基づき詳細に説明する。尚、予防着70の説明の際には、上述した予防着10と同一の構成要素には原則として同一の符番を用い、繰り返しの説明は省略する。また、詳細は後述するが、予防着70では、主に、本体部71の前開き開口領域73に関する構造、チューブ引き抜き防止手段24の開口領域25に設けられるスライド式ファスナー35に関する構造、チューブ固定部41の配設領域が、上述した予防着10と異なり、その他の構造は原則として同様である。
【0086】
図6及び
図7は、本実施形態の予防着70を説明する平面図であり、チューブ引き抜き防止手段24が装着された状態を示す。
図8は、本実施形態の予防着70を説明する平面図であり、スライド式ファスナー35を介してチューブ引き抜き防止手段24の開口領域25を全開とした状態を示す。
図9は、本実施形態の予防着70を説明する平面図であり、第2の面状体31に形成されるチューブ固定部41及びスライド式ファスナー35の生地保持部82を拡大して図示する。
【0087】
図6に示すように、予防着70は、主に、患者の上半身に着用される本体部71と、本体部71に付随して配置されるチューブ引き抜き防止手段24と、を有する。そして、本体部71の患者の左腕側には袖部72が形成され、本体部71の患者の右腕側は袖部が無いベスト形状として形成される。尚、予防着70の材質やその形状による機能や効果は、予防着10と同様であり、上述した予防着10の説明を参照する。
【0088】
本体部71及び袖部72には、チューブ引き抜き防止手段24が形成される。そして、チューブ引き抜き防止手段24が完全に装着された状態では、袖部72に形成される開口領域25が、スライド式ファスナー35を介して全閉状態となると共に、第2の面状体31が、面ファスナー32~34を介して本体部71や袖部72に対して貼着した状態となる。上述したように、スライド式ファスナー35の摘み部35Aは、第2の面状体31により隠された状態となる。尚、スライド式ファスナー35は、本願発明の第2のスライド式ファスナーに対応し、摘み部35Aは、本願発明の開閉操作部に対応する。
【0089】
本体部71の前面側の略中央部には、首回りがVネック形状となる襟口13が形成される。また、本体部71の襟口13よりも右側には、前開き開口領域73(
図7参照)を被覆する重ね合わせ領域71Aが形成される。そして、一点鎖線74は、前開き開口領域73を開閉自在に塞ぐためのスライド式ファスナー75の配置領域を示す。尚、スライド式ファスナー75の両側には、部分的に面ファスナー76,77,78,79が配設され、前開き開口領域73が、2段階式の開閉構造となる場合でも良い。尚、スライド式ファスナー75は、本願発明の第1のスライド式ファスナーに対応する。
【0090】
図7に示すように、本体部71の前開き開口領域73では、スライド式ファスナー75の摘み部75Aを襟口13側から下半身側へと移動させることで、前開き開口領域73は、開く構造となる。この構造により、医師や看護師が、患者に対して聴診診察や心電図の検査等の観察や処置を行う場合には、スライド式ファスナー75を半分程度開き、本体部71を左腕側へと開くことで、患者の胸前等が簡易に露出し、点滴等の治療を行いながら、上記診察等を行い易くなる。このとき、本体部71の襟口13も患者の左腕側へと大きく開くので、本体部71の生地や面ファスナー等が、患者の顔に当たることが防止され、点滴等の治療中の患者へのストレスも軽減される。
【0091】
尚、本体部71のスライド式ファスナー75よりも上方には、面ファスナー80が配設され、この面ファスナー80は、本体部71の肩口の背面側に対して貼着される。この構造により、面ファスナー80の配置箇所は、治療中の患者にとっても自由に動かせる右手が届き難く、無意識の中で面ファスナー80を外し、スライド式ファスナー75を操作し、前開き開口領域73を開くことを防止出来る。また、本体部71には、部分的に配設された面ファスナー76,77,78,79も有することで、治療中の患者により前開き開口領域73が開放され難くなる。
【0092】
図8に示すように、本体部71及び袖部72には、チューブ引き抜き防止手段24として、開口領域25を開閉自在に塞ぐための第1の面状体26、第2の面状体31及びスライド式ファスナー35が配設される。
【0093】
上述したように、第1の面状体26は、本体部71及び袖部72の内側にて面ファスナー27~29同士を貼着させることで、第1の面状体26が本体部71及び袖部72に対して固定される。スライド式ファスナー35は、第1の面状体26が固定された状態において、開口領域25を全閉状態とする。そして、第2の面状体31は、本体部71及び袖部72の外側にて面ファスナー32~34同士を貼着させることで、第2の面状体31が本体部71及び袖部72に対して固定される。この構造により、予防着70においても上述したチューブ引き抜き防止手段24による効果が得られる。
【0094】
図9に示すように、予防着70では、チューブ固定部41が、本体部71の襟口13近傍の第2の面状体31と一体に形成される。上述したように、チューブ固定部41は、2枚のチューブ係止用面状体43,44と、面ファスナー45と、を有する。そして、医療用チューブ12は、チューブ係止用面状体43,44に対して、例えば、1回巻き付けると共にS字状に係止された後、チューブ係止用面状体43,44は、面ファスナー45へと貼着される。その後、第2の面状体31が、本体部71に固定されることで、医療用チューブ12は、第2の面状体31と本体部71との間に固定される。尚、第2の面状体31は、スライド式ファスナー35よりも本体部71の背面側に配設され、患者の手が届き難くなると共に、チューブ固定部41により得られる効果は、上述した通りである。
【0095】
次に、丸印81にて示すように、スライド式ファスナー35の襟口13側では、スライド式ファスナー35の端部35Bよりも先端側に一対の生地保持部82が形成される。そして、スライド式ファスナー35の端部35B及びその周辺領域は、本体部71よりも襟口13側へと突出して形成される。同様に、生地保持部82も本体部71よりも襟口13側へと突出して形成される。尚、本実施形態の上記端部35Bとは、上述したように、スライド式ファスナー35の左右一対の複数の務歯の端部であり、開口領域25に対して摘み部35Aが移動可能な端部である。
【0096】
この構造により、看護師等が、スライド式ファスナー35を介して全閉状態の開口領域25を開くためには、看護師等は、例えば、左手にて生地保持部82を保持し、襟口13側へと引っ張りながら、右手にてスライド式ファスナー35の摘み部35Aを袖口14側へとスライドさせることで、容易に開口領域25を開くことが出来る。
【0097】
一方、治療中の患者が、無意識の中で自由に動かせる右手のみにて摘み部35Aを用いて、開口領域25を開く操作を行った場合には、患者は、摘み部35Aを袖口14側へと引っ張ることは出来る。しかしながら、スライド式ファスナー35の端部35B及びその周辺領域が、本体部71に支持されない構造のため、垂れ下がると共に、患者の上記引っ張る動作に連動して動くことで、安定して力がスライド式ファスナー35へと加わり難くなる。
【0098】
その結果、患者は治療中により右手しか使用出来ず、スライド式ファスナー35の摘み部35Aを袖口14側へとスライドさせ難く、容易に開口領域25を開くことが出来ない。更には、上述したように、スライド式ファスナー35の摘み部35Aは、第2の面状体31により被覆され、隠れた状態であり、患者は、容易に摘み部35Aを発見することが出来ない。
【0099】
尚、本実施形態では、予防着70は、患者の左腕側に袖部72を有し、患者の右腕側には袖部72が設けられない構造について説明したが、この場合に限定するものではない。予防着70も予防着10と同様にリバーシブル構造であり、
図6では患者の左腕側にチューブ引き抜き防止手段24が設けられた袖部72が配設されるが、上述した予防着10の
図5の説明と同様に、本体部71及び袖部72の表裏を引っ繰り返すことで、袖部72は患者の右腕側に配設され、予防着70においても予防着10と同様な効果が得られる。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲にて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0100】
10 予防着
11 本体部
11A,25 開口領域
12 医療用チューブ
13 襟口
14 袖口
15,27,28,29,32,33,34,45 面ファスナー
16,35 スライド式ファスナー
16A,35A 摘み部
20 肩部
23 袖部
24 チューブ引き抜き防止手段
26 第1の面状体
31,61 第2の面状体
41 チューブ固定部
42 固定用面状体
43,44 チューブ係止用面状体
51 ベッド
52 右腕
70 予防着
71 本体部
72 袖部
73 前開き開口領域
75 スライド式ファスナー
76,77,78,79,80 面ファスナー
82 生地保持部