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特開2023-175695特に、プロバイオティクス生物を介してCRISPR-CAS構成成分を送達するための、プロパゲーター細胞及びファージを増殖するための方法
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  • 特開-特に、プロバイオティクス生物を介してCRISPR-CAS構成成分を送達するための、プロパゲーター細胞及びファージを増殖するための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175695
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】特に、プロバイオティクス生物を介してCRISPR-CAS構成成分を送達するための、プロパゲーター細胞及びファージを増殖するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/74 20060101AFI20231205BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20231205BHJP
   C12N 15/70 20060101ALI20231205BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231205BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20231205BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20231205BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20231205BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20231205BHJP
【FI】
C12N15/74 Z
C12N7/01
C12N15/70 Z
C12N1/21
A61P31/04 171
A61P43/00 105
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/12
C12N15/09 110
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023132873
(22)【出願日】2023-08-17
(62)【分割の表示】P 2020506813の分割
【原出願日】2018-08-08
(31)【優先権主張番号】1712733.3
(32)【優先日】2017-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】517386055
【氏名又は名称】エスエヌアイピーアール・テクノロジーズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SNIPR TECHNOLOGIES LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【弁理士】
【氏名又は名称】大栗 由美
(72)【発明者】
【氏名】ジャスパー・クリューブ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】プロパゲーター細胞並びにファージ及び形質導入粒子を増殖させるための方法を提供する。
【解決手段】ファージの集団を産生する方法であって、ファージが、第1の細菌の種又は株の細胞(宿主細胞)に、前記種又は株の細菌に含まれる細胞表面レセプターに結合することによって、感染することが可能である第1の型のものであり、前記方法が、(a)その表面にレセプターを含み、第1の種又は株とは異なる第2の種又は株のものである、第1の型のファージに感染させることができる第2の細菌細胞の集団を準備する工程と、(b)第2の細胞を、前記第1の型のファージに感染させる工程と、(c)第2の細胞においてファージを増殖させ、それによって、ファージの集団を産生する工程とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファージの集団を産生する方法であって、ファージが、第1の細菌の種又は株の細胞(宿
主細胞)に、前記種又は株の細菌に含まれる細胞表面レセプターに結合することによって
、感染することが可能である第1の型のものであり、前記方法が、
(a)その表面にレセプターを含み、第1の種又は株とは異なる第2の種又は株のものであ
る第2の細菌細胞の集団を準備する工程と、
(b)第2の細胞を、前記第1の型のファージに感染させる工程と、
(c)第2の細胞においてファージを増殖させ、それによって、ファージの集団を産生する
工程と、
(d)任意選択で、前記集団のファージを単離する工程
とを含む、方法。
【請求項2】
ファージのコートタンパク質によってパッケージングされた核酸を含む形質導入粒子の
集団を産生する方法であって、粒子が、第1の細菌の種又は株の細胞(宿主細胞)に、前記
種又は株の細菌に含まれる細胞表面レセプターに結合することによって、感染することが
可能であり、それによって、宿主細胞が核酸により形質導入され、前記方法が、
(a)その表面にレセプターを含み、第1の種又は株とは異なる第2の種又は株のものであ
り、前記核酸の複製を生成することが可能であるDNAを含む第2の細菌細胞の集団を準備す
る工程と、
(b)第2の細胞を、第2の細菌細胞に含まれるレセプターにファージを結合させることに
よって、ファージに感染させる工程と、
(c)第2の細胞においてファージを増殖させる行程であって、前記核酸の複製をパッケー
ジングするファージのコートタンパク質が産生され、それによって、粒子の集団を産生す
る工程と、
(d)任意選択で、前記集団の粒子を単離する工程
とを含む、方法。
【請求項3】
粒子が、非複製型形質導入粒子又はファージである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ファージ又は粒子が、1つ又は複数のプロトスペーサーヌクレオチド配列を標的とする
ことが可能である活性CRISPR/Casシステムを形成するために、前記宿主細胞の株又は種の
細菌のCasとともに作動可能であるcrRNA(又はシングルガイドRNA)をコードするヌクレオ
チド配列を含み、各標的配列が、前記宿主細胞のゲノムに含まれ、それによって、crRNA(
又はgRNA)が宿主細胞のCasをガイドして標的配列を修飾し(任意選択で、切断し)、それに
よって、宿主細胞を死滅させるか又は宿主細胞集団の成長を低減する、請求項1から3のい
ずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ファージが感染した場合に、第2の細胞が前記活性CRISPR/Casシステムを含まない、請
求項4に記載の方法。
【請求項6】
各第2の細菌細胞のゲノムが、前記標的配列を含まない、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
(a)前記第2の細胞のCas(任意選択で、Cas3、9、cpf1及び/又はCASCADE Cas)が、前記cr
RNA(又はgRNA)とともに作動可能ではなく、
(b)前記第2の細胞のtracrRNAが、前記crRNAとともに作動可能ではなく、及び/又は
(c)前記第2の細胞が、前記crRNAをコードするヌクレオチド配列から前記crRNAを生成する
のに作動可能ではない(又は前記gRNAをコードするヌクレオチド配列から前記gRNAを生成
するのに作動可能ではない)、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
crRNA(又はgRNA)が、第2の細胞のCas(任意選択で、第2の細胞のCas3、9、cpf1及び/又
はCASCADE Cas)とともに作動可能ではないリピート配列を含む、請求項4から7のいずれか
一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ヌクレオチド配列が、前記宿主の種又は株の細菌におけるcrRNA(又はgRNA)の転写
のためのプロモーターであって、前記第2の種又は株におけるcrRNA(又はgRNA)の転写のた
めのものではないプロモーターに作動可能に接続している、請求項4から8のいずれか一項
に記載の方法。
【請求項10】
(a)ファージ又は粒子が、1つ又は複数のプロトスペーサーヌクレオチド配列を標的とす
ることが可能である活性CRISPR/Casシステムを形成するために、前記宿主細胞の株又は種
の細菌のCasとともに作動可能であるcrRNA(又はシングルガイドRNA)をコードするヌクレ
オチド配列を含み、各標的配列が、前記宿主細胞のゲノムに含まれ、それによって、crRN
A(又はgRNA)が宿主細胞のCasをガイドして標的配列を修飾し(任意選択で、切断し)、それ
によって、宿主細胞を死滅させるか又は宿主細胞集団の成長を低減し、
(b)宿主細胞と第2の細胞が、同じ種(任意選択で、大腸菌株)のものであり、
(c)各第2の細菌細胞のゲノムが、前記標的配列を含まず、第1及び第2の細胞が、同じ種
の異なる株である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記宿主の種又は株の細菌が、宿主細菌に感染する前記第1の型のファージ又は粒子を
死滅させるか又はその増殖を低減する抗ファージ毒素又は機構を含み、第2の細菌が、前
記毒素又は機構を含まない、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記宿主の種又は株の細菌が、宿主細菌に感染する前記第1の型のファージ又は粒子を
死滅させるか又はその増殖を低減するのに活性であるCRISPR/Casシステムを含み、第2の
細菌が、前記システムを含まない、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
第2の細菌細胞が、レセプターを生成するように遺伝子操作されており、前記第2の種又
は株の野生型細菌が前記レセプターを生成しない、請求項1から12のいずれか一項に記載
の方法。
【請求項14】
ファージ又は粒子が、前記第2の細胞において及び前記第1の種又は株の細胞において作
動可能である複製起点を含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
第2の細胞が、大腸菌細胞である、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
第1及び第2の細胞が、同じ種(任意選択で、大腸菌株)のものである、請求項1から15の
いずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
宿主細胞の株がヒト病原性株であり、第2の細胞株がヒト病原性株ではない、請求項16
に記載の方法。
【請求項18】
第2の細胞が、宿主の種又は株(任意選択で、ハザードグループ3又は4)の細胞と比較し
て、より低いハザードカテゴリー(任意選択で、ハザードグループ1又は2)の細胞である、
請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
レセプターが、リポ多糖、タイコ酸(任意選択で、ManNAc残基のC4ヒドロキシルに付着
した1から3個のグリセロールホスフェートを有し、それにグリセロール-又はリビトール
ホスフェートリピートの長鎖が続くManNAc(β1→4)GlcNAc二糖)、タンパク質及び鞭毛か
ら選択される、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
レセプターが、宿主細胞のO-抗原を含む、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法
【請求項21】
ファージ又は粒子が、任意選択で、ファージ又は粒子が第2の細胞において複製する場
合に、第2の細胞において、エンドリシン又はホリンを発現するのに作動可能である、請
求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ファージのコートタンパク質によってパッケージングされた核酸を含むファージ又は形
質導入粒子を増殖させるための細胞(プロパゲーター細胞)であって、ファージ又は粒子が
、第1の細菌の種又は株の細胞(宿主細胞)に、前記種又は株の細菌に含まれる細胞表面レ
セプターに結合することによって、感染することが可能である第1の型のものであり、プ
ロパゲーター細胞が、その表面にレセプターを含み、第2の種又は株のものであり、第2の
種又は株が、第1の種又は株と異なり、それによって、プロパゲーター細胞が、それにお
けるファージ又は粒子のそれぞれの増殖のために前記第1の型のファージ又は前記粒子に
よる感染を受けることが可能である、プロパゲーター細胞。
【請求項23】
レセプターが、プロパゲーター細胞のゲノムに含まれる発現可能なヌクレオチド配列に
よってコードされるタンパク質を含み、プロパゲーター細胞と同じ種又は株の野生型細胞
が前記発現可能なヌクレオチド配列を含まない、請求項22に記載のプロパゲーター細胞。
【請求項24】
レセプターが、プロパゲーター細胞における1つ又は複数の酵素の作用の産物である糖
部分を含み、プロパゲーター細胞のゲノムが前記1つ又は複数の酵素をコードする1つ又は
複数の発現可能なヌクレオチド配列を含み、プロパゲーター細胞と同じ種又は株の野生型
細胞が前記発現可能なヌクレオチド配列を含まない、請求項22に記載のプロパゲーター細
胞。
【請求項25】
レセプターが、プロパゲーター細胞における1つ又は複数の酵素の作用の産物であるタ
イコ酸部分を含み、プロパゲーター細胞のゲノムが前記1つ又は複数の酵素をコードする1
つ又は複数の発現可能なヌクレオチド配列を含み、プロパゲーター細胞と同じ種又は株の
野生型細胞が前記発現可能なヌクレオチド配列を含まない、請求項22に記載のプロパゲー
ター細胞。
【請求項26】
酵素が、TarO、TarA、TarB、TarF、TarK、及びTarL(又は宿主細胞及び/又は第2の細胞
によって発現されたこれらの相同体)から選択される、請求項25に記載のプロパゲーター
細胞。
【請求項27】
前記第1の型のファージ又は前記形質導入粒子と組み合わせた、請求項22から26のいず
れか一項に記載のプロパゲーター細胞。
【請求項28】
前記第1の型の1つ若しくは複数のプロファージ(任意選択で、プロパゲーター細胞の染
色体に組み込まれた)、又は形質導入粒子の前記核酸の複製を生成することが可能であるD
NA(任意選択で、プロパゲーター細胞の染色体に組み込まれた)を含む、請求項22から27の
いずれか一項に記載のプロパゲーター細胞。
【請求項29】
プロパゲーター細胞がグラム陰性細菌細胞であり、任意選択で、宿主細胞がグラム陰性
細菌細胞である、請求項22から28のいずれか一項に記載のプロパゲーター細胞。
【請求項30】
プロパゲーター細胞がグラム陽性細菌細胞であり、任意選択で、宿主細胞がグラム陽性
細菌細胞である、請求項22から28のいずれか一項に記載のプロパゲーター細胞。
【請求項31】
任意選択で、プロパゲーター細胞を培養し、前記第1の型のファージ又は前記形質導入
粒子を増殖させるための発酵容器に含まれる、請求項22から30のいずれか一項に記載のプ
ロパゲーター細胞の集団。
【請求項32】
各プロパゲーター細胞が、請求項1から21のいずれか一項に規定の第2の細胞である、請
求項22から31のいずれか一項に記載のプロパゲーター細胞又は集団。
【請求項33】
各宿主細胞が、請求項1から21のいずれか一項に規定の宿主細胞である、請求項22から3
1のいずれか一項に記載のプロパゲーター細胞又は集団。
【請求項34】
ファージ又は粒子が、請求項1から21のいずれか一項に規定のファージ又は粒子である
、請求項22から31のいずれか一項に記載のプロパゲーター細胞又は集団。
【請求項35】
ヒト又は動物対象における疾患又は状態を処置又は予防する方法であって、疾患又は状
態が、対象に含まれる(任意選択で、対象の腸に含まれる)宿主細胞によって媒介され、前
記方法が、プロパゲーター細胞を対象に(任意選択で、対象の腸に生息するために)投与す
る工程を含み、プロパゲーター細胞が請求項22から34のいずれか一項に記載されており、
プロパゲーター細胞がファージ又は形質導入粒子を産生し、ファージ又は粒子が、それぞ
れ、患者の(任意選択で、その腸の)宿主細胞に感染し、それによって、宿主細胞を死滅さ
せるか又は対象の宿主細胞の成長若しくは増殖を阻害し、それによって、疾患又は状態が
処置又は予防される、方法。
【請求項36】
プロパゲーター細胞が、ラクトバチルス菌(任意選択で、ラクトバチルス・ロイテリ)の
細胞である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
ファージが、宿主細胞においてCasをガイドし、宿主細胞のDNAを修飾し(任意選択で、
切断し)、それによって、前記死滅させるか又は阻害することを実行する、抗宿主細胞のc
rRNA又はgRNAをコードする、請求項35又は36に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
バクテリオファージ(ファージ)は、バクテリアに影響を及ぼすウイルスの門であり、動
物及び植物ウイルスとは異なる。ファージは、「溶菌性」ライフサイクル、潜在的に溶菌
性になり得る「溶原性」ライフサイクル、又は「非溶菌性」ライフサイクルのいずれかを
有し得る。溶菌性サイクルによって複製するファージは、それらのライフサイクルの正常
な部分として、宿主標的バクテリア細胞の溶菌を引き起こす。溶原性サイクルによって複
製するファージはテンペレートファージと呼ばれ、溶菌性ライフサイクルによって複製し
て宿主バクテリアの溶菌を引き起こすことができるか、又はそれらのDNAを宿主バクテリ
アDNAへと組み込み、非感染性プロファージとなることができるかのいずれかである。バ
クテリオファージは、それらの特定のバクテリア宿主に感染してその中で増殖するだけの
バクテリアウイルスである。具体的には、宿主は、株レベル、種レベル、又はより稀には
属レベルで一般的に見出される。具体的には、このことにより、ファージを使用して危険
な細菌の指向標的化が可能となる。バクテリオファージの宿主細胞への吸着は、一部の場
合を除いたすべての場合に、感染プロセスの開始にとっての必須条件である。
【0002】
ファージと細菌の相互作用の特異性と共に、細菌に感染して死滅させるファージの天然
の能力は、ファージ療法の概念の構築の土台となる基礎現象である。したがって、溶菌性
ライフサイクルを有するファージは、ファージ療法に対する好適な候補である。近年、食
品生産におけるファージの使用は、特に、生鮮食品及びインスタント食品の安全性を増進
する、望ましくない病原体の生物的防除のための新規方法として、食品産業に関する選択
肢となっている。
【0003】
国際特許出願WO00/69269には、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)
の耐性菌と同様に、バンコマイシン感受性によって引き起こされる感染を処置するための
ある特定のファージの使用が開示され、国際特許出願WO01/93904には、クロストリジウム
属(Clostridium)の種に関連する消化器疾患を予防又は処置するための、単独での又は他
の抗微生物的手段と組み合わせた、バクテリオファージの使用が開示されている。
【0004】
米国特許出願公開第2001/0026795号には、宿主防御システムによる不活性化を遅延させ
、よって、ファージが細菌を死滅させるのに活性である期間を増加させるよう修飾された
バクテリオファージを生産するための方法が記載されている。
【0005】
米国特許出願公開第2002/0001590号には、多剤耐性細菌、特に、メチシリン耐性黄色ブ
ドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対するファージ療法の使用が開示され、国際特許出
願WO02/07742には、複数の宿主範囲を有するバクテリオファージの開発が開示されている
【0006】
例えば、米国特許出願公開第2002/0044922号;同第2002/0058027号及び国際特許出願WO0
1/93904には、特定の細菌感染疾患の処置に対するファージ療法の使用が開示されている
【0007】
しかしながら、治療的使用のためのバクテリオファージ組成物の商業規模生産は、依然
として限定されている。現在の技術では、ファージ組成物の力価は低く、通常、実験室規
模で109~1011pfu/ml、及び商業規模で107~109の範囲であるが、一方、治療用途に典型
的に必要とされる力価は、依然として限定されている。現在の技術では、ファージ組成物
の力価は低く、通常、実験室規模で109~1011pfu/ml、及び商業規模で107~109の範囲で
あるが、一方、ファージ療法に典型的に必要とされる力価は、1012pfu/mlである。更に、
望ましい力価に到達するために、非常に大きな体積の液体が必要とされる。
【0008】
US20160333348には、ベクターとしてファージを使用する、宿主標的細菌細胞に送達さ
れるCRISPR/Casシステムの使用が記載されている。原則として、ファージは、標準的細菌
培養技法及び機器を使用して、同種の宿主細胞の容積で増殖することができる。しかしな
がら、標的宿主細胞におけるこのようなファージ又は溶菌性ファージの増殖は、溶菌によ
る及び/若しくは宿主DNAのCRISPR/Cas標的化による又はファージ核酸によってコードされ
宿主細胞において活性である任意の他の抗宿主機構若しくは因子による、常在性ファージ
による宿主細胞の死滅によって妨害される場合がある。
【0009】
産業用途でのバクテリオファージの使用が増大しているため、同定されたバクテリオフ
ァージの商業量に対する需要が存在する。したがって、良好な収率力価をもたらし、及び
/又は製造体積を低減するファージの生産のための方法に対する需要が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際特許出願WO00/69269
【特許文献2】国際特許出願WO01/93904
【特許文献3】米国特許出願公開第2001/0026795号
【特許文献4】米国特許出願公開第2002/0001590号
【特許文献5】国際特許出願WO02/07742
【特許文献6】米国特許出願公開第2002/0044922号
【特許文献7】米国特許出願公開第2002/0058027号
【特許文献8】US20160333348
【特許文献9】WO2016205276
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Hillら J Bacteriol. 173(14):4363~70頁(1991)
【非特許文献2】O'Loughlinら PLoS One. 2015:e0118533頁
【非特許文献3】Roberts、R. J.ら Nucleic Acids Res. 31、1805~1812頁(2003)
【非特許文献4】Lobockaら J. Bacteriol. 186、7032~7068頁(2004)
【非特許文献5】Iidaら Virology. 1 57(1):156~66頁(1987)
【非特許文献6】McGrathら Applied Environmental Microbiology. 65:1891~1899頁(1999)
【非特許文献7】Robertsら Nucleic Acids Res 43:D298~D299頁。http://dx.doi.org/10.1093/nar/gkul046
【非特許文献8】K. Terpe Appl. Microbiol、Biotechnol. 72:211~222頁(2006)
【非特許文献9】Hannigら Trends in Biotechnology 16:54~60頁(1998)
【非特許文献10】Srivastava Protein Expr Purif 40:221~229頁(2005)
【非特許文献11】Levskayaら 2005. Nature 438:441~442頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ファージを増殖するためにプロパゲーター細胞を提供することによる解決策
を提供する。この目的のために、本発明は、以下のものを提供する:
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の構成において
ファージの集団を産生する方法であって、ファージが、第1の細菌の種又は株の細胞(宿
主細胞)に、前記種又は株の細菌に含まれる細胞表面レセプターに結合することによって
、感染することが可能である第1の型のものであり、方法が、
(a)その表面にレセプターを含み、第1の種又は株とは異なる第2の種又は株のものであ
る第2の細菌細胞の集団を準備する工程と、
(b)第2の細胞を、前記第1の型のファージに感染させる工程と、
(c)第2の細胞においてファージを増殖させ、それによって、ファージの集団を産生する
工程と、
(d)任意選択で、前記集団のファージを単離する工程
とを含む、方法。
【0014】
第2の構成において
ファージを増殖させるための細胞(プロパゲーター細胞)であって、ファージは、第1の
細菌の種又は株の細胞(宿主細胞)に、前記種又は株の細菌に含まれる細胞表面レセプター
に結合することによって、感染することが可能である第1の型のものであり、プロパゲー
ター細胞が、その表面にレセプターを含み、第2の種又は株のものであり、第2の種又は株
は、第1の種又は株と異なり、それによって、プロパゲーター細胞が、それにおけるファ
ージの増殖のために前記第1の型のファージによる感染を受けることが可能である、プロ
パゲーター細胞。
【0015】
第3の構成において
任意選択で、プロパゲーター細胞を培養し、前記第1の型のファージを増殖させるため
の発酵容器に含まれる、本発明によるプロパゲーター細胞の集団。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】細菌生産株(1)を遺伝子操作して、ヘルパーファージによって認識されるレセプターを発現させ(2)(系列X)、一方、レセプターを含有しない細胞(系列Y)を対照とした。次いで、両方の系列をCGVで形質転換し、ヘルパーファージに感染させて、CGC-PLPを生成した(3)。ヘルパーファージレセプターを保有する系列Xにおいてのみ、CGV-PLPが生成され(4)、これを使用して、ファージレセプターを発現する標的細胞集団にDNAを送達することができる。
図2】共に、CGV-PLPによって認識されるレセプターを発現する、標的細胞ATCC43888(ATCC社から得られた)又はEMG-2(Coli Genetic Stock Center社, CGSCから得られた)へのCGVの送達を示すグラフである。感染のために使用した溶菌液は、ヘルパーファージに対するレセプターを保有する産生株(塗りつぶしバー)又はレセプターを有さない対照株(白抜きバー)に関して生成した。ヘルパーファージが感染することができ、CGV-PLPを生成することができる、レセプターを有する産生株のみが、標的細胞集団に感染することが可能であるCGV-PLP溶菌液を生成することができた。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明により、例えば、大規模に培養することができ、有用なファージ集団を大規模(
例えば、商業規模)に増殖させ、成長させるのに有用な細胞の使用において、細菌細胞に
よって発現されるレセプターを人工的に変更すること(又は天然に発現したレセプターの
プロファイルに従って細胞を選択すること)の利点が認識される。例えば、このようなフ
ァージは、US20160333348に記載されているHM-crRNA又はgRNAをコードする場合があり、
このファージは、ヒト、動物、植物、食糧、飲料、化粧品、環境(例えば、土壌、水路、
貯水器又は原油採収環境)、例えば、US20160333348(その開示は参照により本明細書に組
み込まれる)に記載されているこれらの適用に含まれる宿主細菌細胞を死滅させるのに有
用である。
【0018】
タンパク質性レセプターは、主に、外膜タンパク質であり;糖部分は、細胞壁、ペリク
ル、タイコ酸及びLTAを構成するものを含む。例えば、本発明のレセプターは、これらの
いずれかから選択される。
【0019】
バクテリオファージの吸着によって感染プロセスが開始される。バクテリオファージ(
ファージ)の結合タンパク質と細菌細胞表面のレセプターの間の一連の相互作用によって
、ウイルスは、潜在的に感受性の宿主を認識、次いで、DNAが放出されるようにウイルス
自身を位置させる。よって、ファージの吸着は、感染プロセスにおける極めて重要な工程
であるだけでなく、ウイルスと宿主の間の接触の開始点を表し、宿主範囲を特異的に定め
るものでもある。
【0020】
バクテリオファージの吸着は、一般的に、3つの工程:最初の接触、可逆的結合及び不可
逆的付着からなる(Duckworth 1987)。第1の工程は、ブラウン運動、分散、拡散又は流動
によって引き起こされるファージと宿主の間のランダムな衝突に関与する(Kokjohn及びMi
ller 1992)。可逆的工程では、細菌表面の構成成分への結合は最終的なものではなく、フ
ァージは宿主から脱着することができる。溶出後のファージの脱離を実験観察することに
よりGaren及びPuck(1951)により最初に同定されたこのプロセスは、ファージが特異的レ
セプターを探索するため、ファージを細胞表面の近くに保つ役割を果たすことができる(K
okjohn及びMiller 1992)。細菌のレセプターとファージの結合ドメインの間の特異的接続
は、酵素的切断によって媒介される場合もある。この工程により、遺伝子材料の宿主への
挿入を可能とする(更に詳細には、ファージゲノム放出の機構に関する、Molineux及びPan
ja(2013)による概説を参照のこと)他のファージ分子における立体構造再編成が誘発され
る。
【0021】
多数のレビュー研究によって、バクテリオファージが吸着の間に標的とする広い範囲の
宿主関連レセプター(タンパク質、糖及び細胞表面構造)が強調されてきた(Lindberg 1977
;Schwartz 1980;Wright, McConnell及びKanegasaki 1980;Heller 1992;Frost 1993;Henni
ng及びHashemolhosseini 1994;Vingaら 2006;Rakhubaら 2010;Chaturongakul及びOunja
i 2014)。バクテリオファージによって認識される宿主細胞レセプターの性質及び位置は
、ファージ及び宿主に応じて非常に様々である。これらは、ペプチド配列から多糖部分ま
での範囲に及ぶ。実際に、バクテリオファージは、グラム陽性(Xiaら 2011)とグラム陰
性細菌(Martiら 2013)の両方の細胞壁、細菌の莢膜又は粘液層(Fehmelら 1975)、及び
付属器官[例えば、線毛(Guerrero-Ferreiraら 2011)及び鞭毛(Shinら 2012)]に位置す
るレセプターに結合することが示されている。関与するレセプター及び構造におけるこの
多様性は、これらのカウンターパートによって採用される進化戦略を克服するためにファ
ージ及び宿主によって展開される機構の多様さに対する証しである。この惑星の様々な環
境に生息すると推定されるファージの多様性及び驚異的な量を検討する非常に多くの可能
性に遭遇することは意外なことではない(Clokieら 2011)。それにも関わらず、いずれの
場合も、吸着には、細菌細胞壁の構成要素又は突起構造のいずれかが関与することがこれ
まで示されてきた。したがって、ある実施形態では、本発明におけるレセプターは、この
段落又はこの開示の他の箇所で言及した任意のこのようなレセプターであり得る。
【0022】
任意選択で、レセプターは、リポ多糖(LPS)、ヘプトース部分、宿主のグルコシル化細
胞壁タイコ酸(WTA)、YueB、又はファージのテールファイバータンパク質若しくはファー
ジのgp21によって認識されるレセプターを含む。
【0023】
グラム陽性細菌細胞壁におけるレセプター
ペプチドグリカン、又はムレインは、細菌細胞壁の重要な構成成分であり、バクテリオ
ファージの吸着に関与する場合が多い。これは、複数ユニットのアミノ酸及び糖誘導体
- N-アセチルグルコサミン及びN-アセチルムラミン酸から構成されるポリマーである。こ
れらの糖構成要素は、グリコシド結合を介して接続され、アミノ酸の架橋を介して一緒に
接合されるグリカンテトラペプチドシートを形成する。架橋は、ジアミノピメリン酸(ア
ミノ酸類似体)とD-アラニンの間のペプチド結合を介して、又は短鎖ペプチドインターブ
リッジを介して生じる。これらのペプチドインターブリッジは、グラム陽性細菌において
より多数であり、それらの特徴的なより厚みのある細胞壁をもたらす。
【0024】
ファージの吸着に関与し得るグラム陽性細菌細胞壁の別の主要構成成分は、グリセロー
ルホスフェート又はリビトールホスフェート及びアミノ酸から構成される多糖であるタイ
コ酸である。これらは、ペプチドグリカンのムラミン酸に結合される。タイコ酸が細胞膜
の脂質に結合されると、これらはリポタイコ酸(LTA)と称される。細菌細胞壁の組成につ
いてのさらなる詳細は、Tortora, Funke及びCase(2007)、Willey, Sherwood及びWoolvert
on(2008)、Pommerville(2010)及びMadiganら(2012)において見い出すことができる。
【0025】
これまでに同定されたレセプターの大部分は、ペプチドグリカン又はタイコ酸の構造の
いずれかに関連する(Table 1(表1))。Table 1(表1)で報告したグラム陽性細菌を標的とす
る30種のファージのうち、10種のみが吸着に他の構造を利用する。これらの10種のファー
ジの中で9種が、可逆的結合のために、タイコ酸(ファージSPP1)又はペプチドグリカン(フ
ァージ5、13、c2、h、ml3、kh、L及びp2)のいずれかの残基と相互作用する。このことは
、これらの構造が、ファージのグラム陽性細菌への吸着において果たし得る重要な役割を
強調する。
【0026】
任意選択で、本発明のレセプターは、ペプチドグリカン、ムレイン、タイコ酸又はリポ
タイコ酸(LTA)である。任意選択で、ファージはTable 1(表1)に列挙したファミリーのフ
ァージである(任意選択で、宿主はTable 1(表1)に列挙したファージに対する宿主であり
、及び/又はレセプターはTable 1(表1)に列挙したファージに対するレセプターである)。
ある実施形態では、宿主及び第2の細胞は、グラム陽性細菌である。任意選択で、宿主及
び/又は第2の細胞は、Table 1(表1)に列挙した種又は株のものである(宿主と第2の細胞の
種又は株が異なる場合)。好ましくは、宿主がグラム陽性細菌である場合、レセプターは
ペプチドグリカンである。或いは、好ましくは、宿主がグラム陽性細菌である場合、レセ
プターはタイコ酸である。
【0027】
【表1A】
【0028】
【表1B】
【0029】
【表1C】
【0030】
【表1D】
【0031】
【表1E】
【0032】
グラム陰性細菌細胞壁におけるレセプター
グラム陰性細菌では、ペプチドグリカン層が比較的薄く、細胞壁の主要な構成成分であ
る外膜の内部に位置する。これらの二層は、ブラウンのリポタンパク質によって接続され
る。外膜は、タンパク質、多糖及び脂質(後者の2つの分子はLPS層に由来する)で装飾され
た脂質二重層から構成される精巧な構造である。LPSは、3つの部分:脂質A、コア多糖及び
O-多糖からなる複合体である。脂質Aは、一般的に、グルコサミンホスフェートジサッカ
ライドに付着した脂肪酸から構成される。コア多糖は、ケトデオキシオクトネートリンカ
ーを介して脂質Aに接続される。コア多糖及びO-多糖(O-鎖又はO-抗原)は、外膜に対して
外部に広がる糖残基のいくつかのユニットを含有する。LPSの3つの構成成分のすべてを含
有する細胞はスムース(S)型と命名され、O-多糖部分が欠如するものはラフ(R)型として識
別される。一般的に、O-抗原を構成する糖類は非常に多様であり、コア多糖のものは、種
の間でより保存される。このため、S型の株にのみ特異的であるファージは、O-多糖を標
的とする傾向があり、よって、一般的に、R型の細胞に吸着することができるものと比較
すると、より狭い宿主範囲を有する(Rakhubaら 2010)。
【0033】
Table 2(表2)(a)は、ファージレセプター結合タンパク質(RBP)と相互作用する細胞壁に
位置するグラム陰性細菌のレセプターを収集する。興味深いことに、大腸菌ファージでは
、タンパク質性又は多糖性レセプターに対する優先性が存在せず:一部のファージは細胞
壁タンパク質に吸着し、一部は糖部分に吸着し、他のものは吸着のために両方の構造を必
要とする。サルモネラ(Salmonella)ファージの場合には、状況はそれほど相違せず:一部
はタンパク質を使用し、一部は糖部分を使用し、一部は両方の型のレセプターを使用する
。一方、シュードモナス(Pseudomonas)ファージは、通常、多糖レセプター上に吸着する
。このような小さなサンプルサイズからは、決定的な結論を導きだすことはできないが、
シュードモナスは、2つのLPS部分、すなわち、Aバンドと称される短鎖LPS及びより長いB
バンドLPSを有し得ることが注目されるべきである(Beveridge及びGraham 1991)。
【0034】
任意選択で、レセプターは、宿主細胞壁タンパク質である。任意選択で、レセプターは
、糖類である。任意選択で、レセプターは、O-抗原、LPS脂質A又はLPSコア多糖である。
ある例では、レセプターは、スムースLPS又はラフLPSである。任意選択で、宿主細胞は、
S-型の細菌であり、レセプターは、宿主のO-抗原を含む。任意選択で、宿主細胞は、R-型
の細菌であり、レセプターは、宿主のLPS脂質Aを含む。
【0035】
任意選択で、レセプターは、宿主細胞壁タンパク質である。任意選択で、レセプターは
、糖類である。任意選択で、レセプターは、O-抗原、LPS脂質A又はLPSコア多糖である。
ある例では、レセプターは、スムースLPS又はラフLPSである。任意選択で、宿主細胞は、
S-型の細菌であり、レセプターは、宿主のO-抗原を含む。任意選択で、宿主細胞は、R-型
の細菌であり、レセプターは、宿主のLPS脂質Aを含む。
【0036】
ある例では、宿主は、大腸菌(E coli)であり、ファージは、大腸菌ファージであり、レ
セプターは、多糖レセプター及び/又は宿主細胞壁タンパク質である。ある例では、第2の
細胞は、大腸菌の多糖レセプター及び/又は大腸菌の細胞壁タンパク質レセプターを発現
するように遺伝子操作されており、任意選択で、大腸菌は、宿主細胞と同じ株のものであ
る。
【0037】
ある例では、宿主は、サルモネラ属(Salmonella)であり、レセプターは、多糖レセプタ
ー及び/又は宿主細胞壁タンパク質である。ある例では、第2の細胞は、サルモネラ属の多
糖レセプター及び/又はサルモネラ属の細胞壁タンパク質レセプターを発現するように遺
伝子操作されており、任意選択で、サルモネラ属は、宿主細胞と同じ株のものである。
【0038】
ある例では、宿主は、シュードモナス菌(Pseudomonas)であり、レセプターは、多糖レ
セプターである。ある例では、第2の細胞は、シュードモナス菌の多糖レセプターを発現
するように遺伝子操作されており、任意選択で、シュードモナス菌は、宿主細胞と同じ株
のものである。
【0039】
任意選択で、ファージは、Table 2(表2)に列挙したファミリーのファージである(任意
選択で、宿主は、Table 2(表2)に列挙したファミリーに対する宿主であり、及び/又はレ
セプターは、Table 2(表2)に列挙したファージに対するレセプターである)。任意選択で
、ファージは、Table 2(表2)に列挙したファージである(任意選択で、宿主は、Table 2(
表2)に列挙したファミリーに対する宿主であり、及び/又はレセプターは、Table 2(表2)
に列挙したファージに対するレセプターである)。
【0040】
ある実施形態では、宿主細胞及び第2の細胞は、グラム陰性細胞である。好ましくは、
第2の細胞は、大腸菌の細胞である。任意選択で、宿主細胞及び/又は第2の細胞は、Table
2(表2)に列挙した種又は株のものである(宿主細胞及び第2の細胞の種又は株は異なる)。
【0041】
ある例では、宿主は、大腸菌であり、ファージは、大腸菌ファージであり、レセプター
は、多糖レセプターレセプター及び/又は宿主細胞壁タンパク質レセプターである。ある
例では、第2の細胞は、大腸菌の多糖レセプター及び/又は大腸菌の細胞壁タンパク質レセ
プターを発現するように遺伝子操作されており、任意選択で、大腸菌は、宿主細胞と同じ
株のものである。
【0042】
ある例では、宿主は、サルモネラ属であり、レセプターは、多糖レセプター及び/又は
宿主細胞壁タンパク質レセプターである。ある例では、第2の細胞は、サルモネラ属の多
糖レセプター及び/又はサルモネラ属の細胞壁タンパク質レセプターを発現するように遺
伝子操作されており、任意選択で、サルモネラ属は、宿主細胞と同じ株のものである。
【0043】
ある例では、宿主は、シュードモナス菌であり、レセプターは、多糖レセプターである
。ある例では、第2の細胞は、シュードモナス菌の多糖レセプターを発現するように遺伝
子操作されており、任意選択で、シュードモナス菌は、宿主細胞と同じ株のものである。
【0044】
任意選択で、ファージは、Table 2(表2)に列挙したファミリーのファージである(任意
選択で、宿主は、Table 2(表2)に列挙したファミリーに対する宿主であり、及び/又はレ
セプターは、Table 2(表2)に列挙したファージに対するレセプターである)。任意選択で
、ファージは、Table 2(表2)に列挙したファージである(任意選択で、宿主は、Table 2(
表2)に列挙したファミリーに対する宿主であり、及び/又はレセプターは、Table 2(表2)
に列挙したファージに対するレセプターである)。
【0045】
ある実施形態では、宿主細胞及び第2の細胞は、グラム陰性細胞である。好ましくは、
第2の細胞は、大腸菌の細胞である。任意選択で、宿主細胞及び/又は第2の細胞は、Table
2(表2)に列挙した種又は株のものである(宿主細胞及び第2の細胞の種又は株は異なる)。
【0046】
Table 2(表2)(b)は、ファージが細菌表面へと吸着するだけでなく、O-鎖構造における
糖部分を酵素的に分解する事例を報告する。これらのファージのすべてが、ポドウイルス
科(Podoviridae)のファミリーに属することが留意されるべきである。
【0047】
【表2A】
【0048】
【表2B】
【0049】
【表2C】
【0050】
【表2D】
【0051】
【表2E】
【0052】
【表2F】
【0053】
【表2G】
【0054】
【表2H】
【0055】
【表2I】
【0056】
【表2J】
【0057】
【表2K】
【0058】
【表2L】
【0059】
【表2M】
【0060】
【表2N】
【0061】
グラム陰性細菌の他の構造におけるレセプター
この項では、ファージのレセプターとしても作用する、細胞壁部分以外の細菌構造につ
いて議論する。これらには、鞭毛、線毛及び莢膜のような構造が含まれる。これらは、グ
ラム株の両方に由来する種において見られ得る。例えば、Table 3(表3)を参照のこと。
【0062】
任意選択で、本発明のレセプターは、鞭毛、線毛又は莢膜構成成分(例えば、Table 3(
表3)に列挙した種における又は列挙した種と異なる種のものである宿主において見られる
ような構成成分)。任意選択で、ファージは、Table 3(表3)に列挙したファミリーのファ
ージである(任意選択で、宿主は、Table 3(表3)に列挙したファージに対する宿主であり
、及び/又はレセプターは、Table 3(表3)に列挙したファージに対するレセプターである)
。任意選択で、ファージは、Table 3(表3)に列挙したファージである(任意選択で、宿主
は、Table 3(表3)に列挙したファージに対する宿主であり、及び/又はレセプターは、Tab
le 3(表3)に列挙したファージに対するレセプターである)。
【0063】
鞭毛は、細胞に運動性を与える、長くて薄いヘリカル構造である。これらは、基底小体
、鞭毛フック及びフラジェリンタンパク質から構成される鞭毛フィラメントから構成され
る(Willey、Sherwood及びWoolverton 2008)。Table 3(表3)(a)は、鞭毛のタンパク質に付
着するファージについて報告する。フィラメント構造へのファージの接着は、一般的に可
逆的であり、鞭毛のらせん運動によって、ファージは、細菌細胞壁に到達するまでその表
面に沿って移動する。次いで、鞭毛の基部付近の、細菌の表面に位置するレセプター上で
、不可逆的吸着が起こる(Schade、Adler及びRis 1967;Lindberg 1973;Guerrero-Ferreira
ら 2011)。興味深いことに、一部のファージ(φCbK及びφCb13)は、宿主の鞭毛への可逆
的結合を担う、ファージのカプシドから突出するフィラメントを含有することが観察され
;不可逆的吸着は、ファージのテールが細胞極における線毛の先端と相互作用する場合に
のみ起こる(Guerrero-Ferreiraら2011)。これらのファージでは、ファージが鞭毛と相互
作用するとしても、不可逆的吸着は線毛において起こるため、これらは、線毛及び交配対
形成構造と相互作用するファージに焦点を当てて、Table 3(表3)(b)において報告された
【0064】
線毛は、細菌接合に使用される桿状の繊維状付属器官である(Lindberg 1973)。これら
は、ドナー細胞から伸長し、受容細胞の細胞壁におけるレセプターに付着する。線毛の脱
重合によって収縮が起こり、これは、両細胞を互いにより接近させる。更に、細胞の接着
は、細胞表面における結合タンパク質を介して達成され;遺伝子材料はこの接合点から移
入する(Madiganら 2012)。線毛構造への吸着は、これまで、カウドウイルス目(Caudovir
ales)と異なる目に属するファージに関連してきた(Table 3(表3)b)。実際に、Frost(1993
)によれば、シストウイルス科(Cystoviridae)及びイノウイルス科(Inoviridae)のファミ
リーは、線毛構造へと吸着するファージの大多数を構成する。興味深いことに、ファージ
は、線毛のある特定の部分に対して選択的であり得る。吸着が線毛の先端でのみ起こるF
型のファージの場合がそうである(Click及びWebster 1998)。φ6等の他のファージでは、
付着は、構造の側面(シャフト)で起こる(Daugelaviciusら 2005)。
【0065】
【表3A】
【0066】
【表3B】
【0067】
【表3C】
【0068】
【表3D】
【0069】
莢膜は、細胞壁から放射状に伸長する可撓性のセメント物質である。これらは、細菌と
基質の間の及び/又は細胞と基質の間の結合剤として作用する(Beveridge及びGraham 1991
)。粘液層は、莢膜と類似するが、より容易に変形する。いずれも細菌によって放出され
る粘着物質から構成され、これらに共通する構成成分は多糖又はタンパク質である(Madig
anら 2012)。莢膜又は粘液層へのファージの吸着は、層を構成する菌体外多糖の酵素的
切断によって媒介される。層の加水分解は可逆的工程であるが、一方、不可逆的結合は、
ファージの細胞壁におけるレセプターとの結合によって達成される(Rakhubaら 2010)。T
able 3(表3)(c)に見ることができるように、菌体外多糖を認識するRBPを有することが同
定されたいくつかのファージは、ほとんど、ポドウイルス科形態学のものである。
【0070】
ある例では、宿主はサルモネラ属(例えば、ネズミチフス菌(S enterica Serovar Typhi
murium))であり、レセプターは、鞭毛、ビタミンB12取り込み外膜タンパク質、BtuB及び
リポ多糖関連O-抗原から選択される。ある例では、レセプターは、鞭毛又はBtuBであり、
ファージは、シホウイルス科(Siphoviridae)のファージである。ある例では、レセプター
は、LPSのO-抗原であり、ファージは、ポドウイルス科のファージである。任意選択で、
レセプターは、FliC宿主のレセプター又はFljBレセプターである。
【0071】
任意選択で、宿主は、サルモネラ菌(S enterica)又は緑膿菌(P aeruginosa)である。任
意選択で、レセプターは、Table 4(表4)に列挙したような宿主のレセプターである。
【0072】
【表4】
【0073】
サルモネラ属O66のO-抗原構造は確立されており、これは、1つの連結(最も可能性が高
いのは、O-ユニット間の連結)とO-アセチル化においてのみ、公知の大腸菌O166のO-抗原
構造と異なることが報告されている。サルモネラ属O66と大腸菌O166のO-抗原遺伝子クラ
スターは、唯一サルモネラ属O66ではwzy遺伝子が非コード領域によって置き換えられてい
ることを除いて、同様の構成を有することが見い出された。大腸菌O166のwzy遺伝子の機
能は、欠失及びトランス補完突然変異体の構築及び解析によって確認された。サルモネラ
血清群A、B及びD1において以前に報告されているように、O-抗原遺伝子クラスターの外側
に位置する機能的wzy遺伝子は、サルモネラ属O66のO-抗原生合成に関与することが提案さ
れる。サルモネラ属O66と大腸菌O166のO-抗原遺伝子クラスター間で対応する遺伝子に対
する配列相同性は、64から70%であり、これらが共通の祖先に由来することが示される。
種の多様化後に、サルモネラ属O66が、O-抗原遺伝子クラスターに位置するwzy遺伝子の不
活性化と、いずれもO-抗原遺伝子クラスターの外側に存在する2つの新たな遺伝子(wzy遺
伝子とO-アセチル修飾のためのプロファージ遺伝子)の獲得によって、その特異的O-抗原
形態を得たようである。
【0074】
ある例では、第2の細胞は、発現可能な大腸菌(例えば、大腸菌O166)のwzy遺伝子を含む
ように遺伝子操作されている。ある例では、第2の細胞は、発現可能な大腸菌(例えば、大
腸菌O166)のwzy遺伝子を含まない。任意選択で、宿主細胞は、大腸菌又はサルモネラ属(
例えば、サルモネラ属O66)の細胞である。
【0075】
ある例では、ファージ又は粒子は、ファージゲノム又はファージミドを含み、例えば、
ゲノム又はファージミドは、目的の1つ又は複数のタンパク質又は核酸をコードするDNA、
例えば、宿主細胞を死滅させるために、宿主細胞ゲノム又は抗生物質を標的とするための
crRNAを含む。
【0076】
代替例では、細菌の代わりに、宿主細胞及び第2の細胞(プロパゲーター細胞)は古細菌
細胞であり、代わりに、細菌に関連する本明細書の開示は、古細菌に対する必要な変更を
加えて読むことができる。
【0077】
細菌の標的宿主の株又は種は、侵入する核酸を認識及び切断又はそれ以外の場合は破壊
若しくは分解することができる、制限エンドヌクレアーゼを含むR-M等の、制限-修飾シス
テム(R-Mシステム)を含んでもよい。宿主DNAは、宿主DNAをメチル化し、それをR-Mシステ
ムから保護するメチルトランスフェラーゼの作用によって保護される。したがって、R-M
システムを含まないか又はそのゲノムが宿主細胞によってコードされる1つ又は複数の制
限エンドヌクレアーゼをコードする核酸を欠く第2の細菌細胞(プロパゲーター細胞)を提
供することが望ましい場合がある。更に又は代わりに、第2の細胞は、宿主細胞によって
コードされる1つ又は複数のメチルトランスフェラーゼ、任意選択で、宿主細胞によって
コードされるすべてのメチルトランスフェラーゼのうちのすべて又は実質的にすべて(例
えば、少なくとも50、60、70 80又は90%)を含む。任意選択で、第2の細胞は、宿主細胞に
よってコードされる1、2、3 4、5、6、7、8、9又は10種(又は少なくとも1、2、3 4、5、6
、7、8、9又は10種)のメチルトランスフェラーゼをコードする核酸を含む。
【0078】
有利には、特異的な細菌宿主集団を標的とするファージ又は形質導入粒子を産生するた
めに、標的宿主細胞に関連する細菌株においてファージ又は粒子を生産し、例えば、宿主
細胞の防御機構、例えば、R-Mシステム又は制限エンドヌクレアーゼ作用を回避すること
ができるファージ又は粒子の核酸(例えば、DNA)を生産するのが有益である場合がある。
したがって、任意選択で、宿主細胞及び第2の細胞(プロパゲーター細胞)は、同じ種(又は
第2の細胞が宿主細胞のゲノムに見られない1つ又は複数の遺伝子修飾を含むことを除いて
同じ種の株;このような修飾は、1つ又は複数のプロトスペーサー配列の欠失であり得、例
えば、宿主細胞はこのような配列を含み、ファージ又は粒子は宿主細胞における配列を認
識するcrRNAを発現してCasをガイドしてプロトスペーサー配列を修飾する)。例えば、次
に、ファージ又は粒子が標的宿主細胞に感染すると(後者は第2の細胞と共通のメチルトラ
ンスフェラーゼも含む)、第2の細菌のメチルトランスフェラーゼによるファージ又は粒子
のDNAの修飾は、制限修飾に対してDNAを遮蔽するのに有用であり得る。宿主細胞にも呈さ
れる表面レセプターを呈する本発明の通りの第2の細胞を採用する(又は選択する)ことに
よって、本発明は、次に、標的宿主細菌による制限修飾に対する有益なDNA修飾を呈する
ことができる株において、ファージ又は粒子の生産を可能とする。有益には、標的宿主細
菌において、ファージ又は粒子によってコードされるcrRNAの標的とされるプロトスペー
サー配列は、第2の細胞のゲノムにおいて欠失するか又は天然には存在しない場合があり
、その結果、第2の細胞のゲノムのCasにより媒介される切断は、ファージ又は粒子の産生
の間には起こらない。
【0079】
異種メチルトランスフェラーゼ(MTase)を使用して、産生細菌(本明細書のプロパゲータ
ー細菌又は第2の細胞)において、標的宿主細菌のものと同様のメチル化パターンを与える
ことができる。例えば、本発明において使用するための、所望のMTaseを含む生産株のゲ
ノムを提供する方法の例証を与えるために、参照により本明細書に組み込まれるWO201620
5276を参照のこと。細菌及び古細菌では、一部のDNAメチルトランスフェラーゼは、修飾
の位置及びそれらが触媒する反応の種類に応じて、3つの別個のクラスに分離することが
できる。N6-メチルアデニン(m6A)とN4-メチルシトシン(m4C)は、それぞれ、アデニンとシ
トシンのアミノ部分のメチル化から得られ、一方、5-メチルシトシン(m5C)は、シトシン
のC5位におけるメチル化の結果である。
【0080】
本発明に関して有用なDNA MTaseの非限定例は、ラクトコッカスにおけるII型のR-Mシス
テムに対して保護するために導入することができるファージΦ50由来のLlaPIを含む(Hill
ら J Bacteriol. 173(14):4363~70頁(1991))。任意選択で、産生細菌は、例えば、N6-
メチルアデニン(m6A)を生成するために、アデニンのメチル化を触媒する1つ又は複数のDN
A修飾酵素をコード及び発現する。任意選択で、産生細菌は、例えば、N4-メチルシトシン
(m4C)又は5-メチルシトシン(m5C)を生成するために、シトシンのメチル化を触媒する1つ
又は複数のDNA修飾酵素をコード及び発現する。任意選択で、産生細菌は、アデニン残基
のアセトイミド化を触媒する1つ又は複数のDNA修飾酵素をコード及び発現する。一部のR-
Mシステムは、アデニンのメチル化に対して感受性である。ファージ又は粒子のDNAにおけ
るアデニン残基をアセトイミド化するポリペプチドは、このようなシステムに対してDNA
を保護することになる。産生宿主細菌におけるアデニン残基をアセトイミド化することが
できるポリペプチドの非限定例として、アデニン残基をN(6)-メチルアデニンに変換し、
それによって、アデニン感受性制限酵素に対して保護する、ファージMu及びMu様プロファ
ージ配列由来のmom遺伝子が挙げられる(インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)のRd
(FluMu)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)A型株Z2491(Pnmel)及びコッホ・ウィークス
菌(H.influenzae biotype aegyptius)ATCC 111 16を参照のこと)。個々のメチルトランス
フェラーゼによって与えられるメチル化のパターンは、Pacbio SMRTシークエンシング等
の確立したDNAシークエンシング技術(O'Loughlinら PLoS One. 2015:e0118533)を使用し
て評価することができる。一旦生じると、産生株を使用して、標的株へのDNA送達のため
のバクテリオファージ粒子を産生することができる。
【0081】
細菌の「制限-修飾システム」(R-Mシステム)は、(1)特定の配列においてDNAをメチル化
するメチルトランスフェラーゼ及び/又は(2)メチル化されていない(I、II、及びIII型)又
はメチル化した(IV型)のDNAを切断する制限酵素を含む。R-Mシステムは、外来のメチル化
パターンを有するDNAが、R-Mシステムの制限酵素によって複数の位置で切断される細菌の
防御システムを構成する。ほとんどの細菌は、1つを超えるR-Mシステムを含む。Roberts
、R. J.ら Nucleic Acids Res. 31、1805~1812頁(2003)。I型のメチルトランスフェラ
ーゼは、機能性に関して一致する特異性タンパク質の存在を必要とする。II型及びIII型
のメチルトランスフェラーゼは、機能するいずれの追加のタンパク質も必要としない。よ
って、この発明に関して有用なメチルトランスフェラーゼ及び制限酵素(修飾若しくは阻
害に関する標的として、又は産生細菌において発現され、それによって産生細菌のR-Mシ
ステムを修飾する異種ポリペプチドとしてのいずれか)は、細菌の制限-修飾システム(例
えば、I、II、III、又はIV型)に含まれる任意のメチルトランスフェラーゼ又は制限酵素
を含むことができる。よって、ある例では、産生細菌(第2の細胞又はプロパゲーター細胞
)のゲノムは、宿主細菌によってもコードされるI型のメチルトランスフェラーゼをコード
する。更に又は代わりに、ある例では、産生細菌(第2の細胞又はプロパゲーター細胞)の
ゲノムは、宿主細菌によってもコードされるII型のメチルトランスフェラーゼをコードす
る。更に又は代わりに、ある例では、産生細菌(第2の細胞又はプロパゲーター細胞)のゲ
ノムは、宿主細菌によってもコードされるIII型のメチルトランスフェラーゼをコードす
る。更に又は代わりに、ある例では、産生細菌(第2の細胞又はプロパゲーター細胞)のゲ
ノムは、宿主細菌によってもコードされるIV型のメチルトランスフェラーゼをコードする
【0082】
ある例では、産生細菌の内因性制限修飾システムの酵素をコードする2つ又はそれを超
える(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15個の)核酸配列は、活
性において破壊又は変更される(例えば、活性において低減又は排除される)。
【0083】
産生細菌(すなわち、第2の細胞又はプロパゲーター細胞)は、グラム陽性又はグラム陰
性の細菌であり得る。よって、例えば、産生細菌は、大腸菌、枯草菌(Bacillus subtilis
)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、サルモネラ・エンテリカ(S
almonella enteria)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilu
s)、リステリア菌(Listeria)、カンピロバクター属(Campylobacter)又は黄色ブドウ球菌
細菌である。ある例では、産生細菌は、大腸菌の株MG1655、Nissle、BW25113、BL21、TOP
10、又はMG1655 Δdam Δdcm ΔhsdRMSである。
【0084】
内因性R-Mシステムの酵素活性は、当技術分野で周知の方法又はポリペプチドの機能及
び活性を破壊するために後に開発された方法を使用して破壊され得る。このような方法と
して、これらに限定されないが、点突然変異(例えば、ミスセンス、若しくはナンセンス
、又はフレームシフトを生じる単一の塩基対の挿入若しくは欠失)の発生、挿入、欠失、
及び/又は切断が挙げられる。一部の実施形態では、ポリペプチドインヒビターを使用し
て、細菌の制限修飾システム(R-Mシステム)の酵素活性を破壊又は抑制することができる
。このようなポリペプチドインヒビターは当技術分野で公知である。ポリペプチドインヒ
ビターは、例えば、ファージ又は粒子のDNA内にコードされる、及び/又はファージ又は粒
子においてタンパク質としてパッケージングされてもよい。例えば、P1ファージは、大腸
菌に見られるI型制限酵素を阻害する2つのポリペプチドインヒビターをコードする(Loboc
kaら J. Bacteriol. 186、7032~7068頁(2004))。一部の実施形態では、内因性R-Mシス
テムは、ポリペプチドインヒビター、すなわち、送達されたDNAのメチル化及び保護を促
進する宿主のメチル化酵素の活性を刺激するポリペプチドの導入によって阻害又は破壊さ
れる。
【0085】
R-Mシステムの酵素のインヒビターとして、これらに限定されないが、REase(制限エン
ドヌクレアーゼ)を分解し、それによって、宿主のR-M酵素システムがファージ又は粒子の
DNAを切断するのを妨げるタンパク質が挙げられる。内因性細菌のR-Mシステムの酵素活性
を破壊又は修飾するこの発明に関して使用することができるR-M酵素インヒビターの非限
定例として、(a)すべての主要なクラスのI型R-Mシステムを阻害するタンパク質ArdAを生
成するフェカリス菌(Enterococcus faecalis)由来のorf18;及び(b)I型R-M酵素EcoKIを捕
捉するタンパク質Ocrを生成するバクテリオファージT7由来のgp0.3が挙げられる。R-Mシ
ステムの酵素活性を遮断するために使用することができるタンパク質の追加の非限定例と
して、マスキングタンパク質が挙げられる。マスキングタンパク質は、ファージのヘッド
内にパッケージングされ、DNA注入の際に、ファージのDNAに結合し、それによって、R-M
認識部位をマスキングする。この発明に関して有用なマスキングタンパク質の非限定例と
して、DarA及びDarBタンパク質が挙げられる(Iidaら Virology. 1 57(1):156~66頁(198
7))。これらのタンパク質は、溶菌性サイクルの間にP1バクテリオファージによって発現
され、ヘッド内にパッケージングされる。宿主細菌へのDNA注入の際に、これらは、I型R-
Mの認識部位に結合し、これをマスキングする。
【0086】
加えて又は代わりに、産生細菌の内因性R-Mシステムは、少なくとも1つの異種メチルト
ランスフェラーゼの発現により変更/修飾され得る。産生宿主細菌のメチル化パターンが
標的宿主細菌のメチル化パターンと実質的に類似するように、産生宿主細菌の内因性メチ
ル化パターンを変更する任意のメチルトランスフェラーゼを本発明に関して使用すること
ができる。異種メチルトランスフェラーゼは、標的細菌株と実質的に類似するメチル化パ
ターンを産生宿主細菌に与える限り、同じ又は異なる生物に由来してもよい。本発明に関
して有用なDNA MTaseの非限定例として、ラクトコッカスのII型R-Mシステムに対して保護
するために導入することができるファージΦ50由来のLlaPIが挙げられる(McGrathら App
lied Environmental Microbiology. 65:1891~1899頁(1999))。次いで、個々のメチルト
ランスフェラーゼによって与えられるメチル化パターンを、Pacbio SMRT シークエンシ
ング等の確立されたDNAシークエンシング技術を使用して評価する(O'Loughlinら Pl.oS
One. 2015:e0118533)。一旦生じると、産生株を使用して、標的宿主株へのDNA送達のため
のファージ又は粒子を産生する。
【0087】
さらなる異種DNA修飾酵素は、産生細菌のR-Mシステムが、標的宿主細菌のR-Mシステム
と実質的に類似したものとなるように、産生細菌において発現され得る。このために有用
なこのようなDNA修飾酵素の例として、DNAにおけるアデニン残基をアセトアミドアデニン
に変換するポリペプチドをコードするものが挙げられる。ファージ又は粒子のDNAにおけ
るアデニン残基をアセトアミドアデニンに変換するポリペプチドは、アデニンのメチル化
に感受性である制限酵素に対してDNAを保護することになる。産生細菌において、DNAにお
けるアデニン残基をアセトアミドアデニンに変換することができるポリペプチドの非限定
例として、アデニン残基をN(6)-メチルアデニンに変換し、それによって、アデニン感受
性制限酵素に対して保護する、ファージMu及びMu様プロファージ配列由来のmom遺伝子が
挙げられる(インフルエンザ菌のRd(FluMu)、髄膜炎菌A型株Z2491(Pnmel)及びコッホ・ウ
ィークス菌ATCC 111 16;(Drozdzら Nucleic Acids Res. 40(5):2119~30頁(2012))を参
照のこと)。
【0088】
一部の実施形態では、本明細書に記載のポリペプチドインヒビター及び他のDNA修飾酵
素をコードするポリヌクレオチドを、送達されたDNAを標的宿主細菌のR-Mシステムから保
護する際に使用するために、ファージ又は粒子のゲノムに直接的に導入することができる
【0089】
したがって、一部の実施形態では、本発明は、目的の異種核酸を、バクテリオファージ
又は形質導入粒子を介して標的宿主細菌に導入する効率を増加させる方法であって、目的
の少なくとも1つの異種核酸を、産生細菌の導入前に、ファージ又は粒子のDNAに導入する
工程であって、産生宿主細菌が、内因性R-Mシステムの少なくとも1つの酵素を破壊するよ
うに及び/又は少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼをコードするポリヌクレオ
チドを含むように修飾されており、それによって、前記ファージ又は粒子のDNAをメチル
化し、修飾されたメチル化パターン(前記変更されたメチル化活性を有さない産生細菌に
おいて産生されたファージ又は粒子のDNAと比較して)を有する目的の少なくとも1つの異
種核酸を含むファージ又は粒子のDNAを生成する工程と;目的の少なくとも1つの異種核酸
を含む前記組換えDNAを含むファージ又は粒子を産生する工程と;前記バクテリオファージ
又は粒子に標的宿主細菌を感染させる工程であって、標的宿主細菌は、酸性細菌のものと
同一、それに類似する又はそれと実質的に類似するメチル化パターン(又はR-Mシステム)
を有し、それによって、対照の産生細菌(対照の産生宿主細菌は、標的宿主細菌のものと
同一、それに類似する又はそれと実質的に類似するように変更されたメチル化活性を有さ
なかった)において成長したバクテリオファージを使用して目的の前記異種核酸を導入す
ることと比較して、目的の前記異種核酸を前記標的宿主細菌に導入する効率を増加させる
、工程とを含む方法を提供する。一部の態様では、ファージ又は粒子による感染後に、産
生細菌を修飾して、そのR-Mシステムを変更する(例えば、内因性R-Mシテムの少なくとも1
つの酵素を破壊する及び/又は少なくとも1つの異種メチルトランスフェラーゼをコードす
るポリヌクレオチドを含む)ことができる。
【0090】
一部の実施形態では、目的の異種核酸を、ファージ又は形質導入粒子を介して標的宿主
細菌に導入する効率を増加させる方法であって、内因性R-Mシステムの少なくとも1つの酵
素の破壊及び/又は少なくとも1種の異種メチルトランスフェラーゼの発現によってメチル
化活性が変更された産生細菌を、目的の少なくとも1つの異種核酸を含むDNAを含むバクテ
リオファージ又は粒子に感染させ、それによって、前記DNAをメチル化する工程と;修飾さ
れたメチル化パターンを有するバクテリオファージ又は粒子のDNAを含み、目的の少なく
とも1つの異種核酸を含む/コードするバクテリオファージを産生する工程と;産生宿主細
菌のものと同一、それに類似する又はそれと実質的に類似するメチル化パターン(又はR-M
システム)を有する標的宿主細菌を、前記バクテリオファージ又は粒子に感染させ、それ
によって、対照の産生細菌(対照の産生宿主細菌は、本明細書に記載される標的宿主細菌
のものと同一、それに類似する又はそれと実質的に類似するように変更されたメチル化活
性を有さなかった)において産生されたバクテリオファージ又は粒子を使用して目的の前
記異種核酸を導入することと比較して、目的の前記異種核酸を前記標的宿主細菌に導入す
る効率を増加させる工程とを含む方法が提供される。一部の態様では、バクテリファージ
又は粒子による感染後に、産生細菌を修飾して、そのR-Mシステムを変更する(例えば、内
因性R-Mシテムの少なくとも1つの酵素を破壊する及び/又は少なくとも1つの異種メチルト
ランスフェラーゼをコードするポリヌクレオチドを含む)ことができる。
【0091】
ある例では、標的宿主細菌は、産生宿主細菌の制限-修飾システム(R-Mシステム)と実質
的に類似するDNAメチル化パターンを有することに基づいて選択される。
【0092】
メチル化パターンは、メチル化された特定の配列(例えば、GmATC)と同様に、細菌に存
在するメチル化の型(例えば、m4C)によって決定される。よって、メチル化パターン間の
類似性のレベル(それが天然であるか修飾の結果であるかにかかわらず)は、それによって
、標的部位がメチル化の適切な型を有する頻度を指す。よって、実質的に類似するメチル
化パターンとは、本明細書に記載の適切な型のメチル化を有する標的部位間に少なくとも
約20%以上の類似性(例えば、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33
、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53
、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73
、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93
、94、95、96、97、98、99、若しくはそれを超えるか、又はその中の任意の範囲若しくは
値)を有することを意味する。よって、一部の実施形態では、メチル化パターンは、宿主
細菌と標的細菌の間で、約20%から99%の間若しくはそれを超えて類似する、約30%から99%
若しくはそれを超えて類似する、約40%から99%若しくはそれを超えて類似する、約50%か
ら99%若しくはそれを超えて類似する、約60%から99%若しくはそれを超えて類似する、約7
0%から99%若しくはそれを超えて類似する、約80%から99%若しくはそれを超えて類似する
、約85%から99%若しくはそれを超えて類似する、約90%から99%若しくはそれを超えて類似
する、又は約95%から99%若しくはそれを超えて類似する可能性がある。標的宿主細菌と導
入されたDNA(修飾されたバクテリオファージ又は粒子のDNA)のメチル化パターンの間の実
質的類似性とは、導入されたDNAが、標的宿主細菌と実質的に類似するメチル化パターン
を共有しない導入されたDNAのものほど分解されていないことを意味する。一部の実施形
態では、産生細菌と標的細菌のメチル化パターンは同一であり得る。
【0093】
一部の実施形態では、本発明は、標的宿主細菌のR-Mシステムと同一、それに類似する
又はそれと実質的に類似する、修飾されたDNAのメチル化パターンを含むDNAを含み、少な
くとも1つの目的の異種核酸が、バクテリオファージ又は粒子のDNA(ゲノム)に組み込まれ
ているバクテリオファージ又は粒子を提供する。よって、例えば、修飾されたメチル化パ
ターン(標的宿主細菌のR-Mシステムと実質的に類似するメチル化パターン)を有するバク
テリオファージ又は形質導入粒子のDNAは、(1)CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチ
ド又は(2)(a)Cas9ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;(b)CRISPRアレイをコード
するポリヌクレオチド;及び/又は(c)tracr核酸を含むII型のCRISPR-Casシステムを含むこ
とができる。一部の実施形態では、CRISPRアレイ(a)及びtracr核酸(c)をコードするポリ
ヌクレオチドは、互いに融合することができる。追加の実施形態では、修飾されたメチル
化パターン(標的宿主細菌のR-Mシステムと同一、それに類似する又はそれと実質的に類似
するメチル化パターン)を有するバクテリオファージ又は粒子のDNAは、(1)CRISPRアレイ
をコードするポリヌクレオチド又は(2)(a)CRISPRアレイをコードするポリヌクレオチド;
及び/又は(b)1つ又は複数のI型のCRISPRポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリ
ヌクレオチドを含む組換えI型のCRISPR-Casシステムを含むことができる。一部の実施形
態では、目的の少なくとも1つの異種核酸を、組込みの不要部位又は組込みの補足部位で
、バクテリオファージ又は粒子のDNA(例えば、ゲノム)に組み込むことができる。
【0094】
本明細書で使用する場合、「不要部位」とは、バクテリオファージ又は粒子のゲノムの
維持、ファージ又は粒子の生成、及びパッケージングされたDNAの送達に必要ではないDNA
又はゲノムの部位を意味する。よって、このような機能を実行するために必要とされない
バクテリオファージ又は粒子のゲノムにおける任意の部位を、目的の核酸を組み込むため
の「ランディング」部位として使用することができる。一部の例示的な不要部位として、
これらに限定されないが、(a)ファージにコードされた制限-修飾システム(例えば、P1フ
ァージにおけるres/mod)、(b)重複感染を遮断する遺伝子(例えば、simABC)、(c)制限-修
飾システムのインヒビター(例えば、P1ファージにおけるdarA)、(d)挿入配列エレメント(
例えば、P1ファージにおけるIS1)、(e)付加システム(例えば、P1ファージにおけるphd/do
c)又は(f)これらの任意の組合せが挙げられる。
【0095】
「補足部位」又は「補足可能部位」とは、本明細書で使用する場合、バクテリオファー
ジ又は粒子のゲノムの維持、ファージ又は粒子の生成、及びパッケージングされたDNAの
送達に必要であるが、目的の核酸の組込み(組込みの補足部位)によって破壊される核酸を
コードする補足ポリヌクレオチドによって補足することができるバクテリオファージ又は
粒子のDNA若しくはゲノムにおける必要不可欠な部位を意味する。補足ポリヌクレオチド
は、産生細菌のゲノムに組み込むことができ、又は産生細菌のプラスミド上に含まれ得る
。したがって、目的の核酸がバクテリオファージ又は粒子のDNAの補足部位に組み込まれ
ると、産生細菌は、バクテリオファージ又は粒子のDNAの補足部位に対する補足物をコー
ドするポリヌクレオチドをプラスミド上又はそのゲノム内に含むことができる。例示的な
補足部位として、これらに限定されないが、(a)溶菌性サイクルのアクチベーター(例えば
、P1ファージにおけるcoi)、(b)溶菌性遺伝子(例えば、P1ファージにおけるkilA)、(c)tR
NA(例えば、P1ファージにおけるtRNAl,2)、(d)粒子の構成成分(例えば、P1ファージにお
けるcixL及びcixRテールファイバー遺伝子)、又は(e)これらの任意の組合せが挙げられる
【0096】
ある実施形態では、産生株、例えば、大腸菌MG1655又は枯草菌168のメチル化パターン
は、以下のように、その内因性制限-修飾システムを欠失させ、異種メチルトランスフェ
ラーゼ遺伝子を導入することによって変更される。制限-修飾遺伝子は、当技術分野で公
知の手段によって、例えば、オンラインREBASEデータベース(Robertsら Nucleic Acids
Res 43:D298~D299頁。http://dx.doi.org/10.1093/nar/gkul046)によって特定される。
これらの制限-修飾システムは、当技術分野で公知の標準的リコンビニアリング戦略を使
用して欠失され得る。一旦欠失すると、外来のメチルトランスフェラーゼ遺伝子が、複製
プラスミドに挿入され、構成型又は誘導型プロモーターの制御下で宿主ゲノムにリコンビ
ニアリングされる。これらの遺伝子は、天然配列又は産生宿主に対してコドン最適化され
た配列を使用して、標的株から直接的に得られる。或いは、異種メチルトランスフェラー
ゼ遺伝子を使用して、標的株として類似するメチル化パターンを与えることができる。次
いで、個々のメチルトランスフェラーゼによって与えられたメチル化パターンをPacBio S
MRTシークエンシング等の確立したDNAシークエンシング技術(O'Loughlinら PLoS One. 2
015:e0118533)を使用して評価する。一旦生じると、産生株を使用して、標的宿主株へのD
NA送達のためのバクテリオファージ又は形質導入粒子を産生する。
【0097】
プロモーター:
プロモーターとして、例えば、組換え核酸構築物、ポリヌクレオチド、発現カセット及
び本発明のポリヌクレオチド及び組換え核酸構築物を含むベクターの調製に使用するため
の、構成型、誘導型、時間制御型、発生制御型、化学制御型プロモーターが挙げられる。
これらの様々な型のプロモーターは、当技術分野で公知である。
【0098】
よって、一部の実施形態では、本発明に従って、目的の生物において機能的である適切
なプロモーターである、構成型、誘導型、時間制御型、発生制御型、化学制御型プロモー
ターに作動可能に連結した本発明の組換え核酸構築物を使用して、本発明における発現が
なされ得る。代表的実施形態では、例えば、目的の生物において機能的である誘導型プロ
モーターに作動可能に連結した本発明の組換え核酸構築物を使用して、抑制が可逆的にな
され得る。
【0099】
プロモーターの選択は、発現のための量的、時間的及び空間的要求に応じて、また、形
質転換される宿主細胞に応じて変化する。多くの異なる生物に関するプロモーターが当技
術分野で周知である。当技術分野に存在する広範な知識に基づき、目的の特定の宿主生物
に対する適切なプロモーターが選択され得る。よって、例えば、モデル生物において高度
に構成的に発現した遺伝子の上流のプロモーターについて多くが知られており、このよう
な知識は、適宜、他のシステムにおいて容易に評価及び実施され得る。
【0100】
この発明に関して有用な例示的プロモーターとして、細菌において機能的であるプロモ
ーターが挙げられる。細菌に関して有用なプロモーターとして、これらに限定されないが
、L-アラビノース誘導型(araBAD、PBAD)プロモーター、任意のlacプロモーター、L-ラム
ノース誘導型(rhaPBAD)プロモーター、T7 RNAポリメラーゼプロモーター、trcプロモータ
ー、tacプロモーター、ラムダファージプロモーター(PL、PL-9G-50)、アンヒドロテトラ
サイクリン-誘導型(tetA)プロモーター、trp、lpp、phoA、recA、proU、cst-1、cadA、na
r、lpp-lac、cspA、T7-lacオペレーター、T3-lacオペレーター、T4遺伝子32、T5-lacオペ
レーター、nprM-lacオペレーター、Vhb、タンパク質A、コリネバクテリウム-大腸菌様プ
ロモーター、thr、hom、ジフテリア毒素プロモーター、sig A、sig B、nusG、SoxS、katb
、アルファ-アミラーゼ(Pamy)、Ptms、P43(2つの重複するRNAポリメラーゼσ因子認識部
位、σA、σBから構成される)、Ptms、P43、rplK-rplA、フェロドキシンプロモーター、
及び/又はキシロースプロモーターが挙げられる。(K. Terpe Appl. Microbiol、Biotechn
ol. 72:211~222頁(2006);Hannigら Trends in Biotechnology 16:54~60頁(1998);及び
Srivastava Protein Expr Purif 40:221~229頁(2005)を参照のこと)。
【0101】
本発明の一部の実施形態では、誘導型プロモーターを使用することができる。よって、
例えば、化学制御型プロモーターを使用して、外因性化学調節剤の適用により、生物にお
ける遺伝子の発現をモジュレートすることができる。化学的に調節されるプロモーターを
介した本発明のヌクレオチド配列の発現の調節により、例えば、生物が誘導性化学物質で
処理された場合にのみ本発明のRNA及び/又はポリペプチドの合成が可能となる。目的に応
じて、プロモーターは、化学物質の適用が遺伝子発現を誘導する化学誘導型プロモーター
、又は化学物質の適用が遺伝子発現を抑制する化学抑制型プロモーターであってもよい。
一部の態様では、プロモーターは、特定の光の波長の適用が遺伝子発現を誘導する光誘導
型プロモーター(Levskayaら 2005. Nature 438:441~442頁)も含んでもよい。
【0102】
記述
例証として、本発明は、以下の記述を提供する。
【0103】
1.ファージの集団を産生する方法であって、ファージが、第1の細菌の種又は株の細胞(宿
主細胞)に、前記種又は株の細菌に含まれる細胞表面レセプターに結合することによって
、感染することが可能である第1の型のものであり、方法が、
(a)その表面にレセプターを含み、第1の種又は株とは異なる第2の種又は株のものであ
る第2の細菌細胞の集団を準備する工程と、
(b)第2の細胞を、前記第1の型のファージに感染させる工程と、
(c)第2の細胞においてファージを増殖させ、それによって、ファージの集団を産生する
工程と、
(d)任意選択で、前記集団のファージを単離する工程
とを含む、方法。
【0104】
好ましくは、第2の細胞は、細菌細胞である。或いは、第2の細胞は、古細菌細胞;真核
細胞、酵母細胞、CHO細胞又はHEK293細胞である。
【0105】
ある実施形態では、レセプターは、発現可能な外因性ヌクレオチド配列(すなわち、第2
の細菌の非野生型配列)によってコードされるタンパク質を含み、外因性配列は第2の細菌
のゲノムに含まれる。例えば、ヌクレオチド配列は、宿主細胞に含まれるヌクレオチド配
列と同一であるか又は少なくとも85、90、95又は98%同一である。
【0106】
別の実施形態では、レセプターは、第2の細菌における1つ又は複数の酵素の作用によっ
て生成される糖部分を含み、第2の細菌のゲノムは、1つ又は複数の酵素をコードする1つ
又は複数の発現可能な外因性ヌクレオチド配列(すなわち、第2の細菌の非野生型配列)を
含む。例えば、各ヌクレオチド配列は、宿主細胞に含まれるヌクレオチド配列と同一であ
るか又は少なくとも85、90、95又は98%同一である。
【0107】
任意選択で、第2の種又は株は、レセプターを天然には発現しない。宿主及び/又は第2
の細胞は、天然に存在しない細菌細胞であってもよい。宿主及び/又は第2の細胞は、非野
生型細胞であってもよい。
【0108】
任意選択で、宿主細胞は、レセプターをコードする発現可能な外因性ヌクレオチド配列
(例えば、染色体に組み込まれたもの)を含む。
【0109】
代わりには、工程(b)においてファージに第2の細胞を感染させる代わりに、ファージの
コードするDNAが、他の手段、例えば、エレクトロポレーションによって、第2の細胞に導
入される。ある例では、工程(c)は、例えば、鋼製発酵槽等の培養容器内で、第2の細胞を
培養することを含む。
【0110】
第2の細胞は、ファージをコードするDNAを複製するのに作動可能な細胞装置を含む。
【0111】
ある例では、宿主細胞は、ヒトに対して病原性であり(例えば、宿主細胞は、クロスト
リジウム・ディフィシル(C difficile)の細胞である)及び/又は第2の細胞は、ヒトに対し
て非病原性であり、腸の共生種の細胞である(例えば、第2の細胞は、ラクトバチルスの細
胞、例えば、ラクトバチルス・ラクティス(L lactis)又はラクトバチルス・ロイテリ(L r
euteri)の細胞である)。例えば、第2の細胞は、例えば、US20160333348(この具体的開示
は、参照により本明細書に組み込まれている)に記載されているキャリア細胞である。あ
る例では、本発明は、ヒト又は動物対象における宿主細胞感染(例えば、対象の腸の感染)
を処置又は予防する方法であって、対象に、前記第2の細胞の集団を投与する工程を含み(
対象の腸で生息させるために)、細胞が、第1の型の前記ファージ(例えば、プロファージ)
を含むキャリア細胞であり、ファージが、対象に含まれる宿主細胞(例えば、対象の腸に
含まれる宿主細胞)におけるプロトスペーサー配列を標的とするcRNA又はgRNAをコードし
、第2の細胞が、対象の宿主細胞に感染するファージに対するキャリアであり、前記crRNA
又はgRNAをコードするファージの核酸が宿主細胞において産生され、それによって、宿主
細胞において活性CRISPR/Casシステムが形成され、それによって、Casが、crRNA又はgRNA
によって、宿主細胞のゲノムに含まれるプロトスペーサー配列にガイドされ、宿主細胞の
DNAを修飾し(例えば、切断し)、それによって、宿主細胞を死滅させるか又は宿主細胞の
成長又は増殖を阻害し、それによって、感染が処置又は予防される、方法を提供する。あ
る実施形態では、このような方法は、対象の疾患又は状態を処置又は予防するためのもの
であり、疾患又は状態は、宿主細胞の感染に関連するか又はそれによって引き起こされ、
それによって、疾患又は状態が処置又は予防される。宿主細胞及び/又は第2の細胞は、本
明細書に開示されている任意のこのような細胞であり得る。
【0112】
2.ファージが、1つ又は複数のプロトスペーサーヌクレオチド配列を標的とすることが可
能である活性CRISPR/Casシステムを形成するために、前記宿主細胞の株又は種の細菌のCa
sとともに作動可能であるcrRNA(又はシングルガイドRNA)(必要であれば、tracrRNA)をコ
ードするヌクレオチド配列を含み、各標的配列が、前記宿主細胞のゲノムに含まれ、それ
によって、crRNA(又はgRNA)が宿主細胞のCasをガイドして標的配列を修飾し(例えば、切
断し)、それによって、宿主細胞を死滅させるか又は宿主細胞集団の成長を低減する、記
述1の方法。
【0113】
ある例では、ファージは、その具体的開示が参照により本明細書に組み込まれるUS2016
0333348に開示されているHM-アレイ又はヌクレオチド配列をコードするgRNAを含む。
【0114】
3.ファージが感染した場合に、第2の細胞が前記活性CRISPR/Casシステムを含まない、記
述2の方法。
【0115】
例えば、1つ又は複数のCasは、crRNA又はgRNAとともに作動可能ではない欠陥のあるCRI
SPR/Casシステムを含む第2の細胞において、抑制、不活性化又はノックアウトされる。
【0116】
ある例では、活性CRISPR/Casシステムは、その具体的開示が参照により本明細書に組み
込まれるUS20160333348に開示されている通りである。
【0117】
4.各第2の細菌細胞のゲノムが、前記標的配列を含まない、記述2又は3の方法。
【0118】
ある例では、標的配列は、その具体的開示が参照により本明細書に組み込まれるUS2016
0333348に開示されている通りである。
【0119】
5.
(a)前記第2の細胞のCas(例えば、Cas3、9、cpf1及び/又はCASCADE Cas)が、前記crRNA(
又はgRNA)とともに作動可能ではなく、
(b)前記第2の細胞のtracrRNAが、前記crRNAとともに作動可能ではなく、及び/又は
(c)前記第2の細胞が、前記crRNAをコードするヌクレオチド配列から前記crRNAを生成す
るのに作動可能ではない(又は前記gRNAをコードするヌクレオチド配列から前記gRNAを生
成するのに作動可能ではない)、記述2から4のいずれか1つの方法。
【0120】
6.crRNA(又はgRNA)が、第2の細胞のCas(例えば、第2の細胞のCas3、9、cpf1及び/又はCAS
CADE Cas)とともに作動可能ではないリピート配列を含む、記述2から5のいずれか1つの方
法。
【0121】
ある例では、リピートは、その具体的開示が参照により本明細書に組み込まれるUS2016
0333348に開示されている通りである。
【0122】
7.前記ファージのヌクレオチド配列が、前記宿主の種又は株の細菌におけるcrRNA(又はgR
NA)の転写のためのプロモーターであって、前記第2の種又は株におけるcrRNA(又はgRNA)
の転写のためのものではないプロモーターに作動可能に接続している、記述2から6のいず
れか1つの方法。
【0123】
ある例では、プロモーターは、第2の細胞において構成的に活性である。
【0124】
8.前記宿主の種又は株の細菌が、宿主細菌に感染する前記第1の型のファージを死滅させ
るか又はその増殖を低減する抗ファージ毒素又は機構を含み、第2の細菌が、前記毒素又
は機構を含まない、記述1から7のいずれか1つの方法。
【0125】
9.前記宿主の種又は株の細菌が、宿主細菌に感染する前記第1の型のファージを死滅させ
るか又はその増殖を低減するのに活性であるCRISPR/Casシステムを含み、第2の細菌が、
前記システムを含まない、記述1から8のいずれか1つの方法。
【0126】
10.第2の細菌細胞が、レセプターを生成するように遺伝子操作されており、前記第2の種
又は株の野生型細菌が前記レセプターを生成しない、記述1から9のいずれか1つの方法。
【0127】
11.ファージが、前記第2の細胞において及び前記第1の種又は株の細胞において作動可能
である複製起点を含む、記述1から10のいずれか1つの方法。
【0128】
12.第2の細胞が、大腸菌細胞である、記述1から11のいずれか1つの方法。
【0129】
例えば、第2の細胞は、ヒトに対して病原性ではない。例えば、第2の細胞は、ハザード
グループ1又は2の細胞(例えば、本明細書の表においてグループ2として記載される種のも
の等)である。
【0130】
13.第1及び第2の細胞が、同じ種(例えば、大腸菌株)のものである、記述1から12のいずれ
か1つの方法。
【0131】
例えば、第2の細胞は、宿主細胞の遺伝子操作されたバージョンであり、例えば、ここ
で、第2の細胞は、本明細書で言及した欠陥のあるCRISPR/Casシステムを含み、及び/又は
前記プロトスペーサー配列を含まず、及び/又は宿主細胞によって発現される毒素を発現
しない。
【0132】
14.宿主細胞の株がヒト病原性株(例えば、クロストリジウム・ディフィシル)であり、第2
の細胞株がヒト病原性株ではない(例えば、ラクトバチルス・ロイテリ又はラクトバチル
ス・ラクティス等のラクトバチルス菌)、記述13の方法。
【0133】
15.第2の細胞が、宿主の種又は株(例えば、ハザードグループ3又は4)の細胞と比較して、
より低いハザードカテゴリー(例えば、ハザードグループ1又は2)の細胞である、任意の先
行する記述1から14のいずれか1つの方法。
【0134】
16.レセプターが、リポ多糖、タイコ酸(例えば、ManNAc残基のC4ヒドロキシルに付着した
1から3個のグリセロールホスフェートを有し、それにグリセロール-又はリビトールホス
フェートリピートの長鎖が続くManNAc(β1→4)GlcNAc二糖)、タンパク質及び鞭毛から選
択される、記述1から15のいずれか1つの方法。
【0135】
17.レセプターが、宿主細胞のO-抗原を含む、記述1から16のいずれか1つの方法。
【0136】
18.ファージが、例えば、ファージが第2の細胞において複製する場合に、第2の細胞にお
いて、エンドリシン又はホリンを発現するのに作動可能である、記述1から17のいずれか1
つの方法。
【0137】
19.ファージを増殖させるための細胞(プロパゲーター細胞)であって、ファージが、第1の
細菌の種又は株の細胞(宿主細胞)に、前記種又は株の細菌に含まれる細胞表面レセプター
に結合することによって、感染することが可能である第1の型のものであり、プロパゲー
ター細胞が、その表面にレセプターを含み、第2の種又は株のものであり、第2の種又は株
は、第1の種又は株と異なり、それによって、プロパゲーター細胞が、それにおけるファ
ージの増殖のために前記第1の型のファージによる感染を受けることが可能である、プロ
パゲーター細胞。
【0138】
ある例では、プロパゲーター細胞(本発明の方法における第2の細胞)のゲノムは、レセ
プターをコードする外因性ヌクレオチド配列を含み、この細胞の種又は株の野生型細胞は
前記ヌクレオチド配列を含まない。
【0139】
20.レセプターが、プロパゲーター細胞のゲノムに含まれる発現可能なヌクレオチド配列
によってコードされるタンパク質を含み、プロパゲーター細胞と同じ種又は株の野生型細
胞が前記発現可能なヌクレオチド配列を含まない、記述19のプロパゲーター細胞。
【0140】
21.レセプターが、プロパゲーター細胞における1つ又は複数の酵素の作用の産物である糖
部分を含み、プロパゲーター細胞のゲノムが前記1つ又は複数の酵素をコードする1つ又は
複数の発現可能なヌクレオチド配列を含み、プロパゲーター細胞と同じ種又は株の野生型
細胞が前記発現可能なヌクレオチド配列を含まない、記述19のプロパゲーター細胞。
【0141】
22.レセプターが、プロパゲーター細胞における1つ又は複数の酵素の作用の産物であるタ
イコ酸部分を含み、プロパゲーター細胞のゲノムが前記1つ又は複数の酵素をコードする1
つ又は複数の発現可能なヌクレオチド配列を含み、プロパゲーター細胞と同じ種又は株の
野生型細胞が前記発現可能なヌクレオチド配列を含まない、記述19のプロパゲーター細胞
【0142】
23.酵素が、TarO、TarA、TarB、TarF、TarK、及びTarL(又は宿主細胞及び/又は第2の細胞
によって発現されたこれらの相同体)から選択される、記述22のプロパゲーター細胞。
【0143】
24.前記第1の型のファージと組み合わせた、記述19から23のいずれか1つのプロパゲータ
ー細胞。
【0144】
25.前記第1の型の1つ又は複数のプロファージ(例えば、プロパゲーター細胞の染色体に組
み込まれる)を含む、記述19から24のいずれか1つのプロパゲーター細胞。
【0145】
26.プロパゲーター細胞がグラム陰性細菌細胞であり、任意選択で、宿主細胞がグラム陰
性細菌細胞である、記述19から25のいずれか1つのプロパゲーター細胞。
【0146】
27.プロパゲーター細胞がグラム陽性細菌細胞であり、任意選択で、宿主細胞がグラム陽
性細菌細胞である、記述19から25のいずれか1つのプロパゲーター細胞。
【0147】
28.任意選択で、プロパゲーター細胞を培養し、前記第1の型のファージを増殖させるため
の発酵容器に含まれる、記述19から27のいずれか1つに記述のプロパゲーター細胞の集団
【0148】
29.各プロパゲーター細胞が、記述1から18のいずれか1つに規定の第2の細胞である、記述
19から28のいずれか1つのプロパゲーター細胞又は集団。
【0149】
30.各宿主細胞が、記述1から18のいずれか1つに規定の宿主細胞である、記述19から28の
いずれか1つのプロパゲーター細胞又は集団。
【0150】
31.ファージが、記述1から18のいずれか1つに規定のファージである、記述19から28のい
ずれか1つのプロパゲーター細胞又は集団。
【0151】
32.ヒト又は動物対象における疾患又は状態を処置又は予防する方法であって、疾患又は
状態が、対象に含まれる(例えば、対象の腸に含まれる)宿主細胞によって媒介され、方法
が、プロパゲーター細胞を対象に(例えば、対象の腸に生息するために)投与する工程を含
み、プロパゲーター細胞が記述19から31のいずれか1つに記載されており、プロパゲータ
ー細胞がファージを産生し、ファージが患者の(例えば、その腸の)宿主細胞に感染し、そ
れによって、宿主細胞を死滅させるか又は対象の宿主細胞の成長若しくは増殖を阻害し、
それによって、疾患又は状態を処置又は予防する、方法。
【0152】
33.プロパゲーター細胞が、ラクトバチルス菌(例えば、ラクトバチルス・ロイテリ)の細
胞である、記述32の方法。
【0153】
34.ファージが、宿主細胞においてCasをガイドし、宿主細胞のDNAを修飾し(例えば、切断
し)、それによって、前記死滅させるか又は阻害することを実行する、抗宿主細胞のcrRNA
又はgRNAをコードする、記述32又は33の方法。
【0154】
概念
本発明は、以下の概念も提供する:
1.ファージの集団を産生する方法であって、ファージが、第1の細菌の種又は株の細胞(宿
主細胞)に、前記種又は株の細菌に含まれる細胞表面レセプターに結合することによって
、感染することが可能である第1の型のものであり、方法が、
(a)その表面にレセプターを含み、第1の種又は株とは異なる第2の種又は株のものであ
る第2の細菌細胞の集団を準備する工程と、
(b)第2の細胞を、前記第1の型のファージに感染させる工程と、
(c)第2の細胞においてファージを増殖させ、それによって、ファージの集団を産生する
工程と、
(d)任意選択で、前記集団のファージを単離する工程
とを含む、方法。
【0155】
2.ファージのコートタンパク質によってパッケージングされた核酸を含む形質導入粒子の
集団を産生する方法であって、粒子が、第1の細菌の種又は株の細胞(宿主細胞)に、前記
種又は株の細菌に含まれる細胞表面レセプターに結合することによって、感染することが
可能であり、それによって、宿主細胞が核酸により形質導入され、方法が、
(a)その表面にレセプターを含み、第1の種又は株とは異なる第2の種又は株のものであ
り、前記核酸の複製を生成することが可能であるDNAを含む第2の細菌細胞の集団を準備す
る工程と、
(b)第2の細胞を、第2の細菌細胞に含まれるレセプターにファージを結合させることに
よって、ファージに感染させる工程と、
(c)第2の細胞においてファージを増殖させる行程であって、前記核酸の複製をパッケー
ジングするファージのコートタンパク質が産生され、それによって、粒子の集団を産生す
る工程と、
(d)任意選択で、前記集団の粒子を単離する工程
とを含む、方法。
【0156】
ある例では、粒子に含まれる核酸は、DNAである。ある例では、核酸は、RNAである。あ
る例では、工程(b)において第2の細胞を感染させるために使用され、任意選択で、形質導
入粒子とは異なる(形質導入粒子がファージである場合)ファージは、ヘルパーファージで
ある。任意選択で、ヘルパーファージは、第2の細胞における自己複製に関して欠陥を有
する。
【0157】
例えば、第2の細胞に含まれるDNAは、各第2の細胞の染色体DNAに含まれる。別の例では
、DNAは、各第2の細胞に含まれる1つ又は複数のエピソーム(例えば、プラスミド)に含ま
れる。
【0158】
「形質導入粒子」は、ファージであるか又はファージより小さくてもよく、核酸(例え
ば、その抗生物質又はCRISPRアレイ等の構成成分をコードするもの)を宿主細菌細胞に形
質導入することが可能である粒子である。
【0159】
粒子は、ファージコートタンパク質及び任意選択で、工程(b)において使用されるファ
ージにコードされる他のファージ構造タンパク質を含む。構造タンパク質の例は、主要な
ヘッド及びテールタンパク質、ポータルタンパク質、テールファイバータンパク質、及び
少数のテールタンパク質のうちの1つ、複数又はすべてから選択されるファージタンパク
質である。
【0160】
粒子は、核酸(例えば、アレイ又は抗生物質をコードするDNA等のDNA)を含み、核酸は、
核酸又はその複製を、宿主細胞を感染させることが可能である形質導入粒子にパッケージ
ングするために、工程(b)のファージにコードされるタンパク質とともに作動可能なパッ
ケージングシグナル配列を含む。
【0161】
ある例では、各形質導入粒子は、非自己複製形質導入粒子である。「非自己複製形質導
入粒子」とは、細菌細胞に粒子の核酸分子(例えば、抗細菌剤又は構成成分をコードする)
を送達することが可能であるが、それ自身の複製ゲノムを形質導入粒子中にパッケージン
グしない粒子(例えば、ファージ若しくはファージ様粒子;若しくはゲノムアイランド(例
えば、黄色ブドウ球菌病原性アイランド(SaPI)から産生される粒子)又はその修飾バージ
ョンを指す。
【0162】
任意選択で、各粒子の核酸は、修飾されたゲノムアイランドを含む。任意選択で、ゲノ
ムアイランドは、宿主の種又は株の細菌細胞に天然に見られるアイランドである。ある例
では、ゲノムアイランドは、SaPI、SaPI1、SaPI2、SaPIbov1及びSaPibov2ゲノムアイラン
ドからなる群から選択される。任意選択で、各粒子の核酸は、修飾された病原性アイラン
ドを含む。任意選択で、病原性アイランドは、第1の種又は株の細菌細胞に天然に見られ
るアイランド、例えば、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)のSaPI若しくはVibro PL
E又は緑膿菌の病原性アイランド(例えば、PAPI又はPAGI、例えば、PAPI-1、PAGI-5、PAGI
-6、PAGI-7、PAGI-8、PAGI-9又はPAGI-10)である。任意選択で、病原性アイランドは、Sa
PI(黄色ブドウ球菌の病原性アイランド)である。
【0163】
任意選択で、形質導入粒子の核酸の転写は、宿主細胞における抗細菌剤若しくは構成成
分又はアレイの複製の転写のために、誘導型プロモーターの制御下にある。これは、例え
ば、標的細胞を含有する、環境(例えば、土壌又は水中)において又は工業的培養若しくは
発酵容器において、例えば、標的細菌細胞に対して使用するための、抗菌活性のスイッチ
オン又は抗宿主細胞のcrRNA生成を制御するために有用である。例えば、宿主細胞は、工
業的プロセス において(例えば、醸造業又は酪農業における、例えば、発酵のために)有
用である場合があり、導入により、宿主細菌に対する抗細菌剤又はcrRNAを使用すること
によって、プロセスを制御する(例えば、停止又は低減する)ことが可能となる。
【0164】
3.粒子が、非複製形質導入粒子又はファージである、概念2の方法。
【0165】
4.ファージ又は粒子が、1つ又は複数のプロトスペーサーヌクレオチド配列を標的とする
ことが可能である活性CRISPR/Casシステムを形成するために、前記宿主細胞の株又は種の
細菌のCasとともに作動可能であるcrRNA(又はシングルガイドRNA)をコードするヌクレオ
チド配列を含み、各標的配列が、前記宿主細胞のゲノムに含まれ、それによって、crRNA(
又はgRNA)が宿主細胞のCasをガイドして標的配列を修飾し(任意選択で、切断し)、それに
よって、宿主細胞を死滅させるか又は宿主細胞集団の成長を低減する、任意の先行する概
念1から3のいずれか1つの方法。
【0166】
5.ファージが感染した場合に、第2の細胞が前記活性CRISPR/Casシステムを含まない、概
念4の方法。
【0167】
6.各第2の細菌細胞のゲノムが、前記標的配列を含まない、概念4又は5の方法。
【0168】
7.
(a)前記第2の細胞のCas(任意選択で、Cas3、9、cpf1及び/又はCASCADE Cas)が、前記cr
RNA(又はgRNA)とともに作動可能ではなく、
(b)前記第2の細胞のtracrRNAが、前記crRNAとともに作動可能ではなく、及び/又は
(c)前記第2の細胞が、前記crRNAをコードするヌクレオチド配列から前記crRNAを生成す
るのに作動可能ではない(又は前記gRNAをコードするヌクレオチド配列から前記gRNAを生
成するのに作動可能ではない)、概念4から6のいずれか1つの方法。
【0169】
8.crRNA(又はgRNA)が、第2の細胞のCas(任意選択で、第2の細胞のCas3、9、cpf1及び/又
はCASCADE Cas)とともに作動可能ではないリピート配列を含む、概念4から7のいずれか1
つの方法。
【0170】
9.前記ヌクレオチド配列が、前記宿主の種又は株の細菌におけるcrRNA(又はgRNA)の転写
のためのプロモーターであって、前記第2の種又は株におけるcrRNA(又はgRNA)の転写のた
めのものではないプロモーターに作動可能に接続している、概念4から8のいずれか1つの
方法。
【0171】
10.
(a)ファージ又は粒子が、1つ又は複数のプロトスペーサーヌクレオチド配列を標的とす
ることが可能である活性CRISPR/Casシステムを形成するために、前記宿主細胞の株又は種
の細菌のCasとともに作動可能であるcrRNA(又はシングルガイドRNA)をコードするヌクレ
オチド配列を含み、各標的配列が、前記宿主細胞のゲノムに含まれ、それによって、crRN
A(又はgRNA)が宿主細胞のCasをガイドして標的配列を修飾し(任意選択で、切断し)、それ
によって、宿主細胞を死滅させるか又は宿主細胞集団の成長を低減し、
(b)宿主細胞と第2の細胞が、同じ種(任意選択で、大腸菌株)のものであり、
(c)各第2の細菌細胞のゲノムが、前記標的配列を含まず、第1及び第2の細胞が、同じ種
の異なる株である、概念1から9のいずれか1つの方法。
【0172】
11.前記宿主の種又は株の細菌が、宿主細菌に感染する前記第1の型のファージ又は粒子を
死滅させるか又はその増殖を低減する抗ファージ毒素又は機構を含み、第2の細菌が、前
記毒素又は機構を含まない、概念1から10のいずれか1つの方法。
【0173】
12.前記宿主の種又は株の細菌が、宿主細菌に感染する前記第1の型のファージ又は粒子を
死滅させるか又はその増殖を低減するのに活性であるCRISPR/Casシステムを含み、第2の
細菌が、前記システムを含まない、概念1から11のいずれか1つの方法。
【0174】
13.第2の細菌細胞が、レセプターを生成するように遺伝子操作されており、前記第2の種
又は株の野生型細菌が前記レセプターを生成しない、概念1から12のいずれか1つの方法。
【0175】
14.ファージ又は粒子が、前記第2の細胞において及び前記第1の種又は株の細胞において
作動可能である複製起点を含む、概念1から13のいずれか1つの方法。
【0176】
15.第2の細胞が、大腸菌細胞である、概念1から14のいずれか1つの方法。
【0177】
16.第1及び第2の細胞が、同じ種(任意選択で、大腸菌株)のものである、概念1から15のい
ずれか1つの方法。
【0178】
17.宿主細胞の株がヒト病原性株であり、第2の細胞株がヒト病原性株ではない、概念16の
方法。
【0179】
18.第2の細胞が、宿主の種又は株(任意選択で、ハザードグループ3又は4)の細胞と比較し
て、より低いハザードカテゴリー(任意選択で、ハザードグループ1又は2)の細胞である、
概念1から17のいずれか1つの方法。
【0180】
19.レセプターが、リポ多糖、タイコ酸(任意選択で、ManNAc残基のC4ヒドロキシルに付着
した1から3個のグリセロールホスフェートを有し、それにグリセロール-又はリビトール
ホスフェートリピートの長鎖が続くManNAc(β1→4)GlcNAc二糖)、タンパク質及び鞭毛か
ら選択される、概念1から18のいずれか1つの方法。
【0181】
20.レセプターが、宿主細胞のO-抗原を含む、概念1から19のいずれか1つの方法。
【0182】
21.ファージ又は粒子が、任意選択で、ファージ又は粒子が第2の細胞において複製する場
合に、第2の細胞において、エンドリシン又はホリンを発現するのに作動可能である、概
念1から20のいずれか1つの方法。
【0183】
22.ファージ又はファージコートタンパク質によってパッケージングされた核酸を含む形
質導入粒子を増殖させるための細胞(プロパゲーター細胞)であって、ファージ又は粒子が
、第1の細菌の種又は株の細胞(宿主細胞)に、前記種又は株の細菌に含まれる細胞表面レ
セプターに結合することによって、感染することが可能である第1の型のものであり、プ
ロパゲーター細胞が、その表面にレセプターを含み、第2の種又は株のものであり、第2の
種又は株は、第1の種又は株と異なり、それによって、プロパゲーター細胞が、それにお
けるファージ又は粒子のそれぞれの増殖のために前記第1の型のファージ又は前記粒子に
よる感染を受けることが可能である、プロパゲーター細胞。
【0184】
23.レセプターが、プロパゲーター細胞のゲノムに含まれる発現可能なヌクレオチド配列
によってコードされるタンパク質を含み、プロパゲーター細胞と同じ種又は株の野生型細
胞が前記発現可能なヌクレオチド配列を含まない、概念22のプロパゲーター細胞。
【0185】
24.レセプターが、プロパゲーター細胞における1つ又は複数の酵素の作用の産物である糖
部分を含み、プロパゲーター細胞のゲノムが前記1つ又は複数の酵素をコードする1つ又は
複数の発現可能なヌクレオチド配列を含み、プロパゲーター細胞と同じ種又は株の野生型
細胞が前記発現可能なヌクレオチド配列を含まない、概念22のプロパゲーター細胞。
【0186】
25.レセプターが、プロパゲーター細胞における1つ又は複数の酵素の作用の産物であるタ
イコ酸部分を含み、プロパゲーター細胞のゲノムが前記1つ又は複数の酵素をコードする1
つ又は複数の発現可能なヌクレオチド配列を含み、プロパゲーター細胞と同じ種又は株の
野生型細胞が前記発現可能なヌクレオチド配列を含まない、概念22のプロパゲーター細胞
【0187】
26.酵素が、TarO、TarA、TarB、TarF、TarK、及びTarL(又は宿主細胞及び/又は第2の細胞
によって発現されたこれらの相同体)から選択される、概念25のプロパゲーター細胞。
【0188】
27.前記第1の型のファージ又は前記形質導入粒子と組み合わせた、概念22から26のいずれ
か1つのプロパゲーター細胞。
【0189】
28.前記第1の型の1つ又は複数のプロファージ(任意選択で、プロパゲーター細胞の染色体
に組み込まれた)、又は形質導入粒子の前記核酸の複製を生成することが可能であるDNA(
任意選択で、プロパゲーター細胞の染色体に組み込まれた)を含む、概念22から27のいず
れか1つのプロパゲーター細胞。
【0190】
29.プロパゲーター細胞がグラム陰性細菌細胞であり、任意選択で、宿主細胞がグラム陰
性細菌細胞である、概念22から28のいずれか1つのプロパゲーター細胞。
【0191】
30.プロパゲーター細胞がグラム陽性細菌細胞であり、任意選択で、宿主細胞がグラム陽
性細菌細胞である、概念22から28のいずれか1つのプロパゲーター細胞。
【0192】
31.任意選択で、プロパゲーター細胞を培養し、前記第1の型のファージ又は前記形質導入
粒子を増殖させるための発酵容器に含まれる、概念22から30のいずれか1つに記載のプロ
パゲーター細胞の集団。
【0193】
32.各プロパゲーター細胞が、概念1から21のいずれか1つに規定の第2の細胞である、概念
22から31のいずれか1つのプロパゲーター細胞又は集団。
【0194】
33.各宿主細胞が、概念1から21のいずれか1つに規定の宿主細胞である、概念22から31の
いずれか1つのプロパゲーター細胞又は集団。
【0195】
34.ファージ又は粒子が、概念1から21のいずれか1つに規定のファージ又は粒子である、
概念22から31のいずれか1つのプロパゲーター細胞又は集団。
【0196】
35.ヒト又は動物対象における疾患又は状態を処置又は予防する方法であって、疾患又は
状態が、対象に含まれる(任意選択で、対象の腸に含まれる)宿主細胞によって媒介され、
方法が、プロパゲーター細胞を対象に(任意選択で、対象の腸に生息するために)投与する
工程を含み、プロパゲーター細胞が概念22から34のいずれか1つに記載されており、プロ
パゲーター細胞がファージ又は形質導入粒子を産生し、ファージ又は粒子が患者の(任意
選択で、その腸の)宿主細胞に感染し、それによって、宿主細胞を死滅させるか又は対象
の宿主細胞の成長若しくは増殖を阻害し、それによって、疾患又は状態が処置又は予防さ
れる、方法。
【0197】
36.プロパゲーター細胞が、ラクトバチルス菌(例えば、ラクトバチルス・ロイテリ)の細
胞である、概念35の方法。
【0198】
37.ファージが、宿主細胞においてCasをガイドし、宿主細胞のDNAを修飾し(任意選択で、
切断し)、それによって、前記死滅させるか又は阻害することを実行する、抗宿主細胞のc
rRNA又はgRNAをコードする、概念35又は36の方法。
【実施例0199】
ヘルパーファージに対して感受性となるための産生細胞の遺伝子操作
概要:
本発明者らは、細菌の産生株(この場合には、大腸菌産生細胞)を遺伝子操作し、ファー
ジレセプターを発現させ、ヘルパーファージによる感染に感受性の株とした。産生細菌は
、CRISPRアレイとファージパッケージング部位を含有するベクターを保有し、その結果、
ベクターは、ヘルパーによって感染した細胞内においてパッケージングされ(感染してい
ない細胞においてはパッケージングされない)、それによって、crRNAをコードするファー
ジ様粒子に対する産生株としての細菌の使用が可能となった。本発明者らは、更に、この
ような産生株によって生成された溶菌液がファージ様粒子を含有し、これを使用して、他
の関連する大腸菌標的集団にCRISPRアレイを送達することができることを示した。ここで
、本発明者らは、このベクターをCRISPR Guided Vectors(CGV(商標))と称する。
【0200】
有利には、特定の細菌集団を標的とするCGV-負荷ファージ様粒子(CGV-PLP)を産生する
ために、標的株に関連する株においてCGV-PLPを産生すること、例えば、標的株において
宿主の防御機構を回避してCGV-PLPを産生することが有益であり得る。例えば、次いで、P
LPが、産生細菌及び標的細菌の種又は株が同一であるか又は密接に関連する(又は任意の
割合で共通のメチルトランスフェラーゼが含む)標的細胞に感染した際に、産生細菌にお
けるメチルトランスフェラーゼによるCGV-PLPのDNA修飾は、制限修飾に対してDNAを遮蔽
するのに有用である場合がある。表面レセプターを呈する本発明の通りの産生株を採用す
ることによって、本発明は、次に、標的宿主細菌による制限修飾に対する有益なDNA修飾
を呈することができる株において、PLP生産を可能とする。有益には、標的細菌においてP
LPのcrRNAの標的とされるプロトスペーサー配列は、産生細菌のゲノムにおいて欠失する
か又は天然には存在しない場合があり、その結果、産生細菌のゲノムのCasにより媒介さ
れる切断は、PLPの産生の間には起こらない。
【0201】
方法及び結果:
産生株として、本発明者らは、ヘルパーファージM13KO7(図1_X)に対するレセプターを
発現するプラスミドで形質転換した大腸菌株MG1655を使用し、一方、レセプター(図1_Y)
を受容しない株系列を対照とした。レセプターは、New England Biolabsから入手したプ
ラスミドpCJ105から発現したF-pilusであった。両方の株をCGV(図1_3)で形質転換し、CGV
-PLPの産生のためにヘルパーファージM13KO7に感染させた。
【0202】
系列Xでは、レセプターの存在によりCGV-PLP溶菌液が生成されたが、系列Yでは、溶菌
液は生成されなかった(図1_4)。得られた溶菌液は、産生株に関連し、ファージレセプタ
ーを保有する異なる標的集団に、CGVを送達することができることを示した(図1_5及び図2
)。対照株系列は、CGV-PLPを産生せず、標的集団にCGVを送達することができなかった(図
2)。
【0203】
【表5】
【0204】
【表6A】
【0205】
【表6B】
【0206】
【表6C】
【0207】
【表6D】
【0208】
【表6E】
【0209】
【表7-1】
【表7-2】
【表7-3】
【表7-4】
【表7-5】
【表7-6】
【表7-7】
【表7-8】
【表7-9】
【表7-10】
【表7-11】
【表7-12】
【表7-13】
【表7-14】
【表7-15】
【表7-16】
【表7-17】
【表7-18】
【表7-19】
【表7-20】
【表7-21】
【表7-22】
【表7-23】
【表7-24】
【表7-25】
【表7-26】
【表7-27】
【0210】
[参考文献]
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-09-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファージの集団を産生する方法であって、ファージが、第1の細菌の種又は株の細胞(宿主細胞)に、前記種又は株の細菌に含まれる細胞表面レセプターに結合することによって、感染することが可能である第1の型のものであり、前記方法が、
(a)その表面にレセプターを含み、第1の種又は株とは異なる第2の種又は株のものである、第1の型のファージに感染させることができる第2の細菌細胞の集団を準備する工程と、
(b)第2の細胞を、前記第1の型のファージに感染させる工程と、
(c)第2の細胞においてファージを増殖させ、それによって、ファージの集団を産生する工程
とを含み、
ファージが、1つ又は複数のプロトスペーサーヌクレオチド配列を標的とすることが可能である活性CRISPR/Casシステムを形成するために、前記第1の細菌の種又は株の細胞の細菌におけるCasとともに作動可能であるcrRNA又はシングルガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含み、各標的配列が、前記第1の細菌の種又は株の細胞のゲノムに含まれ、それによって、crRNA又はgRNAが第1の細菌の種又は株の細胞のCasをガイドして標的配列を切断し、それによって、第1の細菌の種又は株の細胞のゲノムを修飾し、および
(i)ファージが感染した場合に、第2の細胞が前記活性CRISPR/Casシステムを含まず、または
(ii)(1)前記第2の細胞のCasが、前記crRNA又はgRNAとともに作動可能ではなく、
(2)前記第2の細胞のtracrRNAが、前記crRNAとともに作動可能ではなく、
(3)前記第2の細胞が、前記crRNAをコードするヌクレオチド配列から前記crRNAを生成するのに作動可能ではない又は前記gRNAをコードするヌクレオチド配列から前記gRNAを生成するのに作動可能ではない、
(4)crRNA又はgRNAが、第2の細胞のCasとともに作動可能ではないリピート配列を含む、及び/又は
(5)前記ヌクレオチド配列が、前記第1の種又は株の細菌におけるcrRNA又はgRNAの転写のためのプロモーターであって、前記第2の種又は株におけるcrRNA又はgRNAの転写のためのものではないプロモーターに作動可能に接続している、
前記方法。
【請求項2】
(d)前記集団のファージを単離する工程
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ファージのコートタンパク質によってパッケージングされた核酸を含む形質導入粒子の集団を産生する方法であって、粒子が、第1の細菌の種又は株の細胞(宿主細胞)に、前記種又は株の細菌に含まれる細胞表面レセプターに結合することによって、感染することが可能であり、それによって、宿主細胞が核酸により形質導入され、前記方法が、
(a)その表面にレセプターを含み、第1の種又は株とは異なる第2の種又は株のものであり、前記核酸の複製を生成することが可能であるDNAを含む、第1の型のファージに感染させることができる第2の細菌細胞の集団を準備する工程と、
(b)第2の細胞を、第2の細菌細胞に含まれるレセプターにファージを結合させることによって、ファージに感染させる工程と、
(c)第2の細胞においてファージを増殖させる行程であって、前記核酸の複製をパッケージングするファージのコートタンパク質が産生され、それによって、粒子の集団を産生する工程と
を含み、
粒子が、1つ又は複数のプロトスペーサーヌクレオチド配列を標的とすることが可能である活性CRISPR/Casシステムを形成するために、前記第1の細菌の種又は株の細胞の細菌のCasとともに作動可能であるcrRNA又はシングルガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含み、各標的配列が、前記第1の細菌の種又は株の細胞のゲノムに含まれ、それによって、crRNA又はgRNAが第1の細菌の種又は株の細胞のCasをガイドして標的配列を切断し、それによって、第1の細菌の種又は株の細胞のゲノムを修飾し、および
(i)ファージが感染した場合に、第2の細胞が前記活性CRISPR/Casシステムを含まず、または
(ii)(1)前記第2の細胞のCasが、前記crRNA又はgRNAとともに作動可能ではなく、
(2)前記第2の細胞のtracrRNAが、前記crRNAとともに作動可能ではなく、
(3)前記第2の細胞が、前記crRNAをコードするヌクレオチド配列から前記crRNAを生成するのに作動可能ではない又は前記gRNAをコードするヌクレオチド配列から前記gRNAを生成するのに作動可能ではない、
(4)crRNA又はgRNAが、第2の細胞のCasとともに作動可能ではないリピート配列を含む、及び/又は
(5)前記ヌクレオチド配列が、前記第1の種又は株の細菌におけるcrRNA又はgRNAの転写のためのプロモーターであって、前記第2の種又は株におけるcrRNA又はgRNAの転写のためのものではないプロモーターに作動可能に接続している、
前記方法。
【請求項4】
(d)前記集団のファージを単離する工程
をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
粒子が、非複製型形質導入粒子又はファージである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
(a)ファージ又は粒子が、1つ又は複数のプロトスペーサーヌクレオチド配列を標的とすることが可能である活性CRISPR/Casシステムを形成するために、前記第1の細胞の株又は種の細菌のCasとともに作動可能であるcrRNA又はシングルガイドRNAをコードするヌクレオチド配列を含み、各標的配列が、前記第1の細菌の種又は株の細胞のゲノムに含まれ、それによって、crRNA又はgRNAが第1の細菌の種又は株の細胞のCasをガイドして標的配列を断し、それによって、第1の細菌の種又は株の細胞のゲノムを修飾し
(b)第1の細胞と第2の細胞が、同じ種のものであり、
(c)各第2の細菌細胞のゲノムが、前記標的配列を含まず、第1及び第2の細胞が、同じ種の異なる株である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記細菌の種又は株の細菌が、第1の細菌に感染する前記第1の型のファージ又は粒子を修飾するのに活性であるCRISPR/Casシステムを含み、第2の細菌が、前記システムを含まない、請求項1からのいずれか一項に記載の方法であって、及び/又は
方法はさらに第2の細菌細胞を遺伝子操作して、レセプターを生成することを含み、前記第2の種又は株の野生型細菌が前記レセプターを生成しない、及び/又は
ファージ又は粒子が、前記第2の細胞において及び前記第1の種又は株の細胞において作動可能である複製起点を含む、及び/又は
第2の細胞が、大腸菌細胞であり、及び/又は第1及び第2の細胞が、同じ種のものであり、第2の細胞株がヒト病原性株ではない、
前記方法。
【請求項8】
第2の細胞が、第1の種又は株の細胞と比較して、より低いハザードカテゴリーの細胞であり、及び/又は
レセプターが、リポ多糖、タイコ酸、タンパク質及び鞭毛から選択され、及び/又は
レセプターが、第1の細胞のO-抗原を含み、及び/又は
ファージ又は粒子が、第2の細胞において、エンドリシン又はホリンを発現するのに作動可能である、請求項1からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
crRNA又はgRNAが第1の細菌の種又は株の細胞のCasをガイドして標的配列を切断し、それによって、第1の細菌の種又は株の細胞を死滅させるか又は第1の細菌の種又は株の細胞集団の成長を低減する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ファージ又は形質導入粒子を含む細胞(プロパゲーター細胞)であって、ファージ又は形質導入粒子がファージのコートタンパク質によってパッケージングされた核酸を含み、ファージ又は粒子が、第1の細菌の種又は株の細胞(宿主細胞)に、前記種又は株の細菌に含まれる細胞表面レセプターに結合することによって、感染することが可能である第1の型のものであり、プロパゲーター細胞が、その表面にレセプターを含み、第2の種又は株のものであり、第2の種又は株が、第1の種又は株と異なり、それによって、プロパゲーター細胞が、それにおけるファージ又は粒子のそれぞれの増殖のために前記第1の型のファージ又は前記粒子による感染を受けることが可能であり、ファージ又は粒子が請求項1から9のいずれか一項に記載のファージ又は粒子である、前記プロパゲーター細胞。
【請求項11】
レセプターが、プロパゲーター細胞のゲノムに含まれる発現可能なヌクレオチド配列によってコードされるタンパク質を含み、プロパゲーター細胞と同じ種又は株の野生型細胞が前記発現可能なヌクレオチド配列を含まない、及び/又は
レセプターが、プロパゲーター細胞における1つ又は複数の酵素の作用の産物である糖部分を含み、プロパゲーター細胞のゲノムが前記1つ又は複数の酵素をコードする1つ又は複数の発現可能なヌクレオチド配列を含み、プロパゲーター細胞と同じ種又は株の野生型細胞が前記発現可能なヌクレオチド配列を含まない、及び/又は
レセプターが、プロパゲーター細胞における1つ又は複数の酵素の作用の産物であるタイコ酸部分を含み、プロパゲーター細胞のゲノムが前記1つ又は複数の酵素をコードする1つ又は複数の発現可能なヌクレオチド配列を含み、プロパゲーター細胞と同じ種又は株の野生型細胞が前記発現可能なヌクレオチド配列を含まない、
請求項10に記載のプロパゲーター細胞。
【請求項12】
求項10又は11に記載のプロパゲーター細胞であって、
前記第1の型のファージ又は前記形質導入粒子と組み合わせにおけるものである、及び/又は
細胞が、前記第1の型の1つ若しくは複数のプロファージ、又は形質導入粒子の前記核酸の複製を生成することが可能であるDNAを含む、又は
プロパゲーター細胞がグラム陽性細菌細胞である、前記プロパゲーター細胞。
【請求項13】
プロパゲーター細胞を培養し、および前記第1の型のファージ又は前記形質導入粒子を増殖させるための、請求項10から12のいずれか一項に記載のプロパゲーター細胞の集団であって、発酵容器が前記プロパゲーター細胞の集団を含む、前記プロパゲーター細胞の集団
【請求項14】
プロパゲーター細胞が、請求項1からのいずれか一項に規定の第2の細胞である、請求項10から13のいずれか一項に記載のプロパゲーター細胞又は集団。
【請求項15】
各第1の細胞が、請求項1からのいずれか一項に規定の第1の細胞である、請求項10から14のいずれか一項に記載のプロパゲーター細胞又は集団。
【請求項16】
物対象(ヒトを除く)における疾患又は状態を処置又は予防する方法であって、疾患又は状態が、対象に含まれる第1の細菌の種又は株の細胞によって媒介され、前記方法が、プロパゲーター細胞を対象に投与する工程を含み、プロパゲーター細胞が請求項10から15のいずれか一項に記載されており、
プロパゲーター細胞がファージ又は形質導入粒子を産生し、ファージ又は粒子が、それぞれ、患者の第1の細菌の種又は株の細胞に感染し、それによって、第1の細菌の種のゲノムを修飾し、それによって、疾患又は状態が処置又は予防される、前記方法。
【請求項17】
ヒト又は動物対象における疾患又は状態を処置又は予防する方法における使用のための組成物であって、疾患又は状態が、対象に含まれる第1の細菌の種又は株の細胞によって媒介され、前記方法が、プロパゲーター細胞を対象に投与する工程を含み、プロパゲーター細胞が請求項10から15のいずれか一項に記載されており、プロパゲーター細胞がファージ又は形質導入粒子を産生し、ファージ又は粒子が、それぞれ、患者の第1の細菌の種又は株の細胞に感染し、それによって、第1の細菌の種又は株の細胞のゲノムを修飾し、それによって、疾患又は状態が処置又は予防される、前記組成物。
【請求項18】
ファージ又は粒子が、それぞれ、患者の第1の細菌の種又は株の細胞に感染し、それによって、第1の細菌の種又は株の細胞を死滅させるか又は対象の第1の細菌の種又は株の細胞の成長若しくは増殖を阻害する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
ファージ又は粒子が、それぞれ、患者の第1の細菌の種又は株の細胞に感染し、それによって、第1の細菌の種又は株の細胞を死滅させるか又は対象の第1の細菌の種又は株の細胞の成長若しくは増殖を阻害する、請求項17に記載の使用のための組成物。
【外国語明細書】