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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175700
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/50 20150101AFI20231205BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20231205BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231205BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20231205BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20231205BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20231205BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231205BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20231205BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 9/50 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
A61K35/50
A61P9/10
A61P25/00
A61P25/02
A61P25/16
A61P25/14
A61P25/28
A61P27/02
A61P43/00 105
A61K48/00
A61K31/7105
A61K9/50
A61K47/46
A61K9/19
A61K8/02
A61K8/98
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023133456
(22)【出願日】2023-08-18
(62)【分割の表示】P 2021099640の分割
【原出願日】2016-06-10
(31)【優先権主張番号】2015902214
(32)【優先日】2015-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(31)【優先権主張番号】2016901349
(32)【優先日】2016-04-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(71)【出願人】
【識別番号】517435526
【氏名又は名称】ハドソン インスティチュート オブ メディカル リサーチ
【氏名又は名称原語表記】HUDSON INSTITUTE OF MEDICAL RESEARCH
【住所又は居所原語表記】27-31 Wright Street,Clayton,Victoria 3168,Australia
(71)【出願人】
【識別番号】501249191
【氏名又は名称】モナッシュ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウォーレス,ユアン
(72)【発明者】
【氏名】リム,レベッカ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】組織性及びニューロン性の修復、再生及び/又は回復を促すために強化された細胞に基づく治療アプローチによって哺乳動物被験体を治療する医薬組成物を提供する。
【解決手段】哺乳動物被験体におけるT細胞増殖の低下又は阻害、及び/又はマクロファージの食作用の増加のための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、哺乳動物羊膜エキソソーム、および1以上の薬学上許容できる担体、賦形剤及び/又は希釈剤を含む、医薬組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物被験体を治療する方法であって、前記方法が、同じ種のドナー哺乳動物に由来
する同種哺乳動物羊膜上皮細胞に由来する哺乳動物羊膜エキソソームの全身又は局所投与
を含む、方法。
【請求項2】
治療される前記哺乳動物被験体がヒトである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
治療される前記哺乳動物被験体が非ヒト哺乳動物である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
治療される前記非ヒト哺乳動物被験体が、ウマ、イヌ及びラクダからなる群から選択さ
れる競走用動物である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒト被験体が、中枢神経系、末梢神経系、全身血管系、又は創傷治癒のための細胞
性又はニューロン性の修復、再生又は回復を誘導するために治療される請求項2に記載の
方法。
【請求項6】
前記ヒト被験体が、肺、心臓、肝臓、腎臓若しくは膵臓の細胞若しくは組織、虚血再潅
流損傷後の細胞、創傷、脳若しくは脊髄の損傷を修復する、再生する若しくは回復させる
ために、又は活性化された線維芽細胞におけるコラーゲンの産生を抑制するために治療さ
れている請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒト被験体が、肺、肝臓、心臓、腎臓又は膵臓の線維性の疾患、状態又は障害のた
めに治療されている請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ヒト被験体が、神経変性疾患又は神経変性状態のために治療されている請求項5に
記載の方法。
【請求項9】
前記神経変性疾患又は神経変性状態が脱鞘疾患である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記脱鞘疾患が、多発性硬化症、視神経炎、デビック病、横断性脊髄炎、急性播種性脳
脊髄炎、副腎白質ジストロフィ又は副腎脊髄ニューロパシーである請求項9に記載の方法
【請求項11】
神経変性疾患又は神経変性状態が、運動ニューロン疾患、脳卒中、脊髄損傷、外傷性脳
損傷、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病及び多発性硬化症からなる群
から選択される請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒト被験体が、気管支肺異形成症、嚢胞性線維症、肺線維症、肝線維症、慢性肺感
染症、喘息、アレルギー性鼻炎及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)からなる群から選択さ
れる疾患又は状態のために治療されている請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記羊膜エキソソームが、肺の感染症及び線維症を元に戻し、且つ初代肺線維芽細胞を
元に戻す請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記羊膜エキソソームが、サイトカイン-サイトカイン受容体、Wnt、PI3K-A
kt及びTGFβのシグナル伝達経路を標的とするmiRNAを含有する請求項1に記載
の方法。
【請求項15】
前記競走用動物が、運動誘導性肺出血について治療されている請求項4に記載の方法。
【請求項16】
前記羊膜エキソソームが、不死化された哺乳動物羊膜上皮細胞株のバンクに由来する請
求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記羊膜エキソソームが、不死化された哺乳動物羊膜エキソソームに由来する凍結乾燥
羊膜エキソソームのバンクから選択される請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
哺乳動物羊膜エキソソームと1以上の薬学上許容できる担体、賦形剤及び/又は希釈剤
とを含む医薬組成物。
【請求項19】
前記哺乳動物羊膜エキソソームがヒト羊膜エキソソームである請求項18に記載の医薬
組成物。
【請求項20】
哺乳動物被験体における細胞性又はニューロン性の修復、再生及び/又は回復のための
薬物の製造における哺乳動物羊膜エキソソームの使用。
【請求項21】
前記哺乳動物羊膜エキソソームがヒト羊膜エキソソームである請求項20に記載の使用
【請求項22】
羊膜上皮細胞の使用によってヒト被験体を含む哺乳動物被験体を治療するための改善さ
れた細胞に基づく治療用プロトコールであって、前記改善が、不死化された羊膜上皮細胞
株から羊膜エキソソームを単離することと、組織性又はニューロン性の修復、再生及び/
又は回復を必要とする前記被験体に全身又は局所投与することとを含む、プロトコール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(出願データ)
本出願は、その内容全体が参照によって本明細書に組み入れられる、「治療の方法」と
題する2015年6月12日に出願されたオーストラリア仮特許出願番号2015902
214及び「治療方法」と題する2016年4月12日に出願されたオーストラリア仮特
許出願番号2016901349に由来する優先権に関連するものであり、それを主張す
る。
【0002】
(技術分野)
本開示は一般に、組織性及びニューロン性の修復、再生及び/又は回復を促すための強
化された細胞に基づく治療アプローチによる哺乳動物被験体における治療の方法に関する
。哺乳動物被験体の治療に有用な薬物及び薬物の製造方法も本開示によって包含される。
【背景技術】
【0003】
本明細書にて著者によって参照される出版物の書誌事項の詳細は本説明の末尾にアルフ
ァベット順に収集されている。
【0004】
本明細書における任意の従来技術への言及は、この従来技術が任意の国での共通する一
般常識の一部を形成するという承認又は提案の形態として解釈されることはなく、且つ解
釈されるべきではない。
【0005】
現代医学は、化学療法及び抗生剤のような生物学的薬剤の特定によって大きく前進して
いる。しかしながら、多数の薬物は多元的な機能を有し、一部は的外れな生理的効果に影
響を及ぼす。細胞に基づく療法は現代医学の次の支柱として提案されている(Fishb
ackら.(2013),Sci.Transl.Med.5:179,ps7)。
【0006】
細胞に基づく療法の律速因子の1つは一貫性のない製品の可能性である。これは幹細胞
に関与する試験で強調されている。間葉幹細胞は(MSC)は、たとえば、文献にて十分
に性状分析され、臨床試験レベルを達成している一方で、一般に使用には連続継代を必要
とする。このことは、細胞をいつ、どうように使用できるかということに対して有害に影
響を及ぼす可能性があり、影響を及ぼすことが多い。
【0007】
この課題に反論するアプローチの1つは保存された間葉前駆細胞を使用することであっ
た。これによって回収と治療との間の遅延が少なくとも回避される。しかしながら、これ
はドナー間での細胞の効力の変動を招来し、連続継代の悪影響の問題に対処していない。
【0008】
この問題に対処する暫定的な措置は「マスター」細胞バンクを有することである。再び
、これは、老化及びエピジェニック/核型の変化が生じる前に細胞が経験できる継代の数
には限界があるという不可避の問題を克服していない(Schellenbergら.(
2011),Aging,(Albany NY),3:873-888)。反復投薬後
には免疫拒絶のリスクもある。
【0009】
好適例として、産科の監視及び新生児医療における顕著な改善に伴って、多数の未熟児
が生存し、「未熟児疾患」の有病率の上昇を生じている。特に消耗性の状態の1つは、超
早産児の不治の慢性肺疾患である気管支肺異形成症(BPD)である。それは、肺胞の発
生異常と停止及び肺毛細管構造の破壊を特徴とする。BPDは新生児の罹患率及び死亡率
での主要な症例である。BPDを克服した人は成人早期での閉塞性肺疾患の深刻なリスク
(Doyleら,(2006),Paediatrics,118:108-113)、
及び一般的な慢性健康障害及び認知低下(Lodhaら.(2014),PLoSONE
:e90843)の深刻なリスクもある。間葉幹細胞が上記で要点を述べた理由でBPD
の考えられる細胞に基づく療法として提案されている一方で、広く異なる機能的有効性を
持つ多数の細胞が存在する可能性があり、それは情緒的ストレスを引き起こすこととは別
に他の治療選択を遅らせ得る。
【0010】
肺毛細管構造への損傷の問題はヒト早産児に限定されるだけではない。動物の競走産業
、特に競馬産業は運動誘導性の肺出血(exercise induced pulmo
nary haemorrhage:EIPH)の問題に直面している。一部の管轄では
、たとえば、競争後2回を超えて鼻血を示すウマは生涯さらなる競走を禁止される。この
ことは衝撃的な経済的損失を生じる。EIPHを防ぐこと又は治療することに対する化学
療法のアプローチはパフォーマンスの強化という点で倫理的な問題を引き起こす可能性が
あり、また、どのような事象においても、そのようなアプローチが毛細管破裂を再生する
可能性は低い。
【0011】
ヒト羊膜上皮細胞(hAEC)の有益な効果は文書で記録されている(たとえば、Ho
dgesら.(2012),Am.J.Obstet.Gynerol.206:448
e8-448e15;Murphyら.(2012),Cell Transplant
,I:1477-1492;Vosdoganesら.(2013),Cytother
apy,15:1021-1029;Yawnoら.(2013),Dev.Neuro
sci.35:272-282)。しかしながら、作用のそのメカニズムを決定する必要
性がある。
【0012】
従って、細胞に基づく療法の問題に対処する必要があり、代替の戦略が必要とされるこ
とは明らかである。
【発明の要約】
【0013】
本発明によれば、細胞のコミュニケーションのための小胞媒体は、哺乳動物の羊膜上皮
細胞(AEC)から放出されると特定されている。本明細書では「羊膜エキソソーム」と
呼ばれる小胞は、後期エンドソームに由来するナノメートルサイズの細胞外小胞(50~
100nm)であり、細胞表面から放出される。
【0014】
本明細書で教示されるのは、哺乳動物羊膜上皮細胞に基づく治療法の改善された形態で
ある。改善は、上皮細胞によって放出され、内在性の修復メカニズムを活性化することに
よって回復効果を発揮するナノサイズの羊膜エキソソームの使用を含む。羊膜エキソソー
ムは、免疫細胞に直接作用し、とりわけ、T細胞の増殖を低下させ、マクロファージの貪
食作用を高め、幹細胞を活性化し、活性化された線維芽細胞でのコラーゲンの産生を阻害
することが本明細書で示されている。羊膜エキソソームは、タンパク質(たとえば、サイ
トカイン)及び遺伝分子(たとえば、miRNA、mRNA及び非コーディングRNA)
の形態でのエキソソーム積み荷(cargo)のプロフィールを放出することが本明細書
で提案されている。
【0015】
エキソソームの生物発生には後期エンドソームの境界膜の内向きの出芽による腔内小胞
の形成が関与する。次いで後期エンドソームは原形質膜と融合してエキソソームを放出す
る。エキソソームはいったん分泌されると、親細胞のごく近傍に位置する標的細胞によっ
て取り込まれ得る、又は循環を介して遠位に移動し得る。メカニズム上、エキソソームは
親細胞の物質を含有する複合体ベクターとして作動する。それらは、その後、標的細胞に
移行されるタンパク質及び遺伝物質を含有することができる。
【0016】
従って、本発明は細胞に基づく療法への強化されたアプローチの開発に基礎を置いてい
る。本開示は、哺乳動物の羊膜上皮細胞から放出され、免疫調節性で再生促進性及び回復
性の効果を有する羊膜エキソソームの使用を教示する。羊膜エキソソームは、T細胞増殖
を減らし、マクロファージの貪食作用を高め、有益なプロテオーム分子及びmiRNA、
mRNA及び非コーディングRNAのような遺伝分子の放出を介して内在性幹細胞を活性
化する、免疫細胞に対する効果を発揮する。羊膜エキソソームは本明細書では、創傷治癒
を含む組織の修復、再生及び回復を促す、細胞の維持を促進する、神経変性及び損傷の影
響を改善すること及び修復や神経再生を促進することを含む神経保護を誘導することが提
案されている。羊膜エキソソームはまた活性化された線維芽細胞におけるコラーゲンの産
生も抑制する。エキソソームはさらに、腎臓、肝臓、膵臓、心臓及び肺の損傷を改善する
ことと同様にこれらの臓器の線維化した状態(たとえば、肝臓又は肺の線維症)の治療を
含む、たとえば、虚血性再潅流(reperfusion)の傷害又は臓器の損傷のよう
な全身血管系(systemic vasculature)における疾患又は有害事象
に続いて修復及び再生を促進することが提案されている。エキソソームはまた髄鞘形成を
促進することにおいても有用なので、たとえば、多発性硬化症のような脱髄性の疾患又は
障害の治療に有用であることが提案されている。
【0017】
羊膜エキソソームは、ヒトだけでなく、非ヒト哺乳動物においても有益な効果を有する
。従って、本発明はヒト及び動物への応用に及ぶ。ヒト被験体に由来するAECは本明細
書では「hAEC」と呼ばれる。
【0018】
動物応用の例は、ウマ、競走用イヌ及びラクダを含む競走用動物の運動誘導性肺出血の
治療である。
【0019】
羊膜エキソソームは、バイオリアクターにて哺乳動物の羊膜上皮細胞を培養し、馴化培
養培地から羊膜エキソソームを単離することによって大量に生産することができる。上皮
細胞は不死化された細胞株として維持することができる。羊膜エキソソームは必要とされ
るときに単離することができ、又は凍結乾燥状態で保存することができる。
【0020】
本発明の革新的な特徴は、羊膜エキソソームを使用するために哺乳動物羊膜上皮細胞の
適合性ドナーを特定する必要がないことである。エキソソームは有害な免疫反応を誘導し
ない。むしろ、ドナーは妊娠ステージ及び/又は新生児若しくは妊娠満期の赤ん坊の健康
のような他の特徴に基づいて選択される。しかしながら、一実施形態では、羊膜エキソソ
ームは妊娠の終端期の患者のhAECに由来する。羊膜上皮細胞は、羊膜上皮細胞がそう
であるような様々な生理的状態について組織性又はニューロン性の修復、再生及び/又は
回復を促進することが少なくとも得意である羊膜エキソソームを産生する。しかしながら
、細胞に基づく療法には短所はない。従って、本発明の態様は、所望の状態を治療するの
に有用な羊膜エキソソームを産生する羊膜上皮細胞を特定するためのドナーの選択である
。このことは羊膜上皮細胞のバンクの生成を導くことができる。次いで、治療される疾患
又は状態に基づいて細胞の特定のバッチを選択することができる。
【0021】
羊膜エキソソームを含む医薬組成物、羊膜エキソソームを含む治療用キット、及び/又
は好適なドナー又は羊膜上皮細胞株をスクリーニングするための試薬及びバイオリアクタ
ーキットも本開示の教示によって包含される。
【0022】
本明細書で教示されるのは、強化された又は改変された細胞に基づく療法である。従っ
て、本明細書で可能になるのは、羊膜上皮細胞の使用によってヒト被験体を含む哺乳動物
を治療するための改善された細胞に基づく療法のプロトコールであり、改善は、不死化さ
れた羊膜上皮細胞から羊膜エキソソームを単離することと、再髄鞘形成の促進を含む、組
織性又はニューロン性の修復、再生及び/又は回復を必要とする被験体に全身又は局所投
与することとを含む。
【0023】
一部の図面は着色した表示又は実体を含有する。着色した写真は要請に応じて特許権保
有者から又は適切な特許庁から入手可能である。特許庁から入手するのであれば手数料が
課せられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、(A)典型的なカップ型の形態及びおよそ100nmの直径を示す羊膜エキソソームの電子顕微鏡写真;(B)エキソソームの生物発生のマーカーであるAlix及びTSG101の発現を表す写真を示す図である。Alix及びTSG101はエキソソームの生体マーカーである。
図2図2は、(A)羊膜エキソソームがhAEC馴化培地に類似してT細胞増殖を阻害すること;(B)羊膜エキソソームがマクロファージの貪食作用を高めることを表すグラフを示す図である(n=3)。
図3図3は、気管支肺異形成症(BPD)のマウスモデルにて羊膜エキソソームによって組織:気腔の比率が改善されることを表すグラフを示す図である。
図4図4は、E16での羊膜内LPS注射、出生4日目でのエキソソーム/細胞の注射及び屠殺時点(×印)を示す、実施例3で使用された実験時間を模式的に示す図である。
図5図5は、(A)妊娠満期(term)エキソソームの方が妊娠満期前(preterm)エキソソームよりも免疫抑制性であること;(B)pHRodo標識によって示されるように妊娠満期エキソソームの方がマクロファージの貪食作用を良好に高めることができることを表すグラフを示す図である(1群当たりn=3のドナー)。
図6図6は、ブレオマイシン誘導性肺線維症マウスモデルにて羊膜エキソソームが確立された肺の炎症及び線維症を元に戻す(reverse)ことを表すグラフを示す図である(A);(B)6~8カ月齢のメスC57BL6マウス。ブレオマイシンの負荷の7日後、鼻内で投与された10μg又は50μgの妊娠満期hAEC由来のエキソソーム。
図7図7は、羊膜エキソソームがインビトロでヒト初代肺線維芽細胞の活性化を元に戻すことを表すグラフを示す図である。5mg/mLの形質転換増殖因子βの存在下で培養すると、エキソソームは24時間以内にα平滑筋アクチンのタンパク質レベルを低下させた。
図8A図8Aは、羊膜エキソソームがサイトカイン-サイトカイン受容体シグナル伝達経路を標的とするmiRNAを含有することを示す模式図である。黄色のボックスは1以上のmiRNAによる標的を示す。
図8B図8Bは、羊膜エキソソームがサイトカイン-サイトカイン受容体シグナル伝達経路を標的とするmiRNAを含有することを示す模式図である。黄色のボックスは1以上のmiRNAによる標的を示す。
図8C図8Cは、羊膜エキソソームがサイトカイン-サイトカイン受容体シグナル伝達経路を標的とするmiRNAを含有することを示す模式図である。黄色のボックスは1以上のmiRNAによる標的を示す。
図9A図9Aは、羊膜エキソソームがWntシグナル伝達経路を標的とするmiRNAを含有することを示す模式図である。黄色のボックスは1以上のmiRNAによる標的を示す。
図9B図9Bは、羊膜エキソソームがWntシグナル伝達経路を標的とするmiRNAを含有することを示す模式図である。黄色のボックスは1以上のmiRNAによる標的を示す。
図10図10は、羊膜エキソソームがPI3K-Aktシグナル伝達経路を標的とするmiRNAを含有することを示す模式図である。黄色のボックスは1以上のmiRNAによる標的を示す。
図11図11は、羊膜エキソソームがTGFβシグナル伝達経路を標的とするmiRNAを含有することを示す模式図である。黄色のボックスは1以上のmiRNAによる標的を示す。
図12図12は、(A)健常対照のhAEC、妊娠満期エキソソーム及び妊娠満期前のエキソソームの間での組織気腔比率(%)を含む羊膜エキソソームの肺再生効果を示すグラフであり、(B,C)写真である。「妊娠満期」エキソソームは妊娠の終了時でのhAECから単離されたエキソソームである。「妊娠満期前」エキソソームは妊娠満期に先立って単離される。
図13図13は、(A~C)羊膜エキソソームがhAECと同様に肺にて再生を引き起こすことを示す写真図である。暗染色はエラスチン陽性の先端部の証拠である。
図14図14は、線維芽細胞エキソソームではなく羊膜エキソソームが肺にて内在性幹細胞の応答を引き起こすことを表すグラフを示す図である。この応答はhAECによって誘導される応答より有意に大きい。
図15図15は、肝臓組織切片のCCL4+生理食塩水に対比させたCCL4+エキソソームのシリウスレッド染色(A)及びα平滑筋アクチビン(α-SMA)による免疫組織化学分析を用いて証明されたように、羊膜エキソソームが肝臓において抗線維症性であったことを表すグラフを示す図である。
図16図16は、妊娠満期前hAECに対比させた妊娠満期hAECに由来するエキソソーム間でのプロテオームレベルでの差異を示すグラフである。
図17図17は、hAECと間葉幹細胞全体(MSC)の間での細胞成分の比較を示すグラフである。濃灰色:hAECのエキソソーム全体薄灰色:MSC全体でのエキソソーム(Andersonら.(2016),Stem cells,http://doi.ory/10.1002/stem.2298)
図18図18は、hAECとMSC全体(Andersonら.(2016),上記)の間での生物学的過程の比較を示すグラフである。濃灰色:hAECのエキソソーム全体薄灰色:MSC全体でのエキソソーム(Andersonら.(2016),上記)
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書の全体を通して文脈が必要としない限り、単語「comprise(含む)」
又はたとえば、「comprises(含む)」若しくは「comprising(含む
)」のような変形は、述べられた要素又は整数又は方法工程、あるいは要素又は整数又は
方法工程の群の包含を暗示するが、任意の要素又は整数又は方法工程又は要素又は整数又
は方法工程の群の排除を暗示しないように理解されるであろう。
【0026】
本明細書で使用されるとき、単数形態「a」、「an」及び「the」は文脈が明瞭に
指示しない限り複数の態様を含む。従って、たとえば、「(a)疾患又は状態」への言及
は単一の疾患又は状態と同様に2以上の疾患又は状態を含み;「(an)エキソソーム」
への言及は単一のエキソソームと同様に2以上のエキソソームを含み;「開示」は本開示
によって教示される単数の及び複数の態様を含む;等である。本明細書で教示され、且つ
可能になる態様は用語「本発明」によって包含される。「疾患」又は「状態」は「障害」
も含む。そのような態様はすべて本発明の幅広さの範囲内で可能になる。本明細書で意図
される任意の変異体及び誘導体は本発明の「形態」によって包含される。
【0027】
本開示は、細胞、組織、神経経路及び内分泌経路の修復、再生及び回復の文脈の範囲内
に一般に入る多数の疾患及び状態について哺乳動物被験体の治療を促す強化された細胞に
基づく療法を教示する。本開示は、哺乳動物の羊膜上皮細胞(AEC)を培養するのに使
用された馴化培地から単離される羊膜エキソソームが有益な免疫調節性の生理的及び生化
学的なプロフィールを有することを教示する。本質的には、哺乳動物の羊膜エキソソーム
は、T細胞増殖を低下させ、マクロファージの貪食作用を高め、プロテオーム分子及びm
iRNA、mRNA及び非コーディングRNAのような遺伝分子の放出を介して内在性幹
細胞を活性化する、免疫細胞に対する効果を発揮する。それらはまた活性化された線維芽
細胞におけるコラーゲンの産生も抑制する。重要なことに、羊膜エキソソームは免疫原性
ではないので、同種(アロジェネイク(allogeneic))の羊膜エキソソームを
使用することができる。
【0028】
羊膜エキソソームは、確立された肺の炎症及び肺線維症も元に戻し(reverse)
、初代肺線維芽細胞の活性化も元に戻す。これはまた、たとえば、肝臓、膵臓、心臓及び
腎臓のような他の臓器の線維症にも適用される。加えて、それらは、サイトカイン-サイ
トカイン受容体シグナル伝達経路、Wntシグナル伝達経路、PI3K-Aktシグナル
伝達経路、TGFβシグナル伝達経路、ならびに多様な範囲の生理的及び神経学的な過程
に含まれるシグナル伝達経路を標的とするmiRNA、mRNA及び非コーディングRN
Aを含有する。
【0029】
本明細書は、哺乳動物の羊膜エキソソームが、細胞、臓器を含む組織、神経経路、全身
血管系の成分の修復、再生及び回復を誘導すると共に創傷治癒を促進することを誘導する
ことを教示する。羊膜エキソソームは、脳及び脊髄の修復、再生及び回復を促すこと、神
経変性状態の修復を促進すること、外傷、疾患又は薬物乱用に続く臓器の損傷の回復を誘
導すること、脳卒中、又は外傷性脳損傷のような脳への他の損傷ののちの修復を促すこと
が本明細書で提案されている。エキソソームは、脱鞘疾患、たとえば、多発性硬化症、視
神経炎、デビック(Devic’s)病、横断性脊髄炎、急性播種性脳脊髄炎、及び副腎
白質ジストロフィ及び副腎脊髄ニューロパシーのような脱鞘の疾患、状態又は障害の治療
にて再髄鞘形成を促すことが提案されている。一実施形態における羊膜エキソソームは肺
損傷の修復を促す。これは、ヒト新生児における気管支肺異形成症(BPD)の治療で重
要である。それは、たとえば、ウマ、競走用イヌ(たとえば、グレイハウンド)及びラク
ダのような競走用動物における運動誘導性肺出血(EIPH)の治療にて動物応用も有す
る。
【0030】
従って、本明細書で可能になる本発明は、哺乳動物被験体を治療する方法であり、該方
法は同じ種のドナー哺乳動物に由来する同種哺乳動物羊膜上皮細胞に由来する哺乳動物羊
膜エキソソームの全身又は局所投与を含む。
【0031】
「哺乳動物被験体」への言及には治療を必要とする哺乳動物が含まれる。一実施形態で
は、哺乳動物被験体はヒトである。用語「AEC」は「羊膜上皮細胞」を意味する。ヒト
に由来する場合、AECは「hAEC」と呼ばれる。
【0032】
従って、本明細書は、ヒト被験体を治療する方法にて指導的であり、該方法は、ヒトド
ナーに由来するヒト同種羊膜上皮細胞に由来するヒト羊膜エキソソームの全身又は局所投
与を含む。
【0033】
別の実施形態では、哺乳動物被験体は、たとえば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、
アルパカ、ラマ、イヌ、ネコ又はラクダのような、しかし、これらに限定されない、非ヒ
ト哺乳動物である。
【0034】
一実施形態では、哺乳動物被験体は治療を必要とする。用語「治療」は、細胞、組織、
及びニューロンや内分泌の経路を含む生理的経路の修復、再生又は再生の促進、及び/又
は回復を包含する。例には、虚血性再潅流損傷又は脳卒中、内部及び表面の創傷、潰瘍及
び瘢痕に続くそのような血管を含む毛細血管、動脈及び静脈のような循環血管を含む臓器
、神経変性の状態、ならびに脳及び脊髄に対する損傷(外傷性脳損傷及び脊髄損傷を含む
)の修復、再生及び/又は回復が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。エキソ
ソームはまた、肺、肝臓、心臓、腎臓及び膵臓の線維化した疾患、状態又は障害のような
臓器線維症の治療のために提案されている。エキソソームはまた、たとえば、多発性硬化
症、視神経炎、デビック病、横断性脊髄炎、急性播種性脳脊髄炎、及び副腎白質ジストロ
フィ及び副腎脊髄ニューロパシーのような脱髄の疾患、状態又は障害の治療での使用につ
いても意図される。羊膜エキソソームは、疾患又は状態を治療する臨床応用、ならびに皮
膚の再生又は瘢痕又は創傷治癒を促進する化粧剤において有用である。
【0035】
本発明を作用のいずれか1つの理論又は様式に限定するように意図することはない一方
で、哺乳動物の羊膜エキソソームは、羊膜上皮細胞からのコミュニケーションのための小
胞媒体を表し、有益な分子の混合物を提供して修復、再生及び回復を促すプロテオーム分
子及び遺伝分子を放出することが本明細書で提案されている。プロテオーム分子及び遺伝
分子のプロフィールは羊膜上皮細胞が得られるドナーの妊娠段階に応じて異なることも提
案されている。従って、本明細書は、様々な妊娠段階の様々なドナーに由来する不死化し
た哺乳動物の羊膜上皮細胞のバンクを作り出すことを教示する。次いで上皮細胞は、治療
される被験体における疾患又は状態に基づいて、且つ羊膜エキソソームが産出するプロテ
オーム分子及び遺伝分子のプロフィールに基づいてバンクから選択される。本明細書は、
治療される疾患又は状態に応じて、特定のプロテオーム及び/又は遺伝子的プロフィール
を有する羊膜エキソソームが好まれてもよいことを教示する。
【0036】
従って、本明細書で教示される別の態様は哺乳動物被験体を治療する方法であり、該方
法は、
(i)必要に応じて、ドナーを特定することと、
(ii)培養にて上皮細胞によって産生される羊膜エキソソームのプロテオーム及び/又
は遺伝子的プロフィールに基づいて特定のドナー又はあるドナーから不死化された羊膜上
皮細胞を選択することと、
(iii)選択された不死化羊膜上皮細胞から馴化培地を生成することと、
(iv)馴化培地から羊膜エキソソームを単離することと、
(v)羊膜エキソソームを哺乳動物被験体に全身又は局所投与することとを含む。
【0037】
一実施形態では、哺乳動物被験体はヒト被験体である。従って、本明細書で教示される
別の態様は、ヒト被験体を治療する方法であり、該方法は、
(i)必要に応じて、ドナーを特定することと、
(ii)培養にて上皮細胞によって産生される羊膜エキソソームのプロテオーム及び/又
は遺伝子的プロフィールに基づいて特定のドナー又はあるドナーから不死化された羊膜上
皮細胞を選択することと、
(iii)選択された不死化羊膜上皮細胞から馴化培地を生成することと、
(iv)馴化培地から羊膜エキソソームを単離することと、
(v)羊膜エキソソームをヒト被験体に全身又は局所投与することとを含む。
【0038】
別の実施形態では、哺乳動物の羊膜エキソソームが単離され、それらのプロテオームプ
ロフィール及び遺伝プロフィールが予め決定され、選択された哺乳動物羊膜エキソソーム
のバンクがそのプロフィールに基づいて生成される。次いで特定の羊膜エキソソームが治
療での使用のために選択される。
【0039】
従って、本明細書は、哺乳動物被験体を治療する方法について指導的であり、該方法は

(i)必要に応じて、ドナーを特定することと、
(ii)エキソソームによって放出される作用物質のプロテオーム及び/又は遺伝子的プ
ロフィールに基づいて特定のドナー又はあるドナーから羊膜エキソソームを選択すること
と、
(iii)羊膜エキソソームを哺乳動物被験体に全身又は局所投与することとを含む。
【0040】
一実施形態では、哺乳動物被験体はヒトである。
【0041】
従って、本明細書で教示されるのは、ヒト被験体を治療する方法であって、該方法は、
(i)必要に応じて、ドナーを特定することと、
(ii)エキソソームによって放出される作用物質のプロテオーム及び/又は遺伝子的プ
ロフィールに基づいて特定のドナー又はあるドナーから羊膜エキソソームを選択すること
と、
(iii)羊膜エキソソームをヒト被験体に全身又は局所投与することとを含む。
【0042】
羊膜エキソソームは治療法で使用される場合、薬物、作用物質、治療剤、細胞に基づく
療法に由来する作用物質、有効成分等とも呼ばれてもよい。「治療法」への言及には臨床
上の治療法及び美容上の治療法の双方が含まれる。
【0043】
本明細書でさらに教示されるのは、哺乳動物被験体にて細胞性又はニューロン性の修復
、再生及び/又は回復を誘導する方法であり、該方法は、細胞性又はニューロン性の修復
を誘導するのに十分な時間且つ条件下での同種羊膜エキソソームの哺乳動物被験体への全
身又は局所投与を含む。
【0044】
一実施形態では、本明細書では、ヒト被験体における細胞性又はニューロン性の修復、
再生及び/又は回復を誘導する方法が可能になり、該方法は細胞性又はニューロン性の修
復を誘導するのに十分な時間且つ条件下での同種羊膜エキソソームのヒト被験体への全身
又は局所投与を含む。
【0045】
さらなる実施形態では、本明細書で意図されるのは、哺乳動物被験体にて細胞性又はニ
ューロン性の修復、再生及び/又は回復のための薬物の製造における哺乳動物の羊膜エキ
ソソームの使用である。
【0046】
一実施形態では、哺乳動物はヒトである。
【0047】
従って、本明細書はさらに、ヒト被験体における細胞性又はニューロン性の修復のため
の薬物の製造におけるヒト羊膜エキソソームの使用を教示する。本明細書はさらに、たと
えば、多発性硬化症が挙げられるが、これらに限定されない脱鞘性の疾患、状態又は障害
の治療のための薬物の製造におけるヒト羊膜エキソソームの使用を教示する。
【0048】
本明細書で教示されるのは、羊膜上皮細胞に由来する羊膜エキソソームの単離された試
料である。これには、ヒト羊膜エキソソーム羊膜上皮細胞に由来するヒト羊膜エキソソー
ムの単離された試料が含まれる。改善された細胞に基づく治療プロトコールにてこれらの
羊膜エキソソームを使用することが提案されている。従って、本発明は、哺乳動物被験体
を治療するのに使用するために選択される同種哺乳動物羊膜エキソソームを含む医薬組成
物に及び、医薬組成物はさらに1以上の化粧上許容できる担体、賦形剤及び/又は希釈剤
を含む。
【0049】
一実施形態では、哺乳動物被験体はヒト被験体である。
【0050】
従って、本発明はヒト被験体を治療するのに使用するためのヒト同種羊膜エキソソーム
を含む医薬組成物を教示し、医薬組成物はさらに1以上の薬学上許容できる担体、賦形剤
及び/又は希釈剤を含む。
【0051】
加えて、組成物は、ヒト被験体を治療するのに使用するためのヒト同種羊膜エキソソー
ムを含む化粧品組成物であってもよく、化粧品組成物ははさらに1以上の薬学上許容でき
る担体、賦形剤及び/又は希釈剤を含む。
【0052】
薬学上許容できる担体は、たとえば、羊膜エキソソームを安定化するように作用する生
理的に許容できる化合物を含油することができる。生理的に許容できる化合物には、たと
えば、グルコース、スクロース又はデキストランのような炭水化物、たとえば、アスコル
ビン酸又はグルタチオンのような抗酸化剤、キレート剤、低分子量タンパク質、又は水若
しくは生理食塩水を含む賦形剤、又は他の安定剤、及び/又は緩衝液を挙げることができ
る。界面活性剤は、羊膜エキソソームの吸収を安定化する、又は高める又は低下させるた
めに使用することができる(リポソーム担体を含む)。薬学上許容できる担体及び製剤化
は技量のある熟練者には既知であり、科学文献及び特許文献に詳細に記載されている。た
とえば、RemingtonのPharmaceutical Sciences(19
90),第18版,Mack Publishing Company,Easton,
(‘Remington’s’’)を参照のこと。
【0053】
他の生理的に許容できる化合物には、羊膜エキソソーム製剤にて微生物の増殖又は活動
を妨げるのに有用である保存剤が挙げられる。種々の保存剤が周知であり、たとえば、ア
スコルビン酸が挙げられる。当業者は、生理的に許容できる化合物を含む薬学上許容でき
る担体の選択は、たとえば、本発明の羊膜エキソソームの投与の経路、及びエキソソーム
によって産出されるタンパク質及び核酸の特定の生理的な又は生化学的な性質に左右され
ることを十分に理解することになる。
【0054】
医薬組成物の形態での羊膜エキソソームの投与は、当業者に既知の好都合な手段によっ
て、且つ疾患又は状態又は損傷の部位に応じて実施されてもよい。投与の経路には、呼吸
的に、気管内に、鼻咽頭に、静脈内に、腹腔内に、胸腔内に、皮下に、頭蓋内に、皮内に
、筋肉内に、眼内に、クモ膜下に、脳内に、鼻内に、直腸内に、局所に投与すること、貼
付剤、包帯及びインプラントが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、
羊膜エキソソームは、たとえば、重篤な火傷の被験体に噴霧することができる。
【0055】
注射使用に好適な医薬形態には、無菌の水溶液又は水性分散液が挙げられる。
【0056】
分散液に形態での無菌の注射溶液は一般に、羊膜エキソソームを含有する無菌の媒体に
種々の無菌化した有効成分を組み込むことによって調製される。
【0057】
非経口投与については、羊膜エキソソームを医薬担体と共に製剤化し、懸濁液として投
与してもよい。好適な担体の実例は、水、生理食塩水、デキストロース溶液、フルクトー
ス溶液、エタノール、又は動物、植物若しくは合成起源の油である。担体は他の成分、た
とえば、保存剤、緩衝液等も含有してもよい。羊膜エキソソームがクモ膜下に投与される
場合、それらは脳脊髄液で製剤化されてもよい。
【0058】
経粘膜又は経皮での投与については、作用物質を送達するのに、浸透されるバリアに対
して適当な浸透剤を使用することができる。そのような浸透剤は当該技術で一般に既知で
あり、たとえば、経粘膜投与については、胆汁塩及びフシジン酸誘導体である。加えて界
面活性剤を用いて浸透を促すことができる。経粘膜投与は鼻スプレー又は坐薬の使用を介
することができる。たとえば、Sayani及びChien,(1996),Crit.
Rev.Ther.Drug Carrier Syst.13:85-184.
【0059】
本発明の羊膜エキソソームは、エキソソームを内部で時間をかけて送達することができ
る持続送達又は持続放出のメカニズムで投与することもできる。たとえば、羊膜エキソソ
ームの持続送達が可能である生分解性のミクロスフェア又はカプセル又は他の生分解性の
ポリマー構造を本発明の製剤に含むことができる(たとえば、Putney及びBurk
e,(1998),Nat.Biotech.16:153-157)。
【0060】
本発明の医薬組成物を調製することにおいて、種々の製剤化技法を用い、操作してイン
ビボ分布を変えることができる。インビボ分布を変える多数の方法が当業者に既知である
。そのような方法の例には、たとえば、タンパク質、脂質(たとえば、リポソーム)、炭
水化物又は合成ポリマーのような物質で構成される小胞におけるエキソソームの保護が挙
げられる。薬物動態の一般的な議論については、たとえば、Remingtonのものを
参照のこと。
【0061】
本発明の医薬組成物は、投与の方法に応じた種々の単位剤形にて投与することができる
。そのような投与量は通常、実際忠告的であり、特定の治療背景に応じて調整される。こ
れを達成するのに適する羊膜エキソソームの量は「有効量」として定義される。この使用
についての投与量スケジュール及び有効量、すなわち、「投薬計画」は、疾患又は状態の
段階、疾患又は状態の重症度、患者の健康の一般的な状態、患者の身体状況、年齢、医薬
製剤及び濃度、又は羊膜エキソソームの選択を含む種々の因子に左右されるであろう。患
者のための投薬計画を作ることにおいて、投与の方式も考慮に入れられる。投薬計画は医
薬組成物のクリアランスの速度等も考慮に入れなければならない。たとえば、Remin
gton’s;Egleton及びDavis,(1997),Peptides,18
:1431-1439;Langer,(1990),Science,249:152
7-1533を参照のこと。一実施形態では、0.05μgから100μg単位までの間
の羊膜エキソソームが投与される。これには、0.1μg~50μg及び0.1μg~2
0μg及びその間のいずれかの量が含まれる。
【0062】
これらの方法によれば、羊膜エキソソーム又はそれを含む医薬組成物は、1以上の他の
作用物質との併用で同時投与されてもよい。「同時投与される」への本明細書での言及は
、同一製剤若しくは2つの異なる製剤での同一の若しくは異なる経路を介した同時投与、
又は同一の若しくは異なる経路による順次投与を意味する。「順次」投与への本明細書で
の言及は、羊膜エキソソームと別の作用物質の投与間での秒、分、時間又は日の時間差を
意味する。同時投与は任意の順で生じてもよい。同時投与され得る作用物質の例にはサイ
トカインが挙げられる。一般に、別の作用物質の選択は治療される疾患又は状態が前提と
なる。
【0063】
或いは、ターゲティング療法を用いて、抗体又は細胞特異性リガンドのようなターゲテ
ィングシステムの使用によって羊膜エキソソームを細胞の種類又は身体の位置に送達して
もよい。たとえば、治療が必要な部位での局所治療を促進するターゲティングは種々の理
由で望ましくてもよい。
【0064】
本明細書でさらに教示されるのは、羊膜エキソソームの産出である。好都合なことに、
これは、回分培養リアクター又は連続流培養リアクターの形態であってもよいバイオリア
クターにて達成される。一般に、羊膜上皮細胞が不死化され、バイオリアクターにおける
増殖培地に播種するのに使用される。次いで得られた馴化培地を回収し、羊膜エキソソー
ムを単離し、即時使用のために製剤化される、又は、後の使用のためにたとえば、凍結乾
燥によって保存される。
【0065】
キットも本明細書では意図される。キットは治療用であってもよく、又は診断用であっ
てもよい。治療用のキットは選択されたバッチの凍結乾燥された羊膜エキソソームと1以
上の他の薬学上許容できる担体、賦形剤及び/又は希釈剤、及び/又は別の活性剤とを含
んでもよい。診断用のキットは羊膜エキソソームのバッチのプロテオームプロフィール又
は遺伝プロフィールを決定する試薬を含んでもよい。
【実施例0066】
本明細書で教示される態様が今や以下の非限定の実施例によってさらに記載される。
【0067】
実施例1:羊膜エキソソームの産出
羊膜エキソソームを単離するためにプロトコールを開発する(図1)。これは、羊膜エ
キソソームの初めての記載であり、その生物活性の検証である。hAECの初代単離物を
無血清培地(Ultraculture media,Lonza)で96時間培養した
のち、細胞を取り除き、110,000gでの連続超遠心を介したエキソソームの単離の
ために馴化培地を処理する。在胎期間にかかわらず、100万個のhAEC当たりおよそ
1.5~2μgの精製エキソソームが一貫して精製される。アポトーシス小体を混入させ
ることなく、これをバイオリアクター型の培養で規模拡大することができる。
【0068】
類似の効果を発揮する羊膜エキソソームの能力を調べた。羊膜エキソソームは明らかな
用量効果(0.1μg対1μg)により、hAEC馴化培地と同程度にT細胞の増殖を抑
制する。hAEC馴化培地からのエキソソームの枯渇(ExD CM)は、この効果を無
効にした(図2A)。このことは、羊膜エキソソームがT細胞抑制の主要なメディエータ
であることを示している。羊膜エキソソームはマクロファージの貪食活性を直接高めるこ
とができた(図2B)。これらの知見はhAEC馴化培地の免疫調節効果はエキソソーム
に大きく起因することを示している。
【0069】
実施例2:羊膜エキソソームの活性
羊膜エキソソームがインビボで機能的であるかどうかを判定した。羊膜エキソソーム1
μgのアリコートを出生後4日目のBPDマウスに静脈内注射し、出生後14日目に組織
:気腔の比率の評価を行った。羊膜エキソソームは肺胞単純化を元に戻すことにおいて有
効だった(図3)。羊膜エキソソームは、BPDマウスにて炎症を解消しながら、肺胞単
純化を減らし、内在性幹細胞を動員することによって、それらが肺構造に対する有害な変
化を防ぐ又は元に戻す主要な役割を担っている。
【0070】
要約すると、データは、羊膜エキソソームが親細胞と同様の方法で宿主の免疫事象及び
肺の修復を調節することを示している。羊膜エキソソームはhAECのインビボでの再生
能を総括(recapitulate)できることが提案されている。羊膜エキソソーム
への積み荷の性質をあらわにすることによって、それらを用いて広範囲の免疫調節効果及
び回復促進性の効果を発揮することができる。
【0071】
BPDのマウスモデルを用いて、羊膜エキソソームの新生児投与が、hAECで処理し
た動物のそれに匹敵するレベルまでBPDマウスにおける肺構造を回復させ、肺幹細胞の
微小環境を活性化し、炎症を調節することができることを決定する。これが長期の生理的
な結果(たとえば、肺高血圧症及び肺機能)での改善を生じるであろうことがさらに決定
される。羊膜エキソソームのプロテオーム含量及びmRNA/miRNA含量を分析して
hAECが介在する修復に関連する特異的な経路を特定する。
【0072】
実施例3:BPDマウスにおける羊膜エキソソームの回復効果
データは、羊膜エキソソームがインビトロ及びインビボで免疫調節効果及び再生促進効
果を発揮することを示している。修復の間に羊膜エキソソームが細胞のクロストークにど
のように影響を与えるのかを理解するために、及びBPDの動物モデルにてhAECの回
復効果を総括するのに羊膜エキソソームだけで十分なのかどうかを判定するために、hA
ECの最適化された用量に対して2つの用量(1μgと10μg)の羊膜エキソソームの
効果を比較する。線維芽細胞及び線維芽細胞エキソソームを対照として使用する。
【0073】
BPDのマウスモデルを使用するが、それは、ヒトBPDへの2つの主要な寄与因子(
周産期の炎症と出生後の酸素過剰症)を組み合わせて肺修復に対する妊娠満期と妊娠満期
前の羊膜エキソソームの効果を評価する。齧歯類を用いてBPDのような複雑な疾患をモ
デル化することには限界がある一方で、このモデルは詳細な分子解析に適している。齧歯
類の研究によって、用量効果の評価、及び青年期や成人の転帰を調査する長期試験に対す
る相対的な値頃感が可能になる。手短には、微細構築したガラス針(内径:70~80μ
m)と微細注入器(IM-300,Narashige)を用いてE16でのマウス胎児
における各羊膜嚢に5μLの生理食塩水中0.2μgのリポ多糖(LPS)を注入する。
いったん生まれると、新生児マウス仔及び授乳母を酸素過剰(65%酸素)チャンバー又
は室内の空気のいずれかに入れる。授乳母を48時間ごとに変えて、酸素毒性を防ぐ。出
生前の炎症と出生後の酸素過剰のこの組み合わせはヒトBPDに類似する肺損傷を引き起
こす(Vosdoganesら.(2013),Cytotherapy,15:102
1-1029;Noldら.Proc.Natl.Acad.Sci.USA.110:
14384-14389)。出生後4日目に治療を与える。E16での羊膜内LPS注入
、出生後4日目でのエキソソーム/細胞の注入及び屠殺時点を示す実験的タイムライン(
×)を図4に示す。
【0074】
羊膜内注入について記載されたのと同じ器具及びさらに広いガラス針(内径:100~
120μm)を用いて表在側頭静脈を介してエキソソーム又は細胞を静脈内に注入する。
最終注入容量は10μLであり、それは4日齢のマウスに上手く忍容される。免疫学的変
化及び肺幹細胞の動員及び肺の修復を評価するためにマウス仔を出生後7日目及び14日
目に屠殺する。次いで、離乳後、動物の2つのコホートを室内の空気に移し、4週齢及び
10週齢で調べて、長期の転帰、たとえば、青年期及び早期成人における肺高血圧症、循
環器及び呼吸器の機能に対する新生児治療の効果を評価する。
【0075】
hAECは妊娠満期(37~40週)のヒトの妊娠状態から単離する。初代単離物を実
験に使用する。6人のドナーに由来するhAECを同等にプールして動物実験すべてに対
して均一な集団を提供する。hAECを受け取る動物は出生後4日目に100,000個
のhAECの単回注射を受ける。羊膜エキソソームについては、プールしたhAECの一
部を培養培地(25mL当たり1000万個、Ultraculture media,
Lonza)に96時間入れる。次いで馴化培地からエキソソームを単離する。単離され
たペレットのエキソソームの性質について、エキソソームのマーカー(TSG101及び
Alix)に対するウエスタンブロット、ならびに電子顕微鏡によりサイズおよび区別を
行う。エキソソームを生理食塩水に再浮遊させ、出生後4日目に1μg又は10μgのい
ずれかの用量で投与する。
【0076】
ヒトの肺線維芽細胞は肺の修復を支援せず、対照細胞型として好適性がある(Mood
leyら.(2010),Am.J.Respir.Crit.Care Medi.:
643-651)。上述と同様の培養プロトコールを用いて得られたヒトの肺線維芽細胞
及び線維芽細胞エキソソームを投与する。線維芽細胞はhAECと同じ投与量で投与され
、線維芽細胞エキソソームは高い投与量(10μg)で投与される。実験群を表1に記載
する。
【0077】
【表1】
【0078】
免疫的変化
肺を回収し、以前記載された(Noldら.(2013)上記;Tanら.(2015
),Stem Cell Res.Ther.6:8)ようにフローサイトメトリー用に
処理する。CD45+分画を選別し、表面マーカーと細胞内サイトカインの染色の組み合
わせを用いてT細胞(CD3、CD4、CD25、IFNγ、IL-4、IL17A、F
oxP3)、マクロファージ(CD11b、F4/80、CD86、MHCII)、好中
球(CD11c、Ly6G)、B細胞(B220)及びNK細胞(NK1.1)の数、表
現型及び活性化状態に対する変化を評価する。気管支肺胞洗浄液を回収し、以前記載され
た(Noldら.(2013)上記)ような、Proteome Profiler(R
&D Systems)を用いてサイトカインの変化を測定する。
【0079】
肺の幹細胞/前駆細胞の動員
CD45-/CD31-/Sca-1+/EpCam+(Leeら.(2014),C
ell,156:440-455)の基準に基づいてフローソーティングによってBAS
C集団に対する変化を測定する。これは、上記の免疫細胞の試験に由来する細胞のCD4
5+分画を使用する。AT2はCD31-/Sca1-/自己蛍光のフローソーティン
グに基づいて選別される。単一細胞デジタルPCR(Fluidigm,qdPCR 3
7K)を用いて転写プロフィールの差異を判定する。細胞溶解、RNAの単離、事前増幅
及びcDNAへの変換が発生するであろう96穴のマイクロ流体プレート(C1単一細胞
Autoprep System,Fluidigm)にてフローソーティングした単一
細胞を捕捉する。次いで試料をデジタルPCR用のマイクロ流体カードに負荷する。SI
NGuLAR v2.0解析ツールセットを用いてデータを解析する。BASC及びAT
2の微小環境活性化経路が十分には記載されていないので、カスタマイズされた48:4
8deltaGeneアッセイにより、最近記載されたBMP1/NFATc1/トロン
ボスポンジン-1軸(Leeら.(2014)上記)を含む幹細胞の多能性、活性化、動
員及び分化をカバーする。
【0080】
肺胞の単純化
組織:気腔の比率を測定する定量的画像解析を行って実験群すべてにわたって肺胞の単
純化の程度を判定する。
【0081】
宿主幹細胞微小環境の活性化
終末細気管支でのBASCについて免疫組織化学染色(SPC+CC10+)を行って
肺幹細胞微小環境の活性化状態(Leeら.(2014)上記)を判定する。
【0082】
目的は、肺の構造及び内在性肺幹細胞の動員に対する変化が肺機能の長期の改善及び二
次合併症の低下にまで及ぶかどうかを知ることである。
【0083】
生理的な試験
回復した青年期(4週齢)及び若年成熟(10週齢)のマウスにて肺機能の試験及び心
エコー検査を行う。
【0084】
心エコー検査
マウスを3%のイソフルランで麻酔し、1~2%で継続させて350~450bpmの
心拍を達成する。Vevo 2100超音波(Monash Bioimaging)及
び40MHzの線形変換器を用いて、前方に角度をつけた左胸骨傍の長軸断面に沿った肺
動脈加速時間のPWドップラー測定を行う。右胸骨傍の長軸断面に沿ったMモードを適用
することによって右心室壁の厚さを測定する。侵襲性の肺機能検査について同じ群のマウ
スを使用する。それらは、インライン超音波ネブライザー、人工呼吸器、及び連結された
圧変換器(FlexiVent,SCIREQ,Montreal,Canada)に接
続する18Gのカニューレで気管切開される。気道抵抗及びコンプライアンスは漸増濃度
のメタコリン(1~30mg/mL、サイクル当たり3分間)にマウスを曝露することに
よって評価する。強制呼気容量、肺活量及び深呼気量を得る。制約のない全身の容積脈波
記録法とは異なって、これは動物の訓練を必要とせず、人工呼吸における短い中断を可能
にして、その間に事前に定義された圧力又は容積の波形を測定する測定操作を実行する。
これは、たとえば、過剰なデッドスペース及び測定不正確さのような容積脈波記録法にて
直面する従来の難題を克服する。
【0085】
羊膜エキソソームは、BPDマウスにてマクロファージの分極化を引き起こす、Ter
gの発現を誘導する、及び好中球や樹状細胞の活性化を低下させるその能力で有益な効果
を有するであろうことが提案されている。免疫的な変化は、1μgの対照hAECに比べ
て10μg用量の羊膜エキソソームによる方が重大であることが提案されている。そのよ
うなものとして、肺胞単純化の反転は高用量の羊膜エキソソームを受け取っている動物の
方が大きい。これは長期の生理的結果における改善に変換できるので、用量依存性の、右
脳室壁の肥厚の軽減、肺高血圧症の改善及び正常な肺機能の回復があるであろう。hAE
C又は羊膜エキソソームを健常マウスに与えた場合、変化は予想されない。線維芽細胞又
は線維芽細胞エキソソームは免疫細胞、肺修復又は長期の生理的結果に対する効果を有す
るとは提案されていない。
【0086】
実施例4:羊膜エキソソームにおける独特のメディエータ
hAECドナーの在胎期間はその回復能に対して重大な影響を有することができる(L
imら.(2013),Placenta,34:486-492)。妊娠満期と妊娠満
期前のhAECから回収されたエキソソームへの積み荷の間での比較を行う。準備では、
妊娠満期及び妊娠満期前のドナーに由来する羊膜エキソソームが投与され、肺胞単純化は
妊娠満期ドナーに由来する羊膜エキソソームを受け取った動物でのみ元に戻されることが
示されるので、免疫調節及び再生の経路を活性化する能力は妊娠満期前の羊膜エキソソー
ムでは有意に損なわれていることを示している。当初の存在/非存在のプロテオーム解析
をエキソソームへの積み荷で実施すると、妊娠満期及び妊娠満期前のドナーについてそれ
ぞれ242及び21の独特のタンパク質が特定されている。遺伝子オントロジーの解析を
用いて、妊娠満期羊膜エキソソームが、創傷治癒、アポトーシス、血管発生、急性炎症、
及び上皮細胞の発生に関連する細胞のシグナル伝達のメディエータを含有したことが見極
められる。
【0087】
プロテオーム解析については、羊膜エキソソーム(妊娠満期及び妊娠満期前;各群当た
りn=10)の溶液中トリプシン消化を行い、それに続いて液体クロマトグラフィと絶対
的定量のための質量分光分析(WEHI Proteomics Laboratory
,Melbourne,Australia)を行う。データは、ナノACQUITY
UPLCシステム(Waters)に連結されたNano-ESIソース(Proxeo
n)に適合させたQ-Exactiveハイブリッド四重極オービトラップm質量分光計
を用いて取得する。ピークのリストは単一MASCOTで走らせた各LC-MS/MSに
ついて融合させ、ヒトRef-Seqタンパク質データベースに対して検索する(1%の
偽発見率)。Pipeline Pilot(Accelrys)及びSpotfire
(TIBCO)を用いて定量的プロテオミクスのデータを解析する。Wilcoxonの
符号付き順位検定を用いて存在量の差異を評価する。UniProtデータベースを出し
て機能、細胞内局在化に基づいてタンパク質を分類し、創傷治癒、細胞の生存及び免疫調
節に関与する遺伝子を特定する。
【0088】
核酸の解析については、cDNA末端のMassive Analysis(MACE
,GenXpro GmbH)を用いてデジタル遺伝子発現のプロファイリングを実施す
る。これによって、たとえば、普通マイクロアレイでは失われる受容体及び転写因子のよ
うなRNASeq(100万転写物当たり1~20コピー)よりも約20倍深いところで
の転写物の捕捉及び定量化比率を可能にする。MACEは、エキソソームに由来する小分
子RNA及びmiRNAの配列決定を行うように最適化され、各cDNA分子にタグを付
けることによってqPCRとRNASeqの利益を組み合わせる。それは、mRNA/m
iRNAの相互作用に影響を与える代替のポリアデニル化を特定するので、転写物の安定
性及び生物学的関連性を決定する。対ごとの比較のための遺伝子オントロジー濃縮分析及
び遺伝子セット濃縮分析を行う。
【0089】
妊娠満期と妊娠満期前の羊膜エキソソームの間には独特の分子特徴があり、それはそれ
らの回復促進性効果及び再生効果に関連する。
【0090】
実施例5:再生促進性効果
羊膜エキソソームの再生促進性効果を気管支肺異形成症の新生児マウスモデルで実証し
た。妊娠満期又は妊娠満期前の羊膜組織に由来するエキソソームの投与に続いて肺胞プル
ーニングが観察された(図12A~D)。用語「BPD」は気管支肺異形成症のマウスモ
デル動物を意味する。
【0091】
実施例6:エキソソームの作用のメカニズム
肺の再生を誘導する能力について、妊娠満期由来のヒトエキソソームをヒト羊膜上皮細
胞(hAEC)と並べて調べた。結果を図13A~Cにて示す。妊娠満期エキソソームは
図13にて暗く染まった(エラスチン陽性)先端部で見られるように二次中隔稜(se
ptal crests)を回復した。
【0092】
加えて、図14は羊膜エキソソームが肺における内在性幹細胞の応答を引き起こすこと
を示している。実際、羊膜エキソソームはhAECよりも2倍を超えて有効だった。
【0093】
観察されたのはまた、羊膜エキソソームが外来性の肺幹細胞の増殖での増強を直接刺激
することができることだった。これは対照に比べて、エキソソームに曝露された肺胞、気
管支および混合肺組織で生じた。
【0094】
実施例7:エキソソームは肝臓にて抗線維化性である
四塩化炭素の週3回の腹腔内注射を12週間行うことによって8~12週齢の成熟マウ
スにて肝線維症を誘導した。8週目にエキソソーム(1μg)を週2回注射した。結果を
図15A及びBにて示す。シリウスレッドアッセイ及びα平滑筋アクチン(SMA)発現
アッセイを用いて生物線維性細胞を判定した。αSMAは線維芽細胞の収縮性で役割を担
う。αSMAの発現は標準のアッセイを用いて判定し、シリウスレッド及びαSMAの陽
性の面積を視野当たりで測定した。炎症性マクロファージタンパク質CCL4を使用した
。CCL4+エキソソームは、CCL4+生理食塩水の対照に比べて視野当たりで有意に
少ない線維性の細胞を生じた(図15A及びB)。
【0095】
実施例8:プロテオームの積み荷
図16は、妊娠満期エキソソームと妊娠満期前hAECとの間でのプロテオームの積み
荷がほぼ同じであることを示す。妊娠満期前hAECに対比させた妊娠満期hAECのプ
ロテオームの積み荷の間ではさらに大きな差異があった。調べたタンパク質を表2a及び
2bにてリストにする。hAECと総MSCの間での有用な細胞成分の比較を図17に示
す。図18はhAECと総MSCの間での生物学的過程も比較する。
【0096】
【表2a】
【0097】
【表2b】
【0098】
実施例9:エキソソームは髄鞘形成を促進する
多発性硬化症の動物モデルにて羊膜エキソソームを調べる。エキソソームは再髄鞘形成
を促進し、多発性硬化症と同様に、たとえば、視神経炎、デビック病、横断性脊髄炎、急
性播種性脳脊髄炎、及び副腎白質ジストロフィ及び副腎脊髄ニューロパシーのような他の
状態の治療に有用であることが期待される。
【0099】
実施例10:エキソソームの活性
ヒト羊膜上皮細胞の馴化培地から単離されたエキソソームは免疫調節効果及び再生促進
効果を有する。羊膜エキソソームは(他の因子の中でも)高いレベルのHLA-Gを含有
する。
【0100】
羊膜エキソソームの免疫抑制性の有効性はドナーの在胎期間に対応する。これは在胎期
間に関連するドナーの潜在力に対応し、我々はそれを(Limら、(2013)上記)に
て以前公開している。
【0101】
羊膜エキソソームは気管支肺異形成症の新生児マウスモデルにて肺の損傷を元に戻す。
静脈内に注射されたエキソソームは生理食塩水に比べて組織:気腔の比率を有意に改善し
、我々のインビトロのものに一致して、妊娠満期の羊膜エキソソームはBPDが関連する
肺損傷を軽減するその能力で妊娠満期前のエキソソームより優れていた。これは、肺の内
在性幹細胞の微小環境、すなわち、気管支肺胞管接合部の活性化に関連する。結果を図5
に示す。羊膜エキソソームは肺線維症及び他の臓器の線維症の治療に有用であることが提
案されている。
【0102】
羊膜エキソソームは、ブレオマイシンで誘導した肺線維症のマウスモデルにて確立され
た肺の炎症及び線維症を元に戻す。ブレオマイシン負荷の7日後の羊膜エキソソームの鼻
内投与は肺における活性化された筋線維芽細胞(α平滑筋アクチン陽性)の比率を有意に
低下させた。このことは、肺におけるコラーゲン沈着の低下に一致した。結果を図6に示
す。
【0103】
羊膜エキソソームは、インビトロで初代ヒト肺線維芽細胞の活性化を直接元に戻す。5
ng/mLの形質転換増殖因子βの存在下で培養すると、羊膜エキソソームは24時間以
内にα平滑筋アクチンのタンパク質レベルを低下させた。結果を図7にて示す。
【0104】
羊膜エキソソームは図8にて示すようにサイトカイン-サイトカイン受容体シグナル伝
達経路を標的とするmiRNAを含有し、その際、黄色のボックスは1以上のmiRNA
による標的を示す。
【0105】
羊膜エキソソームは図9にて示すようにWntシグナル伝達経路を標的とするmiRN
Aを含有し、その際、黄色のボックスは1以上のmiRNAによる標的を示す。
【0106】
羊膜エキソソームは図10にて示すようにPI3K-Aktシグナル伝達経路を標的と
するmiRNAを含有し、その際、黄色のボックスは1以上のmiRNAによる標的を示
す。
【0107】
羊膜エキソソームは図11にて示すようにTGFβシグナル伝達経路を標的とするmi
RNAを含有し、その際、黄色のボックスは1以上のmiRNAによる標的を示す。
【0108】
羊膜エキソソームはたとえば、hAECのようなAECよりも少なくとも効果的なので
、様々な生理的過程及び神経過程にて細胞性の及び分子上の修復メカニズムを誘導する大
きな能力を有することは明らかである。
【0109】
当業者は、本明細書に記載されている本開示が具体的に記載されているもの以外の変化
及び改変を受け易いことを十分に理解するであろう。本開示はそのような変化及び改変の
すべてを意図することが理解されるべきである。本開示はまた、本明細書で言及されてい
る又は示されている工程、特徴、組成物及び化合物を個々に又はまとめて可能にし、且つ
工程又は特徴又は組成物又は化合物の任意の2以上の任意の組み合わせ及び組み合わせの
すべても可能にする。
【0110】
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【手続補正書】
【提出日】2023-09-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物被験体におけるT細胞増殖の低下又は阻害、及び/又はマクロファージの食作用の増加のための医薬組成物であって、
前記医薬組成物が、哺乳動物羊膜エキソソーム、および1以上の薬学上許容できる担体、賦形剤及び/又は希釈剤を含む、医薬組成物
【請求項2】
前記哺乳動物羊膜エキソソームがヒト羊膜エキソソームである請求項に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記哺乳動物羊膜エキソソームが同じ種のドナー哺乳動物に由来する同種哺乳動物羊膜上皮細胞に由来する請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
治療される前記哺乳動物被験体がヒトである請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項5】
治療される前記哺乳動物被験体が非ヒト哺乳動物である請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項6】
治療される前記非ヒト哺乳動物被験体が、ウマ、イヌ及びラクダからなる群から選択される競走用動物である請求項に記載の医薬組成物
【請求項7】
前記T細胞増殖の低下又は阻害、及び/又はマクロファージの食作用の増加が、中枢神経系、末梢神経系、又は全身血管系の細胞性又はニューロン性の修復、再生又は回復を誘導するか、または創傷治癒を誘導するためのものである、請求項4又は5に記載の医薬組成物
【請求項8】
前記T細胞増殖の低下又は阻害、及び/又はマクロファージの食作用の増加が、神経変性疾患又は神経変性状態を治療するためのものである、請求項4又は5に記載の医薬組成物
【請求項9】
前記神経変性疾患又は神経変性状態が脱鞘疾患である請求項8に記載の医薬組成物
【請求項10】
前記脱鞘疾患が、多発性硬化症、視神経炎、デビック病、横断性脊髄炎、急性播種性脳脊髄炎、副腎白質ジストロフィ又は副腎脊髄ニューロパシーである請求項9に記載の医薬組成物
【請求項11】
神経変性疾患又は神経変性状態が、運動ニューロン疾患、脳卒中、脊髄損傷、外傷性脳損傷、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病及び多発性硬化症からなる群から選択される請求項8に記載の医薬組成物
【請求項12】
前記羊膜エキソソームが、サイトカイン-サイトカイン受容体、Wnt、PI3K-Akt及びTGFβのシグナル伝達経路を標的とするmiRNAを含有する請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物
【請求項13】
前記羊膜エキソソームが、不死化された哺乳動物羊膜上皮細胞株のバンクに由来する請求項1~12のいずれか1項に記載の医薬組成物
【請求項14】
前記羊膜エキソソームが、不死化された哺乳動物羊膜エキソソームに由来する凍結乾燥羊膜エキソソームのバンクから選択される請求項1~13のいずれか1項に記載の医薬組成物
【請求項15】
哺乳動物被験体におけるT細胞増殖の低下又は阻害、及び/又はマクロファージの食作用の増加のための薬物の製造における哺乳動物羊膜エキソソームの使用。
【請求項16】
前記哺乳動物羊膜エキソソームがヒト羊膜エキソソームである請求項15に記載の使用。
【外国語明細書】