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特開2023-175712有機溶媒可溶性リグニンの回収システム及び回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175712
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】有機溶媒可溶性リグニンの回収システム及び回収方法
(51)【国際特許分類】
   C08H 7/00 20110101AFI20231205BHJP
   B01D 1/22 20060101ALI20231205BHJP
   B01D 3/14 20060101ALI20231205BHJP
   F26B 3/20 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C08H7/00
B01D1/22 C
B01D3/14 A
F26B3/20
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023138840
(22)【出願日】2023-08-29
(62)【分割の表示】P 2019164255の分割
【原出願日】2019-09-10
(71)【出願人】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】道上 掌
(72)【発明者】
【氏名】古屋 貴章
(72)【発明者】
【氏名】若村 修
(57)【要約】
【課題】安定的に固体状のリグニンが得られる有機溶媒可溶性リグニンの回収システム及び回収方法を提供する。
【解決手段】有機溶媒可溶性リグニンの回収システムは、リグニンを含む固形物から有機溶媒及び水の混合溶媒により抽出された抽出液を乾燥し、固体状の有機溶媒可溶性リグニンを含む薄膜状の乾燥物を形成するように構成された薄膜式乾燥機を備える。有機溶媒可溶性リグニンの回収方法は、リグニンを含む固形物から有機溶媒及び水の混合溶媒により抽出された有機溶媒可溶性リグニンを含む抽出液を乾燥し、固体状の有機溶媒可溶性リグニンを含む薄膜状の乾燥物を形成させる乾燥工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒可溶性リグニンの回収システムであって、
リグニンを含む固形物から有機溶媒及び水の混合溶媒により抽出された抽出液を乾燥し、固体状の有機溶媒可溶性リグニンを含む薄膜状の乾燥物を形成するように構成された薄膜式乾燥機を備える、回収システム。
【請求項2】
前記薄膜式乾燥機は、伝導伝熱型乾燥機である、請求項1に記載の回収システム。
【請求項3】
前記薄膜式乾燥機の上流に、前記固形物から前記混合溶媒により前記抽出液を分離するように構成された抽出装置を更に備える、請求項1又は2に記載の回収システム。
【請求項4】
前記薄膜式乾燥機の下流に、前記薄膜式乾燥機から排出された揮発性成分から水及び有機溶媒を分離するように構成された分離装置を更に備える、請求項3に記載の回収システム。
【請求項5】
前記分離装置が蒸留装置である、請求項4に記載の回収システム。
【請求項6】
前記蒸留装置で得られた蒸留液を前記抽出装置に送液するように構成された配管を更に備え、
前記蒸留装置は、前記蒸留液中の水及び有機溶媒の含有量比が所定の範囲となるようにリボイラー焚き上げ量及び還流量を制御する制御部を有する、請求項5に記載の回収システム。
【請求項7】
有機溶媒可溶性リグニンの回収方法であって、
リグニンを含む固形物から有機溶媒及び水の混合溶媒により抽出された抽出液を乾燥し、固体状の有機溶媒可溶性リグニンを含む薄膜状の乾燥物を形成させる乾燥工程を含む、回収方法。
【請求項8】
前記乾燥工程を、薄膜式乾燥機を用いて行う、請求項7に記載の回収方法。
【請求項9】
前記薄膜式乾燥機が、伝導伝熱型乾燥機である、請求項8に記載の回収方法。
【請求項10】
前記乾燥工程後に、前記乾燥物を収集する収集工程を更に含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の回収方法。
【請求項11】
前記乾燥工程後に、前記乾燥工程で排出された揮発性成分から水及び有機溶媒を分離する分離工程を更に含む、請求項7~10のいずれか一項に記載の回収方法。
【請求項12】
前記分離工程は、蒸留法により行われる蒸留工程である、請求項11に記載の回収方法。
【請求項13】
前記乾燥工程前に、前記固形物と前記混合溶媒とを混合し、前記抽出液を分離する抽出工程を更に含む、請求項7~12のいずれか一項に記載の回収方法。
【請求項14】
前記乾燥工程前に、前記固形物と前記混合溶媒とを混合し、前記抽出液を分離する抽出工程と、
前記蒸留工程後に、前記蒸留工程で得られた蒸留液を前記抽出工程に再利用する再利用工程と、を更に含み、
前記蒸留工程において、前記蒸留液中の水及び有機溶媒の含有量比が所定の範囲となるようにリボイラー焚き上げ量及び還流量を制御する、請求項12に記載の回収方法。
【請求項15】
前記再利用工程において、前記抽出工程で用いられる前記混合溶媒中の水及び有機溶媒の含有量比となるように、前記蒸留液の供給量及び水の供給量を制御する、請求項14に記載の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒可溶性リグニンの回収システム及び回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化対策や、廃棄物の有効活用の観点から、植物資源を原料とするバイオマスの利用が注目されている。一般に、バイオマスからエタノール等の化合物を製造するための原料としては、サトウキビ等の糖質やトウモロコシ等のデンプン質が多く用いられている。しかしながら、これらの原料はもともと食料又は飼料として用いられており、長期的に工業用利用資源として活用することは、食料又は飼料用途との競合を引き起こし、原料価格の高騰を招く危険性がある。
【0003】
従って、非食用バイオマスをエネルギー資源として活用する技術開発が進められている。非食用バイオマスとしては、地球上に最も多く存在するセルロースが挙げられるが、その大部分は芳香族ポリマーのリグニンやヘミセルロースとの複合体であるリグノセルロースとして存在する。
【0004】
リグノセルロース系バイオマスを原料としたエタノール製造では、バイオマス原料を熱化学的に前処理する前処理工程、前処理工程後のバイオマスを酵素処理し糖化液を生成する糖化工程、糖化工程で得られた糖化液に微生物培養液を添加してエタノール発酵を行なう発酵工程、及び、発酵工程で得られた発酵液から蒸留等によってエタノールを分離する精製工程からなる。このエタノール製造において、リグニンが固体として残存するため、大量の発酵残渣が発生するという問題がある。この発酵残渣は、一般に併設される工場のボイラーやメタン発酵等により処理されており、有効利用されていないのが現状である。
【0005】
非食用バイオマスを原料とする製紙プロセスにおいても同様に残渣物としてリグニン主体の生成物(黒液、リグニンスルホン酸塩)が発生し、長年に亘り有効利用する技術が開発されている。しかしながら、バイオマスを化学的に分解する工程において、リグニンがスルホ化又は塩化の影響を受けているため、利用しづらく、その多くはボイラー熱源としての燃料利用にとどまっている。
【0006】
一方で、リグニンを分解すると、フェノール誘導体等が得られることから、樹脂原料、コンポジット材料、界面活性剤等の化学工業製品の原料として利用することができる。そのため、リグニンの分解物を効率よく製造する方法の開発が望まれている。
【0007】
特許文献1には、水とアルコールのモル比が1/1~20/1である混合溶媒を用いてリグニン含有バイオマスを処理することでリグニン分解物を製造する方法が開示されている。特許文献2には、炭化水素及びアルコールの混合溶媒中において酸触媒存在下でリグニン含有バイオマスを加熱することで低分子リグニンを製造する方法が開示されている。特許文献3には、リグニン含有バイオマスを水熱処理及び粉砕処理を組み合わせて前処理し、該前処理したバイオマスを酵素糖化した際に発生する酵素糖化残渣をさらにオートクレーブにより水熱処理を行い、その処理物の固液分離から固形物を得た後に、該固形物を有機溶媒に溶解して、リグニン分解物を製造する方法が開示されている。特許文献4には、リグニン含有バイオマスを酵素により糖化処理して糖化残渣を得て、該糖化残渣を20℃の水に対する溶解度が90g/L以上の有機溶媒と水とを含む混合溶媒中で加熱処理して、リグニン分解物を含む加熱処理液を得た後に、該加熱処理液を固液分離して不溶分を除去し、リグニン分解物を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014-015439号公報
【特許文献2】特開2016-050200号公報
【特許文献3】特開2015-157792号公報
【特許文献4】特開2013-241391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~4等に記載の方法で用いて得られたリグニンは、溶媒に溶解又は分散した溶液の状態である。従来では、加熱用ジャケットを備える攪拌槽等に当該溶液を添加し、加熱濃縮により時間をかけて溶媒を揮発させて当該溶液から固体状のリグニンの回収が試みられている。しかしながら、加熱濃縮中に残留する水分や有機溶媒の影響で、リグニンはタール状の固着物として析出し、安定的に固体状のリグニンを得ることが困難である。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、安定的に固体状のリグニンが得られる有機溶媒可溶性リグニンの回収システム及び回収方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) 有機溶媒可溶性リグニンの回収システムであって、
リグニンを含む固形物から有機溶媒及び水の混合溶媒により抽出された有機溶媒可溶性リグニンを含む抽出液を乾燥し、固体状の有機溶媒可溶性リグニンを含む薄膜状の乾燥物を形成するように構成された薄膜式乾燥機を備える、回収システム。
(2) 前記薄膜式乾燥機は、前記乾燥物を掻き取るように構成された掻き取り機構を有する、(1)に記載の回収システム。
(3) 前記薄膜式乾燥機の上流に、前記固形物から前記混合溶媒により前記抽出液を分離するように構成された抽出装置を更に備える、(1)又は(2)に記載の回収システム。
(4) 前記薄膜式乾燥機の上流であって前記抽出装置の下流に、揮発槽を更に備える、(3)に記載の回収システム。
(5) 前記薄膜式乾燥機の下流に、前記薄膜式乾燥機及び前記揮発槽から排出された揮発性成分から水及び有機溶媒を分離するように構成された分離装置を更に備える、(4)に記載の回収システム。
(6) 前記分離装置が蒸留装置である、(5)に記載の回収システム。
(7) 前記蒸留装置で得られた蒸留液を前記抽出装置に送液するように構成された配管を更に備え、
前記蒸留装置は、前記蒸留液中の水及び有機溶媒の含有量比が所定の範囲となるようにリボイラー焚き上げ量及び還流量を制御する制御部を有する、(6)に記載の回収システム。
【0012】
(8) 有機溶媒可溶性リグニンの回収方法であって、
リグニンを含む固形物から有機溶媒及び水の混合溶媒により抽出された有機溶媒可溶性リグニンを含む抽出液を乾燥し、固体状の有機溶媒可溶性リグニンを含む薄膜状の乾燥物を形成させる乾燥工程を含む、回収方法。
(9) 前記乾燥工程後に、前記乾燥物を収集する収集工程を更に含む、(8)に記載の回収方法。
(10) 前記乾燥工程前に、前記固形物と前記混合溶媒とを混合し、前記抽出液を分離する抽出工程を更に含む、(8)又は(9)に記載の回収方法。
(11) 前記乾燥工程前であって前記抽出工程後に、前記抽出液に含まれる前記混合溶媒の一部を揮発させる揮発工程を更に含む、(10)に記載の回収方法。
(12) 前記揮発工程において、前記抽出液中の水及び有機溶媒の合計質量に対して、有機溶媒の含有量が50質量%以上60質量%未満となるまで前記混合溶媒の一部を揮発させる、(11)に記載の回収方法。
(13) 前記乾燥工程後に、前記乾燥工程及び前記揮発工程で排出された揮発性成分から水及び有機溶媒を分離する分離工程を更に含む、(11)又は(12)に記載の回収方法。
(14) 前記分離工程は、蒸留法により行われる蒸留工程である、(13)に記載の回収方法。
(15) 前記蒸留工程後に、前記蒸留工程で得られた蒸留液を前記抽出工程に再利用する再利用工程を更に含み、
前記蒸留工程において、前記蒸留液中の水及び有機溶媒の含有量比が所定の範囲となるようにリボイラー焚き上げ量及び還流量を制御する、(14)に記載の回収方法。
(16) 前記再利用工程において、前記抽出工程で用いられる前記混合溶媒中の水及び有機溶媒の含有量比となるように、前記蒸留液の供給量及び水の供給量を制御する、(15)に記載の回収方法。
【発明の効果】
【0013】
上記態様の有機溶媒可溶性リグニンの回収システム及び回収方法によれば、安定的に固体状のリグニンが得られる有機溶媒可溶性リグニンの回収システム及び回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】水、有機溶媒及び有機溶媒可溶性リグニンを含む溶液を従来の加熱濃縮法により乾燥させた場合の溶液中の変化を模式的に示した図である。
図1B】水、有機溶媒及び有機溶媒可溶性リグニンを含む溶液を薄膜式乾燥機により乾燥させた場合の溶液の変化を模式的に示した図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る有機溶媒可溶性リグニンの回収システムを示す概略構成図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る有機溶媒可溶性リグニンの回収システムを示す概略構成図である。
図4】本発明の第3実施形態に係る有機溶媒可溶性リグニンの回収システムを示す概略構成図である。
図5】本発明の第4実施形態に係る有機溶媒可溶性リグニンの回収システムを示す概略構成図である。
図6A】実施例1におけるディスクドライヤーの縦断面図である。
図6B】実施例1におけるディスクドライヤーの側面図である。
図7】実施例2における抽出液中の有機溶媒(アセトン又はエタノール)の揮発率の経時的な変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る有機溶媒可溶性リグニンの回収システム(以下、「本実施形態の回収システム」と略記する場合がある)及び有機溶媒可溶性リグニンの回収方法(以下、「本実施形態の回収方法」と略記する場合がある)について、詳細に説明する。なお、本明細書及び請求の範囲において、各種用語の意味を以下のとおり定義する。
【0016】
<リグノセルロース系バイオマス>
本実施形態の回収システム及び回収方法において原料として用いられるリグニンを含む固形物としては、例えば、リグノセルロース系バイオマスが挙げられる。リグノセルロース系バイオマスとしては、例えば、木本植物(木本系バイオマスともいう)、草本植物(草本系バイオマスともいう)、それらの加工物及びそれらの廃棄物からなる群より選ばれる少なくとも1種であればその種類は問わない。また、リグノセルロース系バイオマスは粉砕されたものを用いることができ、また、ブロック、チップ、粉末等、いずれの形状でもよい。また、リグニンを含む固形物としては、リグノセルロース系バイオマス中のセルロース及びヘミセルロースからバイオエタノール、バイオブタノール又はバイオ化学品等を製造する過程で発生した残渣を用いてもよい。当該残渣である場合、リグノセルロース系バイオマスを希硫酸蒸解法により前処理し、さらに、得られた前処理原料を酵素糖化法により分解した後に残留する糖化残渣であることが好ましい。
【0017】
前記木本植物としては、例えば、スギ、ヒノキ、カラマツ、マツ、米マツ、米スギ、米ツガ、ポプラ、シラカバ、ヤナギ、ユーカリ、クヌギ、コナラ、カシ、シイ、ブナ、アカシア、タケ、ササ、アブラヤシ、サゴヤシ等が挙げられる。中でも、木本植物としては、性状の安定性の観点からスギが好ましい。
【0018】
また、上記木本植物の樹皮、枝条、果房、果実殻等も使用することができる。また、上記木本植物を使った合板、繊維板、集成材のような加工材も使用することができる。また、建築物に使用後、解体された部材も使用することができる。また、紙等のリグノセルロース系バイオマスの加工物や古紙も使用することができる。
【0019】
前記草本植物としては、例えば、タケ、パームヤシ;イネ(稲わらを含む)、ムギ(麦わらを含む)、サトウキビ(バガスを含む)、ヨシ、ススキ、トウモロコシ(コーンストーバー、コーンコブ、コーンハルを含む)、ソルガム(スイートソルガムを含む)、スイッチグラス、エリアンサス、ナピアグラス等のイネ科植物;ヤトロファ、カシュー等が挙げられる。
【0020】
中でも、本実施形態の回収システム及び回収方法において原料として用いられるリグニンを含む固形物としては、草本植物(草本系バイオマス)が好ましく、イネ科植物がより好ましい。
【0021】
<リグニン>
一般に、リグニンは、草本系バイオマスの3大主成分の一つの天然高分子である。草本系バイオマスの中でもバガスには、5質量%以上30質量%以下のリグニンが含まれる。
【0022】
リグニンは、基本骨格が芳香核(ベンゼン核)で構成されており、その構造から、G核、S核及びH核に分類される。G核とは、フェノール骨格部分のオルト位に1つのメトキシ基(-OCH)を有するものであり、S核とは、オルト位に2つのメトキシ基を有するものであり、H核とは、オルト位にメトキシ基を有していないものである。また、バガス等の草本系バイオマス中のリグニンは基本骨格として、H核、G核及びS核の全てを含む。なお、木本系バイオマス由来のリグニンのうち、針葉樹由来のリグニンは、G核を基本骨格とし、広葉樹由来のリグニンは、G核及びS核を基本骨格とする。
【0023】
本明細書において、「有機溶媒可溶性リグニン」とは、有機溶媒に対して可溶性であるリグニンであり、具体的には、後述する抽出工程において、リグニンを含む固形物(リグノセルロース系バイオマス等)から有機溶媒及び水の混合溶媒により抽出された抽出液中に含まれるリグニンを示す。
【0024】
<セルロース及びヘミセルロース>
本明細書において、「セルロース」には、6つの炭素を構成単位とする六炭糖が含まれる。よって、セルロースは加水分解を受けると、炭素6つからなる六炭糖の単糖(グルコース等)やその単糖が複数個連結された六炭糖のオリゴ糖(セロビオース等)を生ずる。
【0025】
「ヘミセルロース」には、キシロース等の5つの炭素を構成単位とする五炭糖(C5糖)やマンノース、アラビノース、4-O-メチルグルクロン酸等の6つの炭素を構成単位とする六炭糖(C6糖)から構成される、グルコマンナンやグルクロノキシラン等の複合多糖等が含まれる。よって、ヘミセルロースは加水分解を受けると、炭素5つからなる五炭糖の単糖やその単糖が複数個連結された五炭糖のオリゴ糖、炭素6つからなる六炭糖の単糖やその単糖が複数個連結された六炭糖のオリゴ糖、五炭糖の単糖と六炭糖の単糖が複数個連結されたオリゴ糖を生ずる。
【0026】
一般に、ヘミセルロース又はセルロースから生ずる単糖又はオリゴ糖の構成比率や生成量は、前処理方法や原料として用いたリグノセルロース系バイオマスの種類によって異なる。
【0027】
<有機溶媒可溶性リグニンの回収システム>
本実施形態の回収システムは、リグニンを含む固形物から有機溶媒及び水の混合溶媒により抽出された有機溶媒可溶性リグニンを含む抽出液を乾燥し、薄膜状の乾燥物を形成するように構成された薄膜式乾燥機を備える。
【0028】
従来では、加熱用ジャケットを備える攪拌槽等に前記抽出液を添加し、加熱濃縮により時間をかけて溶媒を揮発させて当該溶液から固体状のリグニンの回収が試みられている。図1Aに、水、有機溶媒及び有機溶媒可溶性リグニンを含む溶液を従来の加熱濃縮法により乾燥させた場合の溶液中の変化を模式的に示す。加熱前の溶液では、水1、有機溶媒2及び有機溶媒可溶性リグニン3が均一に分散している。従来の加熱濃縮法による乾燥では、時間をかけて徐々に混合溶媒を揮発除去させていく中で、有機溶媒2が先行して揮発除去されていく。これにより、溶液内の水1、有機溶媒2及び有機溶媒可溶性リグニン3のバランスが崩れることで分散性が損なわれ、有機溶媒可溶性リグニン3同士が引き合い凝集し始める。さらに、有機溶媒可溶性リグニンは、両親媒性であるため、水1を取り込みながら、凝集析出する。さらに、じっくりと時間をかけて乾燥が進むことから、凝集析出が進み、最終的に水分を包含したタール状の乾燥物を形成する。そのため、固体状の有機溶媒可溶性リグニンを安定的に得ることが困難である。
【0029】
図1Bに、水、有機溶媒及び有機溶媒可溶性リグニンを含む溶液を薄膜式乾燥機により乾燥させた場合の溶液の変化を模式的に示す。薄膜式乾燥機を用いた乾燥では、溶液から水1及び有機溶媒2が上述したリグニンの凝集析出が発露する前に揮発されて乾燥し、有機溶媒可溶性リグニン3を含む薄膜状の乾燥物が効率よく形成される。
よって、本実施形態の回収システムは、上記構成の薄膜式乾燥機を備えることで、水を包含せず再凝縮しない固体状の有機溶媒可溶性リグニンを安定的に回収することができる。
【0030】
図2は、本発明の第1実施形態に係る有機溶媒可溶性リグニンの回収システムを示す概略構成図である。図2を参照しながら、本実施形態の回収システムについて以下に詳細を説明する。
【0031】
図2に示す回収システム100は、薄膜式乾燥機10を備える。
【0032】
[薄膜式乾燥機]
薄膜式乾燥機10は、前記抽出液4から揮発性成分6(主に、混合溶媒)を揮発させて、前記抽出液4中に含まれる固形分(主に、固体状の有機溶媒可溶性リグニン3a)からなる薄膜状の乾燥物を形成するように構成されている。薄膜式乾燥機10としては、例えば、伝熱面を含む部材を有するものが挙げられる。伝熱面を含む部材は、当該伝熱面が蒸気等により加温されるように構成されている。さらに、伝熱面を含む部材は、当該伝熱面に前記抽出液を薄く塗布し、前記抽出液から揮発性成分を上述したリグニンの凝集析出が発露する前に揮発させることで、薄膜状の乾燥物を形成することができる。なお、薄膜状の乾燥物とは、その厚みが300μm以下の乾燥物をいう。伝熱面の形状としては、特に限定されず、平面状であってもよく、立体面状であってもよい。平面状である場合には、例えば、略円形状(真円状を含む)、中空略円形状(中空真円状を含む)、扇形状、環状扇形状、多角形状等が挙げられるが、略円形状(真円状を含む)、中空略円形状(中空真円状を含む)、扇形状又は環状扇形状が好ましい。立体面状である場合には、例えば、円柱状、角柱状、角錐状、角錐台状、円錐状、円錐台状等が挙げられるが、円柱状が好ましい。
伝熱面の材質は、熱を伝導しやすいものであればよいが、後述する掻き取り機構による掻き取り操作に耐えうる耐摩耗性に優れる材質であることが好ましく、例えば、硬質クロムメッキや無電解ニッケルメッキ等が施された鋼材等が挙げられる。
【0033】
薄膜式乾燥機10は、掻き取り機構を有することが好ましい。掻き取り機構は、前記乾燥物を掻き取るように構成されている。薄膜式乾燥機は、掻き取り機構を有することで、ディスク表面やドラム表面等の伝熱面上に形成された薄膜状の乾燥物を掻き取って回収することができる。また、掻き取る操作により、薄膜状の乾燥物が解砕されて、粉末状の有機溶媒可溶性リグニンを回収することができる。
掻き取り機構として具体的には、例えば、スクレーパー等が挙げられる。スクレーパーは、刃状(ナイフ状、ブレード状ともい)であってもよく、へら状であってもよい。なお、掻き取り機構とは、乾燥物が位置する表面上をこすることで、乾燥物を表面から剥がしとる機構を意味する。
【0034】
また、薄膜式乾燥機は、掻き取り機構に加えて、回転軸部材を更に有することが好ましい。回転軸部材は、軸内に蒸気等を供給する方法等によって伝熱面を含む部材を加熱し、且つ、伝熱面の中心を軸として伝熱面を含む部材が回転するように構成されている。薄膜式乾燥機は、掻き取り機構及び回転軸部材を有することで、伝熱面を含む部材を1回転させる間に抽出液の乾燥及び乾燥物の回収を効率よく行なうことができ、連続的に有機溶媒可溶性リグニンを回収することができる。
【0035】
薄膜式乾燥機は、抽出液を伝熱面上に添加するように構成されたフィードパイプ、伝熱面に付着しなかった抽出液を回収し、循環させてフィードパイプに供給するように構成された循環機構(例えば、循環槽及び配管からなる機構)、乾燥物を乾燥機外に取り出すように構成された回収口等、その他公知の構成を備えることができる。また、フィードパイプの形状としては、例えば、蛇口やホース出口のような開口型、シャワー型、スプレー型等が挙げられる。また、薄膜式乾燥機は、フィードパイプの代わりに、伝熱面の一部を回転させながら抽出液を含む貯液槽(又は液溜まり部)に直接浸漬させるように構成されていてもよい。
【0036】
薄膜式乾燥機として具体的には、例えば、ディスク乾燥機(ディスクドライヤー)(図6A及び図6B参照)、ドラム乾燥機(ドラムドライヤー)等の伝導伝熱型乾燥機等が挙げられる。ディスク乾燥機は、蒸気で加熱されたディスク表面(片面又は両面)に抽出液を吹き付け、ディスクが1回転する間に揮発性成分を揮発させて、乾燥させるように構成されている。また、ドラム乾燥機は、蒸気で加熱されたドラム表面(ドラム外壁面)に抽出液を付着させ、ドラムが1回転する間に液体成分を揮発させ、乾燥させるように構成されている。ディスク乾燥機及びドラム乾燥機は、通常、薄膜状の乾燥物を回収するためのスクレーパーを備えている。ディスク乾燥機及びドラム乾燥機は、その操作圧力によって、常圧式と真空式とに区別されるが、いずれの方式のものも用いることができる。また、ドラム乾燥機は、ドラムの本数により、ダブルドラム型、ツインドラム型、シングルドラム型に分類されるが、いずれの分類のものも用いることができる。シングルドラム型は、給液方法によりディップ式、スプレ式、スプラッシュ式、上部ロール式(単段、多段)、サイドロール式、下部ロール式等があるが、いずれの方式のものも用いることができる。中でも、薄膜式乾燥機としては、省スペースで、且つ、効率よく固体状の有機溶媒可溶性リグニンを回収できることから、ディスク乾燥機(ディスクドライヤー)が好ましい。
【0037】
薄膜式乾燥機10において、伝熱面の表面積や回転軸部材の回転数、抽出液を伝熱面に添加する時間当たりの流量は、乾燥処理を施す抽出液の組成や抽出液の量等に応じて、当業者が適宜設計し得る事項である。
【0038】
薄膜式乾燥機10で乾燥された固体状の有機溶媒可溶性リグニン3aは、配管11を介して回収することができ、一方、揮発性成分6は、配管12を介して、装置外に排出される。
【0039】
図3は、本発明の第2実施形態に係る有機溶媒可溶性リグニンの回収システムを示す概略構成図である。図3に示す回収システム200は、薄膜式乾燥機10の上流に、抽出装置20及び固液分離装置30を更に備える点で、図2に示す回収システム100と異なる。なお、図3以降の図面において、図2に示す構成要素と同一のものについては同じ符号を用いて、説明を省略する。
【0040】
[抽出装置]
回収システム200は、薄膜式乾燥機10の上流に、抽出装置20を更に備えていてもよい。抽出装置20は、リグニンを含む固形物5から有機溶媒2及び水1の混合溶媒により有機溶媒可溶性リグニンを含む抽出液4を分離するように構成されている。回収システム200は、抽出装置20を備えることで、リグニンを含む固形物5から有機溶媒可溶性リグニンを含む抽出液4を得ることができる。
【0041】
抽出装置20としては、例えば、ロートセル型抽出装置、バッチ式攪拌槽からなる抽出装置、スクリューフィーダー等を用いたラインミキサー方式の抽出装置等の公知の抽出装置等が挙げられる。
【0042】
混合溶媒に用いられる有機溶媒としては、水に対する親和性(親水性)を有するものが好ましい。また、有機溶媒可溶性リグニンの抽出率を向上させる観点から、20℃の水に対する溶解度が90g/L以が好ましく、100g/L以上がより好ましく、120g/L以上がさらに好ましい。
【0043】
また、有機溶媒は、有機溶媒可溶性リグニンの抽出率を向上させる観点から、SP値が8以上23以下が好ましく、8以上16以下がより好ましく、9以上15以下がさらに好ましい。
【0044】
なお、ここで、「SP値」とは、溶解性パラメータ(Solubility Parameter;SP値)を意味し、Fedorsの方法(参考文献1:「Fedors R. F., “A Method for Estimating Both the Solubility Parameters and Molar Volumes of liquids”, Polymer Engineering and Science, Vol. 14, No. 2, p147-154, 1974.」参照)により、下記のFedorsの式に基づいて求められた値δ[(cal/cm1/2]であり、化合物の化学構造の原子または原子団の蒸発エネルギーの総和(Δei)とモル体積の総和(Δvi)の比の平方根から求められる。
【0045】
Fedorsの式: δ=(ΣΔei/ΣΔvi)1/2
【0046】
このような有機溶媒として具体的には、例えば、アルコール類、ニトリル類、エーテル類、ケトン類が挙げられる。これらの有機溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、ジエチレングリコール、n-プロパノール、イソプロパノール、2-ブタノール、イソブタノール、t-ブチルアルコール等が挙げられる。
【0048】
ニトリル類としては、例えば、アセトニトリル等が挙げられる。
【0049】
エーテル類としては、例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。
【0050】
ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0051】
中でも、有機溶媒としては、有機溶媒可溶性リグニンの抽出率が優れることから、メタノール、エタノール、THF、又はアセトンが好ましく、アセトンがより好ましい。これらの有機溶媒は、グルコース、キシロース等のバイオマスの糖化物の溶解度が低く、さらにセルロースやヘミセルロース等も溶解しないことから、リグニンを効率的に抽出することができる。
【0052】
混合溶媒において、有機溶媒に対する水の割合としては、質量比で0/100超40/60以下が好ましく、10/90以上40/60以下がより好ましく、20/80以上40/60以下がさらに好ましい。割合が上記範囲内であることで、有機溶媒可溶性リグニンをより効率よく抽出することができる。
【0053】
混合溶媒中の水には、リグニンを含む固形物に含まれる水分も含まれる。例えば、含水率が60質量%である前記固形物:1質量部に対して、濃度が90質量%である有機溶媒(好ましくは、アセトン又はエタノール)4質量部以上5質量部以下程度を添加することで、有機溶媒に対する水の割合である上記範囲内の条件下で抽出を行なうことができる。
【0054】
混合溶媒の添加量は、リグニンを含む固形物の乾燥質量に対して質量比で2倍以上20倍以下とすることができ、5倍以上15倍以下とすることができ、これに限定されない。
【0055】
抽出時間(リグニンを含む固形物と混合溶媒との混合及び攪拌を行う時間)は、例えば、30分間以上240分間以下とすることができ、これに限定されない。また、抽出温度(有機溶媒可溶性リグニンが有機溶媒に溶解し、抽出液が得られるまでの温度条件)は、使用する有機溶媒の沸点以下の温和な温度条件下で行うことができ、例えば、室温(具体的には、15℃以上35℃以下程度)条件下で行うことができる。攪拌速度等のその他の条件は、リグニンを含む固形物及び混合溶媒の混合量に応じて、適宜設定することができる。
【0056】
抽出装置20で得られたリグニンを含む固形物5と混合溶媒との混合液は、抽出液4を分離するために、必要に応じて、配管21を介して、続く固液分離装置30に送液される。
【0057】
[固液分離装置]
回収システム200は、薄膜式乾燥機10の上流であって抽出装置20の下流に、固液分離装置30を更に備えていてもよい。固液分離装置30は、リグニンを含む固形物5と混合溶媒との混合液から有機溶媒可溶性リグニンを含む抽出液4を分離するように構成されている。回収システム200は、固液分離装置30を備えることで、有機溶媒可溶性リグニンを含む抽出液4を得ることができる。
【0058】
固液分離装置30としては、固形分と液体分を分けられる公知の装置を用いることができ、例えば、フィルター、振動篩、遠心分離機、スクリュープレス等が挙げられ、これらに限定されない。
【0059】
固液分離装置30で得られた抽出液4は、配管31を介して、続く薄膜式乾燥機10に送液される。
【0060】
図4は、本発明の第3実施形態に係る有機溶媒可溶性リグニンの回収システムを示す概略構成図である。図4に示す回収システム300は、薄膜式乾燥機10の上流であって抽出装置20及び固液分離装置30の下流に、揮発槽40を更に備える点で図3に示す回収システム200と異なる。回収システム300では、固液分離装置30で得られた抽出液4は、配管31を介して、続く揮発槽40に送液される。
【0061】
[揮発槽]
揮発槽40は、抽出液4から揮発性成分7を揮発させて、抽出液4を濃縮して抽出液の濃縮液(以下、単に「濃縮液」と称する場合がある)を製造するように構成されている。回収システム300は、揮発槽40を備えることで、薄膜式乾燥機のみによって有機溶媒可溶性リグニンを乾燥させる場合よりも、エネルギー消費量を抑えながら、より効率よく有機溶媒可溶性リグニンを回収することができる。
【0062】
揮発槽40としては、バッチ式であってもよく、連続式であってもよい。また、抽出液を加熱させるために、揮発槽40は、装置の外側に、温水循環式のジャケット、電熱線、スチームチューブ等を備えることができる。加熱の熱源は、電気、蒸気、燃焼ガス等の公知のものを利用することができる。揮発槽40の攪拌方式は、揮発面積を稼ぐために、槽内に棚(トレイ)等を備えていてもよく、多段式の層からなる多重効用缶方式のものを使用してもよい。
【0063】
揮発槽40での処理温度としては、例えば、10℃以上100℃以下とすることができ、30℃以上80℃以下とすることができる。揮発槽40での処理時間としては、抽出液において上述したリグニンの凝集析出が始まる直前までの時間とすることができる。後述する実施例に示すように、上述したリグニンの凝集析出が始まる直前までの時間は、抽出液中の水及び有機溶媒の合計質量に対する有機溶媒の含有量を指標として設定することができる。当該有機溶媒の含有量が50質量%以上60質量%以下、好ましくは51質量%以上57質量%、より好ましくは53質量%以上55質量%以下となるまで混合溶媒の一部を揮発させる時間とすることができる。有機溶媒の含有量が上記範囲内であることで、上述したリグニンの凝集析出が始まる直前まで抽出液を濃縮することができ、薄膜式乾燥機のみによって有機溶媒可溶性リグニンを乾燥させる場合よりも、エネルギー消費量を抑えながら、より効率よく有機溶媒可溶性リグニンを回収することができる。
そのような有機溶媒の含有量となる具体的な処理時間としては、処理温度や抽出液の処理量に応じて適宜設定できるが、例えば、抽出液の総質量に対して有機溶媒可溶性リグニン:3.5質量%、水:34.0質量%、及び有機溶媒:62.5質量%を含有する抽出液:40Lを、30℃以上80℃以下で処理する場合において、0.01時間以上24時間以下程度とすることができる。
【0064】
揮発槽40で得られた濃縮液は、配管41を介して、続く薄膜式乾燥機10に送液される。
【0065】
図5は、本発明の第4実施形態に係る有機溶媒可溶性リグニンの回収システムを示す概略構成図である。図5に示す回収システム400は、薄膜式乾燥機10の下流に、分離装置として蒸留装置(蒸留塔)50を更に備える点で、図4に示す回収システム300と異なる。回収システム400では、薄膜式乾燥機10及び揮発槽40から配管12及び配管42をそれぞれ介して排出された揮発性成分6及び7が合流して配管43を介して分離装置である蒸留装置(蒸留塔)50に送られる。
【0066】
[分離装置]
分離装置は、薄膜式乾燥機及び揮発槽から排出された揮発性成分から水及び有機溶媒を分離するように構成されている。本実施形態の回収システムは、分離装置を備えることで、水及び有機溶媒又は有機溶媒のみからなる再生溶媒8を回収することができる。また、回収された再生溶媒8は、抽出装置20に再利用することができる。
【0067】
分離装置としては、揮発性成分から水及び有機溶媒を回収できるものであればよく、例えば、蒸留装置(蒸留塔)等が挙げられる。蒸留装置としては、単蒸留方式のものであってもよく、内部に棚(トレイ)を設けた構造であるものであってもよく、充填物を充填した構造であるものでもよい。
【0068】
蒸留装置として内部に棚(トレイ)を設けた構造であるものを用いた場合に、塔底から上昇して来た蒸気で、投入された揮発性成分及び塔頂から流下して来た内部還流液が加熱され、低沸点成分の有機溶媒を多く含む蒸気が発生する。塔底からの蒸気は、高沸点成分の水を多く含む蒸気が凝縮する。すなわち、各棚(トレイ)上では熱交換とともに物質交換が行われ、塔頂に近づくのに従って低沸点成分に富み、反対に塔底に近づくのに従って高沸点成分に富む。
【0069】
塔頂からの低沸点成分に富む塔頂留分は配管52aを介して装置外に取り出され、凝縮器(コンデンサー)53等で凝縮される。凝縮された塔頂留分は、配管52bを介して還流ポンプ等により蒸留装置に還流量を調節する調節器と調節弁等を経由して一定量で戻される。この還流ポンプ、調節器及び調節弁を総じて還流量調節機構55と称する場合がある。残りの塔頂留分は抽出装置40に再利用される再生溶媒8として残りの塔頂留分の流量を調節する調節器と調節弁(図示せず)を経由して一定流量で抜き出される。残りの塔頂留分の流量を調節する調節器と調節弁を総じて再生溶媒流量調節機構(図示せず)と称する場合がある。抜き出し流量は、抽出装置に用いられる再生溶媒8の使用量に応じて再生溶媒流量調節機構によって設定を変更することができる。なお、ここでいう再生溶媒8は、有機溶媒及び水の混合溶媒であってもよく、有機溶媒のみからなる溶媒であってもよいが、供給水を新たに用いずにすむことから、有機溶媒及び水の混合溶媒であることが好ましい。
【0070】
一方、塔底では再沸器(リボイラー)58に加熱用スチームがリボイラー加熱用スチームの流量を調節する調節器と調節弁により一定流量で供給され、一定熱量が蒸留装置50に供給されることになる。この調節器及び調節弁を総じてリボイラー焚き上げ量調節機構58と称する場合がある。この熱源でリボイラーから発生する水を多く含む蒸気は一定量で発生し、塔内を上方からの還流液と各トレイ上で接触し、熱及び物質交換しながら蒸留操作がおこなわれる。この発生蒸気量は熱源のリボイラー加熱用スチーム量によるリボイラー焚き上げ量によって調節される。
【0071】
蒸留装置50は、蒸留液中の水及び有機溶媒の含有量比が所定の範囲となるようにリボイラー焚き上げ量及び還流量を制御する制御部51を有することが好ましい。蒸留装置50が制御部51を有することで、水及び有機溶媒の含有量比が所定の範囲である再生溶媒8を抽出装置20に再利用できる。制御部51は、再生溶媒8における水及び有機溶媒の含有量比の計測結果から、水及び有機溶媒の含有量比が所定の範囲となるように、還流量調節機構55及びリボイラー焚き上げ量調節機構58を制御して、還流量及びリボイラー焚き上げ量をそれぞれ制御する。具体的には、還流量調節機構55を制御して、還流量を増加させることで、再生溶媒8における有機溶媒の含有量比を増加させることができ、一方、還流量を減少させることで、再生溶媒8における有機溶媒の含有量比を減少させることができる。また、リボイラー焚き上げ量調節機構58を制御して、リボイラー焚き上げ量を増加させることで、再生溶媒8中の水の含有量比を増加させることができ、一方、リボイラー焚き上げ量を減少させることで、再生溶媒8中の水の含有量比を減少ことができる。
【0072】
水及び有機溶媒の含有量比としては、有機溶媒に対する水の割合が質量比で上記抽出装置において例示された範囲であってもよく、或いは、原料として使用されるリグニンを含む固形物中の水分量や供給水の量を加味して、抽出装置20内の混合溶媒における有機溶媒に対する水の割合が質量比で上記抽出装置において例示された範囲となるような水及び有機溶媒の含有量比であってもよい。中でも、蒸留液中の水及び有機溶媒の含有量比は、供給水を用いないでよいことから、原料として使用されるリグニンを含む固形物中の水分量を加味して、抽出装置20内の混合溶媒における有機溶媒に対する水の割合が質量比で上記抽出装置において例示された範囲となるような水及び有機溶媒の含有量比であることが好ましい。そのような水及び有機溶媒の含有量比としては、例えば、固形物の総質量に対して水分の含有量が50質量%であるリグニンを含む固形物:40質量部に、有機溶媒に対する水の割合が質量比で80/20以上60/40以下である再生溶媒:40質量部以上160質量部以下を混合することで、有機溶媒に対する水の割合が質量比で上記抽出装置において例示された範囲とすることができる。このような範囲は、予め制御部に記憶されていてもよく、抽出装置20を稼働させながら混合溶媒における有機溶媒に対する水の割合を検出してその値に基づいて制御部が算出してもよい。
【0073】
回収システム400は、蒸留装置50で得られた蒸留液を抽出装置20に送液するように構成された配管54を更に備えていてもよい。回収システム400は、当該配管54を備えることで、上記蒸留装置50において回収された再生溶媒8を抽出装置に送液し、再利用することができる。
【0074】
本実施形態の回収システムは、図2図5に示す回収システムに限定されず、本発明の効果を損なわない範囲内において、図2図5に示すものの一部の構成が変更又は削除されたものや、これまでに説明したものにさらに他の構成が追加されたものであってもよい。
例えば、図2図5に示す回収システムにおいて、抽出装置の上流に糖化装置を備えていてもよい。糖化装置としては、特別な限定はなく、公知の糖化装置を用いることができる。具体的には、撹拌型、通気撹拌型、気泡塔型、流動層型、充填層型等の糖化装置が挙げられる。また、糖化装置は、装置内の温度を一定に保つために、装置の外側に温水循環式のジャケット等の温度調節装置を備えてもよい。
また、例えば、図2~5に示す回収システムにおいて、糖化装置の下流であって、抽出装置の上流に第2の固液分離装置を備えていてもよい。第2の固液分離装置としては、上記「固液分離装置」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
また、例えば、図2~5に示す回収システムにおいて、糖化装置の上流に前処理装置を備えていてもよい。前処理装置としては、希硫酸蒸解法に用いられる反応容器であることが好ましい。希硫酸蒸解法に用いられる反応容器としては、蒸気供給式のものであれば特に限定はないが、例えば、耐酸性を有するオートクレーブのような加熱圧力装置、又は耐酸性を有する加熱圧力容器を有し、さらにスクリューフィーダーが一体となり連続的に処理を行なえる装置等が挙げられる。
【0075】
<有機溶媒可溶性リグニンの回収方法>
本実施形態の回収方法は、乾燥工程を含む。本実施形態の回収方法は、乾燥工程を備えることで、水を包含せず再凝縮しない固体状の有機溶媒可溶性リグニンを安定的に回収することができる。
【0076】
[乾燥工程]
乾燥工程では、リグニンを含む固形物から有機溶媒及び水の混合溶媒により抽出された有機溶媒可溶性リグニンを含む抽出液を乾燥し、固体状の有機溶媒可溶性リグニンを含む薄膜状の乾燥物を形成させる。
【0077】
乾燥方法としては、例えば、上述した薄膜式乾燥機を用いる方法等が挙げられる。
【0078】
乾燥時間としては、リグニンが析出しない程度の短時間であればよく、乾燥温度等により適宜選択することができるが、例えば、2秒間以上60秒間以下程度とすることができ、2.5秒間以上30秒間以下とすることができる。
【0079】
乾燥温度としては、薄膜式乾燥機の伝熱面を有する部材の当該伝熱面の温度が例えば、80℃以上130℃以下となるような温度条件とすることができる。
【0080】
また、乾燥工程で排出された揮発性成分は、後述する再利用工程において使用することができる。
【0081】
本実施形態の回収方法は、乾燥工程後に、収集工程を更に含んでもよい。
【0082】
[収集工程]
収集工程では、固体状の有機溶媒可溶性リグニンを含む薄膜状の乾燥物を収集する。
【0083】
収集方法としては、上述した掻き取り機構を用いる方法等が挙げられる。すなわち、収集工程は、掻き取り工程ということもできる。薄膜式乾燥機の伝熱面上に形成された薄膜状の乾燥物を掻き取って回収することで、薄膜状の乾燥物が解砕されて、粉末状の有機溶媒可溶性リグニンを回収することができる。
【0084】
また、乾燥工程及び収集工程は交互に連続して行われることが好ましい。上述したように、例えば、伝熱面を含む部材を回転させることで、伝熱面を含む部材を1回転させる間に抽出液の乾燥及び乾燥物の掻き取り操作による回収を効率よく行なうことができ、連続的に有機溶媒可溶性リグニンを回収することができる。
【0085】
本実施形態の回収方法は、乾燥工程前に、抽出工程を更に含んでもよい。本実施形態の回収方法は、抽出工程を含むことで、リグニンを含む固形物から有機溶媒可溶性リグニンを含む抽出液を得ることができる。
【0086】
[抽出工程]
抽出工程では、リグニンを含む固形物と有機溶媒及び水の混合溶媒とを混合し、有機溶媒可溶性リグニンを含む抽出液を分離する工程である。
【0087】
抽出方法としては、リグニンを含む固形物と有機溶媒及び水の混合溶媒とを混合及び攪拌して、有機溶媒可溶性リグニンを有機溶媒に溶解させる方法であればよく、例えば、上記「抽出装置」で例示された装置を用いることができる。
【0088】
使用する混合溶媒の組成、混合溶媒の添加量、抽出時間及び抽出温度等の各種抽出条件は、上記「抽出装置」において例示されたものと同様である。
【0089】
リグニンを含む固形物と有機溶媒及び水の混合溶媒との混合液から有機溶媒可溶性リグニンを含む抽出液を分離する方法としては、例えば、前記混合液を所定の時間、静置することで溶解しなかった固形分が沈殿して下層に移行し、液体分が上層に移行した後、上層の液体成分のみ引き抜く方法等が挙げられる。或いは、例えば、固液分離法を用いて、前記混合液から有機溶媒可溶性リグニンを含む抽出液を分離する方法等が挙げられる。中でも、固液分離法を用いて、前記混合液から有機溶媒可溶性リグニンを含む抽出液を分離する方法が好ましい。
【0090】
すなわち、本実施形態の回収方法は、抽出工程後であって、乾燥工程前に、固液分離工程を更に含んでもよい。
【0091】
[固液分離工程]
固液分離工程では、リグニンを含む固形物と有機溶媒及び水の混合溶媒との混合液から固液分離法により有機溶媒可溶性リグニンを含む抽出液を分離する。本実施形態の回収方法は、固液分離工程を含むことで、前記混合液から前記抽出液を簡便かつ効率よく分離することができる。
【0092】
固液分離する方法としては、固形分と液体分を分けられる公知の方法を用いることができ、例えば、フィルター、振動篩等によりろ過する方法、遠心分離法、スクリュープレスを用いた分離法等が挙げられ、これらに限定されない。
【0093】
本実施形態の回収方法は、乾燥工程前であって、抽出工程後(固液分離工程後)に、揮発工程を更に含んでもよい。
【0094】
[揮発工程]
揮発工程では、抽出液に含まれる混合溶媒の一部を揮発させる。本実施形態の回収方法は、揮発工程を含むことで、上述した乾燥工程のみによって有機溶媒可溶性リグニンを乾燥させる場合よりも、エネルギー消費量を抑えながら、より効率よく有機溶媒可溶性リグニンを回収することができる。
【0095】
揮発工程における処理時間、処理温度等の各種条件は、上記「揮発槽」において例示されたものと同様である。
【0096】
また、揮発工程で抽出液に含まれる混合溶媒の一部を揮発させてなる揮発性成分は、後述する再利用工程において使用することができる。
【0097】
本実施形態の回収方法は、乾燥工程後に、分離工程を更に含んでもよい。
【0098】
[分離工程]
分離工程では、乾燥工程及び揮発工程で排出された揮発性成分から水及び有機溶媒を分離する。本実施形態の回収方法は、分離工程を含むことで、揮発性成分から水及び有機溶媒又は有機溶媒のみからなる再生溶媒を回収することができる。また、回収された再生溶媒は、上述した抽出工程において再利用することができる。蒸留法による水及び有機溶媒を分離する方法としては、上記「分離装置」において例示されたものと同様である。
【0099】
分離法としては、例えば、蒸留法等が挙げられる。すなわち、分離法が蒸留法である場合、分離工程は、蒸留工程ともいえる。
【0100】
本実施形態の回収方法は、蒸留工程後に、再利用工程を更に含んでもよい。
【0101】
[再利用工程]
再利用工程では、蒸留工程で得られた蒸留液(再生溶媒ともいう)を抽出工程に再利用する。
【0102】
このとき、上記蒸留工程において、水及び有機溶媒の含有量比が所定の範囲となるように、リボイラー焚き上げ量及び還流量を制御する。水及び有機溶媒の含有量比が所定の範囲となるように、リボイラー焚き上げ量及び還流量を制御する方法としては、上記「分離装置」において例示されたものと同様である。
【0103】
また、再利用工程では、抽出工程で用いられる混合液中の水及び有機溶媒の含有量比が、上記「抽出装置」において例示された有機溶媒に対する水の含有量の質量比となるように、蒸留工程で得られた蒸留液(再生溶媒)の供給量及び水の供給量を制御する。蒸留液(再生溶媒)の供給量は、上述した再生溶媒流量調節機構により設定を変更することができる。水の供給量も同様に、供給水の流量を調節する調節器と調節弁(これらを総じて、「供給水流量調節機構」と称する場合がある。)により設定を変更することができる。 中でも、新たな水を使用せずにすむことから、供給水を用いずに(すなわち、水の供給量が実質的に0であり)、蒸留液(再生溶媒)の供給量のみを制御することが好ましい。
【0104】
[その他工程]
本実施形態の回収方法は、上記工程に加えて、その他の工程を更に含んでもよい。
【0105】
(糖化工程)
例えば、本実施形態の回収方法は、抽出工程前に糖化工程を更に含んでもよい。糖化工程ではリグニンを含む固形物(リグノセルロース系バイオマス)に含まれるセルロース及びヘミセルロースを基質として、酵素を用いて、糖化反応を行なう。本実施形態の回収方法は、糖化工程を含むことで、リグノセルロース系バイオマスに含まれる有用成分を取り除いた後の残渣(糖化残渣)を有効活用することができる。ここでいう酵素とは、主に糖化酵素である。
【0106】
本明細書において、「糖化酵素」としては、セルロースを分解するセルラーゼ、ヘミセルロースを分解するヘミセルラーゼ、デンプンを分解するアミラーゼ等が挙げられる。
【0107】
前記セルラーゼとしては、セルロースをグルコース等の単糖又はオリゴ糖に分解するものであればよく、例えば、エンドグルカナーゼ(endoglucanase;EG)、セロビオハイドロラーゼ(cellobiohydrolase;CBH)、及びβ-グルコシダーゼ(β-glucosidase;BGL)の各活性の少なくとも1つの活性を有するものが挙げられ、これらの各活性を有する酵素混合物であることが、酵素活性の観点から好ましい。
【0108】
前記ヘミセルラーゼとしては、ヘミセルロースをキシロース等の単糖又はオリゴ糖に分解するものであればよく、例えば、キシラナーゼ、キシロシダーゼ、マンナナーゼ、ガラクトシダーゼ、グルクロニダーゼ、及びアラビノフラノシダーゼの各活性の少なくとも1つの活性を有するものが挙げられ、これらの各活性を有する酵素混合物であることが、酵素活性の観点から好ましい。
【0109】
これらセルラーゼ及びヘミセルラーゼ等の糖化酵素の由来は限定されることはなく、例えば、トリコデルマ(Trichoderma)属、アクレモニウム(Acremonium)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ペニシリウム(Penicillium)属、アエロモナス(Aeromonus)属、イルペックス(Irpex)属、スポロトリクム(Sporotrichum)属、フミコーラ(Humicola)属等の微生物由来のセルラーゼ及びヘミセルラーゼ等の糖化酵素を用いることができる。
【0110】
糖化温度は、45℃以上70℃以下が好ましく、45℃以上55℃以下がより好ましく、50℃が特に好ましい。また、糖化時間は12時間以上120時間以下が好ましく、24時間以上96時間以下がより好ましく、24時間以上72時間以下がさらに好ましい。
【0111】
(第2の固液分離工程)
例えば、本実施形態の回収方法は、抽出工程前であって糖化工程後に、第2の固液分離工程を更に含んでもよい。第2の固液分離工程では、糖化工程で得られた糖化処理生成物を固液分離して、液体分画である糖化液と固体分画である糖化残渣とに分けることで、糖化残渣を得る。本実施形態の回収方法は、第2の固液分離工程を含むことで、糖化液と糖化残渣とを簡便に分離することができる。固液分離する方法としては、上記「固液分離工程」において例示された方法と同様のものが挙げられる。
【0112】
第2の固液分離工程で得られた糖化液は、糖化液から不純物を取り除き精製して、精糖蜜として販売してもよく、又は、糖化液を微生物発酵することで生成される、有機溶媒可溶性リグニンとは異なる有用成分を製造するために用いてもよい。
【0113】
有機溶媒可溶性リグニンとは異なる有用成分とは、草本系バイオマスを分解して得られた単糖及びオリゴ糖を、酵母等の微生物が摂取することにより生成された化合物を意味する。有用成分として具体的には、例えば、エタノール、ブタノール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセロール等のアルコール;ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸、クエン酸、乳酸等の有機酸;イノシン、グアノシン等のヌクレオシド;イノシン酸、グアニル酸等のヌクレオチド;カダベリン等のジアミン化合物等が挙げられる。発酵によって得られた化合物が乳酸等のモノマーである場合は、重合によりポリマーに変換することもある。中でも、有機溶媒可溶性リグニンとは異なる有用成分としては、エタノールが好ましい。
【0114】
(前処理工程)
例えば、本実施形態の回収方法は、糖化工程前に、前処理工程を更に含んでもよい。前処理工程では、続く糖化工程において、糖化反応を効率的に行うためにリグニンを含む固形物(リグノセルロース系バイオマス)を前処理する工程である。本実施形態の回収方法は、前処理工程を含むことで、続く糖化工程を効率よく行なうことができる。
【0115】
リグノセルロース系バイオマスの前処理方法としては、例えば、蒸気のみでの蒸煮法、イオン液体を用いる方法、ミルを用いる粉砕法等が挙げられる。また、また、前処理工程において、必要に応じて、適宜酸又はアルカリを混合させてもよい。酸としては、硫酸(希硫酸を含む)、塩酸、硝酸、リン酸等の中から選ばれ、これらを単独で又は組み合わせて用いてもよい。中でも工業利用には安価で手に入りやすい硫酸が特に好ましい。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアの中から選ばれ、これらを単独で又は組み合わせて用いてもよい。中でも、前処理方法としては、希硫酸を用いた希硫酸蒸解法が好ましい。
【実施例0116】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0117】
[実施例1]
<有機溶媒可溶性リグニン含有抽出液の調製>
草本系バイオマスであるネピアグラス:165kg-dryについて、希硫酸蒸解法により前処理を行い、糖化酵素(セルラーゼ及びヘミセルラーゼの混合物)を用いて糖化を行なった後、得られた糖化液を遠心分離機を用いて固液分離し、糖化残渣:29kg-dryを得た。
次いで、得られた糖化残渣を乾燥させて糖化残渣乾燥物を得た。得られた糖化残渣乾燥物:3.5kg-dryを、アセトン又はエタノールと水との混合溶媒(混合比は質量比で60/40)各31.5kgに添加し、攪拌した後、遠心分離機を用いて固液分離し、抽出液と抽出残渣とを得た。
【0118】
<薄膜式乾燥機による有機溶媒可溶性リグニンの乾燥>
次いで、上記において得られた抽出液をディスクドライヤー(図6A及び図6B参照)を用いて、乾燥させた。乾燥条件は以下に示すとおりである。
【0119】
(乾燥条件)
回転数:3rpm以上20rpm
蒸気温度:110℃
ディスク直径:540mm
有効面積(両面):0.4m
対象試料:抽出液
抽出液の塗布速度:15g/秒
【0120】
ディスクドライヤーは回転数20rpmに設定することで、3秒間程度でディスクが1回転し、ディスク表面に塗布された抽出液中の溶媒が上述したリグニンの凝集析出が発露する前に揮発し、固体状の有機溶媒可溶性リグニン(粉末)を回収することができた。
【0121】
[実施例2]
<有機溶媒可溶性リグニン含有抽出液の溶媒揮発条件の検討>
実施例1と同様の方法を用いて、有機溶媒可溶性リグニンを含有する抽出液を調製した。抽出液の組成は、抽出液の総質量に対して、有機溶媒可溶性リグニン20質量%、溶媒80質量%であった。また、溶媒の組成は、溶媒の総質量に対してアセトン又はエタノール60質量%(抽出液の総質量に対して48質量%)、水40質量%(抽出液の総質量に対して32質量%)であった。
【0122】
次いで、ビーカーに抽出液1800gを入れて、スターラーで攪拌しながら加温し、50℃で溶媒を経時的に揮発させた。揮発性成分を持続的に回収し、回収した揮発性成分中の水及び有機溶媒(アセトン又はエタノール)それぞれの質量を測定した。揮発試験に供した溶媒の総質量に対する回収した揮発性成分中の有機溶媒(アセトン又はエタノール)の質量の百分率を揮発率(質量%、wt%)として算出した。
【0123】
図7は、抽出液中の有機溶媒(アセトン又はエタノール)の揮発率の経時的な変化を示すグラフである。アセトンでは揮発率が15質量%の時点で、エタノールでは揮発率が31質量%の時点で、液表面に析出物が見られた。このとき、ビーカーに残存する抽出液中のアセトンの含有量は、ビーカーに残存する抽出液の総質量に対して55質量%であった。また、ビーカーに残存する抽出液中のエタノールの含有量は、ビーカーに残存する抽出液の総質量に対して53質量%であった。
【0124】
液表面に析出物が現れた時点が、水を介在してリグニンの凝集析出が始める直前であると考えられ、上記時点まで、揮発槽にて抽出液から溶剤を揮発させて抽出液を濃縮することで、エネルギー効率よく固体状の有機溶媒可溶性リグニンを回収できるものと推察された。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本実施形態の有機溶媒可溶性リグニンの回収システム及び回収方法によれば、安定的に固体状のリグニンが得られる有機溶媒可溶性リグニンの回収システム及び回収方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0126】
1:水(供給水)
2:有機溶媒
3:有機溶媒可溶性リグニン
3a:固体状の有機溶媒可溶性リグニン
4:抽出液
5:リグニンを含む固形物
6,7:揮発性成分
8:再生溶媒
9:塔底廃液
10:薄膜式乾燥機
11,12、21,31,41,42,43,52a,52b,52c,54,56a,56b,56c,56d,57:配管
20:抽出装置
30:固液分離装置
40:揮発槽
50:蒸留装置(蒸留塔)
51:制御部
53:凝縮器(コンデンサー)
55:還流量調節機構
58:再沸器(リボイラー)
59:リボイラー焚き上げ量調節機構
100,200,300,400:有機溶媒可溶性リグニンの回収システム
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7