(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175715
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】連続アイオノマー相を有する一体型複合膜
(51)【国際特許分類】
B01D 69/12 20060101AFI20231205BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20231205BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20231205BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20231205BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20231205BHJP
B01D 71/28 20060101ALI20231205BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20231205BHJP
B01D 71/32 20060101ALI20231205BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20231205BHJP
B32B 37/14 20060101ALI20231205BHJP
B32B 5/28 20060101ALI20231205BHJP
H01M 8/1081 20160101ALI20231205BHJP
H01M 8/1058 20160101ALI20231205BHJP
H01M 8/1053 20160101ALI20231205BHJP
H01M 8/1065 20160101ALI20231205BHJP
H01M 8/106 20160101ALI20231205BHJP
H01M 8/18 20060101ALI20231205BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20231205BHJP
【FI】
B01D69/12
B01D69/10
B01D69/02
B01D69/00
B01D71/26
B01D71/28
B01D71/36
B01D71/32
B01D71/68
B32B37/14 Z
B32B5/28 Z
H01M8/1081
H01M8/1058
H01M8/1053
H01M8/1065
H01M8/106
H01M8/18
H01M8/10 101
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023139786
(22)【出願日】2023-08-30
(62)【分割の表示】P 2021504198の分割
【原出願日】2018-07-27
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】391028362
【氏名又は名称】ダブリュ.エル.ゴア アンド アソシエイツ,インコーポレイティド
【氏名又は名称原語表記】W.L. GORE & ASSOCIATES, INCORPORATED
(71)【出願人】
【識別番号】000107387
【氏名又は名称】日本ゴア合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー アガーポブ
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健之
(57)【要約】
【課題】連続アイオノマー相を有する一体型複合膜を提供すること。
【解決手段】微孔質ポリマー構造を有する複合膜、及び、前記複合膜内に連続アイオノマー相を形成するイオン交換材料を提供する。連続アイオノマー相は、アイオノマーの層内に、又はイオン交換材料の複数のコーティングを重ね合わせた任意の数の層間に、内部界面が存在しないことを指す。複合膜は、ブリスター試験手順を受けた後に、0%以下のヘイズ変化を示す。ブリスター試験手順の後に、複合膜上に気泡又はブリスターは形成されない。複合膜のヘイズ値は、5%~95%、10%~90%又は20%~85%である。複合膜は0%の相対湿度で17ミクロンを超える厚さを有することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合膜を形成する方法であって、
(a)支持体層を提供すること、
(b)イオン交換材料を前記支持層に1工程で適用すること、
(c)少なくとも1つの微孔質ポリマー層を含む微孔質ポリマー構造を得ること、
(d)前記少なくとも1つの微孔質ポリマー層を前記イオン交換材料にラミネート化して、連続アイオノマー相を有する含浸された微孔質ポリマー構造を形成すること、
(e)方法工程(d)による、含浸された微孔質ポリマー構造の上面に前記イオン交換材料を適用すること、
(f)第二の微孔質ポリマー層を前記イオン交換材料にラミネート化して、連続アイオノマー相を有する多層の含浸された微孔質構造を形成すること、
(g)前記多層の含浸された微孔質構造を乾燥して、連続アイオノマー相を有する複合膜を形成すること、及び
(h)前記複合膜を熱アニーリングすること、
を含み、前記乾燥及び熱アニーリングを160℃~220℃の温度で行うことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記イオン交換材料は、イオン交換材料の混合物の形態で複数のイオン交換材料を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記イオン交換材料は前記微孔質ポリマー構造内に完全に埋め込まれる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記イオン交換材料は前記微孔質ポリマー構造内に部分的に埋め込まれ、前記複合膜の上面に前記微孔質ポリマー構造の非閉塞部分を残す、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記微孔質ポリマー構造は延伸ポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記微孔質ポリマー構造は炭化水素ポリオレフィンを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記炭化水素ポリオレフィンはポリエチレン、ポリプロピレン又はポリスチレンを含む、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記イオン交換材料は少なくとも1つのアイオノマーを含む、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのアイオノマーはプロトン伝導性ポリマーを含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記プロトン伝導性ポリマーはペルフルオロスルホン酸を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記アイオノマーの層内に、又は前記イオン交換材料の適用及び/又は前記微孔質ポリマー構造のラミネート化の間に、内部界面が形成されない、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記複合膜は0%の相対湿度で10~150ミクロンの厚さを有する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記複合膜は0%の相対湿度で15~80ミクロンの厚さを有する、請求項1記載の方法。
【請求項14】
前記複合膜は0%の相対湿度で20~60ミクロンの厚さを有する、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記イオン交換材料は500~2000g/モル当量の当量を有する、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記イオン交換材料は600~1500g/モル当量の当量を有する、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記イオン交換材料は900~1200g/モル当量の当量を有する、請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記イオン交換材料は810~1100g/モル当量の当量を有する、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一体型複合膜、特に、連続アイオノマー相を有する複合膜に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
陰イオン、陽イオン及び両性複合膜などの複合膜は様々な用途で使用される。例えば、複合膜は、複合膜がカソードとアノードの間に位置する高分子電解質燃料電池の構成要素であり、水素電極の触媒の近くに形成されたプロトンを酸素電極に輸送し、それによって電流を高分子電解質燃料電池から取り出すことを可能にする。これらの高分子電解質燃料電池は、他の燃料電池よりも低い温度で動作するため、特に有利である。また、これらの高分子電解質燃料電池は、リン酸燃料電池に見られる腐食性の酸を含まない。
【0003】
複合膜はまた、電解セル又はフロー電池、例えばレドックスフロー電池などの電気化学デバイス内に含まれる液体を分離するために電気化学デバイスに使用されうる。フロー電池は、電池の2つの液体電解質間の可逆的な還元-酸化反応によって充電及び放電される。イオン交換(すなわち、電流の流れを提供する)は、2つの液体電解質がフロー電池内のそれぞれの空間を循環している間に、複合膜を通して起こる。フロー電池は、幅広い条件で動作することができる拡張可能なシステムである。例えば、フロー電池はスマートグリッドに統合することができ、風力発電所又は太陽光発電所からのエネルギーを貯蔵することに関して有利である。フロー電池は、数年の範囲での高い寿命、簡単なメンテナンス及び全体的なエネルギー効率をさらに特徴とする。
【0004】
燃料電池に組み込まれる複合膜、ならびにレドックスフロー電池、クロルアルカリ電解セル、水の電気分解、拡散透析、電気透析、パーベーパレーション及び蒸気透過用途に使用される複合膜は、通常、アイオノマーの複数のコーティングから構築された不連続アイオノマー相を有するアイオノマーフィルムを含む。しかしながら、これらのアイオノマーフィルム複合膜は、フロー電池の用途で早期構造破損に悩まされる場合がある。フロー電池の動作中のこれらのアイオノマーフィルム複合膜の主な破損モードは、当該膜内部におけるアイオノマーの層内又はアイオノマーの複数のコーティング間での気泡又はブリスターの形成である。したがって、連続アイオノマー相、高いイオン導電性、低い反応種のクロスオーバー、高い機械的強度及び低い面内膨潤性を有する改良された複合膜の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
発明の要旨
1つの実施形態において、本発明はレドックスフロー電池のための複合膜に関する。複合膜は、微孔質ポリマー構造、及び、該微孔質ポリマー構造内に少なくとも部分的に埋め込まれ、該微孔質ポリマー構造の少なくとも一部を閉塞性にするイオン交換材料を含む。イオン交換材料は複合膜内で連続アイオノマー相を形成する。複合膜は、ブリスター試験手順に供された後に、0%以下のヘイズ変化を示す。ブリスター試験手順は、工程1で、複合膜を80℃で6モル/Lの硫酸水溶液中に3分間浸漬すること、工程2で、硫酸水溶液から複合膜を取り出すこと、工程3で、複合膜を周囲条件で脱イオン水中に1分間浸漬すること、工程4で、脱イオン水から複合膜を取り出すこと、工程1~4から構成されるサイクルを少なくとも2回続けて繰り返すこと、工程5で、周囲条件で複合膜を乾燥させること、及び、工程6で、複合膜上に形成された気泡又はブリスターを計数することを含む。様々な実施形態によれば、ブリスター試験手順の後に、複合膜上に気泡又はブリスターは形成されない(すなわち、複合膜上で気泡又はブリスターがゼロであると計数される)。幾つかの実施形態において、複合膜のヘイズ値は5%~95%、10%~90%又は20%~85%である。
【0006】
幾つかの実施形態において、複合膜はイオン交換材料の単一のコーティングを含む。複合膜は、0%の相対湿度で7~100ミクロン、0%の相対湿度で17~50ミクロン又は0%の相対湿度で25~40ミクロンの厚さを有することができる。様々な実施形態による複合膜は0%の相対湿度で17ミクロンを超える厚さを有することができる。
【0007】
幾つかの実施形態において、複合膜は、イオン交換材料の複数のコーティングを含む。そのような実施形態において、イオン交換材料の第一のコーティングは、第二のコーティングを乾燥工程に供することなく、イオン交換材料の第二のコーティング上に形成される。複合膜は、0%の相対湿度で10~150ミクロン、0%の相対湿度で15~80ミクロン又は0%の相対湿度で20~60ミクロンの厚さを有することができる。
【0008】
様々な実施形態によれば、イオン交換材料は、500~2000g/モル当量、700~1500g/モル当量又は900~1200g/モル当量又は810~1100g/モル当量を有することができる。
【0009】
様々な実施形態によれば、複合膜は、複合膜の底面に提供されるイオン交換材料の追加の層をさらに含む。幾つかの実施形態において、微孔質ポリマー構造は、少なくとも2つの微孔質ポリマー層を含む。幾つかの実施形態において、複合膜は、イオン交換材料の混合物の形で複数のイオン交換材料を含む。さらに他の実施形態において、複合膜は、イオン交換材料の層が同じイオン交換材料又は異なるイオン交換材料から形成されるようにして、イオン交換材料の複数の層を含む。
【0010】
別の実施形態において、本発明は、レドックスフロー電池のための複合膜に関する。複合膜は、微孔質ポリマー構造、及び、該微孔質ポリマー構造内に少なくとも部分的に埋め込まれ、該微孔質ポリマー構造の少なくとも一部を閉塞性にするイオン交換材料を含む。イオン交換材料は、複合膜内で連続的なアイオノマー相を形成する。複合膜は0%の相対湿度で17ミクロンを超える厚さを有する。例えば、複合膜は、0%の相対湿度で7~100ミクロン、0%の相対湿度で17~50ミクロン又は0%の相対湿度で25~40ミクロンの厚さを有することができる。
【0011】
別の実施形態において、本発明は、レドックスフロー電池のための複合膜に関する。複合膜は、微孔質ポリマー構造、及び、該微孔質ポリマー構造内に少なくとも部分的に埋め込まれ、該微孔質ポリマー構造の少なくとも一部を閉塞性にするイオン交換材料を含む。イオン交換材料は、複合膜内で連続アイオノマー相を形成する。複合膜は、0%の相対湿度で17ミクロンを超える厚さを有する。例えば、複合膜は、0%の相対湿度で7~100ミクロン、0%の相対湿度で17~50ミクロン又は0%の相対湿度で25~40ミクロンの厚さを有することができる。複合膜は、ブリスター試験手順に供された後に、0%以下のヘイズ変化を示す。すなわち、複合膜のヘイズ値は、ブリスター試験手順に供される前から後で同じままであるか、又は減少する。様々な実施形態によれば、複合膜のヘイズ値は、5%~95%、10%~90%又は20%~85%である。
【0012】
別の実施形態において、上記の複合膜を形成する方法は提供される。この方法は、支持体層を提供すること、1つの工程で前記支持体層にイオン交換材料を適用することを含む。この方法は、少なくとも1つの微孔質ポリマー層を含む微孔質ポリマー構造を得ることをさらに含む。この方法は、少なくとも1つの微孔質ポリマー層をイオン交換材料にラミネート化して、連続アイオノマー相を有する、含浸された微孔質ポリマー構造を形成することをさらに含む。次に、含浸された微孔質ポリマー構造を乾燥させ、熱アニールして複合膜を形成する。
【0013】
他の実施形態において、上記の複合膜を含むフロー電池は提供される。フロー電池は、正の電解質流体を含むカソードリザーバ、負の電解質流体を含むアノードリザーバ、及び、正電極を有する第一の側と負電極を有する第二の側との間に配置された上記の複合膜を含む交換領域を含むことができる。カソードリザーバは、第一のポンプを介して交換領域の第一の側に接続され、アノードリザーバは、第二のポンプを介して交換領域の第二の側に接続される。
【0014】
他の実施形態において、複合膜は提供され、該複合膜は、未処理の微孔質ポリマー構造を得ること、イオン交換材料を含む含浸剤溶液を前記未処理の微孔質ポリマー構造に適用して、連続アイオノマー相を有する、処理された微孔質ポリマー構造を形成すること、及び、前記処理された微孔質ポリマー構造を乾燥及び熱アニーリングして複合膜を形成することを含むプロセスによって調製され、ここで、イオン交換材料は複合膜内に連続アイオノマー相を形成し、複合膜はブリスターテスト手順に供された後に0%以下のヘイズ変化を示す。
【0015】
本発明の他の態様及び変形は、その後の議論において明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図面の簡単な説明
本発明は、以下の非限定的な図を考慮してよりよく理解されるであろう。
【0017】
【
図1】
図1A~1Cは、気泡又はブリスターを含む複合膜の断面の顕微鏡写真を示す。
【0018】
【
図2】
図2A及び2Bは、2つのアイオノマー間の界面内に気泡又はブリスターを含む不連続アイオノマー相を有する複合膜の断面の顕微鏡写真を示す。
【0019】
【
図3A】
図3Aは、本発明の幾つかの態様による複合膜の断面側面図を示す。
【0020】
【
図3B】
図3Bは、本発明の幾つかの態様による例示的な複合膜を構築するための方法の例示的なフロー図を示す。
【
図3C】
図3Cは、本発明の幾つかの態様による例示的な複合膜を構築するための方法の例示的なフロー図を示す。
【
図3D】
図3Dは、本発明の幾つかの態様による例示的な複合膜を構築するための方法の例示的なフロー図を示す。
【0021】
【
図3E】
図3Eは、様々な実施形態による、フィブリルによって相互接続されたノードを特徴とする多孔質基材及び連続アイオノマー相を備えた複合膜の顕微鏡写真を示す。
【
図3F】
図3Fは、様々な実施形態による、フィブリルによって相互接続されたノードを特徴とする多孔質基材及び連続アイオノマー相を備えた複合膜の顕微鏡写真を示す。
【0022】
【
図4】
図4は、本発明の幾つかの態様による、複合膜を含むフロー電池の概略図を示す。
【0023】
【
図5】
図5A~5Bは、本発明の幾つかの態様による、複合膜の全光透過率を測定するためのヘイズ試験装置の概略図を示す。
【0024】
【
図6】
図6A~6Bは、ブリスター試験の前後に、それぞれ、本発明の態様に従って調製された例示的な複合膜及び従来のイオン交換膜を示す。そして
【0025】
【
図7】
図7A~7Cは、本発明の幾つかの態様によるブリスター試験後の本発明の態様に従って調製された複合膜のサンプルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な説明
I.イントロダクション
1つの実施形態において、本発明は、イオン交換材料を含む含浸剤とともに多孔質基材を含む複合膜(例えば、アイオノマーフィルム複合膜)を対象とする。しかし、従来のアイオノマーフィルム複合膜に関連する問題の1つは、特にフロー電池で使用した場合に、構造的一体性を維持する能力が低下されることである。例えば、アイオノマーの層内や、アイオノマーフィルム複合膜の製造のために使用される従来のマルチパスコーティングプロセスに由来するアイオノマーの複数のコーティング間の、弱い内部界面において、膜の内部のアイオノマーフィルム複合膜に気泡又はブリスターが形成され得ることを発見した。
図1A~1Cは、アイオノマーの複数のコーティング130の間の弱い内部界面120に気泡又はブリスター110を有する従来のアイオノマーフィルム複合膜100の顕微鏡写真を示す。
【0027】
アイオノマーフィルム複合膜を作製するための従来のマルチパスコーティングプロセスは、第一のパスのアイオノマーコーティングを含み、これは、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)などの多孔質基材をペルフルオロスルホン酸ポリマーなどの含浸剤と接触させて、第一のパスのアイオノマーを形成することを含む。次に、第一のパスのアイオノマーをオーブン内で加熱して、含浸剤を含む多孔質基材を乾燥させ、熱アニールする。続いて、第二のパスのアイオノマーコーティングを、すでに乾燥された第一のパスのアイオノマーに適用し、多孔質基材と接触して第二のパスのアイオノマーを生成し、そして第二のパスのアイオノマーを乾燥させる。場合により、追加のパスのアイオノマーコーティング(複数)を重ね合わせ、多孔質基材と接触させ、乾燥及びアニールしてもよい。得られる構造は、各アイオノマー間、例えば、第一のパスのアイオノマーと第二のパスのアイオノマーとの間に内部界面を有する不連続アイオノマー相を特徴とする。
図2A~2Bは、各アイオノマー240間の内部界面230に形成された気泡又はブリスター220を有する不連続アイオノマー相210を有する従来のアイオノマーフィルム複合膜200の顕微鏡写真を示す。フィブリル様構造250は気泡又はブリスター220内に観察される。
【0028】
理論に拘束されるものではないが、フロー電池で使用される液体電解質がアイオノマーの層内又は各アイオノマー間の内部界面に引き付けられることで、フロー電池の動作中の複合膜の内部に浸透圧勾配を発生させる可能性がある。浸透圧勾配は、フロー電池の動作中に内部界面中に水を引き込むための駆動力として作用する。内部界面中に引き込まれる水に関連する水力学的膨張力は、各アイオノマー間に気泡又はブリスターの形成をもたらす。
【0029】
これらの問題に対処するために、1つの実施形態において、本発明はさらに、連続アイオノマー相を有する複合膜を対象とする。本明細書に使用されるときに、「連続アイオノマー相」とは、多孔質基材及び/又はイオン交換材料の任意の数の層又はコーティングを重ね合わせたものであって、アイオノマーの層内又は層間もしくはコーティング間に内部界面を有しないものを意味する。一体型界面は、例えば、次の層又はコーティングを適用する前に、多孔質基材及び/又はイオン交換材料を乾燥及び熱アニーリングすることによって得ることができる。幾つかの実施形態において、本明細書に記載のように、単一パスのアイオノマーコーティングプロセスを行い、連続アイオノマー相を有する単一パスのアイオノマー複合膜を作成する。単一パスのイオノマーコーティングで作られた複合膜は、場合により、相対湿度(RH)0%で7~100ミクロン、0%RHで17~50ミクロン又は0%RHで25~40ミクロンの範囲の厚さを有し、場合により、3g/m2~80g/m2の多孔質基材又は5g/m2~50g/m2の多孔質基材又は10g/m2~30g/m2の多孔質基材を含む。代替の実施形態において、複数パスのアイオノマーコーティングプロセスは、本明細書に記載のように、コーティングの各パス間に乾燥工程なしで行われ、連続アイオノマー相を有する複数パスのアイオノマー複合膜を作成する。複数パスのイオノマー複合膜は、場合により、0%RHで10~150ミクロン、0%RHで15~80ミクロン又は0%RHで20~60ミクロンの範囲の厚さを有し、場合により、3g/m2~80g/m2の多孔質基材又は5g/m2~50g/m2の多孔質基材又は10g/m2~30g/m2の多孔質基材を含む。幾つかの実施形態において、特定の当量のイオン交換材料は、本明細書に記載されるように、アイオノマーコーティングプロセスに使用されて、連続的なアイオノマー相を有する複合膜を作成する。イオン交換材料は、場合により、500~2000g/モル当量又は700~1500g/モル当量又は700~1200g/モル当量又は810~1100g/モル当量の当量を有する。幾つかの実施形態において、単一パス又は複数パスのアイオノマーコーティングプロセスは、本明細書に記載のように、コーティングの各パス間の乾燥工程なしで行われ、所定のヘイズを有する連続アイオノマー相を有する複合膜を作成する。複合膜のヘイズは、場合により、5%~95%又は10%~90%又は20%~85%である。複合膜は、そのような膜がブリスター試験手順に供された後に、場合により、そのヘイズ値の減少を示し又は変化を示さない。したがって、本発明は、1つの実施形態において、アイオノマーの層内又はアイオノマーの複数のコーティング間に内部界面を有せず、望ましい高いイオン電導性、反応種の低いクロスオーバー、高い機械的強度及び低い面内膨潤特性を示す連続アイオノマー相を有する複合膜を対象とする。
【0030】
本開示で使用される様々な定義を以下に提供する。
【0031】
本明細書で使用されるときに、「アイオノマー」及び「イオン交換材料」という用語は、陽イオン交換材料、陰イオン交換材料又は陽イオン及び陰イオン交換能力の両方を含むイオン交換材料を指す。イオン交換材料の混合物を使用することもできる。イオン交換材料は、過フッ素化又は炭化水素ベースであることができる。適切なイオン交換材料としては、例えば、ペルフルオロスルホン酸ポリマー、ペルフルオロカルボン酸ポリマー、ペルフルオロホスホン酸ポリマー、スチレンイオン交換ポリマー、フルオロスチレンイオン交換ポリマー、ポリアリールエーテルケトンイオン交換ポリマー、ポリスルホンイオン交換ポリマー、ビス(フルオロアルキルスルホニル)イミド、(フルオロアルキルスルホニル)(フルオロスルホニル)イミド、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ジビニルベンゼン、ポリマーを含む又は含まない金属塩及びそれらの混合物が挙げられる。例示的な実施形態において、イオン交換材料は、テトラフルオロエチレンとペルフルオロスルホニルビニルエステルとの共重合によって製造されたペルフルオロスルホン酸(PFSA)ポリマーであって、プロトン形態に転化されたものを含む。もちろん、特定のイオン交換材料の適合性は、複合膜が意図されている用途にある程度依存する。燃料電池又はフロー電池用途で使用するのに適したペルフルオロスルホン酸ポリマーの例としては、Nafion(登録商標)(El DuPont de Nemours,Inc., Wilmington, Del., US)、Flemion(登録商標)(Asahi Glass Co. Ltd., Tokyo, JP)及びAciplex(登録商標)(Asahi Chemical Co. Ltd., Tokyo, JP)が挙げられ、それらは市販のペルフルオロスルホン酸コポリマーである。燃料電池用途で使用するのに適したペルフルオロスルホン酸ポリマーの他の例としては、米国特許第5,463,005号明細書に記載されているものなどの過フッ素化スルホニル(コ)ポリマーが挙げられる。
【0032】
本明細書で使用されるときに、「連続アイオノマー相」は、内部界面を有しないアイオノマーを指す。連続アイオノマー相は、限定するわけではないが、単一パスのアイオノマーコーティングで作られた複合膜を指すことができる。単一パスのアイオノマーコーティングで作られた複合膜は、互いに重なり合って形成され、乾燥されそして熱アニール(例えば硬化)された材料の1つ以上の層(例えば、バッカー層上に形成され、微孔質ポリマー層とラミネート化された吸収層のコーティング(例えば、微孔質ポリマー構造中に含浸されたアイオノマー層))を含むことができる。
【0033】
本明細書で使用されるときに、「微孔質ポリマー構造」という用語は、イオン交換材料を支持し、得られる複合膜に構造的一体性及び耐久性を付加するポリマーマトリックスを指す。例示的な実施形態において、微孔質ポリマー構造は、ノード及びフィブリル構造を有する延伸ポリテトラフルオロエチレンを含む。本明細書に記載の微孔質構造は、肉眼では見えない細孔を有する。様々な任意選択的な実施形態によれば、細孔は、0.01~100ミクロン、例えば、0.05~10ミクロン又は0.1~1ミクロンの平均細孔サイズを有することができる。
【0034】
幾つかの実施形態において、微孔質ポリマー構造は、0.01~100ミクロン、例えば、0.05~10ミクロン又は0.1~1ミクロンの平均細孔サイズを有する延伸ポリテトラフルオロエチレンである。
【0035】
本明細書で使用されるときに、微孔質ポリマー構造の内部体積は、前記内部体積が10体積%未満である低体積のボイドを特徴とし、10000秒を超えるガーレー数である、気体に対する非常に不透過性である構造を有するときに「実質的に閉塞された」と呼ばれる。逆に、微孔質ポリマー構造の内部体積は、前記内部体積が10体積%を超える大体積のボイドを特徴とし、10000秒未満であるガーレー数である、気体に対する透過性である構造を有するときに「非閉塞」と呼ばれる。
【0036】
幾つかの実施形態において、微孔質ポリマー構造は、0.01~100ミクロン、例えば、0.05~10ミクロン又は0.1~1ミクロンの平均細孔サイズを有し、10体積%未満のボイドを有する延伸ポリテトラフルオロエチレンである。
【0037】
適切な微孔質ポリマー構造は、複合膜が使用される用途に大きく依存する。微孔質ポリマー構造は、好ましくは、良好な機械的特性を有し、複合膜が使用される環境において化学的及び熱的に安定であり、含浸のためにイオン交換材料とともに使用されるいかなる添加剤に対しても耐性がある。レドックスフロー電池又は燃料電池用途に適した微孔質ポリマー構造は、多孔質ポリマー材料を含むことができる。多孔質ポリマー材料は、フルオロポリマー、塩素化ポリマー、炭化水素、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリスルホン、コポリエーテルエステル、ポリフッ化ビニリデン、ポリアリールエーテルケトン、ポリベンズイミダゾール、ポリ(エチレン-コ-テトラフルオロエチレン)、ポリ(テトラフルオロエチレン-コ-ヘキサフルオロプロピレン)を含むことができる。幾つかの実施形態において、微孔質ポリマー構造は過フッ素化多孔質ポリマー材料を含む。過フッ素化多孔質ポリマー材料は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、延伸ポリフッ化ビニリデン(ePVDF)、延伸ポリ(エチレン-コ-テトラフルオロエチレン)(eEPTFE)又はそれらの混合物を含むことができる。幾つかの実施形態において、微孔質ポリマー構造は炭化水素材料を含む。炭化水素材料は、ポリエチレン、膨張ポリエチレン、ポリプロピレン、膨張ポリプロピレン、ポリスチレン又はそれらの混合物を含むことができる。レドックスフロー電池又は燃料電池用途で使用するのに適した過フッ素化多孔質ポリマー材料の例としては、米国特許第8,757,395号明細書の教示に従って製造されるePTFEが挙げられ、該文献の全体を参照により本明細書に取り込み、Elkton, MDのW. L. Gore & Associates, Inc.から様々な形態で市販されている。
【0038】
II.複合膜
連続アイオノマー相又は不連続アイオノマー相のいずれかを有する複合膜は所定のヘイズを有する。ヘイズとは、複合膜による光の広角散乱を指し、複合膜を通して見たときに物体を見ることができる光学的コントラストの損失を生じる。ヘイズは、本明細書で詳細に記載されるように、ヘイズメータ又は透明度メータで測定することができる。連続アイオノマー相を有する複合膜はブリスター生成しない。したがって、連続アイオノマー相を有する複合膜のヘイズは、ブリスター試験又はフロー電池における連続操作後に変化しない。一方、不連続アイオノマー相を有する複合膜(すなわち、連続アイオノマー相を有しない複合膜)はブリスター生成する。したがって、不連続アイオノマー相を有する複合膜のヘイズはブリスター試験又はフロー電池における連続操作後に変化する。連続アイオノマー相を有する複合膜のヘイズは、ブリスター試験前の連続アイオノマー相を有しない複合膜のヘイズと同様である。しかしながら、連続アイオノマー相を有する複合膜のヘイズは、ブリスター試験後の連続アイオノマー相を有しない複合膜のヘイズとは異なる。
【0039】
連続アイオノマー相又は不連続アイオノマー相のいずれかを有する複合膜はまた、膜がフロー電池において所定の時間連続的に使用された後に、又は、本明細書に詳細に記載されているブリスター試験手順を受けた後に測定されうる所定の気泡又はブリスター密度を有する。気泡又はブリスターの面積は、複合膜における気泡又はブリスターの面積に対する複合膜の面積の比率として測定される。
【0040】
幾つかの実施形態において、単一パスのアイオノマーコーティングを介して形成され、フロー電池で10日間連続使用した後の連続アイオノマー相を有する複合膜の所定の気泡又はブリスター密度は、0.3%未満、0.2%未満又は0.1%未満又は0%である。代替の実施形態において、コーティングの各パス間に乾燥工程なしで複数パスのアイオノマーコーティングを介して形成され、フロー電池で10日間連続使用した後の連続アイオノマー相の気泡又はブリスター面積は、0.3%未満、0.2未満%又は0.1%未満又は0%である。他の実施形態において、単一パスのアイオノマーコーティングを介して形成され、ブリスター試験手順を受けた後の連続アイオノマー相を有する複合膜の気泡又はブリスター面積は0.3%未満、0.2%未満又は0.1%未満又は0である。代替の実施形態において、コーティングの各パスの間に乾燥工程なしで複数パスのアイオノマーコーティングを介して形成され、ブリスター試験手順を受けた後の連続アイオノマー相の気泡又はブリスター面積は0.3%未満、0.2%未満又は0.1%未満又は0%である。幾つかの実施形態において、単一パスのアイオノマーコーティングを介して形成され、ブリスター試験手順を受けた後の連続アイオノマー相を有する複合膜のヘイズの変化は、0%以下、0%~-60%又は0%~-45%又は0%~-30%又は0%~-21%である。代替の実施形態において、コーティングの各パスの間に乾燥工程なしで複数パスのアイオノマーコーティングを介して形成され、ブリスター試験を受けた後の連続アイオノマー相を有する複合膜のヘイズの変化は0%以下、0%~-60%又は0%~-45%又は0%~-30%又は0%~-21%である。
【0041】
a.連続アイオノマー相を有する複合膜
上記のように、様々な実施形態による複合膜は連続アイオノマー相を有する。
図3Aに示されるように、微孔質基材306、及び、連続アイオノマー相350(すなわち、アイオノマーコーティング間に界面がない)を特徴とするイオン交換材料又はイオン交換樹脂304を含む含浸剤を含む、複合膜は提供される。多孔質基材306は、0.4mm(400ミクロン)未満の厚さによって画定される膜である。イオン交換樹脂304は、内部体積を実質的に閉塞性にするように、多孔質基材306を実質的に含浸する。例えば、多孔質基材306の内部体積の90%を超える体積をイオン交換樹脂304で充填することにより、実質的な閉塞が起こるであろう。
【0042】
本開示の複合膜は様々な用途で使用することができる。幾つかの実施形態において、本開示の複合膜は、極性ベースの化学的分離、パーベーパレーション、ガス分離、透析分離、クロルアルカリ電解などの工業的電気化学及び他の電気化学的用途において使用されることができ、超酸触媒としての使用又は酵素固定化における媒体としての使用に用いられることができる。好ましい実施形態において、本開示の複合膜を電気化学用途で使用して、電気化学デバイス内に含まれる液体を分離することができる。好ましい実施形態において、本開示の複合膜を燃料電池に使用することができる。別の好ましい実施形態において、本開示の複合膜は、水電解セル、水電解槽で使用することができる。さらに別の好ましい実施形態において、本開示の複合膜は、レドックスフロー電池などのフロー電池に使用することができる。
【0043】
含浸剤は、イオン交換材料又はイオン交換樹脂304を含む。イオン交換材料又はイオン交換樹脂304は、陽イオン交換材料、陰イオン交換材料又は陽イオン交換能力及び陰イオン交換能力の両方を含むイオン交換材料である。イオン交換材料の混合物もまた、含浸剤として使用されうる。
【0044】
場合により、含浸剤溶液はさらに界面活性剤を含む。界面活性剤は、多孔質基材の内部体積の含浸を確実にするために、イオン交換材料とともに使用されうる。疎水性部分及び親水性部分を有する界面活性剤又は表面活性剤を利用することができる。好ましい界面活性剤は100を超える分子量を有するものであり、炭化水素又はフルオロカーボン系であることができる陰イオン性、非イオン性又は両性として分類されることができ、例えば、炭化水素系界面活性剤であるMerpol(登録商標)又はフルオロカーボン系界面活性剤であるZonyl(登録商標)を挙げることができ、両方ともWilmington, DEのE.I.DuPont de Nemours, Inc.から市販されている。
【0045】
様々な実施形態において、界面活性剤は、非イオン性材料である以下の化学構造を有するオクチルフェノキシポリエトキシエタノールである:
【化1】
(上式中、x=10(平均)である)。これはTriton X-100として知られており、Philadelphia, PaのRohm & Haasから市販されている。
【0046】
含浸剤は、所望に応じて、他の成分をさらに含むことができる。例えば、含浸剤は、電極触媒組成物を含むことができる。適切な触媒組成物としては、貴金属、遷移金属、それらの酸化物、それらの合金及びそれらの混合物を含む非担持及び担持触媒が挙げられる。複合膜のイオン交換層における電極触媒の存在は、例えば、直接メタノール燃料電池用途におけるメタノールなどの反応体のクロスオーバーを低減するために望ましい場合がある。さらに、電極触媒は、より効果的なアイオノマー-電極触媒相互作用を提供することができ、それにより、反応体ガスの酸化及び還元を促進することができる。
【0047】
含浸剤は、通常の動作条件下で複合膜内の水分保持を促進する電気化学的に不活性な材料をさらに含むことができる。ポリマー、非ポリマー又はヒドロゲル材料は適切であることができる。例えば、含浸剤は、米国特許第5,523,181号明細書(参照により本明細書に取り込まれる)に記載されているような、粒子状シリカ及び/又は繊維状シリカ、又は、Chemistry of Materials, Vol. 7, pp.2259-2268(1995)に記載されているような酸化ケイ素を含むハイドロゲルをさらに含むことができる。他の適切なそのような材料は当業者に明らかであろう。
【0048】
含浸剤は、例えば、ポリアリールエーテルケトン又はポリスルホンなどの非イオン性ポリマーの相容性混合物をさらに含むことができる。含浸剤中に非イオン性ポリマーを有することは、幾つかの用途で有利な場合がある。例えば、含浸剤中の非イオン性ポリマーは、直接メタノール燃料電池におけるメタノールクロスオーバーの量を低減することができる。
【0049】
ポリマー組成物が使用される実施形態において、含浸剤は、典型的には、適切な溶媒中に含浸剤を含む含浸剤溶液を介して多孔質基材に導入される。溶媒の選択は、部分的には、含浸剤の組成及び多孔質基材の組成の両方に依存するであろう。適切な溶媒としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、ブタノール、メタノール、ケトン、カーボネート、テトラヒドロフラン、アセトニトリルN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド及びそれらの混合物が挙げられる。本明細書で使用されるときに、「溶媒」は、任意の適切な溶媒又は溶媒の混合物を意味する。
【0050】
あるいは、イオン交換材料は、多孔質基材に含浸され、続いて重合されるか、又はさもなければ化学的に結合されうる1つ以上のモノマー又はオリゴマーを含むことができる。したがって、本明細書で使用されるときに、「含浸剤溶液」は、溶媒中のイオン交換モノマー、オリゴマー、ポリマー及び/又はそれらの混合物、ならびに純粋なイオン交換材料モノマー及び/又はオリゴマーを含む。含浸剤溶液がイオン交換材料とは別の追加成分を含む場合には、その成分については液相に溶解する必要はないことに留意されたい。この場合、含浸剤溶液は分散液であってもよい。
【0051】
一実施形態において、レドックスフロー電池のための複合膜は、0.01~100ミクロンの平均細孔サイズを有する延伸ポリテトラフルオロエチレン、及び、該微孔質ポリマー構造内に少なくとも部分的に埋め込まれ、該微孔質ポリマー構造の少なくとも一部を閉塞性にする、EWが810~1100g/(モル酸当量)のペルフルオロスルホン酸樹脂を含むことができる。ペルフルオロスルホン酸樹脂は複合膜内に連続アイオノマー相を形成する。複合膜は、ブリスター試験手順を受けた後に、0%以下のヘイズ変化を示す。
【0052】
b.複合膜を調製するためのプロセス
図3B~3Cは、本開示の様々な態様による、例示的な複合膜300及び380をそれぞれ構築するためのプロセス340及び360の例示的なフロー図を示す。フロー図は、本開示の様々な実施形態によるシステム及び方法の可能な実施のアーキテクチャ、機能及び動作を示している。行うことに論理的に意味がある幾つかの代替実施形態において、各ブロックに示されている機能は図に示されている順序と異なることができる。例えば、連続して示される2つのブロックは、実際には、実質的に同時に行われることができ、又は、関与する機能、プロセス又は最終製品に応じて、ブロックは時に逆の順序で行われることができる。
【0053】
図3Bを参照すると、プロセス340の例示的なフロー図は、完全に吸収された微孔質ポリマー構造307、イオン交換材料の追加層305及びコーティングされていない非閉塞性層309を有する複合材料300を形成する方法を示す。プロセス340は、バッカー302のような支持構造体を提供することを含む。
【0054】
適切な支持構造は、例えば、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンの織物繊維から作られたスクリムを含むことができる織物材料、Minneapolis, MinnのConwed, Inc.から市販されている、押出又は配向されたポリプロピレン又はポリプロピレンネッティングから作られたウェブ、及び、Briarcliff Manor, N.Y.のTetko Inc. から入手されるポリプロピレン及びポリエステルの織物材料を含むことができる。適切な不織布材料は、例えば、Old Hickory, Tenn.のReemay Inc.からのスパンボンドポリプロピレンを含むことができる。他の態様において、支持構造は、ポリエチレン(「PE」)、ポリスチレン(「PS」)、環状オレフィンコポリマー(「COC」)、環状オレフィンポリマー(「COP」)、フッ素化エチレンプロピレン(「FEP」)、ペルフルオロアルコキシアルカン(「PFA」)、エチレンテトラフルオロエチレン(「ETFE」)、ポリフッ化ビニリデン(「PVDF」)、ポリエーテルイミド(「PEI」)、ポリスルホン(「PSU」)、ポリエーテルスルホン(「PES」)、ポリフェニレンオキシド(「PPO」)、ポリフェニルエーテル(「PPE」)、ポリメチルペンテン(「PMP」)、ポリエチレンテレフタレート(「PET」)又はポリカーボネート(「PC」)のウェブを含むことができる。幾つかの態様において、支持構造はまた、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(「PS」)、環状オレフィンコポリマー(「COC」)、環状オレフィンポリマー(「COP」)、フッ素化エチレンプロピレン(「FEP」)、ペルフルオロアルコキシアルカン(「PFA」)、エチレンテトラフルオロエチレン(「ETFE」)、ポリフッ化ビニリデン(「PVDF」)、ポリエーテルイミド(「PEI」)、ポリスルホン(「PSU」)、ポリエーテルスルホン(「PES」)、ポリフェニレンオキシド(「PPO」)、ポリフェニルエーテル(「PPE」)、ポリメチルペンテン(「PMP」)、ポリエチレンテレフタレート(「PET」)又はポリカーボネート(「PC」)を含むことができる保護層をも含む。
【0055】
さらに他の態様において、支持構造は、場合により、金属基材(例えば、アルミニウム基材)を含む反射層を含むことができる。選択される特定の金属は、反射性である限り、多種多様であることができる。例示的な金属の非限定的なリストとしては、アルミニウム、ベリリウム、セリウム、クロム、銅、ゲルマニウム、金、ハフニウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、白金、ロジウム、銀、タンタル、チタン、タングステン、亜鉛、又は、インコネル又はブロンズなどの合金が挙げられる。反射層は、場合により、2つ以上の金属の混合物又は合金を含み、場合により、上記の2つ以上の金属の混合物又は合金を含む。反射層は、場合により、3M社から入手可能なVikuiti(商標)Enhanced Specular Reflectorなどの高反射率ポリマー多層フィルムを含むことができる。さらに別の例において、反射層は、場合により、例えば、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、二酸化チタン、二酸化ケイ素などの材料を含む高反射率の非金属無機誘電体多層膜を含むことができる。
【0056】
工程342において、第一のイオン交換材料は、順方向ロールコーティング、逆方向ロールコーティング、グラビアコーティング、ドクターコーティング、キスコーティング、スロットダイコーティング、スライドダイコーティング、ならびに、ディッピング、ブラッシング、塗装及びスプレイを含む単一パス又は複数パスのイオノマーコーティング技術において、制御された厚さの層として支持構造に適用される。第一のイオン交換材料は、イオン交換材料を溶媒中に溶解することによって調製することができる。第一のイオン交換材料はイオン交換材料及び溶媒、ならびに、場合により、界面活性剤などの追加の成分を含むことができる。幾つかの実施形態において、イオン交換材料は、陽イオン交換材料、陰イオン交換材料、又は、陽イオン交換能力及び陰イオン交換能力の両方を含むイオン交換材料である。溶媒の選択は、アイオノマーの組成及び多孔質基材の組成の両方に部分的に依存する場合がある。
【0057】
工程344において、未処理の微孔質ポリマー構造は、技術が未処理の微孔質ポリマー構造の完全性を損なわない限り、例えば、熱間圧延積層、超音波積層、接着剤積層、接触積層又は強制熱風積層などの任意の従来の技術によって、第一のイオン交換材料の少なくとも一部の上にラミネート化される。幾つかの実施形態において、未処理の微孔質ポリマー構造は、微孔質ポリマー構造を有するePTFEを含む。微孔質ポリマー構造は、その厚さ全体にわたって均一な構造及び組成を特徴とすることができる。他の態様において、微孔質ポリマー構造の構造及び組成は、その厚さ全体にわたって変化しうる。調製された又は得られた微孔質ポリマー構造は、0%の相対湿度で400ミクロン未満の厚さ、例えば、1ミクロン~400ミクロンの厚さを有することができる。未処理の微孔質ポリマー構造の単位面積あたりの質量は、相対湿度0%で0.05g/m2を超えることができ、例えば、0.3g/m2~80g/m2であることができる。
【0058】
例えば、バッカーのようなキャリア支持体は、ローラー巻き戻しステーションから、位置合わせ及び張力ローラーを介してコーティングステーションに連続的に供給されうる。イオン交換材料は、例えばドクターブレードなどの適切なコーティング手段によって、キャリア支持体(バッカー)の表面上に制御された厚さの層として適用することができる。未処理の微孔質ポリマー構造は、ローラー巻き戻しステーションから位置合わせローラーに連続的に供給されることができ、コーティングされたキャリア支持体と接触し、イオン交換材料で含浸される。あるいは、キャリア支持体を排除することができ、イオン交換材料の層を、未処理の微孔質ポリマー構造に直接適用することができる。
【0059】
工程346において、処理された微孔質ポリマー構造はオーブンに入れられて、乾燥され、熱アニールされ、複合膜の構築が完成する。オーブン温度は60℃より高くてもよく、例えば、60℃~220℃又は150℃~200℃であることができる。処理された微孔質ポリマー構造をオーブン内で乾燥及び熱アニーリングすると、イオン交換材料を内部膜表面に確実に接着し、そして場合により、外部膜表面に、例えば、微孔質ポリマー構造のフィブリル及び/又はノードに接着する。得られた乾燥及びアニールされた複合膜300は、17ミクロンよりも大きい厚さ、例えば、相対湿度0%で17ミクロン~100ミクロンの厚さを有することができる。複合膜の質量は、30g/m2より大きくてもよく、例えば、0%の相対湿度で30g/m2~200g/m2であることができる。
【0060】
ここで
図3Cを参照すると、プロセス360の例示的なフロー図は、完全に吸収された微孔質ポリマー構造307、イオン交換材料の追加の層305及び部分的にコーティングされた非閉塞性層319を有する複合材料380を形成する方法を示す。プロセス360は、プロセス340と同様に、織物材料などの支持構造(例えば、バッカー)302を提供することを含む。
【0061】
工程362において、第一のイオン交換材料は、プロセス340の工程342と同様に、制御された厚さの層として支持構造(バッカー)に適用される。工程362の記載は、それが上記のプロセス340の工程342と同一であるため、ここでは省略される。
【0062】
工程364において、未処理の微孔質ポリマー構造は、技術が未処理の微孔質ポリマー構造の完全性を損なわない限り、熱間圧延積層、超音波積層、接着剤積層、接触積層又は強制熱風積層などの任意の従来の技術によって、第一のイオン交換材料の第一の部分の上にラミネート化される。幾つかの実施形態において、未処理の微孔質ポリマー構造は、微孔質ポリマー構造を有するePTFEを含む。微孔質ポリマー構造は、その厚さ全体にわたって均一な構造及び組成を特徴とすることができる。他の態様において、微孔質ポリマー構造の構造及び組成はその厚さ全体にわたって変化しうる。
【0063】
ラミネート化後に、タッチロール310を使用して、微孔質ポリマー構造の上部を、例えば、アイオノマーコーティングでコーティングすることができる。
【0064】
工程366はプロセス340の工程346と同様である。したがって、工程366の記載はここでは省略されている。乾燥及びアニールされて調製又は得られた微孔質ポリマー構造は相対湿度0%で17ミクロンを超える厚さ、例えば、17ミクロン~100ミクロンの厚さを有することができる。複合膜の質量は相対湿度0%で30g/m2より大きくてよく、例えば、30g/m2~200g/m2であることができる。
【0065】
ここで
図3Dを参照すると、プロセス320の例示的なフロー図は、完全に吸収された微孔質ポリマー構造307、及び、イオン交換材料の2つの追加の層305を有する複合材料321を形成するための方法を示す。プロセス320は、プロセス340及び360と同様の織物材料などの支持構造(例えば、バッカー)302を提供する。
【0066】
工程322において、第一のイオン交換材料は、プロセス340の工程342と同様に、制御された厚さの層として支持構造(バッカー)に適用される。工程322の記載は、上記のプロセス340の工程342と同一であるため、ここでは省略される。
【0067】
工程324において、未処理の微孔質ポリマー構造は、技術が未処理の微孔質ポリマー構造の完全性を損なわない限り、熱間圧延積層、超音波積層、接着剤積層、接触積層又は強制熱風積層などの任意の従来の技術によって、第一のイオン交換材料の第一の部分の上にラミネート化される。幾つかの実施形態において、未処理の微孔質ポリマー構造は、微孔質ポリマー構造を有するePTFEを含む。微孔質ポリマー構造は、その厚さ全体にわたって均一な構造及び組成を特徴とすることができる。他の態様において、微孔質ポリマー構造の構造及び組成は、その厚さ全体にわたって変化しうる。
【0068】
ラミネート化後に、工程326で、第二のイオン交換材料327は、順方向ロールコーティング、逆方向ロールコーティング、グラビアコーティング、ドクターコーティング、キスコーティング、スロットダイコーティング、スライドダイコーティング、ならびにディッピング、ブラッシング、塗装及びスプレイを含むアイオノマーコーティング技術を使用して、微孔質ポリマー構造の上面に制御された厚さの層として適用される。第二のイオン交換材料は、イオン交換材料を溶媒中に溶解することによって調製することができる。第二のイオン交換材料は、イオン交換材料及び溶媒、ならびに、場合により、界面活性剤などの追加の成分を含むことができる。幾つかの実施形態において、イオン交換材料は、陽イオン交換材料、陰イオン交換材料、又は、陽イオン交換能力及び陰イオン交換能力の両方を含むイオン交換材料である。溶媒の選択は、アイオノマーの組成及び多孔質基材の組成の両方に部分的に依存しうる。
【0069】
工程328は、プロセス340の工程346と同様である。したがって、工程328の記載はここでは省略されている。乾燥及びアニールされて調製され又は得られた複合膜は、相対湿度0%で17ミクロンを超える厚さ、例えば、17ミクロン~100ミクロンの厚さを有することができる。複合膜の質量は、相対湿度0%で30g/m2より大きくてよく、例えば、30g/m2~200g/m2であることができる。
【0070】
プロセス340、360及び320は、複合膜を沈め、複合膜を沸騰させる任意選択的な工程を含むことができる。例えば、界面活性剤が使用される実施形態において、複合膜は、界面活性剤を除去するためにさらに処理される。これは、複合膜を、例えば、水、イソプロピルアルコール、過酸化水素、メタノール及び/又はグリセリンの溶液中に浸漬する又は沈没させることによって達成される。この工程では、元々溶液中でイオン交換材料と混合されていた界面活性剤を除去する。この浸漬又は沈没は、複合膜のわずかな膨潤を引き起こすが、イオン交換材料は、多孔質基材の内部体積内にとどまる。
【0071】
沸騰の任意選択的な工程において、複合膜は、適切な膨潤剤、好ましくは水中で沸騰させることによって処理され、複合膜をx、y及びz方向にわずかに膨潤させる。膨潤した複合膜は、より高く、より強いイオン輸送速度を有する。膨潤した複合膜は、イオン交換材料のみからなる膜とは異なり、その機械的一体性及び寸法安定性を保持し、同時に所望のイオン輸送特性を維持する。複合膜内の膨潤剤の含有量と複合膜の輸送特性との間には相関関係が存在する。膨潤した複合膜は、膨潤していない複合膜よりも速く化学種を輸送する。
【0072】
図3B~3Dに示すように、複合膜300、380、321は、微孔質ポリマー構造306及び該微孔質ポリマー構造306中に含浸されたイオン交換材料(例えば、アイオノマー)304を含む。すなわち、微孔質ポリマー構造306はイオン交換材料304が吸収される。イオン交換材料304は、内部体積を実質的に閉塞性にするように(すなわち、内部体積は、低体積のボイドを特徴とし、気体に対して非常に不透過性である構造を有する)、微孔質ポリマー構造306を実質的に含浸させることができる。例えば、微孔質ポリマー構造306の内部体積の90%超をイオン交換材料304で充填することにより実質的な閉塞が起こり、膜は10000秒より大きいガーレー数で特徴付けられる。イオン交換材料304は、微孔質ポリマー構造306の内面及び外面にしっかりと接着し、例えば、微孔質ポリマー構造306のフィブリル及び/又はノードにしっかりと接着され、吸収層307を形成する。
【0073】
幾つかの実施形態において、イオン交換材料304は、吸収層307内の微孔質ポリマー構造306に含浸されることに加えて、吸収層307の1つ以上の外面上に1つ以上の追加の層305として提供される(例えば、「バターコート(BC)」とも呼ばれる)。
【0074】
図3Bに示される複合膜300に示されるように、微孔質ポリマー構造306の一部(例えば、上面領域又は下面領域)は、非閉塞性(すなわち、高体積のボイドを特徴とし、ガスに対して高度に透過性である構造を有する内部体積)層309を含むことができ、これはイオン交換材料304を含まず又は実質的に含まない。非閉塞性層309の位置は、微孔質ポリマー構造306の上面領域に限定されない。上記のように、非閉塞性層309は、微孔質ポリマー構造306の底面面積306上に提供されない。
【0075】
図3Cに示される複合膜380に示されるように、非閉塞性層319は、薄いノード及びフィブリルのコーティングとして微孔質ポリマー構造306の内面に存在する少量のイオン交換材料304を含むことができる。しかしながら、イオン交換材料304の量は、微孔質ポリマー構造306を閉塞性にするのに十分な量ではなく、それによって非閉塞性層319を形成することができる。
【0076】
幾つかの実施形態において、複合膜300、380、321は、支持体層302上に提供されうる。支持体層302は、バッカー、例えば、シクロオレフィンコポリマー(COC)層などの剥離性フィルムを含むことができる。幾つかの実施形態において、複合膜300、380、321は、膜電極アセンブリ(MEA)に組み込まれる前に、支持体層302から剥離(あるいは脱結合)されることができる。
【0077】
図3B~3Dは、単一のタイプのイオン交換材料304を含む例示的な複合膜300、380、321を示す。しかしながら、用途は、単一のタイプのイオン交換材料304又は単一の吸収層307を有する複合膜に限定されない。
【0078】
図3E~3Fは、様々な実施形態による、フィブリルによって相互接続されたノード及び連続アイオノマー相を特徴とする多孔質基材を有する複合膜の顕微鏡写真を示す。
図3E~3Fに示されるように、本発明の態様に従って調製された複合膜は、アイオノマーの層内又はアイオノマーの複数コーティング間の内部界面がなく、表面に不連続性又はピンホールがない均一な厚さを有する。複合膜の内部体積は、複合膜が非極性ガス及び液体のバルクフローに対して不透過性であるように実質的に閉塞されている。
【0079】
c.含浸剤溶液の調製及び適用
工程342、362及び322に戻って参照して、含浸剤溶液の調製及び支持構造上へのその適用について次に記載する。
【0080】
含浸剤溶液は、イオン交換材料を溶媒中に溶解することによって調製される。含浸剤溶液は、溶媒中にイオン交換材料、及び、場合により、界面活性剤などの他の成分を含む。イオン交換材料は、陽イオン交換材料、陰イオン交換材料、又は、陽イオン交換能力及び陰イオン交換能力の両方を含むイオン交換材料である。溶媒の選択は、部分的には、含浸剤の組成及び多孔質基材の組成の両方に依存する。
【0081】
含浸剤溶液は、溶液が未処理の多孔質基材の隙間及び内部体積に浸透できる限り、順方向ロールコーティング、逆方向ロールコーティング、グラビアコーティング、ドクターコーティング、キスコーティング、ならびに、ディッピング、ブラッシング、塗装及びスプレイを含む単一パスのイオノマーコーティング技術において、未処理の多孔質基材に制御された厚さの層として適用されうる。処理された多孔質基材の表面からの過剰な溶液を除去することができる。例えば、キャリア支持体は、ローラー巻き戻しステーションから位置合わせローラー及びテンションローラーを介してコーティングステーションに連続的に供給されうる。含浸剤溶液は、例えばドクターブレードなどの適切なコーティング手段によって、キャリア支持体の表面上に制御された厚さの層として適用されうる。未処理の多孔質基材は、ローラー巻き戻しステーションから位置合わせローラーに連続的に供給され、コーティングされたキャリア支持体に接触し、含浸剤溶液で含浸される。あるいは、キャリア支持体を排除することができ、含浸剤溶液の層を未処理の多孔質基材に直接適用することができる。
【0082】
単一パスのイオノマーコーティングで作製された、得られた処理済み多孔質基材又は複合膜は、7~100ミクロン、17~50ミクロン又は25~40ミクロンの範囲の厚さを有し、場合により、3g/m2~80g/m2の多孔質基材、又は、5g/m2~50g/m2の多孔質基材、又は、10g/m2~30g/m2の多孔質基材を含む。理解されるべきであるように、単一パスのアイオノマーコーティングは、アイオノマーの単一コーティングにおいて内部界面を有しない連続アイオノマー相を有する複合膜をもたらす。
【0083】
幾つかの実施形態において、含浸剤溶液は、例えば、順方向ロールコーティング、逆方向ロールコーティング、グラビアコーティング、ドクターコーティング、キスコーティング、ならびに、ディッピング、ブラッシング、塗装及びスプレイなどの同様のコーティング技術によって、処理された多孔質基材の表面に、制御された厚さの複数の追加の層(すなわち、複数パスのアイオノマー)として適用される。例えば、処理された多孔質基材は、位置合わせローラーに連続的に供給されることができ、コーティングされたキャリア支持体に1回以上のさらなる回数(複数パス)接触し、そして含浸剤溶液で含浸される。あるいは、キャリア支持体を排除することができ、含浸剤溶液の層を、処理された多孔質基材に複数回直接適用することができる。このプロセスは、コーティングの各パスの間に乾燥工程なしに任意の回数(例えば、2回)繰り返すことができ、複数の層を有する処理された多孔質基材を作成する。得られた複数パスの複合膜は、0%RHで10~150ミクロン、0%RHで15~80ミクロン、又は、0%RHで20~60ミクロンの範囲の厚さを有し、場合により、3g/m2~80g/m2の多孔質基材、又は、5g/m2~50g/m2の多孔質基材、又は10g/m2~30g/m2の多孔質基材を含む。理解されるべきであるように、複数パスのアイオノマーコーティングは、アイオノマーの層内又はアイオノマーの複数のコーティングの間に内部界面を有しない連続アイオノマー相を有する処理された多孔質基材の1つ以上の層をもたらす。
【0084】
代替の実施形態において、別の未処理の多孔質基材を、コーティング及び処理された多孔質基材と接触させることができ、未処理の多孔質基材に含浸剤溶液を含浸させて、複数の層を有する処理された多孔質基材(すなわち、複数パスのアイオノマー複合膜)を作成する。このプロセスは、コーティングの各パスの間に乾燥工程なしで任意の回数(例えば、2回)繰り返すことができ、複数の層を有する処理された多孔質基材を作成する。得られた複数パス複合膜は、0%RHで10~150ミクロン、0%RHで15~80ミクロン又は0%RHで20~60ミクロンの範囲の厚さを有し、場合により、3g/m2~80g/m2の多孔質基材、又は、5g/m2~50g/m2の多孔質基材、又は、10g/m2~30g/m2の多孔質基材を含む。理解されるべきであるように、複数パスのアイオノマーコーティングは、アイオノマーの層内又はアイオノマーの複数のコーティングの間に内部界面を有しない連続アイオノマー相を有する処理された多孔質基材の1つ以上の層を有する複合膜をもたらす。
【0085】
処理された多孔質基材をオーブンに入れ、乾燥させそして熱アニールすることができる。オーブン温度は60℃~220℃の範囲であることができるが、好ましくは150℃~200℃である。処理された多孔質基材をオーブン内で乾燥及び熱アニーリングすると、イオン交換材料が内部膜表面にしっかりと付着し、場合により、外部膜表面、例えば、多孔質基材のフィブリル及び/又はノードに付着する。
【0086】
界面活性剤が使用される実施形態において、処理された多孔質基材は界面活性剤を除去するためにさらに処理される。これは、処理された多孔質基材を、例えば、水、イソプロピルアルコール、過酸化水素、メタノール及び/又はグリセリンの溶液中に浸漬又は沈没させることによって達成される。この工程の間に、元々溶液中でイオン交換材料と混合されていた界面活性剤を除去する。この浸漬又は沈没は、処理された多孔質基材のわずかな膨潤を引き起こすが、イオン交換材料は、多孔質基材の内部体積内にとどまる。
【0087】
処理された多孔質基材は、適切な膨潤剤、好ましくは水中で沸騰させることによって処理され、膜をx、y及びz方向にわずかに膨潤させる。膨潤した処理された多孔質基材は、より高く、より強いイオン輸送速度を有する。膨潤した処理された多孔質基材は、イオン交換材料のみからなる膜とは異なり、その機械的一体性及び寸法安定性を保持し、同時に、望ましいイオン輸送特性を維持する。処理された多孔質基材内の膨潤剤の含有量と、処理された多孔質基材の輸送特性との間には相関関係が存在する。膨潤した処理された多孔質基材は、膨潤していない処理された多孔質基材よりも速く化学種を輸送する。
【0088】
d.複合膜の特性
本発明の態様による連続アイオノマー相を有する複合膜は所定の透明度を有する。ヘイズとは、複合膜を通して見たときに物体を見ることができる光学的明瞭さを指し、ヘイズメータ又は透明度メータで測定できる。幾つかの実施形態において、単一パスのアイオノマーコーティングにより形成された連続アイオノマー相を有する複合膜のヘイズは、5%~95%又は10%~90%又は20%~85%である。代替の実施形態において、コーティングの各パス間の乾燥工程なしでアイオノマーコーティングの複数パスを介して形成される連続アイオノマー相のヘイズは、5%~95%又は10%~90%又は20%~85%である。
【0089】
III.フロー電池
上記のように、本発明の態様(例えば、
図3A~3Fを参照)によって製造された複合膜は、フロー電池(例えば、レドックスフロー電池)に組み込むことができる。
図4に示されるように、フロー電池400は、本発明の態様に従って提供される。フロー電池400は、カソード液又は正の電解質流体420を含むリザーバ410と、アノード液又は負の電解質流体440を含む第二のリザーバ430とを含む完全充電式電気エネルギー貯蔵デバイスである。カソード液420は、特定のレドックスイオンを含む電解質であることができ、それは酸化状態にあり、フロー電池400の放電プロセス中に還元されるか、又は、還元状態にあり、フロー電池400の充電プロセス中に酸化されるか、又は、これらの酸化されたイオンと、酸化されるべきイオンの混合物である。アノード液440は、レドックスイオンを含む電解質であることができ、それは還元状態にあり、フロー電池400の放電プロセス中に酸化されるか、又は、酸化状態にあり、フロー電池900の充電プロセス中に還元されるか、又は、還元されたイオンと、還元されるべきイオンとの混合物である。
【0090】
カソード液420は、正極470と負極480との間に配置された複合膜465を含む交換領域460を介してポンプ450により循環される。アノード液440も、交換領域460を介してポンプ490により循環される。複合膜465は、本発明の態様により製造される(例えば、
図3A~3Dを参照されたい)。
【0091】
幾つかの実施形態において、交換領域460に提供されるカソード液420及びアノード液440の量は、ポンプ450及び490のポンピング動作によって変化され、したがって、交換領域460における電解質の反応によって生成される電力量は変化されうる。カソード液420及びアノード液440の両方は、それら自身のそれぞれの空間内を循環し、複合膜465の両側で還元/酸化化学プロセスを促進し、電位をもたらす。セル電圧は、ネルンストの式によって化学的に決定でき、0.5~5.0ボルト又は0.8~1.7ボルトの範囲である。
【0092】
IV.試験手順
A.イオン交換材料の試験
(a)イオン交換材料(IEM)の溶液の固体濃度
本明細書において、「溶液」及び「分散液」という用語は、IEMを参照するときに互換可能に使用される。この試験手順は、IEMがプロトン形態であり、無視できる量の他の固形分が存在する溶液に適している。2立方センチメートルの体積のIEM溶液をシリンジ中に引き込み、溶液を含むシリンジの質量を、固体分析器(CEM Corporation, USAから入手)で天秤により測定した。2枚のガラス繊維紙(CEM Corporation, USAから入手)の質量も測定及び記録した。次に、IEM溶液をシリンジから2層のガラス繊維紙に堆積させた。イオン交換材料を含むガラス繊維紙を固体分析装置に入れ、160℃まで加熱して溶媒液を除去した。ガラス繊維紙及び残留固形物の質量が温度及び時間の増加に対して変化しなくなったら、それを記録した。残留IEMには水が含まれていないと想定される(つまり、0%RHに対応するアイオノマーの質量である)。その後、空になったシリンジの質量を以前と同じ天びんを使用して測定し、記録した。溶液中のアイオノマー固形分は、次の式に従って計算された。
【数1】
【0093】
(b)イオン交換材料(IEM)の当量
以下の試験手順は、プロトン形態であり(すなわち、無視できる量の他のカチオンを含む)、そしてプロトン酸及び解離性塩を含む他のイオン種を無視できる量で含む溶液中にある単一のアイオノマー樹脂又はアイオノマー樹脂の混合物を含むIEMに適切である。これらの条件が満たされない場合は、試験前に、当業者に知られている適切な手順に従って溶液をイオン性不純物から精製する必要があり、又は、不純物を特性評価しなければならずそしてEW試験の結果に対するその影響を補正しなければならない。
【0094】
本明細書で使用されるときに、IEMのEWは、IEMが0%RHでそのプロトン形態であり、無視できる不純物を含む場合を指す。IEMは、単一のアイオノマー又はアイオノマーの混合物をプロトン形態で含むことができる。0.2グラムの固形分を含む上記のように決定された固形分濃度を有する量のIEM溶液をプラスチックカップに注いだ。イオン交換材料の質量は、従来の実験室スケール(Mettler Toledo, LLC, USAから入手)により測定した。次に、5mlの脱イオン水及び5mlの200プルーフ変性エタノール(SDA 3C, Sigma Aldrich, USA)をカップ内のイオン交換材料に添加する。次に、55mlの2N塩化ナトリウム水溶液をIEM溶液に加えた。次に、サンプルを15分間一定に攪拌しながら平衡化させた。平衡化工程の後に、サンプルを1N水酸化ナトリウム溶液で滴定した。サンプル溶液をpH値7に中和するために必要な1N水酸化ナトリウム溶液の体積を記録した。IEMのEW(EW
IEM)を次のように計算した。
【数2】
【0095】
複数のIEMを組み合わせて複合膜を作製したときに、複合膜中のIEMの平均EWを以下の式を使用して計算した:
【数3】
上式中、各IEMの質量分率は、すべてのIEMの合計量に対するものである。この式は、アイオノマーブレンドを含む複合膜と、複数のアイオノマー層を含む複合膜の両方に使用された。
【0096】
B.多孔質膜の試験
(a)多孔質膜のバブルポイント
バブルポイントは、ASTM F316-86(1986)の手順に従って測定された。試験片の細孔を充填するための湿潤流体としてイソプロピルアルコールを使用した。バブルポイントは、微孔質ポリマーマトリックスを覆うイソプロピルアルコールの層を通過する気泡の上昇によって検出可能な気泡の最初の連続流を作成するために必要な空気の圧力である。この測定は、最大細孔サイズの評価を提供する。
【0097】
(b)多孔質膜のガーレー数
ガスフローバリア特性は、ASTM D-726-58(1971)に従ってガーレー密度計を使用して測定した。手順には、ガーレー密度計の通気性プレート間にサンプルをクランプすることを含む。次に、自由にスライドできる既知の重量の内筒を解放する。ガーレー数は、解放された内筒がサンプル材料を通して密度計内の特定の量の空気を変位させるのにかかる秒単位の時間として定義される。
【0098】
(c)多孔質膜の非接触厚さ
微孔質ポリマー構造のサンプルを平らで滑らかな金属アンビルの上に置き、しわを取り除くために張力をかけた。アンビル上の微孔質ポリマー構造の高さは、非接触のKeyence LS-7010Mデジタルマイクロメータを使用して測定及び記録した。次に、微孔質ポリマーマトリックスを含まないアンビルの高さを記録した。微孔質ポリマー構造の厚さは、微孔質構造がアンビル上に存在する場合と存在しない場合のマイクロメータの読み取り値の差として採用した。
【0099】
(d)多孔質膜の面積あたりの質量
各微孔質ポリマー構造を、しわを除去するのに十分に歪め、次いで、ダイを使用して10cm2のピースを切り出した。10cm2のピースを従来の実験室スケールで計量した。次に、面積あたりの質量(M/A)を、測定された質量と既知の面積の比率として計算した。この手順を2回繰り返し、M/Aの平均値を計算した。
【0100】
(e)多孔質膜の見掛け密度
微孔質ポリマー構造の見掛け密度は、以下の式を使用して、非接触の厚さ及び面積あたりの質量のデータを使用して計算した。
【数4】
【0101】
C.複合膜の試験
(a)複合膜の厚さ
複合膜は、測定前に少なくとも1時間、厚さを測定する室内で平衡化された。複合膜は、複合膜がコーティングされた基材に取り付けられたままにされた。各サンプルについて、コーティング基材上の複合膜を滑らかで平らな水平な大理石スラブ上に配置した。厚さゲージ(Heidenhain Corporation, USAから入手)を複合膜と接触させ、ゲージの高さの読み取り値を、膜上にグリッドパターンで配置された6つの異なるスポットで記録した。次に、サンプルを基材から取り外し、ゲージを基材に接触させ、同じ6つのスポットで高さの読み取り値を再度記録した。室内の所定の相対湿度(RH)での複合膜の平均厚さは、コーティング基材上に複合膜が存在する場合と存在しない場合のゲージの高さの読み取り値の差として計算した。部屋の局所RHはRHプローブ(Fluke Corporationから入手)を使用して測定した。0%RHでの厚さは、次の一般式を使用して計算した。
【数5】
上式中、多孔質層の密度は骨格密度(ePTFEの場合は2.25g/cm
3)を表し、アイオノマーの密度は0%RHでのアイオノマーの密度(PFSAアイオノマーの場合は1.96g/cm
3)を表し、水の密度は0.997g/cm
3と見なされ、水の分子量は18.015g/モルと見なされ、パラメータλは、指定されたRHでの酸基1モルあたりの水のモル数で表したイオン交換材料の吸水量に対応する。PFSAアイオノマーについては、気相で0~100%の範囲の任意のRHでのλの値は、次の式に従って計算された。
【数6】
【0102】
(b)複合膜の面積あたりの質量
以下の試験手順を使用して、本開示の態様に従って調製された複合膜の面積あたりの質量を決定することができる。既知の面積10cm2の基材及び複合膜を含む複合材料のサンプルをシートから切り取る。切断後、コーティング基材上の複合膜のサンプルを従来の実験室スケール上で計量し、その質量を測定時の実験室スケール周辺のRHの値とともに記録する。室内の局所RHは、RHプローブ(Fluke Corporationから入手)を使用して測定した。次に、サンプルを基材から取り外し、同じ実験室スケールを使用して基材の重量を測定し、基材の重量を記録した。室内の所与のRHでの複合膜の質量は、コーティング基材上に複合膜が存在する場合と存在しない場合のスケールの質量読み取り値の差として計算した。
【0103】
次に、0%RHでの複合膜の面積当たり質量は以下の式に従って計算される。
【数7】
【0104】
(c)複合膜のヘイズ
以下のヘイズ試験手順を、本発明の態様に従って調製された、連続アイオノマー相を有するイオン交換膜のサンプルに対して使用した(例えば、
図3A~3Fを参照されたい)。ヘイズ試験は、周囲条件(例えば、20℃~22℃、相対湿度30~70%)で試験前の少なくとも24時間乾燥した複合膜に対して行う。
図5A及び5Bに示されるように、ヘイズ試験手順は、ヘイズメータ又は透明度メータ500を使用して、イオン交換膜による光の広角散乱を決定することを含み、該広角散乱はイオン交換膜を通して見たときに物体を見ることができる光学的コントラストを喪失させる。本発明の態様に従って実施されるヘイズメータ又は透明度メータ500において、サンプル505(例えば、連続アイオノマー相を有するイオン交換膜)を、光源510と光積分球515との間に配置される。光積分球は、拡散反射材料で裏打ちされ、光検出器520、可動拡散反射面525ならびに低角度散乱及び直接透過光用のトラップ530が装備されている。
【0105】
最初に、サンプル505の全透過率は、
図5Aに示されるように、拡散反射面によって閉じられた低角度散乱及び直接透過光トラップ530で測定される。低角度散乱及び直接透過光トラップ530を閉じると、サンプル505を通過したすべての光は検出される。全光透過率は、サンプルによって透過された光とサンプルへの入射光との比として定義される。その後、サンプル505のヘイズは、
図5Bに示されるように、低角度散乱及び直接透過光トラップ530が開放された状態で測定される。低角度散乱及び直接透過光トラップ530を開くと、サンプル505を通過した光の拡散成分のみが検出される。ヘイズは、サンプルを通過する光の全透過率に対する拡散透過率の比として定義される。
【0106】
幾つかの実施形態において、単一パスのアイオノマーコーティングにより形成される連続アイオノマー相を有する複合膜のヘイズは、5%~95%又は10%~90%又は20%~85%である。代替の実施形態において、コーティングの各パス間の乾燥工程なしでアイオノマーコーティングの複数パスを介して形成される連続アイオノマー相のヘイズは、5%~95%又は10%~90%又は20%~85%である。
【0107】
(d)複合膜のブリスタリング
以下のブリスター試験手順は、本発明の態様(例えば、
図3A~3Dを参照されたい)に従って調製された複合膜のサンプルに対して使用された。ブリスター試験手順には、複合膜の各サンプルを、温度80℃である6モル/L濃度の硫酸水溶液を含むビーカーに3分間浸漬し、続いて、周囲条件(例えば、20℃~22℃、相対湿度30~70%)である脱イオン水を含むビーカーに1分間浸漬するというストレスサイクルにさらすことを含む。ストレスサイクルを6回連続して繰り返した。ストレスサイクルの後に、複合膜の各サンプルを周囲条件(例えば、20℃~22℃、相対湿度30~70%)で乾燥させ、気泡又はブリスター密度を計数した。気泡又はブリスターの面積は、手動の観察及び測定及び/又は画像化ソフトウェアの使用などの自動化技術を含む多くの方法で計算することができる。ブリスターの数及び面積を計算するために使用できる公的に利用可能な画像処理ソフトウェアの例は米国国立衛生研究所で開発されたImageJである。
【0108】
図6A~6Bは、それぞれ、ブリスター試験前の3×3cm
2の低解像度及び1×1cm
2の高解像度及びブリスター試験後の1×1cm
2の高解像度の本発明の態様(例えば、
図3A~3Dを参照されたい)に従って調製された複合膜600と、従来のイオン交換膜602とを示す。
図6Aに示されるように、複合膜600及び従来のイオン交換膜602の両方は、上記に提供されたブリスター試験手順に従って実施されるブリスター試験の前にブリスターを示さない。
図6Bに示されるように、複合膜600はブリスターを示さず(すなわち、0ブリスター/cm
2)、したがって、膜は0%のブリスター面積を有し、一方、従来のイオン交換膜602は、ブリスターを示す(すなわち、95ブリスター/cm
2、各ブリスターは半径が200μmであり、膜はブリスター面積が13.5%である)。
【0109】
幾つかの実施形態において、単一パスのアイオノマーコーティングを介して形成され、ブリスター試験手順を受けた後の連続アイオノマー相を有する複合膜の気泡又はブリスター面積は0.3%未満、0.2%未満又は0.1%未満又は0%である。代替の実施形態において、コーティングの各パスの間の乾燥工程なしでアイオノマーコーティングの複数パスを介して形成され、ブリスター試験手順を受けた後の連続アイオノマー相を有する複合膜の気泡又はブリスター面積は0.3%未満、0.2%未満又は0.1%未満又は0%である。
図7A~7Cは、本発明の態様に従って調製され、0.1%未満の気泡又はブリスター密度を有する複合膜のサンプル700、710、720を示す。幾つかの実施形態において、単一パスのアイオノマーコーティングを介して形成され、ブリスター試験手順を受けた後の連続アイオノマー相を有する複合膜のヘイズの変化は0%以下、0%~-60%又は0%~-45%又は0%~-30%又は0%~-21%である。代替の実施形態において、コーティングの各パスの間の乾燥工程なしでアイオノマーコーティングの複数パスを介して形成され、ブリスター試験を受けた後の連続アイオノマー相を有する複合膜のヘイズの変化は0%以下、0%~-60%又は0%~-45%又は0%~-30%又は0%~-21%である。
【実施例0110】
V.例
本発明の範囲を限定することを意図することなく、本発明の装置及び製造方法は、以下の実施例を参照することによってよりよく理解されうる。以下の実施例で提供されるePTFEのすべてのサンプルは、米国特許第3,593,566号明細書の教示に従って作成された。多孔質延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)の物理的特性の要約を表1に示す。
【表1】
【0111】
1.比較例-各工程の間に乾燥して製造された従来の複数パスのアイオノマー
例1.1
2層の延伸多孔質ePTFE膜#5で強化された、EWが920g/(モル酸当量)のイオン交換ポリマーのペルフルオロスルホン酸樹脂を含む、厚さ26.7ミクロンの複合膜を従来の実験技術を使用して調製した。最初に、EW=920g/モル当量のペルフルオロスルホン酸樹脂の水-エタノール系溶液(製品FSS2、Asahi Glass社から入手)をスロットダイを使用して移動キャリア基材上にコーティングし、同じ方向に動いているePTFE膜#5とラミネート化した。キャリア基材は、PETと環状オレフィンコポリマー(COC)の保護層とを含むポリマーシート(DAICEL VALUE COATING LTD., Japanから入手)であり、COC側を上にして配向されている。続いて、このラミネートをオーブン内で160℃において乾燥させ、その温度で1分間アニーリングして、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンで強化されたポリマー層に結合したキャリア基材を含む固体コート化構造を生成した。
【0112】
その後に、同じペルフルオロスルホン酸樹脂の別の量の水-エタノール系溶液を、スロットダイを使用して、上記コート化構造に適用し、同じ方向に移動している別のePTFE膜#5とラミネート化した。ラミネートを再び160℃で乾燥させ、その温度で1分間アニーリングした。最後に、同じペルフルオロスルホン酸樹脂の別の量の水-エタノール系溶液を、スロットダイを使用して、上記コート化構造に適用し、160℃で再び乾燥させ、その温度で1分間アニールした。得られた複合膜は、イオン交換ポリマー層に結合されたキャリア基材、続いて、イオン交換ポリマーが埋め込まれた微孔質ポリテトラフルオロエチレン膜層、続いて、別のイオン交換ポリマー層が埋め込まれた別の微孔質ポリテトラフルオロエチレン膜層、続いて、上部の別のイオン交換ポリマーを含み、0%RHで総厚が26.7ミクロンであり、質量/面積が54.0g/m2であった。複合膜はほぼ透明であり、ヘイズ値は5%であった。
【0113】
可変イオン強度を有する全液体環境におけるブリスター形成に対する複合膜の感受性などの特性を決定するために、上述のようにブリスター試験手順を実施した。上記のとおりのブリスター試験後の不連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル1.5のヘイズは、320%増加して21.0%の値になった。上記のように調製された不連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプルの気泡又はブリスター領域は、アイオノマー中の気泡又はブリスターの面積に対するアイオノマーの面積の比率として約13.5%と測定された。
図6Bは、ブリスター試験が実施される前及びブリスター試験が実施された後の例1.1を表す複合膜602の3cm×3cm及び1cm×1cmの平面図の写真を示し、ブリスター試験後の膜は、アイオノマーの層内又はアイオノマーの複数コーティング間の弱い内部界面に気泡又はブリスター604を有した。
【0114】
例1.2
1層の延伸多孔質ePTFE膜#2で強化されたEWが810g/(モル酸当量)のイオン交換ポリマーのペルフルオロスルホン酸樹脂を含む、厚さ44.2ミクロンの複合膜を、従来の実験技術を使用して調製した。最初に、EW=810g/モル当量のイオン交換ペルフルオロスルホン酸樹脂の水-エタノール系溶液(Shanghai Gore 3F Fluoromaterials Co., LTD., Chinaから入手)を、ドローダウンバーを使用してフレーム中に拘束されたキャリア基材上にコーティングし、ePTFE膜#2とラミネートした。キャリア基材は、PET及び環状オレフィンコポリマー(COC)の保護層を含むポリマーシート(DAICEL VALUE COATING LTD., Japanから入手)であり、COC側を上にして配向されている。続いて、このラミネートを160℃でオーブン内にて乾燥させ、その温度で1分間アニーリングした。その後、同じペルフルオロスルホン酸樹脂の別の量の水-エタノール系溶液を、ドローダウンバーを使用して、上記コート化構造に適用し、160℃で再び乾燥させ、その温度で1分間アニーリングした。得られた複合膜は、イオン交換ポリマー層に結合されたキャリア基材と、それに続く、上部にイオン交換ポリマーが別のイオン交換ポリマー層とともに埋め込まれた微孔質ポリテトラフルオロエチレン膜層を含み、0%RHで総厚が44.2ミクロンであり、質量/面積が90.5g/m2であった。複合膜はほぼ透明であり、ヘイズ値は4.6%であった。
【0115】
可変イオン強度を有する全液体環境におけるブリスター形成に対する複合膜の感受性などの特性を決定するために、上述のようにブリスター試験手順を実施し、ブリスター試験後の膜は上記のように、アイオノマーの層内及びアイオノマーの複数コーティングの間の弱い内部界面に気泡又はブリスターを有した。上記のとおりのブリスター試験手順後に、不連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル1.2のヘイズは、35%増加して6.3%の値になった。上記のように調製された不連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル1.2の気泡又はブリスター領域は、アイオノマー中の気泡又はブリスターの面積に対するアイオノマーの面積の比率として約1.3%と測定された。
【0116】
例1.3
1層の延伸多孔質ePTFE膜#2で強化されたEWが1100g/(モル酸当量)のイオン交換ポリマーのペルフルオロスルホン酸樹脂を含む厚さ27.9ミクロンの複合膜を、従来の実験技術を使用して調製した。最初に、EW=1100g/モル当量のペルフルオロスルホン酸樹脂の水-エタノール系溶液(D2021, Ion Power Inc., USAから入手)を、ドローダウンバーを使用して、フレームに拘束されたキャリア基材上にコーティングし、ePTFE膜#2とラミネート化した。キャリア基材は、PETと環状オレフィンコポリマー(COC)の保護層とを含むポリマーシート(DAICEL VALUE COATING LTD., Japanから入手)であり、COC側を上にして配向されている。続いて、このラミネートを160℃でオーブン内にて乾燥させ、その温度で1分間アニーリングした。その後、同じペルフルオロスルホン酸樹脂の別の量の水-エタノール系溶液を、ドローダウンバーを使用してコート化構造に適用し、160℃で再び乾燥させ、その温度で1分間アニーリングした。得られた複合膜は、イオン交換ポリマー層に結合されたキャリア基材と、それに続く、上部にイオン交換ポリマーが別のイオン交換ポリマー層とともに埋め込まれた微孔質ポリテトラフルオロエチレン膜層を含み、0%RHで総厚が27.9ミクロン、質量/面積が58.4g/m2であった。複合膜はほぼ透明で、ヘイズ値は16.8%であった。
【0117】
可変イオン強度を有する全液体環境におけるブリスター形成に対する複合膜の感受性などの特性を決定するために、上述のようにブリスター試験手順を実施し、ブリスター試験後の膜は、アイオノマーの層内及びアイオノマーの複数コーティングの間の弱い内部界面に気泡又はブリスターを有した。上記のとおりのブリスター試験後の不連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル1.3のヘイズは、34%増加して22.6%の値になった。上記のように調製された不連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル1.3の気泡又はブリスター面積は、アイオノマーにおける気泡又はブリスターの面積に対するアイオノマーの面積の比として測定して約0.5%であった。
【0118】
例1.4
1層の延伸多孔質ePTFE膜#3で強化されたEWが900g/(モル酸当量)のイオン交換ポリマーのペルフルオロスルホン酸樹脂を含む厚さ22.7ミクロンの複合膜を、従来の実験技術を使用して調製した。最初に、EW=900g/モル当量のペルフルオロスルホン酸樹脂の水-エタノール系溶液(Shanghai Gore 3F Fluoromaterials Co., LTD., Chinaから入手)を、ドローダウンバーを使用して、フレームに拘束されたキャリア基材上にコーティングし、ePTFE膜#3とラミネート化した。キャリア基材は、PETと環状オレフィンコポリマー(COC)の保護層とを含むポリマーシート(DAICEL VALUE COATING LTD., Japanから入手)であり、COC側を上にして配向されている。次いで、このラミネートを160℃でオーブン内にて乾燥させ、その温度で1分間アニーリングした。その後、同じペルフルオロスルホン酸樹脂の別の量の水-エタノール系溶液を、ドローダウンバーを使用してコート化構造に適用し、160℃で再び乾燥させ、その温度で1分間アニーリングした。得られた複合膜は、イオン交換ポリマー層に結合されたキャリア基材と、それに続く、上部にイオン交換ポリマーが別のイオン交換ポリマー層とともに埋め込まれた微孔質ポリテトラフルオロエチレン膜層を含み、0%RHで総厚が22.7ミクロン、質量/面積が47.1g/m2であった。複合膜はほぼ透明で、ヘイズ値は19.4%であった。
【0119】
可変イオン強度を有する全液体環境におけるブリスター形成に対する複合膜の感受性などの特性を決定するために、上述のようにブリスター試験手順を実施し、ブリスター試験後の膜は、アイオノマーの層内及びアイオノマーの複数コーティングの間の弱い内部界面に気泡又はブリスターを有した。上記のブリスター試験後の不連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル1.4のヘイズは、45%増加して28%の値になった。上記のように調製された不連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル1.4の気泡又はブリスター面積は、アイオノマーにおける気泡又はブリスターの面積に対するアイオノマーの面積の比として測定して約0.3%であった。
【0120】
例1.5
1層の延伸多孔質ePTFE膜#4で強化されたEWが900g/(モル酸当量)のイオン交換ポリマーのペルフルオロスルホン酸樹脂を含む厚さ17.9ミクロンの複合膜を、従来の実験技術を使用して調製した。最初に、EW=900g/モル当量のペルフルオロスルホン酸樹脂の水-エタノール系溶液(Shanghai Gore 3F Fluoromaterials Co.,LTD., Chinaから入手)を、ドローダウンバーを使用して、フレームに拘束されたキャリア基材上にコーティングし、ePTFE膜#4とラミネート化した。キャリア基材は、PETと環状オレフィンコポリマー(COC)の保護層とを含むポリマーシート(DAICEL VALUE COATING LTD., Japanから入手)であり、COC側を上にして配向されている。続いて、このラミネートを160℃でオーブン内にて乾燥させ、その温度で1分間アニーリングした。その後、同じペルフルオロスルホン酸樹脂の別の量の水-エタノール系溶液を、ドローダウンバーを使用してコート化構造に適用し、160℃で再び乾燥させ、その温度で1分間アニーリングした。得られた複合膜は、イオン交換ポリマー層に結合されたキャリア基材と、それに続く、上部にイオン交換ポリマーが別のイオン交換ポリマー層とともに埋め込まれた微孔質ポリテトラフルオロエチレン膜層を含み、0%RHで総厚が17.9ミクロン、質量/面積が36.7g/m2であった。複合膜はほぼ透明で、ヘイズ値は5.7%であった。
【0121】
可変イオン強度を有する全液体環境におけるブリスター形成に対する複合膜の感受性などの特性を決定するために、上記のようにブリスター試験手順を実施し、ブリスター試験後の膜は、アイオノマーの層又はアイオノマーの複数コーティングの間の弱い内部界面に気泡又はブリスターを有した。上記のとおりのブリスター試験後の不連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル1.5のヘイズは、31%増加して7.5%の値になった。上記のように調製された不連続アイオノマー相を有する複合膜1.5のサンプルの気泡又はブリスター面積は、アイオノマーにおける気泡又はブリスターの面積に対するアイオノマーの面積の比として測定して約6.3%であった。
比較例1.1~1.5のデータを表2にまとめている。
【表2】
【0122】
2.発明例-本発明の態様による単一パスのアイオノマーコーティングで製造された連続アイオノマー相を含む複合膜
例2.1
延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜#3で強化されたEWが820g/(モル酸当量)のイオン交換ポリマーのペルフルオロスルホン酸樹脂を含む、厚さ21.6ミクロンの複合膜を、従来の実験技術を使用して調製した。最初に、EW=820g/モル当量のペルフルオロスルホン酸樹脂の水-エタノール系溶液(Asahi Glass社から入手した製品IW100-800)を、スロットダイを使用して、移動しているキャリア基材上にコーティングし、同じ方向に移動しているePTFE膜#3とラミネート化した。キャリア基材は、PETと環状オレフィンコポリマー(COC)の保護層とを含むポリマーシート(DAICEL VALUE COATING LTD., Japanから入手)であり、COC側を上にして配向されている。続いて、このラミネートを160℃でオーブン内にて乾燥させ、その温度で1分間アニールして、イオン交換ポリマー層に結合したキャリア基材と、それに続く、イオン交換ポリマーが埋め込まれた微孔質ポリテトラフルオロエチレン膜層を含む固体コート化構造を生成し、0%RHで総厚が21.6ミクロン、質量/面積が44.9g/m
2であった。
図3E~3Fから分かるように、得られた複合膜は、微孔質ポリマー構造内に埋め込まれたイオン交換材料を有し、第一の表面の最も近くに微孔質ポリマー構造の非閉塞部分を残し、微孔質ポリマー構造の第二の表面上に層を形成していることを特徴とした。得られた複合膜は65%のヘイズ値を有していた。
【0123】
可変イオン強度を有する全液体環境におけるブリスター形成に対する複合膜の感受性などの特性を決定するために、上述のようにブリスター試験手順を実施した。上記のとおりのブリスター試験後の不連続アイオノマー相を含む複合膜のサンプル2.1のヘイズは-6.2%減少して61.0%の値になった。上記のように調製された連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル2.1の気泡又はブリスター面積は、アイオノマーにおける気泡又はブリスターの面積に対するアイオノマーの面積の比として測定して約0%であった。
図6Aは、ブリスター試験が実施される前及びブリスター試験が実施された後の複合膜600の3cm×3cm及び1cm×1cmの面図の写真を示し、ブリスター試験後の膜は気泡又はブリスターがなかった。
【0124】
例2.2
1層の延伸多孔質ePTFE膜#1で強化されたEWが810g/(モル酸当量)のイオン交換ポリマーのペルフルオロスルホン酸樹脂を含む厚さ44.6ミクロンの複合膜を、従来の実験技術を使用して調製した。最初に、EW=810g/モル当量のペルフルオロスルホン酸樹脂の水-エタノール系溶液(Shanghai Gore 3F Fluoromaterials Co., LTD., Chinaから入手)を、ドローダウンバーを使用して、フレームに拘束されたキャリア基材上にコーティングし、ePTFE膜#1とラミネート化した。キャリア基材は、PETと環状オレフィンコポリマー(COC)の保護層とを含むポリマーシート(DAICEL VALUE COATING LTD., Japanから入手)であり、COC側を上にして配向されている。続いて、このラミネートを160℃でオーブン内にて乾燥させ、その温度で1分間アニーリングして、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンで強化されたポリマー層に結合したキャリア基材を含む固体コート化構造を生成した。得られた複合膜は、イオン交換ポリマー層に結合されたキャリア基材と、それに続く、イオン交換ポリマーが埋め込まれた微孔質ポリテトラフルオロエチレン膜層を含み、0%RHで、総厚が44.6ミクロン、質量/面積が91.8g/m2であった。得られた複合膜は、微孔質ポリマー構造内に埋め込まれたイオン交換材料を有し、第一の表面の最も近くに微孔質ポリマー構造の非閉塞部分を残し、微孔質ポリマー構造の第二の表面上に層を形成していることを特徴とした。複合膜のヘイズ値は24.4%であった。
【0125】
可変イオン強度を有する全液体環境におけるブリスター形成に対する複合膜の感受性などの特性を決定するために、上述のようにブリスター試験手順を実施し、ブリスター試験後に複合膜は気泡又はブリスターを有しなかった。上記のとおりのブリスター試験後の連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル2.2のヘイズは、-11.3%減少して21.6%の値になった。上記のように調製された連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル2.2の気泡又はブリスター面積は、アイオノマーにおける気泡又はブリスターの面積に対するアイオノマーの面積の比として測定して約0%であった。
【0126】
例2.3
1層の延伸多孔質ePTFE膜#1で強化されたEWが1100g/(モル酸当量)のイオン交換ポリマーのペルフルオロスルホン酸樹脂を含む厚さ28.1ミクロンの複合膜を、従来の実験技術を使用して調製した。最初に、EW=1100g/モル当量のペルフルオロスルホン酸樹脂の水-エタノール系溶液(D2021, Ion Power Inc., USAから入手)を、ドローダウンバーを使用して、フレームに拘束されたキャリア基材上にコーティングし、ePTFE膜#1とラミネート化した。キャリア基材は、PETと環状オレフィンコポリマー(COC)の保護層とを含むポリマーシート(DAICEL VALUE COATING LTD., Japanから入手)であり、COC側を上にして配向されている。続いて、このラミネートを160℃でオーブン内にて乾燥させ、その温度で1分間アニーリングした。得られた複合膜は、イオン交換ポリマーが埋め込まれた微孔性ポリテトラフルオロエチレン膜層に結合されたキャリア基材を含み、0%RHで28.1ミクロンの総厚及び59.5g/m2の質量/面積を有していた。得られた複合膜は微孔質ポリマー構造内に埋め込まれたイオン交換材料を有し、第一の表面の最も近くに微孔質ポリマー構造の非閉塞部分を残し、微孔質ポリマー構造の第二の表面上に層を有しないことを特徴とする。複合膜のヘイズ値は27.8%であった。
【0127】
可変イオン強度を有する全液体環境におけるブリスター形成に対する複合膜の感受性などの特性を決定するために、上述のようにブリスター試験手順を実施し、ブリスター試験後の複合膜は気泡又はブリスターを有しなかった。上記のとおりのブリスター試験後の連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル2.3のヘイズは、-5.9%減少して26.2%の値になった。上記のように調製された連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル2.3の気泡又はブリスター面積は、アイオノマーにおける気泡又はブリスターの面積に対するアイオノマーの面積の比として測定して約0%であった。
【0128】
例2.4
1層の延伸多孔質ePTFE膜#2で強化されたEWが900g/(モル酸当量)のイオン交換ポリマーのペルフルオロスルホン酸樹脂を含む厚さ23.2ミクロンの複合膜を、従来の実験技術を使用して調製した。最初に、EW=900g/モル当量のペルフルオロスルホン酸樹脂の水-エタノール系溶液(Shanghai Gore 3F Fluoromaterials Co.,LTD.,Chinaから入手)を、ドローダウンバーを使用して、フレームに拘束されたキャリア基材上にコーティングし、ePTFE膜#2とラミネート化した。キャリア基材は、PETと環状オレフィンコポリマー(COC)の保護層とを含むポリマーシート(DAICEL VALUE COATING LTD., Japanから入手)であり、COC側を上にして配向されている。続いて、このラミネートを160℃にてオーブン内で乾燥させ、その温度で1分間アニーリングした。得られた複合膜は、イオン交換ポリマーが埋め込まれた微孔性ポリテトラフルオロエチレン膜層に結合されたキャリア基材を含み、0%RHで、総厚が23.2ミクロン、質量/面積が49.2g/m2であった。得られた複合膜は、微孔質ポリマー構造内に埋め込まれたイオン交換材料を有し、第一の表面の最も近くに微孔質ポリマー構造の非閉塞部分を残し、微孔質ポリマー構造の第二の表面上に層を有しないことを特徴とする。複合膜のヘイズ値は35.2%であった。
【0129】
可変イオン強度を有する全液体環境におけるブリスター形成に対する複合膜の感受性などの特性を決定するために、上述のようにブリスター試験手順を実施し、ブリスター試験後の複合膜は気泡又はブリスターを有しなかった。上記のとおりのブリスター試験後の連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル2.4のヘイズは、-20.7%減少して27.9%の値になった。上記のように調製された連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル2.4の気泡又はブリスター面積は、アイオノマーにおける気泡又はブリスターの面積に対するアイオノマーの面積の比として測定して約0%であった。
【0130】
例2.5
1層の延伸多孔質ePTFE膜#3で強化されたEWが900g/(モル酸当量)のイオン交換ポリマーのペルフルオロスルホン酸樹脂を含む厚さ18.4ミクロンの複合膜を、従来の実験技術を使用して調製した。最初に、EW=900g/モル当量のペルフルオロスルホン酸樹脂の水-エタノール系溶液(Shanghai Gore 3F Fluoromaterials Co.,LTD., Chinaから入手)を、ドローダウンバーを使用して、フレームに拘束されたキャリア基材上にコーティングし、ePTFE膜#3とラミネート化した。キャリア基材は、PETと環状オレフィンコポリマー(COC)の保護層とを含むポリマーシート(DAICEL VALUE COATING LTD., Japanから入手)であり、COC側を上にして配向されている。続いて、このラミネートを160℃でオーブン内にて乾燥させ、その温度で1分間アニーリングした。得られた複合膜は、延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンで強化されたポリマー層に結合されたキャリア基材を含み、0%RHで総厚が18.4ミクロン、質量/面積が38.6g/m2であった。得られた複合膜は、微孔質ポリマー構造内に埋め込まれたイオン交換材料を有し、第一の表面の最も近くに微孔質ポリマー構造の非閉塞部分を残し、微孔質ポリマー構造の第二の表面に層を有することを特徴とした。複合膜のヘイズ値は77.3%であった。
【0131】
可変イオン強度を有する全液体環境におけるブリスター形成に対する複合膜の感受性などの特性を決定するために、上述のようにブリスター試験手順を実施し、ブリスター試験後の複合膜は気泡又はブリスターを有しなかった。上記のとおりのブリスター試験後の連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル2.5のヘイズは、-8.7%減少して60.5%の値になった。上記のように調製された連続アイオノマー相を有する複合膜のサンプル2.5の気泡又はブリスター面積は、アイオノマーにおける気泡又はブリスターの面積に対するアイオノマーの面積の比として測定して約0%であった。
【0132】
本発明の例2.1~2.5のデータを表3に要約する。
【表3】
【0133】
本発明は詳細に記載されてきたが、本発明の主旨及び範囲内の変更は当業者に容易に明らかであろう。本発明の態様及び様々な実施形態の一部ならびに上記及び/又は添付の特許請求の範囲に列挙される様々な特徴は、全体的又は部分的に組み合わされ又は交換されうることが理解されるべきである。様々な実施形態の上述の記載において、別の実施形態を参照するこれらの実施形態は、当業者によって理解されるように、他の実施形態と適切に組み合わせることができる。さらに、当業者は、上述の記載が単なる例であり、本発明を限定することを意図するものではないことを理解するであろう。以下、本発明の態様を列挙する。
[態様1]
微孔質ポリマー構造、及び
前記微孔質ポリマー構造内に少なくとも部分的に埋め込まれ、前記微孔質ポリマー構造の少なくとも一部を閉塞性にするイオン交換材料、
を含む複合膜であって、前記イオン交換材料は前記複合膜内で連続アイオノマー相を形成し、前記複合膜はブリスター試験手順に供された後に0%以下のヘイズ変化を示す、複合膜。
[態様2]
前記複合膜の底面に提供されたイオン交換材料の追加の層をさらに含む、態様1記載の複合膜。
[態様3]
前記微孔質ポリマー構造は少なくとも2つの微孔質ポリマー層を含む、態様1又は2記載の複合膜。
[態様4]
前記ブリスター試験手順は、
工程1において、複合膜を6モル/Lの硫酸水溶液に80℃で3分間浸漬すること、
工程2において、前記硫酸水溶液から前記複合膜を取り出すこと、
工程3において、前記複合膜を周囲条件にて脱イオン水に1分間浸漬すること、
工程4において、前記脱イオン水から前記複合膜を取り出し、工程1~4から構成されるサイクルを少なくとも2回繰り返すこと、
工程5において、前記複合膜を周囲条件で乾燥させること、及び
工程6において、前記複合膜上に形成された気泡又はブリスターを計数すること、
を含む、態様1~3のいずれか1項記載の複合膜。
[態様5]
前記ブリスター試験手順を受けた後の連続アイオノマー相を有する複合膜の気泡又はブリスター面積は0.3%未満である、態様4記載の複合膜。
[態様6]
前記ブリスター試験手順を受けた後に連続アイオノマー相を有する複合膜の気泡又はブリスター面積は0%である、態様4記載の複合膜。
[態様7]
前記複合膜は、前記ブリスター試験手順に供された後に、0%~-60%のヘイズ変化を示す、態様4記載の複合膜。
[態様8]
前記複合膜は、前記ブリスター試験手順に供された後に、0%~-45%のヘイズ変化を示す、態様4記載の複合膜。
[態様9]
前記複合膜は、前記ブリスター試験手順に供された後に、0%~-30%のヘイズ変化を示す、態様4記載の複合膜。
[態様10]
前記複合膜は、前記ブリスター試験手順に供された後に、0%~-21%のヘイズ変化を示す、態様4記載の複合膜。
[態様11]
前記複合膜は、イオン交換材料の混合物の形態で複数のイオン交換材料を含む、態様1~10のいずれか1項記載の複合膜。
[態様12]
前記複合膜は前記イオン交換材料の1層より多くの層を含み、前記イオン交換材料の層は同じイオン交換材料から形成されている、態様1~10のいずれか1項に記載の複合膜。
[態様13]
前記複合膜は前記イオン交換材料の1層より多くの層を含み、前記イオン交換材料の層は異なるイオン交換材料から形成されている、態様1~10のいずれか1項記載の複合膜。
[態様14]
前記イオン交換材料の層の少なくとも1つはイオン交換材料の混合物を含む、態様12又は13記載の複合膜。
[態様15]
前記イオン交換材料は前記微孔質ポリマー構造内に完全に埋め込まれている、態様1~14のいずれか1項記載の複合膜。
[態様16]
前記イオン交換材料は前記微孔質ポリマー構造内に部分的に埋め込まれ、前記複合膜の上面に前記微孔質ポリマー構造の非閉塞部分を残す、態様1~14のいずれか1項記載の複合膜。
[態様17]
前記微孔質ポリマー構造は延伸ポリテトラフルオロエチレンを含む、態様1~16のいずれか1項記載の複合膜。
[態様18]
前記微孔質ポリマー構造は炭化水素ポリオレフィンを含む、態様1~16のいずれか1項記載の複合膜。
[態様19]
前記炭化水素材料はポリエチレン、ポリプロピレン又はポリスチレンを含む、態様18記載の複合膜。
[態様20]
前記イオン交換材料は少なくとも1つのアイオノマーを含む、態様1~19のいずれか1項記載の複合膜。
[態様21]
前記少なくとも1つのアイオノマーはプロトン伝導性ポリマーを含む、態様20記載の複合膜。
[態様22]
前記プロトン伝導性ポリマーはペルフルオロスルホン酸を含む、態様21記載の複合膜。
[態様23]
前記ブリスター試験手順前の複合膜のヘイズ値は5%~95%である、態様1~22のいずれか1項記載の複合膜。
[態様24]
前記ブリスター試験手順前の複合膜のヘイズ値は10%~90%である、態様1~22のいずれか1項記載の複合膜。
[態様25]
前記ブリスター試験手順前の複合膜のヘイズ値は20%~85%である、態様1~22のいずれか1項記載の複合膜。
[態様26]
前記アイオノマーの層内又は前記イオン交換材料のコーティング及び/又は前記微孔質ポリマー構造の間に内部界面は形成されていない、態様1~25のいずれか1項記載の複合膜。
[態様27]
前記複合膜は前記イオン交換材料の単一コーティングを含む、態様1~25のいずれか1項記載の複合膜。
[態様28]
前記複合膜は0%の相対湿度で7~100ミクロンの厚さを有する、態様27記載の複合膜。
[態様29]
前記複合膜は0%の相対湿度で17~50ミクロンの厚さを有する、態様27記載の複合膜。
[態様30]
前記複合膜は0%の相対湿度で25~40ミクロンの厚さを有する、態様27記載の複合膜。
[態様31]
前記複合膜は0%の相対湿度で17ミクロンを超える厚さを有する、態様27記載の複合膜。
[態様32]
前記複合膜は前記イオン交換材料の複数のコーティングを含み、前記イオン交換材料の第一のコーティングは、前記イオン交換材料の第二のコーティング上に、該第二のコーティングを乾燥工程に供することなく形成される、態様1~26のいずれか1項記載の複合膜。
[態様33]
前記複合膜は0%の相対湿度で10~150ミクロンの厚さを有する、態様32記載の複合膜。
[態様34]
前記複合膜は0%の相対湿度で15~80ミクロンの厚さを有する、態様32記載の複合膜。
[態様35]
前記複合膜は0%の相対湿度で20~60ミクロンの厚さを有する、態様32記載の複合膜。
[態様36]
前記イオン交換材料は500~2000g/モル当量の当量を有する、態様1~35のいずれか1項記載の複合膜。
[態様37]
前記イオン交換材料は600~1500g/モル当量の当量を有する、態様1~35のいずれか1項記載の複合膜。
[態様38]
前記イオン交換材料は900~1200g/モル当量の当量を有する、態様1~35のいずれか1項記載の複合膜。
[態様39]
前記イオン交換材料は810~1100g/モル当量の当量を有する、態様1~35のいずれか1項記載の複合膜。
[態様40]
前記複合膜は電気化学デバイス内に含まれる液体を分離するために電気化学デバイスに使用される、態様1~39のいずれか1項記載の複合膜。
[態様41]
前記複合膜はレドックスフロー電池に使用される、態様1~39のいずれか1項記載の複合膜。
[態様42]
前記複合膜は水電解槽に使用される、態様1~39のいずれか1項記載の複合膜。
[態様43]
態様1~31のいずれか1項記載の複合膜を形成する方法であって、
(a)支持体層を提供すること、
(b)イオン交換材料を前記支持層に1工程で適用すること、
(c)少なくとも1つの微孔質ポリマー層を含む微孔質ポリマー構造を得ること、
(d)前記少なくとも1つの微孔質ポリマー層を前記イオン交換材料にラミネート化して、連続アイオノマー相を有する含浸された微孔質ポリマー構造を形成すること、
(e)含浸された微孔質ポリマー構造を乾燥して、連続アイオノマー相を有する複合膜を形成すること、及び
(f)前記複合膜を熱アニーリングすること、
を含む、方法。
[態様44]
態様32~35のいずれか1項記載の複合膜を形成する方法であって、
(a)支持体層を提供すること、
(b)イオン交換材料を前記支持層に1工程で適用すること、
(c)少なくとも1つの微孔質ポリマー層を含む微孔質ポリマー構造を得ること、
(d)前記少なくとも1つの微孔質ポリマー層を前記イオン交換材料にラミネート化して、連続アイオノマー相を有する含浸された微孔質ポリマー構造を形成すること、
(e)方法工程(d)による、含浸された微孔質ポリマー構造の上面に前記イオン交換材料を適用すること、
(f)第二の微孔質ポリマー層を前記イオン交換材料にラミネート化して、連続アイオノマー相を有する多層の含浸された微孔質構造を形成すること、
(g)前記多層の含浸された微孔質構造を乾燥して、連続アイオノマー相を有する複合膜を形成すること、及び
(h)前記複合膜を熱アニーリングすること、
を含む、方法。
[態様45]
正の電解質流体を含むカソードリザーバ、
負の電解質流体を含むアノードリザーバ、及び
正極を有する第一の側と負極を有する第二の側との間に配置された、態様1~41のいずれか1項記載の複合膜を含む交換領域、
を含み、
前記カソードリザーバは、第一のポンプを介して前記交換領域の第一の側に接続され、前記アノードリザーバは、第二のポンプを介して前記交換領域の第二の側に接続される、フロー電池。
[態様46]
未処理の微孔質ポリマー構造を得ること、
イオン交換材料を含む含浸剤溶液を前記未処理の微孔質ポリマー構造に適用して、連続アイオノマー相を有する処理された微孔質ポリマー構造を形成すること、及び
前記処理された微孔質ポリマー構造を乾燥及び熱アニーリングして複合膜を形成すること
を含むプロセスによって調製された複合膜であって、前記イオン交換材料は前記複合膜内で連続アイオノマー相を形成し、前記複合膜はブリスター試験手順に供された後に0%以下のヘイズ変化を示す、複合膜。