(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175739
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】熱伝導性フィラー、熱伝導性複合材料、ワイヤーハーネス、および熱伝導性フィラーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20231205BHJP
C08K 9/02 20060101ALI20231205BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20231205BHJP
C08K 7/28 20060101ALI20231205BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K9/02
C08K3/013
C08K7/28
H01B7/00 301
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023144154
(22)【出願日】2023-09-06
(62)【分割の表示】P 2019231048の分割
【原出願日】2019-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鴛海 直之
(72)【発明者】
【氏名】細川 武広
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 一雄
(72)【発明者】
【氏名】川上 尊史
(72)【発明者】
【氏名】前田 悠作
(72)【発明者】
【氏名】溝口 誠
(57)【要約】
【課題】比重を小さく抑えながら、高い熱伝導性を発揮することができる熱伝導性フィラー、また、そのような熱伝導性フィラーを含んだ熱伝導性複合材料およびワイヤーハーネス、そのような熱伝導性フィラーを製造することができる熱伝導性フィラーの製造方法を提供する。
【解決手段】表面に極性基を有する中空粒子11と、前記中空粒子11の表面を被覆する、無機化合物を含んだ熱伝導層12と、を有する熱伝導性フィラー10とする。また、前記熱伝導性フィラー10と、マトリクス材料2と、を含み、前記熱伝導性フィラー10が前記マトリクス材料2中に分散されている、熱伝導性複合材料1とする。さらに、前記熱伝導性複合材料1を含む、ワイヤーハーネスとする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に極性基を有する中空粒子と、
前記中空粒子の表面を被覆する、無機化合物を含んだ熱伝導層と、を有し、
前記熱伝導層は、膜状の前記無機化合物の層が、前記中空粒子の表面に付着したものである、熱伝導性フィラー。
ただし、前記無機化合物が合金である場合を除く。
【請求項2】
前記極性基は酸性基である、請求項1に記載の熱伝導性フィラー。
【請求項3】
前記極性基は、シロキサン結合を介して、前記中空粒子の表面に結合している、請求項1または請求項2に記載の熱伝導性フィラー。
【請求項4】
前記中空粒子は、前記熱伝導層と異なる無機化合物を含む材料、または有機重合体を含む材料の中空体として構成される、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の熱伝導性フィラー。
【請求項5】
前記中空粒子は、極性基によって表面処理されたガラスの中空体として構成されている、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の熱伝導性フィラー。
【請求項6】
前記熱伝導層は、AlおよびMgの少なくとも一方を含有する化合物を含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の熱伝導性フィラー。
【請求項7】
比重が1.5以下である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の熱伝導性フィラー。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の熱伝導性フィラーと、マトリクス材料と、を含み、
前記熱伝導性フィラーが前記マトリクス材料中に分散されている、熱伝導性複合材料。
【請求項9】
前記マトリクス材料は、有機重合体を含む、請求項8に記載の熱伝導性複合材料。
【請求項10】
比重が1.5以下である、請求項8または請求項9に記載の熱伝導性複合材料。
【請求項11】
室温における熱伝導率が、0.9W/(m・K)以上である、請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の熱伝導性複合材料。
【請求項12】
請求項8から請求項11のいずれか1項に記載の熱伝導性複合材料を含む、ワイヤーハーネス。
【請求項13】
そのままの状態で、または化学反応を経て、前記熱伝導層を構成する原料物質と、表面に極性基を有する中空粒子として構成された原料粒子と、を用いて、
前記原料粒子の表面の極性基に、前記原料物質を結合させる工程を含んで、
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の熱伝導性フィラーを製造する、熱伝導性フィラーの製造方法。
【請求項14】
前記原料物質は、金属アルコキシドおよび金属炭酸塩の少なくとも一方である、請求項13に記載の熱伝導性フィラーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱伝導性フィラー、熱伝導性複合材料、ワイヤーハーネス、および熱伝導性フィラーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気電子部品を構成する絶縁性部材において、放熱性を高め、通電等による発熱の影響を小さく抑える目的で、有機ポリマー材料に、熱伝導性フィラーが添加される場合がある。熱伝導性フィラーは、多くの場合、アルミナや窒化アルミニウム、窒化ホウ素等、熱伝導性の高い無機化合物より構成される。
【0003】
近年、自動車用エレクトロニクスをはじめとする種々の電気電子部品において、大電流化や集積化が進んでおり、通電時の発熱量が増大する傾向にある。その発熱の影響を抑制する手段として、例えば、自動車用ワイヤーハーネスであれば、電線をフラット化し、電線の表面積を増やすことや、電線を高熱伝導性の外装材に効率良く接触させること等、部材の形状や構造の改良による放熱性の向上が進められている。一方で、電線被覆や電線外装材等、電気電子部品の絶縁性部材を構成する材料自体の熱伝導性を高めることも、放熱性の向上に重要である。
【0004】
有機ポリマー材料等に、多量のフィラーを混合すれば、材料の熱伝導性を高めることができるが、無機化合物よりなるフィラーを多量に有機ポリマー材料に混合すると、材料の比重が大きくなってしまい、電気電子部品を軽量化することが難しくなる。自動車全体の軽量化の観点から、自動車用の電気電子部品においては、軽量化が重要となる。よって、熱伝導性フィラーを含む材料において、軽量化が望まれる。そのための方法として、フィラーの添加量を少なく抑えることが試みられている。
【0005】
フィラーの添加量を少なく抑えながら、高熱伝導性を維持することを目的として、フィラーの形状や粒子配置に関して、工夫がなされている。例えば、特許文献1では、内部に空隙部を有し、空隙率が所定の範囲とされたフィラーが開示されている。特許文献2では、マトリックスとしての樹脂中に、窒化ホウ素粒子を、一次粒子の積層体である二次粒子を層間剥離させる剥離工程を経ることにより生じた剥離扁平粒子の状態で分散させた、無機有機複合組成物が開示されている。特許文献3では、形状に異方性をもつ高熱伝導性フィラー同士が直接接触して、マトリックス樹脂中で網目構造を形成している高熱伝導性複合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-1849号公報
【特許文献2】特開2012-255055号公報
【特許文献3】特開2010-13580号公報
【特許文献4】特開2012-122057号公報
【特許文献5】特開2015-178543号公報
【特許文献6】特開2015-108058号公報
【特許文献7】特開2003-221453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルミナや窒化アルミニウム、窒化ホウ素に代表される無機化合物は、高い熱伝導性を示す一方、比重が大きく、フィラーとして有機ポリマー材料等に添加して複合材料とした際に、複合材料全体としての比重を小さく保ちながら、高熱伝導性を達成することは、難しい。特に、アルミナ等の酸化物よりなるフィラーは、比重が大きくなりやすい。特許文献1~3に記載されるように、フィラーの形状や粒子配置の工夫により、無機化合物の添加量をある程度少なく抑えることはできるが、それにも限界がある。フィラーの構成材料を検討することで、フィラー自体の比重を低減することができれば、フィラーを添加した複合材料において、軽量化と高熱伝導性の両立を、さらに高度に達成できる可能性がある。
【0008】
そこで、比重を小さく抑えながら、高い熱伝導性を発揮することができる熱伝導性フィラー、また、そのような熱伝導性フィラーを含んだ熱伝導性複合材料およびワイヤーハーネス、そのような熱伝導性フィラーを製造することができる熱伝導性フィラーの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の熱伝導性フィラーは、表面に極性基を有する中空粒子と、前記中空粒子の表面を被覆する、無機化合物を含んだ熱伝導層と、を有する。
【0010】
本開示の熱伝導性複合材料は、前記熱伝導性フィラーと、マトリクス材料と、を含み、前記熱伝導性フィラーが前記マトリクス材料中に分散されている。
【0011】
本開示のワイヤーハーネスは、前記熱伝導性複合材料を含む。
【0012】
本開示の熱伝導性フィラーの製造方法は、そのままの状態で、または化学反応を経て、前記熱伝導層を構成する原料物質と、表面に極性基を有する中空粒子として構成された原料粒子と、を用いて、前記原料粒子の表面の極性基に、前記原料物質を結合させる工程を含んで、前記熱伝導性フィラーを製造する。
【発明の効果】
【0013】
本開示にかかる熱伝導性フィラーは、比重を小さく抑えながら、高い熱伝導性を発揮することができる熱伝導性フィラーとなる。また、本開示にかかる熱伝導性複合材料およびワイヤーハーネスは、そのような熱伝導性フィラーを含んだものとなる。本開示にかかる熱伝導性フィラーの製造方法は、そのような熱伝導性フィラーを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態にかかる熱伝導性フィラーおよび熱伝導性複合材料の構成を説明する模式図である。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態にかかるワイヤーハーネスを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態を列記して説明する。
【0016】
本開示にかかる熱伝導性フィラーは、表面に極性基を有する中空粒子と、前記中空粒子の表面を被覆する、無機化合物を含んだ熱伝導層と、を有する。
【0017】
上記熱伝導性フィラーは、構成材料として中空粒子を含むものとなっており、中空粒子の表面に、無機化合物を含んだ熱伝導層を有している。中空粒子は、内部に空洞を有していることにより、全体として、低い比重を示す。よって、中空粒子を用いてフィラーを構成することで、熱伝導性フィラーが無機化合物のみよりなる場合よりも、熱伝導性フィラー全体としての比重が小さくなる。一方、熱伝導性フィラーの粒子において、無機化合物を含んだ熱伝導層が、中空粒子の表面を被覆していることにより、フィラー粒子が、他のフィラー粒子、または周囲を囲む他の材料と、熱伝導層において接触することになる。よって、中空粒子自体が、高い熱伝導性を有していなくても、表面を被覆する熱伝導層によって、フィラー粒子全体として、高い熱伝導性を発揮することができる。このように、熱伝導性フィラーにおいて、比重を小さく抑えながら、高い熱伝導性を確保することが可能となる。
【0018】
中空粒子が、表面に極性基を有することで、その極性基との相互作用や化学反応により、熱伝導層を構成する無機化合物、あるいはその無機化合物となる原料物質を、中空粒子の表面に結合させやすくなる。その結果、中空粒子の表面が熱伝導層に被覆された熱伝導性フィラーを、安定に、また簡便に形成することができる。
【0019】
ここで、前記極性基は酸性基であるとよい。酸性基は、負電荷を帯びているため、正電荷を帯びた状態にある無機化合物またはその原料物質との間に、イオン性の結合を安定に形成する。よって、中空粒子の表面に、無機化合物を含む熱伝導層を、安定に、また簡便に形成することができる。
【0020】
前記極性基は、シロキサン結合を介して、前記中空粒子の表面に結合しているとよい。シロキサン結合は、中空粒子が表面にシリコン原子を有する場合に、シランカップリング剤を用いて、中空粒子の表面に簡便に形成することができる。シランカップリング剤として、酸性基等の極性基を含むものや、極性基を有する化合物と結合形成可能な官能基を含むものを用いることで、多様な極性基を、安定に中空粒子の表面に導入することができる。
【0021】
前記中空粒子は、前記熱伝導層と異なる無機化合物を含む材料、または有機重合体を含む材料の中空体として構成されるとよい。すると、多様な材料で構成された中空粒子を用いて、比重が小さく、熱伝導性に優れた熱伝導性フィラーを構成することができる。
【0022】
前記中空粒子は、極性基によって表面処理されたガラスの中空体として構成されているとよい。ガラス粒子の表面には、シランカップリング剤を用いて、多様な極性基を導入しやすい。また、ガラスの中空体粒子は、粒径や形状が制御されたものを、比較的容易かつ安価に入手することができる。
【0023】
前記熱伝導層は、AlおよびMgの少なくとも一方を含有する化合物を含むとよい。AlやMgは、酸化物をはじめとする化合物が、高い熱伝導性を示す。また、AlやMgは、アルコキシドや炭酸塩をはじめとして、中空粒子の表面に結合させ、安定な化合物膜を形成することができる原料化合物が、入手しやすい。よって、熱伝導層を、AlやMgを含有する化合物として形成することで、低比重と高熱伝導性を両立する熱伝導性フィラーを、簡便に製造することができる。
【0024】
前記熱伝導フィラーは、比重が1.5以下であるとよい。すると、熱伝導性フィラーの低比重性を、十分に確保することができる。
【0025】
本開示にかかる熱伝導性複合材料は、前記熱伝導性フィラーと、マトリクス材料と、を含み、前記熱伝導性フィラーが前記マトリクス材料中に分散されている。
【0026】
上記熱伝導性複合材料は、上記で説明した、中空粒子と、その中空粒子の表面を被覆する熱伝導層とを有する熱伝導性フィラーを含有している。よって、熱伝導性複合材料全体としての比重を小さく抑えながら、熱伝導性フィラーが有する高い熱伝導性を利用して、放熱性を高めることができる。
【0027】
ここで、前記マトリクス材料は、有機重合体を含むとよい。多くの有機重合体は、熱伝導性が低いが、表面に熱伝導層を有する上記熱伝導性フィラーを混合することで、熱伝導性複合材料全体として、高い放熱性を確保することができる。一方、有機重合体は、比重が比較的小さいものが多いが、混合する熱伝導性フィラーが、中空粒子を含み、比重が小さく抑えられたものであることにより、熱伝導性フィラーを添加した状態でも、熱伝導性複合材料の比重を小さく抑えることができる。
【0028】
前記熱伝導性複合材料は、比重が1.5以下であるとよい。この場合には、熱伝導性複合材料全体としての比重が、十分に小さく抑えられることになる。
【0029】
前記熱伝導性複合材料は、室温における熱伝導率が、0.9W/(m・K)以上であるとよい。この場合には、熱伝導性複合材料全体として、十分に高い熱伝導性が確保されることになる。
【0030】
本開示にかかるワイヤーハーネスは、前記熱伝導性複合材料を含んでいる。
【0031】
上記ワイヤーハーネスは、上記で説明した熱伝導性複合材料を含んでいるため、構成部材の比重を小さく抑えながら、高熱伝導性を利用することができる。よって、ワイヤーハーネス全体としての質量を小さく抑えながら、高い放熱性が得られる。そのため、ワイヤーハーネスの軽量性を保ちながら、ワイヤーハーネスを構成する電線への通電等によって発熱が起こっても、その発熱の影響を、小さく抑えることができる。
【0032】
本開示にかかる熱伝導性フィラーの製造方法は、そのままの状態で、または化学反応を経て、前記熱伝導層を構成する原料物質と、表面に極性基を有する中空粒子として構成された原料粒子と、を用いて、前記原料粒子の表面の極性基に、前記原料物質を結合させる工程を含んで、前記熱伝導性フィラーを製造する。
【0033】
上記製造方法によれば、中空粒子として構成された原料粒子の表面に、無機化合物を含んだ熱伝導層を形成し、比重が小さく、かつ熱伝導性の高い熱伝導性フィラーを、簡便に製造することができる。原料粒子として、表面に極性基を有するものを用いることで、熱伝導層となる原料物質を、安定に、また簡便に、極性基を介して、原料粒子の表面に結合させることができる。
【0034】
ここで、前記原料物質は、金属アルコキシドおよび金属炭酸塩の少なくとも一方であるとよい。すると、簡素な化学反応工程によって、原料粒子の表面に金属酸化物を含む熱伝導層を形成し、熱伝導性フィラーを得ることができる。
【0035】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態にかかる熱伝導性フィラー、熱伝導性複合材料、ワイヤーハーネス、および熱伝導性フィラーの製造方法について、図面を用いて詳細に説明する。本開示の実施形態にかかる熱伝導性フィラーを含んで、本開示の実施形態にかかる熱伝導性複合材料が構成される。また、本開示の実施形態にかかる熱伝導性複合材料を含んで、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスが構成される。さらに、本開示の実施形態にかかる製造方法によって、本開示の実施形態にかかる熱伝導性フィラーを製造することができる。
【0036】
本明細書において、各種物性値は、特記しない限り、室温、大気中にて計測されるものとする。また、本明細書において、ある成分が、ある材料の主成分であるとは、その成分が、その材料を構成する全成分の質量に対して、50質量%以上を占めている状態を指す。
【0037】
<熱伝導性フィラー>
まず、本開示の一実施形態にかかる熱伝導性フィラー(以下、単に「フィラー」と称する場合がある)について説明する。
【0038】
(全体の構成)
図1に示すように、本開示の一実施形態にかかる熱伝導性フィラー10は、中空粒子11と、熱伝導層12とを有しており、粒子状となっている。熱伝導層12は、中空粒子11の表面を被覆している。
【0039】
中空粒子11は、粒子の内部に、空洞11aを有する粒子である。空洞11aは、中空粒子11またはフィラー10の製造工程で不可避的に取り込まれる固体または液体の成分を除いて、空気に代表される気体に占められている。中空粒子11および熱伝導層12の具体的な構成材料については、後に説明するが、中空粒子11は、熱伝導層12とは異なる材料より構成されており、表面(外表面)に、極性基、つまり極性を有する官能基を有している。一方、熱伝導層12は、無機化合物を含む層として構成されている。
【0040】
中空粒子11は、内部に空気等の気体が満たされた空洞11aを有していることにより、空洞を有さずに全体を固体材料が占めている中実状の粒子と比較して、粒子全体として、低い比重を有するとともに、熱伝導性が低くなっている。そのため、中空粒子11は、無機化合物の層として構成された熱伝導層12よりも、低い比重と、低い熱伝導性を示す。中空粒子11の表面に熱伝導層12が設けられた本実施形態にかかる熱伝導性フィラー10においては、比重の小さい中空粒子11を含むことにより、全体が無機化合物よりなる従来一般のフィラーと比較して、全体としての比重を小さくすることができる。
【0041】
一方、中空粒子11の表面を被覆する熱伝導層12は、無機化合物を含むことにより、高い熱伝導性を有するものとすることができ、フィラー10全体としての熱伝導性を高めるものとなる。
図1に示すように、フィラー粒子10の表面の熱伝導層12が、そのフィラー粒子10を取り囲むマトリクス材料2や、他のフィラー粒子10の表面の熱伝導層12と接触することで、フィラー粒子10とマトリクス材料2の間、またフィラー粒子10の間の熱伝導に寄与する。中空粒子11の表面にのみ熱伝導層12が設けられているため、フィラー粒子10全体としての体積は、中空粒子11によって確保しながら、小体積の熱伝導層12によって、熱伝導性を発揮することができる。隣接するフィラー粒子10が、表層の熱伝導層12を介して、相互に接触することによって、熱伝導経路を形成することができる。
【0042】
フィラー10の質量の増加を避ける観点から、フィラー10全体としての比重は、1.5以下、さらに好ましくは1.2以下、1.0以下であるとよい。一方、比重を小さく抑えすぎることにより、熱伝導層12を十分な厚さで形成できなくなることを避ける観点から、フィラー10全体としての比重は0.3以上、さらに好ましくは0.5以上であるとよい。フィラー10の比重は、例えば、比重計を用いて、粉末状のフィラー10の真密度として計測することができる。なお、フィラー10全体としての比重は、後に熱伝導層12の割合について説明する式(1)において、比重R2として用いられる。次に、中空粒子11および熱伝導層12の構成の詳細についてそれぞれ説明する。
【0043】
(中空粒子)
上記のように、中空粒子11は、空洞11aを有する粒状体である。ここで、空洞11aとは、中空粒子11を構成する固体材料がなす殻11bによって全体を包囲され、中空粒子11の外部の環境に対して遮断された空間である。中空粒子11は、多孔体に存在するような、外部の環境と連通した孔構造は、不可避的に形成されるものを除いて、有していない。
【0044】
中空粒子11(の殻11b)を構成する材料は、特に限定されるものではなく、有機物質、または熱伝導層12を構成する無機化合物とは異なる無機物質より構成するとよい。有機物質としては、各種樹脂、エラストマー、ゴム等の有機重合体(ポリマーである場合の他、オリゴマー等、低重合度のものも含む)を挙げることができる。無機物質としては、金属、あるいはガラスやセラミックス等の無機化合物を挙げることができる。中空粒子11を構成する材料は、1種のみであっても、混合や積層によって、2種以上が併用されてもよい。有機材料と無機材料の複合材料より中空粒子11が構成されてもよい。
【0045】
中空粒子11の構成材料の好ましい例として、ガラスを挙げることができる。ガラスは、材料自体として、種々の無機化合物の中で比較的低い比重を有するとともに、有機ポリマー等と比べて高い熱伝導性を有するため、熱伝導性フィラー10を構成する中空粒子11の材料として用いることで、熱伝導性フィラー10の低比重化および高熱伝導化に、高い効果を示す。また、ガラスを用いて中空粒子を作製し、さらに粒径や形状を制御する技術が、既に確立されているうえ、ガラスの中空粒子は、他種の中空粒子と比較して、安価に入手することができる。中空粒子11を構成するガラスの種類は、特に限定されるものではなく、ソーダ石灰ガラス、シリカガラス、ホウ酸ガラス、ホウケイ酸ガラス、鉛ガラス、リン酸ガラス等、種々のガラスを用いることができる。それらのガラス種の中でも、後述するように、シランカップリング剤を利用して極性基の導入を行えるように、ソーダ石灰ガラス、シリカガラス、ホウケイ酸ガラス等、シランカップリング剤とシロキサン結合を形成しうるシリコン原子を構造中に含むものを用いることが好ましい。
【0046】
中空粒子11は、表面に極性基を有している。中空粒子11の表面に極性基が存在することで、後に説明するように、中空粒子11となる原料粒子の表面に、熱伝導層12となる原料物質を結合させて熱伝導層12を形成する際に、原料粒子の極性基と原料物質との間に結合を形成し、安定な熱伝導層12を簡便に形成できるからである。中空粒子11の殻11a全体が、極性基を有する化合物を構成材料として含有するものであっても、極性基を実質的に含まない、あるいはごく少量しか含まない材料より構成された中空粒子11に対して、表面処理等によって、表面(およびその近傍)にのみ、極性基が導入されたものであってもよい。なお、原料粒子の表面に存在した極性基が、熱伝導層12の形成を経て、構造が変化する場合や、極性が低下または消失する場合もあるが、それらの場合にも、製造されたフィラー10において、中空粒子11の表面に残存する、もとの極性基に由来する構造を、極性基と称するものとする。
【0047】
中空粒子11(または熱伝導層12を形成する前の原料粒子;以下、表面の極性基の説明において同様とする)が表面に有する極性基の種類は、特に限定されるものではなく、イオン性であっても、非イオン性であってもよい。イオン性の極性基としては、カルボキシル基、シラノール基、スルホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基等の酸性基、アミノ基等の塩基性基を挙げることができる。非イオン性、あるいは弱イオン性の極性基としては、アルコール性水酸基、イソシアネート基、エポキシ基、アルコキシシリル基等を挙げることができる。熱伝導層12を形成する際に、原料物質との間にイオン性の結合を形成し、原料物質を原料粒子の表面に安定に結合させる観点から、中空粒子11は、表面に、イオン性極性基を有することが好ましい。
【0048】
また、極性基は、正の極性を有するものであっても、負の極性を有するものであってもよい。しかし、熱伝導層12を形成する際に用いる原料物質は、金属化合物等、正電荷を帯びている場合が多く、それらの原料物質を中空粒子11の表面に静電的に強固に結合させる観点から、中空粒子11の表面の極性基は、各種酸性基に代表されるように、中空粒子11の表面から離れる方向に負の分極を有していることが好ましい。アミノ酸等、双極性の化合物が、中空粒子11の表面に結合され、極性基を構成するものであってもよい。中空粒子11の表面に、イオン性で負の分極を有する極性基である酸性基が存在する形態が、特に好ましい。さらに、極性基を介した中空粒子11同士の凝集を防ぐ観点から、極性基は、強い水素結合性や、周囲に存在する物質との反応性を有さないものであることが好ましい。カルボキシル基等の酸性基は、強い水素結合性も、溶剤分子等、周囲に存在する物質との反応性も示さないものが多く、そのような酸性基を、極性基として好適に採用することができる。
【0049】
極性基は、中空粒子11の骨格構造に直接結合されていても、他の結合を介して結合されていてもよい。他の結合を介在させることで、中空粒子11の表面に、多様な極性基を導入することができる。例えば、中空粒子11が、骨格構造にシリコン原子を含有するガラスより構成されている場合に、シロキサン結合(-Si-O-Si-)を介して、中空粒子11の表面に極性基を導入することができる。後に説明するように、シランカップリング剤を用いた表面処理により、シロキサン結合を介した極性基の導入を、簡便に行うことができる。シロキサン結合に加えて、さらに別の結合を介して、極性基が中空粒子11の表面に結合されていてもよい。例えば、イソシアネート基を有するシランカップリング剤を、シロキサン結合を介して中空粒子11の表面に結合させたうえで、そのイソシアネート基に、アミノ酸のアミノ基を反応させれば、シロキサン結合に加えて、ウレア結合を介して、カルボキシル基が中空粒子11の表面に結合された構造を、形成することができる。
【0050】
中空粒子11の表面への極性基の導入における簡便性の観点から、中空粒子11が、ガラスをはじめとして、無機物質より構成されている場合には、上記シランカップリング剤を用いた処理等、表面処理によって、極性基を表面部に導入することが好ましい。一方で、中空粒子11が有機物質より構成される場合には、中空粒子11を構成する有機物質自体が極性基を有し、その極性基が中空粒子11の表面に露出されたものとすることが好ましい。極性基を有する有機高分子として、アクリル酸を主鎖に含む(共)重合体、酸変性された高分子等を挙げることができる。
【0051】
中空粒子11は、内部に空洞11aを有するものであれば、具体的な形状や粒径を、特に限定されるものではない。しかし、球体に近似できるもの等、等方性の高い形状を有している方が、熱伝導層12を表面に形成しやすくする、マトリクス材料2との親和性を高める等の点で、好ましい。中空粒子11の粒径(メジアン径D50;以下においても同じ)は、フィラー10全体としての比重を小さく抑えられるようにする等の観点から、1μm以上、さらには5μm以上であることが好ましい。一方、フィラー10が添加されるマトリクス材料2の特性への影響を小さく抑える、比表面積を大きくする等の観点から、中空粒子11の粒径は、100μm以下、さらには60μm以下であることが好ましい。
【0052】
フィラー10全体としての比重を小さく抑える観点から、中空粒子11単体としての比重も小さい方が好ましい。中空粒子11の具体的な比重は、中空粒子11全体として、熱伝導層12の比重より小さくなっていれば、特に限定されるものではないが、空洞11aも含めた中空粒子11全体としての比重(真密度)で、例えば、1.0以下、好ましくは0.5以下、さらには0.3以下であるとよい。中空粒子11の比重に特に下限は設けられないが、ガラス等の無機材料、また有機重合体より構成された中空粒子11の比重は、おおむね、0.1以上である。中空粒子11の比重は、空洞11aを含めた全体の比重として、十分に小さくなっていればよいが、中空粒子11の殻11bを構成する材料そのものの比重としても、小さい方が好ましく、例えば、熱伝導層12の比重以下、さらには熱伝導層12の比重の半分以下であるとよい。
【0053】
(熱伝導層)
上記のように、熱伝導層12は、無機化合物(合金を除く)を含む層として構成される。好ましくは、熱伝導層12は、無機化合物を主成分として含んでいる。無機化合物の種類は特に限定されるものではないが、中空粒子11よりも高い熱伝導率を示す物質、つまり熱伝導層12を中空粒子11の表面に形成した場合の方が、中空粒子11のみの場合よりも、マトリクス材料2に混合した際の熱伝導率の向上効果が大きくなる物質が用いられる。また、熱伝導層12を構成する無機化合物は、マトリクス材料2よりも高い熱伝導率を有し、さらに、中空粒子11の殻11bの構成材料よりも高い熱伝導率を有することが好ましい。中空粒子11の粒子の表面に、熱伝導性の高い安定な熱伝導層12を簡便に形成する等の観点から、好ましくは、熱伝導層12は、無機化合物として、金属元素と非金属元素とを含む金属化合物を含んでいるとよい。ここで、金属化合物を構成する金属元素には、B,Si等、半金属も含むものとする(以降においても同様)。
【0054】
熱伝導層12を構成する金属化合物としては、金属元素を含む酸化物、窒化物、炭化物、酸窒化物、炭窒化物、炭酸化物、水酸化物、ホウ化物等、また、金属のシリケート、アルミネート、チタネート等を例示することができる。熱伝導性に優れ、中空粒子11の表面に安定に膜状の熱伝導層12を形成しやすい等の観点から、熱伝導層12は、各種の金属化合物のうち、金属酸化物を含むことが好ましい。熱伝導層12が、金属酸化物を主成分としてなっていれば、特に好ましい。金属酸化物は、金属窒化物や金属炭化物よりも比重が大きくなりやすいため、フィラー10において、中空粒子11と共存する熱伝導層12として形成されることで、中空粒子11による比重低減の効果を、大きく享受することができる。
【0055】
熱伝導層12を構成する無機化合物は、種々の金属化合物の中でも、AlおよびMgの少なくとも一方を含有する化合物を含んでいることが好ましい。特にAlを含んでいることが好ましい。また、AlやMgは、酸化物を構成していることが好ましい。酸化物をはじめとするAlやMgの化合物は、高い熱伝導性を示すとともに、市販の原料化合物を用いて、粒子状の中空粒子11の表面に、安定に、また強固に付着した膜状の熱伝導層12として、形成しやすいからである。
【0056】
熱伝導層12を構成する無機化合物は、1種であっても、複数であってもよい。また、複数の無機化合物を用いる場合に、それらの無機化合物は混在していても、さらには複合体を形成していてもよく、あるいは層状に積層されていてもよい。さらに、熱伝導層12は、無機化合物のみならず、各種添加剤や反応残渣等、有機物質をあわせて含むものであってもよい。また、マトリクス材料2が有機重合体を含む場合に、熱伝導層12の表面に、マトリクス材料2との親和性を高める等の観点から、有機膜が設けられていてもよい。しかし、隣接するフィラー粒子10の間で、熱伝導層12どうしの直接の接触によって、熱伝導性を高める観点からは、そのような有機膜は設けられない方が好ましい。熱伝導層12は、中空粒子11の表面の少なくとも一部を被覆していればよいが、フィラー粒子10とマトリクス材料2の間、また隣接するフィラー粒子10の間で、熱伝導層12を介した接触を十分に確保する観点から、熱伝導層12は、少なくとも、中空粒子11の表面積の半分以上、さらには、不可避的な欠陥等を除いて、中空粒子11の表面全域を被覆していることが好ましい。
【0057】
フィラー10において、熱伝導層12が占める割合は、特に限定されるものではないが、下記の式(1)で規定される熱伝導層比重率Rが、100%以上であることが好ましい。
R=(R2-R1)/R1 (1)
ここで、R1は、中空粒子11のみの比重を指し、R2は、フィラー10全体としての比重を指す。熱伝導層比重率Rが大きいほど、フィラー10において熱伝導層12が占める領域の割合が大きいことを示す。なお、中空粒子11の状態は、熱伝導層12の形成によってほぼ変化しないので、中空粒子11の比重R1は、フィラー10を製造する際に用いる原料粒子の比重で代用することができる。
【0058】
熱伝導層比重率Rが100%以上であれば、フィラー10が十分な体積の熱伝導層12を有することにより、フィラー10全体としての熱伝導性を十分に高めやすい。熱伝導層比重率Rは、150%以上、また300%以上であれば、さらに好ましい。また、フィラー粒子10全体に対して、熱伝導層12は、体積比で、5体積%以上、さらには10体積%以上、20体積%以上を占めることが好ましい。熱伝導層12の厚さとしては、平均値で、フィラー粒子10の粒径の1%以上、さらには3%以上、5%以上を占めることが好ましい。
【0059】
一方、フィラー粒子10において、熱伝導層12が占める割合を大きくしすぎても、フィラー10の熱伝導性の向上効果が飽和するとともに、中空粒子11の含有によってフィラー粒子10の比重を小さく抑える効果が、小さくなる。それらの現象を避ける観点から、熱伝導層比重率Rを、500%以下としておくことが好ましい。また、フィラー粒子10全体に対して熱伝導層12が占める量を、体積比で、40体積%以下、厚さにして、フィラー粒子10の粒径の15%以下としておくとよい。なお、フィラー粒子10において、熱伝導層12が占める領域は、中空粒子11の粒径に比べて薄いため、フィラー粒子10全体としての粒径は、中空粒子11の粒径と大きくは変わらず、1μm以上、さらには5μm以上、また100μm以下、さらには60μm以下であることが好ましい。
【0060】
以上のように、本実施形態にかかる熱伝導性フィラー10は、中空粒子11の表面に熱伝導層12が形成された二重構造を有することにより、熱伝導性を高く保ちながら、比重が低減されたものとなる。よって、後に説明する熱伝導性複合材料1のように、他の物質と組み合わせて複合材料とすることで、複合材料全体としての比重を著しく増大させることなく、複合材料の熱伝導性を高めるものとなる。
【0061】
<熱伝導性フィラーの製造方法>
次に、上記の熱伝導性フィラー10を製造することができる、本開示の一実施形態にかかる熱伝導性フィラーの製造方法について説明する。熱伝導性フィラー10は、粒子準備工程と、熱伝導層形成工程とを実施することで、製造することができる。
【0062】
粒子準備工程においては、製造されるフィラー10において中空粒子11となる、中空の原料粒子を準備する。種々の有機材料および無機材料について、中空粒子を製造する方法が開発されており、それらの方法に従って、原料粒子を準備すればよい。また、ガラス等の無機化合物や有機高分子については、中空粒子が多く市販されている。
【0063】
原料粒子が、表面に極性基を有するものでない場合、また極性基の密度が低い等により、表面の極性が十分に高くない場合には、原料粒子に対して表面処理を施し、表面に極性基を導入する。表面処理としては、所望の極性基を有する化合物を、化学反応によって、原料粒子の表面に結合させればよい。この際、その極性基を有する化合物と、原料粒子の表面との間に、別の化合物を介在させてもよい。
【0064】
原料粒子が、シリコン原子を含むガラスより構成される場合に、シランカップリング剤を用いて、シロキサン結合を介して、極性基を原料粒子の表面に導入することが好ましい。一般に、シランカップリング剤は、アルコキシシリル基を有しており、原料粒子の表面に結合させることで、残存したアルコキシシリル基、またはアルコキシシリル基が加水分解して生じたシラノール基、あるいは隣接するアルコキシシリル基同士が反応して形成されたシロキサン結合が、原料粒子の表面で、極性基として機能する。表面処理に用いるシランカップリング剤が、アルコキシシリル基以外にも極性を有する官能基を有するものであれば、アルコキシシリル基に加えて、その官能基を、原料粒子の表面に、極性基として導入することができる。
【0065】
シランカップリング剤として、アルコキシシリル基以外の反応性官能基を有するものを用いれば、シランカップリング剤を原料粒子の表面に結合させた後、さらにその反応性官能基を介して、別の化合物(他種化合物)を結合させることで、極性基を原料粒子の表面の導入することもできる。この場合、シランカップリング剤を介して原料粒子に結合させる他種化合物としては、原料粒子の表面に導入すべき極性基に加え、シランカップリング剤が有する反応性基と反応して結合を形成することができる反応性基を有するものを用いればよい。他種化合物を結合させるためにシランカップリング剤に導入しうる反応性官能基としては、イソシアネート基、エポキシ基、ビニル基、アミノ基、メルカプト基等を例示することができる。例えば、シランカップリング剤として、イソシアネート基を有するものを用いる場合に、シランカップリング剤に結合させる他種化合物として、原料粒子の表面に導入すべき極性基に加え、アミノ基を有する化合物を用いる形態を例示することができる。この場合には、イソシアネート基とアミノ基の間でウレア結合が生成されることで、他種化合物が、シランカップリング剤を介して、原料粒子の表面に結合されることになる。アミノ基を有する他種化合物としては、アミノ酸を例示することができる。この場合には、アミノ酸に含まれるカルボキシル基が、シロキサン結合およびウレア結合を介して、極性基として、原料粒子の表面に結合されることになる。
【0066】
以上のように、粒子準備工程において、表面に極性基を有する原料粒子を準備すると、次に、熱伝導層形成工程において、原料粒子の表面に、熱伝導層12を形成する。この際、製造されるフィラー10において熱伝導層12を構成する無機化合物そのものを、原料物質として原料粒子の表面に配置する直接形成法をとっても、あるいは、適宜化学反応を経ることで熱伝導層12を構成する無機化合物となる原料物質を、原料粒子の表面に配置する間接形成法をとってもよい。いずれの方法をとる場合にも、原料粒子が、表面に極性基を有していることにより、極性基を介した静電的相互作用(イオン結合)または化学反応を伴う結合の形成により、原料物質を、原料粒子に、強固に結合させることができる。
【0067】
直接形成法をとる場合には、原料粒子の表面に配置した原料物質が、そのままの状態で、熱伝導層12となる。直接形成法としては、蒸着、析出等を例示することができる。一方、間接形成法をとる場合には、原料物質を原料粒子の表面に配置した後、化学反応を起こすことで、熱伝導層12を形成することになる。間接形成法としては、原料物質を、原料粒子の表面の極性基に、静電的相互作用(イオン結合)等の相互作用により、または化学反応を経て、結合させたうえで、その結合した原料物質に対して化学反応を行うことで、所望の組成の熱伝導層12を形成する方法を挙げることができる。特に、原料粒子が酸性基を表面に有している場合には、金属を含有する原料物質の結合を、簡便に、また強固に達成しやすい。
【0068】
熱伝導層形成工程においては、まず、分散媒(溶媒)中に原料粒子が分散され、さらに熱伝導層12を構成する無機化合物となる原料物質が含有された、原料液を調製すればよい。原料液中において、熱伝導層12を構成する無機化合物となる原料物質は、液状で存在している必要があり、分散媒(溶媒)に溶解した状態のほか、溶融状態にあってもよい。あるいは微分散した状態にあってもよい。以下に、原料液中において、原料粒子が分散されるとともに、熱伝導層12を構成する原料物質が溶解した状態にある形態について、説明する。この場合に、原料液の調製に用いる溶媒は、原料粒子を溶解させることなく、また表面の極性基を変質させることなく分散させるとともに、熱伝導層12を形成する原料物質を溶解させることができるものであれば、特に限定されず、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)等の有機溶媒、イソブチルアルコール等のアルコール類を例示することができる。
【0069】
原料液を調製するに際し、例えば、最初に溶媒中に原料粒子を添加して十分に撹拌し、原料粒子を分散させればよい。次に、原料粒子の分散液に熱伝導層12となる原料物質を添加し、撹拌等により、溶解させればよい。この操作で、原料粒子の表面の極性基に、静電的相互作用(イオン結合)等の相互作用により、あるいは化学反応を経て、原料物質を結合させる。原料物質を、原料粒子の極性基に結合可能な状態とするために、原料物質の分解等が必要な場合や、原料物質と原料粒子の極性基の間で、化学反応を経て結合を形成する場合に、それら分解や化学反応に、加熱や反応剤の添加が必要であれば、適宜、撹拌と合わせて、それらの操作を行えばよい。
【0070】
原料物質を原料粒子の表面に結合させると、次に、原料物質に対して、化学反応を起こし、熱伝導層12を構成する所望の無機化合物への変換を行えばよい。この際、必要な化学反応の種類に応じた操作を行えばよく、例えば、撹拌に加えて、加熱、反応剤の添加、酸素等の気体分子との接触等を行えばよい。撹拌以外に、加熱や大気との接触のみで、原料物質からの変換を完了することができれば、簡便に熱伝導層12を形成することができ、好ましい。
【0071】
熱伝導層形成工程において、中空粒子11の表面に熱伝導層12を形成した後、適宜、濾過等によって生成物を単離すればよい。さらに、加熱乾燥や真空乾燥を行って、揮発成分を除去することで、熱伝導性フィラー10を得ることができる。
【0072】
熱伝導層形成工程において用いる原料物質としては、原料粒子の分散液中、あるいは原料粒子の表面で、含金属イオンを形成しうるものを用いることが好ましい。具体的な化合物の種類は特に限定されず、そのような原料物質の好適な例として、金属アルコキシドおよび金属炭酸塩を挙げることができる。原料物質として金属アルコキシドを用いる場合には、原料粒子の分散液に金属アルコキシドを添加し、加熱しながら撹拌を行えばよい。金属アルコキシドは、加水分解を起こし、アルコールの発生を伴いながら、金属水和物を形成する。特に、原料粒子の表面や分散媒中に酸性基等の極性基が微量に存在すると、その周辺で金属水和物の生成速度が速くなる。生じた金属水和物は、酸性基等、負の分極を有する原料粒子表面の極性基との間に、静電的結合を形成し、膜の状態で、原料粒子の表面に強固に結合することになる。その後、適宜反応液を加熱し、分散媒を乾燥させることで、大気中の酸素による酸化を経て、金属水酸化物および金属酸化物の少なくとも一方を含んだ熱伝導層12を有する、熱伝導性フィラー10が得られる。多くの場合、熱伝導層12における酸化は、金属酸化物の状態まで進む。金属アルコキシドの種類は、特に限定されるものではなく、メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド等を例示することができるが、アルミニウムイソプロポキシドやマグネシウムエトキシドが、安全性や入手容易性において、利用しやすい。
【0073】
原料物質として金属炭酸塩を用いる場合には、塩基性炭酸塩を原料粒子の分散液に添加すると、金属水酸化物が、原料粒子の表面で形成され、原料粒子の表面に強固に結合して、膜を構成する。その後、上記アルコキシドの場合と同様に、適宜反応液を加熱し、分散媒を乾燥させることで、大気中の酸素による酸化を経て、金属水酸化物および金属酸化物の少なくとも一方を含んだ熱伝導層12を有する熱伝導性フィラー10が得られる。多くの場合、熱伝導層12における酸化は、金属酸化物の状態まで進む。
【0074】
<熱伝導性複合材料>
次に、本開示の一実施形態にかかる熱伝導性複合材料(以下、単に複合材料と称する場合がある)について説明する。本実施形態にかかる熱伝導性複合材料1は、
図1に示すように、上記で説明した本開示の実施形態にかかる熱伝導性フィラー10と、マトリクス材料2とを含んでいる。マトリクス材料2の中に、フィラー10が分散されている。
【0075】
本実施形態にかかる複合材料1は、上記で説明した中空粒子11の表面に熱伝導層12を有する熱伝導性フィラー10を含んでいるため、熱伝導層12によって付与される高熱伝導性により、複合材料1全体として、高い熱伝導性を示し、放熱性に優れたものとなる。同時に、中空粒子11による熱伝導性フィラー10の低比重化の効果により、複合材料1全体として、比重の小さいものとなる。
【0076】
マトリクス材料2の種類は、特に限定されるものではないが、マトリクス材料2は、有機重合体を含むことが好ましく、有機重合体を主成分とするものであれば、より好ましい。マトリクス材料2を構成する有機重合体の具体例としては、各種樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴム等を挙げることができる。有機重合体は、高分子(ポリマー)に限られず、オリゴマー等、重合度の低いものであってもよい。マトリクス材料2として樹脂材料を用いる場合には、所望の用途に応じて、硬化性樹脂でも、熱可塑性樹脂、溶剤に溶解可能なプラスチックでもよい。マトリクス材料2を構成する樹脂の種類としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル等のハロゲン系樹脂、ポリ乳酸、ポリスチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、およびエポキシ樹脂、またはこれらの樹脂同士の共重合体やポリマーアロイが挙げられる。マトリクス材料2は、有機重合体を1種のみ含むものであっても、複数含むものであってもよい。また、マトリクス材料2は、有機重合体の他に、難燃剤、充填剤、着色剤等の添加剤を適宜含んでいてもよい。
【0077】
マトリクス材料2自体の比重も、特に限定されるものではないが、フィラー10を添加した複合材料1全体としての比重を小さく抑える観点から、1.5以下に抑えておくことが好ましい。マトリクス材料2の比重に特に下限は設けられないが、マトリクス材料2として有機重合体を用いる場合に、その比重は、おおむね0.8以上となる。また、マトリクス材料2自体の熱伝導率も特に限定されるものではないが、フィラー10を添加した複合材料1全体として、高い熱伝導率を確保する観点から、0.1W/(m・K)以上としておくことが好ましい。マトリクス材料2の熱伝導率に特に上限は設けられないが、マトリクス材料2として有機重合体を用いる場合に、その熱伝導率は、おおむね0.6W/(m・K)以下となる。なお、マトリクス材料2や複合材料1の比重は、水置換法等によって測定することができる。また、それらの材料の熱伝導率は、レーザーフラッシュ法、熱線法等により、測定することができる。
【0078】
本実施形態にかかる複合材料1において、フィラー10の含有量は、複合材料1全体として、所望の比重と熱伝導性が得られるように、適宜定めればよい。フィラー10の含有量を多くするほど、複合材料1の熱伝導性が高くなるので、所望の熱伝導性が得られる含有量を下限として、フィラー10の含有量を定めればよい。例えば、複合材料1の熱伝導率が、フィラー10を添加しないマトリクス材料2の熱伝導率の1.5倍以上、さらには2倍以上、3倍以上、4倍以上となるように、フィラー10の含有量を定めればよい。あるいは、複合材料1の熱伝導率が、0.6W/(m・K)以上、さらには0.9W/(m・K)以上、1.2W/(m・K)以上となるように、フィラー10の含有量を定めればよい。なお、複合材料1の熱伝導率は高いほど好ましいものではあるが、フィラー10の過剰な添加による比重の増大を避ける観点から、マトリクス材料2の熱伝導率の50倍以下、さらには30倍以下、また8.0W/(m・K)以下、さらには5.0W/(m・K)以下に留めておくとよい。
【0079】
複合材料1におけるフィラー10の含有量の上限は、特に定められるものではないが、複合材料1の比重が、フィラー10を添加しないマトリクス材料2の比重の1.3倍以下、さらには1.2倍以下に抑えられるように、フィラー10の含有量を定めればよい。さらに好ましくは、複合材料1の比重が、フィラー10を添加しないマトリクス材料2の比重以下であるとよい。あるいは、複合材料1の比重の値が、1.8以下、さらには1.5以下に抑えられるように、フィラー10の含有量を定めればよい。なお、複合材料1の比重は、小さいほど好ましいものであり、下限は特に定められない。
【0080】
フィラー10の含有量を、複合材料1全体にフィラー10が占める割合で規定する場合には、フィラー10の含有量は、複合材料1の熱伝導性の十分な向上を図る観点から、おおむね、30体積%以上とすればよい。一方、複合材料1の比重の増大を抑える観点から、60体積%以下とすればよい。また、フィラー10の含有量は、
図1に示すように、隣接するフィラー粒子10の熱伝導層12が接触し、熱伝導経路が形成されるように選択することが好ましい。複合材料1におけるフィラー10の含有量を、無機化合物の含量、つまり熱伝導層12を形成する無機化合物が複合材料1全体に占める体積の割合で規定する場合には、その含量を、0.5体積%以上、さらには5体積%以上、また20体積%以下とすればよい。
【0081】
以上のように、本実施形態にかかる複合材料1は、高熱伝導性と低比重を両立するものである。よって、本複合材料1は、次に説明するワイヤーハーネスのように、軽量性と放熱性の両方が求められる部材を構成する材料として、好適に用いることができる。本実施形態にかかる複合材料1は、上記で説明した製造方法で製造した粉末状のフィラー10を、所定の配合比でマトリクス材料2に混合することにより、製造することができる。
【0082】
<ワイヤーハーネス>
最後に、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスについて説明する。本実施形態にかかるワイヤーハーネスは、上記で説明した本開示の実施形態にかかる熱伝導性複合材料1を含むものである。
図2に示すように、ワイヤーハーネス5は、電線導体の外周に絶縁被覆を設けた絶縁電線51の端末部に、接続端子(不図示)を含んだコネクタ52が設けられたものである。ワイヤーハーネス5において、絶縁電線51が複数束ねられていてもよく、この場合に、絶縁電線51を束ねる外装材として、テープ53を用いることができる。
【0083】
本実施形態にかかるワイヤーハーネス5において、上記で説明した本開示の実施形態にかかる複合材料1は、放熱性が求められる種々の部材を構成することができる。主に、マトリクス材料2としての有機重合体にフィラー10が添加された複合材料1を、絶縁性の部材として用いることが好ましい。そのような絶縁性の部材として、絶縁電線51を構成する絶縁被覆、絶縁電線51の外側に配置されるテープ53や保護管等の外装材、構成部材間の接着や止水に用いられる接着剤、コネクタ52を構成するコネクタハウジング等を例示することができる。また、コルゲートチューブ等の保護管と、絶縁電線51の間に、複合材料1を配置してもよい。
【0084】
近年、自動車分野において、中でも電気自動車やハイブリッド車において、電線に流される電流が大きくなり、それに伴って、電線から発生する熱量が大きくなる傾向がある。また、多数の電線や電気接続部材が近接して配置されるようになってきている。これらの場合に、ワイヤーハーネス5を構成する各種部材が、高い放熱性を有することが、電線や電気接続部材からの放熱の影響を小さく抑える観点から、重要である。ワイヤーハーネス5において、そのように放熱の影響を受ける可能性のある部材を、高い熱伝導性を有する上記複合材料1を用いて構成することにより、効率的に放熱を行うことが可能となる。また、自動車分野において、構成部材の軽量化は重要な課題であり、比重が小さく抑えられた上記複合材料1を用いることで、ワイヤーハーネス5の軽量化にも貢献することができる。
【実施例0085】
以下、実施例を示す。本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。ここでは、中空粒子の表面に熱伝導層を有する熱伝導性フィラーを作製し、比重および熱伝導性を評価した。以下、特記しない限り、試料の作製および評価は、大気中、室温にて行っている。
【0086】
[試験方法]
(1)フィラーの準備
まず、中空粒子の表面に熱伝導層を有するフィラーとして複数のものを準備した。フィラーの作製に際し、まず、粒子準備工程において、原料粒子に適宜表面処理を施したうえで、熱伝導層形成工程において、原料粒子の表面に、熱伝導層を形成した。
【0087】
(1-1)粒子準備工程
フィラー作製の原料として、以下のものを準備した。
(中空ガラス粒子)
・G6020:ソーダ石灰ホウケイ酸ガラス製中空粒子(スリーエム社製「グラスバブルズ K20」);メジアン径60μm;比重0.20
・G4525:ホウケイ酸ガラス製中空粒子(ポッターズ・バロティーニ社製「Sphericel 25P45」);メジアン径45μm;比重0.25
・G2046(スリーエム社製「グラスバブルズ iM16K」):ソーダ石灰ホウケイ酸ガラス製中空粒子;メジアン径20μm;比重0.46
【0088】
(表面処理剤)
・3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APES)
(C2H5O)3Si-C3H6-NH2
・テトラエトキシシラン(TEOS)
Si(OC2H5)4
・ビニルトリエトキシシラン(VTES)
(C2H5O)3Si-CH=CH2
・3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(IPES)
(C2H5O)3Si-C3H6-N=C=O
・DL-アラニン
H2N-CH(CH2)-COOH
・ヘキサメチルジシラザン(HMDS)
(CH3)3Si-NH-Si(CH3)3
【0089】
上記中空ガラス粒子に対して、上記表面処理剤を用いて、表面処理を行い、以下のように、各種表面処理粒子を作製した。
・G60-A:5gのG6020と100mLのアセトンをナスフラスコに入れ、室温にて緩やかに撹拌し、懸濁させた。そして、懸濁を続けながら、0.5gのAPESを懸濁液に添加した。そのまま室温にて2時間撹拌後、冷却管を取り付け、20mLの純水を加えて、50℃で24時間撹拌した。その後、濾過風乾し、さらに140℃のオーブンにて24時間加熱した。以上の工程により、アミノプロピルトリエトキシシラン表面処理G6020を、白色粉末として得た。
・G60-T:上記G60-Aの製造方法において、APESの代わりにTEOSを用い、それ以外の点は同様にして、テトラエトキシシラン表面処理G6020を、白色粉末として得た。
・G60-V:上記G60-Aの製造方法において、APESの代わりにVTESを用い、それ以外の点は同様にして、ビニルトリエトキシシラン表面処理G6020を、白色粉末として得た。
・G60-I:上記G60-Aの製造方法において、APESの代わりにIPESを用い、それ以外の点は同様にして、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン表面処理G6020を、白色粉末として得た。
・G60-IA:上記で得たG60-Iを5gと、アセトン50mLとをナスフラスコに入れ、室温にて緩やかに撹拌し、懸濁させた。その懸濁液に、濃度2質量%のDL-アラニン水溶液を10g添加し、50℃で24時間撹拌した。その後、濾過風乾し、さらに140℃のオーブンにて24時間加熱した。以上の工程により、イソシアネートを介してカルボン酸で表面処理したG6020を、白色粉末として得た。
・G45-IA:上記G60-Iの製造方法において、G6020の代わりにG4525を用いて、生成物を得た。その生成物を、上記G60-IAの製造方法において、G60-Iの代わりに用いて、イソシアネートを介してカルボン酸で表面処理したG4520を、白色粉末として得た。
・G20-IA:上記G60-Iの製造方法において、G6020の代わりにG2046を用いて、生成物を得た。その生成物を、上記G60-IAの製造方法において、G60-Iの代わりに用いて、イソシアネートを介してカルボン酸で表面処理したG2046を、白色粉末として得た。
・G60-H:上記G60-Aの製造方法において、APESの代わりにHMDSを用い、それ以外の点は同様にして、ヘキサメチルジシラザン表面処理G6020を、白色粉末として得た。
【0090】
以上のように、各種表面処理粒子を準備した。得られた表面処理粒子のそれぞれについて、電子比重計を用いて比重を評価したところ、表面処理の前後で、比重に変化はなかった。つまり、上記表面処理程度では、比重に影響を与えないことが確認された。
【0091】
(1-2)熱伝導層形成工程
上記で作製した各種表面処理粒子、および表面処理を施していないG6020を原料粒子として、各原料粒子に、アルミニウム酸化物を含む熱伝導層を形成した。具体的には、各原料粒子と、アルミニウムイソプロポキシド(東京化成工業社製)を、イソブチルアルコールに添加し、110℃にて緩やかに還流撹拌を行った。この際の原料粒子およびアルミニウムイソプロポキシドの投入量を、下の表1に示している。表1中のフィラーの名称において、原料粒子の名称に続いて、「F1」と表示しているものについては、製造されるフィラー中のアルミナの量が、容積率で25体積%、厚さで原料粒子の粒径の9%となるように、アルミニウムイソプロポキシドの投入量を調整した。一方、原料粒子の名称に続いて、「F2」と表示しているものについては、製造されるフィラー中のアルミナの量が、容積率で10体積%、厚さで原料粒子の粒径の3.5%となるように、アルミニウムイソプロポキシドの投入量を調整した。
【0092】
110℃での加熱撹拌を1時間行った後、純水を10mL加え、40時間加熱還流撹拌を続けた。その後、反応液を室温に戻して濾過風乾し、得られた固形成分を、140℃のオーブンで48時間乾燥して、各種フィラーを得た。
【0093】
下の表1に、各フィラーについて、調製原料として用いた原料粒子の種類および比重と投入量、アルミニウムイソプロポキシドの投入量をまとめる。また、得られたフィラーの比重、および熱伝導層比重率Rを示す。ここで、フィラーの比重は、全てのアルミニウムイソプロポキシドがアルミナを形成していると仮定して、原料の質量比から計算によって求めたものである。ただし、実際のフィラーにおいては、アルミナとしては、原料粒子の表面に熱伝導層として形成されたものだけでなく、原料粒子と独立した粒子として形成されたアルミナ粒子等、別の形態で形成されたものが含まれる場合もあり、ここで算出された比重は、それら全ての形態のアルミナを含むものである。熱伝導層比重率Rは、その比重値に基づいて、上記式(1)によって求めたものである。なお、上記合成方法によってアルミニウムイソプロポキシドを用いて形成される熱伝導層が、ほぼアルミナの組成を有することは、他種の微粒子の表面に同様に形成した熱伝導層に対して、SEM-EDX分析(走査電子顕微鏡によるエネルギー分散型X線分析)によって、確認している。
【0094】
【0095】
(1-3)参照試料
上記で作製したフィラーと比較するための参照用のフィラーとして、あわせて、以下のものを準備した。
・アルミナフィラー:昭和電工社製 丸み状アルミナ(AS-50)
・G6020:上記で表面処理用の原料として用いたG6020を、そのまま参照用のフィラーとしても用いた。
【0096】
(2)複合材料の調製
上記で準備した各フィラーをマトリクス材料に分散させ、試料A1~A10および試料B1~B5にかかる複合材料を調製した。ここで、複合材料を構成するマトリクス材料は、以下の2液系エポキシ樹脂の硬化物とした。
・エポキシ主剤:ビスフェノールAのグリシジルエーテル(三菱化学社製「jER828」;エポキシ当量:190g/eq.)
・エポキシ硬化剤:アミンタイプ(三菱化学社製「ST12」;アミン価:345~385KOHmg/g)
【0097】
後の表2に示す質量比で、各種フィラーとエポキシ主剤、エポキシ硬化剤を、常温にてメノウ乳鉢で混合し、常温真空下で1分間脱泡した。そして、混合物を、熱プレス成形機により、100℃にて10分間加熱し、硬化させた。硬化体のうち、目視にて気泡が確認されない部分を切り出して、樹脂硬化物試験片(10mm×10mm×1mm)を作製した。なお、試料B1については、フィラーを添加せず、エポキシ樹脂のみから樹脂硬化物試験片を作製した。
【0098】
(3)複合材料の特性評価
上記で作製した各樹脂硬化物試験片に対して、比重および熱伝導率を測定した。比重は水中置換法によって測定した。熱伝導率は、熱伝導装置(NETZSCH社製「LFA447」)を用い、レーザーフラッシュ法にて測定した。さらに、試料A1~A5については、試験片の断面に対して、走査電子顕微鏡(SEM)を用いた観察も行い、フィラーの分散状態を評価した。なお、上記でも説明したように、製造したフィラーにおいては、アルミナ等のアルミニウム化合物として、原料粒子の表面に層状に形成されたものだけでなく、原料粒子から独立した粒子として形成されたもの等も含まれているが、ここで評価された特性は、いずれも、アルミニウム化合物の全成分をフィラーとしてマトリクス材料に添加した試料について、計測されたものである。
【0099】
[試験結果]
表2に、試料A1~A10および試料B1~B5にかかる複合材料ついて、フィラーおよびマトリクス材料の配合比(単位:質量%)、およびフィラーの配合量(単位:体積%)、アルミナ含量(単位:体積%)とともに、比重および熱伝導率の計測結果をまとめる。ここで、アルミナ含量は、複合材料全体として含有されるアルミナの量であり、フィラーの配合量と、フィラーに占める熱伝導層の体積割合から計算している。
【0100】
【0101】
表2によると、表面処理によって極性基を導入した中空粒子の表面に、アルミナを主成分とする熱伝導層を設けてフィラーを構成し、マトリクス材料に添加した試料A1~A10においては、フィラーを40体積%も添加しているにもかかわらず、比重が、フィラーを添加していない試料B1の比重以下に抑えられている。
【0102】
そして、試料A1~A10では、いずれも、熱伝導率が、0.5W/(m・K)以上となっている。それらの値は、フィラーを添加していない試料B1の熱伝導率と比較して、1.5倍以上に相当する。この結果から、中空粒子の表面に熱伝導層を形成したフィラーを添加した試料A1~A10においては、フィラーが低比重の中空粒子を含むことにより、フィラーを添加した複合材料全体として、比重を小さく抑えながら、高い熱伝導率が得られることが分かる。中空粒子が、表面に極性基を有していることにより、中空粒子の表面に、熱伝導層を安定して形成することができ、緻密な熱伝導層が中空粒子の表面を被覆することができたと考えられる。そして、中空粒子が占める体積の効果により、隣接するフィラーの表面の熱伝導層が相互に接触して、フィラー粒子間に熱伝導パスが形成され、熱伝導率の向上に高い効果を示すものと解釈される。
【0103】
ここで、試料B2~B5について検討する。試料B2では、マトリクス材料に、ガラス中空粒子そのもの(G6020)を添加しており、フィラーを添加していない試料B1と比べて、比重が低下している。しかし、アルミナのように、高熱伝導性を示す無機物質を含んでいないため、熱伝導率は、試料B1に比べて向上せず、むしろ低くなっている。ガラス自体の熱伝導率は、1.0W/(m・K)程度あり、マトリクス材料の熱伝導率よりも高いが、中空粒子となっており、空気が内包されているため、粒子の内部でフォノンの散乱が起こり、粒子を介した熱伝導が起こりにくくなっているものと解釈される。このように、ガラス中空粒子そのものは、熱伝導性フィラーとして利用することはできない。
【0104】
試料B3は、ガラス中空粒子に対して熱伝導層を形成したうえで、マトリクス樹脂に添加している点で、試料B2と異なっている。しかし、試料B3では、アルミナ含量として、試料A1~A8と同じ量のアルミナを使用しているにもかかわらず、熱伝導率は、フィラーを添加していない試料B1から向上していない。このことは、試料A1~A8とは異なり、ガラス粒子の表面に極性基を導入する表面処理を行っていないことにより、ガラス粒子の表面にアルミナが付着するものの、そのアルミナが、熱伝導パスの形成に有効に機能していないことを示している。アルミナが集積して、ガラス粒子の表面を、層状に連続して被覆するのではなく、小面積の領域を形成したアルミナが、ガラス粒子の表面に分散しているものと考えられる。
【0105】
試料B4では、汎用的に熱伝導性フィラーとして用いられているアルミナフィラーを、10体積%添加している。この添加量は、アルミナ含量にして、試料A1~A8と同じである。しかし、この試料B4では、フィラーを添加していない試料B1と比較して、熱伝導率はごくわずかしか向上しておらず、試料A1~A8と比較して、低くなっている。このことは、フィラーが複合材料中で占める体積が小さいことにより、フィラー粒子間の接触面積が小さく、フィラー粒子間における熱伝導パスの形成が、有効に達成されないためであると考えられる。
【0106】
試料B5においては、試料B4と同様にアルミナフィラーを添加しているが、配合量を40体積%としている。この配合量は、試料A1~A8と、フィラー配合量(フィラーが占める体積割合)として、同じになっている。この試料B5においては、フィラーを添加していない試料B1と比較して、熱伝導率が大幅に向上している。この結果は、試料B4と比較して、アルミナフィラーの添加量が多くなったことで、フィラー粒子同士の接触面積が増大し、有効な熱伝導パスが形成されたためである。しかし、アルミナ自体が占める体積が大きくなっていることにより、複合材料の比重が、試料B1の2倍近くまで高くなっている。試料B4,B5の評価結果から、アルミナ単独で構成されたフィラーを用いる場合には、低比重と高熱伝導を両立することは難しいと言える。
【0107】
最後に、試料A1~A10を相互に比較する。まず、試料A1~A5,A8では、表面処理によって、フィラーを構成する原料粒子の表面に導入した官能基の種類が、相互に異なっている。まず、試料A1~A5は、試料A8と比較して、高い熱伝導率を示している。試料A1~A5では、表面処理剤として、アルコキシシリル基を有するシランカップリング剤を用いていることにより、極性基を有する分子を、シロキサン結合を介して、ガラス粒子の表面に、強固に、また高密度に結合させることができ、極性が高くなった表面に、熱伝導層を形成できているものと考えられる。一方で、試料A8では、表面処理剤が、アルコキシシリル基を有さず、ガラス表面とシロキサン結合を形成することができないため、試料A1~A5と比較すると、ガラス表面の極性が低くなってしまい、熱伝導層の生成効率が低くなってしまっていると考えられる。
【0108】
試料A1~A5の中では、熱伝導率が、試料A1で最も低く、試料A3で次に低く、試料A2,A4,A5では、試料A1,A3と比較して、熱伝導率が顕著に高くなっている。試料A2,A4,A5では、中空粒子の表面に、それぞれ、高極性基である、シラノール基(アルコキシシリル基が加水分解して生成)、イソシアネート基、カルボキシル基を有していることにより、それら極性基と含金属カチオンとの間のイオン結合を経て、熱伝導層を高効率で生成することができていると考えられる。一方、試料A3では、使用された表面処理剤が、低極性のビニル基に加え、アルコキシシリル基を官能基として有するのみであり、試料A1では、アルコキシシリル基の他に、塩基性基であるアミノ基が、表面処理剤に導入されている。これら試料A1,A3では、アルコキシシリル基、あるいはアルコキシリル基に由来するシロキサン結合の分極構造と、含金属カチオンとの静電的相互作用を介して、熱伝導層の形成が進むが、上記試料A2,A4,A5のように、官能基の酸性を利用する場合と比較して、原料粒子の表面の極性が高くないことにより、原料粒子表面での熱伝導層の生成効率は低くなってしまう。試料A1~A5において、比重としては同じ値が得られており、含有されるアルニウム化合物の量は、それら各試料で同じになっているが、それらのアルミニウム化合物のうち、原料粒子表面に均質な層状の熱伝導層として生成する量が、試料A1,A3では少なくなっており、代わりに、原料粒子とは独立した粒子を形成する成分や、原料粒子表面に不均一に生成した成分等、複合材料の熱伝導率の向上に有効には寄与しない成分が生成していると考えられる。
【0109】
また、試料A1~A5の断面をSEM観察し、フィラー粒子同士の分散性を評価した結果によると、試料A1,A4では、フィラーの凝集が見られた。一方、試料A5は、特にフィラーの分散性に優れていた。試料A1では、アミノ基が水素結合を形成することにより、試料A4では、イソシアネート基が反応性を残していることにより、フィラーの製造工程において、原料粒子同士の凝集が起こり、その凝集が、製造されたフィラーにも引き継がれているものと考えられる。試料A5では、極性基として導入されたカルボキシル基が、水素結合の形成や化学反応によって凝集を引き起こすものではないため、フィラーが高い分散性を示し、そのことも原因となって、複合材料において、とりわけ高い熱伝導性が得られているものと考えられる。
【0110】
試料A5~A7は、フィラーを構成する原料粒子の粒径において相違している。しかし、いずれも、同じ比重および熱伝導率を示している。このことから、フィラー粒子の粒径は、複合材料の比重および熱伝導性に大きな影響を与えないことが分かる。よって、マトリクス材料への分散のしやすさや、材料強度、比重等を考慮して、適宜、複合粒子の粒径を選択すればよいと言える。この際、体積%を単位とするフィラー配合量やアルミナ含有量を指標として、フィラーの粒径に応じて、添加量を設定すればよい。
【0111】
試料A9,A10は、それぞれ、試料A2,A5と、フィラーにおける熱伝導層の形成量が異なっている。試料A9,A10において、試料A2,A5よりも、形成される熱伝導層を薄くしているのに対応して、比重が低下するとともに、熱伝導率も低くなっている。しかし、試料A9,A10でも、アルミナ含量として、4.0体積%しかアルミナが含有されていないにもかかわらず、アルミナ含量10体積%の試料B4よりも、高い熱伝導率を示している。このことから、中空粒子の表面に熱伝導層を形成して、フィラー全体としての体積を確保することで、少ない量の熱伝導層でも、熱伝導に効果的に寄与させられることが分かる。
【0112】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。