(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175749
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】植物体抽出方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9783 20170101AFI20231205BHJP
A61K 8/9728 20170101ALI20231205BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20231205BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
A61K8/9783
A61K8/9728
A61K8/49
A61Q19/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023144985
(22)【出願日】2023-09-07
(62)【分割の表示】P 2020088876の分割
【原出願日】2020-05-21
(31)【優先権主張番号】19305673
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】508283406
【氏名又は名称】シャネル パフュームズ ビューテ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】トリビオ,アリクス
(72)【発明者】
【氏名】レガニョ ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】コカンド ヴァンサン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ポリフェノールに富みおよび/または単糖を実質的に含まない植物体抽出物の調製方法を提供する。
【解決手段】ポリフェノールに富みおよび/または単糖を実質的に含まない植物体抽出物を調製する方法であって、品種サッカロミセス・セレビシエvar.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var. bayanus)に属する酵母を用いる、植物体抽出物の発酵ステップを含む、方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェノールに富みおよび/または単糖を実質的に含まない植物体抽出物を調製する
方法であって、品種サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces ce
revisiae var. bayanus)に属する酵母を用いる、植物体抽出物の発酵ステップを含む、
方法。
【請求項2】
前記発酵ステップの前に、
a)少なくとも1つのアルコール溶媒および/または水により、少なくとも1つの植物
体を抽出するステップ、
b)a)で得られた混合物を濾過して、植物体残留物を除去するステップ、
c)場合により、ステップb)で得られた混合物を脱色するステップ、ならびに
d)前記溶媒を除去し、得られた抽出物を濃縮するステップ
による植物体抽出物の調製を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
品種サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var
. bayanus)の前記酵母が、IOC Fizz+、IOC Divine、IOC 18
-2007の各菌株の酵母、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
品種サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var
. bayanus)の前記酵母が、IOC Fizz+の菌株の酵母である、請求項3に記載の
方法。
【請求項5】
品種サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var
. bayanus)の前記酵母が、IOC Divineの菌株の酵母である、請求項3に記載
の方法。
【請求項6】
品種サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var
. bayanus)の前記酵母が、IOC 18-2007の菌株の酵母である、請求項3に記
載の方法。
【請求項7】
前記植物体抽出物が、植物の、好ましくは顕花植物の、より好ましくは花の抽出物であ
る、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記花が、ユリ(Lilium candidum)、ワスレナグサ(Myosotis sylvatica)、ニワト
コ(Sambucus sp.)、ツバキ(Camellia sp.)、サクラソウ(Primula sp.)、チュベロ
ーズ(Polianthes tuberosa)、ジャスミン(Jasminum grandiflorum)、オオバコ(Plan
tago lanceolata)、マルメロ(Cydonia oblonga)、アンズ(Prunus armeniaca)、また
はフランジパニ(Plumeria sp.)の花である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記発酵ステップが、サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyce
s cerevisiae var. bayanus)の菌株を用いる濃縮植物体抽出物の発酵から調製された発
酵練り粉によって行われる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載の方法により得ることができる、植物体抽出物。
【請求項11】
- 5.00~100.00重量%のポリフェノール、特に5.00~85.00重量
%のポリフェノール、とりわけ55.00~85.00重量%のポリフェノール、および
/または
- 20.00重量%未満、特に10.00重量%未満、優先的に5.00重量%未満
、さらにより好ましくは1.00重量%未満の単糖
を含むことを特徴とする、植物体抽出物。
【請求項12】
- 5.00~100.00重量%のポリフェノール、特に5~85重量%のポリフェ
ノール、とりわけ55~85重量%のポリフェノール、および
- 20.00重量%未満、特に10.00重量%未満、優先的に5.00重量%未満
、さらにより好ましくは1.00重量%未満の単糖
を含む、請求項11に記載の植物体抽出物。
【請求項13】
単糖を含まない、請求項11または12に記載の植物体抽出物。
【請求項14】
請求項10から13の一項に記載の植物体抽出物を含む、化粧品組成物。
【請求項15】
植物体抽出物中の単糖を除去するための、品種サッカロミセス・セレビシエ var.
バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var. bayanus)の酵母の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェノールに富みおよび/または単糖を実質的に含まない植物体抽出物
を調製する方法に関する。本発明はまた、本発明による方法により得ることができる植物
体抽出物、ならびに皮膚の老化を防止/低減するため、および/または皮膚に潤いを与え
るためのこの抽出物の化粧品としての使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、3層、すなわち最上層から始まって、表皮、真皮および皮下組織から主として
構成されている。
【0003】
表皮は特に、ケラチノサイト(大部分である)、メラノサイト(皮膚色素沈着に関与)
およびランゲルハンス細胞から構成されている。その機能は、外部環境から身体を保護し
、その完全性を確保し、特に、微生物または化学物質の侵入を遅らせ、皮膚に含有される
水分の蒸発を防止することである。
【0004】
これを行うために、ケラチノサイトは、方向付けられた成熟に関する或る継続的な過程
を経るが、この過程中に、表皮の基底層に位置するケラチノサイトは、その分化の最終段
階で、タンパク質およびセラミドなどの脂質からなる角化膜の形態で、完全に角質化した
死細胞である角質細胞を形成する。この分化過程中に、角質細胞間の表皮脂質がさらに形
成され、次いで、角質層に二重層(シート)として組織化される。前述の角化膜と一緒に
、それらは表皮のバリア機能に関与する。
【0005】
しかし、表皮のバリア機能は、ある特定の気候条件下で(例えば、寒さおよび/または
風の影響下で)、またはストレスもしくは疲労の影響下でも、破壊される場合があり、し
たがって、特に、アレルゲン、刺激物、または微生物の侵入が促進され、これによって、
皮膚の乾燥が引き起こされて、つっぱりまたは赤みなどの不快感が発生する可能性があり
、また顔艶の輝きおよび皮膚のしなやかさも変化する可能性がある。
【0006】
この現象を防止または調整するために、皮膚に存在する水分を捕らえ、それによって水
分の蒸発を遅らせることが意図された、糖またはポリオールなどの吸湿剤を含有する、化
粧品組成物を皮膚に塗布することが知られている。概して、このような組成物はまた、例
えば、皮膚の老化過程に関与する、1つまたは複数の生物学的標的に作用する活性剤を含
む。
【0007】
可能な限り少ない合成成分を含有する天然製品に転向する消費者の意向が増大しつつあ
ることに起因して、および化学工業由来の化合物に対する重い規制上の制約が高まりつつ
あることを考慮すると、植物体抽出物由来の有効成分が今や好まれている。
【0008】
植物体抽出物の利点は、植物体抽出物が多くのポリオール、特にポリフェノールを含有
することであり、これらの抗酸化効果は今や広く認められている。
【0009】
しかし、植物体抽出物はまた、グルコース、フルクトースおよびガラクトースなどの多
くの単糖(従来の抽出物の25~75重量%を占めている)を含有し、これらは植物体有
効成分の生物活性を損なう効果がある。
【0010】
植物体抽出物の糖含有量を低減するために、植物体抽出物は一般に、樹脂、活性炭、セ
ルロースの使用または蒸留によるなどの、精製技術を使用して処理される。こういった処
理は、単糖を含有する極性マトリックスを除去することを目的としている。
【0011】
しかし、こういった手法は非特異的であり、アミノ酸または有機酸などの他の興味深い
分子も除去する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】M.H. Akin, "Evolution du pH pendant la fermentation
【発明の概要】
【0013】
したがって、その保湿力および抗酸化力が今や広く認められている多数のポリフェノー
ルを含有するが、抽出物の生物学的活性に有害なグルコース、フルクトースおよびガラク
トースなどの単糖を含まない、植物体抽出物を得るための抽出方法が真に必要である。
【0014】
出願人は、ポリフェノールに富みかつ実質的に単糖を含まない植物体抽出物の調製方法
を開発するのに成功した。出願人は実際に、サッカロミセス・セレビシエ var.バヤ
ヌス(Saccharomyces cerevisiae var. bayanus)タイプの酵母を用いて植物体抽出物の
発酵ステップを行うことにより、単糖を除去し、前記植物体抽出物のポリフェノール含有
量を高めることができたことを実証した。
【0015】
出願人はさらに、酵母の本品種の具体的な使用により、植物体抽出物に含有される単糖
を迅速かつ完全に消費した状態で、最適な発酵速度を得ることができたことを実証した。
【0016】
したがって、本発明は、ポリフェノールに富みおよび/または単糖を実質的に含まない
植物体抽出物を調製する方法であって、品種サッカロミセス・セレビシエ var.バヤ
ヌス(Saccharomyces cerevisiae var. bayanus)に属する酵母を用いる、植物体抽出物
の発酵ステップを含む、方法に関する。
【0017】
本発明はまた、上記の方法により得ることができる、植物体抽出物に関する。本植物体
抽出物は、単糖を実質的に含まないことだけでなく、フラボノイドなどの、高含有量のポ
リフェノールを含有する特徴がある。
【0018】
本発明はさらに、別の態様によれば、上記の通り、ポリフェノールに富みおよび/また
は単糖を実質的に含まない少なくとも1つの植物体抽出物を、生理学的に許容される媒体
中に含む、化粧品組成物に関する。
【0019】
最終的に、本発明はまた、植物体抽出物中の単糖を除去するための、品種サッカロミセ
ス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var. bayanus)の酵母
の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
第1の態様によれば、本発明は、ポリフェノールに富みおよび/または単糖を実質的に
含まない植物体抽出物を調製する方法であって、品種サッカロミセス・セレビシエ va
r.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var. bayanus)に属する酵母を用いる、植物
体抽出物の発酵ステップを含む、方法に関する。
【0021】
ポリフェノールとは、少なくとも2個のフェノール基を含む、すなわちヒドロキシル官
能基を有する少なくとも2個のベンゼン環を含む、分子である。ポリフェノールの特定例
には、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシケイ皮酸およびクマリン、ナフトキノン、スチル
ベノイドまたはフラボノイドが含まれる。フラボノイドは植物界で最も普通のポリフェノ
ールであり、これには具体的には、フラボン、フラボノールおよびジヒドロフラボノール
、フラバノン、オーロン、カルコンおよびジヒドロカルコン、フラバノール、フラバンジ
オール、アントシアニジン、ならびにそれらのヘテロシドが含まれる。ポリフェノールは
その抗酸化効果で知られており、この効果が、ポリフェノールを特に有益な抗老化有効成
分としている。加えて、ポリフェノール中の多数のヒドロキシル基の存在によって、皮膚
に存在する水を捕らえることが可能であり、その結果、水の蒸発を遅らせることが可能に
なる。したがって、ポリフェノールは非常に有益な保湿効果も有する。
【0022】
「ポリフェノールに富む」抽出物とは、本明細書では、5.00から100重量%まで
のポリフェノール、特に5.00から85.00重量%までのポリフェノール、とりわけ
55.00から85.00重量%までのポリフェノールを含む抽出物を指すのに使用され
る。
【0023】
本発明によれば、「単糖」とは、グルコース、フルクトース、ガラクトースおよびマン
ノースであるが、グルコース、フルクトース、ガラクトースおよびマンノースの各二量体
でもある。
【0024】
本発明の文脈では、「単糖を実質的に含まない」抽出物とは、20.00重量%未満、
特に10.00重量%未満、優先的に5.00重量%未満、さらにより好ましくは1.0
0重量%未満の単糖を含む抽出物である。
【0025】
特定の実施形態では、本発明による抽出物は、単糖が完全に無い、すなわち、0重量%
の単糖を含む。
【0026】
本発明の方法は、品種サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyce
s cerevisiae var. bayanus)に属する酵母を用いる、植物体抽出物の発酵ステップを含
む。この発酵ステップは、植物体抽出物に含有される単糖を低減または除去するがまた、
植物体抽出物のポリフェノール含有量を強化する。
【0027】
出願人は、品種サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cere
visiae var. bayanus)の酵母の使用によって、植物体抽出物にとって最適な発酵速度が
提供され、なかでも、他の品種の酵母を使用して得られるものよりもはるかに良好である
ことを実証した(下の実施例を参照されたい)。上記サッカロミセス・セレビシエ va
r.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var. bayanus)酵母は特に、植物体抽出物の
発酵時間、すなわち、抽出物中の糖を消費するのに必要な時間を24時間未満に短縮する
。したがって、本発明の酵母は、植物体抽出物に含有される単糖を迅速かつ効率的に消費
する。
【0028】
品種サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var
. bayanus)の酵母は知られており、特にワイン学の分野で使用されている。当業者であ
れば、本発明を実施するためにかかる酵母を得る方法を知っている。特定の実施形態では
、酵母サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var
. bayanus)は、IOC Fizz+、IOC Divine、IOC 18-2007
、またはそれらの混合物として市販されている酵母菌株の内から選択される。これらの菌
株はすべて、フランスぶどう・ワイン研究所(Institut Francais de la Vigne et du Vi
n)によって一覧表示されており、当業者であれば容易にアクセスできる。
【0029】
IOC Fizz+酵母菌株は、パスツール研究所に番号LYCC 6022:LA
CLAIRE CGC62およびLYCC 6039:LA CLAIRE SP665
で寄託された2つの酵母の混合物である。
【0030】
IOC Divine菌株はパスツール研究所に番号LYCC 7000で寄託された
菌株に相応し、菌株18-2007はパスツール研究所に番号CNCM I-5320で
寄託された菌株に相応する。
【0031】
本発明による酵母菌株は、乾燥形態であっても、液体形態であっても、酵母クリームの
形態であってもよい。
【0032】
特定の実施形態では、サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyce
s cerevisiae var. bayanus)の菌株は乾燥形態である。
【0033】
典型的には、発酵ステップは、発酵させる溶液に対して1から5質量%の間で、特に発
酵させる溶液に対して2から3質量%の間で、とりわけ発酵させる溶液に対して2質量%
で、サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var.
bayanus)の菌株を使用して行われる。
【0034】
発酵ステップの期間は、植物体抽出物において、単糖含有量、20重量%未満、特に1
0重量%未満、優先的に5重量%未満、さらにより好ましくは1重量%未満を得るのに十
分でなければならない。典型的には、発酵ステップは、1~72時間、特に12~60時
間、好ましくは18~48時間の期間にわたって実施される。
【0035】
特定の実施形態では、発酵ステップは、発酵練り粉によって行うことができる。発酵練
り粉は、濃縮された植物体抽出物(前記植物体抽出物は本発明の方法で使用されるものと
同じである)をサッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cerevi
siae var. bayanus)の菌株を用いて発酵させることから調製される。発酵練り粉に使用
される植物体抽出物は典型的には、5~30%程度の乾物含有量になるまで、濃縮される
。
【0036】
本実施形態によれば、本発明による方法の発酵ステップは、発酵練り粉を植物体抽出物
に添加することによって行われる。発酵練り粉の使用により、発酵を開始することができ
、したがって、本発明による方法の発酵ステップの速度を向上することができる。
【0037】
典型的には、発酵練り粉は、水中の乾物5から50%の間に、特に15から30%の間
に濃縮した植物体抽出物を、乾燥酵母サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(
Saccharomyces cerevisiae var. bayanus)10重量%を用いて、室温(または37℃)
で約2時間発酵させることによって、調製する。本発酵練り粉1~5重量%、好ましくは
発酵練り粉2重量%を、本発明の方法による発酵ステップのために植物体抽出物に添加す
る。
【0038】
本発明の方法にしたがって使用される植物体抽出物は、当業者に公知の任意の抽出方法
によって得ることができる。
【0039】
典型的には、植物体抽出物の調製方法は、
a)少なくとも1つのアルコール溶媒および/または水により、植物体を抽出するステ
ップ;
b)a)で得られた混合物を、例えばふるい分けにより、濾過して、植物体残留物を除
去するステップ;
c)場合により、ステップb)で得られた混合物を脱色するステップ;ならびに
d)溶媒を除去し、抽出物を濃縮するステップ
を含む。
【0040】
したがって、一実施形態によれば、本発明は、ポリフェノールに富みおよび/または単
糖を実質的に含まない植物体抽出物を調製する方法であって、
a)少なくとも1つのアルコール溶媒および/または水により、植物体を抽出するステ
ップ;
b)例えばふるい分けにより、a)で得られた混合物を濾過して、植物体残留物を除去
するステップ;
c)場合により、ステップb)から得られた混合物を脱色するステップ;
d)例えば蒸発により溶媒を除去し、抽出物を濃縮するステップ;ならびに
e)品種サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae
var. bayanus)に属する酵母を用いる、ステップd)から得られた抽出物の発酵ステッ
プ
を含む、方法に関する。
【0041】
ステップa)で使用される「植物体」は、植物界に属する任意の生物とすることができ
る。植物体は木本陸生植物または草本植物である。好ましくは、植物体は、種子植物また
は「顕花植物」である。それは、例えば、ユリ(Lilium candidum)、ワスレナグサ(Myo
sotis sylvatica)、ニワトコ(Sambucus sp.)、ツバキ(Camellia sp.)、サクラソウ
(Primula sp.)、チュベローズ(Polianthes tuberosa)、ジャスミン(Jasminum grand
iflorum)、オオバコ(Plantago lanceolata)、マルメロ(Cydonia oblonga)、アンズ
(Prunus armeniaca)、またはフランジパニ(Plumeria sp.)から選択することができる
。
【0042】
ステップa)で抽出された植物体の部分は、全植物体であっても、花、葉、茎または根
などの、全植物体の一部のみであってもよい。好ましい実施形態では、抽出物は花の抽出
物である。
【0043】
ステップa)で使用される植物体は、「新鮮な」形態とすることができ、すなわち、収
穫の48時間以内、特に24時間以内、さらに具体的には12時間以内で使用することが
できる。
【0044】
ステップa)で使用される植物体は、乾燥形態であってもよい。この場合、新鮮な植物
体は、光を避けて室温で、または35℃未満の温度での換気式乾燥機中のいずれかの、穏
やかな条件下で脱水される。植物体は80%超、好ましくは85%超の乾物含有量まで乾
燥されるのが好ましい。
【0045】
ステップa)は、植物体、典型的にはその花および/または葉を粉砕して、5cm未満
、好ましくは2cm未満の粒径とするステップをさらに含むことができる。
【0046】
抽出ステップは、アルコール溶媒および/または水を含む少なくとも1つの抽出溶媒を
用いて行われる。抽出溶媒は、選択された植物体次第である。典型的な植物体/溶媒比は
1対10(重量/重量)である。
【0047】
抽出溶媒は、水および/またはアルコール溶媒である。特定の実施形態では、アルコー
ル溶媒は、エタノール、特に96°エタノールなどのアルコールである。
【0048】
抽出溶媒は、0~100容量%の水および0~100容量%のアルコール溶媒含有する
ことができる。特定の実施形態では、抽出溶媒は、100%の水を含み、別の実施形態で
は、100%のエタノールを含む。抽出溶媒はまた、50容量%の水および50容量%の
エタノールを含むことができる。
【0049】
特定の実施形態では、水は脱イオン水とすることができる。
【0050】
抽出ステップは、少なくとも1時間、好ましくは少なくとも2時間、特に少なくとも3
時間続き、1回または2回繰り返すことができる。
【0051】
上記の通り、抽出方法は、ステップb)からの混合物を脱色するステップを含むことが
できる。本ステップの目的は、クロロフィルやキサントフィルなどの抽出物に存在する色
素を除去することである。当業者であれば、こういった色素を除去するいくつかの方法に
精通している。脱色は、例えば、混合物を活性炭と接触させることにより行うことができ
る。脱色後、混合物を濾過して残留炭素分を除去する。
【0052】
典型的には、ステップd)は、抽出物を、5~30%、好ましくは15~30%の範囲
の乾物対水の割合に濃縮するステップを含む。
【0053】
ステップd)からの植物体抽出物、すなわち濃縮された植物体抽出物を使用して、上記
の発酵練り粉を調製することができる。
【0054】
上記の方法はさらに、ステップd)とe)の間にステップd’)を含むことができ、こ
の場合、濃縮抽出物を含有する混合物を精密濾過して(典型的には2μmで)、微粒子お
よび残留細菌を除去する。
【0055】
方法は、発酵抽出物を濾過し、次いで、希釈して、乾物1~10重量%含有する抽出物
を得る、ステップf)をさらに含むことができる。この抽出物は、透明で安定した水溶液
の形態とすることができる。
【0056】
特定の実施形態では、本発明による方法は、
a)2cm未満の細かさに粉砕されたフラワーパウダーを、エタノールもしくは水また
は両方の混合物で60~75℃で少なくとも2時間、2回抽出するステップ;
b)混合物を4μmにいたるまで濾過するステップ;
c)得られた混合物を活性炭との接触による脱色に1時間供し、次いで、1μmにいた
るまで精密濾過を行って、残留炭素分を除去するステップ;
d)蒸発による抽出溶媒の除去および水に含まれる乾物含有量が約5~15%(重量/
重量)になるまで、抽出物を濃縮するステップ;
d’)混合物を0.2μmで濾過するステップ;
e)発酵練り粉2重量%を用いる37℃での24~48時間の混合物の発酵ステップで
あり、前記発酵練り粉は、ステップd)の前に得られた抽出物の一部を水中の乾物30%
まで濃縮し、かつ、乾燥サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyce
s cerevisiae var. bayanus)酵母10重量%を、37℃での2時間の第1の発酵向けに
、添加することによって得られたものである、ステップ;
f)次いで、発酵抽出物を1μmで濾過し、次いで、希釈して、乾物1~10重量%含
有する抽出物を得るステップであり、これに、グリコールおよび/または他のものに対し
て、防腐系を添加する、ステップ
を含む。
【0057】
別の態様によれば、本発明は、上記の方法により得ることができる植物体抽出物、すな
わち、ポリフェノールに富みおよび/または単糖を実質的に含まない、植物体抽出物に関
する。
【0058】
したがって、本文脈において、本発明の主題は、
- 5.00~100.00重量%のポリフェノール、特に5.00~85.00重量
%のポリフェノール、とりわけ55.00~85.00重量%のポリフェノール;および
/または
- 20.00重量%未満、特に10.00重量%未満、好ましくは5.00重量%未
満、さらにより好ましくは1.00重量%未満の単糖
を含むことを特徴とする、植物体抽出物である。
【0059】
本発明による植物体抽出物は、ヒトの皮膚を保湿するのに、または皮膚を乾燥から保護
するのに、化粧用に使用される。ポリフェノールの抗酸化効果のおかげで、抽出物はまた
、しわや小じわなどの老化の兆候、表皮および/または真皮の組織の喪失によるハリや弾
力の喪失;表皮の微小循環の減少および細胞再生の減速に起因する輝きの喪失、メラニン
合成の機能不全に伴う色素沈着斑の出現、または角質層のバリア機能の低下や表皮の再生
における減速から生じる皮膚の乾燥、に対抗するためにも使用できる。
【0060】
抗酸化物質は実際、皮膚の老化の加速における主要な要因の1つであるフリーラジカル
を捕捉するその能力で知られている。
【0061】
本発明はまた、上記の植物体抽出物を含む、化粧品組成物に関する。
【0062】
好ましくは、前記抽出物は、化粧品組成物または皮膚科学組成物中に、組成物の総重量
で0.001~90%の割合で、特に0.01~10%の割合で、好ましくは組成物の総
重量で、0.1~10%の割合で存在する。前記化粧品組成物または皮膚科学組成物は、
局所適用に特に適しているとすることができる。
【0063】
有利には、前記化粧品組成物または皮膚科学組成物は、粉末、エマルジョン、マイクロ
エマルジョン、ナノエマルジョン、懸濁液、溶液、ローション、クリーム、水性ゲルもし
くは水性アルコールゲル、フォーム、セラム、エアロゾル用の溶液もしくは分散液、また
は脂質小胞の分散液の各形態とすることができる。
【0064】
エマルジョンの場合、これは油中水型または水中油型エマルジョンとすることができる
。
【0065】
本発明による化粧品組成物または皮膚科学組成物はまた、種々の成分および投与の形態
にしたがって選択される溶媒を含むことができる。
【0066】
例としては、水(好ましくは脱塩水)、エタノールなどのアルコール、またはエトキシ
ジグリコールもしくはジエチレングリコールモノメチルエーテルなどのジエチレングリコ
ールエーテルが挙げられる。
【0067】
前記化粧品組成物はまた、本発明による抽出物に加えて、例えば、皮膚軟化剤または湿
潤剤、ゲル化剤および/または増粘剤、界面活性剤、油、活性剤、染料、防腐剤、抗酸化
剤、活性剤、有機または無機粉末、日焼け止めおよび香料から選択される少なくとも1つ
の化合物などの、当技術分野で通常の少なくとも1つの添加剤も含むことができる。
【0068】
特に、前記組成物は以下を含有することができる:
- 1つまたは複数の皮膚軟化剤または湿潤剤、これは、例えば、グリセリン、グリ
コール、KF6011(Shin Etsu)の名称で販売されているものなどの水溶性
シリコーンおよびResplanta Jojoba(Res Pharma)の名称で
販売されているものなどの水溶性ホホバから選択することができる。
前記皮膚軟化剤または湿潤剤は、組成物の総重量に対して0~30重量%、好ましく
は2~10重量%の範囲の含有量で組成物中に存在することができる。
- 水性相用の1つまたは複数のゲル化剤および/または増粘剤、例えば、セルロー
ス誘導体、植物体由来のガム(グアー、ローカストビーン、アルギン酸塩、カラギーナン
、ペクチン)、微生物由来のガム(キサンタン)、粘土(ラポナイト)、INCIの名称
「アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/vpコポリマー」および「アクリロイル
ジメチルタウリンアンモニウム/メタクリル酸ベヘネス-25コポリマー」(クラリアン
トによりAristoflex AVCおよびHMBの名称で販売されているものなど)
によって認証される材料、から選択される。
前記ゲル化剤および/または増粘剤は、組成物の総重量に対して0~10重量%の範
囲の含有量で組成物中に存在することができる。
- 1つまたは複数の界面活性剤、好ましくは非イオン性であり、組成物の総重量に
対して、0~8重量%、好ましくは0.5~3重量%の範囲の含有量で存在する。
- 1つまたは複数の室温で液体の脂肪、油として通常知られている、揮発性または
不揮発性である、炭化水素またはシリコーンである、直鎖状、環状または分枝状である、
例えばイソドデカン、シクロペンタジメチルシロキサン、ジメチコーン、イソノナン酸イ
ソノニルまたはテトライソステアリン酸ペンタエリスリチル、好ましくは、組成物の総重
量に対して0~約10重量%、好ましくは0.5~5重量%の量である。
- 天然または合成由来の1つまたは複数の活性剤、生物学的活性を有する、例えば
、ビタミン、微量元素、アラントイン、植物体タンパク質、植物体抽出物、保湿剤、老化
防止剤、抗酸化物質、光沢強化剤およびそれらの混合物から選択される。具体的には、活
性剤は、バニラ(Vanilla planifolia)果実水、ナイアシンアミド、ヒアルロン酸および
その誘導体、酵母抽出物ならびにそれらの混合物から選択される。
- 1つまたは複数の水溶性染料、例えば、ポンソー二ナトリウム塩、アリザリング
リーン二ナトリウム塩、キノリンイエロー、アマランス三ナトリウム塩、タートラジン二
ナトリウム塩、ローダミン一ナトリウム塩、フクシンまたはキサントフィル二ナトリウム
塩などであり、好ましくは、組成物の総重量に対して0~約2重量%の量である。
【0069】
化粧品に通常に使用される他の添加剤も、例えば、当技術分野でよく知られている防腐
剤、抗酸化物質または香料も、本発明による組成物中に存在することができる。
【0070】
当業者であれば、こういった可能な添加剤すべての内から、組成物に添加予定のものに
関して性質および量の双方を選択することができ、その結果、その特性がすべて組成物に
保持される。
【0071】
最後に、別の態様によれば、本発明はまた、植物体抽出物中の単糖を除去するための、
品種サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var.
bayanus)の酵母の使用にも関する。
【0072】
次に、本発明を、以下の非限定的な実施例によって例示する。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【
図1】研究された菌株それぞれについて、発酵中に消費された全糖の線形回帰の図である(バヤヌス(bayanus)品種に属さないサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)レファレンス菌株[ref]、およびサッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var. bayanus)菌株18-2007、Fizz+およびDivine)。
【実施例0074】
[実施例1]-本発明によるユリの抽出方法:
1)新鮮なユリの花を60℃で96°エタノールで最低2時間、2回抽出する、植物体
/溶媒比は1対10(重量/重量)である;
2)混合物を100μmでふるいにかけて植物体残留物を除去し、次いで一晩静置し、
4μmに再び濾過する;
3)得られた混合物を活性炭との接触による脱色に1時間供して、クロロフィルおよび
キサントフィルなどの色素を除去する;
4)脱色混合物を、精密濾過(1μmまで)によって残留炭素分から分離する;
5)抽出エタノールを蒸発により除去する。抽出物を、水に含まれる乾物含有量が約5
%(重量/重量)になるまで、濃縮する;
6)混合物を0.2μmで濾過して、微粒子および残留細菌を除去する;
7)抽出物の発酵のための発酵練り粉を調製するために、ステップ6)の前に得られた抽
出物の一部を水中の乾物30%に濃縮し、次いで、乾燥酵母サッカロミセス・セレビシエ
var.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var. bayanus)10重量%を添加する
。混合物を37℃で2時間撹拌する。本混合物が発酵練り粉を構成する。
8)発酵練り粉2重量%をステップ6)からの混合物に添加する;
9)37℃で攪拌しながら暗所で24~48時間発酵後、発酵抽出物を一晩安定させて
、形成した気泡を除去する;
10)次いで、発酵抽出物を1μmで濾過し、次いで希釈して、乾物1%を含有する抽
出物を得る。より良好な保存のために、0.7%フェノキシエタノールまたは20%1,
3-プロパンジオールを添加し、全体を0.2μmで濾過する。
【0075】
ユリの花抽出物の内容物を下の表1に示す。
【0076】
【0077】
上で実証の通り、本発明による方法は、ユリの花の抽出物から単糖を完全に除去する。
本発明による方法は、抽出物のポリフェノール含有量を大幅に高める。
【0078】
[実施例2]-サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cerevisi
ae var. bayanus)Fizz+、Divineおよび18-2007の乾燥酵母の発酵速
度によって、花抽出物の最適な発酵が可能になる。
【0079】
いずれの酵母がより効率的であるか判定するために、発酵速度論研究を実施した。
【0080】
一般的に、花の抽出物の発酵は、3つの連続するステップに分割できる(M.H. Akin, "
Evolution du pH pendant la fermentation alcoolique de mouts de raisins: modelisa
tion et interpretation metabolique ["Change in pH during alcoholic fermentation
of grape musts: modelling and metabolic interpretation"] (2008) 136):
- ステップ1:スクロースのフルクトースおよびグルコースへの加水分解(15か
ら30分の間続く)
- ステップ2:グルコースの消費を開始する(5時間まで続く)
- ステップ3:フルクトースの消費および他の単糖の消費を開始する(菌株によっ
て異なる)
【0081】
最適な発酵が可能な酵母菌株を選択するために、種々の市販の酵母菌株を用いて、ユリ
抽出物からのステップ3における全糖の消費速度を評価した。
【0082】
勾配は、全糖の相対含有量の線形回帰によって得られた。勾配が小さいほど、反応速度
は大きい(
図1)。
【0083】
【0084】
したがって、
図1および表2の結果から、Fizz+、Divine、18-2007
およびレファレンス(ref.)の各菌株が、それぞれ、1時間あたりユリの花抽出物の
全糖の6.8%、5.3%、4.7%、および2.1%を消費したことがわかる。
【0085】
次に、本比較により、次のような形:Fizz+>Divine>18-2007>レ
ファレンス非バヤヌス(bayanus)で、糖消費に関するそれらの速度にしたがって4つの
菌株を分類することができる。
【0086】
品種サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var
. bayanus)に属さないレファレンス菌株は、品種サッカロミセス・セレビシエ var
.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var. bayanus)に属するFizz+、Divi
neおよび18-2007の各菌株よりも1/2~1/3遅く全糖を消費する。
【0087】
サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var. ba
yanus)酵母を使用すると、植物体抽出物の最適な発酵速度が可能になる。
【0088】
[実施例3]:化粧品組成物
以下の組成物は、当業者にとって伝統的な方法で調製することができる。下に指示する
量は、重量パーセントで表されている。大文字の成分は、INCI名にしたがって識別さ
れる。
【0089】
ポリフェノールに富みおよび/または単糖を実質的に含まない植物体抽出物を調製する方法であって、品種サッカロミセス・セレビシエ var.バヤヌス(Saccharomyces cerevisiae var. bayanus)に属する酵母を用いる、植物体抽出物の発酵ステップを含む、方法。