(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175759
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】3D印刷用の金属粉末
(51)【国際特許分類】
B22F 10/34 20210101AFI20231205BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20231205BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20231205BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20231205BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231205BHJP
B22F 10/38 20210101ALI20231205BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20231205BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231205BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20231205BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20231205BHJP
A61C 8/00 20060101ALI20231205BHJP
A61F 2/30 20060101ALI20231205BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20231205BHJP
C22C 27/02 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
B22F10/34
C22C14/00 Z
B22F10/28
B22F9/08 A
B22F1/00 R
B22F10/38
B22F1/05
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
A61C8/00 Z
A61F2/30
C22C1/04 E
C22C27/02 102Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023146223
(22)【出願日】2023-09-08
(62)【分割の表示】P 2020555828の分割
【原出願日】2019-04-09
(31)【優先権主張番号】18167328.6
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】518241791
【氏名又は名称】タニオビス ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】TANIOBIS GmbH
【住所又は居所原語表記】Im Schleeke 78-91, 38642 Goslar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マークス ヴァインマン
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー ブルム
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ シュニッター
(72)【発明者】
【氏名】メラニー シュテンツェル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】3D印刷工程において用いるために適した金属粉末を使用する三次元物品の製造方法、および得られる三次元物品を提供する。
【解決手段】金属粉末を使用する三次元物品の製造方法であって、前記粉末はタンタル、チタン、ニオブおよびそれらの合金からなる群から選択される金属を含むか、または前記金属からなり、且つ前記金属粉末の粒子は、平均アスペクト比ψ
A0.7~1、好ましくは0.8~1、より好ましくは0.9~1、さらにより好ましくは0.95~1を有し、ここでψ
A=x
最小フェレット/x
最大フェレットであり、かつ、前記三次元物品が1層ずつ構築される、前記方法である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3D印刷法において使用するために適した金属粉末であって、前記粉末はタンタル、チタン、ニオブおよびそれらの合金からなる群から選択される金属を含むか、または前記金属からなり、且つ前記金属粉末の粒子は、平均アスペクト比ψA 0.7~1、好ましくは0.8~1、より好ましくは0.9~1、さらにより好ましくは0.95~1を有し、ここでψA=x最小フェレット/x最大フェレットである、前記粉末。
【請求項2】
前記粉末がチタンとニオブとの合金を含むか、またはチタンとニオブとの合金からなる、請求項1に記載の粉末。
【請求項3】
前記合金がさらにタンタルを含有する、請求項1または2に記載の粉末。
【請求項4】
前記粉末がチタンとニオブとタンタルとの金属合金を含むか、またはチタンとニオブとタンタルとの金属合金からなる、請求項1から3までのいずれか1項に記載の粉末。
【請求項5】
前記粉末が、ASTM B527に準拠して測定して、理論密度の40~80%、好ましくは理論密度の60~80%のタップ密度を有する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の粉末。
【請求項6】
前記粉末が、ASTM B213に準拠して測定して25秒/50g未満、特に20秒/50g未満、さらにより好ましくは15秒/50g未満の流動性を有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の粉末。
【請求項7】
前記粉末が、ASTM B822に準拠して測定して2μmを上回る、好ましくは5μmを上回るD10、および80μm未満、好ましくは70μm未満のD90と共に、20~50μm、好ましくは25~50μmのD50の粒子サイズ分布を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の粉末。
【請求項8】
前記粉末が、ASTM B822に準拠して測定して20μmを上回る、好ましくは50μmを上回るD10、および150μm未満、好ましくは120μm未満のD90と共に、40~90μm、好ましくは60~85μmのD50の粒子サイズ分布を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の粉末。
【請求項9】
前記粉末が、ASTM B822に準拠して測定して50μmを上回る、好ましくは80μmを上回るD10、および240μm未満、好ましくは210μm未満のD90と共に、60~150μm、好ましくは100~150μmのD50の粒子サイズ分布を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の粉末。
【請求項10】
前記粉末中の酸素のレベルが3000ppm未満、特に1500ppm未満、および特に1000ppm未満、より特に500ppm未満、さらにより特に300ppm未満である、請求項1から9までのいずれか1項に記載の粉末。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の粉末の製造方法であって、
a) 粉末の粉末状成分をプレスするか、またはプレスおよび焼結して、金属体を得る段階、
b) 段階a)の金属体を噴霧化して、金属粉末を得る段階、
c) ASTM B822に準拠して測定して、2μm未満、好ましくは5μm未満、さらにより好ましくは10μm未満の粒子サイズを有する粒子を分離して、本発明の金属粉末を得る段階、および
d) 本発明の金属粉末の粒子サイズをスクリーニングによって分級する段階
を含む、前記方法。
【請求項12】
前記方法の段階c)における分離を、粉末を篩別することによって実現する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法の段階c)における分離を、超音波を使用した水浴中での解凝集および引き続く傾瀉によって実現する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記方法の段階c)における分離を、水浴中での攪拌および引き続く傾瀉によって実現する、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記方法がさらに脱酸素の段階を含む、請求項11から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記粉末をさらに酸処理に供する、請求項11から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
付加製造法における、請求項1から10までのいずれか1項に記載の粉末の使用。
【請求項18】
請求項1から10までのいずれか1項に記載の粉末を使用する三次元物品の製造方法であって、前記三次元物品が1層ずつ構築される、前記方法。
【請求項19】
前記方法が、選択的レーザー溶融(SLM、LBM)、電子ビーム溶融(EBM)およびレーザークラッディング(LC)からなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法によって得られる三次元物品。
【請求項21】
前記三次元物品が、DIN EN ISO 6892-1に準拠して測定して20~100GPa、好ましくは40~90GPa、特に40~80GPaの弾性率mEを有することを特徴とする、請求項20に記載の三次元物品。
【請求項22】
前記三次元物品が、DIN EN ISO 6892-1に準拠して測定して600~1400MPa、好ましくは600~1200MPa、特に600~699MPaの極限強さRmを有することを特徴とする、請求項20または21に記載の三次元物品。
【請求項23】
前記三次元物品が、DIN EN ISO 6892-1に準拠して測定して500~1200MPa、好ましくは500~1000MPa、特に500~699MPaの降伏強さRp0.2有することを特徴とする、請求項20から22までのいずれか1項に記載の三次元物品。
【請求項24】
前記三次元物品が、
・ DIN EN ISO 6892-1に準拠して測定して20~100GPa、好ましくは40~90GPa、特に40~80GPaの弾性率mE、
・ DIN EN ISO 6892-1に準拠して測定して600~1400MPa、好ましくは600~1200MPa、特に600~699MPaの極限強さRm、および
・ DIN EN ISO 6892-1に準拠して測定して500~1200MPa、好ましくは500~1000MPa、特に500~699MPaの降伏強さRp0.2
を有することを特徴とする、請求項20から23までのいずれか1項に記載の三次元物品。
【請求項25】
前記三次元物品が医療用物品、特に医療用インプラントであることを特徴とする、請求項20から24までのいずれか1項に記載の三次元物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3D印刷法において用いるために適した金属粉末、並びに前記粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3D印刷は、コンピュータの制御下で材料が接合されるかまたは固化されて、材料が一緒に付加され(例えば液体分子または粉末粒が一緒に融合され)、三次元物体を創出する方法に関する。3D印刷はラピッドプロトタイピングおよび付加製造(additive manufacturing; AM)の両方において使用される。物体はほぼあらゆる形または幾何学的形状のものであってよく、典型的には3Dモデルからのデジタルモデルのデータ、または他の電子データ源、例えば付加製造ファイル(AMF)のファイルを使用して(通常は連続層において)製造される。多くの異なる技術、例えばステレオリソグラフィ(STL)または熱溶解積層法(FDM)がある。従って、従来の機械的方法における素材からの材料除去、つまり除去製造とは異なり、3D印刷またはAMは、コンピュータ支援設計(CAD)モデルまたはAMFファイルから、通常は材料を1層ずつ連続的に付加することによって三次元の物体を構築する。
【0003】
現在のシナリオでは、3D印刷またはAMは製造、医療、産業および社会文化的な分野において使用され、そのことが3D印刷またはAMが成功した商業的技術となることを促進する。
【0004】
3D印刷を介して製造される機器についての1つの用途は医療分野であり、そこでは、手術器具の正確な製造だけでなく、特別注文の医療機器も高い需要がある。手術の仮想的な計画、および3D印刷され、個人化された器具を使用したガイダンスは、関節全置換および頭蓋顎顔面再建術を含む多くの領域の手術に適用され、大きな成功を収めている。この1つの例は、ミシガン大学で開発された、気管気管支軟化症を有する新生児を治療するための生体吸収性の気管の副子である。補聴器および歯科産業は、特注の3D印刷技術を使用する将来の開発の最大の分野であると予測されている。
【0005】
患者に合わせたインプラントは、一個人に合う本当に個人化されたインプラントをもたらし、この研究の自然な延長であった。オッセオインテグレーションを容易にする多孔質の表面構造を効率的に作り出せる能力ゆえに、整形インプラント(金属)の連続化された製造のための付加製造の使用も増えている。
【0006】
しかしながら、該分野において開発が進行しているが、特に患者に合わせたインプラントの製造に関して、まだ取り組まなければならない問題がある。
【0007】
整形インプラント材料は高い機械的負荷に晒される。ステンレス鋼またはコバルト・クロム合金に基づく従来の材料は適切な機械的強度を示すのだが、それらの使用は、隣接する組織において炎症反応をもたらす有毒またはアレルギー性の要素の放出に起因して、毒性の懸念を生じる。チタン、タンタルおよびニオブに基づく金属および金属合金は、より高い生体適合性を示すと共に、応力遮蔽および続発するインプラントのゆるみを回避するために適切な機械的特性を有する。しかしながら、使用可能な金属粉末の多くは、これまでのところ、3D印刷法における材料としてそれらを用いることが、期待される品質を有する製品をもたらさなかったという欠点を有する。
【0008】
米国特許出願公開第2016/0074942号明細書(US2016/0074942)は、実質的に球状の金属粉末の製造方法を開示している。前記方法は、一次粒子を含み且つ平均出発粒子サイズを有する粒子状の原料金属を準備すること、前記粒子状の原料金属をバインダおよび任意の溶剤と混合してスラリーを形成すること、前記スラリーを造粒して実質的に球状の顆粒を形成すること(ここで、各々の粒は粒子状の原料金属の集塊を含む)、前記顆粒を脱バインダ温度で脱バインダして、顆粒のバインダ含有率を減少させて、脱バインダされた顆粒を形成すること、脱バインダされた顆粒を焼結温度で少なくとも部分的に焼結し、各々の顆粒内の粒子が融合して、部分的または完全に焼結された顆粒を形成すること、および焼結された顆粒を回収して、実質的に球状の金属粉末を形成することを含む。
【0009】
国際公開第2017/048199号(WO2017/048199)は、10質量%~70質量%の範囲のチタン含有率を有するチタン・タンタル合金に関し、ここで、前記合金は体心立方構造を有する。さらに、チタン・タンタル合金の形成方法が記載されており、前記方法は、(a) 形成されるべき部品の3D CADモデルを2Dの画像層へとスライスする段階、(b) チタン粉末とタンタル粉末との均質な粉末混合物を準備する段階、(c) 前記粉末混合物の層を処理ベッド上に分配する段階、(d) 真空環境または不活性ガス環境の1つにおいて、2Dの画像層の1つに従って前記粉末混合物の層の粉末床の融合を実施する段階を含み、段階(c)および(d)を複数の2Dの画像層の各々について連続して実施する。
【0010】
しかしながら、努力が行われているにもかかわらず、以下の問題に取り組む3D印刷のために適した金属粉末についての要求がまだある:
3D印刷法における金属粉末の使用は、その粉末が特定の特性を有することを必要とする。例えば、均質且つ無孔の物品を製造するためには、粉末は流動性でなければならない。さらに、通常は特定の粒子サイズ分布が必要とされ、それは使用される具体的な3D法に依存して変わることがある。従って、選択的レーザー溶融法において用いられる粉末について必要とされる粒子サイズ分布は、電子線溶融法において用いられるものとは異なり得る。さらに、後の物品の機械的特性を改善するためには、粉末中の酸素、窒素および水素の含有率が低いことが好ましい。最後だが大事なことには、機械的に安定であり且つ無孔の物品を製造するために必要とされる十分な溶融を可能にするために、用いられる粉末は別個の波長のレーザー光または電子線について十分な吸収を有するべきである。従って、3D印刷法において用いるために特に設計された粉末、並びに前記粉末の製造方法についての要求がまだある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0074942号明細書
【特許文献2】国際公開第2017/048199号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、3D印刷のために適した金属粉末、並びに前記粉末の製造方法を提供することによって前記の要求に取り組む。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、本発明の第1の対象は、3D印刷法において使用するために適した金属粉末であって、前記金属粉末の粒子が平均アスペクト比ψA 0.7~1、好ましくは0.8~1、より好ましくは0.9~1、さらにより好ましくは0.95~1を有し、ここでψA=x最小フェレット/x最大フェレットであることを特徴とする、前記金属粉末である。
【0014】
フェレット直径は、規定の方向に沿った物体のサイズの尺度である。一般に、その物体をその方向に対して垂直に限定する2つの平行な面の間の距離として定義できる。この尺度は、例えば顕微鏡での粒子サイズの解析において使用され、ここで、それは三次元(3D)の物体の2D面への投影に適用される。そのような場合、フェレット直径は、面というよりは2つの平行な接線間の距離として定義される(
図1参照)。本発明に関し、ψAは粒子の最小フェレット直径[μm]とそれぞれの粒子の最大フェレット直径[μm]との比として定義される。本発明の意味における平均アスペクト比ψAは、粉末の粒子のアスペクト比の分布に関し、走査型電子顕微鏡(SEM)の統計的な解析によって決定される。
【0015】
意外なことに、特許請求される範囲内の平均アスペクト比を有する粒子が、3D印刷法において用いるために特に適しており、且つ良好な流動性を有することが判明した。
【0016】
タンタル(Ta)、チタン(Ti)およびニオブ(Nb)などの金属は、毒性が低く、生体適合性が高く、且つ製造された物品の機械的安定性が高いので、整形インプラントを製造するための材料として好ましい。従って、粉末がタンタル、チタン、ニオブおよびそれらの合金からなる群から選択される金属を含むか、または前記金属からなる、本発明の実施態様が好ましい。特に好ましい実施態様において、本発明による粉末は、チタンとニオブとの合金を含む。特に好ましい実施態様において、前記合金はさらにタンタルを含む。代替的に好ましい実施態様において、粉末はタンタルとニオブとの合金を含む。
【0017】
粉末の組成を、特定のケースの要請に従って適合させることができる。好ましい実施態様において、本発明の金属粉末は、該粉末の総質量に対して50~75質量%、好ましくは57~61質量%の量のTiを含む合金粉末を含む。
【0018】
さらに好ましい実施態様において、本発明の金属粉末は、該粉末の総質量に対して25~50質量%、好ましくは39~43質量%の量のNbを含む合金粉末を含む。
【0019】
特に好ましい実施態様において、前記粉末は、該粉末の総質量に対してそれぞれ50~75質量%、好ましくは57~61質量%の量のTiおよび25~50質量%、好ましくは39~43質量%の量のNbを含む合金粉末を含む。
【0020】
前記粉末がTiとNbとTaとの合金を含む本発明の実施態様がさらに好ましい。そのような場合、Taの量は、粉末の総質量に対して2~20質量%、好ましくは2~15質量%、特に2~6質量%であることが好ましい。好ましくは、前記合金は、粉末の総質量に対してそれぞれ50~75質量%、より好ましくは55~70質量%、さらにより好ましくは55~61質量%の量のTi、25~50質量%、好ましくは27~43質量%の量のNbを、合計で100質量%になるように含む。
【0021】
特定の不純物の含有率ができるだけ少なく保たれる場合、物体、特に整形インプラントの機械的特性、例えば弾性を非常に改善できることが判明した。好ましい実施態様において、本発明の粉末中の酸素のレベルは、3000ppm未満、特に1500ppm未満、および特に1000ppm未満、より特に500ppm未満、さらにより特に300ppm未満であり、ppmは粉末の質量に関する。本発明の粉末中の窒素のレベルは、好ましくは200ppm未満、特に100ppm未満、特に50ppm未満、さらにより特に30ppm未満である。
【0022】
本発明の粉末中のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)の含有率は好ましくは80ppm未満である。意外なことに、前記元素の含有率が特許請求されるレベルより下に保持された場合、製造される製品の品質を非常に改善できたことが判明した。好ましい実施態様において、本発明の粉末中のLi含有率は80ppm未満、好ましくは50ppm未満、および特に30ppm未満である。他の好ましい実施態様において、本発明の粉末中のNa含有率は80ppm未満、好ましくは50ppm未満、および特に30ppm未満である。本発明の好ましい実施態様において、K含有率は80ppm未満、好ましくは50ppm未満、および特に30ppm未満である。特に好ましい実施態様において、本発明の粉末中のLiとNaとKとの合計の含有率は、100ppm未満、好ましくは50ppm未満である。
【0023】
金属粉末が3D印刷法において用いられるために適するためには、該粉末は特定の流動性並びに特定のタップ密度を有さなければならない。好ましい実施態様において、本発明の粉末は、ASTM B527に準拠して測定して、理論密度の40~80%、好ましくは60~80%のタップ密度を有する。
【0024】
本発明の粉末がTa、NbまたはTiの金属粉末、またはそれらの合金粉末である場合、前記粉末は好ましくは、1.8~13.3g/cm3、好ましくは2.7~13.3g/cm3のタップ密度を有する。例えば、完全に密なタンタルは16.65g/cm3の密度を有する。従って、好ましい実施態様において、本発明のTa粉末は6.6~13.3g/cm3、好ましくは10.0~13.3g/cm3のタップ密度を有する。さらに、完全に密なニオブは8.58g/cm3の密度を有する。従って、好ましい実施態様において、本発明のNb粉末は3.4~6.9g/cm3、好ましくは5.1~6.9g/cm3のタップ密度を有する。本発明の粉末が二元合金、特にTi/Nb合金を含む場合、タップ密度は好ましくは2.2~5.2g/cm3、好ましくは3.3~5.2g/cm3である。前記粉末が三元合金、特にTi/Nb/Ta合金を含む場合、該粉末は好ましくは2.3~6.5g/cm3、好ましくは3.5~6.5g/cm3のタップ密度を有する。
【0025】
さらに好ましい実施態様において、本発明の粉末はASTM B213に準拠して測定して25秒/50g未満、特に20秒/50g未満、さらにより好ましくは15秒/50g未満の流動性を有する。意外なことに、本発明による粉末は容易に施与され得るが、正確且つ明確な端部の物品の製造を可能にするために適切な不動性を依然として示すことが判明した。
【0026】
上述のとおり、本発明の粉末の粒子サイズ分布を、特に使用される具体的な印刷方法による要求に従って適合させることができる。印刷された物品における種々の加工および要請に起因して、粉末の特性に関する需要は、使用される方法によって異なり得る。例えば、選択的レーザー溶融(SLM)は微細な粉末を使用して、十分に解像された構造的特徴を有する正確に成型された物品を得る。電子線溶融(EBM)はより粗い粒子を必要とし、それは主に、電子線との相互作用に起因して静電帯電した粒子の反発に起因する。そのような反発は非常に微細な粉末について明らかに顕著である。レーザクラッディング(LC)は、オーバースプレーおよび関連する実質的な粉末の損失を回避するために、さらにより粗い粉末を必要とする。
【0027】
好ましい実施態様において、本発明の粉末は、ASTM B822に準拠して測定して2μmを上回る、好ましくは5μmを上回るD10、および80μm未満、好ましくは70μm未満、さらにより好ましくは62μm未満のD90と共に、20~50μm、好ましくは25~50μmのD50の粒子サイズ分布を有する。好ましい実施態様において、篩別による分級によって得られる粉末の分級物は<63μmである。そのような粉末は、選択的レーザー溶融法(SLM)における用途のために特に適している。
【0028】
代替的に好ましい実施態様において、本発明の粉末は、ASTM B822に準拠して測定して20μmを上回る、好ましくは50μmを上回る、さらにより好ましくは65μmを上回るD10、および150μm未満、好ましくは120μm未満、さらにより好ましくは100μm未満のD90と共に、40~90μm、好ましくは60~85μmのD50の粒子サイズ分布を有する。好ましい実施態様において、篩別による分級によって得られる粉末の分級物は63~100μmである。そのような粉末は、電子線溶融法(EBM)における用途のために特に適している。
【0029】
他の代替的に好ましい実施態様において、本発明の粉末は、ASTM B822に準拠して測定して50μmを上回る、好ましくは80μmを上回る、さらにより好ましくは100μmを上回るD10、および240μm未満、好ましくは210μm未満のD90と共に、60~150μm、好ましくは100~150μmのD50の粒子サイズ分布を有する。好ましい実施態様において、篩別による分級によって得られる粉末の分級物は100~300μmである。そのような粉末は、レーザークラッディング法(LC)における用途のために特に適している。
【0030】
意外なことに、用いられる金属粉末の粒子が樹枝状の微細構造を有する場合、3D印刷法によって製造された物品の機械的安定性並びに元素分布の均質性を大々的に改善できることが判明した。従って、前記粉末が、化学組成における局所的な偏りを有する樹枝状の微細構造を有する本発明の粉末の実施態様が好ましい。意外なことに、X線回折による本発明の分析は、粉末における樹枝状の微細構造が、組成において異なるにもかかわらず全て同じ結晶構造を有することを示し、組成の局所的な偏りが通常は異なる結晶構造と関連してX線回折において1つより多くの相を生じる通常の粉末とは対照的に、本発明による粉末の場合には1つだけの相が検出された。これは、例示的な本発明の粉末の粉末X線回折パターンを示す
図8によって確認される。
【0031】
本発明の他の対象は、本発明の粉末の製造方法である。本発明の方法は、
a) 粉末の粉末状成分をプレスするか、またはプレスおよび焼結して、金属体を得る段階、
b) 前記金属体を噴霧化して、金属粉末を得る段階、
c) ASTM B822に準拠して測定して、2μm未満、好ましくは5μm未満、さらにより好ましくは10μm未満の粒子サイズを有する粒子を分離して、本発明の金属粉末を得る段階、および
d) 本発明の金属粉末の粒子サイズをスクリーニングによって分級して、所望の粒子サイズ分布を得る段階
を含む。
【0032】
意外なことに、本発明による方法が、3D印刷法のために特に適した金属粉末の製造を可能にすることが判明した。
【0033】
好ましい実施態様において、本発明の方法の段階c)における分離を、粉末の篩別、特に空気分級によって実現する。
【0034】
代替的に好ましい実施態様において、本発明の方法の段階c)における分離を、超音波を使用した水浴中での解凝集および引き続く傾瀉によって実現する。代替的に好ましい実施態様において、解凝集を、水浴中での攪拌および引き続く傾瀉によって実現する。他の代替的に好ましい実施態様において、解凝集を、水浴中での強力分散および引き続く傾瀉によって実現する。強力分散は、例えば、IKA(登録商標)-Werke GmbH&Co.KG(ドイツ)から入手可能なUltra-Turrax(登録商標)を使用して行うことができる。
【0035】
好ましい実施態様において、微細粒子の傾瀉の度合いを、分散液のゼータ電位を操作することによって調節できる。この方法で、例えば、pH値の調節を達成できる。従って、解凝集において使用される水浴のpHを調節することによって粒子の傾瀉の度合いを調節する、本発明の方法の実施態様が好ましい。
【0036】
低い酸素含有率を有する金属粉末を得ることが望ましい。従って、好ましい実施態様において、本発明の方法はさらに、脱酸素段階を含む。本発明の粉末の脱酸素を、好ましくは本発明の粉末の段階c)に引き続いて行う。好ましくは、脱酸素を還元剤、好ましくはLi、Na、K、MgおよびCa、並びにそれらの混合物からなる群から選択される還元剤の存在下で行う。さらに好ましい実施態様において、本発明の粉末を、脱酸素の後に浸出段階に供して、脱酸素の間に生成された望ましくない不純物を除去する。侵出を、好ましくは無機酸を使用して実施する。粉末の特性を、特定の用途の要請に合うように調節するために、粉末の表面をドープすることができる。従って、粉末の表面が好ましくはリン、ホウ素、ケイ素、イットリウム、カルシウム、マグネシウムおよびそれらの混合物からなる群から選択されるドーピング剤でドープされる実施態様が好ましい。ドーピングの方法は当業者には周知である。従って、当業者は、どのようにドーピング剤を導入すべきかをよく知っている。
【0037】
3D印刷法における性能を改善するために、本発明の粉末をさらに操作できる。従って、本発明の粉末がさらに酸処理に供され、前記酸が好ましくはフッ化水素または錯体形成カルボン酸である実施態様が好ましい。意外なことに、粉末をそのような酸処理に供する場合、印刷工程の間のレーザー光線の吸収を改善できることが判明した。理論に束縛されるものではないが、前記処理は粉末表面を粗くして、光線の表面吸収を高めることをみちびき得ると考えられる。
【0038】
好ましい実施態様において、錯体形成カルボン酸は、カルボン酸、ジカルボン酸およびα-ヒドロキシ酸並びにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0039】
本発明の粉末は、3D印刷法における用途のために特に適している。従って、本発明のさらなる対象は、付加製造法における本発明の粉末の使用である。好ましくは、前記方法は、選択的レーザー溶融(SLMまたはLBM)、電子ビーム溶融(EBM)およびレーザークラッディング(LC)からなる群から選択される。
【0040】
本発明の他の対象は、本発明の粉末を使用する三次元物品の製造方法であって、前記三次元物品を1層ずつ構築される前記方法である。
【0041】
本発明のさらに他の対象は、本発明の方法により得られ且つ/または本発明の粉末を含む、三次元物品である。前記三次元物品は、その三次元物品を特に医療用途のため適したものにする好ましい特性を特徴とする。医療の目的のために使用される物品についての要請は、生体適合性から機械的な強度まで多岐にわたる。意外なことに、本発明による粉末から、特に3D印刷法を使用して製造された三次元物品が、特に有利な特性を示すことが判明した。その弾性率(ヤング率、mE)は、約40GPaの弾性率を有する天然の骨のものに近いことが判明した。現在使用されている通常の材料は、100GPaを上回る遙かに高い弾性率を示し、インプラントの低い適合性をもたらす。従って、本発明において達成される対象である、天然の骨に非常に近い特性を有するインプラントを得ることが望ましい。従って、好ましい実施態様において、本発明による三次元物品はDIN EN ISO 6892-1に準拠して測定して、20~100GPa、好ましくは40~90GPa、特に40~80GPaの弾性率mEを有する。
【0042】
さらに好ましい実施態様において、本発明による三次元物品はDIN EN ISO 6892-1に準拠して測定して、600~1400MPa、好ましくは600~1200MPa、特に600~699MPaの極限強さ(Rm)を有する。
【0043】
本発明による三次元物品がDIN EN ISO 6892-1に準拠して測定して、500~1200MPa、好ましくは500~1000MPa、特に500~699MPaの降伏強さRp0.2を有する実施態様も好ましい。
【0044】
特に好ましい実施態様において、本発明の三次元物品は、
・ DIN EN ISO 6892-1に準拠して測定して20~100GPa、好ましくは40~90GPa、特に40~80GPaの弾性率mE、
・ DIN EN ISO 6892-1に準拠して測定して600~1400MPa、好ましくは600~1200MPa、特に600~699MPaの極限強さRm、および
・ DIN EN ISO 6892-1に準拠して測定して500~1200MPa、好ましくは500~1000MPa、特に500~699MPaの降伏強さRp0.2
を有する。
【0045】
さらに好ましい実施態様において、本発明の三次元物品は、DIN EN ISO 6892-1に準拠して測定してそれぞれ0.5%を上回る、好ましくは1%を上回る、特に4%を上回る、極限強さRmでのひずみ値Agを特徴とする。
【0046】
三次元物品が、DIN EN ISO 6892-1に準拠して測定してそれぞれ2%を上回る、好ましくは4%を上回る、特に10%を上回る、破壊ひずみA30の値を有する、本発明の三次元物品の実施態様がさらに好ましい。
【0047】
好ましくは、前記物品はインプラント、特に医療用のインプラント、例えば歯科用インプラント、股関節インプラント、膝インプラント、肩インプラント、頭蓋顔面インプラントまたは脊髄インプラントである。他の好ましい実施態様において、前記物品は高温用途、例えばオーブンおよび反応器用である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】
図1は、上記で説明したフェレット直径の定義を図示したものである。
【
図2】
図2は、例2による本発明の粉末のSEM像を示す。
【
図3】
図3は、比較例4による粉末のSEM像を示す。
【
図4】
図4は、例11による本発明の粉末のSEM(断面)像を示す。
【
図5】
図5は、粉末の表面を粗くすることをもたらすHFでの処理後の例12による本発明の粉末のSEM像を示す。
【
図6】
図6は、例11による本発明の粉末の粉末粒子のSEM像/EDX断面を示す。
【
図7】
図7は、例13による本発明の粉末の粉末粒子のSEM像/EDX断面を示す。
【
図8】
図8は、例1(Nb)、7(Ti42Nb)および13(Ti40Nb4Ta)による本発明の粉末のX線回折パターンを示す。
【実施例0049】
本発明を以下の実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明が該実施例に限定されると理解されるべきではない。
【0050】
上記の方法の段階a)およびb)に従っていくつかの粉末を製造した。結果を表1にまとめる。
【0051】
【0052】
得られた粉末を、本発明による方法の段階c)において記載したように、
1) 篩別/空気分級
2) 超音波処理
3) 水の傾瀉(pH5~8で)
によって分ける段階に供した。
【0053】
前記粉末を引き続き脱酸素し、且つ表2に示される分級物のとおり篩別することによって分級した。結果を表2にまとめる。
【0054】
【0055】
例9、12、13および14の本発明の粉末を選択的レーザー溶融法において用い、三次元試験物品1、2、3および4をそれぞれ製造し、その特性をDIN EN ISO 6892-1:2016に準拠して試験した。それぞれの結果を表3に示し、示された値は一連の試験にわたって得られた平均的な結果である。
【0056】
m
E: DIN EN ISO 6892-1:2016に準拠して測定された弾性率
R
p0.2: DIN EN ISO 6892-1:2016に準拠して測定された降伏強さ
R
m: DIN EN ISO 6892-1:2016に準拠して測定された極限強さ
F
m: DIN EN ISO 6892-1:2016に準拠して測定された最大力
A
g: DIN EN ISO 6892-1:2016に準拠して測定されたR
mでのひずみ
A
30: DIN EN ISO 6892-1:2016に準拠して測定された破壊ひずみ
S
0: DIN EN ISO 6892-1:2016に準拠して測定された断面の面積
表3:
【表3】
【0057】
図1は、上記で説明したフェレット直径の定義を図示したものである。
【0058】
図2は、例2による本発明の粉末のSEM像を示す。明らかに理解できるとおり、粒子は均質な球形度および粒子サイズ分布を有する。
【0059】
図3は、比較例4による粉末のSEM像を示す。本発明の粉末とは対照的に、慣例的な粉末は高度の凝集を示すので、3D印刷において使用するには不適である。
【0060】
図4は、例11による本発明の粉末のSEM(断面)像を示し、それは粉末の均質性、および粉末を3D印刷法のために不適にし得るサイズを有するいかなる望ましくない粒子もないことを明らかに示す。
【0061】
図5は、粉末の表面を粗くすることをもたらすHFでの処理後の例12による本発明の粉末のSEM像を示す。
【0062】
図6は、例11による本発明の粉末の粉末粒子のSEM像/EDX断面を示す。該像は、
1: Ti 70.8質量%、Nb 26.3質量%、Ta 2.9質量%
2: Ti 72.4質量%、Nb 25.4質量%、Ta 2.2質量%
3: Ti 54.0質量%、Nb 38.2質量%、Ta 7.8質量%
4: Ti 54.6質量%、Nb 38.0質量%、Ta 7.4質量%
を有する粉末の樹枝状の特徴を明らかに示す。
【0063】
図7は、例13による本発明の粉末の粉末粒子のSEM像/EDX断面を示す。該像は、
1: Ti 56.4質量%、Nb 40.0質量%、Ta 3.6質量%
2: Ti 64.4質量%、Nb 32.1質量%、Ta 3.4質量%
3: Ti 67.4質量%、Nb 31.4質量%、Ta 1.2質量%
4: Ti 53.7質量%、Nb 41.4質量%、Ta 4.9質量%
5: Ti 53.5質量%、Nb 42.0質量%、Ta 4.5質量%
を有する粉末の樹枝状の特徴を明らかに示す。
【0064】
図8は、例1(Nb)、7(Ti42Nb)および13(Ti40Nb4Ta)による本発明の粉末のX線回折パターンを示す。明らかにわかるとおり、各々のパターンにおいて、二元系および三元系についても、1つの結晶相だけが同定された。
前記三次元物品が、DIN EN ISO 6892-1に準拠して測定して600~1400MPa、好ましくは600~1200MPa、特に600~699MPaの極限強さRmを有することを特徴とする、請求項3または4に記載の三次元物品。
前記三次元物品が、DIN EN ISO 6892-1に準拠して測定して500~1200MPa、好ましくは500~1000MPa、特に500~699MPaの降伏強さRp0.2有することを特徴とする、請求項3から5までのいずれか1項に記載の三次元物品。