(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175763
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】B細胞成熟抗原を標的指向するキメラ抗原受容体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20231205BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20231205BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20231205BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231205BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20231205BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20231205BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231205BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20231205BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231205BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231205BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N15/867 Z
C12N5/0783
C12N5/10
A61K47/68
A61P35/00
A61K35/17
A61K39/395 N
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023146498
(22)【出願日】2023-09-08
(62)【分割の表示】P 2021196490の分割
【原出願日】2013-03-15
(31)【優先権主張番号】61/622,600
(32)【優先日】2012-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】510002280
【氏名又は名称】アメリカ合衆国
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(72)【発明者】
【氏名】コッフェンダーファー、ジェームズ ノーブル
(57)【要約】 (修正有)
【課題】多発性骨髄腫の治療法に用いることのできる組成物および該組成物を用いた治療法を提供する。
【解決手段】抗原認識部分及びT細胞活性化部分を含み、抗原認識部分がB細胞成熟抗原(BCMA)に対し指向されたキメラ抗原受容体(CAR)をコードする単離又は精製された核酸配列を提供する。また本発明は、CARを発現する、T細胞又はナチュラルキラー(NK)細胞のような宿主細胞及び多発性骨髄腫細胞を破壊する方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)B細胞成熟抗原(BCMA)に結合する単鎖抗原認識部位;
(b)CD8α膜貫通ドメイン;
(c)4-1BB細胞内T細胞シグナリングドメイン;及び
(d)CD3ζ細胞内T細胞シグナリングドメイン;
を含む単鎖ポリペプチドをコードする、単離された核酸分子。
【請求項2】
更にシグナル配列を含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項3】
該シグナル配列が、CD8αシグナル配列又は顆粒球マクロファージコロニー刺激因子受容体(GM-CSF受容体)シグナル配列である、請求項2に記載の単離された核酸分子。
【請求項4】
該シグナル配列がCD8αシグナル配列である、請求項2又は3に記載の単離された核酸分子。
【請求項5】
該抗原認識部位が、SEQ ID NO: 10のアミノ酸配列の(i)重鎖相補性決定領域(CDR)1、(ii)重鎖CDR2、(iii)重鎖CDR3、(iv)軽鎖CDR1、(v)軽鎖CDR2、及び(vi)軽鎖CDR3を含む、請求項1-4のいずれか1項に記載の単離された核酸分子。
【請求項6】
該抗原認識部位が、SEQ ID NO: 10のアミノ酸配列の(i)重鎖可変領域、及び(ii)軽鎖可変領域を含む、請求項1-4のいずれか1項に記載の単離された核酸分子。
【請求項7】
該単鎖ポリペプチドが、BCMAに結合する単鎖抗原認識部位、SEQ ID NO: 10のアミノ酸配列のヒトCD8α膜貫通ドメイン、SEQ ID NO: 10のアミノ酸配列のヒト4-1BB細胞内T細胞シグナリングドメイン、及びSEQ ID NO: 10のアミノ酸配列のヒトCD3ζ細胞内T細胞シグナリングドメインを含む、請求項1-6のいずれか1項に記載の単離された核酸分子。
【請求項8】
請求項1-7のいずれか1項に記載の単離された核酸分子を含むベクター。
【請求項9】
レトロウイルスベクターである、請求項8に記載のベクター。
【請求項10】
レンチウイルスベクターである、請求項8に記載のベクター。
【請求項11】
請求項1-7のいずれか1項に記載の単離された核酸分子を含む、単離された宿主細胞。
【請求項12】
請求項8-10のいずれか1項に記載のベクターを含む、単離された宿主細胞。
【請求項13】
T細胞である、請求項11又は請求項12に記載の単離された宿主細胞。
【請求項14】
ナチュラルキラー(NK)細胞である、請求項11又は請求項12に記載の単離された宿主細胞。
【請求項15】
請求項11-14のいずれか1項に記載の単離された宿主細胞、及び医薬的に許容可能な担体又は希釈剤を含む、組成物。
【請求項16】
癌細胞を破壊するための剤であって、請求項1-7のいずれか1項に記載の単離された核酸分子、請求項8-10のいずれか1項に記載のベクター、請求項11-14のいずれか1項に記載の単離された宿主細胞、又は請求項15に記載の組成物を含む、剤。
【請求項17】
該癌細胞が多発性骨髄腫又はホジキンリンパ腫細胞である、請求項16に記載の剤。
【請求項18】
癌細胞を破壊するための医薬品の製造における、請求項1-7のいずれか1項に記載の単離された核酸分子、請求項8-10のいずれか1項に記載のベクター、請求項11-14のいずれか1項に記載の単離された宿主細胞、又は請求項15に記載の組成物の使用。
【請求項19】
該癌細胞が多発性骨髄腫又はホジキンリンパ腫細胞である、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
単鎖ポリペプチドを発現する宿主細胞の製造方法であって、請求項1-7のいずれか1項に記載の単離された核酸分子、又は請求項8-10のいずれか1項に記載のベクターを宿主細胞にin vitroで導入することを含み、該宿主細胞がT細胞又はNK細胞である、方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[関連出願とのクロスリファレンス]
本特許出願は、米国仮出願61/622,600号(出願日:2012年4月11日)の利益を主張し、
該出願全体を参照により本願に含む。
【0002】
[電子的に提出する物件の参照による本願への盛り込み]
本願と同時に提出される下記のコンピュターによる読み込み可能な核酸/アミノ酸配列
リスティングは、全体が本願に参照により盛り込まれる:
"712361#ST25.TXT,"と命名する42,589 バイトASCII (テキスト)ファイル(2013年3月14日作製)。
【0003】
[発明の背景]
多発性骨髄腫(MM)は、クローナルな形質細胞(プラズマ細胞)の蓄積を特徴とする悪性腫瘍である(例えば、Palumbo ら, New England J. Med., 364(11): 1046-1060 (2011), 及び Lonialら, Clinical Cancer Res., 17(6): 1264-1277 (2011) 参照)。MMに対す
る現在の治療法は、しばしば寛解をもたらすが、ほとんどの患者が最終的には再発し、死に至る(例えば、Lonialら, 前出及びRajkumar, Nature Rev. Clinical Oncol., 8(8): 479-491 (2011)参照)。同種造血幹細胞移植は、免疫介在性骨髄腫細胞除去を誘発するこ
とが示されてきたが、このアプローチは毒性も高く、治癒される患者はほとんどいない(例えば、Lonialら, 前出, 及びSalitら, Clin. Lymphoma, Myeloma, 及び Leukemia, 11(3): 247-252 (2011)参照)。現在、臨床的に有効なFDAが認可したMMに対するモノクロー
ナル抗体若しくは自家T細胞治療法はない(例えば、Richardsonら, British J. Haematology, 154(6): 745-754 (2011)及びYi, Cancer Journal, 15(6): 502-510 (2009)参照)。
【0004】
悪性腫瘍随伴性抗原を認識するように遺伝子改変されたT細胞の養子免疫細胞移入が、
癌の治療法に対する新しいアプローチとして有望視されている(例えば、Morganら, Science, 314(5796): 126-129 (2006); Brennerら, Current Opinion in Immunology, 22(2):251-257 (2010); Rosenberg ら, Nature Reviews Cancer, 8(4): 299-308 (2008), Kershawら, Nature Reviews Immunology, 5(12): 928-940 (2005); 及び Puleら, Nature Medicine, 14(11): 1264-1270 (2008)参照)。T細胞は、抗原認識部分とT細胞活性化ドメインからなる融合タンパク質であるキメラ抗原受容体(CARs)を発現するように遺伝子改変
することができる(例えば、Kershawら, 前出, Eshhar ら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90(2): 720-724 (1993), 及び Sadelainら, Curr. Opin. Immunol., 21(2): 215-223(2009)参照)。
【0005】
B細胞系統の悪性腫瘍には、抗‐CD19CARsを利用するT細胞の養子免疫細胞アプローチ
が開発され、大幅な進歩があった(例えば、Jensenら, Biology of Blood 及び Marrow Transplantation, 16: 1245-1256 (2010); Kochenderferら, Blood, 116(20): 4099-4102 (2010); Porterら, The New England Journal of Medicine, 365(8): 725-733 (2011); Savoldoら, Journal of Clinical Investigation, 121(5): 1822-1826 (2011), Cooper ら, Blood, 101(4): 1637-1644 (2003); Brentjensら, Nature Medicine, 9(3): 279-286(2003); 及びKalosら, Science Translational Medicine, 3(95): 95ra73 (2011)参照)。
養子細胞移入された、抗‐CD19CAR形質導入T細胞により、白血病とリンパ腫が治癒された(例えば、Cheadleら, Journal of Immunology, 184(4): 1885-1896 (2010); Brentjens
ら, Clinical Cancer Research, 13(18 Pt 1): 5426-5435 (2007)及び Kochenderferら, Blood, 116(19): 3875-3886 (2010)参照)。初期の臨床試験において、抗‐CD19CARsを
形質導入されたT細胞の養子細胞移入により、白血病とリンパ腫を患う患者において、正
常B細胞と悪性B細胞を撲滅した(例えば、Kochenderfer ら, Blood, 116(20): 4099-4102
(2010); Porterら, 前出, Brentjen ら., Blood, 118(18): 4817-4828 (2011)及び Kochenderferら, Blood, December 8, 2011 (epublication ahead of print (2012)参照)。
しかしながら、CD19は、多発性骨髄腫の悪性形質細胞上に稀にしか発現しないものである(例えば、Guptaら, Amer. J. Clin. Pathology, 132(5): 728-732 (2009)及びLinら, Amer. J. Clin. Pathology, 121(4): 482-488 (2004)参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、多発性骨髄腫の治療法に用いることのできる組成物へのニーズが依然としてある。本発明は、かかる組成物と治療法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[発明の簡単な要約]
本発明は、抗原認識部分及びT細胞活性化部分を含み、抗原認識部分がB細胞成熟抗原(BCMA)に対し指向されたキメラ抗原受容体(CAR)をコードする単離又は精製された核酸
配列を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1A及び1Bは、定量的PCRを用いて決定した、種々のヒト細胞型のBCMAの発現様式を示す実験データを表すグラフである。結果は、10
5アクチンcDNAコピー当たりのBCMAcDNAコピー数として表現している。
【
図2】
図2A-2Lは、実施例1に記載する、細胞表面BCMA発現が多発性骨髄腫セルライン(株化細胞)上には検出されたが、他の型の細胞上には検出されなかったことを示す実験データを表すグラフである。全てのプロットについて、実線は、抗BCMA抗体の染色を表し、破線は、イソタイプが合致する対照抗体の染色を表す。全てのプロットは、生存する細胞上で捉えた。
【
図3】
図3Aは、抗BCMA CARをコードする核酸コンストラクトを表す略図である。N‐末端からC‐末端までに、該抗BCMA CARは、抗BCMA scFv、CD8α分子のヒンジと膜貫通領域、CD28分子の細胞質部分及びCD3ζ分子の細胞質部分を含む。
図3B-3Dは、抗‐bcma1CAR、抗‐bcma2CAR及びSP6CAR(実施例2に記載)がT細胞の表面に発現したことを示す実験データを表すグラフである。最小の抗‐Fab(抗原結合フラグメント)染色が、非形質導入(UT)細胞上に生じた。プロットは、生存するCD3
+リンパ球上で、捉えた。プロットの数は、各象限中の細胞の百分率を示す。
【
図4】
図4A-4Cは、実施例3に記載するように、抗BCMA CARを発現するT細胞は、BCMA‐特異的な態様で、T細胞を脱顆粒することを示す実験データを表すグラフである。プロットは、生存するCD3
+リンパ球上で、捉えた。プロットの数は、各象限中の細胞の百分率を示す。
【
図5】
図5A‐5Dは、実施例3に記載するように、抗BCMA CARを発現するT細胞は、BCMA‐特異的な態様で、T細胞を脱顆粒することを示す実験データを表すグラフである。プロットは、生存するCD3
+リンパ球上で、捉えた。プロットの数は、各象限中の細胞の百分率を示す。
【
図6】
図6A‐6Cは、実施例3に記載するように、抗BCMA CARを発現するT細胞は、BCMA‐特異的な態様で、IFNγ、IL‐2、TNFのサイトカインを産生することを示す実験データを表すグラフである。プロットは、生存するCD3
+リンパ球上で、捉えた。プロットの数は、各象限中の細胞の百分率を示す。
【
図7】
図7Aは、抗-bcma2CARを発現するT細胞は、BCMAに特異的に応答して、増殖したことを示す実験データを表すグラフである。
図6Bは、SP6 CARを発現するT細胞は、特異的にBCMAに応答して増殖することはなかったことを示す実験データを表すグラフである。
図7C及び7Dは、抗-bcma2CARを発現するドナーAからのT細胞は、種々のエフェクター:標的細胞比での、4時間細胞毒性分析において、多発性骨髄腫セルラインH929(
図6C)及びRPMI8226(
図6D)を特異的に殺したことを示す実験データを表すグラフである。ネガティブコントロールであるSP6 CARを形質導入されたT細胞は、すべてのエフェクター:標的比において、はるかに低いレベルの細胞毒性を生じた。すべてのエフェクター:標的比で、細胞毒性は、2回測定し、結果は、平均値+/-平均値の標準誤差として示した。
【
図8】
図8Aは、実施例5に記載されるように、BCMAは、骨髄腫患者3から採取したプライマリー骨髄多発性骨髄腫細胞の表面上に発現していることを示す実験データを表すグラフである。プロットは、CD38
high CD56
+形質細胞上で捉えたが、これは骨髄細胞の40%を占めた。
図8Bは、実施例5に記載されるように、ドナーCからの抗-bcma2CARを形質導入された同種異系のT細胞は、骨髄腫患者3の遺伝子操作していない骨髄細胞と共培養した後、IFNγを産生したことを示す実験データを表すグラフである。
図7Bは、また抗-bcma2CARを発現する同じ同種異系ドナーからのT細胞は、骨髄腫患者3からの末梢血液単核細胞(PBMC)とともに培養した時、はるかに少ない量のIFNγを産生したことを示す。更に、SP6 CARを発現するドナーCからのT細胞は、骨髄腫患者3の骨髄を特異的に認識することはなかった。
図8Cは、BCMA(実線)及びイソタイプ適合コントロール染色(破線)の流動細胞計測(分析法)によって示された、骨髄腫患者1から切除した形質細胞腫は、93%の形質細胞から成り、これらのプライマリー形質細胞はBCMAを発現したことを示す実験データを表すグラフである。
図8Dは、抗-bcma2CARを発現する骨髄腫患者1からのT細胞は、特異的に自家形質細胞腫細胞に応答して、IFNγを産生することを示す実験データを表すグラフである。
図8Eは、抗-bcma2CARを発現する骨髄腫患者1からのT細胞は、低い対標的エフェクター比で、自家形質細胞腫細胞を特異的に殺したことを示す実験データを表すグラフである。これとは対照的に、SP6 CARを発現する骨髄腫患者1からのT細胞は、自家形質細胞腫細胞に対して低いレベルの細胞毒し得を示した。すべてのエフェクター:標的比で、細胞毒性は2回測定し、結果は、平均値+/-標準誤差として表した。
【
図9】
図9Aは、抗-bcma2CARを形質導入されたT細胞は、マウスに作った多発性骨髄腫腫瘍を破壊することができることを示す実験データを表すグラフである。
図9Bは、コントロールに対比した抗-bcma2CARを発現するT細胞で治療された腫瘍をもつマウスの生存率を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[発明の詳細な説明]
本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする単離された又は精製された核酸配列
を提供するものであり、該CARは、抗原認識部分及びT細胞活性化部分を含む。キメラ抗原受容体(CAR)は、T細胞シグナル伝達又はT細胞活性化ドメインに結合した抗体の抗原
結合ドメイン(例えば、単鎖可変フラグメント(scFv))を含む人工的に構築されたハイブリットタンパク質又はポリペプチドである。CARsは、MHCに限定されない態様で、モノ
クローナル抗体の抗原結合特性を利用して、T細胞の特異性及び反応性を選択した標的に
向かうように指向させる能力を有する。このMHCに限定されない抗原認識により、CARを発現するT細胞は、抗原のプロセシングとは独立して抗原を認識する能力を得、このように
して腫瘍回避の主要なメカニズムを飛び越えて進むことができる。更にCARsは、T細胞に
発現する時、内因性T細胞受容体(TCR)アルファ及びベータ鎖とダイマーを形成しないという利点も有する。
【0010】
“核酸配列”は、一本鎖又は二本鎖になり得、非天然又は変更されたヌクレオチドを包含する、DNA又はRNAのポリマー、すなわちポリヌクレオチドを包含することが意図されている。“核酸”及び“ポリヌクレオチド”なる用語は、本願において用いられた場合、リボヌクレオチド(RNA)又はデオキシリボヌクレオチド(DNA)いずれであっても、いかなる長さのものも含むポリマー形態のヌクレオチドを示す。これらの用語は、分子の一次構
造を示し、二本鎖及び一本鎖DNA並びに二本鎖及び一本鎖RNAを含む。該用語は、例えば、メチル化及び/又はキャップ化ポリヌクレオチド(但し、これらに限定されるものではない)等のようなヌクレオチド同類体及び改変ポリヌクレオチドから得られるRNA又はDNAいずれかの同族体も、均等物として包含する。
【0011】
“単離された”とは、自然環境から核酸を取りだしたことを意味する。“精製された”とは、自然から取り出したもの(ゲノムDNA及びmRNAを含め)であれ、研究室条件下で合成されたもの(cDNAを含め)及び/又は増幅されたものであれ、任意の核酸の純度が高
められたことを意味し、ここで“純度”は、相対的用語であり、“絶対純度”ではない。しかしながら、核酸及びタンパク質は、希釈剤又はアジュバンドとともに組成物にしてもよく、また実用的目的のため、単離されていてもよい。例えば、核酸は、典型的な場合としては、細胞に導入するのに用いられる際に、許容可能な担体又は希釈剤と混合される。
【0012】
本発明の核酸配列は、B細胞成熟抗原(BCMA、CD269としても知られている)に対して指向化された抗原認識部分を含むCARをコードする。BCMAは、腫瘍壊死因子受容体スーパー
ファミリーの一員である(例えば、Thompsonら, J. Exp. Medicine, 192(1): 129-135 (2000) 及び Mackayら, Annu. Rev. Immunol., 21: 231-264 (2003)参照)。BCMAはB細胞活性化因子(BAFF)及び増殖誘起リガンド(APRIL)に結合する(例えば、Mackayら, 前出,及び Kalled ら, Immunological Reviews, 204: 43-54 (2005) 参照)。非悪性細胞の中で、BCMAは、ほとんどが、形質細胞と成熟B細胞のサブセットに発現すると報告されてい
る(例えば、Laabiら, EMBO J., 11(11): 3897-3904 (1992); Laabi ら, Nucleic Acids Res., 22(7): 1147-1154 (1994); Kalledら, 前出; O'Connor ら, J. Exp. Medicine, 199(1): 91-97 (2004)及びNgら, J. Immunol., 173(2): 807-817 (2004) 参照)。BCMA欠損マウスは、健康であり、正常な数のB細胞を持つが、長命形質細胞の生存性は減じている
(例えば、O'Connorら, 前出; Xuら, Mol. Cell. Biol., 21(12): 4067-4074 (2001); 及び Schiemann ら, Science, 293(5537): 2111-2114 (2001)参照)。BCMA RNAは、何人か
の研究者により、多発性骨髄腫患者からの形質細胞の表面上で検出されている(例えば、Novakら, Blood, 103(2): 689-694 (2004); Neriら, Clinical Cancer Research, 13(19): 5903-5909 (2007); Bellucciら, Blood, 105(10): 3945-3950 (2005); 及びMoreauxら,
Blood, 103(8): 3148-3157 (2004)参照)。
【0013】
本発明の核酸配列は、BCMAに対して指向化されたモノクローナル抗体を含む抗原認識部分又はその抗原結合部分を含むCARをコードする。本願において、“モノクローナル抗体
”なる用語は、B細胞の単一クローンにより産生され、同じエピトープに結合する抗体を
意味する。一方、“ポリクローナル抗体”は、色々なB細胞により産生され、同じ抗原の
色々なエピトープに結合する抗体の集団である。本発明の核酸配列がコードするCARの抗
原認識部分は、抗体全体であっても或いは抗体断片であってもよい。抗体全体は、典型的な場合としては、4つのポリペプチド、すなわち重鎖(H)ポリペプチドの二つの同一コ
ピーと軽鎖(L)ポリペプチドの二つの同一コピーから成る。各重鎖は、1つのN末端の可変(VH)領域と3つのC末端の定常(CH1、CH2 及びCH3)領域を含み、各軽鎖は、1つのN末端の可変(VL)領域と1つのC末端の定常(CL)領域を含む。各1対の軽鎖と重鎖の可変領域は、抗体の抗原結合部分を形成する。VH領域とVL領域は、同じ一般的構造を有し、各領域は、配列が相対的に保存されている4つのフレームワーク領域を含む。フレームワー
ク領域は3つの相補性決定領域(CDRs)によって繋がれている。CDR1、CDR2及びCDR3とし
て知られている3つのCDRsは、抗原結合にたずさわる“超可変領域”を形成する。
【0014】
“抗体のフラグメント”、“抗体フラグメント”、“抗体の機能的フラグメント”及び“抗原結合部分”の用語は、本願中では、相互に変更して用いられ、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1以上のフラグメント乃至は部分を意味する(例えば、一般的には、Holligerら, Nat. Biotech, 23(9): 1126-1129 (2005)参照)。本発明の核酸配列
がコードするCARの抗原認識部分は、BCMA結合抗体フラグメントいずれも包含する。該抗
体フラグメントは、望ましくは、例えば、1以上のCDRs、可変領域(若しくはそれらの一
部分)、定常領域(若しくはそれらの一部分)又はそれらの組み合わせを含む。抗体フラグメントの例としては、例えば、(i) VL、VH、CL 及び CH1ドメインからなる単価フラグ
メントである Fab フラグメント; (ii) ヒンジ領域でジスルフイド架橋により繋がれた2つのFab フラグメントを含む2価フラグメントである F(ab')2 フラグメント; (iii)抗体の単一アームのVL及びVHドメインから成る Fvフラグメント; (iv)2つのドメインが単一
のポリペプチド鎖として合成されるのを可能にする合成リンカーによって合体されたFvフラグメント (すなわち、VL 及び VH)の2つのドメインから成る単価分子である単鎖Fv (scFv) (例えば、Birdら, Science, 242: 423-426 (1988); Hustonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 5879-5883 (1988) 及び Osbournら, Nat. Biotechnol., 16: 778 (1998)
参照)及び(v) ポリペプチド鎖のダイマーである二重特異性抗体(該抗体においては、各
ポリペプチド鎖は、同じポリペプチド鎖上でVHとVLの間でペアリングするには短すぎるペプチドリンカーにより、VLに結合されたVHを含み、それにより、色々なVH‐VLポリペプチド鎖上で、相補性ドメイン間のペアリングをひきおこし、2つの機能的抗原結合部位を持つダイマー分子を生成する)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。抗体フラグメントは、本技術分野で既知であり、例えば、米国特許公開公報2009/0093024 A1に
、より詳細に記載されている。好ましい態様において、本発明の核酸配列がコードするCARの抗原認識部分は、抗BCMA単鎖Fv (scFv)を含む。
【0015】
抗原結合部又はモノクローナル抗体のフラグメントは、当該部分が抗BCMAに結合する限り、どのようなサイズであってもよい。これに関し、BCMAに対し指向化された抗原結合部又はモノクローナル抗体のフラグメント(本願中では、“抗BCMAモノクローナル抗体”と称することもある)は、望ましくは、約5から18程度(例えば、約5, 6, 7, 8, 9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16, 17, 18又は前記数値のいずれか2つの数値によって規定される範
囲)のアミノ酸を含有する。
【0016】
一つの実施態様において、本発明の核酸配列は、抗BCMAモノクローナル抗体の可変領域を含む抗原認識部分をコードする。これに関連し、抗原認識部分は、軽鎖可変領域、重鎖可変領域又は軽鎖可変領域と重鎖可変領域の両方を含む。好ましくは、本願発明の核酸配列がコードするCARの抗原認識部分は、抗BCMAモノクローナル抗体の軽鎖可変領域と重鎖
可変領域を含む。BCMAに結合する重鎖と軽鎖モノクローナル抗体アミノ酸配列は、例えば、国際特許出願公開公報WO 2010/104949に開示されている。
【0017】
別の実施態様では、本発明の核酸配列は、シグナル配列を含むCARをコードする。該シ
グナル配列は、抗原認識部分(例えば、抗BCMA抗体の可変領域等)のアミノ末端に存在していてもよい。シグナル配列は、適切なシグナル配列ならいずれを含んでいてもよい。実施態様の一つでは、シグナル配列は、ヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)受容体配列又はCD8αシグナル配列である。
【0018】
別の実施態様では、CARはヒンジ配列を含んでいる。当業者なら、ヒンジ配列は、抗体
の柔軟性を高めるアミノ酸の短い配列であることを理解しているであろう(例えば、Woofら, Nat. Rev. Immunol., 4(2): 89-99 (2004) 参照)。ヒンジ配列は、抗原認識部分(
例えば、抗BCMA scFv)とT細胞活性化部分との間に存在していてもよい。ヒンジ配列は、好適な分子いずれかから誘導されるか又は得られる適切な配列であればいずれでもよい。例えば、一つの実施態様では、ヒンジ配列は、ヒトCD8α分子又はCD28分子から誘導され
る。
【0019】
本発明の核酸配列は、T細胞活性化部分を含むCARをコードする。T細胞活性化部分は、
好適な分子いずれかから誘導されるか又は得られる適切な部分であればいずれでもよい。
一つの実施態様では、例えば、T細胞活性化部分は膜貫通ドメインを含む。膜貫通ドメイ
ンは、本技術分野で知られている分子いずれかから誘導されるか又は得られる膜貫通ドメインのいずれであってもよい。例えば、膜貫通ドメインは、CD8α分子又はCD28分子から
得ること又は誘導することができる。CD8は、T細胞受容体(TCR)の補助受容体として働
く膜貫通糖タンパク質であり、主として、細胞毒性(傷害性)を持つT細胞の表面に発現
する。CD8の最もよく見られる形態は、CD8αとCD8β鎖からなるダイマーとして存在する
。CD28は、T細胞上に発現し、T細胞活性化に必要な同時刺激シグナルを与える。CD28は、CD80 (B7.1) とCD86 (B7.2)の受容体である。好ましい実施態様では、CD8αとCD28はヒトのものである。
【0020】
膜貫通ドメインに加え、T細胞活性化部分は、更に、細胞内の(すなわち、細胞質の)T細胞シグナリングドメインを含んでいる。細胞内T細胞シグナリングドメインは、CD28 分子、CD3ゼータ(ζ)分子若しくはそれらの改変版、ヒトFc受容体ガンマー(FcRγ)鎖、CD27分子、OX40分子、4-1BB分子又は本技術分野で公知の他の細胞内シグナリング分子か
ら得ること又は誘導することができる。上述のように、CD28分子は、T細胞同時刺激にお
ける重要なT細胞マーカーである。CD3ζは、TCRsと連携してシグナルを生じ、免疫受容体のチロシンベースの活性化モチーフ(ITAMs)を含む。4-1BBは、CD137とも称され、強力
な同時刺激シグナルをT細胞に伝達し、分化を促進し、更にTリンパ球の長命生存性を高める。好ましい実施態様では、CD28、CD3ゼータ、4-1BB、OX40及びCD27はヒトのものである。
【0021】
本発明の核酸配列がコードするT細胞活性化ドメインは、上記した膜貫通性ドメインの
何れか一つ及び上記した細胞内T細胞シグナリングドメインいずれか1以上を組み合わせ
て含んでいてもよい。例えば、本発明の核酸配列は、CD28 膜貫通ドメインとCD28及びCD3ゼータの細胞内T細胞シグナリングドメインを含むCARをコードすることができる。或いはその代わりに、本発明の核酸配列は、CD8α膜貫通ドメインとCD28、CD3 ゼータ、Fc 受容体ガンマー(FcRγ)鎖及び/又は4-1BBの細胞内T細胞シグナリングドメインを含むCARをコードすることができる。
【0022】
一つの実施態様では、本発明の核酸配列は、5’から3’に、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF受容体)シグナル配列、抗BCMA scFv、ヒトCD8α分子のヒンジ及び膜貫通領域、ヒトCD28分子の細胞質T細胞シグナリングドメイン及びCD3ζ分子のT細胞シ
グナリングドメインを含むCARsをコードする。別の実施態様では、本発明の核酸配列は、5’から3’に、ヒト CD8αシグナル配列、抗-BCMA scFv、ヒトCD8α分子のヒンジ及び膜
貫通領域、ヒトCD28分子の細胞質T細胞シグナリングドメイン及びヒトCD3ζ分子の細胞質T細胞シグナリングドメインを含むCARsをコードする。別の実施態様では、本発明の核酸
配列は、5’から3’に、ヒトCD8αシグナル配列、抗-BCMA scFv、ヒトCD8α分子のヒンジ及び膜貫通領域、ヒト4-1BB分子の細胞質T細胞シグナリングドメイン及び/又はヒトOX40分子の細胞質T細胞シグナリングドメイン及びヒトCD3ζ分子のT細胞シグナリングドメイ
ンを含むCARをコードする。例えば、本発明の核酸配列は、SEQ ID NO: 1, SEQ ID NO: 2
又はSEQ ID NO: 3の核酸配列を含む又はそれらから成る。
【0023】
本発明は、更に本発明の核酸配列がコードする単離された又は精製されたキメラ抗原受容体(CAR)を提供する。
【0024】
本発明の核酸配列は、当該CARが生物活性、例えば、特異的に抗原に結合し、哺乳類の
疾患細胞を検出し、哺乳類の疾患を治療又は予防する等の能力を保持する限り、いかなる長さのCARもコードすることができる、すなわち、いかなる数のアミノ酸を含んでいても
よいCARをコードすることができる。例えば、該CARは、50 以上 (例えば、60 以上、100
以上又は500以上)のアミノ酸で、但し1,000未満(例えば、900以下、800以下、700 以下又
は600以下)のアミノ酸を含む。好ましくは、該CARは、約50から約700 程度のアミノ酸(例えば、約70、約80、約90、約150、約200、約300、約400、約550又は約 650のアミノ酸)、約100から約500のアミノ酸 (例えば、約125、約175、約225、約250、約275、約325、約350、約375、約425、約450又は約475のアミノ酸)又は上記数値のいずれか2つにより規定さ
れる範囲である。
【0025】
本願中で記載されるCARの機能的部分をコードする核酸配列も本発明の範囲に含まれる
。“機能的部分”なる用語は、CARに関連して用いられる場合は、本発明のCARの部分又はフラグメントいずれであっても、それが、一部をなしているCAR(親CAR)の生物活性を保持している部分やフラグメントいずれも指す。機能的部分は、例えば、親CARと類似する
程度、同程度若しくはより高い程度で、標的細胞を認識し、疾患を検出、治療又は予防する能力を保持するCARの部分等を包含する。親CARをコードする核酸配列に関連して、CAR
の機能的部分をコードする核酸配列は、例えば、親CARの約10%、25%、30%、50%、68%、80%、90%、95%又はそれ以上を含むタンパク質をコードすることができる。
【0026】
本発明の核酸配列は、アミノ末端若しくはカルボキシ末端又は両末端に、親CARのアミ
ノ酸配列には見いだされないアミノ酸が追加されたCARの機能的部分をコードすることも
できる。該追加のアミノ酸は、機能的部分の生物学的機能、例えば、標的細胞を認識する、癌を検出する、癌を治療又は予防する等の機能を干渉しないのが望ましい。該追加アミノ酸は、親CARの生物活性に対比して、CARの生物活性を高めるものがより好ましい。
【0027】
本発明は、また上述のCARの機能的変異体をコードする核酸配列も提供する。本願にお
いて、“機能的変異体”なる用語が用いられる場合、本発明の核酸配列がコードするCAR
と実質的な乃至は重要な配列の同一性又は類似性を有するCAR、ポリペプチド又はタンパ
ク質であり、もとのCARの生物活性を保持する機能的変異体を意味する。機能的変異体は
、例えば、本願で記載するCAR(親CAR)の変異体で、親CARと類似する程度、同一程度又
はより高い程度に、標的細胞を認識する能力を保持するものを包含する。親CARをコード
する核酸配列に関して、CARの機能的変異体をコードする核酸配列は、例えば、親CARをコードする核酸配列と約10%の同一性、約25%の同一性、約30%の同一性、約50%の同一性、約65%の同一性、約80%の同一性、約90%の同一性、約95%の同一性又は約99%の同一性を有す
るものであってよい。
【0028】
機能的変異体は、例えば、本発明の核酸配列をコードするCARのアミノ酸配列であって
、少なくとも一つの保存的アミノ酸置換を含むものを含む。“保存的アミノ酸置換”、“保存的変異”とは、一つのアミノ酸が、共通の特性を有する別のアミノ酸と置き換わることを意味する。個々のアミノ酸間の共通の特性を定義する一つの機能的な方法は、同族生物の対応するタンパク質間のアミノ酸交換が正常化される頻度を分析することである(Schulz, G. E. とSchirmer, R. H., Principles of Protein Structure, Springer-Verlag,New York(1979))。このような分析によれば、同一群内のアミノ酸同士は、優勢的に相互交換し、それ故タンパク質の全体構造に与える影響がお互いに最も類似しているアミノ酸の群を規定することができる(前出Schulz, G. E. 及びSchirmer, R. H.)。保存的変異の
例としては、例えば、陽荷電が維持されるようなリジンのアルギニンとの置換又はその逆など;フリーのOHが維持されるようなセリンのトレオニンとの置換及びフリーのNH2が維
持されるグルタミンのアスパラギンとの置換等のような上記の亜群内のアミノ酸のアミノ酸置換が挙げられる。
【0029】
その代わり又はそれに加え、機能的変異体は、少なくとも一つの非保存的アミノ酸置換を伴う親CARのアミノ酸配列を含んでいてもよい。“非保存的変異”は、例えば、リジン
のトリプトファンとの置換やフェニールアラニンのセリンとの置換等のような異なる群間のアミノ酸置換を含む。この場合、非保存的アミノ酸置換は、該機能的変異体の生物活性
を干渉しないこと又は阻害しないことが好ましい。非保存的アミノ酸置換は、機能的変異体の生物活性を高め、その結果機能的変異体の生物活性が、親CARに対比して増加しても
よい。
【0030】
本発明の核酸配列は、1以上の天然のアミノ酸の代わりに合成アミノ酸を含有しているCAR(それらの機能的部分及び機能的変異体を含む)をコードすることができる。このような合成アミノ酸は、技術分野でよく知られており、例えば、アミノシクロヘキサンカルボン酸、ノルロイシン、α-アミノ n-デカン酸、ホモセリン、S-アセチルアミノメチル-シ
ステイン、トランス-3及びトランス-4ヒドロキシプロリン、4-アミノフェニールアラニン、4-ニトロフェニールアラニン、4-クロロフェニールアラニン、4-カルボキシフェニールアラニン、β-フェニールセリン、β-ヒドロキシフェニールアラニン、フェニールグリシン、α-ナフチルアラニン、シクロヘキシルアラニン、シクロヘキシルグリシン、インド
リン-2-カルボン酸、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-3-カルボン酸、アミノマロン酸、アミノマロン酸モノアミド、N'-ベンジル-N'-メチル-リジン、N',N'-ジベンジル‐リジン、6-ヒドロキシリジン、オルニチン、α-アミノシクロペンタンカルボン酸、α-アミノシクロヘキサンカルボン酸、α-アミノシクロヘプタンカルボン酸、α-(2-アミノ-2-ノルボルナン)-カルボン酸、α,γ-ジアミノブチリル酸、α,β-ジアミノプロピオン酸、ホモフェニールアラニン及びα-tert-ブチルグリシン等が挙げられる。
【0031】
本発明の核酸配列は、グリコシル化された、アミド化された、カルボキシル化された、リン酸化された、エステル化された、N‐アシル化された、例えば、ジスルフイド架橋等
により環状化された又は酸付加塩に変換された及び/又は任意にダイマー化された若しくは重合化された或いはコンジュゲートされたCAR(それらの機能的部分及び機能的変異体
を含む)をコードすることができる。
【0032】
好ましい実施態様において、本発明の核酸配列は、SEQ ID NO: 4, SEQ ID NO: 5, SEQ ID NO: 6, SEQ ID NO: 8, SEQ ID NO: 9, SEQ ID NO: 10, SEQ ID NO: 11又はSEQ ID NO:
12のアミノ酸配列を含む又はそれらから成るCARをコードする。
【0033】
本発明の核酸配列は、技術分野で知られた方法を用いて作製することができる。例えば、核酸配列、ポリペプチド及びタンパク質は、標準的な組み換えDNA方法(例えば、 Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY 2001; 及びAusubelら, Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates 及び John Wiley & Sons, NY, 1994参照)を用いて、組み換えにより製造することができる。更に、合成的に生成されたCARをコードする核
酸配列を、植物、細菌、昆虫、哺乳類(例えば、ラット、ヒト等)のようなソースから単離及び/又は精製することができる。単離及び精製法は技術分野でよく知られている。その代わりに、本願で記載された核酸配列は、商業的に合成することもできる。この点で、本発明の核酸配列は、合成によるものであっても、組み換えによるものであっても単離及び精製によるものであってもよい。
【0034】
本発明は、本発明のCARをコードする核酸配列を含むベクターも提供する。ベクターは
、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルスベクター(例えば、レトロウイルス又はアデノウイルス)又はファージであってもよい。適当なベクター及びベクター調製方法は、本技術分野でよく知られている (例えば、前出 Sambrookら, 前出, 及び 前出Ausubelら参
照)。
【0035】
CARをコードする本発明の核酸配列に加え、ベクターは、好ましくは、宿主細胞中で核
酸配列の発現を規定する、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写ターミネーター、配列内リボソーム進入部位 (IRES)等のような発現制御配列を含む。発
現制御配列の例は、技術分野で知られており、例えば、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology, Vol. 185, Academic Press, San Diego, Calif. (1990)に記載されている。
【0036】
技術分野では、多種のソース由来の、構成型、誘導性、抑制性プロモーターを含め、多数のプロモーターがよく知られている。プロモーターの代表的なソースとしては、例えば、ウイルス、哺乳類、昆虫、植物、酵母及び細菌が挙げられ、これらのソース由来の好適なプロモーターが容易に入手可能であり、或いは、例えば、ATCCのような寄託機関並びに他の商業的又は個人的ソースから公的に入手できる配列に基づき、合成的に作製することもできる。プロモーターは、一方向性(すなわち、一方向への転写を開始するもの)であっても或いは二方向性(すなわち、3'又は5'のいずれかの方向に転写を開始するもの)で
あってもよい。プロモーターの例としては、例えば、T7 細菌発現システム、pBAD (araA)細菌発現システム、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SV40 プロモーター及びRSV プロモーター等が挙げられるが、これらの例示に限定されるものではない。誘導性プロモーターとしては、例えば、Tet システム(米国特許5,464,758 及び 5,814,618)、エクジソン(Ecdysone)誘導性システム(Noら, Proc. Natl. Acad. Sci., 93: 3346-3351 (1996)、T-REXTM システム(Invitrogen, Carlsbad, CA)、 LACSWITCHTM システム(Stratagene, San Diego, CA)及びCre-ERTタモキシフェン(tamoxifen)誘導性 リコンビナーゼ シ
ステム(Indraら、 Nuc. Acid. Res., 27: 4324-4327 (1999); Nuc. Acid. Res., 28: e99
(2000); 米国特許7,112,715;及びKramer & Fussenegger, Methods Mol. Biol., 308: 123-144 (2005))等が挙げられる。.
【0037】
本願において、“エンハンサー”なる用語は、例えば、動作可能に結合された核酸配列の転写を高めるDNA配列を示す。エンハンサーは、核酸配列のコドン領域から、多くのキ
ロベース隔てた位置に存在していてもよく、調節因子の結合、DNAメチル化の型又はDNA構造の変化を介在することができる。多種のソースからの多数のエンハンサーが技術分野ではよく知られており、クローン化ポリヌクレオチドとして又はその中に含む形で(例えば、ATCCのような寄託機関並びに他の商業的又は個人的ソースから)入手可能である。(慣用されるCMVプロモーター等のような)プロモーターを含むポリヌクレオチドの多数は、
またエンハンサー配列を含んでいる。エンハンサーは、コドン配列の上流に存在していてもよく、中に存在していてもよく、また下流に存在していてもよい。“Igエンハンサー”なる用語は、イムノグロブリン(Ig)遺伝子座内に位置するエンハンサー領域から誘導されたエンハンサー要素を指す(このようなエンハンサーとしては、例えば、重鎖(mu)5'エ
ンハンサー、軽鎖(カッパ) 5'エンハンサー、カッパ及びmu イントロン エンハンサー及
び3'エンハンサー等が挙げられる(一般的に、Paul W.E. (ed), Fundamental Immunology, 3rd Edition, Raven Press, New York (1993), 353-363ページ及び英国特許5,885,827
を参照))。
【0038】
ベクターは、また“選択マーカー遺伝子”を含んでいてもよい。“選択マーカー遺伝子”なる用語は、本願において、対応する選択的エージェントの存在下、核酸配列を発現する細胞が、特異的にそれに向かうように選択されるか又はそれに向かわないように選択されるのを可能にする核酸配列を指す。適切な選択マーカー遺伝子は、技術分野で周知であり、例えば、国際特許出願公開公報WO1992/08796 及び 同 1994/28143; Wiglerら, Proc.
Natl. Acad. Sci. USA, 77: 3567 (1980); O'Hareら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78: 1527 (1981); Mulligan & Berg, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 78: 2072 (1981); Colberre-Garapinら, J. Mol. Biol., 150: 1 (1981); Santerreら, Gene, 30: 147 (1984);Kent ら, Science, 237: 901-903 (1987); Wiglerら, Cell, 11: 223 (1977); Szybalska
& Szybalski, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 48: 2026 (1962); Lowyら, Cell, 22: 817
(1980);及び米国特許5,122,464及び5,770,359に記載されている。
【0039】
実施態様の幾つかでは、ベクターは、宿主細胞において複製することができ、さらに適切な選択的圧力の存在下、宿主細胞中の染色体外DNAのセグメントとして存在し続ける“
エピソーム発現ベクター”又は“エピソーム”である(例えば、Coneseら, Gene Therapy,11: 1735-1742 (2004)参照)。代表的な商業的に入手可能なエピソーム発現ベクターとし
ては、エプスタインバール核抗原(Epstein Barr Nuclear Antigen 1 )(EBNA1) 及びエ
プスタインバールウイルス( Epstein Barr Virus) (EBV) オリジン複製(oriP)を利用するエピソームプラスミドが挙げられるが、これらに限定されるものではない。インビトロジェン(Invitrogen)(Carlsbad, CA)のベクターpREP4, pCEP4, pREP7及びpcDNA3.1及び
ストラタジーン(Stratagene)(La Jolla, CA)のpBK-CMVが、EBNA1及びoriP の代わりにT抗原及びSV40由来複製を使用する代表的なエピソームベクターの例として挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
他の好適なベクターとして、宿主細胞のDNAにランダムに統合するか又は発現ベクター
と宿主細胞の染色体との間の特異的な組み換えを可能にする組み換えサイトを含む統合(インテグレート)発現ベクターが挙げられる。このような統合発現ベクターは、宿主細胞染色体の内在の発現制御配列を利用して、所望のタンパク質の発現を実効ならしめることができる。サイト特異的な態様で統合するベクターの例としては、例えば、インビトロジェン(Invitrogen)(Carlsbad, CA)のflp-inシステム(例、pcDNATM5/FRT)又はストラタジーン(Stratagene) (La Jolla, CA)の pExchange-6 コアベクター(Core Vectors)に見出されるようなcre-loxシステムの成分を挙げることができる。宿主細胞染色体にランダ
ムに統合するベクターの例としては、例えば、インビトロジェン(Invitrogen) (Carlsbad, CA)のpcDNA3.1 (T抗原が存在しない際に導入される時)及びプロメガ(Promega)(Madison, WI)のpCI 又はpFN10A (ACT) FLEXITM が挙げられる。
【0041】
ウイルスベクターも使用することができる。代表的なウイルスベクターとして、アデノウイルスベースのベクター(例、Crucell, Inc. (Leiden, オランダ)から入手可能なアデノウイルスベースのPer.C6 システム)、レンチウイルスベースのベクター(例、Life Technologies (Carlsbad, CA)のレンチウイルスベースpLP1))及びレトロウイルスベクター(
例、Stratagene (La Jolla, CA)のpFB-ERV plus pCFB-EGSH)が挙げられるが、これらに
限定されない。好ましい実施態様としては、ウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。
【0042】
本発明のCARをコードする核酸配列を含むベクターは、コードするCARを発現することができる宿主細胞(適当な原核細胞又は真核細胞を含む)に導入することができる。好ましい宿主細胞は、容易にかつ確実に生育することができ、適度に早い生育速度を有し、特徴が良く分かっている発現システムを持ちかつ容易にかつ効率的に形質転換されるか乃至は形質移入される細胞である。
【0043】
本願において、“宿主細胞”なる用語は、いずれの型であれ、発現ベクターを含むことができる細胞を指す。宿主細胞は、例えば、植物、動物、真菌類又は藻類等の真核細胞であっても、また例えば、細菌や原性動物等の原核細胞であってもよい。宿主細胞は、培養細胞であっても、プライマリー(一次)細胞、すなわち、例えば、ヒト等の生物から単離されて直ぐの細胞であってもよい。宿主細胞は、粘着細胞であっても、懸濁された細胞、すなわち懸濁液中で生育する細胞であってもよい。好適な宿主細胞は、技術分野で周知であり、例えば、DH5α大腸菌細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、サルVERO細胞、COS細胞、HEK293細胞等が挙げられる。組み換え発現ベクターを増幅又は複製するために、宿主細胞は、例えば、DH5(細胞等の原核細胞であってもよい。組み換えCARを作製するため
に、宿主細胞は、哺乳類の細胞であってもよい。宿主細胞は、好ましくは、ヒト細胞である。宿主細胞は、いかなる型のものであってもよく、いかなる型の組織由来のものであってもよく、いかなる発育段階のものであってもよい。一つの実施態様においては、宿主細
胞は、末梢血リンパ球(PBL)、末梢血単核球(PBMC)又はナチュラルキラー(NK)であ
り得る。宿主細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞であるのが好ましい。宿主細胞は、T
細胞であるのがより好ましい。適切な哺乳類宿主細胞を選択する方法並びに細胞の形質転換、培養、増幅、スクリーニング及び精製の方法は技術分野で周知である。
【0044】
本発明は、本願中に記載されるCARをコードする本発明の核酸配列を発現する宿主細胞
を提供する。一つの実施態様では、宿主細胞は、T細胞である。本発明のT細胞は、培養T細胞、例えば、プライマリーT細胞若しくは培養Tセルラインから得られるT細胞又は
哺乳類から得られるT細胞等、いずれのT細胞であってもよい。T細胞を哺乳類から得るなら、該T細胞は、骨髄、リンパ節、胸腺或いは他の組織若しくは体液を含む(但し、これらに限定されるものではない)多種のソースから得ることができる。T細胞は、濃縮してもよく又は精製してもよい。T細胞は、好ましくはヒトT細胞(例、ヒトから単離されたもの等)である。該T細胞は、CD4+/CD8+ダブルポジティブT細胞、CD4+ヘルパーT細胞(例、Th1及びTh2細胞)、CD8+ T細胞(例、細胞毒性(傷害性)T細胞)、腫瘍浸潤細胞、
メモリーT細胞、ナイーブT細胞等を含め(但し、これらに限定されるものではない)、いかなる生育段階のものであってもよい。一つの実施態様では、T細胞は、CD8+T細胞又
はCD4+ T細胞である。Tセルラインは、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレ
クション(American Type Culture Collection )(ATCC, Manassas, VA) 及びドイツ・微生物及び細胞培養・コレクション(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures) (DSMZ) から入手可能であり、例えば、Jurkat細胞(ATCC TIB-152)、Sup-T1細胞(ATCCCRL-1942)、RPMI 8402細胞(DSMZ ACC-290)、Karpas 45細胞(DSMZ ACC-545)及びこれらの
誘導体が含まれる。
【0045】
別の実施態様では、宿主細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞である。NK細胞は、自然免疫系で、重要な役割を果たす細胞毒性(傷害性)リンパ球である。NK細胞は、大顆粒状リンパ球として定義づけられ、Bリンパ球及びTリンパ球を生みだす通常のリンパ球前駆細胞から分化した第三番目の種類の細胞を構成する(例えば、Immunobiology, 5th ed., Janewayら, eds., Garland Publishing, New York, NY (2001)参照)。NK細胞は、骨髄、リンパ節、脾臓、扁桃腺及び胸腺で、分化し、成熟する。NK細胞は、成熟後、特徴的細胞毒性顆粒を有する大リンパ球として循環に入る。NK細胞は、例えば、腫瘍細胞やウイルス感染細胞等のような異常な細胞を認識し、殺すことができ、細胞内病原に対する自然免疫防御において重要であると考えられている。T細胞に関連して上述したように、NK細胞は、培養NK細胞、例えば、プライマリーNK細胞若しくは培養NKセルラインからのNK細胞又は哺乳類
から得たNK細胞等いずれのNK細胞でもよい。NK細胞を哺乳類から得るなら、該NK細胞は、血液、骨髄、リンパ節、胸腺或いは他の組織若しくは体液を含む(但し、これらに限定されるものではない)多数のソースから得ることができる。NK細胞は、濃縮してもよく又は精製してもよい。NK細胞は、好ましくはヒトNK細胞(例、ヒトから単離されたもの等)である。NKセルラインは、例えば、American Type Culture Collection (アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション)(ATCC, Manassas, VA)から入手可能であり、例えば、NK-92細胞 (ATCC CRL-2407)、NK92MI 細胞(ATCC CRL-2408及びそれらの誘導体)が挙げられ
る。
【0046】
本発明のCARをコードする核酸配列は、“形質移入”、“形質転換”又は“形質導入”
により、細胞に導入することができる。本願で使用される“形質移入”、“形質転換”又は“形質導入”は、一つ以上の外来のポリヌクレオチドを、物理的方法又は化学的方法によい、宿主細胞に導入することを意味する。多くの形質移入技術が、技術分野で知られており、例えば、リン酸カルシウムDNA 共沈(例えば、Murray E.J. (ed.), Methods in Molecular Biology, Vol. 7, Gene Transfer 及び Expression Protocols, Humana Press (1991) 参照); DEAE-デキストラン; エレクトロポレーション; 陽イオン性リポソーム介在
形質移入; タングステン粒子促進微粒子爆撃 (Johnston, Nature, 346: 776-777 (1990)
) 及びリン酸ストロンチウムDNA共沈 (Brash, Mol. Cell Biol., 7:2031-2034 (1987))
等が挙げられる。その多くが市場で入手可能な適当なパッケイジング細胞中で、感染粒子を生育させた後、ファージ又はウイルスを宿主細胞に導入することができる。
【0047】
特定の理論や機構にとらわれることなく、本発明の核酸配列をコードするCARsは、BCMAに対する抗原特異的応答を引き出すことにより、下記するもののうちいずれかを1つ以上を引き起こすと信じられている:BCMA発現癌細胞を標的指向して破壊する、癌細胞を減縮又は排除する、免疫細胞の腫瘍部位への侵入促進及び抗癌応答の向上/拡張。このように
、本発明は、上記した単離T細胞又はナチュラルキラー細胞の1以上を、BCMAを発現している多発性骨髄腫細胞の集団と接触させ、これによりCARが産生し、多発性骨髄腫上のBCMA
に結合して、多発性骨髄腫を破壊することを含む多発性骨髄腫細胞の破壊方法を提供する。上述したように、多発性骨髄腫は、また形質細胞骨髄腫或いはカーラー病(Kahler's disease)としても知られており、通常抗体産生の役割を担っている白血球の一種である形質細胞の癌である(Raabら, Lancet, 374: 324-329 (2009))。1年あたり、100,000人あた
り1-4人が多発性骨髄腫に罹る。この疾患には、男性がより多く罹り、理由は未だ不明で
あるが、白人系アメリカ人の2倍アフリカ系アメリカ人がよく罹る。多発性骨髄腫は、悪
性血液癌としては最も頻度が低い癌(14%)であり、すべての癌の1%を占める(Raabら,前出)。多発性骨髄腫の治療は、典型的な場合としては、高用量の化学療法を行い、その
後(同種異系の又は自己の)造血幹細胞移植を行うが、このような治療を受けた多発性骨髄腫患者において、かなり高い割合で、再燃するのが普通である。上述したように、BCMAは、多発性骨髄腫細胞によりかなりの程度発現を引き起こされる(例えば、Novakら, 前出; Neriら, 前出; Bellucciら, 前出; 及び Moreauxら, 前出を参照)。
【0048】
本明細書で記載される本発明の抗BCMA CARをコードする核酸配列を発現する単離されたT細胞の1以上は、ex vivo(エクスビボ)、in vivo(インビボ)又はin vitro(インビ
トロ)でBCMAを発現する多発性骨髄腫細胞集団と接触させることができる。“Ex vivo”
とは、自然条件の最小限の変更に留めた人工的な生物外の環境で、細胞内又は細胞上で行われる方法を示す。これとは対照的に、“in vivo”は、通常のインタクトな状態の生物
内で行われる方法を示し、一方、“in vitro”法は、通常の生物学的環境から遊離された生物の成分を用いて行われる方法を言う。本発明方法は、好ましくは、ex vivo 及びin vivoの成分を含む。これに関し、例えば、上記の単離したT細胞は、本発明の抗BCMA CARをコードする核酸配列を発現する条件下で、ex vivoで培養することができ、その後そのま
ま直接、多発性骨髄腫を罹った哺乳類(好ましくはヒト)に移植することができる。このような細胞移植方法は、技術分野では、“養子細胞移植(ACT)”と称され、本移植によ
り、免疫が誘発された細胞が新しいレシピエント宿主に受動的に移植され、ドナーの免疫が誘発された細胞の機能が新たな宿主に移入される。骨髄腫のような血液癌を含め、様々なタイプの癌の治療のための養子細胞移植方法が技術分野で知られており、例えば、Gattinoniら, Nat. Rev. Immunol., 6(5): 383-393 (2006); June, CH, J. Clin. Invest., 117(6): 1466-76 (2007); Rapoportら, Blood, 117(3): 788-797 (2011)及びBarberら, Gene Therapy, 18: 509-516 (2011)に開示されている。
【0049】
本発明はまたホジキンリンパ腫細胞を破壊する方法を提供する。ホジキンリンパ腫(以前は、ホジキン病として知られていた)は、リードスターンバーグ(Reed-Sternberg)細胞と呼ばれる多核細胞型の存在により判明する免疫系の癌である。ホジキンリンパ腫の2つの主要な型としては、古典的なホジキンリンパ腫と結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫が挙げられる。ホジキンリンパ腫は、現在、患者の年齢と性及び進行段階、大きさ並びに疾患の組織学的サブタイプによって治療法を選択しながら、放射線治療、化学療法、造血幹細胞移植により治療が行われている。BCMA発現は、ホジキンリンパ腫細胞の表面上に検出される(例えば、Chiuら, Blood, 109(2): 729-739 (2007)参照)。
【0050】
T細胞又はNK細胞が、哺乳類に投与される時、細胞は同種異系由来であっても又自己由
来であってよい。“自己由来”投与方法では、細胞(例えば、造血幹細胞又はリンパ球)を、哺乳類から取り出し、保存し(必要により改変し)、該同一哺乳類に戻す。“同種異系由来”投与方法では、哺乳類は、遺伝的に類似しているが同一ではないドナーから細胞(例えば、造血幹細胞又はリンパ球)を受ける。細胞は、当該哺乳類の自己由来細胞であるのが好ましい。
【0051】
T細胞又はNK細胞は、例えば、医薬組成物のような組成物の形態でヒトに投与するの
が望ましい。代わりに、本発明のCARをコードする核酸配列又はCARをコードする核酸配列を含むベクターを、医薬組成物のような組成物に製剤化した上、ヒトに投与することができる。本発明の医薬組成物は、本発明のCARを発現するT細胞やNK細胞の集団を含むことができる。医薬組成物は、本発明の核酸配列又は本発明のCARを発現する宿主細胞に加え、
例えば、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、メトトレキセート、パクリタキセル、リツキシマブ、ビンブラスチン、ビンクリスチン等のような化学療法剤等、他の医薬活性剤や医薬を含有していてもよい。好ましい実施態様では、該医薬組成物は、本発明のCARを発現する単離したT細胞又はNK細胞、より好ましくは、本発明のCARを発現するT細胞又はNK細胞の集団を含む。
【0052】
本発明のT細胞又はNK細胞は、例えば、医薬的に許容可能な塩のような、塩の形態で提供
することができる。好適な医薬的に許容可能な酸付加塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、メタリン酸、硝酸及び硫酸のような無機酸及び酒石酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマール酸、安息香酸、グリコール酸、グルコン酸、コハク酸、p-ト
ルエンスルホン酸のようなアリールスルホン酸等のような有機酸から誘導される塩が挙げられる。
【0053】
担体を選択するに際しては、一つには本発明の特定の核酸配列、ベクター、CARを発現
する宿主細胞によって決定されるとともに本発明の核酸配列、ベクター、CARを発現する
宿主細胞を投与するのに用いられる特定方法によっても決定される。従って、本発明の医薬組成物の好適な組成は、多種存在する。例えば、医薬組成物は、保存剤を含有することができる。好適な保存剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム塩、ベンズアルコニウムクロライド等が挙げられる。2種以上の保存剤を随意により用いてもよい。保存剤又はその混合物は、典型的な場合としては、組成物全体に対し約0.0001重量%から約2重量%含んでいる。
【0054】
更に、緩衝剤を組成物に用いてもよい。好適な緩衝剤としては、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸、リン酸カリウム及び他の各種酸並びに塩が挙げられる。2種以上の緩衝剤を随意用いてもよい。緩衝剤又はそれらの混合物は、典型的な場合としては、組成物全体に対し約0.001重量%から約4重量%含んでいる。
【0055】
投与可能な(例えば、非経口投与可能な)組成物の調製法は、当業者にはよく知られており、更に、例えば、Remington: The Science 及び Practice of Pharmacy, LippincottWilliams & Wilkins; 21st ed. (5月1日, 2005)等に詳細に記載されている。
【0056】
本発明のCARをコードする核酸配列又はCARを発現する宿主細胞を含有する組成物は、例えば、シクロデキストリン包接体のような包接体として、又はリポソームとして形成することができる。リポソームは、宿主細胞(例えば、T細胞又はNK細胞)又は本発明の核酸
配列を特定の組織を標的指向させるのに役立つ。リポソームは、また本発明核酸配列の半減期を延ばすのに利用することもできる。リポソームの製造には、例えば、Szokaら, Ann. Rev. Biophys. Bioeng., 9: 467 (1980)並びに米国特許4,235,871, 4,501,728, 4,837,
028及び5,019,369等に記載の方法をはじめ、多くの方法が利用できる。
【0057】
本発明の組成物が、治療場所を感知するに先立って或いは感知するのに十分な時間持って、到達できるように、組成物は、持効放出性、遅放性及び徐放性の薬剤放出システムを採用することができる。多種の形態の放出到達システムが利用可能であり、当業者にはよく知られている。このようなシステムは、組成物を繰り返し投与することを回避でき、それによって患者と医師にとっての便宜性が高まるので、本発明の組成物実施態様の一部には、特に好適である。
【0058】
組成物は、本発明のCARをコードする核酸配列を発現する宿主細胞又は本発明の核酸配
列を含むベクターを、多発性骨髄腫又はホジキンリンパ腫を治療又は予防するのに有効な量含んでいることが望ましい。本願において、“治療”、“治療すること”等の用語は、所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得ることを意味する。効果は、治療的であること、すなわち、疾患及び/又は疾患に起因する好ましくない症状を一部又は完全に治療する効果であることが好ましい。この目的のために、本発明方法は、“治療的に有効な量”の、本発明のCARをコードする核酸配列を発現する宿主細胞又は本発明の核酸配列を含む
ベクターを含んでいる組成物を投与することを含む。“治療的に有効な量“とは、所望の治療結果を達成するのに必要な用量で、必要な期間の有効な量を意味する。治療的に有効な量は、患者個人の疾患の状態、年齢、性及び体重並びに当該患者における所望の応答性を引き出すCARの能力如何により変わり得る。例えば、本発明の治療的に有効な量は、多
発性骨髄腫細胞上のBCMAに結合し、該細胞を破壊する量である。
【0059】
或いは、薬理学的及び/又は生理学的効果は、予防的、すなわち疾患又は症状を完全に又は一部予防する、効果である。この点で、本発明方法は、本発明のCARをコードする核
酸配列を発現する宿主細胞又は本発明の核酸配列を含むベクターを含む組成物を、“予防的に有効な量”、多発性骨髄腫又はホジキンリンパ腫に罹る素因を持つ哺乳類に投与することを含む。“予防的に有効な量”とは、所望の予防的結果(例えば、疾患発症の予防等)を達成するのに必要な用量で、必要な期間の有効な量を意味する。
【0060】
哺乳類(例えば、ヒト)に投与される宿主細胞の典型的な量は、例えば、約100万から
約1000億の範囲の細胞であるが、この例示的な範囲未満或いは範囲を超える量も本発明の範囲に属する。例えば、本発明の宿主細胞の一日当たりの用量は、約100万から約500億の細胞(例えば、約500万細胞、約2500万細胞、約5億細胞、約10億細胞、約50億細胞、約200億細胞、約300億細胞、約400億細胞又は前記数値のうちのいずれか2つの数値によって規
定される範囲)、好ましくは、約1000万から約1000億の細胞 (例えば、約2000万細胞、約3000万細胞、約4000万細胞、約6000万細胞、約7000万細胞、約8000万細胞、約9000万細胞
、約100億細胞、約250億細胞、約500億細胞、約750億細胞、約900億細胞、又は前記数値
のうちのいずれか2つの数値によって規定される範囲)、より好ましくは、約1億細胞から
約500億細胞(例えば、約1.2億細胞、約2.5億細胞、約3.5億細胞、約4.5億細胞、約6.5億
細胞、約8億細胞、約9億細胞、約30億細胞、約300億細胞、約450億細胞、又は前記数値のうちのいずれか2つの数値によって規定される範囲)である。
【0061】
治療的又は予防的有効性は、治療を施す患者を周期的に評価することによりモニターすることができる。状態如何により、数日乃至それ以上の期間に亘って繰り返し投与するが、この場合疾患症状が所望する程度に抑制されるまで、治療が繰り返される。しかしながら、他の投与療法も有用であるかもしれず、それらも本発明の範囲に属する。望ましい投与のしかたとして、組成物を単一の大量瞬時投与で投与してもよくまた組成物を継続的な点滴投与で投与してもよい。
【0062】
本発明のCARをコードする核酸配列を発現する宿主細胞又は本発明のCARをコードする核酸
配列を含むベクターを含む組成物は、経口的、静脈内、腹腔内、皮下的、経肺的、経皮的、筋肉内的、経鼻的、バッカル錠、舌下錠又は座薬投与を含む標準的な投与技術を用いて、哺乳類に投与することができる。好ましくは、組成物は、非経口的投与に適している。“非経口的”なる用語は、本願において、静脈内、筋肉内、皮下、直腸、経膣及び腹腔内投与を含む。組成物は、静脈内、腹腔内又は皮下注射による末梢的全身性送達を用いて哺乳類に投与するのがより好ましい。
【0063】
本発明のCARをコードする核酸配列を発現する宿主細胞又はは本発明のCARをコードする核酸配列を含むベクターを含む組成物は、哺乳類に併用投与できる一以上の追加的治療剤とともに投与してもよい。“併用投与”とは、本発明の宿主細胞又は本発明のベクターを含む組成物に加えて、一以上の追加的治療剤を、1以上の追加的治療剤の効果を高めるこ
とができるような或いは本発明の組成物の効果を高めることができるような、十分に近い時間内で、投与することを意味する。これに関して、本発明の宿主細胞又は本発明のベクターを含む組成物を最初に投与し、一以上の追加的治療剤を二番目に投与することができ、その逆に入れ替えた投与も可能である。代わりに、本発明の宿主細胞又は本発明のベクターを含む組成物を、一以上の追加的治療剤と同時に投与することもできる。本発明の宿主細胞又は本発明のベクターを含む組成物と併用することができる治療剤の一例はIL-2である。
【0064】
本発明のCARをコードする核酸配列を発現する宿主細胞又は本発明のCARをコードする核酸配列を含むベクターを含む組成物はいったん哺乳類(例えば、ヒト)に投与すると、CARの生物学的活性は、技術分野で知られているいずれか適当な方法で測定することができ
る。本発明の方法によれば、CARは、多発性骨髄腫細胞上のBCMAに結合し、該多発性骨髄
腫細胞は破壊される。CARの多発性骨髄腫細胞表面上のBCMAとの結合は、例えば、ELIZAや流動細胞分析等のような技術分野で周知の適当な方法を用いて分析することができる。CARの多発性骨髄腫細胞を破壊する能力は、例えば、Kochenderferら, J. Immunotherapy, 32(7): 689-702 (2009)及びHermanら, J. Immunological Methods, 285(1): 25-40 (2004)に記載の細胞毒性分析といった当分野で周知の適当な方法いずれかを用いて測定することができる。CARの生物学的活性は、またCD107a、IFNγ、IL-2及びTNFといったサイトカイ
ン類の発現を分析することにより測定することもできる。
【0065】
当業者は、本発明のCARをコードする核酸配列は、CARの治療的又は予防的有効性が、改変により、より高められるように種々多数の方法により改変することができることを容易に理解するであろう。例えば、CARは、標的化部分に直接又はリンカーを介して間接的に
コンジュゲートすることができる。化合物、例えば、CARを、標的化部分にコンジュゲー
トする実施法は、当分野で知られている。例えば、Wadwaら, J. Drug Targeting 3: 111 (1995)及び米国特許5,087,616参照。
【0066】
以下の実施例により、本発明を更に具体的に示すが、言うまでもなく、いかなる意味でも、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例0067】
実施例1
本実施例はヒト細胞におけるBCMAの発現パターンを実証する。
【0068】
BCMA特異的プライマー及びプローブセット(Life Technologies, Carlsbad, CA)を用い
て、ヒト主要組織qPCRパネルII (Origine Technologies, Rockville, MD)に含まれる広範囲の正常組織からのcDNA試料のパネル上で、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を行った。進行した多発性骨髄腫の患者から切除した形質細胞腫の細胞由来のcDNAをポジティブコントロ-ルとして分析した。RNAを、RNeasy ミニキット(Qiagen, Inc., Valencia, CA)
を用いて、形質細胞腫細胞から抽出し、cDNAを標準的な方法を用いて合成した。BCMA cDNA (Origine Technologies, Rockville, MD) 全長をコードすプラスミドをキャリア DNA中で希釈することにより、BCMA qPCRの標準曲線を作製した。qPCR は、反応当たり102 から109 の BCMAコピーから正確にコピー数を検出した。同じ組織中のβ-アクチンcDNAコピー数は、タックマンβ-アクチンプライアー及びプローブキット(Taqman β-actin primer and probe kit)(Life Technologies, Carlsbad, CA)を用いて、定量化した。β-アクチ
ン標準曲線は、β-アクチンプラスミドの連続的希釈を増幅することにより作製した。qPCR反応はすべて、ロッシュライトサイクラー(Roche LightCycler)480 装置(Roche Applied Sciences, Indianapolis, IN)で実施した。
【0069】
qPCR分析結果は、
図1A 及び1Bに示す。流動細胞計測により計測したところ、形質細胞
腫試料からの細胞の93% が形質細胞であった。形質細胞腫試料中のBCMA 発現は、他の組
織における発現に比べ、著しくはるかに高かった。BCMA cDNA は、例えば、末梢血液単核細胞(PBMC)、骨髄、脾臓、リンパ節及び扁桃腺等のようないくつかの血液組織で検出された。例えば、十二指腸、直腸及び胃のようなほとんどの胃腸器官において、低いレベルのBCMA cDNA が検出された。胃腸器官におけるBCMAの発現は、粘膜固有層やパイエル氏板等の腸管関連リンパ組織に形質細胞とB細胞が存在する結果かもしれない(例えば、Brandtzaeg, Immunological Investigations, 39(4-5): 303-355 (2010)参照)。精巣と気管にも、低レベルのBCMA cDNAが検出される。気管に検出される低レベルのBCMA cDNA は、気管の
粘膜固有層に、形質細胞が存在するせいかもしれない。(例えば、Soutar, Thorax, 31(2):158-166 (1976)参照)。
【0070】
各種細胞型の細胞表面BCMA発現は、多発性骨髄腫セルラインH929、U266及び RPMI8226
を含め、流動細胞計測(
図2A-2L参照)を用いて更に特徴づけられた。多発性骨髄腫セルラ
インH929、U266及びRPMI8226 はすべて細胞表面BCMAを発現させた。これとは対照的に、
肉腫セルラインTC71, T細胞白血病ラインCCRF-CEM及び腎臓セルライン293T-17は細胞表面BCMAを発現しなかった。プライマリーCD34
+造血細胞、プライマリー 小気道上皮細胞、プライマリー気管支上皮細胞及びプライマリー腸上皮細胞はすべて細胞表面BCMA発現がなかった。
【0071】
本実施例の結果は、BCMAが、多発性骨髄腫細胞表面に発現し、正常組織では限定的な発現パターンを呈することを示している。
【0072】
実施例2
本実施例は、本発明の抗BCMAキメラ抗原受容体(CARs)をコードする核酸配列の構築を記載する。
【0073】
"C12A3.2"及び"C11D5.3"と命名された2つのマウス抗ヒトBCMA抗体を、国際特許出願公開公報WO2010/104949 (Kalledら)から得た。これらの抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域のアミノ酸配列を、下記一般構造を有する単鎖可変フラグメント(scFvs)を設計するのに
用いた:
軽鎖可変領域-リンカー-重鎖可変領域。
【0074】
リンカーは以下のアミノ酸配列を持つ:
GSTSGSGKPGSGEGSTKG (SEQ ID NO: 7) (例えば、Cooperら, Blood, 101(4): 1637-1644
(2003)参照)。
【0075】
それぞれ以下の要素を5'から3'に含む二つのキメラ抗原受容体をコードするDNA配列を
設計した:
CD8αシグナル配列、上記抗-BCMA scFv、ヒトCD8α分子のヒンジ及び膜貫通領域、 CD28
分子の細胞質部分及びCD3ζ分子の細胞質部分。
CARをコードする核酸配列の概略図を
図3Aに示す。C12A3.2 とC11D5.3からの可変領域を含むCARsは、それぞれ 抗-bcma1及び抗-bcma2と命名した。
【0076】
それぞれ異なるシグナル配列とT細胞活性化ドメインを有する、上記した抗-bcma2 CAR
に基づく5つの追加的キメラ抗原受容体をコードするDNA 配列を設計した。これに関し、8ss-抗-bcma2 CAR は、以下の要素を5'から3'に含んでいた:
CD8αシグナル配列、scFv、ヒトCD8α分子のヒンジ及び膜貫通領域、CD28分子の細胞質部分及びCD3ζ分子の細胞質部分。
G-抗-bcma2 CAR は、以下の要素を5'から3'に含んでいた:
ヒトGM-CSF 受容体シグナル配列、scFv、 ヒトCD8α分子のヒンジ及び膜貫通領域、CD28分子の細胞質部分及びCD3ζ分子の細胞質部分。
抗-bcma2-BB CAR は、5'から3'に以下の要素を含んでいた:
CD8αシグナル配列、scFv、ヒトCD8α分子のヒンジ及び膜貫通領域、4-1BB 分子の細胞質部分及びCD3ζ分子の細胞質部分。
抗-bcma2-OX40 CARは、5'から3'に以下の要素を含んでいた:
CD8αシグナル配列、scFv、ヒトCD8α分子のヒンジ及び膜貫通領域、OX40 分子の細胞
質部分(例えば、Latzaら, European Journal of Immunology, 24: 677-683 (1994)参照
)及び、CD3ζ分子の細胞質部分。
抗-bcma2-BBOX40は、5'から3'に以下の要素を含んでいた:
CD8αシグナル配列、scFv、ヒトCD8α分子のヒンジ及び膜貫通領域、4-1BB 分子の細胞質部分、OX40 分子の細胞質部分及びCD3ζ分子の細胞質部分。
7つのCAR配列のそれぞれに存在する要素を表1に示す。
【0077】
【0078】
CD8α、CD28、CD3ゼータ、4-1BB (CD137)及びOX40 (CD134)に用いる配列は、公的に入
手可能な国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information (NCBI))のデータベースから入手した。
【0079】
CARをコードする核酸配列は、例えば、Kochenderferら, J. Immunology, 32(7): 689-7
02 (2009)及びZhaoら, J. Immunology, 183(9): 5563-5574 (2009) 等に記載の当分野で
周知の方法を用いて作製された。各CARをコードする核酸配列は、適切な制限部位で、ジ
ーンアート技術(GeneArtTM technology)(Life Technologies, Carlsbad, CA) を用い
て最適化され、合成されたコドンであった。
【0080】
抗-bcma1及び抗-bcma2 CARsをコードする配列を連結し、pRRLSIN.cPPT.MSCV.coDMF5.oPREと名付けられたレンチウイルスベクタープラスミドにした(例えば、Yangら, J. Immunotherapy, 33(6): 648-658 (2010)参照)。このベクターのcoDMF5部分を、標準的な方法を
用いて、CARをコードする核酸配列と置き換えた。得られた抗-BCMA CARベクターは、pRRLSIN.cPPT.MSCV.抗-bcma1.oPRE及びpRRLSIN.cPPT.MSCV.抗-bcma2.oPREと名付けた。ハプテン2,4,6-トリニトロフェニールを認識するSP6 scFv を含むネガティブコントロールCARも構築した(例えば、Grossら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86(24): 10024-10028 (1989)参照)。このCARを、SP6と称した。SP6 CAR をクローン化し、抗-BCMA CARs と同じレンチウイルスベクターにした。これは抗-bcma1及び抗-bcma2と同じシグナリングドメインを含んでいた。各CARをコードするレンチウイルスを含む上清を、前出のYangらに記載のプロ
トコールにより製造した。具体的には、293T-17細胞 (ATCC CRL-11268)に、以下のプラスミドを形質移入した:pMDG (水疱性口内炎ウイルス エンベロープタンパク質をコードす
る), pMDLg/pRRE (HIV Gag及びPolタンパク質をコードする), pRSV-Rev (RSV Rev タンパク質をコードする)及び抗-bcma CARsをコードするプラスミド(例えば、前出Yangらを参照)。
【0081】
例えば、Hughesら, Human Gene Therapy, 16: 457-472 (2005)に記載されている方法等の標準的な方法を用いて、G-抗-bcma2, 8ss-抗-bcma2, 抗-bcma2-BB, 抗-bcma2-OX40 及
び抗-bcma2-BBOX40 CARs をコードする配列を各々連結し、MSGV (マウス幹細胞ウイルス
ベースのスプライス-ギャグベクター) と称されるガンマレトロウイルスベクタープラス
ミドとした。CARをコードするガンマレトロウイルスプラスミドを創生した後、RD114 エ
ンベロープを持つ複製能力を欠くレトロウイルスを、Kochenderferら, J. Immunotherapy, 32(7): 689-702 (2009)に記載されているような293-ベースパッケージング細胞の一過
性形質移入により作製した。
【0082】
該複製能力を欠くレンチウイルスと上記CARsをコードするレトロウイルスを用いて、ヒトT細胞に形質導入した。抗-bcma1 及び 抗-bcma2のため、T細胞を前述のように培養し(
例えば、Kochenderferら, J. Immunotherapy, 32(7): 689-702 (2009)参照)、5% ヒトAB
血清(Valley Biomedical, Winchester, VA) を含有するAIM V
TM 培地(Life Technologies, Carlsbad, CA)中で、抗-CD3モノクローナル抗体OKT3 (Ortho-Biotech, Horsham, PA)及び300国際単位(IU)/mL 量のインターロイキン-2 (Novartis Diagnostics, Emeryville, CA)により刺激を与えた。培養開始36時間後、活性化されたT細胞を、プロタミン硫酸塩と300 IU/mL IL-2含有レンチウイルス上清中に懸濁した。細胞は、1200xgで1時間遠心分離した。その後、T細胞を37℃で3時間培養した。この上清をその後RPMI 培地 (Mediatech, Inc., Manassas, VA) +10% 牛胎児血清(Life Technologies, Carlsbad, CA) 及びIL-2を用
いて1:1に希釈した。T細胞を、この希釈上清中で一晩培養し、その後、IL-2添加AIM V
TM 培地(Life Technologies, Carlsbad, CA) +5% ヒトAB 血清の培養液に戻した。T細胞は
、抗-BCMA CARsを検出するために、ビオチン標識されたポリクローナルヤギ抗-マウス-F(ab)
2 抗体 (Jackson Immunoresearch Laboratories, Inc., West Grove, PA) で染色した。
図3B-3Dに示されるように、形質導入されたT細胞上に、抗-bcma1 CAR、抗-bcma2 CAR
及びSP6 CARの高レベルの細胞表面発現が見られた。
【0083】
G-抗-bcma2, 8ss-抗-bcma2, 抗-bcma2-BB, 抗-bcma2-OX40及び抗-bcma2-BBOX40 CARsのために、末梢血液単核細胞を、mL当たり1x106 細胞の割で、50 ng/mLの抗-CD3 モノクロ
ーナル抗体OKT3 (Ortho, Bridgewater, NJ) 及び300 IU/mLのIL-2を含有するT細胞培地中
に懸濁した。ウイルスと細胞表面タンパク質を結合するヒトフィブロネクチンフラグメントの組み換えポリペプチドであるRETRONECTINTM(レトロネクチンTM)ポリペプチド (タ
カラバイオ社, 滋賀,日本)を、11μg/mL の濃度で、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)溶液中に溶解し、2mLのRETRONECTINTMポリペプチドのPBS 溶液を、非組織培養コート6ウエルプレート(BD Biosciences, Franklin Lakes, New Jersey)の各ウエルに添加した。 プレ
ートを室温(RT)で2時間インキュベートした。インキュベーション後、RETRONECTINTM 溶
液を吸出し、ハンクス平衡塩溶液(HBSS) プラス2%ウシ血清アルブミン(BSA)から成るブロッキング溶液2mLを各RETRONECTINTM-コートウェルに添加した。プレートを室温(RT)で30分間インキュベートした。ブロッキング溶液を吸出し、ウエルをHBSS+2.5% (4-(2-ヒド
ロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸) (HEPES)の溶液で洗浄した。レトロウイ
ルス上清を、すばやく液状化し、T細胞培地中で、1:1希釈し、その後2mLの希釈上清を各RETRONECTINTM-コートウエルに添加した。上清添加後、プレートを、32℃において、2000xgで、2時間遠心分離した。その後、上清をウエルから吸出し、あらかじめOKT3抗体及びIL-2とともに2日間培養しておいた2x106のT細胞を、各ウエルに添加した。T細胞をレトロウイルスコートプレートに添加する際、T細胞を、mL当たり0.5x106 細胞の濃度で、300IU/mLのIL-2を含有するT細胞培地中に懸濁した。T細胞を各ウエルに添加後、プレートを、1000xgで10分間遠心分離した。プレートを、37℃で一晩インキュベートした。 形質導入を翌日も繰り返した。18-24 時間インキュベーションした後、T細胞をプレートから取り出し
、mL当たり0.5x106 細胞の濃度で、300IU/mLのIL-2を含有する新たなT細胞培地に懸濁し
、37℃において、5% CO2で培養した。抗-bcma2-BBOX40、抗-bcma2-BB及び8ss-抗-bcma2の高レベルの細胞表面発現が、形質導入されたT細胞上で観察された。
【0084】
本実施例の結果は、本発明のCARをコードする核酸配列の作製方法及びT細胞表面上のCAR発現方法を実証するものである。
【0085】
実施例3
本実施例は、本発明CARのBCMAに対する特異性を決定するのに用いられる一連の実験を
記載する。
【0086】
細胞
NCI-H929、U266及びRPMI8226はすべて、ATCC(それぞれ、ATCC Nos. CRL-9068, TIB-196及びCCL-155)から得たBCMA+多発性骨髄腫セルラインである。A549 (ATCC No. CCL-185)
は、BCMA-陰性肺癌セルラインである。TC71は、BCMA-陰性肉腫セルラインである。CCRF-CEMは、BCMA-陰性Tセルラインである(ATCC No. CCL-119)。BCMA-K562は、BCMA全長をコー
ドする核酸配列を、形質導入したK562細胞(ATCC No. CCL-243) である。NGFR-K562は、低親和性の神経成長因子(例えば、Kochenderferら, J. Immunotherapy., 32(7):689-702 (2009)参照)をコードする遺伝子を形質導入されたK562 細胞である。多発性骨髄腫を患う3
人の患者(すなわち、骨髄腫患者1から3)からの末梢血液リンパ球(PBL) を用いたが、それらPBLは、3人の他の対象者であるドナーA、ドナーB及びドナーC由来のPBLである。ドナーAからCは皆、黒色腫を有していた。CD34+プライマリー細胞は、3人の正常で健常なドナーからのものである。形質細胞腫の試料は、骨髄腫患者1から得、骨髄試料は、骨髄腫患
者3から得た。上記のヒト試料はすべて、国立癌研究所(National Cancer Institute)におけるIRB承認臨床試験に登録した患者から得たものである。小気道上皮細胞、気管支上
皮細胞及び腸上皮細胞のプライマリーヒト上皮細胞は、Lonza, Inc. (Basel, Switzerl及び)から得た。
【0087】
インターフェロン-ガンマー及びTNF ELIZA
BCMA-陽性又はBCMA-陰性細胞を、AIM VTM 培地(Life Technologies, Carlsbad, CA)+5%ヒト血清中で、96ウエル丸底プレート(Corning Life Sciences, Lowell, MA)二揃いのウ
エルに入れたCAR形質導入T細胞と合わせた。プレートは、37℃において、18-20 時間イン
キュベートした。インキュベーション後、IFNγ及びTNFに対するELISAを、標準的な方法 (Pierce, Rockford, IL)を用いて行った。
【0088】
表2(全ての単位は、IFNγのpg/mLである)に示すように、抗-bcma1 又は 抗-bcma2 CARsを形質導入されたT 細胞は、BCMA-発現セルラインBCMA-K562とともに一晩培養すると、多量のIFNγを産生したが、ネガティブコントロールセルラインNGFR-K562とともに培養した時、CARを形質導入されたT細胞は、バックグランドレベルのIFNγを産生しただけであっ
た。
【0089】
【0090】
* エフェクター細胞は、多発性骨髄腫を患う患者(骨髄腫患者2)からのT細胞である。該T細胞は、上で示したCARを形質導入されているか又は非形質導入である。
** 示した標的細胞は、エフェクター細胞と合わせて一晩インキュベートし、IFNγELISA を行った。
【0091】
8ss-抗-bcma2、抗-bcma2-BB及び抗-bcma2-OX40 CARs を発現するT細胞は、表3(全ての単位は、IFNγのpg/mLである)に示すように、T細胞と標的細胞を一晩共培養した時、BCMA+ 標的細胞に特異的に応答して、IFNγを産生した。
【0092】
【0093】
抗-BCMA CARsを形質導入されたT細胞は、BCMA発現多発性骨髄腫セルラインと一晩共培
養すると、多量のIFNγを産生した。これとは対照的に、各種BCMA陰性セルラインと培養
した時、抗-BCMA CARs は、はるかに少ない量のIFNγを産生した。抗-bcma1 CARを形質導入されたT細胞とは対照的に、抗-bcma2 CAR及びそれらの変異体(すなわち、8ss-抗-bcma2、抗-bcma2-BB及び抗-bcma2-OX40) を形質導入されたT細胞は、BCMA陽性細胞と共に培養
すると、より多くのIFNγを産生し、BCMA陰性細胞とともに培養すると、より少量のIFNγを産生した。
【0094】
抗-bcma2 CAR 変異体を形質導入されたT細胞は、表4(単位はすべて、腫瘍壊死因子(TNF)のpg/mLである)に示されるように、T細胞と標的細胞とを一晩共培養すると、BCMA+
標的細胞に特異的に応答してTNFを産生した。
【0095】
【0096】
抗-bcma2 CAR 及びその変異体を形質導入したT細胞は、抗-bcma1 CARを形質導入したT
細胞よりも、わずかにより強くかつより特異的にBCMA発現細胞を認識したので、抗-bcma2CAR及びその変異体のみを以下の実験で用いた。
【0097】
CD107a 分析
二つのT細胞集団を、2本の別の管に調製した。一方の管は、BCMA-K562細胞を、他方の
管は、NGFR-K562細胞を入れた。更に、管両方に、抗-bcma2 CAR及び抗-bcma2 CAR変異体
を形質導入したT細胞、1 mL のAIM VTM培地(Life Technologies, Carlsbad, CA) + 5% ヒト血清、所定濃度の抗-CD107a 抗体(eBioscience, Inc., San Diego, CA; クローン eBioH4A3) 及び1μL のGolgi Stop (ゴルジストップ)(BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ)を入れた。管はすべて、37℃で4時間インキュベートし、その後CD3、CD4及びCD8の発現のため染色した。
【0098】
3人の異なる対象者からのCAR形質導入T細胞は、BCMA発現標的細胞による刺激に特異的
に応答して、CD107a発現量を増加させた(
図4A-4C参照)。このことは、パーフォリン介在
細胞毒性の必要要件であるBCMA特異的T細胞の脱顆粒が生じている事を示している (例え
ば、Rubioら, Nature Medicine, 9(11): 1377-1382 (2003)参照)。これに加え、 抗-bcma2 CAR 変異体8ss-抗-bcma2、 抗-bcma2-BB, 抗-bcma2-OX40を発現するT細胞は、
図5A-5D
に示すように、in vitroにおいて標的細胞で刺激された時、BCMA特異的な態様で、脱顆粒した。
【0099】
細胞内サイトカイン染色分析(ICCS)
BCMA-K562細胞の集団及びNGFR-K562細胞の集団を、上述のように2つの別の管に調製し
た。2つの管両方に、更に骨髄腫患者2からの抗-bcma2 CARを形質導入されたT細胞、1 mL のAIM V 培地(Life Technologies, Carlsbad, CA) + 5% ヒト血清及び1μL のGolgi Stop(BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ)を加えた。管は全て、37℃で6時間インキュベー
トした。細胞は、抗-CD3、抗-CD4及び抗-CD8 抗体で、表面染色した。細胞は、透過処理
し、IFNγ(BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ, クローン B27)、 IL-2 (BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ, クローン MQ1-17H12)及びTNF (BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ, クローン MAb11) に対し、細胞内染色をサイトフィクス/サイトパームキット(Cytofix/Cytoperm kit)(BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ)の指示に従い実施した。
【0100】
骨髄腫患者2からの抗-bcma2 CARを形質導入されたT細胞の集団の多くは、
図6A-6Cに示
されるように、BCMA発現標的細胞で6時間刺激した後、BCMA特異的にサイトカインIFNγ、IL-2及びTNFを産生した。
【0101】
増殖分析
抗-bcma2 CARを形質導入されたT細胞のBCMA発現標的細胞で刺激された時の増殖能力を
分析した。具体的には、0.5x106の照射を受けたBCMA-K562細胞又は0.5x106の照射を受け
たNGFR-K562細胞を、抗-bcma2 CAR又はSP6 CARいずれかを形質導入された全体で1x106 のT細胞と共培養した。該T細胞は、Manneringら, J. Immunological Methods, 283(1-2):173-183 (2003)に記載されているように、カルボキシフルオレセイン二酢酸 サクシンイミジルエステル (CFSE) (Life Technologies, Carlsbad, CA)で標識化した。共培養には、AIM VTM 培地(Life Technologies, Carlsbad, CA) + 5% ヒトAB 血清の培地を用いた。IL-2は、培地には添加しなかった。開始4日後、死んだ細胞を排除するためトリパン青を用いて、各共培養中の生きた細胞を数えた。続いて、ポリクローナルビオチン標識されたヤギ-抗-ヒトBCMA抗体(R&D Systems, Minneapolis, MN)で、その後ストレプタビディン(BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ)、 抗-CD38 抗体(eBioscience, Inc., San Diego, CA)
及び抗-CD56抗体(BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ)でT細胞を染色することにより流動細胞分析を行った。流動細胞計測データの分析は、フロウジョソフトウエア(FlowJo software )(Tree Star, Inc., Ashland, OR))を用いて行った。.
【0102】
抗-bcma2 CARを発現したT細胞は、
図7A に示されるように、ネガティブコントロールNGFR-K562 細胞とともに培養したときよりも、BCMA-K562 細胞とともに培養した時の方が、CFSEをより大幅に希釈した。これらの結果は、抗-bcma2 CAR を形質導入されたT細胞は、BCMA発現標的細胞で刺激された時に特異的に増殖することを示している。これとは対照的に、SP6 CAR 発現T細胞をBCMA-K562 標的細胞又はNGFR-K562 標的細胞と培養した時、CFSE希釈に有意差は無かった(
図7B参照)。これは、SP6 CAR 発現T細胞によるBCMA-特異的増
殖は無いことを示している。
【0103】
増殖分析では、最初は、抗-bcma2 CAR を発現する0.8x106T細胞を、BCMA-K562細胞又はNGFR-K562細胞いずれかと培養した。4日間の培養後、BCMA-K562細胞含有培養液中には、2.7x106の抗-bcma2 CAR発現T細胞が存在していた一方、NGFR-K562細胞含有培養液中には、0.6x106の抗-bcma2 CAR発現T細胞が存在するだけであった。この抗-bcma2 CAR発現T細胞
の絶対数のBCMA-特異的増加は、これらのT細胞がBCMAに応答して増殖したことを示している。
【0104】
本実施例の結果は、本発明のCAR発現T細胞は、BCMA特異的サイトカインの産生、脱顆粒及び増殖を発揮することを実証している。
【0105】
実施例4
本実施例では、本発明の抗-BCMA CAR発現T細胞は、多発性骨髄腫セルラインを破壊することができることを例証する。
【0106】
実施例2及び3に記載した抗-bcma2 CARを形質導入したT細胞がBCMA-発現多発性骨髄腫(MM)セルラインを破壊することができるか否かを確認することを目的に、細胞毒性分析を実施した。具体的には、標的細胞の細胞毒性は、例えば、Kochenderferら, J. Immunotherapy, 32(7): 689-702 (2009)及びHermansら, J. Immunological Methods, 285(1): 25-40 (2004)に記載の分析法を用いて、ネガティブコントロールCCRF-CEM細胞の生存率に対する、BCMA発現標的細胞(すなわち、多発性骨髄腫セルラインH929及びRPMI8226)の生存率を対比することにより、測定した。
【0107】
約50,000のBCMA発現標的細胞及び約50,000のCCRF-CEM細胞を、色々な数のCAR形質導入T細胞を入れた同一管中で合わせた。CCRF-CEM ネガティブコントロール細胞は、5-(及び-6)-(((4-クロロメチル)ベンゾイル)アミノ)テトラメチルローダミン(CMTMR) (Life Technologies, Carlsbad, CA)蛍光染料で標識化し、BCMA発現標的細胞は、CFSEで標識化した。
全ての実験において、抗-bcma2 CARを形質導入したエフェクターT細胞の細胞毒性は、SP6CARを形質導入された、同一対象者から得たネガティブコントロールのエフェクターT細胞の細胞毒性と対比した。共培養は、滅菌5mL試験管(BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ)で2回、T細胞:標的細胞比 20.0:1, 7:1, 2:1及び0.7:1で行った。培養液は、37℃で4時間インキュベートした。インキュベーション後ただちに、7-アミノ-アクチノマイシンD(7AAD; BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ)を添加した。生存しているBCMA発現標的細胞と生存しているCCRF-CEMネガティブコントロール細胞は、それぞれT細胞/標的細胞共培養液で決定した。
【0108】
各T細胞/標的細胞共培養液に対し、CCRF-CEMネガティブコントロール細胞に対するBCMA発現標的細胞の生存百分率は、CCRF-CEMネガティブコントロール細胞百分率で、BCMA発現標的細胞百分率を割って決定した。BCMA発現標的細胞の補正生存百分率は、各T細胞/標的共培養液中のBCMA発現標的細胞の生存百分率を、BCMA発現標的細胞とCCRF-CEMネガティブコントロール細胞だけを含むがエフェクターT細胞を含まない試験管中の、BCMA発現標的
細胞百分率:CCRF-CEMネガティブコントロール細胞の百分率の比で割ることにより計算した。この補正は、開始時の細胞数及び自発的な標的細胞死による変化を勘定に入れる上で必要である。細胞毒性は、以下のように計算される:
BCMA発現標的細胞の百分率細胞毒性=100-BCMA発現標的細胞の補正生存百分率。
【0109】
細胞毒性の分析結果は、
図7C及び7D に示す。抗-bcma2 CARを形質導入されたT細胞は、特異的にBCMA発現多発性骨髄腫セルラインH929及びRPMI8226を殺した。対照的に、SP6 CARを形質導入されたT細胞は、これらのセルラインに対して、はるかに低いレベルの細胞毒性しか示さなかった。
【0110】
本実施例の結果は、本発明の抗-BCMA CARをコードする核酸配列は、多発性骨髄腫セル
ライン破壊方法で用いることができることを証明している。
【0111】
実施例5
本実施例は、本発明の抗-BCMA CARを発現するT細胞が、プライマリー多発性骨髄腫細胞を破壊することができることを例証する。
【0112】
実施例2に記載のプライマリー多発性骨髄腫細胞を、BCMAの発現並びにBCMA特異的サイ
トカイン産生、脱顆粒及び増殖について、上述の方法を用いて評価した。
【0113】
細胞表面BCMA発現は、骨髄腫患者3からのプライマリー骨髄多発性骨髄腫細胞上並びに4つのプライマリー多発性骨髄腫試料上に検出された(
図8A参照)。BCMA発現形質細胞は、骨髄腫患者3からの骨髄試料の細胞の40%を占めた。
図8Bに示されるように、ドナーCから
の抗-bcma2 CARを形質導入された同種異系由来T細胞は、骨髄腫患者3からの遺伝子操作されていない骨髄細胞と共培養した後、IFNγを産生した。同じ同種異系ドナーからの抗-bcma2 CAR形質導入T細胞は、骨髄腫患者3からの末梢血液単核細胞(PBMC)とともに培養した
時、はるかに少量のIFNγを産生した。更に、ドナーCからのSP6-CAR-形質導入T細胞は、
骨髄腫患者3の骨髄を特異的に認識しなかった。正常PBMCはBCMAを発現する細胞を含まな
いことの報告が以前なされている(例えば、Ngら, J. Immunology, 173(2): 807-817 (2004)参照)。この観察を確認するために、患者3のPBMCを、BCMA発現について、流動細胞分析法により評価した。患者3のPBMCは、PBMCの約0.75%を占めたCD56+CD38
high 細胞の小集団は別にして、BCMA発現細胞を含んでいなかった。この集団は、おそらくは循環多発性骨髄
腫細胞からなるものとみなされる。
【0114】
骨髄腫患者1から切除した形質細胞腫は、93%の形質細胞から成り、
図8Cに示されるように、これらのプライマリー形質細胞は、BCMAを発現していた。骨髄腫患者2からのT細胞は、骨髄腫患者1の同種由来の遺伝子操作されていない形質細胞腫細胞と培養すると、IFNγを産生した。骨髄腫患者2からのT細胞は、骨髄腫患者1由来のPBMCと培養すると、IFNγを有意量産生しなかった。SP6 CARを形質導入された骨髄腫患者2からのT細胞は、骨髄腫患
者1からの形質細胞腫細胞又はPBMCと培養すると、IFNγを有意量産生しなかった。流動細胞計測法により測定した結果、骨髄患者1のPBMCは、BCMAを発現していなかった。
【0115】
8サイクルの先行骨髄腫治療を受けた骨髄腫患者1のT細胞は、うまく培養でき、抗-bcma2 CARをコードするレンチウイルスベクターを導入できた。培養開始8日後、抗-bcma2 CARの発現が、65%のT細胞上で確認された。抗-bcma2 CARを発現する骨髄腫患者1からのT細胞は、自己由来の形質細胞腫細胞に特異的に応答して、IFNγを産生した(
図8D)。SP6 CARを発現する骨髄腫患者1からのT細胞は、自己由来の形質細胞腫細胞を認識しなかった。抗-bcma2 CAR発現T細胞及びSP6 CAR発現T細胞は、自己由来PBMCを認識しなかった。また抗-bcma2 CARを発現する骨髄腫患者1からのT細胞は、低い標的に対するエフェクター比で、
自己由来形質細胞腫細胞を特異的に殺した。対照的に、SP6 CAR を発現する骨髄腫患者1
からのT細胞は、自己由来形質細胞腫細胞に対する低いレベルの細胞毒性しか示さなかっ
た(
図8E)
【0116】
本実施例の結果は、本発明の抗-BCMA CARは、プライマリー多発性骨髄腫細胞の破壊方
法に用いることができることを証明している。
【0117】
実施例6
本実施例は、本発明の抗-BCMA CARsを発現するT細胞が、マウスに株化した腫瘍を破壊
することができることを例証する。
【0118】
免疫欠損NSG マウス(NOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ, Jackson Laboratory)に、8x106のRPMI8226細胞を皮内注射した。腫瘍を17日から19日間生長させ、その後マウスに、8x106の抗-bcma2 CAR又はSP6 CARを形質導入されたT細胞を静脈内に点滴注入した。腫瘍は、3日毎にキャリパーで計測した。最長の長さと最長の長さ方向に対し直角方向の長さを
掛け合わせ、腫瘍サイズ(面積)をmm2で得た。最長の長さが、15mmに達したとき、マウ
スを犠牲にした。動物研究は、米国国立癌研究所 動物ケアと使用委員会の承認を得て実
施した。
【0119】
本実施例の結果を
図9A及び9Bに示す。6日目頃で、抗-bcma2形質導入T細胞で治療したマウスは、腫瘍細胞の減縮を示し、15日目で消滅した。更に、抗-bcma2形質導入T細胞で治
療したマウス全てが、T細胞点滴注入後30日まで生き延びた。
【0120】
本実施例の結果は、本発明の抗-BCMA CARが、in vivoで、多発性骨髄腫細胞を破壊することができることを例証する。
【0121】
刊行物、特許出願及び特許を含め、本願において引用する全ての参照は、参照により本願に盛り込まれるべく、あたかもそれらの参照各々が個々にかつ具体的に記載されて、本願に全体として記載されたかのように、同程度に、それらの参照により本願に盛り込まれる。
【0122】
本発明を記載する文脈(特に後述するクレームの関係)において、冠詞の"a"、"an"及
び"the"並びに類似する指示語類は、本願中に特段のそうでない旨の断りが無い限り又は
明らかに前後関係から見て矛盾する場合で無い限り、単数及び複数の両方をカバーすると解釈されるべきである。"含む(comprising)"、 "有する(having)"、 "含めて(including)" 及び"含有する(containing)"なる用語は、そうでない旨の特段の断りが無い限り、オープンエンドの用語 (すなわち、"~を含むが、~に限定されない") と解釈されるべきである。本書において挙げる数値の範囲の記載は、本書中にそうでない旨の断りが無い限り、当該範囲に入る個々別々の数値を個別に言及することの簡略法としての役割をはたすことを単に意図するものであり、個々別々の数値が、あたかも個別に本書で記載されているかのように、本書中に盛り込まれる。本書で記載される方法は全て、そうでない旨の断りが無い限り或いは明らかに前後関係から見て矛盾するので無い限り、適するいずれの順序で実施することができる。いずれのかつすべての例又は例示的な言葉(例、“~のような”)が本書で使用される時は、そうでない旨の断りが無い限り、発明の理解をより容易にすることを意図するものであり、発明の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書中のいかなる言語も、クレームされない要素を、発明を実施する上で必須なものとして示すものとして解釈されるべきでない。
【0123】
発明者が、発明を実施するために知っている最善実施態様を含め、本発明の好ましい実施態様は、本願中に記載されている。それらの好ましい実施態様の変更も、上記記載を読めば、当業者には明らかになるかも知れない。発明者は、当業者が、適切な変更を施すことを期待しており、発明が、本願中に具体的に記載された以外の態様で実施されることも企図している。従って、本発明は、適用される法が許す範囲で、本書に添付のクレームに記載された主題の改変したもの並びに均等物全てを含む。更に、上記した要素の、ありとあらゆる可能な変更を含めての、組み合わせのいずれも、そうでない旨の断りが無い限り又は前後関係から見て明らかに矛盾するのでない限り、本発明に包含される。