(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175862
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】樹脂ビーズ、樹脂ビーズの製造方法、及び樹脂ビーズを用いた製品
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20231205BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20231205BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K8/02
A61Q1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023161808
(22)【出願日】2023-09-26
(62)【分割の表示】P 2021142493の分割
【原出願日】2021-09-01
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】一宮 洋介
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠幸
(57)【要約】
【課題】優れた触感及び肌への伸びを有する化粧料等の各種製品を提供可能な、石油由来の合成系素材からなる樹脂粒子と代替可能な樹脂ビーズを提供する。
【解決手段】キトサン及びキトサン塩の少なくともいずれかのキトサン類を主成分とする樹脂で形成された粒子状の樹脂ビーズである。平均最大径が1~20μmであり、式(1)で定義されるアスペクト比が1.5~40であり、式(2)で定義されるアスペクト比の標準偏差率が20%以下であり、式(3)で定義される両凹円盤度が0~0.3である。
A=D/h ・・・(1)
CV=S/D ・・・(2)
B=(h-t)/D ・・・(3)
(A:アスペクト比、CV:アスペクト比の標準偏差率(%)、B:両凹円盤度、D:平均最大径(μm)、h:平均最大厚さ(μm)、S:標準偏差、t:平均最小厚さ(μm))
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサン及びキトサン塩の少なくともいずれかのキトサン類を主成分とする樹脂で形成された粒子状の樹脂ビーズであって、
平均最大径が1~20μmであり、
下記式(1)で定義されるアスペクト比が1.5~40であり、
下記式(2)で定義されるアスペクト比の標準偏差率が20%以下であり、
下記式(3)で定義される両凹円盤度が0~0.3である樹脂ビーズ。
A=D/h ・・・(1)
A:アスペクト比
D:平均最大径(μm)
h:平均最大厚さ(μm)
CV=S/D ・・・(2)
CV:アスペクト比の標準偏差率(%)
S:標準偏差
D:平均最大径(μm)
B=(h-t)/D ・・・(3)
B:両凹円盤度
h:平均最大厚さ(μm)
t:平均最小厚さ(μm)
D:平均最大径(μm)
【請求項2】
前記アスペクト比が2~35であり、
前記アスペクト比の標準偏差率が15%以下であり、
前記両凹円盤度が0~0.25である請求項1に記載の樹脂ビーズ。
【請求項3】
前記キトサン類の重量平均分子量が、15,000~1,500,000である請求項1又は2に記載の樹脂ビーズ。
【請求項4】
前記キトサン塩が、キトサン硫酸塩である請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂ビーズ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂ビーズの製造方法であって、
キトサン、硫酸、及び極性溶媒を含有する反応液を流動させながら100℃以下に昇温させて前記キトサンを溶解させた後、前記反応液を流動させながら降温させて析出物を生成させる工程を有する樹脂ビーズの製造方法。
【請求項6】
前記キトサンの量(Y)に対する、前記硫酸の量(X)のモル比(X/Y)が、2.0以上である請求項5に記載の樹脂ビーズの製造方法。
【請求項7】
生成した前記析出物をアルカリで中和する工程をさらに有する請求項5又は6に記載の樹脂ビーズの製造方法。
【請求項8】
樹脂ビーズを含有する、化粧料、外皮用薬、塗料、成形体、フィルム、コーティング剤、及び樹脂組成物のいずれかの製品であって、
前記樹脂ビーズが、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂ビーズである製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂ビーズ、樹脂ビーズの製造方法、及び樹脂ビーズを用いた製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂ビーズは、その球状特性から、艶消し剤、滑り剤、及びブロッキング防止剤等の様々な分野で用いられている。さらに、メーキャップ用の化粧料の伸展性等の特性を向上させるべく、樹脂ビーズ等の種々の樹脂粉体(樹脂粒子)が用いられている。しかし、近年、マイクロプラスチックによる海洋汚染等の問題などから、化粧料に配合される樹脂ビーズの構成材料が、石油由来の合成系素材から天然系素材へと移行しつつある。
【0003】
天然系素材からなる樹脂粉末や樹脂粒子としては、例えば、キトサンを機械的に低温湿式粉砕して得られる、化粧品等に配合される不定形薄片状のキトサン粉末が提案されている(特許文献1)。また、脂肪酸類を添加したセルロース系物質を機械的に粉砕処理して得られる、化粧品等に配合される扁平なセルロース粒子が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-86102号公報
【特許文献2】特許第3787598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び2で提案されたキトサン粉末やセルロース粒子は、化粧料に配合しても肌に対する伸びがさほど良好であるとはいえず、粉浮きしたり、ざらつきを感じたりしやすいものであった。このため、市場で要求される「しっとりとした触感」を示す材料には、必ずしも適当なものであるとはいえなかった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、優れた触感及び肌への伸びを有する化粧料等の各種製品を提供可能な、石油由来の合成系素材からなる樹脂粒子と代替可能な樹脂ビーズ、及びそれを用いた化粧料等の各種製品を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、優れた触感及び肌への伸びを有する化粧料等の各種製品を提供可能な、石油由来の合成系素材からなる樹脂粒子と代替可能な樹脂ビーズの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下に示す樹脂ビーズが提供される。
[1]キトサン及びキトサン塩の少なくともいずれかのキトサン類を主成分とする樹脂で形成された粒子状の樹脂ビーズであって、平均最大径が1~20μmであり、下記式(1)で定義されるアスペクト比が1.5~40であり、下記式(2)で定義されるアスペクト比の標準偏差率が20%以下であり、下記式(3)で定義される両凹円盤度が0~0.3である樹脂ビーズ。
A=D/h ・・・(1)
A:アスペクト比
D:平均最大径(μm)
h:平均最大厚さ(μm)
CV=S/D ・・・(2)
CV:アスペクト比の標準偏差率(%)
S:標準偏差
D:平均最大径(μm)
B=(h-t)/D ・・・(3)
B:両凹円盤度
h:平均最大厚さ(μm)
t:平均最小厚さ(μm)
D:平均最大径(μm)
[2]前記アスペクト比が2~35であり、前記アスペクト比の標準偏差率が15%以下であり、前記両凹円盤度が0~0.25である前記[1]に記載の樹脂ビーズ。
[3]前記キトサン類の重量平均分子量が、15,000~1,500,000である前記[1]又は[2]に記載の樹脂ビーズ。
[4]前記キトサン塩が、キトサン硫酸塩である前記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂ビーズ。
【0008】
また、本発明によれば、以下に示す樹脂ビーズの製造方法が提供される。
[5]前記[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂ビーズの製造方法であって、キトサン、硫酸、及び極性溶媒を含有する反応液を流動させながら100℃以下に昇温させて前記キトサンを溶解させた後、前記反応液を流動させながら降温させて析出物を生成させる工程を有する樹脂ビーズの製造方法。
[6]前記キトサンの量(Y)に対する、前記硫酸の量(X)のモル比(X/Y)が、2.0以上である前記[5]に記載の樹脂ビーズの製造方法。
[7]生成した前記析出物をアルカリで中和する工程をさらに有する前記[5]又は[6]に記載の樹脂ビーズの製造方法。
【0009】
さらに、本発明によれば、以下に示す製品が提供される。
[8]樹脂ビーズを含有する、化粧料、外皮用薬、塗料、成形体、フィルム、コーティング剤、及び樹脂組成物のいずれかの製品であって、前記樹脂ビーズが、前記[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂ビーズである製品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた触感及び肌への伸びを有する化粧料等の各種製品を提供可能な、石油由来の合成系素材からなる樹脂粒子と代替可能な樹脂ビーズ、及びそれを用いた化粧料等の各種製品を提供することができる。また、本発明によれば、優れた触感及び肌への伸びを有する化粧料等の各種製品を提供可能な、石油由来の合成系素材からなる樹脂粒子と代替可能な樹脂ビーズの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】樹脂ビーズの形状を模式的に示す正面図である。
【
図2】実施例1で製造した樹脂ビーズの微構造を示す電子顕微鏡写真である。
【
図3】実施例8で製造した樹脂ビーズの微構造を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<樹脂ビーズ>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明の樹脂ビーズは、キトサン及びキトサン塩の少なくともいずれかのキトサン類を主成分とする樹脂で形成された粒子状の樹脂ビーズである。そして、本発明の樹脂ビーズは、平均最大径が1~20μmであり、下記式(1)で定義されるアスペクト比が1.5~40であり、下記式(2)で定義されるアスペクト比の標準偏差率が20%以下であり、下記式(3)で定義される両凹円盤度が0~0.3である。以下、本発明の樹脂ビーズの詳細について説明する。
【0013】
A=D/h ・・・(1)
A:アスペクト比
D:平均最大径(μm)
h:平均最大厚さ(μm)
CV=S/D ・・・(2)
【0014】
CV:アスペクト比の標準偏差率(%)
S:標準偏差
D:平均最大径(μm)
【0015】
B=(h-t)/D ・・・(3)
B:両凹円盤度
h:平均最大厚さ(μm)
t:平均最小厚さ(μm)
D:平均最大径(μm)
【0016】
(キトサン類)
樹脂ビーズは、キトサン類を主成分とする樹脂で形成された、好ましくはキトサン類で実質的に形成された粒状物である。キトサン類は、キトサン及びキトサン塩の少なくともいずれかである。キトサンは、甲殻類、糸状菌、及び昆虫等から得られるキチンの脱アセチル化物であり、保湿性や抗コレステロール効果を有し、安全性に優れ、化粧品原料や機能性食品素材として実用化されている。キトサンは工業的に生産されており、種々のグレードのものを入手することができる。また、キトサン塩としては、キトサン硫酸塩、キトサンサリチル酸塩、キトサンリン酸塩等を挙げることができる。樹脂ビーズは、キトサン塩で実質的に形成されていることが、触感及び肌への伸びがより向上するために好ましい。
【0017】
キトサン類の重量平均分子量は、15,000~1,500,000であることが好ましく、20,000~1,000,000であることがさらに好ましく、25,000~750,000であることが特に好ましい。キトサン類の重量平均分子量が15,000未満であると、キトサン類の加水分解が進行し収率が大幅に低下する場合がある。一方、キトサン類の重量平均分子量が1,500,000超であると、析出する樹脂ビーズの形状制御が困難になる場合がある。
【0018】
キトサンの脱アセチル化度は、70~100%であり、好ましくは75~99%である。キトサンの脱アセチル化度が70%未満であると、溶解時の溶解性が悪くなる傾向があるため製品に不溶部由来のキチン質が残存する場合がある。キトサンの脱アセチル化度は、コロイド滴定を行い、その滴定量から算出することができる。具体的には、指示薬にトルイジンブルー溶液を用い、ポリビニル硫酸カリウム水溶液でコロイド滴定することにより、キトサン分子中の遊離アミノ基を定量し、キトサンの脱アセチル化度を求める。脱アセチル化度の測定方法の一例を以下に示す。
【0019】
(1)滴定試験
0.5質量%酢酸水溶液にキトサン純分濃度が0.5質量%となるようにキトサンを添加し、キトサンを撹拌及び溶解して100gの0.5質量%キトサン/0.5質量%酢酸水溶液を調製する。次に、この溶液10gとイオン交換水90gを撹拌混合して、0.05質量%のキトサン溶液を調製する。さらに、この0.05質量%キトサン溶液10gにイオン交換水50mL、トルイジンブルー溶液約0.2mLを添加して試料溶液を調製し、ポリビニル硫酸カリウム溶液(N/400PVSK)にて滴定する。滴定速度は2~5ml/分とし、試料溶液が青から赤紫色に変色後、30秒間以上保持する点を終点の滴定量とする。なお、キトサン純分とは、原料キトサン試料中のキトサンの質量を意味する。具体的には、原料キトサン試料を105℃で2時間乾燥して求められる固形分質量である。
【0020】
(2)空試験
上記の滴定試験に使用した0.5質量%キトサン/0.5質量%酢酸水溶液に代えて、イオン交換水を使用し、同様の滴定試験を行う。
【0021】
(3)アセチル化度の計算
X=1/400×161×f×(V-B)/1000
=0.4025×f×(V-B)/1000
Y=0.5/100-X
X:キトサン中の遊離アミノ基質量(グルコサミン残基質量に相当)
Y:キトサン中の結合アミノ基質量(N-アセチルグルコサミン残基質量に相当)
f:N/400PVSKの力価
V:試料溶液の滴定量(mL)
B:空試験滴定量(mL)
脱アセチル化度(%)
=(遊離アミノ基)/{(遊離アミノ基)+(結合アミノ基)}×100
=(X/161)/(X/161+Y/203)×100
なお、「161」はグルコサミン残基の分子量、「203」はN-アセチルグルコサミン残基の分子量である。
【0022】
(樹脂ビーズの形状)
図1は、樹脂ビーズの形状を模式的に示す正面図である。
図1に示す実施形態の樹脂ビーズ10は、その中央部が緩やかに凹んだ両凹円盤状の構造、いわゆる赤血球状の構造を有する。本発明の樹脂ビーズには、
図1に示すような両凹円盤状の樹脂ビーズ10が含まれることがある。
図1中、Dは樹脂ビーズの平均最大径、hは樹脂ビーズの平均最大厚さ、tは樹脂ビーズの平均最小厚さ、dは樹脂ビーズの厚み方向に最も突出した部分間の平均距離、をそれぞれ示す。なお、樹脂ビーズの「平均最大径D」は、樹脂ビーズの「平均最大幅」と「平均最大長さ」のうちの値の大きい方を意味する。
【0023】
樹脂ビーズの形状は、以下に示す手順にしたがって測定及び評価する。まず、電子顕微鏡を使用して樹脂ビーズの表面及び断面の画像を撮影する。次いで、撮影した画像を解析し、任意に選択した30個以上の樹脂ビーズの最大径、最大厚さ、最小厚さ、及び厚み方向に最も突出した部分間の距離をそれぞれ測定する。その後、測定した最大径、最大厚さ、最小厚さ、及び厚み方向に最も突出した部分間の距離の平均値を算出して、平均最大径D、平均最大厚さh、平均最小厚さt、厚み方向に最も突出した部分間の平均距離d、をそれぞれ得ることができる。
【0024】
樹脂ビーズの平均最大径は1~20μmであり、好ましくは2~18μm、さらに好ましくは2.5~15μmである。平均最大径が上記の範囲内にあることで、優れた触感及び肌への伸びが発揮される。また、樹脂ビーズの平均最大厚さと平均最小厚さの差(h-t)は、0~5μmであることが好ましく、0~3.5μmであることがさらに好ましい。
【0025】
下記式(1)で定義される樹脂ビーズのアスペクト比は、1.5~40であり、好ましくは2~35、さらに好ましくは2.5~30である。アスペクト比が上記の範囲内にあることで、優れた触感及び肌への伸びが発揮される。なお、真球状の樹脂ビーズのアスペクト比は1.0である。
A=D/h ・・・(1)
A:アスペクト比
D:平均最大径(μm)
h:平均最大厚さ(μm)
【0026】
下記式(2)で定義される樹脂ビーズのアスペクト比の標準偏差率は、20%以下であり、好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下である。すなわち、本実施形態の樹脂ビーズのアスペクト比は、機械的に粉砕しないこともあり、バラつきが小さく、比較的揃っている。このように、アスペクト比を比較的揃えたことで、化粧料などの調合がしやすく、優れた触感及び肌への伸びを発揮させることができる。アスペクト比の標準偏差率の下限については特に限定されず、通常は1%以上である。なお、樹脂ビーズのアスペクト比の標準偏差(式(2)中の「S」)は、下記式(4)により算出することができる。
CV=S/D ・・・(2)
CV:アスペクト比の標準偏差率(%)
S:標準偏差
D:平均最大径(μm)
【0027】
【0028】
下記式(3)で定義される樹脂ビーズの両凹円盤度は、0~0.3であり、好ましくは0~0.25、さらに好ましくは0~0.2である。両凹円盤度が上記の範囲内にあることで、優れた触感及び肌への伸びを発揮させることができる。
B=(h-t)/D ・・・(3)
B:両凹円盤度
h:平均最大厚さ(μm)
t:平均最小厚さ(μm)
D:平均最大径(μm)
【0029】
<樹脂ビーズの製造方法>
次に、上述の樹脂ビーズを製造する方法について説明する。本発明の樹脂ビーズの製造方法は、上述の樹脂ビーズの製造方法であり、キトサン、硫酸、及び極性溶媒を含有する反応液を流動させながら100℃以下に昇温させてキトサンを溶解させた後、反応液を流動させながら降温させて析出物を生成させる工程(工程(1))を有する。
【0030】
工程(1)では、まず、キトサン、硫酸、及び極性溶媒を含有する反応液を用意する。硫酸は、希硫酸及び濃硫酸のいずれであってもよい。キトサンの量(Y)に対する、硫酸の量(X)のモル比(X/Y)は、2.0以上とすることが好ましく、2.5以上とすることがさらに好ましく、2.7以上とすることが特に好ましい。上記のモル比を2.0以上とすることで、アスペクト比がより好ましい範囲内にある樹脂ビーズを得ることができる。上記のモル比の上限については限定されず、例えば8.0以下とすればよい。
【0031】
原材料として用いるキトサンは、製造過程で低分子化する傾向にある。このため、原材料として用いるキトサンは、製造しようとする樹脂ビーズを構成するキトサン類に比して、分子量がある程度大きいことが好ましい。具体的には、原材料として用いるキトサンの重量平均分子量は、50,000~3,000,000であることが好ましく、70,000~2,500,000であることがさらに好ましく、80,000~2,200,000であることが特に好ましい。重量平均分子量が上記範囲内のキトサンを原材料として用いることで、所望とする重量平均分子量のキトサン類を主成分とする樹脂で形成された樹脂ビーズを得ることができる。
【0032】
極性溶媒としては、通常、水を用いる。水以外の極性溶媒としては、例えば、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等を挙げることができる。
【0033】
工程(1)では、用意した反応液を流動させながら昇温させて、キトサンを溶解させる。反応液を流動させるには、撹拌羽根等を用いればよい。反応液は100℃以下、好ましくは95℃以下、さらに好ましくは90℃以下に昇温させる。反応液を100℃超にまで昇温させると、得られる樹脂ビーズの両凹円盤度の値が大きくなり過ぎる。反応液の昇温温度の下限については限定されず、例えば55℃以上とすればよい。
【0034】
昇温させてキトサンを溶解させた反応液を、昇温させた状態で一定時間保持することが好ましい。保持時間は0.5時間以上とすることが好ましく、2時間以上とすることがさらに好ましく、3時間以上とすることが特に好ましい。キトサンを溶解させた反応液を昇温させた状態で一定時間保持することで、より優れた触感及び肌への伸びが発揮される樹脂ビーズを得ることができる。
【0035】
キトサンを溶解させた反応液を必要に応じて一定時間保持した後、流動させながら降温させることで、析出物を生成させることができる。反応液を流動させながら降温させることが必要であり、流動させずに静置した状態で降温させると、所望とする形状の樹脂ビーズを得ることができない。反応液の流動は、例えば撹拌羽根等を使用し、好ましくは50rpm以上、さらに好ましくは100rpm以上、特に好ましくは150rpm以上の速度で撹拌すればよい。好ましくは50℃以下、さらに好ましくは室温(25℃)以下となるまで撹拌しながら反応液を降温させることで、析出物を生成させることができる。生成した析出物を洗浄及び乾燥等することで、キトサン硫酸塩で実質的に形成された樹脂ビーズを得ることができる。
【0036】
樹脂ビーズの製造方法は、上記の工程(1)で生成した析出物をアルカリで中和する工程をさらに有することが好ましい。析出物をアルカリで中和することで、キトサンで実質的に形成された樹脂ビーズを得ることができる。析出物を中和するアルカリの種類は特に限定されず、アルカリ金属水酸化物やアルカリ土類金属水酸化物等を用いることができる。
【0037】
<各種製品>
本発明の製品は、上述の樹脂ビーズを含有する、化粧料、外皮用薬、塗料、成形体、フィルム、コーティング剤、及び樹脂組成物のいずれかの製品である。上述の樹脂ビーズは特定の形状を有することから、優れた触感を有するとともに、肌への伸びが良好なものである。このため、この樹脂ビーズを含有させることで、石油由来の合成系素材からなる樹脂粒子を用いなくても、優れた触感及び肌への伸びが付与された化粧料、外皮用薬、塗料、成形体、フィルム、コーティング剤、及び樹脂組成物等の各種製品を提供することができる。
【実施例0038】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0039】
<樹脂ビーズの製造>
(実施例1)
重量平均分子量(Mw)が20万であり、脱アセチル化度が98%である、きのこ由来の粉末状のキトサンを用意した。用意したキトサン2.5g(乾燥質量)(14.8mmol)及び水83.5gをフラスコに入れた。ガラス羽根を使用し、回転速度100rpmで撹拌しながら98%硫酸5.9g(59.2mmol)を5分間かけて滴下して混合した。マントルヒーターを使用して反応液の液温が80℃になるまで昇温し、内容物を溶解させた。反応液の液温が80℃に達した後、同温度で5時間保持した。ガラスろ紙で反応液をろ過し、得られたろ液を回転速度200rpmで撹拌して流動させながら徐々に冷却した。反応液の液温が50℃付近に達した段階で析出物が生成したのを確認した。反応液を撹拌して流動させながらさらに徐冷し、液温が室温(25℃)に達した段階で、デカンテーションして上澄み液を除去して析出物を得た。得られた析出物を水洗し、洗浄液のpHが7になるまで繰り返した後、凍結乾燥して、キトサン硫酸塩で形成された樹脂ビーズを得た。得られた樹脂ビーズの平均幅は2.8μmであり、平均長さは2.8μmであった。すなわち、樹脂ビーズの平均最大径Dは2.8μmであった。また、樹脂ビーズのアスペクト比Aは5.5であり、両凹円盤度Bは0.01であり、アスペクト比の標準偏差率CVは7.1%であった。
【0040】
(実施例2~16)
表1に示す条件としたこと以外は、前述の実施例1と同様にして樹脂ビーズを得た。得られた樹脂ビーズの特性を表2に示す。また、実施例1及び8で製造した樹脂ビーズの微構造を示す電子顕微鏡写真を
図2及び3にそれぞれ示す。
【0041】
(比較例1)
重量平均分子量(Mw)が20万であり、脱アセチル化度が98%である、きのこ由来の粉末状のキトサンを用意した。用意したキトサン2.5g(乾燥質量)(14.8mmol)及び水83.5gをフラスコに入れた。ガラス羽根を使用し、回転速度100rpmで撹拌しながら98%硫酸5.9g(59.2mmol)を5分間かけて滴下して混合した。マントルヒーターを使用して反応液の液温が80℃になるまで昇温し、内容物を溶解させた。反応液の液温が80℃に達した後、同温度で5時間保持した。ガラスろ紙で反応液をろ過し、得られたろ液を撹拌することなく静置して徐々に冷却した。反応液の液温が50℃付近に達した段階で析出物が生成したのを確認した。反応液を静置したままさらに徐冷し、液温が室温(25℃)に達した段階で、デカンテーションして上澄み液を除去して析出物を得た。得られた析出物を水洗し、洗浄液のpHが7になるまで繰り返した後、凍結乾燥して、キトサン硫酸塩で形成された樹脂ビーズを得た。得られた樹脂ビーズの平均幅は4.9μmであり、平均長さは4.9μmであった。すなわち、樹脂ビーズの平均最大径Dは4.9μmであった。また、樹脂ビーズのアスペクト比Aは1.2(ほぼ球状)であり、両凹円盤度Bは0.02であり、アスペクト比の標準偏差率CVは1.2%であった。
【0042】
(比較例2)
重量平均分子量(Mw)が20万であり、脱アセチル化度が98%である、きのこ由来の粉末状のキトサンを用意した。用意したキトサン2.5g(乾燥質量)(14.8mmol)及び水83.5gを密閉可能な容器に入れた。スパチュラを使用して撹拌しながら98%硫酸5.9g(59.2mmol)を5分間かけて滴下して混合した。容器を密閉し、オートクレーブを使用して121℃で20分間加熱・加圧処理した。ガラスろ紙で反応液をろ過し、得られたろ液を撹拌することなく静置して徐々に冷却した。反応液の液温が50℃付近に達した段階で析出物が生成したのを確認した。反応液を静置したままさらに徐冷し、液温が室温(25℃)に達した段階で、デカンテーションして上澄み液を除去して析出物を得た。得られた析出物を水洗し、洗浄液のpHが7になるまで繰り返した後、凍結乾燥して、キトサン硫酸塩で形成された樹脂ビーズを得た。得られた樹脂ビーズの平均幅は16.9μmであり、平均長さは16.9μmであった。すなわち、樹脂ビーズの平均最大径Dは16.9μmであった。また、樹脂ビーズのアスペクト比Aは1.6であり、両凹円盤度Bは0.31であり、アスペクト比の標準偏差率CVは2.5%であった。
【0043】
(比較例3)
重量平均分子量(Mw)が20万であり、脱アセチル化度が98%である、きのこ由来の粉末状のキトサンを用意した。用意したキトサンを、特許文献2(特許第3787598号公報)の「実施例7」に記載の方法にしたがって処理し、キトサン粒子を得た。得られたキトサン粒子の平均幅は10.5μmであり、平均長さは10.4μmであった。すなわち、キトサン粒子の平均最大径Dは10.5μmであった。また、キトサン粒子のアスペクト比Aは42.0であり、両凹円盤度Bは0.00であり、アスペクト比の標準偏差率CVは45.1%であった。
【0044】
(実施例17)
実施例1で製造した樹脂ビーズを含水アルコール中で中和し、キトサンで形成された樹脂ビーズを得た。得られた樹脂ビーズの平均幅は2.8μmであり、平均長さは2.8μmであった。すなわち、樹脂ビーズの平均最大径Dは2.8μmであった。また、樹脂ビーズのアスペクト比Aは5.3であり、両凹円盤度Bは0.01であり、アスペクト比の標準偏差率CVは5.3%であった。
【0045】
<樹脂ビーズの評価>
(触感)
樹脂ビーズの触感について、10人のパネルテストによる官能評価を行った。樹脂ビーズに触れ、「滑らかさ」、「肌への伸びの良さ」、及び「しっとり感」を総合的に判断し、以下に示す評価基準にしたがって5点満点で採点し、10人の平均点を算出した。結果を表2に示す。
5:良い
4:やや良い
3:普通
2:やや悪い
1:悪い
【0046】
【0047】
【0048】
<化粧料の製造>
(実施例1C~17C、比較例1C~3C)
化粧料の原料として従来用いられている各種成分を混合して化粧料を製造した。具体的には、まず、表3に示す成分(A)(疎水性成分)を混合及び加温して溶解させた。一方、表3に示す成分(B)(親水性成分)を混合及び加温して溶解させた。また、表3に示す成分(C)(粉末成分及び樹脂ビーズ)を配合し、均一になるまで混合して粉体混合物を得た。成分(A)の混合物を撹拌しながら、成分(C)の粉体混合物を添加した後、成分(B)の混合物を添加し、均一になるまで混合して化粧料を得た。
【0049】
【0050】
<化粧料の評価>
化粧料の触感及び肌への伸びについて、10人のパネルテストによる官能評価を行った。「触感の良さ」及び「肌への伸び」を判断し、以下に示す評価基準にしたがってそれぞれ5点満点で採点し、10人の平均点を算出した。結果を表4に示す。
5:良い
4:やや良い
3:普通
2:やや悪い
1:悪い
【0051】
【0052】
表4に示すように、実施例の樹脂ビーズを用いることで、触感及び肌への伸びに優れた化粧料を製造できたことがわかる。また、実施例の樹脂ビーズを用いることで、化粧料だけでなく、外皮用薬、塗料、成形体、フィルム、コーティング剤、及び樹脂組成物などの各種製品に対しても、優れた触感及び伸びなどの特性を付与できることを確認した。
本発明の樹脂ビーズを用いれば、良好な触感で、肌への伸びが良く、粉吹きが生じにくい化粧品を提供することができる。したがって、本発明の樹脂ビーズは、例えば、化粧料、外皮用剤、塗料、成形体、フィルム、コーティング剤、及び樹脂組成物などの各種製品の構成材料として有用である。