(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175887
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】圧電素子、圧電装置
(51)【国際特許分類】
H10N 30/853 20230101AFI20231205BHJP
H10N 30/073 20230101ALI20231205BHJP
H10N 30/082 20230101ALI20231205BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20231205BHJP
H10N 30/80 20230101ALI20231205BHJP
G01L 9/08 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/073
H10N30/082
H10N30/30
H10N30/80
G01L9/08
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023168587
(22)【出願日】2023-09-28
(62)【分割の表示】P 2021016149の分割
【原出願日】2021-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2020184022
(32)【優先日】2020-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城森 知也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 太輔
(72)【発明者】
【氏名】樋口 貴史
(72)【発明者】
【氏名】早川 裕
(72)【発明者】
【氏名】酒井 峰一
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 和明
(72)【発明者】
【氏名】小山 友二
(72)【発明者】
【氏名】田中 昌明
(57)【要約】
【課題】スリットが適切に形成されるようにする。
【解決手段】複数の振動領域22は、互いの振動領域の間がスリット41で分離され、スリット41は、振動領域22における支持体10側と反対側の一面22a側から当該一面22aと反対側の他面22b側に向かって幅が狭くなるテーパ部42が構成される状態で形成されるようにする。電極膜60は、一面22aに対する法線方向において、スリット41よりも内側に配置されるようにし、振動領域22におけるテーパ部42を構成する側面22cと、一面22aと平行な面22b、Svとの成す角度θ1が39~81°となるようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力に応じた圧力検出信号を出力する振動部(20)を有する圧電素子であって、
支持体(10)と、
前記支持体上に配置され、窒化スカンジウムアルミニウムで構成される圧電膜(50)と、前記圧電膜と接続されて前記圧電膜が変形することによって発生する電荷を取り出す電極膜(60)とを含む構成とされ、前記支持体に支持される支持領域(21a)と、前記支持領域と繋がっており、前記支持体から浮遊している複数の振動領域(22)とを有し、前記電荷に基づいた前記圧力検出信号を出力する前記振動部と、を備え、
前記複数の振動領域は、互いの前記振動領域の間がスリット(41)で分離されており、
前記スリットは、前記振動領域における前記支持体側と反対側の一面(22a)側から当該一面と反対側の他面(22b)側に向かって幅が狭くなるテーパ部(42)が構成される状態で形成され、
前記電極膜は、前記一面に対する法線方向において、前記スリットよりも内側に配置されており、
前記振動領域における前記テーパ部を構成する側面(22c)と、前記一面と平行な面(22b、Sv)との成す角度(θ1)が39~81°とされている圧電素子。
【請求項2】
前記テーパ部を構成する側面と、前記一面と平行な面との成す角度が63°以下とされている請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記テーパ部を構成する側面と、前記一面と平行な面との成す角度が45°以上とされている請求項1または2に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記スリットは、前記振動領域の一面側に形成された前記テーパ部と、前記他面側に形成され、幅が一定とされた一定部(43)とが連結された構成とされている請求項1ないし3のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項5】
前記スリットは、前記支持領域側から前記振動領域における前記支持領域側と反対側の端部(21e)側に向かって幅が狭くされたテーパ状とされている請求項1ないし4のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項6】
前記振動領域および前記電極膜は、前記振動領域における前記支持体側と反対側の一面(22a)に対する法線方向において、前記振動領域の中心部(C)に対して点対称となる状態で配置されている請求項1ないし5のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項7】
前記振動領域は、前記支持領域側の領域、および前記中心部を含む領域が第1領域(R1)とされると共に、前記第1領域と異なる領域が第2領域(R2)とされ、
前記圧電膜は、六方晶構造となる材料で構成され、
前記電極膜は、6本の電極膜用スリット(60b)によって分割されており、前記法線方向において、前記第1領域内のそれぞれの前記電極膜用スリットにおける所定箇所を結ぶ仮想形状(KS)が六角形状とされている請求項6に記載の圧電素子。
【請求項8】
前記支持体は、支持基板(11)と、前記支持基板上に配置され、前記振動部が配置される絶縁膜(12)とを有し、前記振動領域を浮遊させる凹部(10a)が前記支持基板および前記絶縁膜に形成されており、
前記支持基板は、シリコン基板で構成され、
前記振動領域は、前記法線方向において、外形が正八角形状とされている請求項6または7に記載の圧電素子。
【請求項9】
前記振動部は、前記振動領域における前記支持体側と反対側の一面(22a)に対する法線方向において、外形が多角形状とされており、
前記電極膜および前記振動領域は、前記法線方向において、少なくとも一方が角部を有する多角形状とされ、当該角部が、前記振動部の外形における相対する角部を結ぶ仮想線(K2)上と異なる部分に位置している請求項1ないし8のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項10】
圧力に応じた圧力検出信号を出力する振動部(20)を有する圧電素子を備えた圧電装置であって、
請求項1ないし9のいずれか1つに記載の圧電素子と、
前記圧電素子を搭載する被実装部材(101)と、前記圧電素子を収容する状態で前記被実装部材に固定される蓋部(102)と、を有し、外部と連通して前記圧力が導入される貫通孔(101b)が形成されたケーシング(100)と、を備える圧電装置。
【請求項11】
前記ケーシング内の空間における前記貫通孔と前記振動部との間に位置する受圧面空間(S1)と異なる空間をバック空間(S2)とし、前記バック空間の音響コンプライアンスをCb、前記振動領域の厚さをh、前記スリットの厚さ方向に沿った幅の平均である平均スリット幅をga、空気抵抗をμとし、前記スリットの前記振動領域の側面に沿ったスリット長さをLとすると、前記スリットの長さは、下記数式を満たしている請求項10に記載の圧電装置。
【数1】
【請求項12】
前記圧電素子は、前記支持体が接合部材(2)を介して前記被実装部材に搭載されており、前記振動領域における前記支持体側と反対側の一面(22a)に対する法線方向において、外形が角部を有する多角形状とされており、
前記接合部材は、前記法線方向において、前記角部と異なる部分に配置されている請求項11に記載の圧電装置。
【請求項13】
前記接合部材は、前記法線方向において、外形が角部を有する多角形状とされ、当該角部が、前記圧電素子の外形における相対する角部を結ぶ仮想線(K2)上と異なる部分に位置している請求項12に記載の圧電装置。
【請求項14】
前記被実装部材は、前記接合部材が配置される部分に突起部(101c)が形成されており、
前記接合部材は、前記突起部上に配置されている請求項12または13に記載の圧電装置。
【請求項15】
支持体(10)と、
前記支持体上に配置され、窒化スカンジウムアルミニウムで構成される圧電膜(50)と、前記圧電膜と接続されて前記圧電膜が変形することによって発生する電荷を取り出す電極膜(60)とを含む構成とされ、前記支持体に支持される支持領域(21a)と、前記支持領域と繋がっており、前記支持体から浮遊している複数の振動領域(22)とを有し、前記電荷に基づいた圧力検出信号を出力する振動部(20)と、を備え、
前記複数の振動領域は、互いの前記振動領域の間がスリット(41)で分離されており、
前記スリットは、前記振動領域における前記支持体側と反対側の一面(22a)側から当該一面と反対側の他面(22b)側に向かって幅が狭くなるテーパ部(42)が構成される状態で形成され、
前記電極膜は、前記一面に対する法線方向において、前記スリットよりも内側に配置されており、
前記テーパ部を構成する側面(22c)と、前記一面と平行な面(22b、Sv)との成す角度(θ1)が39~81°とされている圧電素子の製造方法であって、
前記支持体上に、前記圧電膜および前記電極膜を形成することと、
前記圧電膜および前記電極膜上にエッチングマスク材(100)を配置すると共に、前記エッチングマスク材に前記圧電膜のうちの前記スリットが形成される部分を露出させる開口部(101)を形成することと、
前記エッチングマスク材をマスクとしてエッチングを行い、前記圧電膜を貫通して前記支持体に達する前記スリットを形成し、前記テーパ部を有する振動領域構成部分(220)を形成することと、
前記支持体のうちの前記圧電膜側と反対側から凹部(10a)を形成して前記振動領域構成部分を浮遊させることにより、前記複数の振動領域を有する前記振動部を構成することと、を行い、
前記エッチングマスク材をマスクとしてエッチングを行う前に、加熱処理を行い、前記成す角度に応じて前記開口部の形状を調整することを行い、
前記スリットを形成することでは、前記成す角度が39~81°となる前記スリットを形成する圧電素子の製造方法。
【請求項16】
前記スリットを形成することでは、前記成す角度が63°以下となる前記スリットを形成する請求項15に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項17】
前記スリットを形成することでは、前記成す角度が45°以上となる前記スリットを形成する請求項15または16に記載の圧電素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動領域が片持ち支持された圧電素子、圧電装置、および圧電素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、振動領域が支持体に片持ち支持された圧電素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、圧電素子は、支持体と、支持体上に配置された振動部とを備えている。振動部は、圧電膜と、圧電膜と接続された電極膜とを有する構成とされている。なお、圧電膜は、窒化アルミニウム(以下では、単にAlNともいう)で構成されている。
【0003】
支持体には、振動部における内縁側を浮遊させるための凹部が形成されている。これにより、振動部には、凹部上で浮遊する浮遊領域が構成されている。また、この圧電素子では、浮遊領域にスリットが形成されることにより、当該浮遊領域が分割された振動領域が構成されている。つまり、支持体に片持ち支持された振動領域が構成されている。
【0004】
このような圧電素子は、以下のように製造される。すなわち、支持体上に、圧電膜および電極膜を形成する。次に、圧電膜にスリットを形成して振動領域構成部分を形成する。その後、支持体に凹部を形成し、振動領域構成部分を浮遊させて振動領域を構成することにより、上記圧電素子が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような圧電素子では、圧電膜として、圧電特性の高い窒化スカンジウムアルミニウム(以下では、単にScAlNともいう)を用いることが検討されている。しかしながら、ScAlNは、難エッチング材である。このため、圧電膜としてAlNを用いた場合と同様の製造方法で圧電素子を製造しようとすると、スリットを形成した際に当該スリットの形成を適切に行うことができず、振動領域の形状がばらつく可能性がある。
【0007】
本発明は上記点に鑑み、スリットが適切に形成される圧電素子、圧電装置、および圧電素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1では、圧力に応じた圧力検出信号を出力する振動部(20)を有する圧電素子であって、支持体(10)と、支持体上に配置され、窒化スカンジウムアルミニウムで構成される圧電膜(50)と、圧電膜と接続されて圧電膜が変形することによって発生する電荷を取り出す電極膜(60)とを含む構成とされ、支持体に支持される支持領域(21a)と、支持領域と繋がっており、支持体から浮遊している複数の振動領域(22)とを有し、電荷に基づいた圧力検出信号を出力する振動部と、を備え、複数の振動領域は、互いの振動領域の間がスリット(41)で分離されており、スリットは、振動領域における支持体側と反対側の一面(22a)側から当該一面と反対側の他面(22b)側に向かって幅が狭くなるテーパ部(42)が構成される状態で形成され、電極膜は、一面に対する法線方向において、スリットよりも内側に配置されており、振動領域におけるテーパ部を構成する側面(22c)と、一面と平行な面(22b、Sv)との成す角度(θ1)が39~81°とされている。
【0009】
これによれば、振動領域の成す角度が39~81°とされている。このため、スリットが形成される際の加工性が低下することを抑制でき、スリットが適切に形成される。このため、検出感度が低下することを抑制できる。
【0010】
また、請求項10は、圧力に応じた圧力検出信号を出力する振動部(20)を有する圧電素子を備えた圧電装置であって、請求項1ないし9のいずれか1つに記載の圧電素子と、圧電素子を搭載する被実装部材(101)と、圧電素子を収容する状態で被実装部材に固定される蓋部(102)と、を有し、外部と連通して圧力が導入される貫通孔(101b)が形成されたケーシング(100)と、を備えている。
【0011】
これによれば、圧電素子における振動領域の成す角度が39~81°とされている。このため、スリットが形成される際の加工性が低下することを抑制でき、検出感度が低下することを抑制できる。
【0012】
請求項15は、上記の圧電素子の製造方法であって、支持体上に、圧電膜および電極膜を形成することと、圧電膜および電極膜上にエッチングマスク材(100)を配置すると共に、エッチングマスク材に圧電膜のうちのスリットが形成される部分を露出させる開口部(101)を形成することと、エッチングマスク材をマスクとしてエッチングを行い、圧電膜を貫通して支持体に達するスリットを形成し、テーパ部を有する振動領域構成部分(220)を形成することと、支持体のうちの圧電膜側と反対側から凹部(10a)を形成して振動領域構成部分を浮遊させることにより、複数の振動領域を有する振動部を構成することと、を行い、エッチングマスク材をマスクとしてエッチングを行う前に、加熱処理を行い、成す角度に応じて開口部の形状を調整することを行い、スリットを形成することでは、成す角度が39~81°となるスリットを形成する。
【0013】
これによれば、振動領域の成す角度が39~81°となるスリットを形成するため、スリットを形成する際の加工性が低下することを抑制でき、検出感度が低下することを抑制した圧電素子を製造できる。
【0014】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態における圧電素子の断面図である。
【
図4A】
図1に示す圧電素子の製造工程を示す断面図である。
【
図4B】
図4Aに続く圧電素子の製造工程を示す断面図である。
【
図4C】
図4Bに続く圧電素子の製造工程を示す断面図である。
【
図4D】
図4Cに続く圧電素子の製造工程を示す断面図である。
【
図4E】
図4Dに続く圧電素子の製造工程を示す断面図である。
【
図5】
図4Dの製造工程におけるスリットが形成される部分の模式図である。
【
図6】周波数、感度、実効幅の関係を示す図である。
【
図7】圧電膜の膜厚に対するエッチングマスク材の膜厚と、成す角度との関係を示す図である。
【
図8】第1実施形態における圧電装置の断面図である。
【
図9A】第1実施形態の変形例における振動領域の平面図である。
【
図9B】第1実施形態の変形例における振動領域の平面図である。
【
図9C】第1実施形態の変形例における振動領域の平面図である。
【
図9D】第1実施形態の変形例における振動領域の平面図である。
【
図9E】第1実施形態の変形例における振動領域の平面図である。
【
図9F】第1実施形態の変形例における振動領域の平面図である。
【
図9G】第1実施形態の変形例における振動領域の平面図である。
【
図10】第2実施形態における振動領域の模式図である。
【
図11】第3実施形態における圧電素子の断面図である。
【
図12】第4実施形態における圧電素子の断面図である。
【
図13】第5実施形態における圧電素子の断面図である。
【
図14】第6実施形態における圧電素子の平面図である。
【
図16】第6実施形態における第1領域に形成された電極膜の平面図である。
【
図17】第6実施形態における圧電素子の回路模式図である。
【
図18】第6実施形態の変形例における第1領域に形成された電極膜の平面図である。
【
図19】第6実施形態の変形例における圧電素子の回路模式図である。
【
図20】第7実施形態における圧電素子の平面図である。
【
図21】第8実施形態における圧電素子の平面図である。
【
図22】第8実施形態における第1領域に形成された電極膜の平面図である。
【
図23】第8実施形態における圧電素子の回路模式図である。
【
図24】第8実施形態における圧電素子の断面図である。
【
図25】第8実施形態の変形例における圧電素子の平面図である。
【
図26】第8実施形態における第1領域に形成された電極膜の平面図である。
【
図27】第8実施形態の変形例における圧電素子の回路模式図である。
【
図28】第9実施形態における圧電装置の断面模式図である。
【
図29】振動領域の厚さを一定とした場合の、平均スリット幅、スリット長さ、および音響抵抗の関係を示す図である。
【
図30】平均スリット幅を一定とした場合の、振動領域の厚さ、スリット長さ、および音響抵抗の関係を示す図である。
【
図31】スリット長さと音響抵抗比率との関係を示す図である。
【
図32】第10実施形態における圧電素子のスリットの断面図である。
【
図33】一面側のスリット幅と音響抵抗との関係を示す図である。
【
図34】第11実施形態における圧電素子と接合部材との位置関係を示す平面図である。
【
図35A】第11実施形態の変形例における圧電素子と接合部材との位置関係を示す平面図である。
【
図35B】第11実施形態の変形例における圧電素子と接合部材との位置関係を示す平面図である。
【
図36A】第11実施形態の変形例における圧電素子と接合部材との位置関係を示す平面図である。
【
図36B】第11実施形態の変形例における圧電素子と接合部材との位置関係を示す平面図である。
【
図36C】第11実施形態の変形例における圧電素子と接合部材との位置関係を示す平面図である。
【
図37】第12実施形態における圧電装置の断面図である。
【
図38】他の実施形態における圧電装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0017】
(第1実施形態)
第1実施形態の圧電素子1について、
図1および
図2を参照しつつ説明する。なお、本実施形態の圧電素子1は、例えば、マイクロフォンとして利用されると好適である。また、
図2では、後述する第1電極部81および第2電極部82等を省略して示している。そして、後述の
図2に対応する各図においても、第1電極部81および第2電極部82等を適宜省略して示している。
【0018】
圧電素子1は、支持体10と、振動部20とを備え、平面形状が矩形状とされている。支持体10は、一面11aおよび他面11bを有する支持基板11と、支持基板11上に形成された絶縁膜12とを有している。なお、支持基板11は、例えば、シリコン基板等で構成され、絶縁膜12は、酸化膜等で構成されている。
【0019】
振動部20は、圧力としての音圧等に応じた圧力検出信号を出力するセンシング部30を構成するものであり、支持体10上に配置されている。そして、支持体10には、振動部20における内縁側を浮遊させるための凹部10aが形成されている。このため、振動部20は、支持体10上に配置された支持領域21aと、支持領域21aと繋がっていると共に凹部10a上で浮遊する浮遊領域21bとを有する構成となっている。なお、本実施形態の凹部10aは、振動部20側の開口端(以下では、単に凹部10aの開口端ともいう)の形状が平面矩形状とされている。したがって、浮遊領域21bの全体は、平面略矩形状とされている。
【0020】
本実施形態の浮遊領域21bは、4つの振動領域22が構成されるように、スリット41によって分割されている。本実施形態では、スリット41は、浮遊領域21bの中心部Cを通り、浮遊領域21bの相対する角部に向かって延設されるように、2本形成されている。言い換えると、スリット41は、平面矩形状とされた浮遊領域21bの各角部から中心部Cに向かって延設されると共に、中心部Cにて各スリット41が交差するように形成されている。これにより、浮遊領域21bは、略平面三角形状とされた4つの振動領域22に分離されている。特に限定されるものではないが、本実施形態では、各振動領域22同士の間隔(すなわち、スリット41の平均幅)が1μm程度とされている。なお、スリット41は、本実施形態では、後述するように異方性ドライエッチングで形成される。
【0021】
ここで、本実施形態のスリット41の形状について具体的に説明する。まず、
図1および
図3に示されるように、振動領域22における支持体10と反対側の面を一面22aとし、振動領域22における支持体10側の面を他面22bとする。この場合、スリット41は、一面22a側から他面22b側に向かってスリット幅gが狭くなるテーパ部42が構成されるように形成されている。言い換えると、スリット41は、振動領域22における一面22aと他面22bとの間を繋ぐ面を側面22cとすると、側面22cがテーパ部42となるように形成されている。また、本実施形態のスリット41は、一面22a側から他面22b側に向かって連続的にスリット幅gが狭くなる形状とされている。つまり、スリット41は、振動領域22の側面22cが略平面状となるように形成されている。
【0022】
なお、振動領域22の一面22aと他面22bとは平行とされている。また、スリット41のスリット幅gとは、言い換えると、対向する振動領域22における各側面22cの間隔のことである。振動領域22の側面22cとは、スリット41によって形成される面である。
【0023】
また、スリット41は、振動領域22における他面22bと側面22cとの成す角度(以下では、単に振動領域22の成す角度ともいう)θ1が39~81°となるように形成されている。なお、本実施形態では、他面22bが一面22aと平行な面に相当する。また、成す角度θ1は、スリット41のテーパ角度ともいえる。以上が本実施形態におけるスリット41の形状である。
【0024】
そして、各振動領域22は、上記のように浮遊領域21bが分割されて構成されるため、一端部22dが支持体10(すなわち、支持領域21a)に支持された固定端とされ、他端部22eが自由端とされたカンチレバーとされている。つまり、各振動領域22は、支持領域21aと繋がった状態となっていると共に、片持ち支持された状態となっている。
【0025】
振動部20は、圧電膜50、および圧電膜50と接続される電極膜60を有する構成とされている。具体的には、圧電膜50は、下層圧電膜51と、下層圧電膜51上に積層される上層圧電膜52とを有している。また、電極膜60は、下層圧電膜51の下方に配置された下層電極膜61、下層圧電膜51と上層圧電膜52との間に配置された中間電極膜62、および上層圧電膜52上に配置された上層電極膜63を有している。つまり、振動部20は、下層圧電膜51が下層電極膜61と中間電極膜62とで挟み込まれており、上層圧電膜52が中間電極膜62と上層電極膜63とで挟み込まれたバイモルフ構造とされている。
【0026】
さらに、本実施形態の振動部20は、下層圧電膜51および下層電極膜61が配置される下地膜70を有している。つまり、支持体10上には、下地膜70を介して圧電膜50および電極膜60が配置されている。下地膜70は、必ずしも必要なものではないが、下層圧電膜51等を成膜する際の結晶成長をし易くするために備えられている。
【0027】
下層圧電膜51および上層圧電膜52は、ScAlNを用いて構成されている。下層電極膜61、中間電極膜62等は、モリブデン、銅、白金、チタン、アルミニウム等を用いて構成されている。下地膜70は、AlN等で構成されている。また、圧電膜50は、厚さが千nm程度とされており、下地膜70は、厚さが数十nm程度とされている。つまり、下地膜70は、圧電膜50に対して極めて薄くされている。
【0028】
また、本実施形態の各振動領域22は、固定端側が第1領域R1とされ、自由端側が第2領域R2とされている。そして、下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63は、それぞれ第1領域R1および第2領域R2に形成されている。但し、第1領域R1に形成された下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63と、第2領域R2に形成された下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63とは、分離しており、絶縁された状態となっている。また、第1領域R1に形成された下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63は、支持領域21aまで適宜延設されている。
【0029】
なお、下層電極膜61、中間電極膜62、および上層電極膜63は、スリット41に達しないように形成されている。つまり、下層電極膜61、中間電極膜62、および上層電極膜63は、振動領域22の側面22cよりも内側で終端するように形成されている。言い換えると、下層電極膜61、中間電極膜62、および上層電極膜63は、振動領域22の一面22aに対する法線方向において、スリット41よりも内側に配置されている。このため、振動領域22における側面22cは、下層圧電膜51、上層圧電膜52、および下地膜70で構成されている。以下では、振動領域22の一面22aに対する法線方向を単に法線方向ともいう。また、振動領域22の一面22aに対する法線方向においてとは、言い換えると、振動領域22の一面22aに対する法線方向から視たときということもできる。
【0030】
振動部20の支持領域21aには、第1領域R1に形成された下層電極膜61および上層電極膜63と電気的に接続される第1電極部81と、第1領域R1に形成された中間電極膜62と電気的に接続される第2電極部82とが形成されている。なお、
図1は、
図2中のI-I線に沿った断面図であり、紙面左側の振動領域22と紙面右側の振動領域22とが異なる断面を示している。また、
図2では、第1電極部81および第2電極部82を省略して示している。
【0031】
第1電極部81は、上層電極膜63、上層圧電膜52、下層圧電膜51を貫通して下層電極膜61を露出させる孔部81aに形成され、下層電極膜61および上層電極膜63と電気的に接続される貫通電極81bを有している。また、第1電極部81は、貫通電極81b上に形成されて貫通電極81bと電気的に接続されるパッド部81cを有している。第2電極部82は、上層圧電膜52を貫通して中間電極膜62を露出させる孔部82aに形成され、中間電極膜62と電気的に接続される貫通電極82bを有している。また、第2電極部82は、貫通電極82b上に形成されて貫通電極82bと電気的に接続されるパッド部82cを有している。第1電極部81および第2電極部82は、電極膜60と同様に、モリブデン、銅、白金、チタン、アルミニウム等を用いて構成されている。
【0032】
なお、第2領域R2に形成された下層電極膜61、中間電極膜62、および上層電極膜63は、各電極部81、82と電気的に接続されておらず、フローティング状態となっている。このため、第2領域R2に形成される下層電極膜61、中間電極膜62、および上層電極膜63は、必ずしも必要ではないが、本実施形態では、下層圧電膜51および上層圧電膜52のうちの第2領域R2に位置する部分を保護するために設けてある。
【0033】
また、第1領域R1に形成された下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63は、スリット41によって各振動領域22で分割されている。つまり、各振動領域22の第1領域R1に形成された下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63は、各振動領域22を跨ぐようには形成されていない。そして、各振動領域22の第1領域R1に形成された下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63は、図示しない配線膜等を介して接続されている。
【0034】
なお、本実施形態の下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63は、外形が振動領域22の外形と略等しくなるように形成されており、本実施形態では平面矩形状とされている。但し、下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63は、上記のように各振動領域22で分割されている。このため、ここでの下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63の外形とは、下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63における外形線および当該外形線の延長線で構成される形状のことである。
【0035】
そして、本実施形態のセンシング部30は、4つの振動領域22における電荷の変化を1つの圧力検出信号として出力するように構成されている。つまり、4つの振動領域22は、電気的に直列に接続されている。より詳しくは、各振動領域22はバイモルフ構造とされており、各振動領域22に形成される各下層電極膜61、各中間電極膜62、各上層電極膜63がそれぞれ並列に接続されつつ、各振動領域22間が直列に接続されている。
【0036】
以上が本実施形態における圧電素子1の構成である。このような圧電素子1は、各振動領域22(すなわち、センシング部30)に音圧が印加されると、各振動領域22が振動する。この場合、例えば、振動領域22の他端部22e側(すなわち、自由端側)が上方に変位した場合、下層圧電膜51には引張応力が発生し、上層圧電膜52には圧縮応力が発生する。したがって、第1電極部81および第2電極部82から当該電荷を取り出すことにより、音圧が検出される。
【0037】
この際、振動領域22(すなわち、圧電膜50)に発生する応力は、自由端側(すなわち、他端部22e側)では応力が解放されるため、固定端側の方が自由端側より大きくなる。つまり、自由端側は、電荷の発生が少なくなり、信号とノイズの比であるSN比が小さくなり易い。このため、本実施形態の圧電素子1では、上記のように、各振動領域22が、応力が大きくなり易い第1領域R1と、応力が小さくなり易い第2領域R2とに分けられている。そして、圧電素子1では、第1領域R1に配置されている下層電極膜61、上層電極膜63、中間電極膜62が第1、第2電極部81、82と接続され、第1領域R1に位置する下層圧電膜51および上層圧電膜52に発生する電荷が取り出されるようにしている。これにより、ノイズの影響が大きくなることを抑制できる。
【0038】
【0039】
まず、
図4Aに示されるように、支持基板11および絶縁膜12を有する支持体10上に、下地膜70、圧電膜50、電極膜60、第1電極部81、第2電極部82等が形成されたものを用意する。つまり、
図1に示す圧電素子1における凹部10aおよびスリット41が形成されていないものを用意する。なお、
図4Aの工程で構成される圧電膜50および電極膜60等は、振動部20を構成する部分である。このため、
図4A中では、振動領域22の一面22aおよび他面22bと同じ符号を付してある。また、電極膜60は、スリット41が形成される部分から露出しないように配置場所が調整される。
【0040】
ここで、下地膜70、圧電膜50、および電極膜60等は、一般的なスパッタやエッチング等を適宜行うことによって構成される。この場合、支持体10上に下地膜70や電極膜60としての下層電極膜61を形成する際、下地膜70および下層電極膜61は、下地膜70および下層電極膜61の線膨張係数が支持体10の線膨張係数より大きいため、引張応力が残存する状態で形成される。このため、そのまま圧電膜50を形成した場合、圧電膜50は、下地膜70および下層電極膜61の引張応力に起因する引張応力が残存した状態で形成され易い。そして、圧電膜50に引張応力が残存していると、圧電素子1の特性変動が発生し易い。したがって、圧電膜50を成膜する際には、例えば、次のようにすることが好ましい。
【0041】
例えば、上層圧電膜52を成膜する際には、下層圧電膜51を成膜する際よりも、スパッタ時に印加する電圧を大きくすることにより、上層圧電膜52に圧縮応力が発生するようにすることが好ましい。これにより、下層圧電膜51の引張応力と上層圧電膜52の圧縮応力とが相殺され、圧電膜50の全体として内部に残存する応力を低減できる。この場合、上層圧電膜52を複数回のスパッタによって成膜するようにしてもよい。そして、上層圧電膜52のうちの、下層圧電膜51側の部分では引張応力が発生するようにすると共に下層圧電膜51と反対側となる最上層側の部分に圧縮応力が発生するようにすることにより、圧電膜50として内部に残存する応力を低減するようにしてもよい。
【0042】
続いて、
図4Bに示されるように、上層電極膜63等を覆うようにフォトレジスト等で構成されるエッチングマスク材200を配置し、エッチングマスク材200に、スリット41が形成される部分が開口する開口部201を形成する。以下では、エッチングマスク材200のうちの上層電極膜63や上層圧電膜52を覆う側の面を他面200bとし、エッチングマスク材200のうちの他面200bと反対側の面を一面200aとし、開口部201の側面を側面200cとする。
【0043】
次に、
図4Cに示されるように、加熱処理を行うことにより、エッチングマスク材200の開口部201の形状を調整する。具体的には、エッチングマスク材200は、上層電極膜63や上層圧電膜52を覆うように配置されており、これらに固定される他面200b側の部分と、一面200a側の部分とで熱収縮の仕方が異なる。より詳しくは、加熱処理を行った際、エッチングマスク材200は、他面200b側の部分が熱収縮し難くなり、一面200a側の部分が熱収縮し易くなる。このため、加熱処理を行うことにより、エッチングマスク材200の他面200bと側面200cとの成す角度θ2(以下では、単にエッチングマスク材200の成す角度θ2ともいう)を所望する振動領域22の成す角度θ1に合わせて調整する。この場合、圧電膜50とエッチングマスク材200とは、別材料で構成されるため、通常は後述する異方性ドライエッチングを行った際のエッチングレートが異なる。したがって、エッチングレート等に基づき、振動領域22の成す角度θ1が所望の値となるようにエッチングマスク材200の成す角度θ2を調整する。なお、ここでのエッチングマスク材200の成す角度θ2は、上記のように調整されるため、振動領域22の成す角度θ1と一致する場合もあるが、振動領域22の成す角度θ1と一致しない場合もある。
【0044】
次に、
図4Dに示されるように、エッチングマスク材200をマスクとして異方性ドライエッチングを行い、圧電膜50を貫通して支持体10に達するスリット41を形成する。本実施形態では、テーパ部42となる側面22cを有する4つの振動領域構成部分220が構成されるようにスリット41を形成する。
【0045】
この際、上記のように、エッチングマスク材200の成す角度θ2が振動領域22の成す角度θ1に応じて調整されており、振動領域構成部分220の成す角度θ1は、39~81°とされる。なお、振動領域構成部分220は、後述する凹部10aを形成することで振動領域22となる部分である。このため、振動領域構成部分220の成す角度θ1と振動領域22の成す角度θ1とは同じである。そして、図中では、振動領域構成部分220の一面、他面、および側面に対して振動領域22の一面22a、他面22b、および側面22cと同じ符号を付してある。また、下層電極膜61、中間電極膜62、および上層電極膜63は、スリット41に達しないように形状が調整されている。このため、この工程では、圧電膜50および下地膜70が異方性ドライエッチングされる。
【0046】
その後、
図4Eに示されるように、図示しないマスクを用い、支持基板11の他面11bから絶縁膜12を貫通して下地膜70に達するようにエッチングを行って凹部10aを形成する。本実施形態では、支持基板11を異方性ドライエッチングで除去した後、絶縁膜12を等方性ウェットエッチングで除去して凹部10aを形成する。これにより、振動領域構成部分220が支持体10から浮遊して振動領域22が構成され、
図1に示す圧電素子1が製造される。
【0047】
なお、この工程では、特に図示しないが、上層圧電膜52や上層電極膜63を覆う保護レジスト等を配置して凹部10aを形成するようにしてもよい。これにより、凹部10aを形成する際に振動領域22が破壊されることを抑制できる。但し、保護レジストは、凹部10aが形成された後に除去される。
【0048】
次に、本実施形態の製造工程における振動領域構成部分220(すなわち、振動領域22)の成す角度θ1について説明する。
【0049】
まず、本発明者らの検討によれば、ScAlN等の圧電膜50を異方性ドライエッチングする場合、成す角度θ1が81°以上になると、以下の現象が確認された。すなわち、成す角度θ1が81°以上になると、エッチングされた原子がスリット41の側面22cに再堆積するリデポの影響により、加工性が低下する傾向にあることが確認された。さらに、本発明者らの検討によれば、ScAlN等の圧電膜50を異方性ドライエッチングする場合、成す角度θ1が63°以上になると、以下の現象が確認された。すなわち、成す角度θ1が63°以上になると、エッチングされた原子がスリット41における一面22a側の開口部の近傍に再堆積して構成されるフェンスの影響により、加工性が低下する傾向にあることが確認された。このため、スリット41を形成する場合、成す角度θ1が63°以下とされることが好ましい。これにより、フェンス等によって加工性が低下することを抑制できる。
【0050】
また、圧電膜50を構成するScAlNは、難エッチング材である。そして、本発明者らの検討によれば、圧電膜50を貫通するスリット41を形成する場合、圧電膜50上にエッチングマスク材200が残存するようにするためには、エッチングマスク材200の膜厚を圧電膜50の膜厚の3~5倍にすることが好ましいことが確認された。言い換えると、圧電膜50を貫通するスリット41を形成する場合、エッチングマスク材200で覆われる圧電膜50が異方性ドライエッチングで除去されないようにするためには、エッチングマスク材200の膜厚を圧電膜50の膜厚の3~5倍にすることが好ましいことが確認された。つまり、
図5に示されるように、圧電膜50の膜厚をA1とし、エッチングマスク材200の膜厚をA2とすると、エッチングマスク材200の膜厚A2は、3A1~5A1とされることが好ましい。なお、本実施形態の下地膜70は、上記のように、圧電膜50に対して極めて薄く形成されている。このため、下地膜70の影響を無視している。
【0051】
また、スリット41を形成する場合には、加工装置の露光制約の影響も受ける。本発明者らの検討によれば、現状の一般的な加工装置では、
図5に示されるように、スリット41における一面22a側の幅をスリット幅gとした場合、エッチングマスク材200の膜厚A2に対するスリット幅gの解像度は、エッチングマスク材200の膜厚A2の1/2~1/3が限界となることが確認された。したがって、エッチングマスク材200の膜厚A2が3A1~5A1で示されるため、スリット幅gは、3A1/3~5A1/2の範囲が限界となる。
【0052】
そして、上記のような圧電素子1では、スリット41から音圧が抜け出る。この場合、
図6に示されるように、スリット41の実効幅が長くなるほど低周波数での感度が低下する。このため、スリット41は、実効幅が狭くなるように形成されることが好ましい。なお、スリット41の実効幅とは、スリット41の平均幅のことである。例えば、本実施形態のようにスリット41が一面22aから他面22bに向かって幅が連続的に狭くなるテーパ状とされている場合には、一面22a側の幅と他面22b側の幅との平均となる。
【0053】
また、本実施形態のスリット41は、異方性ドライエッチングで形成されるため、側面22cが略平面状となる。このため、感度が低下することを抑制できるようにスリット41における他面22b側の幅を略0と仮定し、圧電膜50の膜圧をA1とし、一面22a側のスリット幅をgとすると、tanθ1=A1/(g/2)となる。なお、g/2は、スリット実効幅ともいえる。したがって、上記のようにスリット幅gが3A1/3~5A1/2であるため、tanθ1=2~0.8となり、θ1=39~63°が好適となる。
【0054】
そして、本発明者らがさらに検討したところ、エッチングマスク材200の膜厚A2は、圧電膜50の膜厚A1の1~5倍であってもよいことが確認された。つまり、エッチングマスク材200の膜厚A2は、A1~5Aであってもよいことが確認された。したがって、スリット幅gは、A1/3~5A1/2が限界となる。このため、さらなる本発明者らの検討によれば、tanθ1=6~0.8となり、θ1=39~81°が好適となる。したがって、スリット41を形成する際には、振動領域構成部分220の成す角度θ1が39~81°となるようにすることが好ましい。これにより、エッチングマスク材200の膜厚A2に起因してスリット41の加工性が低下することを抑制できる。
【0055】
なお、圧電膜50の膜厚A1に対するエッチングマスク材200の膜厚A2の比(以下では、膜厚比ともいう)と、成す角度との関係をまとめると、
図7に示されるようになる。そして、上記のように、エッチングマスク材200の膜厚A2に対するスリット幅gの解像度は、エッチングマスク材200の膜厚A2の1/2~1/3が限界となる。このため、成す角度θ1の下限となる39°は、解像度がエッチングマスク材200の1/2倍である場合となり、上限は、解像度がエッチングマスク材の1/3倍である場合となる。
【0056】
ここで、比較例の圧電素子1として、圧電膜50をAlN等のエッチングし易い材料を用い、振動領域22の側面22cが他面22bに対して略垂直とされているものを挙げる。そして、比較例の圧電素子1におけるスリット41の実効幅をgとする。この場合、本実施形態の圧電素子1における実効幅がg以上となると、スリット41の幅が広がるため、比較例の圧電素子1よりも感度が低下する可能性がある。
【0057】
したがって、スリット41は、実効幅が比較例の圧電素子1におけるスリット41の実行幅以下となるように形成されることが好ましい。つまり、tanθ1が1以上となるように構成されることが好ましい。このため、θ1は、45°以上とされることが好ましく、45~81°とされることが好ましい。これにより、感度が低下することも抑制できる。この場合、θ1を63°以下とすることにより、フェンス等によってスリット41の加工性が低下することも抑制できる。
【0058】
次に、上記圧電素子1を用いた圧電装置S10について説明する。
【0059】
本実施形態の圧電装置は、
図8に示されるように、圧電素子1がケーシング100に収容されて構成されている。ケーシング100は、圧電素子1および所定の信号処理等を行う回路基板110が搭載されるプリント基板101と、圧電素子1および回路基板110を収容するようにプリント基板101に固定される蓋部102とを有している。なお、本実施形態では、プリント基板101が被実装部材に相当する。
【0060】
プリント基板101は、特に図示しないが、配線部やスルーホール電極等が適宜形成された構成とされており、必要に応じて図示しないコンデンサ等の電子部品等も搭載されている。そして、圧電素子1は、支持基板11の他面11bが接着剤等の接合部材2を介してプリント基板101の一面101aに搭載されている。回路基板110は、導電性部材で構成される接合部材111を介してプリント基板101の一面101aに搭載されている。そして、圧電素子1のパッド部82cと回路基板110とは、ボンディングワイヤ120を介して電気的に接続されている。なお、圧電素子1のパッド部81cは、
図8とは別断面において、ボンディングワイヤ120を介して回路基板110と電気的に接続されている。蓋部102は、金属、プラスチック、または樹脂等で構成されており、圧電素子1および回路基板110を収容するように、図示しない接着剤等の接合部材を介してプリント基板101に固定されている。
【0061】
そして、本実施形態では、プリント基板101のうちのセンシング部30と対向する部分に貫通孔101bが形成されている。具体的には、貫通孔101bは、略円筒状とされており、法線方向において、中心軸が振動領域22のうちの中心部Cと一致するように形成されている。
【0062】
以上が本実施形態における圧電装置S10の構成である。以下、ケーシング100内において、貫通孔101bが形成される部分と振動領域22との間の空間を受圧面空間S1とする。また、振動領域22を挟んで受圧面空間S1と反対側に位置する空間を含み、当該空間とスリット41を介さずに連続した空間をバック空間S2とする。なお、バック空間S2は、ケーシング100内の空間において、受圧面空間S1と異なる空間であるともいうことができ、受圧面空間S1を除いた空間ということもできる。さらに言い換えると、受圧面空間S1は、振動領域22におけるケーシング100に形成された貫通孔101b側の面(すなわち、本実施形態では他面22b)を押圧するのに影響する空間ともいえる。バック空間S2は、振動領域22におけるケーシング100に形成された貫通孔101b側と反対側の面(すなわち、本実施形態では一面22a)を押圧するのに影響する空間ともいえる。
【0063】
そして、このような圧電装置S10では、受圧面空間S1に圧力としての音圧が導入されることで振動領域22(すなわち、センシング部30)に音圧が印加され、上記のように音圧が検出される。
【0064】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22の成す角度θ1が39~81°とされている。このため、エッチングマスク材200の膜厚A2に起因してスリット41の加工性が低下することを抑制でき、スリット41を好適に形成できる。また、成す角度θ1が81°以下であるため、リデポの影響を低減でき、加工性が低下することを抑制できる。
【0065】
(1)本実施形態では、振動領域22の成す角度θが63°以下とされることにより、フェンスの影響によって加工性が低下することを抑制できる。
【0066】
(2)本実施形態では、振動領域22の成す角度θ1が45°以上とされることにより、感度が低下することを抑制できる。
【0067】
(上記第1実施形態の変形例)
上記第1実施形態の変形例について説明する。上記第1実施形態において、スリット41を形成する場合には、ウェットエッチングを行った後にドライエッチングを行うようにしてもよい。これによれば、ウェットエッチングを行った際にエッチングマスク材200が除去されないため、圧電膜50の膜厚A1に基づいて規定されるエッチングマスク材200の膜厚A2を薄くでき、エッチングマスク材200の膜厚A2で規定されるスリット幅gを狭くできる。したがって、実効幅g/2を狭くでき、感度の向上を図ることができる。
【0068】
また、上記第1実施形態において、振動領域22における平面形状は、適宜変更可能である。例えば、振動領域22は、
図9A~
図9Gに示されるように、平面形状が、六角形状、八角形上、十角形状、十二角形状、十四角形状、十六角形状、または円形状とされていてもよい。また、特に図示しないが、振動領域22は、その他の多角形状とされていてもよい。なお、
図9A~
図9Gでは、振動領域22に形成されるスリット41を省略しているが、振動領域22には、それぞれスリット41が形成される。例えば、
図9Aのように振動領域22の平面形状が六角形状である場合、スリット41は、振動領域22の外形の各角部から中心部Cで交差するように形成される。また、
図9Gのように振動領域22の平面形状が円形状である場合、スリット41は、中心部で交差するように、所望する複数本が周方向に均等に形成される。
【0069】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、スリット41の形状を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0070】
本実施形態の圧電素子1では、
図10に示されるように、スリット41は、一面22a側にテーパ状とされたテーパ部42が構成され、他面22b側に幅が一定とされた一定部43が構成されるように形成されている。つまり、スリット41は、他面22b側に、当該他面22bに対して側面22cが垂直となる一定部43が構成されるように形成されている。そして、スリット41は、テーパ部42と一定部43とが連結された構成とされている。また、本実施形態では、テーパ部42と、一面22aと平行な仮想面Svとのなす角度θ1が39~81°とされている。
【0071】
なお、このようなスリット41は、例えば、テーパ部42を形成した後にエッチングマスク材200を除去し、別のエッチングマスク材を配置して一定部43が形成されるように異方性ドライエッチングを行えばよい。なお、一定部43を形成する際に別のエッチングマスク材に形成される開口部は、開口部の側面と当該エッチングマスク材の他面との成す角度が略90°とされる。
【0072】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22の成す角度θ1が39~81°とされているため、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0073】
(1)本実施形態では、スリット41は、テーパ状とされたテーパ部42、および幅が一定とされた一定部43が構成されるように形成されている。このため、例えば、スリット41における一面22a側の幅、およびスリット41における他面22b側の幅が同じである圧電素子1と比較した場合、本実施形態の圧電素子1の方が実効幅を狭くできる。したがって、音圧が抜け難くなり、感度の向上を図ることができる。
【0074】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、凹部10aと振動部20との境界部分の形状を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0075】
本実施形態の圧電素子1は、
図11に示されるように、凹部10aの開口端と、振動部20との境界部分Bが湾曲形状とされている。本実施形態では、凹部10aは、開口端が下地膜70に達するように形成されており、下地膜70のうちの凹部10aとの境界部分Bが湾曲形状とされている。なお、このような湾曲形状は、例えば、絶縁膜12を除去する際の等方性ウェットエッチングにて下地膜70の一部も除去されるようにすることで形成される。
【0076】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22の成す角度θ1が39~81°とされているため、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0077】
(1)本実施形態では、凹部10aと振動部20との境界部分Bが湾曲形状とされている。このため、振動領域22に音圧が印加された際に凹部10aと振動部20と境界部分Bに応力が集中することを抑制でき、振動領域22が破壊されることを抑制できる。
【0078】
(第4実施形態)
第4実施形態について説明する。本実施形態は、第3実施形態に対し、下地膜70内に高強度材料を配置したものである。その他に関しては、第3実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0079】
本実施形態の圧電素子1は、
図12に示されるように、下地膜70のうちの凹部10aとの境界部分Bに、下地膜70よりも高強度材料で構成される保護部材71が配置されている。保護部材71は、例えば、窒化膜等で構成される。
【0080】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22の成す角度θ1が39~81°とされているため、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0081】
(1)本実施形態では、下地膜70のうちの凹部10aとの境界部分Bに保護部材71が配置されている。つまり、振動領域22に音圧が印加された際に応力が集中し易い部分に保護部材71が配置されている。このため、振動領域22に音圧が印加された際に振動領域22が破壊されることを抑制できる。
【0082】
(第5実施形態)
第5実施形態について説明する。本実施形態は、第3実施形態と第4実施形態を組み合わせたものである。その他に関しては、第3実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0083】
本実施形態の圧電素子1は、
図13に示されるように、下地膜70のうちの凹部10aとの境界部分Bに保護部材71が配置されている。そして、保護部材71のうちの凹部10aとの境界部B分が湾曲形状とされている。
【0084】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22の成す角度θ1が39~81°とされているため、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0085】
(1)本実施形態では、下地膜70のうちの凹部10aとの境界部分Bに保護部材71が配置されている。そして、保護部材71のうちの凹部10aとの境界部分Bが湾曲形状とされている。このため、さらに振動領域22が破壊されることを抑制できる。
【0086】
(第6実施形態)
第6実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、第1電極部81および第2電極部82の配置の仕方を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0087】
本実施形態の圧電素子1は、
図14に示されるように、平面構成は上記第1実施形態と同様とされている。そして、本実施形態では、
図14に示されるように、4つの振動領域22について、1つの振動領域22を第1振動領域221とし、第1振動領域221から周方向に第2~第4振動領域222~224とする。
【0088】
そして、第1電極部81は、
図15Aに示されるように、第1振動領域221に形成されている下層電極膜61および上層電極膜63と接続されている。第2電極部82は、
図15Bに示されるように、第4振動領域224に形成されている中間電極膜62と接続されている。
【0089】
なお、本実施形態の電極膜60は、
図16に示されるように、第1領域R1に形成されている部分の外形が振動領域22の外形と略等しくなるように形成されており、本実施形態では平面矩形状とされている。但し、下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63は、上記のように第1~第4振動領域221~224で分割されている。このため、ここでの下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63の第1領域R1に形成されている部分の外形とは、下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63における第1領域R1に位置する部分の外形線および当該外形線の延長線で構成される形状のことである。また、
図17では電極膜60として示しているが、電極膜60となる下層電極膜61、中間電極膜62、および上層電極膜63は、第1領域R1において、それぞれ
図17の電極膜60と同様の形状とされている。
【0090】
そして、本実施形態では、
図17に示されるように、各振動領域221~224が順に直列に接続された回路構成となる。
【0091】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22の成す角度θ1が39~81°とされているため、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0092】
(1)本実施形態では、第1~第4振動領域221~224が順に直列に接続された状態となる。このため、各振動領域221~224の電極膜60を接続する配線部の引き回しを容易にできる。
【0093】
(第6実施形態の変形例)
第6実施形態の変形例について説明する。本実施形態の圧電素子1は、
図18に示されるように、電極膜60は、第1領域R1において複数の電荷領域60aに分割されていてもよい。例えば、電極膜60は、各振動領域221~224の第1領域R1において、3つの電荷領域60aに分割されていてもよい。なお、電極膜60となる下層電極膜61、中間電極膜62、および上層電極膜63は、第1領域R1において、それぞれ
図18のように電荷領域60aに分割される。この場合、
図19に示されるように、圧電素子1は、分割された各電荷領域60aによって構成される容量がそれぞれ直列に接続された状態となる。これによれば、各振動領域221~224内の容量を低減することができ、出力の向上を図ることができる。つまり、検出感度の向上を図ることができる。
【0094】
(第7実施形態)
第7実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、スリット41の形状を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0095】
本実施形態の圧電素子1は、
図20に示されるように、スリット41は、法線方向において、支持領域21a側から浮遊領域21bの中心部Cに向かってスリット幅gが狭くされたテーパ状とされている。言い換えると、スリット41は、法線方向において、支持領域21a側から振動領域22の他端部21e側に向かってスリット幅gが狭くされたテーパ状とされている。
【0096】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22の成す角度θ1が39~81°とされているため、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。°
【0097】
(1)本実施形態では、スリット41が浮遊領域21bの中心部Cに向かってスリット幅gが狭くなるテーパ状とされている。このため、振動領域22に音圧が印加されて振動領域22が撓んだ際、撓んだ状態での各スリット41のスリット幅gが均一化し易くなる。言い換えると、振動領域22が撓んだ際、各スリット41は、法線方向において、支持領域21a側の部分と中心部c側の部分とでスリット幅gが均一化し易くなる。したがって、各スリット41内で局所的な音圧の抜け易さに差が発生し難くなり、ノイズを小さくできる。このため、さらに検出精度の向上を図ることができる。
【0098】
(第8実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に対し、振動領域22および中間電極膜62の形状を調整したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0099】
本実施形態の圧電素子1について、
図21および
図22を参照しつつ説明する。なお、
図21では、スリット41を省略して示している。但し、スリット41は、実際には、上記第1実施形態と同様に、振動領域22の平面形状における各角部から中心部Cに向かって延設されている。
【0100】
振動領域22は、
図21に示されるように、法線方向において、外形が正八角形状とされている。つまり、支持体10の凹部10aは、開口部の形状が正八角形状とされている。以下、振動領域22が正八角形状とされている理由について説明する。上記のように、本実施形態では、支持基板11がシリコンで構成されている。このため、凹部10aの開口部の形状(すなわち、振動領域22の外形)を正八角形状とすることにより、支持基板11における凹部10aの開口端(すなわち、振動領域22の外側端部)の局所箇所に歪が集中することを抑制できる。このため、振動領域22における支持領域21aとの境界部の局所箇所に歪が集中することを抑制できる。
【0101】
また、本実施形態の電極膜60は、
図22に示されるように、法線方向において、第1領域R1に形成される部分の外形が正八角形状とされている。つまり、電極膜60は、第1領域において、外縁部が凹部10aの開口端と略一致するように形成されている。そして、電極膜60は、第1領域R1に形成される部分がスリット41とは異なる電極膜用スリット60bによって分離されている。具体的には、電極膜用スリット60bは、6本形成されており、各電極膜用スリット60b内の所定箇所を結んで構成される仮想形状(以下では、単に仮想形状ともいう)KSが六角形状となるように形成されている。より詳しくは、電極膜用スリット60bは、各電極膜用スリット60bと電極膜60の外形とが交差する部分を結んで構成される仮想形状が六角形状となるように形成されている。
【0102】
なお、ここでの電極膜60の第1領域R1に位置する部分の外形とは、上記のように、電極膜60における第1領域R1に位置する部分の外形線および当該外形線の延長線で構成される形状のことである。
【0103】
以下、電極膜60の仮想形状KSが六角形状とされている理由について説明する。上記のように、電極膜60および圧電膜50は、下層電極膜61、下層圧電膜51、中間電極膜62、上層圧電膜52、上層電極膜63の順に積層されて配置されている。そして、下層電極膜61、中間電極膜62、上層電極膜63を形成する際には、金属膜を成膜した後、マスクを用いたドライエッチング等で金属膜を所望の形状にパターニングする。この際、マスクを用いているものの、下地となる下層圧電膜51や上層圧電膜52がエッチングされる可能性がある。この場合、圧電膜50をScAlNで構成した場合には六方晶構造となるため、電極膜60の仮想形状KSを六角形状とすることにより、圧電膜50の表面がエッチングされた際に圧電膜50の結晶性が崩れることを抑制できる。つまり、電極膜用スリット60bが形成される部分を圧電膜50の結晶構成に合わせることにより、圧電膜50の特性が変動することを抑制できる。
【0104】
そして、本実施形態の圧電素子1は、
図23に示されるように、各電極膜61~63の間の容量が接続される。本実施形態では、上記のように、電極膜60がスリット41とは別の電極膜用スリット60bによって6個に分割されている。このため、本実施形態の圧電素子1は、6個に分割された領域226を有し、各領域226の容量に基づいた圧力検出信号を出力する。
【0105】
なお、本実施形態の電極膜60は、上記のように電極膜用スリット60bによって分離されており、スリット41によって分離されていない。このため、
図24に示されるように、電極膜60は、スリット41が形成される部分において、繋がった状態となっている。このような圧電素子1は、例えば、
図4Aおよび
図4Bの工程を行う際、各膜を形成する毎にスリット41または電極膜用スリット60bを形成することによって製造される。例えば、下地膜70を形成した後、下地膜70上に金属膜を形成する。そして、金属膜をパターニングして下層電極膜61を形成する際に電極膜用スリット60bを形成する。その後、下層電極膜61上に下層圧電膜51を形成し、中間電極膜62を形成する前に、下層圧電膜51に、下層圧電膜51のみを貫通するスリット41を形成すればよい。その後、中間電極膜62、上層圧電膜52、および上層電極膜63も同様に形成することにより、本実施形態の圧電素子1が製造される。
【0106】
また、本実施形態の電極膜60は、実際には、中心部Cと反対側の外縁端部が第1領域R1の外側まで形成されていると共に、内縁端部が第2領域R2内まで形成されている。このため、金属膜を成膜した後に当該金属膜を所望の形状にパターニングして中間電極膜62や上層電極膜63を形成する際、電極膜用スリット60bと異なる部分では、圧電膜50が除去されたとしても、第1領域R1外の圧電膜50が除去される。したがって、仮想形状KSを六角形状とすることにより、検出精度が低下することを抑制できる。
【0107】
また、振動領域22および電極膜60の仮想形状KSは、中心部Cを基準として点対称となるように配置されている。本実施形態では、法線方向において、電極膜60の仮想形状KSが六角形状とされ、振動領域22の外形が正八角形状とされている。そして、振動領域22および電極膜60は、電極膜60の仮想形状KSにおける相対する2つの頂点と、振動領域22の外形における相対する2つの頂点とが一致するように配置されている。言い換えると、振動領域22における相対する2つの頂点を結ぶ仮想線K3上に、電極膜60の仮想形状KSにおける相対する2つの頂点が配置されている。
【0108】
さらに、本実施形態の圧電素子1(すなわち、振動部20)は、上記のように平面矩形状とされている。そして、振動領域22および電極膜60の仮想形状KSは、圧電素子1の外形における相対する角部を結ぶ仮想線K2上と異なる部分に各角部が位置するように形成されている。
【0109】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22の成す角度θ1が39~81°とされているため、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0110】
(1)本実施形態では、法線方向において、振動領域22および電極膜60は、中心部Cを基準として点対称となるように配置されている。このため、振動領域22に音圧が印加された際、電極膜60から均等に電荷を取り出し易くできる。したがって、検出感度が低下することを抑制でき、検出精度が低下することを抑制できる。
【0111】
(2)本実施形態では、振動領域22および電極膜60の仮想形状KSは、圧電素子1の外形における相対する角部を結ぶ仮想線K2上と異なる部分に各角部が位置するように形成されている。このため、検出精度が低下することを抑制できる。すなわち、圧電素子1では、相対する角部を結ぶ仮想線K2上となる部分が熱応力等によって歪易い。この場合、振動領域22の角部または電極膜60の仮想形状KSの角部が仮想線K2上に位置していると、変形し易い角部に大きな熱応力が印加され易くなり、ノイズが大きくなり易い。したがって、本実施形態のように、振動領域22および電極膜60の角部が仮想線K2上と異なる部分に位置するようにすることにより、検出精度が低下することを抑制できる。
【0112】
(3)本実施形態では、電極膜60の仮想形状KSが六角形状とされている。このため、電極膜60をパターニングして構成する際に圧電膜50の結晶性が崩れることを抑制できる。したがって、圧電素子1の特性が変動することを抑制できる。
【0113】
(4)本実施形態では、振動領域22の外形が正八角形状とされている。このため、振動領域22の局所箇所に歪が集中することを抑制できる
【0114】
(第8実施形態の変形例)
上記第7実施形態の変形例について説明する。上記第7実施形態において、振動領域22および電極膜60が中心部Cを基準として点対称となるように配置されていれば、上記7実施形態と同様に、電極膜60から均等に電荷を取り出し易くできる。このため、例えば、
図25に示されるように、振動領域22および電極膜60は、振動領域22における相対する一対の辺の中心と中心部Cとを結ぶ仮想線K1上に、電極膜60における相対する一対の頂点が位置するように配置されていてもよい。なお、このような構成とする場合においても、振動領域22および電極膜60は、各角部が仮想線K2上と異なる部分に位置するように形成されることが好ましい。また、
図25では、
図21と同様に、スリット41の図示を省略している。
【0115】
さらに、上記第6実施形態において、第1実施形態の変形例と同様に、電極膜60は、
図26に示されるように、第1領域R1において、複数の電荷領域60aに分割されていてもよい。そして、
図27に示されるように、分割された各電荷領域60aがそれぞれ直列に接続されるようにしてもよい。なお、電極膜60をこのように構成する場合、圧電膜50に形成されるスリット41によって電極膜60を形成するようにしてもよい。
【0116】
(第9実施形態)
第9実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、スリット長さ等を規定したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0117】
本実施形態の圧電装置S10は、基本的には第1実施形態と同様であり、
図28に示すように構成されている。なお、
図28は、後述する音響抵抗Rg等を模式的に示している。この場合、圧電装置S10における感度は、圧電素子1の音響コンプライアンスをCmとし、バック空間S2の音響コンプライアンスをCbとすると、1/{(1/Cm)+(1/Cb)}で示される。なお、音響コンプライアンスCbは、下記数式1で示される。
【0118】
【数1】
上記数式1において、Vbはバック空間S2の容積であり、ρ0は空気密度であり、cは音速である。そして、音響コンプライアンスCbは、バック空間S2の容積Vbに比例する。このため、音響コンプライアンスCbの感度に対する影響は、バック空間S2が小さくなるほど小さくなる。そして、現状では、圧電装置S10の小型化が望まれており、圧電装置S10の小型化を図ることでバック空間S2も小さくなる。したがって、圧電装置S10の感度は、圧電素子1の音響コンプライアンスCmの影響が大きくなる。
【0119】
ここで、上記のような圧電素子1では、感度を維持できる周波数を広域化することが望まれている。このため、本実施形態では、低周波ロールオフ周波数を小さくするようにしている。
【0120】
まず、低周波ロールオフ周波数frは、スリット41による音響抵抗(すなわち、空気抵抗)をRgとすると、下記数式2で示される。
【0121】
【数2】
このため、低周波ロールオフ周波数frを小さくするためには、音響抵抗Rgまたはバック空間S2の音響コンプライアンスCbを大きくすればよい。但し、音響コンプライアンスCbは、上記数式1のように、バック空間S2の容積Vbに比例する。そして、現状では、圧電装置S10の小型化が望まれている。このため、低周波ロールオフ周波数frを小さくするためには、音響抵抗Rgを大きくすることが好ましい。そして、音響抵抗Rgは、下記数式3で示される。
【0122】
【数3】
上記数式3において、μは、空気の摩擦抵抗であり、hは振動領域22の厚さであり、gaはスリット41の平均スリット幅gaであり、Lは各振動領域22におけるスリット41のスリット長さLである。なお、平均スリット幅gaとは、スリット41の厚さ方向に沿った幅の平均のことである。また、スリット長さLとは、
図2に示されるように、スリット41の延設方向に沿った方向の長さであり、振動領域22の角部から中心部Cまでの長さとなる。言い換えると、スリット長さLとは、振動領域22の側面22cにおける厚さ方向と直交する方向の長さのことであり、振動領域22の側面22cに沿ったスリット41の長さのことである。
【0123】
そして、低周波ロールオフ周波数frを可聴域外となる20Hz以下とするには、下記数式4を満たすようにすればよい。
【0124】
【数4】
この場合、数式4を変更すると下記数式5となる。そして、数式5を数式3に基づいて変更すると下記数式6となる。
【0125】
【0126】
【数6】
このため、低周波ロールオフ周波数frを20Hz以下にするためには、スリット長さL、スリット幅g、振動領域22の厚さh、バック空間S2の音響コンプライアンスCbが上記数式6を満たすように形成されていればよい。そして、本実施形態では、上記数式6を満たすように、スリット長さL等が調整されている。
【0127】
ここで、例えば、振動領域22の厚さhを1μmにした場合、
図29に示されるように、音響抵抗Rgは、平均スリット幅gaが長くなるにつれて小さくなると共に、スリット長さLが長くなるにつれて小さくなることが確認される。また、平均スリット幅gaを1μmとした場合、
図30に示されるように、音響抵抗Rgは、振動領域22の厚さhを厚くするにつれて小さくなると共に、スリット長さLが長くなるにつれて小さくなることが確認される。そして、
図31に示されるように、例えば、音響抵抗が100Hz程度となるスリット長さLが700μmである場合を基準とすると、スリット長さLは、150μm程度であれば、20Hz以下とできることが確認される。
【0128】
なお、
図31では、スリット長さLが700μmである場合を基準としているため、スリット長さLが700μmである場合の音響抵抗比率が1となる。また、
図31は、バック空間S2の音響コンプライアンスCbに影響するバック空間S2の容積を4×10
-9m
3としている。
【0129】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22の成す角度θ1が39~81°とされているため、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0130】
(1)本実施形態では、スリット長さL、平均スリット幅ga、振動領域22の厚さh、バック空間S2の音響コンプライアンスCbは、上記数式6を満たすように形成されている。このため、低周波ロールオフ周波数frを20Hz以下にでき、感度を維持できる範囲を広域化できる。
【0131】
(第10実施形態)
第10実施形態について説明する。本実施形態は、第9実施形態に対し、スリット41の形状を変更したものである。その他に関しては、第9実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0132】
上記第9実施形態では、スリット幅gが振動領域22の厚さ方向に沿って次第に狭くなるテーパ状である構成について説明した。しかしながら、スリット41は、スリット幅gが振動領域22の厚さ方向に沿って段階的に変化するようにしてもよく、例えば、
図32に示されるように、スリット幅gが3段階で変化する形状とされていてもよい。具体的には、本実施形態では、スリット41は、振動領域22の他面22b側から一面22a側に向かって、スリット幅gがg1、g2、g3の順に広くなるように形成されている。なお、この構成では、他面22b側のスリット41の開口端部と、一面22a側のスリット41の開口端部とを結ぶ線と、他面22bとの間の角度が成す角度θ1となる。
【0133】
この場合、スリット長さLは、平均スリット幅gaを用いても求めてもよいが、下記数式7を用いて求めるようにしてもよい。なお、下記数式7では、振動領域22において、スリット幅がg1となる部分の厚さを振動領域22の厚さh1とし、スリット幅がg2となる部分の厚さを振動領域22の厚さh2とし、スリット幅がg3となる部分の厚さを振動領域22の厚さh3としている。
【0134】
【数7】
また、スリット41は、他面22b側の幅をg1とすると共に一面22a側の幅をg3とした場合、他面22bと一面22aとの間の変化する段数を変化させると、音響抵抗Rgが
図33に示されるようになる。具体的には、他面22b側のスリット幅g1と一面22a側のスリット幅g3とが同じである場合、変化する段数が少ない方が音響抵抗Rgが大きくなり易いことが確認される。そして、低周波ロールオフ周波数frは、上記数式2より、音響抵抗Rgが大きい方が小さくなる。このため、スリット41のスリット幅gを振動領域22の厚さ方向に沿って変化させる場合には、バック空間S2の音響コンプライアンスCbを考慮して段数を調整することが好ましい。なお、
図33は、他面22b側のスリット幅g1を0.8μmとすると共に振動領域22の全体の厚さhを1μmとし、一面22a側のスリット幅g3を変化させた場合の図である。
【0135】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22の成す角度θ1が39~81°とされているため、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0136】
(1)本実施形態では、スリット長さL、平均スリット幅ga、振動領域22の厚さh、バック空間S2の音響コンプライアンスCbは、上記数式7を満たすように形成されている。このため、低周波ロールオフ周波数frを20Hz以下にでき、感度を維持できる範囲を広域化できる。
【0137】
(第11実施形態)
第11実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、接合部材2の形状を規定したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0138】
本実施形態の圧電装置S10では、
図34に示されるように、接合部材2は、法線方向において、外形が角部を有する矩形状とされている。そして、接合部材2は、圧電素子1における支持基板11の他面11bにおいて、圧電素子1の角部となる部分と異なる部分に接合されている。本実施形態では、接合部材2は、法線方向において、圧電素子1における相対するそれぞれの辺部から、接合部材2の各角部が突出するように配置されている。また、接合部材2は、接合部材2の角部が、圧電素子1の外形における相対する角部を結ぶ仮想線K2上と異なる部分に位置するように配置されている。なお、本実施形態の接合部材2は、外形が予め規定された接合シートを用いて構成されている。
【0139】
また、本実施形態の電極膜60および振動領域22は、上記第8実施形態と同様に、電極膜60が六角形状とされ、振動領域22が正八角形状とされている。そして、電極膜60および振動領域22は、中心部Cを基準として点対称となるように配置されている。なお、
図34では、スリット41を省略して示してある。
【0140】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22の成す角度θ1が39~81°とされているため、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0141】
(1)本実施形態では、接合部材2は、圧電素子1における外形の角部と異なる部分に配置されている。このため、プリント基板101から圧電素子1のうちの変形が大きくなり易い角部に熱応力が伝搬されることを抑制できる。したがって、伝搬された熱応力によって圧電素子1が変形し難くなり、振動領域22が変形し難くなる。これにより、検出感度が低下することを抑制でき、検出精度の向上を図ることができる。
【0142】
(2)本実施形態では、接合部材2は、外形が角部を有する矩形状とされている。そして、接合部材2は、法線方向において、角部が仮想線K2上と異なる部分に位置するように配置されている。このため、圧電素子1の変形によって接合部材2の角部に応力が集中することを抑制でき、接合部材2が剥離する等の不具合が発生することを抑制できる。
【0143】
(第11実施形態の変形例)
上記第11実施形態の変形例について説明する。接合部材2は、
図35Aに示されるように、法線方向において正三角形状とされていてもよいし、
図35Bに示されるように、法線方向において正八角形状とされていてもよい。また、特に図示しないが、接合部材2は、法線方向において、正六角形状や正十角形状等とされていてもよい。そして、接合部材2は、法線方向において、圧電素子1から突出するように配置されていてもよいし、圧電素子1の内側のみに配置されていてもよい。
【0144】
また、接合部材2は、プリント基板101に形成される貫通孔101bを基準として、
図36A~
図36Cに示されるように配置されていてもよい。なお、
図36A~
図36Cは、圧電素子1および接合部材2を支持基板11の他面11b側から視た平面図である。また、
図36A~
図36Cでは、振動領域22を省略して示し、貫通孔101bと対向する部分を破線で示している。そして、
図36A~
図36Cでは、支持基板11に形成される凹部10aは、法線方向において、貫通孔101bと一致する形状とされている。
【0145】
例えば、
図36Aに示されるように、接合部材2は、法線方向において貫通孔101bを囲む環状とされていてもよい。また、
図36Bに示されるように、接合部材2は、法線方向において、一方向に延設された部分と、当該一方向と直交する部分に延設された+字状とされていてもよい。そして、接合部材2は、
図36Cに示されるように、法線方向において、ひし形とされていてもよい。なお、
図36Bでは、接合部材2の角部が仮想線K2上に位置する構成となる。しかしながら、このような構成としても、接合部材2が圧電素子1の角部と異なる部分にのみ接合されることにより、熱応力が圧電素子1の角部に伝搬され難くなり、上記第11実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0146】
(第12実施形態)
第12実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、プリント基板101に突起部を形成したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0147】
本実施形態の圧電装置S10では、
図37に示されるように、プリント基板101に突起部101cが形成されている。具体的には、突起部101cは、接合部材2の外形に合わせた形状とされ、プリント基板101の一部で構成されている。例えば、本実施形態の突起部101cは、プリント基板101のうちの圧電素子1と対向する部分であって、圧電素子1の角部と対向する部分と異なる部分に形成されている。
【0148】
以上説明した本実施形態によれば、振動領域22の成す角度θ1が39~81°とされているため、上記第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0149】
(1)本実施形態では、プリント基板101に突起部101cが形成されている。このため、液状の接合部材2を塗布して配置する際、突起部101c上に接合部材2を塗布することにより、圧電素子1と接合される接合部材2の外形を容易に調整できる。したがって、接合部材2として液状のものも用いることができ、接合部材2の選択性を向上できる。特に、上記第11実施形態のように接合部材2の形状を調整する場合においては、容易に接合部材2の外形を調整できる。
【0150】
(第12実施形態の変形例)
上記第11実施形態の変形例について説明する。上記第12実施形態において、突起部101cは、プリント基板101と別部材で構成されていてもよい。
【0151】
(他の実施形態)
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0152】
例えば、上記各実施形態において、振動部20は、少なくとも1層の圧電膜50と、1層の電極膜60とを有する構成とされていればよい。また、圧電素子1は、平面形状が矩形状ではなく、五角形状や六角形状等の多角形状とされていてもよい。
【0153】
また、上記各実施形態において、振動部20のうちの浮遊領域21bは、4つの振動領域22に分割されるのではなく、3つ以下の振動領域22に分割されるようにしてもよいし、5つ以上の振動領域22に分割されるようにしてもよい。
【0154】
さらに、上記各実施形態において、圧電装置S10は、
図38に示されるように、蓋部102に貫通孔102aが形成された構成とされていてもよい。この場合、
図38に示されるように、受圧面空間S1は、ケーシング100のうちの振動領域22における一面22a側の空間となり、バック空間S2は、ケーシング100のうちの振動領域22における他面22b側の空間となる。
【0155】
そして、上記各実施形態において、スリット41は、中心部Cで交差するように形成されていなくてもよく、振動領域22は、支持領域21aに両持ち支持された状態とされていてもよい。これによれば、圧電素子1の共振周波数を高くでき、検出感度を維持できる周波数を広域化でき、さらに検出精度の向上を図ることができる。
【0156】
上記各実施形態を適宜組み合わせることもできる。例えば、上記第2実施形態を上記第3~第12実施形態に組み合わせ、スリット41がテーパ部42と一定部43とを有する構成とされていてもよい。上記第4、第5実施形態を上記第6~第12実施形態に組み合わせ、凹部10aと振動部20との境界部分Bの形状を変更するようにしてもよい。上記第6実施形態を上記第7~第12実施形態に組み合わせ、第1電極部81および第2電極部82の配置位置を変更するようにしてもよい。上記第7実施形態を上記第8~第12実施形態に組み合わせ、スリット41を中心部Cに向かってスリット幅gが狭くなるテーパ状としてもよい。上記第8実施形態を上記第9~第12実施形態に組み合わせ、振動領域22および電極膜60の形状、配置を規定するようにしてもよい。上記第9実施形態を上記第10~第12実施形態に組み合わせ、スリット長さL等を規定するようにしてもよい。上記第10実施形態を上記第10~12実施形態に組み合わせ、スリット41のスリット幅gが振動領域22の厚さ方向に沿って変化するようにされていてもよい。上記第11実施形態を上記第12実施形態に組み合わせ、接合部材2の配置箇所を規定するようにしてもよい。その他、上記各実施形態を組み合わせたもの同士をさらに組み合わせるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0157】
10 支持体
20 振動部
21a 支持領域
22 振動領域
22a 一面
22b 他面
22c 側面
41 スリット
42 テーパ部
【手続補正書】
【提出日】2023-10-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力に応じた圧力検出信号を出力する振動部(20)を有する圧電素子であって、
支持体(10)と、
前記支持体上に配置され、窒化スカンジウムアルミニウムで構成される圧電膜(50)と、前記圧電膜と接続されて前記圧電膜が変形することによって発生する電荷を取り出す電極膜(60)とを含む構成とされ、前記支持体に支持される支持領域(21a)と、前記支持領域と繋がっており、前記支持体から浮遊している振動領域(22)とを有し、前記電荷に基づいた前記圧力検出信号を出力する前記振動部と、
前記振動部に形成されたスリット(41)と、を備え、
前記スリットは、前記振動領域における前記支持体側と反対側の一面(22a)側から当該一面と反対側の他面(22b)側に向かって幅が狭くなるテーパ部(42)と、前記幅が一定とされた一定部(43)とが連結された構成とされている圧電素子。
【請求項2】
前記支持体には、前記振動部における内縁側を浮遊させる凹部(10a)が形成されており、
前記凹部の開口端と、前記振動部との境界部分は、湾曲形状とされている請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記支持体と、前記圧電膜および前記電極膜との間には、下地膜(70)が配置され、
前記下地膜のうちの前記凹部との境界部分には、前記下地膜よりも高強度に構成された保護部材(71)が配置されている請求項2に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記振動領域における前記テーパ部を構成する側面(22c)と、前記一面と平行な面(22b、Sv)との成す角度(θ1)が39~81°とされている請求項1ないし3のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項5】
前記テーパ部を構成する側面と、前記一面と平行な面との成す角度が63°以下とされている請求項4に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記テーパ部を構成する側面と、前記一面と平行な面との成す角度が45°以上とされている請求項4または5に記載の圧電素子。
【請求項7】
前記スリットは、前記振動領域の一面側に前記テーパ部が形成され、前記他面側に前記一定部(43)が形成されている請求項1ないし6のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項8】
前記スリットは、前記支持領域側から前記振動領域における前記支持領域側と反対側の端部(21e)側に向かって幅が狭くされたテーパ状とされている請求項1ないし7のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項9】
前記振動領域および前記電極膜は、前記振動領域における前記支持体側と反対側の一面(22a)に対する法線方向において、前記振動領域の中心部(C)に対して点対称となる状態で配置されている請求項1ないし8のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項10】
前記振動領域は、前記支持領域側の領域、および前記中心部を含む領域が第1領域(R1)とされると共に、前記第1領域と異なる領域が第2領域(R2)とされ、
前記圧電膜は、六方晶構造となる材料で構成され、
前記電極膜は、6本の電極膜用スリット(60b)によって分割されており、前記法線方向において、前記第1領域内のそれぞれの前記電極膜用スリットにおける所定箇所を結ぶ仮想形状(KS)が六角形状とされている請求項9に記載の圧電素子。
【請求項11】
前記支持体は、支持基板(11)と、前記支持基板上に配置され、前記振動部が配置される絶縁膜(12)とを有し、前記振動領域を浮遊させる凹部(10a)が前記支持基板および前記絶縁膜に形成されており、
前記支持基板は、シリコン基板で構成され、
前記振動領域は、前記法線方向において、外形が正八角形状とされている請求項9または10に記載の圧電素子。
【請求項12】
前記振動部は、前記振動領域における前記支持体側と反対側の一面(22a)に対する法線方向において、外形が多角形状とされており、
前記電極膜および前記振動領域は、前記法線方向において、少なくとも一方が角部を有する多角形状とされ、当該角部が、前記振動部の外形における相対する角部を結ぶ仮想線(K2)上と異なる部分に位置している請求項1ないし11のいずれか1つに記載の圧電素子。
【請求項13】
圧力に応じた圧力検出信号を出力する振動部(20)を有する圧電素子を備えた圧電装置であって、
請求項1ないし12のいずれか1つに記載の圧電素子と、
前記圧電素子を収容するケーシング(100)と、を備え、
前記ケーシングには、前記圧電素子の他面と対向する位置に、外部と連通して前記圧力が導入される貫通孔(101b)が形成されている圧電装置。
【請求項14】
前記ケーシングは、前記圧電素子を搭載する被実装部材(101)と、前記圧電素子を収容する状態で前記被実装部材に固定される蓋部(102)と、を有している請求項13に記載の圧電装置。
【請求項15】
前記ケーシング内の空間における前記貫通孔と前記振動部との間に位置する受圧面空間(S1)と異なる空間をバック空間(S2)とし、前記バック空間の音響コンプライアンスをCb、前記振動領域の厚さをh、前記スリットの厚さ方向に沿った幅の平均である平均スリット幅をga、空気抵抗をμとし、前記スリットの前記振動領域の側面に沿ったスリット長さをLとすると、前記スリットの長さは、下記数式を満たしている請求項1
3または14に記載の圧電装置。
【数1】
【請求項16】
前記圧電素子は、前記支持体が接合部材(2)を介して前記被実装部材に搭載されており、前記振動領域における前記支持体側と反対側の一面(22a)に対する法線方向において、外形が角部を有する多角形状とされており、
前記接合部材は、前記法線方向において、前記角部と異なる部分に配置されている請求項15に記載の圧電装置。
【請求項17】
前記接合部材は、前記法線方向において、外形が角部を有する多角形状とされ、当該角部が、前記圧電素子の外形における相対する角部を結ぶ仮想線(K2)上と異なる部分に位置している請求項16に記載の圧電装置。
【請求項18】
前記被実装部材は、前記接合部材が配置される部分に突起部(101c)が形成されており、
前記接合部材は、前記突起部上に配置されている請求項16または17に記載の圧電装置。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、振動領域が片持ち支持された圧電素子、圧電装置に関するものである。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明は上記点に鑑み、スリットが適切に形成される圧電素子、圧電装置を提供することを目的とする。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1では、圧力に応じた圧力検出信号を出力する振動部(20)を有する圧電素子であって、支持体(10)と、支持体上に配置され、窒化スカンジウムアルミニウムで構成される圧電膜(50)と、圧電膜と接続されて圧電膜が変形することによって発生する電荷を取り出す電極膜(60)とを含む構成とされ、支持体に支持される支持領域(21a)と、支持領域と繋がっており、支持体から浮遊している振動領域(22)とを有し、電荷に基づいた圧力検出信号を出力する振動部と、振動部に形成されたスリット(41)と、を備え、スリットは、振動領域における支持体側と反対側の一面(22a)側から当該一面と反対側の他面(22b)側に向かって幅が狭くなるテーパ部(42)と、幅が一定とされた一定部(43)とが連結された構成とされている。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
これによれば、スリットは、テーパ部および一定部を有しているため、感度の向上を図り易くできる。
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
また、請求項13は、圧力に応じた圧力検出信号を出力する振動部(20)を有する圧電素子を備えた圧電装置であって、請求項1ないし12のいずれか1つに記載の圧電素子と、圧電素子を搭載する被実装部材(101)と、圧電素子を収容するケーシング(100)と、を備え、ケーシングには、圧電素子の他面と対向する位置に、外部と連通して圧力が導入される貫通孔(101b)が形成されている。
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
これによれば、圧電素子におけるスリットがテーパ部および一定部を有しているため、感度の向上を図り易くできる。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】削除
【補正の内容】