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特開2023-176018シミュレーションデータ、モデルデータ提供装置、及び、モデルデータ提供方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176018
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】シミュレーションデータ、モデルデータ提供装置、及び、モデルデータ提供方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/398 20200101AFI20231205BHJP
   G06F 119/08 20200101ALN20231205BHJP
【FI】
G06F30/398
G06F119:08
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023177669
(22)【出願日】2023-10-13
(62)【分割の表示】P 2020137560の分割
【原出願日】2020-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【弁理士】
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】辻村 俊博
(57)【要約】
【課題】半導体パッケージを実装基板に実装する際に用いられる接合部材を考慮したシミュレーションデータを顧客に提供する。
【解決手段】本実施形態に係るシミュレーションデータは、シミュレーション装置に投入されてシミュレーションモデルを生成するためのシミュレーションデータであって、半導体パッケージの熱伝導をモデル化するための第1データ要素と、前記半導体パッケージを実装基板に実装する際の接合部材の熱伝導をモデル化するための第2データ要素と、を備える構造を有し、前記シミュレーション装置に投入された場合に、前記シミュレーション装置が備えるシミュレーションプログラムと一体となり、前記第1データ要素と前記第2データ要素に基づいて熱解析モデルを生成し、この熱解析モデルを用いたシミュレーション結果を出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シミュレーション装置に投入されてシミュレーションモデルを生成するためのシミュレーションデータであって、
半導体パッケージの熱伝導をモデル化するための第1データ要素と、
前記半導体パッケージを実装基板に実装する際の接合部材の熱伝導をモデル化するための第2データ要素と、
を備える構造を有し、
前記シミュレーション装置に投入された場合に、前記シミュレーション装置が備えるシミュレーションプログラムと一体となり、前記第1データ要素と前記第2データ要素に基づいて熱解析モデルを生成し、この熱解析モデルを用いたシミュレーション結果を出力するための、シミュレーションデータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、シミュレーションデータ、モデルデータ提供装置、及び、モデルデータ提供方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車載用の半導体パッケージや、パワーエレクトロニクスの半導体パッケージなどにおいては、MBD(Model Base Design)の必要性が高まっている。このため、半導体パッケージの製造業者は、顧客に出荷する半導体パッケージの熱伝導に関する情報を、シミュレーションデータとして提供している。しかし、半導体パッケージを顧客の実装基板に実装する際に用いられるはんだ等の接合部材の熱解析モデルの条件は、シミュレーションデータに含まれていない。
【0003】
また、熱解析モデルを生成するシミュレーションデータに接合部材の条件を含めたとしても、実装される際に用いられる接合部材の条件は顧客によって変動する。当然であるが、顧客が用いる接合部材の条件が異なると、シミュレーション結果も異なるものになる。このため、製造業者が提供するシミュレーションデータに接合部材の熱解析モデルを含めたとしても、顧客において行われる熱解析のシミュレーション結果と、実際の熱伝導の状態との間に、差異が生じてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本実施形態の目的は、半導体パッケージを実装基板に実装する際に用いられる接合部材を考慮したシミュレーションデータを顧客に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態に係るシミュレーションデータは、
シミュレーション装置に投入されてシミュレーションモデルを生成するためのシミュレーションデータであって、
半導体パッケージの熱伝導をモデル化するための第1データ要素と、
前記半導体パッケージを実装基板に実装する際の接合部材の熱伝導をモデル化するための第2データ要素と、
を備える構造を有し、
前記シミュレーション装置に投入された場合に、前記シミュレーション装置が備えるシミュレーションプログラムと一体となり、前記第1データ要素と前記第2データ要素に基づいて熱解析モデルを生成し、この熱解析モデルを用いたシミュレーション結果を出力する。
【0006】
本実施形態に係るモデルデータ提供装置は、
シミュレーション装置に投入されてシミュレーションモデルを生成するためのシミュレーションデータを提供する、モデルデータ提供装置であって、
前記シミュレーションデータは、
半導体パッケージの熱伝導をモデル化するための第1データ要素と、
前記半導体パッケージを実装基板に実装する際の接合部材の熱伝導をモデル化するための第2データ要素と、
を備える構造を有し、
前記シミュレーションデータが前記シミュレーション装置に投入された場合に、前記シミュレーション装置が備えるシミュレーションプログラムと一体となり、前記第1データ要素と前記第2データ要素に基づいて熱解析モデルが生成され、この熱解析モデルを用いたシミュレーション結果が出力される。
【0007】
本実施形態に係るモデルデータ提供方法は、
シミュレーション装置に投入されてシミュレーションモデルを生成するためのシミュレーションデータをモデルデータ提供装置により提供するモデルデータ提供方法であって、 半導体パッケージの熱伝導をモデル化するための第1データ要素と、
前記半導体パッケージを実装基板に実装する際の接合部材の熱伝導をモデル化するための第2データ要素と、
を備える構造のシミュレーションデータをモデルデータ提供装置により提供し、
前記シミュレーションデータは、前記シミュレーション装置に投入された場合に、前記シミュレーション装置が備えるシミュレーションプログラムと一体となり、前記第1データ要素と前記第2データ要素に基づいて、前記シミュレーション装置が熱解析モデルを生成する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係るシミュレーションシステムの構成を説明するブロック図。
図2】本実施形態に係る半導体パッケージの構造と、この半導体パッケージが接合部材を用いて実装された実装基板の構造の一例を説明するための断面図。
図3】シミュレーション装置におけるシミュレーションで用いられる熱解析モデルの一例を示す図。
図4図2に示した実装基板と接合部材と半導体パッケージとを透視した透視画像の一例を示す図。
図5】ボイドを考慮した場合の過渡熱のシミュレーション結果と、ボイドを考慮しなかった場合の過渡熱のシミュレーション結果とを表すグラフを示す図。
図6】本実施形態に係るシミュレーションシステム全体で実行されるシミュレーション処理の内容を説明するフローチャートを示す図。
図7】本実施形態に係るモデルデータ生成装置により生成される、シミュレーションデータのデータ構造の一例を示す図。
図8】本実施形態に係るモデルデータ生成装置により生成される、シミュレーションデータの一例を示す図。
図9】本実施形態に係るシミュレーション装置のディスプレイに表示される熱解析モデル条件入力画面の一例を示す図。
図10】シミュレーション装置が画像解析に用いる、半導体パッケージを実装した実装基板の透視画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本実施形態に係るシミュレーションシステムを説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行うこととする。
【0010】
本実施形態に係るシミュレーションシステムは、半導体パッケージを購入する顧客が熱解析モデルを得るために必要なシミュレーションモデル用のシミュレーションデータを、半導体パッケージの製造業者が生成して提供するとともに、このシミュレーションデータを接合部材の熱伝導も考慮したものとすることにより、顧客が精度の高い熱解析モデルを用いたシミュレーションを行うことができるようにしたものである。以下に、その詳細を説明する。
【0011】
図1は、本実施形態に係るシミュレーションシステム1の構成を説明するブロック図である。この図1に示すように、本実施形態に係るシミュレーションシステム1は、モデルデータ生成提供システム2と、シミュレーション装置20とを備えて構成されている。これらモデルデータ生成提供システム2とシミュレーション装置20との間は、例えば、インターネットや公衆無線通信網などのネットワークNWを介して接続されている。
【0012】
モデルデータ生成提供システム2は、半導体パッケージの製造業者に設けられたシステムであり、モデルデータ生成装置10とモデルデータ提供装置12とを備えて構成されている。モデルデータ生成装置10は、シミュレーション装置20に投入されるシミュレーションモデル用のシミュレーションデータを生成する。モデルデータ提供装置12は、モデルデータ生成装置10で生成されたシミュレーションデータを記憶装置に記憶して保持しており、ネットワークNWを介して、顧客に提供する。
【0013】
シミュレーション装置20は、半導体パッケージを購入した顧客側に設けられた装置である。図1においては、1つのシミュレーション装置20を図示しているが、シミュレーションシステム1が備えるシミュレーション装置20は複数であってもよい。例えば、ひとつの顧客が複数のシミュレーション装置20を保持していてもよく、或いは、複数の顧客がそれぞれシミュレーション装置20を保持していてもよい。つまり、本実施形態に係るシミュレーションシステム1は、1又は複数のシミュレーション装置20を備えて構成される。いずれのシミュレーション装置20も、ネットワークNWを介して、モデルデータ生成提供システム2におけるモデルデータ提供装置12に接続され、このモデルデータ提供装置12が備えるシミュレーションデータを取得可能である。
【0014】
また、シミュレーション装置20は、直接、ネットワークNWを介して、モデルデータ生成提供システム2に接続されている必要はない。例えば、シミュレーション装置20は、ネットワークNWに接続された他のコンピュータを介して、モデルデータ生成提供システム2に接続されていてもよい。さらには、シミュレーション装置20は、必ずしも、ネットワークNWに接続されている必要もない。例えば、顧客側のユーザが、ネットワークNWに接続されたコンピュータを介して、モデルデータ生成提供システム2からシミュレーションデータを取得し、この取得したシミュレーションデータをUSB(Universal Serial Bus)メモリなどの記憶媒体に記憶させ、この記憶媒体を介して、シミュレーション装置20がシミュレーションデータを取得するようにしてもよい。つまり、本実施形態に係るシミュレーション装置20は、直接であるか、間接であるかを問わず、モデルデータ生成提供システム2からシミュレーションデータを取得可能な装置である。
【0015】
シミュレーション装置20は、投入されたシミュレーションデータに基づいて、シミュレーションを実行し、シミュレーション結果を出力する。本実施形態においては、シミュレーション装置20は、少なくとも、複数の抵抗Rと複数の容量Cとが組み合わされたRCモデルにより、熱解析モデルを生成し、この熱解析モデルのシミュレーション結果を出力する。つまり、モデルデータ生成提供システム2から取得したシミュレーションデータは、シミュレーション装置20が、この熱解析モデルを生成するためのデータとなる。このシミュレーション装置20が読み込み可能なシミュレーションデータは、ネットリストとも呼ばれ、複数の抵抗Rと複数の容量Cのそれぞれの値と接続関係が定義されている。
【0016】
図2は、半導体パッケージ30が実装基板32に実装された半導体パッケージ製品の一例を示す図である。この図2においては、半導体パッケージ30の構造と、この半導体パッケージ30が実装された実装基板32の構造を説明するための断面図を示している。この図2に示すように、半導体パッケージ30は、接合部材34を介して、実装基板32に実装される。一般的に、この実装は、半導体パッケージ30を購入した顧客側で行われる。つまり、どのような実装基板32を用意するのか、また、どのような接合部材34を用いるのかは、顧客の任意の事項である。
【0017】
接合部材34には、例えば、はんだ、銀ペースト、接合樹脂などの材料が用いられる。これらの材料における熱伝導率は、様々であり、同種の材料であっても、その成分により熱伝導率は異なる。このため、半導体パッケージ30を実装基板32に実装した状態の熱解析モデルは、半導体パッケージ30の製造業者側では確定することはできない。
【0018】
図3は、シミュレーション装置20におけるシミュレーションで用いられる熱解析モデルの一例を示す図である。この図3に示す熱解析モデルは、図2で示した半導体パッケージ30と接合部材34と実装基板32の熱解析モデルを表している。
【0019】
第1部P1が半導体パッケージ30の熱解析モデルを表しており、抵抗R0~抵抗R4と、容量C0~容量C4との組み合わせによりRCモデルが構成されることが示されている。第2部P2が接合部材34の熱解析モデルを表しており、抵抗Rh1~抵抗Rh2と、容量Ch1~容量Ch2との組み合わせによりRCモデルが構成されることが示されている。第3部P3が実装基板32の熱解析モデルを表しており、抵抗Rh3~抵抗Rh4と、容量C3~容量C4との組み合わせによりRCモデルが構成されることが示されている。
【0020】
すなわち、本実施形態に係る熱解析モデルには、接合部材34の熱解析モデルが含まれている。このため、接合部材34の熱伝導を考慮した状態で、シミュレーション装置20はシミュレーションを行うことができる。本実施形態においては、例えば、接合部材34の熱伝導に関する特性を表すファクターとして、接合部材34の高さ、接合部材34の面積、接合部材34の熱伝導率の少なくとも1つを備えている。さらに、本実施形態においては、これらのファクターに加えて、接合部材34に含まれるボイドの比率を表すボイド率を備えている。
【0021】
図4は、図2に示した半導体パッケージ製品における実装基板32と接合部材34と半導体パッケージ30とを透視したX線画像の一例を示す図である。この図4に示すように、実装基板32と半導体パッケージ30との間の接合部材34には、1又は複数のボイドVが形成されることが多い。ここでボイドVとは、気泡の一種であり、はんだ等の材料を用いて、半導体パッケージ30を実装基板32に実装する際に不可避的に生成される。
【0022】
気泡であるボイドVが形成されている部分の熱伝導は、ボイドが形成されていない部分の接合部材34の熱伝導より、低くなる。このため、半導体パッケージ30の発熱を実装基板32に伝達し難くなり、半導体パッケージ30の熱上昇を誘発する要因となる。特に、半導体パッケージ30が発熱を開始した直後の熱伝導を表した過渡熱については、ボイドVの影響を大きく受ける。このため、本実施形態における熱解析モデルでは、接合部材34におけるボイドVの発生率をボイド率として、シミュレーションを行う上のファクターとして含ませることとしている。
【0023】
本実施形態におけるボイド率は、平面視における面積比を用いている。つまり、図4において、ボイドVが発生している部分の面積が接合部材34の30%を占める場合は、ボイド率は30%となる。換言すれば、接合部材34における残りの70%の面積部分には、ボイドVは発生していないことを意味している。
【0024】
したがって、本実施形態に係るシミュレーションシステム1においては、熱解析モデルが接合部材34の熱伝導もモデル化しており、この接合部材34の熱解析モデルを形成するRCモデルにおいては、抵抗Rと容量Cとの値が、接合部材34の高さ、接合部材34の面積、接合部材34の熱伝導率、及び、ボイド率により変化する。但し、接合部材34の熱解析モデルのファクターとして、これらのすべてのファクターを含ませる必要はなく、接合部材34の高さ、接合部材34の面積、接合部材34の熱伝導率、及び、ボイド率の少なくとも1つをファクターとして含ませるようにすればよい。一方で、接合部材34に関するこれら例示した以外のファクターも、熱解析モデルに含ませるようにすることもできる。つまり、ここで説明した接合部材34の熱解析モデルのファクターは、単なる例示であり、接合部材34に関する任意のファクターを熱解析モデルに取り込むことができる。
【0025】
図5は、ボイドを考慮した場合の過渡熱のシミュレーション結果と、ボイドを考慮しなかった場合の過渡熱のシミュレーション結果とを示すグラフである。この図5において、横軸はlogスケールの時間[秒]を表しており、縦軸は温度[℃]を表している。また、この図5においては、ボイドを考慮した場合のシミュレーション結果が点線で表されており、ボイドを考慮しなかった場合のシミュレーション結果が実線で表されている。
【0026】
この図5に示すように、接合部材34におけるボイドを考慮すると、ボイドを考慮しない場合と比べて、半導体パッケージ30の温度上昇が早いことが分かる。つまり、半導体パッケージ30の半導体チップが駆動を開始して発熱すると、その熱がボイドの影響で実装基板32に逃げにくくなる。このため、半導体パッケージ30が発熱を開始した直後は、接合部材34におけるボイドを考慮した場合のシミュレーション結果と、考慮しない場合のシミュレーション結果との間の差異が大きくなる。しかし、やがて時間が経過するに従って、両者の差が縮まり、飽和時にはほとんど温度差がない状態となる。
【0027】
このように、半導体パッケージ30における半導体チップの発熱が開始した直後の過渡熱の状態も、本実施形態に係るシミュレーションシステム1においては正確にシミュレーションできる。つまり、半導体パッケージ30を購入した顧客は、モデルデータ提供装置12が提供するシミュレーションデータを用いることにより、接合部材34の熱伝導も考慮した、より正確なシミュレーション結果を得ることができる。
【0028】
図6は、本実施形態に係るシミュレーションシステム1全体で実行されるシミュレーション処理の内容を説明するフローチャートを示す図である。この図6に示すように、まず、シミュレーションシステム1は、シミュレーション装置20に投入されるシミュレーションモデル用のシミュレーションデータを生成する(ステップS10)。本実施形態においては、この処理は、モデルデータ生成装置10により実行され、生成されたシミュレーションデータはモデルデータ提供装置12に保持される。
【0029】
具体的には、半導体パッケージ30の製造業者は、この半導体パッケージ30を購入した顧客がシミュレーションをシミュレーション装置20で実行できるように、シミュレーションデータを用意する。このシミュレーションデータのフォーマットや言語は任意であるが、顧客のシミュレーション装置20で実行可能なデータである必要がある。例えば、本実施形態においては、シミュレーション装置20がシミュレータとしてSPICE(Simulation Program with Integrated Circuit Emphasis)を搭載しており、このSPICE用のシミュレーションデータを製造業者が用意する場合を想定する。このSPICEにおいては、シミュレーションデータのことを、ネットリストとも呼ぶ。
【0030】
図7は、本実施形態に係るシミュレーションデータのデータ構造の一例を示す図である。この図7に示すように、本実施形態においては、シミュレーションデータは、データ要素として、ヘッダー部D1と、接合部材可変定義部D2と、接合部材モデルデータD3と、半導体パッケージモデルデータD4とを備えて構成されている。図7においては、説明の都合上、各データ要素が1つのまとまりを有するように表しているが、実際のシミュレーションデータにおいては、各データ要素は、複数の箇所に分散して混在して配置されていてもよい。
【0031】
ヘッダー部D1は、シミュレーションデータの冒頭で、このシミュレーションデータの内容を表示する情報部分である。このヘッダー部D1の内容は、シミュレーション装置20で読み込まれるデータではない。接合部材可変定義部D2は、接合部材34の熱解析モデルにおける変数を定義するデータ部分である。ここで定義された変数が持つ値は、顧客側が接合部材34の熱伝導に関する特性に基づいて、適宜編集される。このため、接合部材可変定義部D2は、接合部材34の熱解析モデルにおける変数を編集可能に保持している。
【0032】
接合部材モデルデータD3は、接合部材34の熱解析モデルを定義するデータ部分である。接合部材可変定義部D2で定義された変数の値が、この接合部材モデルデータD3に組み込まれて、接合部材34の熱解析モデルのシミュレーションがシミュレーション装置20で実行される。半導体パッケージモデルデータD4は、半導体パッケージ30の熱解析モデルを定義するデータ部分である。この半導体パッケージモデルデータD4が接合部材モデルデータD3と結合されて、熱解析モデルのシミュレーションがシミュレーション装置20で実行される。
【0033】
この図7に示すシミュレーションデータのデータ構造において、半導体パッケージモデルデータD4が、本実施形態における、半導体パッケージ30の熱伝導をモデル化するための第1データ要素を構成しており、接合部材可変定義部D2と接合部材モデルデータD3との組み合わせが、本実施形態における、接合部材34の熱伝導をモデル化するための第2データ要素を構成している。
【0034】
図8は、本実施形態に係るシミュレーション装置20で実行されるシミュレーションデータの一例を示す図である。すなわち、図8は、シミュレーション装置20におけるSPICE上で実行されるネットリストの一例を示している。本実施形態においては、このネットリストがモデルデータ生成装置10により生成され、モデルデータ提供装置12により保持される。但し、この図8に示すシミュレーションデータにおいては、ヘッダー部D1は割愛されている。これは、上述したように、ヘッダー部D1は、ユーザへの表示情報に過ぎず、シミュレーション装置20で実行される訳ではないからである。
【0035】
この図8に示すように、シミュレーションデータは、まず、接合部材可変定義部D2を備えている。この接合部材可変定義部D2では、接合部材34のボイド率、接合部材34の高さ、接合部材34の面積、及び、接合部材34の熱伝導率に関する変数が定義されている。この図8の例では、接合部材34のボイド率solder_boidが0.3、つまり30%と定義されている。接合部材34の高さsolder_heightが1.0mmと定義されており、接合部材34の面積solder_areaが5.0mmと定義されており、接合部材34の熱伝導率solder_thermalcondactibleが50W/mKと定義されている。
【0036】
この接合部材可変定義部D2で定義された変数の値は、製造業者側で用意した仮の値である。したがって、シミュレーションを行う顧客は、この接合部材可変定義部D2で定義された変数の値を、自ら用いる接合部材34の条件に基づいて、修正を加える必要がある。
【0037】
この接合部材可変定義部D2の定義の次に、シミュレーションデータは、接合部材モデルデータD3と半導体パッケージモデルデータD4とが結合されたモデル部を備えている。すなわち、モデル部の中では、接合部材モデルデータD3の熱解析モデルを定義するデータと、半導体パッケージモデルデータD4の熱解析モデルを定義するデータとが、混在している。このモデル部においては、複数の抵抗Rと複数の容量Cの値と接続関係も定義される。
【0038】
本実施形態においては、特に、接合部材可変定義部D2で定義された変数が、このモデル部における接合部材モデルデータD3で変数として用いられている。このため、接合部材可変定義部D2における変数の値を顧客が適宜変更することにより、その変更された値に基づいて、接合部材34の熱解析モデルが形成され、シミュレーション装置20が備えるSPICE上でシミュレーションを実行することができる。
【0039】
図6に示すステップS10にて、モデルデータ生成装置10により生成されたシミュレーションデータは、モデルデータ提供装置12に保持されて、顧客であるユーザに提供される。顧客は、提供されたシミュレーションデータを、シミュレーション装置20に移行して、投入する。つまり、シミュレーションデータは、ユーザオペレーションにより、シミュレーション装置20に取り込まれて実行される。
【0040】
シミュレーション装置20にシミュレーションデータが投入されると、このシミュレーション装置20が備えるシミュレーションプログラムと一体となり、シミュレーションデータに基づいて熱解析モデルを生成して、この生成された熱解析モデルを用いたシミュレーションが行われる。
【0041】
シミュレーションが実行された場合、図6に示すように、顧客であるユーザは、接合部材34の熱解析モデルの条件をシミュレーション装置20に入力する(ステップS12)。本実施形態においては、顧客は、シミュレーション装置20に、熱解析モデルの条件として、接合部材34のボイド率、接合部材34の高さ、接合部材34の面積、及び、接合部材34の熱伝導率を入力する。なお、これら接合部材34の熱解析モデルとして入力すべき条件はこれらに限るものではなく、他の諸条件のファクターを接合部材34の熱解析モデルの条件として入力することが可能である。また、これら例示した条件のすべてを接合部材34の熱解析モデルの条件として入力する必要はなく、例示した条件の一部を、接合部材34の熱解析モデルの条件として入力するようにしてもよい。
【0042】
さらに、接合部材34の熱解析モデルの条件をシミュレーション装置20に入力する態様も、任意である。例えば、モデルデータ提供装置12からシミュレーションデータを取得した顧客は、このシミュレーションデータをシミュレーション装置20に移行するが、この移行を終えた後、シミュレーション装置20におけるエディタを用いて、シミュレーションデータにおける接合部材可変定義部D2の変数に代入される数値を、直接編集するようにしてもよい。すなわち、図8のシミュレーションデータの例では、接合部材可変定義部D2において、接合部材34のボイド率solder_boidと、接合部材34の高さsolder_heightと、接合部材34の面積solder_areaと、接合部材34の熱伝導率solder_thermalcondactibleとが変数を用いて定義されているが、この変数に代入されている数値を、直接編集して変更してもよい。数値の値を如何にすべきかは、この半導体パッケージ30を実装する顧客が、実験やシミュレーションを行って特定すればよい。
【0043】
或いは、接合部材34の熱解析モデルの条件の少なくとも一部は、これらの条件を入力させるための入力画面をシミュレーション装置20に表示して、顧客に入力させるようにしてもよい。図9は、本実施形態に係るシミュレーション装置20のディスプレイに表示される熱解析モデル条件入力画面W10の一例を示す図である。この図9に示すように、熱解析モデル条件入力画面W10には、接合部材34のボイド率を入力するフィールドF1と、接合部材34の高さを入力するフィールドF2と、接合部材34の面積を入力するフィールドF3と、接合部材34の熱伝導率を入力するフィールドF4とが表示される。顧客であるユーザは、これらのフィールドF1からフィールドF4に、適宜数値を入力する。シミュレーション装置20は、この入力された数値を、シミュレーションデータにおける該当する変数に代入して、接合部材34の熱解析モデルを生成する。
【0044】
さらには、接合部材34の熱解析モデルの条件の少なくとも一部は、半導体パッケージ30を実装基板32に実装した半導体パッケージ製品の透視画像から、シミュレーション装置20が算出するようにしてもよい。図10は、半導体パッケージ30を実装基板32に実装した半導体パッケージ製品の透視画像として、X線でこれを撮像したX線画像の一例を示す図である。
【0045】
この図10に示すような半導体パッケージ製品の透視画像を、シミュレーション装置20に読み込ませ、画像解析をシミュレーション装置20で実行させることにより、接合部材34の熱解析モデルの条件の数値を、シミュレーション装置20が算出する。この図10の例では、半導体パッケージ30を実装基板32に実装した状態で、これを上面又は下面からX線撮像した透視画像の一例を示しているため、この透視画像をシミュレーション装置20が画像解析することにより、シミュレーション装置20は、接合部材34の面積solder_areaと、接合部材34のボイド率solder_boidとを、算出することができる。シミュレーション装置20は、これら算出された数値を、シミュレーションデータにおける該当する変数に代入して、接合部材34の熱解析モデルを生成する。
【0046】
この図10は、半導体パッケージ製品を上面又は下面から撮像した透視画像であるが、例えば、半導体パッケージ製品を側面から撮像した透視画像をシミュレーション装置20に入力し、画像解析を行わせることにより、接合部材34の高さsolder_heightを算出させることもできる。
【0047】
透視画像の画像解析で取得できなかった、接合部材34の熱解析モデルの条件は、上述したように、図9に示す熱解析モデル条件入力画面W10により顧客が入力するようにしてもよいし、或いは、シミュレーションデータにおける変数の数値を顧客が直接編集して入力するようにしてもよい。もしくは、モデルデータ提供装置12から提供された、シミュレーションデータのデフォルトの数値で、熱解析モデルを生成するようにしてもよい。
【0048】
次に、図6に示すように、シミュレーション装置20は、入力された熱解析モデルの条件に基づいて、熱解析モデルを生成し、このシミュレーション装置20が備えるシミュレーションプログラムと一体となって、シミュレーションを行い、シミュレーション結果を出力する(ステップS14)。このシミュレーション結果の出力態様は任意であるが、例えば、シミュレーション装置20が備えるディスプレイにシミュレーション結果を表示するようにしてもよいし、或いは、シミュレーション装置20が備える印刷装置でシミュレーション結果を印刷するようにしてもよい。さらには、得られたシミュレーション結果を所定の定められたフォーマットでデータ出力するようにしてもよい。このシミュレーション結果により、例えば、図5に示したような、半導体パッケージ30における半導体チップが駆動を開始した後の過渡熱の状態も分かるようになる。
【0049】
以上のように、本実施形態に係るシミュレーションシステム1によれば、シミュレーションデータが、半導体パッケージ30の熱伝導をモデル化するための半導体パッケージモデルデータD4と、接合部材34の熱伝導をモデル化するための接合部材可変定義部D2及び接合部材モデルデータD3とを備えるようにしたので、このシミュレーションデータをシミュレーション装置20に投入した場合に、接合部材34の熱伝導をも考慮したシミュレーション結果を得ることができる。
【0050】
また、接合部材可変定義部D2において、接合部材34における熱解析モデルの条件を変数として定義することとしたので、この接合部材可変定義部D2で定義されている変数の数値を顧客が任意に変更することにより、より適正なシミュレーション結果を導出することができる。すなわち、半導体パッケージ30を購入した顧客が使用する接合部材34の熱伝導率やボイド率などは、半導体パッケージ30の製造業者側では特定できないが、本実施形態に係るシミュレーションシステム1によれば、これらの条件を顧客側で特定することにより、接合部材34の特性を加味した、シミュレーション結果を得ることができる。
【0051】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規な装置および方法は、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明した装置および方法の形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0052】
1 シミュレーションシステム
2 モデルデータ生成提供システム
10 モデルデータ生成装置
12 モデルデータ提供装置
20 シミュレーション装置
30 半導体パッケージ
32 実装基板
34 接合部材
D1 ヘッダー部
D2 接合部材可変定義部
D3 接合部材モデルデータ
D4 半導体パッケージモデルデータ
W10 熱解析モデル条件入力画面
図1
図2
図3
図4
図5
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図8
図9
図10