IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 帝人株式会社の特許一覧

特開2023-176060芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176060
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20231206BHJP
   C08K 5/07 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088136
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】石田 雅裕
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CG001
4J002EE046
4J002FD056
4J002GQ00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】波長340nm以上の紫外線を透過する光学透明部材として有用で、特に波長360nm以上の透過率が十分高く、良好な耐候性、色相、成形滞留安定性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品を提供する。
【解決手段】芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、下記式(1)で表される紫外線吸収剤(B)を0.1~5.0質量部含有した樹脂組成物。

(R、RはC数1~10のアルコキシ基又は2価の基と結合して環を形成。R~RはH、C数1~10の炭化水素基、硫黄含有基、窒素含有基、ハロゲンから選ばれる少なくとも1種、又はR~Rのうちいずれか2つが2価の基と結合して環を形成。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、下記式(1)で表される紫外線吸収剤(B)を0.1~5.0質量部含有した樹脂組成物。
【化1】
(式中(1)、R、Rはそれぞれ独立に炭素原子数1~10のアルコキシ基を示すか、又は2価の基と結合して環を形成する。R~Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10の炭化水素基、硫黄含有基、窒素含有基、ハロゲンから選ばれる少なくとも1種を示すか、又はR~Rのうちいずれか2つが2価の基と結合して環を形成する。)
【請求項2】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、熱安定剤(C)を0.01~0.1質量部含有した請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、離型剤(D)を0.02~0.5質量部含有した請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品に関する。さらに詳しくは波長320nm以下の紫外線を透過せず、波長340nm以上の紫外線を透過する光学透明部材として有用で、特に波長360nm以上の透過率が十分高く、かつ良好な耐候性、優れた色相、成形滞留安定性を有した芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリカーボネートは、耐衝撃性、耐熱性、透明性に優れた熱可塑性樹脂として幅広い用途があり、さらに、無機ガラスに比較して軽量で、生産性にも優れているので、優れた耐候性を付与することにより、液晶表示装置の導光板、拡散板、反射板、保護フィルム、位相差フィルム、および、照明カバー、照明看板、透過形のスクリーン、各種ディスプレイなど耐候性を要求される用途に好適に使用できる。
【0003】
従来、芳香族ポリカーボネートの耐候性を向上させる方法として、各種紫外線吸収剤を添加する方法が知られている。例えば、特許文献1には、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤5重量部~25重量部と蛍光増白剤0.1~10重量部を含有してなるポリカーボネート樹脂組成物が提案されている。しかしながら、紫外線吸収剤及び蛍光増白剤の含有率が高いので熱加工時のガスが問題になり、かつ、紫外線吸収剤の最長吸収波長が390nmと可視光に近いため波長360nm程度の紫外線を透過する用途には使用出来ないものであった。
【0004】
また、特許文献2には、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、350~400nmの紫外線領域に極大吸収波長を有しないベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物及びトリアジン系化合物から選ばれた紫外線吸収剤0.05質量部以上で2質量部未満と、蛍光増白剤0.00001~1質量部を含有させてなるポリカーボネート樹脂組成物が提案されている。しかしながら、350~400nmに極大吸収波長を有しないベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物及びトリアジン系化合物から選ばれた紫外線吸収剤の配合では、色相の非常に劣るポリカーボネート樹脂組成物しか得られなかった。
【0005】
一方、特許文献3~5には、メタクリル酸メチル系樹脂100質量部に対し、マロン酸エステル類を0.0005~0.1質量部含有する樹脂組成物が開示されているが、芳香族ポリカーボネートに関する記載はない。さらに特許文献6には、芳香族ポリカーボネート樹脂にマロン酸エステルを含有する樹脂組成物が開示されている。しかしながら、波長340nm以上の紫外線を透過することや、波長360nmの透過率が十分高いことについての記載はない。具体的には実施例記載の組成では波長360nmの透過率は30%以下と低く、波長360nm程度の紫外線を透過する用途としては実用的ではないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07-196904号公報
【特許文献2】特開2002-003710号公報
【特許文献3】特開2002-105271号公報
【特許文献4】特開2003-025406号公報
【特許文献5】特開2003-026888号公報
【特許文献6】特開2006-83230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決し、波長320nm以下の紫外線を透過せず、波長340nm以上の紫外線を透過する光学透明部材として有用で、特に波長360nm以上の透過率が十分高く、良好な耐候性、色相、成形滞留安定性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物およびその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、芳香族ポリカーボネート樹脂に特定の紫外線吸収剤を特定の比率で配合することにより、波長320nm以下の紫外線を透過せず、波長340nm以上の紫外線を透過する光学透明部材として有用で、特に波長360nm以上の透過率が十分高く、良好な耐候性、色相、成形滞留安定性に優れたな芳香族ポリカーボネート樹脂組成物および該樹脂組成物から形成された成形品が上記目的を達成することを見いだし、本発明を完成させた。
すなわち、本発明によれば、下記(構成1)~(構成4)が提供される。
【0009】
(構成1)
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、下記式(1)で表される紫外線吸収剤(B)を0.1~5.0質量部含有した樹脂組成物。
【0010】
【化1】
(式中(1)、R、Rはそれぞれ独立に炭素原子数1~10のアルコキシ基を示すか、又は2価の基と結合して環を形成する。R~Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10の炭化水素基、硫黄含有基、窒素含有基、ハロゲンから選ばれる少なくとも1種を示すか、又はR~Rのうちいずれか2つが2価の基と結合して環を形成する。)
【0011】
(構成2)
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、熱安定剤(C)を0.01~0.1質量部含有した構成1に記載の樹脂組成物。
(構成3)
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、離型剤(D)を0.02~0.5質量部含有した構成1または2に記載の樹脂組成物。
(構成4)
構成1~3のいずれかに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族ポリカーボネート本来の特性を損なうことなく、波長320nm以下の紫外線を透過せず、波長340nm以上の紫外線を透過する光学透明部材として有用で、特に波長360nm以上の透過率が十分高く、良好な耐候性、色相、成形滞留安定性に優れた芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であり、その奏する産業上の効果は格別である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
(芳香族ポリカーボネート樹脂(A))
本発明で使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物と、ホスゲンとの界面重合法により得られるか、または、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとのエステル交換反応により製造される、分岐していてもよい芳香族ポリカーボネート重合体である。
【0015】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、2,2-ビス{(4-ヒドロキシ-3-メチル)フェニル}プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン(=テトラメチルビスフェノールA)等のビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン系ジヒドロキシ化合物、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン(=テトラブロムビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン(=テトラクロロビスフェノールA)等のハロゲンを含むビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン系ジヒドロキシ化合物の他、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4-ジヒドロキシジフェニルなどが挙げられ、好ましくはハロゲンを含んでいても良いビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン系ジヒドロキシ化合物が挙げられ、特に好ましくは、ビスフェノールAが挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は1種でも良いが、複数種用いても良い。
【0016】
本発明で使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、必要に応じて三官能以上の多官能性芳香族化合物を含有する構成単位を、共重合し、分岐ポリカーボネートとすることもできる。分岐ポリカーボネートに使用される三官能以上の多官能性芳香族化合物としては、4,6-ジメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプテン-2,2,4,6-トリメチル-2,4,6-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,3,5-トリス(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,6-ビス(2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェノール、および4-{4-[1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン}-α,α-ジメチルベンジルフェノール等のトリスフェノールが好適に例示される。中でも1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンが好ましい。かかる多官能性芳香族化合物から誘導される構成単位は、他の二価成分からの構成単位との合計100モル%中、好ましくは0.03~1.5モル%、より好ましくは0.1~1.2モル%、特に好ましくは0.2~1.0モル%である。
【0017】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量調節剤として、一価の芳香族ヒドロキシ化合物などを使用することができる。分子量調整剤としては、例えば、m-及びp-メチルフェノール、m-及びp-プロピルフェノール、p-ブロムフェノール、p-tert-ブチルフェノール及びp-長鎖アルキル置換フェノールなどが挙げられる。
【0018】
本発明で使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、その粘度平均分子量(Mv)が、好ましくは15,000~40,000であり、より好ましくは16,000~30,000であり、さらに好ましくは17,000~28,000である。粘度平均分子量が上記範囲内であると十分な靭性や割れ耐性が得られ、また、成形加工性にも優れる。
【0019】
芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、まず、次式にて算出される比粘度(ηSP)を20℃で塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂材料0.7gを溶解した溶液からオストワルド粘度計を用いて求め、
比粘度(ηSP)=(t-t)/t
[tは塩化メチレンの落下秒数、tは試料溶液の落下秒数]
求められた比粘度(ηSP)から次の数式により粘度平均分子量Mvを算出したものである。
ηSP/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
c=0.7
【0020】
(紫外線吸収剤(B))
本発明で使用される紫外線吸収剤(B)は、下記式(1)で表される紫外線吸収剤である。
【0021】
【化2】
(式中(1)、R、Rはそれぞれ独立に炭素原子数1~10のアルコキシ基を示すか、又は2価の基と結合して環を形成する。R~Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10の炭化水素基、硫黄含有基、窒素含有基、ハロゲンから選ばれる少なくとも1種を示すか、又はR~Rのうちいずれか2つが2価の基と結合して環を形成する。)
【0022】
上記式(1)中、R、Rはそれぞれ独立に炭素原子数1~4のアルコキシ基が好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基が挙げられる。
また、R~Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~8の炭化水素基、硫黄含有基、窒素含有基、ハロゲンから選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0023】
炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0024】
脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。アルキル基は、直鎖又は分岐を含み、特に限定されないが、例えば、メチル基、エタン-1-イル基、プロパン-1-イル基、1-メチルエタン-1-イル基、ブタン-1-イル基、ブタン-2-イル基、2-メチルプロパン-1-イル基、2-メチルプロパン-2-イル基、ペンタン-1-イル基、ペンタン-2-イル基、ヘキサン-1-イル基、ヘプタン-1-イル基、オクタン-1-イル基、1,1,3,3-テトラメチルブタン-1-イル基等が挙げられる。アルケニル基は直鎖又は分岐を含み、特に限定されないが、例えば、ビニル基、プロパ-1-エン-1-イル基、アリル基、イソプロペニル基、ブタ-1-エン-1-イル基、ブタ-2-エン-1-イル基、ブタ-3-エン-1-イル基、2-メチルプロパ-2-エン-1-イル基、1-メチルプロパ-2-エン-1-イル基、ペンタ-1-エン-1-イル基、ペンタ-2-エン-1-イル基、ペンタ-3-エン-1-イル基、ペンタ-4-エン-1-イル基、3-メチルブタ-2-エン-1-イル基、3-メチルブタ-3-エン-1-イル基、ヘキサ-1-エン-1-イル基、ヘキサ-2-エン-1-イル基、ヘキサ-3-エン-1-イル基、ヘキサ-4-エン-1-イル基、ヘキサ-5-エン-1-イル基、4-メチルペンタ-3-エン-1-イル基、4-メチルペンタ-3-エン-1-イル基、ヘプタ-1-エン-1-イル基、ヘプタ-6-エン-1-イル基、オクタ-1-エン-1-イル基、オクタ-7-エン-1-イル基等が挙げられる。アルキニル基は直鎖又は分岐を含み、特に限定されないが、例えば、エチニル、プロパ-1-イン-1-イル基、プロパ-2-イン-1-イル基、ブタ-1-イン-1-イル基、ブタ-3-イン-1-イル基、1-メチルプロパ-2-イン-1-イル基、ペンタ-1-イン-1-イル基、ペンタ-4-イン-1-イル基、ヘキサ-1-イン-1-イル基、ヘキサ-5-イン-1-イル基、ヘプタ-1-イン-1-イル基、ヘプタ-6-イン-1-イル基、オクタ-1-イン-1-イル基、オクタ-7-イン-1-イル基等が挙げられる。
【0025】
脂環式炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0026】
芳香族炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、フェニル残基を含む基が挙げられる。1価の芳香族炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2-エチルフェニル基、3-エチルフェニル基、4-エチルフェニル基、2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基、2-エトキシフェニル基、3-エトキシフェニル基、4-エトキシフェニル基、2-ヒドロキシフェニル基、3-ヒドロキシフェニル基、4-ヒドロキシフェニル基等が挙げられる。
【0027】
硫黄含有基としては、R-S-で表わされる硫黄含有基が好ましく、Rは炭素原子数1~24のアルキル基または芳香族炭化水素基が好ましい。
【0028】
アルキル基としては、炭素原子数1~18のアルキル基がより好ましく、炭素原子数1~12のアルキル基がさらに好ましく、炭素原子数1~8のアルキル基が特に好ましい。また、アルキル基は直鎖であることが好ましい。
【0029】
芳香族炭化水素基としては、フェニル残基、ナフタレン残基、ビフェニル残基、アントラセン残基が好ましく、フェニル残基がより好ましい。ここで、残基とは、芳香族部分を含む基を意図し、例えば、フェニル残基の場合には、ベンゼン環部分を意図している。また、Rの芳香族基の水素原子には、炭素原子数1~18のアルキル基が置換されていてもよく、芳香族基の水素原子と置換することが可能なアルキル基の炭素原子数としては、1~12が好ましく、1~8がより好ましく、1~4がさらに好ましい。
【0030】
窒素含有基としては(R‘)=N-で表わされる硫黄含有基が好ましく、R’は炭素原子数1~24のアルキル基または芳香族炭化水素基が好ましい。
【0031】
アルキル基としては、炭素原子数1~18のアルキル基がより好ましく、炭素原子数1~12のアルキル基がさらに好ましく、炭素原子数1~8のアルキル基が特に好ましい。また、アルキル基は直鎖であることが好ましい。
【0032】
芳香族炭化水素基としては、フェニル残基、ナフタレン残基、ビフェニル残基、アントラセン残基が好ましく、フェニル残基がより好ましい。ここで、残基とは、芳香族部分を含む基を意図し、例えば、フェニル残基の場合には、ベンゼン環部分を意図している。また、Rの芳香族基の水素原子には、炭素原子数1~18のアルキル基が置換されていてもよく、芳香族基の水素原子と置換することが可能なアルキル基の炭素原子数としては、1~12が好ましく、1~8がより好ましく、1~4がさらに好ましい。
【0033】
上記式(1)で表される紫外線吸収剤(B)の使用量は、芳香族ポリカーボネート100質量部に対し、0.1~5.0質量部であり、0.15~4.0質量部が好ましく、0.2~3.5質量部がより好ましく、0.25~3.0質量部がさらに好ましく、0.3~2.0質量部が特に好ましい。0.1質量部未満では、充分な耐候性を得ることができず、5.0質量部を超えると、紫外線吸収剤のブリードアウトによる加工時のガス発生の問題や機械的強度の低下が起こるので好ましくない。
【0034】
(熱安定剤(C))
本発明で好ましく使用される熱安定剤(C)は、リン系熱安定剤および/または硫黄系熱安定剤が好ましい。
【0035】
リン系熱安定剤としては、亜リン酸エステルまたはリン酸エステルが好ましい。亜リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等の亜リン酸のトリエステル、ジエステル、モノエステル等が挙げられる。
【0036】
また、リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2-エチルフェニルジフェニルホスフェート、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4-ジフェニレンホスフォナイト等が挙げられる。
【0037】
リン系熱安定剤の中でも、下記式(2)で示されるトリス(2,4-ジ-tert.-ブチルフェニル)ホスファイトが好ましい。具体的にはBASF社製「IRGAFOS 168 FF」が市販されている。
【0038】
【化3】
【0039】
硫黄系熱安定剤としては例えば、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル-3,3’-チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、ビス[2-メチル-4-(3-ラウリルチオプロピオニルオキシ)-5-tert-ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2-メルカプト-6-メチルベンズイミダゾール、1,1’-チオビス(2-ナフトール)などを挙げることができる。
【0040】
硫黄系熱安定剤の中でも、下記式(3)で示される化合物が好ましく、式(3)中、Rは炭素原子数10~14のアルキル基がより好ましく、特に炭素原子数が12のドデシル基(ラウリル基)であるペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。具体的には住友化学(株)社製「スミライザーTP‐D」が市販されている。
【0041】
【化4】
(式(3)中のRは炭素原子数8~16のアルキル基を示す。)
【0042】
熱安定剤の使用量は芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、0.01~0.1質量部が好ましく、0.02~0.08質量部がより好ましく、0.03~0.07質量部がさらに好ましい。上記範囲内では、充分な成形滞留安定性を得ることができ、色相に優れる。
【0043】
(離型剤(D))
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には離型剤を配合することができる。離型剤としては飽和脂肪酸エステルが好ましく、例えばステアリン酸モノグリセライド等のモノグリセライド類、ステアリン酸ステアレート等の低級脂肪酸エステル類、セバシン酸ベヘネート等の高級脂肪酸エステル類、ペンタエリスリトールテトラステアレート等のエリスリトールエステル類が挙げられる。
【0044】
離型剤の使用量は、芳香族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは0.02~0.5質量部、より好ましくは0.05~0.4質量部、さらに好ましくは0.1~0.3質量部である。上記範囲であると、離型性が良好で、成形滞留安定性および色相に優れ、成形時の金型汚染も低減される。
【0045】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物には、本発明の透過率特性、耐候性、色相等の効果を損なわない範囲において、必要に応じて例えば、他の紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒドロキシフェニルトリアジン系、環状イミノエステル系、シアノアクリレート系など)、帯電防止剤、着色剤、流動性改良剤、難燃剤、凝集防止剤等を更に添加してもよい。
【0046】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物の混合及び混練は、通常の熱可塑性樹脂に適用される方法で行えばよく、例えばリボンブレンダー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ドラムタンブラー、単軸スクリュー押出機、2軸スクリユー押出機、多軸スクリュー押出機等により行うことができる。混練の温度条件は通常、260~320℃が適当である。
【0047】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、一般的な熱可塑性樹脂の成形方法が適用でき、例えば生産性の点からペレット状樹脂組成物からの射出成形、射出圧縮成形、押出成形が可能である。さらに押出成形されたシート状成形品からの真空成形、圧空成形等により目的の成形品とすることもできる。
【0048】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、厚み2mmの成形品とした際の波長320nmの分光光線透過率が5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。また、波長340nmの分光光線透過率が5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましく、50%以上であることが特に好ましい。さらに、波長360nmの分光光線透過率が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物から得られる成形品は、波長320nm以下の紫外線を透過せず、波長340nm以上の紫外線を透過し、且つ耐候性が高いという特徴を有する。
【0049】
本発明の成形品としては、紫外線領域である波長340nm以上の発光波長を持つライトのカバーやレンズ等の光学部材が挙げられ、中でも波長360nm程度の紫外線を透過する光学部材として好適に用いることができる。
【実施例0050】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例と比較例で使用した原料は次の通りである。
【0051】
(芳香族ポリカーボネート樹脂(A))
帝人(株)製パンライトL-1225WP(ビスフェノールAを原料としたポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量22,400)
(式(1)の紫外線吸収剤(B))
ミヨシ油脂(株)製「MYUA-1M」
(他の紫外線吸収剤(比較例))
クラリアントジャパン(株)製Hostavin PR-25(マロン酸エステル系紫外線吸収剤)
ケミプロ化成(株)製ケミソーブ79(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)
BASF製Tinuvin234(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)
BASF製Tinuvin1577ED(トリアジン系紫外線吸収剤)
シプロ化成(株)製SEESORB703(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)
(株)ADEKA製アデカスタブLA-31(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤)
【0052】
(熱安定剤(C))
BASF製IRGAFOS168(リン系熱安定剤、式(2)の化合物)
住友化学(株)社製スミライザーTP‐D(硫黄系熱安定剤、式(3)の化合物)
(離型剤(D))
日油(株)製ユニスターH-476-S(脂肪酸エステル)
【0053】
実施例と比較例で使用した評価方法は次の通りである。
(1)試験片の作成
(株)日本製鋼所製J85ELIII成形機を用い、シリンダー温度350℃、金型温度80℃にて試験片(50mm(幅)×90mm(長さ)で厚みが1mm、2mm及び3mmの3段プレート)を作成し、以下測定を実施した。
【0054】
(2)分光光線透過率(波長;320nm、340nm、360nm)
前記(1)で成形した試験片(厚さ2mm部分)の光線透過率を、アジレント・テクノロジー(株)製のUV-Vis-NIR分光光度計Cary5000を用いて測定した。
【0055】
(3)色相評価
前記(1)で成形した試験片(厚さ2mm部分)の色相をサカタインクスエンジニアリング(株)製の分光光度計CE-7000Aで、C2光源、2度視野の透過法により測定し、該試験片のYIを算出した。YI値は小さいほど色相に優れ好ましい。YI値は2.0以下であることが好ましく、1.7以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。
【0056】
(4)成形滞留安定性
前記(1)で試験片を成形する際、金型より直ちに取り出した試験片と金型に10分間滞留させたのち取り出した試験片の色相(厚さ2mm部分)をサカタインクスエンジニアリング(株)製の分光光度計CE-7000Aで、D65光源、10度視野の透過法で測定し、該試験片のΔEを下記計算式(a)により算出した。ΔE値は小さいほど成形滞留安定性に優れ好ましい。ΔE値は1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましく、0.3以下であることがさらに好ましい。
ΔE={(ΔL)+(Δa)+(Δb)1/2 …式(a)
「滞留前の成形板」の色相:L、a、b
「滞留後の成形板」の色相:L’、a’、b’
ΔL:L-L’
Δa:a-a’
Δb:b-b’
【0057】
(5)耐候促進試験
前記(1)で得た3段型プレートを試験片とした。試験はサンシャイン・ウェザー・メーター(スガ試験機(株)製WEL-SUN-HCH-B)使用し、ブラックパネル温度63℃、18分間水噴霧と102分間噴霧なしの計120分サイクルで1000時間処理した。処理前後の試験片の厚さ2mm部の色相を前記(3)の方法を用いて測定し、試験前後の黄変度(ΔYI)を求めた。ΔYIが小さいほど色相変化がなく、耐候性に優れることを示す。ΔYIは8.0以下であることが好ましく、7.5以下であることがより好ましく、7.0以下であることがさらに好ましい。
ΔYI=YI-YI(ΔYI:試験前後の黄変度、YI:試験後の黄色度、YI:試験前の黄色度。)
【0058】
[実施例1~10及び比較例1~7]
表1に示す割合で各原料をブレンドした後、スクリュー径30mmの(株)日本製鋼所製ベント付き二軸押出機TEX30αによりシリンダー温度280℃で溶融混錬し、ストランドカットによりペレット化した。該ペレットを120℃で5時間乾燥した後、前記の条件で評価用試験片を成形し、前記の評価を行い評価結果について表1に示した。
【0059】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物は、波長340nm以上の紫外線を透過する光学透明部材として有用で、特に波長360nm以上の透過率が十分高く、良好な耐候性、色相、成形滞留安定性に優れるため、屋外用光学透明部材として有用である。