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特開2023-17607液体クロマトグラフおよび液体試料分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017607
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフおよび液体試料分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/32 20060101AFI20230131BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
G01N30/32 A
G01N30/32 C
G01N30/26 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021121965
(22)【出願日】2021-07-26
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】阿部 亮二
(72)【発明者】
【氏名】大和田 樹志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信二
(57)【要約】
【課題】装置の小型化および低コスト化を実現しつつ、各成分の分離分解能と測定精度とを向上させることができる液体クロマトグラフおよび液体試料分析方法を提供する。
【解決手段】液体試料分析装置(HPLC装置)は、1台のポンプと、切替バルブと、カラム(HPLCカラム)と、第1の流路と、第2の流路と、空気導入路と、検出器と、制御部と、を備える。制御部は、ポンプおよび切替バルブを制御して、第1の流路への溶離液と液体試料との導入を切り替え可能であり、溶離液と液体試料との間に空気導入路から気泡を導入して、第1の流体において空気分節液体試料を生成する。また、制御部は、ポンプおよび切替バルブを制御して、第1の流路から第2の流路へ空気分節液体試料を流入し、第2の流路を通過する気泡を溶離液および液体試料の少なくとも一方に溶解させる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を吸引および吐出する1台のポンプと、
多方にポートを有する切替バルブと、
溶離液と液体試料とを含む液体が供給され、内部に保持された固定相との相互作用によって前記液体試料の成分を分離するカラムと、
前記ポンプと前記切替バルブとの間を接続し、前記溶離液と前記液体試料とが同時に流れる第1の流路と、
前記切替バルブと前記カラムとの間を接続し、前記溶離液と前記液体試料とが同時に流れる第2の流路と、
一端が前記切替バルブに接続された空気導入路と、
前記カラムにおいて分離された成分を検出する検出器と、
前記ポンプおよび前記切替バルブを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、前記第1の流路への前記溶離液と前記液体試料との導入を切り替え可能であり、前記溶離液と前記液体試料との間に前記空気導入路から気泡を導入して、前記溶離液を内部に有する前記第1の流路において前記気泡、前記液体試料、前記気泡の順に配置されてなる空気分節液体試料を生成し、
前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、前記第1の流路から前記第2の流路へ前記溶離液および前記空気分節液体試料を流入し、前記第2の流路を通過する前記気泡を前記溶離液および前記液体試料の少なくとも一方に溶解させることを特徴とする液体クロマトグラフ。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第2の流路における前記カラムの液体流入口の直前で、前記気泡を前記溶離液および前記液体試料の少なくとも一方に溶解させることを特徴とする請求項1に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項3】
前記制御部は、
前記溶離液と前記液体試料との間に前記空気導入路から導入する前記気泡の体積量を制御することで、前記第2の流路を通過する前記気泡を前記溶離液および前記液体試料の少なくとも一方に溶解させることを特徴とする請求項1または2に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項4】
前記溶離液と前記液体試料との間に導入される前記気泡の体積量は、前記第1の流路から前記第2の流路へ前記空気分節液体試料を流入するときの前記ポンプの単位時間当たりの吐出量、前記カラムのコンダクタンス、前記第1の流路および前記第2の流路の径、ならびに、前記第1の流路および前記第2の流路の長さに基づいて設定されていることを特徴とする請求項3に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項5】
前記溶離液と前記液体試料との間に導入される前記気泡の体積量は、1マイクロリットル以上45マイクロリットル以下に設定されていることを特徴とする請求項3に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項6】
前記制御部は、
前記第1の流路から前記第2の流路を介して前記カラムへ前記空気分節液体試料を流入しているときの前記ポンプの単位時間当たりの吐出量を制御することで、前記第2の流路を通過する前記気泡を前記溶離液および前記液体試料の少なくとも一方に溶解させることを特徴とする請求項1または2に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項7】
前記第1の流路から前記第2の流路を介して前記カラムへ前記空気分節液体試料を流入するときの前記ポンプの単位時間当たりの吐出量は、前記空気導入路から導入された前記気泡の体積量、前記カラムのコンダクタンス、前記第1の流路および前記第2の流路の径、ならびに、前記第1の流路および前記第2の流路の長さに基づいて設定されていることを特徴とする請求項6に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項8】
前記検出器の下流側に配置された排圧部をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項9】
前記排圧部は、前記検出器の下流側の流路上に設けられた、前記カラムと前記検出器との間を接続する第3の流路の断面積よりも小さい断面積を有する流路を有することを特徴とする請求項8に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項10】
溶離液槽に貯留された溶離液を採取する溶離液流路と、
液体試料槽に貯留された前記液体試料を採取する液体試料流路と、をさらに備え、
前記溶離液流路の一端および前記液体試料流路の一端は、それぞれ前記切替バルブに接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の液体クロマトグラフ。
【請求項11】
流体を吸引および吐出する1台のポンプと、
多方にポートを有する切替バルブと、
溶離液と液体試料とを含む液体が供給され、内部に保持された固定相との相互作用によって前記液体試料の成分を分離するカラムと、
前記ポンプと前記切替バルブとの間を接続し、前記溶離液と前記液体試料とが同時に流れる第1の流路と、
前記切替バルブと前記カラムとの間を接続し、前記溶離液と前記液体試料とが同時に流れる第2の流路と、
一端が前記切替バルブに接続された空気導入路と、
前記カラムにおいて分離された成分を検出する検出器と、を備える液体クロマトグラフにおける液体試料分析方法であって、
前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、前記第1の流路から、前記溶離液の一部を前記第2の流路を経由して前記カラムに導入し、前記カラムの内部に前記溶離液を充填する第1のステップと、
前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、前記溶離液を内部に有する前記第1の流路へ前記液体試料と前記空気導入路からの気泡とを導入して、前記溶離液を内部に有する前記第1の流路において前記気泡、前記液体試料、前記気泡の順に配置されてなる空気分節液体試料を生成する第2のステップと、
前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、前記第1の流路から前記第2の流路へ前記溶離液および前記空気分節液体試料を流入する第3のステップと、
前記第2の流路を通過する前記気泡を前記溶離液および前記液体試料の少なくとも一方に溶解させる第4のステップと、
前記溶離液および前記液体試料を含む液体を前記カラムで分離し、前記検出器で検出する第5のステップと、を含むことを特徴とする液体試料分析方法。
【請求項12】
前記第2のステップでは、
前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、前記空気導入路から前記切替バルブを経由して、前記溶離液を内部に有する前記第1の流路に気泡を導入し、
次いで、前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、一端が前記切替バルブに接続されて液体試料槽に貯留された前記液体試料を採取する液体試料流路から、前記切替バルブを経由して前記第1の流路に前記液体試料を導入し、
次いで、前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、前記空気導入路から前記切替バルブを経由して、前記第1の流路に気泡を導入することを特徴とする請求項11に記載の液体試料分析方法。
【請求項13】
前記第1のステップの後、前記ポンプの動作を停止し、一定の待機時間が経過した後、前記第2のステップを行うことを特徴とする請求項11または12に記載の液体試料分析方法。
【請求項14】
前記第1のステップでは、
前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、一端が前記切替バルブに接続されて溶離液槽に貯留された溶離液を採取する溶離液流路から、前記切替バルブを経由して前記第1の流路に前記溶離液を導入し、
次いで、前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、前記第1の流路から、前記溶離液の一部を前記第2の流路を経由して前記カラムに導入し、前記カラムの内部に前記溶離液を充填することを特徴とする請求項11または12に記載の液体試料分析方法。
【請求項15】
前記第2のステップでは、
前記第3のステップにおける前記ポンプの単位時間当たりの吐出量、前記カラムのコンダクタンス、前記第1の流路および前記第2の流路の径、ならびに、前記第1の流路および前記第2の流路の長さに基づいて設定された体積量の前記気泡を導入することを特徴とする請求項11または12に記載の液体試料分析方法。
【請求項16】
前記第2のステップでは、
前記溶離液と前記液体試料との間に、1マイクロリットル以上45マイクロリットル以下の体積量の前記気泡を導入することを特徴とする請求項14に記載の液体試料分析方法。
【請求項17】
前記第4のステップでは、
前記第2のステップにおいて前記空気導入路から導入された前記気泡の体積量、前記カラムのコンダクタンス、前記第1の流路および前記第2の流路の径、ならびに、前記第1の流路および前記第2の流路の長さに基づいて、前記ポンプの単位時間当たりの吐出量を制御することを特徴とする請求項11または12に記載の液体試料分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフおよび液体試料分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料の成分分析を行う試料分析装置として、クロマトグラフが知られている。クロマトグラフは、移動相媒体をポンプなどによって加圧してカラムを通過させ、分析種を固定相及び移動相との相互作用の差を利用して高性能に分離して検出する分析装置である。気体試料の分析においては、移動相媒体としてキャリアガスと呼ばれる気体を用いるガスクロマトグラフ(Gas Chromatograph)などが使われる。一方、液体試料の分析においては、移動相媒体として溶離液と呼ばれる液体を用いる液体クロマトグラフ(Liquid Chromatograph)などが使われる。
液体試料の成分分析を行う方法としては、水耕栽培の培養液のような多項目の成分が含まれる液体試料を簡易に分析することができる高速液体クロマトグラフィー(HPLC:High Performance Liquid Chromatography)が知られている。
【0003】
例えば非特許文献1には、HPLCにおける試料導入装置が開示されている。この試料導入装置は、カラムにつながる移動相流路と試料(サンプル)が導入される試料ループ(サンプルループ)との接続・分離を切り替え可能な切替バルブを備え、まず、切替バルブを介して、第1のポンプにより加圧された移動相(溶離液)がカラムを流れるようにする。試料ループには、移動相流路と切り離された状態で、分析したい成分を含む試料が第2のポンプによって導入される。その後、移動相流路と試料ループとを接続することにより、移動相流路内に試料が導入され、試料を含む移動相(溶離液)がカラムへ導入される。
このように、従来のHPLC装置は、移動相をカラムへ導入するための第1のポンプと、試料ループへ試料を導入するための第2のポンプと、移動相流路と試料ループとの接続・分離を切り替え可能な切替バルブと、を備える。
【0004】
また、このようなHPLC装置において、例えば特許文献1には、サンプルループ中の圧力および流れの乱れを低減するために、サンプルループ中に気泡を置き、サンプルを先行もしくは後続のサンプルから分離する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5114471号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】三上博久、外1名、「液体クロマトグラフにおける試料導入装置」、CHROMATOGRAPHY、2011年、vol.32、No.1、p.17-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のHPLC装置は、2つのポンプを有し、移動相流路と試料ループとの分離・接続機能を有する構成であるため、装置が大型化するとともにコストが嵩む。そこで、1つのポンプのみを用い、上記の移動相流路と試料ループとの分離・接続機能を有する構成を廃止したHPLC装置構成とすることが考えられる。この場合、装置の小型化およびコストダウンを実現することができる。
ところが、1つのポンプのみを用いたHPLC装置の場合、分離型(流路切替型)の試料ループ(サンプルループ)は設けられず、HPLCカラムへつながる1つの流路へ移動相(溶離液)とサンプルとを切り替えて導入し、移動相(溶離液)とサンプルとを同時に流すことになる。このとき、ポンプの吸引動作や吐出動作が繰り返し行われる。そのため、流路中におけるサンプルの不所望な拡散が生じやすい。サンプルの不所望な拡散が生じると、HPLCカラムにサンプルが導入されても、HPLCカラムにおけるサンプルの分離が不十分になってしまう。
このように、装置構成が簡素化された分、従来の分離型(流路切替型)のHPLC装置では発生し得なかった不具合が発生し得る。
【0008】
上記特許文献1は、サンプルループ中の圧力および流れの乱れを低減するために、サンプルループ中に気泡を置く点を開示する。しかしながら、気泡がHPLCカラムや検出部に導入されると、検出対象である成分のHPLCカラム内での分離が不十分になったり、検出器において空気(気泡)に起因するノイズが発生したりする。そのため、HPLC装置においては、流路内に空気(気泡)を導入することは回避されるのが一般的である。上記特許文献1に記載の技術では、圧力および流れの乱れの影響は低減することができるが、流路内に導入した気泡に起因する上記不具合が生じ得る。
【0009】
そこで、本発明は、装置の小型化および低コスト化を実現しつつ、各成分の分離分解能と測定精度とを向上させることができる液体クロマトグラフおよび液体試料分析方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る液体クロマトグラフの一態様は、流体を吸引および吐出する1台のポンプと、多方にポートを有する切替バルブと、溶離液と液体試料とを含む液体が供給され、内部に保持された固定相との相互作用によって前記液体試料の成分を分離するカラムと、前記ポンプと前記切替バルブとの間を接続し、前記溶離液と前記液体試料とが同時に流れる第1の流路と、前記切替バルブと前記カラムとの間を接続し、前記溶離液と前記液体試料とが同時に流れる第2の流路と、一端が前記切替バルブに接続された空気導入路と、前記カラムにおいて分離された成分を検出する検出器と、前記ポンプおよび前記切替バルブを制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、前記第1の流路への前記溶離液と前記液体試料との導入を切り替え可能であり、前記溶離液と前記液体試料との間に前記空気導入路から気泡を導入して、前記溶離液を内部に有する前記第1の流路において前記気泡、前記液体試料、前記気泡の順に配置されてなる空気分節液体試料を生成し、前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、前記第1の流路から前記第2の流路へ前記溶離液および前記空気分節液体試料を流入し、前記第2の流路を通過する前記気泡を前記溶離液および前記液体試料の少なくとも一方に溶解させる。
【0011】
このように、溶離液と液体試料とが同時に流れる流路において、溶離液と液体試料とを気泡によって分離するので、ポンプの吸引動作や吐出動作を行った場合であっても、液体試料の不所望な拡散を抑制することができる。また、溶離液と液体試料との間に導入された気泡は、第2の流路において溶離液や液体試料に溶解させるので、当該気泡がカラムや検出器に導入されることはない。つまり、溶離液と液体試料とを含む液体を、液体試料の拡散が抑制された状態で、かつ、気泡が消えた状態で、カラムに導入することができる。したがって、カラムにおける検出対象の成分の分離を適切に行うことができるとともに、検出器における空気(気泡)に起因するノイズの発生を抑制することができる。
【0012】
また、上記の液体クロマトグラフにおいて、前記制御部は、前記第2の流路における前記カラムの液体流入口の直前で、前記気泡を前記溶離液および前記液体試料の少なくとも一方に溶解させてもよい。
この場合、カラムの液体流入口の直前まで溶離液と液体試料とを適切に分離し、液体試料の不所望な拡散を抑制することができるので、カラムにおける分離分解能の低下をより適切に抑制することができる。
【0013】
さらに、上記の液体クロマトグラフにおいて、前記制御部は、前記溶離液と前記液体試料との間に前記空気導入路から導入する前記気泡の体積量を制御することで、前記第2の流路を通過する前記気泡を前記溶離液および前記液体試料の少なくとも一方に溶解させてもよい。
この場合、第2の流路において溶離液や液体試料に溶解されるような体積量の気泡を導入することができる。そのため、カラムや検出器に気泡が導入されてしまうことを適切に抑制することができる。
【0014】
また、上記の液体クロマトグラフにおいて、前記溶離液と前記液体試料との間に導入される前記気泡の体積量は、前記第1の流路から前記第2の流路へ前記空気分節液体試料を流入するときの前記ポンプの単位時間当たりの吐出量、前記カラムのコンダクタンス、前記第1の流路および前記第2の流路の径、ならびに、前記第1の流路および前記第2の流路の長さに基づいて設定されていてもよい。
この場合、ポンプの動作によって発生すると想定される第2の流路の内部の圧力値を考慮した適切な体積量の気泡を導入することができ、第2の流路において気泡を確実に溶離液や液体試料に溶解させることができる。
【0015】
さらに、上記の液体クロマトグラフにおいて、前記溶離液と前記液体試料との間に導入される前記気泡の体積量は、1マイクロリットル以上45マイクロリットル以下に設定されていてもよい。
この場合、第2の流路において気泡を適切に溶離液や液体試料に溶解させることができる。
【0016】
また、上記の液体クロマトグラフにおいて、前記制御部は、前記第1の流路から前記第2の流路を介して前記カラムへ前記空気分節液体試料を流入しているときの前記ポンプの単位時間当たりの吐出量を制御することで、前記第2の流路を通過する前記気泡を前記溶離液および前記液体試料の少なくとも一方に溶解させてもよい。
この場合、第2の流路の内部の圧力が、気泡が溶離液や液体試料に溶解されるような圧力値となるように制御ことができる。そのため、カラムや検出器に気泡が導入されてしまうことを適切に抑制することができる。
【0017】
さらにまた、上記の液体クロマトグラフにおいて、前記第1の流路から前記第2の流路を介して前記カラムへ前記空気分節液体試料を流入するときの前記ポンプの単位時間当たりの吐出量は、前記空気導入路から導入された前記気泡の体積量、前記カラムのコンダクタンス、前記第1の流路および前記第2の流路の径、ならびに、前記第1の流路および前記第2の流路の長さに基づいて設定されていてもよい。
この場合、導入された気泡を溶解するために必要な圧力値(目標圧力値)を考慮して適切にポンプの単位時間当たりの吐出量を制御することができ、第2の流路において気泡を確実に溶離液や液体試料に溶解させることができる。
【0018】
また、上記の液体クロマトグラフは、前記検出器の下流側に配置された排圧部をさらに備えていてもよい。
この場合、排圧部によってカラムよりも下流側の流路内圧力を維持することができ、カラムから排出された流体が圧力開放されて再び気泡が生じないようにすることができる。これにより、検出器に気泡が導入されてしまうことを適切に抑制することができる。
【0019】
さらに、上記の液体クロマトグラフにおいて、前記排圧部は、前記検出器の下流側の流路上に設けられた、前記カラムと前記検出器との間を接続する第3の流路の断面積よりも小さい断面積を有する流路を有していてもよい。
この場合、比較的簡易な構成で、カラムよりも下流側の流路内圧力を適切に維持することができる。
【0020】
また、上記の液体クロマトグラフは、溶離液槽に貯留された溶離液を採取する溶離液流路と、液体試料槽に貯留された前記液体試料を採取する液体試料流路と、をさらに備え、前記溶離液流路の一端および前記液体試料流路の一端は、それぞれ前記切替バルブに接続されていてもよい。
この場合、1つのポンプと切替バルブとの制御によって、溶離液と液体試料との第1の流路への注入と、溶離液と液体試料との第2の流路への送出とを適切に実現することができる。
【0021】
さらに、本発明に係る液体試料分析方法の一態様は、流体を吸引および吐出する1台のポンプと、多方にポートを有する切替バルブと、溶離液と液体試料とを含む液体が供給され、内部に保持された固定相との相互作用によって前記液体試料の成分を分離するカラムと、前記ポンプと前記切替バルブとの間を接続し、前記溶離液と前記液体試料とが同時に流れる第1の流路と、前記切替バルブと前記カラムとの間を接続し、前記溶離液と前記液体試料とが同時に流れる第2の流路と、一端が前記切替バルブに接続された空気導入路と、前記カラムにおいて分離された成分を検出する検出器と、を備える液体クロマトグラフにおける液体試料分析方法であって、前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、前記第1の流路から、前記溶離液の一部を前記第2の流路を経由して前記カラムに導入し、前記カラムの内部に前記溶離液を充填する第1のステップと、前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、前記溶離液を内部に有する前記第1の流路へ前記液体試料と前記空気導入路からの気泡とを導入して、前記溶離液を内部に有する前記第1の流路において前記気泡、前記液体試料、前記気泡の順に配置されてなる空気分節液体試料を生成する第2のステップと、前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、前記第1の流路から前記第2の流路へ前記溶離液および前記空気分節液体試料を流入する第3のステップと、前記第2の流路を通過する前記気泡を前記溶離液および前記液体試料の少なくとも一方に溶解させる第4のステップと、前記溶離液および前記液体試料を含む液体を前記カラムで分離し、前記検出器で検出する第5のステップと、を含む。
【0022】
このように、溶離液と液体試料とが同時に流れる流路において、溶離液と液体試料とを気泡によって分離するので、ポンプの吸引動作や吐出動作を行った場合であっても、液体試料の不所望な拡散を抑制することができる。また、溶離液と液体試料との間に導入された気泡は、第2の流路において溶離液や液体試料に溶解させるので、当該気泡がカラムや検出器に導入されることはない。つまり、溶離液と液体試料とを含む液体を、液体試料の拡散が抑制された状態で、かつ、気泡が消えた状態で、カラムに導入することができる。したがって、カラムにおける検出対象の成分の分離を適切に行うことができるとともに、検出器における空気(気泡)に起因するノイズの発生を抑制することができる。
【0023】
また、上記の液体試料分析方法において、前記第2のステップでは、前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、前記空気導入路から前記切替バルブを経由して、前記溶離液を内部に有する前記第1の流路に気泡を導入し、次いで、前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、一端が前記切替バルブに接続されて液体試料槽に貯留された前記液体試料を採取する液体試料流路から、前記切替バルブを経由して前記第1の流路に前記液体試料を導入し、次いで、前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、前記空気導入路から前記切替バルブを経由して、前記第1の流路に気泡を導入してもよい。
この場合、溶離液を内部に有する第1の流路において、気泡、液体試料、気泡の順に配置されてなる空気分節液体試料を適切に生成することができ、溶離液と液体試料とを気泡によって適切に分離することができる。
【0024】
さらに、上記の液体試料分析方法において、前記第1のステップの後、前記ポンプの動作を停止し、一定の待機時間が経過した後、前記第2のステップを行ってもよい。
この場合、第1のステップにおけるポンプの吐出動作によって上昇した第1の流路および第2の流路内の圧力を、ポンプの動作を停止している待機時間中に低下させることができる。このように、流路内圧力を低下させてから第2のステップを実施することで、第2のステップにおいて空気導入路から気泡を導入するべく切替バルブを切り替えた際に、空気導入路に第1の流路および第2の流路内の溶離液が逆流することを抑制することができる。その結果、所望量の気泡を第1の流路に導入することが可能となる。
【0025】
また、上記の液体試料分析方法において、前記第1のステップでは、前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、一端が前記切替バルブに接続されて溶離液槽に貯留された溶離液を採取する溶離液流路から、前記切替バルブを経由して前記第1の流路に前記溶離液を導入し、次いで、前記ポンプおよび前記切替バルブを制御して、前記第1の流路から、前記溶離液の一部を前記第2の流路を経由して前記カラムに導入し、前記カラムの内部に前記溶離液を充填してもよい。
この場合、適切に第1の流路、第2の流路およびカラムを含む流路内を溶離液で置換することができる。
【0026】
また、上記の液体試料分析方法において、前記第2のステップでは、前記第3のステップにおける前記ポンプの単位時間当たりの吐出量、前記カラムのコンダクタンス、前記第1の流路および前記第2の流路の径、ならびに、前記第1の流路および前記第2の流路の長さに基づいて設定された体積量の前記気泡を導入してもよい。
この場合、ポンプの動作によって発生すると想定される第2の流路の内部の圧力値を考慮した適切な体積量の気泡を導入することができ、第2の流路において気泡を確実に溶離液や液体試料に溶解させることができる。
【0027】
さらに、上記の液体試料分析方法において、前記第2のステップでは、前記溶離液と前記液体試料との間に、1マイクロリットル以上45マイクロリットル以下の体積量の前記気泡を導入してもよい。
この場合、第2の流路において気泡を適切に溶離液や液体試料に溶解させることができる。
【0028】
また、上記の液体試料分析方法において、前記第4のステップでは、前記第2のステップにおいて前記空気導入路から導入された前記気泡の体積量、前記カラムのコンダクタンス、前記第1の流路および前記第2の流路の径、ならびに、前記第1の流路および前記第2の流路の長さに基づいて、前記ポンプの単位時間当たりの吐出量を制御してもよい。
この場合、導入された気泡を溶解するために必要な圧力値(目標圧力値)を考慮して適切にポンプの単位時間当たりの吐出量を制御することができ、第2の流路において気泡を確実に溶離液や液体試料に溶解させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明では、装置の小型化および低コスト化を実現しつつ、各成分の分離分解能と測定精度とを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本実施形態における液体試料分析装置の構造例を示す図である。
図2】液体試料分析装置の動作例を示す図である。
図3】液体試料分析装置の動作例を示す図である。
図4】液体試料分析装置の動作例を示す図である。
図5】液体試料分析装置の動作例を示す図である。
図6】液体試料分析装置の動作例を示す図である。
図7】液体試料分析装置の動作例を示す図である。
図8】液体試料分析装置の動作例を示す図である。
図9】空気分節サンプルのイメージ図である。
図10】液体試料分析装置の動作例を示す図である。
図11】空気分節サンプルの圧縮状態のイメージ図である。
図12】液体試料分析装置の動作例を示す図である。
図13】カラム導入直前の空気分節サンプルのイメージ図である。
図14】液体分析システムの基本構成例を説明するための図である。
図15】液体分析システムの基本構成例を説明するための図である。
図16】従来の液体試料分析装置の構造例を示す図である。
図17】検出器から得られる信号の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
液体クロマトグラフィーを採用した分析システムは、例えば、テロやパンデミックなどの対策として、感染症などの対象物をより早期に発見するための検知システムや、上記対象物の拡大防止を目的として、複数個所での分析情報に基づく状況把握システムとして用いられる。
感染症検査においては、対象病原菌やウィルスのRNAもしくはDNAを対象物として、直接的に液体クロマトグラフィーにて分析することも、PCRやLAMP法、ハイブリダイゼーション法、インタカレーター法のなど増感方法を介して液体クロマトグラフィーにて分析することも可能である。
上記の感染症としては、例えば炭疽、鳥インフルエンザ、クリミア・コンゴ出血熱、デング熱、エボラ出血熱、ヘンドラウイルス感染症、肝炎、インフルエンザ、ラッサ熱、マールブルグ熱、髄膜炎症(en:Meningococcal disease)、ニパウイルス感染症、ペスト、リフトバレー熱、重症急性呼吸器症候群(SARS)、天然痘、野兎病、黄熱病などがある。
【0032】
また、液体クロマトグラフィーを採用した分析システムは、飲料水等の製造工場において飲料水等の品質をモニタするシステムや、植物工場において植物(野菜等の作物)に必要な養分を水に溶かした養液の成分分析を行うシステムとしても用いられる。
図14は、飲料水等の製造工場における液体分析システムの例を示す図である。
この図14に示すように、飲料水等の製造工場においては、製造する飲料水等の品質をモニタするために、飲料水等を貯蔵する液体タンク81より分析対象の飲料水等の液体82の一部を採取する。そして、採取された液体82は、液体試料採取流路83を介して液体分析装置84に送液され、当該液体分析装置84により成分分析される。
【0033】
図15は、植物工場における液体分析システムの例を示す図である。
一般に、植物工場においては、植物(野菜等の作物)に必要な養分を水に溶かした養液による養液栽培が行われる。図15では、養液栽培として、養液91を循環させる循環式の水耕栽培の例を示している。
この図15に示すように、作物92が育成される栽培槽93に供給される養液91は、送液ポンプ94により、循環流路95を介して循環する。循環する養液91の一部は、循環流路95の一部から分岐した液体試料採取流路96を介して、例えば自動的に採取され、採取された養液91は液体分析装置97により成分分析される。
【0034】
循環式の水耕栽培の場合、養液が循環するにつれ栽培槽に保持される養液の組成が変化する。植物の生育は養液成分に影響されるので、養液分析の結果に基づき、必要に応じて適宜、養液の調整が行われる。
液体分析装置84、97としては、液体試料に含まれる多項目の成分を簡易に分析することができる高速液体クロマトグラフィー(HPLC:High Performance Liquid Chromatography )装置を用いることができる。
これらのシステムにおける分析装置は、設置場所を選ばず設置可能であり、小型かつ低コストのものが望まれる。
【0035】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
(第一の実施形態)
まず、従来の小型かつ低コストのHPLC装置の一例について、図16を参照しながら説明する。
図16は、従来のHPLC装置10Aの構成例を示す図である。
HPLC装置10Aは、ポンプ11と、切替バルブ12と、HPLCカラム13と、を備える。制御部32は、ポンプ11および切替バルブ12の動作を制御して、溶離液槽41に貯蔵されている移動相媒体である溶離液41a、および液体試料槽(サンプル槽)42に貯蔵されている液体試料(サンプル)42aを、それぞれ溶離液流路21、液体試料流路(サンプル流路)22を介してHPLCカラム13に導入する。
【0036】
HPLCカラム13に導入された液体試料42aは、HPLCカラム13により構成成分毎に分離される。そして、検出器31において分離成分が検出され、データ処理部33において検出器31からの検出データが解析され、分離成分の同定や定量が行われる。データ処理部33により分析された分析結果は、例えば、制御部32に送出される。
HPLCカラム13と検出器31とを通過した溶離液41aおよび液体試料42aは、排液流路25を介して排液槽43に排液43aとして保持される。
【0037】
HPLCカラム13を溶離液41aとともに液体試料42aが流れると、液体試料42aを構成する各成分は、固定相であるHPLCカラム13と相互作用しながら移動する。この各成分とHPLCカラム13との相互作用の強さの相違により、HPLCカラム13から各成分が溶出する時間が決定される。すなわち、HPLCカラム13を通過する各成分の溶出時間の相違を利用して、液体試料42aに含まれる各成分が分離される。
【0038】
分離された成分は、検出器31により検出される。このとき、検出器31は、各成分のHPLCカラム13での保持時間に対応して、各成分に相当する信号を検出する。つまり、各成分に相当する信号は時間依存性を持つ。ここで、保持時間とは、HPLCカラム13に流入後、HPLCカラム13から溶出して、検出器31により検出されるまでの時間である。
例えば、液体試料42aに物質A、物質B、物質Cが含まれており、HPLCカラム13を通過する物質A、物質B、物質Cの保持時間がt1、t2、t3(t1<t2<t3)であるとき、検出器31からは、図17に示すように物質A、物質B、物質Cに相当する信号が順に得られる。
【0039】
図16に示すHPLC装置10Aは、大まかに以下のように動作する。
まず、ポンプ11の吸引動作により、溶離液槽41から溶離液41aを溶離液流路21、切替バルブ12を介して第1の流路23に導入する(工程1)。
次に、ポンプ11の吐出動作により、第1の流路23内の溶離液41aを、第1の流路23、切替バルブ12、第2の流路24を介してHPLCカラム13に導入する(工程2)。このとき、HPLCカラム13に導入された溶離液41aの少なくとも一部は、検出器31、廃液流路25を介して排液槽43に排液43aとして貯留される。
【0040】
次に、ポンプ11の吸引動作により、サンプル槽42から液体試料(サンプル)42aをサンプル流路22、切替バルブ12を介して第1の流路23に導入する(工程3)。このとき、サンプル42aは、第1の流路23内において、当該第1の流路23に残留している溶離液41aと混合する。
次に、ポンプ11の吐出動作により、第1の流路23内の溶離液41aおよびサンプル42aが、切替バルブ12、第2の流路24を介してHPLCカラム13に導入される(工程4)。すると、HPLCカラム13により、溶離液41a中のサンプル42aを構成する各成分が分離されて、分離された順に各成分が検出器31に導入される。
そして、検出器31は、成分毎に導入されるサンプル42aを検出する(工程5)。検出後の溶離液41aおよびサンプル(各成分)42aは、排液流路25を介して排液槽43に排液43aとして貯留される(工程6)。
【0041】
この図16に示すHPLC装置10Aは、搭載されるポンプが1台であり、溶離液流路とサンプル流路とが分離された分離型(流路切替型)のHPLC装置のように溶離液とサンプルとをそれぞれ導入するための2台のポンプを必要としないため、装置の小型化および低コスト化を実現することができる。
しかしながら、例えばシリンジポンプから構成されるポンプ11は、吸引動作と吐出動作とを繰り返して流路内の液体を置換する。HPLCカラム13へサンプル41aを導入するためには、上述したように工程1~工程4を経る必要があり、ポンプ11の吸引動作や吐出動作も複数回行われる。
上記のようにポンプ11の吸引動作や吐出動作が行われた場合、流路内においてはサンプル42aの不所望な拡散が生じる場合がある。サンプル42aの不所望な拡散が生じると、HPLCカラムに溶離液41aとサンプル42aとを含む液体が導入されても、HPLCカラムにおけるサンプルの分離が不十分になってしまう。
【0042】
本実施形態におけるHPLC装置は、搭載されるポンプが1台である小型化および低コスト化を実現したHPLC装置であって、流路内におけるサンプル(液体試料)の不所望な拡散といった不具合を抑制する。具体的には、本実施形態におけるHPLC装置では、流路内のサンプル(液体試料)の流路方向の前後に気泡を設ける構成(以下、「空気分節サンプル」ともいう。)を用いて、流路内におけるサンプル(液体試料)の不所望な拡散を抑制する。
【0043】
ただし、空気分節サンプル(空気分析液体試料)がHPLCカラムや検出器に導入されると、検出対象である成分のHPLCカラム内での分離が不十分になったり、検出器において空気(気泡)に起因するノイズが発生したりする。
そこで、本実施形態におけるHPLC装置は、空気分節サンプルを用いて流路内におけるサンプル(液体試料)の不所望な拡散といった不具合を抑制しつつ、空気分節サンプルを構成する気泡がHPLCカラムに導入される前に消えるようにして、空気に起因するカラムや検出器における不具合を回避する。
【0044】
図1は、本実施形態における液体分析装置(HPLC装置)10を備える液体分析システムの構成例を示す図である。
この図1に示すHPLC装置10は、上述した図16に示すHPLC装置10Aと同様に、1つのポンプのみを用いたHPLC装置であり、図16に示すHPLC装置10Aと同一構成を有する部分には図16と同一符号を付している。
具体的には、図1に示すHPLC装置10において、切替バルブ14、排圧部34および圧力計35を除く構成は、図16に示すHPLC装置10Aの構成と同一である。
【0045】
HPLC装置10は、1台のポンプ11と、多方にポートを有する切替バルブ14と、HPLCカラム13(本発明のカラムに相当)とを、この順番に備える。また、HPLC装置10は、溶離液流路21と、サンプル流路22(液体試料流路)と、第1の流路23と、第2の流路24と、第3の流路26と、第4の流路27と、排液流路25と、空気導入路28と、を備える。さらに、HPLC装置10は、検出器31と、制御部32と、データ処理部33と、排圧部34と、圧力計35と、を備える。
【0046】
溶離液流路21は、溶離液槽41に貯蔵されている溶離液41aを第1の流路23に導入するための流路であり、サンプル流路22は、サンプル槽(本発明の液体試料槽に相当)42に貯蔵されているサンプル(液体試料)42aを第1の流路23に導入するための流路である。溶離液流路21の一端とサンプル流路22の一端とは、それぞれ切替バルブ14に接続されている。
【0047】
第1の流路23は、ポンプ11と切替バルブ14との間を接続する流路であり、第2の流路24は、切替バルブ14とHPLCカラム13との間を接続する流路である。第1の流路23および第2の流路24は、溶離液41aとサンプル42aとが同時に流れる流路であり、HPLC装置10の主流路を構成している。
第3の流路26は、HPLCカラム13と検出器31とを接続する流路であり、第4の流路27は、検出器31と排圧部34とを接続する流路である。
排液流路25は、HPLC装置10の流路内の流体を、排液43aとして排液槽43に排出するための流路である。
空気導入路28は、HPLC装置10の外部の空気を第1の流路23に導入するための流路である。空気導入路28の一端は切替バルブ14に接続されており、空気導入路28の他端は開放された空気取込口となっている。
【0048】
ポンプ11は、HPLCカラム13に溶離液41aおよび/またはサンプル42aを送液するための送液部であり、切替バルブ14を介してHPLCカラム13に接続されている。
検出器31は、主流路におけるHPLCカラム13の後段に設けられている。
HPLCカラム13に導入されたサンプル42aは、当該HPLCカラム13の内部に保持された固定相との相互作用によって構成成分毎に分離される。検出器31は、HPLCカラム13において分離された成分を検出し、検出された検出データをデータ処理部33に送出する。
【0049】
データ処理部33は、検出器31によって検出された検出データを分析し、サンプル(液体試料)成分の同定や定量を行う。データ処理部33は、分析された分析結果を制御部32に送出する。
制御部32は、ポンプ11や切替バルブ14の動作を制御する。制御部32は、切替バルブ14を切り替えることで、第1の流路23と接続する流路を、溶離液流路21、サンプル流路22、第2の流路24または空気導入路28のいずれかに切り替えることができる。また、制御部32は、ポンプ11の吸引動作と吐出動作とを制御することで、HPLC装置10の流路内を流れる流体の流れ方向を切り替えることができる。
また、制御部32は、後述するように、第1の流路23に設けられた圧力計35からの圧力データに基づき、ポンプ11の動作を制御することもできる。
さらに、制御部32は、データ処理部33により分析された分析結果を受信し、必要に応じて外部に送信したり、不図示のモニタ等に結果を表示したりすることもできる。
【0050】
以下、図2図13を用いて、本実施形態のHPLC装置10の動作プロセスについて説明する。なお、図2図8図10および図12においては、制御部32とデータ処理部33の図示を省略している。
本動作プロセスは、大きく前準備工程、サンプリング工程、分析工程の3工程からなる。
【0051】
(1)前準備工程
前準備工程は、溶離液41aの吸引ステップ(STEP1)と、それに続く溶離液41aによりHPLCカラム13内部を置換する置換ステップ(STEP2)とからなる。
〔STEP1:溶離液の吸引〕
図2は、溶離液の吸引ステップ(STEP1)を説明する図である。
このSTEP1において、図示を省略した制御部32は、切替バルブ14の切り替え動作を行って溶離液流路21と第1の流路23とを接続し、次いで、ポンプ11の吸引動作を行って、溶離液槽41から溶離液41aを吸い上げ、吸い上げた溶離液41aを溶離液流路21、切替バルブ14を介して第1の流路23に導入する。切替バルブ14とポンプ11と間の第1の流路23は、溶離液41aの貯留流路として機能する。
なお、図2においては、溶離液流路21と第1の流路23とに溶離液41aが満たされている様子が太線により仮想的に示されている。
【0052】
〔STEP2:溶離液による置換〕
図3は、溶離液による置換ステップ(STEP2)を説明する図である。
このSTEP2において、図示を省略した制御部32は、切替バルブ14の切り替え動作を行って第1の流路23と第2の流路24とを接続し、次いで、ポンプ11の吐出動作を行って、第1の流路23に導入されている溶離液41aの一部を、第1の流路23、切替バルブ14、第2の流路24を介してHPLCカラム13に導入する。HPLCカラム13に導入された溶離液41aの少なくとも一部は、第3の流路26、検出器31、第4の流路27、排圧部34、排液流路25を介して排液槽43に貯留される。
これにより、第1の流路23の少なくとも一部、第2の流路24、HPLCカラム13、第3の流路26、検知器31、第4の流路27、排圧部34、排液流路25の内部は、溶離液41aが充填された状態となる。
なお、図3においては、第1の流路23、第2の流路24、第3の流路26、第4の流路27および排液流路25に溶離液41aが満たされている様子が太線により仮想的に示されている。
【0053】
(2)サンプリング工程
前準備工程に続くサンプリング工程は、第1の空気吸引ステップ(STEP3)と、それに続く液体試料吸引ステップ(STEP4)、更にそれに続く第2の空気吸引ステップ(STEP5)とからなる。
〔STEP3:第1の空気吸引ステップ〕
図4は、第1の空気吸引ステップ(STEP3)を説明する図である。
このSTEP3において、図示を省略した制御部32は、切替バルブ14の切り替え動作を行って第1の流路23と空気導入路28とを接続し、次いで、ポンプ11の吸引動作を行って、空気導入路28の空気取込口より空気Aを、切替バルブ14を介して第1の流路23に導入する。このとき、空気Aは、第1の流路23に気泡として導入される。
【0054】
つまり、第1の流路23内は、少なくとも一部に溶離液41aが充填され、切替バルブ14側に空気(気泡)Aが導入された状態となる。また、第2の流路24、HPLCカラム13、第3の流路26、検知器31、第4の流路27、排圧部34、排液流路25の内部は、溶離液41aにより置換されている。
なお、図4においては、第1の流路23の切替バルブ14側に気泡Aが導入されている様子が仮想的に示されている。
【0055】
ここで、溶離液41aによる置換ステップ(STEP2)と第1の空気吸引ステップ(STEP3)との間には、一定時間、ポンプ11の動作を停止する期間を設けることが好ましい。
一般に、HPLCカラム13のコンダクタンスは小さいため、STEP2において、第1の流路23に保持する溶離液41aをポンプ11の吐出動作によって第2の流路24以降の流路に導入した場合、第1の流路23や第2の流路24内の圧力が上がってしまう。このような状態で、STEP3において切替バルブ14の切り替え動作を行って、第1の流路23と空気導入路28とを接続すると、第1の流路23内の溶離液41aの少なくとも一部が空気導入路28に逆流するおそれがある。つまり、第1の流路23へ導入する空気の容量が所望の容量とならないおそれがある。
【0056】
そのため、STEP2の終了後は、ポンプ11の動作を停止し、一定の待機時間が経過した後、STEP3を行うことが好ましい。これにより、第1の流路23、切替バルブ14、および第2の流路24から排液流路25に至る流路内圧力は、排液43aが排液槽43に流れるにつれて徐々に低下する。上記流路内圧力が十分に(例えば、大気圧と同等圧力まで)下がった後にSTEP3の工程を実施することにより、空気導入路28に第1の流路23および第2の流路24内の溶離液41aが逆流することなく、空気Aを第1の流路23に導入することが可能となる。
【0057】
〔STEP4:液体試料吸引ステップ〕
図5は、液体試料吸引ステップ(STEP4)を説明する図である。
このSTEP4において、図示を省略した制御部32は、切替バルブ14の切り替え動作を行って第1の流路23とサンプル流路22とを接続し、次いで、ポンプ11の吸引動作を行って、サンプル槽42からサンプル42aを吸い上げ、吸い上げたサンプル42aをサンプル流路22、切替バルブ14を介して第1の流路23に導入する。
【0058】
このSTEP4では、第1の流路23において、STEP3により第1の流路23に導入された気泡Aと切替バルブ14と間にサンプル42aが充填される。すなわち、第1の流路23において、ポンプ11側に充填された溶離液41aと切替バルブ14側に充填されたサンプル42aとは気泡Aにより分離されており、溶離液41aとサンプル42aとは混合されない。また、第2の流路24、HPLCカラム13、第3の流路26、検知器31、第4の流路27、排圧部34、排液流路25の内部は、溶離液41aにより置換されている。
なお、図5においては、第1の流路23の切替バルブ14側にサンプル42aが導入されて、溶離液41aとサンプル42aとが気泡Aによって分離されている様子が仮想的に示されている。
【0059】
〔STEP5:第2の空気吸引ステップ〕
図6は、第2の空気吸引ステップ(STEP5)を説明する図である。
このSTEP5において、図示を省略した制御部32は、切替バルブ14の切り替え動作を行って第1の流路23と空気導入路28とを接続し、次いで、ポンプ11の吸引動作を行って、空気導入路28の空気取込口より空気Aを、切替バルブ14を介して第1の流路23に導入する。このとき、空気Aは、第1の流路23に気泡として導入される。
【0060】
このSTEP5では、第1の流路23において、STEP4により第1の流路23に導入されたサンプル42aと切替バルブ14と間に気泡Aが導入される。これにより、第1の流路23において、サンプル42aは気泡Aに挟まれた状態、すなわち、空気分節サンプルとなる。また、第2の流路24、HPLCカラム13、第3の流路26、検知器31、第4の流路27、排圧部34、排液流路25の内部は、溶離液41aにより置換されている。
なお、図6においては、第1の流路23の切替バルブ14側に気泡Aが導入されて、第1の流路23内に空気分節サンプルが形成されている様子が仮想的に示されている。
【0061】
(3)分析工程
サンプリング工程に続く分析工程は、空気分節サンプル排出ステップ(STEP6)と、それに続く圧縮ステップ(STEP7)と、それに続く検出ステップ(STEP8)とからなる。
〔STEP6:空気分節サンプル排出ステップ〕
図7および図8は、第1の流路23からHPLCカラム13へ向けて空気分節サンプルを排出する排出ステップ(STEP6)を説明する図である。
このSTEP6において、図示を省略した制御部32は、切替バルブ14の切り替え動作を行って第1の流路23と第2の流路24とを接続し、次いで、ポンプ11の吐出動作を行って、第1の流路23における気泡A、サンプル42a、気泡A、溶離液41aを、この順に第2の流路24へ排出する。
なお、図7は、ポンプ11の吐出動作を開始した直後の様子を示しており、第1の流路23内の空気分節サンプル(気泡A、サンプル42a、気泡A)は、STEP6により形成された図6に示す空気分節サンプルから大きな変化はない。
【0062】
図7に示す状態からポンプ11の吐出動作を継続すると、図8に示すように、第1の流路23に存在していた空気分節サンプルが排出されて、第2の流路24に導入される。
図9は、第2の流路24に導入されたサンプル42aの状態を示す図であり、図8の符号51で示す第2の流路24の内部イメージ図である。この図9に示すように、第2の流路24内においては、サンプル42aは両端を気泡Aに挟まれた状態であり、当該気泡Aにより溶離液41aと分離された状態である。すなわち、溶離液41aとサンプル42aは、混合されていない。
【0063】
〔STEP7:圧縮ステップ〕
図10図13は、圧縮ステップ(STEP7)を説明する図である。
このSTEP7において、切替バルブ14の状態は、STEP6と同様、第1の流路23と第2の流路24とを接続した状態である。
上記したように、一般にHPLCカラム13のコンダクタンスは小さいので、ポンプ11の吐出動作の結果として第1の流路23や第2の流路24の内部の圧力が上昇する。
サンプル42aをHPLCカラム13に導入するために、ポンプ11の吐出動作を行うと、第1の流路23、第2の流路24内の圧力が上昇し、第2の流路24内に導入された空気分節サンプルが圧縮される。その結果、空気分節サンプルを構成する気泡Aの少なくとも一部が溶離液41aおよびサンプル42aの少なくとも一方に溶け込み、気泡Aの体積が減少する。
図11は、図10の符号52で示す第2の流路24の内部イメージ図である。この図11に示すように、空気分節サンプルが圧縮されることで、気泡Aの体積が、第1の流路23において導入した気泡Aの体積よりも減少する。
【0064】
第1の流路23、第2の流路24内の圧力は、ポンプ11の吐出動作を開始した時点からポンプ11の吐出動作を行っている間、徐々に上昇する。この圧力の上昇は、流路の径、流路の長さ、HPLCカラム13を含むHPLCカラム13よりも下流の流路のコンダクタンス、ポンプ11の単位時間当たりの吐出量等に依存する。
そこで、本実施形態では、第2の流路24内の圧力上昇によって当該第2の流路24におけるHPLCカラム13の液体流入口の直前で気泡Aが溶離液41aやサンプル42aに完全に溶け込むように(気泡Aが消えるように)、STEP3およびSTEP5において導入する気泡Aの体積量を設定する。
【0065】
上記のように予め設定された体積量の気泡Aを導入することで、ポンプ11の吐出動作に伴って第2の流路24内の圧力が上昇した場合に、図12に示すように、第2の流路24におけるHPLCカラム13の直前で気泡Aを溶離液41aやサンプル42aに完全に溶解させることができる。
図13は、図12の符号53で示す第2の流路24の内部イメージ図である。この図13に示すように、HPLCカラム13の直前で気泡Aを完全に消すことができる。
【0066】
ここで、気泡Aの導入量は、例えば1μl(マイクロリットル)以上45μl以下とすることができる。例えば、流路中の気泡Aの長さが1mmあれば、溶離液41aとサンプル42aとを適切に分離することができる。したがって、気泡Aの最小体積は、流路の径にもよるが1マイクロリットルでも十分である。また、気泡Aの量が多いほど、当該気泡Aを溶離液41aやサンプル42aに完全に溶解するための圧力値も大きくなるため、ポンプ11の吐出能力にもよるが、気泡Aの最大体積は45マイクロリットル程度であることが好ましい。
気泡Aの導入量は、事前の実験やシミュレーションにより決定することができる。例えば、実験により気泡Aの導入量を決定する場合には、透明な管路(チューブ)を用いて、HPLCカラム13の直前で気泡Aが消えることを目視で確認するなどして、気泡Aの適切な導入量を決定してもよい。なお、気泡Aの導入量を決定した後は、管路(チューブ)が透明である必要はない。
【0067】
本実施形態では、第2の流路24におけるHPLCカラム13の直前で気泡Aが溶離液41aやサンプル42aに完全に溶け込むように気泡Aの導入量を設定する場合について説明したが、第2の流路24におけるHPLCカラム13の直前で気泡Aが溶離液41aやサンプル42aに完全に溶け込むように、ポンプ11の単位時間当たりの吐出量(以降、単に「吐出量」という。)を調整してもよい。
第1の流路23に導入した所定量の気泡Aが完全に溶離液41aやサンプル42aに溶け込むときの流路内圧力(以下、「目標圧力値」という。)は、予め算出することができる。そこで、例えば第1の流路23に設けられた圧力計35により計測された圧力値が、気泡Aが第2の流路24を通過しているときに上記目標圧力値と一致(または略一致)するように、ポンプ11の吐出量を調整するようにしてもよい。
具体的には、圧力計35は、計測した圧力値(第1の流路23および第2の流路24の圧力値)を制御部32に送信し、制御部32は、圧力計35から受信した圧力値と目標圧力値とを比較して、第1の流路23および第2の流路24の圧力値が上記目標圧力値と一致(または略一致)するようにポンプ11の動作を制御すればよい。
【0068】
このように気泡Aの導入量やポンプ11の吐出量を調整することにより、HPLCカラム13へは、サンプル42aおよび溶離液41aのみが導入され、気泡Aは導入されない。
【0069】
以上のような工程により、サンプル41aは、HPLCカラム13の液体流入口の直前に到達するまでは、空気分節サンプルとして第1の流路23、第2の流路24内を輸送される。つまり、サンプル42aは、前後に配置される気泡Aにより溶離液41aと分離された状態で第1の流路23、第2の流路24内を輸送され、第1の流路23、第2の流路24内部において不所望な拡散が生じることが回避される。
【0070】
一方、上記工程により、空気分節サンプルを構成するサンプル42aの前後に配置される気泡Aは、サンプル42aがHPLCカラム13の液体流入口の直前に到達する時点で、溶離液41aやサンプル42aに溶解される。そのため、気泡Aは、HPLCカラム13や検出器31には導入されない。
よって、サンプル42aを構成する検出対象である各成分のHPLCカラム13内での分離が不十分になったり、検出器31において空気(気泡)に起因するノイズが発生したりするといった不具合は発生しない。
【0071】
〔STEP8:検出ステップ〕
STEP8において、切替バルブ14の状態は、STEP7と同様、第1の流路23と第2の流路24とを接続した状態である。
このSTEP8では、制御部32は、ポンプ11の吐出動作を継続し、第2の流路24の溶離液41aおよびサンプル42aをHPLCカラム13に導入する。
HPLCカラム13を、溶離液41aとともにサンプル42aが流れると、サンプル42aを構成する各成分は、固定相であるHPLCカラム13と相互作用しながら移動する。この各成分とHPLCカラム13との相互作用の強さの相違により、HPLCカラム13から各成分が溶出する時間が決定される。すなわち、HPLCカラム13を通過する各成分の溶出時間の相違を利用して、サンプル42aに含まれる各成分が分離される。
そして、分離された成分は、HPLCカラム13の後段に配置された検出器31によって検出される。このとき、検出器31は、HPLCカラム13から溶出する各成分の溶出時間に対応して、各成分に相当する信号を得る。
そして、検出器31から排出される流体は、排液流路25を介して排液槽43に排出され、排液43aとして保持される。
【0072】
なお、検出器31の下流側には、コンダクタンスが小さい排圧部34を設けてもよい。排圧部34は、例えば第4の流路27の少なくとも一部に、第3の流路26の断面積より小さい断面積を有する流路を含んで構成されていてもよい。この排圧部34により、HPLCカラム13よりも下流側の流路内圧力を維持することができ、HPLCカラム13から排出された流体が圧力開放されて再び気泡Aが生じないようにすることができる。これにより、検出器31に空気が導入されてしまうことを適切に抑制することができる。
【0073】
上記の各STEPのうち、STEP1およびSTEP2が第1のステップに対応し、STEP3~STEP5が第2のステップに対応し、STEP6が第3のステップに対応し、STEP7が第4のステップに対応し、STEP8が第5のステップに対応している。
【0074】
以上説明したように、本実施形態におけるHPLC装置10は、1台のポンプ11と、切替バルブ14と、HPLCカラム13と、ポンプ11と切替バルブ14との間を接続し、溶離液41aとサンプル(液体試料)42aとが同時に流れる第1の流路23と、切替バルブ14とHPLCカラム13との間を接続し、溶離液41aとサンプル42aとが同時に流れる第2の流路24と、一端が切替バルブ14に接続された空気導入路28と、を備える。また、HPLC装置10は、HPLCカラム13において分離された成分を検出する検出器31と、ポンプ11および切替バルブ14を制御する制御部32と、を備える。
【0075】
制御部32は、ポンプ11および切替バルブ14を制御して、第1の流路23への溶離液41aとサンプル42aとの導入を切り替え可能であり、溶離液41aとサンプル42aとの間に空気導入路28から気泡を導入して、第1の流体23において気泡A、サンプル42a、気泡Aの順に配置されてなる空気分節サンプル(空気分節液体試料)を生成することができる。また、制御部32は、ポンプ11および切替バルブ14を制御して、第1の流路23から第2の流路24へ空気分節サンプルを流入し、第2の流路23を通過する気泡Aを溶離液41aおよびサンプル42aの少なくとも一方に溶解させることができる。
【0076】
このように、1つのポンプ11によって、溶離液41aやサンプル42aの第1の流路23への導入と、溶離液41aとサンプル42aとの混合液のHPLCカラム13への送液とを実現することができる。したがって、ポンプを複数個設ける必要がなく、その分の小型化およびコスト削減を実現することができる。そのため、植物(野菜等の作物)を生産する農家等への普及が容易となる。
また、ポンプ11を、第1の流路23から切替バルブ14、第2の流路24を経由してHPLCカラム13に流入する経路の外に配置するので、流体がポンプ11を通過しない構成とすることができる。したがって、ポンプ11を通過することによる流体の分散(拡散)を防止することができ、HPLCカラム13における分離能の低下を防止することができる。
【0077】
さらに、本実施形態では、第1の流路23において空気分節サンプルを生成し、その空気分節サンプルを第2の流路24を介してHPLCカラム13へ向けて流すので、溶離液41aとサンプル42aとを気泡Aによって分離した状態で、サンプル42aをHPLCカラム13まで送液することができる。したがって、サンプル42aがHPLCカラム13に導入される前にサンプル42aの不所望な拡散が生じることを適切に抑制することができ、HPLCカラム13における分離能の低下を防止することができる。
【0078】
また、本実施形態では、空気分節サンプルを構成する気泡Aを、第2の流路24において溶離液41aおよびサンプル42aの少なくとも一方に溶解させることができる。つまり、気泡AがHPLCカラム13や検出器31に導入される前に、当該気泡Aを消すことができる。したがって、気泡Aに起因するHPLCカラム13における分離能の低下や検出器31におけるノイズ発生といった不具合を適切に回避することができる。
ここで、気泡Aを、HPLCカラム13の液体流入口の直前で溶離液41aやサンプル42aに溶解させるようにすれば、サンプル42aの流路内における不所望な拡散をより適切に抑制することができる。
【0079】
制御部32は、溶離液41aとサンプル42aとの間に空気導入路28から導入する気泡Aの体積量、および、第1の流路23から第2の流路24を介してHPLCカラム13へ空気分節サンプルを流入するときのポンプ11の吐出量の少なくとも一方を制御することで、第2の流路24を通過する気泡Aを溶離液41aやサンプル42aに溶解させることができる。
【0080】
具体的には、制御部32は、ポンプ11の吐出動作により第1の流路23から第2の流路24へ空気分節サンプルを流入しているときに発生する第2の流路24の内部の圧力によって、第2の流路23を通過する気泡Aが溶離液41aやサンプル42aに溶解されるような体積量の気泡Aを、溶離液41aとサンプル42aとの間に導入する。
ここで、第1の流路23から第2の流路24へ空気分節サンプルを流入しているときに発生する第2の流路24の内部の圧力は、第1の流路23から第2の流路24へ空気分節サンプルを流入しているときのポンプ11の吐出量、HPLCカラム13のコンダクタンス、第1の流路23および第2の流路24の径、ならびに、第1の流路23および第2の流路24の長さに基づいて決まる。したがって、これらの条件をもとに設定された体積量の気泡Aを導入するようにすれば、第2の流路24において確実に気泡Aを溶解させることができる。
【0081】
また、制御部32は、第1の流路23から第2の流路24を介してHPLCカラム13へ空気分節サンプルを流入しているときに、第2の流路24の内部に第2の流路24を通過する気泡Aが溶離液41aやサンプル42aに溶解されるような圧力(目標圧力値)が印加されるように、ポンプ11の吐出量を制御してもよい。
ここで、空気導入路28から導入された気泡Aが溶離液41aやサンプル42aに溶解される圧力は、空気導入路28から導入された気泡Aの体積量、HPLCカラム13のコンダクタンス、第1の流路23および第2の流路24の径、ならびに、第1の流路23および第2の流路24の長さに基づいて決まる。したがって、これらの条件をもとに設定された目標圧力値を印加するようにポンプ11の吐出量を制御することでも、第2の流路24において確実に気泡Aを溶解させることができる。
【0082】
なお、本実施形態では、HPLCカラム13の液体流入口の直前で気泡Aを完全に溶解させる場合について説明したが、気泡Aは完全に溶解されなくてもよい。気泡Aは、HPLCカラム13における各成分の分離分解能や検出器31におけるノイズが許容できる程度に小さくできればよい。
【0083】
以上のように、本実施形態におけるHPLC装置100は、液体クロマトグラフィーを用いた液体試料分析装置であって、装置の小型化および低コスト化を実現しつつ、各成分の分離分解能と測定精度とを向上させることができる。
【0084】
なお、上記において特定の実施形態が説明されているが、当該実施形態は単なる例示であり、本発明の範囲を限定する意図はない。本明細書に記載された装置及び方法は上記した以外の形態において具現化することができる。また、本発明の範囲から離れることなく、上記した実施形態に対して適宜、省略、置換及び変更をなすこともできる。かかる省略、置換及び変更をなした形態は、請求の範囲に記載されたもの及びこれらの均等物の範疇に含まれ、本発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0085】
10…液体試料分析装置(HPLC装置)、11…ポンプ、12…切替バルブ、13…HPLCカラム、14…切替バルブ、21…溶離液流路、22…サンプル流路(液体試料流路)、23…第1の流路、24…第2の流路、25…排液流路、26…第3の流路、27…第4の流路、28…空気導入路、31…検出器、32…制御部、33…データ処理部、41…溶離液槽、41a…溶離液、42…サンプル槽(試料槽)、42a…サンプル(液体試料)、43…排液槽、43a…排液、A…空気(気泡)
図1
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