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  • 特開-酵素の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176072
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】酵素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/15 20060101AFI20231206BHJP
   C12N 9/26 20060101ALI20231206BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C12N1/15 ZNA
C12N9/26 A
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088157
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】519127797
【氏名又は名称】三菱商事ライフサイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160978
【弁理士】
【氏名又は名称】榎本 政彦
(72)【発明者】
【氏名】阿部 敬悦
(72)【発明者】
【氏名】見村 晃紀
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD05
4B050EE02
4B050LL02
4B050LL10
4B064AG01
4B064CA07
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA10
4B064DA20
4B065AA63X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA32
4B065CA41
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】本発明は、糸状菌液体培養により、アミラーゼなどの加水分解酵素を効率良く生産することを課題とする。
【解決手段】
本発明者は、GAG生合成クラスターの少なくとも一部を欠損し、かつα-1,3-グルカンを発現しない変異型の糸状菌を最小培地で培養することで、酵素発現の誘導等をすることなく、さらに、宿主に異種タンパク質発現ベクターの導入などで高発現化することなく、加水分解酵素をこの変異型糸状菌が発現することを見出し、本発明を完成させた。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異型の糸状菌を使用した高分子化合物の製造方法であって、
変異型糸状菌が、GAG生合成クラスターの少なくとも一部を欠損し、かつα-1,3-グルカンを発現しない変異型であり、
変異型糸状菌が、高分子化合物を高発現化する変異工程がなく、得られた変異糸状菌であり、
変異型糸状菌を最小培地で培養する工程を含む、
高分子化合物の製造方法。
【請求項2】
糸状菌が、アスペルギルス属に属する糸状菌である、請求項1の製造方法
【請求項3】
高分子化合物が、アミラーゼである、請求項1又は2の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変異型菌糸体から、簡便な培養により、加水分解酵素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糸状菌は、菌糸と呼ばれる管状の細胞から構成されているものの総称であり、代表的な麹菌(アスペルギルス・オリゼ( A s p e r g i l l u s o r y z a e ) 等は、醤油、酒、味噌などの食品醸造、酵素生産、及びバイオマス利用等のために工業的に広く用いられている。酵素生産では、アミラーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼの産業用酵素等の発酵生産に使用されている。
【0003】
しかし、糸状菌は、液体培養を行うと、糸状菌が絡まり、塊状に集菌し、高密度液体培養の効率が低下する課題があった。この課題を解決する方法として、G A G 生合成クラスターの少なくとも一部を欠損し、かつα - 1 , 3 - グルカンを発現しない変異型の糸状菌が報告されている(特許文献1)。
【0004】
麹菌Aspergillus は、アミラーゼを分泌する糸状菌として知られているが、麹菌のアミラーゼ遺伝子が発現するには、マルトースの誘導が必要とされ、培地のC源として、マルトースを使用し、アミラーゼを生産する必要がある。また、グルコースが存在すると、マルトースが存在しても、アミラーゼ遺伝子の発現が抑制されることが知られている(非特許文献1)
【0005】
一方で、固体培養時には、菌体を栄養飢餓状態にさせることによって、酵素生産性が向上する。さらに、アミラーゼは培養後期に細胞壁(キチン)へ吸着されてしまい、液体培養では菌体外への分泌量が低下するという事も知られている(非特許文献2)。
【0006】
また、α-1,3-グルカンを発現しない変異型の糸状菌でアミラーゼ等を高発現ベクターで導入し、同種又は異種タンパク質を高効率で生産する方法が開示されている(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2018/203566
【特許文献2】WO2014/073674
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】生物工学 第98巻 第4号(2020)p186-190
【非特許文献2】Hiroki S. et al. (2011) Identification of potential cell wall component that allows Taka-amylase A adsorption in submerged cultures of Aspergillus oryzae. Appl Microbiol Biotechnol. 92:961-969.
【非特許文献3】Rappleye C.A. et al. (2004) RNA interference in Histoplasma capsulatum demonstrates a role for α-(1,3)-glucan in virulence. Mol. Microbiol. 53:153-165.
【非特許文献4】Beauvais A. et al. (2005) Two α(1-3) Glucan Synthases with Different Functions in Aspergillus fumigatus. Appl. Environ. Microbiol. 71:1531-1538.
【非特許文献5】Maubon D. et al. (2006) AGS3, an α(1-3)glucan synthase gene family member of Aspergillus fumigatus, modulates mycelium growth in the lung of experimentally infected mice. Fungal Genet. Biol. 43:366-375.
【非特許文献6】Henry C. et al. (2011) α1,3 glucans are dispensable in Aspergillus fumigatus. Eukaryot. Cell 11:26-29
【非特許文献7】Mizutani O. et al. (2008) A defect of LigD(human Lig4 homolog) for nonhomologous end joining significantly improves efficiency of gene-targeting in Aspergillus oryzae. Fung. Genet. Biol., 45:878-889.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、糸状菌液体培養により、アミラーゼなどの加水分解酵素を効率良く生産することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、GAG生合成クラスターの少なくとも一部を欠損し、かつα-1,3-グルカンを発現しない変異型の糸状菌を最小培地で培養することで、酵素発現の誘導等をすることなく、さらに、宿主に異種タンパク質発現ベクターの導入などで高発現化することなく、加水分解酵素をこの変異型糸状菌が発現することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明は以下のような発明である。
(1)変異型の糸状菌を使用した高分子化合物の製造方法であって、
変異型糸状菌が、GAG生合成クラスターの少なくとも一部を欠損し、かつα-1,3-グルカンを発現しない変異型であり、
変異型糸状菌が、高分子化合物を高発現化する変異工程がなく、得られた変異糸状菌であり、
変異型糸状菌を最小培地で培養する工程を含む、
高分子化合物の製造方法、
(2)糸状菌が、アスペルギルス属に属する糸状菌である、前記(1)の製造方法、
(3)高分子化合物が、アミラーゼである、前記(1)又は(2)の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、簡便な培養により、酵素を生産することができる。さらに、意外にも最少培地の継代培養という長期間の培養条件においても、野生株よりも有意に菌体外への酵素生産性が向上しているという効果も有していることを見出した。本効果により、継代培養、連続培養などで、持続的に酵素を生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】アミラーゼの生産性
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の変異型糸状菌は、ガラクトサミノガラクタン(GAG)生合成クラスターの少なくとも一部を欠損し、かつα-1,3-グルカンを発現しない糸状菌である。本発明で使用する変異型糸状菌は、WO2018/203566に記載の方法で得ることができる。より具体的な方法は、次段から記載する。
【0015】
本発明の糸状菌は、例えば、アスペルギルス(Aspergillus)属がより好ましい。本発明において用いるアスペルギルス属の糸状菌としては、例えば、アスペルギルス オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス ニドランス(Aspergillus nidulans / Emericella nidulans)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス フミガタス(Aspergillus fumigatus)等が挙げられ、アスペルギルス オリゼ、アスペルギルス ソーヤ、アスペルギルス ニドランス、またはアスペルギルス ニガーが好ましく、アスペルギルス オリゼ、アスペルギルス ソーヤがより好ましく、アスペルギルス オリゼがより好ましい。
【0016】
本発明のα-1,3-グルカンを発現しない変異型の糸状菌とは、糸状菌の変異株であって、α-1,3-グルカンを全く発現しないものだけでなく、α-1,3-グルカンを実質的に発現しないものも包含する。より具体的には、α-1,3-グルカンを実質的に発現しない変異株とは、ごくわずかにα-1,3-グルカンを発現するにとどまり、本発明の効果である菌体の凝集が有意に抑制されている変異株を示し、例えば、α-1,3-グルカンの発現量が野生株の30% 以下、より好ましくは野生株の10%以下である株等が挙げられる。また、本発明における糸状菌変異株には、元々α-1,3-グルカンを発現しない糸状菌も含まれる。
【0017】
本発明にかかるα-1,3-グルカンを発現しない糸状菌変異株としてはα-1,3-グルカン合成酵素遺伝子agsの少なくとも一つを欠損しているものが挙げられる。α-1,3-グルカン合成酵素遺伝子agsとしては、アスペルギルス ニドランスのagsA (Genbank accession No. AN5885)、agsB(Genbank accession No. AN3307)、アスペルギルス オリゼのagsA 、agsB 、agsC 、アスペルギルス ソーヤのagsA 、agsB 、agsC、アスペルギルス フミガタスのags1(Genbank accession No. AFUA_3G00910) 、アスペルギルス ニガーのagsE(Genbank accession No.ANI_1_360084) 、ペニシリウム クリソゲナムのagsB(Genbank accession No. Pc16g06130)などが挙げられる。ここで、アスペルギルス オリゼのagsA 、agsB 、agsCは、アスペルギルスデータベースAspGD ( http://www.aspergillusgenome.org) に、遺伝子番号agsA(AOR_1_956014)、agsB (AOR_1_2634154)、agsC(AOR_1_1350024)で登録されている。アスペルギルス オリゼのAgsAの推定アミノ酸配列(配列番号1) 、アスペルギルス オリゼのAgsAをコードする核酸分子の塩基配列(配列番号2)である。アスペルギルス オリゼのAgsBの推定アミノ酸配列(配列番号3)に、アスペルギルス オリゼのAgsB をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号4) に示す。アスペルギルス オリゼのAgsCの推定アミノ酸配列(配列番号5)、アスペルギルス オリゼのAg sCをコードする核酸分子の塩基配列(配列番号6)に示す。アスペルギルスニドランスのAgsAの推定アミノ酸配列(配列番号7)に、アスペルギルスニドランスのAgsAをコードする核酸分子の塩基配列(配列番号8)に示す。また、アスペルギルス ニドランスのAgsBの推定アミノ酸配列(配列番号9)に、アスペルギルス ニドランスのAgsB をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号10)に示す。本発明においては、アスペルギルス ソーヤのAgsA 、AgsB 及びAgsC のアミノ酸配列としては、GenBan k に登録されている遺伝子配列(Genbank accession No. DF093557-DF093585)から、アスペルギルス オリゼとの相同性に基づき推定したアミノ酸配列等が挙げられる。アスペルギルス ソーヤのAgsAの推定アミノ酸配列(配列番号11)に、アスペルギルス ソーヤの上記AgsAをコードする推定核酸分子の塩基配列(配列番号12)に示す。また、アスペルギルス ソーヤのAgsBの推定アミノ酸配列(配列番号13)に、アスペルギルス ソーヤのAgsBをコードする核酸分子の塩基配列(配列番号14)に示す。また、アスペルギルス ソーヤのAgsCの推定アミノ酸配列(配列番号15)、アスペルギルス ソーヤのAgsCをコードする核酸分子の塩基配列(配列番号16)に示す。アスペルギルス ニガーのAgsEの推定アミノ酸配列(配列番号17)に示す 。アスペルギルス ニガーのAgsE をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号18)に示す。アスペルギルス フミガタスのAgs1の推定アミノ酸配列(配列番号19)に示す。アスペルギルス フミガタスのAgs1をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号20)に示す。変異型糸状菌としては、これらのα-1,3-グルカン合成酵素遺伝子の1つ又は2つ以上を欠損しているものが挙げられ、3つ全てを欠損しているものが好ましい。
【0018】
本発明の、α-1,3-グルカン合成酵素遺伝子agsの欠損とは、ゲノム中のα-1,3-グルカン合成酵素のコード領域の全部または一部が欠失しているもの、コード領域の全部または一部に別の核酸分子が挿入されているもの、当該コード領域の全部または一部が別の核酸分子で置換されているもの等が挙げられる。また、α-1,3-グルカン合成酵素遺伝子agsの欠損には、上記コード領域への所定の核酸分子の付加、欠失及び置換だけでなく、α-1,3-グルカンが一定の条件下でのみ発現されるように設計された、コンディショナルな遺伝子欠損も含まれる。
【0019】
ガラクトサミノガラクタンは、アスペルギルス フミガタスにおいて同定された細胞外多糖であり、ガラクトース(Gal)、Nアセチルガラクトサミン(GalNAc)及びガラクトサミン(GalN)から構成される 。そして、GAG生合成クラスターを構成する遺伝子としては、uge3、sph3、ega3、agd3及びgtb3が挙げられる。
【0020】
従って、本発明にかかるGAG生合成クラスターの少なくとも一部も欠損している糸状菌変異株としては、uge3、sph3、ega3、agd3及びgtb3からなる群より選択される少なくとも一つの遺伝子を欠損しているもの等が挙げられる。本発明の一実施形態においては、例えば、GAG生合成クラスターの少なくとも一部も欠損している糸状菌変異株としては、これらの遺伝子の内、少なくともuge3及びsph3を欠損しているもの等が挙げられる。
【0021】
GAG生合成クラスターを構成するこれらの遺伝子の例としては、例えば、アスペルギルス オリゼのuge3(Genbank accession No.AOR_1_2588174)、sph3(Genbank accession No. AOR_1_2586174)、ega3(Genbank accession No. AOR_1_2584174)、agd3(Genbank accession No. AOR_1_2582174)及びgtb3(Genbank accession No. AOR_1_2580174)、アスペルギルス ニドランスのuge3(Genbank accession No.AN2951)、sph3(Genbank accession No.AN2952)、ega3(Genbank accession No.AN2953)、agd3(Genbank accession No.AN2954)及びgtb3(Genbank accession No.AN2955)、アスペルギルス ソーヤのuge3、sph3、ega3、agd3及びgtb3、アスペルギルス ニガーのuge3(Genbank accession No. ANI_1_1578024)、sph3(Genbank accession No.ANI_1_3046024)、ega3(Genbank accession No.ANI_1_1582024)、agd3(Genbank accession No.ANI_1_3048024)及びgtb3(Genbank accession No.ANI_1_3050024)、アスペルギルス フミガタスのuge3(Genbank accession No.AFUA_3G07910)、sph3(Genbank accession No. AFUA_3G07900)、ega3(Genbank accession No.AFUA_3G07890)、agd3(Genbank accession No.AFUA_3G07870)及びgtb3(Genbank accession No. AFUA_3G07860)などが挙げられる。
【0022】
アスペルギルス オリゼのUge3のアミノ酸配列(配列番号21)及びUge3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号22)に示す。また、アスペルギルス オリゼのSph3のアミノ酸配列(配列番号23)及びSph3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号24)に示す。また、アスペルギルス オリゼのEga3のアミノ酸配列(配列番号25)及びEga3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号26)に示す。また、アスペルギルス オリゼのAgd3のアミノ酸配列(配列番号27)及びAgd3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号28)に示す。また、アスペルギルス オリゼのGtb3のアミノ酸配列(配列番号29)に、アスペルギルス オリゼのGtb3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号30)に示す。
【0023】
アスペルギルス ニドランスのU g e 3 のアミノ酸配列(配列番号32)に示す。また、前述したアスペルギルス ニドランスのSph3のアミノ酸配列(配列番号33)及びSph3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号34)に示す。また、アスペルギルス ニドランスのEga3のアミノ酸配列(配列番号35)及びEga3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号36)に示す。また、アスペルギルス ニドランスのAgd3のアミノ酸配列(配列番号37)及びAgd3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号38)に示す。また、アスペルギルス ニドランスのGtb3のアミノ酸配列(配列番号39)に、アスペルギルス ニドランスのGtb3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号40)に示す。
【0024】
本発明においては、アスペルギルス ソーヤのUge3、Sph3、Ega3、Agd3及びGtb3のアミノ酸配列としては、GenBankに登録されているアスペルギルス ソーヤの遺伝子配列(Genbank accession No.DF093557-DF093585)から、アスペルギルス オリゼとの相同性に基づき推定したアミノ酸配列等が挙げられる。アスペルギルス ソーヤのUge3の推定アミノ酸配列(配列番号41)及びUge3をコードする推定核酸分子の塩基配列(配列番号42)に示す。アスペルギルス ソーヤのSph3の推定アミノ酸配列(配列番号43)及びSph3をコードする推定核酸分子の塩基配列(配列番号44)に示す。アスペルギルス ソーヤのEga3の推定アミノ酸配列(配列番号45)及びEga3をコードする推定核酸分子の塩基配列(配列番号46)に示す。また、アスペルギルス ソーヤのAgd3の推定アミノ酸配列(配列番号47)及びAgd3をコードする推定核酸分子の塩基配列(配列番号48)に示す。また、アスペルギルス ソーヤのGtb3の推定アミノ酸配列(配列番号49)に、アスペルギルス ソーヤのGtb3をコードする推定核酸分子の塩基配列(配列番号50)に示す。
【0025】
アスペルギルス ニガーのUge3の推定アミノ酸配列(配列番号51)及びUge3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号52)に示す。アスペルギルス ニガーのSph3の推定アミノ酸配列(配列番号53)及びSph3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号54)に示す。アスペルギルス ニガーのEga3の推定アミノ酸配列(配列番号55)及びEga3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号56)に示す。アスペルギルス ニガーのAgd3の推定アミノ酸配列(配列番号57)及びAgd3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号58)に示す。アスペルギルス ニガーのGtb3の推定アミノ酸配列(配列番号59)に示す。アスペルギルス ニガーのGtb3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号60)に示す。アスペルギルス フミガタスのUge3の推定アミノ酸配列(配列番号61)及びUge3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号62)に示す。アスペルギルス フミガタスのSph3の推定アミノ酸配列(配列番号63)及びSph3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号64)に示す。アスペルギルス フミガタスのEga3の推定アミノ酸配列(配列番号65)及びEga3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号66)に示す。アスペルギルス フミガタスのAgd3の推定アミノ酸配列(配列番号67)及びAgd3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号68)に示す。アスペルギルス フミガタスのGtb3の推定アミノ酸配列(配列番号69)に示す。アスペルギルス フミガタスのGtb3をコードする核酸分子の塩基配列(配列番号70)に示す。
【0026】
本発明において、GAG生合成クラスターの少なくとも一部の欠損とは、例えば、ゲノム中のGAG生合成クラスターのうちコード領域の全部または一部が欠失しているもの、コード領域の全部または一部に別の核酸分子が挿入されているもの、当該コード領域の全部または一部が別の核酸分子で置換されているもの等が挙げられる。また、GAG生合成クラスターの少なくとも一部の欠損には、上記コード領域への所定の核酸分子の付加、欠失及び置換だけでなく、GAGが一定の条件下でのみ発現されるように設計された、コンディショナルな遺伝子欠損も含まれる。
【0027】
また、本発明において、uge3の欠損とは、例えば、ゲノム中のUge3コード領域の全部または一部が欠失しているもの、コード領域の全部または一部に別の核酸分子が挿入されているもの、当該コード領域の全部または一部が別の核酸分子で置換されているもの等が挙げられる。本発明において、sph3の欠損とは、例えば、ゲノム中のSph3コード領域の全部または一部が欠失しているもの、コード領域の全部または一部に別の核酸分子が挿入されているもの、当該コード領域の全部または一部が別の核酸分子で置換されているもの等が挙げられる。本発明において、ega3の欠損とは、例えば、ゲノム中のEga3コード領域の全部または一部が欠失しているもの、コード領域の全部または一部に別の核酸分子が挿入されているもの、当該コード領域の全部または一部が別の核酸分子で置換されているもの等が挙げられる。本発明において、agd3の欠損とは、例えば、ゲノム中のAgd3コード領域の全部または一部が欠失しているもの、コード領域の全部または一部に別の核酸分子が挿入されているもの、当該コード領域の全部または一部が別の核酸分子で置換されているもの等が挙げられる。本発明において、gtb3の欠損とは、例えば、ゲノム中のGtb3コード領域の全部または一部が欠失しているもの、コード領域の全部または一部に別の核酸分子が挿入されているもの、当該コード領域の全部または一部が別の核酸分子で置換されているもの等が挙げられる。
【0028】
また、uge3、sph3、ega3、agd3及びgtb3についても、これらの遺伝子の欠損には、上記コード領域への所定の核酸分子の付加、欠失及び置換だけでなく、GAGが一定の条件下でのみ発現されるように設計された、コンディショナルな遺伝子欠損も含まれる。
【0029】
かかる変異株の作製方法としては、糸状菌に対し、自体公知の方法(例えば、非特許文献3~6に記載の方法)を適宜用いて、例えば、α-1,3-グルカン遺伝子の破壊カセットの構築及びゲノム遺伝子への当該カセットの導入、GAG生合成クラスターを構成する遺伝子の破壊カセットの構築及びゲノム遺伝子への当該カセットの導入等により行うことができる。本発明においては、これらの遺伝子操作に供する糸状菌として、例えば、高確率に目的部位への遺伝子導入を可能にするために、遺伝子ligD破壊及び/又は遺伝子adeA破壊(好ましくはこれらの両方)の変異を予め導入しておいたものを用いてもよい。ここで、ligDは、DNAの修復における非相同組換え修復に関わる遺伝子であり、当該遺伝子を破壊することによって、相対的に相同組換えにより目的部位へ遺伝子導入された形質転換体が高効率に取得できるようになるため好ましい。当該遺伝子を破壊する変異としては、例えば、sCマーカーを用いて破壊したligD::sC変異(非特許文献7)等が挙げられる。また、adeAはアデニン要求性遺伝子であり、これを破壊する変異としては、例えば、ピリチアミン耐性遺伝子(ptrA)で破壊したadeAΔ::ptrA(非特許文献7)等が挙げられる。従って、本発明の糸状菌変異株としては、これらの変異をさらに有するものも挙げられる。
【0030】
本発明では、前述までの菌糸体変異株を培養して、アミラーゼ等の高分子化合物を簡便に得られる製造方法を提供する。
【0031】
本発明では、前述の糸状菌変異体を使用することで、マルトースでの誘導をすることなく、炭素源としてグルコースを用いて、酵素生産をすることができる。酵素の生産方法としては、酵素の工業生産で適用される方法を採用でき、糸状菌変異体の培養は、合成培地、最小培地を使用することができる。より具体的には、CD最小培地が好適に使用できる。炭素源としては、グルコースが最適であるが、デンプン、加工デンプンなども使用することができる。炭素源の添加量としては特に限定されないが、例えば、0.5~10%、より好ましくは1~4%の範囲で適宜採用することができる。また、通常の糸状菌を液体培養する際に添加されるものを使用することができる。例えば、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス等の窒素源、カリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等の無機塩を添加することができる。さらに、ビタミン、アミノ酸などを添加してもよい。培養温度、時間、pH等の条件は、糸状菌で採用される一般的な温度、時間、pH等の条件を採用できる。具体的に例示すると、20~45℃、より好ましくは25~37℃の範囲で適宜採用することができる。培養時間も特に限定されないが、例えば、12~240時間、より好ましくは24~144時間の範囲で適宜採用することができる。また、継代培養も可能であり、例えば72時間培養後、培養液の一部を採取し、新たな培地に培養液を添加し、さらに72時間培養するなどの方法も可能である。また、連続培養をすることも可能である。
【0032】
培養方法は、前段の培地を液体培養で行えば特に限定されるものではない。例えば振盪培養法、ジャー・ファーメンターによる好気的培養法が利用できる。バッチ培養、または連続培養や通電による電気培養法も利用できる。
【0033】
培養培地から酵素の回収方法としては、特に限定されず、公知の方法(遠心分離、再結晶、蒸留法、溶媒抽出法、クロマトグラフィー等)を適宜採用することができる。
【実施例0034】
以下に、本願発明を具体的に示すが、本願発明は、これに限定されるものではない。
【実施例0035】
(1)変異型糸状菌
国際公開WO2018/203566に記載の方法により、変異株を作成した。野生株としては、 A. oryzae のNS4株(遺伝子型;niaD-,sC-)の改変株を用いた。変異株としては、3種のα-1,3-グルカン合成酵素遺伝子欠損(agsAΔagsBΔagsCΔ)、GAG生合成クラスター欠損(Δsph3Δuge3)を使用した。使用した変異株の遺伝子型は、表1に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
(2)液体培地の調製
培養は全て液体培地で実施した。培地としては、C z a p e k - D o x ( C D )培地を使用し、グルコース2%とし、70mMの硝酸ナトリウムの代わりに7 0 m M のグルタミン酸ナトリウムを添加、pH6.5に調整した(最小培地)。マルトース誘導培地としては、2%マルトースとなるよう調整した培地を使用した。
【0038】
(3)麹菌の培養
麹菌の培養はバッフル付きの300mL三角フラスコを用いて実施した。300ml三角フラスコに前述の液体培地を100ml入れて、121℃20分滅菌処理後、麹菌胞子懸濁液を106/mL植菌した。30℃インキュベーター内、回転数140rpmで72時間振とう培養を行った。培養終了後、培養液を遠心分離およびフィルターろ過して固液分離し、培養上清を得た。
【0039】
野生株と変異株について、培養上清のアミラーゼ活性を測定した。マルトース未添加の最小培地とマルトース誘導培地でのアミラーゼ生産性を比較した。アミラーゼ活性の測定方法は、α-アミラーゼ測定キット(キッコーマンバイオケミファ株式会社製)にて測定した。具体的には、培養開始後72時間経過後に、菌体をろ過し、培養上清中のアミラーゼ活性を測定した。測定結果は、図1に示す。
【0040】
マルトース未添加の最小培地では、培養72時間を2回継代培養した培養上清中のアミラーゼ活性を測定した。測定した結果は、図1の結果と同様に、変異株は、アミラーゼ活性が野生株と比較し、優位に高い結果を示した。
【0041】
図に示すように、本願の変異株は、組み換えなどによりアミラーゼ高発現変異をせずに、最小培地でアミラーゼを生産することができる。さらに、本願の変異株は、継代培養、連続培養でもアミラーゼを生産することができるため、酵素などの高分子化合物の工業生産に有用である。
図1
【配列表】
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