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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176073
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】有機フッ素化合物含有水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/34 20230101AFI20231206BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20231206BHJP
   C02F 1/58 20230101ALI20231206BHJP
【FI】
C02F1/34
C09K3/00 S
C02F1/58 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088160
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】390036515
【氏名又は名称】株式会社鴻池組
(71)【出願人】
【識別番号】390025759
【氏名又は名称】株式会社ワイビーエム
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】大山 将
(72)【発明者】
【氏名】松生 隆司
(72)【発明者】
【氏名】大坪 修平
(72)【発明者】
【氏名】宇川 岳史
【テーマコード(参考)】
4D037
4D038
【Fターム(参考)】
4D037AA05
4D037AB14
4D037BA26
4D038AA02
4D038AB14
4D038BB20
(57)【要約】
【課題】有機化合物の分解処理に利用されているキャビテーションを、環境水に含まれる難分解性の有機フッ素化合物の分解処理に利用できるようにした有機フッ素化合物含有水の処理方法を提供すること。
【解決手段】1μm未満の不活性ガスの気泡を添加した水を、噴射ノズル2から、有機フッ素化合物を含有する水に噴射することによりキャビテーションを起こさせ、有機フッ素化合物を分解する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に含まれる有機フッ素化合物をキャビテーションを利用して分解処理する有機フッ素化合物含有水の処理方法であって、1μm未満の不活性ガスの気泡を添加した水を、噴射ノズルから、有機フッ素化合物を含有する水に噴射することによりキャビテーションを起こさせ、有機フッ素化合物を分解することを特徴とする有機フッ素化合物含有水の処理方法。
【請求項2】
有機フッ素化合物を含有する水に、1μm未満の不活性ガスの気泡を添加し、該水を、噴射ノズルから噴射するようにすることを特徴とする請求項1に記載の有機フッ素化合物含有水の処理方法。
【請求項3】
前記有機フッ素化合物を含有する水が、環境水であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機フッ素化合物含有水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機フッ素化合物含有水の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機フッ素化合物であるペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物(以下、「PFAS」という。)による環境水等の汚染に注目が集まっている。特に、ペルフルオロオクタンスルホン酸(本明細書において、「PFOS」という場合がある。)及びペルフルオロオクタン酸(本明細書において、「PFOA」という場合がある。)は、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)の付属書A及び付属書Bへの掲載を踏まえ、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」において第一種特定化学物質に指定されており、原則として、製造、輸入、使用が禁止されている。
【0003】
しかしながら、これらの化合物は、撥水性及び撥油性という特性を持ち、また、化学的及び熱安定性等に優れているため、撥水剤、コーティング剤、泡消化剤等に長年広く使用されてきたこともあり、環境省の調査でも、PFOS/PFOAが河川水や地下水等から幅広く検出されている。そして、2020年には、水道水質基準の水質管理目標設定項目及び水質環境基準の要監視項目にPFOS/PFOAがそれぞれ追加され、目標値及び指針値(暫定)として50ng/L(PFOS及びPFOAの合算値)が設定された。
【0004】
PFOS/PFOAは化学的に極めて安定性が高く、水溶性かつ不揮発性の物質であるため、環境中に放出された場合には水系に移行しやすく、難分解性のため長期的に環境に残留すると考えられている。
そして、PFOS/PFOAが河川水や地下水等から幅広く検出されている状況から、河川水、湖沼水、地下水等の環境水(本明細書において、「環境水」という場合がある。)中に含まれるPFOS/PFOA等のPFASを低コストで分解処理する手法の開発が要請されているが、有効な手法はないのが実情であった。
【0005】
具体的には、有機化合物の分解処理に促進酸化法が広く用いられているが、促進酸化法は、PFOS/PFOAのOHラジカルとの反応性が極めて低いことから、PFOS/PFOAの分解処理には適用できないとされており、実際に、PFOSを2~6ng/L、PFOAを40~58ng/L含有する地下水を用いて、促進酸化法(O+H、O+UV)を試みたが、PFOS/PFOAの有意な分解処理効果を確認できなかった。
【0006】
一方、促進酸化法以外の有機化合物の分解処理として、キャビテーションを利用する手法が提案されている(例えば、特許文献1~3参照。)。
【0007】
ここで、キャビテーションとは、液体の流れの中の圧力差により、圧力が液体の飽和蒸気圧まで低下したときに液体が沸騰して、短時間に微小な泡の発生とその後の速度低下時(圧力の回復時)に消滅が起きる物理現象をいう。
【0008】
キャビテーションは、キャビテーションによって発生した気泡が消滅する瞬間に、気液界面領域において強い衝撃波が発生する。これにより、例えば、ポンプでは騒音や振動が発生し、インペラ表面の壊食が起きる。有機化合物の分解処理においては、衝撃波により有機化合物を熱分解する。
【0009】
また、キャビテーションを利用したPFOS/PFOAの分解処理に関しては、純水中のPFOS/PFOAを、超音波照射で生じるキャビテーションにより熱分解できることが報告されている(非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006-253号公報
【特許文献2】特開2006-305546号公報
【特許文献3】特開2017-192914号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Hiroshi Moriwaki, Youichi Takagi, Masanobu Tanaka, Kenshiro Tsuruho, Kenji Okitsu, and Yasuaki Maeda:Sonochemical Decomposition of Perfluorooctane Sulfonate and Perfluorooctanoic Acid, Environ. Sci. Technol., Vol.39, No.9, pp.3388-3392, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のとおり、キャビテーションは、有機化合物の分解処理に利用されているが、環境水に含まれる難分解性の有機フッ素化合物の分解処理に利用できるものはなかった。
【0013】
本発明は、有機化合物の分解処理に利用されているキャビテーションを、環境水に含まれる難分解性の有機フッ素化合物の分解処理に利用できるようにした有機フッ素化合物含有水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の有機フッ素化合物含有水の処理方法は、水に含まれる有機フッ素化合物をキャビテーションを利用して分解処理する有機フッ素化合物含有水の処理方法であって、1μm未満の不活性ガスの気泡を添加した水を、噴射ノズルから、有機フッ素化合物を含有する水に噴射することによりキャビテーションを起こさせ、有機フッ素化合物を分解することを特徴とする。
【0015】
この場合において、有機フッ素化合物を含有する水に、1μm未満の不活性ガスの気泡を添加し、該水を、噴射ノズルから噴射するようにすることができる。
【0016】
また、本発明の有機フッ素化合物含有水の処理方法は、環境水に含まれる難分解性の有機フッ素化合物の分解処理に利用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の有機フッ素化合物含有水の処理方法は、1μm未満の不活性ガスの気泡を添加した水を、噴射ノズルから、有機フッ素化合物を含有する水に噴射することによりキャビテーションを起こさせ、有機フッ素化合物を分解するものであることから、簡易な機構によって、有機フッ素化合物を含有する水を大量に処理することが可能である。
そして、この有機フッ素化合物含有水の処理方法は、環境水に含まれる難分解性の有機フッ素化合物の分解処理に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の有機フッ素化合物含有水の処理方法を実施する試験設備を示す説明図である。
図2】FFT解析画面である。
図3】出口圧力と加速度デシベル値の関係を示すグラフである。
図4】キャビテーション数と加速度デシベル値の関係を示すグラフである。
図5】試料水Aの分解処理結果を示すグラフである。
図6】試料水Bの分解処理結果を示すグラフである。
図7】試料水C1の分解処理結果を示すグラフである。
図8】試料水C2の分解処理結果を示すグラフである。
図9】試料水C2の分解処理結果(PFOS類)を示すグラフである。
図10】試料水C2の分解処理結果(PFOA類)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の有機フッ素化合物含有水の処理方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0020】
本発明の有機フッ素化合物含有水の処理方法は、環境水等の水に含まれる有機フッ素化合物をキャビテーションを利用して分解処理する有機フッ素化合物含有水の処理方法であって、1μm未満の不活性ガスの気泡を添加した水を、噴射ノズルから、有機フッ素化合物を含有する水に噴射することによりキャビテーションを起こさせ、有機フッ素化合物を分解することを特徴とする。
ここで、不活性ガスには、窒素ガスのほか、アルゴン等の希ガス類を用いることができる。
また、分解対象の有機フッ素化合物には、ペルフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物、特に、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及びペルフルオロオクタン酸(PFOA)を挙げることができる。
【0021】
[水中高速水噴流によるキャビテーション]
[試験設備]
図1に、本発明の有機フッ素化合物含有水の処理方法を実施する試験設備を示す。
この試験設備において、キャビテーション発生装置には、長方形(角筒形)型及び円筒形型の噴流ボックス1(ワイビーエム社製)を使用した。
噴流ボックス1の入口(下端)の噴射ノズル2(いけうち社製CP型直進ノズル)から高圧プランジャーポンプ3(スーパー工業社製7.5kW)で水槽4内の試料水を、試料水が満たされている噴流ボックス1の内部に上向きに噴射させ、オーバーフローした試料水を水槽4に戻して循環させた。
循環する試料水は冷却蛇管5で冷却し、水温を45~48℃の範囲に維持した。
水槽4には、1μm未満の気泡(ウルトラファインバブル(本明細書において、「UFB」という場合がある。))を発生させる気泡発生装置(UFB発生装置)6として、ワイビーエム社製のフォームジェット(FJP-3;50L/min小型試験機)を設置して、キャビテーション発生の核となり得る不活性ガスUFB(窒素UFB、アルゴンUFB)を生成させた。
ここで、噴流ボックス1内で発生するキャビテーションの強さは、噴流ボックス1の表面に伝播する振動を加速度ピックアップ71(リオン社製PV-90B)で、騒音を精密騒音計72(リオン社製NL-52)で測定し、FFTアナライザ73(オメガウェーブ社製EZA-2)を用いてFFT解析により評価した。
【0022】
[キャビテーション発生の最適化]
キャビテーションの発生する強さは、噴流ボックス1の噴射ノズル2の口径や吐出圧力といった噴射条件に対して、出口圧力の変化が大きく影響を及ぼすことを確認した。特に、加速度検出信号のFFT解析では、25kHz~35kHz帯(超音波域)のデシベル値が出口圧力の変化に対して顕著に変動した。FFT解析画面例を図2に示す。
式(1)で示す無次元数で定義されるキャビテーション数を使用し、キャビテーション強
さが最大となる最適な噴射条件を、25kHz~35kHz帯の加速度デシベル値が最大を示す条件から求めることとした。
キャビテーション数σ
=(P-Pν)/((1/2)×ρU
=(P-Pν)/(P-P) ・・・(1)
ここで、Pν:飽和蒸気圧、ρ:密度、U:噴流の吐出速度、P:吐出圧力、P:出口圧力である。
図3に、ノズル径φ1.6mmにおける出口圧力に対する25kHz~35kHz帯の加速度デシベル値を、図4に、ノズル径φ1.6mmにおけるキャビテーション数σに対する25kHz~35kHz帯の加速度デシベル値を示す。
吐出圧力が高いほど加速度デシベル値は大きく、それぞれの吐出圧力に対応してキャビテーション数が0.06~0.07付近で加速度デシベル値がピークを示すことが確認できた。
そこで、PFOS/PFOA等を含む実際の地下水、河川水を処理対象(試料水)とした、水中高速水噴流により生じるキャビテーションを活用した分解処理試験においては、ノズルの種類、ノズル径、吐出圧力に応じて出口圧力を最適化し、キャビテーションの強さが最大となる噴射条件で試験を実施することとした。
なお、以下の試験においては、噴射ノズル2に直進ノズルを用いたが、例えば、エジェクターノズル(この場合、駆動流体に処理対象水を、吸入流体にキャビテーション発生の核となり得る不活性ガスを用いることで、出口部から不活性ガスの微細気泡を含んだ水を吐出するようにする。)を使用することもできる。
【0023】
[水中高速水噴流キャビテーションによる分解処理試験]
[処理対象試料水]
水中高速水噴流キャビテーションによる分解処理試験の試料水として、PFOS/PFOA等のPFAS類を含む実際の地下水(試料水A)、河川水(試料水B、試料水C)を使用した。試料水のpH、TOC、鉄濃度、マンガン濃度、PFOS/PFOA等の濃度を表1に示す。
【0024】
【表1】
【0025】
試料水、処理水中のPFOS/PFOA等の分析は、環境省通知の付表1及びJIS K 0450-70-10に示された方法に従い固相抽出-LC/MS法で行った。混合標準液を用いてPFOS類はC4~C10(PFBS~PFDS、ただし、C9:PFNSを除く。また、C5:PFPeSは、C6:PFHxS標準を用いた半定量)、PFOA類はC4~C14(PFBA~PFTeDA)の同族体を直鎖体のみ及び直鎖体+分岐異性体で定量しているが、本明細書では直鎖体のみの結果を示している。また、pHは、JIS K 0102-12.1、TOCは、JIS K 0102-22.1、鉄は、JIS K 0102-57.4、マンガンは、JIS K 0102-56.4に従って測定した。
試料水Aは、地下水試料でPFOS/PFOAの合算値は58ng/Lと50ng/Lを僅かに超えるレベルであったが、PFOS類はC4~C6、PFOA類はC4~C9の同族体を含んでいた。
試料水Bは、河川水でPFOAが3900ng/L、C6のPFHxAが21000ng/Lと高濃度であり、PFOA類を主体としてC4~C12の同族体を含んでいた。
試料水C(C1、C2は、試料採水日が同じであるが測定時期が異なる。)は、試料水Bとは異なる河川水で、PFOS/PFOAの合算値は640~650ng/L、C6のPFHxSが1600~1700ng/L、PFHxAが630~670ng/Lであり、PFOS類はC4~C7、PFOA類はC4~C11の同族体を含んでいた。また、鉄濃度、マンガン濃度が他の試料と比較して高い値であった。
【0026】
[処理条件]
水中高速水噴流キャビテーションによる分解処理試験の処理条件を表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
処理対象水量は30Lと固定し、長方形型噴流ボックスを用いた試料水A、B、C1のケースでは処理時間180分(3時間)でバッチ処理を行い、処理水を採水して分析した。
ここで、UFBのガス種類として窒素を用いることを基本としているが、試料水B、C1のケースでは比較としてアルゴンを用いたケースも実施し、処理効果に対する影響を調査した。円筒形型噴流ボックスを用いた試料水C2のケースでは処理時間360分(6時間)でバッチ処理を行った。経時的な処理効果を確認するため、1.5時間後、3時間後、5時間後、6時間後にそれぞれ分析用試料として必要最小量を採水して分析した。
【0029】
[分解処理試験結果]
[長方形型噴流ボックス]
図5に、試料水A(地下水)の分解処理試験結果を示す。
キャビテーションによる分解処理(ノズル径:1.8mm、吐出圧力:10MPa)により、PFOSが5→<1ng/L(低減率80%以上)、PFOAが53→17ng/L(低減率67.9%)と濃度がそれぞれ低減し、PFOS/PFOAの合算値は58→17ng/L(低減率70.7%)となった。PFOS/PFOA以外の同族体(PFOS類:C4~C6、PFOA類:C4~C9)についても概ね濃度が低減した。試料水Aにはマンガンが2.8mg/L含まれていたが、処理水に着色等の変状は特に認められなかった。
【0030】
図6に、試料水B(河川水)の分解処理試験結果を示す。
キャビテーションによる分解処理(ノズル径:2.0mm、吐出圧力:12MPa)により、窒素UFBのケースでは、PFOSが8→<1ng/L(低減率87.5%以上)、PFOAが3900→2200ng/L(低減率43.6%)と濃度がそれぞれ低減し、PFOS/PFOAの合算値は3908→2200ng/L(低減率43.7%)となった。PFOS/PFOA以外の同族体(PFOS類:C4~C6、PFOA類:C4~
C12)はPFOA類のC4~C6を除き、キャビテーションによる分解処理により概ね濃度が低減した。
アルゴンUFBのケースでも、PFOSが8→2ng/L(低減率75%)、PFOAが3900→2500ng/L(低減率35.9%)と濃度がそれぞれ低減したが、窒素UFBケースとアルゴンUFBケースの結果を比較すると、窒素UFBケースの方が若干、キャビテーションによる分解処理効果が高い結果であった。
また、どちらのケースの処理水についても着色等の変状は特に認められなかった。
【0031】
図7に、試料水C1(河川水)の分解処理試験結果を示す。
キャビテーションによる分解処理(ノズル径:2.0mm、吐出圧力:12MPa)により、窒素UFBのケースでは、PFOSが400→58ng/L(低減率85.5%)、PFOAが240→170ng/L(低減率29.2%)と濃度がそれぞれ低減し、PFOS/PFOAの合算値は640→228ng/L(低減率64.4%)となった。PFOS/PFOA以外の同族体(PFOS類:C4~C7、PFOA類:C4~C11)はPFOA類のC7を除き、キャビテーションによる分解処理により概ね濃度が低減した。
アルゴンUFBのケースでも、PFOSが400→100ng/L(低減率75%)、PFOAが240→170ng/L(低減率29.2%)と濃度がそれぞれ低減したが、窒素UFBケースとアルゴンUFBケースの結果を比較すると、試料水Bの場合と同様に、窒素UFBケースの方が若干、キャビテーションによる分解処理効果が高い結果であった。
また、試料水C1には鉄が2.5mg/L、マンガンが17mg/L含まれていたが、どちらのケースの処理水についても着色等の変状は特に認められなかった。
【0032】
[円筒形型噴流ボックス]
図8図10に、試料水C2(河川水)の分解処理試験結果を示す。
円筒形型噴流ボックスを用いたキャビテーションによる分解処理(ノズル径:2.0mm、吐出圧力:12MPa)により、PFOSが410→48ng/L(3時間後、低減率88.3%)→17ng/L(6時間後、低減率95.9%)、PFOAが240→130ng/L(3時間後、低減率45.8%)→81ng/L(6時間後、低減率66.3%)と濃度がそれぞれ低減し、PFOS/PFOAの合算値は650→178ng/L(3時間後、低減率72.6%)→98ng/L(6時間後、低減率84.9%)となった。処理時間の経過とともにPFOS/PFOAの濃度は低下する傾向が確認できた。
また、長方形型噴流ボックスで試料水C1を処理した結果と3時間後の低減率で比較すると、円筒形型噴流ボックスを用いた処理の方がPFOS/PFOA濃度の低減率はともに高かった。
PFOS/PFOA以外の同族体(PFOS類:C4~C7、PFOA類:C4~C11)の処理時間の経過と濃度の関係を確認すると、PFOS類ではC7:PFHpS、C6:PFHxAはC8:PFOSと同様に漸減、C5:PFPeSは3時間後までは漸減するがその後漸増、C4:PFBSは5時間後にやや濃度が増加するが6時間後に若干低下した。PFOA類ではC11:PFUnDA、C10:PFDA、C9:PFNAはC8:PFOAと同様に漸減、C7:PFHpA、C5:PFPeAは漸減・漸増・漸減、C6:PFHxA、C4:PFBAは漸増・漸減という挙動を示した。PFPeSを除くと最終的に濃度は低下傾向を示した。
また、試料水C2には鉄が2.1mg/L、マンガンが17mg/L含まれていたが、処理水に着色等の変状は特に認められなかった。
超音波照射によるPFOS/PFOAの分解を検討した事例(非特許文献1)では、60分後の分解生成物をESI/MSを用いて観察されている。PFOSからはPFOAを含むCF(CFCOO(n=0~6)及びCF(CFSO 、CF(CFSO3 に相当するピークが、PFOAからはCF(CFCO
(n=0~5)に相当するピークが確認されている。これらは、PFOSからスルホ基(-SOH)やCFの解離、PFOAからCFの解離が生じていることを示しており、キャビテーションによる熱分解により、ペルフルオロアルキル基(CF(CF)n)の低分子化(nの減少)、ペルフルオロアルキル基とスルホ基の再結合が生じていると考えられている。また、PFOSから生じるCF(CFCOO-(n=0~6)、PFOAから生じるCF(CFCOO(n=0~5)の濃度変化がLC/MS/MSで観察されており、各物質の濃度の増加若しくは増加・減少の傾向を踏まえ、キャビテーションによる分解過程でペルフルオロアルキル基(CF(CF )が低分子化していくことが示されている。
この水中高速水噴流キャビテーションによるPFOS/PFOA等の分解処理試験においても、上記超音波照射と同様の熱分解が生じており、PFOS/PFOA等が分解しているものと考えられる。
【0033】
[分解処理試験結果の解析]
PFOS/PFOA等のPFAS類が含まれる環境水(実際の地下水、河川水)を用いた水中高速水噴流キャビテーションによるPFOS/PFOA等の分解処理試験を行った結果、以下のことが分かった。
・水中高速水噴流により生じるキャビテーションによりPFOS/PFOA濃度が低下することを確認した。
・円筒形型噴流ボックスの方が長方形型よりPFOS/PFOA濃度の低減率が高いことを確認した。
・キャビテーション核として窒素UFBの方がアルゴンUFBより効果が高いことを確認した。
・PFOS/PFOA以外の同族体についても濃度の低減が可能であることを確認した。・環境水に鉄やマンガンが含まれているケースでも、処理水に着色等の変状は認められないことを確認した。
【0034】
なお、オゾンUFBを用いて別途行った水中高速水噴流キャビテーションによる分解処理試験では、窒素UFBを用いた場合と比較して、PFOS/PFOA濃度の十分な低下効果を確認することができなかった。また、オゾンUFBを用いた場合、環境水に鉄やマンガンが含まれているケースでは、処理水に著しい着色が認められた。
このことから、オゾンUFBを用いた水中高速水噴流キャビテーションによる分解処理方法は、鉄やマンガンが含まれていることが多い環境水の処理には適していないといえる。
【0035】
以上、本発明の有機フッ素化合物含有水の処理方法について、その実施形態(水中高速水噴流キャビテーションによる分解処理試験(循環バッチ処理試験))に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、例えば、連続処理で行うようにする等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の有機フッ素化合物含有水の処理方法は、有機化合物の分解処理に利用されているキャビテーションを、水に含まれる難分解性の有機フッ素化合物の分解処理に利用できるものであり、特に、簡易な機構によって、有機フッ素化合物を含有する水を大量に処理することが可能であることから、河川水、湖沼水、地下水等の環境水中に含まれるPFOS/PFOA等のPFASを低コストで分解処理する用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 噴流ボックス
2 噴射ノズル
3 高圧プランジャーポンプ
4 水槽
5 冷却蛇管
6 気泡発生装置(UFB発生装置)
71 加速度ピックアップ
72 精密騒音計
73 FFTアナライザ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10