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  • 特開-導体線及び絶縁電線 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176075
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】導体線及び絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/08 20060101AFI20231206BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20231206BHJP
   H01B 7/04 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
H01B5/08
H01B7/00
H01B7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088163
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000129529
【氏名又は名称】株式会社クラベ
(72)【発明者】
【氏名】岩部 貴文
(72)【発明者】
【氏名】浅川 侑輝
(72)【発明者】
【氏名】原田 久
【テーマコード(参考)】
5G307
5G309
5G311
【Fターム(参考)】
5G307EA04
5G307EF09
5G307EF10
5G309LA05
5G311AA04
5G311AB05
5G311AC06
5G311AD03
(57)【要約】
【課題】所定の屈曲形状への加工が容易であるとともに、屈曲形状を維持する特性に優れた導体線と絶縁電線を提供すること
【解決手段】中心導体線3と、該中心導体線3の外周に撚り合わされた複数の外層導体線7とからなる導体線1であって、上記外層導体線7は複数の外層素線9が撚り合わされたものであり、上記中心導体線3を構成する中心素線5の外径が、上記外層素線9の外径よりも大きく、上記中心導体線3の外径と上記外層導体線7の外径が略等しい導体線1。上記中心導体線3が、複数の中心素線5が撚り合わされたものである導体線1。上記中心導体線3が、単線の中心素線5からなる導体線1。上記の導体線1における上記外層導体線7の外周に、絶縁被覆が形成されている絶縁電線。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心導体線と、該中心導体線の外周に撚り合わされた複数の外層導体線とからなる導体線であって、
上記外層導体線は複数の外層素線が撚り合わされたものであり、
上記中心導体線を構成する中心素線の外径が、上記外層素線の外径よりも大きく、
上記中心導体線の外径と上記外層導体線の外径が略等しい導体線。
【請求項2】
上記中心導体線が、複数の中心素線が撚り合わされたものである請求項1記載の導体線。
【請求項3】
上記中心導体線が圧縮されている請求項2記載の導体線。
【請求項4】
上記中心導体線が、単線の中心素線からなる請求項1記載の導体線。
【請求項5】
上記外層導体線を構成する上記外層素線の撚り方向と、上記中心導体線の外周に上記外層導電体が撚り合わされる撚り方向が、同方向である請求項1記載の導体線。
【請求項6】
請求項1~5何れか記載の導体線における上記外層導体線の外周に、絶縁被覆が形成されている絶縁電線。
【請求項7】
上記外層素線と上記絶縁被覆の間に間隙が形成されている請求項6記載の絶縁電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の導体素線を撚り合わせてなる導体線であって、特に屈曲形状を維持する特性に優れたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッド車両等に搭載されるモータ(回転電機)のステータコイルに給電する配電部品において、U相、V相、W相の各相のリードフレームをケーブルハーネスによって形成したものが知られている(例えば、特許文献1~3参照)。この配電部品では、各相に対応した複数のケーブルハーネスをまとめた配電部品本体からケーブルハーネスの一端部を引き出すと共に、引き出されたケーブルハーネス(以下、「引出しハーネス部」という)の先端に給電端子を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-229677公報
【特許文献2】特開2007-318923公報
【特許文献3】特許第6329835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、配電部品は、いわゆる強電経路になり定格電流が400A以上、最大電流が700A以上となることから、引出しハーネス部も相応の導体径が必要となり、導体径が5.2mmを超えるような太さの電線が使用される。このような導体径を持つ電線は、剛性が高くなることから、屈曲形状になるように曲げ加工することが難しい。一方で、電線の導体として細径の素線を撚り合わせたものを使用すれば、電線としての剛性が低くなり曲げ加工は容易となるが、曲げ加工後の所定の屈曲形状から容易に変形してしまうことになる。容易に変形してしまうようなものであると、自動機での組付け工程で組付け不良となってしまう可能性が危惧される。
【0005】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、所定の屈曲形状への加工が容易であるとともに、屈曲形状を維持する特性に優れた導体線と絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するべく、本発明による導体線は、中心導体線と、該中心導体線の外周に撚り合わされた複数の外層導体線とからなる導体線であって、上記外層導体線は複数の外層素線が撚り合わされたものであり、上記中心導体線を構成する中心素線の外径が、上記外層素線の外径よりも大きく、上記中心導体線の外径と上記外層導体線の外径が略等しいものである。
また、上記中心導体線が、複数の中心素線が撚り合わされたものであることが考えられる。
また、上記中心導体線が圧縮されていることが考えられる。
また、上記中心導体線が、単線の中心素線からなることが考えられる。
また、上記外層導体線を構成する上記外層素線の撚り方向と、上記中心導体線の外周に上記外層導電体が撚り合わされる撚り方向が、同方向であることが考えられる。
また、本発明による絶縁電線は、上記の導体線における上記外層導体線の外周に、絶縁被覆が形成されているものである。
また、上記外層素線と上記絶縁被覆の間に間隙が形成されていることが考えられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、全体として十分な導体断面積を得ながらも、外径が大きい素線からなる中心導体線によって屈曲状態を維持でき、且つ、外層導体線が素線の外径が小さい素線を撚り合わせたものなので、曲げ加工性にも優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態に係る図で、導体線の概略断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る図で、絶縁電線の概略断面図である。
図3】本発明の他の実施の形態に係る図で、導体線の概略断面図である。
図4】本発明の他の実施の形態に係る図で、絶縁電線の概略断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1を参照して実施の形態1に係る導体線1を説明する。まず、外径0.8mmのスズメッキ軟銅線からなる中心素線5について、撚りピッチ25mm、S撚りで7本撚り合わせた後、圧縮率2%で圧縮をし、外径2.3mmの中心導体線3を構成した。次いで、外径0.26mmのスズメッキ軟銅線からなる外層素線9について、撚りピッチ60mm、S撚りで60本撚り合わせ、外径2.3mmの外層導体線7を構成した。上記の中心導体線3の外周に、撚りピッチ80mm、S撚りで上記の外層導体線7を6本撚り合わせ、外径6.5mmの導体線1を構成した。
【0010】
図2に示すように、このような導体線1の外周に、FEP(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)からなる絶縁被覆13をチュービング押出によって肉厚0.250mmで形成し、絶縁電線11を構成した。チュービング押出は、中空押出とも称される工法であり、導体線1との間に間隙を形成しながら絶縁被覆13を形成することができる。このようにして得られた絶縁電線の外径は7.29mmであった。
【0011】
図3を参照して実施の形態2に係る導体線1を説明する。まず、外径2.0mmのスズメッキ軟銅線からなる中心素線5について、そのまま単線として中心導体線3とした。次いで、外径0.26mmのスズメッキ軟銅線からなる外層素線9について、撚りピッチ60mm、S撚りで60本撚り合わせ、外径2.3mmの外層導体線7を構成した。上記の中心導体線3の外周に、撚りピッチ80mm、S撚りで上記の外層導体線7を6本撚り合わせ、外径6.6mmの導体線1を構成した。
【0012】
図4に示すように、このような導体線1の外周に、厚さ0.20mmのガラス繊維編組にシリコーン塗料を塗布してなるチューブからなる絶縁被覆13を被せ、絶縁電線11を構成した。
【0013】
本発明は上記の実施の形態に限定されず、例えば以下のようなものも考えられる。
【0014】
中心素線5や外層素線9の材料、中心導体線3や外層導体線7の撚り構成、中心導体線3と外層導体線7との撚り構成などは、使用用途や目的に合わせ適宜設計することができる。例えば、導体素線の材料としては、上記のスズメッキ軟銅線の他、ニッケルメッキ軟銅線、軟銅線、銅合金線、アルミニウム合金線、ステンレス鋼線等の種々の導体材料からなる線材を使用することができる。また、撚りピッチや、撚り方向(S撚り、Z撚り)についても、要求特性に応じて適宜設定することができる。中心導体線3や外層導体線7を複合撚りとすることもできる。ここで、外層導体線7の外周に絶縁被覆13を形成する場合には、外層導体線7を構成する外層素線9の撚り方向と、中心導体線3の外周に外層導電体7を撚り合わる撚り方向が、同方向であるであることが好ましい。これにより、導体線1の屈曲時に絶縁被覆13にシワが生じにくくなる。また、導体線1の中心となる部分に、中心素線5が存していることが好ましい。これにより、曲げ加工の際に撚りが崩れにくくなるとともに、曲げ形状の際の形状安定性と再現性が向上することとなる。
【0015】
中心素線5と外層素線9の外径については、中心素線5の外径が、外層素線9の外径よりも大きいものとなる。特に、中心素線5の外径が、外層素線9の外径の3倍以上10倍以下であることが好ましい。3倍未満であると、屈曲形状の維持が十分でなくなる可能性があり、10倍を超えると曲げ加工が困難となる傾向にある。中心素線の外径としては、例えば、0.5mm~5.0mmのものなどが好適に使用できる。
【0016】
中心導体線3と外層導体線7の外径は略等しいことが好ましい。この略等しいとは、中心導体線3と外層導体線7の外径の誤差が±20%に入る範囲のものである。中心導体線3と外層導体線7の外径をこのように設定することで、導体線1としての外径形状をきれいな断面円形状にすることができ、また、曲げ加工をした際の撚り崩れを防止することができる。特に、中心導体線3と外層導体線7の外径の誤差が±15%に入る範囲のものであることが好ましい。
【0017】
上記の実施の形態1では、中心導体線3について圧縮加工をしている。これにより、単位断面積当たりの導体占有率を上げることができ、導体線1の細径化をすることができる。なお、圧縮率が高くなるほど、屈曲形状の維持は優れるものとなるが、曲げ加工はし難くなる。そのため、圧縮をするか、或いは、圧縮率をどの程度にするかについては、必要な要求特性により適宜設計することが考えられる。おおよそ、1~5%の圧縮率とすることが好ましい。なお、圧縮率は、[(圧縮前の外径-圧縮後の外径)/圧縮前の外径]で計算できる。
【0018】
上記実施の形態における絶縁電線11では、外層導体線7の外周に、他の構成を介することなく絶縁被覆13を形成しているが、外層導体線7の外周に、更に別の導体線を配置することもできる。この場合、この別の導体線を構成する素線は、外層素線9の外径と同じか、または、外層素線9の外径よりも小さいことが好ましい。
【0019】
また、本発明の導体線は、任意の絶縁被覆13を形成して絶縁電線11とすることができる。例えば、充実押出やチュービング押出によって絶縁被覆13を形成することが考えられる。充実押出により絶縁被覆13を形成すると、外層素線9の間に絶縁被覆13が食い込むことになるため、屈曲加工をしにくくなる傾向にある。一方で、チュービング押出であると、外層導体線7と絶縁被膜12との間に間隙を形成することができるため、屈曲加工はしやすくなるが、屈曲の角度が大きくなったり、屈曲の曲げ半径が小さくなったりした場合、絶縁被覆13にしわが寄る可能性もある。必要とされる屈曲形状に応じて、充実押出とチュービング押出を適宜使い分けることが考えられる。また、後付で被せる絶縁チューブ等も、絶縁被覆13の一態様として考えられる。絶縁被覆13を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、芳香族ポリアミド系樹脂、脂肪族ポリアミド系樹脂、塩化ビニル樹脂、変性ノリル樹脂(ポリフェニレンオキサイド樹脂)、ポリスチレン樹脂、合成ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、エチレン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等、種々のものが挙げられる。また、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリエステル繊維など繊維材料を編組し、これに各種の塗料を塗布形成したようなものも適宜使用することができる。
【0020】
導体線1や絶縁電線11の両端部には、上記のように種々の接続端子を取り付けることができる。接続端子の取付方法としては、例えば、カシメ金具等を使用して圧着する所謂カシメ、ハンダ付け、ロウ付け、接着剤固定、摩擦撹拌接合などによるものでもよい。また、溶接の場合もアーク溶接、ガス溶接、抵抗溶接、レーザ溶接など種々の溶接方法を適宜使用すればよい。
【実施例0021】
上記実施の形態1又は実施の形態2に準拠し、以下の表1に示す条件で実施例1~7による絶縁電線11を作成した。このような実施例1~7による絶縁電線11について、耐電圧試験、及び、曲げ試験を行った。耐電圧試験は、JISC-3005(2014年)により行った。曲げ試験は、以下のように、形状維持とシワの確認の確認を行った。試料として、実施例1~7による絶縁電線11について、長さ150mmに切り出し、絶縁電線11については両端部の絶縁被覆13を除去した後、両端に所定の接続端子をハンダ付けで取り付けたものを使用した。このようにして得られた7種の試料について、端部から75mmの位置において、直径90mm,50mm,30mmのマンドレルに半周巻き付け、10秒間保持した後、巻き付け力を解放した。その後、曲げ形状の維持度合いを確認するとともに、マンドレルに巻き付けた部分の絶縁被覆13のシワの有無を確認した。表1にこれらの試験結果を併せて示す。表1の耐電圧試験はについて、スパークが1度も発生しなかったものを「◎」、1度でもスパークが発生したものを「×」とした。表1の曲げ試験:形状維持について、マンドレルの直径の105%以下の曲げ半径で形状維持していたものを「◎」、マンドレル直径の105%を超え150%以下の曲げ半径まで形状復元していたものを「○」、マンドレル直径の150%を超える曲げ半径まで形状復元していたもの「×」とした。表1の曲げ試験:シワについて、全くシワが生じず良好な外見を保っていたものを「◎」、問題ない程度にわずかなしわが生じていたものを「○」、明らかな凹凸となるようなシワが生じていたものを「×」とした。
【0022】
【表1】
【0023】
表1に示すように、本発明の実施例1~7について、何れも耐電圧試験にも問題はなく、十分な曲げ試験の結果を得ることができた。特に、中心導体が単線の実施例1,4,5については、マンドレルに巻き付けた形状をそのまま保持しており、屈曲形状を維持する特性に特に優れたものであった。また、外層導体線7を構成する外層素線9の撚り方向と、中心導体線3の外周に外層導電体7を撚り合わる撚り方向が、ともにS撚りで同方向である実施例4,5,6,7については、絶縁被覆にシワが生じておらず、外観特性にも特に優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上詳述したように、本発明による導体線及び絶縁電線は、屈曲形状を維持する特性に優れたものである。このような導体線及び絶縁電線は、回転電機、家電、産業機械、自動車、電源装置など、様々な機器のリード線や動力線として好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 導体線
3 中心導体線
5 中心素線
7 外層導体線
9 外層素線
11 絶縁電線
13 絶縁被覆
図1
図2
図3
図4