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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176085
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】工作機械の切削液漏出防止構造
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/10 20060101AFI20231206BHJP
   F16J 15/44 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B23Q11/10 E
F16J15/44 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088175
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100199369
【弁理士】
【氏名又は名称】玉井 尚之
(72)【発明者】
【氏名】中尾 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】冨田 誠
【テーマコード(参考)】
3C011
3J042
【Fターム(参考)】
3C011EE09
3J042AA01
3J042BA01
3J042CA10
3J042DA13
(57)【要約】
【課題】工作機械においてワークの加工領域から外部に切削液が漏出するのを、簡素な構造で、確実に防止することができる切削液漏出防止構造を提供する。
【解決手段】工作機械1の切削液漏出防止構造2は、加工領域Xの下方に配置された底壁3と、加工領域Xの側方に配置されて、かつ、下端縁が底壁3の上面に臨まされるように垂下状に設けられた垂下壁4と、底壁3の上面および垂下壁4の下端縁によって形成された切削液流通用間隙5と、底壁3の上面における垂下壁4の下端縁に対向する箇所より外側に設けられ、底壁3の上面から上方へ延び、先端が垂下壁4の下端縁よりも高い高さ位置に配置された立ち上がり部61と、立ち上がり部61の先端から切削液流通用間隙5に向かって斜め下方へ延び、先端縁が垂下壁4の外面に隙間をおいて対向しうるように配置された切削液返し部62とを有する切削液返し壁6とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械において切削液を供給されながらワークの加工が行われる加工領域の下方に配置された底壁と、
前記加工領域の側方に配置されて、かつ、下端縁が前記底壁の上面に臨まされるように垂下状に設けられた垂下壁と、
前記底壁の上面および前記垂下壁の下端縁によって形成された切削液流通用間隙と、
前記底壁の上面における前記垂下壁の下端縁に対向する箇所より外側に設けられ、前記底壁の上面から上方へ延び、先端が前記垂下壁の下端縁よりも高い高さ位置に配置された立ち上がり部と、前記立ち上がり部の先端から前記切削液流通用間隙に向かって斜め下方へ延び、先端縁が前記垂下壁の外面に隙間をおいて対向しうるように配置された切削液返し部とを有し、前記切削液流通用間隙を通過して外部へ向かう切削液の流れを反転させて、切削領域へ向かう流れを形成するための切削液返し壁とを備えている工作機械の切削液漏出防止構造。
【請求項2】
前記切削液返し部の先端縁が前記垂下壁の下端縁と同じ高さ位置、あるいは、前記垂下壁の先端縁よりも高い高さ位置に配置されている、請求項1に記載の工作機械の切削液漏出防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械において、ワークの加工領域から外部に切削液が漏出するのを防止するための工作機械の切削液漏出防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、旋盤、研削盤、マシニングセンタ等の各種工作機械において、加工領域に切削液が噴射供給されながらワークの加工が行われ、加工領域に噴射供給された切削液が工作機械の外部に飛散するのを防止するために加工領域を取り囲んで外部と隔てるように配置されたカバーや、加工領域に噴射供給された切削液を回収するために加工領域の下方に配置されたオイルパンや切削液タンクが設けられている。このような工作機械において、例えば、加工領域内の作業台へのワークの設置や取り出し、メンテナンス作業等を行うため、あるいは、ワークを支持するためのワークテーブル等が移動可能となされた工作機械への取り付けのため、あるいは、オイルパンや切削液タンクへ貯留された切削液を回収するために、互いに相対移動可能となされた、2つ以上のカバー、あるいは、カバーおよびオイルパンや切削液タンクが間隙をおいて重ね合わされて加工領域を取り囲んでいる場合がある。ここで、これらのカバー間、あるいは、カバーおよびオイルパンや切削液タンク間の隙間を切削液が通過して外部へ漏出するのを防止するために、切削液漏出防止構造を有しているものがある。
【0003】
上記のような工作機械の切削液漏出防止構造として、例えば、切削領域の側方に配置されたフレームと、切削領域の下方に配置されたオイルパンとを備えている工作機械において、フレームにおけるオイルパンとの重ね合わされる箇所に形成された下方開口状の複数のパッキン溝と、パッキン溝に非接触状態で下方から係合しうるようにオイルパンに設けられたシールド壁とを備え、パッキン溝およびシールド壁によってシール空間が形成されているものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実全昭62-35750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の切削液漏出防止構造では、シール空間に切削液が溜まるのを防止するための穴を設ける必要があるうえ、さらに、その穴を切削液が通過して外部に漏出するおそれがあった。また、別の切削液漏出防止構造として、隙間にパッキンやワイパーを設けられたものがあるが、切削液や切削液に含まれる切粉の衝突、可動部における摩耗によってパッキンやワイパーが劣化して隙間ができることにより切削液が漏出するおそれがあるうえ、構造が複雑になり、部品点数や部品の交換頻度が増加してコストが嵩むといった問題もあった。
【0006】
この発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、工作機械においてワークの加工領域から外部に切削液が漏出するのを、簡素な構造で、確実に防止することができる切削液漏出防止構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記の目的を達成するために、以下の態様からなる。
【0008】
1)工作機械において切削液を供給されながらワークの加工が行われる加工領域の下方に配置された底壁と、
前記加工領域の側方に配置されて、かつ、下端縁が前記底壁の上面に臨まされるように垂下状に設けられた垂下壁と、
前記底壁の上面および前記垂下壁の下端縁によって形成された切削液流通用間隙と、
前記底壁の上面における前記垂下壁の下端縁に対向する箇所より外側に設けられ、前記底壁の上面から上方へ延び、先端が前記垂下壁の下端縁よりも高い高さ位置に配置された立ち上がり部と、前記立ち上がり部の先端から前記切削液流通用間隙に向かって斜め下方へ延び、先端縁が前記垂下壁の外面に隙間をおいて対向しうるように配置された切削液返し部とを有し、前記切削液流通用間隙を通過して外部へ向かう切削液の流れを反転させて、切削領域へ向かう流れを形成するための切削液返し壁とを備えている工作機械の切削液漏出防止構造。
【0009】
2)前記切削液返し部の先端縁が前記垂下壁の下端縁と同じ高さ位置、あるいは、前記垂下壁の先端縁よりも高い高さ位置に配置されている上記1)に記載の工作機械の切削液漏出防止構造。
【0010】
3)前記切削液返し壁よりも上方にラビリンス構造が形成されており、前記切削液返し部の先端縁および前記垂下壁の外面間の隙間を通過した切削液が捕捉されうるようになされている上記1)または2)に記載の工作機械の切削液漏出防止構造。
【発明の効果】
【0011】
上記1)の工作機械の切削液漏出防止構造によれば、切削液流通用間隙を通過した切削液は、底壁の上面に沿って外部に向かって流れた後、立ち上がり部の内面にぶつかると、立ち上がり部の内面に沿って上方へ流れ、その後切削液返し部の下面に沿って斜め下方に流れて切削液流通用間隙へ向かう流れとなる、つまり、加工領域から外部へ向かう切削液の流れは外部から加工領域へ向かう流れに反転させられる。さらに、底壁の上面から跳ねて切削液返し部の先端縁および垂下壁の外面間の隙間を通過しようとする切削液は上記の流れに巻き込まれて加工領域へ戻されるため、工作機械においてワークの加工領域から外部に切削液が漏出するのを、簡素な構造で、確実に防止することができる。
【0012】
上記2)の工作機械の切削液漏出防止構造によれば、切削液返し部の先端縁および垂下壁の外面間の隙間を通過しようとする切削液を減少させることができるため、工作機械においてワークの加工領域から外部に切削液が漏出するのを、簡素な構造で、より確実に防止することができる。
【0013】
上記3)の工作機械の切削液漏出防止構造によれば、切削液返し部の先端縁および垂下壁の外面間の隙間を通過しようとする切削液の一部が切削液返し壁によって形成された切削領域へ向かう切削液の流れを突破したとしても、ラビリンス構造によって捕捉されるため、工作機械においてワークの加工領域から外部に切削液が漏出するのを、より確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の第1の実施形態に係る工作機械の切削液漏出防止構造を示す垂直断面図である。
図2】この発明の第2の実施形態に係る工作機械の切削液漏出防止構造を示す垂直断面図である。
図3】この発明の第3の実施形態に係る工作機械の切削液漏出防止構造を示す垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。以下の説明において、「前」は図1図2および図3の手前をいい、「後」は図1図2および図3の奥をいい、「上下」は図1図2および図3の上下をいい、「左右」は前から見た場合の左右をいうものとする。ただし、これらの図面上での方向による構成部品等の方向の指称は便宜的なものであり、本発明の範囲を限定するものではない。また、以下の説明において、「斜め」との用語には垂直から若干傾いた角度から水平から若干傾いた角度も含まれるものとする。なお、この実施例に記載されている構成部品の形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0016】
図1には、この発明の第1の実施形態に係る工作機械(1)の切削液漏出防止構造(2)が示されている。例えば、旋盤、研削盤、マシニングセンタ等の工作機械(1)は、切削液(C)を供給されながらワークの加工が行われる加工領域(X)から外部(Y)に切削液(C)が漏出するのを防ぐための切削液漏出防止構造(2)が設けられている。
【0017】
切削液漏出防止構造(2)は、加工領域(X)の下方に配置された底壁(3)と、加工領域(X)の側方に配置されて、かつ、下端縁が底壁(3)の上面に臨まされるように垂下状に設けられた垂下壁(4)と、底壁(3)の上面および垂下壁(4)の下端縁によって形成された切削液流通用間隙(5)と、切削液流通用間隙(5)より外側に設けられ、加工領域(X)から切削液流通用間隙(5)を通過して外部(Y)へ向かう切削液の(C)流れを反転させて、切削領域(X)へ向かう流れを形成するための切削液返し壁(6)とを備えている。
【0018】
底壁(3)は、例えば、加工領域(X)の底壁の一部、加工領域(X)の下方を閉塞する固定カバーまたは可動カバー、加工領域(X)の下方に配置されたオイルパン、あるいは、切削液タンクの一部から構成されていてもよいし、それらに別部材として取り付けられていてもよい。
【0019】
切削液返し壁(6)は、詳細には、底壁(3)の上面における垂下壁(4)の下端縁に対向する箇所より外側に設けられ、底壁(3)の上面に沿うように取り付けられたベース部(63)と、ベース部(63)の内側端縁から上方へ延び、先端が垂下壁(4)の下端縁よりも高い高さ位置に配置された立ち上がり部(61)と、立ち上がり部(61)の先端から切削液流通用間隙(5)に向かって斜め下方へ延び、先端縁が垂下壁(4)の外面に隙間をおいて対向しうるように配置された切削液返し部(62)とを有している。
【0020】
垂下壁(4)は、例えば、加工領域(X)の側壁の一部、加工領域(X)の側方を閉塞する固定カバーまたは可動カバー、加工領域(X)の側方に配置されたドア、あるいは、シャッタの一部から構成されていてもよいし、それらに別部材として取り付けられていてもよい。また、垂下壁(4)の下端縁の底壁(3)からの高さ、すなわち、切削液流通用間隙(5)の上下長さは、工作機械(1)の製作誤差、組立誤差、加工時の振動、または、垂下壁(4)および/あるいは底壁(3)が可動式である場合の運動誤差等による垂下壁(4)の下端縁および底壁(3)の上面の接触を発生させない、かつ、切削液流通用間隙(5)を通過する切削液(C)を最小限にさせるとともに、加工領域(X)から外部(Y)に向かって切削液流通用間隙(5)を通過する切削液(C)を底壁(3)の上面に沿うように流れさせる機能を果たしうる範囲であれば特に限定されないが、切削液返し壁(6)に沿って流れ、切削液返し部(62)を離れた切削液がコアンダ効果により切削液返し部(62)の延長線上よりも上方に曲がることを考慮して決定するのが好ましい。
また、切削液返し部(62)の先端縁の底壁(3)からの高さ位置は特に限定されないが、垂下壁(4)の下端縁の高さ位置以上の高さ位置に配置されるのが好ましく、垂下壁(4)の下端縁より高い高さ位置に配置されるのがより好ましい。また、立ち上がり部(61)は、ベース部(63)が省略されて、底壁(3)の上面に直接取り付けられていてもよいし、底壁(3)と一体的に形成されていてもよい。さらに、立ち上がり部(61)および切削液返し部(62)は一体の部材とされていてもよいし、それぞれ別の部材とされていてもよい。
【0021】
上記の工作機械(1)の切削液漏出防止構造(2)において、加工領域(X)に供給され、側方に飛散して外部(Y)へ向かう切削液(C)は、多くが垂下壁(4)によって加工領域(X)へ跳ね返されるが、一部の切削液(C)は、底壁(3)の上面および垂下壁(4)の下端縁によって狭くなされた切削液流通用間隙(5)に侵入し、底壁(3)の上面に沿って外部(Y)に向かって流れ、切削液流通用間隙(5)を通過する。切削液流通用間隙(5)を通過した切削液(C)は、底壁(3)の上面、立ち上がり部(61)の内面および切削液返し部(62)の下面によって画定された空間において、底壁(3)の上面に沿ってさらに外部(Y)に向かって流れた後、立ち上がり部(61)の内面にぶつかると、立ち上がり部(61)の内面に沿って上方へ流れ、その後、切削液返し部(62)の下面に沿って斜め下方に流れて切削液流通用間隙(5)へ向かう流れとなる。つまり、加工領域(X)から外部(Y)へ向かった切削液(C)は切削液返し壁(6)によって加工領域(X)へ向かうように反転させられ、加工領域(X)へ回収される。また、底壁(3)の上面から上方へ跳ねて切削液返し部(62)の先端縁および垂下壁(4)の外面間の間隙を通過しようとする一部の切削液(C)も、加工領域(X)へ向かう切削液(C)の流れによってブロックされ、加工領域(X)へ向かう切削液(C)の流れに合流させられて加工領域(X)へ回収される。上記の構成、すなわち、加工領域(X)から外部(Y)に向かって一旦狭くなされた切削液流通用間隙(5)、および、その後の底壁(3)の上面、立ち上がり部(61)の内面および切削液返し部(62)の下面によって画定されて、切削液流通用間隙(5)よりも広くなされた空間を経て、切削液流通用間隙(5)に向かって斜め下方へ延びた切削液返し部(62)によって切削液流通用間隙(5)に向かって再び狭くなっていく流路とされることで、外部(Y)に向かってばらばらに飛散しようとする切削液(C)を確実に集約させて加工領域(X)へ向かう流れへと反転させることができるため、工作機械においてワークの加工領域から外部に切削液が漏出するのを、簡素な構造で、確実に防止することができる。さらに、上記の構成によると、底壁(3)および垂下壁(4)を上下方向、左右方向あるいは前後方向に相対移動させることが可能となり、工作機械における、加工領域の底壁あるいは固定カバー等の固定構成部品、および、ドア、ATCシャッタ、可動カバー、オイルパンあるいは切削液タンク等の可動構成部品間の間隙、ならびに、可動構成部品同士の間隙といった加工領域と外部とを隔てる箇所の多くで切削液漏出防止構造(2)を適用することができる。
【0022】
なお、切削液返し部(62)の先端縁および垂下壁(4)の外面によって形成される隙間の大きさは、工作機械(1)の製作誤差、組立誤差、加工時の振動、または、垂下壁(4)および/あるいは底壁(3)が可動式である場合の運動誤差等による切削液返し部(62)の先端縁および垂下壁(4)の外面の接触を発生させない、かつ、切削液返し部(62)の下面に沿って斜め下方に流れる切削液(C)を確実に切削液流通用間隙(5)へ向かわせうる範囲で適宜設定される。
【0023】
図2には、この発明の第2の実施形態に係る工作機械(101)の切削液漏出防止構造(102)が示されている。なお、切削液漏出防止構造(102)は、下記の点を除いて第1の実施形態に係る工作機械(1)の切削液漏出防止構造(2)と同様の構成を有しているため、詳細な説明を省略する。
【0024】
切削液漏出防止構造(102)は、切削液流通用間隙(5)より外側に設けられ、加工領域(X)から切削液流通用間隙(5)を通過して外部(Y)へ向かう切削液の(C)流れを反転させて、切削領域(X)へ向かう流れを形成するための切削液返し壁(106)を備えている。切削液返し壁(106)は、詳細には、底壁(3)の上面における垂下壁(4)の下端縁に対向する箇所より外側に設けられ、底壁(3)の上面に沿うように取り付けられたベース部(163)と、ベース部(163)の内側端縁から斜め上方へ延び、先端が垂下壁(4)の下端縁よりも高い高さ位置に配置された立ち上がり部(161)と、立ち上がり部(161)の先端から切削液流通用間隙(5)に向かって斜め下方へ延び、先端縁が垂下壁(4)の外面に隙間をおいて対向しうるように配置された切削液返し部(162)とを有している。切削液返し部(162)の先端縁の底壁(3)からの高さ位置は特に限定されないが、垂下壁(4)の下端縁の高さ位置以上の高さ位置に配置されるのが好ましく、垂下壁(4)の下端縁より高い高さ位置に配置されるのがより好ましい。また、立ち上がり部(161)は、ベース部(163)が省略されて、底壁(3)の上面に直接取り付けられていてもよいし、底壁(3)と一体的に形成されていてもよい。さらに、立ち上がり部(161)および切削液返し部(162)は一体の部材とされていてもよいし、それぞれ別の部材とされていてもよい。
【0025】
上記の工作機械(101)の切削液漏出防止構造(102)においても、第1の実施形態に係る工作機械(1)の切削液漏出防止構造(2)と同様、加工領域(X)に供給され、側方に飛散して外部(Y)へ向かう切削液(C)は、多くが垂下壁(4)によって加工領域(X)へ跳ね返されるが、一部の切削液(C)は、底壁(3)の上面および垂下壁(4)の下端縁によって狭くなされた切削液流通用間隙(5)に侵入し、底壁(3)の上面に沿って外部(Y)に向かって流れ、切削液流通用間隙(5)を通過する。切削液流通用間隙(5)を通過した切削液(C)は、底壁(3)の上面、立ち上がり部(161)の内面および切削液返し部(162)の下面によって画定された空間において、底壁(3)の上面に沿ってさらに外部(Y)に向かって流れた後、立ち上がり部(161)の内面にぶつかると、立ち上がり部(161)の内面に沿って上方へ流れ、その後、切削液返し部(162)の下面に沿って斜め下方に流れて切削液流通用間隙(5)へ向かう流れとなる。つまり、加工領域(X)から外部(Y)へ向かった切削液(C)は切削液返し壁(106)によって加工領域(X)へ向かうように反転させられ、加工領域(X)へ回収される。また、底壁(3)の上面から上方へ跳ねて切削液返し部(162)の先端縁および垂下壁(4)の外面間の間隙を通過しようとする一部の切削液(C)も、加工領域(X)へ向かう切削液(C)の流れによってブロックされ、加工領域(X)へ向かう切削液(C)の流れに合流させられて加工領域(X)へ回収される。上記の構成、すなわち、加工領域(X)から外部(Y)に向かって一旦狭くなされた切削液流通用間隙(5)、および、その後の底壁(3)の上面、立ち上がり部(161)の内面および切削液返し部(162)の下面によって画定されて、切削液流通用間隙(5)よりも広くなされた空間を経て、切削液流通用間隙(5)に向かって斜め下方へ延びた切削液返し部(162)によって切削液流通用間隙(5)に向かって再び狭くなっていく流路とされることで、外部(Y)に向かってばらばらに飛散しようとする切削液(C)を確実に集約させて加工領域(X)へ向かう流れへと反転させることができるため、工作機械においてワークの加工領域から外部に切削液が漏出するのを、簡素な構造で、確実に防止することができる。さらに、上記の構成によると、底壁(3)および垂下壁(4)を上下方向、左右方向あるいは前後方向に相対移動させることが可能となり、工作機械における、加工領域の底壁あるいは固定カバー等の固定構成部品、および、ドア、ATCシャッタ、可動カバー、オイルパンあるいは切削液タンク等の可動構成部品間の間隙、ならびに、可動構成部品同士の間隙といった加工領域と外部とを隔てる箇所の多くで切削液漏出防止構造(102)を適用可能することができる。
【0026】
なお、切削液返し壁(106)の構成は、その機能を果たしうるものであれば上記のものに限定されず、例えば、立ち上がり部(161)および切削液返し部(162)は一体の横断面円弧状部材とされていてもよいし、一部が横断面円弧状部材、例えば、切削液返し部(162)のみが横断面円弧状部材とされていてもよい。
【0027】
また、切削液返し部(162)の先端縁および垂下壁(4)の外面によって形成される隙間の大きさは、工作機械(1)の製作誤差、組立誤差、加工時の振動、または、垂下壁(4)および/あるいは底壁(3)が可動式である場合の運動誤差等による切削液返し部(162)の先端縁および垂下壁(4)の外面の接触を発生させない、かつ、切削液返し部(162)の下面に沿って斜め下方に流れた切削液(C)を確実に切削液流通用間隙(5)へ向かわせうる範囲で適宜設定される。
【0028】
図3には、この発明の第3の実施形態に係る工作機械(201)の切削液漏出防止構造(202)が示されている。なお、切削液漏出防止構造(202)は、下記の点を除いて第1の実施形態に係る工作機械(1)の切削液漏出防止構造(2)と同様の構成を有しているため、詳細な説明を省略する。
【0029】
工作機械(201)は、加工領域(X)の側方に配置されて、かつ、下端縁が底壁(3)の上面に臨まされるように垂下状に設けられた垂下壁(204)を有するカバー部材(207)と、底壁(3)の上面における垂下壁(204)の下端縁に対向する箇所より外側に設けられ、底壁(3)の上面から上方へ所定の高さまで延びた側壁(260)を備えている。側壁(260)の内面における所定の高さ位置には、横断面コ字形状のコ字形部材(263)が取り付けられている。詳細には、コ字形部材(263)は、外面が側壁(260)の内面に沿うように取り付けられ、かつ、下端縁が垂下壁(204)の下端縁の高さ位置よりも高い高さ位置に配置されてたベース部(264)、ベース部(264)の下端縁から底壁(3)の上面および垂下壁(204)の下端縁によって形成された切削液流通用間隙(205)に向かって斜め下方に延び、先端縁が垂下壁(204)の外面に隙間をおいて対向しうるように配置された切削液返し部(262)、ならびに、ベース部(264)の上端縁から垂下壁(204)の外面に向かって延び、先端縁が垂下壁(204)の外面に隙間をおいて対向しうるように配置されたラビリンス第1構成部(265)から構成されている。また、カバー部材(207)は、垂下壁(204)の上端縁から斜め上方に向かって外側へ延びた傾斜壁(271)を有しており、傾斜壁(271)の下面は側壁(260)の上端縁に隙間をおいて対向させられている。さらに、傾斜壁(271)の下面における所定の位置には略L字形状のL字形部材(272)が取り付けられている。詳細には、L字部材(272)は、上面が傾斜壁(271)の下面に沿うように取り付けられたベース部(273)と、ベース部(273)の右端縁から下方に延び、側壁(260)の内面および垂下壁(204)の外面それぞれに隙間をおいて延在させられ、かつ、先端縁がラビリンス第1構成部(265)の上面に隙間をおいて対向しうるように配置させられたラビリンス第2構成部(274)とから構成されている。
【0030】
さらに、切削液漏出防止構造(202)は、コ字形部材(263)のベース部(264)を含む側壁(260)におけるコ字形部材(263)のベース部(264)の下端縁よりも上側の部分、垂下壁(204)、ラビリンス第1構成部(265)およびラビリンス第2構成部(274)から形成されたラビリンス構造(208)を備えている。
【0031】
垂下壁(204)を含むカバー部材(207)は、例えば、加工領域(X)の側壁の一部、加工領域(X)の側方を閉塞する固定カバーまたは可動カバー、加工領域(X)の側方に配置されたドア、あるいは、シャッタの一部から構成されていてもよいし、それらに別部材として取り付けられていてもよいし、その一部のみが別部材とされていてもよい。また、垂下壁(204)の下端縁の底壁(3)からの高さ、すなわち、切削液流通用間隙(205)の上下長さは、工作機械(201)の製作誤差、組立誤差、加工時の振動、または、垂下壁(204)および/あるいは底壁(3)が可動式である場合の運動誤差等による垂下壁(204)の下端縁および底壁(3)の上面の接触を発生させない、かつ、切削液流通用間隙(205)を通過する切削液(C)を最小限にさせるとともに、加工領域(X)から外部(Y)に向かって切削液流通用間隙(205)を通過する切削液(C)を底壁(3)の上面に沿うように流れさせる機能を果たしうる範囲であれば特に限定されないが、側壁(260)に沿って流れ切削液返し部(262)を離れた切削液がコアンダ効果により切削液返し部(262)の延長線上よりも上方に曲がることを考慮して決定するのが好ましい。
【0032】
上記の工作機械(201)の切削液漏出防止構造(202)において、加工領域(X)に供給され、側方に飛散して外部(Y)へ向かう切削液(C)は、多くが垂下壁(204)によって加工領域(X)へ跳ね返されるが、一部の切削液(C)は、底壁(3)の上面および垂下壁(204)の下端縁によって狭くなされた切削液流通用間隙(205)に侵入し、底壁(3)の上面に沿って外部(Y)に向かって流れ、切削液流通用間隙(205)を通過する。切削液流通用間隙(205)を通過した切削液(C)は、底壁(3)の上面、側壁(260)の内面および切削液返し部(262)の下面によって画定された空間において、底壁(3)の上面に沿ってさらに外部(Y)に向かって流れた後、側壁(260)の内面にぶつかると、側壁(260)の内面に沿って上方へ流れ、その後、切削液返し部(262)の下面に沿って斜め下方に流れて切削液流通用間隙(205)へ向かう流れとなる。つまり、側壁(260)の下端から側壁(260)におけるベース部(264)の下端縁の高さ位置までの部分は立ち上がり部(261)として機能し、立ち上がり部(261)(側壁(260)の下側部分)およびコ字形部材(263)の切削液返し部(262)によって実質的に切削液返し壁(206)が構成されている。したがって、加工領域(X)から外部(Y)へ向かった切削液(C)は切削液返し壁(206)によって加工領域(X)へ向かうように反転させられ、加工領域(X)へ回収される。また、底壁(3)の上面から上方へ跳ねて切削液返し部(262)の先端縁および垂下壁(204)の外面間の間隙を通過しようとする一部の切削液(C)も、加工領域(X)へ向かう切削液(C)の流れによってブロックされ、加工領域(X)へ向かう切削液(C)の流れに合流させられて加工領域(X)へ回収される。上記の構成、すなわち、加工領域(X)から外部(Y)に向かって一旦狭くなされた切削液流通用間隙(205)、および、その後の底壁(3)の上面、立ち上がり部(261)の内面および切削液返し部(262)の下面によって画定されて、切削液流通用間隙(205)よりも広くなされた空間を経て、切削液流通用間隙(205)に向かって斜め下方へ延びた切削液返し部(262)によって切削液流通用間隙(5)に向かって再び狭くなっていく流路とされることで、外部(Y)に向かってばらばらに飛散しようとする切削液(C)を確実に集約させて加工領域(X)へ向かう流れへと反転させることができる。さらに、切削液(C)の加工領域(X)へ向かう流れに抗して、切削液返し部(262)の先端縁および垂下壁(204)の外面間の間隙を切削液(C)の一部が通過した場合でも、ラビリンス構造(208)によって捕捉される。したがって、工作機械においてワークの加工領域から外部に切削液が漏出するのをより確実に防止することができる。さらに、上記の構成によって、底壁(3)および垂下壁(204)を上下方向、左右方向、あるいは前後方向に相対移動させることが可能となり、工作機械における、加工領域の底壁あるいは固定カバー等の固定構成部品、および、ドア、ATCシャッタ、可動カバー、オイルパンあるいは切削液タンク等の可動構成部品間の間隙、ならびに、可動構成部品同士の間隙といった加工領域と外部とを隔てる箇所の多くで切削液漏出防止構造(202)を適用することができる。
【0033】
側壁(260)および底壁(3)は一体の部材とされていてもよいし、一部が別部材とされていてもよい。側壁(260)およびコ字形部材(263)は一体の部材とされていてもよいし、一部が別部材とされていてもよい。カバー部材(207)およびL字形部材(274)は一体の部材とされていてもよいし、一部が別部材とされていてもよい。また、ラビリンス構造(208)の構成は上記のものに限定されず、底壁(3)および垂下壁(204)の上下方向あるいは前後方向への相対移動を妨げない、かつ、切削液返し部(262)の先端縁および垂下壁(204)の外面間の間隙を通過した切削液を確実に捕捉しうる範囲で工作機械(201)の構造、切削液漏出防止構造(202)の適用箇所、設置スペース等に合わせて適宜変更可能である。例えば、L字形部材(274)の代わりに、コ字形部材を垂下壁(204)に取り付けて、ラビリンス構造(208)の構成部品としてもよい。さらに、ラビリンス構造(208)の構成部品同士の距離は、工作機械(201)の製作誤差、組立誤差、加工時の振動、または、ラビリンス構造(208)の構成部品が可動式である場合の運動誤差等によるラビリンス構造(208)の構成部品同士の接触が発生しない範囲で適宜設定される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
この発明は、例えば旋盤、研削盤、マシニングセンタ等の各種工作機械において、加工領域と外部とを隔てる各種構成部品の隙間から切削液が外部に漏出するのを防止するための切削液漏出防止構造として好適に用いられるものである。
【符号の説明】
【0035】
(1)(101)(201)工作機械
(2)(102)(202)切削液漏出防止構造
(3)底壁
(4)(204)垂下壁
(5)(205)切削液流通用間隙
(6)(106)(206)切削液返し壁
(61)(161)(261)立ち上がり部
(62)(162)(262)切削液返し部
(208)ラビリンス構造
(X)加工領域
(Y)外部
(C)切削液
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2022-05-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械において切削液を供給されながらワークの加工が行われる加工領域の下方に配置された底壁と、
前記加工領域の側方に配置されて、かつ、下端縁が前記底壁の上面に臨まされるように垂下状に設けられた垂下壁と、
前記底壁の上面および前記垂下壁の下端縁によって形成された切削液流通用間隙と、
前記底壁の上面における前記垂下壁の下端縁に対向する箇所より外側に設けられ、前記底壁の上面から上方へ延び、先端が前記垂下壁の下端縁よりも高い高さ位置に配置された立ち上がり部と、前記立ち上がり部の先端から前記切削液流通用間隙に向かって斜め下方へ延び、先端縁が前記垂下壁の外面に隙間をおいて対向しうるように配置された切削液返し部とを有し、前記切削液流通用間隙を通過して外部へ向かう切削液の流れを反転させて、切削領域へ向かう流れを形成するための切削液返し壁とを備えている工作機械の切削液漏出防止構造。
【請求項2】
前記切削液返し部の先端縁が前記垂下壁の下端縁と同じ高さ位置、あるいは、前記垂下壁の先端縁よりも高い高さ位置に配置されている、請求項1に記載の工作機械の切削液漏出防止構造。
【請求項3】
前記切削液返し壁よりも上方にラビリンス構造が形成されており、前記切削液返し部の先端縁および前記垂下壁の外面間の隙間を通過した切削液が捕捉されうるようになされている請求項1または2に記載の工作機械の切削液漏出防止構造。