(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176090
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】農業用遮光剤
(51)【国際特許分類】
A01G 13/02 20060101AFI20231206BHJP
A01G 9/14 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
A01G13/02 F
A01G9/14 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088181
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村田 稔
【テーマコード(参考)】
2B024
2B029
【Fターム(参考)】
2B024DA02
2B024DB01
2B029EC09
2B029EC12
(57)【要約】
【課題】 本発明は、農業用遮光剤の使用時の希釈作業を必要とせず、さらに散布している間に着色剤の分散性が損なわれることのない農業用遮光剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、水、水系樹脂エマルジョン及び着色剤を含有してなる農業用遮光剤であって、前記水系樹脂エマルジョンは、酸価が30以上300以下であり、前記水系樹脂エマルジョンの添加量が前記農業用遮光剤100質量%に対し樹脂固形分として0.1質量%以上30質量%以下であり、前記着色剤が湿式粉砕された炭酸カルシウムを含み、前記着色剤の添加量が前記農業用遮光剤100質量%に対し1質量%以上50質量%以下であり、前記着色剤は、平均粒子径が0.01μm以上10μm以下であり、BET比表面積との関係が以下の式(1)を満たすものであることを特徴とする。
BET比表面積〔m
2/g〕×(平均粒子径〔μm〕)
0.7>5 ・・・(1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、水系樹脂エマルジョン及び着色剤を含有してなる農業用遮光剤であって、
前記水系樹脂エマルジョンは、酸価が30以上300以下であり、前記水系樹脂エマルジョンの添加量が前記農業用遮光剤100質量%に対し樹脂固形分として0.1質量%以上30質量%以下であり、
前記着色剤が湿式粉砕された炭酸カルシウムを含み、前記着色剤の添加量が前記農業用遮光剤100質量%に対し1質量%以上50質量%以下であり、
前記着色剤は、平均粒子径が0.01μm以上10μm以下であり、BET比表面積との関係が以下の式(1)を満たすものであることを特徴とする農業用遮光剤。
BET比表面積〔m2/g〕×(平均粒子径〔μm〕)0.7>5 ・・・(1)
【請求項2】
さらに分散剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の農業用遮光剤。
【請求項3】
JIS Z 8803に準拠して測定した粘度が室温で1mPa・s以上10mPa・s以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の農業用遮光剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用遮光剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ハウス栽培やトンネル栽培などの太陽光の熱エネルギーを利用した保温栽培において、栽培される植物が夏場の強い太陽光等といった強い光線を浴びた場合、植物の葉焼け等、植物の生育に悪影響を与える虞がある。そこで、強い光線による植物の生育への悪影響を抑制する方法として、ハウス栽培を行うためのハウスやトンネル栽培を行うためのトンネルを構成するビニルシート等のシート材の外表面上に、農業用遮光剤を散布して光をある程度まで遮断可能な遮光層を形成する方法(以下「遮光面形成法」という)が実施されてきた。
【0003】
遮光面形成法において、遮光層を形成する農業用遮光剤は、水と水系バインダーと着色剤とを含む組成物で構成され、着色剤としては、例えば白色の炭酸カルシウムが主に用いられている。
このような農業用遮光剤を用いて形成された遮光層は、着色剤に由来する白色を呈しており、シート材を通過して植物に照射される光線量をある程度のレベルまでやわらげ、強い光線による植物の生育への悪影響を抑制している。
【0004】
通常、農業用遮光剤は濃縮された状態で販売及び保管されており、シート材へ散布する際は、水などで希釈して使用することが一般的である。例えば、容器に農業用遮光剤と希釈用の水を加え撹拌機などを用いて撹拌し、着色剤が均一に分散した状態とした後、当該遮光剤をシート材の表面に散布して遮光層が形成されることとなる。
【0005】
しかしながら、希釈後の農業用遮光剤は粘度が低く着色剤が沈降しやすいため、希釈した状態で放置している間に分散性が損なわれてしまうことがあった。そのため、希釈後はすぐに散布できるよう現場で希釈作業を行う必要があるが、現場に水場がない場合には別途水を運搬するなど、現場での希釈作業は煩雑なものであった。
【0006】
そこで、本出願人は、粘度が低い状態でも着色剤の沈降を抑えることで、現場での希釈作業を不要とする農業用遮光剤を発明した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、農業用遮光剤の散布には主に噴霧器が用いられているため、それに適した低い粘度である遮光剤が求められる。遮光剤の粘度が低いと、使用前に撹拌して着色剤を均一に分散した状態で噴霧器のタンクに注いだとしても、散布している途中で、タンク内で着色剤が沈降してしまうことがあった。噴霧器のタンク内での撹拌作業は困難であるため、散布を中断して再度撹拌することは難しい。そのため、散布中にタンク内の着色剤濃度が変わるとともに、散布が終わるころにはタンクの底に沈降した着色剤が固まってしまい、噴霧器のノズルがつまる原因となったり、掃除の手間がかかったりすることがあった。
【0009】
本発明は、農業用遮光剤の使用時の希釈作業を必要とせず、さらに散布している間に着色剤の分散性が損なわれることのない農業用遮光剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、水、水系樹脂エマルジョン及び着色剤を含有してなる農業用遮光剤であって、
前記水系樹脂エマルジョンは、酸価が30以上300以下であり、前記水系樹脂エマルジョンの添加量が前記農業用遮光剤100質量%に対し樹脂固形分として0.1質量%以上30質量%以下であり、
前記着色剤が湿式粉砕された炭酸カルシウムを含み、前記着色剤の添加量が前記農業用遮光剤100質量%に対し1質量%以上50質量%以下であり、
前記着色剤は、平均粒子径が0.01μm以上10μm以下であり、BET比表面積〔m2/g〕との関係が以下の式(1)を満たすものであることを特徴とする。
BET比表面積〔m2/g〕×(平均粒子径〔μm〕)0.7>5 ・・・(1)
【0011】
さらに本発明においては、分散剤を含んでもよく、当該分散剤の添加量が前記農業用遮光剤100質量%に対し0.01質量%以上5質量%以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の農業用遮光剤は、JIS Z 8803に準拠して測定した粘度が室温で1mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、農業用遮光剤の使用時の希釈作業を必要とせず、さらに散布している間に着色剤の分散性が損なわれることのない農業用遮光剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】乾式粉砕された炭酸カルシウムにおけるBET比表面積と平均粒子径の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の農業用遮光剤は、水、水系樹脂エマルジョン及び着色剤を含有してなる。
【0016】
本発明の水系樹脂エマルジョンは、樹脂における酸価が30以上300以下であり、好ましくは40以上250以下である。水系樹脂エマルジョンを構成する樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル-スチレン共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂等をあげることができ、水分散性アクリル系樹脂、水分散性スチレン系樹脂、または水分散性アクリル-スチレン共重合体樹脂が好ましく選択される。
【0017】
酸価は、フェノールフタレインなどを指示薬として、水酸化カリウム滴定により求められる。
【0018】
一般に、樹脂における酸価は、樹脂を構成する高分子鎖1本あたりの遊離カルボン酸基の平均数に関係する値とされる。樹脂における酸価の値が大きいほど、その樹脂は、耐水性が乏しくなり、すなわち水に溶けやすくなる。樹脂における酸価の値が小さいほど、その樹脂は、水に溶けにくい性質を有する。これを考慮して、農業用遮光剤に含まれる水系樹脂エマルジョンを構成する樹脂成分の酸価を30以上300以下とされていることで、水系樹脂エマルジョンと水とが混ざった状態を効果的に形成できるようになるとともに、農業用遮光剤が所定のシート材の外表面に散布されて遮光層を形成してシート材の外表面側を遮光面となした際、その遮光面をある程度の期間にわたって耐水性を確保できるものとすることができる。
【0019】
なお、水系樹脂エマルジョンが、酸価が30未満の樹脂のエマルジョンであると、遮光層が降雨などによって自然に流れ落ちにくく、遮光性が必要な時期を経過しても遮光性が継続してしまう虞がある。水系樹脂エマルジョンが、酸価が300を超える樹脂のエマルジョンであると、遮光層の耐水性が低下し、雨風で遮光層がシート材から流れ落ちやすくなって、所定期間にわたって遮光層を保持できなくなる虞がある。
酸価が40以上250以下であれば暑熱時のみ選択的に使用できるため好ましい。
【0020】
水系樹脂エマルジョンの状態で樹脂の平均粒径は、0.01μm以上0.5μm以下であることが好ましい。当該範囲であれば、噴霧器で散布できる程度の低い粘度範囲であっても農業用遮光剤中でエマルジョンとして分散した状態を維持できる。
【0021】
農業用遮光剤における水系樹脂エマルジョンの添加量は、農業用遮光剤100質量%に対し樹脂固形分として0.1質量%以上30質量%以下である。水系樹脂エマルジョンの樹脂固形分が0.1質量%未満であると、着色剤のシート材表面への定着が不十分となり、雨風で遮光層がシート材から流れ落ちやすくなって所定期間にわたって遮光層を保持できなくなる虞がある。また、30質量%を超える場合には、農業用遮光剤の粘度が高く散布作業性が低下するとともに、散布後の乾燥に時間がかかる虞があり、また、降雨などで自然に流れ落ち難くなってしまう。なお、本発明の遮光性を必要とする所定期間とは、作物や地域によって適宜設定すればよいが、例えば強い太陽光線が地表に降り注ぐ時期であって、日本での7月~9月の3か月程度の期間である。ただし、本発明はそれよりも短期間のみ遮光性が必要な場合を除外するものではない。
【0022】
本発明は、着色剤として湿式粉砕された炭酸カルシウムが用いられる。
本発明において、湿式粉砕された炭酸カルシウムとは、炭酸カルシウムを水性媒体(好ましくは水)とともに公知の方法で粉砕して得られる水系スラリーをそのまま又は乾燥させて得られるものであり、好ましくは乾燥させたものである。当該水系スラリーには表面処理剤が添加されており、得られる炭酸カルシウムは、その粒子表面に表面処理剤が適度に被覆された状態となっている。そのため、湿式粉砕された炭酸カルシウムは、乾式粉砕された炭酸カルシウムと比較して、比表面積が調整されるとともに、粒子同士が凝集しにくくなり、液中での沈降が抑制される。
【0023】
湿式粉砕について、より具体的には、テーブル式アトライター型媒体攪拌機、アトリッションミル、ボールミル、ジェットミル等公知の装置を使用すればよく、粉砕メディアとしてはガラス、セラミック、アルミナ、ジルコニア等の硬質原料で製造された球状のボールが挙げられる。
このように湿式粉砕することにより、炭酸カルシウムの平均粒子径が好ましくは2μm以下の水系スラリーが得られる。なお、湿式粉砕に先立ち乾式粉砕を行ってもよく、その場合、乾式粉砕により、平均粒子径が好ましくは40mm以下、より好ましくは2mm~2μm程度に粉砕しておくのがよい。
【0024】
水系スラリー中に添加される表面処理剤としては、炭酸カルシウムの表面処理に用いられるものであればよいが、水中での分散性を付与するためにはカチオン系のものが好ましい。表面処理剤は、水系スラリー中の炭酸カルシウムを100質量%としたとき、0.01~1質量%添加することが好ましい。
【0025】
カチオン系の表面処理剤としては、例えば、ジアリルアミン塩及び/又はアルキルジアリルアミン塩10~99モル%と非イオン性ビニルモノマー1~90モル%とを構成単位とするカチオンポリマー、分子内にアミン塩となりえるアミノ基や第4級アンモニウム基を有するモノマーと、非イオン性ビニルモノマーとのコポリマーが好ましく、ジアリルアミン及びアルキルジアリルアミンの塩としては、塩酸、硫酸などの無機酸や、酢酸などの有機酸との塩が挙げられる。このうち、ジアリルアミン塩及び/又はアルキルジアリルアミン塩10~99モル%と非イオン性ビニルモノマー1~90モル%とを構成単位とするカチオンポリマーを使用するのが好ましい。
【0026】
ここで、アルキルジアリルアミン塩を構成するアルキル基としては、炭素数1~8、好ましくは1~4の直鎖、分岐鎖又は環状アルキル基があげられる。ジアリルアミン塩及びアルキルジアリルアミン塩を構成する酸としては、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸及び酢酸等の有機酸があげられる。非イオン性ビニルモノマーとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル等があげられる。
【0027】
水系スラリーの乾燥は、熱風乾燥、粉噴乾燥など公知の方法により行うことができるが、媒体流動乾燥により行なうのが好ましい。この媒体流動乾燥を用いると乾燥と凝集粒子の一次粒子化が同時に行われるので好ましい。上記方法により得られた湿式粉砕スラリーを媒体流動乾燥すると、粗粒子が極めて少ない炭酸カルシウム微粉体が得られる。
【0028】
本発明において、着色剤の平均粒子径は0.01μm以上10μm以下であり、好ましくは0.01μm以上2μm以下である。
着色剤の平均粒子径が10μmを超えると、農業用遮光剤中で沈降しやすくなる傾向にあり、一度沈降してしまうと着色剤が凝集して混ざりにくく、さらに噴霧器を用いて散布する際には、目詰まりしてしまい散布作業性が劣る虞がある。また、着色剤の平均粒子径が0.01μm未満であると、遮光性が発揮され難く、所望の遮光性が発現しない虞がある。
【0029】
さらに、本発明の着色剤は、粒子同士の凝集性を示す指標である以下の式(1)を満たすものである。
BET比表面積〔m2/g〕×(平均粒子径〔μm〕)0.7>5 ・・・(1)
【0030】
式(1)について、
図1を用いて説明する。
図1は、乾式粉砕された炭酸カルシウムにおけるy:BET比表面積〔m
2/g〕とx:平均粒子径〔μm〕の関係を示すグラフであり、BET比表面積と平均粒子径をそれぞれ自然対数(log(y)とlog(x))に換算したものであって、両者は相関関係にあることを示している。
一方、
図1で示すように、湿式粉砕された炭酸カルシウムは、同じ平均粒子径であっても、BET比表面積が乾式粉砕された炭酸カルシウムよりも大きい値を示し、この相関関係から逸脱した挙動を示すことがわかった。なお、本発明において、BET比表面積は、ガス吸着式比表面積測定器で測定して得られた値である。また、平均粒子径は、レーザー回析錯乱法や沈降質量法などにより測定される粒度分布より求められるメジアン径(D50)である。
【0031】
そこで、乾式分散された炭酸カルシウムのBET比表面積と平均粒子径の相関関係について、R2=0.9834(R:相関係数)と相関の高い累乗近似線を用いて近似式を求めると、y=2.9419x-0.706(x:平均粒子径〔μm〕、y:BET比表面積〔m2/g〕)となることがわかった。したがって、y/x-0.706≒y×x0.7で得られる値、すなわち上記の式(1)で得られる値は、3前後となる。
これに対し、湿式粉砕された炭酸カルシウムは上記の式(1)で得られる値が7と大きい値であった。これは、湿式粉砕された炭酸カルシウムは、粒子が凝集せずに分散されたことで、BET比表面積の値が大きくなったためであると考えられる。
このように、式(1)で得られる値が5を超える炭酸カルシウムを用いると沈降が抑えられることが分かり、その多くは湿式分散によるものであった。すなわち、この相関関係から逸脱した挙動を示す炭酸カルシウムを用いると沈降が抑えられることとなり、上記の式(1)で得られる値が分散性の指標となり得る。
【0032】
本発明では、着色剤の添加量は、農業用遮光剤100質量%に対し1質量%以上50質量%以下である。
1質量%未満であると十分な遮光性が得られず、50質量%を超える場合には、農業用遮光剤の粘度が高く、希釈せずに散布することが困難となり、散布作業性が劣る虞がある。
また、着色剤の添加量が農業用遮光剤100質量%に対し1質量%以上30質量%以下であれば、噴霧器などを用いて散布する際の粘度に適した農業用遮光剤が得られるため、好ましい。
【0033】
本発明において、炭酸カルシウム以外の着色剤を含有してもよい。例えば、タルク、クレー、シリカ、マイカ、硫酸バリウム、酸化チタンなどが挙げられ、さらに白色以外の着色剤を用いることもできる。
【0034】
本発明は、さらに分散剤を含有してもよい。着色剤の表面に物理的、又は、化学的に吸着して、水中にて保護コロイド、又は、静電的な反発などにより、着色剤を水中に分散するために用いるものであり、通常に用いられるカチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤及び高分子界面活性剤などの各種界面活性剤を使用でき、1種又は2種以上を混合したものでもよい。
【0035】
アニオン系界面活性剤としては、硫酸エステル塩、スルホン酸塩、リン酸エステル塩及び脂肪族酸塩などが挙げられ、具体的には、ナトリウムドデシルサルフェート、カリウムドデシルサルフェート等のアルカリ金属アルキルサルフェート類; アンモニウムドデシルサルフェート等のアンモニウムアルキルサルフェート類; ナトリウムドデシルポリグリコールエーテルサルフェート、ナトリウムスルホシノエート、スルホン化パラフィンのアルカリ金属塩類; スルホン化パラフィンのアンモニウム塩等のアルキルスルホネート類; ナトリウムラウリレート、トリエタノールアミンオレエート、トリエタノールアミンアビエテートの脂肪酸塩類、ナトリウムドデシルベンゼンスルホネート、アルカリフェノールヒドロキシエチレンのアルカリ金属サルフエート等のアルキルアリールスルホネート類; 高級アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩、プロペニル- 2 - エチルヘキシルベンゼンスルホコハク酸エステルナトリウム、( メタ) アクリル酸ポリオキシエチレンの硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルエーテル硫酸アンモニウム塩、( メタ) アクリル酸ポリオキシエチレンエステルのリン酸エステル、ナトリウムラウリレート、トリエタノールアミンオレエート、トリエタノールアミンアビエテートの脂肪酸塩類等が挙げられる。
【0036】
カチオン性界面活性剤としては、アルキルピリジニルクロライド、アルキルアンモニクムクロライド等が挙げられる。
【0037】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセロールのモノラウレート等の脂肪酸モノグリセライド類、ポリオキシエチレンオキシプロピレン共重合体、エチレンオキサイドと脂肪酸アミン、アミド又は酸との縮合生成物等が挙げられる。
【0038】
両性界面活性剤としては、ラウリルペタイン、ステアリルペタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0039】
高分子界面活性剤としては、ポリビニルアルコール、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸カリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、これらの重合体の構成単位である重合性単量体の2種以上の共重合体又は他の単量体との共重合体等が挙げられる。特に、ポリ(メタ)アクリル酸やアクリル酸-オレフィン共重合体等のポリカルボン酸のナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩に代表されるポリカルボン酸型アニオン系の界面活性剤が炭酸カルシウムを分散しやすく好ましい。
【0040】
本発明では、分散剤の添加量は、農業用遮光剤100質量%に対し0.01質量%以上5質量%以下が好ましい。
0.01質量%未満では、分散性の向上が期待できない。また、5質量%を超えると、着色剤の分散性に優れるものの、着色剤のシート材表面への定着を阻害してしまい、雨風で遮光層がシート材から流れ落ちやすくなって所定期間にわたって遮光層を保持できなくなる虞がある。なお、本発明の農業用遮光剤の分散性については後述する。
【0041】
農業用遮光剤には、上記した各成分のほか、本発明の効果を損ねない程度の範囲で必要に応じて、さらに各種の添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、硬化剤、防腐剤、増粘剤、減粘剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、アルコール類等を挙げることができる。
【0042】
本発明の農業用遮光剤は、粘度がJIS Z 8803に準拠して単一円筒形回転粘度計(ブルックフィールドB型回転粘度計)を用いて測定した値が室温で1mPa・s以上10mPa・s以下であることが好ましい。当該範囲であれば、農業用遮光剤の使用時の希釈作業を必要とせず、撹拌するだけでそのままシート材の表面に散布して遮光層を形成することができる。特に、噴霧器を用いた散布に適したものである。
【0043】
農業用遮光剤の使用時の希釈作業とは、農業用遮光剤を散布して遮光層を形成する際に、農業用遮光剤原液を水で適宜倍率に希釈して希釈液を調製することであり、通常、この希釈液を散布される農業用遮光剤として用いられている。希釈後の農業用遮光剤中で着色剤が均一に分散した状態であれば、当該遮光剤をシート材の表面に散布することで、塗りムラのない遮光層が形成されることとなる。
しかしながら、希釈後の農業用遮光剤は粘度が低く着色剤が沈降しやすい。そのため、放置して着色剤が沈降してしまうと再度撹拌しなければならず、希釈から散布までの作業時間に制限を受けてしまう。しかも散布している途中で沈降してしまうと、再度撹拌することは難しい。また、着色剤が沈降した状態のまま放置すれば、着色剤が凝集してしまい混ざりにくい状態となってしまい、再度撹拌しても着色剤を均一に分散させるには時間がかかってしまうこともあり、しかも、希釈作業を現場で行わなければならず、その作業自体も煩雑なものであった。
【0044】
それに対し、本発明の農業用遮光剤は、水、水系樹脂エマルジョン及び着色剤を添加したものであって、特に着色剤として湿式粉砕された炭酸カルシウムを含むことで、使用時の希釈作業を必要とせず、さらに散布している間に着色剤の分散性が損なわれることのない農業用遮光剤を容易に得ることができるのである。
【0045】
ここで、本発明において、散布している間に着色剤の分散性が損なわれることがないとは、換言すれば着色剤が沈降しにくいことである。具体的には、250mLのポリビンに十分撹拌した農業用遮光剤200mLを入れ、室温で10分静置後に別の容器に中身を移す。その際、沈降してポリビン内に残留した着色剤の重量(沈降量)を測定し、その沈降量によって着色剤が沈降しにくいこと評価する。なお、10分間とは、噴霧器の種類にもよるが、約500m2の面積に遮光剤を散布するのに費やす時間の目安であり、本発明において、沈降量が10g以下のものであれば、実用性があると判断する。
【0046】
本発明の農業用遮光剤は、保温栽培で使用可能なシート材(農業用シート材ということがある)の外表面上に散布されて使用される。農業用遮光剤の散布方法は特に限定されず、例えば、手動式噴霧器やエンジン式動力噴霧器、モーター式動力噴霧器、さらにポンプや台車などを備えたものなど各種噴霧器を用いることができる。また、地上からでも又はドローンなどの無人小型航空機を用いて上空からでも散布可能であり、散布以外にも刷毛やロールなどを用いた塗工方法を用いてもよい。
本発明の農業用遮光剤は、粘度が比較的低いものであるので、塗工方法ではシート上表面で当該遮光剤をはじく場合があり、均一な遮光層を形成しやすいという点では、各種噴霧器での使用が好適である。
【0047】
保温栽培で使用可能な農業用シート材としては、塩化ビニル系樹脂フィルムやオレフィン系樹脂フィルム、フッ素系フィルムなどが好適に選択され、また単層構造でもよいし、多層構造でもよい。なお、本発明の農業用遮光剤は、農業用シート材の他、ガラス表面にも使用するこができる。
【0048】
塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニルホモポリマーおよび塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体、塩化ビニル-イソブチレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-スチレン-無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニルとアルキル、シクロアルキルまたはアルキルマレイミドとの共重合体、塩化ビニル-スチレン-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-ブタジエン共重合体、塩化ビニル-イソプレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン-酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル-メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-ウレタン共重合体などの塩化ビニル共重合体が挙げられる。
【0049】
オレフィン系樹脂としては、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、メタロセン触媒を用いて重合したポリエチレン等のポリエチレン;ランダム重合ポリプロピレン、ブロック重合ポリプロピレン、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン等のポリプロピレン;エチレン-酢酸ビニル、エチレン-アクリル酸、エチレン-アクリル酸エステル、エチレン-メタクリル酸、エチレン-メタクリル酸エステル等のエチレン系共重合体等のオレフィン系樹脂であり、これら単独またはこれらの混合物を使用することができる。
【0050】
保温栽培で使用可能なシート材に対する農業用遮光剤の散布量は、特に限定されないが、農業用遮光剤の塗布量は、農業用遮光剤に含まれる固形分が0.1g/m2以上10g/m2以下となる量であることが好ましい。0.1g/m2未満であると、充分な遮光効果を得にくくなる虞がある。また10g/m2を超える場合には、散布作業中にシート材から農業用遮光剤の落滴によるロスが生じる虞がある。
【0051】
こうしてシート材に農業用遮光剤の散布が施されると、シート材面上に遮光層が形成されてそのシート材面が遮光面をなす。遮光層は、シート材面上に細かな粒状の構造を多数付着してなる構造をなしてよいし、シート材面上に膜状に形成されてもよい。
【0052】
本発明の遮光層は、農業用遮光剤の散布直後の遮光性は高く、遮光性が必要である期間は遮光性を維持しつつ、不要となる時期には、降雨などで自然に流れ落ちるため、従来のようにアルカリ性の除去液などで除去する手間を省くことができる。なお、本発明において、遮光性が必要な期間とは、夏場の強い太陽光等を浴びる期間であって、およそ3ヶ月を想定しているが、それよりも短期間のみ遮光性が必要な場合を除外するものではない。例えば、一番暑い時期を過ぎた後、遮光層が無い状態で別の作物を植える場合や、一度農業用遮光剤を散布したが多雨のために遮光層が落ちてしまい、再度散布する場合、雨の少ない地方で、標準的な3ヶ月タイプの農業用遮光剤では落ちないことがわかっている場合、収穫直前の状態で気温が上がってきたため、収穫までの1ヶ月程度遮光を得たい場合などが挙げられる。
【実施例0053】
本発明について実施例および比較例を用いて、以下により詳細に説明する。本発明は、これらの実施例に限定されなくてもよい。
【0054】
〔実施例1~4、比較例1~4〕
表1、2に示す通り、農業用遮光剤を構成する各原料を計量し、スターラーで10分間撹拌を行って各農業用遮光剤を配合し、JIS Z 8803に準拠して単一円筒形回転粘度計(ブルックフィールドB型回転粘度計)を用いて室温にて粘度を測定した。なお、表中の農業用遮光剤を構成する原料の配合量の単位は質量%であり、水系樹脂エマルジョンの欄には、当該水系樹脂エマルジョンの配合量と、当該水系樹脂エマルジョン中の樹脂固形分量を農業用遮光剤100質量%に対する樹脂固形分の配合量として換算した値を括弧内に示す。
次に、長さ200mm、幅200mm、厚み0.1mmの塩化ビニル樹脂製の農業用フィルム(アキレス社製、商品名「晴天」)を用い、その表面から20cm離れた位置から、霧吹き(噴霧器)を用いて各農業用遮光剤0.6ccを一回散布し、1日間乾燥させ、表面に遮光層が形成された試験フィルムを得た。このとき、霧吹きの吸い上げ口は容器の下のほうにあるので、着色剤が沈降する場合最初の散布では濃く吹き付けられ、終わりのほうは薄くなる。これを応用し、霧吹き容器内には200gの遮光剤を入れておき、10分静置後に最初に散布したとき(容器の下方)と、霧吹き作業を続けて霧吹き容器内の内容量が約30gになった終わりのほうで散布したとき(容器の上澄み)の2種類の試験フィルムを作成した。
【0055】
農業用遮光剤を構成する原料は、以下の通りである。
〔水系樹脂エマルジョン〕
水分散性アクリル共重合体(BASF社製、商品名「JONCRYL PDX-7700」、樹脂酸価:60、樹脂固形分:48質量%)
〔着色剤〕
着色剤A:湿式粉砕された炭酸カルシウム(ファイマテック社製、商品名「AFF-95」、平均粒子径:1μm、式(1)の値:7)
着色剤B:乾式粉砕された炭酸カルシウムB(竹原化学社製、商品名「SL-2200」、平均粒子径:1.3μm、式(1)の値:2.64)
〔分散剤〕
ポリカルボン酸型アニオン系界面活性剤(アデカ社製、商品名「アデカコールW-193」)
【0056】
得られた各農業用遮光剤及び各試験フィルムに関し、以下の評価を行った。結果は表1,2に示す。
【0057】
〔分散性〕
250mLのポリビンに十分撹拌した農業用遮光剤200mLを入れ、室温で10分静置後に別の容器に中身を移す。その際、沈降してポリビン内に残留した着色剤の重量(沈降量〔g〕)を測定した。その沈降量によって着色剤が沈降しにくいこと評価した。本発明においては10g以下であれば、実用性があると判断するものとする。なお、10分間とは、噴霧器の種類にもよるが、約500m2の面積に遮光剤を散布するのに費やす時間の目安である。
【0058】
〔遮光性〕
遮光剤を散布し乾燥後のフィルム、および遮光剤散布前のフィルムを水平に設置し、フィルムの25cm下方に照度計(TENMARS社製、「TM-208」)を置き、フィルムの25cm上方から下向きにLED光を照射して照度(LUX)を測定し、次式により遮光率を求めた。
遮光率(%)=[1-(遮光剤を散布したフィルムの照度〔LUX〕/遮光剤散布前のフィルムの照度〔LUX〕)]×100
【0059】
【0060】
【0061】
表1より、実施例1~4の農業用遮光剤は、着色剤の分散性に優れており、使用時の希釈作業を必要とせず、そのままシート材の表面に散布して遮光層を形成することができた。また、最初の散布の終わりの散布とで遮光率の差がほとんどなく、散布中における散布の濃度の変化は見られなかった。
すなわち、本発明によって、農業用遮光剤の使用時の希釈作業を必要とせず、さらに散布している間に着色剤の分散性が損なわれることのない農業用遮光剤が得られた。
【0062】
それに対し、比較例1~4は、着色剤が沈降してしまい散布中において散布濃度が変化したことで、最初の散布と比較して、終わりの散布での遮光率が大きく低下した。