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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176092
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】転写捺染用紙
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/52 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
B41M5/52 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088185
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 宏二
【テーマコード(参考)】
2H186
【Fターム(参考)】
2H186AB16
2H186BA11
2H186BA26X
2H186BB04X
2H186BB05X
2H186BB14X
2H186BB21X
2H186BB41X
2H186BC08X
2H186BC24X
2H186BC36X
2H186DA01
2H186DA12
2H186DA13
2H186FB53
(57)【要約】
【課題】離型層を有さず、ハジキ現象及び剥離の問題を軽減でき、転写捺染紙の塗工層が支持体から剥離することによって転写捺染紙と繊維材料との剥離が良好であり、繊維材料に形成された図柄の画質が転写捺染紙に形成された図柄の画質に比べて劣化し難くなる、水洗で塗工層の糊剤などが繊維材料から除去できる転写捺染用紙を提供する。
【解決手段】課題は、転写捺染法に用いる転写捺染用紙であって、支持体と、前記支持体の片面に対して塗工層とを有し、支持体に接する塗工層が無機顔料、水溶性合成樹脂及び天然由来の糊剤を含有し、前記支持体の前記塗工層を設ける側の面において、イオン交換水を滴下して4秒後のイオン交換水に対する支持体の接触角が80度以上である転写捺染用紙によって達成できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写捺染法に用いる転写捺染用紙であって、支持体と、前記支持体の片面に対して塗工層とを有し、支持体に接する塗工層が無機顔料、水溶性合成樹脂及び天然由来の糊剤を含有し、前記支持体の前記塗工層を設ける側の面において、イオン交換水を滴下して4秒後のイオン交換水に対する支持体の接触角が80度以上である転写捺染用紙。
【請求項2】
前記支持体が、樹脂シートである請求項1に記載の転写捺染用紙。
【請求項3】
前記支持体が、少なくとも前記塗工層を設ける側の面に樹脂ラミネート層を有する紙基材である請求項1に記載の転写捺染用紙。
【請求項4】
前記塗工層が、均染剤及び鉱油を含有し、前記均染剤が多価アルコール脂肪酸エステルである請求項1に記載の転写捺染用紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染料を含む染料インクで印刷された図柄を繊維材料に転写するために用いる転写捺染用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
スクリーン印刷及びインクジェット印刷などの印刷手段によって用紙に染料インクで図柄を形成し、前記用紙と繊維材料とを密着させて、用紙に図柄を形成した染料を繊維材料に転写する転写捺染法が公知である。
転写捺染法に用いる用紙として、例えば、一側面に離型層を有し、更にその外層に糊剤と粘着剤とからなるコーティング層を有する転写捺染紙であって、転写捺染紙のコーティング層側と布帛とを合わせて両者を1~4kg/cmで圧着した時の布帛への糊剤と粘着剤の転移率が98~100%である転写捺染紙(例えば、特許文献1参照)、天然又は合成繊維材料に転写捺染紙を加圧及び加熱処理することにより転写する乾式転写捺染法に用いる転写捺染紙であって、離型剤層と、その上層に形成されたインク受容層を有する転写捺染用紙上に、水溶性染料インクを付与して作成され、該インク受容層が、親水性合成樹脂と親水性糊剤とからなり、該親水性合成樹脂の100重量部に対して該親水性糊剤が1~50重量部含有することを特徴とする乾式転写捺染用転写捺染紙(例えば、特許文献2参照)が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06-270596号公報
【特許文献2】特許第5054673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び特許文献2では、転写捺染用紙が、紙の支持体に対して離型層又は離型剤層を介してコーティング層又はインク受容層などの塗工層を有する。特許文献1では,転写捺染紙と繊維材料との剥離が離型層とコーティング層との間で起こり、コーティング層が繊維材料に接着したままとなる。また、特許文献2では、転写捺染紙と繊維材料との剥離が離型剤層とインク受容層との間で起こり、インク受理層が繊維材料に接着したままとなる。
【0005】
離型層又は離型剤層(以下、「離型層」という)は、離型剤を含有して離型性を有する層である。離型剤は、例えば、シリコン樹脂、フッ素樹脂及びワニス類などである。剥離剤を含有する離型性を有する離型層は、転写捺染用紙の材料コスト及び製造コストの上昇をもたらす。
【0006】
離型層を有する転写捺染用紙の製造は、支持体に対して離型剤を含む塗工液を塗工及び乾燥して離型層を設け、さらに前記離型層に対して塗工層塗工液を塗工及び乾燥して画像記録用の塗工層を設けて行われる。
離型層は、離型層に対して設けた塗工層が離型層から剥離を可能にする目的で存在する。そのために、離型層に対して塗工層塗工液を塗工する際に塗工液のハジキ現象を起こす。また、離型層に対して塗工層塗工液を塗工できた場合であっても、転写捺染する前に、離型層から塗工層が剥離する場合がある。
【0007】
上記ハジキ現象の問題から、塗工層塗工液に界面活性剤を添加して塗工層塗工液の濡れ性を向上させるとハジキ現象を軽減できるものの、転写捺染する前で起こる離型層から塗工層の剥離を十分に抑えることができない。転写捺染する前に離型層から塗工層の剥離を抑えるために接着剤を塗工層塗工液に添加すると、繊維材料から転写捺染紙を剥離する際に離型層と塗工層との間の剥離が困難となる。さらに、界面活性剤及び接着剤を使用することは、さらなる材料コストの上昇をもたらす。
【0008】
上記を鑑みて本発明の目的は、離型剤を含有して離型性を有する離型層を有さず、上記ハジキ現象の問題及び転写捺染する前に離型層から塗工層が剥離するという上記剥離の問題を軽減することができ、下記の工程を有する転写捺染法において転写捺染紙の塗工層が支持体から剥離することによって転写捺染紙と繊維材料との剥離が良好であり、なおかつ塗工層と繊維材料とが接着した状態を維持することによって繊維材料に形成された図柄の画質が転写捺染紙に形成された図柄の画質に比べて劣化し難くなる、並びに水洗で塗工層の糊剤などが繊維材料から除去できる転写捺染用紙を提供することである。
【0009】
転写捺染法は下記(1)~(5)の工程を有する。
(1)転写捺染用紙に染料インクで図柄を形成して転写捺染紙を得る工程。
(2)転写捺染紙を繊維材料に密着させて加熱及び加圧する工程。
(3)転写捺染紙を繊維材料から剥離する工程。
(4)繊維材料に転写した染料を固着処理する工程
(5)付着する塗工層を除去すべく繊維材料を水洗する工程。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明の目的は、以下により達成される。
【0011】
[1]転写捺染法に用いる転写捺染用紙であって、支持体と、前記支持体の片面に対して塗工層とを有し、支持体に接する前記塗工層が無機顔料、水溶性合成樹脂及び天然由来の糊剤を含有し、前記支持体の前記塗工層を設ける側の面において、イオン交換水を滴下して4秒後のイオン交換水に対する支持体の接触角が80度以上である転写捺染用紙。
【0012】
いくつかの実施態様において、本発明の目的は以下により達成される。
[2]上記支持体が、樹脂シートである上記[1]に記載の転写捺染用紙。
【0013】
いくつかの実施態様において、本発明の目的は以下により達成される。
[3]上記支持体が、少なくとも上記塗工層を設ける側の面に樹脂ラミネート層を有する紙基材である上記[1]に記載の転写捺染用紙。
【0014】
いくつかの実施態様において、本発明の目的は以下により達成される。
[4]上記塗工層が、均染剤及び鉱油を含有し、前記均染剤が多価アルコール脂肪酸エステルである上記[1]に記載の転写捺染用紙。
【0015】
少なくとも一つの実施態様において、本発明の目的は以下により達成される。
[5]転写捺染法に用いる転写捺染用紙であって、支持体と、前記支持体の少なくとも片面に対して塗工層とを有し、前記支持体が樹脂シート又は前記塗工層を設ける側の面に樹脂ラミネート層を有する紙基材であり、支持体に接する前記塗工層が無機顔料、水溶性合成樹脂及び天然由来の糊剤を含有し、前記支持体の前記塗工層を設ける側の面において、イオン交換水を滴下して4秒後のイオン交換水に対する支持体の接触角が80度以上である転写捺染用紙。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、離型剤を含有して離型性を有する離型層を有さず、ハジキ現象の問題及び転写捺染する前の剥離の問題を軽減することができ、転写捺染法において転写捺染紙の塗工層が支持体から剥離することによって転写捺染紙と繊維材料との剥離が良好であり、なおかつ塗工層と繊維材料とが接着した状態を維持することによって繊維材料に形成された図柄の画質が転写捺染紙に形成された図柄の画質に比べて劣化し難くなる、並びに水洗で塗工層の糊剤などが繊維材料から除去できる転写捺染用紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明において、「転写捺染用紙」とは、転写する図柄が印刷される前の白紙状態にある用紙をいう。「転写捺染紙」とは、転写捺染用紙に対して転写する図柄が印刷された状態にある用紙をいう。
【0018】
転写捺染用紙は、支持体と、前記支持体の少なくとも片面に塗工層とを有する。転写捺染用紙は、支持体の両面に塗工層を有してもよい。また、塗工層を支持体の片面(表面)にのみ有する場合、支持体の裏面に紙のカールを調整する目的などで従来公知のバックコート層を有してよい。前記塗工層は、実質的に1層である。すなわち、例えば、同一の塗工層を繰り返し積層した場合は1層に含める。いくつかの実施態様において、本発明の効果を損なわない範囲であって塗工層の保護又は繊維材料への接着性向上を目的として前記塗工層に対して従来公知のオーバーコート層を設けることができる。
【0019】
塗工層の塗工量は特に限定されない。いくつかの実施態様において、塗工量は、転写捺染用紙の製造コスト及び取り扱い易さの観点から片面あたり乾燥固形分量で5g/m以上70g/m以下である。いくつかの実施態様において、塗工量は、片面あたり乾燥固形分量で5g/m以上30g/m以下である。さらに、少なくとも一つの実施態様において、塗工量は、製造コストを削減する観点及び転写捺染紙と繊維材料との密着時における塗工層の欠落を防止する観点から片面あたり乾燥固形分量で10g/m以上30g/m以下である。塗工量は、オーバーコート層が存在する場合、オーバーコート層を含めた値である。
【0020】
支持体は、塗工層を設ける側において、イオン交換水を滴下して4秒後のイオン交換水に対する支持体の接触角が80度以上である。支持体のイオン交換水に対する接触角が80度以上であることで、転写捺染用紙は、転写捺染法の上記(3)の工程において塗工層が支持体から上手く剥離して、結果として塗工層が繊維材料へ転写することができる。支持体のイオン交換水に対する接触角が80度未満であると、支持体から塗工層の剥離が不十分となって塗工層の少なくとも一部が支持体に残る。塗工層が支持体に残ると、繊維材料に転写する塗工層が不均一になる。支持体に残る塗工層に染料が残存する場合、最終的に転写捺染に寄与する染料の量に変化が生じる。これは、繊維材料に形成される図柄の色ムラ及び/又は発色の低下の原因となる。いくつかの実施態様において、支持体は、塗工層を設ける側において、イオン交換水を滴下して4秒後のイオン交換水に対する支持体の接触角が100度以下である。この理由は、ハジキ現象の問題がより軽減するからである。
【0021】
接触角の測定は、イオン交換水の液滴1μlを滴下し、液滴が支持体の表面に接触してから4秒後の接触時間において、市販の接触角測定装置を用いた画像データ解析により求めることができる。画像データ解析は、液滴の形状を真球あるいは楕円体の一部と仮定して計算されるカーブフィッティング法により行う。この様な接触角測定装置は、例えば、協和界面科学社、自動接触角計CA-VP300を挙げることができる。本発明において液滴1μlは、1±0.2μlの範囲であればよく、この範囲であれば測定に支障はない。
接触角の測定は、塗工層を塗工する前の支持体を用いて又は転写捺染用紙から塗工層を剥離して得られた支持体を用いて、塗工層を設ける側又は塗工層を有した側について行う。
【0022】
イオン交換水に対する接触角が80度以上である支持体は、接触角が80度以上であれば特に限定されない。いくつかの実施態様において、イオン交換水に対する接触角が80度以上である支持体は、少なくとも表面が樹脂からなる。この様な支持体は、例えば、樹脂シート、樹脂ラミネート層を有する紙基材、及び樹脂塗工層を有する紙基材などを挙げることができる。樹脂は、例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び直鎖状低密度ポリエチレンなどのポリエチレン樹脂;アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチック、それらの混合物、エチレンとのランダム共重合樹脂及びブロック共重合樹脂などのポリプロピレン樹脂;その他に、(メタ)アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレングリコールテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリウレタン樹脂、ニトロセルロース及びアセチルセルロースなどのセルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂、並びにフッ素樹脂などを挙げることができる。また、支持体表面は、フッ素化処理、プラズマ処理、オゾン処理、火炎処理及びグロー放電処理などの表面撥水化処理を施すことができる。
【0023】
いくつかの実施態様において、支持体は、樹脂シートである。少なくとも一つの実施態様において、支持体は、ポリエチレンテレフタレート樹脂シートである。これらの理由は、転写捺染紙と繊維材料との剥離が良化するからである。
【0024】
塗工層を設ける支持体として用いる樹脂シートには、一般に塗工適性を得るために、コロナ処理を施すことができる。いくつかの実施態様において、塗工層を設ける支持体として用いる樹脂シートは、コロナ処理を施さない。この理由は、転写捺染の際に支持体から繊維材料へ塗工層の転写が良化するからである。少なくとも一つの実施態様において、塗工層を設ける支持体として用いる樹脂シートは、コロナ処理を施さないポリエチレンテレフタレート樹脂シートである。
【0025】
樹脂シートの質量は特に限定されない。いくつかの実施態様において、取り扱い易さの観点から樹脂シートの質量は5g/m以上100g/m以下である。
【0026】
いくつかの実施態様において、支持体は、転写捺染紙と繊維材料との剥離の観点から樹脂ラミネート層を有する紙基材である。少なくとも一つの実施態様において、樹脂ラミネート層を有する紙基材の樹脂ラミネート層は、ポリエチレン樹脂ラミネート層である。
【0027】
塗工層を設ける支持体として用いる樹脂ラミネート層を有する紙基材には、一般に塗工適性を得るために、コロナ処理を施すことができる。いくつかの実施態様において、塗工層を設ける支持体として用いる樹脂ラミネート層を有する紙基材は、コロナ処理を施さない。この理由は、転写捺染の際に支持体から繊維材料へ塗工層の転写が良化するからである。少なくとも一つの実施態様において、塗工層を設ける支持体として用いる樹脂ラミネート層を有する紙基材は、コロナ処理を施さないポリエチレン樹脂ラミネート層を有する紙基材である。
紙基材に樹脂ラミネート層を設ける方法は特に限定されない。例えば、一般の溶融押し出しダイ、Tダイ及び多層同時押し出しダイなどの従来公知のラミネーター装置を用いる方法を挙げることができる。
【0028】
いくつかの実施態様において、支持体は、樹脂塗工層を有する紙基材である。
樹脂塗工層を有する紙基材は、紙基材に対して、樹脂が溶解した溶剤系液又は樹脂が分散したエマルションを塗工及び乾燥して得ることができる。溶剤系液又はエマルションを塗工及び乾燥する方法は、特に限定されない。塗工及び乾燥する方法は、例えば、製紙分野で従来公知の塗工装置及び乾燥装置を用いて塗工及び乾燥する方法を挙げることができる。塗工装置の例としては、サイズプレス、ゲートロールコーター、フィルムトランスファーコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、エアナイフコーター、グラビアコーター、バーコーター、Eバーコーター及びカーテンコーターなどを挙げることができる。乾燥装置の例としては、直線トンネル乾燥機、アーチドライヤー、エアループドライヤー、サインカーブエアフロートドライヤーなどの熱風乾燥機、赤外線加熱ドライヤー、マイクロ波を利用した乾燥などを挙げることができる。
【0029】
紙基材は、LBKP(Leaf Bleached Kraft Pulp)、NBKP(Needle Bleached Kraft Pulp)などの化学パルプ、GP(Groundwood Pulp)、PGW(Pressure GroundWood pulp)、RMP(Refiner Mechanical Pulp)、TMP(ThermoMechanical Pulp)、CTMP(ChemiThermoMechanical Pulp)、CMP(ChemiMechanical Pulp)、CGP(ChemiGroundwood Pulp)などの機械パルプ、及びDIP(DeInked Pulp)などの古紙パルプから選ばれる少なくとも一種のパルプに、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン及び焼成カオリンなどの各種填料、さらに、サイズ剤、定着剤、歩留まり剤、カチオン化剤及び紙力剤などの各種添加剤を必要に応じて配合した紙料を抄造した抄造紙である。さらに紙基材には、抄造紙にカレンダー処理、澱粉やポリビニルアルコールなどで表面サイズ処理若しくは表面処理を施した普通紙が含まれる。さらに紙基材には、表面サイズ処理や表面処理を施した後にカレンダー処理を施した普通紙が含まれる。
【0030】
抄造は、紙料を酸性、中性又はアルカリ性に調整して、従来公知の抄紙機を用いて行われる。抄紙機の例としては、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、コンビネーション抄紙機、円網抄紙機及びヤンキー抄紙機などを挙げることができる。
【0031】
紙基材の坪量は特に限定されない。いくつかの実施態様において、取り扱い易さの観点から紙基材の坪量は10g/m以上100g/m以下である。
【0032】
紙料中には、その他の添加剤としてバインダー、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤及び乾燥紙力増強剤などから選ばれる一種又は二種以上を、本発明の所望の効果を損なわない範囲で、適宜配合することができる。
【0033】
塗工層は、支持体に対して塗工層塗工液を塗工及び乾燥することによって設けることができる。塗工層を設ける方法は特に限定されない。例えば、塗工分野で従来公知の塗工装置及び乾燥装置を用いて塗工及び乾燥する方法を挙げることができる。塗工装置の例としては、サイズプレス、ゲートロールコーター、フィルムトランスファーコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、エアナイフコーター、コンマコーター(登録商標)、グラビアコーター、バーコーター、Eバーコーター及びカーテンコーターなどを挙げることができる。乾燥装置の例としては、直線トンネル乾燥機、アーチドライヤー、エアループドライヤー、サインカーブエアフロートドライヤーなどの熱風乾燥機、赤外線加熱ドライヤー、マイクロ波を利用した乾燥機などを挙げることができる。
また、塗工層は、塗工及び乾燥後にカレンダー処理を施すことができる。
【0034】
塗工層は、無機顔料、水溶性合成樹脂及び天然由来の糊剤を含有する。無機顔料、水溶性合成樹脂及び天然由来の糊剤を含む塗工層塗工液を塗工及び乾燥することによって、無機顔料、水溶性合成樹脂及び天然由来の糊剤を含有することができる。
塗工層の無機顔料は、製紙分野で従来公知の無機顔料である。無機顔料は、例えば、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、各種カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、非晶質シリカ、コロイダルシリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、アルミナ水和物、リトポン、ゼオライト、炭酸マグネシウム及び水酸化マグネシウムなどを挙げることができる。無機顔料は、これらから成る群から選ばれる一種又は二種以上である。塗工層が無機顔料を含有しないと、繊維材料に形成された図柄の画質が転写捺染紙に形成された図柄の画質に比べて劣化することがある。この理由は、無機顔料が存在しないと塗工層中で染料の定着が悪くなり、結果として転写捺染の際に染料が拡散するからである。
【0035】
いくつかの実施態様において、無機顔料は、非晶質シリカである。非晶質シリカは、製造法によって湿式法シリカと気相法シリカとに大別することができる。さらに湿式法シリカは、製造方法によって、沈降法シリカとゲル法シリカとに分類できる。沈降法シリカは、珪酸ソーダと硫酸をアルカリ条件で反応させて製造され、粒子成長したシリカ粒子が凝集・沈降し、その後濾過・水洗・乾燥・粉砕・分級の工程を経て製造される。沈降法シリカは、例えば、東ソー・シリカ社からニップシール(登録商標)、オリエンタルシリカズコーポレーション(OSC)社からファインシール(登録商標)及びトクシール(登録商標)として市販される。ゲル法シリカは、珪酸ソーダと硫酸を酸性条件下で反応させて製造される。微小粒子は、熟成中に溶解し、他の一次粒子どうしを結合するように再析出するため、ゲル法シリカは、明確な一次粒子が消失し、内部空隙構造を有する比較的硬い凝集粒子を形成する。ゲル法シリカは、例えば、東ソー・シリカ社からニップゲル(登録商標)、及びグレースジャパン社からSYLOID(登録商標)、SYLOJET(登録商標)として市販される。気相法シリカは、湿式法に対して乾式法とも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって製造される。具体的には、四塩化ケイ素を水素及び酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られている。四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシランなどのシラン類を単独又は四塩化ケイ素と併用して使用することができる。気相法シリカは、例えば、日本アエロジル社からアエロジル(登録商標)、及びトクヤマ社からレオロシール(登録商標)として市販される。少なくとも一つの実施態様において、無機顔料は沈降法シリカである。
【0036】
いくつかの実施態様において、塗工層中の無機顔料の含有量は、支持体の片面あたりの乾燥固形分量として塗工層中の水溶性合成樹脂と天然由来の糊剤との合計100質量部に対して15質量部以上40質量部以下である。少なくとも一つの実施態様において、塗工層中の無機顔料の含有量は、支持体の片面あたりの乾燥固形分量として塗工層中の水溶性合成樹脂と天然由来の糊剤との合計100質量部に対して20質量部以上30質量部以下である。これらの理由は、繊維材料に形成された図柄の画質が転写捺染紙に形成された図柄の画質に比べて劣化し難くなるからである。
【0037】
塗工層の水溶性合成樹脂は、通常水溶性であり、ハジキ現象の問題を軽減する支持体への親和性を有しつつ加熱により強い被膜形成性を有するものである。水溶性合成樹脂は、主として石油化学で合成された樹脂を挙げることができる。本発明において、「水溶性」とは、20℃の水に1質量%以上最終的に溶解することができることを指す。
【0038】
この様な水溶性合成樹脂は、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエチレンオキサイド樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、スチレン(メタ)アクリル酸共重合樹脂、スチレンマレイン酸共重合樹脂、スチレン(メタ)アクリル酸マレイン酸共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリエーテルポリウレタン樹脂及びホットメルト接着剤などを挙げることができる。水溶性合成樹脂は、これらから成る群から選ばれる一種又は二種以上である。いくつかの実施態様において、水溶性合成樹脂は、ポリビニルアルコール樹脂、(メタ)アクリル樹脂及びポリエステル樹脂から成る群から選ばれる一種又は二種以上である。この理由は、繊維材料との接着性により優れるからである。繊維材料との接着性に優れると、繊維材料に形成された図柄の画質が転写捺染紙に形成された図柄の画質に比べて劣化し難くなる。
【0039】
ポリビニルアルコール樹脂は、種々のポリビニルアルコールの総称を指す。各種ケン化度のポリビニルアルコール樹脂、各種変性のポリビニルアルコール樹脂及び部分的に官能基が導入されたポリビニルアルコール樹脂、並びにこれらの各種重合度のポリビニルアルコール樹脂などを含む。
【0040】
いくつかの実施態様において、ポリビニルアルコール樹脂はカルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂である。
カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂は、カルボキシ基が導入されてカルボン酸変性されたポリビニルアルコール部位を有するものである。
カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂としては、ビニルアルコールとビニルカルボン酸化合物とのグラフト共重合又はブロック共重合により得られるもの、ビニルエステル化合物とビニルカルボン酸化合物とを共重合した後、けん化することにより得られるもの、及びポリビニルアルコールにカルボキシル化剤を反応させて得られるものなどを挙げることができる。前記ビニルカルボン酸化合物としては、(メタ)アクリル酸、(無水)マレイン酸、(無水)フマル酸、(無水)及びイタコン酸などのカルボキシ基含有化合物又はそれらの無水物を挙げることができる。前記ビニルエステル化合物としては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル及びピバリン酸ビニルなどを挙げることができる。前記カルボキシル化剤としては、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水酢酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、無水ピロメリット酸、無水グルタル酸、水添フタル酸無水物及びナフタレンジカルボン酸無水物などを挙げることができる。カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂の数平均重合度及びケン化度は特に限定されない。少なくとも一つの実施態様において、カルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は85mol%以上90mol%以下である。この理由は、上記(5)の工程において水洗で除去し易いからである。ポリビニルアルコール樹脂及びカルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂は、三菱ケミカル社、日本酢ビ・ポバール社及びクラレ社などから市販される。
【0041】
(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸及びそのエステルなどの誘導体を主体とする重合樹脂又は共重合樹脂である。主体とは、(メタ)アクリル酸及びそのエステルなどの誘導体が樹脂全体の51質量%以上を占めることを指す。(メタ)アクリル酸エステルは、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2-ジメチルアミノエチル及び(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルなどを挙げることができる。本発明では、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミドなどの共重合樹脂も(メタ)アクリル樹脂に含める。(メタ)アクリル樹脂は、東亞合成社、日本触媒社、ジャパンコーティングレジン社、出光興産社及び三菱ケミカル社などから市販される。
【0042】
ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸とポリオールとから重縮合反応して得られる樹脂であって、構成成分として多価カルボン酸とポリオールとが樹脂の60質量%以上を占めるものをいう。
多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、セバチン酸及びドデカン二酸などを挙げることができ、これらから成る群から一種又は二種以上を選択して用いる。ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、シクロヘキサンジメタノール及びビスフェノールなどを挙げることができ、これらから成る群から一種又は二種以上を選択して用いる。また、水溶性ポリエステル樹脂は、水溶性を高めるためにカルボキシ基又はスルホン酸基などの親水性基を有する成分を共重合させることができる。水溶性ポリエステル樹脂は、互応化学工業社、高松油脂社及びユニチカ社などから市販される。
【0043】
塗工層の天然由来の糊剤は、天然に産出する糊剤の原料をそのまま又は物理的若しくは化学的に加工して得られるものである。また、天然由来の糊剤は、繊維材料への接着性を有しつつ加熱によって接着性の上昇が無く、及び上記(5)の工程において水洗で除去し易い親水性のものである。さらに、天然由来の糊剤は、染料インクの受容性を有し、染料を均一に保持する性質を有するものである。
【0044】
天然由来の糊剤は、動物系糊料と植物系糊料に分類することができる。動物系糊料は、例えば、動物の皮膚又は骨に含まれるコラーゲンから抽出されるゼラチンなどを挙げることができる。植物系糊料は、例えば、澱粉、各種変性澱粉、セルロース及びセルロースを出発原料として加工されたカルボキシメチルセルロースなどを挙げることができる。天然由来の糊剤は、動物系糊料のより具体例として、カゼイン、ゼラチン及び卵蛋白などを挙げることができる。天然由来の糊剤は、植物系糊料のより具体例として、天然ガム糊(エーテル化タマリンドガム、エーテル化ローカストビーンガム、エーテル化グアガム、アカシアアラビアガムなど)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、エーテル化カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなど)、澱粉誘導体(澱粉、グリコーゲン、デキストリン、アミロース、ヒアルロン酸、葛、こんにゃく、片栗粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉など)、海藻類(アルギン酸ソーダ、寒天など)などを挙げることができる。天然由来の糊剤は、これらから成る群から選ばれる一種又は二種以上である。いくつかの実施態様において、天然由来の糊剤は、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体、エーテル化澱粉などの澱粉誘導体及びアルギン酸ソーダなどの海藻類から選ばれる一種又は二種以上である。この理由は、染料の受容性に優れながら上記(5)の工程において水洗で除去し易いからである。少なくとも一つの実施態様において、天然由来の糊剤は、エーテル化澱粉及びアルギン酸ソーダから選ばれる一種又は二種以上である。この理由は、染料の受容性及び繊維材料への接着性により優れながら上記(5)の工程において水洗で除去し易いからである。
【0045】
いくつかの実施態様において、塗工層中における水溶性合成樹脂と天然由来の糊剤との含有質量比は、支持体の片面あたり乾燥固形分量で、水溶性合成樹脂:天然由来の糊剤=70:30~45:55である。この理由は、上記(3)の工程において支持体から塗工層の剥離が良化するからである。
【0046】
塗工層は、無機顔料、水溶性合成樹脂及び天然由来の糊剤以外に、必要に応じて製紙分野で従来公知の各種添加剤を含有することができる。添加剤の例としては、分散剤、定着剤、カチオン化剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、離型剤、油剤、発泡剤、浸透剤、着色剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤及び防バイ剤などを挙げることができる。
また、塗工層は、転写捺染法で従来公知の各種助剤を含有することができる。助剤は、例えば、繊維材料への染着性を向上させる目的で配合する。助剤の例としては、染料溶媒、染料固着剤、界面活性剤、pH調整剤、アルカリ剤、濃染化剤、脱気剤、還元防止剤、均染剤及び糊抜き剤などを挙げることができる。
【0047】
いくつかの実施態様において、塗工層は均染剤及び鉱油を含有する。この理由は、塗工層塗工液のハジキ現象の問題を軽減できるばかりか、上記(3)において転写捺染紙を繊維材料から剥離が良化、上記(5)の工程において水溶性合成樹脂及び天然由来の糊剤の水洗で除去を良化するからである。繊維材料から糊剤の水洗で除去は「糊抜き」と称する。均染剤及び鉱油がこの様な糊抜き効果を発現することは、予想されない効果である。
均染剤及び鉱油を含む塗工層塗工液を塗工及び乾燥することによって、塗工層は、均染剤及び鉱油を含有することができる。
【0048】
均染剤は、染料インク又は捺染される繊維材料の前処理液に用いる従来公知の助剤の一種であって、色ムラを防止する薬品である。均染剤の例としては、中性油硫酸化油、硫酸エステル塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック重合物などを挙げることができる。さらに均染剤の例としては、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル及びペンタエリスリット脂肪酸エステルを挙げることができる。少なくとも一種の実施態様において、均染剤は、多価アルコール脂肪酸エステルである。多価アルコール脂肪酸エステルは、日華化学社及び日光ケミカルズ社などから市販される。
【0049】
いくつかの実施態様において、塗工層中の均染剤の含有量は、支持体の片面あたりの乾燥固形分量として塗工層中の水溶性合成樹脂と天然由来の糊剤との合計100質量部に対して0質量部以上30質量部以下である。少なくとも一つの実施態様において、塗工層中の均染剤の含有量は、支持体の片面あたりの乾燥固形分量として塗工層中の水溶性合成樹脂と天然由来の糊剤との合計100質量部に対して15質量部以上25質量部以下である。
【0050】
鉱油は、石油(原油)、天然ガス、石炭など地下資源由来の炭化水素化合物もしくは不純物をも含んだ混合物の総称である。鉱油は、従来公知のものであって、特に限定されない。鉱油は、例えば、芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素及びナフテン系炭化水素などを挙げることができる。また、鉱油は、市販品を適宜採用することができる。
【0051】
いくつかの実施態様において、塗工層中の鉱油の含有量は、支持体の片面あたり塗工層中の水溶性合成樹脂と天然由来の糊剤との合計100質量部に対して0.2質量部以上2質量部以下である。少なくとも一つの実施態様において、塗工層中の鉱油の含有量は、支持体の片面あたりの塗工層中の水溶性合成樹脂と天然由来の糊剤との合計100質量部に対して0.5質量部以上1.5質量部以下である。
【0052】
本発明の転写捺染用紙は、転写捺染法に用いる。転写捺染用紙は、染料を含む染料インクで図柄を印刷して転写捺染紙となる。転写捺染紙は、繊維材料と密着させて加熱及び加圧を受ける。転写捺染紙の染料は、密着させて加熱及び加圧によって転写捺染紙から繊維材料へ移動する。転写捺染紙は、ある程度染料が転写捺染紙から繊維材料に移動した段階で繊維材料から剥離する。ここで剥離は、支持体と塗工層との間で発生する。塗工層は、支持体から剥離して繊維材料に接着した状態になる。結果的にこれは、繊維材料へ塗工層の転写となる。染料の固着処理は、塗工層が接着した状態の繊維材料に対して行う。固着処理後に、塗工層は、繊維材料から水洗で除去される。
【0053】
染料の種類は、繊維材料の種類に応じて、反応染料、直接染料、酸性染料、金属錯塩型染料、分散染料及びカチオン染料などから選択すればよい。分散染料をインク化する場合は、0.1mm以上0.3mm以下のジルコニウムビーズを用いて粉砕機にかけ、分散染料の平均粒子径を0.1μm程度に微粒化することが好ましい。
染料インクは、色材として染料を含むインクを指す。染料インクは、水及びアルコールなどの各種溶媒に色材である染料を加えて調製することができる。インクには、必要に応じて従来公知の分散剤、樹脂、浸透剤、保湿剤、増粘剤、pH調整剤、酸化防止剤、還元剤、均染剤及び濃染化剤などの各種助剤を含有することができる。また、染料インクは市販されており、入手することができる。
【0054】
転写捺染紙は、転写捺染用紙に図柄を染料インクで印刷して得ることができる。印刷は、転写捺染用紙の塗工層を有する側に行う。印刷する方法は、グラビア印刷方式、スクリーン印刷方式及びインクジェット印刷方式などを挙げることができる。図柄を印刷する方法は、画質及び使用するインクの自由度が比較的高いことから、インクジェット印刷方式が好ましい。
【0055】
転写捺染紙と繊維材料とを密着させて加熱及び加圧は、図柄を印刷した転写捺染紙の印刷面と繊維材料の捺染する面とを対向させて密着させ、密着状態で加熱及び加圧することである。密着させて加熱及び加圧の条件は、転写捺染法で従来公知の条件である。密着させて加熱及び加圧する方法は、例えば、プレス機、ヒートロール及び加熱ドラムなどを用いて転写捺染紙を繊維材料に密着させて加熱及び加圧する方法を挙げることができる。
【0056】
繊維材料から転写捺染紙の剥離は、密着状態の繊維材料と転写捺染紙とから、物理的に転写捺染紙を繊維材料から剥離することである。剥離する方法は、従来公知の方法であって、特に限定されない。剥離する方法は、例えば、転写捺染紙と繊維材料とが密着した状態にあるロール状の転写捺染紙及び繊維材料を、各々個別にロールに巻き取る方法によって剥離する方法を挙げることができる。
【0057】
固着処理は、反応染料などを用いる捺染で通常行われるスチームによる加熱のほか、加湿ないし水分の付与を行った状態で加熱する方法などを挙げることができる。また、繊維材料がポリエステル繊維や合成繊維の場合は、乾燥加熱する方法を採用しても構わない。
スチームによる加熱は、スチーミング処理と呼ばれ、捺染分野で従来公知の固着処理である。スチーミング処理は、代表的に、常圧スチーミング法、HTスチーミング法及びHPスチーミング法がある。一般的に、常圧スチーミング法では100℃前後、15~30分の湿熱処理、HTスチーミング法では150~180℃、5~10分間の湿熱処理、HPスチーミング法では120~135℃、20~40分間の湿熱処理によって繊維材料へ染料の固着を行う。
【0058】
繊維材料は、天然繊維材料、合成繊維材料及びこれらの混合のいずれでも構わない。天然繊維材料の例としては、綿、麻、リヨセル、レーヨン及びアセテートなどのセルロース系、絹、羊毛及び獣毛などの蛋白質系などを挙げることができる。合成繊維材料の例としては、ポリアミド(ナイロン)、ビニロン、ポリエスエル及びポリアクリルなどを挙げることができる。繊維材料の構造として織物、編物及び不織布などの単独、混紡、混繊及び交織などを挙げることができる。さらに、これらが複合化してもよい。
【実施例0059】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されない。ここで「質量部」及び「質量%」は、乾燥固形分量あるいは実質成分量の各々「質量部」及び「質量%」を表す。塗工層の塗工量は、鉱油を除き乾燥固形分量を表す。
【0060】
<支持体1>
コロナ処理を施していない厚さ10μmの白色ポリエチレンテレフタレート樹脂シートを支持体1に用いた。塗工層を設ける側において、イオン交換水を滴下して4秒後のイオン交換水に対する支持体の接触角を測定したところ、98.4度であった。
【0061】
<支持体2~4>
上記ポリエチレンテレフタレート樹脂シートをコロナ出力電流を変化させてコロナ処理した。塗工層を設ける側において、イオン交換水を滴下して4秒後のイオン交換水に対する支持体の接触角を測定したところ、81.2度(支持体2)、72.0度(支持体3)及び64.4度(支持体4)であった。
【0062】
<支持体5及び6>
濾水度380mlcsfのLBKP100質量部からなるパルプスラリーに、填料として炭酸カルシウム10質量部、両性澱粉1.2質量部、硫酸バンド0.8質量部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤0.1質量部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で両面に、酸化澱粉を片面あたり1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量50g/mの紙基材を作製した。
上記紙基材の片面に、高密度ポリエチレンを、又は高密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとの混合を、溶融押し出しダイを用いて厚さ15μmになるようにラミネートして樹脂ラミネート層を有する紙基材を得た。これを支持体5及び支持体6に用いた。塗工層を設ける側において、イオン交換水を滴下して4秒後のイオン交換水に対する支持体の接触角を測定したところ、96.0度(支持体5)及び89.1度(支持体6)であった。
【0063】
<支持体7~9>
上記樹脂ラミネート層を有する紙基材をコロナ出力電流を変化させてコロナ処理した。塗工層を設ける側において、イオン交換水を滴下して4秒後のイオン交換水に対する支持体の接触角を測定したところ、80.1度(支持体7)、78.3度(支持体8)及び65.9度(支持体9)であった。
【0064】
<支持体10>
濾水度380mlcsfのLBKP100質量部からなるパルプスラリーに、填料として炭酸カルシウム10質量部、両性澱粉1.2質量部、硫酸バンド0.8質量部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤0.1質量部を添加して、長網抄紙機で抄造し、サイズプレス装置で両面に、酸化澱粉を片面あたり1.5g/m付着させ、マシンカレンダー処理をして坪量50g/mの紙基材を作製した。
上記紙基材の片面に、(メタ)アクリル樹脂エマルション(ハリマ化成社、ハーサイズKN-280)をエアナイフコーターで塗工及び熱風乾燥機で乾燥して樹脂塗工層を有する紙基材を得た。樹脂の塗工量は15g/mとした。これを支持体10に用いた。塗工層を設ける側において、イオン交換水を滴下して4秒後のイオン交換水に対する支持体の接触角を測定したところ、88.4度であった。
【0065】
<塗工層塗工液>
水を媒体として、下記の配合で塗工層塗工液を調製した。最終的に、塗工層塗工液の濃度は15質量%とした。
水溶性合成樹脂(ポリエステル樹脂) 質量部は表1に記載
水溶性合成樹脂(ポリビニルアルコール樹脂) 質量部は表1に記載
水溶性合成樹脂((メタ)アクリル樹脂) 質量部は表1に記載
天然由来の糊剤 質量部は表1に記載
非晶質シリカ 質量部は表1に記載
硫酸アンモニウム 7質量部
尿素 5質量部
チオ尿素 10質量部
アセチレングリコール消泡剤 1質量部
均染剤 質量部を表1に記載
鉱油 質量部を表1に記載
【0066】
水溶性ポリエステル樹脂には互応化学工業社のプラスコート(登録商標)RZ-142を、ポリビニルアルコール樹脂にはカルボン酸変性ポリビニルアルコール樹脂であるクラレ社のクラレポバール(登録商標)25-88KLを、(メタ)アクリル樹脂にはジャパンコーティングレジン社のモビニール(登録商標)727を、天然由来の糊剤にはヒドロキシアルキル化澱粉である日澱化学社のペノン(登録商標)JE-66を、非晶質シリカにはOSC社のファインシールX60を、アセチレングリコール系消泡剤には日信化学工業社のオルフィン(登録商標)E1004を、均染剤Aには多価アルコール脂肪酸エステルである日華化学社のサンフローレン(登録商標)SN、均染剤Bにはポリアルキレングリコール脂肪酸エステルである日華化学社のサンソルト(登録商標)AL200を用いた。
【0067】
【表1】
【0068】
<転写捺染用紙>
塗工層塗工液を、支持体の片面(接触角を測定した側)に対してエアナイフコーターを用いて塗工及び熱風乾燥機を用いて乾燥し、塗工層を設けた。得た転写捺染用紙は、ロール状とした。塗工量は20g/mとした。
得られた転写捺染用紙は、離型剤から形成される離型層を有さない。
【0069】
<塗工層塗工液のハジキ現象>
ハジキは、支持体に対して塗工層塗工液の塗工した後の塗工面を目視にて観察し、塗工面に塗工層塗工液のハジキに起因する塗工欠点の発生程度を下記の基準により官能評価した。評価結果を表2に記載する。本発明において、転写捺染紙は、評価A、B又はCであれば支持体に対する塗工層塗工液のハジキ現象の問題を軽減するものとする。
A:塗工層塗工液のハジキに起因する塗工欠点が認められない。
B:塗工層塗工液のハジキに起因する塗工欠点が極僅か認められる。
C:塗工層塗工液のハジキに起因する塗工欠点が僅か認められる。
D:塗工層塗工液のハジキに起因する塗工欠点が認められる。
【0070】
<転写捺染紙>
ロール状の転写捺染用紙に、染料を含む染料インクを搭載したインクジェットプリンター(VJ-1628TD、武藤工業社製)を用いて、転写捺染用紙の塗工層を有する側に染料インク(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)で評価用図柄を印刷し、最終的にロール状の転写捺染紙を得た。染料を含む染料インクには、紀和化学工業社製EAインクを用いた。
【0071】
<転写捺染前の塗工層の剥離>
転写捺染紙を1cm×20cm大きさに裁断した。転写捺染する前における塗工層の剥離は、裁断した長辺を水平方向として鉛直方向に転写捺染紙の塗工層を有する面を人差し指で10回擦過して塗工層が支持体から剥離するか否かを評価した。評価結果を表2に記載する。本発明において、転写捺染用紙は、評価Aであれば転写捺染する前における塗工層の剥離の問題が軽減されるものとする。
A:剥離しない。
B:剥離する。
【0072】
<転写捺染>
繊維材料として前処理をしていないナイロン布を用いた。転写捺染紙の印刷面とナイロン布の捺染する面とを対向させて搬送し、加熱ドラムを備えるロールニップ方式で密着させて加熱及び加圧した。加熱及び加圧の条件は、温度120℃、線圧70kg/cm、時間0.5秒とした。
【0073】
<転写捺染紙の剥離>
転写捺染紙が貼り付けた状態にあるナイロン布を、転写捺染紙とナイロン布とを個別にロールに巻き取る方法によって、転写捺染紙をナイロン布から引き剥がした。
【0074】
<転写捺染紙と繊維材料との剥離(塗工層と支持体と間での剥離)>
剥離は、転写捺染紙とナイロン布とが剥離する様子を目視にて観察し、下記の基準により官能評価した。評価結果を表2に記載する。本発明において、転写捺染紙は、評価A又はBであれば剥離が良好であるものとする。
A:スムーズに剥離ができる。
B:上記Aよりも強く引っ張って剥離できる。
C:上記Bよりも速度を落として剥離できる。
D:上記Cよりもさらに低速度で、ゆっくりしか剥離できない。
生産性の観点から好ましくない。
E:支持体に塗工層が残存し、剥離が困難である。
【0075】
<染料の固着処理>
転写捺染紙を剥離したロール状のナイロン布を、アンワインダーからワインダーへ搬送し、その間に常圧スチーミング法によって100~105℃、20~30分間の湿熱処理を行った。
【0076】
<水洗>
スチーミング後、得られたナイロン布に対して水洗、[常温水洗]→[50℃水洗]→「常温水洗]の手順で行った。
【0077】
<糊剤などの水洗除去>
水洗で糊剤などの除去は、ナイロン布を水洗する際の糊剤などの除去し易さ及び水洗後のナイロン布に付着する糊剤の有無を目視にて観察し、下記の基準により官能評価した。評価結果を表2に記載する。本発明において、転写捺染用紙は、評価A、B及びCであれば糊剤などの水洗で除去が良好であるものとする。
A:各工程10分以下程度の水洗で糊剤などが除去できる。
B:各工程10分超15分以下程度の水洗で糊剤などが除去できる。
C:各工程15分超20分以下程度の水洗で糊剤などが除去できる。
D:上記Cよりも更に長い時間の水洗で糊剤などが除去できる。
E:水洗で糊剤などが全て除去できない。
【0078】
<図柄の画質>
転写捺染紙とナイロン布とに形成された図柄を鮮鋭性、色ムラ及び発色の観点から目視にて比較観察し、下記の基準で官能評価した。評価結果を表2に記載する。本発明において、転写捺染用紙は、評価がA又はBであれば繊維材料に形成された図柄の画質が転写捺染紙に形成された図柄の画質に比べて劣化し難くなるものとする。
A:鮮鋭性、色ムラ及び発色の低下が認められない。
B:鮮鋭性、色ムラ及び/又は発色の低下が極僅かに認められる。
C:上記Bより劣り、鮮鋭性、色ムラ及び/又は発色の低下が僅かに認められる。
しかしながら、実用可能である。
D:上記Cより劣り、鮮鋭性、色ムラ及び/又は発色の低下が認められる。
【0079】
【表2】
【0080】
表2から、本発明の条件を満足する実施例1~10は、離型剤を含有して離型性を有する離型層を有さずに、ハジキ現象の問題及び転写捺染する前の剥離の問題を軽減することができ、転写捺染紙の塗工層が支持体から剥離することによって転写捺染紙と繊維材料との剥離が良好であり、なおかつ繊維材料に形成された図柄の画質が転写捺染紙に形成された図柄の画質に比べて劣化し難く、水洗で塗工層の糊剤などが繊維材料から除去できる、と分かる。一方、本発明の条件を満足しない比較例1~8は、これらの効果の少なくとも一つを得ることができない、と分かる。
【0081】
主に、実施例1~5と実施例6との対比から、転写捺染紙と繊維材料との剥離の観点から樹脂シート又は樹脂ラミネート層を有する紙基材が好ましいと分かる。
【0082】
主に、実施例5と、実施例7~8と、実施例10との対比から、塗工層塗工液のハジキ現象の問題の観点、糊剤などの水洗で除去の観点、転写捺染紙を繊維材料から剥離の観点、及び繊維材料に形成された図柄の画質が転写捺染紙に形成された図柄の画質に比べて劣化の観点から、塗工層は、均染剤及び鉱油の含有が好ましいと分かる。