(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176094
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】最適化装置、最適化方法、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20231206BHJP
G06N 99/00 20190101ALI20231206BHJP
【FI】
H02J3/00 170
G06N99/00 180
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088192
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山嵜 朋秀
(72)【発明者】
【氏名】松井 照久
(72)【発明者】
【氏名】矢口 航太
(72)【発明者】
【氏名】下尾 高廣
(72)【発明者】
【氏名】本宮 拓也
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA03
5G066AE04
5G066AE09
(57)【要約】
【課題】イジングマシンを用いて電力系統全体に関する数理最適化問題を解く。
【解決手段】実施形態の最適化装置は、コスト情報に基づいてコストに関する数理最適化問題を生成する問題生成部と、前記数理最適化問題の変数をすべて二値変数に変換する変数変換部と、前記数理最適化問題を制約なしの二値最適化問題に変形する問題変形部と、前記二値最適化問題について、係数が正で2次または3次以上の項のうち共通の変数を持つ項の和に対して新たな変数を1つ導入して係数が負の項を含む多項式に変換する処理を繰り返し実行した後に、係数が負で3次以上の項に対して新たな変数を導入することで2次式に変形する処理を実行してQUBO形式の問題に変換する高次項変形部と、イジングマシンを用いて前記QUBO形式の問題を解く近似解算出部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コスト情報に基づいてコストに関する数理最適化問題を生成する問題生成部と、
前記数理最適化問題の変数をすべて二値変数に変換する変数変換部と、
前記数理最適化問題を制約なしの二値最適化問題に変形する問題変形部と、
前記二値最適化問題について、係数が正で2次または3次以上の項のうち共通の変数を持つ項の和に対して新たな変数を1つ導入して係数が負の項を含む多項式に変換する処理を繰り返し実行した後に、係数が負で3次以上の項に対して新たな変数を導入することで2次式に変形する処理を実行してQUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimization)形式の問題に変換する高次項変形部と、
イジングマシンを用いて前記QUBO形式の問題を解く近似解算出部と、を備える最適化装置。
【請求項2】
電力系統の情報である系統情報を収集する系統情報受信部と、
前記系統情報と前記電力系統に関するコスト情報とに基づいてコストに関する数理最適化問題を生成する問題生成部と、
前記数理最適化問題の変数をすべて二値変数に変換する変数変換部と、
前記数理最適化問題を制約なしの二値最適化問題に変形する問題変形部と、
前記二値最適化問題について、3次以上の項を2次式に変形する処理を実行してQUBO形式の問題に変換する高次項変形部と、
イジングマシンを用いて前記QUBO形式の問題を解く近似解算出部と、を備える最適化装置。
【請求項3】
前記近似解算出部が前記QUBO形式の問題を解く前に、前記QUBO形式の問題について、グラフ理論に基づいて問題規模を削減する問題規模削減部を、さらに備える請求項1または請求項2に記載の最適化装置。
【請求項4】
前記グラフ理論は、QPBO(Quadratic pseudo-Boolean Optimization)である、請求項3に記載の最適化装置。
【請求項5】
前記近似解算出部によって算出された近似解に関して、二値変数の一部の解を固定して、連続変数のみの問題を解き、実行可能となるように解を補正する処理を行う解補正部を、さらに備える請求項1または請求項2に記載の最適化装置。
【請求項6】
前記解補正部によって算出された解を暫定解として反復解法を実行する反復解法実行部を、さらに備える請求項5に記載の最適化装置。
【請求項7】
コスト情報に基づいてコストに関する数理最適化問題を生成する問題生成ステップと、
前記数理最適化問題の変数をすべて二値変数に変換する変数変換ステップと、
前記数理最適化問題を制約なしの二値最適化問題に変形する問題変形ステップと、
前記二値最適化問題について、係数が正で2次または3次以上の項のうち共通の変数を持つ項の和に対して新たな変数を1つ導入して係数が負の項を含む多項式に変換する処理を繰り返し実行した後に、係数が負で3次以上の項に対して新たな変数を導入することで2次式に変形する処理を実行してQUBO形式の問題に変換する高次項変形ステップと、
イジングマシンを用いて前記QUBO形式の問題を解く近似解算出ステップと、を含む最適化方法。
【請求項8】
コンピュータを、
コスト情報に基づいてコストに関する数理最適化問題を生成する問題生成部と、
前記数理最適化問題の変数をすべて二値変数に変換する変数変換部と、
前記数理最適化問題を制約なしの二値最適化問題に変形する問題変形部と、
前記二値最適化問題について、係数が正で2次または3次以上の項のうち共通の変数を持つ項の和に対して新たな変数を1つ導入して係数が負の項を含む多項式に変換する処理を繰り返し実行した後に、係数が負で3次以上の項に対して新たな変数を導入することで2次式に変形する処理を実行してQUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimization)形式の問題に変換する高次項変形部と、
イジングマシンを用いて前記QUBO形式の問題を解く近似解算出部と、して機能させるためのプログラム。
【請求項9】
電力系統の情報である系統情報を収集する系統情報受信ステップと、
前記系統情報と前記電力系統に関するコスト情報とに基づいてコストに関する数理最適化問題を生成する問題生成ステップと、
前記数理最適化問題の変数をすべて二値変数に変換する変数変換ステップと、
前記数理最適化問題を制約なしの二値最適化問題に変形する問題変形ステップと、
前記二値最適化問題について、3次以上の項を2次式に変形する処理を実行してQUBO形式の問題に変換する高次項変形ステップと、
イジングマシンを用いて前記QUBO形式の問題を解く近似解算出ステップと、を含む最適化方法。
【請求項10】
コンピュータを、
電力系統の情報である系統情報を収集する系統情報受信部と、
前記系統情報と前記電力系統に関するコスト情報とに基づいてコストに関する数理最適化問題を生成する問題生成部と、
前記数理最適化問題の変数をすべて二値変数に変換する変数変換部と、
前記数理最適化問題を制約なしの二値最適化問題に変形する問題変形部と、
前記二値最適化問題について、3次以上の項を2次式に変形する処理を実行してQUBO形式の問題に変換する高次項変形部と、
イジングマシンを用いて前記QUBO形式の問題を解く近似解算出部と、して機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、最適化装置、最適化方法、および、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力系統(以下、単に「系統」ともいう。)には多数の太陽光発電機や風力発電機などの再生可能エネルギー発電機や蓄電池が導入されてきている。これらは分散電源と呼ばれ、効率的な運用が求められている。分散電源単体は、天候により発電能力が変化したり、充放電容量により運用に制約があったりするなど、既存の大型発電機(火力発電機等)に比べて制約が多い。そこで、これらの分散電源を単体で運用するのではなく、多数を取り纏めて運用する仮想発電所(VPP:Virtual Power Plant)という概念が存在する。
【0003】
多数の分散電源を利用する仮想発電所に関して、電力系統の有効電力潮流や電圧等の制約条件を考慮して最適化計算を実行する場合には、最適潮流計算(OPF:Optimal Power Flow)を実行する必要がある。OPFはいわゆる非凸非線形計画問題であり、問題が大規模な場合には線形計画問題などの凸計画問題と比較して多くの計算時間を要することが知られている。さらに、発電機の起動停止状態や分散電源の使用有無などの離散変数を含む場合には組合せ最適化問題となり、分枝限定法などを用いて緩和問題を繰り返し解く必要があり、実用的な計算時間内で最適解が得られないことが懸念される。
【0004】
近年、組合せ最適化問題を高速に解くことのできるイジングマシンと呼ばれる装置が開発されている。イジングマシンで問題を解くためには、最適化問題を、制約が無く、変数はすべて二値変数で、2次式以下の形式(QUBO:Quadratic Unconstrained Binary Optimization)に変形する必要がある。例えば、従来技術では、配電網における電力損失を最小化する系統構成を決定する問題を対象に、区分開閉器による接続状態を離散変数で表現してQUBOに変形する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Alexander Fix, Aritanan Gruber, Endre Boros, Ramin Zabih, “A Hypergraph-Based Reduction for Higher-Order Binary Markov Random Fields”, IEEE Trans. Pattern Analysis and Machine Intelligence Vol.37 pp.1387-1395 (2015)
【非特許文献2】Carsten Rother, Vladimir Kolmogorov, Victor Lempitsky, Martin Szummer, “ Optimizing Binary MRFs via Extended Roof Duality”, Technical Report MSR-TR-2007-46 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の従来技術によれば、配電網を対象とした最適化計算を実行可能であるが、配電系統よりも上位電圧の系統を含む電力系統全体を対象として最適潮流計算を実行することはできない。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、イジングマシンを用いて電力系統全体に関する数理最適化問題を解くことができる最適化装置、最適化方法、および、プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態の最適化装置は、コスト情報に基づいてコストに関する数理最適化問題を生成する問題生成部と、前記数理最適化問題の変数をすべて二値変数に変換する変数変換部と、前記数理最適化問題を制約なしの二値最適化問題に変形する問題変形部と、前記二値最適化問題について、係数が正で2次または3次以上の項のうち共通の変数を持つ項の和に対して新たな変数を1つ導入して係数が負の項を含む多項式に変換する処理を繰り返し実行した後に、係数が負で3次以上の項に対して新たな変数を導入することで2次式に変形する処理を実行してQUBO形式の問題に変換する高次項変形部と、イジングマシンを用いて前記QUBO形式の問題を解く近似解算出部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1の実施形態の最適化装置1の全体構成等を示す図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態における最適化装置1の作用を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、
図2のS4の詳細なアルゴリズムを示す図である。
【
図4】
図4は、追加変数の発生が抑制される効果を説明するための図である。
【
図5】
図5は、第2の実施形態の最適化装置1の全体構成等を示す図である。
【
図6】
図6は、第2の実施形態における最適化装置1の作用を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、第3の実施形態の最適化装置1の全体構成等を示す図である。
【
図8】
図8は、第3の実施形態における最適化装置1の作用を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、第4の実施形態の最適化装置1の全体構成等を示す図である。
【
図10】
図10は、第4の実施形態における最適化装置1の作用を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、第5の実施形態の最適化装置1の全体構成等を示す図である。
【
図12】
図12は、第5の実施形態における最適化装置1の作用を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、第6の実施形態の最適化装置1の全体構成等を示す図である。
【
図14】
図14は、第6の実施形態における最適化装置1の作用を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の最適化装置、最適化方法、および、プログラムの実施形態(第1の実施形態~第6の実施形態)について、図面を参照して説明する。実施形態の概要は、以下の通りである。電力系統について、OPFは連続変数を含み、さらにこれを離散変数で表現して無制約問題に変形した場合には4次式となるため、これをQUBO型式に変形する。また、イジングマシンは扱える変数の数が有限であり、最適化問題の規模を低減するために変数を削減する。さらに、イジングマシンによる計算では実行可能解が得られることは保証されないため、イジングマシンで得られた解を補正する。以下、各実施形態について説明する。なお、第2の実施形態以降では、それまでの実施形態と同様の事項については、説明を適宜省略する。
【0012】
(第1の実施形態)
(構成)
図1は、第1の実施形態の最適化装置1の全体構成等を示す図である。なお、
図1において、矢印は情報の主な流れを示すものであり、矢印がない部分を情報が流れる場合もある。
【0013】
最適化装置1は、イジングマシン11、処理部12、記憶部13、系統情報受信部14、入力部15、出力部16を有する。動作指示部2は、最適化装置1および電力系統3に接続される。
【0014】
イジングマシン11は、例えば、量子アニーリング装置やシミュレーティッドアニーリング装置によって実現される。しかし、イジングマシン11は、それらに限定されず、QUBO問題を解くためのほかの装置やアルゴリズムであってもよい。また、イジングマシン11は、処理部12とは別の装置として実装して処理部12に接続してもよいし、あるいは、処理部12と同一の装置として実装してもよい。
【0015】
処理部12は、例えば、一以上のプロセッサを含む計算機である。記憶部13は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ(SSD(Solid State Drive)など)、HDD(Hard Disk Drive)などである。記憶部13は、処理部12とは別の装置として実装し、処理部12に接続してもいいし、処理部12と同一の装置として例えば主記憶装置やキャッシュメモリとして実装してもよい。
【0016】
系統情報受信部14は、処理部12および電力系統3に接続される。入力部15は、処理部12に接続され、例えば、各種キー、ボタン、ダイヤルスイッチ、マウス、タッチパネルなどのうち一部または全部を含む。また、入力部15は、外部装置と電気的に接続される接続部であってもよい。
【0017】
出力部16は、処理部12に接続され、外部装置と電気的に接続される接続部であってもよいし、LCD(Liquid Crystal Display)や有機EL(Electro-luminescence)表示装置などであってもよい。
【0018】
処理部12は、問題生成部121と変数変換部122と問題変形部123と高次項変換部124と近似解算出部125と制御部126とデータ管理部127と、を有する。処理部12における各機能部は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで実現される。また、これら各機能部のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)等のハードウェア(回路部;circuitryを含む。)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。制御部126は、動作指示部2と接続される。
【0019】
記憶部13には、コスト情報131と系統情報132と数理最適化問題133と二値変数問題134と無制約二値変数問題135とQUBO問題136と近似解137とが保存される。
【0020】
コスト情報131は、電源の起動中に発生するコスト、電源の単位出力に対して生じるコストや、電力市場などへの電力売買金額といった最適化問題の目的関数を生成する際の定数値を保存する。ここで、電源とは、火力発電所、原子力発電所、水力発電所、地熱発電所、太陽光発電所、風力発電所、蓄電池などを表す。コスト情報131は、入力部15とデータ管理部127を介して入力され、問題生成部121において数理最適化問題133を作成する際に使用される。
【0021】
系統情報132は、開閉器の開放・投入状態、負荷、送電線や変圧器のインピーダンス・対地静電容量・タップ比、系統上の母線の電圧上限値・下限値、各母線に存在する電源の情報、各電源の有効電力出力の上下限値、各母線の無効電力出力の出力上下限値、送電線や変圧器の有効電力潮流の上下限値などの情報を保存する。系統情報132は、入力部15とデータ管理部127を介して保存されてもよいし、系統情報受信部14を介して保存されてもよく、問題生成部121において数理最適化問題133を作成する際に使用される。
【0022】
二値変数問題134は、変数変換部122において作成され、保存される。無制約二値変数問題135は、問題変形部123において作成され、保存される。QUBO問題136は、高次項変換部124において作成され、保存される。近似解137は、近似解算出部125においてイジングマシン11を実行することで算出され、保存される。
【0023】
(作用)
以上のような構成を有する最適化装置1の基本的な作用について説明する。
図2は第1の実施形態における最適化装置1の作用を示すフローチャートである。S1では、問題生成部121において数理最適化問題133として最適潮流計算を定式化する。数理最適化問題133の一例を以下に示す。ここでは、各母線に運用コストの異なる複数の電源が接続されており、電源の起動停止およびその出力を決定するような最適潮流計算問題を一例として考える。
【0024】
式(1)は、電源の運用で生じるコストの最小化を目的関数とする例である。ここで、α
m,nは母線mのn番目の電源の起動停止状態を表す二値変数(起動が「1」、停止が「0」)である。p
G
m,nは母線mのn番目の電源の出力を表す連続変数である。C
m,nは母線mのn番目の電源を起動中に必ず生じるコストを表す定数で、D
m,nは母線mのn番目の電源の単位出力に対して生じるコストを表す定数であり、コスト情報131から読み込む。m∈Gにおける「G」は電源が存在する母線の集合で、n∈D
mにおける「D
m」は母線mに存在する電源の集合であり、系統情報132から読み込む。
【数1】
【0025】
式(2)、(3)は、有効電力および無効電力の需給バランスに関する制約条件の一例である。P
L
mは母線mの有効電力負荷を表す定数で、Q
L
mは母線mの無効電力負荷を表す定数であり、系統情報132から読み込む。v
Re
mは母線mの複素電圧(複素関数で表した電圧)の実部を表す連続変数で、v
Im
mは母線mの複素電圧の虚部を表す連続変数である。G
m,kはアドミタンス行列のコンダクタンス成分のmk要素を表す定数で、B
m,kはアドミタンス行列のサセプタンス成分のmk要素を表す定数であり、それぞれ系統情報132に保存されたインピーダンス・対地静電容量・タップ比から計算することができる。q
G
mは母線mの無効電力出力を表す連続変数である。なお、ここでは簡単のため無効電力出力については電源個別の変数を設けずに縮約しているが、各電源に対してそれぞれ変数を用意してもよい。
【数2】
【0026】
式(4)は、有効電力潮流に関する制約条件である。P
min
l、P
max
lはそれぞれブランチlの有効電力潮流の下限値、上限値であり、系統情報132から読み込む。Lはブランチの集合である。
【数3】
【0027】
式(5)は、電圧上下限に関する制約条件である。V
min
m、V
max
mはそれぞれ母線mにおける電圧の下限値、上限値であり、系統情報132から読み込む。
【数4】
【0028】
式(6)は、電源の有効電力出力の上下限値に関する制約条件である。P
Gmin
m,n、P
Gmax
m,nはそれぞれ母線mのn番目の電源の有効電力出力の下限値、上限値であり、系統情報132から読み込む。
【数5】
【0029】
式(7)は、各母線の無効電力出力の出力上下限に関する制約条件である。Q
Gmin
m、Q
Gmax
mはそれぞれ母線mの無効電力出力の下限値、上限値であり、系統情報132から読み込む。
【数6】
【0030】
以上の定式化は一例であり、例えば、発電機の起動や停止にかかるコストを目的関数に加算してもよい。あるいは送電損失を最小化するような目的関数でもよい。また、複数時刻にまたがる最適化問題として定義し、連続運転時間等の制約条件を考慮してもよい。以上の定式化の情報を記憶部13に数理最適化問題133として保存する。
【0031】
S2では、変数変換部122において最適潮流計算の変数をすべて二値変数に変換する。イジングマシン11は一般に連続変数を扱えないため、例えば連続変数p
G
m,nはJ
pg
m,n個のバイナリ変数x
pg
m,n,jと重みw
pg
m,n,jの線形結合で式(8)のように表現する。式(8)の形式の表現を疑似ブール関数と呼ぶ。重みは、例えば2進数により表現する。その他の連続変数についても同様に二値変数に変換する。J
pg
m,nは変数の上下限値から必要な数を計算する。変換後の最適化問題を記憶部13に二値変数問題134として保存する。
【数7】
【0032】
S3では、問題変形部123において制約なしの二値最適化問題に変形する。式(2)、(3)については左辺を2乗して、所定の重みを乗じて目的関数に加算する。式(4)、式(5)についてはスラック変数と呼ばれる新たな変数を導入することで等式制約に変形してから同様の処理を行う。例えば有効電力潮流に関する上限制約はスラック変数sを導入して以下のように変形できる。
【数8】
【0033】
式(6)、式(7)については擬似ブール関数の重みを算出する際に上下限値を満たすようにすれば自動的に考慮されたことになる。上記のように変形した結果を記憶部13に無制約二値変数問題135として保存する。
【0034】
S4では、高次項変換部124において3次以上の項を2次に変形する。S4では共通の変数を持つ項に対して新たな変数を導入して次数を低減する非特許文献1の方法を用いる。
図3は、
図2のS4の詳細なアルゴリズムを示す図である。∀x
i∈{x
1,x
2,…}に対してS41を繰り返す。x
iは最適化問題の各変数を表す。S41では変数x
iを含み係数が正(>0)の3次以上の項に対して式(10)による式変形を行う。ここでH∈Hにおける右側の「H」はx
iを含み係数が正(>0)の3次以上の項の集合、α
Hは項Hの係数、yは新たに導入する二値変数(0、1)である。式(10)の右辺の2項目のように、係数が正(>0)の項の次数が減少する。ただし、右辺の3項目のように係数が負(<0)で同じ次数の項が出現する。
【数9】
【0035】
S42では、係数が負(<0)の3次以上の項について次式のように変形する。つまり、係数が負(<0)の3次以上の項の数だけ追加変数yを導入することになる。
【数10】
【0036】
S4の処理の結果、解くべき最適化問題はQUBO問題136となり、これを記憶部13に保存する。
【0037】
S5では、近似解算出部125において記憶部13のQUBO問題136をイジングマシン11に送信する。近似解算出部125はイジングマシン11による計算結果を受信し、記憶部13の近似解137に保存する。
【0038】
S6では、制御部126において記憶部13の近似解137を読み込み、電源の起動停止およびその出力等に関する制御信号を動作指示部2に伝送し、動作指示部2は電力系統3の操作を行う。
【0039】
S1~S5の処理は、例えば5秒周期で繰り返し実行する。なお、上記の処理は必ずしも同じ周期で都度実行する必要はなく、例えばS1~S4を5秒よりも長い周期で実行してQUBO問題136を作成しておき、S5、S6のみ5秒周期で実行するような作用でもよい。その際に、コスト情報131に変化があった際にはS5においてQUBO問題136の該当部分を書き換える処理を行う。
【0040】
(効果)
このように、第1の実施形態によれば、イジングマシン11を用いて電力系統全体に関する数理最適化問題を解くことができる。つまり、2次式で表現される制約式を含む問題をイジングマシン11で解くことができる。例えば、S4における処理では、変形過程で同じ高次項が多数出現して項数が削減され、追加変数の発生が抑制される効果がある。
【0041】
ここで、
図4は、追加変数の発生が抑制される効果を説明するための図である。需給バランスに関する制約条件、有効電力潮流に関する制約条件に対応するペナルティ項は電圧の2次項同士の積が頻出する。なお、ペナルティ項は、例えば、式(9)のような等式制約の左辺を二乗して重みを乗算してからそれらを加算したものとして表現できる。
【0042】
また、電圧は連続変数であるので、
図4では、擬似ブール関数による表現をしている。ここで簡単のため各変数が2つのバイナリ変数(0、1)で表現されるとすれば、
図4のように式展開できる。ここでバイナリ変数の二乗項は一乗項に変形できる(1
2=1、0
2=0のため)ことも用いる。例えば、S41においてv
Re
11について処理する状況を考える。v
Re
11v
Re
12v
Re
21v
Im
21の四次項は係数が正の3次項の+v
Re
12v
Re
21v
Im
21と、係数が負の四次項-yv
Re
12v
Re
21v
Im
21(yは新たな変数)に分解される。-yv
Re
12v
Re
21v
Im
21についてはS42でさらに新たな変数を導入して2次に変形することになる。ここで、正の3次項の+v
Re
12v
Re
21v
Im
21については図中に枠で示したように別の項と同じ形となり、まとめることで、正の高次項の項数が減少する。これにより、次の変数に対する処理に際して負の高次項の生成が削減されるので追加の変数の数が削減される。OPFにおいては上記のような正の高次項の削減が多くの部分で発生するような定式化となっているため変数の大きな削減効果が見込める。
【0043】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
【0044】
(構成)
図5は、第2の実施形態の最適化装置1の全体構成等を示す図である。第2の実施形態は、第1の実施形態(
図1)の処理部12に問題規模削減部128が追加されるとともに、記憶部13に削減問題138が追加されていることが特徴である。
【0045】
(作用)
図6は、第2の実施形態における最適化装置1の作用を示すフローチャートである。第1の実施形態(
図2)におけるS5の前段にS7が追加されている。S7では、前処理としてグラフ理論に基づいて問題規模を削減する。具体的には、例えば、2次の擬似ブール関数表現にグラフ理論を適用してネットワークフローモデルに変換し、最大フロー問題を解くことで大域的最適解を部分的に得るQuadratic pseudo-Boolean Optimization(QPBO)を用いる。つまり、QPBOでは、複数の変数のうち、いくつかの解を得ることができる。さらに具体的には、この処理は非特許文献2のアルゴリズムを実装することで実現できる。
【0046】
QPBOで大域的最適解の一部とされた変数を定数として固定することで変数を削減した問題を削減問題138として記憶部13に保存する。S5では削減問題138をイジングマシン11に送信する。なお、S7で用いる手法はQPBOに限定されない。また、S7とS5を繰り返し実行して解を算出する作用としてもよい。ここで、S4の詳細なアルゴリズムは
図3と同様であるが、S41では変数x_
iを含み係数が正(>0)の2次以上の項に対して式(10)による式変形を行う。非特許文献1によれば係数が正(>0)で2次以上の項は非劣モジュラ項と呼ばれ、非劣モジュラ項が少ないほどQPBOで大域的最適解の一部として固定できる変数が増加する。例えば、共通の変数を持つ5つの係数が正(>0)の2次項に対して式(10)を適用すれば、係数が正(>0)の2次項は1つ(右辺1項目)に減少する。なお、第1の実施形態においても同様に係数が正(>0)の2次以上の項に対して式(10)による式変形を行う作用としてもよい。
【0047】
(効果)
第1の実施形態の効果に加えて、イジングマシン11で扱える変数には限りがあるという制約の中で、S7で最適化問題の規模を削減することで、より大きい規模の問題をイジングマシン11で実行できるようになる。
【0048】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態について説明する。
【0049】
(構成)
図7は、第3の実施形態の最適化装置1の全体構成等を示す図である。第3の実施形態は、第1の実施形態の構成(
図1)に最適化ソルバ17が追加されていることが特徴である。最適化ソルバ17は、数理最適化問題133を解くことが可能な装置、またはソフトウェアである。最適化ソルバ17は、処理部12と同一の装置に実装してもよいし、あるいは、処理部12とは異なるコンピュータとして実装してもよい。また、最適化ソルバ17は、例えば主双対内点法やニュートン法を実装したソフトウェアとして実現できる。また、第1の実施形態(
図1)の処理部12に解補正部129が追加されるとともに、記憶部13に補正解139が追加されていることが特徴である。
【0050】
(作用)
図8は、第3の実施形態における最適化装置1の作用を示すフローチャートである。第1の実施形態(
図2)におけるS6の前段にS8が追加されている。イジングマシン11は、その原理上、通常、実行可能解が得られることが保証されないため、解補正部129によって、実行可能解となるように解を補正する。具体的には、電源の起動停止などの二値変数をS5の解で固定して、連続変数のみのOPFを実行する。
【0051】
S8で解く対象の系統の各母線には、有効電力出力の下限値が-∞、上限値が+∞であり、0以外の出力値となった場合にコストが他の電源と比較して非常に大きくなる調整発電機を設置し、調整発電機の有効電力出力を連続変数に加える。S5の解で実行不可能な場合には調整発電機の出力が変化するようにすることで実行可能解を得る。調整発電機の出力変化分については同一ノードの他の電源に割り振る。具体的には調整発電機の出力が正値の場合には、調整発電機の出力分だけコストが安い順に他の電源の出力を上げ、必要に応じて停止となっている電源を起動とする。調整発電機の出力が負値の場合には、調整発電機の出力分だけコストが高い順に他の電源の出力を下げ、必要に応じて起動となっている電源を停止とする。補正後の解を記憶部13に補正解139として保存する。S6では記憶部13の補正解139を読み込み、電源の起動停止およびその出力等に関する制御信号を動作指示部2に伝送し、動作指示部2は電力系統3の操作を行う。
【0052】
(効果)
第1の実施形態の効果に加えて、イジングマシン11は通常、実行可能解が得られることが保証されないが、S8で実行可能となるように解を補正することができる。
【0053】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。
【0054】
(構成)
図9は、第4の実施形態の最適化装置1の全体構成等を示す図である。第4の実施形態は、第3の実施形態(
図7)の処理部12に反復解法実行部130が追加されるとともに、記憶部13に反復解140が追加されていることが特徴である。
【0055】
(作用)
図10は、第4の実施形態における最適化装置1の作用を示すフローチャートである。第3の実施形態(
図8)におけるS6の前段にS9が追加されている。S6で得られた解は実行可能であるものの、厳密な最適解であることは保証されない。S9では、S6の解を暫定解として分枝限定法などの反復解法を実行することで、コスト(運用コスト)の小さい解を探索する。
【0056】
(効果)
第3の実施形態よりもコストの小さい解を得ることができる可能性がある。また、従来の反復解法よりも大域的最適解に近い暫定解から反復計算を実行できる場合には、従来よりも反復解法が早く収束することが期待できる。
【0057】
なお、
図10において、S5の後、S8を行わずにS9を行うようにしてもよい。
【0058】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について説明する。
【0059】
(構成)
図11は、第5の実施形態の最適化装置1の全体構成等を示す図である。第5の実施形態は、第2の実施形態(
図5)の処理部12に解補正部129が追加されるとともに、記憶部13に補正解139が追加されていることが特徴である。
【0060】
(作用)
図12は、第5の実施形態における最適化装置1の作用を示すフローチャートである。第2の実施形態(
図6)におけるS6の前段にS8が追加されている。S8の作用は第3の実施形態(
図8)と同じである。
【0061】
(効果)
第2の実施形態の効果に加えて、実行可能となるように解を補正する効果がある。
【0062】
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態について説明する。
【0063】
(構成)
図13は、第6の実施形態の最適化装置1の全体構成等を示す図である。第6の実施形態は、第5の実施形態(
図11)の処理部12に反復解法実行部130が追加されるとともに、記憶部13に反復解140が追加されていることが特徴である。
【0064】
(作用)
図14は、第6の実施形態における最適化装置1の作用を示すフローチャートである。第5の実施形態(
図12)におけるS6の前段にS9が追加されている。S9の作用は第4の実施形態(
図10)と同じである。
【0065】
(効果)
第5の実施形態の効果に加えて、第5の実施形態よりもコスト(運用コスト)の小さい解を得ることができる。
【0066】
本実施形態の最適化装置1で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disc)-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0067】
また、当該プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、当該プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成してもよい。また、当該プログラムを、ROM等に予め組み込んで提供するように構成してもよい。
【0068】
当該プログラムは、上述した各機能構成を含むモジュール構成となっており、実際のハードウェアとしてはCPUが上記記憶媒体からプログラムを読み出して実行することにより各機能構成が主記憶装置上にロードされ、主記憶装置上に生成される。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0070】
例えば、上述の複数の実施形態を組み合わせて実施してもよい。
【0071】
また、数理最適化問題を生成する際に、気象データなどの別のデータをさらに用いてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1…最適化装置、2…動作指示部、3…電力系統、11…イジングマシン、12…処理部、13…記憶部、14…系統情報受信部、15…入力部、16…出力部、17…最適化ソルバ、121…問題生成部、122…変数変換部、123…問題変形部、124…高次項変換部、125…近似解算出部、126…制御部、127…データ管理部、128…問題規模削減部、129…解補正部、130…反復解、140法実行部、131…コスト情報、132…系統情報、133…数理最適化問題、134…二値変数問題、135…無制約二値変数問題、136…QUBO問題、137…近似解、138…削減問題、139…補正解、140…反復解