IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176102
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】細胞用培地添加剤
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
C12N1/00 F
C12N1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088202
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田尾 文哉
(72)【発明者】
【氏名】金井 勇樹
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB04
4B065BB40
4B065BD25
4B065CA44
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】
本発明は、細胞毒性が低く、優れた薬物代謝関連分子の発現及び活性の誘導を示す細胞用添加剤、当該添加剤を含む細胞用培地、及び当該添加剤を使用した細胞培養方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
一般式(1)~(6)で表される構造単位のうち、少なくともいずれか1つの構造単位を有するビニル系重合体(V)を含み、前記ビニル系重合体(V)の質量平均分子量が600以上であり、2000より小さい、細胞用培地添加剤。前記の細胞用培地添加剤を含む、細胞用培地。ビニル系重合体(V)の培地中の濃度が1質量%より大きく、4質量%以下である、前記の細胞用培地。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)~(6)で表される構造単位のうち、少なくともいずれか1つの構造単位を有し、質量平均分子量が600以上かつ2000より小さいビニル系重合体(V)を含む、細胞用培地添加剤。
一般式(1)
【化1】
一般式(2)
【化2】
一般式(3)
【化3】
一般式(4)
【化4】
一般式(5)
【化5】
一般式(6)
【化6】
(式中、
、R16はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキレン基を表し、
、R、R17、R18はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基を表し、
は炭素数1~4のアルキレン基を表し、
Xは酸素原子又はNH-を表し、
Yは-COO又はSO を表し、
、R20はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、
は炭素数1~6のアルキレン基又は炭素数1~6のヒドロキシアルキレン基を表し、
~R13のうち4つは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基、R~R13のうち1つは、ビニル系重合体の主鎖との結合位置を表し、
21~R25のうち4つは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基、R21~R25のうち1つは、ビニル系重合体の主鎖との結合位置を表し、
14は炭素数1~6のアルキレン基又は炭素数1~6のヒドロキシアルキレン基を表し、
*はビニル系重合体の主鎖との結合位置を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の細胞用培地添加剤を含む、細胞用培地。
【請求項3】
ビニル系重合体(V)の培地中の濃度が1質量%より大きく、4質量%以下である、請求項2に記載の細胞用培地。
【請求項4】
請求項2又は3記載の細胞用培地で細胞を培養することを特徴とする、細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物代謝関連分子を誘導可能な細胞用培地添加剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬剤スクリーニングにおいて薬物代謝酵素/トランスポーターに由来する薬物相互作用を明らかにすることは非常に重要である。その中でも、シトクロムP450(CYP)は、ヒトにおいては主に肝臓に存在し物質の解毒と分解に関与する薬物代謝酵素である。特に、CYP3Aは主要な分子種であり、市販医薬品の約50%の代謝に関与する(非特許文献1)。したがって、医薬品開発において、一定レベルの薬物代謝酵素活性を有する培養肝細胞を用いたin vitro評価系が求められる。しかし、肝細胞ソースとして理想的なヒト初代肝細胞は、ロットごとに薬物代謝酵素の活性が大きく異なることや、供給量に制限があるために非常に高価なことが課題となっている。
【0003】
そこで、初代肝細胞に代わる細胞ソースとして株化細胞や、近年ではヒトiPS細胞由来肝細胞の利用が進められている。株化細胞は、高い増殖能を有し安定供給が可能であるが、初代肝細胞に比べてCYPを始めとする薬物代謝関連遺伝子の発現が極めて低い。また、iPS細胞の肝細胞分化プロトコルは種々報告されており、主要な肝機能を有する肝細胞を得ることに成功しているものの、これらの機能は初代肝細胞と比較すると著しく低く、医薬品開発の観点からは薬物代謝酵素活性を十分確保するための改良が求められる。
【0004】
上記の問題を解決すべく、培養条件の最適化や培養手法の検討が多く行われてきた。例えば、DMSO処理や、コンフルエント培養によりCYPの遺伝子発現・活性が改善されることが報告されている (非特許文献2、3)。特許文献1では、複数の低分子化合物を組み合わせて、CYP3A,CYP1Aを誘導する方法が報告されている。さらに、特許文献2では植物抽出物を培養液中に添加すると、CYP3Aの核内受容体PXRを賦活化させ、CYP活性が向上することが示されている。
しかし、上記方法を用いて活性が増加することが明示されているのはCYPのみであり、その他薬物代謝酵素/トランスポーターについては検証されていない。また、合成高分子による薬物代謝酵素の顕著な活性増加は報告されていない。
【0005】
そこで、本発明は従来技術よりも、より強力に薬物代謝関連分子の発現及び活性を誘導可能な細胞用培地添加剤を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-111587号公報
【特許文献2】特開2016-67218号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】L.C. Wienkers, et al, Nat. Rev. Srug Discov., 4:825-833, 2005
【非特許文献2】S.Choi, et al, Xenobiotica, 39(3):205-217, 2009
【非特許文献3】L.Sivertsson, et al, Drug Metab. Dispos., 38:995-1002, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、細胞毒性が低く、優れた薬物代謝関連分子の発現及び活性の誘導を示す細胞用添加剤、当該添加剤を含む細胞用培地、及び当該添加剤を使用した細胞培養方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)~(6)で表される構造単位のうち、少なくともいずれか1つの構造単位を有し、質量平均分子量が600以上かつ2000より小さいビニル系重合体(V)を含む、細胞用培地添加剤に関する。
一般式(1)
【化1】
一般式(2)
【化2】
一般式(3)
【化3】
一般式(4)
【化4】
一般式(5)
【化5】
一般式(6)
【化6】
(式中、
、R16はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキレン基を表し、
、R、R17、R18はそれぞれ独立して炭素数1~4のアルキル基を表し、
は炭素数1~4のアルキレン基を表し、
Xは酸素原子又はNH-を表し、
Yは-COO又はSO を表し、
、R20はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基を表し、
は炭素数1~6のアルキレン基又は炭素数1~6のヒドロキシアルキレン基を表し、
~R13のうち4つは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基、R~R13のうち1つは、ビニル系重合体の主鎖との結合位置を表し、
21~R25のうち4つは、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基、R21~R25のうち1つは、ビニル系重合体の主鎖との結合位置を表し、
14は炭素数1~6のアルキレン基又は炭素数1~6のヒドロキシアルキレン基を表し、
*はビニル系重合体の主鎖との結合位置を表す。)
【0010】
また、本発明は、上記の細胞用培地添加剤を含む、細胞用培地に関する。
【0011】
また、本発明は、ビニル系重合体(V)の培地中の濃度が1質量%より大きく、4質量%以下である、上記の細胞用培地に関する。
【0012】
また、本発明は、上記の細胞用培地で細胞を培養することを特徴とする、細胞培養方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、細胞毒性が低く、優れた薬物代謝関連分子の発現及び活性の誘導を示す細胞用添加剤、当該添加剤を含む細胞用培地、及び当該添加剤を使用した細胞培養方法を提供することが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の細胞用培地添加剤は、質量平均分子量が600以上かつ2000より小さいビニル系重合体(V)を含むことを特徴とする。
【0015】
ビニル系重合体(V)は、上記一般式(1)~(6)で示されるベタイン構造、又は、アミンオキシド構造の少なくともいずれかの構造単位を側鎖に有する。下記一般式(1)~(6)で示されるベタイン構造、又は、アミンオキシド構造の少なくともいずれかの構造単位の含有量は、前記ビニル系重合体(V)を構成する単量体単位の合計100質量%に対して、30~95質量%であることが好ましく、40~80質量%であることがより好ましい。上記の範囲であることで、水中での溶解性が向上する。
以下、ビニル系重合体(V)のうち、上記一般式(1)~(3)で示されるベタイン構造の少なくともいずれかの構造単位を側鎖に有するビニル系重合体を、ベタイン構造を有するビニル系重合体(A)といい、上記一般式(4)~(6)で示されるアミンオキシド構造の少なくともいずれかの構造単位を側鎖に有するビニル系重合体を、アミンオキシド構造を有するビニル系重合体(B)という。また、これらのビニル系重合体を、単にビニル系重合体(A)、ビニル系重合体(B)ということがあるが同義である。
【0016】
<ベタイン構造を有するビニル系重合体(A)>
ベタイン構造を有するビニル系重合体(A)は、以下の方法で得ることが好ましい。
即ち、
(1)下記一般式(7)~(9)で示される単量体(a1)~(a3)と、必要に応じて他の単量体とを共重合する。得られる共重合体をビニル系重合体(A1)という。
又は、
(2)下記一般式(10)~(12)で示される単量体(a4)~(a6)と、必要に応じて他の単量体とを共重合し、得られた共重合体中の単量体(a4)~(a6)に由来する部分に後述するベタイン化剤を反応させる。得られる反応生成物は、単量体(a1)~(a3)を用いた共重合体と同様にベタイン構造を有し、ビニル系重合体(A2)という。
【0017】
一般式(7)(a1)
【化7】
一般式(8)(a2)
【化8】
一般式(9)(a3)
【化9】
一般式(10)(a4)
【化10】
一般式(11)(a5)
【化11】
一般式(12)(a6)
【化12】
【0018】
(式中、
は水素原子又はメチル基、
は水素原子又はメチル基を表し、
**はベタイン化剤との反応部位を表す。
その他の記号は、一般式(1)~(3)と同様である。)
<ビニル系重合体(A1)>
ビニル系重合体(A1)は、前述の通り、一般式一般式(7)~(9)で示される単量体(a1)~(a3)を共重合体の構成単位とするものである。単量体(a1)~(a3)の利用によって、ビニル重合体の側鎖にベタイン構造を導入することができる。
【0019】
<単量体(a1)>
単量体(a1)は、一般式(7)に示す通り、1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、ベタイン構造とを有する。
このような単量体としては、例えば、N-(メタ)アクリロイルオキシメチル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-カルボキシベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-カルボキシベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-カルボキシベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシブチル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-カルボキシベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシメチル-N,N-ジエチルアンモニウムメチル-α-カルボキシベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシエチル-N,N-ジエチルアンモニウムメチル-α-カルボキシベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-N,N-ジエチルアンモニウムメチル-α-カルボキシベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシブチル-N,N-ジエチルアンモニウムメチル-α-カルボキシベタイン、などのN-(メタ)アクリロイルオキシアルキル-N,N-ジアルキルアンモニウムアルキル-α-カルボキシベタイン;N-(メタ)アクリルアミドプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-カルボキシベタイン、N-(メタ)アクリルアミドプロピル-N,N-ジエチルアンモニウムメチル-α-カルボキシベタイン、などのN-(メタ)アクリルアミドアルキル-N,N-ジアルキルアンモニウムアルキル-α-カルボキシベタイン;N-(メタ)アクリルアミドプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-カルボキシベタイン、N-(メタ)アクリルアミドプロピル-N,N-ジエチルアンモニウムメチル-α-カルボキシベタイン、などのN-(メタ)アクリルアミドアルキル-N,N-ジアルキルアンモニウムアルキル-α-カルボキシベタイン;N-(メタ)アクリロイルオキシメチル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシメチル-N,N-ジメチルアンモニウムエチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシメチル-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシメチル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムエチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムエチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシブチル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシブチル-N,N-ジメチルアンモニウムエチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシブチル-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシブチル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン、などのN-(メタ)アクリロイルオキシアルキル-N,N-ジメチルアンモニウムアルキル-α-スルホベタイン;N-(メタ)アクリロイルオキシメトキシメトキシ-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシメトキシメトキシ-N,N-ジメチルアンモニウムエチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシメトキシメトキシ-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシメトキシメトキシ-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシ-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシ-N,N-ジメチルアンモニウムエチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシ-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシ-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシプロポキシ-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシプロポキシ-N,N-ジメチルアンモニウムエチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキプロポキシプロポキシ-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシプロポキシ-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシブトキシブトキシ-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシブトキシブトキシ-N,N-ジメチルアンモニウムエチル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシブトキシブトキシ-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリロイルオキシブトキシブトキシ-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン、などのN-(メタ)アクリロイルオキシアルコキシアネルコキシ-N,N-ジメチルアンモニウムアルキル-α-スルホベタイン;N-(メタ)アクリルアミドプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムプロピル-α-スルホベタイン、N-(メタ)アクリルアミドプロピル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタインなどのN-(メタ)アクリルアミドアルキル-N,N-ジアルキルアンモニウムアルキル-α-スルホベタインなどが挙げられる。
【0020】
<単量体(a2)>
単量体(a2)も、一般式(8)に示す通り、1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、ベタイン構造とを有する。
このような単量体としては、例えば、1-ビニル-3-(3-スルホプロピル)イミダゾリウム内部塩、1-ビニル-3-(3-スルホブチル)イミダゾリウム内部塩、1-ビニル-2-メチル-3-(3-スルホプロピル)イミダゾリウム内部塩、1-ビニル-2-メチル-3-(4-スルホブチル)イミダゾリウム内部塩などの1-ビニル-2-アルキル-3-(4-スルホアルキル)イミダゾリウム内部塩などが挙げられる。
【0021】
<単量体(a3)>
単量体(a3)も、一般式(9)に示す通り、1分子中に1つのエチレン性不飽和基と、ベタイン構造とを有する。
このような単量体としては、例えば、2-ビニル-1-(3-スルホプロピル)ピリジニウム内部塩、2-ビニル-1-(3-スルホブチル)ピリジニウム内部塩、などの2-ビニル-1-(3-スルホアルキル)ピリジニウム内部塩;4-ビニル-1-(3-スルホプロピル)ピリジニウム内部塩、4-ビニル-1-(3-スルホブチル)ピリジニウム内部塩、などの4-ビニル-1-(3-スルホアルキル)ピリジニウム内部塩が挙げられる。
【0022】
<ビニル系重合体(A2)>
本発明におけるビニル系重合体(A)は、前述の通り、単量体(a1)~(a3)そのものを共重合した共重合体である必要はなく、以下のような段階を経て得ることができる。
即ち、単量体(a1)~(a3)の前駆体ともいうべき一般式(10)~(12)で示される単量体(a4)~(a6)のうち少なくともいずれかと、必要に応じて他の単量体を共重合し、得られた共重合体中の**で示された窒素の少なくとも一部とベタイン化剤(D)とを反応させて得ることができる。得られるビニル系重合体(A2)は、ベタイン構造を側鎖に有する。ベタイン化剤(D)は、単量体(a4)~(a6)を全てベタイン化するように使用することが好ましい。
【0023】
このような単量体(a4)としては、例えば、
N-(メタ)アクリロイルオキシメチル-N,N-ジメチルアミン、
N-(メタ)アクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアミン、
N-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-N,N-ジメチルアミン、
N-(メタ)アクリロイルオキシブチル-N,N-ジメチルアミン、
N-(メタ)アクリロイルオキシメチル-N,N-ジエチルアミン、
N-(メタ)アクリロイルオキシエチル-N,N-ジエチルアミン、
N-(メタ)アクリロイルオキシプロピル-N,N-ジエチルアミン、
N-(メタ)アクリロイルオキシブチル-N,N-ジエチルアミン、
などのN-(メタ)アクリロイルオキシアルキル-N,N-ジアルキルアミン;
N-(メタ)アクリルアミドプロピル-N,N-ジメチルアミン、
N-(メタ)アクリルアミドプロピル-N,N-ジエチルアミン、
などのN-(メタ)アクリルアミドアルキル-N,N-ジアルキルアミン;
N-(メタ)アクリロイルオキシメトキシメトキシ-N,N-ジメチルアミン、
N-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシ-N,N-ジメチルアミン、
N-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシプロポキシ-N,N-ジメチルアミン、
N-(メタ)アクリロイルオキシブトキシブトキシ-N,N-ジメチルアミン、
などのN-(メタ)アクリロイルオキシアルコキシアネルコキシ-N,N-ジメチルアミンなどが挙げられる。
【0024】
このような単量体(a5)としては、例えば、
1-ビニルイミダゾール、2-メチル-1-ビニルイミダゾール、4-メチル-1-ビニルイミダゾール、5-メチル-1-ビニルイミダゾール、2-ラウリル-1-ビニルイミダゾール、4-(t-ブチル)-1-ビニルイミダゾールが挙げられる。
【0025】
このような単量体(a6)としては、例えば、2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-メチル-3-ビニルピリジン、2-メチル-4-ビニルピリジン、3-メチル-4-ビニルピリジン、2-メチル-5-ビニルピリジン、3-メチル-5-ビニルピリジン、4-メチル-5-ビニルピリジン、2-ラウリル-4-ビニルピリジン、2-ラウリル-5-ビニルピリジン、2-(t-ブチル)-4-ビニルピリジン、2-(t-ブチル)-5-ビニルピリジンが挙げられる。
【0026】
<ベタイン化剤(D)>
ベタイン化剤(D)は、環状スルホン酸エステル(D1)、ω‐ハロゲン化アルキルスルホン酸金属塩(D2)、環状カルボン酸エステル(D3)及びω‐ハロゲン化アルキルカルボン酸金属塩(D4)からなる群より選択される。一般式(7)~(9)で示される単量体(a4)~(a6)の**で示される窒素を重合後に、スルホベタイン化もしくはカルボベタイン化するために用いられる化合物群である。
【0027】
このような環状スルホン酸エステル(D1)としては、例えば、1,2-エタンスルトン、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトンが挙げられる。
【0028】
このようなω‐ハロゲン化アルキルスルホン酸金属塩(D2)としては、例えば、2-クロロエタンスルホン酸ナトリウム、2-ブロモエタンスルホン酸ナトリウム、3-クロロプロパンスルホン酸ナトリウム、3-ブロモプロパンスルホン酸ナトリウム、4-クロロブタンスルホン酸ナトリウム、4-ブロモブタンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0029】
このような環状カルボン酸エステル(D3)としては、例えば、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトンなどが挙げられる。
【0030】
このようなω‐ハロゲン化アルキルカルボン酸金属塩(D4)としては、例えば、2-クロロ酢酸ナトリウム、2-ブロモ酢酸ナトリウム、3-クロロプロピオン酸ナトリウム、3-ブロモプロピオン酸ナトリウム、4-クロロ酪酸ナトリウム、4-ブロモ酪酸ナトリウム、5-クロロペンタン酸ナトリウム、5-ブロモペンタン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0031】
<アミンオキシド構造を有するビニル系重合体(B)>
アミンオキシド構造を有するビニル系重合体(B)は、
以下のような2つの方法で得ることが好ましい。
即ち、
(1)アミンオキシド基を有する単量体と、必要に応じて他の単量体とを共重合する。(B1)
あるいは、
(2)3級アミノ基を有する重合体を得たのち前記3級アミノ基に後述する酸化剤 (以下、オキシド化剤ともいう)(E)を反応させる。得られる反応生成物は、(B1)と同様にアミンオキシド構造を有し、ビニル系重合体(B2)という。
なお、3級アミノ基に酸化剤を反応させアミンオキシド構造を導入することを、「オキシド化」ともいう。
【0032】
<3級アミノ基含有単量体(b)>
オキシド化前の前駆体としての3級アミノ基含有単量体のうち、一般式(4)の構造を形成するためのものとしては、例えば、上記単量体(a4)に記載のものが挙げられる。
【0033】
一般式(5)の構造を形成するためのものとしては、例えば、上記単量体(a5)に記載のものが挙げられる。
【0034】
一般式(6)の構造を形成するためのものとしては、例えば、上記単量体(a6)に記載のものが挙げられる。
【0035】
<オキシド化>
3級アミノ基含有単量体、又は、3級アミノ基を有する重合体を含む溶液に、オキシド化剤を加えて20℃~100℃の範囲で0.1~100時間、好ましくは1~50時間反応させることによって、3級アミノ基をオキシド化することができる。
【0036】
<オキシド化剤(E)>
オキシド化剤としては、過酸化物又はオゾン等の酸化剤が用いられる。
過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸ソーダ、過酢酸、メタクロロ過安息香酸、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルハイドロパーオキシド等が挙げられ、過酸化水素が好ましく、通常は水溶液の形で用いられる。程度の違いはあるが、過酸化物にはラジカル発生剤としての機能もあるので、3級アミノ基含有不飽和単量体を必須の原料とするビニル系重合体の場合には、重合後にオキシド化することが好ましい。
一般的にはオキシド化剤の使用量は、オキシド化可能な官能基、即ち、3級アミノ基に対して、0.2~3倍モル当量の割合で使用し、更に0.5~2倍モル当量使用するのがより好ましい。
【0037】
<単量体(c)>
ビニル系重合体(V)を得る際に、単量体(a1)~(a3)、(b)以外のその他の単量体(c)も使用することができる。
【0038】
単量体(c)としては、例えば、
メチルメタクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、nーブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、へプチル(メタ)アクリレート、2‐エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等のアルキルエステル(メタ)アクリレート;
フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート等の芳香族エステル(メタ)アクリレート;
スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、クロロスチレン、アリルベンゼン、エチニルベンゼン等の芳香族ビニル単量体が挙げられる。
これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0039】
上記単量体(c)として、分配係数LogPが0.8~10である単量体(c1)を用いることができ、ビニル系重合体(V)は、分配係数LogPが0.8~10である単量体(c1)に由来する構造単位を含むことが好ましい。単量体(c1)に由来する構造単位の導入により、極性がより適切に制御され、細胞との疎水性相互作用が制御され、細胞の抗体産生性をはじめとする効果を最大限に発揮することができる。
【0040】
分配係数LogPは、化学物質の性質を表す数値の1つであり、添加量に依存しない一定の値である。対象とする物質が水と1-オクタノールの混合液において、水相とオクタノール相が接した系中で平衡状態にある場合を対象として、各相の濃度をその常用対数で示したものである。LogPが大きくなると、比較的に疎水性が増大する傾向にあり、LogPが小さくなると、比較的に親水性が増大する傾向にある。
【0041】
LogPの測定は、一般にJIS日本工業規格Z7260-107(2000)に記載のフラスコ浸とう法により実施することができる。また、LogPは実測に代わって、計算化学的手法、あるいは経験的方法により見積もることも可能である。LogPの計算に用いる方法やソフトウェアについては公知のものを用いることができるが、本発明ではCambridgeSoft社のシステム:ChemdrawPro11.0に組み込まれたプログラムを用いて、LogPを求めている。
【0042】
単量体(c1)に由来する構造単位の含有量は、ビニル系重合体(V)を構成する単量体単位の合計100質量%中、5~70質量%であることが好ましく、10~65質量%であることがより好ましく、20~60質量%であることが更に好ましい。5質量%以上であることにより、単量体(a1)~(a3)、(b)の量が相対的に少なくなり、ビニル重合体(V)の水溶性を適切な範囲とすることができる。70質量%以下とすることにより、細胞との疎水的相互作用を適度に抑制できる。
【0043】
上記単量体(c)として、分配係数LogPが0.8~10の範囲外の単量体(c2)も使用することができる。 分配係数LogPが0.8~10の範囲外の単量体(c2)を用いる場合、その含有量は、ビニル系重合体(V)を構成する単量体単位の合計100質量%中、0~65質量%であることが好ましく、0~40質量%であることがより好ましく、0~20質量%であることがさらに好ましい。ベタイン構造及び/又はアミンオキシド構造の機能を、より発現しやすいためである。
【0044】
本発明では、ビニル系重合体の分子量・分子量分布を制御するため、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、特に限定されず、例えば、チオール基や水酸基を有する化合物が一般に知られている。チオール基を有する化合物としては、例えばラウリルメルカプタン、2-メルカプトエチルアルコール、ドデシルメルカプタン、及びメルカプトコハク酸等のメルカプタン;メルカプトプロピオン酸n-ブチル、及びメルカプトプロピオン酸オクチル等のメルカプトプロピオン酸アルキル;、メルカプトプロピオン酸メトキシブチル等のメルカプトプロピオン酸アルコキシアルキル等が挙げられる。また、メチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール(IPA)、t-ブチルアルコール、及びベンジルアルコール等のアルコールも挙げられる。連鎖移動剤は、単独又は2種類以上併用できる。
【0045】
<質量平均分子量(Mw)>
ビニル系重合体(V)の質量平均分子量は、600以上であり、2000より小さい。前記質量平均分子量は、700~1950であることが好ましく、800~1900であることがさらに好ましい。
ビニル系重合体(V)の質量平均分子量が上記範囲であることにより、細胞との相互作用がより昂進し、薬物代謝関連分子に対する誘導能を向上させることができる。
【0046】
ビニル系重合体(V)の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準プルラン換算で計測した値を採用した。測定装置及び測定条件としては下記条件1を用いた。その他の事項については、JISK7252-1~4:2008を参照した。また、条件1での分子量測定が困難な場合は、下記条件2によることを基本とし、ビニル系重合体の分子量測定が困難な場合は、ベタイン又はアミンオキシド前駆体重合体の質量平均分子量を重合体の質量平均分子量とした。前駆体重合体の質量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって標準ポリスチレン換算で計測した値を採用した。
【0047】
(条件1)
カラム:OHpak SB-G、
OHpak SB-806M HQを3本及び、
OHpak SB-802.5 HQを連結したもの。
キャリア:1/15 mol/L pH7.0 リン酸緩衝液
(りん酸緩衝剤粉末1/15 mol/L pH7.0(富士フイルム和光純薬(株)製)をイオン交換水1Lに溶解させたもの)
キャリア流量:1.0mL/min
試料濃度:0.5質量%
検出器:RI(屈折率)検出器
注入量:0.1mL
(条件2)
カラム:TOSOHTSKgelSuperAW4000、
TOSOHTSKgelSuperAW3000 及び
TOSOHTSKgelSuperAW2500を連結したもの。
キャリア:N,N-ジメチルホルムアミド(1L)、トリエチルアミン(3.04g)、LiBr(0.87g)の混合液
測定温度:40℃
キャリア流量:0.6mL/min
【0048】
得られた重合体溶液はそのまま使用することもできるが、必要に応じて精製することができる。精製方法としては、特に限定するものではないが、たとえば、再沈殿、限外ろ過、透析、イオン交換樹脂処理等が挙げられる。それぞれ単独で行っても又は組み合わせても良い。
【0049】
<細胞用培地>
本発明の細胞用添加剤を添加する細胞用培地としては、従来公知の細胞用培地を使用することができる、例えば、市販されている各種培地(αMEM、MEM、DMEM、IMDEM、RPMI1640、DMEM/F12など)や、これらの組み合わせが挙げられる。
上記細胞用培地において、ビニル系重合体(V)の培地総質量中の濃度は1質量%より大きく、4質量%以下であることが好ましく、3.5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましく、2.5質量%以下であることが特に好ましい。細胞用培地におけるビニル系重合体(V)の濃度が上記範囲であることにより、細胞毒性を低くし、かつ優れた薬物代謝関連分子の活性増強効果を発揮する。
【0050】
細胞用培地には、必要に応じて、各種増殖因子(上皮成長因子やインスリン様成長因子、神経成長因子、肝細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、塩基性繊維芽細胞増殖因子、トランスフェリン、ステロイドホルモン、2-メルカプトエタノールなど)や各種動物血清(ウシ胎児血清(FBS)やウシ血清など)、血清代替物等を添加するのが好ましい。
【0051】
<細胞>
本発明の細胞用培地添加剤を用いて培養される細胞としては、薬物代謝酵素誘導が生じる生体内の組織中の細胞が挙げられ、由来する組織としては肝臓、小腸等が挙げられる。前記細胞は、薬物代謝酵素誘導を試験することを目的とする生物であることが望ましく、例えば、ヒト、マウスなどの哺乳動物が挙げられる。本発明の細胞用培地添加剤を用いて培養することのできる、薬物代謝酵素を産生可能な細胞として例えば、動物組織から採取された初代肝細胞/腸細胞、ES細胞やiPS細胞、間葉系幹細胞等の幹細胞から分化誘導させた肝細胞/腸細胞が挙げられる。肝がん由来の細胞株として、HepG2細胞やHuH-7細胞、HLE細胞、HLF細胞、及びHepaRG細胞等が挙げられる。また、ヒト大腸がん細胞株としてCaco-2、HT-29、SW 1116、T84、IEC-18、及びIEC-6細胞が挙げられる。
【0052】
本発明の細胞用培地添加剤を用いて培養を行う際は、通常の培養に用いられている容器又は装置を使用することができる。例えば、マルチウェルプレート、シャーレ、培養フラスコ、スピナーフラスコ、ジャーファーメンター、ファーメンター、ローラーボトル、ホローファイバー、マイクロキャリアーが挙げられる。
【0053】
本発明の細胞用培地添加剤を用いて培養を行う際の培養条件は、通常の動物細胞の培養条件でよく、例えば、5体積%CO雰囲気下で、温度37℃である条件とすることができる。
【0054】
発明の細胞用培地添加剤を用いて培養を行う際、培養液から細胞を採取するには、浮遊細胞の場合は、例えば、培養液を直接遠心分離機やろ過機にかけて集めることができる。接着細胞の場合は、例えば0.25%トリプシン-0.02%EDTA液を添加して細胞を浮遊させた後、遠心分離やろ過により集めることができる。
【0055】
<薬物代謝酵素>
産生される薬物代謝酵素は特に限定されず、例えば、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、モノアミンオキシダーゼ、ジアミンオキシダーゼ、エポキシドヒドラーゼ、エステラーゼ、アミダーゼ、UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、γ -グルタミルトランスペプチダーゼ、アセチルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、CYPが挙げられる。
【0056】
<薬物代謝関連分子の機能評価>
薬剤代謝関連分子の発現量又は活性測定は、当業者に公知の任意の方法を用いて行うことができる。例えば、CYPの発現量の測定は、定量的PCR法、ウエスタンブロット法、フローサイトメータ法(FACS)、ELISA法、免疫組織化学法など、周知の技術を用いて実施することができる。CYP酵素活性は、培養肝細胞にCYPの基質を添加し、当該基質がCYPによって変換される量(CYP酵素活性)を測定することによって評価することができ、その場合、例えば、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS/MS)を用いて測定することができる。また、CYP酵素活性の相対比(fold-change)を評価する場合、市販されているCYP酵素活性の測定に利用可能なキットを用いても実施可能であり、例えば、CYP3A4であれば、Promega社のP450-GloTM CYP3A4 Assay with Luciferin-IPAなどを利用することができる。測定するCYPの種類によって、公知の方法やキットを使用すればよい。
【実施例0057】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、実施例及び比較例における「部」及び「%」は「質量部」及び「質量%」を表し、molとは物質量を表し、mol%は全単量体中の物質量の割合を表す。
【0058】
<ベタインモノマーの合成>
ビニル系重合体の合成に用いたN-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタインは、特許5690645号を参考に合成した。同様に、N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-カルボベタインは特許3878315を、1-ビニル-3-(3-スルホプロピル)イミダゾリウム内部塩と2-ビニル-1-(3-スルホプロピル)ピリジニウム内部塩は特許3584998を参考に合成した。
【0059】
<ベタイン構造を有するビニル系重合体の合成>
[製造例1]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イソプロパノール150部を仕込み、内温を75℃に昇温し十分に窒素置換した。別途用意しておいた、2,2’-アゾジイソブチロニトリル10部、単量体(a1)としてN-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン100部を内温75℃に保ちながら3時間滴下を続け、さらに2時間撹拌を続けた。固形分測定によって転化率が98%を超えたことを確認後、冷却して取出した。その後、オーブンでイソプロパノールを完全に揮発させ、ビニル系重合体(A1)を得た。
【0060】
[製造例2~11、比較製造例1]
表1に示す配合組成で、製造例1と同様の方法でビニル系重合体を合成した。
【0061】
【表1】
【0062】
表1中の略称は以下の通りである。
DMBS:N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン
DMMC:N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムメチル-α-カルボベタイン
VSPI:1-ビニル-3-(3-スルホプロピル)イミダゾリウム内部塩
VSPP:2-ビニル-1-(3-スルホプロピル)ピリジニウム内部塩
BMA:ブチルメタクリレート
LMA:メタクリル酸ラウリル
St:スチレン
HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
AA:アクリル酸
【0063】
表1に記載した単量体(c)の分配係数LogPを下記に記す。LogPは、CambridgeSoft社のシステム:ChemdrawPro11.0に組み込まれたプログラムにより求めた。
BMA:LogP=2.23
LMA:LogP=5.57
St:LogP=2.67
HEA:LogP=0.48
AA:LogP=0.38
【0064】
<ベタイン構造を有するビニル系重合体(A2)の合成>
[製造例12]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イソプロパノール150部を仕込み、内温を75℃に昇温し十分に窒素置換した。別途用意しておいた、2,2’-アゾジイソブチロニトリル10部、単量体(a4)としてN-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアミン60部、単量体(c)としてブチルメタクリレート30部、2-ヒドロキシエチルアクリレート10部を混合したものを、内温を75℃に保ちながら3時間滴下を続け、さらに2時間撹拌を継続し、ビニル共重合体を得た。
固形分測定にて転化率が98%を超えたことを確認後、ベタイン化剤(D)として1,4-ブタンスルトンを47部、イオン交換水200部を加え、イソプロパノールを留去しながら更に20時間撹拌を続けた。次いで、反応物を冷却して取出し、オーブンで溶媒を完全に揮発させ、製造例12のビニル系重合体(A2)を得た。
【0065】
なお、以下の反応式に示すように、1,4-ブタンスルトンの開環反応により、単量体(a1)の一種であるN-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアンモニウムブチル-α-スルホベタイン由来の構造をビニル系重合体の側鎖に導入することができる。
【0066】
【化13】
【0067】
[製造例13~16]
表2に示す組成にて、製造例12と同様に合成を行い、製造例13~16のビニル系重合体(A2)を得た。
【0068】
【表2】
【0069】
表2中の略称は以下の通りである。
DM:N-メタクリロイルオキシエチル-N,N-ジメチルアミン
VI:1-ビニルイミダゾール
VP:2-ビニルピリジン
DEAA:ジエチルアクリルアミド
BS:1,4-ブタンスルトン
PS:1,3-プロパンスルトン
SBS:4-ブロモブタンスルホン酸ナトリウム
PL:β-プロピオラクトン
SC:クロロ酢酸ナトリウム
【0070】
表2に記載した単量体(c)の分配係数LogPを下記に記す。
DEAA:LogP=0.2
【0071】
[製造例17]
<アミンオキシド構造を有するビニル系重合体(B)の合成>
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器、滴下管を備えた反応容器に、窒素気流下、有機溶媒としてイソプロパノール150質量部を仕込み、撹拌下80℃で30分加熱した。滴下管にモノマーとしてN,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミドを80部、ブチルメタクリレートを20部、重合開始剤として2,2’-アゾジイソブチロニトリルを10部、溶媒としてイソプロパノールを10部仕込み、2時間かけて滴下した。滴下終了後6時間熟成した。その後、室温に冷却し反応を停止した。
次に、イソプロパノール150部とオキシド化剤として35%過酸化水素水を50部(用いたN,N-ジメチルアミノプロピルメタクリレートと等モル量)加え、70℃で16時間反応させることでアミノ基のオキシド化を行った。その後、ダイヤフラムポンプで溶剤を除去し、ビニル系重合体(B)を得た。
[製造例18~25]
表3に示す配合組成で、製造例17と同様の方法でビニル系重合体(B)を合成した。
【0072】
【表3】
【0073】
表3中の略称は以下の通りである。
DMAPAA: N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド
DEAEMA: N,N-ジエチルアミノエチルメタクリレート
BMA:ブチルメタクリレート
2EHA: 2-エチルヘキシルアクリレート
MMA:メチルメタクリレート
St:スチレン
AA:アクリル酸
【0074】
表2に記載した単量体(c)の分配係数LogPを下記に記す。
2EHA:LogP=3.52
【0075】
なお、25℃のイオン交換水中99g中に、製造例1~25、比較製造例1で得られたビニル系重合体を1g入れて撹拌し溶解後、25℃で24時間放置した。その結果これらの樹脂は分離、析出ともに見られず、完全に溶解可能であり、水溶性であることが示された。
【0076】
<細胞用培地添加剤の調製>
[実施例1~25、比較例1]
上記製造例1~25、比較製造例1で得られた、溶媒揮発後のビニル系重合体を、リン酸緩衝生理食塩水(以下PBS溶液)に溶かし、濃度10質量%の細胞用培地添加剤をそれぞれ得た。
【0077】
[比較例2、3]
ポリビニルアルコール (PVA)又はポリエチレングリコール(PEG)を、PBS溶液に溶解し、濃度10質量%の細胞用培地添加剤をそれぞれ得た。
【0078】
[比較例4]
リファンピシンを、20mMになるようジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、細胞用培地添加剤を得た。
【0079】
得られた細胞用培地添加剤について、以下の評価を実施した。結果を表5に示す。
以下に述べる評価は、それぞれの基礎培地に細胞用培地添加剤を所定量添加し、細胞用培地組成物(以下、培地組成物という)を調製し、最終濃度1.5質量%、及び3質量%でそれぞれ評価した。
【0080】
<細胞毒性評価>
10%FBS-DMEM培地に得られた細胞用培地添加剤を表5に記載の濃度になるように添加し、攪拌をすることで培地組成物を調製した。ヒト肝がん細胞株HuH-7細胞を10,000cells/mLとなるように、ポリマーを含む細胞用培地添加剤を添加した培地組成物を播種した後、96ウェルU底マイクロプレートのウェルに1ウェルあたり100μLになるように分注した。その後、本プレートをCO2インキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で3日間培養した。3日間培養後の肝細胞を含む培養液にWST-8試薬(株式会社同人社研究所社製)を10μL添加した後、CO2インキュベーター(37℃、5%CO)内に2時間静置した。2時間後、マイクロプレートリーダーにて450nmの吸光度を測定し、WST-8試薬を添加していない培養液の吸光度を差し引くことで細胞毒性を評価した。ポリマーを含む細胞用培地添加剤を加えないで培養した場合の成績を1とした場合の相対値で判定した。
(評価基準)
◎:1.0以上(非常に良好)
○:0.90以上~1.0未満(良好)
×:0.90未満(不良)
【0081】
<qRT-PCR法による薬剤代謝関連分子の遺伝子発現解析>
10%FBS-DMEM培地に得られた細胞用培地添加剤を表5に記載の濃度になるように添加し、攪拌をすることで培地組成物を調製した。各種培地で3日間培養したHuH-7細胞を回収し、RNeasy Micro Kit(QIAGEN製)を用いてトータルRNAを抽出した。抽出した各全RNAをReverTra Ace qPCR RT Master Mix(TOYOBO製)を用いた逆転写反応によりcDNAを合成した。cDNAと目的遺伝子のTaqMan probe及びTaqman fast advanced master mix(ThermoFisher製)を用いてqRT-PCRを実施した。発現解析に使用したTaqman probeを下記表4に示した。リファレンス遺伝子にはGAPDHを用いて、各遺伝子の相対発現量はGAPDHを基準に比較Ct法を用いて算出した。細胞用培地添加剤を加えないで培養した場合の成績を1とした場合の相対値で判定した。
(評価基準)
◎:5以上(非常に良好)
○:1.5以上5未満(良好)
△:1以上1.5未満(変化なし)
×:1未満(不良)
【0082】
【表4】
【0083】
<薬物代謝酵素活性:CYP3A4活性の評価>
10%FBS-DMEM培地に得られた細胞用培地添加剤を表5に記載の濃度になるように添加し、攪拌をすることで培地組成物を調製した。ヒト肝がん細胞株HuH-7細胞を上記の細胞用培地添加剤を添加した培地組成物で3日間、CO2インキュベーター(37℃、5%CO)内にて培養した。3日間培養後、細胞をPBSにて洗浄し、DMEM培地を入れ替えた。CYP3A4活性はP450-GloTM CYP3A4 Assay Kits(Promega製)を用い、CYP3A4の基質としてLuciferin-IPAを用いた。CYP3A4活性値はプレートリーダー(Berthold製)を用いて測定した。また、細胞群のDNA量も定量し、単位DNA量あたりのCYP活性値として算出した。樹脂微粒子を含む細胞用培地添加剤を加えないで培養した場合の成績を1とした場合の相対値で判定した。
(評価基準)
◎:5以上(非常に良好)
○:1.5以上5未満(良好)
△:1以上1.5未満(変化なし)
×:1未満(不良)
【0084】
<排泄活性:モデル薬物の代謝物の毛細胆管構造への排泄>
10%FBS-DMEM培地に得られた細胞用培地添加剤を表5に記載の濃度になるように添加し、攪拌をすることで培地組成物を調製した。ヒト肝がん細胞株HuH-7細胞を上記の細胞用培地添加剤を添加した培地組成物で3日間、CO2インキュベーター(37℃、5%CO)内にて培養した。3日間培養後、細胞をPBSにて洗浄・除去した後、モデル薬物としてFluorescein diacetate(以下、FDとする)を含む培養液を添加し、CO2インキュベーター内にて60分間培養した。FDは、そのままでは蛍光を発しないが、肝細胞内のエステラーゼ活性によりエステル結合が切れることで、Fluoresceinの緑色蛍光(励起波長:490nm、蛍光波長:514nm)が観察される。FDを含む培養液を除去後、PBSにて洗浄し、次いで、蛍光顕微鏡で観察した。
(評価基準)
◎:明確な排泄あり
○:排泄あり
×:排泄なし
【0085】
【表5】
【0086】
<結果>
表5の結果から、実施例1~25の細胞培養用培地添加剤は、細胞毒性が低く、優れた薬物代謝関連分子の発現及び活性の誘導を示すことが分かった。一方で、比較例1~4の添加剤は、細胞毒性、並びに、薬物代謝関連遺伝子の発現及び活性の誘導能いずれにおいても実施例1~25の細胞培養用添加剤に劣る結果となった。
【0087】
以上より、本発明の細胞用培地添加剤は、細胞用培地に添加し得られた培地を用いて、薬物代謝関連分子の発現を有する細胞を培養した際に、それらの活性を増強させることが可能である。また、本発明の細胞用培地添加剤により、薬物代謝関連分子の活性を高めることができるため、in vitroで医薬品候補化合物の生体内での薬効、副作用発現を精度よく予測することが可能になる。また、本発明の細胞用培地添加剤を株化細胞やiPS細胞由来肝細胞に添加することで、医薬品開発に関してロット差が小さく安定的に供給可能な細胞ソースの創出につながることも期待される。以上のことから、本発明は、医薬品開発における薬剤スクリーニングに大きく貢献することができる。