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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176114
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】陰イオン検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/10 20060101AFI20231206BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20231206BHJP
   G01N 33/18 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G01N27/10
G01N1/10 E
G01N33/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088221
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】中土 雄太
(72)【発明者】
【氏名】澤津橋 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】濱崎 彰弘
(72)【発明者】
【氏名】木戸 遥
(72)【発明者】
【氏名】岩藤 任善
【テーマコード(参考)】
2G052
2G060
【Fターム(参考)】
2G052AA06
2G052AB26
2G052AC23
2G052AD26
2G052AD46
2G052EB01
2G052EB11
2G052ED07
2G052GA23
2G052JA07
2G060AA06
2G060AC02
2G060AE17
2G060AF08
2G060FA15
2G060FB04
2G060KA06
(57)【要約】
【課題】陰イオンを効率的かつ安価に検出することが可能な陰イオン検出装置を提供する。
【解決手段】陰イオン検出装置は、複数種類のイオンを含む試料水が流通する供給管と、予熱器と、予熱された試料水をさらに加熱して分離対象となるイオンに由来する物質を含む蒸気とドレン水とに分離する加熱槽と、加熱槽からドレン水を取り出す排出管と、排出管上に設けられ、残存した分離対象となるイオンを除去するイオン交換樹脂を有するイオン交換部と、ドレン水に含まれる陰イオンの濃度を検出する濃度検出部と、を備え、加熱槽は、槽本体と、予熱された試料水が貯留される貯留部と、貯留部に設けられ、試料水を加熱して蒸気を発生させる加熱部と、蒸気を槽本体の外部に排出する排出部と、を有し、予熱器は、試料水が液相状態で、かつ試料水の蒸気圧が大気圧と等しくなる状態となるまで試料水を予熱する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類のイオンを含む試料水が流通する供給管と、
該供給管上に設けられ、前記試料水を予熱する予熱器と、
前記予熱された前記試料水をさらに加熱することで、前記複数種類の前記イオンのうち、分離対象となるイオンに由来する物質を含む蒸気とドレン水とに分離する加熱槽と、
前記加熱槽から前記ドレン水を取り出す排出管と、
前記排出管上に設けられ、前記ドレン水に残存した前記分離対象となる前記イオンを除去するイオン交換樹脂を有するイオン交換部と、
前記排出管上における前記イオン交換部の下流側に設けられ、前記ドレン水に含まれる陰イオンの濃度を検出する濃度検出部と、
を備え、
前記加熱槽は、
槽本体と、
該槽本体の上部に設けられ、前記予熱された前記試料水を供給する供給部と、
該槽本体の内部に配置された充填物と、
前記槽本体の下方に設けられ、前記予熱された試料水が貯留される貯留部と、
該貯留部に設けられ、前記試料水を加熱して蒸気を発生させる加熱部と、
前記蒸気を前記槽本体の外部に排出する排出部と、
を有し、
前記予熱器は、前記試料水が液相状態で、かつ該試料水の蒸気圧が大気圧と等しくなる状態となるまで前記試料水を予熱する陰イオン検出装置。
【請求項2】
前記槽本体の周囲を覆う補助加熱部をさらに有する請求項1に記載の陰イオン検出装置。
【請求項3】
前記槽本体の内部に設けられた内部加熱部をさらに有する請求項1又は2に記載の陰イオン検出装置。
【請求項4】
前記加熱部は、前記試料水を加熱する温度を調節可能なヒータである請求項1に記載の陰イオン検出装置。
【請求項5】
前記供給管上における前記予熱器の上流側に設けられ、前記供給管を流通する前記試料水と、前記排出管から導かれた前記ドレン水とを熱交換させることで、前記試料水を加熱する第一熱交換器をさらに備える請求項1に記載の陰イオン検出装置。
【請求項6】
前記供給管上における前記予熱器の上流側に設けられ、前記供給管を流通する前記試料水と、前記排出部から排出された前記蒸気とを熱交換させることで、前記試料水を加熱する第二熱交換器をさらに備える請求項1に記載の陰イオン検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、陰イオン検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントの水・蒸気サイクルでは、系統の機器や配管が腐食により損傷するのを防ぐために、塩化物イオンや硫酸イオンをはじめとした腐食原因となる成分が混入しないよう厳しく管理がなされている。しかしながら、復水器の冷却配管の破損による海水漏洩や、補給水製造装置の動作不良などの要因により、上記の不純物成分が水・蒸気サイクルに混入してしまう場合もある。不純物が混入した場合は、不純物による汚染範囲および腐食影響をできる限り最小限にとどめるために、系統水ブローによる不純物の系外排出、pH低下防止のための薬品添加、漏洩発生配管の施栓、プラント運転停止などの対策を早急に実施する必要がある。そのためには不純物混入を速やかに検知することが重要であり、水・蒸気サイクル中の不純物監視のために多くのプラントで酸電気伝導率の計測が行われている。
【0003】
酸電気伝導率は、水・蒸気サイクルから採取した試料水をまず陽イオン交換樹脂に通水するなどして陽イオン成分を除去した後に電気伝導率を計測する手法である。水・蒸気サイクルには、腐食抑制のためにアンモニアなどの水処理剤が添加されている。微量の不純物が混入した場合は、不純物濃度よりも水処理剤濃度の方がはるかに大きいため、不純物混入による電気伝導率の変化は水処理剤による電気伝導率に比べて非常に小さく、そのまま電気伝導率を計測しても不純物の混入を確認することはできない。そこで、水処理剤(アンモニアなど)を陽イオン交換樹脂で除去することにより、水処理剤による電気伝導率上昇をなくし、かつ、陽イオンのカウンターイオンをH+に交換して不純物濃度あたりの電気伝導率を大きくすることで、電気伝導率による高感度な不純物混入検知を可能としている。
【0004】
この種の検知方法・装置の具体例として、下記特許文献1に記載されたものが知られている。下記特許文献1には、給水および蒸気中の二酸化炭素を除去して酸電気伝導率を計測する手法として、脱ガス酸電気伝導率計が開示されている。試料の脱ガス前処理を行ってから酸電気伝導率の計測を行うことで、溶存ガスの影響なく酸電気伝導率を計測する手法である。本手法では、対象試料を加熱して二酸化炭素を脱気除去することで、二酸化炭素の影響なく酸電気伝導率が計測可能なシステムとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6108021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、近年では、給水に注入するアンモニア濃度を従来よりも高くして、腐食に対する耐性を高めたいという強い要請がある。しかしながら、従来のシステムでは、始めに樹脂でアンモニアを除去するため、給水のアンモニア濃度が高くなった場合には樹脂の破過時間が短くなり、樹脂交換頻度が増加してしまう。その結果、装置の運用コストの上昇を招く虞がある。
【0007】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、陰イオンを効率的かつ安価に検出することが可能な陰イオン検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示に係る陰イオン検出装置は、複数種類のイオンを含む試料水が流通する供給管と、該供給管上に設けられ、前記試料水を予熱する予熱器と、前記予熱された前記試料水をさらに加熱することで、前記複数種類の前記イオンのうち、分離対象となる前記イオンに由来する物質を含む蒸気とドレン水とに分離する加熱槽と、前記加熱槽から前記ドレン水を取り出す排出管と、前記排出管上に設けられ、前記ドレン水に残存した前記分離対象となる前記イオンを除去するイオン交換樹脂を有するイオン交換部と、前記排出管上における前記イオン交換部の下流側に設けられ、前記ドレン水に含まれる前記陰イオンの濃度を検出する濃度検出部と、を備え、前記加熱槽は、槽本体と、該槽本体の上部に設けられ、前記予熱された前記試料水を供給する供給部と、該槽本体の内部に配置された充填物と、前記槽本体の下方に設けられ、前記予熱された試料水が貯留される貯留部と、該貯留部に設けられ、前記試料水を加熱して蒸気を発生させる加熱部と、前記蒸気を槽本体の外部に排出する排出部と、を有し、前記予熱器は、前記試料水が液相状態で、かつ該試料水の蒸気圧が大気圧と等しくなる状態となるまで前記試料水を予熱する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、陰イオンを効率的かつ安価に検出することが可能な陰イオン検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施形態に係る陰イオン検出装置の構成を示す模式図である。
図2】本開示の実施形態に係る加熱槽の構成を示す断面図である。
図3】本開示の実施形態に係る加熱槽の第一変形例を示す断面図である。
図4】本開示の実施形態に係る加熱槽の第二変形例を示す断面図である。
図5】本開示の実施形態に係る加熱槽の第三変形例を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態に係る陰イオン検出装置1について、図1図2を参照して説明する。この陰イオン検出装置1は、蒸気タービンプラントの給水や復水、ドラム水、及び蒸気中に含まれる陰イオンの濃度を検出・測定するための装置である。蒸気タービンプラントでは、高温の蒸気を液相状態に戻すための復水器が設けられている。復水器は、海水等を冷却媒体として用いることで、当該海水と蒸気との間で熱交換をさせる熱交換器である。ここで、復水器中の冷媒配管が破損した場合には、海水等の冷媒が給水中に漏洩し、配管や各種の装置を損壊する虞がある。
【0012】
そこで、陰イオン検出装置1は、検出対象の陰イオンとしての塩化物イオン(Cl-)などの腐食原因成分を含む陰イオンを検出することを目的として用いられる。他方で、給水中には、配管の腐食防止のため、アンモニアやヒドラジン等の薬液が注入されている。陰イオン検出装置1は、これら薬液による影響を受けずに塩化物イオン等の陰イオンの濃度を検出・測定する。
【0013】
図1に示すように、陰イオン検出装置1は、供給管10と、予熱器11と、加熱槽12と、排出管13と、イオン交換部14と、濃度検出部15と、第一熱交換器16aと、第二熱交換器16bと、第一流量計17aと、第二流量計17bと、蒸気排出管18と、ポンプ19と、を備える。
【0014】
供給管10は、蒸気タービンプラントの給水や復水、ドラム水、及び蒸気中から採取された試料水が流通する配管である。供給管10は、上流側の端部である入口から加熱槽12にかけて延びている。供給管10上には、上流側から下流側に向かって順に、第一流量計17a、第一熱交換器16a、第二熱交換器16b、及び予熱器11が配置されている。
【0015】
第一流量計17aは、供給管10を流れる試料水の流量を計測し、外部に数値として送信する。詳しくは後述するが、第一熱交換器16a、及び第二熱交換器16bでは、加熱槽12から導かれた蒸気、及びドレン水と試料水との間で熱交換が行われる。これにより、試料水は加熱されて高温となる。予熱器11は、外部から供給された熱媒により、試料水をさらに加熱する。より具体的には、予熱器11は、試料水が液相状態を維持しつつ、その蒸気圧が大気圧と等しくなる状態まで試料水を加熱する。つまり、予熱器11を経た試料水は、顕熱によって沸騰した状態となっている。以下の説明では、この状態の試料水を指して、単に「予熱された試料水」と呼ぶことがある。
【0016】
次いで、加熱槽12の構成について、図2を参照して説明する。加熱槽12は、槽本体21と、供給部22と、充填物23と、貯留部24と、加熱部25と、排出部26と、を有する。
【0017】
槽本体21は、上下方向に延びる筒状をなしている。なお、ここで言う「筒状」とは、円筒状や角筒状、多角形の断面形状を有する筒形状も含むものである。槽本体21の上部には、上述した供給管10に接続された供給部22が設けられている。この供給部22を通じて、予熱された試料水が槽本体21内に流入する。
【0018】
槽本体21の内部には、充填物23が配置されている。充填物23は、槽本体21内における流体の混合を促進し、かつ接触面積を増大させるために設けられている。充填物23の具体例としては、ラシヒリングやベルルサドルと呼ばれる形状のものが挙げられる。
【0019】
槽本体21の下方には、貯留部24が設けられている。貯留部24は、供給部22を経て槽本体21内を下方へ流れてきた試料水を貯留するための容器である。貯留部24の内部には、加熱部25が設けられている。加熱部25は、予熱された試料水を加熱して、つまり潜熱を与えて蒸気を発生させる。加熱部25の一例として具体的には、加熱温度を調節することが可能な電気ヒータが好適に用いられる。その他、セラミックヒータ等も加熱部25として用いることが可能である。また、貯留部24からあふれ出た試料水は、不図示の配管を通じて外部に排出される。
【0020】
貯留部24には、排出管13が接続されている。排出管13は、この貯留部24から濃度検出部15にかけて延びている。排出管13上には、ポンプ19、第一熱交換器16a、第二流量計17b、イオン交換部14、及び濃度検出部15がこの順で配置されている。貯留部24に貯留された液相状態の試料水は、ポンプ19によって圧送されることで、第一熱交換器16aに送られる。第一熱交換器16a内では、供給管10を流れる試料水と、貯留部24から圧送された高温の試料水とが熱交換する。これにより、供給管10を流れる試料水は加熱され、排出管13を流れる試料水は冷却される。
【0021】
第二流量計17bは、排出管13を流れる試料水の流量を計測し、外部に数値として送信する。イオン交換部14は、排出管13を流れる試料水に含まれるイオンのうち、上述した薬液に由来するアンモニアイオンを含む陽イオンをイオン交換樹脂によって試料水中から除去する。つまり、イオン交換部14を経た試料水中には、検出対象の一つである不揮発性の陰イオン(一例として塩化物イオン)のみが実質的に含まれている状態となる。この濃度検出部15は、塩化物イオンを含む不揮発性の陰イオンの濃度を検出・測定し、外部に数値として送信する。濃度検出部15は、具体的には電気伝導率計である。試料水中の陰イオンの濃度に基づいて電気伝導率は変化するため、濃度検出部15は、電気伝導率を計測することで、最終的に陰イオンの濃度を取得することが可能とされている。
【0022】
槽本体21の上部には排出部26が設けられている。加熱部25によって加熱されることで発生した蒸気は、槽本体21の上部に設けられた排出部26から排出される。図1に示すように、排出部26と第二熱交換器16bとの間には、蒸気排出管18が延びている。排出部26から排出された蒸気は、蒸気排出管18を通じて第二熱交換器16bに流れ込む。第二熱交換器16b内では、この蒸気と、供給管10中を流れる試料水との間で熱交換が行われる。これにより、試料水は加熱され、蒸気は液相状態、又は気液混相状態となって外部に排出される。
【0023】
(作用効果)
続いて、陰イオン検出装置1の動作について説明する。陰イオン検出装置1を動作させるに当たっては、まず供給管10に試料水を流通させる。このとき、試料水には、検出対象としての塩化物イオンに加えて、薬液に由来するアンモニアイオン、及び大気中の二酸化炭素に由来する炭酸イオンが含まれていると仮定する。供給管10を流通する中途で、試料水は第一熱交換器16a、第二熱交換器16b、及び予熱器11を経ることで、上述したように、その全体又は大部分は、液相状態を維持しつつ、その蒸気圧が大気圧と等しくなる状態となる。
【0024】
この予熱された試料水は、供給部22を経て加熱槽12に流入する。加熱槽12の槽本体21内では、充填物23同士の間の隙間を通り抜けて、試料水が下方の貯留部24へと流れる。貯留部24に到達した試料水は、加熱部25によって加熱されて(潜熱を与えられて)、蒸気となる。この時、蒸気には、アンモニア、及び二酸化炭素が含まれていないか、又はごく低い濃度のみ含まれている状態となる。
【0025】
この蒸気は、槽本体21内を上方へ向かって流れる。その中途で、上方から流れ込む液相状態の試料水と接触する。このとき、二重境膜説に基づいて、液相状態の試料水に含まれるアンモニアイオン、及び炭酸イオンが、蒸気に移動する。つまり、液相状態の試料水は、下方に流れるにつれて、互いに対向する方向から蒸気に長時間接触するため、当該試料水に含まれるアンモニアイオン、及び炭酸イオンの濃度が下方へ向かうにつれて低くなる。このサイクルが繰り返されることで定常状態となる。定常状態では、貯留部24に貯留されている液相状態の試料水(ドレン水)には、極微量のアンモニアイオンのみが含まれた状態となる。
【0026】
このドレン水は、排出管13を通じて第一熱交換器16a、及び第二流量計17bに通過した後、イオン交換部14に流れ込む。このイオン交換部14では、イオン交換樹脂の作用によって、ドレン水に含まれるアンモニアイオンが除去される。つまり、イオン交換部14を通過したドレン水には、検出対象である塩化物イオンを含む不揮発性の陰イオンのみが含まれている状態となる。その後、このドレン水における不揮発性の陰イオン濃度が、濃度検出部15としての電気伝導率計によって検出・計測される。
【0027】
一方で、槽本体21内を上方へ流れる中途で予熱された試料水に接触した蒸気には、アンモニア、及び二酸化炭素が含まれた状態となる。この蒸気は、蒸気排出管18を通じて第二熱交換器16bに送られた後、液相状態、又は気液混相状態となって外部に排出される。
【0028】
以上、説明したように、上記構成によれば、予熱器11による予熱を経て、試料水の全体又は大部分は液相状態を維持しつつ、その蒸気圧が大気圧と等しい状態となる。その後、充填物23の隙間を通じて槽本体21内を下方に移動した試料水は、貯留部24で加熱部25に接触して蒸気、つまり気相状態となる。このとき、当該蒸気に含まれるアンモニア、及び二酸化炭素の濃度は、貯留部24に貯留されている液相状態の試料水(ドレン水)に含まれるアンモニア、及び二酸化炭素の濃度よりも低くなる。この蒸気が槽本体21内を上方へ移動する際に、上方から流れて来る新たな試料水に接触する。このとき、両者のアンモニア、及び二酸化炭素の濃度差に基づいて、液相状態の試料水から気相状態(蒸気)の試料水に向かってアンモニア、及び二酸化炭素が移動する。つまり、液相状態の試料水に含まれるアンモニア、及び二酸化炭素の濃度が下方へ向かうにつれて低くなる。特に、上記のように試料水と蒸気とが互いに対向する方向から接触するため、槽本体21内における上下方向で、試料水と蒸気との間のアンモニア、及び二酸化炭素の濃度差を大きく保つことができる。このため、二重境膜説に基づくイオンの移動を促進することが可能となる。
【0029】
このサイクルが連続的に生じることで、貯留部24に貯留されたドレン水のアンモニア、及び二酸化炭素の濃度が低い状態で維持される。その後、イオン交換部14によって、ドレン水に含まれる分離対象となるアンモニアが除去される。続いて、濃度検出部15では、検出対象となる不揮発性の陰イオン(一例として塩化物イオン)の濃度が検出される。このように、分離対象となるアンモニア、及び二酸化炭素を予め除去した上で、検出対象となる不揮発性の陰イオンの濃度のみを正確に計測することが可能となる。その結果、例えば蒸気タービンプラントを運用するに際して、給水中に海水等の異物が混入していないかどうかを即時かつ正確に検知することができる。したがって、蒸気タービンプラントをさらに安定的、かつ円滑に運用することが可能となる。
【0030】
特に、加熱槽12による処理を経ることで、イオン交換部14に流れ込むドレン水に含まれるアンモニアイオンの濃度は予め低い状態となっている。このため、イオン交換部14のイオン交換樹脂に対する負荷を減らすことができる。したがって、イオン交換樹脂が破過するまでの時間を長く確保でき、より長期にわたって安定的に処理を行うことができる。その結果、装置の運用コストを大幅に削減することが可能となる。
【0031】
さらに、上記構成によれば、加熱部25として、加熱温度を調節することが可能なヒータ(電気ヒータ)が用いられることから、貯留されたドレン水から発生する蒸気の量を精緻にコントロールすることが可能となる。これにより、蒸気の発生量を常時適正な状態とすることができる。ここで、過剰な蒸気が発生した場合、試料水が逆流するフラッディングが発生し、正常な計測が行えなくなる可能性がある。しかしながら、上記の構成を用いることでフラッディングを回避することが可能となる。
【0032】
また、上記構成によれば、供給管10上の試料水が第一熱交換器16aを経ることで、ドレン水の熱を当該試料水に伝達することができる。これにより、試料水は予熱器11による予熱に先立って加熱された状態となる。その結果、予熱器11に要求される出力が下がる。つまり、予熱器11の性能要件を緩和することができる。これにより、装置の製造コストや運用コストを削減することが可能となる。
【0033】
さらに、上記構成によれば、第一熱交換器16aに加えて、第二熱交換器16bを経ることで、予熱器11による予熱に先立って、供給管10を流れる試料水の温度をさらに上げることが可能となる。これにより、予熱器11に要求される出力がさらに下がるため、装置の製造コストや運用コストをより一層削減することが可能となる。
【0034】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0035】
例えば、第一変形例として図3に示すように、槽本体21の外周側に当該槽本体21を覆う補助加熱部27としてのヒータを設けてもよい。この構成によれば、補助加熱部27が槽本体21の周囲を覆っていることから、当該槽本体21内を下方へ向かって移動する液相状態の試料水の温度を高い状態、つまり予熱された直後の状態で維持することができる。これにより、上述した濃度平衡に基づく、液相状態の試料水から蒸気へのアンモニア、及び二酸化炭素陰イオンの移動を継続的に維持することが可能となる。
【0036】
さらに、第二変形例として図4に示すように、槽本体21の内部に充填物23を貫通するようにして延びる内部加熱部28としてのヒータを設けてもよい。この構成によれば、槽本体21内に内部加熱部28が設けられていることから、当該槽本体21内を下方へ向かって移動する液相状態の試料水の温度をさらに安定的に高い状態で維持することができる。
【0037】
また、第三変形例として図5に示すように、槽本体21内における供給部22の下方に、試料水の流れ方向を分散させるための複数の邪魔板29を設けてもよい。この構成によれば、槽本体21内におけるより広い範囲にかけて試料水を行き渡らせることができる。したがって、短い時間でより多くの試料水を処理できることから、さらに効率的に装置を運用することが可能となる。
【0038】
<付記>
各実施形態に記載の陰イオン検出装置1は、例えば以下のように把握される。
【0039】
(1)第1の態様に係る陰イオン検出装置1は、複数種類のイオンを含む試料水が流通する供給管10と、該供給管10上に設けられ、前記試料水を予熱する予熱器11と、前記予熱された前記試料水をさらに加熱することで、前記複数種類の前記イオンのうち、分離対象となる前記イオンに由来する物質を含む蒸気とドレン水とに分離する加熱槽12と、前記加熱槽12から前記ドレン水を取り出す排出管13と、前記排出管13上に設けられ、前記ドレン水に残存した前記分離対象となる前記イオンを除去するイオン交換樹脂を有するイオン交換部14と、前記排出管13上における前記イオン交換部14の下流側に設けられ、前記ドレン水に含まれる陰イオンの濃度を検出する濃度検出部15と、を備え、前記加熱槽12は、槽本体21と、該槽本体21の上部に設けられ、前記予熱された前記試料水を供給する供給部22と、該槽本体21の内部に配置された充填物23と、前記槽本体21の下方に設けられ、前記予熱された試料水が貯留される貯留部24と、該貯留部24に設けられ、前記試料水を加熱して蒸気を発生させる加熱部25と、前記蒸気を前記槽本体21の外部に排出する排出部26と、を有し、前記予熱器11は、前記試料水が液相状態で、かつ該試料水の蒸気圧が大気圧と等しくなる状態となるまで前記試料水を予熱する。
【0040】
上記構成によれば、予熱器11による予熱を経て、試料水は液相状態を維持しつつ、その蒸気圧が大気圧と等しい状態となる。その後、充填物23の隙間を通じて槽本体21内を下方に移動した試料水は、貯留部24で加熱部25に接触して蒸気、つまり気相状態となる。このとき、当該蒸気に含まれる陰イオンの濃度は、貯留部24に貯留されている液相状態の試料水(ドレン水)に含まれる陰イオンの濃度よりも低くなる。この蒸気が槽本体21内を上方へ移動する際に、上方から流れて来る新たな試料水に接触する。このとき、両者の陰イオンの濃度差に基づいて、液相状態の試料水から気相状態(蒸気)の試料水に向かって陰イオンが移動する。つまり、液相状態の試料水に含まれる陰イオンの濃度が下方へ向かうにつれて低くなる。このサイクルが連続的に生じることで、貯留部24に貯留されたドレン水の陰イオン濃度が低い状態で維持される。その後、イオン交換部14によって、ドレン水に含まれる分離対象となる陰イオンが除去される。続いて、濃度検出部15では、検出対象となる陰イオンの濃度が検出される。このように、分離対象となる陰イオンを予め除去した上で、検出対象となる陰イオンの濃度のみを正確に計測することが可能となる。
【0041】
(2)第2の態様に係る陰イオン検出装置1は、(1)の陰イオン検出装置1であって、前記槽本体21の周囲を覆う補助加熱部27をさらに有する。
【0042】
上記構成によれば、補助加熱部27が槽本体21の周囲を覆っていることから、当該槽本体21内を下方へ向かって移動する液相状態の試料水の温度を高い状態で維持することができる。これにより、上述した濃度平衡に基づく、液相状態の試料水から蒸気への陰イオンの移動を継続的に維持することが可能となる。
【0043】
(3)第3の態様に係る陰イオン検出装置1は、(1)又は(2)の陰イオン検出装置1であって、前記槽本体21の内部に設けられた内部加熱部28をさらに有する。
【0044】
上記構成によれば、槽本体21内に内部加熱部28が設けられていることから、当該槽本体21内を下方へ向かって移動する液相状態の試料水の温度をさらに安定的に高い状態で維持することができる。
【0045】
(4)第4の態様に係る陰イオン検出装置1は、(1)から(3)のいずれか一態様に係る陰イオン検出装置1であって、前記加熱部25は、前記試料水を加熱する温度を調節可能なヒータである。
【0046】
上記構成によれば、加熱部25として、加熱温度を調節することが可能なヒータが用いられることから、貯留されたドレン水から発生する蒸気の量を精緻にコントロールすることが可能となる。これにより、蒸気の流量が試料水の流量を上回ることで発生するフラッディングを回避することができる。
【0047】
(5)第5の態様に係る陰イオン検出装置1は、(1)から(4)のいずれか一態様に係る陰イオン検出装置1であって、前記供給管10上における前記予熱器11の上流側に設けられ、前記供給管10を流通する前記試料水と、前記排出管13から導かれた前記ドレン水とを熱交換させることで、前記試料水を加熱する第一熱交換器16aをさらに備える。
【0048】
上記構成によれば、第一熱交換器16aを経ることで、ドレン水の熱を試料水に伝達することができる。これにより、試料水は予熱器11による予熱に先立って加熱された状態となる。その結果、予熱器11に要求される出力が下がるため、装置の製造コストや運用コストを削減することが可能となる。
【0049】
(6)第6の態様に係る陰イオン検出装置1は、(1)から(5)のいずれか一態様に係る陰イオン検出装置1であって、前記供給管10上における前記予熱器11の上流側に設けられ、前記供給管10を流通する前記試料水と、前記排出部26から排出された前記蒸気とを熱交換させることで、前記試料水を加熱する第二熱交換器16bをさらに備える。
【0050】
上記構成によれば、第二熱交換器16bを経ることで、予熱器11による予熱に先立って、試料水の温度をさらに上げることが可能となる。これにより予熱器11に要求される出力がさらに下がるため、装置の製造コストや運用コストをより一層削減することが可能となる。
【符号の説明】
【0051】
1…陰イオン検出装置
10…供給管
11…予熱器
12…加熱槽
13…排出管
14…イオン交換部
15…濃度検出部
16a…第一熱交換器
16b…第二熱交換器
17a…第一流量計
17b…第二流量計
18…蒸気排出管
19…ポンプ
21…槽本体
22…供給部
23…充填物
24…貯留部
25…加熱部
26…排出部
27…補助加熱部
28…内部加熱部
29…邪魔板
図1
図2
図3
図4
図5