(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176122
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】歯周病菌プロテアーゼ活性を測定する方法及びその利用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/37 20060101AFI20231206BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20231206BHJP
C12N 9/99 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
C12Q1/37
C12N1/20 A
C12N9/99
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088233
(22)【出願日】2022-05-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-06-26
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】浦川 李花
(72)【発明者】
【氏名】有田 卓矢
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ06
4B063QQ36
4B063QR41
4B063QR48
4B063QX01
4B065AA01X
4B065AC14
4B065CA27
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】歯周病菌プロテアーゼ活性を簡便に評価する方法の提供。
【解決手段】(A)被験物質、及び歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、並びに(B)前記コラーゲン含有固形物の分解の程度を評価する工程を含む、前記被験物質の、歯周病菌プロテアーゼ阻害能を測定する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)被験物質、及び歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、並びに
(B)前記コラーゲン含有固形物の分解の程度を評価する工程を含む、
前記被験物質の、プロテアーゼ活性阻害能を測定する方法。
【請求項2】
(A-1)被験物質とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、
(A-2)歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、並びに
(B)被験物質、及び歯周病菌培養液若しくは培養上清と接触したコラーゲン含有固形物の分解の程度を評価する工程を含む、
前記被験物質の、プロテアーゼ活性阻害能を測定する方法。
【請求項3】
前記歯周病菌培養液若しくは培養上清が、歯周病菌プロテアーゼを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記歯周病菌プロテアーゼが、ジンジパインを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記歯周病菌がPorphyromonas gingivalisである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記コラーゲン含有固形物が、I型コラーゲン含有固形物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
(A)被験物質、及び歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、並びに
(B)前記コラーゲン含有固形物の分解の程度を評価する工程を含む、
プロテアーゼ活性阻害能を有する物質をスクリーニングする方法。
【請求項8】
(A-1)被験物質とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、
(A-2)歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、並びに
(B)被験物質、及び歯周病菌培養液若しくは培養上清と接触したコラーゲン含有固形物の分解の程度を評価する工程を含む、
プロテアーゼ活性阻害能を有する物質をスクリーニングする方法。
【請求項9】
前記歯周病菌培養液若しくは培養上清が、歯周病菌プロテアーゼを含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記歯周病菌プロテアーゼが、ジンジパインを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記歯周病菌がPorphyromonas gingivalisである、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項12】
前記コラーゲン含有固形物が、I型コラーゲン含有固形物である、請求項7又は8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯周病菌プロテアーゼ活性を測定する方法及びその利用等に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は細菌(歯周病菌)の感染によって引き起こされる炎症性疾患である。Porphyromonas gingivalis(P.gingivalis)は、強力な歯周病原性を有する歯周病菌である。P.gingivalisの産生する代表的な病原性因子として、ジンジパインが知られている。ジンジパインはプロテアーゼの1種で、ペプチド切断部位特異性の異なるLys-ジンジパイン(Kgp)とArg-ジンジパイン(Rgp)とが存在し、菌体膜上及び菌体外に分泌される。これらは相互に作用しながら歯肉上皮細胞間の結合の破壊性や上皮細胞そのものに対する傷害及び/又は増殖阻害、ひいては上皮バリアの破壊及び修復阻害を引き起こすことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-31399号公報
【特許文献2】特許第6921655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでにP.gingivalisが産生するジンジパインの活性を阻害する素材の探索が行われている(特許文献1及び2)。特許文献1では、特定の蛍光マーカーを基質ペプチドに付加させ、基質分解の際に分離する蛍光を測定する方法が用いられている。しかし、この評価方法は、蛍光測定時、素材の自家蛍光の影響を受けることや、測定された蛍光値と組織破壊性・傷害性への相関が分かりにくいこと、視覚的にジンジパイン活性を評価できないこと等の課題があった。また、特許文献2では、P.gingivalisを10000Gで10分間遠心、洗浄し、緩衝液に懸濁したものを用いていることから、菌体そのものの影響しか評価できない(菌体の分泌物等については評価できない)ため、P.gingivalisが産生するジンジパインを含むプロテアーゼの活性を正確に評価できないこと等が欠点であった。
【0005】
今回、本発明者らは、ジンジパイン活性を簡便かつ視覚的に評価する方法について、検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、歯周病菌培養液若しくは培養上清及びコラーゲン含有固形物を用いることによって、歯周病菌が産生するプロテアーゼの活性評価及び阻害能を簡便に測定し得ることを見出し、さらに改良を重ねた。
【0007】
本開示は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
(A)被験物質、及び歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、並びに
(B)前記コラーゲン含有固形物の分解の程度を評価する工程を含む、
前記被験物質の、プロテアーゼ活性阻害能を測定する方法。
項2.
(A-1)被験物質とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、
(A-2)歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、並びに
(B)被験物質、及び歯周病菌培養液若しくは培養上清と接触したコラーゲン含有固形物の分解の程度を評価する工程を含む、
前記被験物質の、プロテアーゼ活性阻害能を測定する方法。
項3.
前記歯周病菌培養液若しくは培養上清が、歯周病菌プロテアーゼを含む、項1又は2に記載の方法。
項4.
前記歯周病菌プロテアーゼが、ジンジパインを含む、項3に記載の方法。
項5.
前記歯周病菌がPorphyromonas gingivalisである、項1~4のいずれか1項に記載の方法。
項6.
前記コラーゲン含有固形物が、I型コラーゲン含有固形物である、項1~5のいずれか1項に記載の方法。
項7.
(A)被験物質、及び歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、並びに
(B)前記コラーゲン含有固形物の分解の程度を評価する工程を含む、
プロテアーゼ活性阻害能を有する物質をスクリーニングする方法。
項8.
(A-1)被験物質とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、
(A-2)歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、並びに
(B)被験物質、及び歯周病菌培養液若しくは培養上清と接触したコラーゲン含有固形物の分解の程度を評価する工程を含む、
プロテアーゼ活性阻害能を有する物質をスクリーニングする方法。
項9.
前記歯周病菌培養液若しくは培養上清が、歯周病菌プロテアーゼを含む、項7又は8に記載の方法。
項10.
前記歯周病菌プロテアーゼが、ジンジパインを含む、項9に記載の方法。
項11.
前記歯周病菌がPorphyromonas gingivalisである、項7~10のいずれか1項に記載の方法。
項12.
前記コラーゲン含有固形物が、I型コラーゲン含有固形物である、項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
コラーゲン含有固形物を用いて歯周病菌が産生するプロテアーゼ活性を簡便に測定する方法が提供される。また、コラーゲン含有固形物を用いて歯周病菌が産生するプロテアーゼ阻害能を有する物質を簡便にスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】Porphyromonas gingivalis W83株(P.g)菌体をPBSで懸濁して用いた場合の、コラーゲンディスクの顕微鏡画像を示す。
【
図2】P.g培養液を用いた場合の、コラーゲンディスクの顕微鏡画像を示す。
【
図3】P.g培養上清を用いた場合の、コラーゲンディスクの顕微鏡画像を示す。
【
図4】P.g菌体をPBSで懸濁して用いた場合の、コラーゲンディスクの顕微鏡画像を示す。
【
図5】P.g培養液を用いた場合の、コラーゲンディスクの顕微鏡画像を示す。
【
図6】P.g培養上清を用いた場合の、コラーゲンディスクの顕微鏡画像を示す。
【
図7】P.g菌体を新鮮な培養培地で懸濁して用いた場合の、コラーゲンディスクの顕微鏡画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。
本開示は、(A)被験物質、及び歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、並びに(B)前記コラーゲン含有固形物の分解の程度を評価する工程を含む、前記被験物質の、プロテアーゼ阻害能を測定する方法を包含する。本明細書において、当該方法を、「本開示の測定方法」と表記することがある。また、前記(A)及び(B)の各工程を「(A)工程」、「(B)工程」等と表記することがある。
また、「本開示の測定方法」は、(A-1)被験物質とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、(A-2)歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、並びに(B)被験物質、及び歯周病菌培養液若しくは培養上清と接触したコラーゲン含有固形物の分解の程度を評価する工程を含む、前記被験物質の、プロテアーゼ阻害能を測定する方法をも包含する。また、前記(A-1)、(A-2)及び(B)の各工程を「(A-1)工程」、「(A-2)工程」、「(B)工程」等と表記することがある。
【0011】
歯周病菌としては、特に限定されず、例えば、コラーゲンを分解し得るプロテアーゼを産生する歯周病菌等が挙げられる。より具体的には、Porphyromonas gingivalis(P.gingivalis)、Treponema denticola、Tannerella forsythia等が例示される。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、P.gingivalisが好ましい。
【0012】
歯周病菌培養液としては、例えば、歯周病菌を培養した培養液、歯周病菌(例えば、培養した歯周病菌等)を歯周病菌が生育可能な培地等に懸濁した水溶液等が挙げられる。本明細書において、「歯周病菌培養液」には、例えば、歯周病菌体、歯周病菌の分泌物(例えば、歯周病菌が産生するプロテアーゼ等)、又は培地成分等が含まれる。培地成分としては、特に限定されず、例えば、歯周病菌の培養に一般的に用いられる成分等が挙げられる。
【0013】
歯周病菌培養上清としては、歯周病菌を培養した培養液から得られる上清であれば特に限定されない。なお、本明細書において、「歯周病菌培養上清」には、例えば、歯周病菌の分泌物(例えば、歯周病菌が産生するプロテアーゼ等)及び培地成分等が含まれ、歯周病菌体そのものは含まれない。
培養上清の回収方法は、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法および条件を採用することができる。例えば、遠心分離法等が挙げられる。
【0014】
歯周病菌の培養方法としては、歯周病菌が増殖する限り、特に限定されない。
培養温度としては、例えば、25~40℃程度、又は30~40℃程度、好ましくは35~39℃等とすることができる。
培養期間としては、例えば、12時間~36時間程度、又は20~30時間程度等とすることができる。
培養に用いる培地としては、例えば、変法GAM培地(0.5質量%ペプトン、0.3質量%ダイズペプトン、0.5質量%プロテオーゼペプトン、1.0質量%消化血清末、0.25質量%酵母エキス、0.22質量%肉エキス、0.12質量%肝臓エキス、0.05質量%ブドウ糖、0.5質量%溶性デンプン、0.02質量%L-トリプトファン、0.03g質量%L-システイン塩酸塩、0.03g質量%チオグリコール酸ナトリウム、0.1g質量%L-アルギニン、0.0005質量%ビタミンK1、0.001質量%ヘミン、0.25質量%リン酸二水素カリウム、及び0.3質量%塩化ナトリウム含有、pH7.3)、0.0001%メナジオンと、0.0005%ヘミンとを添加したトリプチックソイ培地(1.7質量%カゼイン製ペプトン、0.3質量%ダイズ製ペプトン、0.5%質量%塩化カリウム、0.25質量%リン酸水素二カリウム、及び0.25質量%ブドウ糖含有、pH7.3)等が挙げられる。
培養は、静置条件下で行われてもよく、振盪等が行われてもよい。また、培養は嫌気条件下で行われることが好ましい。
【0015】
前記歯周病菌培養液及び培養上清は、歯周病菌プロテアーゼ(歯周病菌が産生したプロテアーゼ)を含んでいることが好ましい。
【0016】
歯周病菌プロテアーゼとしては、例えば、ジンジパイン(Lys-ジンジパイン(Kgp)及び/又はArg-ジンジパイン(Rgp))、Treponema denticolaが産出するデンティリジン、Tannerella forsythiaが産出するTrypsin様ペプチダーゼ等が挙げられる。これらは、1種単独であってもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。中でも、ジンジパインが好ましい。
【0017】
コラーゲン含有固形物としては、コラーゲンを含む固形物である限り、特に限定されない。例えば、固形物の形状としては、ディスク状、ブロック状、シート状、粉末状、ゲル状等が挙げられる。
また、コラーゲン含有固形物は、例えば、コラーゲン含有乾燥固形物等であってもよい。
また、コラーゲン含有固形物は、例えば、コラーゲンにより形成されるポア(孔)構造(例えば、ハニカム構造等)等を有していてもよい。
【0018】
コラーゲン含有固形物に含まれるコラーゲンとしては、例えば、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、V型コラーゲン等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、I型コラーゲンが好ましい。
【0019】
コラーゲン含有固形物は、コラーゲンを主成分として含有することが好ましい。
コラーゲン含有固形物中、コラーゲンの含有量は、特に限定されないが、例えば、1.5質量%以上であることが好ましい。当該範囲の上限又は下限は、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、96、97、98、99、又は100質量%程度であってもよい。より具体的には、60~100質量%程度等であってもよい。
【0020】
コラーゲン含有固形物は、コラーゲンを含み、さらに他の成分を含んでいてもよい。当該他の成分としては、基剤、担体、溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、界面活性剤、抗酸化剤、保存剤、コーティング剤、着色料、pH調整剤等が例示される。これらの成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
被験物質としては、特に制限されず、例えば、化合物、組成物等であり得る。化合物としては、例えば低分子化合物や、核酸(例えばDNA、RNA等)やタンパク質(例えば抗体又はその一部等)、ポリマー等の高分子化合物であってよい。組成物としても、生物(例えば動物、植物、微生物等)から得た抽出物等であってもよく、化合物を2種以上組み合わせたものであってもよい。
【0022】
(A)被験物質、及び歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する工程とは、換言すれば、被験物質及び歯周病菌培養液若しくは培養上清を同時にコラーゲン含有固形物と接触する工程(接触時に被験物質及び歯周病菌培養液若しくは培養上清を予め混合した後にコラーゲン含有固形物と接触する工程を含む)を意味する。
被験物質及び歯周病菌培養液若しくは培養上清を予め混合する場合、被験物質と歯周病菌培養液若しくは培養上清との接触時間としては、例えば、10秒~7日程度又は3分~1日程度等とすることができる。
被験物質及び歯周病菌培養液若しくは培養上清を予め混合する場合、接触方法としては、特に限定されない。例えば、被験物質を含む水溶液に歯周病菌培養液若しくは培養上清を添加する方法、歯周病菌培養液若しくは培養上清を含む水溶液に被験物質を添加する方法等が挙げられる。また、接触は、嫌気条件下で行われることが好ましい。
被験物質及び歯周病菌培養液若しくは培養上清を予め混合する場合、接触時の温度としては、特に限定されない。例えば、25~40℃程度、又は30~40℃程度、好ましくは35から39℃等とすることができる。
【0023】
(A-1)被験物質とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、及び(A-2)歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する工程の順序は特に限定されない。つまり、本開示の測定方法は、(A-1)被験物質とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、及び(A-2)歯周病菌培養液若しくは培養上清と、被験物質と接触したコラーゲン含有固形物とを接触する工程を含んでいてもよく、(A-2)歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、及び(A-1)被験物質と、歯周病菌培養液若しくは培養上清と接触したコラーゲン含有固形物とを接触する工程を含んでいてもよい。
【0024】
被験物質とコラーゲン含有固形物とを接触した後、歯周病菌培養液若しくは培養上清と、被験物質と接触したコラーゲン含有固形物とを接触するまでの期間、又は歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触した後、被験物質と、歯周病菌培養液若しくは培養上清と接触したコラーゲン含有固形物とを接触するまでの期間は、特に限定されず、例えば、10秒~10日程度、より具体的には30秒~1日程度とすることができる。
【0025】
本開示の測定方法は、例えば、(A-1)工程と(A-2)工程の間に、洗浄工程を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0026】
接触方法(被験物質及び/又は歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物との接触方法)としては、特に限定されない。例えば、被験物質及び/又は歯周病菌培養液若しくは培養上清を含む水溶液にコラーゲン含有固形物を浸漬する方法、被験物質及び/又は歯周病菌培養液若しくは培養上清を含む水溶液をコラーゲン含有固形物に添加する方法等が挙げられる。また、接触は、嫌気条件下で行われることが好ましい。
【0027】
接触時(被験物質及び/又は歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物との接触時)の温度としては、特に限定されない。例えば、25~40℃程度、又は30~40℃程度、好ましくは35~39℃等とすることができる。
【0028】
接触時間(被験物質及び/又は歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物との接触時間)としては、特に限定されない。例えば、1日~14日程度、又は1~8日程度等とすることができる。
【0029】
歯周病菌培養液とコラーゲン含有固形物との接触時における歯周病菌培養液の吸光度(O.D600)としては、例えば、0.3~5.0程度等であってもよい。当該範囲の上限又は下限は、例えば、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、又は4.5程度であってもよい。より具体的には、0.4~4.0程度等であってもよく、0.5~3.0程度等であってもよい。
歯周病菌培養上清とコラーゲン含有固形物との接触時における歯周病菌培養上清は、例えば、吸光度(O.D600)が0.3~5.0程度等の歯周病菌培養液から得られる上清であってもよい。当該範囲の上限又は下限は、例えば、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、又は4.5程度であってもよい。より具体的には、0.5~4.0程度等の歯周病菌培養液から得られる上清であってもよく、0.5~3.0程度等の歯周病菌培養液から得られる上清であってもよい。
【0030】
(B)コラーゲン含有固形物の分解の程度を評価する方法としては、特に限定されない。例えば、目視によりコラーゲン含有固形物の大きさを確認する方法、顕微鏡観察等によりコラーゲン含有固形物の構造の変化を確認する方法、コラーゲン染色により定量する方法等が挙げられる。
【0031】
本開示の測定方法によれば、被験物質のプロテアーゼ活性阻害能(より具体的には、歯周病菌が産生するプロテアーゼによるコラーゲンを含むタンパク質分解に対する阻害能)を測定することができる。
例えば、本開示の測定方法が、歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触した後に、被験物質と当該コラーゲン含有固形物とを接触し、コラーゲン含有固形物の分解の程度が抑制された場合、当該被験物質は、歯周病菌が産生するプロテアーゼによるコラーゲンを含むタンパク質分解の進行を抑制することが期待される。
例えば、本開示の測定方法が、被験物質及び歯周病菌培養液若しくは培養上清を同時にコラーゲン含有固形物と接触し、コラーゲン含有固形物の分解の程度が抑制された場合、当該被験物質は、歯周病菌が産生するプロテアーゼによるコラーゲンを含むタンパク質分解を予防することが期待される。
例えば、本開示の測定方法が、歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する前に、被験物質とコラーゲン含有固形物とを接触し、コラーゲン含有固形物の分解の程度が抑制された場合、当該被験物質は、歯周組織破壊の早期段階において歯周病菌が産生するプロテアーゼによるコラーゲンを含むタンパク質分解を予防することが期待される。
【0032】
また、本開示は、(A)被験物質、及び歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、並びに(B)前記コラーゲン含有固形物の分解の程度を評価する工程を含む、プロテアーゼ阻害能を有する物質をスクリーニングする方法をも包含する。本明細書において、当該方法を、「本開示のスクリーニング方法」と表記することがある。また、前記(A)及び(B)の各工程を「(A)工程」、「(B)工程」等と表記することがある。
また、「本開示のスクリーニング方法」は、(A-1)被験物質とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、(A-2)歯周病菌培養液若しくは培養上清とコラーゲン含有固形物とを接触する工程、並びに(B)被験物質、及び歯周病菌培養液若しくは培養上清と接触したコラーゲン含有固形物の分解の程度を評価する工程を含む、プロテアーゼ阻害能を有する物質をスクリーニングする方法をも包含する。また、前記(A-1)、(A-2)及び(B)の各工程を「(A-1)工程」、「(A-2)工程」、「(B)工程」等と表記することがある。
【0033】
本開示のスクリーニング方法における(A)工程、(A-1)工程、(A-2)工程、及び(B)工程については、上述した本開示の測定方法における(A)工程、(A-1)工程、(A-2)工程、及び(B)工程についての記載を援用することができる。
【0034】
本開示のスクリーニング方法によれば、プロテアーゼ阻害能(より具体的には、歯周病菌が産生するプロテアーゼによるコラーゲンを含むタンパク質分解に対する阻害能)を有する被験物質をスクリーニングすることができる。
【0035】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件の任意の組み合わせを全て包含する。
【0036】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0037】
本開示の内容を以下の実験例を用いて具体的に説明する。しかし、本開示はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また特に言及する場合を除いて、「%」は「質量%」を意味する。
【0038】
<Porphyromonas gingivalisの培養>
106個/mLのPorphyromonas gingivalis W83株(以下、「P.g」と表記することがある。)を解凍し、10mL変法GAM培地を含む試験管に播種した。その後、試験管を37℃嫌気条件下で1日培養し、前培養とした。前培養で得られた菌液1mLを新しい10mL変法GAM培地を含む試験管に移し、37℃嫌気条件下で1日培養し、本培養とした。本培養で得られたP.gを変法GAM培地にてO.D600=0.5、1.0、2.0、3.0の各濃度に調整し、培養液とした。培養液を5000Gで5分間遠心分離することで、培養上清及び菌体を得た。なお、菌体はPBSで懸濁して試験に用いた。
【0039】
<素材の調整>
供試素材としては、銅クロロフィリンナトリウム(銅クロ)、KYT-1(Rgp阻害剤(ペプチド研究所))、及びKYT-36(Kgp阻害剤(ペプチド研究所))を用いた。各素材とも培養液、培養上清、又は菌体を溶媒とし、銅クロは0.05%、Rgp阻害剤及びKgp阻害剤は混合してそれぞれ終濃度10μMに調整した(阻害剤Mix)。なお、ジンジパインには基質特異性の異なるRgp及びKgpの2つが存在しており、Rgp阻害剤及びKgp阻害剤は、それぞれの阻害剤である。また、銅クロロフィリンナトリウムには、Rgp及びKgpに対する阻害効果が報告されている(特許文献1)。
【0040】
<ジンジパインによるコラーゲンディスク分解>
調製したP.g(素材を含む若しくは含まない、培養液、培養上清、又は菌体)をコラーゲンディスク(AteloCell ハニカムディスク96(ウシ皮由来I型コラーゲン含有)、高研社製)に200μL処理した。37℃嫌気条件下で培養し、ディスク添加直後と、添加から1日おきに顕微鏡で観察した。なお、P.gを用いずに溶媒だけを用いてコントロールとした。
【0041】
O.D600=0.5、1.0、2.0、又は3.0の培養液から得られた菌体をPBSで懸濁して用いた場合の、コラーゲンディスクの顕微鏡画像を
図1に示す。
図1に示すとおり、P.g添加から3日後の段階で、O.D600=1.0以上で、コラーゲンディスクの分解が確認された。
【0042】
O.D600=0.5、1.0、2.0、又は3.0の培養液を用いた場合の、コラーゲンディスクの顕微鏡画像を
図2に示す。
図2に示すとおり、P.g添加から3日後の段階で、O.D600=0.5以上で、コラーゲンディスクの分解が確認された。
【0043】
O.D600=0.5、1.0、2.0、又は3.0の培養液から得られた培養上清を用いた場合の、コラーゲンディスクの顕微鏡画像を
図3に示す。
図3に示すとおり、P.g添加から3日後の段階で、O.D600=3.0の場合に、コラーゲンディスクの分解が確認された。また、P.g添加から5日後の段階で、O.D600=2.0の場合に、コラーゲンディスクの分解が確認された。
【0044】
O.D600=3.0の培養液から得られた菌体をPBSで懸濁して用いた場合の、コラーゲンディスクの顕微鏡画像を
図4に示す。
図4に示すとおり、阻害剤を添加しない場合には、P.g添加から1日後の段階で、コラーゲンディスクの分解が確認された。一方、阻害剤を添加すると(阻害剤Mix及び銅クロロフィリンナトリウム)、コラーゲンディスクの分解が抑制された。
【0045】
O.D600=3.0の培養液を用いた場合の、コラーゲンディスクの顕微鏡画像を
図5に示す。
図5に示すとおり、阻害剤を添加しない場合には、P.g添加から1日後の段階で、コラーゲンディスクの分解が確認された。一方、阻害剤を添加すると(阻害剤Mix及び銅クロロフィリンナトリウム)、コラーゲンディスクの分解が抑制された。
【0046】
O.D600=3.0の培養液から得られた培養上清を用いた場合の、コラーゲンディスクの顕微鏡画像を
図6に示す。
図6に示すとおり、阻害剤を添加しない場合には、P.g添加から8日後の段階で、コラーゲンディスクの分解が確認された。一方、阻害剤を添加すると(阻害剤Mix及び銅クロロフィリンナトリウム)、コラーゲンディスクの分解が抑制された。
【0047】
O.D600=0.5、1.0、2.0、又は3.0の培養液から得られた菌体を変法GAM培地で懸濁して用いることで、コラーゲンディスクと接触させつつP.gを培養することで歯周病菌培養液を調製した場合の、コラーゲンディスクの顕微鏡画像を
図7に示す。
図7に示すとおり、P.g添加から3日後の段階で、O.D600=0.5以上で、コラーゲンディスクの分解が確認された。