(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176127
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
H02M3/155 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088247
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】富士岡 一洋
(72)【発明者】
【氏名】石黒 義章
(72)【発明者】
【氏名】近藤 亮太
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730AS04
5H730AS05
5H730AS13
5H730BB13
5H730BB14
5H730BB57
5H730DD04
5H730EE13
5H730EE57
5H730EE59
5H730FD01
5H730FD11
5H730FG05
5H730FG12
(57)【要約】
【課題】電圧検出部の異常をより適切に検出することができる電力変換装置を得る。
【解決手段】設定部41は、目標電圧値に基づいて、PWM信号のデューティ比を設定し、設定したデューティ比を電圧変換回路20に出力する。推定値算出部42は、入力電圧検出値V1と出力電圧検出値V2との関係を前提とした場合において、デューティ比推定値Dを、入力電圧検出値V1と出力電圧検出値V2とに基づいて、周期的に算出する。異常検出部43は、更新推定値と比較基準値との差分を差分値ΔDとして周期的に算出し、算出された差分値ΔDの変化に基づいて、電圧検出部30の異常を検出する。更新推定値は、新たに算出されたデューティ比推定値Dである。比較基準値は、更新推定値が算出された周期よりも前の周期において算出されたデューティ比推定値Dに基づく値である。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧変換回路、
前記電圧変換回路への入力電圧を、入力電圧検出値として検出する入力電圧検出器と、前記電圧変換回路からの出力電圧を、出力電圧検出値として検出する出力電圧検出器とを有している電圧検出部、及び
前記電圧変換回路を制御する制御部
を備え、
前記制御部は、
前記出力電圧の目標値である目標電圧値に基づいて、前記電圧変換回路に与えるPWM信号のデューティ比を設定し、設定した前記デューティ比に基づく前記PWM信号を前記電圧変換回路に出力する設定部、
前記入力電圧検出値と前記出力電圧検出値との関係を前提とした場合において、前記設定部から前記電圧変換回路に出力されているはずのPWM信号のデューティ比であるデューティ比推定値を、前記入力電圧検出値と前記出力電圧検出値とに基づいて、周期的に算出する推定値算出部、及び
前記推定値算出部によって新たに算出された前記デューティ比推定値である更新推定値と、前記更新推定値が算出された周期よりも前の周期において、前記推定値算出部によって算出された前記デューティ比推定値に基づく比較基準値との差分を差分値として周期的に算出し、算出された前記差分値の変化に基づいて、前記電圧検出部の異常を検出する異常検出部
を有している電力変換装置。
【請求項2】
前記比較基準値は、前記更新推定値が取得された周期の直前の周期において取得された前記デューティ比推定値である
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記比較基準値は、前記更新推定値が取得された周期よりも前の周期において取得された複数の前記デューティ比推定値の平均値である
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記異常検出部は、前記差分値が規定範囲を超過したことを検出した後、周期的に算出される前記差分値が規定回数連続して前記規定範囲内にあることを検出したとき、前記電圧検出部が異常であると判定する
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記異常検出部は、前記差分値が規定範囲を超過したことを連続して検出し、且つ連続して検出された2回の前記超過におけるそれぞれの前記差分値が前記規定範囲を超える極性が、互いに逆の極性である場合、前記電圧検出部が異常であるか否かの判定を一旦終了する
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記異常検出部は、前記電圧変換回路への前記入力電圧及び前記電圧変換回路からの前記出力電圧に応じて前記規定範囲を設定する
請求項4又は請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記目標電圧値が変更された場合、前記異常検出部は、前記異常の検出を一旦無効にする
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
負荷の変動により、前記電圧変換回路の出力電流が規定電流値以上変化した場合、前記異常検出部は、前記異常の検出を一旦無効にする
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
外部電源の電圧変動により、前記入力電圧が規定電圧値以上変化した場合、前記異常検出部は、前記異常の検出を一旦無効にする
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記規定範囲は、前記電圧検出部の正常動作範囲において、目標電圧値と前記出力電圧検出値とに基づいて設定されるデューティ比と、前記デューティ比推定値との乖離の幅であるデューティ比乖離幅の最大値に基づいて設定されている
請求項4又は請求項5に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電圧変換装置では、PWM信号のデューティ比が、電圧変換部の入力電圧及び電圧変換部の出力電圧のいずれかと、目標電圧とに基づいて推定される。PWM信号は、電圧変換部に入力される制御信号である。入力電圧及び出力電圧は、電圧検出部によって検出される。電圧変換部が安定状態にあるとき、推定されたPWM信号のデューティ比と、実際に設定されているデューティ比との差が一定値未満に収束しているか否かが、異常判定部によって判定される(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、電圧検出部は、ハードウェアとしての特性ばらつきを有している。特性ばらつきには、例えば、ハードウェアの環境温度によって生じるばらつきと、ハードウェアの経年劣化によって生じるばらつきとがある。上記のような従来の電圧変換装置において、電圧検出部の異常を検出する場合、上記ばらつきのため、異常の検出精度が低下する。その結果、電圧検出部の異常を適切に検出できなくなるという問題があった。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するために為されたものであり、電圧検出部の異常をより適切に検出することができる電力変換装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る電力変換装置は、電圧変換回路、電圧変換回路への入力電圧を、入力電圧検出値として検出する入力電圧検出器と、電圧変換回路からの出力電圧を、出力電圧検出値として検出する出力電圧検出器とを有している電圧検出部、及び電圧変換回路を制御する制御部を備え、制御部は、出力電圧の目標値である目標電圧値に基づいて、電圧変換回路に与えるPWM信号のデューティ比を設定し、設定したデューティ比に基づくPWM信号を電圧変換回路に出力する設定部、入力電圧検出値と出力電圧検出値との関係を前提とした場合において、設定部から電圧変換回路に出力されているはずのPWM信号のデューティ比であるデューティ比推定値を、入力電圧検出値と出力電圧検出値とに基づいて、周期的に算出する推定値算出部、及び推定値算出部によって新たに算出されたデューティ比推定値である更新推定値と、更新推定値が算出された周期よりも前の周期において、推定値算出部によって算出されたデューティ比推定値に基づく比較基準値との差分を差分値として周期的に算出し、算出された差分値の変化に基づいて、電圧検出部の異常を検出する異常検出部を有している。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係る電力変換装置によれば、電圧検出部の異常をより適切に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る電力変換装置を一部ブロックで示す構成図である。
【
図2】
図1の負荷として、インバータ回路及びモータを適用した場合の電力変換装置の構成図である。
【
図3】
図1の出力電圧検出器の出力ばらつきを説明するための図である。
【
図4】
図1の電力変換装置におけるデューティ比乖離幅と、規定範囲の設定方法とを説明するための図である。
【
図5】
図1の制御部が実行する異常検出アルゴリズムを説明するためのタイムチャートである。
【
図6】
図1の入力電圧検出器にノイズが重畳した場合の異常検出アルゴリズムを説明するためのタイムチャートである。
【
図7】
図1の出力電圧検出器にノイズが重畳した場合の異常検出アルゴリズムを説明するためのタイムチャートである。
【
図8】
図1の制御部が実行する異常検出ルーチンを示すフローチャートである。
【
図9】
図8の異常検出ルーチンの処理に続く処理を示すフローチャートである。
【
図10】実施の形態2に係る電力変換装置の制御部が実行する異常検出アルゴリズムを説明するためのタイムチャートである。
【
図11】実施の形態2に係る電力変換装置の制御部が実行する異常検出ルーチンを示すフローチャートである。
【
図12】電圧変換回路として、2段のマルチレベル昇圧DC/DCコンバータが適用された例を示す図である。
【
図13】電圧変換回路として、2相のマルチフェーズ昇圧DC/DCコンバータが適用された例を示す図である。
【
図14】電圧変換回路として、1相1段の降圧DC/DCコンバータが適用された例を示す図である。
【
図15】電圧変換回路として、1相1段の昇降圧DC/DCコンバータが適用された例を示す図である。
【
図16】実施の形態1及び2の電力変換装置の機能を実現する処理回路の第1の例を示す構成図である。
【
図17】実施の形態1及び2の電力変換装置の機能を実現する処理回路の第2の例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る電力変換装置を一部ブロックで示す構成図である。電力変換装置10は、電圧変換回路20、電圧検出部30、及び制御部40を備えている。
【0010】
電圧変換回路20は、外部電源としての直流電圧源50と接続されている。また、電圧変換回路20は、負荷60と接続されている。電圧変換回路20は、入力電圧を出力電圧に変換する。入力電圧は、直流電圧源50から電圧変換回路20に入力される電圧である。出力電圧は、電圧変換回路20から負荷60へ出力する電圧である。
【0011】
電圧変換回路20は、第1スイッチング素子21、第2スイッチング素子22、入力コンデンサ23、出力コンデンサ24、リアクトル25、及び駆動部26を有している。
【0012】
第1スイッチング素子21及び第2スイッチング素子22は、それぞれMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)とダイオードとにより構成されている。ダイオードは、MOSFETのソースとドレインとの間に逆並列に接続されている。即ち、ダイオードのカソードは、MOSFETのソースと接続されており、ダイオードのアノードは、MOSFETのドレインに接続されている。そのため、このダイオードは、逆並列ダイオードと呼ばれる。逆並列ダイオードは、MOSFETに内蔵されている。また、MOSFETには、SiC(Silicon Carbide)半導体が用いられている。
【0013】
第1スイッチング素子21のドレイン端子は、負荷60の正極側に接続されている。第1スイッチング素子21のソース端子は、第2スイッチング素子22のドレイン端子に接続されている。第2スイッチング素子22のソース端子は、負荷60の負極側に接続されている。
【0014】
入力コンデンサ23は、直流電圧源50の正極側と直流電圧源50の負極側との間に接続されている。入力コンデンサ23は、第1スイッチング素子21のオンオフ動作により生じるノイズの成分及び第2スイッチング素子22のオンオフ動作により生じるノイズの成分が、直流電圧源50側に流出することを防止する。また、入力コンデンサ23は、直流電圧源50が発生する電圧の変動を平滑化する。
【0015】
出力コンデンサ24は、負荷60の正極側と負荷60の負極側との間に接続されている。つまり、出力コンデンサ24は、第1スイッチング素子21のドレイン端子と第2スイッチング素子22のソース端子との間に接続されている。出力コンデンサ24は、第1スイッチング素子21がオフになっている場合において、負荷60への電力の供給を賄っている。また、出力コンデンサ24は、第1スイッチング素子21のオンオフ動作により生じるノイズの成分及び第2スイッチング素子22のオンオフ動作により生じるノイズの成分が、負荷60に流出することを防止している。
【0016】
リアクトル25の一端は、直流電圧源50の正極側に接続されている。リアクトル25の他端は、第1スイッチング素子21のソース端子及び第2スイッチング素子22のドレイン端子に接続されている。
【0017】
駆動部26は、ドライバIC(Integrated Circuit)等で構成されるバッファ回路を有している。駆動部26には、制御部40からPWM(Pulse Width Modulation)信号が入力される。PWM信号は、電圧変換回路20に与える信号である。駆動部26は、入力されたPWM信号を、バッファ回路により増幅し、第1スイッチング素子21のゲート端子とソース端子間、及び第2スイッチング素子22のゲート端子とソース端子間にそれぞれ印加する。
【0018】
駆動部26は、入力されたPWM信号に従って、第1スイッチング素子21及び第2スイッチング素子22をそれぞれ交互にオンオフ動作させる。これにより、リアクトル25へのエネルギーの蓄積と、蓄積されたエネルギーの負荷60及び出力コンデンサ24への供給とが交互に行われ、出力電圧が入力電圧よりも高い電圧に昇圧される。つまり、電圧変換回路20は、昇圧DC/DCコンバータである。
【0019】
電圧検出部30は、入力電圧検出器31と出力電圧検出器32とを有している。入力電圧検出器31は、電圧変換回路20への入力電圧を、入力電圧検出値V1として検出する。出力電圧検出器32は、電圧変換回路20からの出力電圧を、出力電圧検出値V2として検出する。
【0020】
入力電圧検出器31及び出力電圧検出器32は、それぞれ分圧抵抗、絶縁素子、及びA/Dコンバータを有している。分圧抵抗は、電圧変換回路20の電圧を、制御部40の動作電圧のレベルまで低下させる。絶縁素子は、電圧変換回路20と制御部40とを絶縁するための素子である。A/Dコンバータは、検出された電圧をデジタル値に変換する。
【0021】
制御部40は、機能ブロックとして、設定部41、推定値算出部42、及び異常検出部43を有している。
【0022】
設定部41は、目標電圧値と、出力電圧検出値V2とに基づいて、PWM信号のデューティ比を設定する。目標電圧値は、電圧変換回路20の出力電圧の目標値である。目標電圧値は、上位装置70により決定される。より具体的に述べると、設定部41は、PI制御により、出力電圧検出値V2が目標電圧値に近付くように、PWM信号のデューティ比を設定する。設定部41は、PWM信号を電圧変換回路20の駆動部26に出力する。
【0023】
推定値算出部42は、デューティ比推定値を、入力電圧検出値V1と出力電圧検出値V2とに基づいて、周期的に算出する。デューティ比推定値は、入力電圧検出値V1と出力電圧検出値V2との関係を前提とした場合において、設定部41から電圧変換回路20へ出力されているはずのPWM信号のデューティ比である。また、推定値算出部42は、周期的に算出されたデューティ比推定値を記憶する。
【0024】
周期番号「n」におけるデューティ比推定値をD(n)とすると、デューティ比推定値D(n)は、以下の式(1)により表される。ここで、V1(n)は周期番号「n」における入力電圧検出値V1であり、V2(n)は周期番号「n」における出力電圧検出値V2である。なお、式(1)のデューティ比推定値D(n)は、電圧変換回路20が昇圧DC/DCコンバータである場合に成立する。
【0025】
D(n)=(V2(n)-V1(n))/V2(n) ・・・(1)
【0026】
異常検出部43は、更新推定値と、比較基準値との差分を差分値として周期的に算出する。更新推定値は、推定値算出部42によって新たに算出されたデューティ比推定値である。比較基準値は、更新推定値が算出された周期よりも前の周期において、推定値算出部42によって算出されたデューティ比推定値に基づく値である。異常検出部43は、算出された差分値の変化に基づいて、電圧検出部30の異常を検出する。
【0027】
周期番号「n」における更新推定値は、周期番号「n」において算出されたデューティ比推定値D(n)である。比較基準値をCmp、周期番号「n」における差分値をΔD(n)とすると、差分値ΔD(n)は、以下の式(2)により表される。
【0028】
ΔD(n)=D(n)-Cmp ・・・(2)
【0029】
実施の形態1において、比較基準値Cmpは、更新推定値が取得された周期の直前の周期において、取得されたデューティ比推定値である。つまり、式(2)は、以下の式(3)により表される。
【0030】
ΔD(n)=D(n)-D(n-1) ・・・(3)
【0031】
異常検出部43は、電圧検出部30の異常を検出した場合、上位装置70に電圧検出部30の異常を通知する。なお、その後、設定部41が異常の通知に対する上位装置70の指令を受信すると、上位装置70からの指令に従って、第1スイッチング素子21及び第2スイッチング素子22を制御する。例えば、上位装置70からの指令は、第1スイッチング素子21のスイッチング動作及び第2スイッチング素子22のスイッチング動作を停止させる指令である。また、例えば、上位装置70からの指令は、一定のデューティ比によるスイッチング動作を、第1スイッチング素子21及び第2スイッチング素子22に継続させる指令である。
【0032】
直流電圧源50は、二次電池により構成されている。二次電池としては、例えば、バッテリ、リチウムイオン電池、及びニッケルカドミウム電池が挙げられる。
【0033】
上位装置70は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)により構成されている。上位装置70は、目標電圧値と、負荷60の変動に関する情報とを、制御部40に送信する。負荷60の変動に関する情報としては、例えば、負荷電流値が挙げられる。
【0034】
図2は、
図1の負荷60として、インバータ回路及びモータを適用した場合の電力変換装置10の構成図である。負荷60は、インバータ回路61及びモータ62を有している。インバータ回路61は、6つのスイッチング素子を有している。このように、負荷60がスイッチング素子を有している負荷である場合、出力コンデンサ24は、負荷60のスイッチング素子のオンオフ動作により生じるノイズの成分が、電圧変換回路20に流入することを防止している。
【0035】
図3は、比較例における出力電圧検出器32の出力ばらつきを説明するための図である。電圧検出部30の異常を検出する場合、異常の誤検出を防ぐために、電圧検出部30のハードウェアとしての特性ばらつきを考慮して、異常を検出するための閾値の設定マージンが定められる必要がある。
【0036】
例えば、電圧変換回路20の入出力電圧条件及び電圧検出部30の特性ばらつきを以下のように想定したとき、必要な設定マージンは、次のように計算される。
【0037】
入力電圧範囲:200~400V
出力電圧範囲:200~650V
正常な入力電圧検出器31の特性ばらつき:±2%
正常な出力電圧検出器32の特性ばらつき:±4%
【0038】
ここでは、差分値ΔD(n)に基づく異常検出方法との比較例として、上記の式(1)に従って計算されたデューティ比推定値と、実際に設定されたデューティ比との差分に基づいて、電圧検出部30の異常を検出する方法を仮定した場合の設定マージンが計算される。
【0039】
この場合、デューティ比乖離幅の最大値は0.06と計算される。デューティ比乖離幅は、設定部41において設定されるデューティ比と、デューティ比推定値D(n)との乖離の幅である。従って、この場合、電圧検出部30における異常の誤検出を避けるために、設定マージンは、少なくとも±0.06に設定される必要がある。
【0040】
図3において、横軸には実際の出力電圧が示されており、縦軸には出力電圧検出値V2が示されている。実線81は、出力電圧検出値V2が実際の出力電圧と一致していることを表わしている。出力電圧検出値V2が実線81上にある場合、設定されたデューティ比とデューティ比推定値D(n)とは一致していることになる。即ち、この場合、デューティ比乖離幅が0であることを表している。また、出力電圧検出値V2が実線81から離れるほど、デューティ比乖離幅は大きいと考えられる。
【0041】
破線82は、入力電圧が200Vである場合における出力電圧検出値V2のばらつきの上限を表している。破線83は、入力電圧が200Vである場合における出力電圧検出値V2のばらつきの下限を表している。破線84は、入力電圧が400Vである場合における出力電圧検出値V2のばらつきの上限を表している。破線85は、入力電圧が400Vである場合における出力電圧検出値V2のばらつきの下限を表している。
【0042】
このように、出力電圧検出値V2のばらつきは、出力電圧が高いほど大きくなる。また、出力電圧検出値V2のばらつきは、入力電圧が低いほど大きくなる。出力電圧検出値V2のばらつきは、入力電圧が200V、出力電圧が650Vの場合に最大となり、その大きさは、176Vである。つまり、破線82の右端は826Vである。このことは、目標電圧値650Vに対し、出力電圧検出値V2が826Vを超えるまでは、出力電圧検出器32が異常とは判断できないことを意味している。従って、出力電圧検出器32の異常の誤検出を防ぐために、一点鎖線86と一点鎖線87との間が設定マージン88として設定されることが望まれる。
【0043】
図4は、
図1の電力変換装置10におけるデューティ比乖離幅と、異常検出の規定範囲の設定方法とを説明するための図である。規定範囲は、差分値ΔD(n)がその範囲に収まっているときに、電圧検出部30が正常と判定される範囲である。規定範囲は、設定マージンを含めて設定されている。
図4は、電圧変換回路20の入出力条件が、入力電圧範囲200~400V及び出力電圧範囲200~650Vである場合におけるデューティ比乖離幅のシミュレーション結果を表している。このシミュレーションは、異常検出部43が、更新推定値と比較基準値との差分を差分値として周期的に算出し、算出された差分値の変化に基づいて、電圧検出部30の異常を検出する場合のシミュレーションである。
【0044】
図4において、横軸には目標出力電圧が示されており、縦軸にはデューティ比乖離幅が示されている。
【0045】
丸形のプロット群は、電圧検出部30が正常な動作をしている場合において、電圧変換回路20の出力電力が、電圧変換回路20の出力電流の変化によって、最大5kW変化したときのデューティ比乖離幅を示している。この条件では、デューティ比乖離幅は、入力電圧200V且つ出力電圧220Vにおいて最大となり、その値は0.007である。
【0046】
一方、同様の入出力条件において、出力電圧検出器32の異常を想定して、出力電圧検出値V2が50V変動した場合のデューティ比乖離幅が、ひし形のプロットにより示されている。また、出力電圧検出器32の異常を想定して、出力電圧検出値V2が100V変動した場合のデューティ比乖離幅が、矩形のプロットにより示されている。
【0047】
このシミュレーション結果から、出力電圧検出値V2の変動が50Vの場合も出力電圧検出値V2の変動が100Vの場合も、デューティ比乖離幅は0.02以上であることが理解される。この結果において、デューティ比乖離幅が最小となる電圧条件は、入力電圧200V且つ出力電圧650Vである。以上のシミュレーション結果を踏まえ、規定範囲は、電圧検出部30が正常な状態におけるデューティ比乖離幅の最大値である0.007と、電圧検出部30が異常な状態におけるデューティ比乖離幅の最小値である0.02との間の0.01に設定される。
【0048】
このように、実施の形態1によれば、出力電力が5kW変化する場合を想定しても、比較例に対して、デューティ比乖離幅を一桁小さくすることができる。そのため、実施の形態1における異常検出方法では、電圧検出部30の異常を、比較例における異常検出方法よりも精度良く検出することができる。
【0049】
図5は、
図1の制御部40が実行する異常検出アルゴリズムを説明するためのタイムチャートである。
図5の横軸には、時間が示されている。
図5には、上から順に、周期番号、各種電圧、デューティ比推定値D、差分値ΔD、異常判定カウントc、及び異常検出ステータスが示されている。各種電圧は、目標電圧値、入力電圧、入力電圧検出値V1、出力電圧、及び出力電圧検出値V2である。
【0050】
周期番号は、制御部40における一定周期毎の制御周期を表している。制御部40では、一定周期毎に、入力電圧検出値V1の取得、出力電圧検出値V2の取得、目標電圧値の取得、及びデューティ比の更新が行われる。横軸は、例えば、制御周期が20μsに設定されている場合、周期番号が1つ増加する毎に20μs経過していることを意味している。
図5に示した例では、周期番号「6」において、出力電圧検出器32が故障して、周期番号「7」以降、出力電圧検出値V2が目標電圧値よりも高い電圧を維持している状況が想定されている。
【0051】
目標電圧値は、一点鎖線により示されており、周期番号「1」から「12」までの間において、一定である。入力電圧は、破線により示されており、入力電圧検出値V1は、丸形のプロットにより示されている。入力電圧及び入力電圧検出値V1は、周期番号「1」から「12」までの間において、互いに一致しており、且つ一定である。
【0052】
出力電圧は、実線により示されており、出力電圧検出値V2は、入力電圧検出値V1のプロットよりも大きい丸形のプロットにより示されている。出力電圧と出力電圧検出値V2とは、周期番号「1」から「5」までの間において、目標電圧値と一致しており、一定に推移している。しかし、周期番号「6」において、何らかの原因により出力電圧検出器32が故障したため、出力電圧検出値V2が周期番号「7」において増加している。その後、出力電圧検出値V2は、周期番号「12」までの間、目標電圧値よりも高い一定の電圧を維持している。
【0053】
周期番号「7」における出力電圧検出値V2の増加は、周期番号「8」において、設定部41による設定に反映される。設定部41は、周期番号「8」以降、出力電圧検出値V2が目標電圧値に近付くようにデューティ比を低下させるため、出力電圧は周期番号「8」において目標電圧値から低下し始める。
【0054】
その後、出力電圧検出値V2は、目標電圧値よりも高い一定の電圧を維持しているため、設定部41は、デューティ比を低下させ続け、最終的にデューティ比を0に設定する。その結果、出力電圧は入力電圧に収束する。なお、
図5に示した制御は、あくまで一例であり、設定部41がデューティ比を低下し始める周期番号は「8」でなくてもよい。
【0055】
周期番号「7」において、出力電圧検出値V2は急激に変化している。デューティ比推定値D(n)は、式(1)に従って算出されるため、周期番号「7」において急激に変化する。また、周期番号「8」以降、出力電圧検出値V2は一定値を維持しているため、デューティ比推定値Dも周期番号「7」における値を維持している。
【0056】
例えば、周期番号「6」における差分値ΔD(6)は、周期番号「6」におけるデューティ比推定値D(6)から、周期番号「5」におけるデューティ比推定値D(5)を減算した値である。本例では、周期番号「1」から周期番号「6」までの間、入力電圧検出値V1及び出力電圧検出値V2に変化はないため、異常検出部43は、継続的に差分値ΔD(n)を0と計算する。
【0057】
しかし、周期番号「7」において、デューティ比推定値D(7)が急激に変化するため、差分値ΔD(7)も急激に変化し、差分値ΔD(7)は、予め定められている超過検出閾値(0.01)を超過する。ここで、超過検出閾値(0.01)は、規定範囲の上限であり、超過検出閾値(-0.01)は、規定範囲の下限である。言い換えると、超過検出閾値は、差分値ΔD(n)が規定範囲を超過するか否かの判定閾値である。
【0058】
周期番号「7」において、異常検出部43は、差分値ΔD(n)が規定範囲を超過したことを検出する。周期番号「8」以降、デューティ比推定値D(n)は変化しないため、異常検出部43は、継続的に差分値ΔD(n)を0と計算する。
【0059】
異常検出部43は、差分値ΔD(n)が規定範囲を超過したことを検出した後、差分値ΔD(n)が規定範囲を超過した周期の次の周期から、差分値ΔD(n)が規定回数として、5回連続して規定範囲内に収まっている場合、電圧検出部30が異常であるとの判定を確定する。
【0060】
ここで、異常検出部43は、差分値ΔD(n)が規定範囲を超過した場合、異常検出ステータスを「非検出」から「検出中」に変更する。異常検出ステータスが「検出中」に変更されると、異常検出部43は、異常検出処理を開始する。より具体的に述べると、異常検出部43は、異常検出ステータスが「検出中」に変更されると、異常判定カウントcを0にする。異常検出部43は、異常検出ステータスが「検出中」に変更された周期の次の周期において、差分値ΔD(n)が規定範囲内に収まっている場合、異常判定カウントcを1つカウントアップする。
【0061】
図5の例では、周期番号「8」から「12」までの間、差分値ΔD(n)は、規定範囲に収まっているので、異常判定カウントcはカウントアップを続け、周期番号「12」において、異常判定カウントcが「5」となる。この時点において、異常検出部43は、異常検出ステータスを「検出中」から「異常確定」に変更する。
【0062】
このように、異常検出ステータスを設けて、差分値ΔD(n)を監視することにより、異常検出部43は、電圧検出部30の異常が確定される前に、電圧検出部30の異常の可能性を上位装置70に通知することができる。
【0063】
図6は、
図1の入力電圧検出器31にノイズが重畳した場合の異常検出アルゴリズムを説明するためのタイムチャートである。周期番号「7」において、入力電圧検出器31に瞬時的なノイズが重畳した場合、周期番号「7」におけるデューティ比推定値D(7)が、周期番号「6」におけるデューティ比推定値D(6)に対して変動する。これにより、周期番号「7」における差分値ΔD(7)が規定範囲を超過する。
【0064】
そのため、異常検出部43は、周期番号「7」において、異常検出ステータスを「非検出」から「検出中」に変更し、異常判定カウントcを開始する。しかし、周期番号「7」における差分値ΔD(7)の超過がノイズ起因であった場合、次の周期番号「8」におけるデューティ比推定値D(8)は、周期番号「6」以前のデューティ比推定値Dと同様の値に戻る。そのため、周期番号「8」における差分値ΔD(8)は、周期番号「7」における差分値ΔD(7)の超過の極性とは逆の極性に超過する。
【0065】
このように、差分値ΔD(n)が規定範囲を超過したことが連続して検出され、且つ連続して検出された2回の超過におけるそれぞれの差分値ΔD(n)が規定範囲を超える極性が、互いに逆の極性である場合、2回の超過はノイズの重畳に起因していると判断できる。そのため、この場合、異常検出部43は、異常検出ステータスを「検出中」から「非検出」に変更し、電圧検出部30が異常であるか否かの判定を一旦終了する。
【0066】
図7は、
図1の出力電圧検出器32にノイズが重畳した場合の異常検出アルゴリズムを説明するためのタイムチャートである。周期番号「7」において、出力電圧検出器32に瞬時的なノイズが重畳した場合、周期番号「7」におけるデューティ比推定値D(7)が、周期番号「6」におけるデューティ比推定値D(6)に対して変動する。これにより、周期番号「7」における差分値ΔD(7)が規定範囲を超過する。
【0067】
そのため、異常検出部43は、周期番号「7」において、異常検出ステータスを「非検出」から「検出中」に変更し、異常判定カウントcを開始する。しかし、周期番号「7」における差分値ΔD(7)の超過がノイズ起因であった場合、次の周期番号「8」におけるデューティ比推定値D(8)は、周期番号「6」以前のデューティ比推定値Dと同様の値に戻る。そのため、周期番号「8」における差分値ΔD(8)は、周期番号「7」における差分値ΔD(7)の超過の極性とは逆の極性に超過する。
【0068】
このように、差分値ΔD(n)が規定範囲を超過したことが連続して検出され、且つ連続して検出された2つの超過におけるそれぞれの差分値ΔDが規定範囲を超える極性が、互いに逆の極性である場合、2回の超過はノイズの重畳に起因していると判断できる。そのため、この場合、異常検出部43は、異常検出ステータスを「検出中」から「非検出」に変更し、電圧検出部30が異常であるか否かの判定を一旦終了する。
【0069】
なお、異常検出部43は、差分値ΔD(n)の変化に基づいて、電圧検出部30の異常を検出するため、入力電圧が一定、目標電圧値が一定、及び負荷電流の変動による出力電力変動が5kW以下の条件において、特に精度の高い異常検出が可能である。そのため、入力電圧、目標電圧値、及び負荷電流が変動している状態においては、異常検出部43による異常の判定を無効にすることが好ましい。そこで、異常検出部43は、入力電圧検出器31による入力電圧検出値V1の変動についての情報、目標電圧値の変動についての情報、及び負荷電流の変動についての情報に基づいて、電圧検出部30の異常の判定を一旦無効にする。
【0070】
図8は、
図1の制御部40が実行する異常検出ルーチンを示すフローチャートである。
図8のルーチンは、例えば、一定の時間が経過する毎に実行されるようになっている。
図8のルーチンが開始されると、制御部40は、ステップS101において、目標電圧値に変化があるか否かを判定する。
【0071】
目標電圧値に変化がある場合、制御部40は、ステップS105において、異常検出ステータスを「非検出」に設定するとともに、異常判定カウントcを0にして、本ルーチンを一旦終了する。一方、目標電圧値に変化がない場合、制御部40は、ステップS102において、負荷電流の変動が規定電流値以下の状態が一定時間以上継続しているか否かを判定する。
【0072】
負荷電流の変動が規定電流値以下の状態が一定時間以上継続していない場合、制御部40は、ステップS105において、異常検出ステータスを「非検出」に設定するとともに、異常判定カウントcを0にして、本ルーチンを一旦終了する。
【0073】
一方、負荷電流の変動が規定電流値以下の状態が一定時間以上継続している場合、制御部40は、ステップS103において、入力電圧の変動が規定電圧値以下の状態が一定時間以上継続しているか否かを判定する。
【0074】
入力電圧の変動が規定電圧値以下の状態が一定時間以上継続していない場合、制御部40は、ステップS105において、異常検出ステータスを「非検出」に設定するとともに、異常判定カウントcを0にして、本ルーチンを一旦終了する。
【0075】
一方、入力電圧の変動が規定電圧値以下の状態が一定時間以上継続している場合、制御部40は、ステップS104において、式(1)に従って、デューティ比推定値D(n)を計算し、
図9のルーチンを開始する。
【0076】
図9は、
図8の異常検出ルーチンの処理に続く処理を示すフローチャートである。
図9のルーチンは、
図8のステップS104に続いて、実行されるようになっている。
図9のルーチンが開始されると、異常検出部43は、ステップS106において、式(3)に従って差分値ΔD(n)を計算する。つまり、異常検出部43は、比較基準値Cmpを、更新推定値が取得された周期の直前の周期において取得されたデューティ比推定値D(n-1)として、差分値ΔD(n)を計算する。
【0077】
次いで、異常検出部43は、ステップS107において、異常検出ステータスが「検出中」であるか否かを判定する。異常検出ステータスが「検出中」ではない場合、即ち、異常検出ステータスが「非検出」である場合、異常検出部43は、ステップS108において、差分値ΔD(n)の絶対値|ΔD(n)|が、超過検出閾値以上であるか否かを判定する。本例では、超過検出閾値は、0.01である。
【0078】
絶対値|ΔD(n)|が、超過検出閾値以上である場合、異常検出部43は、ステップS109において、異常検出ステータスを「非検出」から「検出中」に変更し、異常判定カウントcを0にした後に異常判定カウントcを開始し、本ルーチンを一旦終了する。つまり、異常検出部43は、差分値ΔD(n)が規定範囲を超えた場合、異常検出処理を開始する。
【0079】
一方、絶対値|ΔD(n)|が、超過検出閾値未満である場合、異常検出部43は、ステップS110において、異常検出ステータスを「非検出」に設定するとともに、異常判定カウントcを0にする。このように、差分値ΔD(n)が規定範囲内におさまっている場合、異常検出ステータスは「非検出」を維持している。この場合、電圧検出部30は正常な状態が継続していると考えられる。
【0080】
また、ステップS107において、異常検出ステータスが「検出中」であると判定された場合、異常検出部43は、ステップS111において、差分値ΔD(n)の絶対値|ΔD(n)|が、超過検出閾値未満であるか否かを判定する。
【0081】
絶対値|ΔD(n)|が、超過検出閾値未満である場合、異常検出部43は、ステップS112において異常判定カウントcをカウントアップする。次いで、異常検出部43は、ステップS113において、異常判定カウントcが「5」に達しているか否かを判定する。
【0082】
異常判定カウントcが「5」に達していない場合、異常検出部43は、本ルーチンを一旦終了する。つまり、異常検出ステータスが「検出中」の状態が維持される。
【0083】
一方、異常判定カウントcが「5」に達している場合、異常検出部43は、ステップS114において、異常検出ステータスを「検出中」から「異常確定」に変更して、本ルーチンを一旦終了する。つまり、この場合、差分値ΔD(n)が、「超過→規定範囲内→規定範囲内→規定範囲内→規定範囲内→規定範囲内」の挙動を示したことになる。この場合、電圧検出部30の異常が確定される。
【0084】
異常検出ステータスが「異常確定」に設定されると、制御部40は、電圧検出部30が異常である旨を上位装置70に通知する。なお、その後、上位装置70からの指示に従い、制御部40は、例えば、第1スイッチング素子21のスイッチング動作及び第2スイッチング素子22のスイッチング動作を停止させる。例えば、制御部40は、デューティ比を一定値に固定した状態において、第1スイッチング素子21のスイッチング動作及び第2スイッチング素子22のスイッチング動作を継続させる。
【0085】
また、ステップS111において、絶対値|ΔD(n)|が超過検出閾値以上であると判定された場合、差分値ΔD(n)は、少なくとも2周期連続で超過検出閾値を超過していることになる。そのため、異常検出部43は、ステップS115において、前回の差分値ΔD(n-1)の極性と、今回の差分値ΔD(n)の極性とが互いに逆の極性であるか否かを判定する。
【0086】
前回の差分値ΔD(n-1)の極性と、今回の差分値ΔD(n)の極性とが同じ極性である場合、異常検出部43は、本ルーチンを一旦終了する。この場合、電圧検出部30の動作が不安定であると考えられるため、その後、電圧検出部30が異常となる可能性がある。つまり、この段階では、異常候補が検出されたと見做される。
【0087】
一方、前回の差分値ΔD(n-1)の極性と、今回の差分値ΔD(n)の極性とが互いに逆の極性である場合、異常検出部43は、ステップS116において、異常検出ステータスを「検出中」から「非検出」に変更する。また、異常検出部43は、ステップS116において、異常判定カウントcを0にする。その後、異常検出部43は、本ルーチンを一旦終了する。つまり、この場合、差分値ΔD(n)の規定範囲の超過は、電圧検出部30への瞬時的なノイズ重畳に起因していると考えられる。
【0088】
このように、実施の形態1に係る電力変換装置10は、電圧変換回路20、電圧検出部30、及び制御部40を備えている。電圧検出部30は、入力電圧検出器31と出力電圧検出器32とを有している。入力電圧検出器31は、電圧変換回路20への入力電圧を、入力電圧検出値V1として検出する。出力電圧検出器32は、電圧変換回路20からの出力電圧を、出力電圧検出値V2として検出する。制御部40は、電圧変換回路20を制御する。
【0089】
制御部40は、設定部41、推定値算出部42、及び異常検出部43を有している。設定部41は、目標電圧値に基づいて、PWM信号のデューティ比を設定し、設定したデューティ比に基づくPWM信号を電圧変換回路20に出力する。目標電圧値は、出力電圧の目標値である。PWM信号は、電圧変換回路20に与える信号である。
【0090】
推定値算出部42は、入力電圧検出値V1と出力電圧検出値V2との関係を前提とした場合において、デューティ比推定値D(n)を、入力電圧検出値V1と出力電圧検出値V2とに基づいて、周期的に算出する。デューティ比推定値D(n)は、設定部41から電圧変換回路20に出力されているはずのPWM信号のデューティ比である。
【0091】
異常検出部43は、更新推定値と比較基準値Cmpとの差分を差分値ΔD(n)として周期的に算出し、算出された差分値ΔD(n)の変化に基づいて、電圧検出部30の異常を検出する。更新推定値は、推定値算出部42によって新たに算出されたデューティ比推定値D(n)である。比較基準値Cmpは、更新推定値が算出された周期よりも前の周期において、推定値算出部42によって算出されたデューティ比推定値D(n)に基づく値である。
【0092】
これによれば、差分値ΔD(n)は、更新推定値と比較基準値Cmpとの差分であるため、差分値ΔD(n)においては、更新推定値に含まれる検出器ばらつき成分と、比較基準値Cmpに含まれる検出器ばらつき成分とが相殺される。検出器ばらつき成分は、電圧検出部30の特性ばらつきの成分である。これにより、設定マージンを狭めることができるため、異常検出の規定範囲を狭めることができる。その結果、電圧検出部30の異常をより適切に検出することができる。
【0093】
また、比較基準値Cmpは、更新推定値が取得された周期の直前の周期において取得されたデューティ比推定値D(n-1)である。
【0094】
検出器ばらつき成分は、電圧検出部30におけるハードウェアの温度特性及び電圧検出部30におけるハードウェアの経時劣化に依存している。比較基準値Cmpの取得時期が、更新推定値の取得時期の直前の周期であるため、この取得時期の差による温度変化による検出器ばらつき成分の変化と、経時劣化による検出器ばらつき成分の変化とは、無視できるほど小さい。従って、異常検出の規定範囲をより狭めることができ、その結果、電圧検出部30の異常を検出する精度をより高くすることができる。
【0095】
また、異常検出部43は、差分値ΔD(n)の規定範囲の超過を検出した後、周期的に算出される差分値ΔD(n)が5回連続して規定範囲内にあることを検出したとき、電圧検出部30が異常であると判定する。
【0096】
これによれば、電圧検出部30の異常を誤検出することを抑制できる。また、電圧検出部30の異常が確定される前に、差分値ΔD(n)が規定範囲を超過した時点において、電圧検出部30の異常の可能性を上位装置70に通知することができる。
【0097】
また、異常検出部43は、差分値ΔD(n)の規定範囲の超過を連続して検出し、且つ連続して検出された2回の超過におけるそれぞれの差分値ΔD(n)が規定範囲を超える極性が、互いに逆の極性である場合、電圧検出部30が異常であるか否かの判定を一旦終了する。
【0098】
これによれば、電圧検出部30への瞬時的なノイズの重畳が、電圧検出部30の異常として誤検出されることを抑制することができる。
【0099】
また、異常検出部43は、電圧変換回路20への入力電圧及び電圧変換回路20からの出力電圧に応じて規定範囲を設定する。
【0100】
図3に示したように、入力電圧が高いほど、デューティ比乖離幅は狭くなる。また、出力電圧が低いほど、デューティ比乖離幅は狭くなる。従って、入力電圧が高いほど、規定範囲を狭くすることができるため、入力電圧が高い場合における電圧検出部30の異常を検出する精度をより高くすることができる。また、出力電圧が低いほど、規定範囲を狭くすることができるため、出力電圧が低い場合における電圧検出部30の異常を検出する精度をより高くすることができる。
【0101】
また、目標電圧値が変更された場合、異常検出部43は、異常の検出を一旦無効にする。
【0102】
これによれば、目標電圧値が変更されない安定した状態において、電圧検出部30の異常の検出が行われるため、電圧検出部30の異常を検出する精度をより高くすることができる。
【0103】
また、負荷60の変動により、電圧変換回路20の出力電流が規定電流値以上変化した場合、異常検出部43は、異常の検出を一旦無効にする。
【0104】
これによれば、負荷60の変動が抑えられた状態において、電圧検出部30の異常の検出が行われるため、電圧検出部30の異常を検出する精度をより高くすることができる。
【0105】
また、直流電圧源50の電圧変動により、入力電圧が規定電圧値以上変化した場合、異常検出部43は、異常の検出を一旦無効にする。
【0106】
これによれば、直流電圧源50の電圧変動が抑えられた状態において、電圧検出部30の異常の検出が行われるため、電圧検出部30の異常を検出する精度をより高くすることができる。
【0107】
また、規定範囲は、電圧検出部30の正常動作範囲において、デューティ比乖離幅の最大値に基づいて設定されている。デューティ比乖離幅は、目標電圧値と出力電圧検出値V2とに基づいて設定されるデューティ比と、デューティ比推定値との乖離の幅である。
【0108】
これによれば、規定範囲をより適切に設定することができるため、異常の誤検出が抑制される。その結果、電圧検出部30の異常をより適切に検出することができる。
【0109】
実施の形態2.
実施の形態2に係る電力変換装置では、異常検出部43において計算される比較基準値が、更新推定値が取得された周期よりも前の周期において取得された複数のデューティ比推定値の平均値である点において、実施の形態1の電力変換装置10と相異している。
【0110】
上記以外の構成については、実施の形態1の電力変換装置10と同様である。以下、実施の形態1の電力変換装置10と同様の構成についての説明は省略される。
【0111】
実施の形態2において、異常検出部43は、以下の式(4)に示すように、比較基準値Cmp(m)を用いて、差分値ΔD(n)を算出する。ここで、mは、比較基準値Cmp(m)が更新された周期番号を表している。mは、nよりも小さい整数である。
【0112】
ΔD(n)=D(n)-Cmp(m) ・・・(4)
【0113】
比較基準値Cmp(m)は、更新推定値が取得された周期よりも前の周期において取得された連続10回のデューティ比推定値の平均値である。即ち、
【0114】
Cmp(m)={D(m-9)+D(m-8)+…+D(m)}/10 ・・・(5)
【0115】
図10は、実施の形態2に係る電力変換装置の制御部40が実行する異常検出アルゴリズムを説明するためのタイムチャートである。異常検出部43は、算出されたデューティ比推定値D(n)が一定範囲αに収まった場合、比較基準値算出カウントを1つカウントアップする。一方、算出されたデューティ比推定値D(n)が一定範囲αから逸脱した場合、比較基準値算出カウントをクリアする。
【0116】
異常検出部43は、比較基準値算出カウントが「10」に達した場合、即ち、デューティ比推定値D(n)が10回連続して一定範囲αに収まった場合、比較基準値Cmp(m)を更新する。例えば、周期番号「4」において、比較基準値算出カウントは7であるが、周期番号「5」において、デューティ比推定値D(5)が一定範囲αを逸脱したため、比較基準値算出カウントがクリアされる。
【0117】
周期番号「6」において、再び、比較基準値算出カウントが1からカウントアップされる。周期番号「6」から周期番号「15」の間、デューティ比推定値D(6)~D(15)は、一定範囲αに連続して収まっているため、周期番号「15」において、比較基準値算出カウントが「10」に達する。そこで、異常検出部43は、周期番号「15」において、比較基準値Cmp(m)を更新する。
【0118】
異常検出部43は、比較基準値Cmp(m)として、デューティ比推定値D(6)~D(15)の平均値を計算する。周期番号「16」以降、差分値ΔD(16)~ΔD(23)は、以下の式(6)~(13)によりそれぞれ表される。
【0119】
ΔD(16)=D(16)-Cmp(15) ・・・(6)
【0120】
ΔD(17)=D(17)-Cmp(15) ・・・(7)
【0121】
ΔD(18)=D(18)-Cmp(15) ・・・(8)
【0122】
ΔD(19)=D(19)-Cmp(15) ・・・(9)
【0123】
ΔD(20)=D(20)-Cmp(15) ・・・(10)
【0124】
ΔD(21)=D(21)-Cmp(15) ・・・(11)
【0125】
ΔD(22)=D(22)-Cmp(15) ・・・(12)
【0126】
ΔD(23)=D(23)-Cmp(15) ・・・(13)
【0127】
ただし、
【0128】
Cmp(15)={D(6)+D(7)+…+D(15)}/10 ・・・(14)
【0129】
差分値ΔD(n)を用いて、電圧検出部30の異常を検出する方法は、実施の形態1において説明した異常検出アルゴリズムと同様であるため、詳細な説明は省略される。
【0130】
図11は、実施の形態2に係る電力変換装置10の制御部40が実行する異常検出ルーチンを示すフローチャートである。
図11のルーチンは、
図8のステップS104に続いて、実行されるようになっている。つまり、実施の形態2に係る電力変換装置10の制御部40は、先ず、
図8の異常検出ルーチンを実行する。
【0131】
そして、
図11のルーチンが開始されると、異常検出部43は、ステップS201において、式(4)及び(5)に従って差分値ΔD(n)を計算する。つまり、異常検出部43は、比較基準値Cmpを、更新推定値が取得された周期よりも前の周期において取得された連続10回のデューティ比推定値の平均値として、差分値ΔD(n)を計算する。
【0132】
その後のステップS107~S116の処理は、
図9のステップS107~S116の処理と同じであるため、説明は省略される。
【0133】
このように、比較基準値Cmpは、更新推定値が取得された周期よりも前の周期において取得された連続10回のデューティ比推定値の平均値である。
【0134】
これによれば、比較基準値Cmpとして用いられる10回のデューティ比推定値のいずれかにノイズが重畳していても、10回のデューティ比推定値が平均化されることにより、ノイズの影響は弱まる。そのため、比較基準値Cmpとして、更新推定値が取得された周期の直前の周期において取得されたデューティ比推定値D(n-1)を用いる方法と比較して、ノイズ耐性が高くなる。
【0135】
なお、比較基準値Cmpは、例えば、連続10回の入力電圧検出値V1の平均値を式(1)のV1に代入し、連続10回の出力電圧検出値V2の平均値を式(1)のV2に代入することにより算出してもよい。
【0136】
また、比較基準値Cmpとして平均化されるデューティ比推定値Dの数は、10個に限定されることはない。また、比較基準値Cmpとして平均化されるデューティ比推定値Dは、必ずしも連続していなくてもよい。例えば、逸脱周期におけるデューティ比推定値Dが平均化されるデューティ比推定値Dから除外されてもよい。逸脱周期は、デューティ比推定値Dが一定範囲αを逸脱した周期である。
図10に示した例の場合、周期番号「2」から周期番号「4」までのデューティ比推定値と、周期番号「6」から周期番号「15」までのデューティ比推定値とを用いて、比較基準値Cmpが計算されてもよい。
【0137】
また、電圧変換回路20への入力電圧が変動した場合には、比較基準値Cmpが更新されることが好ましく、電圧変換回路20からの出力電圧が変動した場合には、比較基準値Cmpが更新されることが好ましい。
【0138】
また、電圧検出部30の特性ばらつきを考えた場合、比較基準値Cmpは、定期的に更新されることが好ましい。例えば、電圧検出部30の温度変化の時定数を考慮して、一定期間毎に比較基準値Cmpが更新されることが好ましい。
【0139】
また、実施の形態1と実施の形態2とが適宜組み合わされてもよい。例えば、実施の形態2において、比較基準値Cmpが更新される場合、更新の処理の開始から、新しく比較基準値Cmpが設定されるまで、少なくとも10周期分の時間を要する。そのため、新しく比較基準値Cmpが設定されるまでは、比較基準値Cmpとして、更新推定値が取得された周期の直前の周期において取得されたデューティ比推定値D(n-1)が用いられてもよい。これにより、比較基準値算出カウントのカウントアップ中においても、電圧検出部30の異常検出を行うことができる。
【0140】
また、実施の形態1及び2では、差分値ΔD(n)が、規定回数として5回連続して規定範囲内にあることを検出したとき、電圧検出部30が異常であると判定していたが、規定回数は、5回に限定されることはなく、適宜変更されてもよい。
【0141】
また、実施の形態1及び2では、出力電圧検出器32が故障した場合を例に説明したが、入力電圧検出器31が故障した場合であっても、異常検出部43は、電圧検出部30の異常を検出可能である。
【0142】
また、実施の形態1及び2では、電圧検出部30の異常が検出された場合、入力電圧検出器31及び出力電圧検出器32のいずれに異常が発生しているかの特定は行っていない。そこで、例えば、以下のように、入力電圧検出器31及び出力電圧検出器32のいずれの異常かを特定してもよい。
【0143】
電圧検出部30の異常が検出された場合、異常検出部43は、入力電圧検出値V1と、直流電圧源50の出力電圧を監視するための電圧センサの検出値とを比較する。電圧センサは、直流電圧源50に設けられている電圧センサを用いてもよいし、電力変換装置に設けられていてもよい。
【0144】
異常検出部43は、入力電圧検出値V1と、電圧センサの検出値との差分が入力電圧判定値以上である場合、入力電圧検出器31が異常と特定することができる。入力電圧判定値は、入力電圧検出値V1が異常な値を示しているか否かを判定するための値である。一方、入力電圧検出値V1と、電圧センサの検出値との差分が入力電圧判定値未満である場合、出力電圧検出器32が異常と特定することができる。
【0145】
また、電圧変換回路20の出力電圧は、モータ負荷の場合、モータ62のトルク、モータ62の回転数、出力コンデンサ24の容量値、及び電圧変換回路20のスイッチング周波数に基づいて推定できる。そこで、異常検出部43は、電圧検出部30の異常が検出された場合、負荷電流値に基づいて出力電圧検出値V2を推定する。異常検出部43は、出力電圧検出値V2と、推定された出力電圧との差分が出力電圧判定値以上である場合、出力電圧検出器32が異常と特定することができる。出力電圧判定値は、出力電圧検出値V2が異常な値を示しているか否かを判定するための値である。一方、出力電圧検出値V2と、推定された出力電圧との差分が出力電圧判定値未満である場合、入力電圧検出器31が異常と特定することができる。
【0146】
また、電圧検出部30の異常が検出された場合、異常検出部43は、電圧変換回路20における昇圧比を1に設定するように設定部41に指示したうえで、以下のように、入力電圧検出器31及び出力電圧検出器32のいずれの異常かを特定してもよい。
【0147】
異常検出部43は、昇圧比が1に設定されている場合、即ち、デューティ比が0に設定されている場合において、入力電圧検出値V1と、出力電圧検出値V2と、電圧センサの検出値とを比較してもよい。ここで、入力電圧検出器31が故障しているとすれば、入力電圧検出値V1は、他の2つの検出値とは異なり、出力電圧検出器32が故障しているとすれば、出力電圧検出値V2は、他の2つの検出値とは異なる。
【0148】
従って、異常検出部43は、入力電圧検出値V1と、出力電圧検出値V2と、電圧センサの検出値とのうち、入力電圧検出値V1が、他の2つの検出値と異なっている場合、入力電圧検出器31が異常と特定することができる。また、異常検出部43は、入力電圧検出値V1と、出力電圧検出値V2と、電圧センサの検出値とのうち、出力電圧検出値V2が、他の2つの検出値と異なっている場合、出力電圧検出器32が異常と特定することができる。
【0149】
また、異常検出部43は、デューティ比が0に設定されている場合において、入力電圧検出値V1と、出力電圧検出値V2と、推定された出力電圧とを比較してもよい。ここで、入力電圧検出器31が故障しているとすれば、入力電圧検出値V1は、出力電圧検出値V2及び推定された出力電圧とは異なり、出力電圧検出器32が故障しているとすれば、出力電圧検出値V2は、入力電圧検出値V1及び推定された出力電圧とは異なる。
【0150】
従って、異常検出部43は、入力電圧検出値V1と、出力電圧検出値V2と、推定された出力電圧とのうち、入力電圧検出値V1が、出力電圧検出値V2及び推定された出力電圧と異なっている場合、入力電圧検出器31が異常と特定することができる。また、異常検出部43は、入力電圧検出値V1と、出力電圧検出値V2と、推定された出力電圧とのうち、出力電圧検出値V2が、入力電圧検出値V1及び推定された出力電圧と異なっている場合、出力電圧検出器32が異常と特定することができる。
【0151】
また、実施の形態1、2において、設定部41は、PI制御によりPWM信号のデューティ比を設定していたが、PID制御によりPWM信号のデューティ比を設定してもよい。
【0152】
また、実施の形態1及び2に係る電力変換装置10において、PWM制御には、フィードバック制御が適用されていたが、電力変換装置10は、PWM制御にフィードバック制御が適用された装置に限定されない。例えば、電力変換装置10におけるPWM制御には、デューティ比固定制御やフィードフォワード制御が適用されてもよい。
【0153】
また、実施の形態1及び2の電圧変換回路20において、第1スイッチング素子21には、原理上、ソースからドレインに向かう方向の電流のみが流れる。そのため、第1スイッチング素子21は、ダイオードに置き換えられてもよい。この場合、ダイオードは、ダイオードのアノード端子が第1スイッチング素子21のソース端子に対応し、ダイオードのカソード端子が第1スイッチング素子21のドレイン端子に対応するように配置されればよい。
【0154】
また、第1スイッチング素子21及び第2スイッチング素子22には、SiC半導体によるMOSFETが用いられていたが、MOSFETは、Si半導体であってもよい。また、MOSFETに代えて、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)が用いられてもよいし、GaN-HEMT(Gallium Nitride-High Electron Mobility Transistor)が用いられてもよい。
【0155】
また、第1スイッチング素子21及び第2スイッチング素子22において、逆並列ダイオードは、MOSFETに内蔵されていたが、逆並列ダイオードは、MOSFETに外付けされていてもよい。
【0156】
また、実施の形態1及び2において、電圧変換回路20の構成は、1相1段の昇圧DC/DCコンバータの回路構成であったが、電圧変換回路20の構成は、1相1段の昇圧DC/DCコンバータに限定されない。電圧変換回路20の構成は、降圧DC/DCコンバータであってもよいし、昇降圧DC/DCコンバータであってもよい。また、電圧変換回路20の構成は、マルチフェーズのDC/DCコンバータであってもよいし、マルチレベルのDC/DCコンバータであってもよい。
【0157】
図12は、電圧変換回路20として、2段のマルチレベル昇圧DC/DCコンバータが適用された例を示す図である。
図13は、電圧変換回路20として、2相のマルチフェーズ昇圧DC/DCコンバータが適用された例を示す図である。
図14は、電圧変換回路20として、1相1段の降圧DC/DCコンバータが適用された例を示す図である。
図15は、電圧変換回路20として、1相1段の昇降圧DC/DCコンバータが適用された例を示す図である。
【0158】
図12及び
図13の電圧変換回路20におけるデューティ比推定値D(n)は、式(1)により表される。
図14の電圧変換回路20におけるデューティ比推定値D(n)は、以下の式(15)により表される。
【0159】
D(n)=V2(n)/V1(n) ・・・(15)
【0160】
図15の電圧変換回路20におけるデューティ比推定値D(n)は、入力電圧<出力電圧であるとき、即ち、昇圧動作時には、式(1)により表され、入力電圧>出力電圧であるとき、即ち、降圧動作時には、式(15)により表される。
【0161】
また、
図1及び
図12~15に示された回路構成とは異なる構成の電圧変換回路においても、デューティ比推定値D(n)は、入力電圧と出力電圧とを用いて計算可能である。そのため、本開示では、電圧変換回路の回路構成に応じてデューティ比推定値D(n)の計算式が適宜変更される。
【0162】
また、実施の形態1及び2では、直流電圧源50として、二次電池が用いられていたが、燃料電池が用いられてもよいし、他の直流電圧源が用いられてもよい。
【0163】
また、実施の形態1及び2の電力変換装置10の機能は、処理回路によって実現される。
図16は、実施の形態1及び2の電力変換装置10の機能を実現する処理回路の第1の例を示す構成図である。第1の例の処理回路100は、専用のハードウェアである。
【0164】
また、処理回路100は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、又はこれらを組み合わせたものが該当する。
【0165】
また、
図17は、実施の形態1及び2の電力変換装置10の機能を実現する処理回路の第2の例を示す構成図である。第2の例の処理回路200は、プロセッサ201及びメモリ202を備えている。
【0166】
処理回路200では、電力変換装置10の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェア及びファームウェアは、プログラムとして記述され、メモリ202に格納される。プロセッサ201は、メモリ202に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、機能を実現する。
【0167】
メモリ202に格納されたプログラムは、上述した各部の手順又は方法をコンピュータに実行させるものであるとも言える。ここで、メモリ202とは、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等の、不揮発性又は揮発性の半導体メモリである。また、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等も、メモリ202に該当する。
【0168】
なお、上述した電力変換装置10の機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェア又はファームウェアで実現するようにしてもよい。
【0169】
このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、又はこれらの組み合わせによって、上述した電力変換装置10の機能を実現することができる。
【0170】
以上、好ましい実施の形態等について詳説したが、上述した実施の形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0171】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0172】
(付記1)
電圧変換回路、
前記電圧変換回路への入力電圧を、入力電圧検出値として検出する入力電圧検出器と、前記電圧変換回路からの出力電圧を、出力電圧検出値として検出する出力電圧検出器とを有している電圧検出部、及び
前記電圧変換回路を制御する制御部
を備え、
前記制御部は、
前記出力電圧の目標値である目標電圧値に基づいて、前記電圧変換回路に与えるPWM信号のデューティ比を設定し、設定した前記デューティ比に基づく前記PWM信号を前記電圧変換回路に出力する設定部、
前記入力電圧検出値と前記出力電圧検出値との関係を前提とした場合において、前記設定部から前記電圧変換回路に出力されているはずのPWM信号のデューティ比であるデューティ比推定値を、前記入力電圧検出値と前記出力電圧検出値とに基づいて、周期的に算出する推定値算出部、及び
前記推定値算出部によって新たに算出された前記デューティ比推定値である更新推定値と、前記更新推定値が算出された周期よりも前の周期において、前記推定値算出部によって算出された前記デューティ比推定値に基づく比較基準値との差分を差分値として周期的に算出し、算出された前記差分値の変化に基づいて、前記電圧検出部の異常を検出する異常検出部
を有している電力変換装置。
(付記2)
前記比較基準値は、前記更新推定値が取得された周期の直前の周期において取得された前記デューティ比推定値である
付記1に記載の電力変換装置。
(付記3)
前記比較基準値は、前記更新推定値が取得された周期よりも前の周期において取得された複数の前記デューティ比推定値の平均値である
付記1に記載の電力変換装置。
(付記4)
前記異常検出部は、前記差分値が規定範囲を超過したことを検出した後、周期的に算出される前記差分値が規定回数連続して前記規定範囲内にあることを検出したとき、前記電圧検出部が異常であると判定する
付記1から付記3までのいずれか1項に記載の電力変換装置。
(付記5)
前記異常検出部は、前記差分値が規定範囲を超過したことを連続して検出し、且つ連続して検出された2回の前記超過におけるそれぞれの前記差分値が前記規定範囲を超える極性が、互いに逆の極性である場合、前記電圧検出部が異常であるか否かの判定を一旦終了する
付記1から付記4までのいずれか1項に記載の電力変換装置。
(付記6)
前記異常検出部は、前記電圧変換回路への前記入力電圧及び前記電圧変換回路からの前記出力電圧に応じて前記規定範囲を設定する
付記4又は付記5に記載の電力変換装置。
(付記7)
前記目標電圧値が変更された場合、前記異常検出部は、前記異常の検出を一旦無効にする
付記1から付記6までのいずれか1項に記載の電力変換装置。
(付記8)
負荷の変動により、前記電圧変換回路の出力電流が規定電流値以上変化した場合、前記異常検出部は、前記異常の検出を一旦無効にする
付記1から付記7までのいずれか1つに記載の電力変換装置。
(付記9)
外部電源の電圧変動により、前記入力電圧が規定電圧値以上変化した場合、前記異常検出部は、前記異常の検出を一旦無効にする
付記1から付記8までのいずれか1項に記載の電力変換装置。
(付記10)
前記規定範囲は、前記電圧検出部の正常動作範囲において、目標電圧値と前記出力電圧検出値とに基づいて設定されるデューティ比と、前記デューティ比推定値との乖離の幅であるデューティ比乖離幅の最大値に基づいて設定されている
付記4又は付記5に記載の電力変換装置。
【符号の説明】
【0173】
10 電力変換装置、20 電圧変換回路、30 電圧検出部、31 入力電圧検出器、32 出力電圧検出器、40 制御部、41 設定部、42 推定値算出部、43 異常検出部、50 直流電圧源、60 負荷。