(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176137
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】系統安定化装置、系統安定化方法及び系統安定化プログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 3/38 20060101AFI20231206BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20231206BHJP
H02J 3/24 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
H02J3/38 120
H02J3/00 170
H02J3/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088258
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮平
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA01
5G066AD01
5G066AD14
5G066AE09
5G066DA04
5G066DA06
5G066FA02
5G066FB15
5G066HA19
5G066HB02
5G066HB06
(57)【要約】
【課題】PCSの有効電力、無効電力を適切に制御して過渡安定度を向上させ、経済的損失を低減させた系統安定化装置、安定化方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】電力変換装置として電圧制御型PCS及び電流制御型PCSが連系された電力系統に適用され、系統事故発生時に電力の動揺を抑制して安定化させるための系統安定化装置において、電力系統内に事故点を想定した時に、電力系統の計測値を用いたシミュレーションを実行して過渡安定度を計算する過渡安定度計算手段21Aと、当該計算手段21Aにより安定と判断された時の電圧位相角情報を制約条件とする目的関数を用いた最適潮流計算を行って制御補正量を生成する最適潮流計算手段21Bと、を備え、実際の事故発生時に、前記制御補正量に基づく制御信号を用いて電力変換装置を制御する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電装置の出力を所定の交流電力に変換する電力変換装置として電圧制御型PCS及び電流制御型PCSが連系された電力系統における事故発生時に、前記電力系統の電力の動揺を抑制して安定化させるための系統安定化装置において、
前記電力系統内で事故点を想定した時に、前記電力系統からの計測値を用いたシミュレーションを実行して過渡安定度を計算する過渡安定度計算手段と、
前記過渡安定度計算手段により安定と判断された時の前記電圧制御型PCSの電圧位相角情報を制約条件に含む目的関数を用いた最適潮流計算を行って制御補正量を生成する最適潮流計算手段と、
を備え、
想定した前記事故点における実際の事故発生時に、前記制御補正量に基づく制御信号を用いて前記電力変換装置を制御することを特徴とする系統安定化装置。
【請求項2】
請求項1に記載した系統安定化装置において、
前記過渡安定度計算手段は、前記電流制御型PCSが出力する無効電力を増加させることで系統電源と前記電圧制御型PCSとの間の電圧位相差が減少するような運用点を、安定な運用点として探索することを特徴とする系統安定化装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した系統安定化装置において、
前記最適潮流計算手段は、前記電流制御型PCSが出力する無効電力を制御するための制御補正量を少なくとも生成することを特徴とする系統安定化装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載した系統安定化装置において、
前記過渡安定度計算手段による計算周期を前記最適潮流計算手段による計算周期よりも長く設定したことを特徴とする系統安定化装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載した系統安定化装置において、
前記最適潮流計算手段は、前記電力変換装置の有効電力の修正量に対するペナルティを含む目的関数を用いて前記制御補正量を生成することを特徴とする系統安定化装置。
【請求項6】
請求項1または2に記載した系統安定化装置において、
前記電圧位相角情報は、前記電圧制御型PCSの最大電圧位相差であることを特徴とする系統安定化装置。
【請求項7】
発電装置の出力を所定の交流電力に変換する電力変換装置として電圧制御型PCS及び電流制御型PCSが連系された電力系統における事故発生時に、前記電力系統の電力の動揺を抑制して安定化させるための系統安定化方法において、
前記電力系統内で事故点を想定した時に、前記電力系統からの計測値を用いたシミュレーションを実行して過渡安定度を計算し、
前記過渡安定度が安定と判断された時の前記電圧制御型PCSの電圧位相角情報を制約条件に含む目的関数を用いた最適潮流計算を行って制御補正量を生成し、
想定した前記事故点における実際の事故発生時に、前記制御補正量に基づく制御信号を用いて前記電力変換装置を制御することを特徴とする系統安定化方法。
【請求項8】
コンピュータシステムにより実行されるプログラムであって、発電装置の出力を所定の交流電力に変換する電力変換装置が複数台連系された電力系統における事故発生時に、前記電力系統の電力の動揺を抑制して安定化させるための系統安定化プログラムであって、
前記電力系統内で事故点を想定した時に、前記電力系統からの計測値を用いたシミュレーションを実行して過渡安定度を計算する処理と、
前記過渡安定度が安定と判断された時の前記電圧制御型PCSの電圧位相角情報を制約条件に含む目的関数を用いた最適潮流計算を行って制御補正量を生成する処理と、
想定した前記事故点における実際の事故発生時に、前記制御補正量に基づく制御信号を用いて前記電力変換装置を制御する処理と、
を実行することを特徴とする系統安定化プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCS(Power Conditioning System)が連系された電力系統において、平常時及び事故時の過渡安定度を向上させて適切な潮流状態を実現するための系統安定化装置、系統安定化方法及び系統安定化プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力系統には、太陽光発電装置等の再生可能エネルギーを利用した発電装置とPCS等の電力変換装置とからなる分散型電源が多数、連系されている。このため、同期発電機の台数が相対的に減少しつつあり、特に地絡等の系統事故発生時に同期発電機による同期化力や慣性維持機能が不足する結果、電力系統の安定性が低下する傾向にある。その対策として、PCS等の電力変換装置に仮想同期発電機制御機能(同期発電機と同様の慣性維持機能)を持たせ、その出力電圧の位相等を制御して電力系統の安定性を向上させる技術が提供されている。
最近では、上述した慣性維持機能を備えると共に、同期発電機のように電圧源として動作するPCSである電圧制御型PCS(Grid Forming Inverter:GFM)が注目されており、従来の電流制御型PCS(Grid Following Inverter:GFL)に加えて、このGFMが新たに電力系統に接続される見込みである。
【0003】
さて、この種の電力系統において、系統事故が発生した場合にPCSの動特性を考慮しつつ電力系統の過渡安定度を解析する方法としては、モデルの記述制限がなく、実際の発電機等の動特性を忠実に再現することができるシミュレーション法(Time Domain Simulation Method:TDS法)が挙げられる。
シミュレーション法は、PCSの事故時運転継続(Fault Ride Through:FRT)機能を十分に考慮することができ、想定事故に対して電力系統を安定化させるための有効電力、無効電力、電圧、及び位相の潮流状態を事前に算出する上で、有効な手法と考えられている。
【0004】
例えば特許文献1には、いわゆる予防制御の方法として、電力系統の想定事故に対して過渡安定度制約を組み込んだ最適潮流計算(Optical Power Flow:OPF)を行って同期発電機の送電可能容量を算出する技術が記載されている。
特許文献2には、複数の分散型電源が接続された電力系統において、電力系統内の電力潮流の変化による電圧等の変動を抑制するために各分散型電源の無効電力制御量を最適潮流計算によって求める技術が記載されている。
なお、非特許文献1,2には、多数の発電機が接続された電力系統において、過渡安定度計算と最適潮流計算とを連続的に繰り返し実行して最適な潮流状態を求める手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3862970号公報
【特許文献2】特開2021-19486号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A New Practical Approach to Transient Stability-Constrained Optimal Power Flow, IEEE Trans. On Power Systems, Vol.26, No.3, 2011.3
【非特許文献2】Directional Derivative-Based Transient Stability-Constrained Opti-mal Power Flow, IEEE Trans. On Power Systems, Vol.32, No.5, 2017.9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された最適潮流計算では、同期発電機の連続的な動特性のみを考慮しており、PCS等のパワーエレクトロニクス機器の動特性は考慮されていない。また、予防制御では発生確率が比較的小さい系統事故も対象としているため、最適潮流計算の結果によっては、発電量や送電量が必要以上に制限されて経済的損失が大きくなる場合があった。
更に、特許文献2に記載された従来技術は、負荷需要及び分散電源の発電量の予測値に基づいた電力潮流の変化から無効電力制御量を演算しており、実際に系統事故が発生した場合の過渡安定度については考慮されていない。
また、非特許文献1,2に記載された技術では、過渡安定度の計算負荷が大きいことから最適潮流計算を含む全体の計算周期を長くせざるを得ず、最適潮流計算の計算タイミングにおける想定事故断面(潮流状態)と実際の事故発生時断面との誤差が大きくなって必要な制御量に過不足が生じるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の解決課題は、最適潮流計算の目的関数、制約条件、計算周期等を適切に設定し、詳細シミュレーションに基づく過渡安定度計算と最適潮流計算とによって脱調を未然に防止可能なPCSの有効電力、無効電力を算出すると共に、系統事故が実際に発生した場合には上記有効電力、無効電力に基づく制御指令に従ってPCSを制御することにより、電力系統の過渡安定化を向上させつつ有効電力の抑制量を最小限にした系統安定化装置、系統安定化方法及び系統安定化プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の系統安定化装置は、請求項1に記載するように、発電装置の出力を所定の交流電力に変換する電力変換装置として電圧制御型PCS及び電流制御型PCSが連系された電力系統における事故発生時に、前記電力系統の電力の動揺を抑制して安定化させるための系統安定化装置において、
前記電力系統内で事故点を想定した時に、前記電力系統からの計測値を用いたシミュレーションを実行して過渡安定度を計算する過渡安定度計算手段と、
前記過渡安定度計算手段により安定と判断された時の前記電圧制御型PCSの電圧位相角情報を制約条件に含む目的関数を用いた最適潮流計算を行って制御補正量を生成する最適潮流計算手段と、を備え、
想定した前記事故点における実際の事故発生時に、前記制御補正量に基づく制御信号を用いて前記電力変換装置を制御するものである。
【0010】
なお、請求項2に記載するように、請求項1において、前記過渡安定度計算手段は、前記電流制御型PCSが出力する無効電力を増加させることで系統電源と前記電圧制御型PCSとの間の電圧位相差が減少するような運用点を、安定な運用点として探索することが望ましい。
【0011】
また、請求項3に記載するように、請求項1または2において、前記最適潮流計算手段は、前記電流制御型PCSが出力する無効電力を制御するための制御補正量を少なくとも生成することが望ましい。
【0012】
また、請求項4に記載するように、請求項1または2において、前記過渡安定度計算手段による計算周期を前記最適潮流計算手段による計算周期よりも長く設定することが望ましい。
【0013】
また、請求項5に記載するように、請求項1または2において、前記最適潮流計算手段は、前記電力変換装置の有効電力の修正量に対するペナルティを含む目的関数を用いて前記制御補正量を生成することが望ましい。
【0014】
また、請求項6に記載するように、請求項1または2において、前記電圧位相角情報は、前記電圧制御型PCSの最大電圧位相差であることが望ましい。
【0015】
更に、本発明の系統安定化方法は、請求項7に記載するように、発電装置の出力を所定の交流電力に変換する電力変換装置として電圧制御型PCS及び電流制御型PCSが連系された電力系統における事故発生時に、前記電力系統の電力の動揺を抑制して安定化させるための系統安定化方法において、
前記電力系統内で事故点を想定した時に、前記電力系統からの計測値を用いたシミュレーションを実行して過渡安定度を計算し、
前記過渡安定度が安定と判断された時の前記電圧制御型PCSの電圧位相角情報を制約条件に含む目的関数を用いた最適潮流計算を行って制御補正量を生成し、
想定した前記事故点における実際の事故発生時に、前記制御補正量に基づく制御信号を用いて前記電力変換装置を制御するものである。
【0016】
また、本発明の系統安定化プログラムは、請求項8に記載するように、コンピュータシステムにより実行されるプログラムであって、発電装置の出力を所定の交流電力に変換する電力変換装置が複数台連系された電力系統における事故発生時に、前記電力系統の電力の動揺を抑制して安定化させるための系統安定化プログラムであって、
前記電力系統内で事故点を想定した時に、前記電力系統からの計測値を用いたシミュレーションを実行して過渡安定度を計算する処理と、
前記過渡安定度が安定と判断された時の前記電圧制御型PCSの電圧位相角情報を制約条件に含む目的関数を用いた最適潮流計算を行って制御補正量を生成する処理と、
想定した前記事故点における実際の事故発生時に、前記制御補正量に基づく制御信号を用いて前記電力変換装置を制御する処理と、を実行するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、系統事故の発生時にPCSから出力される有効電力の抑制量を最小限にしつつ無効電力を適切に制御して電力系統の過渡安定度を向上させ、発電機会の逸失による経済的損失を低減させると共に、過渡安定度計算の計算周期に対して最適潮流計算の計算周期を短くすることで、想定事故断面と実際の事故発生時断面との誤差を小さくし、必要な制御量の過不足を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る系統安定化装置が適用される電力系統の構成図である。
【
図2】
図1における系統安定化装置の主要部を示す機能ブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態における安定化演算手段の動作を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施形態による運用点の探索過程を概念的に示したPQ平面図である。
【
図5】従来技術による運用点の探索過程を概念的に示したPQ平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1に、本実施形態の系統安定化装置500が適用される電力系統の構成例を示す。図示するように、系統電源としての変電所100には送電線201,202を介して母線301,302が接続されている。
【0020】
母線301には、太陽電池401の直流出力を交流電力に変換する電流制御型PCS(GFL)400Lが接続され、その出力電流及び出力電圧を検出する電流・電圧検出器402が設けられている。また、母線301には負荷600が接続され、この負荷600に供給される電流及び電圧を検出する電流・電圧検出器601が設けられている。
更に、母線302には、太陽電池403の直流出力を交流電力に変換する電圧制御型PCS(GFM)400Mが接続され、その出力電流及び出力電圧を検出する電流・電圧検出器404が設けられている。
なお、自然エネルギーを利用した発電装置としては、太陽電池401,402以外に、風力発電機の交流出力を直流電力に変換して各PCS 400L,400Mに入力するシステムであっても良い。
【0021】
本実施形態に係る系統安定化装置500は、電流・電圧検出器402,404,601が検出した電流、電圧、及び有効電力計測値P0等の各種計測値、更には、送電線201,202や母線301,302に設置された保護リレー(図示せず)の動作信号を、後述の事故検出端末装置101~10n及び制御端末装置301~30nから受信する。そして、これらの入力情報に基づいて過渡安定度計算及び最適潮流計算を行い、系統事故発生時における電力系統の電力の動揺を抑制するために必要な無効電力及び有効電力の制御補正量を求めると共に、この制御補正量に基づく制御信号を、上記制御端末装置301~30nを介してGFL 400L及びGFM 400Mに送信してこれらの運転を制御する機能を有する。
【0022】
図1において、変電所100、母線301、GFL 400L、GFM 400M、及び負荷600にそれぞれ付記した数値は、例えば送電線202上のFを事故点と想定したシミュレーションにより過渡安定度計算及び最適潮流計算を行った場合の、変電所100を基準とした「P+Qj」(P:有効電力,Q:無効電力)、「∠δ,V」(δ:電圧位相角,V:電圧振幅)を単位法表示したものである。ここで、GFM 400Mに付記した電圧位相角δ(∠35.9または∠36.2)は、同期発電機の内部相差角に相当する。なお、各部の「P+Qj」,「∠δ,V」の具体的な意義については後に説明する。
電力系統に接続されるPCSの種類や台数は
図1に示すGFL 400L、GFM 400Mに限定されないのは言うまでもなく、各種PCSが任意の台数、接続されていれば良い。
【0023】
次に、
図2は系統安定化装置500の主要部を示す機能ブロック図である。
図2において、事故検出端末装置10
1~10
n(nは任意の複数)は、送電線201,202や母線301,302に設置された保護リレーの動作信号と、前述した電流・電圧検出器402,404,601等から送信された各種の計測値(検出値)とに基づいて、地絡等の系統事故を検出し、その時点の負荷600やGFL 400L、GFM 400Mの有効電力P、無効電力Qを事故検出フラグと共に中央演算装置21に無線または有線の通信回線41を介して送信する。
【0024】
また、この事故検出端末装置10
1~10
nは、電力系統が健全である時にシミュレーション法による過渡安定度解析に基づく予防制御として、前述の
図1内に付記したように、例えば、変電所100の諸量を「(-4+0.9j)」,「∠0.0,1.02」とし、母線301の諸量を「(∠14.8,0.994)」とし、負荷600の諸量を「2.0+0.0j」とし、GFM 400Mの諸量を「6.0+2.1j」,「(∠36.2,1.06)」とし、GFL 400Lの諸量を「(0.0+0.0j)」とした状態で送電線202上に事故点Fが発生した場合を想定し、その時の負荷600やGFL 400L、GFM 400Mの有効電力P、無効電力Q等を事故検出フラグと共に中央演算装置21に通信回線41を介して送信する。
事故検出端末装置10
1~10
nが有する上記の各機能は、GFL 400LやGFM 400Mが備えていても良い。
【0025】
図2における安定化演算手段20は、パソコンやワークステーション等のコンピュータシステムからなり、過渡安定度計算及び最適潮流計算用のプログラムを実行すると共にシステム全体を統括的に制御するCPU等の中央演算装置21と、図示されていないROM,RAM等のメモリ、演算結果を記憶するハードディスク等の外部記憶装置、キーボードやマウス、ディスプレイ等の入出力装置、通信インターフェイス等を備えている。ここで、上記プログラムは、外部記憶装置や着脱可能な記憶媒体(CD-ROM、メモリカード、USBメモリ等)に格納され、または、上位のサーバから受信したものを前記メモリに読み出して実行される。
【0026】
中央演算装置21は、電力系統の過渡安定度を解析する過渡安定度計算手段21Aと、過渡安定度が安定と判断される時の所定の制約条件のもとで最適潮流計算を実行し、GFL 400L及びGFM 400Mの有効電力P、無効電力Qについて必要な制御補正量を演算する最適潮流計算手段21Bと、を有する。これらの過渡安定度計算手段21A及び最適潮流計算手段21Bは、CPU等が前記プログラムを実行することで実現される機能である。
【0027】
ここで、中央演算装置21を含む安定化演算手段20の構成は上述したものに限定されず、電力系統の各部の状態量に基づいて系統安定化プログラムにより過渡安定度計算及び最適潮流計算を実行し、GFL 400L及びGFM 400Mに対する制御補正量を生成する機能を備えていればいかなる構成でも良い。
【0028】
最適潮流計算手段21Bが演算した制御補正量は、通信回線42を介して制御端末装置30
1~30
m(mは任意の複数)に送信される。制御端末装置30
1~30
mはGFL 400LやGFM 400M等のPCSにそれぞれ対応して設けられており、制御端末装置30
1~30
mの台数mはPCSの台数(
図1の例では2台)と等しくなっている。
【0029】
制御端末装置301~30mは、受信した制御補正量に応じた有効電力P、無効電力Qを各PCSに制御信号として送信し、各PCSはこれらの制御信号を指令として母線301,302に出力する有効電力P、無効電力Qを制御する。
また、制御端末装置301~30mは、各PCSがそれぞれ出力している現在の有効電力計測値P0を中央演算装置21に送信するように構成されている。
これらの制御端末装置301~30mの機能は、事故検出端末装置101~10nと同様にGFL 400LやGFM 400Mが備えていても良い。
【0030】
次に、この実施形態において、中央演算装置21が過渡安定度計算及び最適潮流計算を実行する場合の一連の動作を、
図3のフローチャートに沿って説明する。
まず、中央演算装置21は、過渡安定度計算周期T
A及び最適潮流計算周期(制御補正量の演算周期)T
Bをメモリに予め設定する。一般に、過渡安定度計算は最適潮流計算に比べて計算量が多く、演算時間も長くなるため、T
A>T
Bとおく。
【0031】
初めに、中央演算装置21は、過渡安定度計算を行うための離散時間tA、及び、最適潮流計算を行うための離散時間tBをカウントする(ステップS1)。
最適潮流計算用の離散時間tBが計算周期TBに達するまでは離散時間tBのカウントを継続し(ステップS2Nо)、離散時間tBが計算周期TBに達したらtBをゼロクリアする(ステップS2Yes)。
更に、例えば事故点Fにおける事故を想定し、事故検出端末装置101~10nを介して電力系統の各種計測値を入力すると共に、制御端末装置301~30mから現在の有効電力計測値P0を入力する(ステップS3)。
【0032】
次に、中央演算装置21の最適潮流計算手段21Bは、過渡安定度計算用の離散時間tAが計算周期TAに達するまでの間は(ステップS4No)、後述する最大電圧位相差Lに関する制約条件を含む目的関数により最適潮流計算を実行し、GFL 400L及びGFM 400Mに必要とされる有効電力P、無効電力Qの制御補正量を演算する(ステップS5)。その後、演算した有効電力P、無効電力Qの制御補正量を制御端末装置301~30mに設定し(ステップS6)、対応するPCS、すなわちGFL 400L,GFM 400Mに対する制御信号を生成する。
また、最適潮流計算に当たっては、GFL 400L及びGFM 400Mへの有効電力の再配分を制限するために、目的関数としてPCSが出力する有効電力Pの修正量に対するペナルティを追加する。
【0033】
ここで、従来の最適潮流計算における目的関数、等式制約条件及び不等式制約条件は、有効電力P、無効電力Q、電圧振幅V及び電圧位相角δを状態変数として、例えば数式1によって表される。
【数1】
数式1における目的関数は、例えば、有効電力・無効電力の送電損失、電圧振幅・電圧位相角の逸脱量等を最小化するものであり、等式制約条件及び不等式制約条件は、有効電力・無効電力・電圧振幅・電圧位相角の上下限制約等である。
【0034】
これに対し、本実施形態では、後述する数式2に示すように、目的関数として、PCSが出力する有効電力Pの修正量に対するペナルティ「ρ ||P0-P||2」を追加する。ここで、ρはペナルティ係数、P0は中央演算装置21が制御端末装置301~30mから受信する現在の有効電力計測値、PはPCSに与えられる制御信号(指令値)としての有効電力である。
【0035】
更に、本実施形態では、過渡安定度が安定と判断される時のPCSの出力電圧Vの最大電圧位相差(電圧位相差のしきい値)Lに関する不等式制約条件「δ
max-δ
min≦L」を追加する。ここで、δ
maxは電圧位相角δの最大位相角、δ
minは同じく最小位相角であり、最大電圧位相差Lについては、最適潮流計算を実行する際に後述のステップS7の処理によって更新され、記憶されている最新の値を用いる。
【数2】
なお、目的関数、等式制約条件及び不等式制約条件は、上記の数式2に何ら限定されるものではない。
【0036】
ステップS4に戻って、過渡安定度計算用の離散時間tAが計算周期TAに達したらtAをゼロクリアし(ステップS4Yes)、過渡安定度計算手段21Bが過渡安定度計算を行って安定と判断される時の最大電圧位相差Lを更新し、記憶しておく(ステップS7)。
【0037】
本実施形態における過渡安定度の計算では、PCSの動特性を考慮するため、例えば非特許文献1,2に記載されているように詳細な時間軸シミュレーションを行うものであり、GFM 400Mから出力される有効電力計測値P0がその指令値Pに追従するように演算した電圧位相角δと電圧振幅Vとに基づいて制御信号を生成し、この制御信号に基づいてGFM 400Mを運転した時に、電力系統の電圧及び周波数の変動幅が所定範囲に収まる場合を「安定」と判断する。
詳しくは、無効電力を柔軟に出力可能な特徴を持つGFL 400Lの無効電力を増加させる方向に運用点(P,Qの組み合わせ)を探索していき、GFM 400Mの電圧位相角δ(変電所100とGFM 400Mとの電圧位相差)を最大電圧位相差L以下に減少させて脱調を未然に防ぐようにGFL 400L,GFM 400Mを制御することにより、過渡安定度を向上させる。
【0038】
図4は、上述した運用点の探索過程を概念的に示したPQ平面の説明図である。
図4において、想定事故が発生した時に不安定領域にある運用点をOP
kとし、その時のGFM 400Mの電圧位相角δを前記最大電圧位相差Lに等しい「∠36.2」とする。この電圧位相角δは、
図1のGFM 400Mに付記したカッコ内の「∠36.2」である。
【0039】
この運用点OP
kを始点として、GFL 400Lの無効電力Qの増加に対して最大電圧位相差L(GFM 400Mの電圧位相角δ)が減少する方向の運用点OP
k+1,……,OP
n-1,……を感度解析により探索していき、安定領域に入った運用点OP
nに対応する最大電圧位相差L、例えば「∠35.9」をGFM 400Mの新たな電圧位相角δとして設定すると同時に、
図3のステップS7に記載したように最大電圧位相差Lを上記「∠35.9」に更新して記録する。この最大電圧位相差L(電圧位相角δ)は、
図1のGFM 400Mに付記した太字の「∠35.9」である。
【0040】
すなわち、GFL 400Lの無効電力Qを増加させてGFM 400Mの電圧位相角δを減少させることにより、変電所100とGFM 400Mとの間の電圧位相差を減少させて脱調を未然に防ぎ、過渡安定度を向上させるものである。
図1では、GFL 400Lの無効電力Qをカッコ内の「0.0」から太字の「0.2」に増加させ、すなわち
図4におけるΔQを0.2とした場合を示している。
なお、
図4では、運用点がOP
kからOP
nに移動することでGFL 400Lの無効電力QがΔQだけ増加する一方、有効電力はΔPだけ減少することになるが、前述した数式2の目的関数におけるペナルティ「ρ ||P
0-P||
2」の効果により、減少量ΔPは最小限になり、有効電力の減少による経済的損失を抑制できると共に、追加的な負荷の遮断、周波数制御等の必要性も少なくなる。
【0041】
本実施形態においては、
図1の事故点Fに限らず、様々な地点における各種の系統事故を想定し、これら複数の系統事故に対して、変電所100、GFL 400L、GFM 400M、及び負荷600の状態量を用いて過渡安定度計算及び最適潮流計算を実行することにより、変電所100とGFM 400Mとの間の電圧位相差を減少させて電力系統を安定化させるためにGFL 400Lが出力するべき無効電力を予め算出し、記憶しておく。
そして、実際に系統事故が発生した際には、その事故点や事故の種類、系統の状態量等に応じて選択した適切な有効電力及び無効電力をGFL 400Lに出力させることにより、過渡安定度を向上させつつ有効電力の抑制量を低減させることができる。
【0042】
ここで、
図5は、非特許文献2において2台の同期発電機の有効電力を調整することにより電力系統を安定化させる運用点を探索する過程を概念的に示したものであり、OP
j,OP
j+1,……,OP
n-1,OP
nは探索過程における運用点を示す。この従来技術は有効電力ベースで安定な運用点を探索しているため、例えば一方の同期発電機の有効電力の減少分がΔP
g1となり、発電量が大幅に制限されるため売電機会が制限され、経済的損失が大きくなる。
これに対し、本実施形態では、GFL 400Lの無効電力を増加させる無効電力ベースで安定な運用点を探索しているので、有効電力の抑制による経済的損失も少なくて済む。
【0043】
なお、
図6は、本実施形態の系統安定化装置を備えていない従来の電力系統を想定し、事故点Fの発生時にGFM 400Mが出力する有効電力を減少させて過渡安定度を向上させる場合の各部の数値例を示している。この電力系統を対象にしたシミュレーションによれば、事故発生によりGFM 400Mの出力電圧及び周波数が不安定であった時の有効電力及び無効電力が「6.0+2.1j」であったとすると、有効電力を減少させて太字の「5.0」としたことにより、GFM 400Mの出力電圧及び周波数が安定状態に移行することが確認されている。
すなわち、この従来技術によれば、GFM 400Mの有効電力の減少が経済的損失を招き、特に自立系統では負荷の遮断や周波数制御等が追加的に求められるおそれがあるが、本実施形態の系統安定化装置を導入すれば、前述したように有効電力の抑制量ひいては経済的損失を低減できる利点がある。
【符号の説明】
【0044】
101,10n:事故検出端末装置
20:安定化演算手段
21:中央演算装置
21A:過渡安定度計算手段
21B:最適潮流計算手段
301,30m:制御端末装置
41,42:通信回線
100:変電所
201,202:送電線
301,302:母線
400L:電流制御型PCS(GFL)
400M:電圧制御型PCS(GFM)
401,403:太陽電池
402,404:電流・電圧検出器
500:系統安定化装置
600:負荷
601:電流・電圧検出器
F:事故点