IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ピラー工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-支承装置 図1
  • 特開-支承装置 図2
  • 特開-支承装置 図3
  • 特開-支承装置 図4
  • 特開-支承装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176153
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】支承装置
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20231206BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
E04H9/02 331E
F16F15/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088280
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】林田 佑介
(72)【発明者】
【氏名】林 哲也
(72)【発明者】
【氏名】津田 知英
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139CA24
3J048AA03
3J048BC08
3J048BD01
3J048BD03
3J048BG04
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】大きな外力が作用しても構造物に作用する反力を低減できる支承装置を提供することを目的とする。
【解決手段】上部構造物200及び下部構造物300におけるそれぞれの対向部分に配設した上沓10及び下沓20で構成され、上沓10及び下沓20との対向部分における摺動面10a,20a同士が摺動する滑り支承装置1として、上沓摺動面10aを構成する滑り材12が上沓10に備えられ、下沓摺動面20aを構成するとともに、滑り材12より広いスライドプレート22がスライドプレート22に備えられ、スライドプレート22の一部に、表面の粗面化処理によって他の部分より摩擦係数の高い粗面化処理部23が設けられ、滑り材12が、粗面化処理された粗面化処理部23を摺動することで平滑化するよう構成した。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1構造物及び第2構造物におけるそれぞれの対向部分に配設した第1沓及び第2沓で構成され、前記第1沓及び前記第2沓との対向部分における摺動面同士が摺動する支承装置であって、
前記第1沓及び前記第2沓の一方に、前記摺動面を構成する滑り部材が備えられ、
他方に前記摺動面を構成するとともに、前記滑り部材より広い滑り板材が備えられ、
前記滑り板材の一部に、
表面の粗面化処理によって他の部分より摩擦係数の高い高摩擦係数部分が設けられ、
前記滑り部材が、粗面化処理された前記高摩擦係数部分を摺動することで平滑化する
支承装置。
【請求項2】
前記高摩擦係数部分は、
前記滑り板材において、前記滑り部材が配置される配置領域に設けられた
請求項1に記載の支承装置。
【請求項3】
前記高摩擦係数部分は、
前記滑り部材における摺動面の面積より狭く設定された
請求項1に記載の支承装置。
【請求項4】
前記滑り板材は金属製板材で構成され、
前記高摩擦係数部分は、前記金属製板材の表面に対するブラスト処理によって粗面化処理された
請求項1に記載の支承装置。
【請求項5】
前記滑り板材は、オーステナイト系ステンレス鋼である
請求項4に記載の支承装置。
【請求項6】
前記滑り部材は、
充填材が混入された充填材入り樹脂で構成された
請求項1に記載の支承装置。
【請求項7】
前記充填材は、ガラス繊維であり、
樹脂材に対して10~30%混入された
請求項6に記載の支承装置。
【請求項8】
前記第1構造物は上部構造物であり、
前記第2構造物は前記上部構造物を支持する下部構造物であり、
前記第1沓は前記上部構造物に固定された上沓であり、
前記第2沓は前記下部構造物に固定された下沓である
請求項1乃至請求項7のうちいずれかに記載の支承装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、上部構造物と下部構造物との間に配置し、下部構造物で上部構造物を支持する支持構造における支承装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、免震構造物、あるいは固定構造物同士を接続する接続部分等の振動や相対変位が生じる構造物において、可動支持する支承装置がある。これらの支承装置は、上部構造物に設けた上沓と、下部構造物に設けた下沓とが備えられ、上沓と下沓の摺動面同士が摺動し、可動支持可能に構成している。
【0003】
そして、一方の摺動面に摩擦係数が異なる部分を設け、摩擦係数が大きな部分で、大規模な地震動などの大きな外力に対応できる支承装置がある。
例えば、その一例である特許文献1に示す支承装置は、すべり板本体の表面の中心部に形成された所定の動摩擦係数のトリガーゾーンと、トリガーゾーンの外周に形成されてトリガーゾーンの動摩擦係数よりも小さい動摩擦係数を有する免震ゾーンと、免震ゾーンの外周に形成されて免震ゾーンの動摩擦係数よりも大きい動摩擦係数を有するブレーキゾーンと、ブレーキゾーンの外周に形成されてトリガーゾーン及びブレーキゾーンの動摩擦係数よりも大きい動摩擦係数を有するストッパーゾーンとを備えている。
【0004】
上記構成により、特許文献1に記載の支承装置は、過大な水平変位時において、上部構造体に衝撃や被害を加えることなく摺動支承の過大な移動を阻止できるストッパー機能を発揮することができるとされている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の支承装置は、移動した位置から初期位置に復帰する際にも摩擦係数が大きいトリガーゾーン及びブレーキゾーンを通過するため、構造物に作用する反力が大きくなり、構造物の剛性に影響が及んだり、剛性アップするためのコストが増大したりするおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-257001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明では、大きな外力が作用しても構造物に作用する反力を低減できる支承装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、第1構造物及び第2構造物におけるそれぞれの対向部分に配設した第1沓及び第2沓で構成され、前記第1沓及び前記第2沓との対向部分における摺動面同士が摺動する支承装置であって、前記第1沓及び前記第2沓の一方に、前記摺動面を構成する滑り部材が備えられ、他方に前記摺動面を構成するとともに、前記滑り部材より広い滑り板材が備えられ、前記滑り板材の一部に、表面の粗面化処理によって他の部分より摩擦係数の高い高摩擦係数部分が設けられ、前記滑り部材が、粗面化処理された前記高摩擦係数部分を摺動することで平滑化することを特徴とする。
【0009】
上記第1構造物及び第2構造物は、例えば、ビルを第1構造物とし、基礎構造を第2構造物とする建造物、橋脚を第2構造物とし、主桁を第1構造物とする橋梁、ビルを第2構造物とし、ビルとビルとを連絡する渡り廊下を第1構造物とする連絡通路、柱を第2構造物とし、トラス屋根を第1構造物とする屋根構造、あるいは、ビルを第2構造物とし、別のビルを第1構造物とするエキスパンション構造における構造物としてもよい。あるいは、サーバを第1構造物とし、ラックを第2構造物とする構造物であってもよい。
【0010】
上記支承装置は、剛滑り支承、弾性滑り支承など様々な構造の支承装置が含まれる。
上述の高い摩擦係数は、静止摩擦係数及び動摩擦係数のうち少なくとも一方が他の部分の摩擦係数に比べて高いことをいう。
【0011】
この発明により、大きな外力が作用しても構造物に作用する反力を低減することができる。
詳述すると、地震動などの外力が入力されると、前記第1沓及び前記第2沓の一方に設けられた滑り部材は、他方に設けられた滑り板材上を摺動することとなる。なお、滑り板材の一部には、表面の粗面化処理によって他の部分より摩擦係数の高い高摩擦係数部分設けられている。
【0012】
このとき、入力された外力が風荷重など小さいと、滑り部材が高摩擦係数部分より摩擦係数の低い他の部分を摺動できるが、摩擦係数が高い高摩擦係数部分に対して摺動することができない、つまり高摩擦係数部分はストッパーとして機能し、摺動規制することができる。これに対し、入力された外力が大きくなると滑り部材は、摩擦係数の低い他の部分はもちろん、高摩擦係数部分も摺動することができる。
なお、表面が粗面化処理されて高い摩擦係数を有する前記高摩擦係数部分は、滑り部材が摺動することで前記高摩擦係数部分の表面が平滑化され、摩擦係数を低減することができる。
【0013】
したがって、平滑化され、摩擦係数が低減された前記高摩擦係数部分を滑り部材が摺動しても構造物に作用する反力を低減することができる。
よって、大きな外力が繰り返し作用しても、構造物の剛性に影響が及んだり、剛性アップするためのコストが増大したりするようなことを防止できる。
【0014】
この発明の態様として、前記高摩擦係数部分は、前記滑り板材において、前記滑り部材が配置される配置領域に設けられてもよい。
上記配置領域とは、可動支持できる支承装置において、可動する前の初期状態において、滑り板材の摺動面(表面)に対して配置された滑り部材の摺動面が配置される範囲である。配置領域に設けられる前記高摩擦係数部分は、その全部または一部が配置領域の一部または全部に設けられることを指す。
【0015】
この発明により、高摩擦係数部分の高い摩擦係数を超えるような大きな外力が作用した場合に可動するように構成することができる。
詳述すると、他の部分より摩擦係数が高い高摩擦係数部分が前記滑り板材において前記滑り部材が配置される配置領域に設けられているため、滑り板材に対して初期位置に配置された滑り部材は高摩擦係数部分と対向し、当接している。そのため、滑り部材と高摩擦係数部分との対向面の摩擦係数を超えない、例えば、風荷重や数十年に一度発生するおそれがある中地震(LV1)などの小さい外力が作用しても滑り板材に対して滑り部材が摺動することなく、数百年に一度発生するおそれがある大地震(レベル2)や数千年に一度発生するおそれがある極大地震(レベル3)などの大規模地震動のような大きな外力が作用すると、滑り部材と高摩擦係数部分との対向面の摩擦係数を超え、滑り板材に対して滑り部材が摺動することとなる。つまり、小さな外力に対しては摺動規制し、大きな外力が最初に作用した際に可動支持できる支承装置を構成することができる。
【0016】
またこの発明の態様として、前記高摩擦係数部分は、前記滑り部材における摺動面の面積より狭く設定されてもよい。
この発明により、滑り部材の摺動面より高摩擦係数部分が小さいため、高摩擦係数部分全体が滑り部材の摺動面と対向し、当接しているため、外力の作用方向を問わず、摺動規制することができる。
【0017】
特に、前記滑り部材における摺動面の面積より狭く設定された前記高摩擦係数部分が、前記滑り板材において、前記滑り部材が配置される配置領域に設けられた場合、外力の作用方向を問わず、高摩擦係数部分の高い摩擦係数を超えるような大きな外力が、作用した場合に可動するように構成することができる。
【0018】
またこの発明の態様として、前記滑り板材は金属製板材で構成され、前記高摩擦係数部分は、前記金属製板材の表面に対するブラスト処理によって粗面化処理されてもよい。
この発明により、他の部分より摩擦係数が高くなる粗面処理を均一に施すことができ、高品質な高摩擦係数部分を得ることができる。
【0019】
またこの発明の態様として、前記滑り板材は、オーステナイト系ステンレス鋼であってもよい。
この発明により、耐食性に優れた滑り板材を構成することができるとともに、オーステナイト系ステンレス鋼は幅広い用途で使用されているため、品質の高い滑り板材を容易に得ることができる。
【0020】
また、オーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性に加え、延性・靭性に優れているほか、冷間加工性が良好であるため、ブラスト処理などの粗面化処理によって他の部分より摩擦係数の高い前記高摩擦係数部分を確実に構成することができる。
【0021】
またこの発明の態様として、前記滑り部材は、充填材が混入された充填材入り樹脂で構成されてもよい。
この発明により、所望の摺動性を有するととともに、充填材が混入されているため、所定の強度を有する滑り部材を構成することができる。したがって、高摩擦係数部分に対して滑り部材を摺動させることで粗面化処理された高摩擦係数部分を確実に平滑化することができる。
【0022】
またこの発明の態様として、前記充填材は、ガラス繊維であり、樹脂材に対して10~30%混入されてもよい。
この発明により、所望の摺動性を有するととともに、充填材が混入されているため、所定の強度を有する滑り部材を構成することができる。
【0023】
詳述すると、樹脂材に対して混入するガラス繊維が10%より少ない場合、所望の強度が得られないため、高摩擦係数部分に対して滑り部材が摺動しても、粗面化処理された高摩擦係数部分を十分に平滑化することができない。逆に、樹脂材に対して30%より多くガラス繊維が樹脂材に対して混入されると、高摩擦係数部分に対して滑り部材が摺動することで粗面化処理された高摩擦係数部分を十分に平滑化することができるものの、摺動性が低減する。
【0024】
つまり、樹脂材に対してガラス繊維を10~30%混入することで、所望の摺動性を有するとともに、所定の摺動性で滑り板材に対して滑り部材が摺動し、粗面化処理された高摩擦係数部分を十分に平滑化することができる滑り部材を高品質で構成することができる。
【0025】
またこの発明の態様として、前記第1構造物は上部構造物であり、前記第2構造物は前記上部構造物を支持する下部構造物であり、前記第1沓は前記上部構造物に固定された上沓であり、前記第2沓は前記下部構造物に固定された下沓であってもよい。
【0026】
この発明により、上部構造物に固定された上沓に滑り部材が設けられ、下部構造物に固定された下沓に、滑り部材より広い滑り板材が設けられているため、上部構造物に固定された上沓に滑り板材が設けられ、下部構造物に固定された下沓に滑り部材が設けられて支承装置に比べて、安定した可動支持を実現することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、大きな外力が作用しても構造物に作用する反力を低減できる支承装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】滑り支承装置の概略断面図。
図2】滑り支承装置の分解斜視図。
図3】下沓の平面図。
図4】スライドプレートの製造についての概略説明図。
図5】スライドプレートに滑り材を摺動させた際の摩擦係数履歴ループ図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明の一実施形態を以下図面と共に説明する。
図1は滑り支承装置1の概略断面図を示し、図2は滑り支承装置1の分解斜視図を示し、図3は下沓20の平面図を示し、図4はスライドプレート22の製造についての概略説明図を示し、図5はスライドプレート22に滑り材12を摺動させた際の摩擦係数履歴ループ図を示している。
【0030】
なお、図4(a)は粗面化処理部23を形成する前のスライドプレート22の平面図を示している。ここで粗面化処理部23を形成する箇所である粗面化処理形成部23aを破線で示している。図4(b)は粗面化処理部23が形成されたスライドプレート22の平面図を示している。
【0031】
また、図5(a)は粗面化処理部23が形成されたスライドプレート22に対して滑り材12を1回目に摺動させた際の摩擦係数履歴ループ図を示し、図5(b)はスライドプレート22に対して滑り材12を2回目に摺動させた際の摩擦係数履歴ループ図を示している。
さらに、下沓20の平面図を示す図3では、スライドプレート22に対向し、摺動する上沓10の滑り材12の初期位置を破線で示している。
【0032】
滑り支承装置1は、免震構造物100を構成する上部構造物200と下部構造物300との間に配設される免震装置であり、上部構造物200に固定された上沓10と、下部構造物300に固定された下沓20とで構成され、上沓10と下沓20の境界面、つまり摺動面(10a,20a)が摺動することで、境界面(摺動面)における面内方向に変位可能に支持し、例えば、地震や強い風等による振動エネルギを吸収し、免震することができる。
【0033】
詳しくは、滑り支承装置1は、図1に示すように、上部構造物200の底面200aに固定された上沓10と、下部構造物300の上面300aに固定された下沓20とで構成している。
【0034】
詳しくは、上沓10は、上部構造物200の底面200aに固定される滑り材ホルダ11と、滑り材ホルダ11に保持された滑り材12とで構成している。
滑り材ホルダ11は、上部構造物200の底面200aに固定される取付部11aと、取付部11aから下方に向かって突出する円柱状の台座部11bとが一体構成されている。
【0035】
滑り材12は、台座部11bの底面に固定される円盤状であり、適宜の滑り性能を有している。なお、滑り材12は台座部11bよりひとまわり小さな径で形成している。
具体的には、滑り材12は、自己潤滑性を有するとともに、表面が低摩擦係数のPTFE製の平面視円形の板状体である。より詳しくは、ガラス繊維を10~30%の配合比率で含んだ充填材入りPTFE製である。このように、ガラス繊維を充填材として含んだ充填材入りPTFE製で構成した滑り材12の底面12aは上沓10の上沓摺動面10aを構成し、所定の滑り性と、後述するスライドプレート22と摺動した際に粗面化処理された粗面化処理部23を平滑化できる強度とを兼ね備えている。なお、滑り材12は、所定の要求性能を満足すれば充填材入りPTFE製でなくてもよいし、充填材としてガラス繊維でなく、所定の材料を用いてもよい。
【0036】
下沓20は、下部構造物300の上面300aに固定されるバックプレート21と、バックプレート21上に装着されるスライドプレート22とで構成し、スライドプレート22の上面22aで、上述の上沓10の上沓摺動面10aと摺動する下沓摺動面20aを構成している。
【0037】
なお、図3及び図4に示すように、バックプレート21は平面視正方形に形成され、スライドプレート22はバックプレート21よりひとまわり小さな平面視八角形に形成されている。
スライドプレート22は、所定の厚みを有するオーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)の板材で構成している。なお、スライドプレート22は、後述する粗面化処理等が施すことができ、その他の要求性能が満足すれば、オーステナイト系ステンレス鋼に限定されず、適宜の材料で構成された板材を用いてもよい。
【0038】
そして、スライドプレート22の上面22aには、粗面化処理部23を形成している。
粗面化処理部23は、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)の板材で構成されたスライドプレート22の上面22aにおける所定の位置及び範囲に粗面化処理が施され、上面22aにおける他の部分に比べて摩擦係数が増大している箇所である。
【0039】
なお、粗面化処理部23をスライドプレート22の上面22aに形成するための粗面化処理としては、例えば、ブラスト加工を用いることができる。
ブラスト加工は、粗面化処理を施す箇所に対して、研磨剤を吹きつけることで、素材表面に無方向の微細な凹凸を形成する加工方法である。
【0040】
図4(a)において破線で示すように、スライドプレート22の上面22aにおける所定位置に粗面化処理部23を形成するためには、まず所定箇所以外のところをマスキングし、所定箇所に対して研磨剤を噴射して、図4(b)に示すように、表面に無方向の微細な凹凸を形成し、粗面化処理部23を形成する。
【0041】
なお、粗面化処理部23の摩擦係数は、表面に形成された凹凸によって異なり、例えば、粒径や材質の異なる様々な研磨材を、エアーブラスト、ウエットブラストあるいはショットブラストなどの様々な噴射方法で、さらには、研磨剤の噴射距離や噴射圧力等を調整して噴射することで、所望の摩擦係数を有する粗面化された粗面化処理部23を形成することができる。
【0042】
本実施形態では、粗面化処理部23は、上沓10とで構成した滑り支承装置1において、LV3相当のいわゆる極大地震動によって、底面12aで構成する上沓摺動面10aと摺動するような摩擦係数となる無方向の微細な凹凸を表面に形成する粗面化処理を施している。
【0043】
なお、このようにブラスト加工された粗面化処理部23は、研削材の衝突により凹状にへこむところと凸状に盛り上がるところとで、いわゆる凹凸が形成されるものの、凹凸状は数μm程度であり、スライドプレート22の強度に影響することはない。
【0044】
粗面化処理部23は、平面視八角形状に形成されたスライドプレート22の上面22aの平面視中心位置において、図3において破線で示す滑り材12の底面12aよりひとまわり小さな円形状に形成されている。
【0045】
各要素が上述のように構成された上沓10及び下沓20は、台座部11bに滑り材12が取り付けられた取付部11aを上部構造物200の底面200aに固定するとともに、下部構造物300の上面300aに固定したバックプレート21に粗面化処理部23が形成されたスライドプレート22を固定し、スライドプレート22の上面22aと滑り材12の底面12aとが上下方向に対向して当接するように配置して、滑り支承装置1を構成する。
【0046】
このとき、スライドプレート22の平面視中央に滑り材12が配置されるように滑り支承装置1を構成することで、滑り材12の径より小径に形成された粗面化処理部23の全面が、底面12aと上下方向に対向して当接することとなる。
【0047】
そのため、粗面化処理部23と底面12aとの摩擦係数がLV3相当のいわゆる極大地震動によって上沓10の上沓摺動面10aと下沓20の下沓摺動面20aとが摺動することとなる。
【0048】
このように構成された滑り支承装置1が設けられた免震構造物100において、LV3相当のいわゆる極大地震動より小さな外力が作用しても、粗面化処理部23と底面12aとの摩擦力を超えることがなくストッパーとして機能して摺動規制され、上沓10の上沓摺動面10aと下沓20の下沓摺動面20aとは摺動しない。
【0049】
これに対し、LV3相当のいわゆる極大地震動が作用すると、粗面化処理部23と底面12aとの摩擦力を越え、上沓10の上沓摺動面10aと下沓20の下沓摺動面20aとが摺動することとなる。
【0050】
上沓10の上沓摺動面10aと下沓20の下沓摺動面20aとが摺動すると、具体的には、上下方向に対向して当接する滑り材12の底面12aとスライドプレート22の上面22aに形成した粗面化処理部23とが摺動すると、粗面化処理された粗面化処理部23は摺動する滑り材12の底面12aによって平滑化され、粗面化処理部23と底面12aとの摩擦係数が低減する。
【0051】
なお、滑り材12の底面12aの摺動による粗面化処理部23の平滑化は、粗面化処理部23に対して滑り材12の底面12aが初めて摺動することで起こる。つまり、粗面化処理部23の平滑化は、滑り出し時(一度目の摺動時)に起こり、その後の摺動では、粗面化処理により形成されたざらざら或いはでこぼこが無くなり平滑化された粗面化処理部23となる。平滑化された粗面化処理部23は、スライドプレート22の上面22aに対する摺動性と同等程度の摺動性で摺動することとなる。
【0052】
このように、滑り材12の底面12aの摺動によって粗面化処理部23が平滑化されるまでは、つまり、粗面化処理部23に対する滑り材12の底面12aの滑り出し時には、スライドプレート22に滑り材12を摺動させた際の摩擦係数履歴ループ図である図5(a)に示すように、地震動の入力によって、粗面化処理部23と滑り材12の底面12aとの摩擦力に対する反力として上部構造物200や下部構造物300に作用するが、図5(b)に示すように、粗面化処理部23に対する滑り材12の底面12aの滑り出しによって粗面化処理部23は低減されるため、上述の反力による影響は小さくなる。
【0053】
詳述すると、粗面化処理部23に対して滑り材12の底面12aが初めて滑り出すと、図5(a)において囲った部分で示すように、摩擦係数は高くなるが、反力が作用する距離は数mm程度であり、そのあと、摩擦係数は低減する。さらに、粗面化処理部23に対して滑り材12の底面12aが再度摺動しようとすると、図5(b)に示すように、当初の粗面化処理された粗面化処理部23に対して滑り材12の底面12aが摺動する場合のように摩擦係数が高くなることはない。
【0054】
上述のように、免震構造物100において、上部構造物200及び下部構造物300におけるそれぞれの対向部分に配設した上沓10及び下沓20で構成され、上沓10及び下沓20との対向部分における摺動面10a,20a同士が摺動する滑り支承装置1として、上沓摺動面10aを構成する滑り材12が上沓10に備えられ、下沓摺動面20aを構成するとともに、滑り材12より広いスライドプレート22が下沓20に備えられ、スライドプレート22の一部に、表面の粗面化処理によってスライドプレート22の上面22aにおける他の部分より摩擦係数の高い粗面化処理部23が設けられ、滑り材12が、粗面化処理された粗面化処理部23を摺動することで平滑化するよう構成したため、大きな外力が作用しても構造物に作用する反力を低減することができる。
【0055】
詳述すると、地震動などの外力が入力されると、上沓10に設けられた滑り材12は、下沓20に設けられたスライドプレート22上を摺動することとなる。なお、スライドプレート22の一部には、表面の粗面化処理によってスライドプレート22の上面22aにおける他の部分より摩擦係数の高い粗面化処理部23が設けられている。
【0056】
このとき、入力された外力が風荷重など小さい場合、滑り材12が粗面化処理部23より摩擦係数の低い他の部分を摺動できるが、摩擦係数が高い粗面化処理部23に対して摺動することができない、つまり粗面化処理部23はストッパーとして機能し、摺動規制することができる。これに対し、入力された外力が大きい場合、滑り材12は、摩擦係数の低い他の部分はもちろん、粗面化処理部23も摺動することができる。
このように、表面が粗面化処理されて高い摩擦係数を有する粗面化処理部23は、滑り材12が摺動することで粗面化処理部23の表面が平滑化され、摩擦係数を低減することができる。
【0057】
したがって、平滑化され、摩擦係数が低減された粗面化処理部23を滑り材12が摺動しても構造物に作用する反力を低減することができ、大きな外力が繰り返し作用しても、構造物の剛性に影響が及んだり、剛性アップするためのコストが増大したりするようなことを防止できる。
【0058】
また、粗面化処理部23は、スライドプレート22において、滑り材12が配置される配置領域に設けられているため、粗面化処理部23の高い摩擦係数を超えるような大きな外力が作用した場合に可動するように構成することができる。
【0059】
詳述すると、スライドプレート22の上面22aにおける他の部分より摩擦係数が高い粗面化処理部23がスライドプレート22において滑り材12が配置される配置領域に設けられているため、スライドプレート22に対して初期位置に配置された滑り材12の底面12aは粗面化処理部23と上下方向に対向し当接している。
【0060】
そのため、滑り材12と粗面化処理部23との対向面の摩擦係数を超えない、例えば、風荷重や数十年に一度発生するおそれがある中地震(LV1)などの小さい外力が作用してもスライドプレート22に対して滑り材12が摺動することなく、数百年に一度発生するおそれがある大地震(レベル2)や数千年に一度発生するおそれがある極大地震(レベル3)などの大規模地震動のような大きな外力が作用すると、滑り材12と粗面化処理部23との対向面の摩擦係数を超え、スライドプレート22に対して滑り材12が摺動することとなる。つまり、小さな外力に対しては粗面化処理部23が摺動規制し、大きな外力が最初に作用した際に粗面化処理部23に対して滑り材12が摺動して可動支持できる滑り支承装置1を構成することができる。
【0061】
また、粗面化処理部23は、滑り材12における底面12a(上沓摺動面10a)の面積より狭く設定されているため、粗面化処理部23全体が滑り材12の底面12a(上沓摺動面10a)と上下方向に対向して当接することになり、外力の作用方向を問わず、摺動規制することができる。
【0062】
また、滑り材12における底面12a(上沓摺動面10a)の面積より狭く設定された粗面化処理部23が、スライドプレート22において、滑り材12が配置される配置領域に設けられているため、外力の作用方向を問わず、粗面化処理部23の高い摩擦係数を超えるような大きな外力が作用した場合に可動するように構成することができる。
【0063】
また、スライドプレート22は金属製板材で構成され、粗面化処理部23は、金属製板材の表面に対するブラスト処理によって粗面化処理されているため、スライドプレート22の上面22aにおける他の部分より摩擦係数が高くなる粗面処理を均一に施すことができ、高品質な粗面化処理部23を得ることができる。
【0064】
また、スライドプレート22は、オーステナイト系ステンレス鋼であるため、耐食性に優れている。また、オーステナイト系ステンレス鋼は幅広い用途で使用されているため、品質の高いスライドプレート22を容易に得ることができる。
【0065】
また、オーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性に加え、延性・靭性に優れているほか、冷間加工性が良好であるため、ブラスト処理などの粗面化処理によってスライドプレート22の上面22aにおける他の部分より摩擦係数の高い粗面化処理部23を確実に構成することができる。
【0066】
また、滑り材12は、充填材が混入された充填材入り樹脂で構成されているため、所望の摺動性を有するととともに、混入された充填材により、所定の強度を有する滑り材12を構成することができる。したがって、粗面化処理部23に対して滑り材12を摺動させることで粗面化処理された粗面化処理部23を確実に平滑化することができる。
【0067】
また、充填材は、ガラス繊維であり、樹脂材に対して10~30%の比率で混入されているため、所望の摺動性を有するととともに、充填材の混入によって所定の強度を有する滑り材12を構成することができる。
【0068】
詳述すると、樹脂材に対して混入するガラス繊維が10%より少ない場合、所望の強度が得られないため、粗面化処理部23に対して滑り材12が摺動しても、粗面化処理された粗面化処理部23を十分に平滑化することができない。
【0069】
逆に、樹脂材に対して30%より多くガラス繊維が樹脂材に対して混入されると、粗面化処理部23に対して滑り材12が摺動することで粗面化処理された粗面化処理部23を十分に平滑化することができるものの、摺動性が低減する。
【0070】
つまり、樹脂材に対してガラス繊維を10~30%混入することで、所望の摺動性を有するとともに、所定の摺動性でスライドプレート22に対して滑り材12が摺動し、粗面化処理された粗面化処理部23を十分に平滑化することができる滑り材12を高品質で構成することができる。
【0071】
また、滑り材12を有する上沓10が下部構造物300の上面300aに固定され、滑り材12より広いスライドプレート22を有する下沓20が上部構造物200の底面200aに固定された支承装置に比べて、滑り材12を有する上沓10が上部構造物200の底面200aに固定され、スライドプレート22を有する下沓20が下部構造物300の上面300aに固定された滑り支承装置1は、安定した可動支持を実現することができる。
【0072】
以上、本発明の構成と、前述の実施態様との対応において、本発明の第1構造物は上部構造物200に対応し、
以下同様に、
第2構造物は下部構造物300に対応し、
第1沓は上沓10に対応し、
第2沓は下沓20に対応し、
摺動面は摺動面10a,20aに対応し、
支承装置は滑り支承装置1に対応し、
滑り部材は滑り材12に対応し、
滑り板材はスライドプレート22に対応し、
高摩擦係数部分は粗面化処理部23に対応するも、上記実施形態に限定するものではない。
【0073】
例えば、上述の説明においては、滑り支承装置1は、上沓10において滑り材ホルダ11の台座部11bに滑り材12が固定された剛滑り支承であったが、上沓10において、台座部11bに対して弾性部材を介在させたピストンに滑り材12を取り付けた弾性滑り支承であってもよい。
【0074】
さらに、上述の滑り支承装置1は、下沓20に対して、平面視においていずれの方向にも摺動可能に構成したが、所定方向に長い下沓に対して上沓が所定方向に摺動する一方向支承装置であってもよい。
【0075】
また、粗面化処理部23は、滑り材12の底面12aより小径に形成したが、底面12aと同径あるいは大径で形成してもよい。また、滑り支承装置1の初期状態において滑り材12と粗面化処理部23の平面視の中心が一致しなくてもよい。
【0076】
また、上述の滑り支承装置1の下沓20は、スライドプレート22の平面視中央に粗面化処理部23を形成したが、滑り材12の底面12aより大径の内周を有するリング状に粗面化処理部23を形成してもよい。この場合、リング状の粗面化処理部23の平面視内側においては、小さな外力によって滑り材12の底面12aはスライドプレート22の上面22aと摺動し、リング状の粗面化処理部23がストッパーとして機能して摺動範囲を規制することができる。
【0077】
そして、大規模な地震動が入力されることでリング状の粗面化処理部23の一部に滑り材12が摺動することができる。この場合も、最初にリング状の粗面化処理部23の一部を滑り材12が摺動することで当該部分は平滑化されることとなる。
【0078】
また、上述の説明では、上部構造物200と下部構造物300との間に滑り支承装置1を配置した免震構造物100について説明したが、橋脚を下部構造物300とし、主桁を上部構造物200とする橋梁、ビルを下部構造物300とし、ビルとビルとを連絡する渡り廊下を上部構造物200とする連絡通路、柱を下部構造物300とし、トラス屋根を上部構造物200とする屋根構造、あるいは、ビルを上部構造物200とし、別のビルを下部構造物300とするエキスパンション構造における構造物、あるいは、サーバを上部構造物200とし、ラックを下部構造物300とする構造物とし、それらの可動部分に滑り支承装置1を設けた免震構造を構築してもよい。
【符号の説明】
【0079】
1…滑り支承装置
10…上沓
10a…上沓摺動面
12…滑り材
20…下沓
20a…下沓摺動面
22…スライドプレート
23…粗面化処理部
200…上部構造物
300…下部構造物
図1
図2
図3
図4
図5