(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176169
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】窒化物半導体発光素子
(51)【国際特許分類】
H01L 33/06 20100101AFI20231206BHJP
H01L 33/32 20100101ALI20231206BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
H01L33/06
H01L33/32
H01S5/343 610
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088313
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼尾 一史
(72)【発明者】
【氏名】ペルノ シリル
【テーマコード(参考)】
5F173
5F241
【Fターム(参考)】
5F173AG13
5F173AG17
5F173AH22
5F241AA03
5F241AA04
5F241AA40
5F241CA05
5F241CA13
5F241CA22
5F241CA40
5F241CA65
5F241CB15
5F241CB36
5F241FF16
(57)【要約】
【課題】発光出力の向上を図ることができる窒化物半導体発光素子を提供する。
【解決手段】窒化物半導体発光素子1は、n型半導体層4と、n型半導体層4上に形成され、紫外光を発する活性層6と、活性層6上に形成された電子ブロック層7と、電子ブロック層7上に形成されたp型半導体層8と、を備える。活性層6及び電子ブロック層7には、ピット10が形成されている。電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度は、7.0×10
7個/cm
2以上1.8×10
9個/cm
2以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型半導体層と、
前記n型半導体層上に形成され、紫外光を発する活性層と、
前記活性層上に形成された電子ブロック層と、
前記電子ブロック層上に形成されたp型半導体層と、を備え、
前記活性層及び前記電子ブロック層には、ピットが形成されており、
前記電子ブロック層の上面における前記ピットの密度は、7.0×107個/cm2以上1.8×109個/cm2以下である、
窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記電子ブロック層の前記上面における前記ピットの密度は、1.0×109個/cm2以下をさらに満たす、
請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記電子ブロック層の前記上面まで形成された前記ピットは、10nm以上60nm以下の厚みを有する、
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記電子ブロック層の前記上面まで形成された前記ピットは、前記電子ブロック層の前記上面の位置において、100nm以下の直径を有する、
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記p型半導体層は、前記電子ブロック層に接するp型コンタクト層である、
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、窒化物半導体発光素子として、発光層に結晶欠陥の一種であるVピットが形成されたものが開示されている。そして、特許文献1には、発光層にVピットが形成されることで、非発光性の再結合の発生が抑制されて発光効率が向上する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の窒化物半導体発光素子においては、発光出力を向上させる観点から改善の余地がある。
【0005】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、発光出力の向上を図ることができる窒化物半導体発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記の目的を達成するため、n型半導体層と、前記n型半導体層上に形成され、紫外光を発する活性層と、前記活性層上に形成された電子ブロック層と、前記電子ブロック層上に形成されたp型半導体層と、を備え、前記活性層及び前記電子ブロック層には、ピットが形成されており、前記電子ブロック層の上面における前記ピットの密度は、7.0×107個/cm2以上1.8×109個/cm2以下である、窒化物半導体発光素子を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、発光出力の向上を図ることができる窒化物半導体発光素子を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態における、窒化物半導体発光素子の構成を概略的に示す模式図である。
【
図2】実施の形態における、ピット付近を拡大した窒化物半導体発光素子の模式的な端面図である。
【
図3】実施の形態及び実施例1における、電子ブロック層の上面のAFM画像である。
【
図4】実施例2における、電子ブロック層の上面のAFM画像である。
【
図5】比較例1における、電子ブロック層の上面のAFM画像である。
【
図6】比較例2における、電子ブロック層の上面のAFM画像である。
【
図7】実験例における、電子ブロック層の上面におけるピットの密度と、発光出力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、
図1乃至
図3を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0010】
(窒化物半導体発光素子1)
図1は、窒化物半導体発光素子1の構成を概略的に示す模式図である。なお、
図1において、窒化物半導体発光素子1(以下、単に「発光素子1」ともいう。)の各層の積層方向の寸法比は、必ずしも実際のものと一致するものではない。
【0011】
発光素子1は、例えば発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)又は半導体レーザ(LD:Laser Diode)を構成するものである。本形態において、発光素子1は、紫外領域の波長の光を発する発光ダイオードを構成するものである。特に、本形態の発光素子1は、中心波長が240nm以上365nm以下の紫外光を発する。発光素子1は、例えば殺菌(例えば空気浄化、浄水等)、医療(例えば光線治療、計測・分析等)、UVキュアリング等の分野において用いることができる。
【0012】
発光素子1は、基板2上に、バッファ層3、n型半導体層4、組成傾斜層5、活性層6、電子ブロック層7、及びp型半導体層8を順次備える。また、発光素子1は、n型半導体層4上に設けられたn側電極11と、p型半導体層8上に設けられたp側電極12とを備える。
【0013】
発光素子1を構成する半導体としては、例えば、AlaGabIn1-a-bN(0≦a≦1、0≦b≦1、0≦a+b≦1)にて表される2~4元系のIII族窒化物半導体を用いることができる。本形態においては、発光素子1を構成する半導体として、AlcGa1-cN(0≦c≦1)にて表される2元系又は3元系のIII族窒化物半導体を用いている。これらのIII族元素の一部は、ホウ素(B)、タリウム(Tl)等に置き換えてもよい。また、窒素の一部をリン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)等で置き換えてもよい。
【0014】
基板2は、活性層6が発する光を透過する材料からなる。基板2は、例えばサファイア(Al2O3)基板である。基板2の上面は、c面である。このc面は、オフ角を有するものであってもよい。また、基板2として、例えば窒化アルミニウム(AlN)基板又は窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)基板等を用いてもよい。
【0015】
バッファ層3は、基板2上に形成されている。本形態において、バッファ層3は、窒化アルミニウムにより形成されている。なお、基板2が窒化アルミニウム基板又は窒化アルミニウムガリウム基板である場合、バッファ層3は必ずしも設けなくてもよい。また、バッファ層3は、窒化アルミニウムからなる層の上に形成された、アンドープのAlpGa1-pN(0≦p≦1)からなる層を含んでいてもよい。
【0016】
n型半導体層4は、バッファ層3上に形成されている。n型半導体層4は、例えば、n型不純物がドープされたAlqGa1-qN(0≦q≦1)により形成されたn型クラッド層である。本形態において、n型不純物としては、シリコン(Si)を用いた。n型半導体層4以外の、n型不純物を含む半導体層においても同様である。なお、n型不純物としては、ゲルマニウム(Ge)、セレン(Se)又はテルル(Te)等を用いてもよい。n型半導体層4のAl組成比(AlNモル分率ともいう)qは、例えば50%以上とすることができる。特に、後述するように活性層6が複数の井戸層621,622を有する多重量子井戸構造である場合、n型半導体層4のAl組成比qを50%以上とすることで、n型半導体層4がコヒーレント成長し、発光出力が向上する。n型半導体層4は、例えば1μm以上3μm以下の厚さを有する。n型半導体層4は、単層でもよく、多層構造でもよい。
【0017】
組成傾斜層5は、n型半導体層4上に形成されている。組成傾斜層5は、AlrGa1-rN(0≦r≦1)からなる。組成傾斜層5の上下方向の各位置におけるAl組成比は、上側の位置程大きくなっている。なお、組成傾斜層5は、例えば上下方向の極一部の領域(例えば組成傾斜層5の上下方向の全体の5%以下の領域)に、上側に向かうにつれてAl組成比が大きくならない領域を含んでいてもよい。
【0018】
組成傾斜層5は、その下端部のAl組成比が、組成傾斜層5の下側に隣接するn型半導体層4の上端部のAl組成比と略同一(例えば差が5%以内)であることが好ましい。また、組成傾斜層5は、その上端部のAl組成比が、組成傾斜層5の上側に隣接する障壁層61の下端部のAl組成比と略同一(例えば差が5%以内)であることが好ましい。組成傾斜層5の膜厚は、例えば5nm以上20nm以下とすることができる。
【0019】
図2は、ピット10付近を拡大した発光素子1の模式的な端面図である。なお、
図1においてはピットの図示を省略している。組成傾斜層5は、ピット10の起点となるトリガ層を兼ねている。トリガ層は、シリコンを高濃度に含む層である。n型半導体層4側から伝播される転位Dが存在する箇所に、所定濃度以上のシリコン源が供給されることで、トリガ層の母相の成長モードが変わり、転位Dを起点としたピット10が形成されるものと考えられる。ピット10の詳細は後述する。
【0020】
トリガ層のシリコン濃度は、n型半導体層4に存在する転位Dの密度、及び電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の目標密度(すなわち7.0×107個/cm2以上1.8×109個/cm2以下)に基づき調整され得る。例えば、トリガ層のシリコン濃度は、5.0×1018atoms/cm3以上、5.0×1019atoms/cm3以下とすることができる。トリガ層の膜厚は、例えば1nm以上100nm以下とすることができる。ピット10の詳細については、後述する。
【0021】
活性層6は、トリガ層としての組成傾斜層5上に形成されている。本形態の活性層6は、複数の井戸層621,622を有する多重量子井戸構造である。活性層6は、中心波長が240nm以上365nm以下の紫外光を発することができるよう、バンドギャップが調整されている。本形態のように、活性層6が多重量子井戸構造である場合、発光出力の向上の観点から、活性層6が発する紫外光の中心波長は、250nm以上300nm以下が好ましく、260nm以上290nm以下がより好ましい。本形態において、活性層6は、障壁層61と井戸層621,622とを3つずつ有し、障壁層61と井戸層621,622とが交互に積層されている。活性層6においては、下端に障壁層61が位置しており、上端に井戸層622が位置している。
【0022】
各障壁層61は、AlsGa1-sN(0<s≦1)により形成されている。各障壁層61のAl組成比は、例えば75%以上95%以下である。また、各障壁層61の膜厚は、例えば2nm以上12nm以下である。
【0023】
井戸層621,622は、AltGa1-tN(0<t<1)により形成されている。各井戸層621,622のAl組成比tは、障壁層61のAl組成比sよりも小さい(すなわちt<s)。
【0024】
3つの井戸層621,622は、最も下側に配された井戸層である最下井戸層621と、最下井戸層621以外の2つの井戸層である上側井戸層622とで構成が異なっている。例えば、最下井戸層621の膜厚は、2つの上側井戸層622のそれぞれの膜厚よりも1nm以上大きく、かつ、最下井戸層621のAl組成比は、2つの上側井戸層622のそれぞれのAl組成比よりも2%以上大きい。本形態において、上側井戸層622は、2nm以上4nm以下の膜厚を有するとともに25%以上45%以下のAl組成比を有し、最下井戸層621は、4nm以上6nm以下の膜厚を有するとともに35%以上55%以下のAl組成比を有する。最下井戸層621の膜厚と各上側井戸層622との膜厚の差は、2nm以上4nm以下とすることができる。
【0025】
最下井戸層621のAl組成比を、上側井戸層622のAl組成比よりも大きくすることにより、最下井戸層621の結晶性が向上する。これは、最下井戸層621とn型半導体層4とのAl組成比の差が小さくなるためである。最下井戸層621の結晶性が向上することにより、最下井戸層621から上側に形成される活性層6の各層の結晶性も向上する。これにより、活性層6におけるキャリアの移動度が向上し、発光出力が向上する。かかる効果は、最下井戸層621の膜厚が大きくなるほど顕著であるが、発光素子1全体の電気抵抗値が増加することを抑制する観点から最下井戸層621の膜厚は所定値以下となるよう設計される。なお、複数の井戸層621,622は、例えば下側の井戸層621,622ほどAl組成比が大きくなるよう構成されていてもよい。
【0026】
また、最下井戸層621には、n型不純物としてのシリコンが含まれている。これによっても、活性層6中におけるピット10の形成が誘発され得る。最下井戸層621のシリコン濃度は、例えば1.0×1019atoms/cm3以上6.0×1019atoms/cm3である。なお、上側井戸層622にもシリコン等のn型不純物が含まれていてもよいが、複数の井戸層621,622のうち、最下井戸層621のシリコン濃度が最も高いことが好ましい。
【0027】
本形態において、活性層6は、井戸層621,622が3つの多重量子井戸構造である例を示したが、これに限られず、井戸層が2つ又は4つ以上である多重量子井戸構造であってもよい。活性層6を多重量子井戸構造とする場合は、発光出力向上の観点から、井戸層を2つ又は3つとすることが好ましい。また、活性層6は、井戸層を1つのみ有する単一量子井戸構造であってもよい。
【0028】
電子ブロック層7は、活性層6上に形成されている。電子ブロック層7は、活性層6からp型半導体層8側へ電子がリークするオーバーフロー現象の発生を抑制すること(以後、電子ブロック効果ともいう)によって活性層6への電子注入効率を向上させる役割を有する。電子ブロック層7は、下側から順に、第1層71と第2層72とを積層した積層構造を有する。
【0029】
第1層71は、活性層6上に設けられている。第1層71は、例えばAluGa1-uN(0<u≦1)からなる。第1層71のAl組成比uは、例えば90%以上である。第1層71の膜厚は、例えば0.5nm以上5.0nm以下である。
【0030】
第2層72は、例えばAlvGa1-vN(0<v<1)からなる。第2層72のAl組成比vは、第1層71のAl組成比tよりも小さく(すなわちv<t)、例えば70%以上90%以下である。第2層72の膜厚は、第1層71の膜厚よりも大きく、例えば15nm以上100nm以下である。
【0031】
Al組成比が大きい半導体層ほど電気抵抗値が大きくなるため、Al組成比が比較的高い第1層71の膜厚を大きくし過ぎると発光素子1の全体の電気抵抗値の過度な上昇を招く。そのため、第1層71の膜厚はある程度小さくすることが好ましい。一方、第1層71の膜厚を小さくすると、トンネル効果によって電子が第1層71を下側から上側にすり抜ける確率が増大し得る。そこで、本形態の発光素子1においては、第1層71上に第2層72を形成することで、電子ブロック層7の全体を電子がすり抜けることを抑制している。
【0032】
第1層71及び第2層72のそれぞれは、アンドープの層、n型不純物を含有する層、p型不純物を含有する層、又はn型不純物及びp型不純物の双方を含有する層とすることができる。p型不純物としては、マグネシウム(Mg)を用いることができるが、マグネシウム以外にも、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)又は炭素(C)等を用いてもよい。他のp型不純物を含む半導体層においても同様である。各電子ブロック層7が不純物を含有する場合において、各電子ブロック層7が含有する不純物は、各電子ブロック層7の全体に含まれていてもよいし、各電子ブロック層7の一部に含まれていてもよい。また、電子ブロック層7は、単層にて形成されていてもよいし、3層以上にて形成されていてもよい。
【0033】
p型半導体層8は、電子ブロック層7上に形成されている。本形態において、p型半導体層8は、p型コンタクト層からなる。p型コンタクト層は、後述するp側電極12が接続された層であり、p型不純物が高濃度にドープされたAlwGa1-wN(0≦w≦1)により形成されている。p型コンタクト層としてのp型半導体層8は、p側電極12とのオーミックコンタクトを実現すべくAl組成比が低くなるよう構成されており、かかる観点からp型の窒化ガリウム(GaN)により形成することが好ましい。
【0034】
n側電極11は、n型半導体層4における活性層6から上側に露出した露出面41に形成されている。n側電極11は、例えば、n型半導体層4の上にチタン(Ti)、アルミニウム、チタン、金(Au)が順に積層された多層膜とすることができる。また、後述するように発光素子1がフリップチップ実装される場合、n側電極11は、活性層6が発する紫外光を反射可能な材料にて構成されていてもよい。
【0035】
p側電極12は、p型半導体層8の上面に形成されている。p側電極12は、例えば、p型半導体層8の上にニッケル(Ni)、金が順に積層された多層膜とすることができる。また、後述するように発光素子1がフリップチップ実装される場合、p側電極12は、活性層6が発する紫外光を反射可能な材料にて構成されていてもよい。
【0036】
発光素子1は、図示しないパッケージ基板にフリップチップ実装されて使用され得る。すなわち、発光素子1は、上下方向におけるn側電極11及びp側電極12が設けられた側をパッケージ基板側に向け、n側電極11及びp側電極12のそれぞれが、金バンプ等を介してパッケージ基板に実装される。フリップチップ実装された発光素子1は、基板2側(すなわち下側)から光が取り出される。なお、これに限られず、発光素子は、ワイヤボンディング等によりパッケージ基板に実装されてもよい。また、本形態において、発光素子1は、n側電極11及びp側電極12の双方が発光素子1の上側に設けられた、いわゆる横型の発光素子としたが、これに限られず、縦型の発光素子であってもよい。縦型の発光素子は、n側電極とp側電極とによって活性層がサンドイッチされた発光素子である。なお、発光素子を縦型とする場合、基板及びバッファ層は、レーザーリフトオフ等により除去することが好ましい。
【0037】
次に、
図2及び
図3を用いて、活性層6及び電子ブロック層7に形成されるピット10について説明する。
図3は、電子ブロック層7の上面7a(すなわち第2層72の上面)のAFM(Atomic Force Microscopy)画像である。なお、
図3は、後述の実施例1における、電子ブロック層7の上面7aのAFM画像でもある。
【0038】
図2に示すごとく、ピット10は、n型半導体層4側から伝播される転位Dを起点として発生する結晶欠陥の一種である。
図2においては、ピット10が組成傾斜層5(すなわちトリガ層)、活性層6、電子ブロック層7にて発生した例を示している。すなわち、
図2に示すピット10は、組成傾斜層5から電子ブロック層7の上面7aまで形成されている。ピット10は、組成傾斜層5の成長時において、n型半導体層4側から伝播した転位Dが存在する箇所に、所定濃度以上のシリコン源が供給されることによって、組成傾斜層5の母相の成長モードが変わり、形成されるものと考えられる。ピット10は、組成傾斜層5の上面の一部が凹み、さらにこの上の活性層6、第1層71及び第2層72のそれぞれが組成傾斜層5の上面の凹みに沿って凹むことで形成される。電子ブロック層7の上面7aまで形成されたピット10の厚みTは、例えば10nm以上60nm以下である。ピット10の厚みTとは、ピット10の起点位置から、電子ブロック層7の上面7aまでの上下方向の長さを意味する。
【0039】
図3から分かるように、電子ブロック層7の上面7aにピット10が点在している。電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度が、7.0×10
7個/cm
2以上1.8×10
9個/cm
2以下となることで、発光素子1の発光出力が向上する。また、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度は、1.0×10
9個/cm
2以下をさらに満たすことで、発光出力を一層向上させやすくなる。ピットとしては、例えば
図2に示すピット10とは異なり、活性層6にて終端するような比較的小さいサイズのものも存在し得るが、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度は、活性層6にて終端するようなピットは考慮せず、電子ブロック層7の上面7aまで形成されたピット10の密度を意味している。ピット10が電子ブロック層7の上面7aまで形成されることにより、p型半導体層8から活性層6へ、ピット10を介して正孔(ホール)が供給されやすくなる。ただし、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度が大き過ぎても発光出力の低下を招く。そこで、前述のごとく、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度が、7.0×10
7個/cm
2以上1.8×10
9個/cm
2以下、好ましくは1.0×10
9個/cm
2以下となることで、発光出力が向上する。
【0040】
各半導体層におけるピット10を構成する部分は、上下方向に平行な断面が略V字状となるよう凹んでいる。そして、電子ブロック層7の上面7aを見たときに見えるピット10の凹面101は、上下方向に平行な断面が略V字状となり、全体として、下側の位置程小さくなる略錐体形状(例えば略円錐形、略多角錐形、楕円錐形)又は略錐台形状を呈している。このように、凹面101の断面形状がV字状となるピット10は、Vピットと呼ばれている。凹面101の形状としては、断面V字状の他、円柱状又は多角柱状となり得る。そして、電子ブロック層7の上面7aにおいて、ピット10の直径Lは、100nm以下、より具体的には20nm以上60nm以下となり得る。なお、ピット10の凹面101が多角錐等の円錐以外の形状を有する場合、直径Lは、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の形状を外接円等で円形に近似したときの直径とすることができる。ピット10の凹面101の内側には、p型半導体層8の一部が充填されている。なお、
図2に示す例においては、ピット10が組成傾斜層5から形成された例を示したが、シリコン濃度が高い最下井戸層621から電子ブロック層7の上面7aまでピット10が形成される場合もあり得る。
【0041】
(窒化物半導体発光素子1の製造方法)
次に、本形態の発光素子1の製造方法の一例につき説明する。
本形態においては、有機金属化学気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)により、円板状の基板2上に、バッファ層3、n型半導体層4、組成傾斜層5、活性層6、電子ブロック層7及びp型半導体層8を順次エピタキシャル成長させる。すなわち、本形態においては、チャンバ内に円板状の基板2を設置し、基板2上に形成される各層の原料ガスをチャンバ内に導入することによって基板2上に各層が形成される。各層をエピタキシャル成長させるための原料ガスとしては、アルミニウム源としてトリメチルアルミニウム(TMA)、ガリウム源としてトリメチルガリウム(TMG)、窒素源としてアンモニア(NH3)、シリコン源としてテトラメチルシラン(TMSi)、マグネシウム源としてビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)を用いることができる。
【0042】
組成傾斜層5を形成するにあたっては、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度が7.0×107個/cm2以上1.8×109個/cm2以下となるよう、チャンバへのシリコン源の供給量が調整される。その他、各層をエピタキシャル成長させるための成長温度、成長圧力、及び成長時間等の製造条件については、各層の構成に応じた一般的な条件とすることができる。
【0043】
なお、MOCVD法は、有機金属化学気相エピタキシ法(MOVPE:Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)と呼ばれることもある。また、基板2上に各層をエピタキシャル成長させるに際しては、分子線エピタキシ法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)、ハイドライド気相エピタキシ法(HVPE:Hydride Vapor Phase Epitaxy)等の他のエピタキシャル成長法を用いることも可能である。
【0044】
円板状の基板2上に各層を形成した後、p型半導体層8上の一部、すなわちn型半導体層4の露出面41になる部分以外の部位にマスクを形成する。そして、マスクを形成していない領域を、p型半導体層8の上面から上下方向のn型半導体層4の途中までエッチングにより除去する。これにより、n型半導体層4に、上側に向かって露出する露出面41が形成される。露出面41の形成後、マスクを除去する。
【0045】
次いで、n型半導体層4の露出面41上にn側電極11を形成し、p型半導体層8上にp側電極12を形成する。n側電極11及びp側電極12は、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法などの周知の方法により形成してよい。以上により完成したものを、所望の寸法に切り分けることにより、1つのウエハから
図1に示すような発光素子1が複数製造される。
【0046】
(実施の形態の作用及び効果)
本形態において、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度は、7.0×107個/cm2以上1.8×109個/cm2以下である。それゆえ、p型半導体層8から活性層6へ、ピット10を介して正孔が供給されやすくなり、発光素子1の発光出力が向上する。さらに、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度が、7.0×107個/cm2以上1.0×109個/cm2以下をさらに満たすことで、発光素子1の発光出力の一層の向上を図ることができる。
【0047】
また、電子ブロック層7の上面7aまで形成されたピット10は、10nm以上60nm以下の厚みTを有する。また、電子ブロック層7の上面7aまで形成されたピット10は、電子ブロック層7の上面7aの位置において、100nm以下の直径Lを有する。ピット10の構成がこれらの構成を満たすことで、高い発光出力の発光素子1が得られることを確認している。
【0048】
また、p型半導体層8は、電子ブロック層7に接するp型コンタクト層である。それゆえ、p側電極12に接続されるp型コンタクト層から電子ブロック層7へ、ピット10を介して正孔の移動が効率的に行われ、発光素子1の発光出力が向上する。
【0049】
以上のごとく、本形態によれば、発光出力の向上を図ることができる窒化物半導体発光素子を提供することができる。
【0050】
[実験例]
本実験例は、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度と、発光出力との関係を確認した例である。なお、実験例以降において用いた符号のうち、既出の形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0051】
本実験例においては、実施の形態にて示した発光素子と基本構造を同じとし、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度を種々変更した複数のウエハに係る試料を準備した。各試料の構成を表1に示す。
【0052】
【0053】
表1に記載の各層の膜厚は、透過型電子顕微鏡によって測定したものである。また、表1に記載の各層のAl組成比は、二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定したAlの2次イオン強度から推定した値である。表1における組成傾斜層の欄は、組成傾斜層の上下方向の各位置のAl組成比が、下端から上端までにかけて、55%から85%まで変動していることを表している。また、表1における各層のSi濃度(すなわちシリコン濃度)の欄において、表記「BG」は、バックグラウンドレベルを意味している。バックグラウンドレベルのシリコン濃度は、シリコンをドープしない場合に検出されるシリコン濃度である。
【0054】
そして、各試料について、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度と、発光出力との関係を調べた。
【0055】
ここで、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度の取得方法について説明する。まず、試料を電子ブロック層7まで形成した後、チャンバから取り出す。そして、電子ブロック層7の上面7aの任意の3箇所の1μm四方の領域を、AFMにて撮影する。そして、3つのAFM画像のそれぞれからピット10の密度を算出する。例えば、
図3のように、1μm四方のAFM画像に4つのピット10が確認された場合は、当該AFM画像にて確認されるピット10の密度は、4[個/μm
2]=4×10
8[個/cm
2]と求まる。そして、3つのAFM画像のそれぞれから算出されたピット10の密度に関して平均値をとり、これを電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度の観測結果とした。このような手法を各試料について行い、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度を算出した。なお、本実験例においては、各試料について、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度は、3つのAFM画像から観察されたピット10の密度の平均値としたが、例えば4つ以上のAFM画像から観察されたピット10の密度の平均値としてもよい。
【0056】
前述のAFM画像の例として、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度が、実施の形態にて示した数値範囲である7.0×10
7個/cm
2以上1.8×10
9個/cm
2以下を満たしている2つの実施例1、2にかかるAFM画像と、当該数値範囲を満たしてない2つの比較例1、2にかかるAFM画像とを
図3~
図6に示す。
図3は、実施例1に係る試料におけるAFM画像であり、
図4は、実施例2に係る試料におけるAFM画像であり、
図5は、比較例1に係る試料におけるAFM画像であり、
図6は、比較例2に係る試料におけるAFM画像である。比較例1は、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度が前述の数値範囲よりも大きい例であり、比較例2は、電子ブロック層7の上面7aにピット10が存在しない例である。
【0057】
そして、各試料について電子ブロック層7の上面7aの撮影が終わった後、各試料を再度チャンバに戻し、各試料の電子ブロック層7の上にp型半導体層8を再成長させ、各試料を完成させた。そして、オンウエハの状態の各試料に20mAの電流を流したときの発光出力を測定した。発光出力の測定は、各試料の下側(基板側)に設置した光検出器によって測定した。
【0058】
結果を
図7及び下記表2に示す。
図7は、横軸が電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度を示しており、縦軸が発光出力を示している。表2においては、すべての試料のうちの実施例1、2及び比較例1、2の結果を発光波長とともに表している。なお、実施例1、2及び比較例1、2以外の試料における発光波長も、実施例1、2及び比較例1、2と同様に概ね280nm前後であった。また、ピット10の存在が確認された実施例1、2及び比較例1において、ピット10は、断面形状がV字状のVピットであった。
【0059】
【0060】
図7から分かるように、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度が7.0×10
7個/cm
2以上1.8×10
9個/cm
2以下を満たしている試料については、高い発光出力が得られることが分かる。一方、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度が7.0×10
7個/cm
2以上1.8×10
9個/cm
2以下の範囲から外れた試料は、発光出力が低下しやすい傾向にあることが分かる。さらに、
図7から、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度が7.0×10
7個/cm
2以上1.0×10
9個/cm
2以下をさらに満たすことで、より発光出力を向上させやすいことが分かる。
【0061】
なお、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度が7.0×107個/cm2未満の試料については、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度の正確な算出が実際的に困難であった。電子ブロック層7の上面7aに形成されたピット10を観察するためには、1μm四方程度の小さい領域をAFM等にて拡大して観察する必要がある。しかしながら、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度が7.0×107個/cm2未満のものは、電子ブロック層7の上面7aの3箇所又はそれ以上の箇所をAFMにて撮影してもピット10が観察されないことが多い。そのため、電子ブロック層7の上面7aにおけるピット10の密度が0個/cm2超7.0×107個/cm2未満の試料については、ピット10の密度の正確な算出が実際的に困難であった。
【0062】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0063】
[1]本発明の第1の実施態様は、n型半導体層(4)と、前記n型半導体層(4)上に形成され、紫外光を発する活性層(6)と、前記活性層(6)上に形成された電子ブロック層(7)と、前記電子ブロック層(7)上に形成されたp型半導体層(8)と、を備え、前記活性層(6)及び前記電子ブロック層(7)には、ピット(10)が形成されており、前記電子ブロック層(7)の上面(7a)における前記ピット(10)の密度は、7.0×107個/cm2以上1.8×109個/cm2以下である、窒化物半導体発光素子(1)である。
これにより、窒化物半導体発光素子(1)の発光出力が向上する。
【0064】
[2]本発明の第2の実施態様は、第1の実施態様において、前記電子ブロック層(7)の前記上面(7a)における前記ピット(10)の密度が、1.0×109個/cm2以下をさらに満たすことである。
これにより、窒化物半導体発光素子(1)の発光出力が一層向上する。
【0065】
[3]本発明の第3の実施態様は、第1又は第2の実施態様において、前記電子ブロック層(7)の前記上面(7a)まで形成された前記ピット(10)が、10nm以上60nm以下の厚み(T)を有することである。
これにより、窒化物半導体発光素子(1)の発光出力が向上する。
【0066】
[4]本発明の第4の実施態様は、第1乃至第3のいずれか1つの実施態様において、前記電子ブロック層(7)の前記上面(7a)まで形成された前記ピット(10)が、前記電子ブロック層(7)の前記上面(7a)の位置において、100nm以下の直径(L)を有することである。
これにより、窒化物半導体発光素子(1)の発光出力が向上する。
【0067】
[5]本発明の第5の実施態様は、第1乃至第4のいずれか1つの実施態様において、前記p型半導体層(8)が、前記電子ブロック層(7)に接するp型コンタクト層であることである。
これにより、窒化物半導体発光素子(1)の発光出力が向上する。
【0068】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、前述した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0069】
1…窒化物半導体発光素子
10…ピット
4…n型半導体層
6…活性層
7…電子ブロック層
7a…上面
8…p型半導体層
T…ピットの厚み
【手続補正書】
【提出日】2023-08-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型半導体層と、
前記n型半導体層上に形成され、紫外光を発する活性層と、
前記活性層上に形成された電子ブロック層と、
前記電子ブロック層上に形成されたp型半導体層と、を備え、
前記活性層及び前記電子ブロック層には、ピットが形成されており、
前記電子ブロック層の上面における前記ピットの密度は、7.0×107個/cm2以上1.8×109個/cm2以下である、
窒化物半導体発光素子。
【請求項2】
前記電子ブロック層の前記上面における前記ピットの密度は、1.0×109個/cm2以下をさらに満たす、
請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】
前記電子ブロック層の前記上面まで形成された前記ピットは、10nm以上60nm以下の厚みを有する、
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】
前記電子ブロック層の前記上面まで形成された前記ピットは、前記電子ブロック層の前記上面の位置において、100nm以下の直径を有する、
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】
前記p型半導体層は、前記電子ブロック層に接するp型コンタクト層である、
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項6】
前記電子ブロック層は、複数層からなる、
請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。