(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176179
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】オーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21J 1/04 20060101AFI20231206BHJP
B21J 5/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B21J1/04
B21J5/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088334
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】藤好 大貴
(72)【発明者】
【氏名】石川 卓
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩二
【テーマコード(参考)】
4E087
【Fターム(参考)】
4E087AA05
4E087BA02
4E087BA12
4E087BA24
4E087CA02
4E087CA32
4E087CB01
4E087CB04
4E087CB12
4E087CC02
4E087DB04
4E087DB24
4E087EA11
4E087FA11
4E087HB17
(57)【要約】
【課題】超音波探傷試験によって確認可能な内部の傷が少ない太型鍛造品の製造方法の提供。
【解決手段】Top面とBottom面とを有するインゴットを得る工程と、Top面およびBottom面の一方が上、他方が下となるようにインゴットを平面上に載置した後、インゴットへ応力を加えて圧縮する工程と、Top面およびBottom面が鉛直方向と平行となるように載置した後、応力を加える工程と、均質化工程と、Top面およびBottom面の一方が上、他方が下となるように載置した後、応力を加えて圧縮する工程と、Top面およびBottom面が鉛直方向と平行となるように載置した後、応力を加え鍛伸する工程と、加熱した後、Bottom面側のみを鍛造する工程と、加熱した後、Top面側を鍛造する工程と、表面を削る工程とを備える、オーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼をモールド内へ装入して、前記溶鋼の上表面が固化してなる平面であるTop面と、前記モールドの底において前記溶鋼が固化してなる、前記Top面に対向する平面であるBottom面と、前記Top面と前記Bottom面とをつなぐ側面と、を有するインゴットを得る造塊工程と、
前記Top面および前記Bottom面の一方が上、他方が下となるように前記インゴットを載置した後、前記Top面と前記Bottom面とを近づけるように前記インゴットへ応力を加えて、前記Top面と前記Bottom面との距離を1/4~3/4に圧縮し、第1据込鋼材を得る、第1据込工程と、
前記第1据込鋼材における前記Top面および前記Bottom面が鉛直方向と平行となるように載置した後、その側面へ応力を加え、前記Top面と前記Bottom面とが離れるように鍛伸して第1鍛伸鋼材を得る、第1鍛伸工程と、
前記第1鍛伸鋼材を1200~1400℃に調整した雰囲気内に4~60h保持し均質化して均質化鋼材を得る均質化工程と、
前記Top面および前記Bottom面の一方が上、他方が下となるように前記均質化鋼材を載置した後、前記Top面と前記Bottom面とを近づけるように前記均質化鋼材へ応力を加えて、前記Top面と前記Bottom面との距離を1/4~3/4に圧縮し、第2据込鋼材を得る、第2据込工程と、
前記第2据込鋼材における前記Top面および前記Bottom面が鉛直方向と平行となるように載置した後、その側面へ応力を加え、前記Top面と前記Bottom面とが離れるように鍛伸して第2鍛伸鋼材を得る、第2鍛伸工程と、
前記第2鍛伸鋼材を1000~1200℃に調整した雰囲気内に2~20h保持して加熱した後、前記側面における前記Bottom面側のみを鍛造した第1鍛造鋼材を得る第1鍛造工程と、
前記第1鍛造鋼材を1000~1200℃に調整した雰囲気内に2~20h保持して加熱した後、前記側面における前記Top面側を鍛造した第2鍛造鋼材を得る第2鍛造工程と、
前記第2鍛造鋼材における表面を削り、オーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品を得る、仕上げ工程と、
を備える、オーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品の製造方法。
【請求項2】
前記オーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品における前記Top面または前記Bottom面における等面積円相当径が600mm以上である、請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、オーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法が提案されている。
例えば特許文献1には、オーステナイト系ステンレス鋼からなる鋳塊を1250℃以上Tmp(℃)以下(但し、Tmp(℃)は、前記オーステナイト系ステンレス鋼の融点)の温度に加熱する第1加熱工程と、前記オーステナイト系ステンレス鋼の温度が再結晶開始温度(Trex(℃))未満に低下するまでの間に、1パス当たりの最大ひずみ(ε)が0.2以上であり、かつ、鍛錬比が2S以上となるように、前記オーステナイト系ステンレス鋼を鍛伸する第1鍛伸工程とを備えたオーステナイト系ステンレス鋼大型鍛造品の製造方法が記載されている。そして、このような製造方法によると、オーステナイト系ステンレス鋼からなる大型鍛造品を鍛伸により製造する場合において、加熱温度を1250℃以上Tmp(℃)以下にすると、材料の熱間変形抵抗を小さくすることができ、そのため、相対的にプレス能力の小さなプレスを用いた場合であっても、1パス当たりの最大歪(ε)を0.2以上とすることができ、また、加熱温度を上昇させることによって、1ヒート当たりのパス数を増大させることができる。さらに、最大歪(ε)を0.2以上とすることに加えて、鍛錬比が2S以上となるように鍛伸すると、巨大な鋳造組織を確実に破壊することができ、また、相対的に高温で鍛造を行うことによって、所定の製品寸法を得るまでに行われるヒート回数を低減することができる。そのため、再加熱に起因する結晶粒の粗大化を防止することができ、鍛造能率も大幅に向上し、さらに、鍛造工程を第1鍛伸工程と第2鍛伸工程の2段階に分け、第2鍛伸工程を行う際の加熱温度を相対的に低温にすると、粒成長が抑制され、細粒組織が得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、超音波探傷試験によって確認可能な内部の傷が少ない、太型鍛造品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の(1)~(2)である。
(1)溶鋼をモールド内へ装入して、前記溶鋼の上表面が固化してなる平面であるTop面と、前記モールドの底において前記溶鋼が固化してなる、前記Top面に対向する平面であるBottom面と、前記Top面と前記Bottom面とをつなぐ側面と、を有するインゴットを得る造塊工程と、
前記Top面および前記Bottom面の一方が上、他方が下となるように前記インゴットを載置した後、前記Top面と前記Bottom面とを近づけるように前記インゴットへ応力を加えて、前記Top面と前記Bottom面との距離を1/4~3/4に圧縮し、第1据込鋼材を得る、第1据込工程と、
前記第1据込鋼材における前記Top面および前記Bottom面が鉛直方向と平行となるように載置した後、その側面へ応力を加え、前記Top面と前記Bottom面とが離れるように鍛伸して第1鍛伸鋼材を得る、第1鍛伸工程と、
前記第1鍛伸鋼材を1200~1400℃に調整した雰囲気内に4~60h保持し均質化して均質化鋼材を得る均質化工程と、
前記Top面および前記Bottom面の一方が上、他方が下となるように前記均質化鋼材を載置した後、前記Top面と前記Bottom面とを近づけるように前記均質化鋼材へ応力を加えて、前記Top面と前記Bottom面との距離を1/4~3/4に圧縮し、第2据込鋼材を得る、第2据込工程と、
前記第2据込鋼材における前記Top面および前記Bottom面が鉛直方向と平行となるように載置した後、その側面へ応力を加え、前記Top面と前記Bottom面とが離れるように鍛伸して第2鍛伸鋼材を得る、第2鍛伸工程と、
前記第2鍛伸鋼材を1000~1200℃に調整した雰囲気内に2~20h保持して加熱した後、前記側面における前記Bottom面側のみを鍛造した第1鍛造鋼材を得る第1鍛造工程と、
前記第1鍛造鋼材を1000~1200℃に調整した雰囲気内に2~20h保持して加熱した後、前記側面における前記Top面側を鍛造した第2鍛造鋼材を得る第2鍛造工程と、
前記第2鍛造鋼材における表面を削り、オーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品を得る、仕上げ工程と、
を備える、オーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品の製造方法。
(2)前記オーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品における前記Top面または前記Bottom面における等面積円相当径が600mm以上である、上記(1)に記載のオーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、超音波探傷試験によって確認可能な内部の傷が少ない太型鍛造品の製造方法を提供することができる。すなわち、太型鍛造品の粗粒を抑制することで、超音波探傷試験による品質保証を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】
図2(a)はインゴット30の側面を表す図(概略側面図)であり、
図2(b)はインゴット30の概略斜視図である。
【
図3】
図3(a)は造塊工程にて得られたインゴット30を基材40が有する平面42上に載置した状態を示す概略側面図であり、
図3(b)はインゴットに応力F1を加えた後の状態を示す概略側面図である。
【
図4】第1鍛伸工程において第1据込鋼材におけるTop面およびBottom面が鉛直方向と平行となるように載置した状態を示す概略側面図である。
【
図6】
図6(a)は均質化工程によって得られた均質化鋼材60を基材70が有する平面72上に載置した状態を示す概略側面図であり、
図6(b)は均質化鋼材60に応力F3を加えた後の状態を示す概略側面図である。
【
図7】第2鍛伸工程において第2据込鋼材におけるTop面およびBottom面が鉛直方向と平行となるように載置した状態を示す概略側面図である。
【
図9】第1鍛造工程における鍛造を説明するための図である。
【
図10】第2鍛造工程における鍛造を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、造塊工程と、第1据込工程と、第1鍛伸工程と、均質化工程と、第2据込工程と、第2鍛伸工程と、第1鍛造工程と、第2鍛造工程と、仕上げ工程と、を備える、オーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品の製造方法である。
これらの工程について、以下に詳しく説明する。
【0009】
<造塊工程>
本発明の製造方法における造塊工程では、初めに溶鋼をモールド内へ装入してインゴットを得る。
【0010】
溶鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼を得ることができる組成を備えるものであれば、特に限定されない。
オーステナイト系ステンレス鋼として、例えばSUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS303Se、SUS303Cu、SUS304、SUS304L、SUS304N1、SUS304N2、SUS304LN、SUS304J3、SUS305、SUS309S、SUS310S、SUS316、SUS316L、SUS316N、SUS316LN、SUS316Ti、SUS316J1、SUS316J1L、SUS316F、SUS317、SUS317L、SUS317LN、SUS317J1、SUS836L、SU890L、SUS321、SUS347、SUSXM7、SUSXM15J1が挙げられる。
【0011】
造塊工程は、従来公知の方法によって行うことができ、例えば上注ぎ造塊設備を用いて行うことができるが、例えば
図1に示すような従来公知の下注ぎ造塊設備を用いて行うことが好ましい。
図1に示す下注ぎ造塊設備10は、溶鋼が装入されている取鍋12と、取鍋12の下方に設けられ、鉛直方向に延びる注入管14とを有している。この注入管14の上端は取鍋12の直下に配置されており、取鍋12内の溶鋼を注入管14内を通じて下方に移動させることができる。注入管14の下端は、溶鋼を水平方向に送る湯道16と繋がり、さらに湯道16の終端はモールド18の底に形成された注入孔20に繋がり、注入孔20からモールド18内へ溶鋼を装入することができる。このようにしてモールド18の底部の注入孔20から溶鋼がモールド内へ装入され、装入された溶鋼を固化(凝固)させることでインゴット(鋼塊)を製造することができる。
【0012】
図1に示した下注ぎ造塊設備10などを用いて行う本発明の製造方法における造塊工程によって、例えば
図2に示すインゴット30を得ることができる。
図2(a)はインゴット30の側面を表す図(概略側面図)であり、
図2(b)はインゴット30の概略斜視図である。
図1、
図2では、モールド18内で溶鋼の上表面が固化してなる平面であるTop面を「Top」と表している。また、モールド18の底において溶鋼が固化してなる平面であるBottom面を「Bottom」と表している。
モールド18内においてTop面は水平となる。また、Bottom面もほぼ水平となる。したがって、Top面とBottom面とは共に平行であり、対向している。
【0013】
また、Top面とBottom面とを側面Sが繋いでいる。
【0014】
図2に例示したインゴット30においてTop面およびBottom面は、いずれも略正方形である。
Top面を構成する正方形における一片の長さは1000~1500mmであってよい。
Bottom面を構成する正方形における一片の長さは700~1200mmであってよい。
【0015】
インゴットの形状は
図2に示した態様に限定されず、溶鋼の上表面が固化してなる平面であるTop面と、モールドの底において溶鋼が固化してなる、Top面に対向する平面であるBottom面と、Top面とBottom面とをつなぐ側面とを有するものであればよい。例えば円柱状、角柱状、多角柱状のものであってよい。インゴットの形状が円柱状、角柱状、多角柱状である場合、2つの端面がTop面およびBottom面に相当し、これらの面は、通常、平行であり、対向している。
【0016】
インゴットは7t以上のものであってよく、2~21tのものであってよい。
【0017】
<第1据込工程>
本発明の製造方法における第1据込工程について、
図3を用いて説明する。
本発明の製造方法における第1据込工程では、造塊工程にて得られたインゴット30を、
図3(a)に示すように基材40が有する平面42上に載置する。ここでTop面およびBottom面の一方が上、他方が下となるように、インゴット30を平面上に載置する。
図3に示す例の場合は、Bottom面が上、Top面が下とし、Top面が平面42に密着するように載置している。
【0018】
そして、Top面とBottom面とを近づけるように、インゴットの上部に下へ向かう応力F1を加える。
図3に示す例の場合は、Bottom面に下へ向かう応力F1を加える。具体的には、例えばプレス機を用いて応力(F1)を加える。
そうするとインゴット30はつぶれて、Top面とBottom面との距離が近づく。
【0019】
ここでTop面とBottom面との距離が応力F1を加える前と比べて1/4~3/4となるように圧縮する。つまり、
図3(a)に示すようにインゴットに応力F1を加える前のTop面とBottom面との距離をH1とし、
図3(b)に示すようにインゴットに応力F1を加えた後のTop面とBottom面との距離をh1としたときに、h1/H1が1/4~3/4となるように圧縮する。
【0020】
なお、インゴット30は平面上に載置しなくてもよく、Top面およびBottom面の一方が上、他方が下となるようにインゴットを載置した後、Top面とBottom面とを近づけるようにインゴットへ応力F1を加えることができればよい。
また、Bottom面に下へ向かう応力F1を加えることは必須ではなく、Top面およびBottom面の一方が上、他方が下となるようにインゴットを載置した後、Top面とBottom面とを近づけるようにインゴットへ応力F1を加えることができればよい。
【0021】
このような第1据込工程によって、第1据込鋼材50を得ることができる。
【0022】
<第1鍛伸工程>
本発明の製造方法における第1鍛伸工程について、
図4、
図5を用いて説明する。
本発明の製造方法における第1鍛伸工程では、
図4に示すように、第1据込工程において得られた第1据込鋼材50におけるTop面およびBottom面が鉛直方向と平行となるように載置する。例えば、
図3(b)に示した状態の第1据込鋼材50をマニピュレーターを用いて掴んで持ち上げ、約90度、回転させることで
図4に示す状態とすることができる。
【0023】
そして、その状態を保ったまま、第1据込鋼材50の側面Sに応力F2を加えてTop面とBottom面とが離れるように鍛伸する。例えば第1据込鋼材50の側面Sにおける上部に、下へ向かう応力F2を加える。
図4に示すように、第1据込鋼材50の側面Sにおける下部に、上へ向かう応力F2をさらに加えて、例えばプレス鍛伸を行ってもよい。
図4に示す第1据込鋼材50の下方に
図3に例示した基材40と同様のものを配置してもよい。この場合、第1据込鋼材50の側面Sにおける上部に下へ向かう応力F2を加えると、基材40の平面42から反作用としてのF2を、第1据込鋼材50の側面Sにおける下部に上へ向かう応力として加えることができる。
【0024】
このように第1据込鋼材50における側面Sに応力F2を加えることで、Top面とBottom面とが離れるように鍛伸すると、例えば
図5に示すような態様の第1鍛伸鋼材55を得ることができる。
図5に例示する第1鍛伸鋼材55は角柱状であり、長手方向に側面Sが延びており、長手方向における各々の端面がTop面およびBottom面に相当している。
図5に例示する第1鍛伸鋼材55におけるTop面およびBottom面は、共に正方形であり、その一辺は1000~1200mm程度である。
【0025】
第1鍛伸鋼材55の形状等は特に限定されず、
図5に例示したように角柱状であってよいが、例えば円柱状や多角柱状などであってもよい。
【0026】
<均質化工程>
本発明の製造方法における均質化工程では、上記のような第1鍛伸工程によって得られた第1鍛伸鋼材55を1200~1400℃に調整した雰囲気内に4~60h保持し均質化する。
【0027】
このような均質化工程は、従来公知の鋼材の均質化熱処理を行う場合と同様の加熱炉を用いて実施することができる。
【0028】
このような均質化工程によって均質化鋼材を得ることができる。
【0029】
<第2据込工程>
本発明の製造方法における第2鍛伸工程について、
図6を用いて説明する。
本発明の製造方法における第2鍛伸工程では、均質化工程によって得られた均質化鋼材60を、
図6(a)に示すように基材70が有する平面72上に載置する。ここでTop面およびBottom面の一方が上、他方が下となるように、均質化鋼材60を平面72上に載置する。
図6に示す例の場合は、Top面が上、Bottom面が下とし、Bottom面が平面72に密着するように載置している。
【0030】
そして、Top面とBottom面とを近づけるように、均質化鋼材60の上部に下へ向かう応力F3を加える。
図6に示す例の場合は、Top面に下へ向かう応力F3を加える。具体的には、例えばプレス機を用いて応力を加える。
そうすると均質化鋼材60はつぶれて、Top面とBottom面との距離が近づく。
ここでTop面とBottom面との距離が1/4~3/4となるように圧縮する。つまり、
図6(a)に示すように均質化鋼材60に応力F3を加える前のTop面とBottom面との距離をH2とし、
図3(b)に示すように均質化鋼材60に応力F3を加えた後のTop面とBottom面との距離をh2としたときに、h2/H2が1/4~3/4となるように圧縮する。
【0031】
なお、均質化鋼材60は平面上に載置しなくてもよく、Top面およびBottom面の一方が上、他方が下となるように均質化鋼材60を載置した後、Top面とBottom面とを近づけるように均質化鋼材60へ応力F3を加えることができればよい。例えば
図4に示した場合と同様に、均質化鋼材60をマニピュレーターを用いて掴んで持ち上げ、約90度、回転させることでTop面およびBottom面の一方が上、他方が下となるように保ち、その状態を保ったまま、Top面とBottom面とを近づけるように、均質化鋼材60の上部に下へ向かう応力F3を加えてもよい。
また、Bottom面に下へ向かう応力F3を加えることは必須ではなく、Top面およびBottom面の一方が上、他方が下となるように均質化鋼材60を載置した後、Top面とBottom面とを近づけるように均質化鋼材60へ応力F3を加えることができればよい。
【0032】
このような第2据込工程によって、第2据込鋼材80を得ることができる。
【0033】
<第2鍛伸工程>
本発明の製造方法における第2鍛伸工程について、
図7、
図8を用いて説明する。
本発明の製造方法における第2鍛伸工程では、
図7に示すように、第2据込工程において得られた第2据込鋼材80におけるTop面およびBottom面が鉛直方向と平行となるように載置する。例えば、
図6(b)に示した状態の第2据込鋼材80をマニピュレーターを用いて掴んで持ち上げ、約90度、回転させることで
図7に示す状態とすることができる。
【0034】
そして、その状態を保ったまま、第2据込鋼材80の側面Sに応力F4を加えてTop面とBottom面とが離れるように鍛伸する。例えば第2据込鋼材80の側面Sにおける上部に、下へ向かう応力F4を加える。
図7に示すように、第2据込鋼材80の側面Sにおける下部に、上へ向かう応力F4をさらに加えて、例えばプレス鍛伸を行ってもよい。
図7に示す第2据込鋼材80の下方に
図3または
図6に例示した基材40または基材70と同様のものを配置してもよい。この場合、第2据込鋼材80の側面Sにおける上部に下へ向かう応力F4を加えると、基材40の平面42または基材70の平面72から反作用としてのF4を、第2据込鋼材80の側面Sにおける下部に上へ向かう応力として加えることができる。
【0035】
このように第2据込鋼材80における側面Sに応力F4を加えることで、Top面とBottom面とが離れるように鍛伸すると、例えば
図8に示すような態様の第2鍛伸鋼材85を得ることができる。
図8に例示する第2鍛伸鋼材85は八角柱状であり、長手方向に側面Sが延びており、長手方向における各々の端面がTop面およびBottom面に相当している。
図8に例示する第2鍛伸鋼材85におけるTop面およびBottom面は、共に八角形であり、その対角距離は1000~1200mm程度である。
【0036】
第2鍛伸鋼材85の形状等は特に限定されず、
図8に例示した八角柱状であってよいが、例えば円柱状や多角柱状などであってもよい。
【0037】
<第1鍛造工程>
本発明の製造方法における第1鍛造工程について、
図9を用いて説明する。
本発明の製造方法における第1鍛造工程では、第2鍛伸鋼材85を1000~1200℃に調整した雰囲気内に2~20h保持して加熱する。
【0038】
ここで第2鍛伸鋼材85の表面に傷があるため、この傷を除去することを目的に、第2鍛伸鋼材85の表面の少なくとも一部を研削し、その後、加熱してもよい。
傷を除去する方法は特に限定されない。例えば従来公知のグラインダーを用いて研削することで傷を除去することができる。
【0039】
第2鍛伸鋼材85(またはその表面の一部を研削した第2鍛伸鋼材85)を加熱炉内で保持することで加熱することができる。加熱炉内の温度は1000~1200℃に調整することが好ましい。
このような温度に調整した雰囲気内に2~20h保持して加熱する。
【0040】
そして、加熱した後の第2鍛伸鋼材85(またはその表面の一部を研削した第2鍛伸鋼材85)の側面Sに応力F5を加えて鍛造する。
ここで、
図9に示すように、側面SにおけるBottom面側のみを鍛造する。
具体的には側面Sにおいて最もBottom面に近い部分へ応力F5を加えて鍛造し、鍛造箇所(応力F5を加える箇所)を徐々にTop側に移動させていく。そして、Bottom面からTop面までの長さの半分程度まで、鍛造する。
【0041】
このように側面SにおけるBottom面側のみを鍛造した第1鍛造鋼材90を得る。
【0042】
<第2鍛造工程>
本発明の製造方法における第2鍛造工程について、
図10を用いて説明する。
本発明の製造方法における第2鍛造工程では、第1鍛造鋼材90を1000~1200℃に調整した雰囲気内に2~20h保持して加熱する。
【0043】
第1鍛造鋼材90を加熱炉内で保持することで加熱することができる。加熱炉内の温度は1000~1200℃に調整することが好ましい。
このような温度に調整した雰囲気内に2~20h保持して加熱する。
【0044】
そして、第1鍛造工程において鍛造した部分ではなく、加熱した後の第1鍛造鋼材90の側面Sにおいて未だ鍛造していない部分(残りの部分)に応力F6を加えて鍛造する。
ここで、
図10に示すように、第1鍛造工程において鍛造した部分ではなく、側面Sにおける最もBottom面に近い部分へ応力F6を加えて鍛造し、鍛造箇所(応力F6を加える箇所)を徐々にTop側に移動させていくことが好ましい。
【0045】
このようにして、第1鍛造工程および第2鍛造工程の2つ工程に供することで、側面Sの全面を鍛造した第2鍛造鋼材を得る。
【0046】
造塊することで得たインゴットにおけるTop面に近い部分を構成する物質は、その結晶が粗粒になりやすい。
ここで第1鍛造工程および第2鍛造工程において鋼材を鍛造することで、それを構成する物質の結晶粒を微細化すること可能ではあるが、一方で、各々の工程において鋼材を加熱すると、粗粒化する可能性がある。
本発明の製造方法では、第1鍛造工程においてBottom面側を鍛造し、その後、第2鍛造工程においてTop面側を鍛造する。Top面側の失熱を抑制して鍛造することで構成する物質の結晶が粗粒になり難い。
【0047】
<仕上げ工程>
本発明の製造方法における仕上げ工程では、第2鍛造工程によって得られた第2鍛造鋼材における表面を削る。
削る方法は特に限定されず、旋盤研削等の従来公知の方法であってよい。
【0048】
このような仕上げ工程によって、オーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品を得ることができる。
【0049】
オーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品の形状は特に限定されず、角柱状や多角柱状などの柱状であることが好ましく、円柱状であることがより好ましい。
【0050】
オーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品の大きさも特に限定されないものの、Top面またはBottom面における等面積円相当径が600mm以上であるものであることが好ましい。
【実施例0051】
<実施例1>
SUS304N2に相当する化学成分を有する溶鋼を、
図1に示した態様のモールド内へ装入してインゴットを得た。インゴットは
図2に示した態様を備え、溶鋼の上表面が固化してなる平面であるTop面と、モールドの底において溶鋼が固化してなる、Top面に対向する平面であるBottom面と、Top面とBottom面とをつなぐ側面と、を有するインゴットである(造塊工程)。
【0052】
次に、
図3に示すように、Bottom面が上、Top面が下となるようにインゴットを平面上に載置した後、Top面とBottom面とを近づけるように、インゴットの上部に下へ向かう応力F1を加えて、Top面とBottom面との距離を約1/2に圧縮し、第1据込鋼材を得た(第1据込工程)。
【0053】
次に、
図4に示すように、第1据込鋼材におけるTop面およびBottom面が鉛直方向と平行となるように載置した後、その側面における上部に下へ向かう応力F2を加え、Top面とBottom面とが離れるように鍛伸して、
図5に示すような第1鍛伸鋼材を得た(第1鍛伸工程)。
【0054】
次に、第1鍛伸鋼材を1280℃に調整した雰囲気内に48h保持し均質化して均質化鋼材を得た(均質化工程)。
【0055】
次に、
図6に示すように、Top面が上、Bottom面が下となるように均質化鋼材を平面上に載置した後、Top面とBottom面とを近づけるように、均質化鋼材の上部に下へ向かう応力F3を加えて、Top面とBottom面との距離を約1/2に圧縮し、第2据込鋼材を得た(第2据込工程)。
【0056】
次に、
図7に示すように、第2据込鋼材におけるTop面およびBottom面が鉛直方向と平行となるように載置した後、その側面における上部に下へ向かう応力を加え、Top面とBottom面とが離れるように鍛伸して、
図8に示すような第2鍛伸鋼材を得た(第2鍛伸工程)。
ここで得られた第2鍛伸鋼材は、
図8に示すように八角柱状でTop面およびBottom面は八角形であり、その向かい合う辺の距離は1100mmであった。
【0057】
次に、第2鍛伸鋼材を1100℃に調整した雰囲気内に5~10h保持して加熱した後、側面におけるBottom面側のみを鍛造し、
図9に示すような第1鍛造鋼材を得た(第1鍛造工程)。
【0058】
次に、第1鍛造鋼材を1100℃に調整した雰囲気内に5~10h保持して加熱した後、側面におけるTop面側を鍛造し、
図10に示すような第2鍛造鋼材を得た(第2鍛造工程)。
ここで得られた第2鍛造鋼材は円柱状でTop面およびBottom面は円形であり、その直径は810mmであった。
【0059】
次に、第2鍛造鋼材における表面を削り、オーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品を得た(仕上げ工程)。
ここで得られたオーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品へ円柱状でTop面およびBottom面は円形であり、その直径は770mmであり、長手方向の長さは3mであった。
【0060】
このようにして得られた実施例1に係るオーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品について、超音波探傷試験を行った。
具体的には、この探触子を用いて、オーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品の側面に隈なく底面エコー測定を施し、大きく減衰する箇所が存在するかを測定した。
その結果、最も高い底面エコーの値に対する、最も低い底面エコーの値(つまり、最大減衰部における底面エコーの相対値)は、52%と良好な値を示した。
【0061】
<比較例1>
上記の通り、実施例1では、造塊工程→第1据込工程→第1鍛伸工程→均質化工程→第2据込工程→第2鍛伸工程→第1鍛造工程→第2鍛造工程→仕上げ工程の順に行った。
これに対して、比較例1では造塊工程→第1据込工程→第1鍛伸工程→第1鍛造工程→仕上げ工程の順に行った。すなわち、実施例1で行った均質化工程、第2据込工程、第2鍛伸工程、第2鍛造工程については行わずに、実施例1と同形状のオーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品を得た。
【0062】
そして、比較例1に係るオーステナイト系ステンレス鋼太型鍛造品について、実施例1の場合と同様に、超音波探傷試験を行った。
その結果、最も高い底面エコーの値に対する、最も低い底面エコーの値(つまり、最大減衰部における底面エコーの相対値)は、8%を示した。